608 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/16(水) 02:48:46 ID:3KEKdpyS
age
ガルナコきたわあぁああVvVvV
オンナの私でさえドキドキしました!このカップリング好きなのでみれてよかったです!(≧∀≦)
_, ._
( ゚ Д゚)
火月と葉月の近親相姦キボン
リム×コウタ に一票
覇王丸×シャルキボン
俺×炎邪タン
お邪魔します
職人様の投下無いようなので書いてみますた
覇シャルでつ、剣サムシャルEDから妄想しますた
勝手に設定作ってます、マズーならばヌルーしてください
フランス貴族の邸宅。
その一室で、主・シャルロットは机に置かれた書簡へと目を通していた。
勇猛な剣士であるかの女だが、今は女性らしい、優美なドレスを纏っている。
「コルデ家の令嬢らしくあれ」とは、長年仕えてくれた老婦人のたっての願いだった。
それを、シャルロットは半ば根負けする形で受け入れたのである。
しかし、領主としての仕事も、豪華な屋敷での何不自由ない優雅な生活も、シャルロットにとっては退屈でしかなかった。
「サムライ」達と切り結んだ日々が、懐かしく思える。
(彼は、どうしているだろうか・・・)
突如、窓の外で喧騒が沸き起こった。
何事かと顔を上げたところに、血相を変えた使用人が駆け込んで来る。
「お嬢様・・・大変でございます!」
「どうした?」只ならぬ様子に、シャルロットは椅子を離れた。
使用人が息を切らせながら答える。
「怪しい男が、庭にっ・・・!奇妙な身なりの東洋人で・・・!お嬢様に、会わせろと・・・」
シャルロットはそこまで聞くと弾かれたように走り出し、尚も言葉を紡ぐ使用人の横を擦り抜けて行った。
飛び出してきたシャルロットは、使用人が取り囲む中に特徴のあるざんばら頭を確認し、少女のように顔を輝かせる。
「覇王丸っ!」
かの女は会いたいと願ってやまなかった人物の名を叫んだ。
聞き覚えた声に呼ばれ、覇王丸が「よぉ〜!」と声を張る。
「この者は私の友人だ」
そう言って使用人達を退けると、シャルロットは覇王丸のもとに駆け寄った。
「こんな所まで訪ねてくるとは驚いたぞ!久しいな!覇王丸!」
「お、おう・・・」
歯切れの悪い応答を返した覇王丸の視線は、シャルロットの豊満な胸のデコルテに注がれている。
胸元が露わなドレスなど、西洋における貴婦人の正装であり特に珍しいものではないが、思えばそんな女らしい格好を覇王丸に見せるのは初めてだ。
シャルロットはかあっと頬を染めた。
「と、ともかく!よく来たな、覇王丸!歓迎する!」
真っ赤な顔に引き攣り笑いを浮かべながら言うと、シャルロットは使用人に覇王丸の案内を頼み、ドレスを着替える為そそくさと踵を返す。
「馬子にも衣装ってねえ・・・」
覇王丸は無精髭を生やした顎を撫で、呟いた。
使用人を下がらせ、二人は久方振りに酒を酌み交わした。グラスを満たしているのはこの土地の葡萄酒である。
覇王丸も異国の酒を気に入ったと見えて、シャルロットは上機嫌だった。他愛の無い話に花が咲く。
「おい・・・大丈夫かぁ?」
ふいに掛けられた声に、シャルロットはハッと意識を取り戻した。
(少し、飲み過ぎたか・・・)
「・・・大丈夫だ」
答えて、額に掌を当てる。いつの間にか瞑ってしまっていた瞼を開けた。
「顔赤いじゃねえか」
シャルロットの視界に映ったのは、至近距離でかの女の顔を覗き込んでいる覇王丸。「!!」驚いて、シャルロットは立ち上がった。
瞬間、急に酔いが回りよろける。
倒れそうに傾いだところを、咄嗟に覇王丸の腕が支えていた。
「言わんこっちゃねえや」
覇王丸は嘆息すると、朦朧としているシャルロットをそのままひょいと肩に担ぎ上げた。
「なっ・・・!」
シャルロットは突然の密着状態に戸惑う。
「こ、こらっ!どこ触ってる!」
覇王丸の手が尻に添えられていた。アルコールによって判断能力の鈍っていたかの女だったが、そこはしっかりと抗議をする。
「あ?ああ、すまんすまん」
覇王丸が笑い混じりに詫びるのを聞くと、シャルロットはふっと表情を綻ばせた。
逞しい背中が見える。好意を寄せる男の温もりを感じ、シャルロットは密かな幸福感に包まれていた。
こんな気持ちになるのはいつ振りだったろうか。
シャルロットはこの時間が永遠に続けばいいと思った。
しかし、それは叶わない。
寝室に着くなりベッドに降ろされ、実にあっさりと、体温が離れる。
シャルロットは落胆した。
(一体何を期待しているんだ・・・私は・・・)
「ちょっと休んでろ、な?俺は向こうで飲んでるからよ」
気遣うその言葉も、シャルロットが望んでいる類のものとは違って、この年下の男が自分を特別な目で見ていないということを痛感させられる。
(・・・いつも、こうだ)
こと恋愛において臆病者の自分は、一歩を踏み出すことすら出来ない。
友人としての良い関係を壊したくないとか、言い訳ばかりが頭を過ぎる。
(でも・・・例え届かなくても・・・)
酒が手伝って、いつの間にか胸中で膨れ上がっていた感傷。
(・・・想いを告げるなら、今しかない)
シャルロットは、背を向けた覇王丸の着物の裾を握り締めた。
「覇王丸・・・」
「?」
シャルロットへ向き直った覇王丸のキョトンとした表情に、かの女は小さな後ろめたさを覚える。
「あ、いや・・・」直視していると昂ぶる気持ちまで殺がれそうで、シャルロットは俯く。
「何だよ、変だぞ、お前」
覇王丸が訝むように言うと、いよいよ意志が挫けそうになるが、ここで伝えられなければ同じだと、シャルロットは自らを奮い立たせた。
「私は・・・っ、お前のことを・・・ずっと・・・!」
シャルロットは勢い余って、両手で覇王丸の胸倉を掴んでいた。二人の距離が詰まる。
縋るような視線を送るかの女に、覇王丸はようやく気配を察した。潤んだ青い瞳に、彼の酔いが急速に醒めていく。
「・・・私を、抱いてくれないか」
続いた言葉を聞いて、一瞬、覇王丸は絶句した。
「・・・な、な〜に言ってんだ。お前ぇさん、酔ってんだろ」 余裕を失いながらも、何とか軽口を叩いて茶化そうと試みる。
「覇王丸・・・」シャルロットが傷ついた眼をしたのを見ると、ちりっ、と心が痛み、覇王丸は視線を逸らせた。
失望と後悔に、着物を掴む細い両腕が小刻みに震えている。
「・・・ふっ、そうか・・・私など抱けないか・・・!
生娘でもない、こんな年増女に好かれて、お前はさぞ迷惑なことだろうな・・・!」
シャルロットは込み上げて来る涙を卑屈な笑みを作って堪え、吐き捨てた。
(終わった・・・。何もかも・・・)
そう思った次の瞬間、かの女の身体は、覇王丸の太い腕に抱きすくめられていた。
「違う!そんなこたぁ関係ねえ!・・・お前さんはべっぴんだよ。
・・・俺にゃ、勿体ねぇくらいの」
突然の抱擁に驚き、困惑しながら、シャルロットはただ己が胸の激しい鼓動が、密着した皮膚から覇王丸に伝わってしまうのではないかと考えていた。
「・・・俺は、知っての通りの風来坊だ。
流浪の先で斬られて死ぬか、行き倒れて野垂れ死ぬか・・・。何にしろマシな死に方はしねえだろう」
(そんなこと、知ってる・・・)ようやく覇王丸の言わんとしている事が読めて、愛おしい気持ちが溢れたシャルロットは、彼の広い胸に頬を寄せた。
「修羅の道を歩む以上、俺は所帯を持たねえと決めてる。
・・・お前を幸せにしてやることは出来ねぇんだ」
優しいのだ、この男は。シャルロットは顔を上げ、覇王丸と見詰め合った。
(今度は、ちゃんと言える)
「・・・百も承知だ、覇王丸。武人として剣に生き、剣に死ぬ、そんなお前を・・・私は・・・愛してしまったのだ。
何も言わず・・・私の想いを、受け止めてはくれないか」
気付かぬうちに頬を伝っていた涙を、覇王丸の武骨な指が拭った。
「シャルロット・・・。
お前にそこまで言わせちまうなんてよ・・・俺ぁ情けねぇ男だよな」
掠れた声。シャルロットは反射的に眼を閉じる。刹那に酒の匂いが濃くなったのを感じ、かの女の唇は覇王丸に塞がれていた。
重ねた唇を強く激しく、貪る。 やがて舌を絡め合う湿った水音が二人の耳に届く。
口付けの合間に荒く息を吐きながら、盛りのついた獣のような性急さで互いの纏う物を剥ぎ取り生まれたままの姿を晒した。
「・・・やめるってんなら今のうちだぜ」
覇王丸が掛けた言葉に、シャルロットは応えない。かの女の視線は、覇王丸のそそり勃つ巨根に釘付けられていた。
「・・・」
シャルロットは無言のまま吸い寄せられるように身を屈めると、眼前で起立しているものを躊躇いなく掌で包むと亀頭を唇で覆った。
「お、おい・・・。う・・・っ」
敏感な尖端に舌を這わされ、覇王丸がうめく。
シャルロットは軽く握った手を上下させながら、それを口腔の奥まで咥え込み、吸い上げる動作を繰り返す。
虚を突かれた覇王丸だったが、次第に意識はかの女の施す奉仕に集中していく。
「んん・・・」
シャルロットは全体を充分に湿らせると口を離し、頬を朱に染めて恥じらいつつ白く豊かなふくらみで挟み込んだ。
とろりと唾液が垂らされ、肉棒は谷間の間で滑っていく。
「く・・・ゥ!」かの女の大胆な行動に驚きながらも、視覚と感覚がもたらす刺激に自然と覇王丸の息はあがっていた。
鈴口に溢れた透明な粘液を、シャルロットの舌が掬う。
「も、もう・・・もたねぇ・・・っ!」
言って、覇王丸がシャルロットの頭を自らに押し付けるのとほぼ同時に、陰茎が乳房の間でどくどくと脈動し、精液を噴き出す。
「・・・あっ・・・!」飛沫がシャルロットの胸に、口に、顔に散り、かの女は眉根を寄せ小さく声を発した。
シャルロットは迸った白濁液を指で拭って口許へ運ぶと、妖艶に舌で舐め取る。
放出し足りない欲望に駆られ、覇王丸はシャルロットを押し倒した。
