792 :
480:2005/11/27(日) 01:32:43 ID:3NbnydC7
お粗末さまでした。
しゃっきりぽん・・・
(゚∀゚)シャッキリポン!!
シャッキリポーン!・・・・・・ってなんだ?
795 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 13:35:44 ID:LPyQqe3X
>>480のタイガーたんのビジュアルは
一体どのタイガーたんなの?
なるほど、俗にいうエヴァタイガーたんですね。
ありがとうございました。
ちんこ抜き振り回すSEたんの登場を切にキボンヌ
久々にえーもん見たわ(*´Д`)ハァハァ
「わたしなんか食べてもおいしくないよぉ!!!!」
(*´∀`)
802 :
480:2005/12/02(金) 23:02:38 ID:hbW/wwTc
難だか急にタイガーちゃんにおのろけをはかせたくなってしまったので。
請うご期待、仕事中にぽちぽち書きますです。
(゚∀゚)
Pz.kpfwY TigerTにあやかったお話とかないのでありますか将軍殿
タイガーたん中毒になってしまったニダ
謝罪と賠償を要求するニダ
あのリボンをひっぱって困らせたい…
>>480 腹筋マンセー
808 :
480:2005/12/08(木) 19:18:02 ID:a2Ev3SQj
あの、すみません。
>>804氏に感化されてしまいました。
むしろ
>>804氏が私の中の物を呼び起こしてしまいました。
軍モノ色がすごく濃くなってしまいました
全然タイガーちゃんのろけてないし
なによりタイガーちゃんとちょっと違う子が出てきますけど。
しっかり最後にはオチが付いてるんで、今晩あたり投下してもよろしいでしょうか?
是非、是非!お待ちしてます!
810 :
480:2005/12/09(金) 01:20:28 ID:SRRjSZ3Y
1944年 8月5日
カーンから撤退を開始
1944年 8月6日
125号車、 単機無傷でミヒャエル・ヴィットマンSS大尉率いる中隊に合流
西部戦線末期、記録にない一機の戦車をめぐるお話。
「よし、いいぞハインリッヒ!食え!」
男がペダルを踏むと、爆音と共に目にも止まらぬ速さで、鉄の矢は戦車に吸い込まれていった
弾を受けた戦車は戦車長用キューポラの蓋が吹き飛び、続いて戦車長の代わりに炎が脱出した
やっつけたのだ
「よしタイガー、小隊本部に連絡、125は敵戦車1つを撃滅。」
「はい。」
金髪碧目、背丈は屈強な男たちに比べるとはるかに小さい
少女は鈴の音のような声で無線通信を行なう、小さな鉄の箱がしばし、安堵に包まれた。
オマハにまさかの上陸を許した彼らは、針鼠のようなバルコン(突出部)だらけの戦線を、徐々に首都ベルリンへと縮めてゆく。
受難の日々、底の見える弾薬、少ない燃料、守護天使のごとく有り難かったこのY号の装甲すら、今となっては恨めしい。
「タイガーちゃん、怪我はないかい?」
坊主頭の青年が閉塞機を隔てて少女に声をかけた、斜にひっかけた略帽がよく似合っている
照準手のハインリッヒだ。
「あ、はい。」
黒いリボンがぴょこんと揺れる、この子は中隊でたった一人の女だ。
この子の存在がもう先の見えているみんなの心の支えになっているのだ。
もっとも、彼女はその美貌に似合わずなんだかちょっとむすっとしているので、小隊のみんなはことあるごとに
「もったいないなぁ」
と、頭をくしゃくしゃしようとするのだが
彼女がそれを許すのは、いま閉塞機の隣に居るこの青年にだけだ。
編隊以来少女はいつも彼と一緒に居る、いちゃつくでもなくずっと一緒に。
「あれは偵察だったみたいですよ」
「まずいぞ…。」
昨日から燃料は間に合っているが、弾薬が底をつきはじめている。
さっきの奴らをやり過ごすわけにもいかなかったので仕方がないが
このままだとこのY号が足の遅い堅いだけの箱になるのも時間の問題だ。
「榴弾10撤甲弾15、どうやってもこんなのであと15キロも浸透できるはずがありません。」
装填手が嘆く。
退路を断たれかけた重戦車大隊は組織を再編成し、突貫組と退避組へと別れた
この戦車は突貫組の突端、つまりは被害担当だ、つまり後方2万の将兵の命綱なのだ。
「このまま包囲を抜けてパリまで行けたら美味い物たらふく食わせてやるよ」
明るくしようと努める戦車長の軽口も、今は皮肉にしか聞こえなかった。
ただ、希望があるとすれば包囲を食い止めている先行のSS重戦車大隊との合流
もっともかなり驚異的な防御力でその作戦が展開すればの話だが。
「1時から3時、M4一個小隊とM24がちらほら、随伴歩兵がかなりいます、集積中のようです。」
戦車長はキューポラを開けて報告のあった方向を確認する、彼のため息がその報告の裏付けになった。
「小隊長車に連絡、指示を仰ぐ、孅滅するぞ」
50代に入り、妻との安らかな老後を考えはじめた、そんなおりにポーランド軍による放送塔占拠事件が起きた
職業軍人であり、またクルト・マイヤーに近しかった彼はあれよあれよという間に重戦車の戦車長になった
(この時点で当時ドイツにおいてはかなりのエリートである)。
妻はシュレジエンに疎開していて無事だという便りが二日前に届いた、心配はない、心配なのは…。
『万難を排し前進、後続の安全を最優先せよ。』
「糞ったれ、殺す気か!」
彼の足元の右側の暗がりから呪いの言葉が飛んできた、フィンランドからの義勇兵のオロフである
契約制の彼らは祖国に帰ればドイツ仕込みの熟練兵として歓迎されるだろう。
そして装填手のノジマ少尉
彼は日本からの研修でこの機に乗り込んだが、ずるずるとこの泥沼にはまってしまい
昨日帰国の筈だったが彼の同僚はみな戦死
包囲突破の途中に帰国などできる訳もなく、こうして装填手の仕事を淡々とこなしている
きっと彼も日本陸軍の近代化のため祖国では重用されるに違いない
811 :
480:2005/12/09(金) 01:21:20 ID:SRRjSZ3Y
彼らみんなを祖国へ帰してやりたい、そんな想いが彼の頭を駆け巡っては、また消えるのだった
もちろんここから生きて帰るのは不可能に近い、なんでこんな若いものばかりが死ぬのか。
彼はタバコに火をつける、ヤケだ。
「…大丈夫だ、前進、距離1000弾種撤甲、左右と連携をとって射撃するぞ、トチった場合は白兵突撃をかける、小火器を手の届く辺りに置いておけ。」
「了解」
ため息混じりの了解だった
これを越えれば大隊のいる個所までは戦力的に空白の地帯が数キロ続いている
これが今回、このルートの脱出を決定する要因になったが
今後連合国側の戦力がこの戦区にも増加すればこのような幸運はもうないだろう。
侵攻第一陣の少ない戦力の懐を突いたわけだ。
「距離1000確認!気付いていません、行けますよ。」
坊主頭の彼が叫んだ、こちらの練度が高ければ10対1でも勝てる、そう豪語していたのが証明されるのだ。
彼の言葉が熱を帯びる、弾薬がないのを忘れているんだろうか?
