サムスピ総合エロ萌えSS 2

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1名無しさん@ピンキー
ここはサムライスピリッツシリーズの
萌えSSやエロSSを書き込むスレッドです。

サムライスピリッツ零SP公式
ttp://www.samurai-zero.jp/zerosp.htm
2名無しさん@ピンキー:04/12/25 22:42:47 ID:CnDqA6z3
前スレ
サムスピ総合エロ萌えSS
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1085133526/l50



*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://s1.artemisweb.jp/sslibrary/
(サーバーが重くて繋がりにくいです)
3名無しさん@ピンキー:04/12/25 22:56:47 ID:EvoSyVgK
3ずさー

1乙と言っておこうか。
4名無しさん@ピンキー:04/12/26 00:58:39 ID:AA4oN3XB
5名無しさん@ピンキー:04/12/26 01:13:49 ID:/EOswDnJ
おつかれ保守
6名無しさん@ピンキー:04/12/26 01:53:55 ID:RLd1u3YP
即死防止
7名無しさん@ピンキー:04/12/26 02:04:17 ID:pJ9cgeW+
SS期待保守
8名無しさん@ピンキー:04/12/26 02:17:47 ID:eECER9KW
乙ノンノ
9名無しさん@ピンキー:04/12/26 03:53:43 ID:BJWSVPBb
>>1
おつ
10名無しさん@ピンキー:04/12/26 04:23:46 ID:MHfy2+Mm
>>1乙。
だが、リムルルメインになるんだろうから、総合じゃないほうが良かったんじゃ…
11名無しさん@ピンキー:04/12/26 08:22:45 ID:9nQVVOoZ
>>10
一応建前上は一キャラだけのスレは禁止だった筈。
リム以外の投稿も読みたいしね。
12名無しさん@ピンキー:04/12/26 12:50:35 ID:DnA+F+Ej
hoshu
13名無しさん@ピンキー:04/12/26 13:05:34 ID:4kLvbiQx
前スレで点呼を呼びかけたものデス。新スレおめれとう(゚∀゚)ノ
ちょっと興味があって呼びかけたけど、
結局このスレの人口は10人弱ぐらいってコトなのかな。
14名無しさん@ピンキー:04/12/26 15:47:08 ID:mFrRoYm/
ROMってたけど一応…ノシ7

で、1さん乙
15名無しさん@ピンキー:04/12/26 19:57:54 ID:AA4oN3XB
捕手ル
16名無しさん@ピンキー:04/12/27 11:20:46 ID:p0ACDP4p
保守
17名無しさん@ピンキー:04/12/27 20:54:05 ID:QSNGsQt/
補習
18名無しさん@ピンキー:04/12/27 21:45:44 ID:dow5zIaM
ほしゅ。
19名無しさん@ピンキー:04/12/28 13:08:40 ID:sl7CFhBN
保守
20名無しさん@ピンキー:04/12/28 16:45:25 ID:B9i8URMx
即死回避age
21名無しさん@ピンキー:04/12/29 02:02:36 ID:dmlRTDx0
捕手
22名無しさん@ピンキー:04/12/29 03:35:24 ID:6zRIW6vu
葡酒
23名無しさん@ピンキー:04/12/29 03:56:20 ID:bEMkE5SZ
 外道が家にやってきた 第三話

 翌日、俺はあの変な生き物の食わせる餌の買出しに向かった。
 だが、近所のスーパーにはあの化け物が好きそうな肉は置いていなかった。
 午前中かけて何件もの肉屋をあたってみたが、ことごとくムダ足だった。
 まったく、だから田舎はダメなんだ! これがもし新宿や秋葉原だったら…。
 ぶつぶつ言いながら歩いていると、幼稚園の送迎バスから子供が何人か降りてくるところに出くわした。
 若い母親たちが子供を迎えに来ている。
 だが何人かの子供はまだ迎えの保護者が来ていないらしく、子供たちは不安げにあたりを見回している。
 そのとき俺はひらめいた。
 おう。こいつら捕まえればタダじゃん!
 俺はポンと手を打つと、持っていたズタ袋を取り出して大きく口を開けた。
 周りに大人の目が無いことを確かめるとその辺の子供たちを片っ端から詰め込み始める。
 幼稚園の子供だけではとても足りなさそうだったので、近所の公園で遊んでいる小学生たちもいっしょに詰め込む。
 すばしっこい子供たちを追い回して捕まえるのは、なかなか楽しかった。
 うん。大漁だな。これならあいつも喜ぶだろう。
 大きく膨れ上がったズタ袋を見ながら俺は満面の笑みを浮かべて頷いた。
 袋の中身がもぞもぞと動いて泣き喚くのを蹴り三発で黙らせ、俺は袋を肩に担いだ。
 そのときだ。
「センパーイ、何してるんですかぁ?」
 後ろから俺にこんな風に声をかけてきた女がいた。
24名無しさん@ピンキー:04/12/29 03:57:34 ID:bEMkE5SZ
「うわあ、大きな袋。何が入ってるんですかぁ?」
「誰だお前?」
 振り向きざまにとりあえずそう口にして考え込む。
 ショートカットがなかなか可愛い、化粧気の無い健康的な女だ。
 つーか、こんなヤツ知り合いにいたっけ?
「やだなあ。センパイ、冗談キツイですよぉ」
 そう言ってケラケラ笑う女の顔をまじまじと見つめる。
 ああ、思い出した。ゼミの後輩で、俺の恋人を気取ってるやつだ。
 こいつは以前、俺にコクってきやがったんで、とりあえず飽きたら捨てるつもりでOKしたんだった。
 既に処女は頂いて、たっぷり俺の体の味を教え込んである。
 名前はなんだったっけ? まあどうでもいいか。
 こういう肉奴隷を何人も飼っていると、いちいち顔と名前を覚えるのが大変なのだ。
 はっきり言ってこいつはウザイやつだし、そろそろ捨てたいんだが…。
 捨てるにしても、とりあえずもう一回ぐらいヤっておくか。
「センパイ、どうしたんですかぁ? 私の顔に何かついてますぅ?」
「いや、なんでもない。ところでお前、ヒマなら俺ん家で茶でも飲んでくか?」
「えーっ? センパイ、私みたいないたいけな女の子を部屋に連れ込んで何する気なんですかぁ?」
 ナニに決まってるだろうが。カマトトぶるな馬鹿女。
25名無しさん@ピンキー:04/12/29 03:58:58 ID:bEMkE5SZ
 押し問答の末OKを取り付けたので、部屋に連れ込むことにした。
 ところが玄関まで来てはたと気がついた。
 部屋の中にはあの変な生き物がいる。
 いくら俺でもあいつと一緒では勃つものも勃たない。
「ちょ、ちょっとここで待ってろ」
 女を玄関に残し、俺は部屋に上がる。
 そしてベッドでいびきをかいて昼寝していたあいつの首根っこをひっつかみ、でかい図体をクローゼットに放り込んで扉を閉めた。
「さあ入れ」
 におい消しのスプレーを部屋のあちこちに吹きつけ、あいつの痕跡をなるだけ目に付かないようにしてからショートカット女を招き入れた。
「センパイ、もしかしてエッチな本でも隠していたんですかぁ?」
 黙れ馬鹿女。
 俺はさっさとことを済ませてしまおうと女を押し倒した。
「あん。センパイ、いつも言ってますけど、もっとムードとか大事にしてくださいよぅ」
 贅沢言うな馬鹿女。
 俺は無言でキスして舌をからませ、胸に手を這わせた。胸はけっこうでかい。さすが馬鹿女。
「はうぅん…せっかちなんだからぁ」
 語尾を延ばすな馬鹿女。いらいらする。
26名無しさん@ピンキー:04/12/29 04:00:25 ID:bEMkE5SZ
 胸の先っちょを重点的に責めてやり、徐々に右手を下の方に移動させる。
 女の息がだんだん荒くなってきた。
 一旦スカートの裾のほうまで下ろした手を、スカートの中に潜り込ませて再び上へと移動させる。
 面倒臭いぞ馬鹿女。
 ショーツに手を当てると、そこはもうたっぷり濡れているようだった。
「ああん…そ…そこぉ」
 むう? よがってるのか馬鹿女?
 かすれたその声に混じって、キイ…と、扉のきしむような音がした。
 クローゼットの扉がゆっくりと開き、あいつが顔を出してニタリと笑った。
「ぐへ。ぐへへ。いだぁだきまぁず」
 そう言うと、あいつはよだれを撒き散らしながら馬鹿女の頭をパクリと口に含んだ。
 いきなりのことで、女は何が起こったのか分からないらしい。
 自分の頭に覆いかぶさったもの(あいつの口だが)を取っ払おうと、じたばたと暴れている。
 俺の目の前で、あいつは幸せそうな目で、女の頭をちゅっぱちゅっぱと音を立ててしゃぶった。
 その度に女の体がびくんびくんと震える。
 ちょっと面白いぞ馬鹿女。
 俺はこの人外の生き物に食らいつかれた馬鹿女のスカートをまくって、股間の割れ目をショーツの上からすうっと撫でた。
 すると女が膝をばたばたさせて暴れはじめたので力をこめて押さえつけ、ショーツを引きちぎってしとどに濡れた蜜壷に指を突き立ててみた。
 なんと思いのほかよく締まる。処女じゃないくせに。
27名無しさん@ピンキー:04/12/29 04:01:00 ID:bEMkE5SZ
 俺はズボンを脱いで、ギンギンに硬くなったいちもつを取り出した。
 さっきはこの化け物と一緒だと勃たないだろうと思っていたのだが、下半身剥き出しの女が化け物に頭をしゃぶられているという異常な状況に俺のいちもつは大喜びしていた。
 目の前ではあの化け物が満面の笑みを浮かべている。
 そしてそのすぼまった口の中に、女の頭がまるごと入っているのだ。
 ほっぺたが時折ぴくぴく動くが、おそらくその口の中で女の顔をあの長い舌で嘗め回しているのだろう。
 俺は女の膝を割って、入り口に先っちょを押し当てた。
 だんだん女の肌が青黒くなってきている。早めに終わらせるとしよう。
 俺はぐいと腰を突き出し、一気に女を貫いた。そのままグラインドをかけるように、ピストン運動を始める。
 中はかなり狭い。いつもよりもぐいぐいと締め付けてくる。
 女はもう暴れるのをやめ、ぶるぶると震えるだけだ。
 俺はひときわ大きく腰を突くと、女の中にたっぷりと放った。
 うむ。満足。
 たまにはこういう変わったシチュでやるのもいいもんだなあ。
 さて、シャワーでも浴びてさっぱりしよう。
28名無しさん@ピンキー:04/12/29 04:02:22 ID:bEMkE5SZ
 俺がシャワーを浴びて戻ってみると、女の姿は既に無かった。
 ただあいつがベッドの上にあぐらをかいてでかい腹をさすっていた。
「おっ? 残さず食べたのか。えらいぞ」
 そう言って俺が頭をなでてやると、化け物は目を細めてにたっと笑った。かわいいやつだ。
 化け物は先ほど俺が持って帰ってきたずた袋を指差して言った。
「ねえねえ、あれ、何? あれ、何?」
 俺はニヤリと笑って答えてやった。
「あれは今晩のおかずだ。ちゃんと晩ご飯の時間まで待てよ。行儀よくいい子にしてたら食わせてやる」
「あーい。おれ、腐れ外道、いい子。ぐへぐへ」
 その晩、俺は昨日と同じように、この腐れ外道といっしょに晩餐を楽しんだ。
 こうして、俺はこいつの名前を知ったのだった。

 つづきなんてかかない
29名無しさん@ピンキー:04/12/29 04:22:40 ID:RxCyvCpu
よくわからないけどもうすぐ即死回避なので保守しますね
30名無しさん@ピンキー:04/12/29 09:54:20 ID:b/aAof65
アンパンマン日記と同じにおいがする
31名無しさん@ピンキー:04/12/29 16:07:23 ID:B7BSc9cz
おお、久しぶりだ外道タン
32名無しさん@ピンキー:04/12/30 11:34:27 ID:W8DPUoMN
保守
33名無しさん@ピンキー:04/12/30 20:18:14 ID:G/nzuVUt
hosyu
34名無しさん@ピンキー:05/01/01 22:37:12 ID://riLozU
捕手
35名無しさん@ピンキー:05/01/02 01:15:43 ID:x1pNzEsc
ひさしいな外道タン
36名無しさん@ピンキー:05/01/04 00:42:03 ID:na/MzJZ/
おつ
37名無しさん@ピンキー:05/01/05 02:45:24 ID:QqeXfx/2
保守
38名無しさん@ピンキー:05/01/07 00:14:37 ID:mgootcSk
な、なんだこの過疎っぷりは…
39名無しさん@ピンキー:05/01/07 17:58:36 ID:YqLXudk8
ぶっちゃけこれが普通
40名無しさん@ピンキー:05/01/07 23:52:34 ID:nGJfoQNV
にいさまがくるまで保守だ
41名無しさん@ピンキー:05/01/08 01:20:00 ID:GFKPsB5v
閑リムが見たい……
42名無しさん@ピンキー:05/01/09 15:32:18 ID:Exn98bOL
リム閑が見たい……
43名無しさん@ピンキー:05/01/09 20:35:05 ID:k0UBUg3X
捕手
44「前スレ64」改め「陸捨肆」:05/01/10 02:03:22 ID:VkprKD9o
「暮らす・・・・・・意味・・・・・・にいさま・・・・・・ねえさま・・・・・・」

優しげな老人の言葉が、何の抵抗も無くするすると心の中に降りていく。
その言葉に掴まって、洞窟のように暗い心の奥底に一人ぽつんと降り立ったリムルルは、
老人の言葉を今度は手の平の上でともし火に変え、底知れない、答えの見えない闇の中、
自分自身に問いかけ続ける。

共に暮らす意味は。
兄と。レラねえさまと。コンルと。シクルゥと。
そして、昔と同じようにナコルルねえさまと。

共に暮らす意味は。
それは、家族だから。大好きだから。ずっと一緒にいたいから。離れたくないから。

共に暮らす意味は。
それは、家族の誰をも失わないために。兄を守るために。姉を守るために。
そう。そうだよ。

――自分が。

自分がみんなを守らなくちゃいけない。ねえさまを探し出さなくちゃいけない。そうじゃ
ないと離れちゃう。二度と会えなくなっちゃう。
そんなのは嫌だ。絶対に、嫌なんだ。
にいさまは、きっと癒してくれる。この前海辺で言ってたみたいに、わたしの事を「守って
くれる」んだ。ねえさまを探している間、もしもまた戦う事があったとしても私の一番近く
にいつだって居てくれて、いつものように笑いかけてくれる。だからもしも変な奴に襲わ
れて、怪我したって平気だ。にいさまがそばに居てくれれば、何も怖くなんかない。
どんなに傷ついたって、優しくて大好きな兄と家族のためなら、どうなっても・・・・・・。
45陸捨肆:05/01/10 02:03:55 ID:VkprKD9o
(ホントに?)

リムルルが老人の問に、自分なりの結論を付けようとしたその時だった。
突然、自分しかいないはずの暗い洞窟の奥から、別の誰かの声がした。
(ホントにどうなってもいいの?)
「うん。わたし、頑張るよ」
リムルルは誰とも構わず、黒くて見えない壁に反響しながら再びここまで届いた、妙に
聞きなれたその声に答えた。
(そっか。でもさ、死んじゃったら、命が失われたら・・・・・・どうしよう?)
声の主は遠くにいるのか、洞窟に響くリムルルの答えが完全に消える頃になって、やっと
その返事がこちらに届いてくる。
「それは・・・・・・少し悲しいけど、それでみんなを守れるならそれでいいって思う」
(にいさまもねえさま達も助かって、自分は死んで、それで嬉しいの?)
変な事を聞く奴だなあと、リムルルはいぶかしく思いながら肩を少しすくめた。
「だって、助かったんでしょ?それでみんな助かったんでしょ?だったら、だったら!」
洞窟の奥に自分の声が弾みながら消えて行き、その代わりに、吹き抜けるようなため息が
戻ってきた。
「いないじゃない」
そしてしばしあって、よりはっきりとした輪郭のある「声」が突然リムルルの耳に届いた。
「えっ」
リムルルは闇の中に目を凝らした。だが姿は見えないままだ。「声」は暗い心の深淵から、
足音も立てずにこちらに近づいていたらしかった。
「わかる?いないじゃない、って言ってるのよ」
「え・・・・・・?」
「声」が何を言いたいのか、そしてどこにいるのか。ちっとも分からないリムルルはつい
戸惑って、頼りない返事しかできない。
「『あんた』がいないでしょう?にいさまとねえさま達、あんた無しで暮らすんだよ?」
そんなリムルルに漬け込むように「声」はどんどん迫力を増し、矢継ぎ早に攻め立てる。
「そ、それは・・・・・・でも」
「バカっ!それで共に暮らすなんてよく言うわよ!」
「共に?」
老人のくれたともし火が、怒声と変らなくなってきた「声」に反応してゆらりと揺れた。
46陸捨肆:05/01/10 02:05:08 ID:VkprKD9o
「考えてもみなよ!あんたとうさまの事忘れたの?カムイコタンに居た時のことは?レラ
ねえさまはどうして、あんたに会った時にあんなに泣いたのよっ!」
「声」は、強い語気を持って一息にそう言い放った。
その勢いをまともに受けたリムルルはぐっ胸を押し潰されるような衝撃を受け、足元だけを
頼りなく照らしていたともし火も、乱暴に揺らされて音も立てずに消えてしまった。
「あぁ・・・・・・」
途端に靴の下に地面の感覚がなくなって、元から暗かった洞窟が真の闇へと姿を変える。
リムルルの身体は暗闇に投げ出され、出口も入り口も分からない真っ暗な空間に漂った。
もがいてもあがいても、指先ほども進んでいない。そもそもどこに行こうというのか。
しかし、その落ちることも上ることも無い空間に対する恐れは不思議と無かった。無駄な
抵抗を止め、この無重力状態を半ば心地よくさえ感じるようになった頃、リムルルはどこか
に姿を眩ました「声」が最後に残した問いかけに、無意識のうちに答え始めていた。

「とうさま・・・・・・」
とうさま。少しだけ覚えている。
とうさまは強かった。大きくて、おひげだった。頭が良かった。カムイを大事にしたから
弓も罠も百発百中だった。立派だったから、どんなコタンでも認めてもらえた。いつも
一緒だった。優しかった。あったかだった。
でも、確か死んじゃった。それで、わたしが残ったんだった。
優しい顔も覚えてる。だけどとうさまの事でわたしが一番覚えてるのは、白い光に包ま
れていく大きな背中をこっちに向けた後姿と、悲しそうな・・・・・・笑顔。

「カムイコタン・・・・・・」
もちろん覚えている。わたしの暮らした場所。ねえさまに出会った場所。カムイだって
迷う森の奥にあって、川が流れてて、山に囲まれてる。
色んな人がいた。優しい人、面白い人、こわい人。


色んな事があった。修行をした。裁縫も習った。ねえさまと川で遊んだりご飯食べたりした。
たくさんの人と、たくさんの思い出・・・・・・。みんな支えあってた。一人一人に大切な意味が
あって、お互い助け合って。
47陸捨肆:05/01/10 02:08:12 ID:VkprKD9o
「レラねえさま・・・・・・」
大好きな大好きな、わたしの新しいねえさまだ。
ねえさまよりすごーく厳しいみたいだけど、わたしにはとっても優しい。いいのかなぁって
心配になるぐらいに。それに色々教えてくれる。料理とか、他にもいろいろ。
そのレラねえさまも、会った時はすごく泣いた。独りは寂しかった、って。
だからぎゅーっと抱きしめて、ずっと一緒だって約束した。

寂しそうな顔をした、とうさまの後姿。
お互い助け合っていたコタンのみんな。
ずっと一緒だって約束して、泣きじゃくったレラねえさま。

「もうわかったでしょ?」
暗闇を切り裂く白い光が突然リムルルの頭の上から射して、その向こうから消えたはずの
声が言う。
「離れたくないのなんて、独りじゃ生きられないのなんて、独りじゃイヤなのなんて、
あんただけじゃないんだ!みんな一緒に決まってるじゃない・・・・・・!」

リムルルは見上げた姿勢のまま、大きく息を呑んだ。
そうだ。
そうだったのか。ううん、そうだったんだよ。
どうしてこんな大事な事・・・・・・一番簡単な事、忘れてたんだろう。
大きな瞳全てで自分に降り注ぐ光を受け止めながらリムルルは思った。
そしてもうこんなところにはいられない、こうしちゃいられないと、慌てて辺りを見回した。
「ちょっと!落ち着きなさいよ。そんなだからこんな当たり前な事も忘れちゃうし、足元
だってすくわれんのよ」
呆れきった「声」に言われて我に返れば、空中に浮いていたはずのリムルルはちゃんと
地面を踏みしめ、しっかりと直立していた。
そしてその明るく照らされた足元からは一本の道が伸び、目の前で段に変わり、螺旋を
形作り、見上げるほど高い階段になって「声」のいる光溢れる空へと溶けていた。
48陸捨肆:05/01/10 02:08:49 ID:VkprKD9o
「ほら、あんた足の速いのが自慢でしょ?それならほら!ここまで上っといでよ!」
「い、言われなくたってわかってるよ!すぐに上ってやるんだから!!」
挑発的だけどどこか優しい「声」のする真上を指差して笑うと、リムルルは猛ダッシュで
目の回りそうな螺旋階段を駆け上がっていった。
目指す先は光、ただ一点。
高く膝を上げ、腕を振って、リムルルは何段も階段を飛ばしてどんどん上昇していく。
自分でも不思議なぐらい身体が軽くなっている。背中に翼が生えたのか、気づかぬうちに
足に絡まったままだった重い鎖が取れたのか、それは分からなかったが、声が待つ光の
世界は思っていたよりもずっとすぐに訪れた。
螺旋最後の段が見えると、リムルルは迷い無く、階段の上に浮かぶ光の塊目掛けて飛び
上がった。
地面は見ないし怖くない・・・・・・いや、地面などもう無いし、怖がる以前に落ちるはずもない。
なぜならそこは、リムルルの帰る場所ではないからだ。リムルルが進むべき道は、手を
伸ばした光の先だけである。光の向こうから伸びてきた、その光と同じ色をした温かな手を
しっかりと掴んで、リムルルは明るくどこまでも柔らかな海の中に身を委ね、そのまま
目を閉じた。


・・・・・・小さな川のせせらぎ。風が揺らす草のざわめき。久しく通らなかった自転車の音。
「そうだ・・・・・・」
閉じたまぶたをゆっくり開き、大きな瞳にまばゆいばかりの光を取り戻したリムルルは、
握った手・・・・・・肩に乗っていた老人の手指に触れながら、思い出すように話し始めた。
「みんな、離れたくないんだ。独りじゃ戦えないんだ。独りじゃ、イヤなんだ」
リムルルはゆっくりと老人の方を振り向いた。
「わたし、怖かったんだ。また独りになっちゃうのが。だけどそれは・・・・・・にいさまもレラ
ねえさまも一緒なんだね」
「うむ」
老人はリムルルの言葉に嬉しそうに微笑み、急かすことなく次の言葉を待った。
49陸捨肆:05/01/10 02:09:28 ID:VkprKD9o
「・・・・・・なのにわたし、自分だけで戦う事ばかり考えてた。わたしひとりの力なんて大した
事ないのに、全部が全部を自分ひとりで抱えようとしてたんだ。へへ、当たり前だよね!
そんな事考えてたらね・・・・・・誰だって自然と独りぼっちになっちゃうよね」
自嘲気味な笑顔で、リムルルも老人の笑みに答える。そして老人のかさかさした指を掴むと、
吹っ切れた様子で朝の空を見上げ、大きな声で言った。
「共に暮らすって事はね?たぶん・・・・・・苦しい事とか悩みとか、全部みんなで一緒に乗り
越えて、それでみんなで幸せになる事だと思う!」
老人は快活なリムルルの声の響きに一瞬目を見開き、すぐにまた細めて、ほうほうと
ひげを撫でた。
「そうか・・・・・・。それがお嬢ちゃんにとっての『共に暮らす』か」
「うん!にいさまが剣の修行をしてたのも、あのね」
太陽に照らされてかどうか、リムルルは空に向けた顔を少し赤らめ、照れ笑いを浮かべた。
「にいさまね、この前ねえさまを探しに行った時にわたしに言ったんだ。独りは誰でも
嫌だから、わたしが独りにならないように守ってやるんだって。だから一緒にいるんだって」
まつ毛をぱちぱちとしばたかせながら、リムルルは兄が言ってくれた事、忘れもしない
言葉を自分に言い聞かせるようにして老人に話した。
「守ってやるって言われた時、わたしすごく嬉しかったの。何だかね、分からないけど
・・・・・・にいさまがわたしをずっと守っていてくれたらどんなにいいかって思った」
「うむ」
ところどころ曖昧な表現しかリムルルは出来なかったが、その中にこそ老人はリムルルの
本当の気持ちの揺れ動きを感じているらしく、深く頷きながら話を聞く。
「だけどそう思ってもね、にいさまが剣を取るなんて全然考えなかった」
リムルルは老人の手を離して空から目を背け、川に向かってぽつりと言った。
「さっきも言ったけど、戦うのはわたしだっていう考え、それは消えなかったの」
リムルルの告白に、老人は意外そうな顔をした。
「ということは、お嬢ちゃんは兄上の言う『守る』ということを?」
「うん、にいさまにはね?いつも一緒にいて、わたしがもし傷ついてもずっとそばで見守
ってくれるだけでね、それで良いんだって・・・・・・刀で守るんじゃなく、わたしの心の盾に
なってくれればいいって、そう思ってた」
50陸捨肆:05/01/10 02:10:03 ID:VkprKD9o
ふと足元の草むらに何かを見つけたのか、地面に手を伸ばし、しきりに何かを探しながら
リムルルは答えた。
「にいさまには、わたしがずっとわたしでいられるようにね、そばにいてくれるだけで
良かったの。戦うにいさまの姿なんて、想像もした事無かった・・・・・・」
「左様か・・・・・・」
「でもねっ、わたし思うんだ!」
言って、リムルルは突然弾かれるように元気よく立ち上がった。
手の中には、小さめの平たい石がいくつか握られている。草むらをいじっていたのは、
どうやら何の変哲も無いそれを足元からほじくり出すためだったらしい。
「お嬢ちゃん?何を――」
老人が不思議そうに事の成り行きを見守る前で、リムルルは「ふふん」と鼻を鳴らして
にやっと笑うと、平たい石をぽーんぽーんと二回手で躍らせ、いきなりの低い構えから
川の水面に向けてその石をぴゅっと投げた。
ぱしっ、ぱしっ、ぱしぱし、ぱしししっ。
回転をかけられた石は水面を掠めるように飛んでいき、七段もジャンプする間ずっと
勢いを失わず、最後に川の中へと突っ込むようにぽちゃんと消えた。
それに構わず二投目。今度は六段。三投目。四投目・・・・・・
投げながら、リムルルは言う。
「にいさまはもしかしたらっ、わたしが考えるのと同じようにっ・・・・・・よいしょ、わたしと
一緒に生きる事のっ、意味をねっ?考えてくれてるのかもしれない!それっ!おしまい!」
結局六つも石を投げ、リムルルは驚いた顔をしている老人の横の椅子にどすんと腰かけた。
「にいさまはわたしの悩みを――わたしがこの世界に来てしなきゃいけない事をね、全部
分かって、本当に心から受け止めてくれてるのかもしれない。だからもしもね、そんな事
無いのがホントは一番だけど、にいさまが・・・・・・自分が戦う時の事を考えて、それでホント
にわたしと一緒に、戦いの中でも生き抜いて、ねえさまを一緒に探し出して、それで幸せに
なるために剣術を習ったのかもしれない。レラねえさまに剣を教えてってにいさまが頼んだ
のも、きっとわたしじゃにいさまに手加減しちゃうと思ったから、それじゃ修行にならない
から・・・・・・違うかな?」
51陸捨肆:05/01/10 02:10:59 ID:VkprKD9o
「さてさてそれはどうか」
老人は、リムルルが求める答えを知っている素振りを見せた。
リムルルは固唾を飲み、老人の口元をじっと見つめる。
「あなたー・・・・・・」 「師匠ぉー・・・・・・」
だが、川の上を行くサイクリングロードの遠く向こうから微かに聞こえた呼び声に二人の
会話がぷっつりと途切れた。時間が来たのだ。
「む・・・・・・そろそろ朝げの準備が整ったようだな。よいせっ、今行くぞ――!」
川から引き上げた竿を手早く片付けると、老人は斜面を到底お年寄りには見えない速さで
登り、家に向け張りのある返事をした。
今日は元気なお年寄りによく会うなぁと思いつつ、リムルルも椅子を畳み、老人が残した
荷物を持って後を追う。そして道路に立って畑の真ん中にある老人の家の方を見たが、
奥さんやお弟子と思しき人影は無かった。家の中から直接呼んだらしい。
「さて、そういう訳でな。家内にも示しがつかぬ故、わしはそろそろ行くが」
「あのっ、あの・・・・・・ありがとうございました!」
すぐにでも立ち去りそうな老人の雰囲気に、リムルルは質問の答えを聞く事も忘れ、慌てて
頭を下げた。
「わたし・・・・・・おじいちゃんに会わなかったら、ずっと大事な事を忘れたままだったかも
しれない。わたし、にいさまをちゃんと応援する。一緒にいられるように、一緒で頑張る!」
「そうかそうか。こんな年寄りでも役に立てたのなら本望。それにな、わしとしてもお嬢
ちゃんの笑顔が最後に見られて大変に幸福な気分だぞ?その笑顔を毎日見られるとは。
兄上や姉上が羨ましい限りだ」
「えへへ・・・・・・おじいちゃんもかっこいいよ?おひげがとっても素敵だもん」
「ほほぉ。日頃の手入れのし甲斐があるというものだな」
白い息の弾む楽しげな笑いを交し合い、老人はリムルルから椅子と荷物を受け取った。
「うむ・・・・・・有難う。よし、これで全部だ」
「えっ、おじいちゃんこれを忘れてない?」
荷物を確かめる老人に、リムルルは小さな手の中に収まったままだった白磁の茶器を
差し出した。
52陸捨肆:05/01/10 02:11:39 ID:VkprKD9o
「おっ、おお。これはいかんいか、ん・・・・・・ん」
老人はリムルルの手の平の上に置かれた茶器に手を伸ばしかけた。だが短い黙考の後、
何を思ったかその手を引っ込めると、老人は荷物袋の中から茶器を一つまた一つと取り
出し、カチャカチャとリムルルの手の上に重ね始めた。
「えっ、おじいちゃん?」
驚くリムルルに構わず、老人は指差して杯の数を数える。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・・これで四つだな。良し。ふむ、大したものでは無くて恐縮だが
・・・・・・この杯はお嬢ちゃんに差し上げよう」
「えっ!だめだよそんな、悪いですいけません、だよ」
リムルルが妙な敬語遣いで遠慮すると、老人はふっと笑って静かに言った。
「遠慮は要らん。わしはこの杯、是非お嬢ちゃんとお嬢ちゃんの家族に捧げたいのだ」
「わたし達に?」
「左様。お嬢ちゃんの家にも急須はあろう?そこでな、これを使ってお嬢ちゃんの手で
美味いお茶を家族に振舞って欲しいのだ。食事の後でも、仕事や修行の後でも構わん。
ささやかな日々の団欒、お嬢ちゃんが言う共に暮らす人々との『一緒の幸せ』の時間の
ために、わしはそれを捧げよう」
「おじい、ちゃん・・・・・・」
言葉も無いリムルルを前に老人は少し澄ました顔をして笑うと、うやうやしくこう重ねた。
「そしてその四つの杯全てに温かな家族の笑顔が浮かぶ、お嬢ちゃんの良き未来に捧げよう」
「あっ、ありがとう・・・・・・おじいちゃんありがとう!!」
自分とは直接関係無い、しかもあったばかりの子供とその家族を思いやる心優しい老人に、
リムルルは言葉も見つからぬままただただ感謝を何度も口にし、最大級の笑顔を輝かせた。
「わたし、頑張るよ!ねえさまを探すのも頑張るけど、みんなで・・・・・・みんなが幸せに
なれるように頑張る!今日の事、おじいちゃんにあった事もここで言った事も全部、絶対
みんな忘れないから!おじいちゃんも幸せになれるように祈るから!」
白い息と共に放たれるリムルルの頼もしい言葉に、老人も満足そうにひげを撫でる。
「うむ。その玉の如き笑顔と魂の輝き、いつまでも失わぬようにな」
「うん・・・・・・あっそうだ、今度わたし達のおうちに遊びに来て!お茶、ご馳走するよ!」
53陸捨肆:05/01/10 02:12:57 ID:VkprKD9o
「はっはははは!それは有難い。わしの魂が、いつかお嬢ちゃんの魂に再び惹かれる事が
あれば、自ずと足もそちらに向かおう。そう・・・・・・あの兄上のようにな」
からからと笑っていた老人が、リムルルの背中の後ろ、公園の方へと続く道に目を移す。
リムルルがつられて振り向くと、遠く向こうからよろよろと頼りない足取りで走りながら、
こちらに近づいてくる人の姿が見えた。
小さくたって、あれが誰だが分かる。もしかしたら顔を隠していたって。
「ああっ!にいさまだ!」
「さらばだお嬢ちゃん――いや、美しき大自然の戦士よ」
「えっ?なん・・・・・・うわぁっ!」
なぜ自分の正体を知ってるのか。そう尋ねようと老人の方に振り返ったリムルルの前に、
薄いパジャマでは防ぎようの無い冷たい風が突如として吹き荒れ、枯れ草をちぎりながら
遥か上空へと緑色の渦を巻いて昇ってゆく。
「うぅぅ〜ッ!おっ、おじいちゃんっ!?」
吹雪に似た冷たさと驚きに、反射的に目をつむったリムルルが老人の身を案じて叫ぶと、
最後に緑色の風はごうっと空の真ん中に吸い込まれるような音を立てて虚空へと消えた。
老人との触れ合いで安心しきっていたリムルルの不意をつくよう異変。それが過ぎ去った
事を耳と肌で確認し、リムルルは目を開けて辺りを見回した。だが、老人の姿はどこにも
見当たらず、畑の向こうに鎮座していた立派な平屋までもが消えていた。
「おじいちゃん・・・・・・」
道端に残されたのは、風に揉まれたせいで鉢巻を失いどてらとパジャマを肩からだらしなく
ずり下げて立ちつくすリムルルだけだった。
54陸捨肆:05/01/10 02:13:29 ID:VkprKD9o
――もしかして、夢だったのかなぁ。
リムルルはそう思わずにはいられなかった。
都合よく現れた、あまりに立派で親切な老人、魂を見透かすちから、真っ暗な洞窟と
自分の中のもう一人の声。そしてやっぱり最初から感じていた違和感通りの、幻だった
老人の家。
一連の出来事を夢と思わせるだけの要素は揃っているといっても過言ではなかった。
だがそれでも、全ては現実の世界でリムルルの身に起こったのだという証拠がポケットの
中には残されている。
老人との特別な時間が存在した確固たる証――小さくて冷たい四つの杯。
リムルルは確かにこの川辺で老人と出会い、悩み、そして活路を見開いたのだった。
「おじいちゃん、ありがとう・・・・・・」
リムルルは手探りで杯の一つをポケットから掴み取り、両手でぎゅっと握りしめ、自分の
上だけに、それこそ自分のためだけの様にぽっかりと曇り空の中に開いた青空に向かって
言った。
55陸捨肆:05/01/10 02:26:23 ID:VkprKD9o
待っていてくれた人もそうでない人も。住人の皆様ご無沙汰してます。
「前スレ64」改め「陸捨肆(ろくじゅうし)」です。新スレ新年おめでとうございます。
流石に「前々スレ64」は無いんじゃないかと思ったのでこういう名前になりました。

ただ今自分、卒論の真っ最中です。再会は来月になると思います。スンマセン。
4章はあと2回の投稿で終了の予定です。ではまた2月明けに。失礼します。
56名無しさん@ピンキー:05/01/10 08:17:39 ID:DIgFgzo5
にいさまキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
57名無しさん@ピンキー:05/01/10 12:18:57 ID:FLovYUkc
じいさま、ウンピかと思ってたけど、
侍魂に全然関係ない人とは思わなかったw
58名無しさん@ピンキー:05/01/11 19:30:59 ID:cya/Yz6E
そこで守護霊ですよ
59陸捨肆:05/01/11 22:30:03 ID:RtRCe7J9
およよよ・・・爺さんは一応雲飛のつもりでございます(;´Д`)スンマセン
ちょっと分かりづらかったですかね。近々もう一度出てきますんで。
60名無しさん@ピンキー:05/01/12 06:55:14 ID:PKbwMLzB
ウンピース
61名無しさん@ピンキー:05/01/12 13:29:46 ID:huSf2Fdr
卒論ガンガレ
62名無しさん@ピンキー:05/01/13 02:16:51 ID:+RoOIOzo
茶碗よっつかぁ・・・
コウタ、レラ、リムと。
あれ?一個多いな。
コンルのものか?

あ、そうだ。コンル編の続きまだー?
63名無しさん@ピンキー:05/01/13 05:34:21 ID:iTsSLeiV
>62
ナコじゃね?
64名無しさん@ピンキー:05/01/13 10:40:57 ID:2UXTCHlp
ナコルルみつかったらにいさま幸せ者だな、ハーレムですよ

世間知らずを3人抱えて苦労はしそうだが
65名無しさん@ピンキー:05/01/13 13:34:46 ID:CM0DrGYN
え?だって、レナとナコって同じ人物なのに…
66名無しさん@ピンキー:05/01/14 17:50:24 ID:gWYlqGfK
>>57
どう読んでも雲飛にしか思えなかったんだが…
67名無しさん@ピンキー:05/01/14 21:51:13 ID:pIjtr/A1
釣りだろ
68名無しさん@ピンキー:05/01/16 21:34:35 ID:x6tdOo6H
ヌルポ
69名無しさん@ピンキー:05/01/17 19:26:39 ID:1r8J2mGd
ガッ
70名無しさん@ピンキー:05/01/18 18:50:15 ID:e8KIC5yH
保守
71名無しさん@ピンキー:05/01/18 20:12:18 ID:X+utLId6
俺は最近のサムスピやってないからニコチン一択だった

たぶん描写されてないところで「ありゃ腰抜けた」とか「炎符」とか言ってんだろなーとか思ってたさorz
72名無しさん@ピンキー:05/01/22 00:22:37 ID:Y8oVim74
俺もニコチン好きだった。でっかいお札が格好良かった。
73名無しさん@ピンキー:05/01/23 12:23:46 ID:G0350LeE
黒子とミヅキが強かったなぁ
74名無しさん@ピンキー:05/01/24 02:49:26 ID:mQsXCDdA
真サムはとにかく牙神
よくしゃべるよなホント

どりゃあどりゃあ
75名無しさん@ピンキー:05/01/24 20:15:19 ID:EIF4eqa4
遊郭で遊女とセックスする時も、幻十郎は
「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ! どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!」と叫んでそうだ。
76名無しさん@ピンキー:05/01/25 01:07:02 ID:Gg2Jv96h
秋葉原のゲーセンには今でも真の対戦台があるね。
隣に並んだゼロSPやってると
「キサマなどに屈するとはぁ!」
幻ちゃんがあの独特のヴォイスで叫びまくりw

でも真は、はじめて見た時は感動したな。
オブジェクトの壊れ方(ススキや竹)とか、
ガルステージのぐるぐる回るサメとか樽の中身とか。

実はリムルルはあの樽の中に入ってナコの後を追(ry
半分にぶった切られそうになって黒ひげみたいに飛び出(ry
77名無しさん@ピンキー:05/01/25 15:04:46 ID:yuGGFZwP
「ほーら…閑丸のチンチンが、マ○コにハマりそうだよ〜ホラ…あと数センチ…」
「やめて!…あァ!」
「ああ〜!ハマっちゃった。子供同士でセックスしちゃった。あ〜あ」
「いや…いやァ!」
「わたしのマ○コに閑丸のが…グイグイ突き上げて…やっぱり童貞だね」
「リムルル…正気に戻って!…僕たちまだ子供なんだよ!しちゃいけない事なんだよ!」
「…もう後戻りできないよ。ほ〜ら生セックスだよ。中出しさせてあげるね」
「り…リムルル…駄目だよ、赤ちゃんできちゃうよ!」
「できちゃうからいいんだよ…ほら『マ○コいい、リムルルのマ○コいい!』って言ってみてよ。ホラァ」
「うあっあっあっ…駄目…締め付けないで!…あっあっ…もしできちゃったらどうするの…あァ!!」
「相変わらず心配性だね。ふふ…(グチュッグチュッ)…この肌の馴染み具合ときたら…(グッグッ)わたし達って、相性抜群だよね?…くぅ〜!」
「ああーっ!ああーっ!…あは…リムルルの中に出たり入ったり…いけない事だよ!凄くいけない事なんだよぉ!」

78名無しさん@ピンキー:05/01/25 15:05:46 ID:yuGGFZwP
「いいかげん諦めようよ…(ドスッドスッ)…ああ…(ジュッジュッジュッ)ほら、無理しないでイッちゃえ」
「駄目っ駄目っ駄目っ!!…あァは!…精液出ちゃうよ…抜いて!抜いてぇ!!」
「あー(ビュビュ)あー(ビュ!)あーもう手遅れ。(ドクドクドクッ)出ちゃった。今も出てる最中。(ゴプゴプッ!)あ〜あ」
「いやぁ!馬鹿、馬鹿ぁ!!うあ…ほんとに抜かないなんてなんて…バカァ!」
「ふー。あーまだ出るわ(ドプッ…ドプッ)閑丸のチンポってこんなに良いんだ…こりゃ手放せないね〜」
「グスッグスッ…どうしよう…どうしよう…」
「あーやば。閑丸の泣き顔見てまた濡れてきちゃった。チンポ立ててチンポ!まだまだするんだから」
「あ!…や…ぁ(ニュルン)あん!…またしちゃうのぉ…グスッ…ナコルルさんにバレたらどうしよう…」
「心配ないよ。仲が良い分には何にも言わないって」
「避妊なしでするのは凄くいけないことなんだからね!…それが分かってるなら…その…いいけど…」
「なんだかんだ言って閑丸もその気なんじゃない?…それじゃこれから毎日、繋がりまくりだね。色々試してみるよ!」
「……い、いけないことなんだから、あんまりHなのは駄目だよ」
「なにそれ?ほらぁ。…(グチュ!グチュ!)これがすんだら、次はお風呂だね。ソープごっこするよ!」
「(ああ…ナコルルさんごめんなさい…でも…ああん…気持ちよくってたまんないよぉ…)」

79名無しさん@ピンキー:05/01/25 18:45:26 ID:8c2MLgy+
続きは?(*´∀`)
80名無しさん@ピンキー:05/01/29 15:36:28 ID:RsMx8Xnz
…で、真っ当な閑リム小説マダー?
81名無しさん@ピンキー:05/01/31 14:46:55 ID:ZtqK7XSx
保守ろう
前スレより下ってありえなくないか・・・?
というか埋めようぜ
82名無しさん@ピンキー:05/01/31 15:30:16 ID:sV+DJJmD
上げてみるテスト。
83名無しさん@ピンキー:05/02/02 11:48:22 ID:5Mxr6oDk
リムルル
84名無しさん@ピンキー:05/02/02 12:04:07 ID:WLwWYk3E
閑丸
85名無しさん@ピンキー:05/02/02 12:11:10 ID:AbihznL+
リム閑とアクシズって似てる
86名無しさん@ピンキー:05/02/07 02:42:22 ID:Ff8owjBr
ほしゅ
87名無しさん@ピンキー:05/02/12 01:35:37 ID:m4HCbrDw
hoshu
88名無しさん@ピンキー:05/02/12 15:29:24 ID:/quJvDTl
寂れてるねえ…
89名無しさん@ピンキー:05/02/12 16:39:33 ID:DEKzBKD2
しかたねぇさ
実質一人の職人によって支えられてるスレだから




外道の人は・・・どうだろうな・・・
90名無しさん@ピンキー:05/02/13 01:51:14 ID:VDwkLr4K
俺はまだ201氏をあきらめてはいない
91名無しさん@ピンキー:05/02/15 20:58:31 ID:P/7/7wVN
保守
92名無しさん@ピンキー:05/02/17 14:10:13 ID:OqqsopHy
皆にいさま×リムの方が好きなのかね…

正直、ギャルゲのやり過ぎじゃねーのって感じで引く。
93名無しさん@ピンキー:05/02/20 01:20:29 ID:ChSHWlnM
じゃあ見るなよ
94名無しさん@ピンキー:05/02/20 19:00:36 ID:mJFpmnOr
何か誤解があるようだな。私は「にいさま」が「にいさま」であるからこのカップルが好きなんだ!
閑丸好きなのも良かろう、だが他人の好みに文句をつけるんじゃぁないッ!
文句が言いたければ無言の行動で示すがよい、そう、このスレを貴公のSSで埋め尽くすのだ!
……というわけでなんか書いてくださいお願いします。
95陸捨肆:05/02/22 00:35:57 ID:RhTI1IQh
約一ヶ月ぶりですね。卒論を何とか脱して参りました。

唐突ですが、今回から投稿には保管庫の「アップロード掲示板」を
使う事にしました。管理人さんに話を通したところ、投稿の方法に
よらず今後も変らず保管して頂けるそうです。有難い事です。
アドレスは>2に書いてある通りです。早速、続きをアップしてあります。
後から保管もされるとは思いますが、すぐに読みたい方はどうぞ。
クリップマークをクリックすると、txtファイルが表示されます。

今後はアップロードしたら、ここに通知しようと思います。
96携帯ユーザー:05/02/22 01:43:08 ID:C6AGyLYT
エエエェェェ(´Д`)ェェェエエエ


終わった…orz
97名無しさん@ピンキー:05/02/22 14:00:47 ID:OOjJecrt
いつのまにやらレラがギャグキャラにw
98陸捨肆:05/02/23 16:03:49 ID:hcD3WXiy
>携帯ユーザー
しまった!そういう方もいらっしゃるわけですね・・・。
ただ、何というか、自分の書くSSがこのスレの主旨に
そぐわない物になってきている気がするものですから。
他の職人さんがいたとしても、自分のSS見たらスレに落とし
づらいだろうと思いますし、アップローダーを使えばスレの
容量削減にもなります。
そういうわけでアップローダーもありかな、と思ったのですが。
今までどおりの方が良いんでしょうかね?