「あ・・・」
既にシャルロットの乳首は硬くしこり、その存在を主張している。
覇王丸は荒々しく掴み掛かると、乳房を揉みしだく。
「ア・・・あんっ」上向いた乳首を吸われ、シャルロットの唇から甘い声が零れた。
指で金色の茂みを分けてかの女の秘裂を割りまさぐると、そこはもう熱く、滴らんばかりの愛液でぐっしょりと濡れそぼっている。
「すげえ・・・」
覇王丸は無意識のうちに感嘆の言葉を洩らしていた。
すぐにでもそこへ自らを埋め込みたくて、シャルロットの膝裏に手を差し入れ両足を大きく開かせる。
「アッ・・・!」
先刻達したばかりの肉棒が、再びいきり勃っていた。
「・・・本当に良いのかよ」
今更やめる気は毛頭無いが、逸る気持ちを抑え、覇王丸はシャルロットに伺いを立てる。
「・・・野暮なことを言うな、馬鹿 」それだけ言い、シャルロットは羞恥に頬を染めてふいと横を向いた。
そんなシャルロットを覇王丸は可愛いと感じながら、己の怒張したものを女陰にあてがう。
「・・・ああっ・・・!」
体内に侵入しようとする巨大な圧力に、シャルロットの身体が弓なりに反った。先端を埋めたところで狭い内壁に阻まれ、覇王丸がウゥ、と唸る。
「きつ・・・もう少し、力抜けよ・・・」
その声にシャルロットの身体の強張りが緩んだところへ、一気に腰を突き入れた。
「・・・あああぁん!!」
シャルロットの悲鳴とともに深くえぐられた膣壁は、きゅうと締め付けるように覇王丸を包み込んだ。
「動くぞ・・・ちゃんとつかまってろよ」
覇王丸に目線で答え、シャルロットはのろのろとその背に腕を回す。
ゆっくりと抽挿を開始すると、シャルロットから零れる甘い吐息が覇王丸を擽った。
「ン!あ・・・!はっあぁ・・・!」
軽く突く度に、シャルロットは嬌声を上げ、繋がった部分からにっちゃにちゃと卑猥な音が生まれ薄暗い空間に響く。
「ア・・・っ・・・あぁっ!」這い上がってくるような快感、シャルロットは腰をくねらし自らそれを享受した。
覇王丸は情欲に駆られるまま、激しく腰を打ち込んでいく。
「・・・はァ・・・!ああ!」
シャルロットは喘ぎながら、きつくその首にしがみつく。 二人が絶頂へと上り詰めるまで、そう時間は掛からなかった。
「・・・うっ・・・シャル・・・」
突き上げながら、覇王丸が苦しげに言った。
「あ・・・あ・・・!あんっ!」
乳房を揺らし金髪を振り乱して、シャルロットが一際甲高く鳴く。
「う、ク・・・!」
覇王丸は全身を痙攣させて、熱く滾ったものをシャルロットの中に解き放った。
「あっ・・・あァーっ!!」
ハァハァと肩で息をつく。
けだるさに、シャルロットは瞼を閉じた。
心臓の鼓動が激しく脈打ち、目の前がくらくらしている。暫しの間を取って、覇王丸が口を開く。
「一旦火が点くと手に負えなくなっちまうのが男ってもんだ。特別・・・」
それを聞き、シャルロットの眼は驚愕に見開かれた。
「酒の入った男は始末が悪ぃ」息を飲むシャルロットの視線の先で、覇王丸の雄根は早くも硬さを取り戻している。
「・・・あぁ・・・」
幾度となく求められ、シャルロットは悦びにうち震えた。
心地良い疲労感が二人を包んでいた。
沈黙を破ったのは、覇王丸だった。
「しかしよぉ、何だって俺なんかを・・・」
雰囲気を弁えぬ不粋な質問に、もう少し甘い余韻に浸っていたかったシャルロットは内心溜息をつきたい気分になる。
だが、そんなところがいかにも覇王丸らしくて、かの女はとても好ましく思うのだった。
「・・・私の方が聞きたいくらいだ」
「なんだぁ、そりゃあ」
わざと素っ気無く答えを返したシャルロットに、覇王丸が間の抜けた声を上げる。
顔を見合わせると、互いに可笑しさが込み上げてきた。堪えきれなくなった笑い声が、どちらからともなく零れる。
ひとしきり笑った後、シャルロットはそっと、覇王丸の広い胸に寄り添った。
「merci、覇王丸・・・」
囁いて、かの女は聖母のような微笑みを湛えながら、安らかな眠りへと導かれていった。
(おしまい)
終わりでつ
なんかいらん部分が長く・・・orz
読んで下さった方有難うございました
GJ! GK! GJ!
シャルキタシャルキター!!!
良かったよ!うん!
うへあ('A`)
ゴールキーパー混じってる。ゴメン
>>621 乙。
良かった。今後の作品にも期待する。
あ り が と う
>>621ネ申 よ !!!11!!
覇シャル キター(゚∀゜= *`Д)ノ キィイタァァアアアーー!!
100万回のGJを贈りたい!!こう言うのを待ち望んでました!!!
シャルかわいいよシャル
対戦相手の時には憎らしいけど…w
628 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:41:05 ID:Oerm/upl
「元気そうね、リムルル」
「ね、ね……ねえさま―――!!」
涙にぼやけて形を変える前に、リムルルは思い切りナコルルの懐に飛び込んだ。
「うわあぁぁぁぁ、会いたかったよ、会いたかったよぉぉ!」
「まさかリムルルが来てくれるなんて……私も会いたかった……!」
「夢じゃないよねっ、ホントにナコルルねえさまだよねっ!?」
「ええ。分かるでしょ?私は私よ」
「うんっ、分かるっ、ねえさま、えぐっ、うっ、うあぁぁぁん!!」
無粋な質問はもういらなかった。片時も忘れたことの無い、正真正銘の姉の懐に抱かれ、
リムルルはいつ止まるとも知らない涙を流し続けた。
「みんな……みんな、ねえさまが死んじゃったなんて言うんだ!だからわたし、絶対
そんな事ないって、コタンを出て、それで……それでぇ」
「いいの……リムルル。もう何も言わなくて。ありがとう。本当にありがとうね」
つかえた言葉さえ包み込むように、ナコルルの手がリムルルの頭を撫でた。
「何年も何年も経って、私だってもう……会えないものだと思っていたの。これは
奇跡なのね」
「うん。大きなキムンカムイがねっ、ねえさまに会えるからって、この時代にわたしを
送ってくれたの」
「リムルルが真実を見据える本当にきれいな魂をしているから、きっとそんな奇跡を
起こしてくれたのね……カムイ達に感謝しなきゃ」
リムルルは姉の胸に顔を埋めたまま、こくりと返事をした。そしてもう一度ぎゅっと
抱き合うと、びしょびしょになった顔を拭いながら姉の顔を見るために身体を離した。
どこを見ても間違いは無い。それにちゃんと触れられる。温かくて、いいにおいがする。
幻なんかではない。自分としっかり目を通わせてくれている人は、
「ふっ、ふふっ、ねえさまだ。ホントに、ホントに……ねえさまだ!」
なぜか笑いがこみ上げてきて、リムルルは真っ赤に泣きはらした顔のままで笑った。
「ふふっ、変なリムルルね。人の顔を見て笑うなんて」
ナコルルは冗談ぽく、肩をすくめてみせた。
「ごめんなさい。だけどねっ、嬉しくて……なんだか、勝手におなかが笑っちゃう
んだもん。ごめんね」
「いいのよ。別に。ほら、もう泣き止んで?」
親指でそっと頬を伝う涙を拭われ、リムルルはがしがしと乱暴に自分の袖を顔に押し付けた。
姉は、優しさまで相変わらずだ。
「ねえさま大変だったんでしょ?」
リムルルは気になっていた事を口にした。
「ずっとずっと、色んなところで傷ついて泣いてるカムイ達をねえさまの力で治してたん
でしょ?」
「えぇ。魔界が地上に残した傷跡をね。でももう大丈夫よ。全部、解決するわ」
機関銃のように喋るリムルルをなだめるように、ナコルルは静かな語り口で言った。
「そう。確かに大変だった」ナコルルの顔に、凛とした真剣味が差す。
「魔界の爪あとは深かったわ、想像以上にね。だけど私だってアイヌの戦士よ。魔界に負けて
なんかいられない、そう思って、大いなるカムイ達と一緒にこの世界を守ることに専念したの。
この秘密の場所を中心にしてね」
「うんうん!すごいなぁ、さっすがねえさま!」
姉でありカムイコタン一の勇者であるナコルルに、リムルルは憧れの眼差しを向ける。
「私にしか出来ないことだからね。アイヌの戦士として、この世界を終わらせるわけには
いかないから。たくさんのカムイが住むこの土地を、元の姿に戻さなきゃいけないもの。
ほら、あれを見て?リムルル」
言って、ナコルルがおもむろに後ろを指差した。
629 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:42:10 ID:Oerm/upl
姉に釘付けだったリムルルの視線が、指の誘導を受けて初めて、ほら穴の先に広がっていた
世界を見つめる。
そしてリムルルは、ぺたんと腰を抜かした。
「な、ななな」
言葉さえ失ったリムルルを見て微笑む姉が指差すそれは、確かに「樹」だった。
「樹」だったのだが、リムルルにはそれが一瞬何なのか分からなかった。
この森の中に足を踏み入れてから何度も見た巨大な樹。しかし姉の背後、どこまでも続く
花畑の向こうにあるその樹は、空に浮かぶ雲を「本当に」貫いていたのである。幹の太さ
たるや、大人が囲んでなどというような代物ではない。根元の周りを歩いたなら一日はかか
るんではないかとさえ錯覚するほどの太さで、枝葉などは雲に隠れ、所々空の青に混じって
緑色に輝いている。兄と連れ立ってこの世界の都へと行ったときに見た、高い建物などとは
比べるべくも無い。
その樹は正しく「大樹」だったのだ。
「驚いた?」
「お、おおおお驚いたって、驚くよぉ!なにあれ!?」
やけに冷静な姉に、リムルルは大きな目をさらにひん剥いて叫んだ。
「落ち着いて、リムルル」
「だって、あんなの……!」
「いい?リムルル。あれはね、私が持っている力の集大成なのよ」
「しゅう……たいせい?」
ええ、とナコルルが短く答え、大きく両腕を広げて空を仰いだ。