「まだ、まだ射撃許可が降りてません!」
少女はいきり立つ男たちを鋭い声で制す、しかし男たちはそれに反比例してさらにあつくなるだけだ。
「今はじめなきゃ見つかっちまう、あのクズ!」
前線特有の上司への逆恨みであるが、意外なことに戦車長はそれを諫めるでもなく言い放った。
「そうだな、射撃を許可する。」
「でも戦車長!」
「異存があるのならあとで憲兵にでも突き出せ、今やらなきゃ負けるんだ。」
「・・・。」
「よしきた、合図をお願いします」
「よし…、一発で当たるか?」
「もちろん!騎士十字付きの保証品ですよ。」
「うん、ならいいだろう、全員何かにつかまれ」
すべてを確認し、戦車長はキューポラを開けた、抜けるような青空だ
この下で戦争をするなんて人間はなんて罰当たりなんだろうか
彼はその視界を望遠鏡で深く、狭くしながら呟いた。
「発射準備完了!」
「Fёuer!」
雷鳴と聞きまごう轟音と光と、鉄の矢はゆっくりと小さな戦車に吸い込まれた。
「うん、当たった。」
車内から喚声の湧く中、戦車長の顔に小さな燈が灯った。
小休止、味方の前線まで2キロまで近づいた、無線も通じるようになってきたし
タイガーのシルエットなどがやっと見えるようになった
すでに皆の顔には憂いの表情など微塵もない、これまでに撃破された戦車はたったの一機
人的被害は慌て者の122号車の戦車長が脱出の際に地面に頭から落ちて顔をすりむいた程度だ。
あからさまに風通しがよすぎるのは何かのブラフかと思ったが
どうやら連合側もかなりの苦戦を強いられているらしい
第999SS重戦車大隊の迂回組に連合軍がボコボコに負けているとの報が入った。
「タイガーちゃん、疲れたかい?」
「ううん、大丈夫ですよ。」
「目のしたにくまができてるよ」
ちょいちょいとベトつく目の下を、濡らしたハンカチで拭ってあげる
「やぁ、冷たいよぉ。」
くらい緑、くらい茶色、くらいカーキ、その中の鮮やかな柄のハンカチは、とてもくすんで見えた。
「…いい天気ですね、ハインリッヒ軍曹。」
「そうだね、いい天気だ。」
「…どうしたんですか?元気ないですよ?」
可笑しな事を言うものだ、彼は微笑んだ、きれいな髪を撫でてやると気持ち良さそうに少女は彼に寄り掛かった。
今周りにはディーゼルの唸りも、残酷な機関銃のおたけびもない
さらさらと夏草が風にゆれているのだ、そして青い空。
「眠い?」
「…うん。」
812 :
480:2005/12/09(金) 01:21:49 ID:SRRjSZ3Y
「寝ていいよ。」
「だめですよ、あくまで撤退中なんですから。」
「まあ、たくさん相手がいる時こんなにガラガラなんだったら話は別だけど、今は大丈夫だよ。」
「…ねえ、ハインリッヒ軍曹。」
「どうしたの?」
「きれいな空ですね。」
「そうだね。」
今は戦争の真っ最中なんだよな。
「帰れるかな、ベルリン、やっぱり帰りたくなるもんですね」
彼女の顔は、まるでピクニックに来て道に迷ったように陽気だ。
「でも私、あそこに帰っても特に帰る場所なんてないのにね。」
少女の名前は元々無い。
ただ営門の前にぼろ布のように転がっていたのだ。
その日、この大隊はW号戦車かY号戦車への装備変更を終えた
寒い日だった、少女は営門の脇に倒れこんでいたのだ。
1942年11月、記録的な寒波が首都ベルリンを襲った。
「・・・なんだ?」
年寄りがもう働けなくなって捨てられることならごく希にあった、だけど目の前を歩いていたのは
冬にもかかわらずぼろ布のような上下一枚を身にまとった女の子だ。
「あ、倒れた。」
「倒れたじゃねえよ!オロフ!医務連れてこい、あと女性用の制服!」
「お、おお。」
門の脇、赤白黒の斜め柄に塗装の施された小屋から黒い軍服を着た男がスッ飛んできた
「お譲ちゃん!大丈夫か!?」
ハインリッヒ・グリュンブラット、少年突撃隊から『進学』してきた気鋭の新米SS兵士だ。
「寒い・・・よぉ・・・。」
「・・・可愛そうに」
男は彼女を抱きかかえると、建物の中へときびすを返した。
「しかし中隊長、現在の孤児施設は監獄と争います、どうぞ御慈悲を・・・。」
「まいったな。」
数時間後、男たちは初老の男性と机を挟んでの対話を行っていた。
「たしかにそれはよくわかる、まだ国内の経済の回復は孤児施設のようなお荷物施設にまで波及してはない。」
男たちの顔が少し明るくなった。
「しかしな、非戦闘員を駐屯地の中に置いておくわけにもいかないのはお前らだってよくわかるだろう」
笑顔がしぼんだ。
「・・・そうだ、呼んでこい。」
「は?」
「彼女をだよ、もしかしたら道が開けるかも知らない。」
「・・・はい!オロフ!連れてきてくれ。」
それからまた少し経って
「・・君、名前は?」
女性PK(宣伝部隊)SS将校用の制服を着せられた彼女が中隊長の対面に座っていた。
「・・・ありません。」
「知らない、ということかな?」
「いえ、ないんです。」
「もしかしてご両親は・・・。」
「はい、物心ついた時にはもうおりませんでした。」
「それにしては君は言葉遣いもしっかりしているし、路頭に迷う前なにか仕事をしていたのかね?」
中隊長は驚いた風で、目の前のコーヒーを多めにすすった、あつそうだ。
女の子は相変わらず自分の素性は語りたくないのか、その質問に目を伏せて答えた。
「君もどうかい?」
カップを差し出す、だけど女の子はそれを受け取らない。
「いえ、そんなにしていただいたら悪いです、元気になりましたからすぐ帰ります。」
「・・・帰る?家があるのか?」
813 :
480:2005/12/09(金) 01:22:38 ID:SRRjSZ3Y
「・・・。」
「いいかい?今年の冬は記録的な酷寒だ、今日あたり雪だって降るだろう。」
「・・・・でも。」
「だからそこで君に質問なんだ、君はいったいどこにいたんだ?何か職に就いていたのか?
