「奥に浴室がある。着替えなどはこちらで用意するから、使ってくれ」
住人に勧められたとはいえ、他人の家の風呂で自分の汚れを落とすのは悪い気がして凪には抵抗があったが、だからといって「良いです、入らないです」と断るわけにも行かず、結局
「はい……すみません」
と頭を下げてしまった。
「ここが浴室だ。着替えは籠の中に入っているものを使ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
誘導されるがまま、凪は風呂場の戸をあける。
銭湯のように脱衣所があり、その先の風呂もなかなか広そうだ。
「では、俺はこれで」
静かに戸を閉めた魁。
その眼前には、彼と由太郎の父親である村中紀洋が立っていた。
「どうだ魁、うまくいきそうか」
「はい、少し抜けているところがあるようなので、こちらの考えは最後まで読まれないでしょう」
「そうか。よし……では、作戦其ノ一、決行!」
父が腕を振り上げると、魁の顔は少し、不適に緩んだ。
「広いんですね……」
身に付けた服を次々に脱衣籠へと入れてゆき、凪は改めて風呂場全体を見る。まるで本当に銭湯のようだ。
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726 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/24(木) 17:56:16 ID:5UbSD7MW
ゴールデンレター
このスレを見た人はコピペでもいいので
30分以内に7つのスレへ貼り付けてください。
そうすれば14日後好きな人から告白され、17日後に
あなたに幸せが訪れるでしょう
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過疎ってるな
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730 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 21:09:07 ID:VfBDzRyD
なにこれ
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遅くなったけどユタ凪GJ!
続きが気になる……期待してます!
733 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 20:05:18 ID:Lck6vSFJ
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牛×柿どうでしょう?
自分的には好きなんだが…
735 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 16:03:48 ID:ACJtjEoc
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牛柿いいね、屑柿も好きだ。
737 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 19:49:15 ID:ACJtjEoc
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熊×猿って 需要ないかな
>>738 過疎ってるから何投下しても嬉しいし、強情なもみじと猿野の掛け合いは面白そうだな。期待します。
後、裏天国氏続き希望。
ユタ凪続きがかなり気になるな。wktk
裏天国氏もゆっくりどうぞ
>>734,
>>738 どっちも(´Д`;)ハァハァ
ミスフル読んでパワー充電してからまた書きに来ますw
>>732>>740 ありがとうございます。
近々投下があるようなので、神々に迷惑をかけぬよう今の内に続きをすこし投下しておこうかと思います。
魁や村中紀洋の言葉遣いが微妙ですが、脳内変換よろしくです。
やがて服を全て脱ぎタオル一枚を身に纏った姿となる。脱衣室を出、その大浴場へと入ってゆく。
「いいなあ……」
自宅の風呂の3倍以上はある。村中家はさして大家族でもないと思っていたが、一体どうしてこんな大きな風呂場にしたんだろう……などと考えながら、近くの椅子に腰を下ろした。
湯けむりで遠くの方は何も見えず、自分の近くしかほとんど見えない状態だった。
……その時である。
「にいちゃん?……遅いじゃねえか、すぐ来るって言ってたのによ」
隣から、誰かの声がした。
聞き覚えがない……はずはない、確かにそれはこの家の住人、村中由太郎の声だったはずだが、誰もいないと思っていた風呂場に人が……まさか男がいるとは思いもしなかった凪は、状況を瞬時に理解することが出来なかった。
「もしかして、おれのこと驚かそうとしたー?へへ、気付いちゃったもんねー」
理解しても、しかし凪にはこの状況をどう対処していいのかさっぱりわからなかった。
他人の家に上がりこんでおきながら、叫んで風呂場から由太郎を追い出すわけには行かず、また自分が兄を演じてそれとなく逃げ出すなんてことはもっと無理だ。
「……………」