「私が持っている巫力……それを使ってアイヌモシリを本当の姿へと導くために、私は
光になってあの樹をここまで育てたの。あの樹の中には、私の力が全部封じられているのよ」
「じゃ、じゃあ!あの樹を育てるために、ねえさまは他のみんなを放っておいたの?」
光に照らされた姉の言う事に、リムルルは感情もあらわに噛み付いた。
「レラねえさま何回も言ってたよ、自然が苦しんでるって!わたしだって分かるよ、この
時代のアイヌモシリって、何だか……姉さまが居なくなったあの頃に近づいてる気がする
もん!な、なのに変だよね?一本の樹だけ助けちゃ変だよね、早くみんなを助けなくちゃ
ダメだよね!ね!?」
無理にでも笑いながら、リムルルは言った。
どう考えても自分の考えは間違っていない。だからこそリムルルは必死だった。
一人がたくさんの幸せを集めても、他のみんなが苦しんでいたら意味が無い。だからみんな
と分けて生きなさい、と。人間も自然も、そうやって今日まで生きてきたのだから、と。
生まれてからずっと、リムルルはそうやって教えられてきた。
同じ教えの中で生きてきた優しい姉だ。何も変わっていない姉だ。だからさっきの言葉も
何かの間違いに違いなかった。説明すれば思い出して、すぐに分かってくれると思った。
しかしナコルルは、首を横に振った。
「リムルル落ち着きなさい。聞いて。この樹がね、世界を救うために、アイヌモシリを
本当の姿へと導くのに必要になるのよ」
「ホントの姿?」
思いが届かずに困惑し続けるリムルルとは対照的に、ナコルルは柔らかに微笑む。
「そう。私達人間に、住む場所も何もかもも全て奪われ、虐げられ、忘れられたカムイ達。
そのカムイ達が昔と同じように、人間からの供物を受け取って、幸せに暮らせるのがアイヌ
モシリの本当の姿だとは思わない?」
もっともな言葉に、リムルルはうんうんと深く同意を示した。
「そうだよ。わたしはちゃんとカムイに感謝してる。にいさまもコンルとかシクルゥとかと、
とっても仲良くしてるよ?」
「いい子ね、リムルル。そう。アイヌモシリ(人間の土地)はカムイモシリ(カムイの
土地)の延長よ。尊いカムイの恵みがあっての人間。この身を大自然の治癒に捧ぐ間、
私はその摂理をしっかりと見直したの。そして……気づいたのよ」
微笑みを崩さず、両腕を一段と大きく広げたナコルルは、大樹を背にしてこう言った。
「カムイを癒す……そう、アイヌモシリから旅立った者たちをも蘇らせるこの力を持つ
私こそが、人間がカムイに残せる、最後の……最大の供物だって、ね」
リムルルにはその瞬間の姉の姿が、大樹に磔(はりつけ)にされているように見えた。
630 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:42:53 ID:Oerm/upl
大好きな姉が、自分が作り出したというあの樹のお化けに、四肢を杭打たれているように。
「違う……そんなの絶対ちがうよ!!」
腰抜けになっていたリムルルは叫びながら立ち上がり、嫌な予感に後ずさりした。
ナコルルは凍りついた笑顔のまま、この場所へと出てきたほら穴の方へと下ろうとする
リムルルに近づいてくる。
「リムルル……素敵な考えでしょ?」
「……ねえさま?」
リムルルは戦慄した。全く聞く耳を持たない姉に、背筋が寒くなった。
姉は変わってしまっていた。考えが行き過ぎているのもそうだし、表情が凍てついている。
一つの考えにとらわれ続け、自分を失っている人間の顔をしている。姉がそんなになって
しまうなんて信じたく無い。
しかしこちらに近寄ってくるのは、本物の姉の「身体」だった。抱きしめあって触れ合って、
リムルルは本能的にそう理解している。
だけど絶対に信じたくない。姉は何かに心を奪われているだけだ!
「ねえさ……違う……あ、あんた誰よ!ねえさまから出てけ!」
リムルルは自分の頭に閃いたその言葉を信じ、姉の形をしたそれにぶつけた。
するとナコルルの歩みは止まり、その顔が酷く悲しそうな表情に「切り替わった」。
「何で……ひどいわ、リムルル」
しかしそれもつかの間だった。ナコルルは悲しみを装ったまま、再びリムルルへの接近を
始めた。凍りついた表情が笑顔から悲哀に変わることで、作り物っぽさに拍車がかかって
いる。リムルルの背に、さらなる悪寒が走った。
「こんなに会いたかったのに……」
うわ言のように、ナコルルは唇を動かした。
「うぅ……ねえさま!お願い!止まって!元に戻ってよお!!」
どうする事も出来ず、リムルルは逃げた。身体が本物な以上、傷つけるわけにはいかない
のだ。それにこの場所は危険すぎた。考えてみれば、リムルルが昔から知るアイヌモシリと
ここは全然別物だ。花は枯れないし、木々は生長しすぎている。自然の摂理から抜け出した
自然など、もはや信じることは出来ない。残してきた3人の身も危ぶまれる。
「逃げないでリムルル……こんなに大好きなのに」
詰め寄る姉が、何事か言っている。
「やだ……来ないで!」
リムルルは、会いに来たはずの姉についに背を向けた。耳を塞ぎたかった。
「リムルル……こんなに必要なのに……」
「もう、もう何も言わないで!」
「リムルル、好きなのに……愛しているのに……こんなに欲しかったのに!」
姉の声がそう叫んだのが聞こえると同時に、リムルルは何も無い花畑の上で、またしても
すてーんと転んだ。
「痛いッ!あっ、冷たい?」
しかし、手を突く地面の感触が違う。薄い氷の膜の中に、花々が閉じ込められている。
こんな事が出来るのは一人しかいない。
「コンル……!」
どうして転ばされたのかは知れないが、仲間の到来にリムルルが心を撫で下ろそうとした
その時だった。目指していたほら穴を支えていた土壁が大きな爆発を起こし、逃げ道を
塞いでしまったのである。それに合わせて、何かがリムルルの身体の上にじゃらじゃらと
落ちてきた。妙な金属音がする。その上、結構な重みがあった。
リムルルは慌てて得体の知れないそれを払いのけて立ち上がり、正体を見た。
「……くさり?」
金属音の正体は、赤黒く錆びついた鎖だった。それが自分のいた場所を中継して、爆発して
通れなくなったほら穴へと真っ直ぐに続いている。よく見ると、煙が立ち込めるほら穴の
土くれには、何かが深々と刺さっていた。黒光りする、奇妙な金属の塊だ。ここからでは、
その物体の正確な正体は分からない。
しかし、もっと簡単に分かることがある。
もしもコンルが氷を張っていてくれなければ、ああなっていたのは自分だったという事。
そしてその鎖の余りを腕にぐるぐると巻きつけて金属片を操り、遠くから背後を狙う卑劣な
行為を働いたのは、実の姉の身体だったという事だ。
631 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:43:43 ID:Oerm/upl
「く……!」
ぎりぎりと歯をならし、リムルルは怒りに身を焦がした。右手をハハクルに伸ばし、臨戦
体勢を整える。コンルがすぐ横に近づいてくる。爆発の前にこの場へと来ることができた
らしいシクルゥの足音が、自分の後ろで止まったのも分かった。
「ふたりとも!ここ、おかしいよ!それにあれ、ねえさまだけどねえさまじゃない!」
「何ヲ訳ノ分カラヌ事ヲ抜カシオルカ?」
険しい表情で二人に注意を促したリムルルの耳に突然、男とも女ともつかない、不快な
声が響き渡った。
あの日の神社で、家のすぐ近くの公園で、リムルルの命を狙った奴の声だ。
「あんただったのね!やっぱり!!ウェンカムイ!さっさと出てきなさい!!」
『違う、あれはウェンカムイではない……』
一歩前に出たシクルゥが、リムルルに告げた。
「えっ、シクルゥ、何て?」
「ソウダ、其ノ通リヨおぉぉ!」
『だめだリムルル、危ないっ!』
三つの声が同じに重なった直後、音の末尾が光と爆音にかき消された。
強烈な威力を持った一筋の破壊の閃光が、空からリムルルの目前へと降り注いだ。
「うわあああっ!?」
草花は丸焦げにされ、地面に大穴が開く。リムルルもまた、その爆発的な衝撃と轟音に
よって遠くまで跳ね飛ばされた。幸いにも直撃は免れ、リムルルは受身を取ってすぐさま
立ち上がった。
「くぅ……ああ、シクルゥ!」
ちかちかする目を擦り、リムルルは自分と同じに跳ね飛ばされたシクルゥに駆け寄った。
だがシクルゥは息こそあるものの、呼びかけには応じない。それどころかぐったりと横
たわって、立ち上がれるような状態でさえない。
「うぅ……まさか、わたしをかばって!」
「子供ひとりにそこまで肩入れするとは。驚きですな、尊き山のカムイともあろう御方が。
いや……それとも、もうお気づきなのですかな?その娘の持つ力に」
聞きなれない男の独り言に向け、リムルルはきっと鋭い睨みをきかせた。声色こそ違うが、
その口調は明らかに天から聞こえてきたあの声の主のものだった。
「あんた、何者なの?」
声の主は空高くから舞い降り、鎖を握り締めたままのナコルルの横にふわりと着地した。
腰よりも長い銀色の髪、雨雲の色をした布地に金の装飾を施したきらびやかな衣装。
細く繊細な印象を与える整った顔立ち……そして、リムルルを陽の光よりも強く照らす
金色の眼光。
「我が名はシカンナカムイ。何よりも俊く美しい閃光のカムイの名……よもや忘れたわけ
ではあるまい?リムルルよ」
薄い唇を開き、男は自分の正体を明かした。
「シカンナ……カム……イ……?」
リムルルは確かめるように、大事にその名を呟く。知らないはずは無い。
「その通りだ」シカンナカムイが満足そうに頷いた。
「その右手に握られたメノコマキリこそがその証。華麗にして最強の技をカムイコタンに
伝えた者の名を、使い手たる者が知らぬはずは無かろう」
――嘘!心を読まれてる?