正直に答えてくれ、君のためになる。」
「・・通信のまねごとのようなことを三ヶ月ほどしていたことがあります。」
「なるほど、そんな安定した職だったのにどうして?」
「会社が・・・倒産したんです、社長は私が出勤したら・・・冷たくなって・・・・自殺でした。」
少女が附した。
キリスト教徒で自殺とは本当に大変なことだ、しかし当時のドイツには
教義を犯してまでこの世から去りたくなるほどの不況の渦が渦巻いていたことも確かだ。
そこに現れたアドルフ・ヒトラーはまさに天の遣いと形容しても問題のないほどの経済回復をドイツにもたらした。
確かに彼は、国内の者からしてみれば天佑そのものであったのだ。
「・・・拭きなさい。」
中隊長が白いハンカチを差し出す
「・・・あの・・・あの人は、やくざものに体を売らされるところを引き取ってくださったんです
なのに・・たった三ヶ月で・・・。」
「・・・うぅぅ、なんて可哀想なんだ・・・。」
「静かにしろよオロフ、のぞきがバレるぞ。」
二人のつく机の左側にあるドアをちょっとだけあけて、四つの目が部屋の中をのぞき込んでいる。
「そんなこといったって可哀想じゃないかよ、ハンカチ貸せよ」
「持ってないよ。」
「・・・そうか、じゃあ無線機は扱えるんだな?」
「はい、簡単なものなら。」
「なに、そう大差はないさ、よし、そこな二人、入ってこい。」
話はまとまった。
「げ!」
「機密漏洩、間諜容疑で後で便所掃除だ、まあいいだろう、うん、お前らの125はまだ通信手が決まっていなかったな?」
「はい。」
「では戦車長にわ私から伝えておく、この子が今日から通信手だ。」
「えっ?」
「細かいことは気にするな、婦人部隊からの研修生ということにしてしまおう。」
「そんな、急すぎます! それに何より、私は字が書けません。」
「ハインリッヒに教えてもらえ、君を助けた男だ、ハインリッヒ!」
「はっ!」
「貴官に新兵教育の任を与える、三週間でアーからツェットまで、叩き込め。」
「やぼーる」
「いやそうだな」
「文法は苦手であります」
「大丈夫だ、いいな?ほれ、敬礼!」
中隊長は少女の右手をハインリッヒの方へと差し出す。
「・・・よろしくお願いします、ハインリッヒ一等兵。」
つられて少女は男に少々はにかんだ風にほほえんだ、男の顔に火がつく。
「Jawall Hell Comandar!!」
バキバキ音が出るかと思うぐらいにかっちり敬礼をして目線を泳がせた。
「よろしい、ではハインリッヒ、貴様ののぞきの懲罰による便所掃除の任を、新兵教育の任へと変更する、営舎に戻り、この子をいっぱしのドイツの女にしてこい。」
「はい、中隊長!」
こうしてハインリッヒと少女は部屋を出て行った。
「あの、中隊長殿、自分に何か任務は?」
オロフがニヤケ顔で少女を後ろ目に、揉み手をしながら中隊長へ近寄った。
「ああ、便所掃除。」
814 :
480:2005/12/09(金) 01:22:59 ID:SRRjSZ3Y
司令所と営舎を結ぶ木の廊下、すれ違う兵士はみなぎょっとした目つきで二人を眺め
司令所へ去ってゆく、元々女の少ない職場で、その上来ると言っても20はとうにすぎた女性ばかり。
この基地で少女は完全に浮いていた。
「ええと、一等兵殿。」
階級が厳しい軍隊ということは無知ながらもよく知っていたので、言葉遣いに気をつけたようだ。
少女は違和感の固まりのような敬語をしどろもどろ喋る。
「ハインリッヒ、ハインリッヒ・グリュンブラットだよ、名前で呼んで、君は?」
そういった途端男はあっ、と息をのんだ、が、後の祭りだ。
「・・・私、名前ないんです。」
「そうだったね・・・つけてやろうか?」
「え?」
「名前つけてやるよ、どんなのがいいかな?」
「私今まで名前で呼ばれたことがないんです・・・。」
「今度新しく入った戦車は、タイガー、Pz.kpfw Y Tiger、タイガーか、タイガーちゃん。」
「・・・お言葉ですけど、ふざけてるんですか?」
ジトーッとした目で少女は青年を見上げる、そんな漫画の登場人物みたいな名前ごめんだ。
「ううん?これでも命名センスいいと思わないかな、僕の実家の犬なんだけど名前が・・・。」
「ベンジー?」
「よくわかったね、いい名前だろ、どうやら君とは気が合うみたいだね、タイガーちゃん。」
「・・・はぁ。」
「よし、じゃあ僕らの部屋へどうぞ。」
男は立て付けの悪い扉を開けた、右側に二段ベッド突き当たりの窓辺には飾り気のない木製の机と椅子。
二段ベッドの下には整然と新聞が並べられている
「一応言っておくけど変なことはしないから安心してね。」
少女は一瞬きょとんとしたが、すぐに意味をくんでその顔を赤く染めた。
「あんまりそういうこと女の子の前で言うもんじゃないです・・・。」
「タイガーはいくつなの?もっとも15、6って所だろうけど。」
「はい、16です。」
「さっき通信の仕事をしていたといってたけど。」
「18ということにしておきました、見えなくもないでしょ?」
「うん、まあね、ただこれから戦場に男と出るわけだから、年も性別も関係ないぞ、いいね?」
「はい・・・。」
確かにご飯は食べられるかもしれないけどとんでもないことになってしまった。
何よりとんとん拍子に話が進みすぎている。
少女の背筋にいやな汗が流れた・・・。
「何よりも。」
「おぉっ!」
「この新聞をみんな読めるようにしてやるからな、はい持つ。」
「おぉ・・・重い・・・。」
「それじゃあ食堂まで駆けっこだ!」
「あぁっ!ちょっと・・・うぐぅ、重い・・・。」
そんなこんなで、ハインリッヒとタイガーちゃんは二年間をずっと同じ鉄の箱の中で過ごした。
815 :
480:2005/12/09(金) 01:23:40 ID:SRRjSZ3Y
「おい、ハインリッヒ!みろよ、にわとり捕まえたぜ」
いつの間にか眠ってしまったのか、体を自分に預けているタイガーを抱いて
彼はあまりに風通しのよすぎるフランスはカーン・ファーレーズ街道の青空を眺めていた
こんなことでいいんだろうか?