ゆっくりと、凪がそこから立ち上がる。
気付かれないようにそっと逃げよう、脱衣室に隠れて、由太郎が風呂から上がったら入れ替わりでこっそり入ろうと思いたった。それが、凪の導き出した唯一の方法であった。
「……………」
音を立てないように、そっと出口へと歩き始める。
しかし。
「どうしたんだよ、にいちゃん」
由太郎は見事に凪の動きに気付き、あろうことかその足を掴んだ。
「いやぁっ!」
「………え?」
……細い。
それだけじゃない、柔らかくて、弾力のある感触が由太郎に伝わる。
そして、自分の足を触られて思わずあげたその声は、明らかに自分の兄の……男のそれではなかった。
「おめえ……」
「あ………っ」
すぐさま由太郎は立ち上がり、凪と顔を近付ける。
何故こうなったのかはわからないが、今何が起こっているのかは、二人共ようやく理解したようだ。
広い浴室に、二つの悲鳴が響いたのはその直後であった。
「おお、上手くいっているようじゃないか、魁」
「綿密に計画を立てましたからね」
耳に届いた悲鳴を聞き、紀洋も魁も上機嫌である。
……由太郎の性的感情の育成。
16にもなって、未だそういったことに興味を示す素振りもない由太郎に、父と兄は頭を悩ませていた。
「俺、そして魁・由太郎、そしてその子供達……村中の血を野球で永遠に繋いでいくことが、俺の目標なんだ」
「……承知しております」
はじめは魁も、随分自分勝手な意見だと思った。
しかし、そんな親父に野球を教わっている自分を遠巻きに見てみた時、自分も親父に加担しているようなものだと思い直し、反対する気も失せたという。
……魁本人に性的好奇心があったのかもしれないと言われると、確かに否定出来ないが。
二人で話し合った結果、いきなり性交の快感を身体に覚えさせて、それをきっかけに性的感情を芽生えさせようと思ったのである。
その相手に選ばれたのが、凪であった。
「作戦其ノ一、風呂で裸の美少女と遭遇!……さて、この後どうするか……見物だな」
二人はモニターへと目を移した。
「な、なんでおめえがここにいんだよ……」
「すみませんすみません……実は、由太郎さんのお父さんに呼ばれて……」
「お、オヤジに?」
「はい……」
凪は泣きそうになりながら、たどたどしくこれまでの経緯を話す。
……女の子の裸が、目の前にある。
今まで出会ったこともないそんな状況が恥ずかしくて、凪の言葉は少ししか聞き取れなかった。
由太郎は目のやり場に困りながら、自らの腰に巻いたタオルをしっかと掴んで、凪の話に耳を傾けていた。
「それで、このお風呂に入れて頂いたんです……」
「にいちゃんが……?」
おれが入ってることに気付かなかったのかと由太郎は少し不思議に思ったが、とりあえず泣きそうになっている凪を落ち着かせることを優先させた。
「とりあえず座ろう、凪……で良いかな?おれ別に平気だからさ、これくらい」
平気だから。……そう、おれは平気なんだと言い聞かせ、由太郎は凪の気持ちと同時に、徐々に迫る自分自身の『高鳴り』も鎮めようとする。
「せっかく来たんだしさ、ゆっくりしてってよ?おれ、なんなら出るから」
「いえ…!大丈夫です、ありがとうございます」
精一杯に凪が笑う。
……息が、詰まる。
そういえば換気扇、回ってたっけ?忘れたかも、しれない。
「由太郎さんも、どうか……座ってください」
「あ、うん……もう、落ち着いた?」
今日のお湯、ちょっと熱すぎたかな。
……おれ、顔赤ぇや。
「はい……それより、由太郎さんは?」
「え?」
心臓がうるさいのも、なんかぼーっとするのも、全部。
「今は由太郎さんの方が、なんだか苦しそう……?」
風呂のせい……の、はずなんだ。
「凪っ!!」
差し出された手を更に引き寄せ、そのまま抱き締める。
「…………!!?」
凪はまた、目を大きく見開いた。
「ごめん、凪、おれ……っ!!」
我慢出来ない、と言おうとしたが、抱き締めた拍子に自分の胸に触れた凪の柔らかい胸の感触で頭が一杯になり、その先の言葉が出てこない。
「ぃ………っやあ……っ」
凪は由太郎の腕の中で、必死に抵抗をする。
「凪、おれ……こういうこと、よくわかんねえけど……とにかく凪とこうしてたいんだよ」
「由太郎、さん……っ」
力が強すぎるとか、強引すぎるとか、今の由太郎に考える余裕はなかった。
ただ恋なのか欲望なのかも知れぬ何らかの衝動に任せ、しばらくの間、そうしていた。
今日はここまでで…
次回は神の投下とタイミングをはかりつつ。
よろしければご意見ご感想などいただけると嬉しいですorz
ユタ凪、もうほんとGJです。なんか柔らかい文体で読みやすいですし。続き期待してます。
神達の降臨を待ちわびる日々…
753 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/01(木) 10:15:29 ID:GUHdXjy8
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757 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 00:13:29 ID:q/l8aTsy
保管雇ってありますか?
