ペ科練の新入生だった頃は先輩たちから、上級生になれば後輩たちから、常に肉欲の対象として狙われ続けてきた智恵理。
中にはアヌスにキスをしてきた後輩もいたが、異物を挿入されるのはここに来て初めて味わった経験である。
初めて知った快感は、癖になる味であった。
ペ科練に限らず、EDFではレズなど珍しくも何ともない。
統帥部も、むしろ推奨しているように思えた。
女性用のエッチ施設など稀少であるし、男性隊員との淫らな行為は風紀を大きく乱す。
何より妊娠して戦線を離脱されるおそれがないことが、上層部にとって一番有り難かった。
「はぅぅ〜っ」
全身を激しく痙攣させて、智恵理が絶頂に達する。
同時に股間から煮えたぎった液を迸らせた。
「またお漏らししちゃったよ」
「可愛いなぁ、少尉は」
隊員たちが汚れた股間を優しく洗ってくれる。
「恥ずかしいよぉ……」
智恵理は真っ赤になった顔を、両手で覆って隠した。
だが分隊員たちは容赦しない。
「お次は私の番です、少尉。ウフフッ、覚悟なさって下さいよ」
コンボイ軍曹がペニスバンドを着け、智恵理の腕ほどもあるディルドゥを装着する。
「そっ、そんなのぜったい無理ぃ……それに、もう午後の課業が……」
智恵理は鼻先に突き出された、自分の拳ほどもある亀頭を見詰める。
「何言ってんの。お楽しみはこれからじゃん」
「昼休みはまだ長いんだよ」
「今度は前後同時に……」
その時、耳障りなサイレンが数度に渡って鳴り響いた。
「北東方面より、敵の航空ユニット多数が接近中。防空体制を取れ」
基地の各所に取り付けられたスピーカーから、オペレータの声が流れ出る。
守備隊が慌ただしく走り、各自受け持ち箇所に散っていく。
「ペイルウイング各隊員は完全装備の上、指揮所前に集合せよ」
智恵理が基地に来て初めての敵襲である。
「よし、行くよ。みんな」
智恵理は手早く衣服を身に着けると、先頭に立って走り出した。
装備の置いてある小隊司令部は、島のほぼ中央部にある。
急がないと大目玉を食らう。
「久しぶりに腕が鳴るぜ」
ハーレーが嬉しそうに口元を歪める。
「一丁やりますか。パー5でどう?」
ホノルルが人差し指と親指で丸を作って上下に揺する。
「よし、乗った」
ハーレーが了承し、撃破数1機の差につき50ドルで賭が成立する。
「フフフッ、あたしが新型のエクレール持ってるって知ったら、怒るだろうなぁ」
ホノルルは今週の担当兵器、エクレール20の優美なフォルムを脳裏に描く。
「敵襲って、時々あるの?」
智恵理は隣を走るスクイズに声を掛けた。
「少尉が転勤してくる前までは、嫌がらせ的な空襲がちょこちょこあったけど。ここんとこご無沙汰だったねぇ」
スクイズの顔もいつになく上気している。
主力部隊とは違い、滅多に実戦機会がない彼女らにとって、敵の空襲はスコアを稼ぐまたとないチャンスなのである。
小隊司令部の建物に入ると、壁に掛けた戦闘服とヘルメットをひっ掴む。
電子キーを使ってロッカーを開け、個人貸与のプラズマエネルギー・ユニットを持ち出し、待機所に飛び込む。
丁度、第2分隊が着替え終わったところに鉢合わせた。
「お先っ」
2分隊長のハットトリック少尉が窓から通路に飛び降りた。
「急いで」
智恵理は耐熱、耐圧加工された黒いボディスーツを身につけ、ワンピース型の戦闘服を頭から被る。
腕と脚に汗止めの粉末をはたき込み、二の腕まであるロンググラブと太股までのブーツで露出部を覆い隠す。
プラズマユニットを背負い、ヘルメットを被ると、ペイルウイング隊員の完全装備が整った。
ヘルメットの右ヘッドフォン部に付いた薄桃色の桜花マークは、第3分隊長である智恵理の識別章である。
智恵理はペ科練の緊急着装訓練が得意で、常に上位5名に入っていた。
訓練では5分以内で、制服から戦闘スタイルへの変換が要求される。
小柄で体のしなやかな智恵理は、この手の作業はお手の物であった。
「おいっ、誰か手伝ってくれ」
コンボイ軍曹などは巨体を縮めて大騒ぎしている。
通路を走り、突き当たりの兵器庫で、個人が担当している試作兵器を受領する。
智恵理の今週担当している兵器はレイピア・スラストであった。
レイピアのエネルギーをそのままに、前方のみに攻撃力を集中させた新兵器である。
緊急出動なので、書類へのサインは省略していい。
智恵理たちが指揮所前に到着すると、既に1分隊と2分隊は整列を終えていた。
指揮台にバルキリー大尉が駆け上がる。
「第1分隊集合終わりっ」
「第2分隊集合終わりっ」
「第3分隊集合終わりっ」
各分隊長が敬礼と共に申告する。
「敵UFOは北東方面よりこちらへ向けて進撃中。機数およそ50。接敵まであと15分」
小隊副官のエイプリル准尉が状況説明する。
「小隊長と副官も、いい仲なんだろうか?」
智恵理は頼りなさそうに微笑んでいる大尉と、神経質そうなメガネの准尉を見比べる。
「やっぱ、小隊長が受けなのかな……って、戦闘前にあたしは何を……」
勝手な妄想を膨らませ、智恵理は一人赤面する。
風呂上がりによく拭かなかったせいか、股間が少し湿っているような気がした。
「たったの50で? 舐められたモンだ」
黒人美女の1分隊長、ヴィナス中尉が白い歯を見せた。
「威力偵察かな? いずれにせよ数が少ないから、早いモン勝ちだね」
ハットトリック少尉が偽悪趣味を漂わせ、全員が爆笑する。
「分隊ごとに迎撃してね。戦闘指揮は各分隊長に任せるわ。それじゃ、掛かって」
大尉の間の抜けたような出撃命令が下る。
「敬礼っ」
ヴィナス中尉の号令で隊員たちが一斉に敬礼する。
大尉がニコニコ顔で答礼する。
「よぉ〜し、掛かれぇっ」
第1分隊が対空戦に有利なダイナストXを手にして走り出す。
「遅れるなよ」
第2分隊は空中戦を行うつもりなのか、レーザーランスBを準備している。
「うちは空中戦と対空戦の立体戦術を採ろう」
智恵理がドッグファイト要員を募ると、すかさずハーレーが挙手した。
「それじゃあたしとハーレーが空中戦で敵を低空に誘い込むから、軍曹の指揮で対空攻撃を」
大まかな戦術が決まり、第3分隊も島の北東部へと移動した。
「敵は3派に分散しました。それぞれ北、西、東から侵入する模様」
戦術オペレーターを兼ねるエイプリル准尉が戦況報告を入れる。
敵が分散する前にまとめて叩こうと思っていた第1、第2分隊が悔しがる。
遅れ気味になっていた第3分隊にもチャンスが回ってきた。
「慌てる乞食は何とやらってね。西から来る奴を叩く。いくよっ」
智恵理は飛行ユニットを点火し、空中に舞い上がった。
ハーレーもユニットを噴かして後を追う。
「敵UFO、約20。掛かれぇっ」
直進してくるUFO部隊に、智恵理とハーレーは真っ正面から突っ込んでいく。
UFOは紫色のパルスレーザーで出迎える。
その瞬間、2人は体を横滑りさせ、左右に分かれて射線をかわした。
「バーチカルショットでいくよ」
智恵理は急上昇に、ハーレーは急降下に、それぞれ入った。
そして同時に反転を見せ、上と下から敵を挟み撃ちにする。
智恵理のレイピア・スラストがUFOの機体を穴だらけにする。
ハーレーはサンダーボゥ15を連射し、3機に黒煙を噴き上げさせた。
智恵理はそのまま降下し、UFOの編隊を引き連れて低空に舞い降りる。
「しっかりついてきなさいよ」
智恵理が後ろを振り返って、追跡してくるUFOを確認する。
地上では遮蔽物に隠れたコンボイ以下の隊員が、トリガーに指をかけて待機していた。
エクレール20を手にしたホノルルが、ペロリと上唇を舐める。
