>>128 からの続きです。大分詰めが甘すぎかも……。あまり萌えも燃えもない悪寒。
でも勇気を出して投下します。
>>137-139 すいません……太字にしてしまったのは自分のせいです。ごめんなさい。
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―― ……?――
「……ジャスミン?」
一瞬、”耳鳴り”がしたものの、ほんの一瞬で消えた。気のせいか……。そう思いながら宿舎へと戻る。
(ギョクさん、絶対待ってるだろうな)
「ただいま帰りました……」
『……どこへ行ってたんだ?』
うわ、仁王立ちかよ。入り口には、予想通りギョクさんが立っていた。
「すいません……シュークリーム買いに行ってました」
『本当か?』
シュークリームを買いに行こうとしていたのは本当だ。でも、手ぶらで帰ってきたから
そう聞くのは無理はないだろうな。
どうする?ジャスミンのことを言うべきか……?言ったらあいつも処分もしくは始末書。
でも、俺……さっき覚悟を決めたばっかじゃねーか。始末書だって、懲罰だって何でも受けてやるって。
「……ジャスミンと、会ってました」
「――何だと?あれほど地球署とは接触するなと言っただろう!」
やっぱり怒鳴られた。
「すいません!」
頭を深く下げて謝るも、それでもギョクさんは許してくれそうにない。当たり前だよな、
あんなに俺に念入りに釘差してこれだったんだから。
「どうして会ったんだ?」
「それは……たまたま事件に遭遇して……ジャスミンが殺されそうになったから」
「助けたって訳か」
「そうです」
「それでも接触の内に入るんだぞ?何かあったら……」
プルルルルルルルル……
話の途中でギョクさんのSPライセンスの通信音が鳴った。
「はい……え?……わかりました。今からそちらに……」
そう言って、通信を切って深刻そうな顔で俺の方を見ながら、
「事情が変わった。……今からデカベースへ行ってくる」
「……どうしたんすか?」
「ジャスミンが行方不明だそうだ」
――頭が真っ白になるっていうのはこういうことを言うのか。
「嘘だろ……」
さっき会ったばっかじゃないか。どうしていきなり……。
「嘘言ってもしょうがないだろ?もう2時間になるというのにデカベースに戻ってこないらしい」
さっき聞こえた”耳鳴り”は気のせいじゃなかったのか。
「ちょっとデカベースへ行ってくる」
そう言って俺に背を向けて宿舎を出ようとしたギョクさんに。
「――俺も行きます!」
そう叫んだけど、いきなり胸倉を掴まれて。
「お前が行ってどうするんだ?……お前はもう地球署の刑事じゃない。少しは立場を考えろ!」
「……」
何も反論できなかった。そのままぱっと体を離されて。
「お前は当分”謹慎”だ。部屋から一歩も出るな……わかったな」
そのままギョクさんは宿舎から出て行くのを俺はただ呆然と見つめるだけしかできなかった。
そしてそれからずっと”耳鳴り”は聞こえないまま。
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つんと鼻に来る”睡眠薬”の匂いでふっと目が覚める。辺りを見渡すと、真っ暗。
ああ、私、あれから何処かに連れてこられたんだ……。椅子に座らされた状態で紐で手と体を固定されて、動けない。
何も……されてないよね。よかった……。そう安心していると、自分がいる部屋の外から話し声が聞こえてくる。
『……』
じっと耳をすませて話を聞いてみる。途切れ途切れに聞こえてくる話し声。
『さっき……頂いてきたわ』
『それなら……いけるか?』
女性の声と男性の声が交互に続くと暫く沈黙が続き、また再び話し声が聞こえて来た。
『……これでどう?』
『……さすがだな……覚悟……か?』
『たとえ……が散ろうと構い……から』
突然上からドアが開いた。そこから眩しい光が私の目に入ってくる。
『すまないな、お嬢さん』
一見すると普通の人間の男性。でも、どことなく瞳は”異形”を感じさせる。
『――あんたたち、”レッドレボリューション”ね?』
「そうだが」
『ここが、本アジトって訳?』
「さあ?それはどうかな?」
やっぱり本当の事を話すわけがないか……。
「――私をどうする気?」
その男は表情を変えずに私に向かって。
『別にどうもしない。ただ大人しく其処にいてくれたらいい。あと1日限りの命だけどね』
「……宇宙警察を舐めるんじゃないよ」
『口の減らないお嬢さんだな……ちょっと大人しくしてもらおうか……』
そう言って、持っていた布を私の口に当てる。
「うっ――」
ガムテープらしきもので口を塞がれてしまった。人も呼べないじゃない……。
『……1つ教えておいてやるよ。ここはエスパー封じの作用が働いているから何をしても無駄だからね』
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【6・夜明けのデカベース】
「……すいません、うちの馬鹿のせいで」
ジャスミンが行方不明になった直後にデカベースのマシンルームにいた俺をギョクが訪ねてきてからやってきてからもうこれで3回目だ。何もそこまで謝らなくても。
「しょうがない、こちらにも不手際があったんだ。お前たちだけのせいじゃないだろう?」
多分これじゃ納得しないだろうなとはわかっていたが、それでも同じ言葉で返した。
「奴ら、地球にアジトがあるのはわかってるんです。多分ジャスミンはそこにいるはずです。場所さえ掴めたら絶対に”うち”でジャスミンを救出しますから」
「……」
俺はすぐに返事が出来なかった。お前の気持ちも立場もわかる。でも……。
「――ギョクちゃん」
「スワンさん!……お久しぶりです!」
隣の部屋からスワンが声をかけてきた。
「わざわざこんな朝早くから来てもらってごめんね?」
「そんな!うちの馬鹿がポカやってしまったからジャスミンが……必ず”うち”で救出しますから」
「……特凶は赤くても白くてもあんまりこういうところは変わらないみたいね」
一瞬、難しい表情をしながらスワンがギョクに話しかける。お前も俺と考えている事は一緒か。
「どういうことですか?」
意味があまりよくわからないらしく、ギョクはスワンにこう尋ねた。
「俺たちで何とかしたい……でしょ?ね、ドゥギー」
「……アジトの検挙はファイヤースクワッドに一任されてるんです。地球署には任せられません」
俺が言いたい事をスワンが代弁してくれたが、それでもやっぱりギョクからの返事は変わらない、無理か……。
「やっぱりお前は相変わらずだな。こうと決めたら頑として動かない……」
「すいません」
「謝らなくてもいいのよ。それよりも、ちょっと……」
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【7・午前9時・突入6時間前】
”謹慎”しろと言われてずっとベッドでごろんとしていたけど……眠れる訳ねーよ……。
ベッドから立って部屋をうろちょろしてたけど……落ち着かない。事件の詳細も、何もわからない。
ジャスミンがどうなったかもわからない。