確かないような。
サイト持ってる人はいるかも試練
しばらくアクセス規制とやらで書き込めませんでしたが、
規制の外れたいまのうちに投下しておきます。
裏179.3発目 七橋恋愛相談所
ここは私立、セブンブリッジ学院のグラウンド中央に位置する真新しいマウンドの上で、
いままさに、この学校の真のエース・鳥居 剣菱の剛球が投じられようとしている。
「剣ちゃん…、あれからここまでまったく危なげもなく勝ち進んでこれたせいで、
アナタの出番が回ってくることもなくてさぞ退屈しちゃったでしょうね。いいのよ、
ここでその溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)をアタシのミットに叩き込んで、
押さえ込まれた獣の本能をとぎすませておくといいわ…」
剣菱は今夏、唯一登板を許された江戸桜高校との一戦を除いては、未だ公式戦にて
秘密兵器の扱いを受け、投手としてではなく一塁手としての働きを見せるに留まっていた。
キャッチャーのプロテクターのマスクの奥から、ときおり妖しげな笑みを滲ませて
紅印は、眼前のパートナーに向けて秋波を投げかけ手招きをして見せる。
そして剣菱の、紅印の言葉の通りに鬱積した、抑えようのない闘志を形にして現し、
指先からあふれ出すかのような直球が放たれていく。
メジャー原産の球、ムービングファストボール(MFB)。バッターボックスの手前で
不規則な変化を起こして打者の目を攪乱するその球も、紅印のミットに収まる直前には
一本道の速球と化し、小気味よい音を立てて革の厚みの中に収まっていく。
……――ギャ ギャ ギャッ ………… ドバアァァァァァァン!!!
「――絶好調じゃない、剣ちゃん…。その調子で決勝までコンディションを整えて、
今年こそ華武をアタシ達の手で……」
その頃、グラウンドの隅のベンチ内で、椅子に置かれた剣菱の荷物入れから音がする。
それが携帯電話のメールの着信の音であると知った、その場で休憩をしていた王と霧咲は、
そのことを剣菱に伝えこちらに呼び寄せようとする。
↑1
「!? これはいったい何の音カ? ピリピリ鳴った後で、ブルブルと不気味な響き……」
「携帯通信機、電波着信。 剣菱所持物、微震同伴、伝播随行音」
「そ、そういえばそうだったネ、いつも剣菱が楽しげにいじってる小型の通信機の音ヨ。
……剣菱〜! トランシーバァに呼ばれてるネ! 早く出ることヨ」
「いやいやワンタン〜、ってかそれは別に大丈夫だから。メールは電話と違って
いつ返事を返してもいいんだしさ〜。……あ、凪からだ。今日に限っていつもより早く
メールを送ってきてるけど、なにかあったのかな? 昨日も一昨日もたしか八時頃に…」
「まったく剣ちゃんったら、高三にもなって毎日妹とメールのやり取りしてるなんて…、
妹バカも大概に… まぁ、アタシの目を盗んで彼女を作って浮気するよりはマシだけど」
独り言をブツブツとつぶやく紅印をよそに、剣菱はメールを開いていく。
「…へぇ〜、凪の友達がちょっとした『恋愛相談』をしたいから、ウチの例の相談所を
紹介してくれって。そうかそうか〜 そういや凪に紅印のこと話したことあったっけかなー。
…というわけで紅印、いつものアレ、俺の紹介ってことで時間をとってやってくんないかな」
「え、それは別にいいけど。剣ちゃん、もうご家族にアタシのこと話してくれてたのね…。
アタシはいつでも、剣ちゃんのご両親にもご兄弟にも会いに行く準備はできてるわよ…」
紫の化粧の、ペインティングの下の頬を紅く染めてそう言った紅印の言葉を聞いて、
身を震わせる王と凍えて固まる霧咲だったが、剣菱はまるで動揺をすることもなく
朗らかに笑って紅印に礼を言う。
↑2
「剣菱… 感覚、鈍感性散見。顕著天然…」
「アイヤー、紅印のアタックは毎回毎回、すごい露骨さ加減ネ。しかも剣菱はゼンゼン
それに気付いてもいないみたいヨ… でもそのおかげでこれまで、うまくバッテリーが