上空へと抜けたハーレーは、高空に位置していつでも智恵理を援護できるように待機する……はずであった。
「イエェェェ〜イ」
奇声を上げたハーレーが、逆落としに降ってきた。
加速のついた稲妻がUFOを破壊する。
背後を突かれた編隊は、智恵理の追跡を中断して左右に散開した。
「あぁっ、こらぁ〜っ」
シナリオを台無しにされた智恵理が、上空を振り返って怒る。
「ずっるぅ〜い」
ホノルルがエクレール20を手に立ち上がり、逃げるUFOに向かってぶっ放した。
広範囲に広がった稲妻の投網がUFOの編隊を包み込む。
たちまち3、4機のUFOが炎上して落下する。
「キャハハハッ。やった、やったぁ〜っ」
大はしゃぎするホノルルに向け、UFOの一団が急降下する。
「まずいっ」
智恵理は反転降下してUFOの後を追った。
あらゆる性能でペイルウイングに劣っているUFO。
しかし唯一、急降下性能だけは彼女たちを凌いでいる。
「間に合わないっ?」
射程の短いレイピア・スラストでは敵に届かない。
その時、横合いから稲妻とレーザーランスが交錯し、低空に迫ったUFOを一網打尽にした。
施設の屋上に身をひそめていたコンボイ軍曹とレッドペッパー伍長が姿を現す。
智恵理はホッと溜息をついて上昇に転じた。
「これじゃダメだ。みんな自分のスコアしか考えていない」
※
実験小隊がUFO相手に奮戦していたころ、南の磯に浮上した2つの人影があった。
ウエットスーツに似たシームレスの服を着て、背中にはリュックサックのような物を背負っている。
豊かに盛り上がった胸と丸みのある腰は、明らかに女性のものである。
マスクタイプのヘルメットを後ろにずらすと、緩やかなウェーブの金髪が垂れ下がった。
今1人は、ナチュラルなストレートの金髪を潮風になびかせている。
一見してセレブ調の白人娘であった。
風に吹かれたスーツがあっという間に乾ききる。
「久しぶりだねニッキー」
「うん、パリス。半年ぶりかな」
2人は顔を見合わせてクスクス笑いあった。
「実験病棟……場所、覚えてる?」
「たぶん、行けば思い出す。今ならみんなUFOに掛かりっきりだし」
2人がリュックサックのカバーを取る。
そこに現れたのは、なんとプラズマエネルギー・ユニットであった。
ウイングがせり出し、先端のブースターから実体化したプラズマエネルギーが洩れ出す。
2人が大空へ飛び上がると、溢れたプラズマが七色の航跡を残した。
※
「みんなどうしたの? チームワークがバラバラだよ」
分隊員を前にして、智恵理が声を荒げた。
20機のUFOは、予想していたより遥かに短い時間で全滅させた。
しかしあらかじめ定めた戦術は守られず、互いのカバーは無視された。
「こんなことしてると、いずれやられちゃうよ」
一見派手なプラズマ兵器は、陸戦兵の実弾兵器に比べて著しく不安定である。
自由度の高い機動力も、それを支えるエネルギーゲインは限られている。
現在ペイルウイングが持つ優位には、所詮その程度の裏付けしかない。
要するに現在の敵が、余りにも弱すぎるのである。
より頑丈で、より高機動力の敵が出現したとき、耐久力に劣るペイルウイングを待つ運命には薄ら寒いものがあった。
そのために強力な武器を開発する必要がある。
そして何よりも、鉄より固い結束が要求されているのである。
「明日から、全員で早朝マラソンだよ」
智恵理が決めると分隊員からブーイングが出た。
ムッとした智恵理が口を開こうとした時であった。
「小隊司令部から各分隊へ」
エイプリル准尉の無線が入った。
「本部中枢が敵の攻撃を受けています。至急、司令部へ帰還してください」
准尉の声は悲鳴に近かった。
「みんな、イクよっ」
智恵理が先頭に立ち、島の中央部へと急いだ。
高度を取ると、黒煙が立ちのぼっているのが見えた。
「新館の方じゃない?」
「病棟の入っている辺りだ。畜生、負傷兵を狙うなんて卑怯だぞ」
分隊員の顔が青ざめた。
※
新館の玄関口が大きく破壊された。
守備隊の陸戦兵がアサルトライフルを手に、わらわらと駆け付ける。
「お前達は何者だ」
陸戦兵の指揮官が、黒いタイツ姿の二人に問い掛ける。
「なんか言ってるんだけどぉ」
「やだぁ、私たちって忘れられてるぅ」
2人は顔を見合わせて、ケタケタと笑い転げた。
陸戦指揮官が、2人の胸に付いている、白抜きのUFOマークに気付く。
「エッ、エイリアン・ウォーシッパー?」
マークの意味を知っているのか、陸戦指揮官が顔を青ざめさせた。
そして唾を飲み込むと、銃を構え直して2人に銃口を向けた。
「撃てっ、撃てぇっ」
十数丁のAS−19が火を噴き、無数の被甲弾が吐き出される。
しかし銃口の先には、既に2人の姿はなかった。
「上だっ」
指揮官の指差す先に、仲良く手を繋いだ2人が浮かんでいた。
慌てて銃口を上に向ける兵士達。
だが、銃弾の雨が到達するより先に、2人は左右に別れていた。
素早く逃げ回る敵に翻弄され、ライフルのマガジンがアッという間に空になる。
「しらけちゃったね」
「やっちゃお」
2人は顔を見合わせて頷くと、背中に背負った銃を構える。
紫色のビームがパルス状に発射され、守備隊員を一撃で蹴散らした。
そのビームはUFOが発する殺人ビームに酷似していた。
アッという間に無人の荒野と化した広場に、ケラケラという笑い声が響く。
「さて、どっちから……先にやる? 爺さん? 女?」
ニッキーが相方に問い掛ける。
「う〜んとね……爺さん」
少し考えてからパリスが答える。
「女は……後でゆっくり?」
「ゆっくり……楽しむの」
2人は顔を見合わせて微笑み、新館の実験棟へと歩んでいった。
支援
620 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 02:28:17 ID:GSJI/tde
圧縮が近いな
関係ないけど、一応ageとこう
その頃、実験棟の中は大騒ぎになっていた。
「早くっ、データは全部……いや、Sランクのものだけでもバックアップを取るのじゃ。その後はハードディスクごと消去しろ」
ガイスト博士がパニックになったように指示を出す。
「奴らの手にデータを渡すな」
博士が叫んだ時、出入り口の厚さ41センチの鋼鉄の扉に火花が上がった。
光の剣がドアを貫通し、見る間に大穴を開けていく。
「プラズマソード……奴ら、もう」
ガイスト博士の頬がヒクヒクと痙攣する。
「ハァ〜イ、お久しぶりぃ」
「元気してたぁ〜?」
お気楽な挨拶と共に、2人のセレブが入ってきた。
※
「実験棟が燃えてる」
智恵理は、炎上している実験棟を見て愕然とする。
重傷を負った守備隊員たちが、地面に転がって苦悶していた。
「プロの手口だな」
コンボイ軍曹の眉間に皺が寄る。
死体なら放っておけるが、負傷者は人手を割いて救護しなければならない。
そのため、敢えて生かして放置したのであろう。
「みんなは怪我人をお願い」
智恵理は部下に指示を出すと、自らは炎に包まれた実験棟に突入していった。
「博士っ、ガイスト博士っ」
丸く溶け落ちた穴を潜り、智恵理は実験室に飛び込む。
そこは破壊の限りを尽くされた廃墟になっていた。
あちこちに白衣を着た研究員が倒れている。
「博士っ」
見覚えのある白髪頭を見つけた智恵理が叫ぶ。
助け起こすと、まだ息があった。
「おぉっ……チェリーブロッサムか」
意外にしっかりした反応に、智恵理は安堵する。
「一体誰がっ」
滅茶苦茶にされた機器類を見渡し、智恵理が叫ぶ。
「脱走したXナンバー25号と、26号が……お前の前々任の被検体が……戻ってきたのじゃ。エイリアンの手先となって」