あいつからの唯一のサイン……”耳鳴り”も聴こえない。
でもそれでも俺はずっとここにいなければならない。何もできない。自分が招いた結果だからしょうがない……でも。
「どうすりゃいいんだよ!」
叫んでも何もならないってわかってるけど、叫ばずにはいられなかった。
そんな時。ドアをノックする音が2回。誰だろう……。
「……はい」
客なんかいねーし、それどころじゃねーんだよ……そう思ってドアを開けると。
「先輩!」
「バン!」
「おまえら……」
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犯人からの連絡も来て、期限まで一方的に押し付けられた。
あと6時間。打ち合わせもしなきゃいけないのはわかってる。それでも俺たちはまだデカルームで話し合っていた。
ファイヤースクワッドか、地球署か。
ギョクの立場もわかるが……どうしても譲れない。
「これは地球署の管轄だ。俺たちに任せてくれないか?」
「そんな……」
それでもギョクは納得いかない顔をする。
「地球署の意地だ。必ず倒す」
ふっと”あの時”のことを思い出して思わずあいつらの言葉を少し借りてしまったじゃないか。
――ビスケスに次々と階級章を奪われて、倒れていったホージーたち。”地球署でケリをつける”と長官に宣言してた
俺もその中の1人に入ってしまい本部に任せようとしてた俺に向かって。
「地球署の意地です――必ず勝ちます」「以下同文」。
そう言って無茶をしたあの”2人”。
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……先輩も頑固だな。ずっとこれで俺たちはやってきたっていうのに。
”今の地球署は手こずるぞ”
ファイヤースクワッドを立ち上げる直前に長官から言われた言葉。長官、あなたの言ってた言葉の意味が今よーくわかりますよ
。
「でも、決まりですから……」
俺がそう言うと、ずっと黙っていた2人が次々に俺に向かって。
「ギョクさん、お願いします。俺たちに任せて下さい」
ホージー、お前まで……あんなに金バッチに拘ってたお前が。
「無茶は地球署の専売特許ですから、俺たちに駄目だと言っても無理ですよ、ギョクさん」
セン……。お前が言うとなんか怖いぞ。
「もう……ギョクちゃんも、ドゥギーもちょっと落ち着いたら?……長官に決めてもらえばいいじゃない」
じっと黙っていたスワンさんが口を開いた。
「スワンさん……」
「それなら納得行くでしょ?」
そう言ってスワンは通信ボタンを押しながら、長官に連絡を取った。
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お前、1年以上経ってもチビだなあと言ったら、ぷうとむくれたウメコ。
いつも磨いてるんですよと言ってピカピカの銀バッチを見せてくれたテツ。……お前ら、本当に相変わらずだな。
「……何でここの場所お前らわかったんだ?」
「スワンさんがギョクさんからここの場所を聞いて、俺たちに教えてくれたんです。
”ギョクちゃんは私には弱いのよ”って言ってましたから」
「まるでお前みたいだな」
「ナンセンス!どういう意味ですか?」
「お前だってスワンさんにメロメロだろ?」
「……」
「そんなこといいじゃない。ちょっといろいろあってあたしたち暇なの。だから……」
そう言ってウメコが事件の詳細を話し始めた。
「――やっぱり”レッドレボリューション”に誘拐されてたのか……」
「最初にポイント345で爆発音。それから妨害電波が入ってきてあの爆発は自分たちだ、
人質を取り返して欲しかったら今日の午後3時までにポイント444に来いって犯人側から……」
「そうしないと、ジャスミン殺すって……」
ウメコはそのまま俯いて黙ってしまった。そりゃお前だって心配だよな……。
「でも、スワットモードで何とかできるだろ?」
「スワットモード使えないんです」
「何でだよ?」
「”いろんな場所に爆弾を仕掛けてある。デカメタルを使ったら1つずつ爆発させるぞ”そう言ってきましたから」
「……バンたちが、助けに行くんでしょ?」
「そうだなー、多分ファイヤースクワ……」
そうだった……途中で俺は黙り込んでしまった。
「先輩?」
「わかんねえ……」
「何が?」
「俺たちが行くと、お前たちは見てるだけになるんだぜ?……そんなの嫌だろ?」
「でも、バンだってジャスミン助けたいんでしょ?」
「そりゃそうだけど……。地球署の意地だってあるじゃねーか。お前らだってジャスミン助けたいだろ?」
俺だってジャスミンを助けに行きたい。
でも、テツが最初に来たときも。リサさんがノーマルバッヂは要らないって言った時も。
ビスケスにみんなやられちまった時も。アブレラを倒した時も。全部地球署だけでやってきたんだ。
俺だって地球署にいたんだから地球署のプライドも分かる。
そう思うと、ファイヤースクワッドと地球署の間に挟まれてるみたいな感じがして。
「俺も地球署に入りたい……」
思わずボソッと呟いてしまった。
「先輩……」
「――今それでギョクさんとボスが揉めてるの。どっちが救出するかって……」
******************
【午前10時・突入5時間前】
『――地球署は私にも止められん。もし駄目だった時はギョクに任せる。それでいいな。クルーガー』
「わかりました……」
そのまま通信が途切れて隣を見るとギョクがため息をついている。悪いなギョク。こればっかりはお前にも譲れないんだ。
「ごめんね、ギョクちゃん」
「長官に言われたらどうしようもないですから……先輩、本当に大丈夫ですか?」
「ああ」
「ギョクさん、俺たちの戦いもう1度見て下さい」
「そうそう。地球署の意地って奴、直接見せてあげますから」
ホージーもセンも自信満々だ。久しぶりだからな。
「わかりました……あなたに一任します。俺たちは後方で待機する事にします」
「それでなギョク……もう1つだけ頼みがあるんだ」
「……1人貸してくれって言いたいんでしょ?」
「言わなくてもわかってたか」
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ウメコとテツが帰ってからも、”謹慎”はまだ続く。俺やっぱ何にもできないんだよな……。
そう思ってたら突然”赤い”SPライセンスの通信音が鳴り響いた。
「はい」
「俺だ」
あれから全く音沙汰がなかったギョクさん……。もしかして、どっちが担当するか決まったのか?
「何ですか?」
「さっきの罰……”謹慎”から”休暇”に変更だ。今日1日限りな」
「へ?”休暇”って……」
一瞬意味がわからなかったけど、もしかして……。
「……まだ、わからないのか?お前の好きなようにしろって言ってるんだ」
”好きなようにしろ”それでやっとわかった。
「ロジャー!今すぐデカベースに向かいます!」
俺って本当に贅沢者だぜ……どうせ明日からまたこき使われるんだろうな。
ま、いっか。たった1日だけの地球署合流に加えてジャスミン助けられるんなら構やしねーよ!