機能してたとも言える、カ…。 それにしても……」
両腕の大きく垂らした袖の中に顔を埋(うず)めて、桃食はひとり考える。
(…剣菱の妹の友達が恋愛相談……。言葉通りなら問題ナシにせよそういう場合、
たいてい本人も何か腹に抱えて友達誘ってるいうこと多いネ…)
女装から、元の姿に戻った猿野は、校舎の物陰に隠れてこっそりと、
決闘状(はたしじょう)の巻き物の紐を解いていた。
「は、早く凪さんを探さねぇと…、でもこの巻き物の中身も気になるし。
ちょっと中見てからすぐにまた探索に戻るってことで…」
恐る恐るの手つきで、内容を確認した猿野は驚愕した。
『前略 明美チンへ〜 ボクどうしても、君と一対一で勝負がしたくなったから、
今日の夜九時に空手部の道場で、ボクとサシで殺りあってほしいんだ。
もし君が勝ったら、ボクは沢松くんとだって誰とだって付き合うから、そのかわり…
ボクが勝ったら、女の子のことに本当に興味を持てないのかどうか、明美チンに
もう一度よく考えてみて欲しいんだよ…。場合によっては、女の子と女の子の関係でも
いいから、ボクと…… とにかく、夜の九時に空手部の道場で。
いっとくけど、必ず一人で来てよね。 遊神 楓
〜P・S〜 もし来なかったら、君の沢松くんに代わりに地獄を見てもらうかも♥』
そこで文字は途切れ、代わりに続きには沢松が、『オールバックを狩りまくり連合』に
半殺しにされるところをイメージしたイラストが描かれていた。
「こ、これは、伊豆の合宿の時オレの描いたイラストの図案…。いつの間にか
あちこちに出回ってるし……」〔呆然〕
↑3
一瞬、沢松が半殺しにされるのもまた一興か… などと考えてしまった猿野だったが、
遊神に猿野が目を付けられていることを凪に知られたときのことを考えると、
場合によっては凪にどんな危険が及ぶかも分からないと思い直し、猿野は遊神との
一騎打ちの申し出を受けることを決意しつつも、急いで凪ともみじを探しだすために
走り出そうとする。
「あ、見つけた……」
しかし、そこで不意に凪の姿を目前に発見し、猿野は慌てて駆け寄っていく。
「な、凪さん。さっきオレがブザマにもノックダウンしちまったことは決して…
もみじ様のムネが背中に当たってどうこうとか、そーいうこととは無関係ですから…」
そんな猿野の、まったく弁明にも何もなっていない言い分を聞いて、凪はどこか
よそよそしげな素振りで返事を返す。
「は、はい、 そう…、ですよね……。 私は別に、何も気にしてなんか… いませんし…
じゃあ猿野さん、練習の続き、頑張ってください。それでは……」
かすかに、心ここにあらずといった風情をも見せ、目を伏せてその場を去る凪を見て、
猿野はその様子から、これまでになかった気配を見て取り漠然とした不安に駆られる。
「な、な、なんか凪さん、いつもと違ってオレを避けようとするかのような仕種で…
や、やべぇよこりゃ… さっさとオレが、もみじ様や楓ちゃんよりも凪さん一筋だって
ことを分かって貰って、なんとか誤解を解くようにしねーと… となりゃ、楓ちゃんの
ことはきっちりとケリをつけて、後腐れのないようにあきらめてもらうしかねぇよな…」
そうして、部活の時間も終わり、校内に残っていた面々は軒並み帰路に就くのだった。
↑4
「猿野くん、今日も精一杯頑張って、いい汗流したっすよね。もうじき第五回戦も
始まることだし、ここからはくれぐれも気を抜かないようにしていかないと」
着替えを済ませ、夏の半袖の制服でひとり道を歩く猿野を見つけて、
同じ一年の子津が背後から声をかける。
「あ、ああ、子津… それにモミーにコゲ犬も一緒かよ。そうだよな、
もうじき次の相手と闘りあわねーといけねぇんだよな」
「…どうしたのですか、猿野くん。いつになくご気分が優れないようですが」
「フン、放っとけ辰…。どうせテメェ自身の芸風にいきづまりを感じて鬱にでもなってんだろ。
……オカマの芸風を途中でヤメた時のコロッケの心境か、なかなかそれまでのイメージが
