【リリス】バスタードSS【お嫁さん】

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874名無しさん@ピンキー
一方ベルゼバブは部屋を退出後、しばらく気配を消したまま中の様子を伺っていたが
頃合良しとばかりにパンデモニウム最上階にある【王の間】に足を向けた。
ふさぎこんでいない、といえば嘘になるが、それは数回の苦笑で消え去るほどの出来事でしかない。
あやうくも至上命令と自律を失いかけていた。
「花嫁の資格」を失うことよりも、皇帝の花嫁の色香に騙されたという
聞こえの悪い烙印を消す方を優先してくれたのだ。
だから任を一旦は解かれたのだ。そう思いたい。

その証拠にあの『掃除屋』には何も下達がない。
あんな下品で粗野で知性のかけらもないような化け物でも許されている。
堕天のころよりの友である自分への気遣いなのだ。
『ゆるせ友よ。しかしあのようなことはあのような者にまかせておけばよい。
 そうではないか。なぁ、友よ』
そういうことなのだ。花嫁よりも友を優先してくれたのだ。そうに違いない。
しかし、また同じ命令を下されれば、その時は冷徹な意志を持って命令を遂行する自信もある。
そしてそれをささやかながら望む自分もいる。
もう一度、あの色香に包まれたい。
ああ駄目だ。また失いそうになる。
もう一度、、、もう一度、、、。

(ん?)
異様な魔力の存在。
思考は中断され新たな情報を解読する参謀としての回路が復活する。
(ベリアル?アスモデウス?、、、?いや、、、)
ベルゼバブとともに『7大悪魔王』と並び称せられる魔界での君臨者たち。
ベルゼバブ、ベリアル、アスモデウス、ペイモン、アシュタロス、ビエル、ビレト。
彼らに匹敵するほどの魔力が瞬時にこの魔王の居城に広がっていた。
すぐさまパンデモニウム中枢にある管理システム『マザー』より、
詳細なデータがベルゼバブの脳髄に送られてくる。

ピ、ピ、ピ、ピ、ピピ、ピ、ピ

ピピピピピピピピピピピピピピピ

発信源は【漆黒の間】。
さきほどまで自分がいた場所だ。
いまは『掃除中』のはずだ。
その魔力は、

ガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガ

巨大なパワーは自分を除く悪魔王たちを凌駕し、まだ膨れ上がっている。
信じられない。己と『あの御方』以外にこれほどまでの力が存在するとは。
それはあってはならない事態であり、現実だとすれば急遽その存在を消さなければならない。
なんとしても。どんな手を使っても。

(何者だ!)

狩猟犬のように研ぎ澄まされた顔つきは、その犬歯の残影を残したまま中空に消え去った。