いっくらでもこれからこき使って下さい!ありがとうギョクさん。
そう思いながら俺は懐かしのデカベースへとすぐさま向かった。
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【7・午後1時・突入2時間前】
「透視システム、オン……」
そのままじっと見つめる事5分。どうもタワー自体に防御機能が働いてるのか
うっすらぼんやり霞んでいて、はっきりと見えない。
メガロポリスのど真ん中にいきなり建った建造物が1つ。あれ、なんか東京タワーみたいだなと奴が言った。
「どうだ?相棒、何か見えるか?」
「……漠然とだが、なんとなく……。椅子に座ってる人物は最上階……同じ部屋かどうかはわからんがあと2、3名か」
「それがジャスミンってことか」
「さっきあいつが捕まってる写真までわざわざ送りつけてきたぐらいだからな。あの写真からすると
屋上にいるのは間違いないだろう」
「下のほう、どうなってる?」
「5階くらいか……?普通の階段に各階1室くらい。人の影はちょっと不明……下のほうにはメカ人間が
うようよ……こんな感じでどうだ?」
そう言って俺はデカメタルを解除していつもの姿に戻った。
「……直前にもう一回確認したほうがいいな」
ため息をつきながら奴はその場に座り込んだまま、”タワー”をじっと見つめ続ける。
ポイント444にデカベースクローラーで到着した俺たちは、敵がいきなり建てたというか、地下にずっと
潜り込んでたらしきものが
そのまま地上に姿を現した”タワー”の偵察に入った。
もちろんその中にはジャスミンもいる。わざわざご丁寧に捕まっている写真まで届けてきてくれた。
ボスの嘆願でジャスミン救出は地球署に一任され、贅沢なことにギョクさんは奴のレンタルも許可してくれた。
ジャスミンには悪いが……こいつとまた一緒に戦えることを少し喜んでいる自分がいる。
「おい」
「何だよ相棒」
「お前、あれ以来ずっとこんな仕事ばかりしてきたのか?」
奴はちょっと息を吸ってから
「まーな……たまには聞き込みとか事情聴取とかやりたくなってさ……あ、でも昨日までちょっと捜査してたけどな?
相棒たちはどうだったんだよ」
「またいつもの地球署さ……お前が来る前のな」
「やっぱ、俺が地球にいると悪い奴を呼び寄せてしまうんだろうな……」
「そんなことない……悪い奴は何処にだっているもんだ。たまたまそれが大人しかっただけだ」
そう、大人しかった奴が暴れだす頃にお前はそれに引き寄せられるようにやって来るだけ。別にお前のせいじゃない。
「そういえば、美和ちゃんって結婚したんだろ?」
いきなり話を180℃変えてくる。相変わらず深刻な話は嫌いなんだな。
「ああ、お前が来なかったからすごく寂しがってた」
「そっか……行きたかったな、結婚式」
そしてまた黙り込んだ。
刑事としての才能は驚くほど天才的な分、それと引き換えに”流浪”の運命を背負ってるようで
俺はお前が気の毒でたまらない。そんなお前を好きになったジャスミンも大変だろうな。
******************
真っ暗な部屋の中。
何もできない。動けない。会話もあれ以来殆ど聞こえなくなってしまった。私……本当に今度こそ死んでしまうのかな。
つい昨日の夜も死んでしまうところだった。
そういえば……私はいつも死んでしまいそうになることが多かったっけ。でも、いつも誰かに助けられてきてここまで来れた。
だから、もう……死んでも……
嫌。
生きなきゃ……。死んだら二度とみんなと会えなくなる。……”彼”に会えなくなる。
「今度会える?」と聞いたら、「多分な」って答えた彼。あれが最後だなんて……そんなの絶対嫌。
お願いです、誰でもいいから私を助けて……。みんなに、彼に会わせて……。
=========================
【8・午後2時半・突入30分前】
『あと……30分ね。そろそろかしら?』
女が男にそう声をかけると、男は机の上においてあった通信機を手にとって。
『もうこっちに着いてるようだぞ?――おい!準備出来てるな?』
『こっちは大丈夫です』
『こっちも準備できてます』
『――頼むぞ。”逮捕”されることは”不名誉な事”だと思って心してかかれ』
そう言って再び通信機を机の上に置いた。
『……あなたも”覚悟”出来てるの?』
女がそう男に問いかけると。
『もうとっくに追い詰められてるんだ……追い詰められた状態で何が出来るかと言ったら、
”あれ”しかないだろう?そういうお前はどうなんだ?』
『あたし?”この姿”だったら1人くらい何とか出来るはずよ?見てなさいな。絶対奴ら油断するだろうから』
『今までずっと無傷らしいからな。せめて1人くらいは絶対に……。それぐらいしないとこっちの気が治まらない』
『潜んでいる奴らもこれでやる気出て、きっとあたしたちの代わりに動いてくれるはず……』
『もうあのお嬢さんは用済みだな。”奴”をおびき出す為だけに連れてきたようなものだから、何処かに”隠そう”』
『爆発は好きなくせに血を見るのが怖いから人を殺せないっていうのが変わってるわ……』
『私だって人ぐらい殺そうと思ったら殺せるさ……それと同時に私の命も終わるけどね』
ギィッと言うドアの音と共に2回目の光が暗い部屋に差し込む。
『――お嬢さん、そろそろ移動してもらうよ』
さっきの男が彼女はそう言って、彼女を縛っていた紐を緩める。
(どうする気?)
彼女はそう聞こうとしてもガムテープを貼られてるせいで口も聞けない。
『――おっと、ここからは見られると危ないから目隠しも……』
「っ……」
抵抗して呻く彼女を相手にせずそのまま目隠しをつけさせて男はどこかへと連れて行く。
彼女には何も見えない。ただひたすら”助け”を呼ぶだけ――
******************
なーんか、変なんだよねえ。
ホージーが変身したの絶対にバレてると思うのに爆発の報告は入ってこないし。
わざわざ写真まで送りつけてくるし、これといった要求もない。もっと長官の首持ってこーいとか言うと思ってたんだけど……。
これじゃ来て下さいって言ってるようなものじゃないの?
そう思っても、証拠はあの写真1枚とホージーが確認した透視システムからの映像のみ。
逆立ちしようかと迷っている最中に、
「なあ、センちゃん」
いつもは俺にあんまり話しかけてこないのに、突然バンに声をかけられた。
「どうしたの」
「あのさ……」
「……本当にいいの?」
「ああ、頼むぜセンちゃん」
そう肩を叩かれてそのままデカルームへと向かうバン。こそっと俺に耳打ちしてきた内容はみんなには内緒だと言う。
そりゃまあ、俺だってあやしいと思ってたけど、やっぱり”以心伝心”には敵わないか。
「っておーい、俺も行くんだけどー」
そのまま俺もバンの後をついていって、デカルームで最終打ち合わせが始まった。
「……ウメコ。長官から言われた命令、全部言ってみろ」
「えーっと、”人質は必ず救出しろ”、あとは……”犯人はデリートせずに生け捕りにしろ”?」
「そうだ。……よく覚えてたな」
ボスが感心するかのように顎に手をやる。ボス、ウメコだって刑事ですよ?