取れなくて巡業で苦労したらしいな〔ププ…〕」
「テメーと一緒にしてんじゃねーよ!!」〔驚〕
猿野を気遣う言葉をかけた辰羅川に続き、ひとりブラックの混じった小言を刺してくる
犬飼に、反射的にツッコミを入れてしまう。
「…それともまさか、怖じ気づいたなんて言うんじゃねーだろうな。この前視察に行った
セブンブリッジの奴らを見て、いつもいつも大口叩いてる手前、今度ばかりは…」
と、じろりと猿野を見やり、いつになく猿野がナーバスになっている理由を
勘ぐってくる犬飼だったが、それに対し猿野は言う。
「ヘッ、バカ言ってんじゃねぇ。ったく、黒撰のヤツらに比べりゃあんなサーカス団なんざ
屁でもねーんだよ。毎度毎度ツッコミようのねぇボケかましてると、
仕舞いに誰からも絡んでもらえなくなんぜ」
売り言葉に買い言葉、焦りと共に引きつった笑みを浮かべ、猿野がそう返したのを見て、
やっと犬飼は普段通りの様子に戻り、長身と比べてひとまわり小さく見える平たい鞄(かばん)を
片手で肩に持ち上げて背中から下げると、そのまますたすたと無言で歩を進めていく。
↑5
犬飼、辰羅川のふたりと別れ、またしばらく後に子津とも別れると、再び猿野は
力無く肩を落とし、自宅へと足早に急ぐ。
今日この日はこれから、もう一度学校へと『登校』しなければならない予定だった……
「ねー聞いてよパパ。高校に入ってからこれまでは、ボクに敵う男の子は誰一人として
いなかったんだけど、今日会った猿野くんっていうヒトがすっごくいいセン行ってて、
もしかしたら、って思ってるんだ… ただ、そのヒトは……」
十二支高校を出たすぐ近く、いかめしい外観を持つ外壁の向こうに大きな道場が
そびえ立っており、その中では… すでに暗くなり始めた広々とした空間の向こうに、
道場主にして遊神流の武道の師範である楓の父親が、おどろおどろしげな風貌を見せて
上座に腰を下ろし、仁王のようにたたずんでいる。
そして正面では、空手着を着、正座した楓が父に向かって面を上げ、話を切り出していた。
全ての事情を聞いた父親は、重い口をゆっくりと開く。
「ふぅむ、話はよく分かったわ… つまるところ、その猿野とかいう男が質実剛健にして
お前が生涯の伴侶となるに相応しい器量を持っておると。だが反面その男は同性を好み、
女であるお前に対し目もくれようとせぬと、そういうわけだな?」
「そうなんだよパパ… つい最近までは、女の子のことにも関心を持ってたらしいんだけど…
今はもうすっかり男の子しか眼中にないって感じで… ボク、どうしたらいいのかなぁ」
下を向いて弱音を漏らす楓に向けて、父親は悠然としたまま答えを返す。
↑6
「心配はいらん、むしろ頼もしいほどではないか…。『英雄色を好む』といってな。古来より、
森欄丸を寵愛した織田信長を始めとし、武の道を究めしものが衆道(男色)をたしなむは
めずらしからぬこと… かくいう儂も15の頃は、共に武道を歩んだ仲間に対し、
友情の域を越えた運命の環を感じ惹かれたこともあった…」
「え… ほ、ほんとに? すると猿野くんは、武道を通じて男の子のほうに関心を
持っちゃったってこと…」
身を乗り出してさらに顔を上げ、楓は父の方を仰ぎ見る。
「左様。真の漢というものは、若いうちは純粋さゆえ、とかく志を同じくする男に対し
専ら心惹かれることとなる。だが最後にはその一時の心もなりを潜め、人並みに一家を
興し構えんとする心境に達するはず…。お前がその男のことを気に入ったというならば、
力づくでも武道でもってその心意気を示すが上策よ。遊神流の武芸を修めし力でその者と
渡り合い、心を通じ合わせたうえで人の常道へと引き戻すべし…」
父親がそこまで語ったとき、楓の心にはすでに迷いはなかった。
「わかったよ、パパ… ボクの武道でもって猿野くんに、女の子にだって関心を惹かれる
ほどの強さの持ち主がいるってことを示して、どんな手を使ってでも、必ず……」