ぼーっとしている間にどこからか弾が飛んできて、知らないうちにみんな死んでしまうんじゃないだろうか。
・・・そうだ、この、僕の膝の上のぬくもりも冷たくなって。
「おい!ハインリッヒ!聞いてるのかよ?」
「おお!オロフ、どうしたんだよ。」
「にわとりだよ、誰もいない農家のあたりうろうろしてたんで連れてきたんだ、大隊に合流したら食おうぜ。」
「すごいな、かわいいにわとりだ。」
「それとな、あとおもしろい情報を手に入れた。」
「なんだよ、勿体ぶって。」
「あのな、実は合流する大隊なんだけどな。」
「うん」
「ミヒャエル・ヴィットマンがいるらしいぞ。」
青年の目が血走った
「本当か!?」
「ああ、本当さ、先にカーンから撤退している所らしい、次はサントーからの遅滞行動だから、俺たち騎士十字賞ついてるし編入させてもらおうぜ、この部隊はじき解散らしいし、戦車長とも話しつけたから」
「あいつらに一泡吹かせてやりたいのは山々だけど・・・この子。」
「・・・ああ。」
オロフが彼の足に覆い被さるようにして寝ている彼女をちらりと見た。
「この子は帰りたがってる。」
「いいですよ?」
「えっ?」
「いきましょう、アミーに一泡吹かせてやりましょうよ。」
いつの間に起きたのか、タイガーはむっくりと起きあがってキリッとこっちを向いた
「決まりだな。」
「死ぬかもよ」
タイガーの頬を両手できゅっとつかむ
つぶらな瞳がこちらを向いていた
「本当にいいの?」
「大丈夫です。」
「・・・我ら、生まれた日、所を違えども」
オロフは指を組み、フィンランド語で暗揺した
「死ぬ日、死ぬ時、死ぬ場所を共にせん。」
ハインリッヒもすっと立ち上がると、指を組み、オロフの前に立った
「・・・よし。」
最後に、彼女もそれにならった。
「骨になっても戦います。」
ちいさなちいさな、SS部隊が結隊した。
816 :
480:2005/12/09(金) 01:24:10 ID:SRRjSZ3Y
一晩あけて。
テントも何もない、ぱらぱらとパセリのような小規模の木立が小高い山の至る所に生えている
そんなフランスの片田舎の牧歌的なのどかな風景の中に
木の小枝や網をかけた物騒な箱が5,6個密集している。
「それで、貴官の車の照準手がそうなんですか?」
「はい、我々もカーンから撤退中でありましたが、ほぼ無傷でここまで到着することができました。」
「そうか、よし、それでは貴官を我が中隊に迎えましょう、中隊とはいえもう3機しかおりませんが。」
戦車長は高々と右手を挙げた。
「おい!007号車、集合!」
ヴィットマンの声を聞き、四人の男たちが駆け足で集合した。
「今ここにおるのは私の車の部下だけですが、右から操縦手のライマースSS軍曹」
ブラックユニホームを着た青年が一歩前へでる。
「お疲れ様です、噂はかねがね耳にしております」
「ああ、ありがとう。」
「無線手のヒルシェルSS兵士」
「あのきれいな声は125号車の方のですね?」
「そうだ。」
「一度お会いしたいです」
「後で会えるさ」
「照準手のワグナーSS軍曹、ヴォルに代わってよくやってくれます」
「是非ともグリュンブラット氏とお話がしてみたいです。」
「最後に、照準手のウェーバーSS兵士」
「よろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく。」
「ではマイヤー中尉、ヴァルトミューラーの所で今後の対策を練りましょう」
「ああ、そうしよう。」
「おい聞いたか?カルル、無線手はまだ18だってよ」
「可愛かったよ、うん。」
「何?みてきたのか?」
「さっきあそこでグリュンブラット軍曹と逆立ちしてたよ」
「ひゃー、二人とも会ってこよう!」
「を゛〜〜〜〜〜〜〜〜」
「タイガー、僕そろそろまずい・・。」
「うわあ!」
どたんばたん!
「いててて、お〜い!ノジマさん!!助けてくれ!!」
「大丈夫かい?あんまり浮かれてると足下救われるぞ。」
「まあいいじゃないですか、連合軍も今日はおやすみですよ。」
「日本には勝って兜の緒を締めよってことわざがあるぐらいだ、幸運続きの時は気をつけた方がいいね。」
「日本・・か・・。野島中尉さん、日本ってどういうところなんですか?」
これから山場を迎える戦闘に、きまじめな日本人気質を見せる野島帝国陸軍少尉
その姿は帝国陸軍の38年式戦闘服一式である。
817 :
480:2005/12/09(金) 01:24:51 ID:SRRjSZ3Y
「そうだなぁ、良いところだよ、富士山という山があってな、本土一高い山なんだ、これがまたきれいなんだよ。」
「アルプスよりきれいですか?」
「さあ、わからないな、なにより比べられるものではないね、アルプスだってきれいさ」
「そうですね、山が綺麗かなんてその人次第ですよね、えへへ。」
タイガーはペロリと舌を出して、ぽりぽりと頭をかいた。
「そうだね、あとは・・・、みんな誌が好きなんだ、自分だってほら、こうして辞世の句を。」
少尉は懐からきれいに折りたたんだ半紙を取り出した。
「・・おぉ、シュウジだ、そうですよね?」
青年は少尉から手渡された半紙をびっくりした風に眺めた、何か訳があるのだろうか?
「そうさ、ベルリンで書いた物なんだけど、筆を見つけるのに苦労したね」
「きれいだ・・・、みたことがあります、確か私の士官学校時代に一度日本の少年たちが来たことがあって」
「ほう。」
「八紘一宇とさらりと書いて渡してくれましたよ、なんであんな柔らかい物でこんなきれいな字が書けるのかよくわかりません」
「コツをつかめば簡単さ、みんな終わって、日本に来たなら僕がいろいろ教えよう」
「・・・あれ?これは?」
はらりと一枚、半紙の隙間から写真が落ちてきた。
拾い上げてみてみると、きれいな黒髪を後ろに流して
刀を持ったきれいな女の人と中尉がきれいな花の木の下に並んで写っている。
「少尉さん、これは?」
タイガーはその写真をまじまじと見つめると、はっとしたようににっこりとほほえんだ
「・・・奥さん?」
「ははは、そうだ、僕の嫁だ。」
「綺麗な花・・・これはなんて言う花なんですか?」
「桜さ、ぱっと咲いてぱっと散る、日本人の心を一番よく表している花だよ。」
「サクラ・・・ですか?」
「ああ、染井吉野という種類でね、長くても二週間も咲いていないんだ。」
「そんなに短いんじゃつまらないじゃないですか。」
「そこが良いのさ。」
ふうん、とタイガーは写真に目を戻した、花もさることながらこの女の人もとても綺麗だ
だけどなぜか寒気がする、綺麗すぎるからかな?