「さすがウメコさんですね!」
「だってあたしリーダーだもん」
「おい!お前らふざけてる場合じゃないぞ!」
「「はーい……」」
相変わらずホージーはウメコとテツの子守役だねえ……。
「ボス……なんで生け捕りにするんですかぁ?」
「あのなあ……”死人に口なし”って言うだろ?死んだら証拠が出てこないじゃないか」
「宇宙最高裁判所が完全公開で公正な裁判で処罰することになっているからねー」
「反体制派に見せしめて大人しくさせるってことですよね」
ウメコの素直な質問に俺たちは次々と突っ込んだけど、肝心のバンだけはじっと黙って話を聞いているだけだった。
「でも……うちの拘置所って殆どいっぱいじゃないですか?あのタワーに犯人が何人いるのかわかんないですけど
拘置所、溢れてしまいそうになりません?」
「大丈夫。こんなこともあろうかと……」
テツの質問にすぐに答えたのは、いつもの”あの人”。じゃらじゃらと”それ”を机の上に並べたものの
テツは不思議そうな顔をして、
「こんなこともあろうかとって……スワンさん、これただの手錠じゃないですか」
「これは特別製なの。パトジャイラーのジャイロワッパーの転送機能、知ってるでしょ?」
「そりゃまあ……」
「それの応用版。D-ワッパーver.2。片手にかけただけで宇宙拘置所へ転送できるの」
「――マーベラス!さすがスワンさん!」
こっちに来て結構経つのに相変わらずテツはマーベラスとナンセンスしか言わないねえ……。
「1人10個くらい持っていたら大丈夫かしら?」
「足りなくなったらそのまま連れてこればいいだけの話さ。後ろにはファイヤースクワッドも控えてるしな」
そして結局最後の偵察でも、人の配置も部屋の配置も2時間前と変わらず、ジャスミンは最上階。
そこを目指して下から突破するという単純な作戦に落ち着いた。
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黒いTシャツ、黒いズボン。そして黒いベスト。訓練生の頃の服と似てる。この服着るのどれくらいぶりだろう。
スワットモード取得する時に着た以来?
それにしても……この黒いメット本当に被らないといけないのかなあ?
そう思いながらじっとメットを見つめていると、
「ウメコさん、それつけないと頭撃たれちゃったらおしまいですよ。早くつけましょうよ」
テツを見るとさっきまで手に持っていたはずのメットが消えていた。
さっきスワンさんから手渡されたこのメットは、アブレラ特製のマッスルギアを改造して作ったものらしい。
デカメタルより耐久度は落ちるけど、相手には見えない効果があるみたい。スワットモードのメットの見えない版って感じ?
でもそういわれてもこんな無骨なメット、被りたくないよ……と思っていたらテツから頭を撃たれたらおしまいとさっき言われて。
「やっぱり相手には見えないんだ。じゃあ、付けちゃお!」
「本当にウメコさんって外見ばっかり気にするんですから……」
「何をー!生意気ばっか言っちゃって!」
本当に生意気になってきた。あたしより年下だっていうのに。
「おい、そろそろ時間だ。大丈夫か?」
「あたしたち、生身でデカベース取り戻したんですよ!大丈夫です。
……それに、マーフィーもいるから、ね?マーフィー」
クウーンとマーフィーがあたしの足元で鳴いてくれた。
マーフィーもジャスミンの事、心配だもんね。皆でジャスミンを助けるんだから。
……1番乗りはバンに譲るけど、待っててね、ジャスミン。
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【9・突入・人質殺害まであと30分】
”変身「だけ」しなきゃいいんでしょ”とスワンさんがそう言いながら自分たちの専用の武器を転送してくれた。
テツは正拳アクセルブローを発射する際、生身の体にかなり負担がかかるからと言って、変身後の出力の半分に
抑えられたものの攻撃可能。テツの攻撃は俺たちとは違って多種多様だから必要不可欠。
「――任せたぜ、相棒」
奴にそう言われて時間を見るともう突入の時間。
「……人質救出・犯人逮捕に全力を注げ。……ギョクさんに地球署の意地を見せてやるんだ。行くぞ!」
「「「「ロジャー」」」」
そう言って俺たちはタワーへと走り出した。
タワーの入り口はテツが真っ先に「ライトニングフィスト」で壁をぶち破る。真っ先に入ると、
メカ人間が多数――、アブレラの”忘れ形見”か?
「こいつらはいくらでも倒せ!部屋らしきものを発見したら中を覗いて人質がいないか確認しろ!」
そう叫びながらメカ人間を倒していくと、段々アリエナイザーらしき人物が出てきた。銃をこっちに向かって
撃ってくるものの……あまり強くないらしい。何か拍子抜けだ。
「逮捕監禁容疑で逮捕だ!」
銃を避けながら手錠を腕に嵌めると、すっとアリエナイザーは何処かに消えてしまった。
「イッツァグレート……」
「相棒!へったくそな英語話してないでとっとと先進めよ!」
後ろから奴が叫ぶのを聞いて我に返る。
「……悪かったな、下手糞で!」
……どうも俺はこいつと一緒に難癖つけながら戦ってるのが好きらしい。
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『どうやら来たようだな……そのままじっとしてるんだぞ?』
『本当、単純というか何ていうか。で、あの子本当にどうするの?』
『どうもしないよ。”奴”だけ殺せたらこっちのもんだ。後は自分で何とかするか、
お仲間に助けてきてもらえばいいんだよ』
=========================
【中階段】
おっかしーなあ、先に行かせたはずなのに……。
「なんでテツが来てるの?君火の玉だから先頭行けばいいじゃない……はいこれで転送10人目。」
「ナンセンス!ジャスミンさんを助けるのは先輩だから先譲ったんです!……さようなら犯人さん」
まあ、元々先頭は無理だけどね。バンが買って出てるから。そういえば……テツは知らないんだった。
まあ、時間も時間だし、テツも来てくれたしそろそろ行くかな……。
「じゃ、後は頼んだよー」
「ええ?俺1人置いてく気ですか?ナンセンスすぎます、センさん!」
「2代目火の玉君だったらこれぐらい大丈夫でしょ?終わったら上の方の援護頼むよ、じゃあね」
「センさーん!」
情けない声を出すテツをそのまま置いて、俺はまた来た道を戻っていった。
=========================
【1F】
「ねえ、マーフィー、ほんとうにここなの?」
クウーンと言ってそうだと返事してくれるんだけど、本当にセンさんが言ってた通りなのかなあ……?