>97
レラは動かしやすいですよw
99名無しさん@ピンキー:05/02/23 19:49:32 ID:StcEwWLb
容量削減てw
そんな気にするほどでも無いだろうよ
100名無しさん@ピンキー:05/02/23 20:48:21 ID:7HdPmO6H
今日リムにいやんを全部読んだ
レラ(*´∀`)エロス

容量削減してたら落ちそうですよ
101名無しさん@ピンキー:05/02/24 00:05:02 ID:JmKlgtZL
まあ早い話が
そんな殺生な。・゚・(ノД`)・゚・。

               by PC持ってない原始人
102陸捨肆:05/02/25 01:40:02 ID:bPjMGIWz
「おぉ〜〜〜い、リムルルぅ〜〜っゲホッエホッ!ぐえ、リっ、リムルル〜〜!!」
やっとの事で俺はサイクリングロードの真ん中に突っ立っているリムルルの後姿を発見し、
咳混じりのありったけの大声でその名を叫んだ。
眩しい光の中、最後にリムルルが公園から消えた方向から、走っていったのは恐らく
サイクリングロードではないかと踏んではいたのだが正解だったらしい。
「ひー、ひぃー、リムルッゲホホーッ!」
俺はリムルルに突き飛ばされた後、しばらく動く事が出来なかった。何せあの衝撃ときたら、
地面にアメリカのカートゥーンばりの俺の人型が出来上がる程だったのだ。
そこから何とか立ち上がって追いかけたものの、いかんせん動けなかった時間が長すぎた。
その間にもリムルルはどんどんと道を下っていたのだから、激しい修行の後に居残りマラ
ソンを命ぜられたようなもので、確実に襲い来るであろう壮絶な筋肉痛を思い浮かべて
憂鬱になりながら、右に左にふらふらと走る事20分、ついにここまでやって来たのだ。
「はぁー、はぁー、や、やっと・・・・・・追いつい・・・・・・た。ぐはっ」
リムルルの背中にたどり着くや否や、俺は道端にどすんと尻餅をついた。膝までどろんこ
になったジャージがみっともない。もっとも、さらにみっともないのはリムルルの格好だが。
「リムルル・・・・・・はぁ、ひぃ、なあっ、リムルル・・・・・・」
俺は落ちつかない呼吸の合い間をみては、リムルルの名を呼んだ。だが、返事も無ければ
こちらを向いてもくれない。ずり下がったどてらと、そこから覗く肩は深い失意を感じさせ、
どこからか枯れ草が舞う中に独り佇む寒そうな背中は、頑なに沈黙を守るばかりである。
公園に姿を見せた時は確かに頭を飾っていた鉢巻もどういう訳か解かれていて、まとまりを
失った、少し癖のある茶色がかった後ろ髪が寒風に撫でられては横に揺れ、それが俺には、
リムルルが首を横に振り続けているように見えた。
まるで俺が話を始める前から、その全てを否定するかのように。
103陸捨肆:05/02/25 01:40:53 ID:bPjMGIWz
「あ――、その、何つうか・・・・・・リムルル。本当に悪気は無くて、その・・・・・・」
走って追いつく事だけを考えていた俺に、どんな言い訳が思いつくはずがあるだろう。
露出した自分の愚かさが、寒風にさらされ身に染みる。
リムルルと、いつまでも。
昨日、あの夕陽に思った事が、遥か遠く昔の事のように思い出される。
これこそがたった一度の、そしてその一度さえも犯してはならない失敗だったのか。
やっぱり、許されなかったのか。
俺は思い上がっていただけだったのだろうか。
リムルルの心は、俺から離れつつあるのだろうか。それとも、元から――
「ごめん。俺はただ・・・・・・リムルルがさ、大事で、一緒にいたくて」
手を伸ばして背中からリムルルを抱きしめる事も出来ぬまま、気づいた頃には遠ざかる
彼女の気持ちに向かって、俺は必死に本心を伝えていた。
「ずっと一緒に・・・・・・いるためにな?俺は、弱いけど、リムルルを・・・・・・」
もう一度、振り返ってもらおうと。
「俺は、俺はリムルルを守りたい!絶対離れたくないんだよ!だから」
「にいさま、ありがとう」
空から枯れ草が舞い落ちる中、リムルルはくるりと振り返って静かに言った。
泣き顔でも怒り顔でもなく、少しはにかんだ笑みを、鉢巻の支えを失って垂れ下がった
前髪の奥で輝くつぶらな瞳に浮かべて。
「さっきはわがまま言って、ごめんなさい!」
リムルルはぺこりと頭を下げた。
「わたし、にいさまの言う事全然聞こうとしないで・・・・・・それでこんな所まで来ちゃって」
予想の斜め上、急に文字通り「大人」しい態度をとるリムルルに、俺は戸惑った。
「えっいや、いいんだ。その、だから俺も悪かったんだよ。何も言わずに出て行っちゃって。
リムルル、寂しかっ」
驚きながらも謝るチャンスを失うものかと、言いかけたその時だった。
104陸捨肆:05/02/25 01:42:17 ID:bPjMGIWz
「違うよ、寂しくないよっ!」
リムルルはどてらのポケットから白い何かを取り出したかと思うと、俺の唇にかぽっと被せ、
俺の言いかけた言葉を口の動きごと奪った。
「むぐぅ?」
良く見るとそれは、日本酒を一杯あおるのに丁度良いぐらいの大きさをした、見た事の
無い白い杯だった。少なくとも俺の持ち物ではない。
目を白黒させていると、リムルルがこちらをじっと見つめながら言った。
「寂しくないよ、もう。・・・・・・だってね、これからもずっと一緒だから」
杯をポケットに戻し、今度は何も持たない見慣れたリムルルの手が座り込んだままの俺に
差し出される。
「リムルル・・・・・・その、俺は」
「もう、そんなイチイチいいから!にいさま早く立ってよ!またお口塞いじゃうよ?」
「あ、あぁ!ごめん」
前髪を揺らしながら屈託無い顔をするリムルルは、本当に今朝の事を許してくれたらしい。
それならと俺はリムルルとの絆が解けぬように願いつつ、しっかりとその手を握り、立ち
上がった。握手の感触が普段と違う。リムルルの握力がいつも以上に強く熱く伝わってくる。
だが、違ったのはそれだけではなかった。前髪を下ろしただけでどこか大人びた雰囲気を
纏ったリムルルが、固く繋ぎあった手を見ながら言った。
「こうやって手を繋いでてもね、もし離れちゃってても・・・・・・絶対一緒なんだから。ずっと
一緒に、共に・・・・・・暮らすんだから」
それは静かだったが、強く深い確信と願いが込められた声に聞こえた。
「さっ、行こっ!にいさま!!」
だが大人だったリムルルは一言だけ残して変身を解いてしまったらしい。すぐにいつもの
リムルルの顔と口調に戻って、取り残されかけた俺の手を勢い良く引っ張って家路へと導く。
105陸捨肆:05/02/25 01:43:06 ID:bPjMGIWz
「な、なあ?」
問答無用に俺を引きずりながらずんずんと道を上るリムルルに、俺は後ろから声をかけた。
「なーあーに!」
声もうきうき、リムルルは弾んだリズムをつけて背中で答える。
「あ、いや。何でもない」
これ以上なんやかんやと聞くのは女々しいと思い、俺は質問をやめた。
「でもちょっと待て、その格好マズいからさ・・・・・・ほら、リムルルこれ着なさい」
質問の代わりに俺はジャージを脱ぐと、リムルルに差し出した。
「えっ、寒いよ?」
「大丈夫だって。俺、ずーっと走りっ通しで汗だらけだから。それにまだ歩くしな。ここ、
海の方に学校があるんだよ。だからもうすぐ自転車も増えるからよ、ほら、早く」
「う、うん!ありがとう」
ジャージを前に迷いを見せるも、リムルルはどてらを脱ぎながら、そのポケットからさっきの
物と同じ杯を四つも取り出してパジャマのズボンのポケットに移すと、俺のジャージにすっと
袖を通した。腕丈が余りすぎて手と指が全然出ないので、俺がジッパーを上げてやる。
「そのカップ、何なのさ」
「さっきね、親切なおじいちゃんが、あっ、えへへ・・・・・・」
何となしに聞きながらジッパーを上げ切ると、リムルルがどてらを抱える余りに余った袖を
ぶらぶらさせながら、いきなりえへえへとやたら緩んだ顔をした。
「うん?何かおかしいのか?」
「ううん。このジャージあったかで、お風呂の時のにいさまの背中の温度がするから、えへへ」
「あ・・・・・・あぁ、そうか」
「うん。何だか嬉しくてね。温かくて、それににいさまってやっぱり大きいんだね。ほら、
こんなにぶかぶか。何だか尊敬しちゃうよ。わたしよりずっと長く生きてるんだもん・・・・・・」
お尻が全部隠れるぐらいにだぶついたジャージに包まれて笑う、愛しい笑顔。
俺の体温が嬉しいのだと、その笑顔は言う。
さっきだってあれだけ手を取り合っていたはずなのに。
俺のジャージの大きさに尊敬するのだと、その笑顔は言う。
どてらを着ていたのだから、そんなの分かり切っていたはずなのに。
106陸捨肆:05/02/25 01:43:54 ID:bPjMGIWz
小さくて、可愛くて、少しずつだけど大人になりつつある、俺の愛する人。
一瞬離れかけた心同士はまた近づいて、前に比べて硬く結びついたと感じる。
人生に試練はつき物と言うが、リムルルとだけはもうこんな事は二度とごめんだ。
「リムルル」
心の中がリムルルへの愛しい気持ちだけでいっぱいになって、他の事はもう何も考えられ
なくなって、そっと名前を呼びながら俺はリムルルに近づいた。
そして手を広げ、ぎゅっと抱きしめた。やわらかで軽い・・・・・・

どてらを。

「ぶー!残念でしたぁ!あははは!」
素早くどてらだけを残して俺の腕の中から忍者のように消えたリムルルが、笑い声を弾け
させながら道をたったと走っていく。
「にいさま変なのー!どてら抱きしめちゃってるー!あははは!!」
リムルルが言うとおり、俺はどてらだけをさも愛しそうに抱えていた。それこそ胸の中で
潰れるぐらいに、だ。
リムルルは間抜けな格好で立ち尽くす俺がすぐには追いつけないだろうという距離まで
逃げると、こちらを振り返った。
そして手でメガホンを作ると、大声で叫び散らした。
「皆さん聞いてくださいっ!にいさまはどてらが大好きでーす!おかしいでーす!!」
「だっ、こら!リムルルっ!アホ!やめろっつの!!」
川の対岸まで聞こえそうな大声。俺はリムルルのあまりの仕打ちに本気で顔から火を出し、
底を突きかけた体力だけで小さな背中をどたどたと追いかけた。
「わー、どてら大好きのにいさまが怒ったぁ!逃げろっ!!」
小学生みたいな事をわざとらしい大声で叫びながら、リムルルはきゃーっと逃げていく。
107陸捨肆:05/02/25 01:44:50 ID:bPjMGIWz
――素直に抱きしめてもらえばよかったのになぁ、わたしのばか!

リムルルには何で自分がこんな事をしているのか、自分でも分からなかった。
抱きしめてもらえば、きっと何か、もっと深い所で分かり合えたのかもしれなかった。
兄の真剣な面持ちに、そう直感していた。
だが、その自分へと向けられた純粋すぎる兄の纏う雰囲気に、リムルルは急に耐えられ
なくなってしまった。強すぎる眼差しを受け、心臓がどくんと高鳴ったと思った時には、
リムルルは身代わりを残して一目散に逃げてしまっていた。そして意地悪な言葉を、兄を
困らせるような冗談を連発していた。しかもかなりの大声で。
――今日のわたし、やっぱりちょっと変だよ!
兄に追いつかれないよう、結構な速さで走りながらリムルルは思う。
説明のつかない、自分の本心とはかけ離れた行動だった。だけどそうせずにはいられない。
もし言い表すなら、「失礼。突然ですが、ちょっと意地悪したい気分になったのです」。
そうとしか言いようが無い。本当に心の中に降って湧いた気持ちに従っただけだった。
ポケットの中の茶杯が、リムルルが走るたびにかちゃかちゃと軽快な音を鳴らす。
リムルルは走って逃げながらも、顔全体で笑っていた。白い息は幸せなだけぽんぽんと
口から弾んだ。本当に、嬉しかった。
兄は、へとへとになってもここまで追いかけて来てくれて、あれほど身勝手な態度を取った
妹の自分を許し、迷う事無くリムルルが知りたい事全部を話して聞かせてくれたのだから。
リムルルとずっと一緒にいるために、本当の意味で守るために、剣術を習うのだと教えて
くれたのだから。やはり、心は通じ合っていたのだ。
しかしそれを聞いてはしゃぎ回りたいぐらい嬉しい反面、リムルルは同時にとても申し訳
無く、辛い気分にもなった。
老人が言っていたように、この世界には、少なくともリムルルと兄の周りには戦いという
ものは存在しない。遠く海を越えたどこかではまだ争い合い、血を流している人々がいると
兄は言っていたものの、それもリムルル達には直接関係の無い話だった。
108陸捨肆:05/02/25 01:45:32 ID:bPjMGIWz
そんな戦いの無い世界に、姉探しという全く個人の理由で剣を持ち込んだのはリムルルだ。
そして偶然にもこの世界で自分を救ってくれた兄は、その自分の領域に足を踏み入れよう
としている。全く戦いを知らない人が、義理の妹のためだけに危険に近づこうとしている。
平和な人生を捨て、命まで賭して。
兄を想えば想うほどリムルルは幸せであり、辛くもあった。心は躍りながらずきずきと
痛みを訴えた。
そんな兄を想う気持ちの膨らみに合わせて歩調はだんだん遅くなり、リムルルはついに
立ち止まってゆっくりと後ろを振り返った。ポケットの中で刻んでいた杯の爽やかなリズム
が、一段高い音を発してぴたりと止んだ。
雲を乗り越えた朝日が輝く冷たい空気の中、冗談ぽい怒りの形相を半笑いの中に混ぜた兄が、
もたもたと走ってこちらに近づいてくる。苦しそうな息をしながら、何かを大声で言って
いる。どてらを小脇に抱え、もう片方の手に掴んだ枯れススキをぶんぶん振り回している。
その時、こちらに近づく兄を瞳に映したままのリムルルに、空白にも似た瞬間が訪れた。
嬉しいとか悲しいとかそういう感情ではなく、一緒にいたいとか離れたくないとかそういう
理屈とも違う何かが、怒涛のように迫り来る瞬間だった。
その「何か」は勝手にリムルルの胸を高鳴らせ、頬を赤く染めさせ、異常なまでに兄を
求めさせる。視野を狭まらせて兄と自分しか見えなくする。兄しかいない世界に自分を
置き去りにする。兄の身体にいつまでも触れていたいと思わせる。兄の肌着の匂いに
頭を痺れさせる。兄と仲良くする姉に嫉妬にも似た感情を抱かせる。
傷つこうとしているにもかかわらず、そんな兄を止めたいと思わせなくする。
そして今、あらゆる歯止めを効かなくさせるその何かが訪れた瞬間の後、リムルルは兄
めがけて走り出し、気付いたときにはその大きな懐に自ら抱きついていた。
兄は何か言っていた。抗議しているようだった。
それでも数秒もすると言葉を止め、自分をぎゅっと抱き寄せてくれていた。

静かだった。
静か過ぎて、恥ずかしいぐらいに止まらない胸の高鳴りが、世界中に聞こえていそうだった。
でも兄と自分しか世界にはいないのだから、リムルルには何の不安も無かった。


・・・・・・・・・
109陸捨肆:05/02/25 01:47:20 ID:bPjMGIWz
「うううう〜〜!シクルゥ、見た聞いた?シクルゥ、聞いた見たわね?」
二人が手を繋いで去っていった道の横、群れ生い茂る背の高い枯れススキ。
その根元が、がさごそと揺れたかと思うと、家に戻ったはずのレラとシクルゥ、それから
リムルルとはぐれたコンルが顔を出した。
「リムルル、リムルル!嗚呼!立派になって!そうよ、私達はいつでも一緒なんだからね!」
カモフラージュのために頭と両手に装備していたススキを道端に打ち捨てて、レラはおん
おんと涙と鼻水を大量に流しながら、どこからか取り出した白い手拭いをぎーっと噛んだ。
シクルゥはといえば、レラの手で背中にススキを幾本も突き立てられていて、不憫なこと
この上ない。まるで剣山の様になった姿のまま、ふらふらと歩道に出たレラに続いて迷惑
そうに立ち上がると、体を何度も震わせてススキを背中から取り外す事に専念している。
コンルもススキでぐるぐる巻きにされ、空飛ぶ昔の納豆状態だ。
「共にっ、暮らずっで事は・・・・・・ずびっ、苦しみと悩みっ、ずるっ、全部一緒に・・・・・・
乗り越えでっ、ずるるる、ぞででびんだでじあばぜぢ・・・・・・おろろろろろぉ〜〜ん!!」
通行人がいないのをいい事に、レラは道の真ん中でリムルルが老人に言った言葉を繰り
返しては、この地方の平均降雨量を遥かに超える勢いで感涙の雨を降らせ続けた。
「頼り無いと思ってたのに、あんなに、あんなに真っ直ぐで強い、こっ、心を・・・・・・!」
なかなか取れないススキに混乱し、ぐるぐると自分の尻尾を追い回して不自由にしている
シクルゥの背から伸びたススキをぶちぶちとむしりながら、レラはさらに顔を歪めた。
「あの御老人!明らかに人間じゃないし物騒な雰囲気だったけどっ、感謝するわ!リムルル
の良い所を引き出して下さったんですからねっ!コウタも感謝なさいよっ」
感謝しつつも、乾く事の無いレラの涙腺からは、だばだばと涙が流れっぱなしである。
110陸捨肆:05/02/25 01:48:04 ID:bPjMGIWz
それは大自然の戦士らしからぬ姿だったが、シクルゥもコンルも、いつになく感情を露に
して喜ぶレラの姿はどうしても憎めないし、彼女も戦士である以前に自分達カムイの同胞
だということも分かっていたから、特に何も言わぬまま、レラが自分達の身から枯れ草を
取り払ってくれるのを黙って待っていた。
何しろ地面に池が出来そうなぐらいの涙の分、レラはリムルルの事を思っているのだ。
だがそうしてシクルゥがレラからふと目を離したその時、悲劇は起こった。
「キャイィィン!?」
枯れ草をむしられたのとは違う、尻尾の根元に強烈な痛みと妙な喪失感を感じて、シクルゥ
はもんどりうって倒れた。
「えっ?!」
突然のシクルゥの悲鳴に驚いたのはレラである。
手に握っていたススキを宙に放り投げ、身体の回転で涙をちぎり、隙だらけになっていた
気持ちを慌てて尖らせ、空気の流れに異変が無いかと気を張り巡らせる。だが、背を向けた
シクルゥが発する、混乱からとげとげしい怒りへと変りつつある感情以外は何も感じられない。
「シクルゥ?何も無いわよ?」
背中越しに問う。だがシクルゥは構えを解かない。何か自分の方を見て、牙を剥き出しに
屈み込んでいる。
「シク・・・・・・ルゥ?」
一体全体どうしたのだろう。なぜか少し涙目になっているシクルゥの目を見つめていた
レラがそう思っていると、自分が高く放ったせいで、さっきから頭の上から落ちてきて
いるススキに紛れて、細い、何か別なものが漂ってきた。
左手の指で摘んでみる。見慣れた銀色の毛。
そしてなぜかそれと同じ毛が、もう片方の手の指の間にごっそりと。
111陸捨肆:05/02/25 01:48:53 ID:bPjMGIWz
「あららっ、えっ、あっあら・・・・・・尻尾の毛!?」
「ぐるるるるるるぅ」
これを見ろとばかりに持ち上げられたシクルゥの尻尾の根元は、見事に禿げ上がっていた。
「あ、ああ、あ」
レラの右頬が引きつる。
「あのっ、シ、シクルゥ、あの、ちょ・・・・・・シクルゥごめんなさいっ!」
「ぐあぁぁおっ!」

この後、尻尾の一部の毛をごっそり失った大きな犬が、もの凄い勢いで若い女性を追い
掛け回し、宙を漂う枯れ草の塊がその後を追うという怪奇現象が、川辺のサイクリング
ロード上で多数の高校生達に目撃されたのは言うまでも無い。
112陸捨肆:05/02/25 01:51:08 ID:bPjMGIWz
今までどおりやっていきます。どうもお騒がせしました。
113携帯ユーザー:05/02/26 01:48:26 ID:eg6YmPkv
ありがとう、マジで。
114名無しさん@ピンキー:05/02/26 09:17:42 ID:tBmeY5PU
>>112
そんなあなたがだいすきさ
115名無しさん@ピンキー:05/02/27 12:02:34 ID:5dLrdR3/
>>112
萌え
116名無しさん@ピンキー:05/03/02 15:37:38 ID:1RZ6daU0
保守
117新人567:05/03/02 23:37:59 ID:K8UzaXlq
まだガオウと言う敵がジャパンで戦を起こしていたときの話である。
まだナコルルに恋をする前の話である。
まだまだ未熟だった当時、そして初恋の女性・・・



サムライスピリッツ「初恋物語」



琉球王国、とても静かな所である。戦いを終えた一人の青年が歩いていた。
服装は青い忍者の格好。髪の色は金髪、日本人ではない。
そして、日本の忍者、服部半蔵のような忍者を目指す為に彼は日々修行を続けていた。
彼の名前はガルフォード・・・
だが、彼の傍にいるはずの相棒はいなかった。
「パピー・・・」
自分をかばって命懸けで助けてくれたパピー。
パピーを助けてあげられなかった自分が許せなかった。だからもっと強くならなければいけない。
その時彼は何か嫌な匂いを感じた。
「血の匂い!!」
誰かがケガをしているのか?周辺を見回す。次の瞬間、彼の目に映ったもの・・・
二つの物体。それは大きな化け物と一人の小柄な女性だった。だが二人とも倒れていた。
巨大な化け物が弓を何箇所か討たれた状態で倒れてた。体中からはドス黒い血が流れている。
その時だった。みるみるうちに化け物の体が小さくなり、かわいらしい小動物の姿になった。
だが、苦しそうに息を吐いたかと思うと次の瞬間その動物は二度と動く事はなかった。
そしてそのまま崩れるように、そして煙のように小動物の姿は消え去った。
ガルフォードはもう一人倒れている女性を見た。背中に切り裂かれた痕がある。
さらに、背中から大量の血が流れていた。
118新人567:05/03/02 23:38:37 ID:K8UzaXlq
しかし動く気配は無い。だがガルフォードは驚いた。服装があまりにも軽率すぎる。
ガルフォードはその女性に近づく。
「NO・・・間に合わなかったか?」
ガルフォードが彼女の胸に耳を当てる。しかし奇跡が起きた。
かすかだが心臓の音がした。迷わずガルフォードは動く。
「まだ、息がある。すぐに手当てしなければ」
すぐにガルフォードは彼女の手当てを始める事にした。



「う、う〜〜ん」
「OH!気が付いたみたいだね」
「こ、ここは?」
「君が倒れていた所から少し離れた先にある小屋の中さ。誰も住んでいないみたいだから勝手に使わせてもらったよ」
そう言いながらガルフォードは女性に声を掛ける。
「どうしてですか?」
「えっ?」
「どうして私を助けたんですか!!!」
「な、ななっ?」
意外な彼女の発言にガルフォードは驚いた。
「私を、どうしてあのまま私を死なせてくれなかったのですか?
チャンプルと一緒にあのまま、どうして一緒に死なせてくれなかったのですか?」

チャンプル?その言葉を聞いてガルフォードはふと思った。「一緒」にと言う彼女の発言から考えて・・・
彼が思った答えは只一つ。
119新人567:05/03/02 23:39:20 ID:K8UzaXlq
「もしかしてチャンプルと言うのはあのビックな怪物かい?」
そういうと彼女はこくりと頷いた。
「バカな!あの怪物が君の言うチャンプルだって言うのか!」
「そうよ!」
そして彼女は泣きながら自分の名前は「真鏡名ミナ」と話した
そして、ガルフォードにチャンプルとの出会い、自分が旅をしていた理由。
妖滅師として「あやかし」を討つ旅を続けていた事。自分の村を滅ぼした敵を探してた事。
皮肉な事に友達であったチャンプルがあやかしの元凶であった事。
自分の身を掛けてチャンプルを討った事。チャンプルと一緒に自分も死のうとした事。
しかし、それをガルフォードが助け現在に至ると言う事だ。

少し落ち着いた彼女がガルフォードに話し掛ける。
「先程は突然、怒鳴ったりしてゴメンなさい。助けてもらった事は礼をいいます。
でも、私は大切な友達を失ってしまった。これ以上生きていく理由はありません」
「大切な友達」「失った」この二つの言葉を聞いてガルフォードは何か心に痛みを感じた。
自分と同じだ。大切な仲間を失い傷付いている。
「俺もだよ。君と同じでさっき大切な友達を失ってしまったばかりさ。」
「えっ?」
その言葉を聞いて彼女は驚いているようだった。
「その、君が俺に自分の事を話してくれたから俺の事も聞いて欲しい」
そういってガルフォードはパピーと一緒にここまで体験してきた出来事をミナに話し始めた。
ミナは黙ってそれを聞いていた。
120新人567:05/03/02 23:40:13 ID:K8UzaXlq
その男は自分は「ガルフォード」だと名乗った。
パピーと言う犬と共に多くの悪人を退治してきたこと。
正義の忍者としてパピーと共に旅をしてきた事。
だが、謎の悪しき力によりパピーの子供を助けようとして捨て身で飛び込んだ。
しかしその悪しき力から抜け出す事は出来なかった。さすがの自分も一度は諦めたこの命。
そして、パピーが自分の主人を助ける為に命懸けでガルフォードを助けた事。
しかしその為にパピーが・・・

「俺はパピーの為にもっと強くならなければならないと誓った。パピーの分も生きていこうと」
辛いはずなのにガルフォードは強く生きようとしている。正義の忍者として頑張っていこうと・・・
ミナにはそう感じ取れた。
「そうですか。私と似たような事があったのですね。だけど私は友達を失った。もう、これ以上・・・」
「それ以上は言うな。辛いかもしれないがミナは生きなければいけない。君の両親のためにも」
「でも・・・」
「自信を持て、君には笑顔が似合ってると俺は思うよ。俺の世界の言葉で言うならスマイルが大事だぜ!」
121新人567:05/03/02 23:40:47 ID:K8UzaXlq
「笑顔・・・」

その言葉を聞いてミナは思い出した。あやかしに村を滅ぼされた時、母親が言った言葉を。
「ミナ、あなたは強く生きなさい。決して復讐なんて考えてはダメよ。
あなたは笑顔が似合う子なのだから・・・」
それが母親の最後の言葉だった。だがミナは約束を破った。村を滅ぼしたあやかしを討つために。
知らず知らずのうちに彼女の笑顔は消えていたのであった。

彼女の目からは大粒の涙がこぼれていた。
「み、ミナ?」
気が付いた時には既に彼女はガルフォードの胸の中で泣いていた。
嗚咽を漏らし、言葉にならない泣き声を・・・
「うう、うえええんん・・・」
ガルフォードがゆっくりとミナの頭を撫でる。
「辛かったんだな。俺なんかよりもずっと、ずっと・・・
だけど心配なんてしなくていい。君はもっともっと強くなれる。俺が保障するぜ!」
122新人567:05/03/02 23:41:28 ID:K8UzaXlq
辺りは既に夜になっていた。このまま眠ってしまえば、また何事もなく新しい朝がやってくるのだろう。
だが、夜はまだ終わらない。
小屋の中ではあるが、決して大きくも小さくもない部屋に二人はいた。
「だけど本当に俺で言いのかい?今ならまだ・・・」
確認の意味も込めてガルフォードはミナに確認する。
「いえ、元はと言えば私から言い出した事。だから気にする必要はありません」
「後悔してないんだな」
「何度も言わせないで下さい。恥ずかしいじゃないですか」
「分かった、なら俺もそれ以上は何も言わない」
そういって、ガルフォードはゆっくりとミナを抱きしめた。
女の子を、それもジャパニーズの女性を抱くのはガルフォードにとって生まれて初めてである。
すごく柔らかくて、こんなか弱い体で多くの敵と戦ってきたんだと実感した。
強く抱きしめると彼女の体が壊れてしまうくらいにも感じてくる。
(俺が守ってやろう)そう考えるガルフォードだった。

ゆっくりと優しく彼女を押し倒す。決して強引にせず・・・
そしてそっと彼女との唇を合わせる。互いに初めてなのであまりにぎこちない。
歯と歯がぶつかってしまった。だけど落ち着いてガルフォードがミナの口内に舌をからませていく。
「ん、んっ」
かすかに聞こえる彼女の甘い声がガルフォードを刺激する。彼女は性行為は初めてだ。
だから、俺が彼女をしっかりと支えなければいけないと感じていた。
123新人567:05/03/02 23:42:05 ID:K8UzaXlq
ミナはゆっくりと目を閉じながらガルフォードの舌を受け入れていく。
そしてガルフォードの口内に舌をからませていく。
「ん、むむっ、ん・・」
彼女との口づけを続けながらガルフォードは胸だけを隠しているかわいらしい上着に手を掛ける。
幸い上に押し上げれば簡単に脱がせられる事に気付く。
ふっくらとした彼女の血房。あんまり強く揉まないように慎重に触れる。
「ん、んふぅ・・ん・・」
ゆっくりと何かを転がすようにしてガルフォードは彼女の胸を弄んで行く。
そして口付けをやめ、左手で彼女の胸を揉みながらもう片方の彼女の乳房をゆっくりと舌で舐め始めた。
突然やってきた大きな快感にミナは両手を押さえながら必死で声を堪えようとする。
「ん、ん〜〜〜。んふう・・」
「ミナ・・・声、聞かせてよ。我慢しなくていいんだよ?」
「で、でも、恥ずかしい声をそんなに出したくはありません」
ミナの言葉を聞いてガルフォードが小さく笑う。
「別に気にする必要はないさ。俺たちは今ベリー(とても)恥ずかしい行為をしてるんだから」
そう言いながら優しくミナの頭を撫でる。ゆっくりと、ゆっくりと。
「だから、聞かせてよ。ミナのかわいいボイスをね」
そう、ミナに伝えてからガルフォードはゆっくりとミナの手を床に下ろす。
まだ、ミナの表情は緊張しているみたいだったが、ガルフォードの言動によって徐々に落ち着き始めた。
昔からミナは男性不信だった。それなのに何故、この人には心を許せるのだろう。
自分の故郷以外の男性で自分の気持ちを正直に出す事が出来たのはガルフォードが最初だった。
再びガルフォードがミナの乳房を舐め回し始めた。熱い何かがミナの体を刺激する。
124新人567:05/03/02 23:42:46 ID:K8UzaXlq
「あ、ああん。あ、ああっ・・・」
甘酸っぱいようなミナの可愛い声。目を閉じながらゆっくりとガルフォードの愛撫を受け入れていく。
「や、やあん。あ、あっああっ・・・ああ・・んっ」
この時ガルフォードは右手で彼女の下半身の衣服に手を出そうとしていた。
だが、彼女を守るその紐の部分が上手くほどけない事に気付く。
慌てているガルフォードを見てミナが少し笑うと自分からその紐をほどく。
自分で縛っていただけにそれは簡単にほどける。だが、彼女の大切な部分はまだ見えていない。
一枚の三角形の形をした布が彼女の大切な所を守っている。ガルフォードがゆっくりと布の部分に触れようとする。
途端にミナがガルフォードの手を静止する。
「ま、待ってガルフォードさん。そこはダメ」
顔を赤くしながらガルフォードの手を押さえる。
「えっ?」
自分でも直接、触ったりしないのに他人に触られるのはやはり抵抗がある。ミナだって女性である。
「い、今触られるとあ、あたし・・・あっ!」
彼女を気を許した一瞬の隙にガルフォードの手は彼女の布の部分に触れていた。
ゆっくりと上下に何度も撫でていく。
「あ、ああっ、だめっ、もっと、もっと優しくして・・・」
ミナは知らなかった。他人に触られる感触がここまで気持ちいい事に。
このままじゃ自分が変になってしまいそうだ。だけど止めて欲しくない。
さっきまで抵抗していた自分が嘘のようにも感じ始めていた。
ガルフォードの指先に何か熱い物を感じた。既に彼女のそれを守る布はぐしょぐしょに濡れていた。
125新人567:05/03/02 23:43:34 ID:K8UzaXlq
「ミナ、ここ、凄く濡れてるよ」
「・・・ば、ばかぁ!!何でそんな事言うんですか!」
この時点でミナの顔は真っ赤になってしまっていた。あまりの羞恥心にこのまま死んでしまいたいくらいだった。
今にも泣きそうな顔でガルフォードに目で訴えるミナ。
「ガルフォードさん。ちょっとだけいじわるです・・・」
「ごめんごめん。でもそれだけミナが感じてくれてるって事だから俺は凄く嬉しい」
そして、また優しく彼女の額にキスをする。そして意を決意して彼女に確認する。
「脱がしてもいいかな?」
「・・・・少しだけ待ってください」
そう言って彼女が目を閉じながらそっと深呼吸をした。
「まだ、落ち着かないのでもうしばらくこのままで」
「大丈夫、そんなにも慌ててないから君のペースで構わないからね」
「・・・」
「・・・」



数十秒くらいたっただろうか?止まっていた時間が再び動き出す。
「私はもう大丈夫です。どうぞ続けてください。ガルフォードさん」
「分かった。じゃあ、脱がすよミナ」
そしてミナはゆっくりと腰を上げる。脱がしやすくする為である。
ガルフォードはそっと、それを脱がしていった。これで彼女を守るものは全て無くなった。
そんな生まれた姿のミナを見ながらガルフォードはふと思う。既に自分のモノも大きくなっていたことを。
既に理性は限界に達している。そしてガルフォードもまたゆっくりと衣服を脱ぎ始めた。
126新人567:05/03/02 23:44:15 ID:K8UzaXlq
「今日は大丈夫な日ですから気にしないで下さいね」
「えっ?」
一瞬ミナの言った事が分からなかった。「大丈夫」ガルフォードにはまだこの言葉の意味が分かっていなかった。
「いえ、分からないのなら気にしなくてもいいですから。私の事なら大丈夫ですから。
ガルフォードさんの動きに合わせて行きますから」
「わかったよ。ミナ。」
「そのかわり、初めてですから優しくして下さいね」
 そういってちょっとだけ笑うミナ。
二人の男女が今、一つになろうとしていた。ガルフォードが自分のモノをゆっくりと彼女の中に挿入していく。
途端にミナに痛みが走った。ミナの目から涙が零れ落ちる。
「だ、大丈夫かいミナ?やっぱりやめておこうか?」
しかし痛みを堪えながらもミナは止める事を否定する。
ここで止めてしまう事は彼の気持ちに応えられないからだと感じたからだ。
「大丈夫です、続けてください。少しくらいなら平気ですから」
徐々にガルフォードのモノが彼女の中へと侵入していく。
ガルフォード自身ゆっくりと動かしていてもミナの辛そうな表情は変わらない。
「くううっ!っああ、が、ガルフォードさん・・・・」
辛そうなはずなのに、ミナは頑張って笑顔を作ろうとする。
出来る事なら変わってやりたい。ガルフォードはそんな気持ちに駆られていた。
「う、ううっ、ミナ!」
ついに、彼女の奥にまで到達した。ガルフォードがゆっくりと腰を動かし始める。
「あっ、あっ、あああっ。でもさっきより痛みが、やあぁん」
甘い声を上げながらもガルフォードの腰の動きも合わせてミナもまた自分の腰を動かす。
その姿はまた人魚が跳ねるように色っぽい。
127新人567:05/03/02 23:44:57 ID:K8UzaXlq
徐々に彼女の表情も落ち着き始めてきた。それを見たガルフォードも少しだけ安心する。
少し腰を動かすのを早くし始める。くちゅり、くちゅりと嫌らしい音が聞こえる中、
「あ、が、ガルフォードさん、あたし、あたし、何だか、とても変に・・・んんっ」
彼女の声もまた嫌らしく聞こえてくる。どうやら、彼女自身既に限界に近づき始めていた。
「ミナ、俺、もうそろそろ」
「あ、あたしも・・・」
「一緒に、一緒にイクよミナ!」
グチュッ、グチュッとガルフォードの腰の動きが激しくなる。ミナはただ彼の名前を呼び続けていた。
「ミナ、ミナぁぁぁ!!!」
「ああっ、あ、ああっ、イク、イク、イッちゃうよ〜〜」
そしてガルフォードはミナの中に自分の熱いモノを彼女に全て放った。
「はぁぁぁん・・・」
全てを放たれたミナ、持てる気力を全て使い果たしたガルフォード。
二人はしばらくの間動く事が出来なかった。ただ、時間だけがゆっくりと流れて行った。


「ガルフォードさん、私の我侭を聞いてくれてありがとう・・・」



それからどれだけの時間が過ぎただろうか。自分の横でミナが目を閉じてすやすやと眠っている。寝顔も本当に可愛い。
ガルフォードもまたゆっくりと眠りに着こうとした。明日、ミナと一緒に旅をしよう。
今の段階では目的のない旅になるかもしれないがミナと一緒ならきっと楽しいだろう。
少しずつ彼女の笑顔を取り戻してやろう。
そう思いながらゆっくりと眠りに着くガルフォードだった。
128新人567:05/03/02 23:45:39 ID:K8UzaXlq
ガルフォードが完全に眠りについてから数十分後彼女は目が覚めた。
こんな自分にここまでしてくれたガルフォードに感謝している。出来る事なら彼と一緒に旅に出てみたい。
だが、ミナには分かっていた。もう別れを告げなければならないことを。
だけど、それを彼に知られてはいけない。彼に抱かれたときそれを悟られていたのではないかと心配していた。
だが、彼は気付いていなかった。そう、気づかれない方が良い事もあるのだ。
「ガルフォードさん・・・」
ミナはもう一度眠っているガルフォードに口付けを交わす。そして意を決意して持っていた紙に文章を書き始めた。



長い夜が終わり、再び朝が訪れ始めた。小鳥達の小さな鳴き声が聞こえてくる。
また、長い一日が始まるのだ。
小屋の窓から太陽の光がくっきりと見える。その光のまぶしさからガルフォードは目覚めた。
「う〜〜ん。ちょっと腰が痛いけど、まだまだ元気元気!」
そういって自分の横で眠っているミナを見つめる。ミナは完全に眠っているようだ。
「OH、ミナ、もう朝だよ見てごらん。今日は本当に雲ひとつないよ」
129新人567:05/03/02 23:46:17 ID:K8UzaXlq
そういって、優しくミナの体を揺さぶる。しかしミナは全く動く気配が無い。
「?」
よっぽど疲れていたのだろうか?起きる気配を感じない。しかしミナの背中を見てガルフォードは驚愕する。
彼女の背中は辺り一面に真っ青な痕がはっきりと残されていた。昨日までは全くなかったのに。
眠っている間が背中の傷が悪化してしまっていたのだ。彼女は眠っているのではない。
既に、彼女は・・・・



「ミナ!嘘だ。そんなの嘘だ。絶対これはジャパニーズジョークさ。眠ってるだけだろ?ミナ・・・」
もはや、笑う、悲しむ、怒る、どの感情を取ればいいのかガルフォードには分からなかった。
ただ、ミナに向かって言葉を吐き続ける事しか出来なかった。
混乱している中、かろうじてガルフォードはミナの足元に一枚の紙が置いてある事に気付く。
その文章はミナがガルフォードに送った最後の言葉(メッセージ)であった。
130新人567:05/03/02 23:46:51 ID:K8UzaXlq
ガルフォードさん。この文章を読んでいる頃、私は傷に苦しんでいるか、既にこの世にいないかのどちらかだと思います。
私が受けた背中の傷はチャンプルによって作られたもの。恐らくあの爪には人を死に追いやる猛毒があったのでしょう。
あなたは私を懸命に治療してくれました。どうか自分を責めないで下さい。
どちらであってもこの時代の薬では治す事は不可能だったのですから。
でも、死ぬ前に初めて人を好きになる事を知りました。だから私は悲しくなんかありません。
だから、最後にガルフォードさんにお願いがあります。



「私の事は忘れ、私以外の人を精一杯愛してあげて下さい。私を抱いてくれたその手で」



あなたは夢を見ていたのです。真鏡名ミナと言う一人の女性の夢を・・・だから私の事を忘れ・・・
131新人567:05/03/02 23:47:36 ID:K8UzaXlq
紙が手から離れる。紙の上には多くの涙がこぼれていた。ガルフォードは何度もその女性の名を呼んでいた。
呼べば彼女が戻ってくるような気がしたからだ。例えそれが無駄なあがきだと分かっていても。
声がかれるまで、涙が止まるまで、その男の叫び声が止まる事はなかった。
許せなかった。彼女の容態にも気付かず守って上げられなかった自分自身が。



その後、ガルフォードは立派に成長していく事になる。この世の悪を倒すためパピーと共に。
「パピー。どうやらまた、ジャパンが危ないらしい 俺は正義のニンジャ、ガルフォード!そして親友のパピーだ!暗黒の野望がオレを呼んでいる!叩きつぶせと呼んでいる!正義の風がジャスティスなオレを呼んでいる!悪の栄えた時代はなし!」


それから数年後、ガルフォードは一人の巫女に恋をする事になる。
その女性については今はまだ語る時ではない。
132新人567:05/03/02 23:48:26 ID:K8UzaXlq
約、半年振りにPCを触った新人567です。_| ̄|○
即席(約9時間)で書き上げた色々と反省点もありますがこのスレが盛り上がってもらえれば。

陸捨肆様
もう、GJでございます。レラが徐々にギャグキャラになってますが、
そんなレラの一面も見れてもう言う事無しです。そして一段とコウタとリムの関係も深まっていきますね。
色々と時間の合間を見て小説作りをなさっているみたいですが無理をなさらずに頑張って下さいね。
では、これで失礼。
133名無しさん@ピンキー:05/03/02 23:50:34 ID:fdu/yWWO
>>132
せつねぇ、せつねぇよ(つд`)
いいもん読ませてもらった。ありがとう。
134名無しさん@ピンキー:05/03/03 08:52:54 ID:sd+gx5tY
うわぁん、ミナはやっぱり死ぬのか…orz
135陸捨肆:05/03/03 23:47:07 ID:Ev557hsa
567氏、切ないので来ましたね・・・。
この胸を締めつける感じがいかにもサムスピらしいなぁ。
お供を失った同士という意外なカップリングも面白かったです。

