【リリス】バスタードSS【お嫁さん】

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708名無しさん@ピンキー
洗いざらしのような少年が立っている。
もう20歳になろうかというのに同い年である自分より背の低い彼。
その彼がとびこんできてペットのようにふさふさとじゃれてくる。
その舌たらずな声と短い手足を抱き、そしていつの間にか眠っていた。
遠くで神官である父の声がしたかと思うと雷鳴のような轟音が響き
そして目の前には崩れ落ちた壁と血まみれの父と銀髪の男が立っていた。
こちらに手を伸ばし不敵な笑みを浮かべ、まるで戦利品のように自分をながめていた。
震えがとまらなかった。そして抱き合っていた少年の姿が消えていたことにもきづかなかった。
髪をつかまれ立ち上がらせられる。舌なめずりをしつつ見下ろされた。
やがて男の口が開いた。

そして目が覚めた。
ぐっしょりと寝汗をかきしばらく動けなかった。
息があらい。のどがカラカラだ。
向きを変え少年を確かめる。
よかった。やはり夢だった。
すこやかに寝息をたてる少年の顔をなで、微笑んだ。
髪をかきあげてあげると気持ちよさそうな顔をする。
しばらくそうしていると、何かの気配を感じた。

一度だけ父親に嘘をついたことがある。
それがバレた時、父の笑顔がゆっくりと表情のない顔に変わっていった。
その時の恐怖に似た感覚に今おそわれていた。
あたりの暗闇と湿気がゆっくりと帳(とばり)をおろすように降りていく。
うしろに何かいる。
首のあたりが神経痛のようにビキビキときしむ。
少年の顔から肩へと手を動かす。
おおいかぶさるか突き飛ばすか。
なんにせよもしものためにはこの子を守らなくてはならない。
それが自分に課された使命だと出会ったときから決めている。

気配は動きをみせない。
ならばと、左手で枕の下の護身用ナイフを確かめ、一気に振り向く。
「・・・・・・」
一瞬何か分からなかった。そしてすぐ隣で寝ている少年を確かめた。
さらに困惑する。
また振り向く。
「・・・・・・」
そこには我が少年が立っていた。
隣で寝息を立てている彼と寸分たがわぬ形で。
しばらくするとその少年も愛くるしい笑顔を見せ自分に寄り添ってきた。
なにがなんだかわからないとはこのことであろう。

「る、るーし、、、」
事態は飲み込めないが、名前を呼ぶしか手立てはない。
少年は少女の困惑を楽しむかのようにまた笑い、その口を手でふさいだ。
まだわからないの?と言ったふうにおかしそうに笑う。
笑顔のままの少年はさらに少女に近づき
やがて口が開いた。

「おまえは俺のものなんだよ」

少年は少年のままそう言って耐え切れないといった感じで破裂するほど笑った。
少女は口をふさがれたままその叫びのような声を聞いていた。
水面に浮かぶ油の行方を追うように頭が朦朧としていき、ぼろぼろと涙がこぼれる。
歯がガチガチと鳴りはじめ、想像のつかない恐怖になすすべがなかった。

そして光は消えた。