博士が忌々しそうに部屋中を見渡す。
「これでまた一から出直しじゃ……否、幸いワシにはお前のデータが残っておるでの」
不敵な笑みを浮かべる博士。
「何のことなの。被検体っていったい何? 全然解らない。それより敵は?」
智恵理は博士の襟首を揺すって説明を求める。
「説明は後じゃ。ワシのことはいいから、ミラージュの所へ。奴らは今そこに……」
博士は何故かミラージュのことを気遣う。
「あ奴がワシの助手をしながら、その一方で総司令部の密命を受け、独自に思念誘導兵器の開発実験をしていたことは知っておる」
博士は苦笑いして言った。
「博士、知ってたの……黙っててゴメン」
智恵理は素直に頭を下げた。
「気にせんでもよいわ。ワシとあ奴は、互いが互いの保険という間柄なのじゃからな」
博士がニヤリと笑う。
「こうなっては当面、あ奴の研究だけが、人類を滅亡から救う頼みの綱じゃ。あ奴を頼む」
人類の未来のため、利己的な独占欲を捨てた博士の潔さに、智恵理は感動した。
「分かったわ。ミラージュは私が守ってみせるから」
智恵理は頷くと、飛行ユニットに点火して部屋を出ていった。
「まっ、待たんかっ。まずワシをここから連れ出してからにせんかぁっ」
ガイスト博士の怒鳴り声が智恵理を追い掛けた。
「被検体25号、26号って……えぇ〜い、もういいっ」
考えても解りそうにないモノは、取り敢えず無視するのが智恵理の主義である。
実験棟を出た智恵理は、そのまま病棟側へと飛び込む。
「ミラージュ」
死体の列に沿って、智恵理は先を急ぐ。
「ここだっ、ミラージュ」
ドアを蹴破って突入した智恵理が見たものは、無惨なミラージュの姿であった。
全裸に剥かれてベッドに縛り付けられたミラージュ。
その頭にはヘッドレストが掛けられ、両足は閉じられないように開脚台に固定されている。
枕元に立った黒タイツの女が機器を操作していた。
「ギャァァァ〜ッ」
ミラージュが絶叫を上げて、激しく痙攣する。
腰が淫らに上下した。
足元に立ったもう一人の黒服が、ミラージュの股間に顔を埋めた。
「んん〜っ。わりかし美味しいんだけどぉ」
女はミラージュの秘部に盛んに舌を這わせる。
その機械には見覚えがあった。
脳波をコントロールし、無理やりシーター波を増幅させるマシンである。
この世のものとは思えないような快感が脳を支配し、死ぬほどの目に遭わされる。
ミラージュはイキッぱなしになり、股間はグショグショになっているのであろう。
このまま放っておいたら、ミラージュは発狂してしまう。
「私は実験のデータは残さないの。全部頭に入っているから大丈夫」
智恵理は、以前ミラージュがそう自慢していたのを思い出す。
となれば、敵の狙いはミラージュの脳細胞の破壊なのであろうか。
そんなことは断じて許せない。
「アンタ達、悪いけど……それ、あたし専用のなんだけど」
智恵理の声に、2人が気怠そうに顔を上げる。
「どっちがぁ?」
「マシン? 女ぁ?」
2人は面倒臭そうに問い掛けてくる。
「両方よ。さっさと返して、ここから出てってくれない?」
智恵理も負けじと気怠そうに命令する。
「ぶっちゃけ、あり得ないんだけどぉ」
「あたしたち、博士にお礼に来ただけだしぃ」
2人は智恵理を無視して、ミラージュの方に向き直る。
「少尉……にっ、逃げてぇっ……あなたは、人類最後の切り札……ギャァァァ〜ッ」
再びスイッチが入り、白目を剥いたミラージュが、腰を激しく上下させてのたうち回る。
股間から勢いよく液が迸った。
「ははぁ〜ん。アンタ、うちらの後釜な訳ぇ?」
ニッキーがゆっくりと顔を上げた。
「待ってよ、間にマイティもいるからぁ……28号ってことぉ?」
パリスが指を折って何かを数える。
「ビュ〜ンと飛んでくペ〜ルウィング、28号ぉ?」
「良い〜も、悪いもリモコン次第……って、やぁ〜ねぇ」
2人は顔を似合わせてキャハハと笑い転げた。
「なんなの……こいつら。訳が分かんないよ」
目の前の2人は、明らかに人格障害を起こしていた。
「28号もやっちゃう?」
「やっちゃう、やっちゃう」
2人が笑い転げながら智恵理に組み付いてきた。
不意を突かれた智恵理は両脇を抱え込まれ、壁に押さえつけられる。
「レズとか有りな訳ぇ?」
ニッキーの手が智恵理の股間に伸びる。
こんもりと盛り上がった恥丘が掴まれた。
「やだぁっ」
咄嗟に飛行ユニットを噴かす智恵理。
智恵理に抱きついていた2人が宙に浮かび、天井に頭部を打ちつける。
「アイタタタァ〜ッ」
「わりかしやるじゃん?」
ヘルメットがなければ、2人とも頭蓋骨骨折は免れなかった。
「手加減なしってことぉ?」
「どうでもイイ」
真顔になった2人が智恵理に向き直る。
そして各々ユニットに点火して、一斉に飛び掛かってきた。
「少尉っ。伏せてっ」
背後から大声が響き、智恵理は本能的に身を伏せた。
智恵理の後ろに、E2プラズマランチャーを構えたコンボイ軍曹が立っていた。
「死ねぇいっ」
軍曹は躊躇なくプラズマランチャーを発射した。
マズルから吐き出された球状プラズマが、ニッキーとパリスの体を押し戻す。
2人にカウンターを浴びせたプラズマ球はそのまま直進し、窓ガラスを滅茶苦茶にしながら室外へと飛び出した。
遥か彼方で爆発音が聞こえた。
「大丈夫ですかぃ?」
軍曹が智恵理を助け起こす。
「無茶しないで、下手すりゃみんな死んでるとこよ。けど、ありがと」
軍曹は軽く手を上げて智恵理に応え、破壊された窓から外を眺め見る。
「帰ってきやがった……」
軍曹がポツリと漏らした。
「何だったの? あの性悪女たち」
智恵理は訳を知っていそうな軍曹に尋ねてみる。
「悪魔の姉妹、ニッキーとパリス……あなたの2代前の第3分隊長とその副官でさぁ……」
心なしか軍曹の顔が青ざめているように見えた。
「そして先代……マイティ少尉の仇でもある」
「えぇっ?」
軍曹の説明に、智恵理は驚く。
マイティ少尉は公式記録では事故死となっていた。
それが同士討ちの結果であったとは……。
「けど、これで仇は討てたわけだよね」
智恵理はフゥ〜と長い溜息をつく。
「バカな……あの程度の攻撃で死ぬような奴らなら怖くはない。掠り傷一つ負っちゃいませんや」
気が付くと軍曹の巨体が震えていた。
「着任当時から、少々変わってはいましたが……」
コンボイ軍曹が巨体を屈めて説明を始めた。
「週に何度か実験棟に呼ばれるようになって──今の少尉と同じですがね。それから日に日におかしくなりやがって。ついには悪魔の姉妹と呼ばれる始末でさ」
軍曹の顔に嫌悪感が滲み出る。
「おしまいにゃ死亡事故まで起こしやがって、とうとう地下の隔離施設送りになったんで」「隔離施設?」
聞き慣れない名称に、智恵理は聞き返す。
「おかしくなった隊員を隔離して矯正する施設で。聞いたところによると、そん時で10人近くの隊員が収容されてるって話でした。実験で脳みそをいじくられた後遺症じゃないかって、みんな噂してました」
軍曹は唾を吐こうとして中止し、喉を鳴らした。
「その後に3分隊長として赴任してきたのがマイティ少尉ですが、やっぱり少尉も実験の対象に……」
軍曹の眉間の皺が深くなる。
「隔離施設の脱走騒ぎが起こったのは、それからしばらく経った休養日のことでした。島がほとんど空の状態の中、奴らやりたい放題やりやがって。挙げ句にはミラージュを人質にとって、動力室に立て籠もりを……」
智恵理が失神しているミラージュを横目で見る。