俺も頑張ろっと。
136陸捨肆:05/03/05 22:33:30 ID:5YRFbLly
天はどこまでも高く、明るい。
その下に広がる尖った山々はどこまでも遠く、果てしない。
その山々の間を縫う大河はどこまでも流れ続け、淀みない。
その川面を行く風はどこまでも心地よく、何にもとらわれない。
明るく、果てしなく、淀みなく、とらわれず。
恵まれた、奇跡の大地。
そんな土地にそびえる山のひとつ。その懐、急な斜面に長い長い石段があった。
もっと左右にくねらせてなるべく崖を避けて登りやすくするとか、他にうまい作り方も
あるものだろうと見た人誰もが思うような、頂上だけを糞真面目に目指すためだけの、
あまりにまっすぐで乱暴な絶対に足を踏み入れたくない石段だ。
だが物好きもいるもので、その石段の上を若い男たちが列をなし、肩天秤で水や食料を
運んで上っていく。見たところ商売人という風体ではない。どの男も上半身は裸で、その
肉体の逞しさといったらない。誰一人として足の運びの速さを変える事も無く、ただ黙々
と石段の頂上・・・・・・尖った山の頂をすっぱりと切り取って作ったような、平たい土地に
建てられた小さな古寺へと肩に乗せた荷物を運んでいるのだった。
とその時、列の最後の男がふいに立ち止まった。
自分の後ろを追いかける足音が止まったのに気がついて、その前の男が振り返る。
「はぁ、はぁ、おい。なぜ止まる」
声を聞いて、列全体も停止した。皆息も荒く、汗は滝のように流れ落ちている。一度立ち
止まっては、次の一歩を踏み出すのにはかなりの根性が必要な状態だ。列をなした男達の
視線は、倒れるでも弱音を吐くでもなく、山の頂に背を向けて向こうの空を眺めている
最後尾の男の背中にじりじりと突き刺さっていた。
険悪な空気が、男達の肩から登る湯気と共に周囲に広がってゆく。
「おい――」
しびれを切らした先頭の男が肩の天秤を下ろして、突っ立っている男を怒鳴りつけようと
したその時、最後尾の男がすっと空の一点を指差した。
何かが宙を漂い、こちらに近づいてくる。
それを見た男達は一瞬それが何かがすぐに悟り、一斉に口を開き子供のようにわめいた。
137陸捨肆:05/03/05 22:34:22 ID:5YRFbLly
「おっ、おぉー、師匠だ!」
「雲飛様がお戻りになられるぞっ」
「すごい・・・・・・やはり何度見てもすごいなあ!」
急な斜面の上でわいわいと騒ぎ出し、手まで振る者まで現れて、先頭を切っていた男の
頭に青筋が浮かんだ。
「こらっお前ら!何を楽しんでいる!急げ、師匠に遅れるな!先に寺に到着するのだ!
俺に続け、続け!」
「おっ、応!」
「あっこら!バカ、天秤を振り回すな!周りをよく見――」
ごつぅん
「あいやーッ!?」
「おい大丈夫か!落ちるぞ!」
「う、うわぁ!来るなったら!」
「死ぬ!」
「もう死んでるだろっつの」
やんややんや・・・・・・
138陸捨肆:05/03/05 22:35:08 ID:5YRFbLly
「未熟者めらが・・・・・・」
「お師匠!雲飛師匠!!なんて危険な真似をなさるのです?!」
弟子の中でも口うるさい側近の一人が、ぶつくさと言いながら屋敷へと舞い戻った老人を、
待ってましたとばかりになじり始めた。
雲飛と呼ばれた緑色の作業服の老人は、少しうんざりしたため息と共に玄関をくぐった。
「師匠、いくら現世の調査のためとはいえ、いささか悠長が過ぎますぞ」
「お前は心配が過ぎる」
荷物を弟子に預けた雲飛は、疎ましそうに言いながらその横を通り過ぎ、そのまま自室に
向かおうとした。だが弟子は、なおも後ろから食い下がる。
「危うく時間切れ、『冥界への道』が閉ざされるところでした。地上に取り残されるような
事があれば、師匠の力を持ってしても、こちらに戻る事はかないません!」
「だからこうして戻ってきておろうが。うん?」
雲飛はいつまでもうるさい弟子へと、振り向きざまに鋭い一瞥をくれた。
睨まれた弟子の口が、迫力にうっと縫い付けられる。
「全く・・・・・・」
弟子が固まったのを確認し、雲飛は少女に褒められた自慢の顎ひげを撫でつつ、弟子の
知りたがっている事を話して聞かせた。
「現世、事も無し。あの少女は自分の持つ『力』に不自覚であった。『冥界への道』が
開いたのも恐らくは偶然であろう。会話の中に幾度か『力』をほのめかす様な言葉を混ぜ、
それとなく聞き出すつもりであったが・・・・・・全く持ってな。何の反応も得られぬ」
雲飛の眼力から何とか抜け出した弟子は、今度は少し恐縮しつつ尋ねる。
「お、恐れながら、それではかえって危険なのでは?『命を操る力』、悪しき者に渡った
時の事を考えますと」
「否、あの魂の器量と曇りなき純粋さ、そしてそれを支える人々があの少女の周りには
居た。されば悪しき心に囚われる事はあるまい。心配は要らん」
139陸捨肆:05/03/05 22:35:46 ID:5YRFbLly
堂々とした師匠の物言いに、弟子はやっと緊張から解かれた顔をした。
「左様で。師匠、奥様が朝食のご準備を整えてお待ちしております」
「すぐに行く」
「はい。しかし師匠、現世の服も・・・・・・実にお似合いですな」
「心配だの世辞だのばかり修行しおって!ほらもう良い、下がれ」
世話を焼きすぎる弟子を追い払い、自室に辿り着くや否や、雲飛はさっさと部屋着に
着替えた。床に無造作に置かれた現代風の作業着や釣り道具は、すぅとその姿を消して
いく。それらは全て、雲飛の仙術が作り出した幻だったのである。
川べりに持ち込んだ品の中で残ったのは、愛用の襟巻きと、今は空となった水筒、
そして雲飛の操る風が絡め取ったリムルルの鉢巻だけであった。
ここ、雲飛が生活する家のある場所は、現世を遠く離れた天上の冥界――死者の魂が集う、
いわゆる死後の世界である。雲飛もまた自らを縛っていた暗い宿命を断ち切り、数百年前
に現世を去った亡者であった。
その雲飛が、再び現世に姿を現したのには理由があった。
つい先刻、直接には繋がるはずの無い冥界と現世との間に突然、不可思議な力によって
一筋の道がかたち作られてしまったのである。
道といっても正確には冥界の地面を一筋の光が貫き、その下に現世を天高くから覗き見る
事の出来る穴がぽっかりと開いた形である。言わば異次元同士を繋ぐ抜け穴だった。
現世の人間は肉体を失わなければ魂を冥界へと昇らせる事は無いが、冥界に暮らす者の
中には現世に執着を持つ者も少なくは無い。特に現世への転生を固く禁じられた悪霊や
魑魅魍魎などは、隙を狙っては地上に降り立つ機会をと、醜い鼻を四六時中利かせている。
今回の事件の発端となった穴は幸いにして小さなもので、雲飛達のように仙術や特別な
力に通じる者以外に気づいた輩はいなかったが、地上にいる誰かが悪意を持ってこの様な
危機を招いたのだとすれば、それを黙って見過ごすわけにはいかない。
140陸捨肆:05/03/05 22:36:20 ID:5YRFbLly
そこで雲飛は弟子達に穴を見張らせ、空を自在に翔る仙術「天機七曜」で穴をくぐって
自ら地上に降り立ち、肉体を持たない霊魂の身でありながら、冥界への道を開いた者に
近づいたのだった。
・・・・・・魂を両断し、完全に滅してしまう半月刀「天閃燕巧」を、釣り道具の中に忍ばせて。
だが、剣には希代の才覚を持つ雲飛の手によって、半月刀が振るわれる事はついに無かった。
冥界への道を開いた張本人である少女は弟子にも伝えた通り、邪念とは程遠い心の清い
少女だったからだ。
床に落ちた青い鉢巻を拾い上げ、雲飛はその表面に縫いこまれた刺繍に目を凝らした。
手の上で垂れ下がる鉢巻には、元気な命の輝きに満ちた子供らしい温かさが、まだ少し
残っているように感じられた。
雲飛はその温もりを辿り、心静かに、地上で出会った少女の事を思い出す。
健康的な肌と、感情をすぐあらわにするあまりに素直で大きな瞳。快活な声を発する
可愛らしい唇。そして強く燃え続ける、「天閃燕巧」であっても打ち砕くことが出来るか
分からない、宝珠のように美しい魂。
「あの少女もまた、『大自然の戦士』・・・・・・。あの力、目の当たりにしたのは数百年ぶりか」
雲飛は目を閉じつぶやいた。
目蓋にはあの頃の記憶が映し出される。
141陸捨肆:05/03/05 22:36:50 ID:5YRFbLly
かつて、雲飛が自らの魂と肉体とを委ねた魔界の存在「闇キ皇」を打ち滅ぼすべく、日輪国
へと渡った際に、彼は偶然にも同じ戦場へとひた走る一人の少女の姿を見た。
少女は長い黒髪を後ろに束ね、かの国の一般的な服飾とは違う、一風変わった赤と白の
装束に身を固め、一羽の鷹をお供に連れていた。腰の後ろには、大小ふたつの得物を括り
つけていた。
雲飛は最初、彼女は自分と同じ、幕府のしいた鎖国を潜って侵入した異国の人間なのだろう
という事だけに目を向け、特に意識する事は無かった。
だが、木々の間を風の力で飛び交い日輪国へと一直線に向かう間に、雲飛は何度も少女の
姿を眼下に見る事になったのだった。
永い時を経て何事にも動じなくなった雲飛であったが、幾度も姿を表す不思議な少女の
行動は、朴訥とした年寄りの興味を引くには十分だった。
半分空中を飛んで進む雲飛に迫る足の速さは勿論の事、少女は昼も太陽の光が届かない
樹海を迷う事無く横切り、小舟に頼らなくては渡れない河川も、何とお供の鷹に掴まって
難なく飛び越えるのである。
確かにそれらは近道なのだろう。しかしそんな苦難の道を彼女があえて進む理由として、
雲飛は人目を避けているのだろうと察した。外部の人間を厳しく取り締まるこの国ならば
仕方の無い事である。少女は幾度も同じ道を通り地形に精通しているのだ、そう考えていた。
かと思えば、少女は道端に困っている人がいれば手を貸し、卑劣な夜盗をただ一人でこら
しめる事もあった。しかも刀を抜く事さえせず、体術だけで見事に改心させてしまうのである。
さすがの雲飛の頭の上にも疑問符が浮かんだものだった。
そして少女は地図一つ持たないまま、雲飛の下を――すなわちかつての雲飛と同様に魂を
闇キ皇受け渡した、悪しき男の下へと奔走していくのである。
雲飛は彼女の気配を近くに感じては、その様子を実に興味深く眺めていた。
少女は額に汗を浮かべ、息を切らせながら、それでも休むことなく雲飛と同じ方角を目指
してひたすらに走っていた。何かに導かれるように。
142陸捨肆:05/03/05 22:37:22 ID:5YRFbLly
その時の少女の表情を、雲飛は今でもはっきりと思い出せる。
少女は、償いと清算という、余りに重い宿命を背負い戦場へと向かう雲飛の目にも余る程の
悲しみと焦燥を、その美しい顔に湛えていたのだった。
そんな少女を最後に見かけた二日ばかり後。あれは幕府と日輪、2つの勢力が激しく衝突
しあっている「黄泉ヶ原」へと、雲飛がついにたどり着いた日の晩だった。
戦場に程近い、火を放たれて今は焼け落ちた木々だらけとなった林に潜み、自らの清算の
機会をうかがっていた時・・・・・・それは闇キ皇との、熾烈な戦いの前夜だったと思い起こ
される。
刻一刻と迫る決戦の夜明けを前に雲飛が座禅を組んで心を静めていると、その林の向こう
から、闇夜を緩く照らす微かな光が浮かんだのだ。
日が昇る直前、世界が最も深い静寂に包まれて、人間が最も無防備な時間帯の出来事だ。
だから初めは、闇に潜んだ落ち武者を狩る幕府の手の者かと思い、雲飛は倒木の陰に
そっと身を隠した。そんな手を使って一人でも多くの敵兵の命を摘まねばならない程、
幕府は手こずっていたのだ。
だが様子が違う。足音もしなければ、戦の空気を纏った人間達の気配も感じられない。
しかも驚いた事に、光はまるで水にでもなったかのように、足元を走りながら林中の
地面へと流れ出していたのだ。たいまつの光でも、太陽の光でもこんな芸当は出来ない。
大陸に伝わるあらゆる仙術を会得した雲飛でさえ、見た事の無い光だった。
そうこうしている間にも身を隠していた倒木の周りにも光が満ち始め、雲飛は身を隠す
術を失いかけていた。
この光を操る呪術者がもしも闇キ皇のしもべだとするならば、見つかるのは時間の問題
である。用があるのは闇キ皇だけだ。決戦の前に深手を負うのは何としても避けねば
ならない。
雲飛は意を決し、倒木の陰からそっと顔を出し、様子を探ろうと光の方をにらんだ。
143陸捨肆:05/03/05 22:37:55 ID:5YRFbLly
明るいのに目を刺激しない、奇妙な光の中心。
その眺めを見た瞬間、雲飛は常に細められがちな目を見開いて絶句し、そして直感した。
そこは何人にも侵しがたい神々しい世界なのだ、と。
雲飛の見ている前で、光に包まれた木々が音も無く起き上がり、折れた幹はがっしりと
した樹皮を取り戻していくではないか。
それだけではない。今や灰も残らないはずであろう枝葉が、立ち上がった幹の上から
ざわざわと音を立て、急速に生い茂ってゆくのだ。
不幸な災いに飲み込まれた鳥やリスのような森の獣たちさえ、地面から、草木の陰から
ひょっこり元気に顔を出しては、あるものは走り回り、あるものは飛び立ち、止まり木
の上で歌い始めている。
そしてその押し寄せる光がもたらす命の波は、ついに雲飛の周囲の風景さえ変え始めて
いた。
時をさかのぼる命達に囲まれ、注意も警戒も忘れて立ち尽くした雲飛はぼんやりと思った。
――これは一体何なのだ。
息絶えたはずの、風さえ避けて通っていた焼け跡に、賑やかな命が再び降り立っている。
命が水のように溢れている。たった今噴出した、地の奥底の眠りから覚めた泉のように。
泉。
太陽よりも暖かな光の泉の中心。
――むっ、そうだ。
雲飛はあまりの光景にすっかり忘れていた本題を思い出し、再び光の中心に目を向けた。
だがしかし、再びすぐに我を忘れる事になってしまう。
そこには、胸の前で両手を重ねて静かに祈る、一人の輝ける少女がいたのだった。
雲飛は、息を呑んだ。
少女は「あの」少女だったのだ。
自分と同じくこの黄泉ヶ原を目指していた、美しい黒髪の少女。
人の流れを避け、人を寄せ付けない陽の光の届かない深い森を一度も迷うことなく横切り、
そしてこの地にたどり着いた少女。
得体の知れない悲しみと焦りを双眸に湛えていた、あの少女だ。
144陸捨肆:05/03/05 22:38:43 ID:5YRFbLly
しかし今の彼女にはあの悲哀に満ちた雰囲気は残されていない。光の塊となった少女は、
元気に走り回る小さな動物たちに囲まれ、口元に微笑さえ浮かべながら祈りを続けている。
光の波には、幸せと慈しみが感じられる。
曇りない、純粋なものが少女の中にある。
これが本当の彼女の姿なのだろうか。だとすれば、何と美しいことだろう。
そして、何と魅力的なのだろう。
光に魅入られた老人の乾いた心に、多くの気持ちがほとばしる。
彼女は何者か。一体どうやってこんな事をしているのか。失われた命を取り戻す術があると
いうのか。償い切れない罪を負った自分、その自分が唯一果たせる罪滅ぼしの時を目前に
して、また別の道を与えてはくれないだろうか。
そう、闇キ皇を打ち滅ぼした暁には、我が最愛の人々をこの世に再び――
ばきっ
林中の動物たちの視線が音の方、老人の元へと集まった。
光が地面に染み込むように消えて、辺りが再び闇に沈んでゆく。
――何とっ!?
押し寄せる緊迫した動物たちの気配と、黒く沈む視界の変化に驚く雲飛には一瞬、いつしか
自分が光へと踏み出していたその一歩目こそが、足元の枝を踏み折り音を発してしまった
のだという事実に気づかなかった。
事態に気づこうとする間にも、蘇った林からは光が失われてゆく。
雲飛は混乱した。
視界の唐突な変化はもちろんだったが、夢心地の世界から戻ってみれば、ここは静かな林だ。
だがしかし未だに謎の光は足元に残り、木々はうっそうと生い茂り、動物は確かに鋭い
視線をこちらに向け、戦場はここからは程近く、闇キ皇は目前に迫り、多くの命が自らの
手によって失われ、浅はかな男の血塗られた両手から幸せはこぼれ出し、永い年月を経て
節くれたその手は今、少女が放ったのとは違う冷たい光を放つ半月刀を背中に探り、
少女、少女は――
145陸捨肆:05/03/05 22:39:30 ID:5YRFbLly
「どなた・・・・・・あっ、あのう・・・・・・そこにおられるのは、おじいさんですか?」
雲飛の指が、半月刀に触れたところで止まった。
半月刀を抜いて、一体何をしようというのか。
頭を蹴破らんとばかりに猛っていた不細工な衝動が、ため息一つでいつもの冷静さにまで
すうと静まり返る。
「・・・・・・済まぬ」
雲飛は両手を下ろし目を伏せて、自戒の意味も込め、消え行く光の向こうに浮かぶ白装束に
向けて頭を下げた。
「お主の大切な時にとんだ邪魔を」
「いいえ。驚かれたのではないですか?突然こんな所を見たのですから」
誰がどう見ても神聖極まりない特別な空間を濁されたというのに、少女はいたって穏やかな
気配を崩してはいなかった。むしろこちらに対して親しげなものさえ感じられる。
少女はしっとりとした声で雲飛に言った。
「おじいさんは自然と一つになっていました。私、全然気づかなかったものですから。
すごいです・・・・・・物音が立つまで、動物たちも全く警戒していなかった」
林に舞い戻った風が、その言葉の後に続く彼女の小さな独り言を運ぶ。
「まるで・・・・・・父様のよう」
雲飛にはそう聞こえた。消えてしまいそうな声だった。
と同時に、少女の心の中に、少しの間だけ姿を消していたあの悲しみが戻ったのを痛感した。
――父親があの戦場に。
雲飛は髭を撫でつつ、背を伸ばして少女に呼びかけた。
「お嬢さん、名を何と」
「ナコルルと申します」
暗闇の向こうの白装束も、姿勢を正してそう答えた。やはり敵意の無い落ち着いた声だ。
146陸捨肆:05/03/05 22:40:04 ID:5YRFbLly
「ナコルル殿・・・・・・かような場所に、何故一人でおられるのかね」
「おじいさんこそ、自然に溶け込んでいられるとはいっても危険ですよ?ここがどの
ような場所なのかご存知なんですか?」
「知っているとも。お互い、危険を好む散策者というわけだな。わしの名は雲飛、劉雲飛。
その戦場に、どうしても会わねばならない者が居てな」
「私も似たようなものです。人を探して、ここまで参りました。あの、どうぞこちらへ
おいで下さい。声高に話しては、この子達もなかなか緊張が解けないようですし、誰かに
見つからないとも限らないですから。少々ですが食料もございます。ご一緒しませんか?」
意外な申し出だった。自分は老いさらばえているし、確かに敵ではないしにしても、少女が
このような戦地で自分のそばに男を招くだろうか。
名前も聞いた、曖昧ながら目的も知った。それ以上に何を知る必要があるだろう。
「わしは・・・・・・」
「あなた達、大丈夫よ。雲飛様はとても良いお方。何もしたりはしないわ。安心して、ね?」
雲飛の疑問をよそに、ナコルルはあくまで自然体だった。その言葉は直接動物達にも届く
らしく、小声で静かに語りかけると、すぐにウサギやリス達は警戒を解き、草木の中に
次々と姿を消していく。鳥達も止まり木の上で羽を休めるばかりである。
人間二人の気配だけを残し、森は、本来あるべき真夜中の雰囲気に落ちた。
時おり戦場へと吹く風が木々をざわめかせる中、雲飛は少女に向かって足を運び出す。
光の絶えた木々の間、雲飛にしか見えない赤く透き通った魂を燃やす少女に向かって。
147陸捨肆:05/03/05 22:40:41 ID:5YRFbLly
林の中でも一際太い幹を持つ、ナコルルが耳を当てて命の音を聞いていた大木。
その下に、二人は少し離れて座っていた。
雲飛は手渡された干し魚をちぎってはゆっくりと口に運び、ナコルルは近寄ってきたリスに
餌を手渡していた。
雲飛はその少女の横顔を見やる。
痕跡を残さないために――-無論、林が元に戻っているのだから、それこそが巨大な
痕跡だが――火は焚いていないので、青白い星空の光だけが林の中の世界を、そして
少女の姿を目に見えるものにしている。
あらためて美しい少女だった。黒く長い髪は錦のように輝いて、透き通った白い肌は星
よりも美しい。健康そうな頬はふっくらとしていて、日中であればさぞ可愛らしい桃色が
見られたであろう。そしてこの戦場の隅、若い少女の運命を左右するであろう瞬間の直前に
あっても、小さな動物を思いやり、微笑みながら戯れるその姿は、少女の心の広さを如実に
物語っていた。
「ナコルル殿は若いというのに、随分と自然との調和が取れておるようだな」
「調和、ですか?」
雲飛の言葉に振り向いたナコルルは、少し不思議そうな顔をした。
「ああそうだとも。そのような小さな動物とそんなに親密にしておるではないか。並大抵
の事ではないぞ?」
肩の上に舞い降りた小鳥の頭を指先でくすぐりながら、ナコルルは暗闇に映える白い歯を
少し覗かせて微笑んだ。
「これはその、私は幼い頃から、木々と動物達、それから様々なカムイ・・・・・・ありのままの
自然に囲まれて生きてきましたから。他の方々よりも少しだけ自然と多く接してきた、ただ
それだけの事なんですよ」
「ただそれだけ、か。しかしその様な生まれの理由だけが、ナコルル殿。お主に先程の
ような力を授けるのかね?」
動物達と触れ合うナコルルの顔に、小さな緊張が走る。
148陸捨肆:05/03/05 22:41:16 ID:5YRFbLly
「わしは大陸生まれだ。そこで長く仙術というものを修行してな。空を飛ぶ術、風を操る術。
様々な術を身につけた。先程のように気配を消す事も造作も無い。だがナコルル殿。お主が
見せたあのような術は、今まで目の当たりにしたことがのうてな?興味があるのだ」
赤く透明な魂が、ぱちぱちと爆ぜて揺れた。
辛い思いをさせているのだと雲飛は知っている。人を疑う事を知らない純粋な少女には、
自分はただの物好きな、自然に紛れ込む事の出来るおかしな老人なのだというぐらいの
印象しか与えてはいないだろう。
「この力は・・・・・・アイヌモシリの均衡を守るための力なのです」
塞ぐような沈黙の後、緊張に結ばれていた口を開き、ナコルルは力を込めて言った。
「アイヌモシリ、いえ、世界は雄大です。神々や精霊達の恵みによって、私達人間は
生かされています。でも、心を無くしたり魔物に魂を受け渡した人々はその大切な隣人達
を汚し、何の感謝もせずにその恵みを・・・・・・無意味に奪い、破壊する。この林だって
そのひとつに過ぎません。そんな人間達の身勝手で汚された彼らを、私はこの力で・・・・・・」
ナコルルは右手に残った干し魚を握りしめた。魂が強く高く、朱に燃え上がる。
あまりの勢いに、自らを消し去らんとばかりに。
「父様と母様がくれた、この力で・・・・・・!カムイ達を癒しているんです。ずっと彼らの
隣人であり続けるために。世界という天秤が傾かないように。大切な家族を守るために」
「そしてその父が、この戦場にいる・・・・・・そういう事かね」
「! どうしてそれを?!」
ナコルルは驚きを隠そうともせず、喋りながら徐々に伏せていた顔を雲飛に振り向かせた。
感情をいきなり表にしたナコルルの声を聞いた動物達が、餌さえ放り出して一斉に背を向け
茂みへと逃げていく。
「ああっ・・・・・・」
自分の肩から飛び立った小鳥の羽ばたきで我に返ったナコルルは、慌てて両手で口を
押さえた。だが、時は既に遅い。大木と二人だけを残し、林は孤独な空気を漂わせた。
149陸捨肆:05/03/05 22:42:37 ID:5YRFbLly
「ふっ、若者らしい感情の揺らぎ。その方がお主には似合っておるよ」
がく然としたナコルルに向かって軽口を言って笑う雲飛に、ナコルルは疑惑とも哀願とも
つかない眼差しを向けた。
「父を・・・・・・ご存知なのですか?」
雲飛は冷たく首を横に振った。
「否。知らぬよ。ただナコルル殿程の女性を育てた父上だ。大層立派な方に違いあるまい。
この戦地に渦巻く悪の気配・・・・・・どのくらい前からそれに気づいていたかは知らぬが、
わしと同じように海を隔ててなおそれを察知する鋭さ。並大抵ではない。違うかな?」
父を知る人ではないという落胆だろうか、身を乗り出して雲飛の答えを聞いていたナコ
ルルの肩から、ふっと力が抜けた。
そして細い腰の後ろに手を回すと、横一文字に結わかれていた刀のうち長い方を、雲飛と
自分との間にそっと置いた。
正座した少女と、闇の中でもその闇を吸い込むほどに深い黒塗りの鞘に包まれた刀。
厳かな空気が周囲に満ちる頃、その鞘をじっと見つめながらナコルルが言った。
「これは、チチウシといいます」
「ふむ・・・・・・」
「ここより遥か北の地、私が住むカムイコタンという村に伝わる宝刀です」
説明を聞いた雲飛は手を伸ばす事さえせず、髭を撫でながら刀に見入った。
星の光を受け、眩しいぐらいに黒く輝く鞘。柄との境にはまばゆい金の縁取り。その奥
ゆかしい威厳に満ちた外観だけで、この刀がいかに神聖で強力な、選ばれたものにしか
振るう事の許されない物なのかが伝わってくる。
「父は・・・・・・立派な方です」
その宝刀を前に、ナコルルは静かに、赤々と輝いていた魂さえ沈めて語りだした。
「父は誰よりも強くて、優しい人です。どんなに辛い苦しい事があっても、その知恵で
必ず良い方へと私達を導いてくれます・・・・・・。それに、里に降りかかる色々な危機や
災いから私達を救ってくれるんです。一人の人間として、そして『大自然の戦士』と
して、誰からも尊敬される、本物のアコロアイヌ(私達の尊敬すべき人物)なんです」
150陸捨肆:05/03/05 22:43:16 ID:5YRFbLly
ナコルルが空を仰ぎ、おもむろに右手を掲げた。
ばさばさっ。
大木の上から大きな羽音が響き、一羽の鷹が差し伸べられたナコルルの手の上へと舞い
降りる。鋭い目つきと、逞しい筋骨を包み込む茶色の羽毛が美しくりりしい。
「この子はママハハ。この宝刀に宿った、言わばチチウシの守り神です」
「ただのお供ではない、そういう事かね」
ママハハの刺すような視線を眉間に感じつつ、雲飛はチチウシに再び目を落として訊ねた。
「はい。チチウシを帯刀する事が許されるのは、ママハハに認められた大自然の戦士だけに
限られているのです」
「成る程。それで今、その刀を持つものとしてナコルル殿が選ばれているというわけか」
「・・・・・・」
「ナコルル殿――」
返事が無いので雲飛が顔を上げようとしたのと同時に、ナコルルが驚くべき事を伝えた。
「私の父は、この刀を携えて村を出ました」
雲飛の動きがぴたりと止まる。視線をチチウシに落としたまま動かす事が出来ない。
「今、何と」
こう聞き返すのが精一杯である。
夜が永遠であると思わせるような、静かな、静かな沈黙があって、ナコルルはその沈黙を
引き継ぐようにそっと口を開いた。
「遠くで何か災いの気配がある。だから様子を見てくる。それだけ私達家族に告げて、
父様はチチウシを手にコタンを離れました。ですが来る日も来る日も父様は帰らず、
ある日ついにこのチチウシだけを携えたママハハが、私達の元に帰って来たのです。
そしてママハハにこの刀を直接手渡されたのが、娘であるこの私・・・・・・」
――慈しみ深い姿の影から滲み出る悲しみの理由もまた、それだったというわけか。
「ナコルル殿、済まなかった。そんな重大な理由があるとも知らず」
声色さえ変わっていなかったが、目を伏せていても明らかに変わったのが分かるナコルル
の魂の様子を悟り、雲飛は謝りながら少女の体の中心へと目線を上げた。
そして雲飛は見た。
ナコルルの魂が、涙していた。
151陸捨肆:05/03/05 22:43:51 ID:5YRFbLly
「父様はまだきっと戦場のどこかにいるんじゃないかと、私は信じてここまで来ました」
しかし老人を気遣ってか、ナコルルは魂の様子とは対照的な柔らかな表情のままである。
「そう信じて、でも、一歩また一歩と父様の気配を辿ってここへ近づくたび、肝心の父様の
気配はどんどんと遠く、薄くなって、そのうち強大な、何か途方もない邪な気配に呑まれて
・・・・・・最後はとうとう、私、その悪い気配だけを頼りに・・・・・・ここに辿り着いたんです」
雲飛には、ナコルルにかける言葉は幾らでもあるはずだった。
古いことわざでも、励ましの言葉でも、忠を尽くすあまりに悲痛な最期を遂げた英雄の
話でも、少女を慰める事ぐらいは造作もないはずだった。
だが、出来るはずはなかった。
見ればナコルルは、その美しい顔に微笑を浮かべていたのだ。
無論、静かな緋色の炎に覆われた魂の中心に、青い涙を伝わせたまま。
その笑顔が、乾ききる寸前の心の片隅から絞り取ったぎりぎりの笑みである事は、雲飛には
すぐに分かってしまう。決して作り笑いではない本物の笑顔だが、だからこそ痛々しい。
・・・・・・何事であろうと、泣くのは簡単だ。
魂の器である肉体からは、魂が悲しみに痛めば涙が出る。辛ければ大声で叫ぶ。ナコルル
だって、本当は幾らでも泣きたいはずだ。本心を偽れない魂からは、本物の悲哀が凝縮
された一滴の涙の粒が、炎に乾くことなく流れているのだから。
しかしナコルルは笑っている。今も。胸元に引き寄せた父の姿見を抱きしめて。
「でも、ちゃんとこの戦場に辿り着けて良かった。これでも私もカムイ達に選ばれた戦士
ですから。それが間違えて全く見当違いの方向に進んでいたら・・・・・・ふふ。大自然にも、
みんなにも顔向けできませんから。私、妹がいるんです。可愛い、ちょっと心配性な。
だから私の失敗を聞いたりしたら、きっとあの子は寝込んでしまうかも。『ねえさまったら
何やってるのー』なんて、そんな寝言を言いながら・・・・・・ふふっ」
どこか遠い目をしながらも、ナコルルはくすくすと笑って冗談まで言った。
152陸捨肆:05/03/05 22:44:25 ID:5YRFbLly
そして息を吐き、胸に抱いた刀の柄を右の手で逆手に握ると、指にすぅと力を込めた。
小さな手ごたえの後、ナコルルは僅かにだけチチウシの刀身を露出させた。
雲飛達の間にひんやりとした銀色の光が射す。
光は神聖な刀を振るう事を許された少女の白い顔を照らし、また別の表情を浮かべさせた。
「私は、そんな妹にこれ以上心配をかけないためにも、大切な人々を守るためにも、
必ずこの刃で・・・・・・大自然と数多くの魂を汚し、世界の均衡を奪おうとしている魔物を
鎮めてみせます」
ほがらかで温かだったナコルルの肩に、戦士の気迫が沸き立った。
少女は、噛み締めた声で小さく叫んだ。
「必ず・・・・・・私が!父様に代わって!」
ナコルルの魂を彩る炎に突然、激しい紫色のいかずちがほとばしり、涙がもう一つ、また
一つとこぼれ出した。止まらない。
彼女に耳を傾ける雲飛は気が気でなかった。
魂からこぼれる涙に全ての悲しみを込めるというのは、どういう心地なのだろうか。
魂が苦しみを訴えるから人間は泣くのだ。そうする事で魂は辛さを発散させ、破壊を
免れる。
しかしナコルルはそれをしない。魂に閉じ込めて、決して表に出そうとしない。
その魂を伝う涙が弾けたら、それは彼女を飲み込む濁流へと姿を変えるに違いない。魂
を窒息させる狂おしい悲しみの渦だ。芯が強ければ強いほど、魂は我慢するだろう。だが、
一度折れれば元に戻らないのもまた強い魂の常だ。そんな事になれば、積もりに積もった
悲しみに押しつぶされて、彼女はきっと命を落とす事になる。
止められるのは自分だけだ。そう雲飛は思った。
「ナコルル殿」
美しく儚すぎる魂を目の当たりにして止まらなくなった身体の震えをぐっと抑え、雲飛は
かすれそうになる声を何とか形にした。
153陸捨肆:05/03/05 22:45:41 ID:5YRFbLly
「ナコルル殿。お主は何も心配する事は・・・・・・無いのだ。その魔物を打ち破るのはお主
ではなく、この」
「私です」
ナコルルは刀身をのぞかせたままのチチウシを膝の上に置きながら、深い決意で
固まった声で雲飛をさえぎった。
「私が、悪しき者を裁きます」
別人のようにがらりと雰囲気を変えたナコルルに、雲飛は無意識に気おされていた。
言い返すこともできず、ただ目の前の少女を見つめるしかない。
ナコルルは目つきが鋭くなっていた。ついさっきまで、動物と戯れていた優しい少女の
物とは思えなかった。表情も硬く、闘いに向かう決意以外、一切の感情を排している。
切り裂くような目に収められた瞳には、これまたがらりと変わった魂の色、赤ではなく、
魂に走ったいかずちと同じ紫の炎が浮かび上がっていた。
その、雲飛を見つめるナコルルの右の瞳がゆらりと揺れたかと思うと、ふいに炎が瞳から
こぼれた。
頬を伝うそれを感じるように、ナコルルは両方の瞳を閉じた。
本物の、涙だった。
ナコルルは言う。
「これは悲しみ。安らかな時を願いながら散るしか無かった、無力な人間とカムイの悲しみ」
ナコルルは右手を持ち上げて涙がこぼれた目の下へと運び、すっと人差し指で払うように
撫でた。
涙が作った道が、指の分だけ拭われた。そして爪で横一文字に傷つけられていたそこから、
新たな一筋の川が流れ出した。
真っ赤な、血の川が。
ナコルルは言う。
「そしてこれが戦士の痛み。自らの守るべきもののために流す、誇り高き戦士の痛みよ」
血の雫が頬を伝い涙の川と混じりあい、桃色に輝きながらあごに届いて、膝の上に置かれた
チチウシの冷ややかな刃の上にぽとりと砕けた。
154陸捨肆:05/03/05 22:46:16 ID:5YRFbLly
「私は大自然の戦士。人間とカムイ・・・・・・どんな悲しみも痛みも、私が全部受け止めます」
柄頭に手を沿え、ナコルルはぐっと刃を鞘に押し込めた。ガチャッ、と音がした。
その音と同時に、ナコルルの背後、木々の隙間から見える東の空が紫に染まり始めた。
夜明けだった。ついに訪れた、闘いの夜明けだ。
頬を汚したまま、白の装束を紫色に照らされたナコルルが雲飛よりも先に立ち上がる。
「待たれよ。どうしても行くのかね。ナコルル殿・・・・・・大自然の戦士よ」
ついに何も出来ぬまま時を向かえた雲飛は、こちらに背を向けて尻をはたき、チチウシを
腰の後ろにしっかりと結わき直す少女に低い声で語りかけた。
「お主は、立派な戦士だ。人々とこの世の全てを守るため、何よりも大きな大儀を背負う
誇り高き戦士だ。自らの清算のためだけにこの地を訪れた老いぼれとはわけが違う。だが
忘れてはならぬぞ」
ナコルルの背中に浮かぶ、遠い空と同じ紫色に燃える魂に向け、雲飛は念じるように言った。
「独りで抱え込んだ悲しみと痛みは、いつか誰かを不幸にする。父上がお主にもたらした
のと同じ辛い日々を、再び誰かに継がせる事になるのだ」
小高い山の上から、新たな一日を告げる太陽の放つ真っ赤な閃光が届いた。
顔の半分、涙と血に汚した方をこちらに向けた少女の後姿が、はっきりと浮き彫りになる。
しかし、紫と赤・・・・・・複雑に絡み合う二つの朝の光に照らさた少女の顔にどんな表情が
あるのか、雲飛にはついに見えなかった。
ただ一つ知りえたのは、あの遠ざかる少女の背中の中心で、赤々とした火の粉を撒きながら
紫色に燃える魂にはもう、涙の粒は流れてはいなかったという事だけだった。
155陸捨肆:05/03/05 22:48:00 ID:5YRFbLly
「はーっはーっ」
「ぜーぜー」
「いてーよ、頭が!あーあひでぇ!血が出てる」
「その出血じゃ死ぬなお前」
「だから死んでるだろっつの」
「うるさいぞバカどもが!結局師匠に遅れをとったではないかっ!」
「バカと言うヤツこそが真のバカなのだと、雲飛様は仰っておられた」
「ウソつくなー!」
やんややんや・・・・・・

石段を登りきり、門扉にもたれかかってぎゃーぎゃーと騒ぎを繰り広げている未熟者達の
声で雲飛は過去から戻った。
「やれやれ・・・・・・」
――後から石段を三往復追加だな。
そう心の中で呟きながら、雲飛は随分と長い時間が経っているのに気づく。
あの少女の事を思い出すときはいつもこうだ。
「姉探し、か」
手に握り締められ、すっかり癖がついてしまった鉢巻を眺めながら、雲飛は皮肉を感じた。
「悲しみは繰り返す・・・・・・」
独りで抱え込んだ悲しみと痛みは、いつか誰かを不幸にする。それは自分の言葉だ。
清算の時を待つ間、長い歴史を傍観していた、雲飛が導いた一つの答えである。
抗い難い過去の歴史は、あの数奇な運命を辿る少女達をもやはり飲み込むのだろうか。
「否・・・・・・断じてそれは違うな」
雲飛は一人だけの部屋で自らの言葉を否定した。
あの元気な少女は、この鉢巻の持ち主は言っていたではないか。
大事な事に、過去の悪習とは違う未来へと向かう道に、自ら気がついたではないか。

独りじゃ戦えないんだ。


リムルル第四章 「新しい姉もやってきた」 おしまい
156名無しさん@ピンキー:05/03/05 22:50:15 ID:Jf+swUB2
雲飛タン…(;´Д`)ハァハァ

とうとう出てきましたね。ナコ姉さま。
リムやレラとの出会いは如何に?
気になり申す。
157陸捨肆:05/03/05 23:02:55 ID:5YRFbLly
ワガママながらここは一気に読んでもらいたかったので、いつもの倍近い量をうpしました。
ちょっと長いので時間があるときにどうぞ。

さて、これで四章も終わりです。
やたら長いお話になってますが、いつも感想ありがとうございます。励みになります。
もっと読みやすく面白い文章を書けるよう、これからも精進しますので。
五章には今月中に入れると思います。では。
158名無しさん@ピンキー:05/03/06 01:17:16 ID:5Aas2MN/
さて、
去年はバレンタイン特別編があった。
今年はホワイトデー編を読みたいなあ、とか言ってみる。
159名無しさん@ピンキー:05/03/06 02:01:08 ID:B5YBgvpJ
いやー毎度の事ながら面白い。
五章も楽しみだ。GJですがんがってください。
160名無しさん@ピンキー:05/03/07 01:20:47 ID:Jxa3CDcs
本だそうよ。マジで。絶対売れるよ、ってか少なくとも俺は買うよ。印税生活だよ。
161名無しさん@ピンキー:05/03/07 17:27:19 ID:fTrLKehb
一冊売れたところで印税どころか借金で生活苦だな。

しかし俺も買う。
162名無しさん@ピンキー:05/03/09 01:32:15 ID:pN9eU2oE
俺も買う。
65様は凄い文才持ってるよな。
正体は作家だったりして
163名無しさん@ピンキー:05/03/09 02:58:08 ID:BwO5XfxG
俺も買う。
こんなおいしい小説出版されたらもう鼻血ブーよ。
164名無しさん@ピンキー:05/03/09 13:02:06 ID:Oo0C9nun
新人さんも頑張れ。
165名無しさん@ピンキー:05/03/10 03:01:25 ID:lKQEnqAi
狂死郎モノ書いてください(><)
166名無しさん@ピンキー:05/03/10 07:38:46 ID:XtWYS3nQ
>>165
リハビリかねて久しぶりに書いてみるか。
どんなのがお好みかな?エロとか萌えとか苦手だけどさ、俺。
167名無しさん@ピンキー:05/03/10 14:33:18 ID:zHIqAzA4
阿国との和姦とか……
ネオフリに載ってたオフィシャルショート(もちろんエロ無しだが)はよかったなぁ。
168名無しさん@ピンキー:05/03/12 16:54:58 ID:7XMsmyy/
どんなのでもいいです(><)
相手が難しいからオリジナルキャラでもいいです(><)
169名無しさん@ピンキー:05/03/17 21:41:33 ID:J4yPqxtW
保守
170陸捨肆:05/03/17 22:23:43 ID:ATGP3HOO
第五章 「美しき家族の肖像」

12月17日 早朝・まだ陽の昇らない時間

 レラさんが来て今日で4日目である。家に家族が増えて毎日が賑やかで楽しいし、生活の
質が向上したというか、早起きと早寝を繰り返して適度(時として過剰ではある)な運動を
毎日続けるのはかなり身体に良いと感じる。
あの修行を始めた次の日は、やはりというか筋肉痛があったものの、眠る前にレラさんが
俺に施してくれたマッサージのおかげで筋肉に残っていた強烈な負荷も幾らか和らいで、
翌日動けないというほどのものではなかった。剣術武術のみならず、身体の事に関しては
レラさんはエキスパートのようだ。さすがは戦士の魂の化身だけある。
そんな横になった俺の脚やら腕やらを丹念に揉むレラさんの側に座りこんで、横目で
ちらちらこっちを見ながら、コンルを使ってほいほいと冷たそうなお手玉をしてむくれて
いる子がいた。我が家のお姫様、リムルルだ。
 お姫様なんて呼び方だけで察しがつきそうなものだけど、リムルルは最近、特にレラ
さんが来て俺が修行を始めた日・・・・・・あの逃亡事件以来、またひとつ難しくなった。
いや、さらに思春期というか、「女の子のそういう時期」の真っ只中に突入したというのが
正しいのだろうか、色々と難しくなって、俺も振り回されている。
まず残念なことに、あのリムルルが、俺の裸にも自分の裸にもあそこまで無頓着であけっ
ぴろげだったリムルルが突然、「恥ずかしい」だの「にいさまは男でしょ」だのと言って、
俺と風呂に入るのを拒否するようになった。
俺としても何とも複雑な心境だ。なんだかんだ俺も男だから、ぴちぴちの女の子と(それ
がまだまだ未熟であっても)お風呂に入るのが楽しくないはずが無かった。朝夕の着替え
さえ洗面所に逃げ込んで見せてくれない。レラさんがいる手前、おかしな口実も作れない。
今や俺に残されたのは、風呂から上がりたてのリムルルの、濡れた首筋と髪を拭く仕草と、
赤く染まった頬と、大きなパジャマの胸元から時折無防備に覗く滑らかな肌とかすかな
膨らみぐらいのもの・・・・・・嗚呼。
171陸捨肆:05/03/17 22:25:26 ID:ATGP3HOO
 あー、どうしたらいいのか。リムルルの裸も見られないし、だからといってそんな奇跡が
去ってしまった事を嘆く俺も、男として兄としてどうしようもない。ダブルで苦痛である。
 しかしそうやってリムルルが急に俺が男だということをやけに意識した行動を見せる反面、
いきなり甘えてくる事もある。レラさんとの会話に横から盛大な声を出しながら別な話題
で割り込んできたり、マキリの手入れをしているのにひざの上にのって来たり、コタツに
はまってテレビを見ていると、コタツの中で俺の足指にちょっかいを出してきたりする。
 こんな風に前よりも少し感情の起伏が強くなったのも、やっぱり年頃の女の子だったら
あり得る事なのかもしれない。レラさんのような女性との接触が、リムルルの中で曖昧
にしかなかった女としての自覚が目覚めるのを促しているとも言える。しかもこの甘えは、
レラさんが外の捜索に出かけていたりするともっとすごい事になる。俺の一挙一動に反応
して後ろに着いて来るし、学校の事や何やらでコタツに向かっていると俺の正面でじーっ
と何も言わずにいつまでも見つめていたり、レラさんのマッサージを真似て揉んでくれる
のはいいんだけど何だかマッサージしなくていい所まで触ろうとする事があるし、トイレ
にさえ付いて来ようとするし・・・・・・。まあ悪い気はしないが、いささか過激、やりすぎ
だと思う。
 こうとだけ言うと、リムルルはどんどんワガママっぷりを発揮するようになって我が家に
おける「お山の大将」になってきているとしか見えないかもしれないが、そうではない。
そこは上品な「お姫様」で、リムルルはどこか、きっぱりと分別がついた印象を受けた。
俺の修行の事にも口を出さなくなり、家で留守番や家事をして待っていてくれるように
なった。朝の修行が終わって帰れば、汁物の材料の下ごしらえが終わっているし、その
手さばきも指を囲むばんそうこうの数に比例してかなり良くなりつつある。
172陸捨肆:05/03/17 22:26:13 ID:ATGP3HOO
 食後とかの節目の時間には、どこで仕入れたか結局よく分からないあの白い杯で、みんな
にお茶を出すようにもなった。安物のお茶だというのに、その味も飲むたびに何だかどん
どん良くなって、冬で寒いこともあってか、部屋の中でみんなで落ち着ける、ゆったりと
したその憩いの時間がとても大切なものに思えるようになってきてしまった。その時間の
後は、疲れた身体が不思議なぐらいにひょいと軽くなるのだから。
 まあこういった感じに、料理とか、家事とか、それからお茶とかのワビサビっぽい部分、
大げさかもしれないけど日本人の男が夢見る女らしさというか、そういう粛々とした物が
リムルルに芽生えつつあるのかも知れない。
 うーむ、娘の成長を見るようで感慨深い。娘なんていた事無いのに。
 しかしだ。そうやってリムルルは成長しているが・・・・・・だったら俺はどうなのだろうか。
リムルルにふさわしい男になれるのだろうか?打ち身と切り傷の数に比例して、俺も少し
でも、リムルルとの未来を目指すに足るだけの男として進化しているのだろうか?
 ・・・・・・それ以前に、妹のあいつに「好きだ」なんて、どうやって切り出すんだ????
 まあ・・・・・・こんな具合に俺は自分の現状にちゃんと疑問を抱けている。これならまだ大丈夫
だろう。
 さあ今日も朝が始まる。レラさんはもう外だ。眠ったままのリムルルの頬にいつもの様に
キスをして、修行に行く事にする。我が家の眠り姫さまは、今朝も変わらぬ可愛いさだ。
173陸捨肆:05/03/17 22:27:39 ID:ATGP3HOO
「12がつ〜まちは〜クリスマスきぶん〜」って、にいさまが歌ってた日の朝


毎朝、にいさまはわたしの頬にちゅっと小さなキスをして、レラねえさまと家を出て行く。

どうやらにいさまは毎朝わたしが眠ったままだと思ってるらしくて、物音を立てないように
抜き足差し足で部屋の中を動いて、着替えとか準備とかをしている。レラねえさまが布団
から出てにいさまより先に着替え終わる頃には、わたし、いつだって目を覚ましてるのにね。
だから・・・・・・にいさまの着替えも、暗いけど内緒でちょっぴり見てたりする。にいさまは
寒そうにもっそり布団から身体を起こすと、時計を見て、それからいつもこっちを見るの。
それで、にまって笑う。寝ぼけた顔とくしゃくしゃの髪が子供みたいで可愛いんだ。それで
ねえさまにぼんやりした声で「おはよう」って挨拶して、一度ぐーっと伸びをして、わたし
の横を静かに通って、お便所に行って、洗面所で顔洗う音がして、それで戻ってきて、
パジャマを脱ぐの。
いつも背中しか見られないんだけど、にいさまは大きくてとっても頼もしい。特にわたし
が布団の中で起きてるのがバレないように、寝そべったまま薄目でにいさまを見てるから
かも知れないけど、にいさまはホントに大きく見える。あれがいつも、わたしの事をぎゅっ
てしてくれる両腕。あれがいつも、わたしが抱きついて腕を巻きつけてる腰。あれがいつも、
大きいねって言いながらお風呂場で洗ってた背中。後ろから抱きついて、身体をぴたって
くっつけてた背中・・・・・・。
自分でも、よくわからない。何でにいさまの背中を見ているだけで、こんなにどきどき
するんだろう。不思議なおじいちゃんに会ったあの日、色々考えることがあったあの日
から、にいさまの全部が特別に感じられるようになっちゃったみたいで、にいさまがまるで、
にいさまじゃなく思えるような・・・・・・そんな感じ。
174陸捨肆:05/03/17 22:28:19 ID:ATGP3HOO
にいさまの事は大好きだし、わたしのにいさまには絶対変わりないのに、なのに何だか
突然、にいさまといるだけでどきどきし始めて、わたし恥ずかしくなって、こんな子供っ
ぽいわたしが、どうしてにいさまみたいな大人の人にこんなに優しくして貰えるのかとか、
どうしてにいさまは、わたしが少し意地悪したりわがまま言って困らせても許してくれる
のかとか、そんな、すごくバカな事考えちゃったりする。
嫌われたら絶対にイヤなのに、なのにそんな意地悪とか悪口とか、もう絶対しない方が
いいのにしちゃうんだ。わたし、にいさまを試すような事してる。
だけど、そんな風にわたしの事だけ見ててくれて、いつも気遣ってくれるのがとっても
嬉しくて、だからイタズラしちゃうんだよ。にいさまがいつまでもいつまでも優しいから、
それが悪いんだよ!?
・・・・・・今のはウソだね。わたしのバカ。
にいさま、ごめんね。でも、ありがとね。
わたし、ホントはにいさまにあんな意地悪な事したいんじゃないんだよ?だってレラねえ
さまがいなくなると、わたし、やっぱりおバカみたいににいさまに甘えるでしょ?にいさま
の事ず―――――っと穴が開くまで見つめたり、お肩とか脚とかを揉んで上げるついでに、
ちょっぴりお尻とか、お腹とか、おっぱいのトコとか触ったり、お膝で寝かせてもらったり、
近くの猫の真似して「にゃあにゃあ」ってじゃれてみたりするでしょ?にいさまと二人きり
だと今まで通りの、えっと、ちょっと甘えすぎかもしれないけど、それでもにいさまの
知ってる、にいさまが可愛がってくれてたわたしでしょ?
 ・・・・・・でも、不安なんだ。
にいさまはこんなにべたべたしてる妹は嫌いじゃないのかな。
175陸捨肆:05/03/17 22:28:53 ID:ATGP3HOO
その内ある日突然、こんなガキンチョなリムルルは嫌ですって、抱きつこうとしても
わたしの事跳ね飛ばして「俺はレラさんが好きなんだー」とか言い出して、レラねえさま
も「わたしもよコウター」とかなんとか言っちゃって、それでふたりだけでどんどん仲良く
なっちゃって、いっぱいキスとか、そりゃもうあの、テレビで見たみたいにお口とお口で
ちゅーちゅーして結婚して、子供がじゃんじゃん出来て、それである日突然、朝に出かけて
いったと思ったらもうぷっつり帰ってこないの。わたしとコンルだけこのおうちに残されて。
わたしは結局、ねえさまも探し出せないで、この世界でまたひとりに――
「リムルル、行って来るよ」
 わわっ?!にいさまが目の前にしゃがんでる!!気づかなかった・・・・・・。
起きてたのバレてないよね?
・・・・・・ないよね?ふぅ。よし、大丈夫だったみたい。寝たふり、寝たふり・・・・・・。
「リムルルその・・・・・・俺、今日も頑張るわ。リムルルとずっと一緒にいたいからな。全然、
お前の事考えてればな?レラさんの修行なんて屁みたい・・・・・・もちろんウソだけどな。はは。
んじゃな。今日は手ぇ包丁で切るなよ。無理すんなよ」
 ちゅっ。
 にいさまのお口が私のほっぺに近づいて、軽く触れて。
 玄関の方で靴の音がして、扉がばたんて閉まって、お部屋がしーんてまた静かになって。
「#@*〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 わたし、布団を頭の上まで被って、その中で意味の無い小さな悲鳴と一緒に、ごろん
ごろんって、何度も転がっちゃった。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
 にいさま、一瞬でも変な事考えてごめんなさい。わたし、にいさまが大好きで、ずっと
一緒だって、あんな風に約束したばかりなのにもう不安になっちゃって。わたしとにいさま
の絆、そんな弱いものじゃないってわかってるのに。
でもね、不安になっちゃうのもわかってね?だってレラねえさまはとっても素敵なんだ
もん。そんなねえさまと二人っきりで修行してるんだもん、何かあるんじゃないかって、
わたしだって焦っちゃうよ!
176陸捨肆:05/03/17 22:29:31 ID:ATGP3HOO
だからわたし、レラねえさまみたいに、見つめられると何だかむずむずしてドキドキする
ような顔できるように鏡の前で練習したり、もっとおっぱい大きくなれって、もっとお尻も
大きくなれって、レラねえさまが教えてくれたみたいにもみもみって、お風呂でしてみたり
してるんだよ?
 だから、お風呂も・・・・・・一緒に入らないんだ。でもあの時はビックリしたよぉ。にいさま、
わたしがお風呂誘われたとき「ヤだったらヤだの!」って言った途端、頭抱えて「オウノーっ」
とか叫んで倒れちゃうんだもん。大げさだよ。
 でもわたしだって、ホントはにいさまとのお風呂は楽しいから一緒に入りたい。だけど
お胸を自分でもみもみってしてるトコとか見られたら恥ずかしいし、いやらしい女の子だと
思われて嫌われちゃう。お股の毛も全然増えないし、おっぱいもなかなか大きくならない
こんな身体見られるの、どうして前は平気だったのか分からないぐらい今は恥ずかしいの。
それに、なんかにいさまの裸も見ちゃいけないような気がして・・・・・・おちんちんとか恥ずか
しいよ!見てるとどきどきするんだもん、変になっちゃうんだもん。
 にいさまはにいさまだけど、男なんだもん。
男の人と裸で一緒にいたら・・・・・・いけないんだもん。そんなの、いやらしいもん。コタンに
だってそんな女の人、いなかったもん。
 そんな事したら、わたし・・・・・・わたし・・・・・・きっと・・・・・・
177陸捨肆:05/03/17 22:30:18 ID:ATGP3HOO


はっ
 
と、とにかく!わたし、レラねえさまには負けない!にいさまがずーっと毎日ほっぺたに
大好きってしてくれるように頑張るんだ!お料理も最近は上手になってきたし、にいさまの
身体をほぐすのも慣れてきたよ。お買い物も、近くのお店なら一人でも大丈夫!ほーらわたし、
レラねえさまに全然負けてないよ!
あとはこれから大きくなって、ねえさまみたいに綺麗になればいいんだ!おっぱいもぼーんて!
おしりもぼーんて!
それでわたしが「うふ〜ん」てしたらにいさま「俺はリムルルが好きだー!愛してる!!」
って言い出して、そしたらわたしも「わたしもよにいさ・・・・・・コウタ〜」とか言って、それで
お口とお口でちゅーってして、子供がじゃんじゃかじゃんじゃんできて、みんなで楽しく暮ら

・・・・・・あれ?

