14 :
ロイ×スー:
トリア侯の屋敷で、出会った。
二人を彩るものは青色の仲間と、赤色の敵だけ。
数多の敵兵らが散って行き、屋敷内には鮮血が湖沼のごとく溢れ、
そして床や壁に赤色のしみとなって彩っていった。
短弓を手に持ち、女は一輪の花の如く、惨劇の館に立ち尽くしていた。
髪は翡翠の艶、 血に汚れながらも、その肌の白磁ははっきりと見て取れた。
こちらを睨みつける顔立ちは、サカの血を引き、気品のある顔立ちで――
それゆえに、いかんとも形容しがたい、凛とした、美しさを孕んでいた。
15 :
ロイ×スー:2005/03/26(土) 15:26:33 ID:oTm5XxBb
密なる睫に彩られた、その深淵のごときの双眸と目線がかみ合った瞬間――
ロイは心臓の最奥部に狂おしいまでの疼痛を覚えた。
まるで胸郭に銀の槍の一撃を食らったかのような、煩悶を伴う激しい痛み。
鼓動の高鳴りに乗じて、胸部から喉元に重苦しく競りあがる感覚があり、
激しく喉を乾かせた。
止まずこみ上げるその衝動のゆえんが、飢餓感にも似た支配欲であると気づいたのは、
肩を上下させ髪を乱し、柳眉を寄せて地に片膝ついたその姿を見て、
ロイは確信した。欲しい、と。
リキアの一公子であるこの身を初めて高揚させた、凛とした美を持つ少女。
16 :
ロイ×スー:2005/03/26(土) 15:31:58 ID:oTm5XxBb
だが……貴族という身分も、彼女の境遇も出自も何も、
この強烈な衝動の前には意味を成さない。
欲しい、欲しい、欲しい。
渇きし時の水のように、飢えし時の肉のように、この女が、堪らなく、欲しい。
「……助けてくれるの、私を」
女は地に伏したまま、上目遣いに尋ねかける。
癇の中にわずかな怯えを孕んだ、その目線さえロイの尽きない情欲に拍車をかける。今すぐその艶持つ桜唇に噛み付きたい。
衝動を胸中で殺し殺し、折れかけた剣を鞘に収めた。
「助ける。……失ってなるもんか、君のような美しい子を」
惑う女の双眸に視線を合わせ、己も地に片膝をつき……ロイは囁いた。
「 ……君は、なんという名前だ?」
女は静かに俯いた。長い睫が、伏し目の目許に淡い影を落とす。
17 :
ロイ×スー:2005/03/26(土) 15:37:49 ID:oTm5XxBb
「……。」
見知らぬ男におびえたそぶりを見せながら、朱唇は鮮やかに甘い色艶だ。
心を決めたように一つ息をつくと、彼女はやおら顔を上げる。
翡翠の長髪がさらと白皙の美貌の両脇をかすめ、現われ出でたの瞳の漆黒の、なんと鮮やかな色合いか。
「だけど……、スーと呼ばれている。」
「スー……」
返り血が鬱陶しい口内で、ロイはその名を繰り返す。
噂には聞いていた、キアラン公女と灰色の狼の息子の間に生まれた少女。
キアラン公女に似て強い少女と思っていたのに――
これほどに美しいとは……!
「……スー」
繰り返すと、心臓の痛みは激しくなった。
もう御すことは出来ぬだろうと、曹丕は瞑目して悟る。
己の心はもはや甄姫のもの、甄姫に恋し焦がれ狂いだし、もとの形を綺麗に見失ってしまった。
三国の覇権を欲するのと同列の欲望で、この女が欲しい。
「……甄……」
曹丕は、ただ、繰り返す。
胸のうち、恐ろしいほど高まった慕情を持て余しながら――
18 :
ロイ×スー:2005/03/26(土) 15:41:10 ID:oTm5XxBb
唇を合わせると、仄かに血の匂いがスーの鼻先をくすぐった。
拒否を口にしようとした、とした舌はきつく吸い上げられ、
言葉は喘ぎに変わって寝所の空気に淫靡に蕩ける。
スーの腰を抱き寄せながら、開いた片手でロイは腰帯の一つをほどく。
鋼の擦れる音がして、彼の鉄の剣が鞘ごと床に落ち、折れた。
それだけで、ずいぶんロイの体に染み込んで匂う血臭は遠ざかる。
「公子……せめて湯浴みをすませてから……」
喘ぎ喘ぎ訴えた。
血の風に弄ばれ、馬に乗りあがり短弓をふるって敵を屠った。
己が掻いた汗の上、浴びたのは死者の血脂、受け止めたのは自然界の泥と埃と塵埃。
清かな水でさっぱりと洗い流さねば、サカの遊牧民とはいえ気分が悪くて仕方がない。