「止めたんですが、マイティ少尉がお一人で立ち向かい……結局は……。ミラージュは取り戻せたんですが、奴らは本土に逃走。司令部は秘密裏に事件を処理しようとし、少尉は無許可の実射訓練の結果、事故死ということに」
そこで軍曹は無念そうに目を閉じた。
「人間一人の名誉や命を、防弾パッドより軽く扱いやがって。そこまでして隠さなきゃならない実験って何なのですか?」
軍曹の問い掛けに、智恵理は黙って俯いた。
智恵理自身、実験の本質を分かっていないのである。
説明のしようがなかった。
「ともかく、今はあいつらを片付けるのが先決よ。みんなで協力して」
※
「敵はエイリアン・ウォーシッパーと推測されます。我々の装備がエイリアンの技術を転用したものであるからには、敵の装備はこちらと同等以上と判断するべきでしょう」
エイプリル准尉がメガネのレンズを厳しく光らせる。
司令部に集まった各分隊長と補佐役の軍曹たちが、緊張に身を固くする。
「じゃあ、こっちはトライアル中のラインアップから、最新式の物を用意して」
バルキリー大尉が指示を出す。
「単独での行動を禁じます。策敵は必ず3名以上で当たらせること」
バルキリー大尉は、元部下の恐るべき戦闘力を熟知している。
大尉は戻ってきた脱走兵を、敵方の刺客として葬り去る決意をしていた。
「敵を発見したら交戦せずに、直ちに報告するように。戦闘は私が直接指揮します」
ブリーフィングが終了し、各員が持ち場に散っていった。
壁の隠し扉が開き、巨体のアングロサクソン男が姿を現せた。
この基地の総責任者、アルカトラズ島基地司令である。
「いよいよインベーダーの手先どものお出ましか」
基地司令が不敵に笑う。
「まだ計画の半分も達成できていませんのに」
只1人部屋に残ったバルキリー大尉が顔を曇らせた。
「例のXナンバー28号……チェリーブロッサムはどうした」
司令は地球儀を弄びながら大尉に問い掛ける。
「予兆はあるものの、まだとても実戦配備できるような状態では……それに思念誘導兵器の完成も……」
大尉は悲しそうに目を伏せて首を振る。
司令は薄笑いを浮かべると、地球儀を回した。
「どの程度の進み具合なんだ?」
地球儀がグルグルと激しく回り続ける。
司令が全てを知った上で、敢えて質問していることは明らかであった。
「はい、試作型ガイストは破壊力が足りず廃棄、ガイスト2は弾速不足のため調整中。目下、新型のタイプ3が設計に入ったところです」
大尉が淀みなく回答した。
「よし。完成しているガイスト2を装備の上、チェリーブロッサムを出撃させろ」
司令の手が回転する球体に叩き付けられた。
ピタリと止まる地球儀。
「ですけれど……」
「他に手がないのなら、少しでも可能性のある手段に賭けてみるしかない」
司令の目が猛禽類のように鋭くなった。
「化け物の始末は、化け物につけさせろ」
※
「ハーレーとスクイズは軍曹と、ペッパーとホノルルはあたしと、それぞれ3人で捜索に掛かって」
智恵理はレイピア・スラストを背負いながら指示した。
「奴らを見つけたら、直ぐに司令部に報告して。間違っても自分たちだけで倒そうなんて思わないこと」
智恵理が解散をかけようとした時、エイプリル准尉の呼ぶ声がした。
「少尉、チェリーブロッサム少尉。直ぐに新館の地下倉庫に出頭してください」
智恵理は軍曹と顔を見合わせた。
「何でしょうか?」
よく分からないが、ともかく出頭しなければならない。
「ちょっと行ってくるから。軍曹、みんなを待たせといて」
智恵理は一抹の不安を覚えつつ、エイプリル准尉の後に続いた。
※
地下倉庫の中は薄暗く、冷たい空気が澱んでいた。
智恵理が到着すると、小隊長のバルキリー大尉が出迎えた。
大尉の後ろには、ガイスト博士がベッドに寝たまま待機している。
「チェリーブロッサム少尉、参りました」
智恵理は大尉に向かって型どおりの申告をする。
「こんなに早くこの日が来るとは、思ってもいませんでした」
いつもの大尉とは違う雰囲気に、智恵理は戸惑う。
「思念誘導兵器。すなわち、来るべきインベーダーとの決戦に備えて開発された決戦兵器。その射手を選別、育成するのが当実験小隊の真の目的でした」
大尉は沈痛な面持ちで智恵理に告白する。
「あなたは最高司令部の特別委員会が選んだ、28番目のXナンバーなのです」
「Xナンバー?」
智恵理がオウム返しに質問する。
「思念誘導兵器を操ることの出来る、ある種の才能を持った適応者のことです。今回の敵も途中でドロップアウトしたとは言え、元はあなたと同じXナンバーなのです」
大尉は背後を振り返り、技師たちが準備している銃器を示す。
「思念誘導兵器、ガイスト2。破壊力200dm、射程500メートル、発射速度は毎秒1発、消費エネルギー7パーセント、爆破範囲は12メートル……」
冷たい声で諸元データを説明する大尉。
「……そして誘導性能はランクAが保証されています」
訳が分からず、智恵理は戸惑いの色を隠せない。
「誘導性能……って?」
「思念誘導兵器は、目視で照準を合わせる必要がないのです。発射されたエネルギー波は、頭で念じた目標へ自動追尾で命中します」
小隊副官のエイプリル准尉が説明する。
「とは言っても、まだこのガイスト2は試作段階のため、そこまでの性能はありません。エネルギー波は最も近い所にいる敵を、自動で捕捉するように調整されています」
バルキリー大尉が補足、訂正する。
「しかし、行く行くは目視できないほど遠方にいる敵さえ、確実に仕留めることの出来る超兵器に発展するのじゃ」
半身を起こした博士が、自慢するように胸を張る。
「けど……あたしにこんな兵器使えるの?」
智恵理がガイスト2の禍々しいフォルムを見詰める。
「今のままでは無理じゃな。これから10分おきに、この脳波活性剤を4本打つ」
技師の一人が手早く注射器の準備をする。
「その時、お前は思念誘導兵器を自由に操れる、地上で唯一の存在となるであろう」
遠くで爆発音が起こり、部屋が大きく振動した。
ガイスト博士が天井を睨み、溜息をついた。
「奴らは失敗作とは言え、ワシの可愛い作品じゃ。尻拭いさせるようで済まんが、せめてワシの作った兵器で葬ってやってくれい」
※
「スパーキー伍長、カラミティ兵長続けぇっ。サタンローズ軍曹は右から回り込めっ」
ヴィナス中尉が侵入者を追いつめる。
横合いからはハットトリック分隊が迫る。
「ファイヤッ、ファイヤァーッ」
LAZR−199のレーザーとイズナ−Cカスタムの稲妻放射が交錯する。
しかし、素早く動く黒タイツの女を捉えることは出来ない。
「奴ら化け物かっ」
ヴィナス中尉の褐色の顔から血の気が引く。
「あたしら化け物だって」
「失礼しちゃうじゃん」
ニッキーとパリスは宙に浮いたまま、パルスレーザーガンを放つ。
紫色の暴風が吹き荒れた後に、立っている者はいなかった。
「ウジ虫は、ウジ虫らしく地面を這ってなきゃ」
地面でのたうち回る隊員たちに、パリスの銃口が向けられる。
「止めろぉっ、化け物がぁっ」
ヴィナス中尉が叫んだ瞬間、その頭上を越えて3本の稲妻がパリスに襲いかかった。
「なによぉ〜っ」
足元を狙撃され、飛び下がって逃げるパリス。
「どなた?」
ニッキーが射線の先を睨む。
隊舎の屋上に、サンダースナイパーCを構えたバルキリー大尉が立っていた。
いつもの白いEDF士官服ではなく、ペイルウイングの完全装備である。
大尉は狙撃銃を捨て、レイピア・スラストを手にする。
「功を焦って勝手なことを。私が直接指揮を執るって言ったでしょう」
バルキリー大尉が一睨みすると、ヴィナスが新兵のようにかしこまった。
「おやおや、メス狼の登場だよ」