「奥様とはどのようにしてお知り合いになられたんですか?」
「ああ、僕の剣道の道場の娘さんさ、とても良い奴だよ。」
少尉は目を細めて暮れ始めたサントーの丘を眺めた。
夏草が真っ赤に燃える、まるで絵画だ。
これをあいつにも見せてやりたい、少尉は大きくため息をついた。
「君たちも、後々はそういうことは考えているのかな?」
「えっ!?」
二人そろって夕日に負けないぐらい真っ赤になった
「もしかしたら今言わなかったら、もう明日はないかも知らないよ?」
タイガーは何を言って良いのかよくわからないらしく、あうあう言いながらきょろきょろとしている。
「ハインリッヒ軍曹・・・。」
「いやあの、僕とこの子はただ」
「良い良い、わかってるよ。」
「・・・。」
「二人ともウブだからすぐに分かるさ、そうだろう?ちがうかな?」
「・・・。」
二人の間に何もしゃべれないような、でも気まずさとは違う雰囲気がほんわかと流れる
「女の子の方が素直だね。」
お互い目線をそらさない、すでに可哀想な孤児と命の恩人の間柄の眼差しではない
タイガーに至っては目に涙すら溜めている、それをすっと手袋をした手で拭ってやると。
「ハインリッヒ軍曹!」
「わっ!」
小さな女の子は、胸に飛び込んだ。
軍曹はそれを、しっかりと抱き留めた。
「・・・好きです、大好きです軍曹・・でも・・・戦争(これ)が終わってからっておもってたのに・・。」
818 :
480:2005/12/09(金) 01:26:47 ID:SRRjSZ3Y
・・・本当にここは戦場なんだろうか?あたりではコッファーで火をおこしたり野戦給食車に列を作ったりして
合流できた喜びを分かち合っていた、迂回組もすでに到着していて
こちらはそれなりの被害はあった物の、そこまで甚大な物ではないようだ。
サックスの音が聞こえてきた、みんなで歌っている。
まるでカーニバルの夜のような、なんだか浮ついた空気が丘を支配していた。
それはどうも連合軍側も同じようで、強大な敵を無事やり過ごせた喜びに浸っているようだ、遠くの平野から
ギターの音やバグパイプの音がかすかに聞こえてきた。
なにより、彼の胸では一匹のやんちゃな「虎」がその幸せにうちふるえていた。
「それでいいんだ、ははは。」
こういうのは後押しが必要だからな、毎日をしっかり戦い抜くためにも
やり残したことはなるべくないようにしなければ・・・、と、自分のお節介に適当な理由をつけて
少尉はきびすを返すと、戦車の乗組員たちが盛り上がっているたき火へと歩き始めた。
今日はあの忌々しい艦砲射撃もない、少し飲むか。
「あの、ノジマ少尉殿、お宅の無線手女の子はどこに・・・?」
そこへ、一人の戦車兵が息をあげて走ってきた。
「・・・君もタイミングの悪い男だね、ついて来いよ、あんまり音たてるなよ。」
「! 敵でありますか?」
「ああそれはもうすごい奴さ、来いよ。」
「・・・。」
がさがさと背の低い草をかき分けて、一機の戦車の脇の草むらから顔を出した。
「うわぁ。」
「な。さあ、行こうぜ。」
「そうですな、今日は久しぶりに肉が手に入ったそうですよ?」
「おお、そいつは良い、精が付く・・・。」
一番星が、二人を優しく見守っていた。
819 :
480:2005/12/09(金) 01:27:07 ID:SRRjSZ3Y
「ハインリッヒ軍曹・・。」
「タイガー・・・いや、これは君の名前じゃないな」
「いいえ、良いんです軍曹、軍曹の付けてくれた名前ですから。」
「・・・いつから僕のことを。」
「・・・分かりません、だけど、今大好きなのには代わりありません。」
「そうか・・・、僕もだよ。」
「不思議ですよね、今戦争の真っ最中ですよ。」
「なあ。」
月が二人を照らしている、別に雨が降るふうもないので今日は戦車の脇で眠る。
戦車の中はこの季節あつい、二人してはからずとも天体観測を楽しんだ。
「眠くなっちゃった。」
タイガーは
「僕も。」
「にわとりおいしかったですね。」
「ねぇ・・・、明日も食えるかな?」
「食べられますよ、きっと。」
「そうだね・・・。」
「星が綺麗・・・。」
「夏なのに珍しいね。」
「あーぁ、戦争が終わったらどうしましょうか?」
「・・・そうだな、まず結婚式を挙げよう、こじんまりした奴を。」
「そうですねぇ、みんな呼びましょうね」
「少尉、日本から来るのが大変そうだね」
「大丈夫ですよ、飛行機でひとっ飛びです」
「ああ、そうか、船で来る必要もないんだからね・・・。」
「でも・・・・勝てますかね、この戦争。」
「・・・がんばれば勝てるさ、がんばれば。」
無理だってことは分かってる、でも。
「そうですね、きっと勝てますよね。」
虫の声があたりを包んでいる、でも静かだ。
不思議と静かだ。
「・・・お休み、明日もがんばろう。」
「がんばりましょう・・・。」
・・・無理だってことは分かってるけど、そうでもしないと、明日から、これから
どうすればいいなんて分からない、とりあえず今は、この幸せをゆっくりと感じていよう。
僕はゆっくりとタイガーちゃんを抱き寄せた。
820 :
480:2005/12/09(金) 01:27:28 ID:SRRjSZ3Y
1944年8月7日
午前中は昨日に続いて何もなかった、だけど昨日と極端に違うのは周囲にいる連合軍の部隊が
引き潮のようにどこにもいなくなってしまったと言うこと。
つまり、始まるのだ「ナチス狩り」が。
12時丁度、突如轟音とともに麓にあった小屋とその周辺が消し飛んだ。
「艦砲だ!」
誰かが叫んだ。
「これから来るぞ!すぐ動けるように火を入れておけ!」
ヴィットマン中隊長が叫ぶ。
「戦車長!火を入れます!」
「タイガーちゃん!」
「はいっ!」
二人とも戦車の中へと潜っていた。
「第101SS重戦車大隊、後退を開始しろ、ヴィットマン中隊は後衛に着く!」
ヴァルトミューラーの一声ですべてが動き始めた。
そのころ、後退を開始するヒトラーユーゲント師団の歩兵たちの前に、一人の男が立ちはだかった
「停まれ戦友!」
にわかにざわつく周囲、歩兵たちは口々にその名を口にする。
『マイヤーだ、パンツァーマイヤーだ!』
「ワーゲンを一台出せ、ヴァルトミューラーの所へ頼む!お前らは早く撤退しろ!」
そういうとマイヤーは彼らの前から疾風の如く去ってしまった。
それから少し経って。
「結局、セーヌ川の向こうからは何も来やしませんね。」
野球帽によく似たフレックカモフラージュの八角帽をかぶった男とマイヤーが話し込んでいる。
戦車殺し、ミヒャエル・ヴィットマンだ。
「ああ、ボヘミアの伍長殿は内政が忙しいらしいな。」
くわえたばこパタパタ振るわせて両手の地図を見比べるマイヤー
正直なところどれだけベルリンへの到着を早めて効果的にベルリンを防衛するかに彼の主眼は移っている。
「そうですね、全く、前線の兵隊の健康も気遣ってほしいですな。」
「さて、そうこうしているうちにさっきはあそこに400mmが落っこちた、ここもじき危なくなるのは目に見えているな。」
「カーンもだめ、ファーレーズもだめ、次はどこでしょうね?」
「さあな、少なくとも俺たちの背後であることは確かだよ。」
「ハハハ・・・。」
「よし、ヴァルトミューラー。」
「うん?」
フリッツヘルメットをかぶった男が駆け寄ってきた、ヴァルトミューラーだ。
「あそこに下手くそな偽装で隠れてるM4がたくさんいるだろう。」
「ああ。」
「敵のねらいは我々と後方を絶つことだ、ファーレーズを取られればもうこれでおしまいだ
最後の機甲部隊もなんとしてもオルヌ河を超えなきゃならん」
「うん。」
「こちら側は今別の部隊がアヴランシュを総攻撃している、併せてただいまからそこにいる追撃部隊の相当を行う、貴官はこの隙に渡河し、一気に北を目指せ」
ひどく暑い、マイヤーは汗を拭った、今日はひどい一日になりそうだ。
何台の戦車が失われ、何人の人が死ぬのだろうか?