構えをきつくするリムルルを見て、シカンナカムイが晴れ着の裾から出した人差し指を
左右に揺らした。
「少し違うな……人間の考える事など、たかが知れておる。それだけの事よの」
世にも恐ろしい事を、さも当然のようにシカンナカムイは説明する。
632 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:45:44 ID:Oerm/upl
「さてリムルルよ、ここへ足を運んだ目的、無事に果たせて良かったのう」
「無事?無事なんて!そんなワケないじゃない!ホントのねえさまを返せ!」
「本当のねえさま、とな」
反抗の意思を露にするリムルルの態度に、シカンナカムイが怪訝そうな顔をする。
「ここに居るではないか。アイヌの戦士としての自覚を深め、我らカムイとの共存のため、
その身を滅ぼす事もいとわぬ……最も美しき人間が。のう、ナコルル」
感情の一切を失った、ビー玉のような目をしたナコルルが、こくりと首を振った。
どうした事か、それを見たシカンナカムイの顔が途端にゆるんだ。
「おおぉ……見よ、この美貌!漆で塗ったように艶やかな黒髪!絹の如き肌!素晴らしい!
人間の中の人間、まさに芸術品よの」
シカンナカムイはため息をつき、ナコルルの顎を両手で包み込んだ。
「たまらぬ……この美しさ!カムイに抱かれ、永遠の生を受けるに相応しい」
「あっ、ちょ、やめろっ!」
リムルルが、腰のハハクルに手を回したまま、一歩前へとにじり寄った。
「ねえさまに触るな!そんなやらしい目で見るな!」
「美しいものを愛でるは、至極当然の欲求よ……」
シカンナカムイは至近距離から、金に光る視線でナコルルの顔を舐め回した。
「そして、その美しい存在を美しいままにしておきたいと思うも、また至極当然のこと。
滅びに向かいし我らのアイヌモシリを救うためとはいえ……ナコルルの美貌までもが消える
必要は無い。我はそう思った。だから我は、ナコルルの魂を肉体から切り離した」
何という事もなしに、シカンナカムイは淡々と言った。
リムルルは、頭の中が空っぽになるのを感じた。
体じゅうから力が抜け、構えが自然と解ける。
――魂を肉体から切り離す?
なんだ、それは。
それは入れ物から、中身を取ってしまうようなものだろうか……と、リムルルは思考とも
呼べない状態で、心にぼんやり言葉を並べた。
お茶碗の中に入っていた食べ物を出して、空の状態にしたようなものだろうか。
中身が無い器。中身があってこその器。そこに何かが入っているから、初めて器は役に
立つのに。飾っているだけじゃ、意味が無いのに。
大事なだいじな、「ねえさま」という中身を取り出したら、それは一体何なのか。
「ねえさま」の魂は、目の前に広がる花畑の上でシカンナカムイに弄ばれているねえさまの
形の中には入っていない。カムイはそう言った。たった今。
それなら、誰がその唇を動かして自分の名前を呼んだのか。
抱きしめてくれたのは誰か。涙を拭ってくれたのは。笑いかけてくれたのは。
「やっぱり……やっぱり違うじゃないか」
うつむいたリムルルは、震える声を絞った。
「ねえさまを操って、こんなおかしな土地を作らせて、あんなオバケみたいな樹を育て
させて、おまけにわたしの気持ちまでバカにして」
リムルルの周りの空気が、熱を帯びたようにゆらめいた。宙にとどまっていたコンルが
ふわふわと波を受けたように漂った。草むらがざわりと騒ぐ。
「今なら許したげるよ」
リムルルが厳しい顔を上げ、飛び出しそうになっている何かを堪えた声で言った。
「さっさとねえさまを元に戻して。わたしのねえさまに、勝手なことしないで」
四季の無い、上っ面だけの平和を形にしたような花畑の空気が、リムルルの張り詰めた
迫力にびりびりと揺れている。
「ほおう、やはりその力は……我の見立てに狂いは無かったようだの。ふふ……」
横目でリムルルの変化を見ていたシカンナカムイは、リムルルには聞こえない声で小さく
言った。そして今度こそリムルルのほうを振り返ると声を張った。
「早まるでないぞ!リムルル!我はアイヌモシリを天から見守る守護者。人間の営みを
見守り、時として罰を与え、その身に余るであろう武器は奪い取った」
これもそうだ、とシカンナカムイはナコルルの手に握られた武器を指差した。
「これは罪人殺という。生死の狭間に迷った男が手にしていた、危険極まる、そしてあまり
に美しい武器よ。使い手が鎖を持てば、その動きはどこまでも変幻自在。四方八方を無尽に
飛び回り、山ほどの命を食らった。だから我は、これを奪った。他にも山ほどあるぞ。
人の世には置いておけぬ、我らがアイヌモシリに滅びをもたらすであろう禁制の品々……」
633 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:46:57 ID:Oerm/upl
シカンナカムイは右手を差し伸べた。瞬間、毒々しげな桃色の閃光が走り、その手の上に
奇妙な球体がふたつ現れた。
リムルルは警戒を深め、二つの球体の動きを目で追った。人の頭ぐらいの大きさだろうか、
奇妙な紫と薄緑の球体が手品のように回転し、行き交うたび、その向こうに透けるシカ
ンナカムイの顔が歪んで見える。
「これらは遠く海を隔てた地に、代々伝わっていた宝珠。緑に輝くこの石はパレンケストーン
と呼ばれ、聖と闇……相対するはずの二つの性質を内に秘めておる。人間が内に秘めし
二面性から生まれたか、アイヌモシリに訪れる朝と夜を示すのか。それとも、この世とは
別の世界の存在を示唆しているのかも知れぬ……。ともかく、この石の闇の性質を利用しよう
とした者がおり、破壊されても再生を繰り返す以上、我はこの石をアイヌモシリに野放し
にしてはおけなかった。だから我が手の中にある」
「わたしはその石からとんでもない真っ黒な気配しか感じないわよ!」
「何を言うか。目が曇っているのではないか?リムルルよ」
球を覗き込むシカンナカムイがにんまりと笑い、ひどい形に屈折した。
「この色、この光!手元に置いてからというもの、衰えを知らぬこの輝きに魅せられる
ことしきりよ。カムイをも誘うとは、アイヌモシリに置いておくには危険、人間には
過ぎた玩具。無論、このもう一つ……タンジルストーンもまた禁忌と言えよう。リムルル、
特別だ。ほれ、しかと見入るが良い」
透明な中に複雑な光が瞬く紫色の石、タンジルストーンが、シカンナカムイの手を離れて
リムルルの顔の正面にまでゆらゆらと近づいてきた。距離が縮むにつれ、肩の辺りがずしり
と重くなるような、不気味な波動が強まってくる。
「くっ……!こんなもの手元において、あんたは何で平気なのよ!」
経験したことの無い、見つめるほどに気持ちが悪くなる眺めだった。リムルルは今すぐに
でもハハクルを抜き、目の前の球体を真っ二つにしてしまい衝動にかられた。
「こんな邪気で満たされた道具、カムイが持ってるなんておか……し……?」
右手を愛刀へと伸ばそうとすると、タンジルストーンの放つ邪気がふっと収まった。
そして、その代わりに強烈な別の存在感が内側から光となって溢れ出した。
それを浴びたリムルルはぐらっと肩を落とし、言葉を失った。
見た目は変わらない妖しい石の奥から、心に直接触れてくる大きな何かが伝わってくる。
この世の全てを包み込むように、あまりに大きくて優しくて、手のひらの上の雪よりも
儚げなそれ。
「ねえ……さま!ナコルルねえさまぁ……あ、あぁ……!」
リムルルの大きな瞳から、再び自然と涙がこぼれた。
晴れ着が汚れることもいとわず、リムルルはがっくりと膝を突き、光輝くタンジルストーン
を抱きしめようとした。しかしその両腕は空を切り、リムルルはばったりとそのまま倒れた。
「出会えたようだの……リムルルよ。ナコルルの魂に」
幾重もの光の残像を描きながら、タンジルストーンはシカンナカムイの手へと戻った。
「タンジルストーンは、パレンケストーンと対をなすもう一つの秘宝。人の魂を封じる
ことで闇の力を招くといわれた、邪な儀式の礎となる魔石よ」
シカンナカムイが手のひらを返すと、二つの石が微動だにしないナコルルの肉体の周り
を回転しながら上下し始めた。
「ナコルルの魂は強い力を持っている。死に生を再びもたらし、カムイをも蘇らせ、滅びを
食い止めるこの力……。しかしそれも、肉体が朽ちてはなんともならぬ。自らの肉体は
癒すことは出来ぬようなのだ」
明るい太陽の輝く空を、シカンナカムイは懐かしそうに見上げた。
「あの日解放されたナコルルの力は強すぎた。この肉体では限界があったのだ。だから我は
限界を迎えるその前に、ナコルルがポクナモシリへと逝く前に……魂をこの石の中に封じた。
無論、ナコルルもそれを望んだ。喜んでの」
「嘘だ、そんなの」
「何?」
伏せたままだったリムルルが立ち上がり、口を挟まれ不機嫌そうなシカンナカムイを見
つめた。その顔は、涙と泥に汚れていた。
「あんたはナコルルねえさまの事、何も知らないんだ。ねえさまは……自分の身体がどう