ニッキーが嬉しそうに舌なめずりする。
「いい歳してるのに、無理しちゃって。今年で30だっけ?」
パリスがせせら笑った瞬間、大尉がレイピア・スラストを手に跳躍した。
「まだ、28よぉぉぉーっ」
悪魔の姉妹はプラズマソードを振るって応戦する。
「プッ、1歳サバ読んでるよ」
「知ってる。せこいね」
レイピア・スラストは正面にプラズマを集中させ、攻撃専用に特化した必殺武器である。
バルキリー大尉はプラズマの刃を生き物のように操って、変幻自在の攻撃を仕掛けた。
「すっ、すげぇ……」
小隊の生き残りが息を呑む。
悪魔の姉妹もさるもの、直ぐに大きく分かれて的を二分する。
そうなると、重量のあるレイピア・スラストを振るう大尉が不利になる。 「クッ……」
前後から同時に斬りかかられ、バルキリー大尉が追い込まれる。
「だから年寄りは昼寝してればよかったのにぃ」
ニッキーの顔が残忍そうに歪んだ。
「チィッ」
バルキリー大尉が飛行ユニットを噴かし、大きく間合いを取る。
姉妹も挟撃態勢を保ったままジャンプする。
大尉が腰にぶら下げたグレネードを引き抜いた。
赤いルージュを引いた唇がグレネードに触れる。
「お願い、頼むわよっ……パンドラ、ゴォーッ」
大尉が投擲したグレネードが、パリスの頭上で空中停止する。
一瞬の沈黙の後、グレネードは下方に向けてプラズマの曳光弾を吐き出し始めた。
プラズマの雨がカーテンとなり、ニッキーとパリスを分断する。
強敵2人を相手に、大尉は遂に禁断の支援兵器を使用したのである。
一息つく間もなく、正面からニッキーが斬り込んできた。
大尉のレイピア・スラストがプラズマソード受け止める。
「これで少しは時間が稼げる。チェリーブロッサム。早く来てちょうだい」
ここまで全くの互角の勝負であった。
※
その頃、地下倉庫に残された智恵理は、3本目の注射を受けたところであった。
注射を受ける度、頭痛と嘔吐感が激しくなってくる。
遠くで爆音が上がり、少し遅れて振動が伝わってくる。
頭上の電灯が明滅するのは、戦いが動力室近辺で行われているからであろうか。
「味方はどうなってるの? みんなは?」
智恵理は吐き気をこらえて、エイプリル准尉に尋ねる。
「1分隊、2分隊、既に戦闘力なし。3分隊にあっては詳細不明です。現在バルキリー大尉が敵と交戦中。なお、先程支援兵器の発動が認められています」
エイプリルは通信記録を調べて智恵理に告げた。
「陸戦隊では『戦乙女』と呼ばれた大尉のことです、しばらくは大丈夫でしょう」
実戦力のないエイプリルは、戦闘に参加できない。
代わりに戦闘を側面から支えるため、優れた情報処理能力の全てを注ぎ込む覚悟であった。
「只今、第3分隊が戦場に到達しました。敵の片割れと交戦に入る模様です」
戦術モニターを確認したエイプリルが報告する。
「大変だ。あたしだけこんなコトしていられない」
智恵理が慌ててベッドから起きあがろうとして、床にへたり込む。
足元がおぼつかなかった。
「少尉殿、投薬はあと200cc残っています。それが終わらないと」
主任技師が智恵理を押しとどめた。
「なら、直ぐに打って。仲間を救えないんじゃ、みんなを見捨てるんじゃ、こんなこと何の意味もないよ」
智恵理が技師の襟首を掴み上げる。
「しかし、まだ……次の投薬まで10分は……」
技師は救いを求めるようにエイプリルの方を見た。
エイプリルはしばらく考え込み、そして弱々しく頷いた。
「薬剤の効果は15分間しかありません。注意して戦ってください」
浮き上がった静脈に注射針が刺さる。
鋭い痛みが走り、智恵理の眉間に皺が寄った。
目の前に光の洪水が現れ、意識が徐々に遠のいていく。
「みんな……今イクから……待ってて……」
おつであります
GJ!
ニッキー・ダイアルとビクトリア・パリス?
※
「こんのヤロォ〜ッ」
ハーレーのイクシオンが無数の粒子ビーム弾を放って、周囲を薙ぎ払う。
しかし、パリスは羽根のように軽い身のこなしで、全てを避けきる。
「当たれぇっ、当たれってんだよぉっ」
ホノルルのエクレール20が稲妻の投網を幾重にも張るが、パリスを捕らえることは出来ない。
「どけぇっ。私が接近戦に持ち込むから、隙を見つけて撃ってくれ」
ペッパーは怪鳥のような気合いを上げて、パリスに飛び掛かる。
「遅いね。アクビが出ちゃう」
パリスは無造作に手を伸ばすと、蹴り込んできたペッパーの足首をむんずと掴み取った。
そして万力のような力で握りしめたかと思うと、ペッパーを宙に持ち上げる。
「ヒィッ」
パリスの手首が返り、ペッパーが後頭部から地面に叩き付けられた。
「おのれぇっ、これでも喰らえっ」
スクイズの左足が高々と上がり、初速150キロの速さでブラスト・グレネードが投げられた。
剛球グレネードが唸りを上げて、パリスに襲いかかる。
「ビーンボールは一発退場だよ」
パリスは怯みも見せず、プラズマソードでグレネードを打ち返した。
爆発の衝撃波を食らって、ハーレーとスクイズが吹っ飛ばされる。
宇宙繊維の多重装甲パッドがズタズタになり、2人は苦悶の表情でのたうち回る。
パリスが鼻で笑い、とどめの一撃を準備する。
「だめっ、させないっ」
その面前にホノルルが立ち塞がった。
「どいてろぉっ」
怒鳴り声とともに、コンボイ軍曹のサンダーボゥ20が横殴りに襲いかかる。
「おや、コンボイかい。マイティ少尉があの世で待ってるよ」
パリスが嘲笑しながら稲妻を避ける。
軍曹のこめかみに血管が浮かび上がり、鬼の形相になった。
「この化けモンは私が殺る」
パリスを睨み付けた軍曹が、指をバキバキと鳴らす。
丁度その時、パンドラαに活動限界が訪れ、2人の間に、バルキリー大尉とニッキーが転がり込んできた。
ニッキーに馬乗りになった大尉が、顔面パンチの雨を降らせる。
「ニッキー、助っ人要るぅ?」
無防備になった大尉の背中に向け、パリスが襲いかかる。
「ソフィアッ」
コンボイ軍曹がバルキリー大尉の本名を叫び、援護射撃を仕掛けた。
パリスは体を捻って射線をかわし、大きく跳躍して離脱する。
「レギーッ」
バルキリーも久しぶりに旧い戦友を本名で呼ぶ。
互いに本名を呼び合うのは、陸戦隊に所属していたとき以来のことであった。
「久々に組んでやるか」
大尉と軍曹は、互いの背中を合わせて武器を構える。
「いいわね。ワクワクしちゃう」
バルキリー大尉がレイピア・スラストを手に、ニッキーに向かって飛び掛かる。
余裕の表情で飛び下がるニッキー。
その着地点に向け、狙いすました軍曹のサンダーボゥ20が火を噴いた。
「いただきっ」
しかし人間の限界を凌駕する反射神経が、間一髪で稲妻をかわす。
「やるじゃない」
必殺のコンビネーションをかわされて、大尉が賛辞を口にする。
しかし悪魔の姉妹が本気の攻勢に転ずると、そんな余裕はなくなり、たちまち2人は窮地に陥った。
ニッキーはコンボイ軍曹の放つ稲妻を、正確にプラズマソードで絡め取る。
「綿菓子みたい」
その感触がお気に召したのか、ニッキーは笑いながら間合いを詰めていく。
「いただきぃ〜っ」
ニッキーの凶刃が、軍曹のサンダーボゥ20を真っ二つに切断した。
コンプレッサーが停止し、圧縮されていたプラズマエネルギーが暴走を開始する。
「あぶねぇっ」
軍曹が銃を投げ捨てた直後、圧縮プラズマが大爆発を起こした。
目の眩む閃光とともに、落雷のような大音響が耳を聾した。
「ちょっとビックリしたぁ」
「うん、ちょっとだけ」
ニッキーとパリスは顔を見合わせてクスクス笑いあった。
そして何事もなかったように、獲物に向かって歩き始める。