そのとき、遊神の父親の眉が意味ありげに、ピクリと動く。
時刻は、午後七時をまわった。
その頃、校門前で落ち合った凪ともみじは、学校の最寄りの駅から出た電車に揺られていた。
↑7
「セブンブリッジ学院、か… 確かあそこって、男子校だよな。そんなところに
俺達みたいなのが行っても大丈夫なのかよ、凪?」
もみじは、今は彼女ならではの特徴的な着こなしでアレンジをしたセーラー服姿となり
何気なく、同じ夏のセーラー服姿の凪の方を向き、話を振る。
「はい、そのことなんですが… なんでも学校の一角に『特別な区域』が設けてあって、
その場所だけは学校の敷地内でも、他校の女生徒の出入りが自由に認められているんだそうです…」
そして、それから数十分後、凪ともみじは目的地、『新設校・セブンブリッジ学院』の
近代的な校舎の壮観を目の当たりにすることとなる。
「へぇ〜、こりゃまた随分と… ここがスポーツに力を入れてる学校だって事は聞いてたけど、
これほどとはなあ。ここの野球部のかしこまった大げさなユニフォームと同じで、
たっぷりと金のかかった『一大施設』ってカンジだぜ…」
そう言ったもみじに対し、凪は十二支野球部の主将・牛尾の自宅に招かれたときに見た
豪奢な設備を思い出し、今目の前に広がるこの光景と重ね合わせてみる。、
「そうですね。牛尾キャプテンの邸宅も相当なものでしたけど、ここも負けず劣らず充実した
設備を備えていると思います…」
そこで凪は、もみじがこれまでに牛尾の邸宅に、一度も招待されていなかったことに
思い当たり、今度皆で一緒に招待してもらえるように頼んででもみようかと考えつつ、
口をつぐむ。
↑8
「やあ凪〜、 それにお連れの人もよくここまで来てくれたねー、待ってたよ」
そこへ、大きな門扉の向こうから剣菱が現れ、凪ともみじに声をかけてくる。
剣菱はこの時間でもまだ、野球部のユニフォームの姿のままだった。
「もうびみょ〜に遅い時間になっちゃってるけど、帰りは俺とウチの部員もついていって
タクシーの乗り場にでも送ってくから。今日は安心してウチの相談役にいろいろ話を聞いてみてよ。
で、『例の場所』はメールで伝えたとおり、学校の勝手口の近くにあって、
外壁沿いに裏に回り込んで行くといいから」
剣菱は校門から外に出、二人を案内しながらも先を歩いていく。
やがて裏口を入ってすぐのところに建つ、小さな独立したプレハブ小屋のような建物が
見える。小屋の正面の小さな立て看板に『七橋恋愛相談所』と書かれていることが、
遠くからかすかに確認できた。
と同時に、そのプレハブ小屋の扉がゆっくりと中から開いていき、その向こうの空間から
紅印が姿を現す。
奇妙な色彩の、幾何学模様の刻まれた中性的なデザインの制服の、長い袖のシャツから
両手を斜め下に向けて組み交差させ、脚を少しずらせ揃えて立つポーズを取りながらも、
長身をわずかに揺らせ、軽く会釈をする。
「うふふ… アナタ達と顔を合わせるのは、予選第一回戦のあと以来だったかしら。
アタシの名を覚えていてくれたなら嬉しいんだけど… アタシは中宮 紅印といって…
そこにいる剣ちゃんとこの学校の野球部でバッテリーを組んでいるわ。以後お見知り置きを…」
直立姿勢となり、片手を正面で鋭角に折り曲げ、恭しい態度での自己紹介をしてくる
紅印に対し、
もみじは少し表情を引きつらせて緊張した面持ちとなり、凪はすぐさま返事を返そうとする。
↑9
「は、はい… こちらこそ、今日はよろしくお願いします…」
「《お、おい凪… 恋の悩み相談をしてんのって、いつぞやに見たこの、妖怪みたいな
姐さんのことだったのかよ…。 それにここって、一応は学校の敷地内だよな…》」
「あら、そちらの娘が今回、恋の悩みをアタシに相談しに来た相談者なのかしら。
ここが男子校なことを気にしているみたいだけど、大丈夫よ… 学校の敷地内でも唯一、
この建物の中だけはいわば治外法権…。 アタシの着替えその他のための、