あらかじめ、センさんから『突入直後に1Fで何か変なものがないか捜してくれ』って言われたから、
ずっとあたしはここにいた。
「おーい、ウメコー?どう?」
「もうメカ人間もいなくなっちゃった。っていうかみんな片付けてくれたからずっとマーフィーに
捜してもらってたんだけど、ここだって言って聞かないんだけど」
そう言ってあたしが指差したのは地下。でも切れ目も何にもない綺麗なただの床なんだけど……。
「ウメコ、宝探ししようか」
「えー?何それー」
「ここ、全部穴開けちゃうって事だよ」
センさんは自分の持っていたD-ブラスターでマーフィーが示した部分の床の周りを打ち抜き始めた。
「……もしかして?」
「そのもしかして。それよりウメコも手伝ってくれよー」
「う、うん」
=========================
【最上階】
テツは「先に行って下さい!」って言って途中で俺たちを先に行かせてくれた。ごめんな、火の玉なのに。
相棒も途中で「時間がない!先に行け!」って言って右に同じ。相棒に言っときゃよかったかな……。
でも相棒に言ってたら絶対に上へ行かせないだろうと思って言えなかった……悪いな相棒。
最上階に辿り着いてドアを開けると――真っ先に目に入ったのは。椅子に紐で括られている、
「ジャスミン!」
そう叫んで真っ先にジャスミンに近寄る。
******************
「ねえ、まだかな……」
「うーん、そろそろ……」
そう言いながらD-ブラスターとD-ショットで床を撃ち続けてもうこれで5分。
「ワン!」
マーフィーの合図で俺たちは銃の狙撃を止めた。
床は二重構造。撃ち続けた頑丈な床の1枚目がぱらりとめくれて、そこから見えたのは地下への扉。さっそく開けてみる。
こっそりとその時散らばった破片をポケットに入れたのは秘密。
「……!」
俺たちを見てもがいてる女性が1人。
ウメコがそこへ一目散に駆け出していったのは言うまでもなく。
俺はそれを見ながら通信モードを触って連絡を取った。
『――人質救出。身元確認済』
******************
――センちゃんからの通信が耳元のイヤホンから小さく流れてきた。ああこれでもう安心だ。
もちろん目の前にいる”ジャスミン”には聴こえてない。
「……助けに来てくれたの?」
そう言いながら涙目で俺を見つめる”ジャスミン”。
「俺だけじゃないぜ。みんな来てくれてる……早くみんなのところへ帰ろうぜ」
「うん」
「それにしてもお前、全然怪我してねーじゃねーか……元気そうでよかった」
そう言いながら紐を緩めようとした瞬間。
「――なんてな。あばよ、”パウチ星人”」
俺は真っ先に腰につけていたD-ワッパーを容赦なく”パウチ星人”の手に嵌めた。そいつは顔を青ざめて。
「……畜生……何でわかっ……」
そう言いながら、姿は消えて行き、そいつは宇宙の彼方の向こうへと旅立っていった。
「耳鳴り1つ鳴らせない様な奴がジャスミンな訳ないだろ」
あいつからの”不安”のサインの”耳鳴り”。あいつが消えたらしき時間だけしか聴こえなかった。
絶対あいつなら無意識にでも俺に送ってくるはずなのに、それ以降も聴こえることはなかった。
ここに入ってきても耳鳴りは聴こえてこなかった。
俺が偽物に騙されるとでも思ってんのか……ジャスミンの偽物だけは見抜ける自信あるんだからな。
後は、相棒と後輩だけ何とかしなきゃ……。
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センさんに見捨てられて、結局俺はそのままホージーさんのところへと追いついた。気がついたらもう
敵はホージーさんが転送済み。やっぱりホージーさんは凄いです。
先輩はもう最上階かな?そんな時耳元から流れてきた意外な人からの意外な報告。
「――え?なんでセンさんがジャスミンさんを救助してるんですか?」
「……そんなの俺にもわからん!――それよりセンちゃんたちは早く外へ出ろ!」
『了解。ホージーたちもそろそろ脱出しないと……』
「わかってる――後でな」
俺、上にてっきりジャスミンさんがいると思ってたから先輩に上に行って下さいって勧めたのに……。
「――じゃあ、先輩は誰を捜してるんですか?」
「知るかそんなの……それよりも上、行くぞ!」
「はい!」
そう言って上へ向かおうとした瞬間、部屋に入ってきたのは先輩だった。
「――上はもう終わったぜ!」
「先輩?」
「バン!」
「俺たちもとっとと帰ろうぜ」
そう言って先輩は持っていたD-マグナムで窓を撃って、出口を開けて先に行けよと俺たちを勧めてきた。
――なんか嫌な予感がする。
けれどそんな予感よりも先に無理矢理窓に立たされて耳元で先輩がボソッと俺たちに呟いた。
「デカメタル使っても大丈夫だからここから飛び降りろ」
先輩がそう言った瞬間。
どん。
「うわっ!」
「おい!何するんだ!」
小さくなっていく窓から先輩が笑いながら
「――ジャスミンに宜しく言っといてくれよなー!」
そう叫んだのを最後に先輩は窓から消えてしまった。俺たちは、そのまま変身して地上に帰らざる得ない状況。
先輩、酷いですよ……。
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【あと数分・地上】
「どうだった、センさん?」
「――ホージーとテツは最上階の下にいるみたいだけど、多分もうすぐ脱出すると思うよ」
センちゃんが通信を切って一言そう言った。
地下に閉じ込められていた私を助けてくれたセンちゃんとウメコに支えられるようにデカベースクローラー
の傍へと歩いて、私たちは座り込んだ。
「ごめん……」
最初に私の口から出てきた一言。ウメコとセンちゃんが立て続けに
「別に謝ることないよ。ジャスミンは何にも悪くないんだよ」
「そうそう。悪いのはジャスミンをさらっていった奴……感謝の言葉はバンに言ってあげなよ」
「――バン?」
「そう。君の場所、バンが当てたようなもんだから……って、見つけたのはマーフィーだけど」
私の隣でマーフィーがくうーんと鳴いて寄り添ってくれた。
「ありがとう。マーフィー……」
「でも、何でバンは上に行っちゃったんだろうね」
「――バンも来てるの?」
センちゃんとウメコが助けに来てくれたからてっきり地球署のみんなだけで来てくれたのかと思ってたのに……。
「今日1日だけ地球署にレンタル扱い。ボスが頼んでくれたの」
「レンタル扱いなのにわざわざ囮に行っちゃって……相変わらず無茶ばっかしてるよね。こっちがハラハラするよ」
2人のやりとりを聞きながら、私は屋上を見続けるだけ。今の私にはそれしか出来ないのが悔しい。
「あれ?ちょっと!何でー?」
突然ウメコが叫ぶ。こっちに向かって歩いてきたのは、ホージーとテツ……。しかも変身してる。
「――バンは?」
「あの馬鹿……俺たちだけ先に行かせやがって……」
「もう敵はいないって言ってましたけど、あれ絶対嘘ですよ!ナンセンスすぎます!」
「そんなぁ……」
ホージーが私の方を見て、一言ぽつりとこう言った。
「お前に宜しくって奴が言ってた……」
「――行ってくる!」
立ち上がって走りかけようとした私をウメコはしがみつきながら。
「SPライセンスもないのにどうするの!ジャスミンはここで休んでなきゃ……」
……結局私は屋上を見続けることしかできなかった。
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【最上階】
さっきからまた”耳鳴り”が始まった。あいつ……俺のこと、心配してくれてるのか……?まさかな。
ジャスミンも救出したし、相棒と後輩もタワーから追い出したし、これで大丈夫だな。悪いなみんな……。
すいません、ボス、スワンさん、ギョクさん……。
チームプレーとか言いながら結局勝手に自分でケリつけようとしてる。
最初は地球署皆で解決しようと思ってた。けど、時間がたつにつれて、段々みんなに迷惑かけられねーと思って、
結局俺1人で突っ走ってしまった。
もう、これで当分会うこともないだろうから……許してくれよな。
そう思いながら俺はもう1度、最上階の部屋に戻った。
「――誰かそこにいるんだろ、出て来いよ」
誰もいないはずの部屋の片隅から1人地球人らしき男が浮かんできた。そいつが着けていたのは
懐かしのマッスルギア。まだ流れてんのか……。
「パウチ星人まで使ってご丁寧なこったな。どーせデカメタル使ったら爆発ってやつもただのハッタリだろ?」
『やっぱり君は騙せなかったか……』
「――誰だお前?」
まるで昔から俺のこと知ってるような口聞きやがって。
『君には散々な目に合わされて来てるんでね……これで思い出さないか?』
地球人の姿から、いきなり霧が立ち込めて現れたのは蛇をうじゃうじゃさせたアリエナイザー。――思い出した!