「化け物め……」
バルキリー大尉が丸腰の軍曹を庇うように立ち、悪魔の姉妹を睨み付けた。
「どけっ」
「どかない」
互いを庇い合おうとする戦友2人。
気がつくと、姉妹の足が止まっていた。
顔をあらぬ方に向けて、一点を凝視している。
その視線の先──噴煙に霞む貯水棟の上に人影が立っていた。
「チェリーブロッサム」
「少尉殿」
大尉と軍曹が同時に叫んだ。
「あらっ、アンタなの」
「やぁ〜ねぇ〜」
智恵理に気付いた姉妹が、嬉しそうにヘラヘラ笑う。
「どうしてあたしの仲間を傷つけるの? これ以上はもう止めて」
智恵理は2人を見下ろして言った。
「あたしたち、やられたことやり返しに来ただけだし」
ニッキーが智恵理を見上げて答えた。
「あなた達も、元はここの出身なんでしょ。かつての仲間を傷つけて、何とも思わないの?」
智恵理が血を吐くような思いでたしなめた。
「友達なんかいなかったし」
「みんな、あたしらを怖がってただけだし」
姉妹の口調が心なしか、弱々しくなる。
「お願いっ、あなた達とは戦いたくないの。どうかこのまま出てって」
智恵理の願いは真摯なものであった。
「もう、無理っぽい。それに、アンタはこっち側の人間だし」
「そうそう。どうせ、もう軍籍もないし」
ケラケラと笑い転げる姉妹。
姉妹の台詞は、智恵理の感情を乱すのに充分であった。
「軍籍がないって……どういうこと?」
智恵理は人事データに、自分の名が見当たらなかったことを思い出す。
「アンタはもうEDFの軍人じゃないの。最高機密を守るため、最初から存在しないことにされてるってわけ」
「だからぁ、どんな非人道的な実験も許されるし、死んだり廃人になっても構わないの」
姉妹が小隊長のバルキリー大尉をチラチラと見る。
「つまりぃ、今のアンタはただの被検体28号に過ぎないってこと」
「用済み後は廃棄物28号だし。私たちみたいに」
今はインベーダーの手先となった姉妹が再び爆笑した。
真っ青になったバルキリー大尉の顔が、全てが真実であることを語っていた。
「たとえ軍籍がなくったって……あたしはあたしだし、仲間は仲間だよ」
智恵理がポツリと呟いた。
「あたしはペイルウイング隊少尉、チェリーブロッサムとして、大事な仲間を守らなきゃいけないんだ」
悪魔の姉妹がギョッとする。
「仲間を守るため、あなた達を倒すわ」
智恵理はそう言い放つと、肩に背負ったガイスト2を構えた。
姉妹の目が刃物のように細くなる。
「なら仕方ないよね。あたしらの敵として、殺してあげる」
「第一、それ……アンタなんかに撃てるの?」
智恵理と姉妹が同時に飛び上がった。
ガイスト2の銃把にはトリガーが無かった。
発射も照準と同じで、思念作動であることは直感で理解できた。
智恵理は手前にいるニッキーに意識を集中し、その動きを波動として捕捉する。
脳波活性剤を打った智恵理には、周囲の全てが手に取るように認知できた。
高速で移動するニッキーとパリス、高らかに心音を上げるバルキリー大尉、負傷の苦痛に唸り声を上げるコンボイ軍曹。
ハラワ峡谷で味わった感覚と全く同じであった。
「起て! 撃て! 斬れっ!」
智恵理が念ずると同時に、ガイスト2の銃口からピンクのエネルギー波が迸った。
「撃った?」
ニッキーは驚愕の表情を浮かべながら、反射的に左へと逃れる。
しかし思念誘導されたエネルギー波は、ニッキーに逃走を許さなかった。
ピンク色の波動は、見えない力にねじ曲げられたように左へと軌道を変える。
「ヒィッ」
慌てて飛行ユニットを噴かし、緊急回避するニッキー。
「残念でしたぁ」
通過していったエネルギー波に向け、ニッキーがヒラヒラと手を振る。
ところが通過した光の帯は180度の旋回を見せ、再びニッキーに襲いかかってきた。
「ひゃぁっ、なんなのよぉ?」
ニッキーは飛行ユニットを全開にさせて光の帯から逃れる。
何度も逃げ回るうちに、ニッキーはすっかり平常心を取り戻した。
「なんだ、どおってことないじゃん」
「全然遅いしぃ、楽勝で逃げ切れるよ」
ニッキーは動力室の壁を背に立ち、光の帯を待ち受ける。
そして、ギリギリのところで身をかわし、大きく空へ飛び上がった。
エネルギー波が命中し、動力室の外壁が粉々に吹き飛んだ。
「当たらなきゃ、どういうことないし」
新兵器は早くも弱点を露呈してしまう。
「ダメッ。弾が遅すぎるんだ」
智恵理の顔に焦りの色が浮かぶ。
「撃てっ、撃てっ、撃てぇっ」
弾速の遅さを弾数で補おうと、智恵理はガイスト2を連射した。
「キャハハッ」
「たっのぉしいぃ〜っ」
悪魔の姉妹は、前後左右から襲いかかってくる光の帯を避け続ける。
そして2人は同時に智恵理の目の前に降下してきた。
「まとめてお返しするよ」
ニッコリ笑った2人が、手を繋いだまま宙へ飛び上がる。
次の瞬間、3本の光の帯が智恵理に向かって飛んできた。
大爆発が起こり、智恵理の体が宙を舞う。
「自分が撃った弾で、自分がやられてるぅ」
「やっだぁ〜。大昔のアニメみたい〜」
ニッキーとパリスが腹を抱えて笑い転げる。
2人は笑いを止めると、破壊された大穴を潜り、動力室の地下へと入っていった。
「動力室を破壊されると、島全体が吹き飛んでしまう」
智恵理はガイスト2を拾い上げて2人の後を追った。
※
薄暗い動力室の中は、ゴウゴウという機械の作動音だけが不気味に響いていた。
「居る。あたしを待っているわ」
動力プラントの設備に紛れて、2つの波動が感じられた。
しかし智恵理はガイスト2の発射をためらう。
下手に外せば、施設を破壊してしまうおそれがあった。
「絶対外さない距離まで接近しなきゃ」
そのためには、相討ちを覚悟しなければならない。
体が異常に重たかった。
「さっき浴びた爆風のせいで」
その疲労感は被弾によるものだと、智恵理は思っていた。
思念誘導兵器が秘めた本当の恐ろしさを、この時智恵理は全く知らなかった。
※
悪魔の姉妹に挟み撃ちにされた智恵理が、パルスレーザーを喰らって蜂の巣になる。
ピクピクと痙攣する智恵理に向かって、とどめの一撃が加えられる。
「イヤァァァ〜ッ」
そこでミラージュ上等兵は意識を取り戻した。
気が付くとベッドに寝かされており、全身が汗まみれであった。
反射的に時計を見ると、最初の敵襲から1時間近くが経過していた。
「いけないっ、少尉が」
ミラージュはベッドから降りようとして床に転げ落ちた。
まだ脳が撹拌されるような感覚が残っている。
「誰かぁっ。誰か居ないのっ。チェリーブロッサム少尉っ」
叫び声を聞きつけて、オペレーターとして新館に残っていたエイプリルが飛んできた。
「まだ寝ていないと。少尉なら、先程ガイスト2を装備して出撃されました」
エイプリルがミラージュを助け起こそうとする。
「思った通り……早くしないと取り返しのつかないことに」
ミラージュの目に尋常ではないものが宿っていた。
「思念誘導兵器の動力源は……連射を続ければ、少尉は……」
※
「あんなヒョロヒョロ弾、楽勝だって」
「いざとなったらプラント撃って自爆すりゃ、目的は達成できるし」
ニッキーとパリスは、互いにのみ通じる思念波で意思の疎通を図る。
「パリス、そっち行ったよ」
「分かってる」
智恵理が2人の動きを捕捉しているのと同様、彼女らもまた智恵理の動向を完全に掴んでいた。
「動けない」
智恵理は溜息をつき、次いで生唾を飲み込む。
見えない敵は自分の動きに合わせて、逐一的確な反応を見せている。
能力者同士の戦いでは、奇襲など掛けようもなかった。