「ベルリンにイワンが迫ってる、一人でも多く兵卒をベルリンに送り届けるんだ。」
「分かった、攻撃はいつからだ、同調して遅滞行動を取りながら本格的な撤退を開始する、露払いはもう出してあるから、ヴァルトミューラー戦隊は歩兵によってヴィットマン中隊と後衛を担当する。」
「・・・12時30分を持って攻撃を開始しよう、いいな?」
821 :
480:2005/12/09(金) 01:27:48 ID:SRRjSZ3Y
「いえ、もうすぐに攻撃を開始しましょう、敵の観測機がさっきからここを往復してます。」
ヴィットマンが頭上を指さした、武装を持っていないプロペラ機がふらふらと飛行を続けている。
「・・・、危ないな。」
「攻撃を開始します師団長。」
「分かった、思う存分暴れてこい、でも絶対生きて帰れよ。」
ヴィットマンは戦車に飛び乗り、軽く敬礼を送った。
「分かってますよ、たっぷり時間稼ぎをしてきます。」
「がんばれ。」
「はい。」
「いよいよだね。」
「・・・はい。」
「怖い?」
「・・・怖いです。」
「大丈夫さ、ヴィットマン大尉と一緒だぜ。」
「そ・・そだよ、ね?」
腰をかがめてタイガーと握手をする、にっこりと笑った顔が印象的だった。
「しっかりがんばろう、オロフ、タイガー、ノジマ、あと今日はよろしく頼むぞ、ハインリッヒ。」
戦車長が席に座り、我らが125号車は完全になった、役者は皆そろったということだ。
「Jawall!Hell commander!」
「よろしい、命令を待つぞ、撤甲弾を装填しておけ。」
『007より全車へ、戦闘用意』
『002準備よし』
『121戦闘準備完了』
『021用意よし』
『125号車用意完了』
いよいよだ、戦争がまた始まる、ハインリッヒは右裾が捕まれるのを感じ、足元を見た。
タイガーが裾をつかんでいる。
「怖くないよ。」
「・・・大丈夫です。」
「安心しな、僕が絶対敵を近づけない。」
『ヤーボに食われる前に森の中へ入れ、Panzer Vor!!』
『Panzer Vor!!』
『Panzer Vor!!』
口々に叫ぶと足下の操縦手が思い切りアクセルをふかした、戦車は森にとけ込む、これからが正念場だ。
822 :
480:2005/12/09(金) 01:28:19 ID:SRRjSZ3Y
『121戦闘不能、腹帯損傷、戦車長戦死、脱出します!』
「ハインリッヒ!121を食った奴らだ!3時方向、森に照準しろ!動いたぞ!」
「見つけた!」
「距離800!捉えたら許可なしで撃って良いぞ!敵の試作戦車だ!90mmを積んでやがるぞ!」
三角の目盛りの真ん中に憎たらしいパーシング戦車のシルエットを捉えた。
ペダルを踏む
「くたばれアミー!」
爆音が耳を支配して、スコープの中でパーシングがバラバラになった、2.3機周りにいたT26がわらわらと森の中へ逃げてゆく、チョロいもんだ。
しかしパーシングがこれだけいると言うことは、M4を相手にするよりも多少なり負担が多いと言うことだ。
現に当たり所の悪かった121号車は戦線を離脱した、これでたった残存兵力はたった三機。
『よくやった125号車、あまり深追いはするな、俺たちはここの山から後ろに敵を通さなければいい。』
ヴィットマン大尉の激励がヘッドホンからがんがんと流れる、右の足下にいるタイガーがいそいそと遠ざかってゆく大隊との連携を取るべく地図にメモを取っている。
これだ、これこそが戦争だ、鉄の矢による蹂躙、スコープの先では脱出してきたアメリカ兵が足のなくなった戦友を引きずり出している。
「くたばれ、121の弔い合戦だ。」
少し左側のペダルを踏む、同軸機銃が炎を吐き
アメリカ兵はバラバラになってどっちがどっちを運んでいたかよく分からなくなった。
それから幾度となくM4とM24の大群が押し寄せ。
艦砲射撃できのうあれほどのどかだったこの丘はでこぼこの穴だらけになっていた。
『こちらは101大隊本部、まもなく最後尾がオルヌ河渡河を完了する。』
天使の歌声がヘッドホンから舞い降りた、始末した戦車は13台、驚異的な記録だ、昨日の包囲突破の時より撃破数が多いんだから、異常だ、このままでは数で押しつぶされる、そんなときにこの報告だ、みんな胸をなで下ろした・・・。
すでにヴィットマン機とこの125をのぞいたほかの機はみな撃破され
戦車兵たちは塹壕に入って戦っていた、丁度潮時かと思っていた頃だ。
そのとき、
『カルル!後ろだ!後ろに回り込みやがった!』
小さな爆音がした、まてよ、今のはヴィットマン大尉の・・・。
「ヴァルトミューラーの歩兵たちを先に撤退させよう」
『ありがたい、我が隊の撤退がすみ次第そちらも。』
「了解した、速やかに撤退してくれ、心臓に悪い、ははは。」
「みんな、天国だ、ヴァルトミューラー戦隊の撤退を持って我々も撤退するぞ、最後まで警戒を怠るなよ。」
・・・ん?
さっきまでマークしていたはずのM43機がどこかに消えている。
まずい、直感的にペリスコープの後ろ側を覗いた。
短い砲身3個がこちらを向いている。
・・・ああ!なんてこった!