なろうなんて気にするような人じゃないんだ」
リムルルの声は、凍てつくような冷たさを伴っていた。傍らに浮かぶコンルが、不安げに
揺れている。
634 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:47:33 ID:Oerm/upl
「ねえさまは助けを求める事なんてしない。手を差し伸べられても笑ってるだけで取ら
ないよ。全部自分でしょい込んで、みんなのために自分の身体を犠牲にしちゃうんだよ。
わたしだろうと、どんなに偉いカムイのあんただろうと、絶対に聞きいれるわけがないんだ」
それに、とリムルルは付け加えた。
「レラねえさまは言ってた。ナコルルねえさまはこの森で『寝ているんだ』って、ね。
何で起きてるの?誰が……起こしたのよ」
ひと時の沈黙。
「ふっ」
にらみ合いに、先に折れたのはシカンナカムイだった。
「……くっ、ふふ。降参だ。反面というのはどうも口が軽い傾向にあるのかの」
やれやれとでも言いたげに首を振り、含み笑いを残して言う。
「お前の言うとおりだ。我はナコルルの力の源たる魂をパレンケストーンの力で奪い取り、
封じた。あの大樹には先にも言った通り、魂からあふれ出るナコルルの力を満たしてある。
いやはや、まさかここまで育つとはの」
「一体何のためにそんな事してんのよ!」
「お前がそれを知る必要は無い」
シカンナカムイはたったの一言だけであしらった。
「ただ……繰り返すようだが、ナコルルは我らカムイに与えられた最後にして最大の供物
であったこと……そしてこのシカンナカムイに愛でられ娶られたこと、誇りに思うがよいぞ」
「めとられ……?何を……言って」
「む、やはりまだまだ餓鬼かの。我が言葉の片鱗から汲み取れというのが無理な相談だった、
そういうことかの……。リムルル、こういうことなのだ」
シカンナカムイはナコルルの背に伸ばしていた腕を脇の下に潜らせ、乳房を掴んだ。
途端、「あっ」と、姉の口から変な声が漏れるのがリムルルの耳に届いた。
「ふふ……先も言うたであろう、この身体、永遠のものとするに相応しい、と」
ついに言葉の真意を悟り、リムルルの極限まで見開かれた目が点になった。
だが、止めに入るには遅すぎた。
「幾たび抱いても抱き飽きぬ……可愛がり甲斐のある、極上の躰(からだ)であるぞ?」
くちゅっ。
実の姉の唇が、カムイの唇に音を立ててふさがれるのを見ながら、リムルルは思った。
――全てが狂っている。
人の魂を、仲間のはずのシクルゥを、そして力をもぞんざいに扱うカムイ。
魂を奪われているにもかかわらず、艶かしい声で鳴く姉の身体。
愛すべき存在が、全て狂ってしまった。
そして、やはり自分もまた……狂った。
本当に、心から最後まで信じてやまなかった、信頼していた存在に。
よもや、カムイに刃を向けることになろうとは。
だがそんな躊躇を遥かに上回る本当の怒りが、リムルルの心を燃え上がらせた。
「許さない……」
姉は何のために生まれてきたのだ。
力を持っているがために戦いを強いられ、心の奥底では常に孤独を抱え、本当の意味で
女性らしい生き方など望むべくも無く暮らし、挙げ句は自分の身を犠牲にして守ったはず
のカムイに、何よりも大切なものを奪われたというのか。
「よくも……よくもねえさまをおっ!!」
喉が潰れるぐらいの叫びと共に、リムルルの周囲が金色に爆発した。
コタンに伝わる武芸の開祖とも言うべきカムイを前にしたところで、リムルルの恐れは
完全に麻痺していた。敵意に満ちた瞳はぎらぎらと輝き、小さな身体を中心にして膨れ
上がった怒気が晴れ着を躍らせている。
「ウェンカムイめ、それ以上ねえさまに触るなあああああっ!」
リムルルはハハクルを抜くことさえせず、シカンナカムイ目がけて駆け出した。
635 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:48:14 ID:Oerm/upl
「んちゅっ……ふんッ……不細工な攻めよ。我が極意の何を学んだというか」
長い舌でナコルルの口の深くまでを犯していたシカンナカムイが、やっと唇を離した。
「ナコルル。楽しみは後に取って置くもの……。さあ鎖を引け。まずはあの餓鬼を黙ら
せるのだ」
頬を染め、くちづけだけで果ててしまいそうだったナコルルの顔が、びしりと凍りつく。
ナコルルはこくりと小さく主の言葉に応じると、握っていた罪人殺を五間(約九メートル)
に迫ろうとしていたリムルルの足元目がけて素早く放った。
地面すれすれを飛ぶ巨大な手裏剣が、乾いた鎖の金属音を響かせ、草花を刈り取ってゆく。
かなりの速度だったが、リムルルはそれを難なく最低限の動作で飛び越えた。
しかし、能面のナコルルの狙いはその一撃ではなかった。手元の鎖を掴んでくいっと軽く
引くと、地面と平行だった罪人殺が空へと直角に向きを変えた。地面に垂れていた鎖もそれに
続いて浮き上がり、再びリムルルの足元を狙うが、リムルルは横に跳んでそれをかわし、
さらに前進する。
――懐だ!近づいちゃえばこっちのものだ!
リムルルは相手の武器の特性から、至近距離での闘いを挑むのが最善の策だと判断した。
握り手があり、一つの刃がハハクルほどもあるとは言え、手裏剣は手裏剣だ。手元を離れて
しまえば、あとはあの鎖を封じるだけで制御不能に陥るのは誰の目にも明らかである。
立ち止まったままのナコルルまで、もう二間。
あっさり巡ってきた好機を逃すまいと、リムルルは姉の両腕に手を伸ばそうとした。
……しゅ……るるるっ
その刹那、頭上高くから鎖の音が響き、リムルルはとっさに右へと横っ飛びに跳んだ。
がすっ。
リムルルの戦いへの本能が一瞬だけ勝った。リムルルが最後に草花を蹴り、踏みつけた
小さな緑の足跡の上に、禍々しい四刃の手裏剣が突き刺さった。
「言ったであろう、変幻自在と」
ナコルルがひょいと後方へと飛びのくと、その後ろにつくシカンナカムイが代弁した。
「そんな平凡な狙いが通用するとでも思うたか?」
完全な仕切り直しだった。むしろお互いの立ち位置は、最初よりも広がってしまっている。
だが、距離をとった二人の姿を見据えたリムルルは焦る素振りさえ見せず、シカンナカムイ
の挑発にも乗らなかった。ただ、
「いくよ、コンル」
はっきりとそれだけを相棒に伝え、もう一度ナコルルへと走り出した。
「フン、愚直な。その俊さだけは認めざるを得ぬが、馬鹿の一つ覚えだな。揉んでやれ」
鎖を引いて手元に戻ったばかりの罪人殺を再び構え、ナコルルは命ぜられるままに勢いを
つけて放った。
鈍い色をした大手裏剣が草花を無残に切り裂いて、リムルルの胸へと近づく。
真っ直ぐに飛んできたそれをリムルルはまたも飛び越え、脚を止めずに走り続けた。
振り返らないまま、リムルルは背後からの強襲を想像する。
それはいつ?どの方向から?読んで読めるものでは無い。相手は読みの外から狙うのだから。
かと言って、コンルの力でこの距離から相手二人を攻撃するのも無茶だ。コンルの力は、
リムルルにとって最大の切り札だ。そう易々と使っていいものではない。
――まだまだねえさまの間合いだ。慎重に神経を張って、大胆に接近!
姿勢を低くして走りながら、リムルルは自らを戒めた。
姉の懐に入るまで、あと数秒。
その間のうちに、手裏剣は再び自分を狙って飛んでくる。見えない位置から。
確信を胸に、リムルルは聴覚とギリギリに絞られた視覚だけに全神経を傾けた。
ざっざっざっざっ……
規則正しいこれは、自分の足音。用は無い。
ふっ、ふうっ、ふっ……
一番近いこの音は、自分の吐息。まだまだ余裕の音。これも用は無い。
極限にまで狭めた視野に収めたナコルルとウェンカムイの姿が、次第に大きくなり始める。
636 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 01:48:48 ID:Oerm/upl
足音。吐息。動かぬ二人の姿。
――飛んでくる、必ず!
足音。吐息。動かぬ二人の姿。
――鎖の音!聞こえるはず!
足音、吐息。動かぬ二人の姿。
――研ぎ澄ませ!
足音、吐息。動……いた!
――ねえさまの手元!
ナコルルは、地面に垂れていた鎖を振りたわませて叩きつけた。鎖に生じた幾つもの波が
のたうちまわり、リムルルの足元へと向かう。
すかさずリムルルは地面を蹴り、宙へと舞い上がった。足に絡み付こうとする鎖を次々に
踏み散らし、逆にその反動を利用して、空中を走るように一気に間合いを詰める。
「ほおう。達者な身のこなし。だが……そこまでだ。罪人殺に狙われたが最期よ」
シカンナカムイが言うや、能面のナコルルは鎖をじゃらっと逆手に持ち替え、思い切り
引っ張った。
「うわっ……とお!」
器用な綱渡りを演じていたリムルルの身体が、張り詰めた鎖に持ち上げられ、ぽーんと
高くに投げ出された。もっとも、この程度でリムルルは集中を切らしてはいない。
……しゅるるるっ!