わたし、何言ってるの?
にいさまとわたし、お口でちゅーってするの?にいさまの子供、じゃんじゃかできるの?
じゃあわたし、にいさまと・・・・・・けっこん、するの?結婚?結婚?けっこんー?
178陸捨肆:05/03/17 22:31:02 ID:ATGP3HOO
コウタの家での生活 七日目・日暮れ

 気が付けば早いもので、もう七日も経ってしまった。
 コウタは毎日、私の修行に音を上げずに着いて来る。正直、武術の経験が何も無い現代の
男がここまで頑張れるとは思っても見なかった。最初から全力でやって正解だったようね。
打てば響くとはいかないけれど、どんな無理な要求にもいつかこの男は必ず応える、そう
思わせるやる気の塊みたいなものが、コウタの真ん中で輝いている。気持ちが身体を突き
動かして、その人間が持つ力を最大限に発揮させるいいお手本だわ。
 正直、リムルルが妬けちゃうわね。コウタのリムルルを思う心がどんなに強いかと思うと。
 ここに来て初日の朝・・・・・・三日前の事。思い出すだけで笑っちゃうわ。何をしていたの
かしらね、私は。コウタに肌を見せて、一体何をしようとしたのかしら?
私は女と生まれて、その女を半ば放棄して生きてきた。それが大自然の戦士だと思って
きた。その女を妹との間だけで分かち合った。この身体で男を抱きとめた事は無い。ナコ
ルルと一緒で身体も心も、どんな男にも許さぬまま、愛されぬままに生きてきた。
 その穢れの無い年頃の身体を、私は男の前に晒して、誘惑した。
もしもあの時コウタが私の質問に呼応して・・・・・・そういう男だったとして、私の身体に後
から手を這わせ、慰めようと抱きしめてくれたのだとしたら、私は身体を赦したのだろうか。
妹の目の前で妹の愛する男を寝取ったのだろうか。戦士を捨て本当の女になれた悦びと、
妹とコウタを引き裂いた背徳とを胸に、自らの命をチチウシで絶っただろうか。
 ・・・・・・ちょっと馬鹿な想像が過ぎたかしらね。
あの夜、女としての悦びをリムルルと一緒に風呂場で花開かせ、その幸せを確かに掴んで、
私はもう死ぬ準備は出来た。そう確かに感じた。そのはずだった。
 でも次の日の朝私が取った行動は、自分の持つ女を男に見せつけるような行為だった。
179陸捨肆:05/03/17 22:32:13 ID:ATGP3HOO
 あの時、私の心には「ほころび」が有ったのだと今でははっきり実感しているの。
 前日には戦って死ぬ事に何の疑問も抱かなかったのに、あの時の私は、男と共に生きる
事を、自分だけを愛してくれる男との暮らしを、自分が思う女としての本当の幸せを夢想
していたの。コウタが「そういう男」で無いと判って、自分の女を試すような事をしたの。
 ・・・・・・戦士としての宿命を逃れるのと何も違わないような事を考えて、あんな愚行を。
 正直、馬鹿だったわ。それは自分の信念を傷付け、コウタとリムルルに災いさえもたらす
ような事だった。リムルルとの行為がもたらした昂ぶりと――事実、あの晩は二人が寝静
まっている中、個室になった厠で声を押し殺し、リムルルの感触をを思い出しながら自分を
二度三度と慰めた――二人の幸せに向けたちょっとした嫉妬があったとは言え、余りに愚か
で自分の中から消してしまうべき・・・・・・今までには持ち得ない感情だった。
 そう、あれは一時の気の迷いだったのよ。
そんなほころびも今ではきれいさっぱり縫い直して、こうしてシクルゥと一緒に野山を
駆け抜けては自然に仇なすものを斬り捨て、こらしめ、そしてあの輩の影を追っている。
戦士としての私を、ちゃんと取り戻しているわ。愛しい家族と大自然を守るために。
 日に日に増してゆく体のキレと、冴え渡るチチウシの感触を味わいながら戦っている
間だけは、あの迷いの事は忘れていられるから。
 でも家に帰ってコウタにじゃれつくリムルルを見れば、迷いがしつこく縫い目から顔を
出すこともあるわ。
 分からない。
 たった一瞬の血迷った気持ちが、どうしてこんなにも忘れられないのかしら。
 本当の幸せとかそんな物、戦士の自分には訪れないなんて、幾らでも分かっているのにね。
 リムルルが望むようにナコルルが蘇れば、あの娘の魂に戻るために、思念体の私は消える
のにね。こんな事、リムルルには言えないけどね。言ったらそれこそ大変だから。
180陸捨肆:05/03/17 22:33:16 ID:ATGP3HOO
・・・・・・街は多くの人達で賑わっているわ。どうやら今日は祝日と言って、多くの人々が休み
を取る日みたいね。赤と緑、それにきらびやかな金銀で飾られた街並みの中を、幸せ
そうな家族や、腕を組んだ男女が歩いているわ。そういう時期なのよね、今は。
「くりすます」と言うのよね、確か。愛する人に物を送るような儀式も多少あるのよね。
コウタも最近はマキリの使い方が上達した。あれなら「くりすます」の日にマキリの鞘を
リムルルに送るのも間に合うかもしれないわ。そのリムルルも何か最近、縫い物を始めた
みたいね。相変わらず上手、脱帽よ。あの子が作っているのも、多分・・・・・・ふふ、まあいいわ。
 ああ、何だか空気全体が華やいでいる。
少し浮かれ気味なこの感じ、決して嫌いじゃないわ。確かに自然は今も苦しみの声を上げ、
癒されない木々がどこかで泣いているのだけど、何だか今だけは、身勝手な人間の、つかの
間の幸せのために耐えて欲しい・・・・・・そう思ってしまうわね。大自然の戦士である私さえね。

・・・・・・今日もリムルルを苦しめた奴の影は見付けられなかった。
一体全体、本当に何者なのかしらね。大自然を苦しめるでもない、こんなに人の集まる
時期の都に出て、人を食い荒らす魔の者でもない・・・・・・。私の不在にあの二人を狙っている
様子も無い。
 それにもう一つ、ここに来てちょっとおかしな事に気付いたの。シクルゥも言っている
のだけれど、自然を癒すナコルルの力が何処かに流れ出ている感じがするわ。まだ細かい
所は分からないけれど・・・・・・何か、そんな感じがしてならない。
あの娘がどんなに弱っているにしても、どんなに自然を苦しめる人間がいるにしても、
癒されずに痩せ細った木々が多すぎる。辺りの環境に何の問題も無い、恵まれた山中に
生きる木々でさえ、突然苦しみに喘いでいたりする。この世界全体の大自然から、生きる
力が失われている・・・・・・そういう感じかしらね。
 その話と、リムルルを狙った輩とが繋がっている証拠は何処にも無いわ。でも不可解な
事には裏で結構繋がりがあるものよね。どちらにせよ早く問題を解決しないといけない。
もう二度と、幸せな「くりすます」を迎える事は出来ないかもしれないのだから。

さあ、家が近づいてきたわ。
181陸捨肆:05/03/17 22:51:20 ID:ATGP3HOO
五章は独白の形をとりつつの日記形式で進みます。ちょっとクセがあるかもしれませんが。
本当は昨年末にリアルタイムでやったら楽しそうだなあと画策してたんですが、忙しくて
無理ですた(´・ω・`)

たくさんの感想ありがとうございます。ちょっとレスさせて頂きます。
>156氏
勝手に作った過去のお話ですが、じじいにハァハァしていただけて良かったです。
ナコはですね、たぶん出てきます。ご期待にそう形かは分かりませんがお楽しみに。
>158氏
すんませんでした!旅行に行ってたものですから。
しかしあんな一発ネタを覚えていてもらえたなんて、感激です。
>159氏
何にも勝るお言葉。腹の底からやる気が湧き出るというものです。ありがとう。
>160〜163氏
一章から読んでいただければ分かりますが、俺はズブの、超ド級素人です。
少しでも上手くなろうと努力はしているつもりですが、まだまだ至らない所だらけで。
ですがここまでやって来れたのも、読んでくれる人がいるからこそ、です。
俺が仮に昔より上達しているのだとすれば、それはみんなのお陰です。ありがとう。
これからもよろしくお願いします。
182名無しさん@ピンキー:05/03/18 10:16:49 ID:C0GHcF3D
今回も最高です!
日記も一人一人の個性が良く出ていて、素晴らしいと思います。
しかし、リムの日記を読むと…
コウタは犯罪者ですね。
183名無しさん@ピンキー:05/03/18 20:38:28 ID:c+9JLcIO
今回もGJ
ところで物語全体としてはもう終盤ぐらいに入ってるんですか?
184名無しさん@ピンキー:05/03/19 00:21:12 ID:w0qnfDNq
それはこまる
185名無しさん@ピンキー:05/03/19 01:10:44 ID:bpepwCbw
えーそんなの嫌だ
186名無しさん@ピンキー:05/03/19 01:22:12 ID:TW5GcouU
無茶言いよる
いつかは終わりがくるというのに・・・
187名無しさん@ピンキー:05/03/20 03:34:21 ID:AkWX53eM
「終」という言葉に過剰反応してしまう。
そんな俺は夜麻FAN
188陸捨肆:05/03/20 14:53:02 ID:qTg1ibay
正直に言うと、前章までが序盤、五章からが中盤です。
サムスピ世界とアイヌ神話の間を行く感じでやっていこうと思っています。
黒幕など、元から強いオリジナル色がもう少し強まりますが・・・・・・
まあ「新しいサムスピが出た!」と思ってw

四月からは生活環境も変るのでどうなるかは分かりませんが、
どうにか今年一杯でラストまで駆け抜けられればいいな、と考えてます。
189名無しさん@ピンキー:05/03/20 18:50:25 ID:BSrGWajv
今までのが序盤ということは…
まだまだ楽しめるのか…(´д`)ハァハァ
190名無しさん@ピンキー:2005/03/22(火) 14:26:07 ID:tupaZXhX
フムン
191名無しさん@ピンキー:2005/03/22(火) 15:37:09 ID:C559Woax
>>190
むは
192名無しさん@ピンキー:2005/03/22(火) 19:52:59 ID:lbBFjSx5
>188
序盤でこれだけ楽しめるとは最高。
193名無しさん@ピンキー:2005/03/24(木) 02:38:30 ID:TuMsSTV6
狂死郎ものはありませんか(´・ω・`)
194名無しさん@ピンキー:2005/03/27(日) 06:16:52 ID:VxNMW4RE
職人さんスゴクいいよ!
195名無しさん@ピンキー:2005/03/29(火) 21:25:26 ID:PshJJNyO
GJ!!!
196名無しさん@ピンキー:皇紀2665/04/01(金) 12:52:19 ID:/KOFrS/e
俺のIDが微妙にスレ違いな件に付いて
197名無しさん@ピンキー:皇紀2665/04/01(金) 14:40:26 ID:wNjl5p56
狂死郎ものはありませんか(´・ω・`)
198名無しさん@ピンキー:2005/04/04(月) 02:00:03 ID:6itTWbT9
待ちまくる
199名無しさん@ピンキー:2005/04/09(土) 18:07:28 ID:E3JaNm+e
一応保守。
200陸捨肆:2005/04/10(日) 01:35:44 ID:aNRnzFOY
12月18日

修行にも日々熱が入り、レラさんも俺の動きに少しずつだが頷いてくれるようになり、
身体もどんどん軽く、食欲もどんどん多くなってきた。
リムルルは最近、朝の修行から帰ると「お帰りなさい」とタオルを渡してくれる。やけ
にうやうやしい。昨日だかの夜にレラさんにしっかりと教わったらしく、今朝のオハウは
リムルルが全部作っていた。やる気が余っていたのか、それとも調味が上手くいかなくて
味を濃くしては薄めてを繰り返したのか、量が鍋ギリギリ一杯のいつもの1.5倍になって
いたが、そこは一応満足がいくまで作った物らしく、味もレラさんに負けず劣らずの素晴ら
しい出来だった。俺はリムルルの頭をひとしきり撫で、レラさんにいたっては感動の余り、
じゃーじゃーと流れ出る涙が茶碗にまで注ぐという事態が起きた。リムルルの事になると
感情が150%むき出しになるレラさんはかわいいと思う。不安でもあるが。
そんなレラさんが教えてくれる、リムルルのために作っているマキリの鞘の木彫りも
着々と進んでいる。細かい部分にまでなかなかに意匠を凝らした味わい深い物が出来そう
だと、今から少し自画自賛している。だがマキリばかりでは作業の進展が遅いので、所々
は押入れにしまってあった彫刻刀でカリカリやってみたりもする。レラさんはそれに関して
は特に何も言わないが、「使ったからにはどの刃物もちゃんと手入れなさいよ」とだけ
俺に命じた。もちろんだ。というのも最近少し変わった夢を見た。

夢の中で目覚めると、俺は少し薄暗い石造りの部屋にいた。顔よりもずっと高い位置、
石の天井近くににある窓にはぶっとい鉄格子がはめられていて、外の様子は見えないし、
そこから出ることなどまず無理だ。どうやら光源としての役割だけを果たすため窓のようで
ある。背中にある扉も重そうな鋼で出来ている。典型的な西洋の牢屋のような部屋だ。
しかしその部屋は牢屋ではなかった。視界のどこまでも、所狭しと磨き上げられた刀剣類が
置かれているのだ。日本刀、青竜刀、槍、さすまた、匕首、包丁にナイフと、刃のあるもの
なら何でもござれのよりどりみどりである。
201陸捨肆:2005/04/10(日) 01:36:20 ID:aNRnzFOY
そんな武器庫のような物騒な場所の入り口で呆然と立ち尽くしていると、槍が整頓されて
いた壁際のラックの一つから、ひょこっと小さな人影が現れた。
笑いながらぺたぺたと軽そうな足音を立てて近づいてくるその子は、黒地に白でアイヌの
刺繍を入れたシックなワンピースのような晴れ着を着て、短くおかっぱに切りそろえた
銀色の髪を輝かせる小さな女の子だった。レラさんよりも目じりが斜め上を向いているので、
笑っているその顔は子ギツネのようである。
そんな笑顔にもあどけなさの残る、小学校も低学年ぐらいのその子だったが、その歳では
少し早いんじゃないかと思うような、ガラス玉や薄いカミソリのような形をしたアクセサリを、
耳や襟元にじゃらじゃらと身に着けていた。
これは!と俺は思った。明らかな夢の中だという自覚があり、おめかししたアイヌの晴れ着
の少女とくれば・・・・・・。というわけで俺が君は何かのカムイ?と聞くと、少女は「正解っ!
コウタ兄ちゃんのマキリのカムイな!」と、少し頭に響く高くて可愛い声で言った。コンル
以来のカムイとの遭遇だ。夢の中でしか、人の姿のカムイには会えないのだった。
それで、何をしに来たのかな?と彼女と目線を合わせるためにしゃがんで訊ねると、彼女は
細いキツネ目の間から銀色の瞳を輝かせて、あたりをきょろきょろしてこっちの話を聞いて
くれない。それどころか「コウタ兄ちゃん、色々刃物しってるのな。これなんていうのな?」
と、武器を指差して色々聞いてきた。子供特有の知識吸収モードだ。
よくよく聞けば、彼女はカムイコタンの鍛冶場で生を受けてからというもの、誰にも使われ
ていないせいで、レラさんが隠し場所から取り出すまで、ずっと眠っていたらしい。だから、
刃物のカムイのくせに自分の事しか知らないのだ。
俺はやれやれと頭をかいて、自分の想像が作り出した西洋風の武器庫の中で、小さなカムイ
の手を引き、知識の限り刃物の名前や用途を教えてやることにした。無論、昔に遊んだ
ロープレ程度の知識しか無いのだが、それでも彼女はさも楽しそうに鼻息を荒くして聞いて
くれた。とっても素直なよい子ちゃんのようだ。
結局、体育館ぐらいあった武器庫の中を一周し終わり、彼女の止めどない質問が「あー、
楽しかった」に変わる頃には、俺は肩車までしてやっていた。
202陸捨肆:2005/04/10(日) 01:36:52 ID:aNRnzFOY
その「楽しかった」のタイミングを逃さず、俺はすかさず彼女が何をしに俺の夢の中に出て
きたのかと聞くと、彼女はいきなり俺の肩からひょいっと身軽に飛び降りて、ぺこりと
お辞儀をしながら言った。
「忘れてた!えーと、毎日ちゃんと手入れをしてくれてありがとうございます!あたしは
コウタ兄ちゃんの事が好きな。いわゆるご主人で・・・・・・あたしは、えーと、そう!憑き神な!
だから今日は感謝して、こうやって出てきた。何かあったらちゃんと役に立つから、笹舟に
乗ったつもりでいてな。あ、笹舟って知ってる?川に浮かべて遊ぶヤツなっ!」
彼女はメチャクチャ重要な事と、お先真っ暗になるぐらい不安な事を澄み切った高い声で
言った。そして笹舟の作り方と遊び方を、周りにいくらでもあるナイフで石床をガリガリ
削って絵を描き、熱心に俺に指導した。
俺の相棒がこんな小さな女の子だとは思わなかったが、素直で中々に憎めない子なので
「これからもよろしくな!」と語尾を真似して握手をすると、彼女はにんまりと、細い
目を糸ぐらいにまでして笑って、手近の武器棚の影に隠れて手を振り、そのまま消えて
しまった。
そういう事もあって、俺のマキリに対する愛着はさらに深まった。きれいに磨いてやると、
輝きの向こうであの子が「きゃっきゃ」と笑っている声が聞こえるようだ。
だもんだから、きっとニマニマしていたんだろう・・・・・・マキリを手入れしている俺の顔を
見て、リムルルが露骨に顔をしかめて「きもちわるーい」とか言いながら、俺の頭、こめ
かみの辺りを後ろからぐいぐいはがいじめにしてきた。まったくこの子は。行動に脈絡が
感じられない上に甘えん坊で可愛いなぁ。
まあ、別段隠し立てすることでもないだろうし、俺の名誉のためにも食後にカムイの夢の
話をしたら、リムルルは今度は「すごーい!」って大層驚いていた。レラさんもお茶を
すすりながら、にこりと笑って頷いてくれた。この人の笑顔はなかなか見られないから
なお嬉しい。
203陸捨肆:2005/04/10(日) 01:38:01 ID:aNRnzFOY
霊感とは程遠い俺のような一般人が、こうにまで神秘の世界に触れられるのだから、確かに
俺、少しすごいのかもしれない。スジがいいのだろうか。いやでも、それって歓迎すべき
なのか?今度は幽霊に遭ったりして。
まあとにかく、マキリのあの子には悪いが、なるべくなら表に出てくるような事は起き
ないといいな、と思っている。平和が続けば、そしてその中でリムルルがナコルルさんを
見つける事が出来たなら、それが一番だから。それに、あんなに小さな女の子が戦い傷つく
のを見るのは絶対に耐えられないだろうし。
だから彼女にはせめて、この木彫りの作業の進行を見守っていて欲しい。眠っている間に
出てきて・・・・・・って、それじゃ靴屋の小人か。
204陸捨肆:2005/04/10(日) 01:39:02 ID:aNRnzFOY
「あちこちからおもいだしたよ〜に〜ジョンのこえ〜」ってにいさまが歌ってた日の朝

カムイコタンのおうちの、四角いいろりのそば。
お外は暗くて、しーんと鎮まっている。風の音もしない。だけどきっと、空からは雪が
どんどんと降ってきているんだと思う。
だけど、家の中はこんなに暖かだ。だって、いろりがある。ぱちぱち音を立てて、アペ
フチカムイがわたし達の生活を見守ってくれているから。それに、わたしの隣にはねえさまが、
優しくて大好きなナコルルねえさまがいるから。 
ねえさまは、わたしがにいさまへの「くりすます」の贈り物に、マタンプシ(鉢巻)を
作ることに賛成してくれた。そしたらねえさまはいろりの灰にすらすらと指で模様を描いて、
こんなのはどうかしらって、昨日からずーっと模様の事で悩んでいたわたしを助けてくれた。
やっぱりねえさまはすごいなあ。だって、わたしはねえさまに負けないぐらいたくさん
の模様を知っているはずなんだもん。それなのに、ねえさまはこれ以上無いぐらいに、
にいさまにぴったりな模様をたったの一回で示してくれちゃったんだから。まるでにいさま
の事を知ってるみたいに。
何も言わなくても、ねえさまにはわたしの事なら何でもわかっちゃう。いい事も、悪い
事も。楽しい事も、辛い事も。
わたしは隣に座ったねえさまに寄り添って、いろりの火を眺めていた。それで、ねえさま
が大好きだって、小さな声で言った。ねえさまは、ありがとうって、わたしの髪を指ですいて
くれた。ねえさまの手は春風の心地がする。冬でも夏でも、いつでも芽吹きの香りがする。
その手が気持ちよくて、ずっとこのままならいいねって、わたしはねえさまのお膝の上に
頭を降ろした。
横になって見るいろりの火は、とってもきれいで不思議だった。静けさをずっと強く意識
させる火の粉の舞う音がするたびに、ねえさまの白くてきれいなお顔が、赤く浮かんで、
沈んで。
205陸捨肆:2005/04/10(日) 01:39:59 ID:aNRnzFOY
幻想的な眺めにうっとりとしていると、ねえさまは、「そうね、一緒が良いわね」って、
わたしの頭をそっと撫でてくれた。
 
約束したもんね。ずっと一緒だって。
 
なのに、いろりの火は消えてしまって――
ねえさまのお膝の感触が、私の頭の下から消えてしまって――
ぼふん
 頭がお布団の上に落ちた衝撃に目を開くと、レラねえさまのお布団があって、壁に立て
かけられて隅に追いやられたコタツが見えた。
「夢・・・・・・だったんだ」
ぼそりとわたしは言った。寝返りを打って、枕から頭が落ちてしまったみたい。
にいさまが居ないから、その分布団が広まっちゃうからね。ごろん、て。そういえば今朝は、
にいさまが出て行くところを見ていない。扉が閉まる音が聞こえたような、それだけが
思い出せる。だから、にいさまの唇の感触があったのかも知らない。
きっと、わたしの頬に触れてくれたんだとは思うけど。とっても、とっても優しいから。
にいさまはわたしの事を気遣ってくれて、一緒に暮らしてくれて、そしてずっと一緒に
いるために、今もきっとレラねえさまの厳しい修行に耐えているんだ。そう思うと、わたし
もこうはしてらんない。今日も空気は冷たいけれど、にいさまとレラねえさまはもっと寒い
お外で頑張ってる。わたしはそんな大好きな家族に、とびきりの朝ごはんでこたえなきゃ。
・・・・・・にいさまに、大好きだって言ってもらえるような、女のひとになるんだ。
ほら、もうどきどきしてる。にいさまの事を考えるだけで、また。起きたばかりなのに
鼓動に身体全体が脈打つみたい。
お布団を掴んで、頭まで被ってうずくまってみる。起きる前に、最近の朝はこうするのが
癖になった。自分の体温が残ったお布団の中で脚を胸に抱えて、ぎゅーっと小さくなるの。
春を待つクマみたいに。そうするとなんだか、大きなにいさまの腕が伸びてきて、全身を
抱きしめて貰っているような心地になる。自分の体温と、お布団のどこかにまだ残っている
にいさまの温度と、少し湿ったお布団の中の空気を吸い込むたびに、全身が熱くなって
くるの。息苦しいぐらいに。
206陸捨肆:2005/04/10(日) 01:40:36 ID:aNRnzFOY
最近は何だか一緒にいるのも、お膝の上でてれびを一緒に見ていても、手に触れているだけ
でも恥ずかしい。出会ったばかりの頃はもっとちゃんとにいさまの事を感じていられたのに。
そばにいると、大人のにいさまにはわたしの事もわたしの気持ちも、ねえさま達と同じに
全部見えてしまっているような気がして、胸騒ぎがして。
だから、こんな事してるの。
にいさまのにおい。にいさまの温度。全部たからものだから。
にいさまと片時も離れたくない。わたしの事、いつも忘れないでほしい。わたしを、にい
さまの一部にしてほしい。
そう思ったから、わたしはにいさまにマタンプシを作る事にしたの。てれびで見たもん。
もうすぐ「くりすます」っていうお祭りがあって、その時に贈り物をするのが、この時代の
慣わしなんだって。こんなに都合の良い機会なんてそう無いから、
だから今だってすぐに、にいさまの頭の大きさはだ思い出せるんだ。昨日の夜に、頭を
ぎゅって抱きしめたから。一瞬だけど。でもね、一瞬じゃないと、わたしの気持ちがにい
さまに見えてしまうから・・・・・・そしたら困るから。
布団の中に残った、甘いにおいを胸いっぱいに吸って、わたしは布団から這い出した。
部屋の空気が、何倍にも冷たく感じられる。だけど大丈夫。にいさまの温度が、わたしを
守ってくれてる。
さあ、今朝からは忙しい。朝ごはんを作って、にいさまに見つからないようにマタンプシも
作らなきゃいけないんだから。
ナコルルねえさま、待っててね。ねえさまが教えてくれたマタンプシをにいさまに巻かせて、
みんなで一緒に、絶対に探しに行くから。きっともうすぐ、もうすぐだよ。
207陸捨肆:2005/04/10(日) 01:41:10 ID:aNRnzFOY
コウタの家での生活 8日目 明け方

「ふうぅ・・・・・・リムルルぅ」
「レラ・・・・・・ねえさま」
少し薄暗い部屋の中、お互いの名を呼びあい、指を絡めあい、リムルルの吐息を感じながら、
その小さな唇に私もそっと唇を重ねる。柔らかな接吻。妹の唇の甘い感触。
いつしか唇は割り開かれ、指と同じく、二枚の舌が熱っぽく絡み合った。
「んちゅ・・・・・・ちゅる」
「ちゅっ・・・・・・ふぅん、くちゃ・・・・・・はあっ」
慣れない行為に少し息苦しそうにしながらも、リムルルは積極的に私の舌を求めてくる。
ねっとりとした唾液が顎にまで垂れ、着物の襟を汚しても止まらない。求められるままに
私はゆっくりと押し倒され、ついに布団の上に身体を横たえた。
唇が一度離れ、膝と手を突いて私の身体の上に跨ったリムルルが、熱に冒された視線を
私の胸元に下ろした。これからの行為を予感させる緊張した空気が心地よい。
「ねえさま・・・・・・レラ、ねえさま・・・・・・」
「リムルル、いいのよ・・・・・・」
ゆっくりと頷くと、リムルルは襟元からその小さな手を差し込んできた。
「あ・・・・・・」
期待に声が出てしまう。さっきまで強く握り合っていた妹の右手の平が、私の胸の頂を
捉えた。少し汗ばんだ指が胸の形をやわやわと変えていき、余った手が、布の上から私の
もう片方の乳房を下から持ち上げるようにして揉みしだいた。
「あっ、リムル・・・・・・んんっ」
ぎこちない手つきが余計に愛らしく、控えめに訪れる快感にとろけた声が漏れる。
「ねえさま・・・・・・きもち、いいの?」
恥ずかしい問いかけに答える代わりに、私はリムルルの髪を下から撫で、身体を起こして
顔を近づけ、唇を再び奪った。
208陸捨肆:2005/04/10(日) 01:42:01 ID:aNRnzFOY
唇と唇が触れ合った瞬間、リムルルの愛撫が止まったかと思うと、服の上で私の感触を
確かめていたリムルルの手が襟元へと移り、ぐいと掴んで押し下げようとした。だが、
腰帯を巻かれた服がそう簡単にずり落ちるわけはない。
「んっ、慌てないでリムルル・・・・・・何が欲しいの?」
その行為の示すところは一つだが、わざとらしい質問をしてやると、リムルルは切なげに
顔をしかめた。苦しくてもうたまらない、そんな表情だ。
「あのねっ・・・・・・あの、ねえさまのおっぱいが・・・・・・好きなの、好きだからぁ」
「好きだから?」
「いじわるしないでよぉ、お願い。おっぱい・・・・・・見たいのぉ。見せて!お願い」
「ふふ、そう。見たいのね?なら・・・・・・見るだけよ?」
さらに意地悪な要求を与えつつ、肩に手をやり、私はするりと胸元をはだけさせた。
その途端、私が命じた禁を早々に破り、リムルルが再び私の上にのしかかってきた。
「あっ、リムルルっ、こらっ言うことを聞きなさいっ・・・・・・みっ、見るだけって、うあんっ」
リムルルが両の胸に少し爪を立てるようにして乱暴に押さえつけ、抗議する私の口を唇で塞ぐ。
「んんーっ!」
「んちゅっ、ふは・・・・・・れろっ、ねえはまっ。くちゅっ、ちゅっ」
「はっ、はぁ、んんんーっ」
密着しあった口の中でリムルルの甘い舌が縦横に動き回り、脳さえも揺さぶられ、私は
呻きながら妹のされるがままになっていくのを感じた。
「ふあ・・・・・・ダメだよねえさま。こんなにおっぱいの先ぴんぴんなのに無理しちゃ。わたし
が・・・・・・ちゃんとほぐしてあげるから、ね?」
きらめく細い糸を引きながら、リムルルは唇をようやく離し、くったりと横たわる私に
妖しい微笑と共にそう宣言した。
図星だった。この興奮に支配された空気の中では、直接に見なくても自分の胸の頂がどう
なっているのかが簡単に分かってしまう。痛いぐらいにしこり立っているのだ。
209陸捨肆:2005/04/10(日) 01:42:59 ID:aNRnzFOY
「ほら・・・・・・こんなに硬いよ?」
「ああっ!」
ちょっと触れられただけでも、喘ぎが抑えられない。そんな私の反応を楽しむかのように、
リムルルはこりこりと指の腹で乳首を押しつぶすように刺激してくる。当然、私の微かな
変化さえ逃さぬよう、小さな耳を私の口元に向けてそばだてながら。
「あっ、ああ・・・・・・うふっ、ふうう」
「ねえさま、かわいいよ。おっぱいも、おっぱいの・・・・・・先っぽも。ちゅるっ」
ささやき声がして、続いて胸の上にぬめりが走った。生温かな、水の粘る音。
「ふぁああ!」
正直な身体に訪れた至極の刺激に、たまらず私は叫び声を上げてしまった。
「声も可愛いよ、レラねえさま。なんだかわたしまでヘンな気持ちになっちゃう。だから
もっときもちくなって、もっと聞かせて・・・・・・。ほら、わたしが助けてあげる。もっと
もっと・・・・・・ちゅっ、ちゅ・・・・・・」
私の強い喘ぎを号砲に、リムルルの愛撫はどんどんと熱を帯びてゆく。
「ちゅっ、ちゅるうぅ、んっ・・・・・・ぢゅるぅぅ・・・・・・ぷあっ、ねえさまきもちい?」
「はぁっ、あっ、あぁ・・・・・・」
リムルルの唇が立てるわざとらしい水音に全身を焦がされるような羞恥を感じて、私は
顔を背けた。
リムルルがゆっくりと首を左右に振って、ささやく。
「ふふっ、隠してもだめ。ねえさまは、おっぱいこうされるのが・・・・・・大好きなんだよね。
わたし、ちゃんと覚えてるんだから。ほらっ。はむっ・・・・・・」
「あぁ〜っ、リムルルっ、だ、だめぇ」
乳房全体を覆い尽くすように、リムルルは胸の上に口を大きく開いてしゃぶりついてきた。
「んっ、んんっ、ちゅるちゅる・・・・・・ぢゅるるる・・・・・・ほら、どう?」
「んんんっ、あぁ・・・・・・あ、あぁ!だめ、だめよぉ」
「ふふっ、ねえさまこの前よりも気持ちよさそうだね」
「そんな事・・・・・・な・・・・・・あぁぁ!」
210陸捨肆:2005/04/10(日) 01:43:35 ID:aNRnzFOY
はしたない粘着音が左の胸の上に吸い付いた妹の口から弾け、胸全体に広がる温かさと
ほとばしる快感に、私は身体を蛇のようにくねらせた。
「だめっ、だめぇ・・・・・・リムルル、あっ、あああ・・・・・・!」
そして、迫り来る快感の波にそのままさらわれようとした時。
「じゃあ・・・・・・やめちゃおうかな」
リムルルがにやりと笑い、覆いかぶせていた身を引いてしまった。もちろん手も、あの
柔らかくて艶やかな唾液にまみれた唇も胸から離れてしまっている。
「えぇっ?」
弄ばれているのは分かっている。けれど、唇が離れたことで熱を失い、冷えてゆく唾液に
ぬるぬるにされた胸の中では、燃え上がっていた情の炎がくすぶりを上げ続けている。
妹が仕掛けた快感の迷路の中で、絶頂という出口を求めてさまよう私は思う。
――こんなの・・・・・・ひどい!
「だ、だめよぉ・・・・・・やめないで」
妹の見え透いた罠に、私はいとも簡単に落ちてしまった。
「もっとしてほしいの?」
「もっと、もっとぉ・・・・・・お願い。ここで止められたらわたし」
「ねえさまはいやらしいなぁ・・・・・・いやらしいおっぱいが止まらないんだね?」
ぞくりとした。
前髪をかき上げながらため息交じりに言うリムルルの瞳に、いつもと変わらず自分を
見つめる妹の目の奥に、私は小さな蔑みを感じずにはいられなかった。
気のせいだったかもしれない。上から見下ろされているからかもしれない。あれだけ
素直で可愛い妹が、自分を馬鹿にしたりするような事などあり得ないのだから。
でも、感じてしまった。その瞳に、冷たさを。
・・・・・・そして、激しい快感を。
もう自分が作り出した幻でも、何でもいいのだ。
氷柱を心臓にねじ込むような妹の冷たい視線に、私は犯されたかった。
211陸捨肆:2005/04/10(日) 01:44:22 ID:aNRnzFOY
「そうなのぉ・・・・・・おねえちゃんは、いやらしい・・・・・・おっぱいなのぉ!」
胸を反らせて、私は自分でも信じられない言葉をまくし立てた。
「おっぱいがおかしくなっちゃうの!リムルルが鎮めてくれないと、だめに・・・・・・なるぅ」
「ふふ。ねえさま、いいよ。わたしが治してあげる。いやらしいおっぱい、助けてあげるよ」
口元を歪ませて鼻をならしたように「見えた」リムルルの顔が、再び私の胸元に埋められる。
「あぁっ、あああー!」
少し乱暴な、だけど待ち焦がれていた胸への愛撫に、私は絶叫した。
鼻先で乳首をくりくりといじられ、いやらしい雌の匂いを嗅がれる。そして尖り切った先端を
指で挟まれ、ちゅるちゅると激しい音を立てて吸われるたびに、既に全体が性感帯と化した
胸から、怒涛の勢いで快感が生まれては私を追い立てる。
定まらない視線をリムルルにやれば、リムルルももう、胸を愛撫すること意外には何も無く、
餌を貪る動物のように乳首を一心に攻め立てていた。
――あ・・・・・・あぁ、妹の口で、また・・・・・・おっぱいだけで・・・・・・わた、し・・・・・・!!
自分より年下の妹に言葉ではずかしめを受け、胸だけでの絶頂を迎えるという自分のいや
らしさと節操の無さに、私は再びぞくぞくとその身を震わせた。
――こ、こんな、変態じみた・・・・・・あぁぁ!
しかしそんな被虐的な快感に震える自分を直視すればするほど、温かなぬめりに包まれた
乳首からの快感が一層の甘さを示し、その快楽に狂うしかない。出口は、その先にしか
ないのだ。
「はっ、あっ、あぁ・・・・・・リムルル、もっと、もっと!もっとぉ・・・・・・」
白けていく意識の中で、うなされるように私は何度も繰り返した。
「んっ、んっ、んんっ・・・・・・じゅるっくちゅ・・・・・・んはっ」
一段と貪欲さを増したリムルルの愛撫は、強烈な刺激となって私の中を走り抜けてゆく。
「リムルルっ、好きよぉ!おねえちゃんをもっと、気持ちよくしッ・・・・・・ああっ!」
「じゅるるるっ、ねえさまっ、爆発・・・・・・するの?」
もう、私の顔は激しい快楽にやられて酷いことになっているのだろう。私の表情から結末
を読み取ったリムルルが、てらてらと唾液に輝く唇を離してにやりとし、問いかけてきた。
212陸捨肆:2005/04/10(日) 01:45:17 ID:aNRnzFOY
「しちゃうっ、爆発するのっ、お願いもうだめっ・・・・・・クる・・・・・・クるっ、キちゃう!」
「いやらしいねえさま、妹のわたしにこんなことされて・・・・・・そんなに感じたの?」
燃え盛る私を尻目に、リムルルもその不思議な冷たい興奮の視線を私に投げかけてくる。
「う、うぅ・・・・・・」
言いよどむ私に、リムルルは追撃を仕掛ける。
「おっぱいだけでこんなに乱れちゃって」
「違う、違うの!私は・・・・・・そんな」
「違わないよ!ねえレラねえさま?よーく考えてみて?ほら、妹にいじめられて、しかも
こんなに乱れて・・・・・・気持ちよさが止まらなくて、またはしたなく爆発しちゃうなんて。
ふふっ・・・・・・」
背筋が凍るような、コンルにさえ放てないであろう強烈な冷気を伴う眼の輝きとともに、
リムルルは深いため息の後、こう私に言い放った。

「ねえさま、変態さんなのかもね」

その言葉が、最後だった。
リムルルの熱くぬめった舌が三度私の右の先端を捉え、唇がきりきりと絞り上げる。
「そん、な・・・・・・くあああっ!」
引き裂くような言葉と強烈な愛撫が絡み合い、落雷の衝撃にも似た快感が全身を突き抜けて、
くすぶっていた甘い感触を一気に大火へと変貌させた。突然に訪れた終末が、準備の整わ
ない身体へとしたたかに鞭を打つ。
「あっ、あっ、あぁ・・・・・・あ、あ、ぁ、・・・・・・キたの・・・・・・リムっ、ふあああ――っ!!」
びくっ、びくっ、びくびくっ・・・・・・
リムルルを身体の上に乗せたまま、私は深い絶頂を示す派手な痙攣を繰り返した。
快感だけで白く塗られた「羞恥」という箱の中に、愛する妹の手によってどこまでも深く
放り込まれながら・・・・・・。
213陸捨肆:2005/04/10(日) 01:45:52 ID:aNRnzFOY
「ッツ!!」
ばちっと、私は天井を睨むようにして目を覚ました。
眠気など欠片さえ引きずっていない。昔からの、いつもどおりの完璧な目覚めであり、
「さ、最低だわ」
それは今日に限っては最低の目覚めでもあった。あまりの夢の内容に、頭を抱えこむ。
何というおぞましい夢!
数日前、確かに妹の手によって私は胸だけの絶頂へと導かれた。けれど、今朝の夢は何だ
というのかしら。妹に指示を下す間もなく、完全に主導権を握られたまま、しかも自尊心
を傷つける言葉の連続で打ちのめされてしまっていたではないか。
「しっ、しかも・・・・・・それで、あんな・・・・・・!」
到底夢とは思えない、鮮明で変態的な絶頂の記憶に、私はたまらず布団を頭に被った。
消えてしまいたかった。生き恥とさえ感じてしまう。
布団からひょこりと頭を出して壁にかかった時計を見れば、あと数分でいつもの起床の
時間だわ。視線をそのまま横に下ろせば、リムルルとコウタが幸せそうに一緒の布団で
眠っているのが見える。何も変わったところの無い部屋からして、寝言を言っていな
かったのが不幸中の幸いね。早いところ精神を立て直さなくては、修行どころではないわ。
日に日に磨かれてゆくコウタの腕なら、こんなに浮き足立った今の自分の修行では物足り
なく感じてしまうかもしれない。しかもコウタはなまじ感受性が強い男。気配りが利くわ。
変な質問をされては記憶が蘇って耐えられない。
「そうだわ、ふーっ、すーっ、はぁーっ・・・・・・」
三回の大きな深呼吸をしつつ布団の中で四肢をぴんと伸ばし、私は何とかいつもの目覚め
へと自分を持っていこうとした。だけど、魂と直接につながっている身体は正直そのもの。
「はぁー、ふぃー・・・・・・ッ!」
五度目の深呼吸と共に背伸びで脚を開いた瞬間、股の付け根に嫌な感触を覚えて、指先
から力が抜けていった。
「ま、まさ・・・・・・か」
突き付けられた現実と、火を見るより明らかな結末さえ拒否しながら、私はおずおずと
異変を訴えた股の間へと指を這わせた。
214陸捨肆:2005/04/10(日) 01:46:30 ID:aNRnzFOY
「あ、うあぁ・・・・・・そんな」
自らの恥部が吐き出した、現実という名の愛密に指をしとどに湿らされ、私は布団の中で
ぐったりと力を失った。
妹に犯される破廉恥この上ない夢で、私はしっかりと感じていた・・・・・・。
変態。変態。ヘンタイ。
夢の中で聞かされた、虐待心に満ちたリムルルの声が頭の中でこだまを返す。どうにか
振り切ろうと私は頭を振り乱し、耳を塞いでしまった。
「そんなじゃないのに、私は!やましい事なんて!」
だったら何で、一枚しかない寝巻きに染み込むほどの量の淫らな蜜を、私の股間は湧かせて
いるのかしら。不在の間にリムルルに下穿きを見られたら、それこそ・・・・・・。
「だめよ・・・・・・違う。落ち着いて、私」
そう。真実だけに目を向ける必要がある。分かっているの。そう。ほら、リムルルはあんな
事はしない。するわけがない。まして、家族の私を脅し、快楽の奴隷におとしめるような
事など。
私はきっと疲れているんだわ。現世への転生直後の身体には、妹に会えた喜びとあの鮮烈な
風呂場での情事はかなり堪えているはず。だからあんな夢を私に見たの。絶対に。
安らかに眠る、美しいカムイのようなリムルルの寝顔を見なさい。あのやさしい子が、
あんな事するわけがないじゃないの。
あれは夢だけの話。夢だけの。私の心の中だけの――

それじゃあ結局、夢を見た原因は・・・・・・私。

やっぱり、やっぱり、私は・・・・・・?!
215名無しさん@ピンキー:2005/04/10(日) 10:04:36 ID:N6eJaM8T
レラさん可愛い!
コウタ→ストーリーパート
リム→萌え?
レラ→エロ

こんな感じで進んでいくのかな?
216名無しさん@ピンキー:2005/04/13(水) 21:17:43 ID:cSQAXqb5
最近、某氷塊の影が薄い件についてw
217名無しさん@ピンキー:2005/04/14(木) 11:02:18 ID:wlSprwoz
そういえばコンル見ないね。
俺あの子好きなんだけどな。
218名無しさん@ピンキー:2005/04/14(木) 22:29:16 ID:l8GHDAS9
反ナコ親レラ派のれのれ帝国に抗議を!

ttp://www.geocities.co.jp/Playtown/7209/
219名無しさん@ピンキー:2005/04/15(金) 01:27:14 ID:1YveBmr2
ナコルル人気没落おめでとう
220名無しさん@ピンキー:2005/04/15(金) 05:14:36 ID:gfGI8uqV
GJ!!
まだ中盤なんだよな先が楽しみ!
221名無しさん@ピンキー:2005/04/18(月) 23:16:22 ID:TOBPQ1jW
保守
222名無しさん@ピンキー:2005/04/23(土) 06:34:04 ID:qqZnQDwH
保守
223名無しさん@ピンキー:2005/04/25(月) 23:16:48 ID:Ekh1Q5xQ
hoshu
224名無しさん@ピンキー:2005/04/29(金) 00:49:53 ID:6TOMHWIo
ワクワク
225名無しさん@ピンキー:2005/04/30(土) 02:04:33 ID:VGaa+YKQ
スレの流れを無視してるが・・・
夢路タンキボンヌ
226名無しさん@ピンキー:2005/04/30(土) 15:50:00 ID:b61DLZho
新作ロケテ中
デフォキャラは零キャラ+三九六+新キャラ二名
銃剣使いな金髪眼鏡男と筒(花火?)を使う骸羅顔のチビデブ男
夢路、ミヅキ、天草、我旺、斬紅郎は確認できず
後、王虎だけ復活
227名無しさん@ピンキー:2005/05/01(日) 00:18:44 ID:8WdplnVy
>>226
>銃剣使いな金髪眼鏡男
とうとうアンデルセン神父様がきましたか?
228名無しさん@ピンキー:2005/05/02(月) 20:54:02 ID:OuBTGnP2
夢路タン・・・
229名無しさん@ピンキー:2005/05/04(水) 19:45:36 ID:5ZOGsL5b
・・・書いたのはいいんですが、長くなりそうな上に今回エロなし、投下していいですか?
230名無しさん@ピンキー:2005/05/04(水) 19:51:21 ID:lTKE5yHj
くるしゅーない!励めい!