「――惑星ツカで逃げやがった奴!」
検挙しようと思って、1人で一目散に逃げやがった男……。
『私はクスネ星人メデュー。レッドレボリューションの副幹部だよ。あれから此処へ逃げてきたって訳だ。
それからもこっちに入ってくるのは検挙検挙の報告ばかりでいつも報告の中には君の名前……じゃなくて赤い服を
来たツンツン頭の男の名前が出てくるからちょっと調べさせてもらったんだよ』
やっぱり俺がターゲットだったんだな……。
「ジャスミンを利用しやがって!あいつは関係ないだろ!」
『関係ないとは言わせないぞ?君たちファイヤースクワッドが地球に降りてきたのも承知の上。
君、昨日の夜中あのお嬢さんと会ってただろ?』
そんなところまで見てたのか……。
「――覗き見なんて卑怯だぞ!このヘビ野郎!」
『あのお嬢さんがいれば必ず君が来るだろうと思って利用させてもらったんだ』
「――もうあいつは救出したからもう利用価値はないぜ?」
『あのお嬢さんは別にいいんだ。それよりも君だ。君のせいでレッドレボリューションは殆ど壊滅状態になってしまった……』
顔は笑っているけど、目は座っている。そして手から出したのは1つのリモコン。
「――何する気だ!」
『君を”道連れ”にしないと仲間に面目が立たない……じゃあ、地獄で会おう』
「やめろー!」
容赦なく押されたボタン。一瞬で爆風に吹き飛ばされる。目の前で自殺かと思ったら今度は俺まで道連れか……。
最初っから手錠かけてれば……よかった……。まだ……死にたく……
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【10・その後】
ジャスミンは救出できた。たった1人を残してすべて拘置所行き。でも後味が悪すぎる。
ICUの前で俺たちはただ待っているだけしかできない。バンはあれから爆風と共に落ちてきてテツが
受け止めたものの、もろに爆風を浴びて重態。
スワンさんからもらったメットがなかったらとっくの昔に燃え尽きてたかもしれない。
俺がジャスミンを助けた後に拾った地下室への入り口の欠片をスワンさんに調べてもらったら、
エスパー能力を封印する作用が入っていたと報告を受けた。
そりゃ、”耳鳴り”も届かないに決まってる。
「――いくら”ミラクルマン”でも今回ばかりはさすがに無理か……」
「俺なんて”火の玉的行動”、まだ先輩に見てもらってないんですよ……逆に先輩がやっちゃって……ずるいですよ、先輩」
「ウメコは?」
「ジャスミンさんに付き添っています」
俺はテツとホージーの会話をただ聞いているだけ。気がつくといつの間にかそこにいたのは。
「ギョクさん……」
「お前たちは大丈夫そうでよかった……。きちんと仕事ぶり見せてもらったぞ」
あまり元気がない。当たり前か……。自分の部下が危ないって言うのにヘラヘラ笑ってる上司が
いたら俺はぶん殴ってるだろうな。
もう手遅れかもしれないけどもうそろそろ”話”しとこうか。
「ギョクさん、ちょっといいですか?」
「セン……」
そう言って、俺は2人にちょっとあっち行ってくるからと言って、別の場所にギョクさんを連れて行った。
******************
――爆風と建物の欠片と共に落ちてきた時に微かに聞こえたバンの声。
『まだ……死にたく……ねえ……』
そんな彼を見ながら彼の事を一瞬”流れ星”みたいだと思ってしまった私はなんて不謹慎な女なんだろう。
……そう思いながら私はウメコの腕の中で気を失ってしまった――
「――ジャスミン!」
真っ先に私の目に入ってきたのはウメコ。窓を見ると光はない。――夜中?
「……ここ、メディカルルーム?」
「ずっとあれから気を失ってたんだよ……よかった……」
涙ぐむウメコ。ごめんね、ずっと心配してくれて……。
「――バンは?」
「……」
俯きながら黙り込んでしまった。それでなんとなく彼の状態がわかった。ベッドからがばっと起き上がって、
「ジャスミン !?」
ウメコが私を呼ぶ声を無視して、私はメディカルルームを飛び出す。
『また、会える?』
『多分な』
そう言ってたじゃない。死んだら2度と会えなくなるっていうのに……。
******************
「地球に戻ってきて早速これか……」
「大丈夫よ、きっとバンなら元気になるわよ」
スワンはプラス思考で羨ましい。お前がいなかったらもっと落ち込んでいただろうな……。
「バンがジャスミンを置いて先に逝くなんてことあるはずないわ……そうでしょ、ドゥギー」
「そうだといいんだが……」
******************
面会謝絶になってるから中の様子は何もわからない。
ホージーさんは目を閉じて壁にもたれ掛ってる。寝てるわけじゃないのはわかってる。多分、祈ってるんだろう。
前に俺が先輩の心臓を止めたときとは事情が違う。俺にもどうしようもない……。
人の気配がして、一瞬センさんとギョクさんかと思って後ろを振り返ると。
「ジャスミンさん!」
「――バンは?」
「あまり状態よくないみたいです……俺たちも入れないくらいなんです」
俺がそう答えると、一瞬俯いてきゅっと唇を噛み締めて暫く黙り込むジャスミンさん。
そしてようやく出てきた言葉。
「……行く」
「どこへですか?」
「中に入る」
「そんな……無理ですよ。行っても何もできないんですよ?」
「そんなの”やってみなければわからない”じゃない!」
”やってみなければわからない”。先輩がよく言っていた口癖で返されたら、俺何も答えられないじゃないですか……。
「……テツ、ジャスミンの好きなようにさせてやれ」
それまでずっと黙っていたホージーさんが口を開いた。
「ホージーさん……」
「行ってこいよ、ジャスミン」
「――ありがとう」
面会謝絶とはいえ、鍵は開いているICUの中にジャスミンさんの姿は消えた。
「ジャスミンだってたまにはあいつを助けたいって思ってるんだ……あいつにはいつも助けられて
ばかりいるからな、俺も昔そうだったから……」
最後の方は本当に小さくて聞き取るのがやっとなくらいボソッと呟いた。
******************
俺、ただの刑事なのに特凶のトップにえらい口叩くんだなあと思いながらも、ギョクさんだからこそ
言ってやらなきゃと思って開口一番。
「あのー、もうすこし規制緩めませんか?」
「何言ってるんだ?接触したからあんな事になったっていうのにお前、まだそんなこと言うのか?」
「俺だってギョクさんと会ってたじゃないですか」
「あれは会議で偶然……!」
「バンもジャスミンと会ってからきちんと彼女をドーベルマンまで送ってやればあんな事にはならなかったと思うんです
……バンも接触禁止なのをわかってたから会ってすぐに彼女と別れてしまって結局ああいうことになってしまった。
機密情報さえ、流さなければいいんでしょう?それ以外は接触してもいいように出来ませんか?