小さな耳に傾けられていた強い意識が、背後に迫る大手裏剣の近づいてくる音を捉えた。
その軌道は、宙に放られたリムルルの身体が最高点に到達したところを正確に狙っている。
誰しもが自分の身体を制御不能になる空中。
そこを狙った必殺の一撃。
理に適っている。地上でこちらを見上げているシカンナカムイが、にんまりと白い歯を
見せるのもわかる。
だがリムルルは、危機の迫る背中を振り向こうとはしなかった。ただ耳をそばだて、戒め
通り音に集中していた。そして、頃合を見計らい――
「コンルっ!今!!」
鋭い合図。
リムルルの足の高さに漂っていたコンルが、美しい結晶の形からばきばきと姿を変え、
空中に氷の足場を作りだした。
「よいしょっと!それっ!!」
人一人が乗れる大きさのそれを踏み台にして、リムルルは狙われていた最高点をゆうに
上回る高さへと跳んだ。ナコルルの操る罪人殺が、コンルが用意した氷の足場に空しくも
深々と突き刺さる。
「残念でしたっ!狙いは完璧だったけどね!」
「なっ……何だと?!むう、ナコルルっ!」
展開を全く予想しなかったのか、シカンナカムイがナコルルを急かす。しかし透明なコンル
の氷は罪人殺をしっかりと食いしばり、空中に固定してしまっている。引っ張ったぐらい
では落ちてこない。
諦めたナコルルは自分の手に巻かれた方の鎖をほどき、それを振り回そうとした。
「させない!コンル、槍だっ!いやりやりやりやりぃっ!」
リムルルが叫び、コンルの身体が強い白に輝く。すると、コンルとリムルルの周りに無数の
氷柱が次々に姿を現し、何の迷いも無しに地面へと勢いよく降り注いだ。
しかもその矛先はシカンナカムイには向いていなかった。
狙いは全てシカンナカムイの前、鎖だけで戦おうとしているナコルルへとつけられていた。
「馬鹿な!」
異変に気づいたシカンナカムイが叫んだ時には、美しく鋭利な氷柱は、迎撃の準備も整わ
ないナコルル目がけてどかどかと突き刺さった。
「り……リムルル貴様っ、何故実の姉を、な、ナコルルっ!?」
血相を変えてナコルルの前に躍り出たシカンナカムイは、それ以上の言葉を失った。
ナコルルを突き刺したかに見えた氷の槍は、ナコルルの手元から足元に垂れていた鎖の
穴ひとつひとつを寸分違わず突き刺し、地面にがっちりと固定していた。どの槍も際どく
ナコルルの身体を避け、傷ひとつ与えていない。股の下を潜っているものさえある。
空中と地面の両方に罪人殺を固定されたナコルルは、命令を遂行できずに立ち尽くすのみ
となっていた。
それは、驚くべき技を見せ付けられたシカンナカムイも同様だった。神技を繰り出した者の
存在を思い出して宙を仰ぐ頃には、氷の槍よりも激しい勢いを伴ったリムルルの土足が、
白く高貴な顔に容赦なくめり込んでいた。
637 :
陸捨肆:2005/12/04(日) 02:01:32 ID:Oerm/upl
ノシ
続きは今月中に。
わーい、忘れられちゃったかと思いました。
続きが読めて本当に嬉しいです。
そして、今回も超面白いです!
まさか、ゲーム中では存在自体がうっとおしいウプンオプかっこよく思える日が来るとはw
キタキタキター!
陸捨肆 ネ申 GJ!
リムの怒る様子が詳細に描写されてて、
感情の変化が凄く良く分かる。
読んでて燃えます!
マジで神!
やべ 超神
続きすごい楽しみにしてました。読むことが出来て嬉しいです。GOD JOB!!!!
うあーもう来ないかと思ったよ・・・
GJ!
644 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 02:36:34 ID:erUW5f3W
期待アゲ
操られたナコルル・・・萌え!
続きマダー?
647 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 22:53:08 ID:wfRiSkRT
運命とか何とか、そういう難しいものは考えたくはない。
殺(シャア)ッ。
ただ、命あるものから、それを奪うこと。
どう殺す。いつ殺す。誰を殺す。どこで殺す。
とにかくそれだけを四六時中考えていられればいい。羅刹丸はそういう男だ。何しろ
彼自身、ある男を殺すためだけに魔界に生まれたのだから。
「ある男」のことが頭に浮かぶたび、羅刹丸は赤とは違う色の血が出るほどに、拳を地面に
叩きつけた。
やり場の無い嫌悪と憎悪が腹の中で蠢いて、殺せ殺せと焚きつけるからだ。
なぜそこまで恨めしいのか……という疑問をも感じさせないほどの恨み。
その激情に任せ、羅刹丸はとにかく殺した。これもまた生まれつき握っていた妖刀「屠痢兜」
を携え、目の前を動くものがあれば、人でも蟻でも、誰彼かまわず全部あの世に送った。
羅刹丸は直感していたのだ。自分がなすべきことは、「あの男」を殺すこと。それならば――
――どいつもこいつも全部殺し続けてりゃ、そのうち会えんだろォな!
動くものが居なくなって、最後に動いているものがあるとすれば、そいつこそが自分が
殺すべき「あの男」なのだと、羅刹丸は信じていた。当たり前だ。これだけ強い自分の
反面である「あの男」が、自分と会うまで生き抜かないはずはないのだ。
自分以外の誰にも、あの男が殺されるはずは無いのだから、と。
身体の疼きが止まるその日を夢見て殺し続ける日々は、快感に満ちていた。
何も解らないままに死んでいくヤツは愉快だ。
あがくヤツはもっと愉快だ。
どこまでも歯向かおうとするヤツなんぞは、最高の肴だ。
そんな事を考えながら暴れていると、またひとつ、山奥の村が死んだ。
不幸にも羅刹丸の歩む道の上にあったという理由だけで滅びたその村には、ざっと20人は
居ただろうか。農民ばかりだったが、その中の一人に腕っ節のいい男がいた。
農作業から帰ってきたらしいその男は、村を襲った悲劇を目の当たりにし、羅刹丸の姿を
認めた途端、手に持っていたくわを力任せに振り上げて、羅刹丸の頭のてっぺんを狙ってきた。
男の顔は、涙にまみれていた。羅刹丸の手にむんずと握られていた女の首は、どうやら男の
妻か何かだったらしい。
技術で闘わないその姿勢と、怒りの全てをぶつけてくるさまは中々に羅刹丸好みだったので、
じっくりと舐るように殺してやった。
指の一本に始まり、丹念かつ大雑把に解体し、四肢を切り飛ばして動けなくなったところを、
最期は相手の持っていたくわで、心臓をぐたぐたに掘り下げてやった。一振りごとに血が
弾け、既に死んでいるはずの男の顔が、びくびくと絶望に引きつった。
「ふう……へへ。糞虫どもが相手でも、一仕事の後の一杯ってな、たまらんナァ」
誰も居なくなった静かな村の真ん中に重ねた屍の山の上で、その男の頭蓋骨の中に満たした
極上の血酒に酔いしれながら、羅刹丸は上機嫌だった。
いつもなら考えるだけで拳を振り回したくなる「あの男」のことが頭をよぎっても、この
時ばかりは気分が違う。尻の下に敷かれた冷たい屍の頭をばんばんと叩きながら、こんな
ことを考えるのだ。
――こいつら全部があの野郎……覇王丸なら、どんなに楽しいかわかったモンじゃねェな。
赤く妖しく光る満月に届けとばかりに、羅刹丸は大声で笑った。勝ち誇った。
覇王丸よ、せいぜい首を洗って待っていろ、と。
648 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 22:54:14 ID:wfRiSkRT
だが、皮肉というものは往々にして起きる。魔界の男にでさえ降りかかる。
自分の行き着く先。それを垣間見ることの出来る場所までもう一歩のところで、羅刹丸は
ついに地に倒れた。
侮った相手に取った不覚。その名は半分ぐらい覚えている。確か……
「十六夜の 月にたなびく我心 誰が為にとぞ 闇夜に光らん……夢路」
夢路。
そう、ゆめじだ。
その夢路の相手の手元が動き、羅刹丸は視界がひょいと高くなったかと思うと、真っ逆
さまに地面に落ち、暗くなった。居合いの技で首だけを跳ね飛ばされたのだ。
――俺に敵う相手が……覇王丸以外にいるッ……て、かァ……?
地面に羅刹丸の頭が落ち、ごろんと転がった。その死に顔は、滑稽なぐらいの驚きの
表情だった。
……気がつくと羅刹丸は、ひとつの道の上にいた。
空は暗く、雲も、星ひとつさえもなく、いつかの山奥で見たあの赤く大きな満月だけが、
天井にぽっかりと大穴を開けている。
羅刹丸はあたりを見回した。しかし見えるのは草一本生えていないだだっ広い土地で、
月光にほの赤く浮かんだ乾いた一本の道が、自分の足元にあるだけだった。
「ふうン……どこだァ?ここ」
珍しくちょっとだけ考える。股間を掻きながらあくびを一つ。
「けッ、んなこた知ったことかよォ」
諦めるが早く、羅刹丸は屠痢兜を引きずってぶらりと歩き始めた。
気ままなものだ。いつものままだ。俺の道だ。ふと振り返れば、からからに干からびた
地面につけた自分の足跡から、真っ赤な血があふれ出してくる。そして道端には、幾つもの
無残な人間たちの死体が打ち捨てられており、そこからもどろどろと血の流れが幾つも走り、
道へと集まっている。
結果、羅刹丸の踏んだ道は血の河となり、彼の背中に続くように流れていた。
「成る程なァ」
合点がいく。これが、俺の進んできた道なのだ。どこまでも延々と続く血の河だ。その
船頭が俺、そういうわけらしい。魔界の者の生き様としては上々だ。
しかし羅刹丸は、ふとそこで裸足を止めた。何かがおかしかった。こんな風にぶらぶら
歩いていられる事自体に、違和感がある。
「ん〜〜?」
羅刹丸は、後ろ頭をがりがりと掻いた。引っかかる。気分が悪い。首の辺りまでむずがゆい。
「ん〜、あァ?」
首の辺りがかゆい。繋がっている首がかゆい。
閃く一刀で、主の身体から切り離されたはずの首が。
「お……?」
羅刹丸の手から、するりと屠痢兜が抜け落ちた。
ぽつり、一言。
「するってェと、ここは……あの世か?」
肩が震え、うめきが口から漏れる。月の赤い光に照らされた顔は、惨めに歪んでいた。
「う……うぅ……うおおおおおおお!」
羅刹丸の身体が、弓なりに上ずった。
「この、この……この俺様が死んだだとォ!!??」
月に向かって叫んだ羅刹丸は、いきなり右手を握り絞めたかと思うと、思い切り地面に
叩きつけ始めた。何度も、何度も。いつかのように。
「こんなところで終わりなのかよオォ!?あァ?!俺は何だってんだ?殺しに殺したは
いいがよ、結局はあのクソ野郎……覇王丸んトコには行けねェってのか!」
羅刹丸の心を刺激しているのは、自分の無様さだった。考えるのは苦手だが、今の自分が
置かれている状態ぐらいは理解できるというものだ。想像だにしなかった醜態。自分の
迎えた馬鹿馬鹿しい結末。
「こら!おいコラ!ええおいコラ畜生、畜生は俺だこんちくしょおオオオオ!!」
殺風景な平原に、羅刹丸の自分に向けた罵声がいつまでもとどろいていた。
649 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 22:55:08 ID:wfRiSkRT
――空高くからだだっ広い土地を照らしていた月が、地平線へと傾く頃。
右の拳の骨が見えるぐらいにまで殴り続け、地面に大きな穴が出来たところで、羅刹丸は
ようやく、道の上にあごからべちゃりと突っ伏した。
「あー……ダメだ。くだらねぇー。くうだらねェー。畜生……」
爆発した無念が燃え尽きた途端に、羅刹丸はだらしなくうわ言をつぶやき始めた。
「何なんだよ、あのゆめじってのはよォ。ちっと隙を見せた途端にこれじゃあ、割りに
合わねェじゃねーか。人の努力を踏みにじりやがって。俺の道が終わるとすりゃ、それは
あの野郎を殺したときだけって決めてんのによォ……そっか、この道は三途行きってかァ?