しかし持久戦になると、智恵理が不利である。
敵の2人は、既に力を開花させている能力者である。
対する智恵理は、薬剤の助けを借りて、一時的に能力を得ているに過ぎない。
持ち時間はあと5分を切っていた。
「あの人たちが……消えていく?」
智恵理は2人の気配が徐々に薄れていくのを感じる。
それは彼女の能力が、失われつつあることを意味していた。
このままではガイスト2の発射すら不可能になってしまう。
その上、先程から感じていた原因不明の虚脱感は、ますます強くなっている。
智恵理は絶体絶命のピンチを迎えた。
「こっちから打って出るしかない」
覚悟を決めた智恵理はガイスト2の銃把を握りしめた。
そして深呼吸すると同時に、パリスの潜む一角に向かって飛び掛かった。
動力プラントを飛び越えた智恵理が、燕のような身軽さで振り返る。
銃口1メートルのところに、プラントを背負ったパリスがいた。
待ち構えていたように、パリスが宙に逃げる。
「あぶっ……」
智恵理はプラントに向け、発射寸前にあったガイスト2を緊急停止させる。
あわや動力室ごと吹き飛ばすところであった。
呆然とする智恵理に向けて、上空から紫色のシャワーが降り注いだ。
智恵理も飛行ユニットを点火させて宙に飛ぶ。
確実に敵を倒すには、1メートル以内での発射が絶対条件であった。
ガイスト2の破壊半径は7メートル。
自分も無事で済まないことは覚悟の上である。
逃げるパリスを追う智恵理。
「絶対逃がさない」
前方のパリスに集中するあまり、智恵理は背後から迫ってきたニッキーに気付かない。
「いただきぃ」
ニッキーが舌なめずりし、同時に銀色の殺意が智恵理を背後から射抜く。
「後ろっ?」
瞬間、体をひねった智恵理の脇腹を、紫色のパルスレーザーが掠め去った。
狙いを外したパルスレーザーが、智恵理の前にいたパリスに迫る。
「パリスッ、ごめぇ〜ん」
「ちょっとぉっ、同士討ちぃ?」
慌てて急上昇で逃げるパリスが、単調な直線軌道を描く。
待ちに待った瞬間が訪れた。
「今ぁっ」
智恵理のガイスト2が火を噴いた。
ピンク色のエネルギー波が、無防備のパリスに向かって伸びる。
「パリスッ、後ろぉ〜っ」
危機を知らせるニッキーの思念が、ギリギリのところでパリスを救った。
パリスを掠めたエネルギー波は、地下室の天井──すなわち一階部分の床を大破させた。
大音響とともにコンクリートの破片が飛び散り、砂塵がもうもうと巻き上がる。
大穴から差し込む日光が、砂塵に反射して光の柱を作った。
光の柱がスポットライトとなり、床に倒れ込んだ智恵理を舞台女優のように照らし出す。
力尽きた智恵理は仰向けになり、ゼイゼイと肩で息をしていた。
「惜しかったね、うん」
さばさばした調子でニッキーが微笑みかけてきた。
テニスのフルセットでもやり終えた調子であった。
「今日は体調がおかしかったの。それさえなきゃ」
智恵理も釣られて力無く笑う。
「そりゃ、あんなにパカスカとサイコ兵器撃っちゃあ……ん、アンタ何にも知らない訳?」
パリスが意外そうな顔つきになった。
「ダメェ〜ッ、少尉っ。そいつらと思念が共鳴してるっ」
いきなり上から振ってきた絶叫に、3人が天井の穴を見上げる。
そこに真っ青になったミラージュが立っていた。
「マイティ少尉の時と同じっ。そいつらに取り込まれちゃダメェ〜ッ」
ミラージュの金切り声が響き渡る。
同時に智恵理の脳髄に何者かの思念が流入してきた。
※
ポニーテールの少女が、悲しそうな目で智恵理を見ていた。
「マイティ……少尉?」
キリッとした眉と口元に見覚えがあった。
「ようやく会えたわね」
少女の残留思念が、かすかに微笑んで頷く。
風見舞子、18歳、静岡県出身で柳生新陰流免許皆伝──全てが一瞬で把握できた。
「あたし、ここで死ぬのかな? 迎えに来たんでしょ?」
智恵理は妙に安らかな気分になる。
「あなたはこんな所で死ぬべき人ではないわ」
マイティ少尉が首を横に振った。
「立ってもう一度戦うのです。そして自分の力で真理を導き出しなさい」
それだけ言うと、智恵理の頭から少尉のイメージが掻き消えた。
※
「うるさいなぁ。邪魔しないでくれる」
「元はと言えば、アンタが全ての元凶じゃん?」
気がつくと、ニッキーとパリスが煩わしそうにミラージュを見上げていた。
「目障りになってきたから、消えちゃってよ」
2人が同時にパルスレーザーガンを放った。
「キャァァァッ」
小爆発が幾つも起こり、ミラージュが吹き飛ばされる。
「やめろぉっ、ミラージュは生身なんだよっ」
床に倒れたまま、智恵理が悲鳴を上げる。
「あたしの仲間を傷つける、お前たちはやっぱり敵だ」
智恵理はニッキーとパリスを睨み付ける。
「なら、どうするわけ?」
「もうアンタ、限界じゃん?」
2人が倒れたままの智恵理をせせら笑う。
「生きてる限り、望みは失わない。戦える限り、仲間は見捨てない。それがペイルウイング・スピリットだよ。あんたたちだって知ってるでしょ」
智恵理が歯を食いしばって立ち上がろうとする。
しかし、肝心のガイスト2は、遥か先の瓦礫の中に埋もれていた。
「これを使って」
ミラージュが穴の上から武器を投げ下ろした。
「ミラージュ・ゼロ。私の作った試作1号兵器」
投げ下ろされたミラージュ・ゼロを、ガッシと受け取る智恵理。
「何度やっても、結果は同じだよ」
「あんた自爆したいわけ?」
2人がケラケラと笑い声を上げる。
ミラージュ・ゼロを手にした智恵理は躊躇する。
「少尉っ。私を信じてぇっ」
ミラージュの叫び声が智恵理を決断させた。
「どっちにせよ、このままじゃみんなやられちゃうんだ。あたし、最後まで仲間を信じる」
智恵理はミラージュ・ゼロを杖代わりにして立ち上がる。
そして目を瞑ると、ニッキーとパリスの気配を超感覚で捉える。
脳下垂体が燃えるように熱くなった。
「起てっ! 撃てっ! 斬れぇっ!」
ガイスト2のエネルギー波より細い、しかし比較にならないほど素早い薄桃色の筋が次々に迸った。
「ヒィッ」
素早く右へと飛んだニッキーが、曲折してきたエネルギー波に貫かれる。
「ニッキィーッ」
パリスの目の前で、ニッキーの体が腰の辺りで両断された。
続いてパリスに襲いかかったエネルギー波が、真下から彼女を突き上げた。
「ギャッ」
宙に舞ったパリスの体が、次々とエネルギー波に貫かれ、その度鮮血を撒き散らす。
地面に叩き付けられたパリスは、ピクリとも動かなくなった。
想像もしなかった惨劇を前に、智恵理は只呆然と立ちすくんでいた。
「パ……パリス……」
上半身だけになったニッキーが、肘を使ってパリスの元ににじり寄る。
「いい気になんないでよ。今日の私の姿が、明日のあなただってこと、忘れないで」
ニッキーがパリスの手を握り、智恵理を睨み上げる。
「アンタにはまだ8人の姉が……生きてる限り、アンタに安息の日は来ないのよ……」
咳き込むニッキーの口から鮮血が溢れてきた。
「……けど、殺してくれてありがとう……これで……やっと……死ね……」
そこまで言って、ニッキーが血の海に沈んだ。
眠りについたような、安らかな死に顔であった。
「こっ、こんな……」
智恵理は初めてその手で、生身の人間を殺した事実に呆然となった。
コンボイ軍曹が穴から飛び降り、智恵理に近づく。
「少尉、同じこってすよ。キャリアー1機に何人の搭乗員が乗ってるとお思いで?」
「そうよ、殺らなきゃ少尉が殺られてたのよ。私、そんなの絶対に嫌っ」
コンボイ軍曹やミラージュの慰めの言葉も、今の智恵理の耳には届いていなかった。