…いや失敬。お待ちしてましたよ職人殿!さあひとつ我我の目の届くところにその作品を是非とも!と事故即レス。

投下していいかなんて誰の了承を得る必要もまして断る必要もないわけですよ。
231229の男。:2005/05/04(水) 20:57:43 ID:5ZOGsL5b
書き始めて間もないんですごく下手ですが、どうぞ、お目汚しにひとつ・・・。

−それでさ、暇だから秋葉原行ったわけよ
−えぇマジで?引くわぁ
−オタクは引かれて何ぼだし
−はははは、自虐。

「七市、七市聞いてるのか?七市君!」
「・・・なんですか?」
授業がすべて終わり、今は帰宅前のホームルームの時間だ。
今日はプログラミングやクラブ活動といった、授業らしいものがほとんどない日程だったのでみんな腑抜けている
しかも明日から連休だ、みんな旅行の打ち合わせや放課後の予定調整に余念がない。
かく言う俺も、今から遊びに行こうと隣の席の奴と話をしていたところだ。
「七市!なんでお前ここにいるんだ、今日は北海道からの研修生が来るんだぞ!空港まで迎えに行け、間に合わないぞ。」
しまった!
「やば!忘れてた。」
「おいおい!まずいぞ、到着は18時のJAレ774便だ、急げ七市。」
「はい!悪いな、跡でメールして」
北海道第二の都市、旭川から研修生が来る。
だれかホストをやれ。
先週、ホームルームの時間、突然先生が発表した、男だというのでもちろんホストの募集は男性限定だ。
「じゃあ、俺やります。」
「七市か、お前一人暮らしだよな?」
「ええ。」
「あんまりハメはずすなよ、飲むのはいいけどタバコはよせ。」
「はい。」
232229の男。:2005/05/04(水) 20:58:47 ID:5ZOGsL5b
即決だった、女の子が来るというならよからぬ男立候補するだろうが、野郎一人が来るのではだれもやりたがるはずがない。
一人暮らしをはじめてまだ一ヶ月しか経っていないので、少し話し相手がほしかったのだ。
研修期間は半年、むしろ研修というよりも短期の編入に近いそうだ。

駅に向かって走る、もう午後四時ちょうどだ、羽田にはぎりぎりに着く事になるだろう。
こまごまとしたビルの間の通りをぬけるとロータリーに出る、大きな駅、吉祥寺の駅だ
吉祥寺、昔は若者の集う町であったが、いまではすっかり"元若者"の集う町になってしまった。
いまだに駅前に店を構えるジャズ喫茶など、入っているのはみんな枯れかけたおじさんばかりだ、きっと昔を懐かしんでいるのだろう。
多分第二のゲバはジャズ喫茶から始まる・・・。
ボロいおじさんたちが白ヘル+タオルで完全武装し
手に手に角材を持ってジャズ喫茶からわらわらと出てくる図を思い浮かべてにやけてしまった

大急ぎで階段を上ると、タイミングよく渋谷行きの急行が出るところだったので飛び乗る
これで下北沢まで行ってそこから小田急にのって新宿まで出ればすぐだろう。
ここ数日の熱気にうだされた車内は露出の多い女の人でたくさんだ、小さな女の子はみんなタンクトップ、かわいいなぁ。
だけど二十歳後半の男がスネ毛の処理もせずに半ズボンを履いているのには正直閉口してしまった、うへぁ。
「お客様にお知らせします、ただいま京王本線ですが、明大前駅で架線にビニールが引っかかり・・・」

しまった、これでは新宿へは下北沢に回らないと出られない・・・振り替えしてもらえるかな。

明大前を出て、新代田の駅を通過するとすぐに小田急線の線路が見えてきた、下北沢だ。
有名だけど井の頭線はかなり短い路線だ、寝過ごすと元乗った駅に戻っていることが多い。

階段を下りて複雑な高架の上を駆け回り、新宿行きの急行に乗る、まだまだ時間はある。
233229の男。:2005/05/04(水) 20:59:43 ID:5ZOGsL5b
井の頭線とは対照的にがんがんに冷房の効いた車内、これじゃあ女の人は風邪を引いてしまうんじゃないだろうか
ふとドアの上にある横長の広告を見ると、五月九日から女性専用車ができるとある。
俺が車掌さんだったら専用車に自意識過剰なブスばっかり乗っていたら冷房の温度を氷点下まで下げるだろう。くけけけ

さて、そろそろ新宿だ、右手にJR各線と高島屋タイムズスクエア、左手に高層ビル街、いつ見てもおしゃれな街だ。
その上駅から徒歩3分でとらのあながあることも忘れてはならない、そして乱立するゲームセンター、ソフマップまである
しかもコミケではその立地上初電に乗れば五時半ダッシュより少し遅れたぐらいで列に並ぶことができる。
まさに最高の街と言えよう!

電車は駅ビルの下のピロティー状の地上ホームにもぐり、不便な形のホームに人をどばっと吐き出す
人の群れはまるで津波のごとく改札に押し寄せ、そしてさっさと駅から去ってゆく
その群れの中、一人だけ改札の横のところでその津波を眺める人影があった。
「柳生課長」こと柳生十兵衛である、彼はその人の波を見つめつつ、手元ではポケコンをしっかりと握り締めている
その液晶画面には写真、何を隠そう、それは紛れもなく七市の写真であった、後姿の。
「まいったなぁ、誰だよ七市って・・・。」
234229の男。:2005/05/04(水) 21:00:30 ID:5ZOGsL5b
その横を颯爽と通り抜けていく七市、ピンクパンサーのような一幕だが―――

「・・もしもし?学園人事課?今の電車にも乗ってないよ、第一こんな写真じゃわかりっこないじゃないか!」
「ふぇぇ、ごめんなさぁい。」
申し訳なさそうな女の子の声、その声の主こそ、これから半年にわたって起こる騒動の仕掛け人、ドジっ子司書の黒河内夢路嬢であった。
「まったく!七市は空港で延々待つハメになるぞ、俺しーらね。」
「あぁ、まってぇ、今写真見つけましたから送ります・・・。」
「早くしてくれ・・・。」

・・・糞ぉ、遅いな、そろそろH"にするかな・・・。
・・・待つこと三十秒、送られてきたのはまごう事なき彼女の書いたやおい本の原稿の1ページだった

「・・・行きましたか?お願いですから早く見つけてあげてください・・・。」
「・・・なあ夢路。」
「はぁ・・。」
「くぇーーーーーーーーーーーーっビビビ♂♀バ★バリ*ボリくぁwせdrftgyふじこlp;@!!!!」
「課長!?課長どうしちゃったんですか?課長!!やだぁ!しんじゃやだよぉ!」

―――このことが羽田で七市をかなり困惑させるとは彼には知る由もない。
235229の男。:2005/05/04(水) 21:01:07 ID:5ZOGsL5b
毎度りんかい線をご利用いただきましてありがとうございます
お客様にお知らせをいたします
ただいま、りんかい線は、国際展示場前駅で人が線路に進入したとの通報がありまして、安全確認のため運転を取りやめております

繰り返します

―――ぇ〜ご迷惑をおかけいたしております、ただいまりんかい線、国際展示場前駅にて公衆の立ち入りが発生しました関係で・・。

なんてことだ、大崎の駅に来たのはいいものの、りんかい線が動いていない・・。
駅から飛び出す、こうなったらほかの手を打つしかない、タクシー乗り場はすでにあぶれた人でごった返している、俺は思い切り手を上げた。
・・・とまってくれたのはタクシーではなくバイク
「どこまで!?」
「羽田までお願いします!」
「乗りなさい、私もよ!」

運転手は女性らしい、ライダースーツにメロンのようなおっぱいが・・・。
投げられたヘルメットを受け取ると、ひらりとバイクに飛び乗る。
二人乗りは去年から合法だ、バイクはすごいスキール音をのこして走り出し、大崎の駅はすぐに見えなくなった。

・・・信号待ちのうちにその人の話を聞くと、その人はJAレのフライトアテンダントで、23時発のフランクフルト便に搭乗する予定なのだそうだ。
バイクはさっそうと羽田空港ビル二階、到着ゲート前の自動ドアの前に滑り込んだ。
236229の男。:2005/05/04(水) 21:01:49 ID:5ZOGsL5b
「お待たせ〜。」
「本当にありがとうございます、お礼をさせてください。」
「いいわそんな・・・あなた名前は?」
「はぁ、ななしと申します。」
「・・・変わった名前ね、漢字でどう書くの?」
「ああ、数字の七に市場の市です」
「へぇ、始めて会ったわ、お客さんでもそんな人とは会ったことないな・・・私はしな、色って書くの、かっこよくなったらお礼にに来てね」

わさわさと俺の頭をなでると、しなさんはヘルメットを被り直し、駐車場のほうへすっ飛んで行ってしまった。
ああいうのをクールビューティって言うんだなぁ。

胸の感触と香水の香りの感慨に浸っている場合ではない、さっさと北海道から来る研修生を拾って学校に戻らなければ。
「歓迎 〜神居君〜 SNK大学付属高校」
そう書かれた紙を頭上に上げ、彼の到着を待つ、どうやらつい今しがた飛行機が到着したようだ・・・。

ん?

携帯が震えている。
「着信 0120-333-XXX」
なんだ?
237229の男。:2005/05/04(水) 21:02:32 ID:5ZOGsL5b
「はい、ななしです。」
「あぁ、二年4組の七市君だねぇ?庶務課の破沙羅だぉ、わかる?」
「なんだ破沙羅先生、なんですか?」
「君は神居さんの下の名前をご存知かな?」
「いえ、知りませんよ。」
「うはwwっwwwwうぇwうぇwwwっwww」

がちゃん

「破沙羅先生、ちゃんと伝えてもらえましたか?」
「えぇそりゃもちろん。」

―――なんだいこれは。
まあいいや、あいつはなんか変なところがあるから放っておこう。
それにしても神居君遅いなぁ。

すでに774便の客が出てくるであろうゲートからは、歩くのがやっとのおばあさんがひいこら言いながら杖を頼りに歩いてくるだけだ。

―――下の名前をご存知かな?
・・・まさか。
ななしさん?
238229の男。:2005/05/04(水) 21:03:10 ID:5ZOGsL5b
女の子なのか?

ななしさん?

「すみません、ななしさん?」
「はい!はいそうです。」
俺の後ろにはちょっと小さな女の子がキリッとした目で俺を見上げていた。
こざっぱりしたボブカット、向こうの制服だろうか?セーラー服を着て、この糞暑いのに灰色のマフラーをしている。
「よろしくお願いします、私は旭川の中央高校から来ました、神居玲風(れいか)です。」
「よろしく。」
「あなたが宿を貸してくださる七市さんですね?」
「はぁ」
「ひとつだけ言っておきます。」
「私は剣術の心得がありますので。」
「はぁ。」
「わかりますね?」
「はぁ・・・。」

この子と半年かぁ・・・。
俺のコレクション見せたら命はないな・・・やばい、男が来ると思って家の掃除してないや。
239229の男。:2005/05/04(水) 21:04:01 ID:5ZOGsL5b
それから学校に行ってめんどくさい手続きを済ませた。
本当にめんどくさかった、なんせ男が来るというのは書類上の間違えだったのだから。

・・・まぁこれじゃあ男が来てくれたほうが気楽でよかったんだけど。

「ななしさん?」
「何?」
学校から出たのは午後八時も過ぎてあたりは真っ暗だ
酔っ払った学生の多い、吉祥寺の駅で僕らは電車を待っていた。
「あなたの家は・・・。」
「新宿だよ、ここから明大前まで出てそこから京王線。」
「・・・そう。」
ぶっきらぼうに答えるとちょっと寂しそうな顔をして神居さんはそっぽを向いた、なんだ、可愛い所あるじゃないか。
「神居さんは、文系?」
「レラ、向こうではそう呼ばれてたの。」
面白いあだ名だな・・。
「レラさんは文系?理系?」
「・・文系よ。」
「へぇ、おれと一緒だ。」
「あら、奇遇ね・・・でも現代文は苦手なの。」
「俺も、英語のほうが好きなんだ。」

「ぁ"あ!ななしんだお!」
「げ!茂名先輩!」
酒臭い先輩が二人、俺のサークル仲間だ。
240229の男。:2005/05/04(水) 21:05:26 ID:5ZOGsL5b
何で俺の周りにはめんどくさい人ばっかり集まるんだろう・・・。
「ななしん!ななしん!夏は一緒に行くよな!?なっ!なっ・・・・お?」
「去年はおまえんちにお世話になったから、今回は会場で大学の漫研(うち)のスペース入っていいよ」
二年上の茂名先輩、それに付き添う提先輩、二人とも今は大学の経済学部で二回目の一年生らしい、満研所属だ。
この二人は高等部では伝説になっている、創立直後で漫画・アニメ各方面の部活や同好会がまったくなかった一昨年に
アニ研、満研、現視研を設立し、いまやその三本柱は学校紹介のパンフに乗るほどの盛況ぶりを見せている。
「らぁれだ!このこわぁ!このこはられぇ?」
「おい、七市!貴様抜け駆けしやがったな」
茂名先輩はレラさんに近づいていった
「こんばんはお嬢さん、可愛い後輩がお世話になっております、ははは、今日は暑い。」
何がお嬢さんだ、この酔っ払いめ、ころころ態度変えやがって。
「・・・はぁ」
「時に、こいつ(ななし)とはどういった関係で?」
「・・・北海道から研修に来ました、七市君は私に宿を貸してくれます。」
「んまぁ、それはそれは・・・堤?」
「うん、七市、ちょっとこっちへ。」
あぁっ!あぁあああああっ!やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめて
―――なあななし、物は相談だ。
「これが僕の電話番号です、七市に何かされそうになったらすぐにこちらへ。」
―――何です?
「はい、ふふふ。」
―――このシチュ、新刊に使う、いいな。
「それにしてもまぁ、なんというか、いい天気ですね。」
―――はぁ。
「そうですね、あら、いい月・・・。」
―――よし、行け、これからは連絡を密に取れ、彼女の何に萌えたかもしっかり報告しろ、いいな。
「ロマンチックですねぇ、いやはや、美女に月、はははは!」
―――はい。
「俺達はこれから擬古ひろってサバイバルゲームしに行くから、それじゃ。」
「当落わかったら連絡するから電話開けとけよ。」
「は〜い。」
241229の男。:2005/05/04(水) 21:06:33 ID:5ZOGsL5b
というわけで俺はむさくるしい男空間から開放された。
はぁ。

「まもなく列車到着します、黄色い線の内側にお下がりください。」
「あの人たちは、ななしさんの先輩?」
「・・・うん、そう思いたくないんだけどね。」
「・・・。」
急にレラさんの顔が真っ赤になった
「どうしたの?」
「あの・・・さ、そのね。」
何だ、急に。
「べべべ、べつに私が行きたいんじゃないのよ、そそそそ、妹がね、妹!」
「・・・・大丈夫?」
「だぃだぁあぅ。」
もしや、この子も・・・。
「コミックマーケット、見てきてって言われてるの、いも!いもおとにね。」
・・・なんでこうなるの。
「そう、じゃあ朝早く長蛇の列だね」
「そそそそ!そうじゃないのよ!あの・・・。」
まったく素直じゃないな、この子は。
「サークル参加したいの?」
「ば!馬鹿ね!私はそんなの興味ない・・・ないんだから。」
「じゃあ五時半ダッシュだね」
「あうぅ・・・。」
この人もこんな顔をするのか・・・、レラさんは大慌てであわあわ言っている。
行きたいならいきたいって言えばいいのに。

列車が大きな音を立てて入線してきた、これから彼女の一週間の宿となる我が家には、これに乗って30分といった所か。
何度も言うけど、この子と一週間か・・・はぁ。
242229の男。:2005/05/04(水) 21:07:35 ID:5ZOGsL5b
がちゃっ!
「ただいま。」
「おじゃまします」
帰り道の間、レラさんはずっとそわそわそわそわ、ずっと鞄の中を気にしていたようだ。
これはなにかある、ぜったい。
まぁなんにせよ明日は休みだし、来週の金曜日になれば新しいホストも決まるだろう。
男の一人暮らしに女の子が住み込むのはまずい。
それまでの辛抱だ。
「レラさん、部屋だけど」
「広いのね・・・天井も高い。」
「・・・まぁね、先週までは親も一緒に住んでたから、一人じゃ広いよ。」
「親御さんは?」
「ああ、俺をおいて葉山にひっこした。」
「葉山?」
「あぁ、三浦とかそっちのほう、わかる?湘南。」
「・・サOン?」
「お!サOンすきなの」
「一応ね。」
「へぇ、北海道だったらあのハゲた人じゃないの?なんていうんだっけ、え〜と・・・」
「宗男は嫌いよ。」
「・・・。」

・・・そいつじゃないんだが。
まあいいや、とりあえず部屋に案内しちゃえばそれでいいか、あ、レラさんテレビ見るのかな?
243229の男。:2005/05/04(水) 21:08:11 ID:5ZOGsL5b
「ここが一応金曜まで君の部屋」
「広い・・・。」
「両親の寝室だったからね、まぁゆっくりしてってよ。」
「あの・・」
「そうそう、トイレと風呂は廊下の突き当たりを右ね、がっこうからそれなりに金は出てるから遠慮なく使って。」
「・・・はい」

なんだ、やけにうつむいちゃって。
「あの・・・。」
「何?」
「この絵」
「・・・ぁあああああああああああ!!!」

壁に貼られたピンクを基調としたポスター、紛れもなく秋葉のソフOップでもらった特典の・・。

「レラさん!出て!すぐそっからでるんだ!」
「やだ。」
彼女がにやりと笑った瞬間ドアが閉まった。
中からは押し殺した笑いが聞こえてくる・・・・・・
くそぉ、レラさんが寝てる間に忍び込んではがしちまおう。
とりあえず風呂だ、なんだかんだいって今日は暑かったからな、妙な汗もかいたし。
「俺、風呂はいるね。」
返事はない、まぁいいか。
244229の男。:2005/05/04(水) 21:09:09 ID:5ZOGsL5b
「ったくもう、あんなもん見落とすなんて俺としたことが。」
ばさばさ服を脱いでさっさと風呂場に入る
どざ〜
「い〜ぃ湯だな!」
妙な歌を口ずさみながらシャワーを浴びる、やはり夜になるとまだまだ冷えるな・・・と、震えながらシャワーを止める。
「それにしてもあの子いい足してたな、一度生で拝みたいもんだ、ふふふ。」
風呂に入ったとたん独り言が増えるのはよくあることだけど、いつも馬鹿みたいなことしか言えないのは仕様なんだろうか?
おがががが・・・と風呂のふたを開けて電話で沸かしておいた風呂に入る、ビバ、便利な時代。
「来週の金曜日までか・・・実際長いなぁ、参ったなぁ。」
そうだ、あの不愛想な子と丸二週間近く共同生活を送る羽目になったのだ、これならまだ一ヶ月一万円の方がはるかに気が軽いよ。
とりあえずあのポスターは彼女が寝ている間にはがしてしまおう、絶対に。
それと・・・あとはどうしようかな、ええと、あれ・・・・。

「ふごごごごご・・・・。」
湯船が気持ちよかったのか、急に襲ってきた睡魔に七市はいとも容易くノックアウトされてしまった・・・。
注意*危険なので湯船の中では絶対に寝ないでください。
245229の男。:2005/05/04(水) 21:10:54 ID:5ZOGsL5b
そのころ、こちらはレラさんの部屋、早速荷物を開いているようです。
「ふぅ・・・いいチョイスね。」
部屋の隅には丸められて、丁寧にピンクのリボンで止めらた件のポスターが安置されている。
「・・・。」
腕を組んで、部屋を見回す、ニヤリとしてから風のような軽やかなステップで大きなかばんに近寄る。
ふわふわした緩衝材入りの袋からおもむろにノートパソコンを取り出して、電源を入れる
「ふふ・・。」
いままでキリッとしていた顔が急に可愛く緩み、さっきまでのクールな雰囲気とは一転して、急に少女チックな笑みを浮かべる。
パジャマだろうか、少し大きめのサイズの薄紫を基調にした服を着て、彼女はノートパソコンと一緒にベッドに寝転んだ
パソコンには『しくるぅ号』と書いてある、アイヌ語か?
「日記つけよう。」
ぱちぱちと目にも止まらぬ速さでタイピングしてゆく、相当使い込んでいるようだ。
やけにリムたんとか、かぁいいとか、妹という単語が乱立しているがここではノータッチで行こう。
・・日記もつけ終わったのだろうか?ふいにレラさんはドアを開き、きょろきょろと辺りを見回す。
246229の男。:2005/05/04(水) 21:11:27 ID:5ZOGsL5b
んごーーーーーー

隣の部屋からファンの音が聞こえる、間違いなく隣ではななしがパソコンを弄っている。
それを確認すると、レラさんは音も立てずにパソコンに戻り、2ちゃんブラウザを起動させた。
ブックマーク内のスレを訪問し終わり、いくつかのネタスレを冷やかした後、レラさんはパチンとパソコンを閉じ、立ち上がった
鞄の中をごそごそとまさぐると、どう詰め込んできたのかバーベルが五つ六つ・・・。
「えい!でゃぁ!おりゃ!ふん!を”〜〜!」
腹筋や腕立て伏せ、バーベルを振り回したりヒンズークワットしたり
おおよそ女の子の鍛錬メニューとは思えない量を次々とこなしてゆく。

「ふぅ!いい汗かいた!・・・お風呂行こ。」
自前のタオルと歯ブラシを持ってレラさんは風呂場に出かける、調子がよかったからか機嫌がよいようだ、ルンルン言っている。
やばい!やばいぞななし!

そのころ、風呂場では・・・。
「うぅ〜妹がたくさん・・・お兄ちゃんは巫女さんが好きだよ・・。ふふ。」
湯気で熱帯雨林の如く視界のなくなってしまった風呂場で、ななしはまだ寝ていた。
まずいぞ、まずいぞななし!早く起きるんだ!
247229の男。:2005/05/04(水) 21:13:12 ID:5ZOGsL5b
がらっ
・・・更衣室のドアが開く、入ってきたのはレラさんだ、まぁレラさん以外誰も入って来やしないのだが。
ふんふんふ〜ん♪
ご機嫌で服を脱ぎにかかるレラさん、風呂場の暖かい電球の光に照らされて
彼女の引き締まったその肢体が露になる、健康的にうっすらとその腹に存在を主張する腹筋、日々の鍛錬の結晶である。
飾り気のないスポーツブラを外すと、控えめだが、消して小さくはない胸が姿を現した。
全体的にシャープなそのルックスは人を選ぶとはいえ美しいものだ、ななしご推薦のカモシカのようなおみ足も見放題だ!
がららっ!
「わぁ〜、お風呂もひろいなぁ!」
黄色い声を上げる、こんな所はとても他人には見せられない、自分で言っておいてなんだがいまさら更衣室のドアからちらりと外を確認してしまった。
同居人は湯船で寝ているというのに。
「これならリムちゃんと一緒に入れるのになぁ・・・。」
カランの近くにおいてあった手桶にお湯を取ると、体にかける、つやつやとした肌が水気を帯び、その艶姿にいっそうの艶を生んだ。

ザザーーー・・・
「もえあが〜れ〜ガンOム〜。」
他人には聞かせられないような黄色い声で某巨大ロボのテーマソングを歌いながらのシャワー・・・、妹と寝ているときに次ぐ至福の時だ。
248229の男。:2005/05/04(水) 21:14:04 ID:5ZOGsL5b
「・・・ううん・・。」
「ん・・・???・・・・・・??」
声が聞こえた、きょろきょろと辺りを見回すけどだれも見当たらない・・・気のせいね。
そうひとりごちて、シャワーを止め、湯船に入る。
「湯船も広いなぁ、銭湯みたい、ふふふ・・・。」
レラさんが入ったのはこの長方形の湯船の左側、ななしが寝ているのは湯船の右の隅っこなので、レラさんにはななしが見えないのだ。
・・・神よ、ねがわくばこのまま二人が出会わずに時が過ぎ去らんことを。
「・・・泳いじゃお」
嗚呼、ななしに安らかな眠りあれ。

「それ!」
ばちゃん!
「ぎゃあ!!」
びっくりした!何だよ急に!
あれ?誰だこいつ・・・。

「誰!?この不届き物っ!!」
「わあああああああああああ!」

ボカッ!ドカ!バキ!バキ!
「ななし君!!風呂場にだれかいるわ!ななし君聞いてるの!風呂場に変質者よ!」
「・・・。」
「ななし君!ななし君来て!ななしくん・・・なな・・・。」
「てめぇ、何しやg・・・」
ざばーん。
「・・・あら・・・ななし君・・・?ななし君!?」
249229の男。:2005/05/04(水) 21:15:04 ID:5ZOGsL5b
「・・・大丈夫?」
・・・。
「悪かったわ。」
・・・。
「・・・・。」
レラさんはあれから俺を居間まで運んで介抱してくれた
ただでさえ眠ってしまってのぼせていた上に彼女の鍛えられた腕でボコボコにされたのだ、ただで済むはずがない。
いまだに意識が朦朧としている、レラさんが呼び掛けてくれているのはわかるが、それに答えられない。
これ、本当に危ないんじゃないかな・・・?
「飲み物とって来るわね・・。」
少し沈んだ声でそういうと、彼女は台所のほうへと消えた
「冷蔵庫、開けるよ。」
・・・。
ごめん、答えないんじゃなくて答えられないんだ。
「ごはん、すっかり忘れてたわ・・・。」
そうだ、普段は一人だから食わない日もあるけど、今日はレラさんが一緒だったんだ・・・。
とたとたと規則正しい足音を立てて、レラさんが戻ってきた。
「飲める?」
レラさんは冷蔵庫の中においてあったアクエリアスを持ってきてくれたけど、俺は首を横に振ることしかできなかった
体を起こすことさえままならないんだ、まだ景色が白いもやの中にある・・・。
「・・・じゃあ上半身起こして」
・・・。
「おきられない?」
首を縦に振った
250229の男。:2005/05/04(水) 21:16:13 ID:5ZOGsL5b
「・・・力抜いて。」
背中に腕をあてがわれると、ふっ、と上半身を持ち上げられた。
細いけど力強い腕、こんなに可愛い顔をして本格的に強いんだな・・・。
このとき俺はレラさんに、「可愛さ」ではない「美」を感じた、なんというか凛とした感じの、何もひねりのない「美」を。
情けない話だけど、無条件にレラさんに甘えたくなった、まるで小さな頃にお袋にそうしたように。
「ごめんなさいね、ちょっと我慢。」
・・・口移しでくれるのかな?
「・・・、何考えてるの?」
・・・。
「はい、飲んで。」
ペットボトルを口にあてがわれた、素直に飲もうとしたけど、飲み込めない。
口の中で行き場を失った物がしずくになって零れ落ちる
「・・・。もう。」
鼻をつままれた。
ごめんなさい
「うぇ!」
「わっ!だめよ吐いちゃ!」
ひどいよそんな
「はい、飲んで」
・・・ふう。
「はい、よくできました。」
「・・・ありがとう。」
「あら、気がついたみたいね、よかった。」
レラさんの顔がぱっと明るくなった・・・なんだ、本気で心配してくれてたんだ。
「大丈夫?立てる?私が何か作るから、それまで座ってて・・・。」
「もうちょっと寝かせて。」
「わかった・・・・、台所使わせてもらうわね。」
「いいよ。」
251229の男。:2005/05/04(水) 21:17:41 ID:5ZOGsL5b
それから数分、ことことと鍋の煮える音とおいしそうな香りが漂ってきた。
煮込みうどんかな・・・?
「・・・お待たせ、うまくできたかどうかわからないけれど、食べてみて。」
台所からレラさんが出てきた、手には小さな鍋、ほんとに何でもできるんだな・・・。
床から立ち上がっていすに座る、小さな鍋が目の前に置かれた、そしておわんが二つ。
その中からレラさんは俺の分と自分の分とを取り分ける、なんだかお袋が帰ってきたみたいだ・・・。
「はい、どうぞ、お口に会うといいんだけど・・・。」
「ありがとう、いただきま〜す」
味はというとお世辞抜きに本当にうまかった、ちゃんとダシが出てる、本当に冷蔵庫にあった冷凍の奴を使ったんだろうか
「美味しいなぁ、レラさんは料理上手なんだね。」
「・・・照れるわね、お世辞はよしてよ。」
頬を赤らめながらレラさんが頭を掻く、さっきとは違うとても可愛い仕草・・・こんなお嫁さんほしいなぁ。
「・・・レラさんが行ってる学校はどんな所なの?」
急に彼女に興味がわいてきた
「え、えぇとね・・・田舎よ、とても。」
「でも、旭川じゃぁ・・」
「旭川も外れのほうよ、神居コタンの近くだから。」
「そうなんだ、俺も昔北海道に住んでたことがあってね」
「どこに?」
「札幌の菊水ってところなんだ、幼稚園の頃に引っ越しちゃったからほとんど覚えてないけどね。」
「羨ましいわ、大通り公園とか行った?」
「うん、お袋に連れられてよく行ってたよ」
「雪祭りとか」
「うん。」
「いいなぁ、私は家族と旅行に行ったときに行ったっきり、本州に来たのもこれで二度目よ。」
「へぇ、うちは普段の生活切り詰めてでも娯楽に使う家だからなぁ、旅行はそこらじゅうに行ったよ」
「・・・何処に?」
「そうだね、去年なんかは一人でイギリスまで行ってきた、ロンドンだけだけどね。」
「!! あなた英語喋れるの?」
252229の男。:2005/05/04(水) 21:21:08 ID:5ZOGsL5b
それから数分、ことことと鍋の煮える音とおいしそうな香りが漂ってきた。
煮込みうどんかな・・・?
「・・・お待たせ、うまくできたかどうかわからないけれど、食べてみて。」
台所からレラさんが出てきた、手には小さな鍋、ほんとに何でもできるんだな・・・。
床から立ち上がっていすに座る、小さな鍋が目の前に置かれた、そしておわんが二つ。
その中からレラさんは俺の分と自分の分とを取り分ける、なんだかお袋が帰ってきたみたいだ・・・。
「はい、どうぞ、お口に会うといいんだけど・・・。」
「ありがとう、いただきま〜す」
味はというとお世辞抜きに本当にうまかった、ちゃんとダシが出てる、本当に冷蔵庫にあった冷凍の奴を使ったんだろうか
「美味しいなぁ、レラさんは料理上手なんだね。」
「・・・照れるわね、お世辞はよしてよ。」
頬を赤らめながらレラさんが頭を掻く、さっきとは違うとても可愛い仕草・・・こんなお嫁さんほしいなぁ。
「・・・レラさんが行ってる学校はどんな所なの?」
急に彼女に興味がわいてきた
「え、えぇとね・・・田舎よ、とても。」
「でも、旭川じゃぁ・・」
「旭川も外れのほうよ、神居コタンの近くだから。」
「そうなんだ、俺も昔北海道に住んでたことがあってね」
「どこに?」
「札幌の菊水ってところなんだ、幼稚園の頃に引っ越しちゃったからほとんど覚えてないけどね。」
「羨ましいわ、大通り公園とか行った?」
「うん、お袋に連れられてよく行ってたよ」
「雪祭りとか」
「うん。」
「いいなぁ、私は家族と旅行に行ったときに行ったっきり、本州に来たのもこれで二度目よ。」
253229の男。:2005/05/04(水) 21:22:06 ID:5ZOGsL5b
「へぇ、うちは普段の生活切り詰めてでも娯楽に使う家だからなぁ、むかしから旅行は欠かしてないよ。」
「・・・へぇ、今までどんなところに行った?海外?」
「そうだね、去年なんかは一人でイギリスまで行ってきた、ロンドンだけだけどね。」
「!! あなた英語喋れるの?」
「まぁ一般生活に不自由しない程度にね。」
「私英語2よ・・、信じられないわ・・。」
「レラさんが?意外だなぁ、なんでもできそうな感じあるけど」
「古文は好きよ、でも現代文とか回りくどい文章読むと眩暈がしてくるわ。
254229の男。:2005/05/04(水) 21:24:09 ID:5ZOGsL5b
はぁ、とレラさんはため息をついた
結構普通の子なんだな、この子も普通の高校生か、研修に来るって言うからかなりの優等生かと思ってたけど。
何よりもこの煮込みうどんすでに俺は四度目のおかわりだ、レラさんって専業主婦向きだなぁ・・。
「そうだ、手ぶらじゃ悪いと思ってね、ちょっと待ってて。」
そういうとレラさんは自分の部屋へと走っていった、何だろう?
「飲める?」
「お酒?」
「そうよ。」
「飲めるよ。」
「強いの?」
「とても」
「よかった。」
とてとてと戻ってきたレラさんの抱いていたのは、大きな一升瓶だった
「完全によくなったみたいね、これなら飲んでも大丈夫かしらね?」
「大丈夫大丈夫!」
「・・・でも私、ちょっと弱いところあるから」
「大丈夫だよ、飲もう飲もう!」
これが更なるドタバタ劇の序章とも知らずに、二人は嬉々として共にグラスを傾け始めた・・・。
255229の男。:2005/05/04(水) 21:25:01 ID:5ZOGsL5b
「う〜〜〜」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
・・・畜生、こんな真夜中に俺たちはいったい何をしてるんだろう。
最初はレラさんが
「私は酒が入らないとうまく喋れない」
と言っていたんだっけ・・・。
実際ほろ酔いのレラさんは真っ赤な顔をして今まで見せたことない笑顔で笑ったり妹さんのことを話しては萌え萌えしたり
まるで小動物のような可愛さだった
だけど、お酒が入るにつれて。

「よ〜しぃ!腹筋しょうぶだぁ!先に50回やったほうが勝ちぃ、罰ゲームありねぇ」
「のぞむろころ、レラたんに負けてたまるかぁ!」
「れでぃ〜、ご〜!」
半裸で目の色変えて腹筋にいそしむ少年
そのとなりで同じく血眼になってそれに倣う少女、前衛芸術のような光景が繰り広げられた。

「わ〜ん!くやしぃ〜!」
結局勝ったのは俺だ、いくら鍛えてるからって女の子にまけてられるか。
約束どおり罰ゲームだが・・・
「よ〜し、じゃあねぇ!おにごっこ!」
「うへぇぁ、なんでレラさんが決めてんのさ!わけわかんねぇ!」
「えへへへ、じゃあなにがいいの?」
「・・・君が、ホスィ、へへへぇへ」
「後悔するなぉ・・・たぁ!」
そのまま俺の方に飛び込んでくるレラさん、おいおい、空港のあの台詞はなんだったんだよ・・・
まぁ・・・少しうれしかったのは確かだが。
実際この子は黙ってれば綺麗なのに、ぶっきらぼうにしゃべるもんだから余計に冷たい印象を受けるんだ
俺だって家に泊めるんじゃなきゃ怖くて近寄れなかっただろう。
「おぉう、レラたん過激だよ、萌えるゥ!ひんぬーマンセー!フォオオゥ!!」
「うぅ〜ん、ななしくぅ〜ん、ひんう〜っていうなぁ、ふぅ〜ん・・。」
首に手を回してしっかりと俺の体にまとわりつくレラさん、ぎゅっと抱きしめられているので身動きが取れない。
幸せ・・・。
256229の男。:2005/05/04(水) 21:26:57 ID:5ZOGsL5b
だがしかし、いつまでも酔い任せのめちゃくちゃなテンションでいられるほど現実は甘くない。
「えへへへぇ、ちゅ〜!」
「うっ!!」
首筋に熱い接吻が・・・。
やばい、レラさん・・・本気?
『七市茂名之助、上は青少年にあるまじき不純な異性間の交友を行えり
生徒指導、校長、担任との協議の結果、ここに七市茂名之助を退学処分とする。』

泣き崩れるお袋、白装束を纏い、満面の笑みで日本刀を握り締める親父、俺を見ては「ケダモノ!!」とはき捨てる女子の群れ・・・。
そんな光景が頭の中で再生される

「まずいよ!レラさん!だめだって!俺たちはまだ・・・」
「うっさいわね〜!年なんて関係ないわよ!」
埒が明かない
手荒だがレラさんを突き飛ばしてこの難を逃れよう、俺はそう考えてレラさんを突き飛ばした

ぷるん!
257229の男。:2005/05/04(水) 21:28:26 ID:5ZOGsL5b
「痛っ!!!」
物の弾みで、やおらやわらかい胸を鷲づかみしてしまった、ボカボカ頭を殴られる、痛い!痛い!
「おかえしだぁっ!」
ドカッ!
「あぁああああ!!」
幸せなじゃれあいはここで終わった。
なんということだろう、お返しも糞もあるか、愛くるしいあのマイサンが、股間のエレクトスティックが・・・。
要は股間に膝蹴りを喰らってしまったんだ。

ななし君、本日二度目の失神。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・」
「・・・今度という今度は怒るよ。」
「ごめんなさいごめんなさ・・・。」

酔いのさめたレラさんは土下座をして許しを乞いていた。
・・・んな許せるもんか、まだ痛いんだぞ。
「・・ごめんなさい、何でも言うこと聞くから。」
「・・・そうか、よし、じゃあまず・・・俺と話すときはにこやかに話せ」
「・・はい。」
「それとな・・・。」

にやにやしながらまだ酔いの残る頭で自分の部屋に戻る、半歩後ろからレラさんがしずしずと歩いてきた
よし、それでいい。

彼女の攻撃は、俺を一匹の畜生に変えてしまったのだよ。
258229の男。:2005/05/04(水) 21:29:10 ID:5ZOGsL5b
「・・・これで、これでいいの?」
「いいわけないだろ、ほら、こっちむきな。」
「・・・すん・・・。」
「泣いた振りしたってだめ。」
「・・はぁい。」
レラさんは今変な格好をしている
まぁ格好そのものが変ってわけじゃなくて、この場に合わない格好ってだけだけど。
「浴衣って思ったより動きにくいのね・・・。」
そう、浴衣だ。
浴衣・・・夏の祭りに欠かせない必需品にして、ヒロインがこれを着るイベントが発生したら確実にフラグを回収したも同然のアイテム!
男の夢!
萌えの境地!
259229の男。:2005/05/04(水) 21:30:20 ID:5ZOGsL5b
腰で巻く帯によってボディラインは強調され、何よりも本人の体型に如何では胸がより強調される
そしてなにより、脚フェチにはたまらない、スリットのような前開きのデザイン!チャイナドレスがなんぼのもんかと
もう独立してしまった姉貴のものだが、レラさんにぴったりだ・・。
白を基調とした水色の縞模様で、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる彼女にはぴったり。
「よっしゃ、セットOK、そこに立って。」
ファインダー越しにレラさんを見ていると、まるでモデルさんを撮影しているみたいだ
そう!このカメラはいつもイベントでレイヤーさんを撮影している虎の子の一眼レフなのだ!
今回はレラさんにマイサンをいじめた罰として俺の萌えポインツ、浴衣で撮影してもらうことにしたのだ。
我ながらナイスアイデア、これで俺のアルバムにもまたコレクションが増えるわけだ。
「う・・・仕方ないなぁ」
レラさん、そんなことを言いながら結構まんざらでもないみたいだけど。
外から入ってきた風に、レラさんの綺麗な黒髪がなびく、ふわっとシャンプーの香りが香ってきた。
本当にきれいなんだなぁ、すべすべの肌、きりっとした目、正に「凛」をコンセプトにしたような、そんな雰囲気だ。
今日何度目か知らないが、思わず見とれてしまう・・・。
260229の男。:2005/05/04(水) 21:31:55 ID:5ZOGsL5b
「・・・なっ、何?そんなにじろじろ見ないでよ・・・。」
「いや、なんていうか・・きれいだなぁ〜って。」
「ば・・・!馬鹿!・・・さっきは酔っ払ってたんだから・・・許してよ・・。」
なんだか写真を取る気が急になくなってしまった。
なんというか、そんなことを考えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど綺麗に見えてきたから。
「レラさん、ごめんね・・・やっぱいいよ、悪かった。」
「え?・・・あ・・そう・・・。」
またもしゅん、となるレラさん、何度見てもこの表情は見飽きないな・・。
「ひとつだけお願い。」
「?」
「その浴衣、貰ってくれないかな?」
「え、そ、そんな・・悪いわ・・・。」
「いいんだ、貰ってってよ、姉貴が置いてった奴だからさ、うちじゃ誰も着る人がいないんだ、だから。」
「・・・わかったわ、貰う、有難う。」
急にドキドキして来た、なんだろう、いやらしい意味じゃなくて、レラさんの浴衣姿をいつも見ていたいような感覚に襲われた。
「はは、よかった。」
261229の男。:2005/05/04(水) 21:34:36 ID:5ZOGsL5b
時計を見るともう夜の一時だ、明日は休みだって言っても夜更かしは体に毒だろう。
・・・酒よりはましかもしれないが。
「ごめんね、レラさん、こんな夜遅くまで。」
「ううん、いいの、わたしが悪いんだし、ごめんなさい・・・お酒はやっぱりだめね。」
「・・・そうだね、でもさ、酔ったレラさん、なんかすごい可愛かったな〜」
「え?・・・・・・もう!やだぁ!」
ドサッ!
「わっ!」
枕が顔に飛んできた、それを受け止めると、レラさんはにっこりと笑って
「じゃあまた明日、何時に起きるの?」
「・・・そうだなぁ、明日はちょっと早起きで6時に起きよう、レラさんをいろいろ案内したいんだ。」
「本当・・・じゃあ、楽しみにしておくわ。」
「うん、じゃあお休み。」

レラさんはそういって僕の部屋から出て行った、俺は大きくあくびをすると、パジャマを着てベッドにもぐりこんだ。
ベッドだと布団を引く手間が省けていいな・・・。
とりあえず、あしたはレラさんが電車の中で「新宿行って見たい」っていってたから新宿行って
それから、趣味合いそうだから秋葉原行って・・・・。

そうこう考えているうちに、ななしの意識はまたミルク色の世界へと落ちていった・・・。
262229の男。:2005/05/04(水) 21:37:47 ID:5ZOGsL5b
どうも、エロなしでしかも稚拙な文章をここまで読んでくださって有難うございました。
一応話の流れでカムイ関連のシリアスあり、はたまたエロスはありになるとは思うんですが、まぁこう見えて奥手な二人なんで気長に見てやってください。

では。
263名無しさん@ピンキー:2005/05/05(木) 00:59:20 ID:XzrEf21i
酔っ払いレラさんかぁいい
スレンダーレラ様ハァハァ!
264名無しさん@ピンキー:2005/05/05(木) 09:54:50 ID:YdqUujLj
>>229
破沙羅ビッパーかよ、テラワロス

まぁなんだ、GJ
265名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 01:32:02 ID:7QE+e84N
みてない間にこんな良作が…。

>>229タソ、レラたん分もっとプリーズ!!
266名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 01:36:59 ID:vDhsTpPt
気づいたら最後まで読んでた。
結構面白いよこれ、GJ
267名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 07:08:51 ID:2Z7kZelY
意味も無く時代設定が違い、キャラの性格等も原型を留めていない
以上の点から、サムスピである必要を感じないというかオリジナルSSのキャラクター達にサムスピキャラの名前をつけただけにしか見えない
2ちゃんネタも全開でやられると寒いだけというか露骨な媚びに感じる
現時点では文章力云々以前の問題で、二次創作SSとは呼べない
268名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 07:27:06 ID:7QE+e84N
>>267
じゃあ読まなきゃいいじゃん。
269名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 07:32:41 ID:2Z7kZelY
スレ違いなんだよ
面白ければいい、なんて子供の理屈
人気取り以外にキャラを使う理由も必然性も無いなら自分のHPで公開するのに留めておくのがお互いの幸せ
270名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 07:40:19 ID:7QE+e84N
釣れますか?
271名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 08:02:35 ID:2Z7kZelY
釣りじゃない、あんなん通るならキャラの名前さえ使っていればOKということになる
にいさまネタとは訳が違う
でも荒らすつもりも無いし、顔真っ赤だなんて言われるのも御免なのでここでやめる
272名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 08:17:05 ID:x7gGSDUo
>>271
自演乙といわれる覚悟だが激しく同意。
職人さんには厳しい意見で悪いが、サムスピ総合エロの意味を考えてくれ。
普通のエロなら他のスレでも読める。
273名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 08:44:12 ID:7QE+e84N
漏れは設定気に入ったんだけどなぁ…

('A`)…。
274名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 12:30:12 ID:PxceQjH+
>>271-272
同意。
作者さんにはすまないが
【キャラ×オリキャラのSS】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1056120882/l50
続きはここあたりがいいんじゃないかと思う
設定が気に入ったり面白いと思った人も他で読めるなら文句はないだろうし
275229の男。:2005/05/06(金) 17:24:02 ID:0S6WU0fo
>>269-274
批判や応援、誘導大変ありがとうございます。
私の稚拙な文章が大変場を荒げてしまったことをお詫びします。