けッ、冗談じゃねーって」
ぶつぶつ文句を垂れながら寝そべっていると、妙なことが起きた。人の眼球と同じぐらい
に丸い血の色の月が、見たことの無い欠け方をし始めたのだ。円形をした月の真ん中に
向かって、下から細い三角形の切れ込みを入れるような感じだろうか。
異変に気づいた羅刹丸は、ばちばち目をしばたかせた。
「お……あれは……山かァ?」
月を欠けさせていたのは、真っ黒な岩山だった。闇の空に溶け込んで見えなかったその
黒い岩山は、この土地に降りた羅刹丸の目前に、最初からそびえていたのである。
赤い月が傾いたことで浮き彫りにされ、初めて姿を現した遠い岩山の頂に、羅刹丸の視線
は釘付けになっていた。
豆粒ぐらいに小さいが、男がひとり、こちらに背を向けて立っているのが見える。
常人ならそれが誰かなぞ知るよしもない。小さすぎるのだ。
けれども、今、この瞬間、その山の上にいるものが羅刹丸に見えないはずがなかった。
初めて目の当たりにしたその姿。だがその姿は、生まれたときから知っていた。この肉体が
魔界に生まれたその時既に、羅刹丸が殺すべき人間の姿は、彼の奥深くにしっかりと刻み
付けられていた。
うつ伏せのまま羅刹丸は砂を掴み、こみ上げる憎悪と共に、その名を醜い口で叫んだ。
「覇王丸うううッ!!!ついに見つけたぜ……。こんなところに居やがったかァ!」
ぼさぼさした髪を一本に結い、白い胴着に大徳利を背負い、左手には鞘に収められた河豚毒。
確かに見える。視覚とは違う、見るよりも明らかな憎悪が、眼から飛び込んでくるような
感覚。
そしてその感覚は、山の方角にもうひとつあった。
眉根をひそめ、感じるままに眼を動かすと、覇王丸の少しばかり下の岩場に、もうひとつの
人影があった。白い布を纏った尼僧の姿だが、脇には黒く塗られた棒状の何かを抱いている。
忘れもしないその姿。その黒塗りは鞘……中に収められているのは刀だ。全部解っている。
自分をこんな意味の分からない世界に陥らせた張本人。
羅刹丸の狭い心に抱かれた恨みは、たやすく頂点に達していた。
「ゆめじ……ィ!」
むき出した牙が欠けそうなぐらいに歯を食いしばった羅刹丸は、もう一段視線を落とした。
細く白い何かが、恨めしい者達の足元を通り、山肌に沿ってうねりながらだんだん太く
なってくる。
そしてそれは、やがて羅刹丸の目の前にまで下りてきて、そこでぷつりと終わった。
そこまで眼で追って、羅刹丸はやっと自分がその白い何かの上で寝ているのに気がついた。
「……道じゃねえか」
羅刹丸は右手を地面に突いて立ち上がった。地面を殴りすぎて骨まで達していた傷は、
とうに癒えていた。
「この道は続いてやがる。あいつらの所まで続いてやがるぞ……へへ、三途じゃねェぜ、
奴らの所だ、あの山の上まで!」
羅刹丸は鼻息を荒くした。眼が、月よりも眩しく光った。
「そうだ……俺ァ何言ってやがるんだ。負けたら終わり?殺されたら仕舞?ケッ、くだら
ねェ。そういう考えがくだらねェんだ」
羅刹丸はぶつぶつと地面に向かって口を動かした。
そのだらしない動きとは裏腹に、強靭な肉体が一言ごとにむくむくと迫力を増していく。
「血が流れたからなんだ?首が吹き飛んだからどうした?心臓が止まってそれが何か問題
かってんだえェ?それで死ぬなんて誰が決めやがった?そんなモンに捉われてンのは凡人だ。
殺されたぐらいで死ぬんじゃねェってんだ、くだらねェ馬鹿どもが……」
大きな呼吸に上下する羅刹丸の肩から、腕から、強烈な魔界の覇気が発散され始める。
紫に淀んだ霧が筋肉の鎧の周りを漂い、色濃く包んでゆく。
650 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 22:56:13 ID:wfRiSkRT
「俺の命(タマ)はな、そんなくだらねェ決まりなんて知らねェんだ。俺を出し抜き、こけ
にしやがった糞ムカつくお前らの所に行くまでは死なねェんだよ。ちっ、くだらねェ……。
こんな当たり前のことに今頃気づくなんざ……くだらねェ……ああ、くだらねェなぁオイ!」
はぁーっと口から紫の気を吐き、羅刹丸はがばっと顔を上げた。
「何がくだらねぇって、俺様が負けっぱなしってのがいっとうくだらねェェェんだよォ!!」
魔物の咆哮。
その叫びは道を、野山を走り抜け、一気に山の頂を極め、毒々しい紫の突風となってあの
二人を振り向かせた。覇王丸の髪が揺れる。夢路の頭巾が捲れ、生意気そうな顔が露になる。
「へへ……クソ野郎どもが。そうだ、こっちだ。こっちを向いてろや」
羅刹丸の顔に、卑屈な笑みが蘇る。すかさず地面に落ちていた屠痢兜を握り絞め、叫んだ。
「眼ン玉ひん剥いて、しっかり見さらせェあァァ!」
そして何を思ったか、自分の胸を自ら横一文字に切り裂いた。
ブシャアアアアアア!
「ヒア、おおッ、ごぶぉ、ごぶぉぶぉおおあぁぁ!」
例えようのない痛みが傷口を燃やす。どす黒い血しぶきが、岩に砕けた波のように弾け
飛び、詰まった喉から苦悶の音が漏れるたび、血の泡がぶくぶくと立った。
「ひぎッ、いぎ、ぎぃぃぎィいあぁ!ッ……ひよおぉぼぼごごぼ!!」
致命の一撃だ。普通ならば死ぬ。
――そうだ、普通ならなァ!
普通ならばこの傷を負って、恍惚の笑みを浮かべたりはしない。痛みが麻痺し、狂った
快楽に足を千鳥にしたりはしない。見ているそばから血が止まり、傷口が塞がってゆく
ことなどあるはずがない。
だがしかし、やはり羅刹丸も、普通とはかけ離れた魔界の男だった。
「はァ、はァ、はァ……見たかよえェ!?お前ェら!!見たかってんだよッ!!」
自らの血でずぶ濡れになった胴着の合わせを引きちぎり、羅刹丸は山に向けてはだけた
胸板を突き出した。
あんなに深かった傷口は、どこにも見当たらなかった。
「どうだ、言ったとおりだぜ……俺様は……不死身だァ!」
「へへ……そうだ。なァ?」
野ざらしになっていた羅刹丸の生首が、ぎょろりと眼を剥き、口をきいた。
「俺は諦めんぞォ……覇王丸。絶対にな」
見ればあの赤い月が、空から自分を見下ろしていた。
「何て月だ……あの真っ赤な月を覇王丸の血酒に浮かべたら……おっと、いけねえ。
その前にもう一人居たぜ。ヘヘ、殺してェ奴が増えちまったなァ」
そして時は経ち、今日もまた一人。
「こいつァ……凄ェ」
とある目的のために魔界門前で眠り続けていたところをシカンナカムイに揺り起こされ、
現世に再び降り立ってこれで四人目。
刀を伝って手に響く重い衝撃がつま先にまで届くのを感じ、羅刹丸は素直に震えていた。
すれ違いの一瞬、鉛玉とは比較にならない銀色の刃が残した、この手の痺れ。
長く味わっていなかった、本当に強い敵との遭遇。
一触で解る。レラとか言う女の、本物だけが持つ実力。
嬉しい。馬鹿みたいに心が躍って止まらない。魔界門の前での退屈な日々も、この瞬間
のためだったと言うのならば帳消しにしてやれるとさえ思う。
そこまで思いを傾けられる理由が、羅刹丸には自分でもよく分からない。
しかし、思惑や考えを超越した本能とでも言える部分が、羅刹丸にこう語りかける。
――こいつだ。
――こいつだ。
――お前がずーっと待っていたのはこいつだッ!
――死ぬことを忘れたお前が、欲して止まなかったものをこいつは持っているんだッ!!