自分の部下、そんなに信用できません?」
「……」
どうしよう、言い過ぎたかな?その時、俺のSPライセンスの通信音が鳴った。テツか……。
『ジャスミンさん、病室の中へ入っていきました』
「そっか……ありがとう」
ジャスミンが、”動いた”か。――始めてだな。ライセンスを閉じてポケットの中へしまいこむと。
「――おい、なんでジャスミンが伴番の部屋へ行くんだ?意味がわからん」
「ジャスミンの様子、見てわからなかったんですか?」
「全く」
……相変わらず鈍感だなあ。誰かさんみたいに言わないと気付かないみたいだ。
「実は、あの2人――」
******************
「礼紋さん、まだ面会謝絶なんですよ?」
突然入って驚きを隠せないドクターに向かって。
「バンの状態は?」
「ずっと意識不明で……心拍数も少しずつ低下してます……このままだと……」
ベッドに横たわる彼は痛々しい。1年以上前に高熱で倒れたときとは比べ物にならないくらい。
モニターで心拍数等の数値を測っているらしく体中にはコードが貼り付けられていた。
意識はなくても、心臓は動いてる。じゃあ、まだ心は此処にあるはず……。
今まで、殆どバンの前で外さなかった手袋を外して、バンの左手をそっと触る。
「礼紋さん……」
「私に任せて下さい」
目を閉じて、バンの心へ入っていく。”三途の川”へなんか、絶対に行かせない……。
******************
「絶対に生きてやる」
そう思ってても、自分じゃどうすることもできないことってあるんだな……。あの爆風で無理矢理意識が
奈落の底へと落ちていくのを逆らう事が出来なかった。
テツに心臓を止められたときは「しょうがねえか」って思ってたけど、今度は嫌で嫌でしょうがない。
そして辿り着いた先は暗い洞窟なところの真ん中をひたすら流れ続ける”三途の川”。そこに立っていたのは、予想通り。
「爺ちゃん」
『また来たのか……これでもう2度目か?』
「来たくて来ちまった訳じゃないんだよ」
『じゃあ帰るか?』
「出口なんかないのにどうやって帰るんだ?」
『今度は渡ってからゆっくり話しでもするか……こないだは渡る前にお前消えちまったからのお……』
「あんまり話なんかしたくねーんだけど、しょうがねーよな。じゃ、行くか」
そう言って爺ちゃんと川を渡ろうとした時。爺ちゃんがこっちを向いて
「おい、伴番」
「何だよ?」
「――あんなべっぴんさんにお前呼ばれてるけどどうするんじゃ?」
「へ?」
後ろを振り返ると――そこには立っていたのはいるはずのないジャスミン。お前、まさか……。
「もしかして……お呼びでない?」
******************
”あの2人は付き合ってるんですよ。”
俺がそう言ったらギョクさんは目を見開いて廊下に響き渡るくらいの声で叫んだ。
「――嘘だろ !?」
「そんなに驚くなんて……本当にわからなかったんですね……」
「俺なんて、まだ付き合ったこともないって言うのに……ずるいぞあいつら……」
「スワンさんばかりに夢中だったから婚期逃しちゃったんですね」
テツも気をつけないとギョクさんみたいになってしまうから気をつけなよ?
「――うるさい!」
俺に背中を向けたかと思ったら突然走り出した。
「どこ行くんですか?」
「――病室に決まってるだろ!……お前も来いよ、”相棒”」
やっぱり昔っから変わってないですね、ギョクさん。
「ロジャー」
当然ながら俺もギョクさんの後を追いかける。
******************
「――んなわけねーだろ!感謝感激……に決まってるじゃないか」
「おい、このべっぴんさんどうしたんだ?」
どうしたって言われると何て答えたらいいかわからなくて。
「え……そのー……」
俺がごにょごにょと言ってたら隣にいつのまにか立ってたジャスミンが。
「あのー、赤座家の跡継ぎ必ず産みます。天国で楽しみに待ってて下さいね、おじいちゃん」
「は?」
爺ちゃんに言っちまった……。いっくら三途の川とはいえ本当にいいのかよ、ジャスミン。
「ほおぉ……それは楽しみじゃなあ……じゃあ、お嬢ちゃんとっととこいつ連れて帰ってくれや」
「かしこまりました」
「じゃあ、頼んだぞー」
爺ちゃんはそのままどっかへ消えてしまった……。2度あることは3度あるって言うからあともう1回来るかもしれないな……。
そん時はまた宜しくな、爺ちゃん。
後に残ったのは俺たち2人だけ。
「どうするんだ?これから」
「人間やめますか?」
「やだ。」
「じゃ、帰ろ」
ジャスミンは素手を差し出してきて、俺は惹かれるように手を乗せる……
******************
「こんなこと……あっていいんだろうか」
「血圧上昇、心拍数も上昇……凄い」
あーもう、うっさいなあ。顔の上で騒がないでくれよ……まだ頭痛いんだから……。って、あれ?ここ何処だ?
「赤座さんの意識回復しました!――おい、署長に連絡だ!」
ばたばたと騒ぎ始めるドクターたちを尻目にふっと気がつくと。
――ジャスミンが俺の手を握ってこっちを向いて笑ってた。こっちに流れ込むジャスミンの心が心地よくてたまんねえ。
「お早いお帰りで……」
「ジャ……スミン……」
酸素呼吸器を付けたままで声が出ない……。
「じゃあ、声出さないで話そっか」
(便利だな、こういう時……今度はお前が助けてくれたんだな。サンキュ、ジャスミン)
(みんな怒ってるよ。無茶したって)
(あれは……みんな俺のせいだったから……みんなに迷惑かけちまったから自分でケリつけよーって思ってさ)
(バンが死にそうになったほうがみんなに迷惑かけてると思うけど?)