『女性専用の更衣室』ということで、プレハブの小屋を学校の出資で建ててもらったの。
今後アタシみたいな、カラダは男でも心は完全に女という部員が、野球部に
入部したときのためにね…」
その学校側からの特例とも言える措置は、よほどこの紅印と一緒の部室で着替えをすることが
他の野球部員に耐えられなかったのだろうと、もみじは即座に見当をつけた……
「…じゃ俺は、もうひと練習。しばらく締めの筋トレしたあとでまたここに迎えに来るし、
あとはごゆっくり…」
そうして剣菱は去っていき、その場には紅印と凪、もみじの三人が残された。
「さあさあ、中にお入りなさいな。今日は 女同士、仲良くリラックスして、
ゆっくりとお話ししましょう」
そんな紅印に手招きされ、二人は恐る恐る小屋の中へと導き入れられていく。
小屋の中の扉の向こうは、こぎれいに片づけられた待合室になっていた。
↑10
「《な、凪…、確か今日は、お前がこの人に相談するためにここに来たんだったよな…
俺もついでになにか相談してみるとかって話は、してたけどよ……》」
「《はい…。ただ兄への携帯電話のメールでは、私が相談をするということは
伝えていなかったのですが…》」
紅印には聞こえないように、小声でヒソヒソと会話をする二人に後ろ姿を見せて、
紅印は小さく笑みを浮かべている。
「フフ。あなた達、さっきからヒソヒソと小声でお話をしているけど、さしずめ
こういうことじゃないかしら? 『相談に来たのは一人ということになっていたけれど、
実は二人とも相談したいことがあって、なんとか頼んでみよう』、とね… しかも、
元々相談をしにきたのは、剣ちゃんの妹さんのほうだったみたいねぇ」
後ろを向いたままの紅印にそう言われ、図星をつかれた凪ともみじは、まるで自分たちの
考えが読心術か何かで見透かされてしまったように感じて驚く。
「それくらいのことは、アタシには最初からお見通しよ。さっきあなたたちと顔を合わせた
その時点でね…。まあ、剣ちゃんには内緒にしておいてあげるから安心なさい」
そう言いつつも、紅印は凪たちのほうをゆっくりと振り向く。
「アタシには、男の子の心の内が何となく、自然と読めてしまうという特技があるんだけど…
女の子の考えていることだってたいてい、表情を見ただけで見抜くことができるの。
……それに、考えていることだけじゃないわ。本人さえも気付いていない、心の奥底の
隠された本当の願望の声すら、手に取るように感じて聞き取れることもある…
女同士の勘ってやつかしら」
↑11
紅印は、待合室のさらに奥にある扉を開けながらも続ける。
「とりあえず最初は、二人ともまとめて中にどうぞ。まず、それぞれが一体どんな状況で、
どんな疑問を持ってここにやってきたのかをきちんと確認しておいたほうがいいから。
フフ、どうしたの? 心配そうな顔して。お金なんて取りゃしないわよ。これはアタシが
好きでやっていることですもの…。しかも他ならぬ剣ちゃんからの紹介なんだから」
ここまで来れば、凪ともみじは遠慮することもできなくなり、言われるがままに
奥の部屋へと招待され、二人揃ってゆっくりと足を踏み入れる。中には簡素な大きめの
テーブルと、数脚のパイプ椅子が置かれているのみだった。
そしてそれから、しばらく後……
「なるほどねぇ、これでよぉく分かったわ。剣ちゃんの妹さんの… 凪ちゃんって言うのよね。
アナタの気になっている人は、相当に血気盛んな子のようね。アナタにだけはなぜか、
奇妙なほどに紳士的に接してくる反面、そのほかのいろんな女の子にはあまりにも
積極的な関わり方をしようとして、元気が有り余ってつい行きすぎてしまう…
と、こんなところかしら。あと、とくに背の高い方の…、もみじちゃんだったかしら。
アナタの好きなオトコの人のタイプはズバリ、『礼節のある人』と、そして『雄々しい人』ね」
凪の話に対しての紅印の返答は、ごく当たり前のものだった。猿野という同級生が