「カルル!後ろだ!後ろに回り込みやがった!」
「あああああああっ!」
823 :
480:2005/12/09(金) 01:29:35 ID:SRRjSZ3Y
1944年8月7日12時47分
『戦車殺し』の異名を持つ男、ミヒャエル・ヴィットマンSS大尉は戦場の露と散った。
「ヴァルトミューラー・・・007がやられた。」
戦車長も信じられない様子で、コマンダーズはっとがずり下がっている。
『・・・なんてことだ。あの戦車殺しが・・・。』
「後衛は我々が担当する、速やかに撤退を。」
『了解した、敵はM4三台だ、やばくなったらすぐに逃げろよ、随伴歩兵をやろうか?』
「大丈夫だ、はやく撤退してくれ。」
戦車長とヴァルトミューラーが最終調整を行っている。
僕はというと呆然としていた、あの戦車殺しが死んでしまった、あの、ミヒャエル・ヴィットマンが。
僕らの目の前で。
「ハインリッヒ!奴らだ!見つけたぞ!」
突然、キューポラから頭を出していた戦車長が車内無線を介さないで叫んだ
「砲塔9時、目標M4、2機、一機はファイアフライ、あの糞野郎のケツの穴に88oをぶち込んでやれ!生きて帰すな!」
「オロフ!前進!ここじゃ当たらない!」
オロフの肩を足でこづく
「合点承知だ畜生め!逃がすなよ!」
「ハインリッヒ!警報!随伴歩兵!ゲヴェールグレナートもってやがる!機銃でなぎ払え!」
戦車の背からわらわらとにくったらしい歩兵が降りてきた、MGをやるのは通信手だ
「ヴィットマン中隊長の敵だ!これでも食らえっ!」
タイガーちゃんの目が紫色になっている、鬱血してそう見えるのだ。
そういえば昨日彼女はカルル軍曹と中隊長ととても会話が弾んでいたな・・・。
「待たせたな!装填完了だ!着発!」
隣の中尉が叫んだ、いける、これで大尉の敵討ちが・・・。
ガンッ!
「うわぁっ!」
「がっ!」
「こちら125、被弾、損傷程度箇所ともに不明!」
「報告なんて後だ、Fёuer!」
砲弾は綺麗にファイアフライをまっぷたつに切り裂いた、戦車長とおぼしきイギリス兵の胴体が宙を舞っている、様をみやがれ。
「次弾装填撤甲!連続射撃!」
「やばい!腹帯が切れてる!」
「次の弾を発射したら脱出だ!タイガー!歩兵に援護を頼め、もう持たない!」
「了解!」
「Fёuer!」
M4の砲塔はそのまま円盤のように基部と分離して向こう側へ飛んでいった、スコープの先では頭のなくなった兵隊と腕を失った兵隊が踊るようにして同軸機銃の弾に踊っている。
「いいぞ!脱出だ!」
824 :
480:2005/12/09(金) 01:29:56 ID:SRRjSZ3Y
キューポラを開け、戦車長が脱出を命じた。
「待ってください戦車長!まだ一台残ってます!」
「無理だ、パンツァーファウストの到着を待て!」
「了解!」
くそったれ、どうしようもない。
「脱出!」
「ハインリヒ!装填するぞ!」
ノジマ少尉だ、まずい、M4の砲塔がこっち向いた!
「少尉だめだ!逃げろ!」
「うわああああっ!」
バシン、と音がして右正面の壁がへこんだ、少尉がしこたま頭をぶつける
「糞、脱出だ、でよう」
「いいから!早く、ここでやらなきゃみんな死んじまう!少尉は脱出するんだ!」
「糞っ」
少尉がエスケープハッチから外へ出る、もう装填する暇はなさそうだ、出よう・・・あれ?
「タイガー!何でこんな所にいるんだ!」
「照準して!みんなが!みんながやられちゃう!」
目にもとまらぬ早さで砲弾を閉鎖機の中に叩き込むタイガーちゃん、閉鎖機左のボタンを押す
「装填完了!」
『馬鹿野郎何やってんだ、出てこいハインリッヒ!タイガー!やられちまうぞ!』
「ファイア!」
タイガーちゃんは叫んだ、目にいっぱい涙を溜めて・・・。
すぐにものすごい音がして、視界が暗転した・・・。
825 :
480:2005/12/09(金) 01:33:39 ID:SRRjSZ3Y
痛い。
・・・うぅ。
・・・糞、腹が。
腹に大きな金属片が食い込んでいる・・・、肝臓か、・・・死にたくない。
タイガーちゃんは大丈夫?
・・・あの子さえ大丈夫なら・・・。
「ハインリッヒ・・軍曹。」
「けがはないか?」
タイガーちゃんが閉塞機からゆっくりと顔を上げた、胸からたくさん血が出ている。
なにより、閉鎖機に添えてた、左手がない。
こっちももうろうとしてきた
「軍曹!ぐんげほっごぼっ・・・。」
たくさん血を僕のブラックユニフォームに吐いて、よろよろと僕に歩み寄ると、僕の胸にもたれかかる
「うぁああああっ!」
激痛がはしった、タイガーちゃんの血と僕の血が混ざる。
あたたかい。
「軍・・・そげほっ・・・ごほっ・・・。」
「・・・よびすて、て、言った・・・だろ?」
『ハインリヒ!ハインリヒ応答しろ馬鹿野郎ォ!糞ぉおおっ!』
オロフの泣き声がヘッドホン越しに聞こえる、ちくしょう、めがかすむんだ。
・・・たいがー、ちゃん。
「タイガーちゃん、どこ?」
「こ・・こで、す。」
急に視界がクリアになった、はっきりこの子の顔が見える。
この子のかおにだけ、焦てんが、あってるみたい・・。
「・・・ごめん、かえれないね。」
「いいんです・・・ごぼ・・・。」
綺麗な金色だったタイガーちゃんのポニーテール、血で真っ赤だ。
かわいい黒いリボンも、血で真っ赤・・・。
「い・・・つか・・・、いってげほっ・・ましたね、はいん・・・り・・ひ」
「・・・?」
僕は背もたれに体を預けた、もうなんだかよく分からなくなってきたよ。
「しあわせ・・・なんだごぼ・・げほっ・・・て・・・ひゅぅ・・・けほ・・・けほっ」
「うん。」
言った、ね、言ったよ。
「私・・・しあわせ、がぁっ・・だいすき・・ひととけぼっ・・・と、いっしょ・・・てんごく・・・。」
「そう、そうだね・・・そうだよね・・・僕もさ、幸せだよ。」
「けほ・・・ええ。」
タイガーちゃんとゆっくり、お互いに顔を近づける
血だらけだけど、とても澄んだ蒼い瞳だけは変わらない
タイガーちゃんが僕の唇を口に含んだ、鉄の香りが口じゅうに広がる。
必死に吐血を押さえているのがわかった、僕は離さなかった、血が、口の中に流れ込んでくる。
辛い
・・・こんなことだったら、もっと元気な頃にいちゃついておくんだった。
この期に及んでまだこんなことを考えている自分に、痛みを忘れて苦笑してしまった。
タイガーちゃんはそろそろ限界みたいだ、しっかりと抱いてやる、ちぎれた左手の部分にはふれないように
痛いだろうな・・・。
「今度はさ、戦争のない、天国みたいに平和な所で一緒に、仲良く、暮らそう? ね?」
「・・・はぃ。」
「俺もなんだかよく分からなくなって来ちゃった」
「・・・いっしょ・・です・・ね、いっしょ。」
「ああ、いっしょだ、一緒に天国に行くんだよ・・・こんなに幸せなことはない・・・。」
ああ、真っ白だ、光が降ってくる、戦車の中にも光が・・・。
826 :
480:2005/12/09(金) 01:34:42 ID:SRRjSZ3Y
まぶしいなぁ。
なんだよ?