(俺だって死ぬつもりなんかなかったんだよ)
(……ごめんね)
(お前が謝ることじゃねーだろ?ちなみにあん時会ってたやつ、奴ら覗き見してたんだぜ?)
俺とメデューとの最後の会話をジャスミンに送った。
(全然気付かなかった……パウチ星人がいたなんて……そういえば、どうしてそれが偽者だってわかったの?)
(あーあれな、お前がなんかおかしくなると”耳鳴り”が聴こえてくるのに、今回は誘拐されてるのに
いつまでたっても聴こえてこないからさ、なんかおかしいなあと思って)
(そんなこと、聞いてないよぉー)
(言うの忘れてた。ごめんな。でもあれがあったからお前を助けられたんだぜ)
(うん……)
(もう”休暇”も終わるし、またお前とも会えなくなるな)
(生きてればまた会えるからいいじゃない……)
******************
「ちょっと、ギョクさん……もうちょっと2人きりにしてあげましょうよ……」
完全無視。そのままICUへと入っていった。
「あーあ……」
「相変わらずデリカシーがないな、ギョクさんは」
「なんかバンに似てるかも!」
「だからファイヤースクワッドに入ったんですね、似たもの同士ですから」
「君もギョクさんに似てるよ……」
「え?どこがです?」
スワンさんに夢中なところがね。そして……
「多分婚期が遅くなるかも……」
「……ナンセンス!それどういう意味ですか」
そう言い合いながら俺たちはこっそりと部屋の外から立ち聞き。
「――伴番、おまえの休暇は延長だ。……とりあえず今日から1ヶ月。ちなみに来年以降は休んだ分だけ欠勤扱いな」
「それ、どういう意味ですか?」
あ、そうかバンはしゃべれないんだ。ジャスミンが代わりに質問してる。
「お前がその間伴番を養えばいいんだろ?……とっとと結婚しちまえ!」
「――ありがとうございます!」
ジャスミンは喜んでるけど、バンの反応が知りたいなあ……。
「その代わり伴番、休んだ分だけこき使ってやるから覚えとけ!いいな!」
そう言って、ギョクさんは部屋から出てきて、俺たちに向かって、
「じゃ、よろしくな」
そのまま何処かへと消えていった。
「……アンビリーバボー」
「……まったくもって、ナンセンス」
「ギョクさんって大胆だね、センさん」
頑固な分、考えが変わると180度転換しちゃうからなあ……。でもよかったね。これで1年に1回は会えるようになったし。
******************
突然、デカルームにギョクがやってきて、「あいつら結婚します」と勝手に宣言して俺たちを驚か……喜ばせた。
「お前が言ってくれて逆によかったかもしれない、有難う」
「あの2人、微妙なのよね。生命線ギリギリのところじゃないと動かないから」
「それにしても、俺あいつらが付き合ってるなんて知りもしなかったんですが……」
「やっぱり気付かなかったの?やっぱ朴念仁ね、ギョクちゃんって」
「すいません……」
「まあいいじゃないか。それより、また1ヵ月経ったらバンをもっと鍛えてやってくれ。頼むぞギョク」
「わかりました」
=========================
【11・1年後】
「遅いなあ……」
遅刻するのは昔も今も相も変わらず。私たちはデカベースの屋上で待ち合わせ。夏空でメガロポリスの明るい街並みが
災いしてあまり星は見えないけど……。
「――悪りぃ、遅れた!」
「何してたの?」
「……センちゃんの休暇に付き合って、さっき京都から戻ってきたばっかなんだよ……」
「もしかして?」
「……まだ俺のご先祖様は新撰組じゃないって言い張ってて無理矢理俺連れて証拠探し」
「で、結局証拠は上がった?」
「上がってない……行って損したぜ……」
「私きちんと見たんだけどなあ……」
あれからバンは夏に1ヶ月だけ”欠勤扱い”で地球に戻ってくるようになった。まるで織姫と彦星みたいだなあといつも彼は呟く。
もちろんその分のサラリーは0。私が働く女性でよかったでしょ?と言うと、まあなといつも答える彼。
地球署の中でふらふらしてるかと思えば、事件のときの会議にはすっと現れるけど黙って立ち聞きしてるだけ。
アリエナイザーが現れても見てるだけの傍観者に徹して、自分と地球署との線引きを彼なりに引いているようだ。
そして私がドーベルマンでパトロールするときは、いつも私の”アッシー君”を買って出てくれる。
皆がそれぞれ休暇を取ると彼はいつも皆にひっついたり、つきあわされたり。
ホージーの時には銃撃練習場に篭って1日中銃撃練習。「やるからには100点取れ!」と怒られているのをこそっと見てしまった。
テツが休暇のときは逆に自分が「お前はいつも正拳アクセルブローばっかだからちったあ銃の練習しとけよ」と
のた打ち回って、銃撃の苦手なテツの面倒を見ている。
ウメコの休暇にはもちろんウメコのショッピングの荷物持ちをさせられ、シュークリームを買わされてる。
もちろんデカルームの皆の分までバンのおごり。
そして私は……夜になるとここで2人で星空を眺めたりして、ずっと朝まで一緒にいる。
夏の星空は流れ星はあまり見えないけどその代わり、ボスの剣の名前であること座のベガ、とスワンさんそのまんまの
白鳥座のデネブ、そしてビスケスの持っていた剣の名前のわし座のアルタイルの、”夏の大三角形”を見ながら
あーでもないこーでもないと他愛のない話ばかりをしながら……。
******************
ギョクさんから結婚しろと言われたけど俺たちはそのまんま何にも変わらない。夫婦別姓は
今流行りなのよねとこないだスワンさんに言われた。
今のままが楽しいから当分このままにしようかとジャスミンと話していたら突然思い出した。
「おい、三途の川で爺ちゃんに話してたこと、あれ、本気か?」
「本気と書いて、マジ」
「そういえば!”ベンジャミン”、子供の名前じゃちょっと可哀相だからなあ……、子供が大きくなって
刑事になったらボスに”お前の名前は呼びにくいからベンジャミンだ”って名付けてもらおっか?」
「よござんすね」
ベンジャミンを忘れていない俺は、最初ジャスミンから口に出たときにあんなに呆れてたはずなのに
なんとなくその名前が気に入っているようだ。
そして、1ヵ月後また俺はファイヤースクワッドに帰って、寝る前になるとジャスミンの死語1年分のネタが入った
”白い”SPライセンスを見続ける毎日。
ジャスミンは1人星空に向かって俺の代わりの”流星群”や”流れ星”を捜したりしている。
七夕よりも贅沢だけど2人きりの夜を過ごせる貴重な1ヶ月。そんなこんなで俺たちの関係はこれからもずっと続く。
「――そういえば、1年前バンがタワーから落ちたとき、一瞬バンが赤い流れ星に見えちゃった……ごめんね」
「本当に”流れ星”ってか。――そういえば1年前に俺のSPライセンスに入れたネタ、やっぱりわかんねーから意味教えてくれよ」
(終)
#スレお借りしまして本当に有難うございました。