「姉ちゃん、アンタ本当に最高だァ。最ッッ高に殺してェ!」
羅刹丸は後ろを振り向き、木々の間に閃く白銀の殺気の塊に向け、朱の刃を突き出した。
「楽しもうぜ……真っ赤な月が昇るまで、とっくりとなァ!」
651 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 22:59:18 ID:wfRiSkRT
「ぐっ……お……!」
とび蹴りを食らい、シカンナカムイは派手に草花の上に叩きつけられ、ごろごろ転がって
やっと止まった。
「どうだッ!」
地面に着地したリムルルは、かなりの手応えを感じていた。空中から戻ろうとするコンル
に振り向いて、人差し指と中指を立てた手を突き出す。こちらの時代で覚えた、勝利を
意味するものだ。
「ナコルルねえさまに酷いことしたんだ、こんなじゃ済まないんだから!」
だが当のナコルルは、シカンナカムイの束縛から解かれてはいなかった。何の未練も無く
罪人殺しの鎖を手放すと、リムルルの横を素早く走りぬけ、あろうことかシカンナカムイに
寄り添い、立ち上がる手助けを始めた。
「ね、ねえさま!」
リムルルが袖を掴むこともできず、コンルが足元を凍りつかせる隙も無いぐらい、ナコルル
の動きは俊敏だった。恐らく、ナコルルにかけられている呪いは、シカンナカムイのそばを
離れられないようになっているのだろう。
ナコルルの肩を借り、シカンナカムイがゆっくりと起き上がる。
「あんなにすぐに動けるなんて……。思いっっきり蹴ってやったのに!」
とんでもない事をしようとしている、リムルルにはその自覚がある。
シカンナカムイはパセカムイ(尊いカムイ)の中のひとりだ。空を自由に飛びまわり、
力に溢れた光と音を地面に降らせるカムイの中カムイ。カムイコタンに、最強の剣技と
優雅な舞踏を伝えた偉いカムイ。
そのカムイに、単なる人間の自分が挑もうとしているのだ。何て恐れ多いことだろうか。
でも、そのカムイは最大の罪を犯している。
同じカムイのシクルゥに怪我を負わせ、邪悪な武器を手にして優越に浸り――
姉の命と身体を、魂までも弄んだのだ。
コンルとは全然違う。もう、シカンナカムイはパセカムイではない。
「コンル……あいつは、ウェンカムイはやっつけなきゃダメだね。絶対に許せない」
地面を蹴ろうとしたリムルルの前に、コンルがふわりと躍り出た。ぴしりとリムルルに
向けて小さなとげを突き出し、止まるようにと言う。
「ちょ、コンル!どうして」
「く……ふふ。すっかり忘れておったわ」
長い髪をばさりと掻き揚げ、シカンナカムイが立ち上がった。
「いや、忘れていたのではない。あまりに取るに足らぬゆえ……お前の存在など、眼中に
無かった。これこそが正しきところよの。のう、人間に与する愚かなカムイ……コンルよ」
シカンナカムイの威圧的な金色の眼光が、コンルへと向けられた。コンルも負けじと冷気を
放つ。怒っているらしい。
「ナコルルに付き従うなら話も分かろう。しかし何故、そのような娘の憑き神などになった」
袖についた汚れをナコルルに払わせ、襟を正しながらシカンナカムイが尋ねた。
「コシネカムイ(位の低いカムイ)はコシネカムイらしく、卑俗な巫女を選んだとでも?」
「ちょっとあんた……いい加減にしなさいよ!」
シカンナカムイの言葉に、リムルルは頭に小石を投げられたようにカチーンときた。
「コンルは愚かなんかじゃない!」
「弱い冷気を操るしか能のないコシネカムイの、どこが愚かでないというか」
「バカ!やめなさいよそのコシネカムイっていうの!」
リムルルは今にも飛びかかりそうな勢いで叫んだ。
「カムイはみんな大切なんだ!それにコンルはわたしの大事な友達で、家族だよ!アンタが
何て言っても知らないわ。コンルはわたしの一番のカムイなんだから!現にアンタだって
驚いてたじゃない」
「左様」シカンナカムイが手を挙げ、ナコルルを後ろに下げさせた。
「全く持って、の。我としたことが甘く見ておったわ……。人間に『友達』やら……まして
『家族』呼ばわりされるにまで堕ちたカムイに、これ程の力があったとはの」
「許さない……もう許さない!あんたはやっぱりカムイなんかじゃない!」
リムルルが腰の後ろに結わいたハハクルを抜こうとした、その時だった。
652 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 23:00:13 ID:wfRiSkRT
『シカンナカムイさま……あなたは、本当に、そう思われるのですか』
いきなり頭に飛び込んできた、少しもたついた女性の声に、リムルルはびくっとした。
『仰るとおり、人間は、カムイを奉り、尊んでくれます……。私達が、アイヌモシリに
もたらした……恵みへの感謝と、親愛の……念を込めて』
誰のものか分からない女性の声は静かに、少したどたどしく、リムルルが良く知るカムイと
人間の繋がりを説く。ハハクルを抜くことも忘れて、リムルルは声の主を探した。
『だから、その親愛の気持ちが……その、絆の一つが……仮に、仮に友情の形に、家族の
形になって表れたとしても……私はおかしくはないと思います。この、立派な、アイヌの
戦士が言うように』
リムルルは、目の前に漂う氷の形をした友人を見た。コンルはいつに無く白い冷気を強め、
もうもうと地面にまで届かせている。いつもならきらきらと輝いている幾何学的な形の身体が、
冷気にさえぎられて見えなくなるほどだ。
「こ、コンル……?」
「ほおう」相棒の様子にうろたえるリムルルをよそに、シカンナカムイが鼻で笑った。
「何も知らぬコンルカムイごときが、我に道理を説くか」
「コンル!やっぱりコンルなの?何で……いつもと違う」
『リムルル。そう、私。ごめんね、心配させて』
大人の女性の声で謝られて、リムルルはさらに困惑した。コンルは明らかに様子が違って
いる。声色はおろか、言葉遣いさえ全然違う。いつもはもっと打ち解けていて、同い年の友達
みたいに話しているというのに。
「どうしたコンル。お前の積み重ねた友情とやらが揺らいでいるではないか」
「うるさいうるさい!コンル、何のつもりなの?どうしたの??」
コンルは何も答えないまま冷気だけを発し続け、冷気の雲の中に紛れるようにしてついに
姿が見えなくなった。漂う冷気の中にある草花とリムルルの靴にまで、真っ白な霜が降り
ている。
「ねぇコンル!コンルってば!!」
ただならぬコンルの雰囲気に強い不安を感じたリムルルは、冷気の漂う中に両手を伸ばし、
氷の友人を掴んだ。
「やめて、コン……」
しかし、手触りが違う。冷たくて滑らかな心落ち着くあの感触ではなく、すこし温かな
何かがリムルルの指に絡まり、きゅっと力を感じさせた。
人間の、指だった。
「この子に危機が訪れたなら、私が必ず守る……あの日、そう誓ったのです。そして
今こそがその時……私が闘わねばならない時!」
大人びた女性の声が、今度は頭にではなく耳に直接届く。さあっと冷気が引いてゆく。
「これ以上、この子からは何も奪わせない。それがパセカムイであったとしても、です」
コンルが居たその場所には、ひとりの女性が屈んでおり、リムルルの手を取っていた。
すっくと立ち上がるその女性を、リムルルはあんぐりと見上げた。
すらりと背の高い、豊満な女性らしい身体を包む純白の晴れ着。雪の結晶をかたどった、
薄青色の刺繍の帯。シカンナカムイのものよりもずっと白く、柔らかそうな腰までの銀髪。
「リムルル……。そんな顔しないでね」
視線に気づき、白い肌の女性がリムルルに顔を向けた。
優しさを形にしたような、重たげな二重まぶたが下がり、にっこりと微笑む。
「どんな姿をしていても……私は私。ずっと一緒だから、リムルル」
「コンル、コンルだよね?」
「そう。私はコンルカムイ」
リムルルの頭をそっと撫で、美しい女性となったコンルはシカンナカムイに向けて言った。
「私はこの子ひとり、その幸せのために生きる事を誓った、愚かな氷のカムイです」
ちょwGJ
羅刹丸の人生を垣間見たw
654 :
陸捨肆:2005/12/17(土) 23:15:57 ID:wfRiSkRT
これ以上書くと、キリの良い所の前に容量がオーヴァーしそうなのでこの辺で。
皆様、飽きずに読んでくれてありがとう。
執筆は遅れるばかりですが、また次スレでお会いしませう。
ノシ
>653
ここまで羅刹丸にこだわるのも、まだまだ出番があるからなワケで……。
羅刹丸先生の今後の活躍にご期待下さいw
GJ!!!!
リムルルのJDは、どのキャラのどんな技よりも判定が強く、
相手の不意を突いたり、相手の技を潰すことは出来ても決め技にはならないと。
そういうことですね?w
ダメじゃないかリム、ちゃんと着地から連斬か、Bノンノに繋がないと(ぇ
それはともかく、決め技はリムハンマーとかっちんこのどっちになるのか、
どんな描写で撃たれるのか、今から非常に気になります!
ところで、64様は零SPや剣スピをやっていたのでしょうか?
どのキャラを使っているんですかー?
657 :
陸捨肆:
>656
>どのキャラを使っているんですかー?
そりゃあもう、基本的にリムしか使わないですよw
零SPは猿のように毎日プレイしてましたが、剣はもう別ゲーですからね・・・。
時間が無いのもあって、ホントに触った程度です。どうも零の方が肌に合うというか。
零と零SPは、個人的には一番好きな格ゲーです。思い入れが違います。
一撃の重さと迫力はもちろん、怒り爆発や境地など、闘いにまつわる精神的要素の
取り入れ方が非常に燃えました。
極限まで追い込まれてボタン3つを同時に押す時なんて、本当に「キレたぞ!」って感じがしますから。
そんなこんなで、自分のSSの戦闘シーンも、精神的部分を大事に描写していきたいですね。