大変申し訳ありませんでした、場の雰囲気をわきまえた作品が書けるよう精進させていただきます。
もしお目にかかることがありましたら、どこかでお会いしましょう。
276名無しさん@ピンキー:2005/05/06(金) 18:55:22 ID:0lFxgoeO
>>275
まあ、どこか別のところでまた新作読ませてくれ
277名無しさん@ピンキー:2005/05/07(土) 18:34:14 ID:CJUP5U0O
夢路タンハアハア・・・
漏れは女の子派・・
278名無しさん@ピンキー:2005/05/07(土) 18:53:46 ID:ZzLTzdhc
ぜひ>>229氏に柳生課長とドジっ子夢路のネタを書いてほしいんだyp
279名無しさん@ピンキー:2005/05/08(日) 17:29:39 ID:BJEEDjT8
「アイヌ民族」なる民族は存在しない!
13 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日: 2001/07/07(土) 01:23 ID:bC4Cy8jM
要するにさ、「日本には少数民族が居て虐げられていて、…」
なんて妄説を鵜呑みにしちゃうバカサヨってさ、
そもそも民族が何であるかとか全く知らないんだよな。

言葉を受け入れることが概念を受け入れることになっているのも知らずに、
己の無知を隠すために実際には存在しない「民族」なる奇異で独自の概念を
脳内に構築し、安定するわけだ。
この時点でバカサヨに飼われたも同じなんだがな。

17 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日: 2001/07/07(土) 01:35 ID:bC4Cy8jM
人種・血縁・言語とは相関はあるものの、全く別種であり得る
行政・政治志向の集結単位の一つで、一定の規模を持ったものだ。

たとえば「アイヌ」と呼んでいた地域の部族達は、
言語も文化も隔絶した部族同士で皆殺しの絶滅戦争を
しゅっちゅうやっていた。

バカサヨが「アイヌ」と呼んでいるのは、生き残ったいくつかの部族の記録・伝承を
意図的に混同して「民族である」と捏造したものだ。

18 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日: 2001/07/07(土) 01:38 ID:bC4Cy8jM

「コシャマインの戦い」「シャクシャインの戦い」「クナシリ・メナシの戦い」

これらは、すべて全く別の部族が起こしたものであるし、関連もないし、
時期も全く違う。

あたかも一つの民族が抵抗し続けている歴史があるかのように
妄想させる書き方が、バカサヨの歴史修正主義の実態。
280名無しさん@ピンキー:2005/05/08(日) 23:00:31 ID:uENrPNAB
>>279
本当だとしたら・・・。
281名無しさん@ピンキー:2005/05/08(日) 23:28:45 ID:zbCvV+CV
いや、確かにそういう面もあるんだろうな。
でも、こういう少数者蔑視に繋がるようなことを言いたくなるようなこと自体が、
今までのバカサヨに支配されてきたクソ教育への反ど…

リム萌えー!
新作まだー?
282名無しさん@ピンキー:2005/05/08(日) 23:34:58 ID:eRuwpAGZ
>>280
何も変わらんな。
日輪國なんて地名が江戸時代にあったか?
史実に黄泉ヶ原の乱があるか?
慶寅なんて男が徳川家の家系図にのっているか?
同じ事。サムスピ世界ではアイヌ民族が存在する、それだけの話。
283名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 00:43:59 ID:DME36xMJ
>>282
お前マジでかっこいいな
284名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 02:22:37 ID:7eG0y2y/
つまり架空の民族って事か
285名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 13:19:37 ID:Qh/GDWuv
>>284
ナコとかに関してなら問答無用に架空w
はるかに文明化(ってより萌え化)されてる。

280が言いたいのはアイヌと総称せぜるを得なくなる程に衰退した民族群について。
アイヌという統一体がなくても、もっと小さな少数民族をカモってきた事には変わらんのだが。
286名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 13:57:55 ID:M40v2+fT
同士討ちしてたのか
287名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 14:16:28 ID:XUl86Fu7
同士討ちハァハァ
できればリム攻めキボンヌ
288名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 16:49:06 ID:f6YWxKCq
ナコたん姦されハァハァ
289名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 19:59:01 ID:njAUctWN
ナコルルやリムルルが、名無しの男どもに輪姦される。
そんな「普通の」エロが読みたいの?
290名無しさん@ピンキー:2005/05/09(月) 22:29:08 ID:rlHL04Qk
>>289
おまいはどうだか知らないが、漏れはそうだ。
291ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 08:21:22 ID:0cuWeS59
アイヌ同士討ちネタで、ナコルルやリムルルが名無しの男どもに輪姦される話です。鬼畜注意
          *
「ハァハァ」
 薄暗い森を、ナコルルが疾走する。
その前方には、燃え盛る火の手。ナコルルが暮らす集落の方向から。その煙が、集落の危機をナコルルに知らせる。
(リムルル。みんな。無事でいて)
 ただそれだけを願い、緑に覆われた森を駆け抜ける。いつもは大自然の恵みに、感謝しているが、今はまとわりつく小枝がわずらわしい。
「リムルル! みんな!」
 やっとのことで、集落の開けた場所にたどり着いたナコルル。だがそこでは・・・
「あ、あああ」
 燃え盛る家々。殺されて積み上げられた男たち。そして。
「り、リムルル・・・」
 そこにいたのは、巫女装束を引き裂かれ、虚ろな瞳で横たわるリムルル。その華奢な裸体には、白い粘着液がこびりついていた。
なにをされたかは、一目瞭然だった。
「あ、あなたたち!」
 その場にいた簒奪者に、ナコルルは炎を宿した怒りの眼差しを向ける。
 襲撃者は彼女らと同じアイヌ民族だった。
 和の国の人間から見れば、「アイヌ」という民族で一括りにされる彼らだが、その実態は幾つかの少数部族の総称で、アイヌ同士で争う事も多い。
 
 それは突然の奇襲だった。
 巫女にして最強の戦士ナコルル不在の集落に、突如として他のアイヌ集落の戦士が攻め寄せる。
 ナコルルの妹で同じく巫女のリムルルを始め、多くの戦士が迎え撃った。
 だが結果はあまりにも無残な敗北。
 そして男は殺され、女は犯される。
 
 襲撃者は勝者の当然の権利のように、好きなだけ蛮行を働いた。
「いやあぁ! はなしてぇ!」
 そしてリムルルもー
 まだ女として未成熟な巫女の少女も、男たちの獣欲の餌食になろうとしていた。
「姉さま! 姉さま!」
 この場にいない姉に助けを求める可憐な巫女。
 男たちはリムルルを取り押さえると、その巫女装束を引き剥がしにかかる・・・。
292ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 08:39:18 ID:0cuWeS59
「やだぁ! はなせぇ!」
 男たちに取り押さえられ、なおも暴れるリムルルだが、多勢に無勢。
地面に引き倒され、両手両脚を押さえつけられ、その巫女服を切り裂かれていった。
「いやあぁ!」
 悲鳴をあげても、男たちは悦びの笑みを浮かべるだけ。
「助けて! 助けてぇ! 姉さま!」
 助けを呼んでも、誰にも聞こえない。仲間は皆殺しにされ、ナコルルはここにはいない。

 ビリッ

 引き裂かれた胸元から白く淡い膨らみがこぼれ落ちた。さっそく、その可憐な果実に群がる男たち。
「やあぁー! やめてー!」
 いきなり乳房を鷲掴みにされ、リムルルは悲鳴を上げる。
 まだ芯の固いリムルルの青い果実。それを男どもは如実に撫で回し、嬲っていく。
「いあたぁ! いたい!
 未知の痛みに、リムルルが苦痛の声を上げる。戦士として鍛えられたリムルルだが、男たちの暴行は、あまりにも辛らつだった。
 
 リムルルの可憐な乳房を、複数の手ば嬲り、強引に形を変えさせる。リムルルにしてみれば、胸に乱暴され、痛みしか感じなかった。
「やだぁ。いたいよぉ」
 涙目になるリムルルに、男たちはごくっと生唾を飲み込む。
 戦っているうちは、勇敢な戦士だったリムルル。こうして無傷で捕らえるのも、一苦労だった。
多くの仲間が、リムルルひとりによって倒され、息絶えた。
 だがこうして捕まえて、嬲り者にしてみれば、他の小娘と同じように泣き叫ぶ。その落差に興奮させられる。
 さらに男たちは、リムルルの下半身にも手を伸ばす。
「きゃあぁっ!」
 露になった大事な場所。
 リムルルのまだ毛も生えていない秘書が、男たちの好奇の視線に晒される。
293ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 08:55:53 ID:0cuWeS59
「や、やだぁ。いやだったらぁ」
 涙目からとうとう大粒の涙をこぼして、リムルルは頭を左右に振る。だが大勢の男に四肢を押さえられ、どうすることも出来ない。
 そして男たちの手が、胸だけでなく青い蕾にも伸びる。
「ひいっ!」
 そこに触れられ、それまで感じたことのない痛みに、リムルルの声がかすれる。
 広げられた脚の付け根に、一斉に指を触れる男たち。リムルルのそこはぴしっと閉じた一本の割れ目にしか過ぎず、とても固い。
「やあぁ。やだあああぁ。そんなとこさわらないでよ」
 もっとも恥ずかしい秘所を男たいに視姦され指で嬲られ、リムルルは羞恥と悔しさで紅潮する。
 同族を殺し、集落を焼いた簒奪者。その憎い敵に辱められる無力な自分。

 今までの修行はなんだったのか。巫女として純潔を守ってきたのは、こんな男たちに奪われるためではない。
(姉さま)
 それでもリムルルは、希望を失っていなかった。優しく強い姉。リムルルにとって世界一の姉ナコルル。
(姉さまは、きっと助けてくれる)
 そう信じて、男たちをきっと睨みつけた。
「あ、あなたたち。こんなことしても無駄よ。わたし、負けないから!」
 虚勢を張るリムルルに、男たちは何も答えない。彼らはただ犯せればそれでいいから。

 と、男たちが一斉に衣服を脱ぐ。
「きゃあっ!」
 思わずリムルルは目を背けて、目を閉じる。
 男の股間から伸びる肉の棒。すでに限界まで勃起していた。
 初めて目の当たりにするそれは、リムルルにはあまりにも異形で。
 その異形な肉棒が、リムルルの綺麗なたてすじに迫る。
294ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 09:13:22 ID:0cuWeS59
 リムルルのまだ濡れてもいない、幼く小さな性器。
 そこにグロテスクな肉棒が、無理矢理に押し付けられる。
「ひいっ! いやあああっ!!!」
 下半身から伝わる、肉を引き裂かれる痛み。そして何より、犯されるという恐怖。
 閉じられていたリムルルの目は目一杯に開かれ、大粒の涙を落とす。
「やあ! だめええぇえええぇぇぇ!!!」
 最後の力で目一杯に暴れても、大勢の屈強な男に押さえつけられてしまう。非力な自分が何より悲しかった。
 
 みし

 とうとう秘肉を切り裂き、男の先端が、リムルルの膣に侵入してゆく。
「ひいいっ! ひぎいいいっ!」
 じっと食い縛った口からは、断末魔のような悲鳴しか漏れない。まさに身体を二つに切り裂く痛みに、リムルルは押さえつけられたまま飛び跳ねた。
「ああ、あああぁぁ。わああああぁぁぁ!!!」
 痛み、そして犯されたという現実に、半狂乱になってリムルルは天に向かって泣く。
 その股間からは、鮮血が溢れていた。

 さらにリムルルを突き上げる男。さらに別の男たちも、それぞれの分身を、リムルルに押し付ける。
「ひ、ひい! やあっ! やだあ!」
 男の象徴を、ある者は短い髪に巻きつかせ、ある者は手に握らせ、ある者は小振りの乳房に押し付ける。
「姉さまぁ・・・ふぐうぅ!」
 そしてなおも姉を求める口にも、肉棒がねじ込まれ、言葉を封じる。

 殺し合いで、血に逸る男たち。リムルルの清らかだった巫女の身体に、一斉に欲望をぶつける。
 
 ドクン

 膣と外とを、男の欲望の白い液体に染め上げられるリムルル。
(姉さま・・・)
 己に降りかかる精液と膣に注がれる熱い感触に絶望し、リムルルは意識を手放した。
 いつもは明るく輝くその瞳は、光を失い、虚ろになる…。
295ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 09:30:06 ID:0cuWeS59
「リムルル!」
 壊れ、反応の無くなったリムルルを、なおも嬲り続ける男たち。
 まさに性人形として、リムルルの未熟な身体を弄び、次々と代わる代わる犯していった。
 いっぱいになった膣からは、精液が零れ落ち、それ以上の血が足下まで濡らす。
 
 ナコルルがようやく到着したのは、そんな惨状だった。
「よくも・・・よくもリムルルを!」
 怒りに燃えて、男たちに挑みかかるナコルル。
 しかし敵の男たちは、慌てず騒がず、リムルルの喉元に刃を突きつける。
 壊れたリムルルに、抵抗する術はなく。男たちは、ナコルルに抵抗を迫る。
「くっ。卑怯者!」
 とは言え、最愛の妹を人質に取られ、ナコルルには他に選択肢はない。
「分かった。降伏するわ。だから妹を、リムルルを解放して」
 首を横に振る男。こんな美しい巫女姉妹、どちらか一方を手放すなど有り得ない。

 そして動きを止めたナコルルに、男たちの毒牙が迫る。
(ごめんなさい。リムルル)
 リムルルを救えなかった自分。里のみんなを守れなかった自分。
 これは大自然からのお仕置き。そう覚悟して、ナコルルは抵抗を諦め、襲撃者の欲望の餌食になる道を選んだ。
 刃を捨て、ナコルルは言う。
「私はどうなっても構いません。リムルルだけは放して。あなたたちに相手は私がします」
 だがー
 男たちは何も言わず、ナコルルに襲い掛かる。もちろん、リムルルも犯し続けたまま。
296ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 09:51:30 ID:0cuWeS59
 まだ未成熟だったリムルルと違い、より大人に近いナコルルの肢体。
 襲撃者はナコルルの巫女装束を脱がすと、その美しい裸身に、まず感嘆した。
 
 大自然の生み出した至高の美。長い黒髪の可憐な穢れなき巫女。

 その極上の美に、醜悪な欲望を遠慮なくぶつける。
「きゃあ」
 たちまち地面に引きずり倒され、すぐに大勢の男たちが、ナコルルに覆い被さっていく。
「く、うう」
 嬲られながらも、ナコルルの視線は、ただ一点、リムルルに注がれていた。
 自分に向かい、数は減ったとはいえ、まだリムルルも暴行を受けている。今は四つん這いにさせられ、口と前と後ろの穴を犯されていた。
「お願い。リムルルは助けて」
 もう決して聞き入れられないと知りつつ、ナコルルは切願する。だが欲に飢えた男たちは誰も聞かない。
 男の手がナコルルの美乳を揉みしだき、別の男が乳首を甘噛みする。
 さらに下半身にまとわりついた男がナコルルの綺麗な脚を嘗め回し、別の男が太ももを舐め、股間にもひとりがしゃぶりついた。
「う、ううー」
 突然、全身を嬲られ、ナコルルは眉をきゅっとひそめ、内から湧き上がる官能に本能的に恐怖した。
 
 今まで清らかな巫女として生きてきたナコルルは、性に関する経験も知識も全く無い。
 内から湧き上がる、甘酸っぱい、むず痒い感触に、ただただ戸惑うばかりだった。
「あ、やあぁ。だめ!」
 自然に熱い声を漏らしてしまい、ナコルルは己を叱咤する。
 里を襲い、妹を汚した、憎い敵。その敵に嬲られ、感じてしまうなど、あってはならない」
「あ、ああ。あう。あう。やぁ」
 だが。乳首を舐められ、秘所を舌で愛撫され、全身をしゃぶりつくされているうちに、自然に肌が紅潮する。
 熱を帯びた白い肌からは、玉のような汗がこぼれ、じょじょにその量は増していった。
「やあぁ…どうして、こんなやつらなんかにぃ」
 ぎっと歯を食い縛っても、湧き上がる官能の泉は止められない。
 男の舌が、つんと秘所の奥を突付いた。
「アー!」
 びくっと背筋を仰け反らせるナコルル。その割れ目からは、愛液が漏れていた…。
297ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 10:04:16 ID:0cuWeS59
「はぁはぁ」
 口から熱い吐息を漏らすナコルル。全身からはぐったりと力が抜けている。
 その両脚を広げ、男が己のいきり立った分身を割り込ませる。
「だ、だめ」
 と思ったのも束の間。

 ナコルルの穢れ無き聖地に、汚らわしい男が侵入する。

「あー!」
 甲高い声を上げるナコルル。だがそれは悲鳴ではなく、明らかに嬌声だった。
「い、いやあっ! いやっ!」
 感じてる自分を否定するように、首を左右に振り回すナコルル。だが一度、火が点いた女体は鎮まらない。
 
 男がズン!ズン!と突き上げる度、ナコルルの身体も打ち震え、嬌声で泣く。
「あ、あああっ。いやあっ。やあ。やめ、やめてぇ。だめなのにぃ。だめぇ」
 口からは喘ぎ、目からは悔し涙。その視線が、同じく犯されるリムルルと合う。
 生気をなくしたリムルルの虚ろな瞳。それがナコルルには、自分を責めているように感じられた。

(ああ。ごめんなさい。ごめんね。リムルル)

 守れなかった妹。守れなかった里。
 巫女としての純潔だけでなく、男たちはナコルルから全てを奪う。
 
 ドクン

 男の汚らわしい欲望がナコルルの膣内で解き放たれる。
「アー! アアアアアー!」
 全身を硬直させ、ナコルルは天に叫ぶ。それは絶頂の声だった。
298ナコルル・リムルル陵辱輪姦:2005/05/10(火) 10:11:56 ID:0cuWeS59
 あれからどれぐらいの時が過ぎただろうか。
 襲撃者たちは、ナコルルとリムルルの巫女姉妹を気に入り、性欲処理の慰安婦として飼うことにした。

 そして今日も。男たちは姉妹を弄ぶ。
「うふふふふふふふふ」
 壊れた淀んだ瞳で、男の肉棒にしゃぶりつくナコルル。
 快楽に堕ちた姉は、悦んで男たちの肉奴隷になっていた。
「・・・・・・・・・」
 壊れた虚ろな瞳で、男にただ突かれるリムルル。
 現実に絶望した妹は、物言わぬ肉人形になっていた。

 二人に共通するのは、大きく膨らんだお腹。
 妊娠したナコルルとリムルルは、それでも慰み者にされていた………。
299外伝:2005/05/10(火) 10:13:12 ID:0cuWeS59
以上で終わりです。スレ汚し失礼しました。
300名無しさん@ピンキー:2005/05/10(火) 11:55:41 ID:XEmx0Vl6
まあぶっちゃけた話、本来のアイヌでは巫術は男の担当であり、
「巫女」という存在はそもそもありえないのだな。

侍魂は確信犯でナコルルを産み出したのか、素で知らなかったのかはわからんが。
301名無しさん@ピンキー:2005/05/10(火) 13:18:41 ID:vMFrhuQQ
マジ?
ぼろぼろだな
302名無しさん@ピンキー:2005/05/10(火) 17:22:06 ID:CU3tPyXw
>>291
よくやった、痛みに耐えてよく頑張った、感動した!
303名無しさん@ピンキー:2005/05/10(火) 19:55:19 ID:yXvKnuDs
>>291
GJと言わせて貰おう。
304名無しさん@ピンキー:2005/05/10(火) 20:52:25 ID:9dZ8fpZT
こういうのもたまにはね。乙。
305名無しさん@ピンキー:2005/05/12(木) 11:02:38 ID:/nlLD7US
>>300
ついでに、アイヌの巫術師は入墨を入れる。
入墨自体はアイヌに限らずわりとポピュラーな風習だが・・・
ナコルルの綺麗なお顔に入墨なんて・・・みたくねぇよな・・・
306名無しさん@ピンキー:2005/05/12(木) 12:27:41 ID:Pkt6MVul
背中に刺青で興奮したりして体温が上がったら浮かび上がるという妄想が
307名無しさん@ピンキー:2005/05/12(木) 15:09:35 ID:IWF2T38m
おしろい彫りという奴か
308名無しさん@ピンキー:2005/05/15(日) 06:43:00 ID:ghfSNega
夢路タン小説見たい
ガオーさまか右京殿と和姦か
396か通りすがりのますらおに陵辱とか・・・
309名無しさん@ピンキー:2005/05/15(日) 23:57:06 ID:ghfSNega
age
310名無しさん@ピンキー:2005/05/17(火) 21:24:55 ID:we/RTlAb
…時々でいいんでシャルロットの事も思い出してあげて…
311陸捨肆:2005/05/18(水) 22:47:10 ID:MIGnyODf
12月19日 夕刻

この時代の、この懐かしい大自然と人間の世界「アイヌモシリ」に肉体を得てかなり経つ。
少し派手に動き過ぎたかしら、あの不気味な箱――テレビからは、「山中で連続暴行殺人」
なんて失礼な言葉が聞かれるようになったわ。
耳が早いものね。こうも対応が早いと、少しやりづらさを感じるわ。
私は戦士として、この大自然と人間が生きる世界を護る役目を果たしているだけなのに。
テレビの中のあなただって、みすみす死にたくは無いでしょう?話しかけても無駄だけど。
今日はシクルゥにも少しだけ咎められたわ。「自分を失ってはいないか」ですって。
繰り返すようだけど、私がこの世に現出してしばし。リムルルとコウタにかまけ過ぎて、
本来の目的を失っているように見えるかもしれないけど、決してそんなことは無い。自分を
失うなんてもっての外よ。覚えてる。ちゃんとね。
そう。私は、アイヌモシリを荒らす輩を斬るがためだけにある。
それ以上でも以下でもない。頭の中ではいつもそれを考えている。
いくらでも血を浴び、血を潜り、血を踏みしめて。私が「ある」理由を全うしている。
何十、何百・・・・・・数えるのはとうの昔にやめたけれど、悪しき魂をポクナモシリ(冥界)に
届け、この大自然の均衡を保つための刃。それが私。
この世の摂理を乱す強大な悪に、カムイの怒りの代弁者として鉄槌を下してきた。
「人間とカムイ」。
絶対に揺らいではならない、この世を形作る、絶対の関係を護るがために。
――でも、だめ。
思い当たる中から私なりにふるいにかけて、そこで不幸にも、いえ、必然的に選ばれた、
大自然に抱かれて生きるに値しない悪党を斬り伏せ、無残にも踏みにじられた土地に生きる
事を強いられている木々を励ましたけど・・・・・・だめ。ナコルルの力の流出は止まらない。
しかもどこに消えているのかさえも分からないまま、力はものすごい早さで失われていく。
まるで水の中で肌を傷つけ、流れに誘われるがままに霧散していく血液のよう。
肉体を離れたが最後、もう二度と戻らずに、そして水に揉まれてあっという間に消えて
いくように。
312陸捨肆:2005/05/18(水) 22:48:23 ID:MIGnyODf
やっぱりどこかの誰かの手によって、力が無駄にされているとしか考えられない。
こんな事、今までにはなかったのに。まあ、だからこそ私があるのだけど。
この地に刻まれた魔界の爪あとを癒す間、再び世界のどこかで大きな破壊が起きようと、
ナコルルの強い力があれば、古い時代のカムイと人間が豊かに暮らした理想の世界を、
いつの日にか取り戻せるはずだった。
――でも、だめ。このままでは間に合わない。力が失われすぎている。
ナコルルの巫力がこのまま枯れたら、もう誰にも世界の崩壊は止められない。この世を
天秤に例えるなら、その不安定な天秤は、ナコルルの力によって支えられているような
もの。支えを失った天秤はどうなるかしら。右に左に揺らぐわ。
それがどういう事かって。
・・・・・・清清しい朝を届けていた風さえ暴れ狂い、恵み多い海は大地を飲み込む、そういう事。
そして荒廃した大地の表面には、私たちが必死で癒そうとしたあの忌々しい魔界の爪あとが
蘇る。完全なる魔界の侵攻が、今度こそ始まってしまう。
それなら・・・・・・人間が駄目なら、カムイはどうかしら。
失われ行く仲間の土地を前に、ただ手をこまねいているだけなのかしら。
残念だけど、そうせざるを得ないのでしょうね。
私たちがカムイ無しに生きることができないように、どんなに強大なカムイであっても、
最大の協力者である人間がいなければ魔界の力に抗うことは出来ない。
残念なことよ。
私やナコルルが生まれた少し前の時代ならきっと、彼らの力は魔界をも超えた。
でも、今は見る影も無い。彼らの声は弱く、小さく、ずっと衰えた。なぜって。

なぜなら、この時代の人間はカムイを忘れたから。
313陸捨肆:2005/05/18(水) 22:48:58 ID:MIGnyODf
私達はカムイを祭った。だからカムイは供え物を求めてアイヌモシリへとやって来た。
そしてそのお返しに人間に多くの知恵と幸を残してカムイモシリへと帰った。それで
私達は生きることができた。
魚も、木の実も、水も、毛皮や鍋だって、すべてはカムイの贈り物よ。
しかし、この世界の人間の多くはカムイへの感謝を忘れ、大自然が与えるだけの全てを
奪い、のうのうと暮らしているだけ・・・・・・泥棒よ。
カムイは嘆いている。古く尊い川のカムイは、涙ながらに私に語ったわ。昔は子供や大人達
が大勢、遊びや漁に自分の元を訪れ、それはそれは賑やかで楽しい毎日だったと。だけど、
今はこんなに醜く汚れた自分の所には誰も来てはくれない。ひどいものだ、自分たちの手で
汚しておきながら、と。
何も知らない、新しく生まれたばかりの動物の子供の姿をしたカムイ達は怯えていた。
どうして私たちの仲間はこんなに少ないの、と。カムイモシリに住む老人たちは、現世――
アイヌモシリに出かけるのを嫌っている、と。もはや地上にはナコルル以外、自分たちに
恵みを与えてくれる人間は残されていないからだ、と。
どれもこれも残念だけど、その通り。
私たち人間とカムイ。世界を統べるこの関係を、この世界をつなぎ止めているのは、もはや
ナコルルだけ。だからナコルルの命が失われれば、例え何かの奇跡で魔界の毒牙が迫らな
かったとしても、アイヌモシリは消える。カムイの怒りと悲しみの涙に、全てを洗われて。
ようやく幸せを手に入れようとした、私が良く知るあの幼く愛しい命も消える。
同じ人間のひとりとして。平等に。
それだけは絶対に許されない。だから、私がやらなくてはならない。
私だけが戦える。アイヌの戦士たる私だけが、すべてを護れるのだから。あの晩、そう
誓ったのだから。
314陸捨肆:2005/05/18(水) 22:51:38 ID:MIGnyODf
幸い、まだまだ身体の感触は良くなっている気がする。気のせいかチチウシの切れ味も
威力も、私自身の向上と切り裂いた悪党の数に比例するかのように、蘇ったあの日とは
比べ物にならないぐらいに鋭くなってきているように覚える。
ねっとりと汚れた赤黒い血を尊い夕日に透かされ、眩しい赤銀色に輝くチチウシの姿は、
この刀が宝刀たる所以を私に示すかのよう。
さあ、ナコルルの力が――命が尽きるまでそう時間が無い。
私は戦士。この世界の守護者たる宿命を背負う事と引き換えに、本当の肉体を超えて生きる
事を許された者。
宝刀が導くがままに、私は戦い続ける。そしてナコルルの力を狙う、邪な輩を必ず見つけ
出し・・・・・・
ねじ伏せ、
突き刺し、
叩き斬る。
護り切ってみせる。絶対に。
この世界を。カムイを、人間を。
そして、リムルルとその幸せを。
315陸捨肆:2005/05/18(水) 22:52:24 ID:MIGnyODf
12月20日 朝

今朝もにいさまの姿を見れなかった。これで二日連続の寝坊。起きたら二人ともいなかった。
とっても大切な時間のはずなのに、眠りこけてるなんて自分が情けないよ。
やっぱり、昨日もみんなが寝静まった後、かなり夜遅くまで頑張っちゃったからかな。
にいさまへの贈り物を作るために。ナコルルねえさまがわたしにくれたあのマタンプシ(鉢巻)
の図柄、忘れないうちに。
だってにいさまにバレちゃったら驚かせないし、それじゃ意味ないから。だから隠れて、
こそこそと進めようと思って。
なのに、にいさまはそんなわたしの事なんてお構い無しに、夜中まで鞘の木彫りの練習
なんてしてるから、どんどんわたしの睡眠時間が減っていく。早く寝ようよっていうのに、
にいさまはんーとか、あーとか言いながら、広げた新聞の上でカリカリカリって。レラねえ
さまはとっくの昔に寝ちゃってるのに。にいさまは意外と凝り性なんだ。
だけど、そうやって頑張ってるにいさまはとっても素敵だから・・・・・・それ以上何も言えない。
真剣に細めた目でじーっと出来ばえを見て。指で確かめたり、削りカスを吹き飛ばしたり。
それで間違えて新聞の上のゴミまで吹き飛ばしちゃって大変なことになって。わたしまで
手伝わされて。
そんな事してたら、あっという間に時間が過ぎちゃって。
わたしの事も、あんな風にじっと見て欲しいな。たまには。ちょっとでいいから。
そんな事を考えながら、布団を畳んで洗面所に行く。冷たい水で顔を叩くように洗った。
「ざぶざぶぶ・・・・・・ぷはっ、ひえぇ〜!」
鏡に映った顔を見て驚いた。目の下にうっすらクマができてるんだもん。水で洗って落ちる
ものじゃないし、みっともない。今日からは絶対に早く寝なきゃ。そのためには、にいさま
達二人が外に出ているこの朝の時間を生かさないと。
着替える時間も惜しくなって、パジャマのまま部屋に戻る。着替えはあとあと。
316陸捨肆:2005/05/18(水) 22:53:47 ID:MIGnyODf
「シクルゥおはよう!朝だよ!」
部屋の隅っこで丸まっているシクルゥに朝の挨拶をして、カーテンを開く。シクルゥは
目を開いて尻尾を揺らしたが、差し込んだ朝日の眩しさが何となく疎ましそうな雰囲気だ。
「そっか、毎日レラねえさまと頑張ってるんだもんね。起こしちゃってごめん。寝ててね」
カーテンを再び戻して、きれいな銀色の毛に覆われた頭を撫でてやると、シクルゥは
くわぁ〜っと大きなあくびをして、ぽてっと横になった。
「コンル、おはよっ!」
台所に行って冷凍庫を開けると、コンルがぴょこんと飛び出して、わたしの周りをくるっと
一回転した。そして正面に戻ってわたしの顔の前で漂うと、きらっと光って身体を傾けた。
「あっ、この顔?えへへ、だいじょぶ。ちょっと昨日の夜ね。頑張りすぎちゃって」
コンルはやさしい。わたしの事、誰よりも気遣ってくれる。わたしと一番長い時間一緒に
いるから何でも知ってる。だからちょっと様子が変わっただけでバレちゃうんだ。
「ありがとう。うん。今日は早く寝るよ!だからね、朝ごはんちゃっちゃと作るんだ!
コンルも手伝ってくれる?」
言うと、コンルは部屋のほうに飛んでいって、わたしの鉢巻を絡めて取ってきてくれた。
コンルの鏡みたいな身体の上で、ヒラヒラと風を受けて揺れる鉢巻。
それを見てわたし、ピンときました。
「はいっ!わたし、コンルにも鉢巻作ります!」
手を上げて元気良く宣言したら、コンルはまたもや傾いてしまった。ボーゼンとしちゃって、
つるつるした表面からわたしの鉢巻が床に落ちてしまう。
317陸捨肆:2005/05/18(水) 22:54:26 ID:MIGnyODf
「えー、そんなに驚くことじゃないでしょ?コンルには一番お世話になってるしね、考えて
みたらわたし、今までコンルに贈り物したこと無かったもん。だから、ね!」
鉢巻を拾って頭に結びながら言うと、コンルが愉快にぴょんぴょん飛び跳ねて、わたしの
顔にひやっとするキスをしてくれた。わたしもお返しに、ちゅって。目が覚める冷たさ。
つめたさ。

「ひゃぁ」
つめたさが――

「うっ・・・・・・うぅ」
つめたい・・・・・・寒い。
白い。
さむい。
風が。風が運んで来る

「だめっ、待って・・・・・・!」
さけびはもう届かない――
まつげが凍りついて

ねえさま が白く霞んで

「ねえさま、あぁ・・・・・・」
――もう動けない。重くて
このままじゃわたし――

ごちっ!
「あたっ!いったたたぁ・・・・・・」
おでこに硬くて冷たいものが飛んできて、目から火花が飛んだ。思わず床にしゃがみ込む。
たんこぶが出来ちゃいそうな勢いだった。
「こっ、コンル!何するのよぉ急にぃ!痛いよぉ〜・・・・・・」
突っ込んできたのはもちろんコンルだ。なのに心配そうにわたしの顔を下から覗き込んで
くる。こんな事しておいて!
318陸捨肆:2005/05/18(水) 22:55:17 ID:MIGnyODf
「一体どういう・・・・・・え?」
何言ってるの?コンルが妙なことを言い出した。
「そんな事、ううん?大丈夫・・・・・・だけど」
わたし、震えてたの?いつ、えっ、今?うわごと?
「だから助けてくれたの?ありがとう、でも何もなかったよ?ほら、コンルにちゅって。
あれがちょっと冷たかっ」

冷たくて・・・・・・死んじゃう

身の毛もよだつ何かが、頭を右から左によぎった。
乱暴なぐらいの悪寒。足から頭のてっぺんにまで一気に通り抜けて、息が詰まる。
心臓が止まりそうになる。
「〜〜〜、ぷはっ!はぁっ、はっ、はっ?!」
訳がわからなかった。見えない何かに放り出されたそのまま、突然に開放だけが与えられて、
混乱したまま辛うじて息がつながる。
この部屋には自分たち以外誰もいない。誰かが自分に言葉を投げかけたわけじゃない。
「こ、コンルぅ!」
恐くなって、コンルを胸にぎゅっと抱きかかえた。
「さっきもあんな感じだったの?うそ・・・・・・やだよ」
何なの?冷たくて、それで・・・・・・なんだっけ?
今さっきの事なのに、何が頭に浮かんだのかあっという間に思い出せなくなってしまった。
それがなおさら不気味で、胸の中に残った不安を消してもらいたい一心で、コンルを抱き
しめた。冷たいのに、コンルはあったかい。指先はじんじんするし、胸の先が痛いぐらい
に冷えてしまうんだけど、なのにお風呂に入ってるみたいに落ち着くの。
319陸捨肆:2005/05/18(水) 22:56:29 ID:MIGnyODf
「つ、疲れてるのかな、やっぱり。うん、早く寝る。気をつける。ごめんなさい」
コンルは心配して、もう夜更かしはしちゃダメだって。そうだよね。遅寝早起きじゃ、
そのうち絶対倒れちゃう。にいさまみたいな大人じゃないんだから、それに合わせちゃ
ダメだよね。
ほら。もう気分が明るくなってきた。おかしな不安の事なんて、もうすぐ忘れられそう。
「ありがとう、コンル。もしコンルがいなかったら、わたし――」
お礼を言おうとしたら、背中の辺りに何かふわふわしたものが触れた。シクルゥだ。
大きな身体を寄せて、わたしのほっぺをぺろりと舐めてくれた。
「シクルゥ・・・・・・!ありがとう。うんっ、シクルゥも一緒だよ?ずっとだよ」
いつまでもしゃがんでいられない。これ以上心配かけちゃダメだ!
二人の優しさに後押しされて、えいっと掛け声出して立ち上がって、エプロンを巻いた。
にいさまの大きなエプロン。踏んづけて転んじゃいそうだけど、これじゃなきゃダメ。
特に今はなおさらだ。にいさまが包んで守ってくれるんだから、最高のお守りだもん。
振り返れば、コンルもシクルゥもわたしの顔を見て嬉しそうにしている。
みんな、大好き。
「よーし!今日もわたし頑張るよ!」
320陸捨肆:2005/05/18(水) 22:57:15 ID:MIGnyODf
「ふーんふふ〜ん、おっりょうり、お料理・・・・・・」

ふふ、鼻歌なんて歌って。

ああ・・・・・・リムルルは大きくなりました。あんなに小さかったのが嘘のようです。

あの日以来カムイコタンで育てられ、常人とは違う運命を背負わされ、幼い身で刃を
振るう事を教えられても、リムルルは決して自分の良いところを失うことはありません
でした。
心優しい家族にも恵まれ、良い教えを胸に刻んで・・・・・・それが時として足かせになる
事もあるようですが、立派な女性に育ちつつあります。
さすがはあなたの娘。逞しい腕はいくらか細くはなりましたが、優しい心を宿した瞳は
あなたにそっくりです。
大いなるキムンカムイの力を受け、時代を超えて、リムルルはコウタさんというさらに
良い家族に出会いました。
引き合わせたのは私ですが、それは・・・・・・私なりの、その、考えがあったのですよ。
リムルルという異世界同然の過去から飛んできた少女と共に、これから降りかかるで
あろう数多の苦難を乗り越えてくれそうな御方を、と。
自慢するようですが、私の目に狂いはありませんでした。あの方は、コウタさんは、
リムルルの事情を知り、しっかりと受け止めてくれています。リムルルを見つめる目は
まるで、在りし日のあなたのようです。
心が通ったあの二人なら、きっとナコルルさんを見つけ出す事が出来る、そう確信して
います。いえ、私達はそのためにここに来たのですから、確信はさらに深まった、そう
表すのが適切でしょうね。
何はともあれ、リムルルの事は任せてください。
必ず、必ず。最後まで。一人のカムイとしてお誓い申し上げます。
321陸捨肆:2005/05/18(水) 22:58:23 ID:MIGnyODf
今でも思い出します。あの日のことを。
あなたを助けられなかった、あの日のことを。
縮み上がって動くことすらままならなかった、弱かった私。
あろうことか恐怖に負けて、背中を向けて逃げた私。
戻ってきた頃には全てが終わっていました。
私の大事な物が。全てだと思った物が。
この身を捧ぐ事に、何の疑問も持たなかった御方が。
灰さえ残らなかった。あの忌まわしい、白い炎に焼き尽くされて。
だからこそリムルルは私の希望。
貴方が私に唯一残された、希望です。
あの子がいるからこそ、今の私があるのです。
ポクナモシリ(冥界)に旅立たれたあなたに代わって、もう二度と、私の目の前では誰の
幸せも失わせはしません。

どうか見守っていて下さい・・・・・・奥様とご一緒に。
322陸捨肆:2005/05/18(水) 22:58:59 ID:MIGnyODf
12月21日

「はぁ、はぁぁ・・・・・・うぅ、ぅ」
熱い・・・・・・熱い。
白い眩しい
こわい
汗がべっとりと

「いや、ねえ・・・・・・さま」
ねえさまはもう見えなくなった
だめ

「やだぁ・・・・・・や、だっ」
柱が、屋根が焼け落ちる
死んじゃう。みんなそうして死んだ。
燃えた
――だからわたしも

あれは父さまが、父さまの血が

「しんじゃう・・・・・・ぅ」
――にいさま、だめだよ。そいつは
それはわたしのものだ――

・・・・・・要するに起きていたのか、眠っていたのか。それさえも分からないの。
昨日の夜も結局寝るのが遅くなっちゃったの。だってもうクリスマスまで時間が無いから。
それで頑張って頑張って頑張って、にいさまへの贈り物、完成したの。青地に白い模様の鉢巻。
とっても良く出来たと思う。にいさまの寝顔を見ながら、にいさまへの思いを針にのせて、
糸でしっかりと縫いつけたから。あ、コンルのは間に合わなかった。
323陸捨肆:2005/05/18(水) 22:59:46 ID:MIGnyODf
でもでも、思い立って急いで作ったのに、ほころび知らずの出来ばえ。にいさまはきっと
喜んでくれる、そんな自信もあるの。こんな無理が出来たのも、ナコルルねえさまが夢の
中でわたしに色々教えてくれたからなんだけどね。いっぱい感謝しながら寝たよ。
それで・・・・・・今日はにいさまが、わたしの頬にキスしてくれたのが分かった。嬉しかった。
だって二日ぶりだったから。
それでその後、ほっぺをさすりながらすぐ顔を洗いに行って、鏡を見たらすごく顔が疲れて
たの。目の下のくまも取れてなくて。あぁ、まあ仕方がないかな、あんなに夜更かししちゃ
ったんだからって諦めて、今日は一段と寒いなって、すぐにストーブの火を点けて、

ストーブの小さな窓から火が見えて。
囲炉裏の火なんかよりずっと小さい真っ赤なのが。
それがだんだん白く大きく――

それで、今。
気がついたらシクルゥが前足でカリカリって、私の汗だらけになった手を引っかいていて
・・・・・・。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ」
ストーブの前に突っ立ったまま、息が上がっている。夏でもこんなになるかと思うぐらい、
下着にぐっしょりと汗が染みている。お尻が張り付いて気持ちが悪いし、喉もからからだ。
それにおかしいのはわたしの外見だけじゃない。
止まずに高鳴り続ける心臓。ひくひくと震える指先。
目の奥に焼きついた、ストーブの白い白い炎。
「いやだあっ!」
ストーブから目を背け、シクルゥにしがみついた。
「やだ・・・・・・やだよぉ」
昨日は冷たくて、今日は熱くて。それでどっちもすごく恐かった。でも覚えているのは
それだけだ。温度と恐れなんて、そんな感覚的な記憶だけしか残ってなくて、その間に
具体的に何が起きていたのかなんて全然思い出せない。
324陸捨肆:2005/05/18(水) 23:00:23 ID:MIGnyODf
――ストーブの中の火が見える小窓を見つめた途端 動きが止まって ぶつぶつ言い
ながら震えていた・・・・・・
シクルゥが教えてくれた。さっきまでのわたしはこんなだったんだって。
「そんなの、まるで頭がおかしくなっちゃったみたいじゃない!」
シクルゥの首に回した腕に力を込めて叫ぶ。だけど、シクルゥは本当のことだ、とにかく
少し休みなさいと、わたしの頭をひやっとするお鼻でつついてくる。
きらきらと高く澄んだ音を立ててコンルも飛んできた。盛んに私たちの周りを飛び交って、
大丈夫なの、大丈夫なのって、とても慌てている。
涙が出た。
だって、こんなに嫌な気持ちになったのは久しぶりだから。
あの日、川辺で出会ったおじいちゃんが見せてくれたわたしの中のわたしが、それはダメ
だって、その記憶はどこかよそにやってって、良く分からない指示を飛ばしているのが
分かる。
動物が火を嫌うように、わたしの操れない心の本当の部分が、危機を知らせている。
だから震えが止まらない。
この目を閉じたら、またわけの分からない世界がわたしを待っているんだ。だから絶対に
起きててやる!シクルゥの首を覆う銀色から目を離さないようにして、まばたきだって
我慢しなきゃ!
「いや、いやだぁ・・・・・・やめてっ!」
記憶が「そっち」へ引っ張られそうになるのを、わたしの中のわたしが必死に抵抗している。
「い、痛い・・・・・・あたまっ、いたいぃ!どうして・・・・・・わかんない!何?何よぉ!」
右の頬をつねられたまま、左に向かって逃げようとしている気分だ。もがけばもがく程、
その痛みは増してゆく。
だけど、だけど!
もしもここで抵抗を止めたら。逃げるのを諦めたら。
頬をつねられるのとはわけが違う、ずっと強い苦しみがわたしを待っているんだ。
だから、逃げた。
背後に迫る、思い出してはいけない「それ」から。
325陸捨肆:2005/05/18(水) 23:01:00 ID:MIGnyODf
「うっ、うぅ・・・・・・あっ・・・・・・助けて!にぃ・・・・・・さま!ねえさまぁ!うあぁぁ」
天井と壁しかない空中に向けて、わたしは身体を立てた芋虫みたいにもがいた。
だってもうすぐなんだ。もうすぐたどり着けるんだ。ねえさまに会えるんだ。
素敵な家族がいて、カムイに見守られて、大好きなねえさまとにいさまと暮らして。
助け合って、みんなで幸せになるんだ。あのおじいちゃんにだってそう約束した。
だから、
だからそんな少しだけ幸せな未来だけ、それだけが欲しいのに。
わたし、わがままなんて言ってないはずなのに。
「うあっ、いあ、頭がっ・・・・・・痛」
昔のことなんて。もう何もいらないのに。
「うあ、あ、ぁぁぁ・・・・・・!」
なのに、それは私に見せようとする。あの日の記憶を。
「あぅっ・・・・・・ぅ」
ああ、もう逃げられないところまできちゃった。
背中が熱く燃えた。「それ」が私を捕らえたのが、とてもよく分かった。
だけど、お願いだから。
今から少し記憶を失う間ぐらいは、お願いだからゆっくり眠らせて。
この数日間。あんたってば明け方になると、いっつもわたしの夢の中で暴れてるんだから。
326陸捨肆:2005/05/18(水) 23:02:06 ID:MIGnyODf
12月21日 夕刻

「そんなっ、あんた!あんた気が狂ってる!ひいっ、いぃひぎあやあぁ」
狂っているのはあなた。そんな人間に生きる価値なんてない。そうでしょ。死になさい。
「しっ、知らねぇ!そりゃ俺ら悪い事してっけどよ嬢ちゃん、そんな何言ってやがあぁ」
知らない?嘘をおっしゃい。あなたの汚れきった魂ならと思ったんだけど。まあ、どちらに
しろね。大自然の痛みを知りなさい。
「ま、魔界ィ?どっどこの族だよおっ!んな奴ら、俺はしらっぐうぅぇ」
馬鹿言うんじゃないわ。ほら、さっさと醜い尻尾を出しなさいよ。
「頼むっ、もうしない!なあ、おっ、おい・・・・・・やめっ、やめぁが」
あなたも違うっていうの?でも関係ないわ。あなたもこの世界にいてはいけないの。
「ひっ・・・・・・ひひぃ・・・・・・ひっ、人殺し!うあ〜〜っ、ぐああっ、ぎあ っ 」
うるさい、うるさいわ。さっさと死になさい!