・・・天国に来たのか?
ん?
小鳥がさえずっている、天国にも小鳥はいるのか・・・。
「・しあ・・・・・しあきさん・・・としあきさん、起きてください、あさですよ。」
「・・・タイガーちゃん?タイガーちゃん!!」
僕はがばっと飛び起きて、しこたまタイガーちゃんと頭をぶつけた。
「きゃ!・・いたぁっ!!」
思いっきり抱きしめて、タイガーちゃんにほおずりする
「タイガーちゃん!タイガーちゃんだね!?そうだよね?あはははっ!タイガーちゃん!!幸せだぁ、すごい幸せだよ、ははははっ!」
「としあきさんどうしたんですか朝から、きゃ・・・。」
僕はタイガーちゃんと布団に倒れ込むと、思い切り抱きしめた
「・・・としあきさん、いたた、いたいですよぉ。」
まだ起き抜けでポニーテールにしていないタイガーちゃんの髪が太陽の光をうけてきらきらと輝く。
おでこにキスをすると、タイガーちゃんも僕の首筋にキスの嵐を降らせた。
そしてふたりして、ゆっくり目を閉じた。
『戦争のない、天国みたいに平和なところで、一緒に仲良く、暮らそう。』
僕らが次に目を覚ますと、時計の針は12時を回っていた。
「・・・・うわああああああっ!じごくだぁあっ!遅刻だぁ!」
「にゅ〜、もう今日はずっと寝てましょうよぉ、にゃん!」
どうやら、僕らの天国は時間制で営業しているみたいです。
ラ=カンプ
ドイツ軍人墓地
第24区画774番碑
Heilig・Grunes Blatt
Tiger・Grunes Blatt
1944年8月7日 ここに眠る
827 :
480:2005/12/09(金) 01:36:33 ID:SRRjSZ3Y
クサ過ぎ長すぎ改行めちゃくちゃ
軍事考査が浅いし、仕事中じゃたかがしれてるな、ただ話が長いだけだ。
今度はなんかエロいことさせますから、帰郷編をお待ちください。
ちなみに、漏れはネオナチでも何でもありませんので。
いやもう、感涙、燃え萌えです。
何読ますニダ
ねっころがってよんでたら枕がびしょぬれニダ
しゃz(略
あれ…頬が濡れてると思ったら、俺泣いてるじゃないか…
とてつもなく下手なんだけど、挿し絵投下していい?
>>480
下手かどうかは見る方が決めるので、まずは投下するがよろしい。
追伸
ドイツ語の綴りが激しく間違っています、脱力必至です。
835 :
>>480:2005/12/10(土) 19:13:27 ID:nE64xbk7
有り難い、本当にありがたい、SS書いてて初めてだよ、挿し絵なんて描いてもらったの。
二人ともいい顔してるなぁ。
>>480氏
な、なんちゅうSSを、なんちゅうSSを読ましてもろたんや・・・・
あと
>>836もう流れてるorz
なんというか、絶対に「鋼鉄のOO達」のT塚なんかより上だよ
>>480たん。
挿絵の
>>833氏も、タッグ組んで出したら「萌えよ戦車学校」よりマストな戦車萌えアイテムになりそう。
839 :
733:2005/12/12(月) 03:49:34 ID:PxXA/cFu
>>480 大昔のボードゲーム好きで、
このカーン包囲戦も随分とやった記憶がありまする。
ミリタリ漫画の類は全く読まないのですが、これは
最後まで読まされました。フランスの田舎のボカージュの中の街道を
疾走するティーゲルとその上に載った射撃手、無線手が目に見えるような気がします。
投下作品中、屈指の出来ではないでしょうか。長くはないと思いまする。
前半部分が無ければ後半が意味を成さないのではと。
また、ベタでなければ語れない話もある筈。少なくとも733でお願いの内容は満喫いたしますた。
お暇があれば、剣道場でとしあき達を切り倒しながら待つ日々を送っている嫁さんと
そこへ辿り着く野島少尉のエピソードを、どぞよろしく。
840 :
480:2005/12/12(月) 17:22:21 ID:gFPsdlQe
841 :
480:
「ただいまー」
買い出しに行ってきた、ついでに商店街のくじ引きをやってきた
「タイガーちゃん」
肩にあのねずみを乗せて、手元で何かちまちま作業をしている
「ひゃー!」
白いふんわりした編み物が、タイガーちゃんの足のうえにのびている
編み物か、寒くなってきたよね。
「としあきさん、何ですかこれ?」
右手に握っていた紙切れを指差して、かなり早口にタイガーちゃんは言った。
「あぁ、お食事券だよ。」
3枚のカラフルな食事券、3万円分、うまいもの食べよう!
…さて。
「タイガーちゃんは何が食べたい?」
卓袱台にはお茶、タイガーちゃんはコーヒー、タイガーちゃんが自分で挽いているんだ。
「私はアイスクリームのてんぷらを食べてみたいです」
クリスマスイブに学校の知り合いがバイトしてるホテルのディナーコースがとれた
そこで何を食べるかで盛り上がっているのだ
「それなら僕が作れるよ」
タイガーちゃんはタートルネックのくびをのばした筒の中で叫んだ
「ほんとですか!?」
そんなに食べたいんだ、じゃあ今晩作ろ、かんたんだよねあんなの、たぶん。
「じゃあ今日は海老が入ったしてんぷらにするか」
「わーい!」
ゴゴゴゴゴゴ…
ピカッ!
ドガーン!
「タイガーちゃん!脱出だ!火ぃ消して!」
「わーっ!」
…アイスクリームを鍋に入れて少しすると、突然爆発してしまった、何が入ってたんだろうあのアイスクリーム…。
「出来ないじゃないですか!!11!」
「シフト押し忘れてるよ。」
「いたたた…。」
「怪我した!?」
「棚に頭ぶつけちゃいました、いたた…」
タイガーちゃんが頭をさすってる、悪いことしちゃった…。
「…、ごめんね。」
「だ!大丈夫ですよ、大げさでごめんなさい…」
タイガーちゃんが逆にあやまった、優しいんだ
この献身的な優しさがなんとなく僕がタイガーちゃんに手を付けられなくさせる。
「としあきさんは怪我はありませんか?すごい音でしたねぇ。」
そういわれて、気のせいか初めておでこがちくりと痛んだ、飛び跳ねた油で火傷しちゃったな。
「おでこ火傷しちゃったよ、ははは…う」
ぺろ。
「はい、治りました。」
「あ…、ありがとう。」
「わたしも…、唇がいたいなぁ。」
さっきの天使みたいな心配そうな眼差しは一転、口元に人差し指を添えて
胸を強調するようにきゅっと前かがみになっている
「よし、再挑戦だ」
悪いこと言うおくちに、近くにあったオロナインの小瓶をはめておいた。
そのポーズは胸元の開いた服じゃなきゃ効果無いよ、でもすんごく柔らかそうだったけどね。