他の女生徒とは違い凪にだけ、腫れ物に触るかのように接してくることと、普段は猿野が
女生徒に対し、あまりにストレートな関心の示し方をする点を聞いての反応だった。
対してもみじへの返答に関しては、それを聞いたもみじ本人は心の中で思わず、
意外性を孕んだニュアンスに少し首を傾げてしまう。
↑12
礼節を重んじる部のキャプテンの牛尾の前で、思わず猫を被ってしまう点を指して
『礼節ある人』がタイプだと言われたことは合点がいくのだが、もうひとつのこと…
『雄々しい人』が同じくタイプであると評された点についてが心当たりもなく、
紅印がそう思ったことの理由も理解できなかった。
もみじは決して、男らしい男性がタイプだとは一言も言っておらず、別段それに近いことを
述べたわけでもなかったのだが… 覗き行為の常習犯である猿野に対して監視の目を向け、
たびたび絡んで拳の洗礼を浴びせているという話を聞いた瞬間、紅印は何らかの直感的な
インスピレーションをもってその考えに至り、確信に満ちた提言としたのだった。
「え、俺が…『雄々しい人』がタイプだなんて、いったいなんで… まあ『漢らしいヤツ』
だったら、何となく俺自身がそうなりたい、って感じで憧れるところもあるにせよ…
そんなこと一言も言って… なかったし」
妖かしの艶を帯びつつも、こちらの心をいとも簡単に見透かし掌握してしまうかのような
紅印の鋭い視線に見つめられ、もみじは若干の狼狽と共に動揺の表情を見せる。
「アナタはどうやら… 本当の自分の心の声を、とても深いところに隠してしまっている…。
そんなアナタの心の声が、アタシにはよく聞こえるわ。これはアナタのためを思って
言うんだけれど… まるで男の子のような口振りと立ち振る舞いでもって、その猿野って子に
ついつい絡んでしまうことは、アナタが本当は礼節に溢れたキャプテンさんよりもずっと強く…、
持て余すほどに過剰な男らしさを持った雄々しい男の子の方に惹かれてしまっていることの
現れなのよ…」
「!!?…」
もみじが本当は、牛尾ではなく猿野に対して深く心を惹かれている…。全く持って、
成り立ち得る範囲の予想を大きく外れたその語りかけの意味するところを知り、
もみじは驚きと共に絶句してしまう。
↑13
「もう少しくわしく言えば…。『雄々しい人』って、アタシの好きなタイプでもあるんだけど、
そういう意味では『経験者は語る』といえるかも知れないわね。アタシは好きな男の人がいても、
ついその彼の気を引くために他の男のヒトの袖を引っ張ったりしちゃうことがあるの。
あなた達の高校の色黒の彼みたいなタイプのヒトにね…。いけない浮気心をつい彼に
見せつけて、気を引こうとしてしまう。恋が思うように進展しないせつなさ、もどかしさを、
いわば代償行為によって紛らわせているのね。アナタはそんなアタシと全く同じ事をしているわ。
自分は礼節のあるヒトが好きなんだと自分自身に言い聞かせつつ、本当は逞しくて雄々しい
男のひとの求愛を受けて、尽くし尽くされる嵐の丘での逢瀬のような激しい恋愛関係を、
相手から熱烈に求められることを望んでいるのよ」
思わずもみじは、掛けていた椅子から立ち上がってしまう。
「な…、 そ、そんなバカなことが、あるはずが…」
「隠したって駄目よ。そのことの徴候は、一度意識からは追い払ったとしても、
アナタが無意識にとる行動や態度の節々に現れてしまうの…。例えばアナタは、
自分の成熟したカラダのことを男の子からストレートに指摘されたとき、
嫌悪や怒りを感じるよりも早く、反射的につい顔を赤らめてカラダの芯を
熱くしてしまう…。そんなことが実際に、何度かあったんじゃないかしら?」
その点で、もみじには思い当たるところがあった。覗き行為をした猿野を追い、
追い詰めたときに向けられた、自分の発育しすぎた胸に対する視線を受けた瞬間…
いつも不意に、熱く火照るかのような、体の奥底からわき上がってくる正体不明の感覚。
その感覚の意味していたもの、それはつまり……
続く