山の向こうに、太陽が傾く。
地上を照らす者との別れを惜しみ、また明日も東から昇るのを願うように、黒い汚れと
悲しみに落ちた川面が精一杯のきらめきを放つ。カラス達が、凍える冬の大地に温もりを
与えてくれる尊い者の名を呼びながら、追いかけるように山々の巣へと急ぐ。誰もいない
細い農道の横に並ぶ、傾き古びた裸の街灯が、頭の上でじじっと砂混じりの音を立てて瞬く。
うす雲を透かす一番星が白く輝き、やがて太陽は彼方へと落ちた。
一日が終わる。
そして、終わりの日が近づく。
何も出来ず、分からないまま。私は今日もまた使命に背中を押されるのに任せ、ただ
いたずらに、汚れた魂を包んでいた肉体を斬り裂き、噴き出したどす黒い血液に、己が
身を汚した。
「はぁ・・・・・・」
ため息しか出ない。
これは手探り以下だわ。手がかりも、そのまた糸口も、何も無―――
327陸捨肆:2005/05/18(水) 23:02:52 ID:MIGnyODf
ぐらっ
「っツ・・・・・・?」
酷い立ちくらみがした。
じらじらと視界の下のあたりに砂が舞い、景色が歪んで、大切なチチウシが手の中から
抜ける。笑い転げる膝をこらえ、冷たい灰色をした街灯の柱にずるずるとしがみつく。
掴まってさえいられない。
「はぁっ、はぁ、うぐっ・・・・・・!」
指先に力を込めるため、大きく二回息をした。
しまった、と思ったわ。でも遅かった。
息を吸った途端に鼻から悪寒が走り、内臓に届いて、返って来たのは喉の奥を突く酸の
感触だった。
汚れた血の醜悪な匂いを目一杯にまで肺に吸い込んでしまった私は、たまらず吐いた。
「うえぇっ・・・・・・ごほっごほっ・・・・・・うぅっ、えぇっ」
出てくるのは胃液だけ。今日は何も口にしていないから。
けど、出すだけ出してもう何もでないのに、胸ぐらを突き上げる不快感が収まらない。
めまいが加速して、ギリギリで保っていた平衡感覚が失われる。
「うぅ」
ついに私は柱に身体を預ける事さえ出来なくなって、それでも何とか自分の吐いた物を
避けるようにして、道端の草むらにうつ伏せになりながらどうっと倒れこんだ。
「ぐふっ、ごほっ・・・・・・はぁっ、はぁ」
肺の内側から肉体を蝕む真っ黒な血の匂いが、地面に漂う土と枯れ草の香りに遮られ、
ようやく私は嘔吐から抜け出した。しかし、目の前の枯れ草の根元は依然ぐるぐると
回って見え、鼓動に合わせてずきずきと頭が痛む。
必死だった。
今日だって手当たり次第よ。あらゆる芽を摘んだわ。山を汚す者、動物達の命を蔑ろに
する奴。そうそう、自分の身体にも流れているのと同じ水を湛える川に、平気な顔で
毒を捨てていた大馬鹿もいたわね。
328陸捨肆:2005/05/18(水) 23:03:40 ID:MIGnyODf
だけどそんな小ざかしい奴らに、ナコルルの力を吸い取るなんて真似が出来るはずがない。
そんな事が可能なのは、世界の転覆を心から願うような魔界の住人、しかも強大な力を
持つ一部の輩だけのはず。
そう分かっていながら、それでもどんな小さな手がかりでもと・・・・・・刃を向けた。
結果は散々だった。どれもこれも、ことごとく私を裏切った。
得られたのは、耐え難い焦燥と血の匂いだけ。
リムルルとコウタが遭遇したという不気味な泥の塊も、羅刹丸とかいう魔界の男も、天から
の声も、足跡ひとつ、形跡さえ見つけることはできない。
「どうして私には姿を見せないの・・・・・・!」
吐き気とは違うものが腹の奥底からこみ上げる。次々に放り込まれる焦燥という薪を糧に、
ぐらぐらと煮えくり返っている。
「くそっ、卑怯者め!」
だってそうじゃない。この世界に降り立ったばかりの妹は狙うくせに、私が出てきた途端
ぷっつり姿をくらますし、私の本体の、ナコルルの命を物陰から吸い取り続けるなんて。
許せない。
「うあああっ!」
こみ上げる物が怒りだと気づいたときには、それは我慢の鍋を超えて飛び出していた。
地面をばしっと叩き、仰向けになる。そして、
「来い、来なさい!さあ私はここよ!!」
叫んだわ。シクルゥと遠い空に浮かぶ星々以外に、誰の気配も周りに無いのを良い事に。
今日残された、僅かな力の限り。
「魔界の輩!それともウェンカムイに心奪われた痴れ者かしら!?どちらにしろよ!
アイヌモシリを壊したいのなら・・・・・・ナコルルを葬りたいなら、今すぐ私を斬りなさい!
ご覧、もう私は動けない!刀を握る握力さえ残っていない、死体も同然よ!私を殺せば、
ナコルルの反面である私を消せば・・・・・・!」
329陸捨肆:2005/05/18(水) 23:04:31 ID:MIGnyODf
――やめるんだ
若く、それでいて風格に満ちた男の声が頭の中に直接響く。
「し、シクルゥ・・・・・・?」
痛む頭を押さえながら足の方にあるシクルゥの気配に目を向ける。
案の定、シクルゥはそこにいた。チチウシの柄を口に咥え、こちらをじっと見据えている。
瞳の奥で、たてがみと同じ色に光る白銀の輪が声を私に届けた。
――やめるんだ 敵は 聞いているに違いない 姿をくらましているだけだ
「だけどこのままじゃ」
――落ち着け 先日も言ったばかりだ
「えっ?」
――自分を失うな 頼もしきアイヌの戦士よ カムイと人間の盾たる者よ
雑念だらけの頭の中で、さざ波が引くのに似た、心が整然さを取り戻していく音がした。
自分を失うな。この前もシクルゥに言われたばかりじゃないの。
「ごめん。ごめんなさい。シクルゥ」
取り乱しているのを指摘されるまで気づかなかったあまりの自分の愚かしさに腹が立つ。
けれど、同時にとても心地よい。こんなに安心したのは久しぶりかもしれない。
相棒は、シクルゥは特別だ。
あまたの死地を共に駆けた仲間というだけじゃない。山に住むカムイでありながら、太陽が
輝き、月が青く光るあの高い空に通じる力を持つ、最も強く尊いパセカムイの一人。それが狼。
そのシクルゥの声が持つ大いなる言霊は、強く私の胸を打つ。
幼少の頃、父様に感じていたあの力強さに似たシクルゥの声に、私は心の耳を傾けた。
――状況は芳しくない 情けない事に 私にも何が起きているのか推し量れない
「えぇ」
――だからこそ私たちは いつもどおりを最後まで通す事が それが必要だ
「いつもどおり・・・・・・」
――そう いつもどおりだ
抑え気味ながら、その声には一種の確信があった。
330陸捨肆:2005/05/18(水) 23:05:13 ID:MIGnyODf
シクルゥは咥えていたチチウシを私の足元に置いた。
――自信を持て どんな強大な魔にも抗うだけの力 それが私たちの手元にはある
「そのための・・・・・・いつもどおり」
――そうだ 10の力があるのなら 10の力全てを引き出せる状態を常に保たねば
まだ少し世界が不安定に揺れるその中で、私は足元に無造作に転がった唯一の絶対へと
手を伸ばす。
「そうだったわね。いつもどおりが・・・・・・私達にはそれが出来ていた」
カムイコタンに伝わる宝刀。あらゆる魔を退ける、アイヌの戦士だけに許された刀。
シクルゥに確信を与え、私に勇気を与えてくれる、もうひとつの相棒。
「わかったわ、シクルゥ。今度こそ」
チチウシを逆手に握りしめ、私は勢い良く立ち上がった。
「今度こそ、もう大丈夫っ」
言い切った事とは裏腹に、身体がふらつく。勇気に火が灯っても、疲労は私の肉体の中
から出て行こうとはしない。
左の肩から滑るように、両腕を下げたままの上半身がぐらりと地面に向けて傾いた。
――平和そのものだった空に、にわかに暗雲が流れ込むように。
でもこれでいいわ。自然の力に歯向かわず、素直な心を保つ。
左足を中心に傾いてゆく身体の軸を感じながら、強引に右肩から上半身を前へと捻れば、
身体にゆるやかな回転が加わる。
横滑りしながら回る、何も無い冬の田園。
地面が近い。
今。
「ふっ!」
左足にぐっと力を込め、右脚を回転に合わせて振り抜く。両腕を広げながら。

――そのあまりに急な変化は、空が一転に掻き曇るように。

飛び上がりながらの回転脚。暗闇と地面が交互にくるくると回る。
弱々しい街頭の明かりを受け、チチウシがきらりきらりと光る。

――その光は、黒々とした雲から降り出した大粒の雨。
331陸捨肆:2005/05/18(水) 23:05:50 ID:MIGnyODf
ざざっと音を立てて着地し、左手を添えてチチウシを前に突き出す。
姿勢を低く。シクルゥよりも。
一歩、すり足。また一歩。一歩。
ざっ、ざざっ。ざざざ。

――そのざわめきは、空を埋め尽くした雲と共ににじり寄る、獣の鋭い牙を隠した風。

足元から土ぼこりが舞い上がる。それを風が吸い込み、隆々と立ち上がる。
ゆっくりとした、姿勢を戻しながらの回転。合わせて上下する円弧の太刀筋。

――それは、生まれながらにして地を嫌い天を憎む、若き荒獅子の如きつむじ風。

ぐるぐると回転する刃は加速し、やがてそれは天を目指し――
「いやあっ!」
唐突な鋭い跳躍。その先、天へと突き出されたのは一振りの刃。

――それは遥か足元、雲の上からは見えさえしない地上から、轟音と光を司る者の住む
天へと届いたつむじ風。

自らの支配する場所を烈風に乱された雲が、怒りもあらわにどろどろと鳴り響く。
空に向け、一直線に伸びた身体。
天と地の狭間。
地の謀反と天の逆鱗。
雨粒だけがたあたあと降り注ぐ虚空に走る緊張が、爆発的な力となって身体中に満た
されてゆく。宙に、一瞬縛り付けられる。
そしてその緊張が限界点に達したとき――天は罪深き地上に目掛けて、怒号を放つ。
「たあああああぁっ!!」

――雷光一閃。
332陸捨肆:2005/05/18(水) 23:06:52 ID:MIGnyODf
落下する私の全体重を乗せたチチウシが冷たく吼えながら、夕刻の大気を光もろとも
一文字に切り裂き、地響きを立ててコンクリートの深くまで突き刺さった。
シカンナカムイ流刀舞術。
恐れ多い事に、この世で最も気高い雷のカムイにより伝えられ、その名を冠する事を
許されたという、カムイコタンに伝わる美しき最強の剣技。
アイヌモシリに襲いかかる闇を一吹きに払う豪雷の力を宿したその一撃は、長い歴史の
中で幾度と無く迫った魔の手を、ことごとく退かせてきた。
父様も、父様の父様も、ずっとずっと遠いご先祖も、こうやって戦ってきたはずだ。
地面を突き破り、刀身の殆どが隠れているチチウシにかかる抵抗を腕全体で感じながら、
ゆっくり引き抜く。
徐々に姿を表すチチウシの刀身。その肌は傷つくどころか、地のカムイによって丹念に
拭われ、あの不愉快な血糊は残ってはいない。ぴかぴかに磨き上げられ、魔を退ける力を
さらに何倍も強めたようだった。
まだ戦える。私は再び強く確信する。
私には相棒がいる。剣もある。カムイが伝えた技だってある。護るべき物もまだ失われて
いない。
そして、この身体に脈々と受け継がれた戦士の誇りも。
333陸捨肆:2005/05/18(水) 23:07:40 ID:MIGnyODf
12月22日 正午 大学の食堂

「コウタお前よー、最近付き合い悪いよなあ・・・・・・授業にも出ないし」
すまん。色々大変なんだ。家が。
「色々だ?それがノートをとっておいてやった恩人に対する言葉か、おい」
いや、それは感謝してる。ちゃんと昼飯おごるから。
「ったく。安い安い・・・・・・が、無論おごれよ?」
お前もなんだかんだでやさしいな。
「そりゃーお前、俺の半分は優しさと友情で出来てっから」
あとの半分は?
「酒とナオン」
ほーらきた。あ、俺うどんで。
「うっせ!あー、俺ランチ。ライスは大盛り、それにカツカレーのライス抜き」
てめぇ・・・・・・ここぞとばかりにワケわかんねー注文を。
「コホン。コウタ君・・・・・・世の中は『ギブ アン テイク』で出来ているのだよ?」
はぁ?
「君、ノート欲しかった。俺、あげた。君、うれしい」
はぁ。
「俺、はらへっだ。君、ノートのお返し。俺、ごぢぞうざま」
どこの原住民だ!どこの妖怪だ!お前は!
「だからな、こんな原始の生活でさえ・・・・・・強いて言うなら幻想の世界でさえ、そういう
仕組みで出来てたということをだ、俺は分かりやすい例で示してやったんだよ」
あー、どうもどうもどうもねー。こりゃありがとさんよ!
「素直じゃねーなー。俺の半分がコウタ君のあまりに酷な仕打ちにボロ泣きだよ?」
勝手に泣いとけ!ったく、大概はあとの半分に押されてるくせに何言ってんだか。
「あーお前、そういう事言いますか!そういう事を!もうお前アレだ、バーカ」
小学生かよ・・・・・・。
「うるせー、バーカバーカ、いただきます」
立ったまま食うな!ちゃんと座ってからにしろ!あー、支払いこいつの分も一緒で。
「うむ。くるしうない。遠慮なく払うが良いぞ」
黙れバカ。早く席を取って来い。
334陸捨肆:2005/05/18(水) 23:08:29 ID:MIGnyODf
・・・・・・

「ふぃー。タダ飯とタダ酒は何度目でもたまらんもんですなぁ!」
あー良かったですね!ごちそうさま!
「げぷ」
・・・・・・俺、帰るから。
「まあ待てよ。これも満足を伝える作法の一つなんだからさ」
それはお前の生まれた星だけだと思うんだ。
「ち、バレたか。俺の正体、バレたからには・・・・・・後日に拉致るッ!」
ハァ?
「これを読めっ!!デデデェ〜ン、デデデデェ〜ン」
シュー・・・・・・って、何?「俺とお前とお前と(略)で年末を乗り切る会」?
「ビンゴー。地球の義務教育は化け物だな。ちゃんと読み書きできる」
しまいにゃ樹海に埋めるぞ。で、何だよこれ?
「これはね・・・・・・もうあと数日であの忌まわしい行事が訪れるだろう?」
く、クリスマスの事か?
「そうだ!俺達モーテネーダーズの最大の宿敵であるカップルが、にわかも含めて街に
ゴマンと溢れかえる日!バカヅラした男と女だけで世の中が構成される、世界の終わり
の日だ!」
ちょっと待て。
「だが!俺達はそのような終わりの日を訪れを事前に知っている!そしていずれ滅ぶのも
奴らだという事もな!だから俺達は地下に逃げるッ!その一日を耐え忍び、晴れて25日
を迎え・・・・・・神の裁きによって浄化された新しい世界に相応しい新人類として生まれ変わる
のだーぁのだーのだーのだー(自主エコー)」
あのー。盛り上がってるところ失礼ですが。
「・・・・・・のだ?」
要はトップクラスのモテない集団が駅前の居酒屋貸し切って夜通し涙混じりの酒を飲む、
そういう企画なんだろ?
335陸捨肆:2005/05/18(水) 23:09:16 ID:MIGnyODf
「さすがはコウタ。授業に出なくてそこそこの成績のオツムだけあるな」
そこそこは余計だ。恒例行事だもんな・・・・・・今年ももう終わりか。
「まーそういうこと。忘年会兼でさ。会費は後払いで。もう23人集まった」
工学系学生のオトコの結束を甘く見ちゃダメだな。毎年ながらいい集まりしてる。
「まーこの分だと30人オーバーは固い!さて・・・・・・」
あ、俺は遠慮したいんだが
「・・・・・・あ、ごめん、ちょっと別のテーブルの声うるさくて」
すまん。今年はムリ。
「え?」
いや・・・・・・ちょっとね、家に妹が、その
「ぶうあっかやるおぉぉぉぉぉぉん!!」
おぉ?!
「お前ッ、そんな嘘つくぐらいならフツーに『同棲してます』言え!このタコ!スケベ!」
同棲っておいおいおいおい!違う!
「おかしいと思ったんだよな!そんなとこだろうとみんな噂してたんだよな!ケータイ
持ってないのは仕方ないけど何の連絡もないしよ、学校にはこねーしよ!ケッ、俺らが
教授の汗臭い授業聞いてる間に、この男は昼間っから合体作業とは!いいご身分だ!」
してないしてない。合体してない。だからさ、家族!妹がウチにいるんだよ!
「ハァハァ・・・・・・ホントかっ」
何で涙目なんだよ・・・・・・ホントだって。心配するな。
「か、家族サービスなのかっ」
俺はお父さんか。まあそんなとこだよ。ウチの妹クリスマス初めて・・・・・・あいや、田舎に
住んでて今度あいつも上京してきてさ。何年も何かその、行事を一緒にしてないからさ、
それに家に女だけ残しておいたらちょっと物騒なんだよな。最近近所におかしいヤツが
うろうろしててよ。
「・・・・・・コウタ」
それで危な・・・・・・ん?
「お前、シスコンだったのか」
だまれバカ!
336陸捨肆:2005/05/18(水) 23:10:13 ID:MIGnyODf
「妹、可愛いのか」
ぐっ、いや・・・・・・
「か わ い い の か」
か、かわいいが?
「こんの変態がぁ!コウタっ、妹垂らしこむとはいい度胸じゃないか!勝手にしろ!あぁ
勝手にしろ!勝手に太陽も高いうちから生物学的及び人道的過ちを犯してやがれ!ふんだ!
もう知らん!ごちそうさま!おごってくれてありがとう!テスト受けに来いよバーカ!」

どういたしまして・・・・・・あーあ、怒って行ってしまった。最後のほうは何か錯乱してたが。
去年までは一緒だったからなぁ、年末モテナイ軍パーティー。
友情は大事にしたいが、リムルルは残念がるだろうしなぁ。テレビ見て、「クリスマスって、
ケーキ食べてお菓子食べていーっぱいご馳走出るんだよね」とか何とか言ってたからなぁ。
まあ幸いレラさんもいて人手はあるから、その夢の実現も不可能ではないんだけど。
・・・・・・板ばさみ、ダブルブッキング一歩手前か。
こんなクリスマス、今まで経験したこと無いから複雑な気分だ。一応リムルル達に話すだけ
話してみようかな。
しかし、同棲か。
同棲・・・・・・か。どうなんだろうなあ。
今もカバンの中には、もうあとは仕上げを待つのみになったマキリの鞘が入ってる。
「初めてにしては上出来よ」って、レラさんも褒めてくれた。頭まで撫でられた。
自分としても、結構納得いくものが出来たと思ってるんだ。レラさんが教えてくれた
あの独特な魔よけの紋様をベースにして、リボンをつけたコンルのマークを真ん中に
彫りこんでみた。これは俺のアイデアなんだけどね。きっと喜ぶんじゃないかと思って。
作っている間意外だったのは、リムルルがあんまり詮索しなかったことか。どうやら
俺が仕事か何かを始めたんだと勘違いしている所があるみたいだ。プレゼントだとは夢
にも思ってないらしい。
カムイコタンではどうだったか知らないけど、さすがにこの時代にこれで食っていくのは
ムリあるな・・・・・・はは。
337名無しさん@ピンキー:2005/05/19(木) 10:34:03 ID:0VOl+my6
わーい。
続きが来てる!
コウタ良い奴だなぁ。
友達も素敵。

ただ、今時食券使わない大学の食堂は無いと思うよ。
338名無しさん@ピンキー:2005/05/20(金) 19:26:11 ID:r6hX2osg
>今時食券使わない大学の食堂は無いと思うよ。

よし、理由を言ってみるんだ。
339名無しさん@ピンキー:2005/05/22(日) 02:31:47 ID:LOC3LIhF
おごってくれてありがとうワロス
340名無しさん@ピンキー:2005/05/22(日) 11:05:48 ID:+VSOXJnZ
友人ワロス
341名無しさん@ピンキー:2005/05/25(水) 23:32:24 ID:OAt3fCWE
期待
342陸捨肆:2005/05/26(木) 22:50:23 ID:i3o0tFSb
12月23日

今日もまた、夢を見た。

始まりは今日も、カムイコタンのおうちの、ねえさまの夢。もちろん、ナコルルねえさまの。
ねえさまは今日も、わたしがにいさまのために鉢巻を作ることに賛成してくれる。
いろりの灰にすらすらと指で模様を描いて、こんなのはどうかしらって。
そのたびにわたしもとっても幸せな気分になる。ねえさまのすごさが身に染みる。
どんな事でもお見通しのねえさま。
いろりの火なんかより、ずっとずっと大きな温もりをもっているねえさま。
こうやって寄り添って、ぱちぱち爆ぜる火を見ているだけで幸せで。
ねえさまが大好きだ。わたしは今日も言った。
ありがとうって、ねえさまは今日もわたしの頭をよしよしって。
ずっとこのままならいいね。わたしはねえさまのお膝の上に頭を降ろす。
ねえさまは、そうね、一緒が良いわねって、わたしの頭をそっと撫でてくれた。
 
約束したもんね。ずっと一緒だって。
 
・・・・・・なのに、幸せを照らしていたいろりの火は消えてしまうの。
 
ふいに頭の下にあったねえさまの感触が無くなって、わたしは床にごつんて頭を打った。
くらくらする頭をさすりながら玄関の方を見たら、扉が開け放たれていた。
この後何が起きるのか、わたしはよく知っているんだ。
行っても無駄なの。
だって、扉の前まで駆け寄って、歩いていく後ろ姿のねえさまを見つけた途端、信じられ
ないぐらいの吹雪が突然、びゅうびゅう音を立てて部屋の中に吹き込んでくるから。
わたしの身体なんて軽々吹き飛ばされちゃって、部屋の壁に転がって止まるまで何もでき
ない。立ち上がることもできないで、痛いぐらいに吹き付ける雪の下を這って前に進む
しかない。こんなの追いつけっこない。
343陸捨肆:2005/05/26(木) 22:51:16 ID:i3o0tFSb
ねえさまは悲しいぐらいに真っ白な世界にみるみる消えて、黒い髪だけが辛うじて見えるだけ。
こんな雪の中、そんな格好で外に出たら死んじゃうよ。
わたしは叫ぶ。ねえさま、だめだよねえさま!ねえさまー、ねえさま!戻ってよ!!
でも無駄なの。口の中にまで飛び込んでくる雪と暴風に阻まれて、届かないから。
自分の耳にさえ聞こえない、弱すぎる声。声が大きいっていつも怒られるのに、こんな
時ぐらい役に立ったっていいのに。
そうやってもがいているうちに、わたしの身体の上にも、どんどん雪が降り積もってゆく。
目が痛い。ばしばしと飛んでくる雪に耐えられなくて、それでもねえさまの姿をどうにか
捉えて。
でも、これもやっぱり無駄。あるまばたきを境に、わたしの世界は夜だというのに白一色に
なってしまう。
痛みと寒さに耐えかねて、自然と流れた涙が閉じ合わせたまつ毛を一瞬に凍りつかせて、
まぶたを開くことが出来なくなるの。
恐くなる。目が見えないんだから。音はごうごうっていう風の叫び声だけだし、コンルに
助けを求めようとしても、声はその風に押し流されてしまう。どうにか視界だけでもと、
目をこすろうとしても動けない。だって冷たくて重たい雪の塊が、わたしの上にどっかと
腰を下ろしてしまっているから。手足の感覚なんて、とうに無くなってしまっていて。
感じるのは、雪の重みに背中がみしみしって言う音と、ごうごうっていう、聞くだけで
涙が出ちゃうような、恐ろしい嵐の叫び声。
そして、わたしの命の音。
今にも雪に押しつぶされて、風に覆い隠されて、手のひらの上の雪みたいに消えてしまい
そうな鼓動と、ひゅーっ、ひゅーっていう、斜めに開いた自分の口から漏れる苦しげな
息の音だけ。
わたしは死ぬんだなって、今日も。いっつも思う。
こんな雪の中に出て行ったねえさまにも、別の世界できっとすぐに会える。
そう思うと、こんな弱々しい、生きているのがやっとの呼吸の音なんてもう聞きたくなく
なってくる。何でこんなに苦しい思いをして、わたしは生きていなきゃいけないんだろう。
逆らえない、あきらめの気持ち。心と身体がゆるされて、どこかに消えてゆく心地の良さ。
344陸捨肆:2005/05/26(木) 22:51:56 ID:i3o0tFSb
にいさま、ごめんなさい。
ねえさま、ごめんなさい。
コンル、ごめんなさい。
みんな、みんな。ごめんなさい。
誰もゆるしてくれるわけが無いのに、そんなことに何の意味も無いのも知っているのに、
わたしはこうやってぶつぶつ謝りながら、もたげた頭を雪に埋めてゆくの。
わたしがこの時に感じる最後の感触は、もうひとしずくの涙。熱い、熱い涙。
熱くて、熱くて・・・・・・体中が熱くて、そしたら突然、雪が解けていくの。
重石が無くなった心臓が、強く強く脈打つ。心臓に集まって溜まっていた血が、一回の
鼓動でざあああっと全身に届いて、凍りついた身体がばらばらになりそうなぐらい。
ごうごうという鳴り止まない風の中で、わたしは我に返るの。
ずっと一緒だって言ったじゃないか。
そうだ、ねえさまを助けなければ、って。
ばちっと瞳を開き、ぐいと身体を起こして、玄関を睨みつける。
だけどそこに玄関は無い。遠くに消えたねえさまもいない。
代わりに、わたしは新たな絶望を突きつけられるの。
あるのは、焼け焦げた家の柱だけ。
ごうごうという音は風じゃない。辺りを燃やし尽くす炎の音なの。
変わり果てた世界。白い雪に包まれていた世界が、目を開けたら今度は
「白い炎」
に焼き尽くされているの。
汗が噴き出す。いやな汗。
気持ちの悪い音を立てて、背中の壁が外に向かって崩れて落ちる。ぎっぎっぎっぎぎぎぎ、
ずしん、ばたん、がらがら。って。
ぺたんと床に尻餅をついて、わたしは一度は奮い立った身体が一気に萎えるのを感じるの。
本当に恐い。信じられないぐらい。こんな経験、「二度と」したくないのに。
345陸捨肆:2005/05/26(木) 22:52:31 ID:i3o0tFSb
逃げなきゃ、っていつも思うの。だけどやっぱり動けない。壁が倒れて柱も無くなったら、
このおうちがどうなるかなんて誰でも分かる。分かってるなら見なきゃいいのに、わたしの
首はいつも勝手に上に曲がる。白く燃え盛る天井の方に。
それで、ああ、四隅を支える柱が燃え尽きそうだなあって、ぼうっと思うの。
そして、わたしは死ぬんだなって。ここでもそう頭によぎる。
思ったとおりに柱の表面が焼け落ち始めて、傾いた屋根からぼろぼろと火の粉が降り注ぐ中、
わたしはまた涙を流すの。景色が解けて、天井がただの真っ白な塊になって。
これなら恐くないかもしれない。きっと一瞬ですむだろう。押しつぶされて、炎を全身に
浴びて。
そう諦める。諦めかける。
いつも、いつも。
だけど風に混じって何か聞こえるの。わたしの名前を呼ぶ声が。リムルル、リムルルって、
男の人の声。それに気づいた途端、乱暴にわたしの身体は宙に浮いて、暗闇に飛び出すの。
そして外の地面に放り出されて、身体を打った衝撃を感じるのと同時に、ぐしゃって、
自分の後ろでわたしの家が潰れる音と地鳴りに驚くの。
日の暮れたコタンの中、最後に残っていたのがわたしの家。白い炎に焼き尽くされたコタンに
動く影は二つだけ。
それはチチウシを振り回して闘うにいさまと、白い炎に包まれた人のかたち。
その人のかたちをした炎の手には、先っぽの折れた刀。 
血だらけの刀。血だらけの。
とおさまの、血。
346陸捨肆:2005/05/26(木) 22:53:19 ID:i3o0tFSb
意識が遠のく。
視界がぐっと下がる。
背中が熱くしびれて、意識がすぼまって、夢も、現実も・・・・・・今まで生きた時間さえ、
わたしという形を保っている外側の、全ての境目が曖昧になってゆく。

そして、知る。

違う、知っているの。もうこれで三回目だから。四回目だったか。
ううん、もっと前から。ずっとまえからみてた。
しってたの。ずっとまえから。あのひから。

わたしは、にいさまとわたしがどうなるのか、しってるの。しってるんだよ。

「リムルル、逃げろ!来るんじゃないぞ!こいつはダメだ!早く!!」
しってるの。そんなのむりだよ。あのときもできなかったから。
「何してる!」
にいさまもしんじゃうよ。しんじゃうの。とおさまといっしょなの。
「はやーあ」
ほら。かたながささったよ。おむねに。とおさまといっしょなの。
「ああっ、ああああー、あぁー、あー」
にいさま、ちがでた。それでまっしろにもえた。とおさまみたいにたおれた。とおさまと
おなじかたち。にいさま、うごかなくなった。
しんじゃった。
でもしってたよ。こうなるの。
ちかづいてくるよ。しろいのが、ちかづいてくるよ。
にいさまがおとした、だいじなだいじな、「ちちうし」ひろいあげて。
もうかたほうのてに、かたなのさきがおれたのをもった、しろいのがちかづいてくるよ。
みんなしんじゃったよ。もう、だれもたすけてくれないよ。
わたしはどうすればいいの?しってるよ・・・・・・
・・・・・・しってるの?
347陸捨肆:2005/05/26(木) 22:53:55 ID:i3o0tFSb
わたし――
「リムルル」
しろいのが、わたしのまえにたって、わたしのなまえをよんだ。
どこかできいたことのあるこえだよ。しってるよ。このひとは――
「これは、この刀は・・・・・・チチウシは、誰のものだ」
ねえさまはいないし、ねえさまのとうさまもいないから。
あいぬのせんしはわたしだけだから、わたしのです。
「お前の物、と言うのか」
そうです。
「いいや、違うな・・・・・・違うんだ。

・・・・・・それは、私の物なんだよ」

・・・・・・白い炎の怪物が、振り上げた二本の刀をわたしのおでこに振り下ろすところで
夢は終わる。

今朝も、今も・・・・・・そうだ。
いつの間に布団を蹴り上げて、抜け出したのかなんて知らない。
どこの辺りから目が覚めていて、いつから部屋の隅に置かれいていたチチウシを手にして、
こうして震えているのかさえ分からない。
ただわたしは、生々しすぎる死を連想させる映像の連続の恐ろしさに叫びも上げられない
まま、不安そうに傾いたコンルが運ぶ穏やかな冷気と、頬を舐めてくれるシクルゥの舌の
感触に何とか呼び起こされて、冷たい空気をひゅうひゅうと吸っては吐いている自分に
やっとの事で気づくの。
見回せば、しわくちゃになったシーツ。カゴの中のみかんの山も崩れている。全部わたしが
やったんだ。うなされて。
348陸捨肆:2005/05/26(木) 22:54:28 ID:i3o0tFSb
最近、毎日見る。この夢。
わたしの夢。それは、わたしが作り出した想像。
「違う・・・・・・」
知ってる。覚えてる。
わたしが生きてきた風景の中で一番恐ろしかった風景、それが夢には混じっている。
血と、恐ろしい白い炎に攻め立てられ、全てを失ったあの日の記憶。
「あああぁ」
壁のほうを向いて、子供みたいに泣いた。カーテンも開けずに。
泣かないって、何度も約束してるのに。
それでも涙が溢れて止まらなかった。

たしか、こんなだった。

とうさまが死んじゃった日も、こんなだった・・・・・・
349陸捨肆:2005/05/26(木) 22:55:01 ID:i3o0tFSb
12月23日 午前

リムルルに何が起きていたのか、シクルゥが全部教えてくれた。
恐ろしい夢に心を蝕まれていたなんて・・・・・・しかもここ数日に渡って。
あの子の優しい性格と過去、それに今の状況を考えれば、すぐ予測はついたはずだった
のに。情けない話ね。あんまり普段どおりに振舞うものだから、戦いのことばかり頭に
あった状態では全然気づきもしなかった。一方を気にすると、もう一方が見えなくなって
しまうこの性格、身を滅ぼす種になるわ。気をつけないと。
だけど悔やんでる時間は無いわ。これからはちゃんとあの子を支えてやればいいだけの話。
・・・・・・リムルルを苦しめる夢。考えるにその原因は3つ。
まず、あの子を襲った恐ろしい過去。
次に、現在の安定した生活。
そして、この時代に来た理由・・・・・・ナコルルを見つけ出せるのかという、未来への不安。
この3つが絡まって気が休まる暇も無い。きっとそんなところね。一度全てを失いかけて
いるんだから、この幸せがいつまで続くか不安になるのも無理ないわ。
でもこの中で、リムルルを苦しめる元凶になった部分――過去に関しては私にはどうしても
やれない。リムルルが乗り越えなければならない事だから。過去に蹴りをつけられるのは
自分だけだものね。
現在だってそう。あの子が自分の居場所と一緒に生きる人を見つけかけている今、その家族
と心からの信頼関係を築いてゆくのもリムルルにしか出来ないこと。
だけど、最後の一つは私が何とかしてあげなきゃいけない。
そう、ナコルル。
結論からして、リムルルにはナコルルは見つけられない。どんなに探し回ろうと。
仮にリムルルが、ナコルルの気配を確実に感じ取れるぐらいに強く成長したしても。
なぜならナコルルがいるのは、誰も近づけない神聖な森のずっと奥だから。
その場所を知っているのは、私が知る限りシクルゥとママハハだけ。
350陸捨肆:2005/05/26(木) 22:55:30 ID:i3o0tFSb
情けない話だけど、私にだってよく分からない。この世に肉体を得たときにはもう、戦士と
しての宿命だけに突き動かされていた私は、無意識にチチウシに誘われて、シクルゥと一緒
にコウタの家に程近いどこかの雑木林の中にいたから。
だから今も、あの娘の状態が芳しくないというのが、空気や地面から伝わってくる程度。
だから一番最初にリムルルと出会ったばかりの頃、「会わせてあげる」なんて言ったのは嘘。
会わせて欲しいと何度かせがまれても、適当にお茶を濁し続けるしかなかった。
だけどリムルルがあの子を求めるように、私だって気になっている。
もしもナコルルの身体が、既に悪しき輩の手の中だったらなどと考えると、それこそ私
まで眠れなくなりそう。しかもそれは、決して有り得ない話だとも言い切れない。これ
だけ探しても、まだアイヌモシリの崩壊を狙う輩の姿を捉えられていないのだからね。
だから今朝、シクルゥに思い切ってお願いした。
この世を繋ぐ最後の鎖になっている、ナコルルと面会することをね。
シクルゥも最初は拒んだ。ナコルルの周りに邪な気配は感じられない、だから行っても
時間の無駄でしかないって。
だけどリムルルの事が頭によぎったのかしら、さっき突然、リムルルのための薬草を摘んで
いた私の後ろから、シクルゥがついにその森に足を踏み入れることを許してくれた。
曰く「クリスマスの贈り物」だそうよ。まじめなシクルゥがこんな冗談を言うなんて、
何だか少し嬉しかった。
リムルルに教えたら、どんな顔するかしら。喜ぶかしら。喜ぶわよね、絶対に。

いつかナコルルが蘇ったとしても、私の事・・・・・・忘れないでいてくれるかしら。
351陸捨肆:2005/05/26(木) 22:55:58 ID:i3o0tFSb
12月23日 お昼前

最近少し、リムルルの様子がおかしいような気はしていたんだ。

時々ため息をついたり、俺の作業を眺めながらぼーっとしてそのまま眠りこけたり、昨日
俺が学校に行ってた間何してたのかを聞いても、「よく覚えてない」なんて、そんなやる気
の無い小学生みたいな事を言うから心配してたんだ。
そんな昨日が明けて、今朝。
俺達が修行から戻ると、いきなりコンルが俺の顔面まで吹っ飛んできたんだ。その後を
追って何事かと部屋に入ると、布団がぐしゃぐしゃに蹴り飛ばされていて、みかんのカゴ
が倒れて、中身が無造作に転がっていた。
そんな部屋の隅っこでリムルルは、丸めた背中をこっちに向けて静かに泣いていた。
扉の音にも、足音にさえ気づかなかったらしくて、慌てて後ろから肩を揺すると、リムルル
はびくっと肩を跳ねさせた。
そしてすっかり血の気が引いた、涙と鼻水に濡れた真っ白い顔をゆっくりこちらに向けると、
びしゃびしゃになった大きな瞳で俺を食い入るように見つめてきたんだ。
そっくりだった。
コンルの記憶の中で見た、幼少の頃のリムルルに。
あの不気味な怪物に父親を、そして未来さえ奪われそうになったあの日のリムルルに。
声をかける事さえためらってしまうぐらい、リムルルはぼろぼろだった。
レラさんがいてくれて良かった。すぐに介抱を始めてくれて、俺は指示に従ってお湯を
沸かしたり、部屋を右往左往することしか出来なくて。本当にだらしがなかった。ドラマ
で見るような、あたふたするばかりで、ここぞで役立たない男の典型例だったんだ。
そのレラさんは、リムルルに飲ませるのだという薬草を取りにシクルゥと出かけている。
お昼頃にはと言っていたから、きっともうすぐ帰ってくるだろう。
352陸捨肆:2005/05/26(木) 22:56:30 ID:i3o0tFSb
俺はコタツの中でレラさん達の帰りを待ちながら、静かに布団の中で眠っているリムルルの
目覚めを待っていた。コンルも俺の傍らから動こうとしない。
こち こち こち こち
普段聞こえもしない時計の音が、やたら耳につく。
「リムルル・・・・・・」
名前を呼んでみる。当然返事は無い。熟睡しているんだ。
命の心配は無いとレラさんは言っていたし、それはそうなんだと思う。
だけど改めてリムルルの寝顔を見ていると、その小さな口から漏れる吐息はあまりに儚なく、
何も聞こえない。
こち こち こち こち
冷たく機械的な黒の秒針が、規則正しくまた一回りした。
「リムルル・・・・・・」
呼んでも答えない。それは分かってる。それでも不安なんだ。
こち こち こち こち
だって時計は動いているし、コンルは薄曇の空から降りてきた光を身体の中に捕まえて、
ちゃんと部屋の中にきらきらと照り返している。
「リムルル・・・・・・」
なのにリムルルだけが、切り取られたように静かで動かないから。
こち こち こち こち
時間に置き去りにされて、リムルルだけが前進するのを止めてしまっているようだから!
353陸捨肆:2005/05/26(木) 22:57:01 ID:i3o0tFSb
「リムルルッ?おいっ!」
こちこちこちこちこちこちこっ・・・・・・
おもむろに立ち上がって、時計から電池を引っこ抜いた。そして耳をそばだてる。

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・ぅ・・・・・・・・・・・・すぅ

微かだった。微かだったけど、確かにリムルルの寝息が俺の耳に届いた。
はぁーっと大きなため息が出る。


「良かった・・・・・・あぁ、コンル、ごめん」
リムルルの枕元に座り込んだ俺の前にコンルが近づいてきて、おでこにこつんとぶつかって
きた。「めっ」をされた気分だ。
「ごめん。心配になっちゃってさ。コイツあんまり静かだから」
それに寝顔があんまりきれいだったから。なんて。

・・・・・・明日はついにクリスマスだ。
天気予報じゃ、もしかしたら雪が降るかもしれないなんて言ってる。生粋の道産子のリム
ルル達にしてみればそう珍しいものじゃないかもしれないけど、やっぱりクリスマスには
雪がよく似合うし、もしも積もったら次の日も楽しいだろうなぁ。
プレゼントだってあるんだ。丹精込めて作った、俺特製・メノコマキリの鞘。そうだな、
名づけて「リム'n'コンルSP(りむんこんるすぺしゃる)」!
・・・・・・いやー俺のネーミングセンスには、自分でもぶっ倒れそうになる。
ご馳走だって作ろうな。でっかいケーキを奮発して買おうか。たまにはお酒を飲んだって
かまやしない。リムルル、俺のビールを見ていつも飲みたがってたもんな。そうだな・・・・・・
シャンパンにしよう。軽いヤツ。リムルルが酔っ払うとどうなるんだろうな。レラさんも
興味はあるな。
354陸捨肆:2005/05/26(木) 22:57:36 ID:i3o0tFSb
どうだ?とにかく楽しいんだ。クリスマスって。
みんなでわいわいやって、プレゼント渡して、窓の外もきれいな白に染まってて、何だか
ワクワクするし、それなのに静かで厳かな気持ちにもなるんだよ。特別な気分がするんだ。
それにもうひとつ。
俺、リムルルに言う事があるんだよ。言わなきゃいけない事が。
コンルの記憶の中で、心を閉じかけてた小さい頃のリムルルを助けたナコルルさんの言葉
よりも、もっとずっと強くリムルルを守ってやれるような言葉を。
だから、だから――
「リムルル、しっかり寝ろよ?恐い夢の事なんて全部忘れちゃえるぐらい、明日は楽しい
んだからな」
少しだけ汗ばんだリムルルの手を布団の中で握って、俺はどういうわけか祈る。

祈るしかない。



12/24


12/25


(以下焼失)


リムルル第五章 「美しき家族の肖像」 おしまい
355名無しさん@ピンキー:2005/05/26(木) 23:08:27 ID:GzcrFdUV
なぁぁにがあったぁコーター!

GJ
356名無しさん@ピンキー:2005/05/27(金) 00:40:00 ID:yjmgJVtS
焼失!?なんだそりゃあー!!!