智恵理の体がグラリと揺れ、次の瞬間コンクリートの床に崩れ落ちた。
「少尉っ、少尉ぃ〜っ」
駆け寄ったミラージュが体を揺すっても、智恵理はピクリとも動かなかった。
※
アルカトラズ基地の規模縮小を決定する通知が、総司令部より届けられたのは、それから5日後のことであった。
施設が破壊され、新兵器の開発が滞ったこと。
それに戦線の激化に伴い、深刻化してきた兵員不足の解消がその理由とされた。
しかし真の理由が、思念誘導兵器の開発が、一時中断を余儀なくされたことにあったのは明らかであった。
残留するのは小隊長のバルキリー大尉の他、ハットトリック少尉以下の負傷兵であり、全隊員の約3分の1である。
その他の隊員は新たな辞令を受けて、各国の実戦部隊に配属されることとなった。
幹部のうち、ヴィナス中尉は紐育の第11機動歩兵大隊に、エイプリル准尉は倫敦の参謀本部へ転出が決定した。
チェリーブロッサム少尉こと智恵理は──あの後、三日三晩死んだように眠りこけ、目が覚めたときには、すっかり元の元気を取り戻していた。
智恵理の転出先は巴里の第7混成連隊である。
なお、同日付けで中尉に特進した智恵理には、同隊の小隊長のポストが待っていた。
基地を守るため、単独でエイリアン・ウォーシッパーを粉砕した功績が認められたのである。
最高機密の漏洩を防ぐため抹消されていた軍籍も、防諜の必要が無くなった今、新たに手に入れることが出来た。
「すっかり世話になったね」
司令部で異動申告を済ませた智恵理は、病棟跡にミラージュ上等兵を訪ねていた。
「総司令部の戦技研に戻るんだって?」
データを破壊されたガイスト博士と違い、全てを頭脳に記録していた彼女は本部に戻り次第、思念誘導兵器の開発に掛かれる。
「おめでとう……で、いいのかな?」
智恵理は小首を傾げて考え込む。
「意地悪だわ。私が中尉をどう思ってるか、知ってるくせにぃっ」
ミラージュが肉付きの薄い頬を膨らませて拗ねてみせる。
「また、撃って……くれますよね。今度はまともなサイコ兵器を作ってみせますから」
ミラージュが態度を改めて、真剣な眼差しになる。
「うん。EDFの勝利のために、他に手段がないのなら」
智恵理も真顔になって頷く。
そしていつもの笑みに戻ると、背を向けてその場を離れた。
※
飛行場に着くと、VTOL機が発進準備を終えていた。
お馴染みの定期便28号も、基地縮小の余波を受けて廃止されるという。
本部申告のため、一旦倫敦へ立ち寄る智恵理たち士官の搬送が、最後の仕事となった。
顔見知りになった搭乗員たちが、出迎えのために機外へ降りてきた。
「姐さん。おつとめ、ご苦労さんした」
「ご苦労さんした」
荒くれ男たちが、奪い取るようにして智恵理の手荷物を預かる。
搭乗口には残留することになった第3分隊の面々が整列していた。
全員が負傷しており、あちこちに巻かれた包帯が痛々しかった。
「少尉、いや中尉だっけ。お世話になりました。これからっていう時に……残念です」
ハーレーがこれまで見せた中で、一番の敬礼を行う。
「我々も、何とかまともな軍人として立ち直れそうです。あなたのお陰です」
いつもは感情を見せないレッドペッパーの目にも、うっすら涙が浮かんでいる。
「あたしらの力が必要なときは、いつでも声を掛けなよ」
「地球の裏側にいたって、すっ飛んでいくからさ」
スクイズとホノルルも見事な敬礼を見せた。
「みんなありがと。何にもしてあげられなくてゴメンね」
智恵理も感極まって、声が裏返る。
「今度会うときには、もう少しマシなペイルウイングになってるから。約束だよ」
智恵理は顔を上げて答礼を行う。
「ところで曹長は? コンボイ曹長はどこ行ったんだよ」
巨体の新曹長の姿は、その場には無かった。
「中尉とお別れするのが悲しくって、どっかでこっそり泣いてんじゃないの」
「意外にセンチだからさ、あの人は」
コンボイ曹長を探しに行くには、もう時間が足りなかった。
定期便の発進時刻が迫る。
「それじゃ、曹長にはくれぐれもよろしく言っといて」
智恵理がタラップを駆け上がり、搭乗口が閉ざされる。
もう一度、互いに敬礼を交わす中、ジェットエンジンの轟音が響き渡った。
機体が垂直に浮かび上がり、次いで前進を始める。
手を振る隊員たちが、そしてアルカトラズ島が見る見る小さくなった。
※
計器の異常が発覚したのは、VTOL機がロッキー山脈上空に差し掛かった頃であった。
「どうしたの?」
智恵理は機内に漂い始めた異様な雰囲気を嗅ぎ付けた。
「カーゴルームのウェイトバランサーに異常が見つかったんでさぁ」
ゴロツキ風の機関士が申し訳なさそうに頭を下げる。
「コンピュータの計算より超過しているんで。参ったな、このままで着陸許可が降りるかな」
機関士が首をひねりつつ、バランサーの再チェックに入る。
「どのくらいオーバーしてるの?」
智恵理が機関士の背後からコンソールパネルを覗き込む。
「それが、105キログラムもオーバーしてるんで。ちゃんとチェックしたんですがねぇ」
カウンターを確認した智恵理の目が輝く。
そしてカーゴルームの扉を開いて中に飛び込んだ。
「曹長っ、コンボイ曹長っ」
智恵理の声に応えるように、貨物の陰から曹長の巨体が現れた。
「もう見つかっちゃいましたか」
曹長はバツが悪そうに頭を掻く。
「あなたはサンフランシスコから、旅客便で羅馬に向かうはずじゃ?」
智恵理が目を丸くして曹長を指差す。
「まだ中尉には、ハラワ峡谷でのご恩返しが出来てませんから。それに……」
「それに?」
「この程度の経験で小隊長なんて、危なっかしくて放っておけませんや。しっかりした補佐役が付いていないと」
曹長が真面目くさって言い、突きだした親指で自分の胸を示した。
エース中のエースと崇めている智恵理と、鬼のような巨体の曹長に挟まれて、機関士がオロオロとする。
「それとも、ここで降ろしますかぃ?」
曹長がカーゴルームの小窓から機外を覗き見る。
智恵理は室内をキョロキョロ見回す。
そして巨大なトランクの前に立ち、機関士に尋ねた。
「これ、なんなの?」
「基地司令部から本部のお偉いさんへの貢ぎ物でさぁ」
機関士が蔑みの感情を露わにする。
「結構重そうね……曹長っ。これ、目障りだから片付けといて」
智恵理は如何にも邪魔だと言わんばかりに、そのトランクを足蹴にした。
「お安いご用で」
曹長はランプの魔神のようにお辞儀をすると、無造作にトランクを肩に担ぎ上げる。
そして搬出用のシューター目掛けて、思いっきり叩き込んだ。
ウェイトバランサーのパイロットランプが赤から緑へ切り替わる。
智恵理と曹長は改めて向き合う。
「私ら、死ぬまで一緒ですぜ」
「頼りにしてるわ」
2人は互いを固く抱擁した。
乙
読み応えあるなぁ
面白い。
しかし、柳生新陰流と来たか。
というかどんどん元ネタがいらなくなってるな
そんなこともあるまい。
逸脱しないように上手くバランス取れてると思うよ。
最終局面におけるペリ子の切り札であり、ゲーム中最大の謎である
思念誘導兵器の紹介と解説は避けて通るわけにもいかないだろう。
というか、元ネタ自体が、良く言えば自由度の高い、悪く言えば
いい加減な設定で、キャラクター性の薄いゲームだからなぁ。
ゲーマーが100人いれば、100通りの世界があったっていいんじゃない?
>>641 > 「起て! 撃て! 斬れっ!」
なにそのウルトラギロチン
主人公は特ヲタなんじゃない?
君と同じでw
どなたか
>>110の画像を保存している人がいたら再うpしていただけないでしょうか
HDDが飛んでしまいましたorz