64たん天才!
357名無しさん@ピンキー:2005/05/27(金) 10:42:40 ID:KivnuKcW
すげー引きだ
続きはまだか!!
358名無しさん@ピンキー:2005/05/27(金) 22:55:50 ID:BQ0qwDZY
ロウソクの火で焼けちゃいますた
359名無しさん@ピンキー:2005/05/27(金) 23:19:01 ID:8AOqD+yE
バイオの日記みたいな終わり方で怖かったぜ…
360名無しさん@ピンキー:2005/05/29(日) 00:37:30 ID:CjSFJhKC
12/25


かゆ
     うま
361名無しさん@ピンキー:2005/05/29(日) 01:38:00 ID:S2UDtAuc
なんで最近日記調なんだろうかと思いながら読んでたら、
このための布石だったのか…
ヤラレタ…
362陸捨肆:2005/05/29(日) 20:29:58 ID:eIqD8hKY
こんにちは。64こと陸捨肆です。五章は少し短かったですが以上で終了です。
いつもたくさんの感想ありがとうございます。ちょっとレスさせて頂きます。
待望の新規の職人さんもいらっしゃって嬉しいですね。

>229氏
うはー、何というスピード感か。
もたもたして先に話を進められない自分には真似できない領域です。
個人的には少し続きが気になります・・・・・・が。もしも続きがあるのなら、
保管庫に直接預けるというのはどうでしょう?パート1は既に保管済ですし。

>291氏
蛮行!陵辱!!情け無用のGJでした。

>337氏
>ただ、今時食券使わない大学の食堂は無いと思うよ。
去年まで通っていた自分の大学には食券がありませんでしたw
おそらく生徒数が少なかったからでしょうが。

>355.356.359氏
ビビって頂けて光栄です。

>361氏
ヤラれて頂けて光栄です。そしてご名答。

さて、前にもどこかで書きましたが、六章からはやっと中盤〜後半です。
五章でほのめかした伏線要素も、ぼちぼち回収の時期です。
新キャラも、もしかしたらあるいは・・・・・・出ます。さて誰でしょう。なんて。
まあこんな内容ですから、実はこの五章が潮時かとも思っていたのですが、
読んでくれる方がいらっしゃる限り頑張りたいです。まだ終われんのです。
次まで例の如く間が開きますが、気長にお待ちくださいね。
363名無しさん@ピンキー:2005/06/01(水) 00:00:10 ID:cT+qJzDU
家に放火でもされるのか・・・?
364名無しさん@ピンキー:2005/06/02(木) 10:47:34 ID:kTgkpg9e
炎邪降臨と予想
365名無しさん@ピンキー:2005/06/02(木) 11:26:01 ID:my+v4fnX
炎邪×兄様・・・ハァハァ
366名無しさん@ピンキー:2005/06/02(木) 20:52:23 ID:l/IxjNDa
消失って…うわー! すごい引きだ。

>>362 いや、こんなすごい引きの貴方のほうが情け無用のGJです!
続きを楽しみにお待ちしております。
367名無しさん@ピンキー:2005/06/03(金) 17:49:22 ID:sPXilVmm
夢路タン・・・
368新人567:2005/06/06(月) 01:56:57 ID:aoSQHrcy
寒い冬の中、自分は一人の女性を助ける。だがその女性はこの時代から来たのではない。
信じられないが彼女がやってきたのは「現代」でも「未来」でもない。


「サムライスピリッツ外伝 もうひとつの物語」
第二話 「紹介」




「過去の時代だって?」
寒い外から自宅のアパートに戻り、改めて先程、彼女が言った言葉を聞き返す。
夕食を食べながら(彼女はさっき自分が買って来た氷と一緒に食べているが)彼女の話を聞いている。
(氷を主食にしているっていうのも実際見ていると少し違和感があるが・・・)
「はい。ある女性と共にこの時代にやって来たのです。
先程周りを眺めていたのですが文明、文化、環境、明らかに私達の時代よりもはるかに進んでいますね。」
ここまで誉められるとこの時代の自分としては少しだけ鼻が高い。
「君の時代っていつの時代なんだ?」
玉子焼きを口に頬張りゆっくりと食べながら彼女に質問する。
「江戸幕府が開かれて150年と少し。それくらいの時代に私は存在します」
氷をおいしそうに食べながら答える彼女。このまま見慣れると逆に違和感がなくなってしまいそうだ。
369新人567:2005/06/06(月) 01:57:46 ID:aoSQHrcy
しかしそうなると一つの疑問が浮かんでくる事になる。我慢出来ずに俺は尋ねる。
「さっき君は氷の精霊だと言ってたね。氷を食べてる君の姿を見ているとまるで共食い・・」
ポカリ・・・
「いてっ!」
最後まで言おうとした瞬間、頭上から小さな氷が落ちてきた。そんなに痛くは無かったが、反射的に声を上げてしまった。
「それは言わない約束です。分かりましたか?」
「ご、ごめん・・・」
(い、今のは謝るべき所だったのか?おかしくないか?)
俺の他にも絶対に共食いって同じ発言をしそうな相手が居ると思うのだが・・・
だが、頭上から氷を落とせる人間なんて存在しない。
やっぱり彼女は本当に人間じゃなさそうだ。
だけど、ただの精霊でもなさそうな気がする・・・
「・・・」
「な、何だよ、まだ怒ってるのかよ?悪気があって言ったんじゃないから・・・」
「その頬の傷はどうしたのですか?」
370新人567:2005/06/06(月) 01:58:22 ID:aoSQHrcy
傷と言われてハッとした。そういえば買い物の帰り道に変な奴に襲われたんだっけ・・・
咄嗟に逃げたから大丈夫だけど、いきなり斬られて殺されそうになったんだっけ。
「何、対した事無いよ。軽い怪我だからさ」
「大丈夫ではありません。私の為にこの寒い中を出掛け、くしゃみをして、怪我までして」
後で思ったがやっぱりでバイクで行けば良かったと後悔している。
近場だから歩いてでも大丈夫だと思った自分の考えが少し甘かった。
そう言って彼女が俺の頬に手を当てる。冷たくてひんやりする。
しかし次の瞬間みるみる傷が癒えて行く。彼女の手が光り傷跡を徐々に消していく。
数十秒後には完全に消えてしまった。
「ななな・・・・」
あまりにも何が起こったか分からず声にならない自分がいた。
しかしそれを平然と眺める彼女。
「どうしましたか?」
「き、君は一体何者なんだ?」
「だから、先程も言った通り氷の精霊で、人間ではありません。やっぱり今の力をみて驚かれましたか?」
これは本当に現実なのか?俺が長い夢を見ているのだろうか・・・
371新人567:2005/06/06(月) 01:58:53 ID:aoSQHrcy
「あっ、そう言えば申し遅れました。私の名前はコンル。呼び捨てで呼んでもらって構いませんから」
「コンル?君の名前はコンルって言うのかい?」
「はい。正確には(コンル)と言う名前を付けてもらったというべきでしょうか」
「誰に?」
「勿論、私の主であり友達であるリムルルと言う女性です。」
コンルと名乗る女性がそう、自己紹介する。リムルルと言う女性が彼女の名付け親か。
勿論、リムルルって名前に心当たりがあるわけがない。主であり友達か・・・
「ところであなたの名前を教えてもらえないでしょうか?
やっぱり名前で呼び合ったほうが会話も行いやすいですから」
いざ、こう面と向かって自己紹介をお願いされると照れるものだが答えないわけにもいかない。
「俺の名前はユウキ、「勇敢な気持ちを持って欲しい」と言う意味を込められて親が付けてくれたんだ」
「それではユウキさんと呼ばせてもらいますね」
わざわざ敬称で呼ぼうとするコンルを見て、苦笑いしながら手を横に振る。
「別に呼び捨てで構わないんだぜ。そう「さん」付けされるほどでもないし・・・」
「いえ、ユウキさんを呼び捨てにする事は出来ません。礼儀みたいなものがありますからどうか「さん」づけで・・・」
「まあそこまで言うのならコンルに任せるけど」
そう言って「わざわざすいません」とぺこりと礼をするコンル。
372新人567:2005/06/06(月) 01:59:25 ID:aoSQHrcy
簡単な夕食を終え、これからの事を考える事にした。
「帰るあてがない以上、リムルルって女性に会うまでの間、俺の所で泊まっても構わないよ」
「えっ?」
突然の言葉に驚いたのはコンルであった。
「しかし、それではユウキさんの家族にご迷惑が・・・」
「いや、心配はいらないよ。うちの両親は共働きで今ここにはいないから、
コンルに分かりやすく言うなら今は「江戸」で働いているからさ」
俺はそういってコンルの肩を叩きながら「大丈夫」だと念を押した。
「分かりました。それではお言葉に甘えさせて頂きます。
不思議ですね。私が精霊だと知ってもこのように優しく接してもらえるなんて」
「まあ、慣れってやつかもしれないな」
「そんなものなのですか?」とコンルが苦笑いをしていると同時に携帯電話が鳴る。
「きゃあっ?」
その突然の音にコンルが思わず悲鳴を上げる。
「ああ、ごめんごめん。これは携帯電話と言って簡単に言うと遠く離れた相手と話が出来るんだよ」
あまりの出来事に呆然とそれを見詰めているコンル。
俺はそのまま電話の相手が誰なのかを確認する。そして思わずにやりとする。
373新人567:2005/06/06(月) 01:59:54 ID:aoSQHrcy
(コウタ先輩だ)
コウタ先輩。自分の一つ上の先輩で子供の頃に良く遊んでもらった思い出がある。
中学生の時に自分は引越しで一度は他県に離れたが、大学の時再び戻ってくる事になる。そして同じ大学で先輩と再開する事になる。
しかしコウタ先輩には致命的な弱点があった。携帯電話を持っていない為自宅からしか掛けられないのだ。
だから、コウタ先輩が電話を掛ける時は必ず自宅と言うことになるのである。
こんな時間に掛けてくるのも珍しいと思いながら電話を取る。
「はい、もしもしどうしたんですか先輩?」
「ユウキ、おまえは信じないかもしれないがもし、気を失った女性を家に連れて来たらおまえはどうする?」
突然の言葉に一瞬驚いたが話を聞いているうちにコウタ先輩の所に可愛らしい女性がいて
その女性をどのように介抱すればいいのか悩んでいるみたいであった。
(コウタ先輩もついに彼女を作るきっかけが出来そうだな)
心の中でにやにやしながらも、状況を色々と聞き自分なりの助言をコウタ先輩に伝える。
「そういえば女性で思い出したのですが実は俺の所に・・・」
コンルと言う女性がいると伝えようとした瞬間、コンルがそれを止める為に俺の肩を叩く
(ユウキさん。私の事はあまり他人に言い触らさないで下さい。私の存在が混乱を招く原因になるかもしれませんから)
小声でコンルが答える。
「俺の所にどうしたんだ?」
「い、いえ俺の所に雪が降り始めたんです。大雪で困りますよ。本当に・・・」
自分でも物凄く下手な言い訳だと感じていたが既に遅かった。
「何訳のわからないこと言ってるんだ?天気予報見ただろ。今日は全国大雪だぞ。
それに女性と全然関係ないし」
「そ、そうですね。ははは・・・」
「変なユウキだな。まあ助言ありがとな。今から彼女を介抱してくる」
「その女性を介抱した後の良い展開を期待していますよ」
「大きなお世話だっつうの」
374新人567:2005/06/06(月) 02:00:36 ID:aoSQHrcy
「悪いな、何も考えずにお前の事を喋ろうとして」
「いえ、わざわざ私から無理を言ってごめんなさい。それに私は本来この時代には存在していないのですから」
「まあ、俺から見ればコンルも以外とこの時代に馴染めるかも知れないぞ?」
「そ、そうですか?」
「まあ、明日色々とこの時代について教えるよ。今日はもう遅いからそろそろ寝よう」
そういって俺は押入れからコンルの分の布団を取り出す。
時々友達が遊びに来るから予備があって助かったと感じる。
だが、最後の最後でやっぱり彼女はとんでもない事を口にするのだった。
「この姿で眠るのは生まれて初めてですね」
「へっ?」
375新人567:2005/06/06(月) 02:01:06 ID:aoSQHrcy
だが、この時もっととんでもない失敗をしている事に俺は気付いていなかった。
簡単な事である。


コウタ先輩にコンルの存在を口にしなかった事。



だが、全ての真実に気付くのは最後の最後である事はいうまでもなかった。
376新人567:2005/06/06(月) 02:01:59 ID:aoSQHrcy
今回はもう一つ小説を投稿します。
狂死郎と阿国です。
377新人567:2005/06/06(月) 02:02:36 ID:aoSQHrcy
千両狂死郎。江戸の町の歌舞伎世界で彼の名を知らぬものはいない。鬼の舞を極めた為に、羅将神ミヅキ達に狙われる事になるが死闘の末この野望を打ち砕く。
その時、ミヅキに支配されていた美州姫を救う事になる。
舞を極め相方を捜し求めていた狂死郎にとって運命とも言える美州姫との出会いはここから始まっていた。



サムライスピリッツ「世話女房」



「狂魔王の声が止んだ。自らの考えで動ける。私は自らの神通力を過信し、逆に手のひらでおどらされてしまったのか」
ミズキから解放された美州姫。しかし操られていたとはいえ自分の犯した罪はあまりにも大きかった。
そこで狂死郎が彼女に助言をした。
「そこでじゃ、お主の罪滅ぼしにふさわしい事を教えてやろうぞ。
見た所、お主なかなかの美人。これからは阿国を名のり、共に舞い、人々に歌舞伎のすばらしさを広めるのじゃ」
「わ、私が・・・?」
378新人567:2005/06/06(月) 02:03:07 ID:aoSQHrcy
突然の言葉に驚いている美州姫であったが真面目に答える狂死郎の言葉に徐々に引き込まれていくのであった。



半年後、阿国と名を変えた美州姫は狂死郎の予想以上に美しくまた華麗に舞を舞うようになった。
これ程の短い時間で舞を極められる者は狂死郎一座の中でもそうそういるものではない。
阿国は狂死郎に大きな感謝をしていた。返しても返しきれない恩がある。
ある時、自分の部屋の中で阿国は一つの決断をしていた。今夜あの人に自分の思いを伝えよう・・・


狂死郎一座のほとんどが寝静まった夜。阿国は狂死郎に「今宵の夜中、自分の部屋に来て欲しい」とお願いをした。
窓側から見える景色は満月の光に照らされてうっすら輝いて見えている。
阿国がそっと狂死郎の来る時間を待っていた時であった。戸を叩く音が聞こえてきた。
「阿国、入っても良いか?」
狂死郎であった。
379新人567:2005/06/06(月) 02:03:38 ID:aoSQHrcy
そして、狂死郎が戸を開ける前に阿国自身から待っていたかのように戸を開ける。
少し緊張した様子で阿国が自分を見つめている事に狂死郎が気付く。
「狂死郎様。阿国はずっと、狂死郎様がここに来るのを今か今かとお待ちしておりました」
「しかし何故このような夜更けにわしを呼んだのじゃ?明日でも良いのではないのか?」
そもそも、何故この時間に狂死郎を呼んだのか、皆に聞かれたくない事でもあるのだろうかと本人は想像していた。
しかし阿国は首を横に振り、意を決意したように狂死郎に口を開く。
「操られていたとはいえ、かつての私はこの時代を壊し、罪のない人間を殺し、許されない罪を繰り返しました。
しかし狂死郎様は私に新しく生きる道を与えて下さいました。
何のとりえも無い私に歌舞伎の舞を教え、人々を和ませる歌舞伎の舞を踊れるようになれたのも、全ては狂死郎様のおかげです」
狂死郎は黙って聞いていた。阿国の舞は狂死郎をも驚愕させるほどの美しさを持っていた。
さらに生まれながらの美人の顔。
だが、その舞は決して並大抵の努力で身に付くものではない。
狂死郎の舞の指導は父親譲りと言われているぐらい厳しい指導であった。
狂死郎一座の仲間達だけではない。勿論阿国に対しても何度も罵声を浴びせた事もある。
何度も阿国が泣いている姿を目撃した事だってあった。
自分だって好きで人に怒鳴りたいわけではない。
しかし、狂死郎にとって「歌舞伎」とは命と同じくらい大事なものであった。
父親譲りの「歌舞伎」と「舞」の誇りが狂死郎にはある。
その為に狂死郎も歌舞伎の指導となると人が変わってしまうのだろう。
「阿国よ。お主がそこまでの技量を身に付けたのはワシではない。
ワシの指導に最後まで従い、自分自身に負けずに努力をしたお主自身であるぞ。
ワシは只おまえに必要最低限の指導しか教えてはおらぬのじゃからな。
それにとりえがないと言うのはお主に自身が無いからそう思い込んでしまうもの。
380新人567:2005/06/06(月) 02:04:11 ID:aoSQHrcy
この狂死郎の名に誓ってもよい。今のお主は歌舞伎のとりえが十分にあると・・・」
狂死郎の激励の言葉に阿国は心の中で感謝の気持ちを抱いていた。勿体無い言葉。
そして阿国が意を決意して自分の気持ちを狂死郎に伝えようとした瞬間、狂死郎の口から意外な言葉が飛び出してきた。
「阿国よ、これからはワシの元から離れ自分自身の力で舞を広めてみてはどうじゃろうか?」
「!?」
「ワシから教えられる事は全て教えたつもりじゃ。後はお主自信の力で新たな歌舞伎の道を探してみてはいかがであろう?
勿論今すぐにとは言わぬがいずれ・・・」
ふいに狂死郎がそこまで言った瞬間であった。阿国の表情が徐々に暗くなって行くのが分かった。
「・・・です」
「?」
一瞬、狂死郎は阿国が何を口にしたのか聞き取れなかった。
だが阿国が自分の胸に飛び込んできた瞬間、目に涙を浮かべながら狂死郎に叫んだ。
まるで動物が飼い主に懐く様な優しい気持ちで。
「いやです。わたくし、狂死郎様の元から離れるのは嫌でございます」
「阿国・・・?」
「私は、私はずっと狂死郎様の傍にいたいと思っております。今でも、そしてこれからも。
一人で歌舞伎なんてやりとうもありません。狂死郎様のいない歌舞伎になんの意味がありますでしょうか?
何処へも行きたくありません。ずっと傍に居たいと思っております」
狂死郎はこの時初めて阿国が自分に恋をしている事を知った。正確に考えるならば、これは只の恋ではなくそれ以上の気持ち・・・
「だから、だから私は狂死郎様のお世話をしてあげたい。ずっとお傍に居る為にあなたの女房になりたいと決意しています。あなたの世話をする女房、そう、あなたの薙刀と同じ武器銘である・・・」
381新人567:2005/06/06(月) 02:04:43 ID:aoSQHrcy
「世話女房・・・」
二人は同時に言った。ここまで阿国の決意を言われてしまっては、狂死郎にはもはや返す言葉も思い付かなかった。
阿国の瞳から涙がこぼれ落ちていくのが見えた。阿国は狂死郎の返事を待っていた。
もしも断られてしまったらもう自分は生きていく気持ちを失ってしまうかもしれない。



「阿国よ・・・」
「は、はい・・・」
緊張している阿国に対して狂死郎は落ち着いた表情で阿国に話し掛ける。
「かつてのわしは狂死郎ではなく狂志郎と言う名であった。父の歌舞伎を超える為にわしは狂死郎の名に恥じぬ様、努力を惜しまなかった。
だが父の死と共にわしの名は狂死郎と改めた。父からは「お前はこの父を遙に超えた」と教えられた」
阿国は知っていた。今の狂死郎の名前は前座長「狂死郎」の名を取って生まれたものである事を。
そして狂死郎が口癖のようにこの後何を言い出すかも分かっていた。
「じゃが、わしは今でも剣技と歌舞伎において父親に勝てたと感じた事は一度も無いのじゃ
まだまだ新しい舞が何処かに眠っているのではないかと考えているくらいなのじゃ。
鬼の舞以上の舞が・・・」
今でも父親を追い続ける狂死郎。息を吸ってゆっくりとそれを吐き出す。そして落ち着いた表情から真剣な顔で阿国に言う。
「阿国よ。父親以上の歌舞伎を身に付けるためにわしに力を貸してくれぬか?
おまえが望むのであればもう一つの「世話女房」としてわしのそばにいてもらいたい・・・」
「き、狂死郎さ・ま・・・」
それは事実上の狂死郎が阿国に対する返事の答えでもあった。
その言葉と同時に一人の女性が涙をこぼしていた。阿国である。
382新人567:2005/06/06(月) 02:05:11 ID:aoSQHrcy
その涙は自分の意志では止められなかった。狂死郎の返事は阿国の心を動かすほどに十分過ぎる一言であった。
突然の阿国の涙に狂死郎も戸惑いを隠せなかった。落ち着かせるために阿国を抱きしめようとした。
しかしその必要はなかった。
「狂死郎様・・・」
狂死郎が動く前に阿国から狂死郎を抱き締めたのだ。
「阿国・・・」
阿国の体の匂いが狂死郎の神経を刺激する。
思わず勢いで阿国をその場に押し倒してしまう。
突然、狂死郎がとった行動に阿国も一瞬戸惑ったが嫌な顔一つする所か優しそうに狂死郎に答える。
「狂死郎様、慌てなくても阿国は何処にも行きません。その代わり優しくしてくださいね」
「すまぬ阿国・・・」
狂死郎は自分の行為を恥じた。女性に対してここまで理性を失ってしまったのは阿国が最初である。
だが、阿国以外の女性に対して理性を失う事は二度とないだろうと感じていた。
恥ずかしさを隠しながらゆっくりと冷静を取り戻す。
狂死郎は阿国の唇と自分の唇を合わせる。
決して上手いと言うわけではないが狂死郎なりの行為に阿国の表情は次第に赤みを増してきた。
「狂死郎様・・・阿国は、狂死郎様をずっとお慕いしたいと思います。」
383新人567:2005/06/06(月) 02:05:50 ID:aoSQHrcy
月の明かりだけが二人の姿を映し出す。今宵は長い夜になりそうだと狂死郎は思った。
お互い着ている衣装を脱ぎ、生まれたままの姿で見詰め合う。
阿国と出会う前の狂死郎の好みの女性は「ナイスバディでセクシーダイナマイツの欧米人」と仲間達に話していた。
だが、阿国にそれを口にした瞬間、間違いなく阿国の悲しむ顔が想像出来てしまうので狂死郎は阿国にだけは黙っていた。
今からして思うと何故欧米人にこだわっていたのかは自分でも分からない。
阿国を大切にすると心に誓った今、それは過去の話だと狂死郎は自分自身に言い聞かせた。
「あ、あの・・・狂死郎様」
あまりにも狂死郎が阿国の裸体の姿を見つめていた為か阿国が困ったように狂死郎に尋ねる。
「あんまり見られると私も恥ずかしいです・・・」
狂死郎としては考え事をしてただけなのだが阿国から見れば狂死郎が自分の体をまじまじと見つめていると考えていたのだろう。
阿国の一言にようやく我にかえった狂死郎。現在の状況に集中出来ていない自分を恥ずかしく感じた。
「今宵は二人だけの舞を披露しようではないか。これこそまさに「裸の舞」誰にも真似出来ぬであろう。
わしとお主だけしか知らぬのじゃからな」
あまりにも狂死郎らしい例えだと苦笑しながら阿国は「はい、狂死郎様」と返事を返した。
先程は慌てて阿国を押し倒してしまったが今は違う。
風邪を引いた子供をゆっくりと寝かせる母親のように狂死郎はゆっくりと阿国の体を仰向けに寝かせる。
そして互いの愛を再び確かめ合うかのように口付けを交わす。
狂死郎も阿国も性行為は始めてであるが口付けを交わす事に関してはこれが初めてではない。
384新人567:2005/06/06(月) 02:06:19 ID:aoSQHrcy
歌舞伎の舞台では「永遠の愛を約束する男と女の役柄」を演じる事だってある。
だから二人にとってはさほど難しいことではなかった。
大きく違うのは「役柄」ではなく「本当に結ばれる二人」なのである。
しばらくすると狂死郎はゆっくりと阿国から唇を離す。その時阿国の瞳からゆっくりと涙がこぼれ始めていた。
「ああっ、狂死郎様」
その涙を見て狂死郎はにやりと笑いながら阿国をからかう。
「阿国よ、まだ泣くのは早いのではないか?泣くのは最後の最後であるぞ」
「嬉しいのです。狂死郎様とこのように結ばれるのを、私は待っていたのかもしれません。
だから我慢出来ずに涙が出てきました。勿論悲しいからではありません。
嬉しいのです・・・」
成る程、と思いながら狂死郎は阿国の答えに頷く。そして意を決意したかのように阿国の胸に手を掛けようとした。
(これから狂死郎様に触られる。狂死郎様だけに許す阿国のこの体)
阿国はゆっくりと自分の両手を床に置き狂死郎の行為に全てを任せる事にした。
そしてゆっくりと自分の目を閉じる。
自分の顔が徐々に赤くなっていくのが分かる。体中に熱を帯びていくようなそんな感情に高ぶられる阿国であった。
だが、数秒たっても狂死郎の手は動かなかった。
この時阿国は狂死郎が自分の体をどのように弄るか悩んでいるのかと考えていた。
(そんなにも悩まなくても阿国はいつでも心の準備が出来ていますのに・・・)
385新人567:2005/06/06(月) 02:06:47 ID:aoSQHrcy
実は狂死郎は口付けを交わす行為は慣れているのだが、それ以降の行為は本当に始めてであった。
だがあまり阿国を待たせるわけにもいかない。
父が死ぬ前に性行為について相談すれば良かったと今更ながら後悔する狂死郎であった。
狂死郎は阿国に分からぬようにため息をついた。
自分は本当に父親に勝ったと感じたことがない。歌舞伎と(性行為)に関しては・・・
狂死郎は腹を決めた。
男として、そして狂死郎と名乗った自分が弱音を吐くなどこれほど情けないものはない。
「ええい!ぶっつけ本番じゃああ!!」
「!?」
突然の狂死郎の発言に一瞬阿国は戸惑った。同時に閉じていた目も慌てて開ける。
何に対して「本番」なのか阿国の思考をゆっくりと回転させる。
だが阿国の考える時間は狂死郎の行動によって簡単にかき消されてしまう。
狂死郎が阿国の胸をゆっくりと揉み始めたからだ。だが、決して激しく弄くりまわさず子供を撫でるように優しく揉む。
「あん、やっ、はああっ・・・」
初めて阿国が甘い声を漏らした。初めは狂死郎も片手だけで阿国の胸を揉んでいたが次第に反対の胸にも手を掛ける。
ゆっくりと料理をかき混ぜていくようにして阿国の胸をかき回す。
「ああっ、きょ、狂死郎様。やん、あああっ、ああっ、はあ、はああん」
両方の胸を弄くり回しているからだろうか。先程の倍くらいの阿国の声が狂死郎を刺激する。
386新人567:2005/06/06(月) 02:07:16 ID:aoSQHrcy
だが、狂死郎は自分の手を止めない。さらに阿国の声を聞くために狂死郎は阿国の両胸を弄くりまわした。
「あっ、あっああっ。そんなっ、狂死郎様っ。だ、だめです。もう少しだけ優しくしてください」
「優しく」と言う言葉にようやく狂死郎は我に返った。手を離すと阿国が取り乱したように呼吸をする。
顔は既に赤く蒸気してしまっている。だが、狂死郎はこれで終わらせるつもりは無かった。
頭の中に一つ思い浮かんだものがあった。
それは手で揉むよりもきっと阿国を満足させられる方法だと。
「阿国よ・・・」
「は、はい・・・?」
まだ息は荒いが落ち着いて阿国は狂死郎に返事を返す。
それを確認したうえで狂死郎は阿国に自分の考えを述べ始める。
「お主の声をもっと聞かせて欲しい。もっとわしを満足させて欲しい」
「えっ?」
言うが早いか狂死郎は自分の顔を阿国の胸の前に持っていく。そしてそのまま阿国の乳房を自分の舌で舐めはじめた。
腹を空かせた子供がようやく出来上がったご馳走を見て急いで食べ始めるように・・・
さすがの狂死郎も少し下品だと感じたがもう後には引けない。
自分の欲求を満足させるように阿国の乳房を舐め上げていく。
「ひゃっ、あああっ、ああっ、だめ、だめです狂死郎様っっ!!やああんんっ」
先程とは比べ物にならない刺激が阿国に襲い掛かった。
「あっ、狂死郎様・・・あっ、ひうっ・・・」
もはや口の動きが止まらなかった。自分の感じた分だけ狂死郎の前で甘い声を漏らす阿国。
我慢したくても我慢出来ない自分の声。
だけどそれで狂死郎が満足してくれるならもっと狂死郎のために出し続けようと思う阿国であった。
387新人567:2005/06/06(月) 02:07:49 ID:aoSQHrcy
自分の予想通りだったと思わずにやりとしてしまう狂死郎。
やはり阿国を感じさせる事が出来たと満足する自分がいた。
この時少しだけ父親以上の性行為が出来たのではないかと鼻を高くしてしまっていた。
すぐに有頂天になってしまった自分に気付き冷静さを取り戻す狂死郎。
阿国は狂死郎の激しくもないが極端に優しくもない触られ方で半分絶頂を迎えていた。
自分の下半身に何か熱いものが溢れてきた様な、そんな羞恥心を感じ始めていた。
(も、もし狂死郎様に気付かれてしまったら阿国はきっとはしたない女だと思われて・・・)
だが、常に阿国の裸体を見続けている狂死郎である。それに気付かないはずが無い。
「ん?」
狂死郎がそれに気付きゆっくりと阿国の股間に手を掛けようとした。
「きょ、狂死郎様。そこは駄目です。お願いですから見ないで下さい」
阿国が慌てて狂死郎の手を押さえる。あまりの動揺する阿国の姿を見て狂死郎は一度はためらった。
だが、何故阿国がここまで必死に抵抗するのか、そしてここまで動揺するのか。
その理由を考えた瞬間。狂死郎の中に魔性と言ってもいいくらい大きな欲求を駆り立てた。
(迂闊であった。じゃが間違いなく阿国の弱点、すなわち阿国の泣き所はこの股間じゃな)
全てを自分の中で理解した狂死郎はすぐに阿国の手をどかし始める。
「だ、だめです。お願いです狂死郎様」
必死で抵抗する阿国であったが女性の力ではあまりにも男性の力の前に勝ち目はなかった。
「阿国よ恥ずかしがる事はない。それを今からわしが教えてやろう」
言い終わると同時に狂死郎は阿国の股間に顔をうずめる。
そして先程の胸と同じ様に狂死郎の舌が阿国の股間をゆっくりと舐め始めた。
388新人567:2005/06/06(月) 02:08:23 ID:aoSQHrcy
「ひんっ、やあん」
阿国にとって胸以上の刺激はないと感じていた。
だが自分の秘所を狂死郎に舐められた瞬間、全てが崩壊してしまいそうな絶頂感に襲われてしまった。
「きょ、狂死郎さまあああっ、だめ、だめです。お願いです。そこだけは、そこだけ、ああっ、あああん、はあん」
阿国の許しを請う声が甘い声と同時で聞こえてくる。だが阿国も本当に許しを請いているわけではない。
口ではそういっているが本当は狂死郎以上にこの快感を味わいたいのだ。
「ああっ、やっ、ああん、狂死郎様、阿国のは汚いです。な、舐めたら駄目でございます。
ひあっ、ううっ・・・」
狂死郎が阿国のそこを舐めれば舐めるほど狂死郎を求め続ける愛液が零れ落ちる。
狂死郎はそれも分かっていながら舐め続ける。
「阿国の何処が汚いのだ。わしは阿国のなら病気になっても全然構わぬぞ」
「そ、そんな狂死郎様。病気になっては私が困・・・やあん、あああっ、だめええっ」
決して手を止める事を辞めない狂死郎。その容赦のない行為に次第に阿国の体は絶頂を迎え始める。
「きょ、狂死郎様、はあっ、わ、私おかしくなっちゃいます。止めてください。ひゃああん」
「おかしくなっても構わぬ。わしが許す。もっと阿国の事をわしに教えてくれ」
「だ、だめです。ああん、ああっ、も、もう駄目、あああああああっ・・・」
阿国の秘所から止め処なく愛液がこぼれて来る。
その瞬間阿国の体がゆっくりと力を失っていく。そのまま力尽きたように動かなくなってしまった。
さすがにやり過ぎたと感じた狂死郎であったがもう遅かった。そのまま阿国は5分程意識を失ってしまうのであった。
「すまぬ。少しやりすぎてしまったようじゃ」
狂死郎は調子に乗りすぎた自分を恥じ、そのまま阿国が目覚めるのを待つのであった。
389新人567:2005/06/06(月) 02:09:00 ID:aoSQHrcy
「ううん・・・」
「気が付いたか阿国」
「もしかして私、気を失っていたのですか?」
恥ずかしそうに狂死郎に確認する阿国。今までずっと待っていてくれたのだなと、自分の為に待ってくれた狂死郎に感謝していた。
「狂死郎様、阿国は大丈夫ですからそろそろ・・・」
阿国が何を狂死郎に求めているのかすぐに察知できた。そう、まだ最後の仕上げが残ってる。
果たして自分に出来るであろうか。阿国を最後まで守れるであろうか。そんな不安が狂死郎の頭をよぎっていた。
「大丈夫ですよ。狂死郎様。私は信じていますから」
「・・・」
一瞬沈黙の時間が流れた。だがその沈黙に負けない狂死郎の声が響く。
「分かった。だが辛かったら必ず言うのだぞ」
最後に確認の念を押す狂死郎。だが阿国は笑顔で首を横に振った。
「狂死郎様、それは間違っています。私が辛いのはただ一つ。
それは狂死郎様が私の前から居なくなる事。只一点でございます。それ以外に何が辛いでしょうか・・・」
「阿国・・・」
狂死郎は何も答えられなかった。今までここまで自分を慕う女性がいたであろうか。
自分の為に愛し、自分の為に「世話女房」になると言った阿国。
夜の静けさの中穏やかな風が吹き始める。窓の隙間から流れ込む風が阿国の長い髪をゆっくりと揺らしていく。
「さあ、狂死郎様・・・」
390新人567:2005/06/06(月) 02:09:35 ID:aoSQHrcy
阿国の一言が狂死郎の迷いを全て吹き飛ばす。狂死郎は迷わなかった。
「いくぞ、阿国」
「はい」
既に狂死郎のそれは大きくなっていた。「やっぱり狂死郎様のは大きいですね」と恥ずかしそうにしながら阿国は答える。
「男はみんな大きいものじゃ」と狂死郎が苦笑いを浮かべながら、
ゆっくりとそれを阿国の秘所に入れていく。
「あああっ、」
「あ、阿国?」
突然の阿国の辛そうな悲鳴に狂死郎は手を止める。しかし阿国がそれを許さないように拒否をする。
「だ、大丈夫ですから、最後までお願いします。絶対に止めないで下さい」
戸惑った狂死郎だが「阿国は強い女じゃのう」と、心に感じながら狂死郎は続きを始める。
狂死郎自身にも分かっていた。阿国が無理をしている事を、だがそれを口に出すわけにはいかない。
阿国のためにも、そして阿国の気持ちに応えるためにも狂死郎はゆっくりと腰を動かし始める。
「ああっ、狂死郎様。狂死郎様のが私の中に入っていくのが分かります。いいです。
とても気持ちよくて、ああっ・・・」
ずぶずぶと狂死郎のそれが阿国の奥の中に入っていく。
「ううっ、うう、ううん」
阿国の秘所から少しだが血が落ちているのが見えた。さすがの狂死郎も動揺する。
それに気付いた阿国が狂死郎を安心させる言葉を投げかける。
「大丈夫です、これは女性が大切な男性に始めてをあげる瞬間に必ず起きる事なのです。
私だけではありません。女性には皆ある出来事ですから」
「そう、そうであるのか?すまぬ。わしは女の体の構造は詳しくはないからの・・・」
まだ少し動揺して見たいだと阿国は思うが、事情を理解してくれた狂死郎を見て安堵の息を漏らす。
だが、狂死郎が再び腰を動かし始めたので安堵の息よりも先に絶頂の声を漏らす。
391新人567:2005/06/06(月) 02:10:05 ID:aoSQHrcy
「はあっ、はああっ。狂死郎様、感じます。狂死郎様のが奥まで、奥まで来てるんです。嬉しいです・・・」
「阿国よ、わしも嬉しいぞ。こうやってお主と一緒にいられる事が」
二人を祝福するかのように自然の風がさらに大きく吹き始める。
その瞬間窓の外に綺麗に咲いている桜の花びらが窓の隙間から流れ込んでいく。
まるで桜も二人を祝福するかのように。
「狂死郎様、私、私、もうそろそろ・・・」
「阿国、二人で一緒に迎えようぞ」
狂死郎の動きが今まで以上に激しくなる。そして阿国の動きも激しくなっていく。
「きょ、狂死郎さまああああっ・・・・」
「あ、阿国っ・・・」
全ての限界を迎えた二人。絶頂を迎えると同時に狂死郎の中のものがゆっくりと放出されていった。
そしてそのまま二人は全ての時が止まったかのように意識を失った。
392新人567:2005/06/06(月) 02:10:35 ID:aoSQHrcy
「なあ、阿国よ」
「はい、狂死郎様?」
全てを終えた二人がゆっくりと布団の中で眠り付こうとする。勿論裸のままで。
「確かにわしはお主には第二の世話女房になってもらうと言った。じゃが、女房であっても歌舞伎に関してわしは容赦は出来ぬと思う。
それこそが父譲りの厳しさでもあるのじゃから」
「構いません、今でも、そしてこれからも狂死郎はいつも通りの狂死郎様です」
いつものように阿国が答える。
「狂死郎様・・」
「ん?」
「長い付き合いになりますがどうか末永く宜しくお願いします」
「う、うむ。こちらこそわしの為の「世話女房」として宜しく頼むぞ」
もしかしたら自分は阿国の尻に惹かれるのではないかと
少しだけ心配する狂死郎であったが「世話女房」だけにそれも悪くと感じるのであった。


後に狂死郎歌舞伎はさらなる発展を目指す。人々の心を和ます歌舞伎として歴史に語り伝えられていく。
二つの「世話女房」を持つ一組の夫婦によって・・・
393名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 23:37:22 ID:VabjCbg4
>567たん乙!
コンル編の続き待ってました!
でも、二つあるなら出来たところで一つずつ投下して欲しかったとか思ったりして
394名無しさん@ピンキー:2005/06/07(火) 23:05:38 ID:08iiXEa2
もっと盛り上がってほしい、このスレ
395名無しさん@ピンキー:2005/06/08(水) 03:04:27 ID:TSRh6fuV
無理だよ、巨匠がいるし、なにより住民が少ないし辛いし。
396名無しさん@ピンキー:2005/06/08(水) 17:58:49 ID:njT7sNeh
ああ、どうすれば住民が増えるのか・・・
397名無しさん@ピンキー:2005/06/08(水) 19:38:39 ID:HhpH+nnZ
増えすぎても馬鹿な厨が集まって困るが。
特に最近は。
398名無しさん@ピンキー:2005/06/09(木) 07:31:59 ID:1VRH6HAW
なんで厨を煽る書き方するかなぁ…
399名無しさん@ピンキー:2005/06/12(日) 20:01:36 ID:YCmWR8OD
適度に住民増えてくれ
age
400名無しさん@ピンキー:2005/06/12(日) 20:50:09 ID:13u8DjTI
>>399
夢路たん、悪くないんだけど広がりがないんだよな。
401名無しさん@ピンキー:2005/06/12(日) 21:22:37 ID:YCmWR8OD
402名無しさん@ピンキー:2005/06/12(日) 21:24:55 ID:YCmWR8OD
403名無しさん@ピンキー:2005/06/13(月) 02:53:23 ID:jbRzG8lk
新作も出るってのにほんっと盛り上がらない・・・
404名無しさん@ピンキー:2005/06/13(月) 12:28:29 ID:2IxgwBuK
サムスピってのはもっと殺伐としてるべきなんだよ
405名無しさん@ピンキー:2005/06/13(月) 22:49:29 ID:jbRzG8lk
じゃあ殺伐と陵辱とか
406名無しさん@ピンキー:2005/06/14(火) 00:42:31 ID:qoS1HgOI
れらたんにボコられたあげく
「楽にしてあげるわ」
と、引導を渡されたい
407名無しさん@ピンキー:2005/06/15(水) 02:07:33 ID:ojoP1Kdy
age
408名無しさん@ピンキー:2005/06/15(水) 18:06:47 ID:ojoP1Kdy
夢路タンを殺伐と陵辱してほしい・・・
409名無しさん@ピンキー:2005/06/16(木) 23:24:21 ID:t+9wGzRJ
>>408
職人さんキボンヌ
age
410名無しさん@ピンキー:2005/06/19(日) 13:05:24 ID:IUX5rgWH
age
>>300
>>305-307
ということは、次回作ではナコルルorリムルルの子供で大自然の声を聞く純な美少年
―しかも文様が浮かび上がるとか―が出るんでしょうね。
そして二次創作でブリジットbyギルティギア・イグゼクスのように(以下略)

;;;;;j,. ---一、 `  ―--‐、_ l;;;;;;
 {;;;;;;ゝ T辷iフ i    f'辷jァ  !i;;;;;   そんな風に考えていた時期が
  ヾ;;;ハ    ノ       .::!lリ;;r゙    俺にもありました
   `Z;i   〈.,_..,.      ノ;;;;;;;;> 
   ,;ぇハ、 、_,.ー-、_',.    ,f゙: Y;;f    
   ~''戈ヽ   `二´    r'´:::. `!
それまでサムスピは続くんでしょうか。どうにも不安。


412名無しさん@ピンキー:2005/06/19(日) 21:55:52 ID:IUX5rgWH
夢路タン誕生日記念に小説キボンヌ
413名無しさん@ピンキー:2005/06/22(水) 00:57:48 ID:i1cawXZS
夢路タン誕生日オメデト
414名無しさん@ピンキー:2005/06/22(水) 18:24:35 ID:i1cawXZS
age
415名無しさん@ピンキー:2005/06/22(水) 23:58:48 ID:i1cawXZS
今ならまだ間に合う。夢路タン誕生日記念にエロキボンヌ。
416名無しさん@ピンキー:2005/06/26(日) 15:01:31 ID:g+rnJNiT
夢路はおt(ry
417名無しさん@ピンキー:2005/06/28(火) 19:27:20 ID:z9LsOUEY
http://www.momo.dyndns.org/~grwf/
頭のおかしなサイト、電車男ではなく、2ちゃんねるを攻撃。
418名無しさん@ピンキー:2005/06/28(火) 19:45:07 ID:0yqUeaaZ
age
419名無しさん@ピンキー:2005/06/29(水) 23:14:37 ID:soI9O47q
誰か来い
420名無しさん@ピンキー:2005/07/01(金) 15:23:28 ID:Kl4HGHKV
新作が出る頃にはいろはSS登場してる余寒
421名無しさん@ピンキー:2005/07/04(月) 01:53:57 ID:QD/sFgx4
新作スレは盛り上がってるのになー。
つーことでage
422名無しさん@ピンキー:2005/07/06(水) 00:27:54 ID:x97ktyE7
反面のアスラ×色とかないのかねえ。人気がないのかねえ。
423名無しさん@ピンキー:2005/07/09(土) 12:39:48 ID:OYhZY1g2
age
424名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 17:24:48 ID:is6JbeMj
age
425名無しさん@ピンキー:2005/07/13(水) 22:52:56 ID:ktaI1dn6
今月号はなんか遅いなー 陸捨肆氏・・・
426名無しさん@ピンキー:2005/07/14(木) 23:54:02 ID:rrV5NGzW
外道×いろは マダー?
427名無しさん@ピンキー:2005/07/15(金) 03:51:44 ID:CIduKaLu
夢路タンマダー?
428新人567:2005/07/15(金) 18:52:34 ID:/zrpaA55
うむむ、メイドキャラのいろはを書いてみようかと考えてみたのですが
彼女の旦那が分からないので書くのが難しい。
噂では旦那=プレイヤーらしいと聞いたのですが・・・
やはり妄想で切り抜けるしかないのかw
それとも外道で行くべきなのかw
そして陸捨肆様。続きをいつまでもお待ちしています。
429名無しさん@ピンキー:2005/07/16(土) 01:05:12 ID:vokDNAcC
旦那様を殺されて復讐しようとするいろはを返り討ちに……
430名無しさん@ピンキー:2005/07/17(日) 20:15:34 ID:8tPo4Pyw
某所で書いたリム×外道たんssなぞがあるのですが、
エロ少 グロ中、という内容なので、この場所に投稿してよい物かどうか迷っております。
431名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 02:08:14 ID:hHrhRNvR
名前をいろはに換えて投下キボン
432名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 03:29:51 ID:JqBQ8ATQ
メトロイドの主人公は
433名無しさん@ピンキー:2005/07/18(月) 19:28:43 ID:aPUQEeoD
人もいないし、自由に投稿すれば良いと思う椰子の数→1
434名無しさん@ピンキー:2005/07/22(金) 21:45:19 ID:w9IpqgyG
本当に人がいないんだな
435名無しさん@ピンキー:2005/07/24(日) 23:47:33 ID:5oFWGdD8
稼動すれば
ナコリム
シャルロット
チャムチャム
夢路
いろは
ミヅキ
ついでに
葉月

を総ナメにする腐れ外道タソのSSが登場するさ。
436名無しさん@ピンキー:2005/07/25(月) 21:11:38 ID:naPLqabc
稼動しなくても夢路タンのエロが見たいよー
437元204:2005/07/26(火) 15:30:20 ID:CjfZ5zYE

「…これからどうする、閑丸?」
別所での荷物のやりとりがあったのと同じくらいの時間に
手下をなんとか撒いて、姿を隠したリムルルと閑丸は一旦町を出る事
にし、安全に抜け出す算段を考えていた。追いかけ合いになると困る
からだ。もしそうなるといくら二人が普通の子供と違うとはいえ、
大人と子供なのだ。体力の差が少なからず出る。ましてや、こちらは
手負いの少年をかかえて走っているので早急に手を考えないと追いつかれてしまうのは時間の問題である。
「どうしよう…早く考えないと………」
閑丸は必死にこの状況をなんとかする方法を考えていた。
しかし、考えればそれ程に思考はからからと空転するばかりで、良い結論には至らない。
「なにか…なにか安全な方法……うーん……。」
そして、こんな時ほどに余計な事ばかりに気付いてしまう物である。
勿論、また悩みを増やす方向へ。
「……あ………!」
何を思ったか声を出し、難しい顔をした閑丸の顔がぱっと素に戻った。
するとそれを見て何か閃いたのかと思ったリムルルが、閑丸の方を見やってくる。
「なになに?何か考え付いたの?」
期待を顔満面にして問うてくるリムルルだが、残念ながら閑丸が返した
答えはその期待に応じるものではなかった。
「…ううん。じゃなくて荷物…あの野次馬のおじさんに預けっぱなし…。」
「…………っ!?」
その答えにリムルルは文字通り転びそうになった。そういえば
さっきからいつも持っている傘も見当たらなかった。
一応気付いていたけど、成る程そういう事だったのか。雲が晴れる
かの様に疑問は解決し、しかしそれにより、新たな問題が発生した。
勿論その荷物を取りに行かねばならない事である。騒ぎの中心になったあの場所まで。期待を見事に裏返す答えにどういう顔をしてよいのか分からなかったリムルルは、閑丸をひたすらに見た。見るしか出来なかった。
「……………………。」
閑丸が恐る恐るリムルルの方を見ると、既に無表情の表現
そのままの顔をして、じっとこちらを向くリムルルの顔があった。
438元204:2005/07/26(火) 15:30:57 ID:CjfZ5zYE
閑丸はその顔に怖気さえ覚えながら声をかけてみる。
「リムルル……?」
二人で見合う事数秒。不安げにリムルルの反応をうかがってみていた
閑丸だったが、あまりにも反応がないのでもう一度声をかけてみると、リムルルは先程の表情をそのままに、短く返して来た。
「……バカ。」
「なっ…!?」
お互いの為、と正直に考えを言葉にする事を厭わないリムルルなら
ではの一言。その一言に閑丸がひるんでいると、リムルルの顔が
表情を取り戻し、まくし立てる様に次々と言葉を口にしてくる。
「おバカぁっ!もぉ〜っ!何でそんな大事な物、忘れてくるのよぉっ!」
 単にうっかりだけなのならこれで終わりだったのだが、場合が場合なのでこればかりはと閑丸も引き下がらない。
「ば、バカバカって…!…リムルルが止めたのに輪に入って行ったからじゃないかっ!」
「うっ……!」
 尤もな指摘。だが不覚といった表情を浮かべたのは一瞬だけ。そもそもここで参ったする位なら、最初からふっかけたりなどはしない。
「でも!ならだいたい何で荷物を預けて来たの!?」
 これまた尤もな指摘。押しの強さでもはや勝負あったと思われたのだがそうでもなく、閑丸も一歩と引き下がらずにいる。
「え、っと…咄嗟にだよ!あんな事になるだなんて
 思わなかったんだ…!」
「相手はあんな奴なんだよ?黙ってやめるとも
 思えなかったよ!?」
「そうだけど、でもリムルルだって…!」
「何よぉっ!」
「な、何だよっ!」
 一進一退の攻防。互いが言葉を返すにつれて言い争いは激しさを
増していってしまっている。二人ともまわりの人間の不審がる視線を
気にも留めず、頬を朱に染めて自分の言い分をぶつけ合っていた。
そんな中で、さっき助けられて、しかし今は全くほったらかしにされている少年はどうしていいか分からなかった。
439元204:2005/07/26(火) 15:31:54 ID:CjfZ5zYE
「ね、ねぇ……。」
 とりあえず二人に声をかけてみる、が、あまり大きな声でなかった
のがいけなかった。二人はまだ「閑丸が」とか「リムルルが」とか
論争を繰り広げていて、こちらに全く反応してくれない。仕方なしに少年も声を大きくしてもう一度よびかける事にした。
「ねぇっ…!」
 しかし、またもや反応無し。この仕打ちに痺れを切らした少年は、もう一度、一際大きな声で呼びかけた。
「……ちょっと!聞いてくれてもいいじゃないかぁ!!」
 ここまできて、やっと声は届いた様だ。二人とも、一瞬獣の様な
形相でこちらを睨み付けたかと思うとすぐに「しまった」という風な顔に変化していた。
「あ………。」
 誰のものか分からない漏れ出した様な声の後に気まずい沈黙が続く。
やがて、リムルルが二、三度口ごもった後に、申し訳無さそうに言った。
「……え、えと……えっと…ごめん。早く…家に戻らないとね。」
 それに続き、閑丸もぺこりと頭を下げて「ごめんなさい」とお辞儀で
謝った。二人に一度に謝られ少年は少し困ったが、その言葉を笑顔で
返す事で、答えとした。その表情に雰囲気が少し和んだ所で、三人はすっかりずれて何処かに行ってしまっていた本題に戻ることにした。
「え〜っと…そうそう。きみが安全に町を出る方法、だったよね。」
 問題点を再び定めたところで、リムルルはさっき自分の言った事に
なにかあったのか、一度「うぅん」と唸る様な声を出し、首を
傾げながらさっきの言葉に言いなおす様に付け足した。
「いつまでも「きみ」って呼んでたんじゃ変だよね。きみ、名前はっ?」
 リムルルがずいと前に乗り出して少年の方を向いた。少年は少し
その勢いに押されながらもはっきりと答えた。
「ぼくの名前は空…。空って言うんだ。」
 照れと苦笑いが混ざった様な笑みを浮かべながら少年は
自分の事を「空」と呼んだ。
440元204:2005/07/26(火) 15:33:11 ID:CjfZ5zYE
「ヘンな…名前だよね…。」
 やや自嘲気味にそう言うと、少し斜め下を向いた。
実際、自分としてもあまり自信を持てる名前ではなかった。
 少し変わった名前であるだけでも、同じ年の子供達に馬鹿にされたり
のけ者にされるには、十分な理由なのである。が、しかし
『そんな事無いよ!』
 リムルルと閑丸の声が同時に合わさって放たれ、空はいきなりの事に
少し驚き、びくっと肩を軽く振るわせた。
「いい名前じゃない! 空って。青くて広くて、綺麗で見ててほっとできるし…。」
 と、うっとりとした表情で答えるのはリムルル。持てる想像力の
全てで作り上げた自分の中の「空」で悦に入っている。
「僕もいい名前だと思う。ヘンじゃないよ、…うん。」
 閑丸も何度もうんうんと頷くことで、変でない事を訴えかける。
 二人のその言葉に、空は自信を取り戻した様に一言つぶやいた。
「…そっかぁ……ヘンじゃ…ないんだ…。」
 その呟きが耳に入り、リムルルは背中を押してやる様に答えてあげた。
「うんうん、絶対いい名前だよ!」
 と、二人はわきあいあいとした雰囲気で話していたが、
その後ろで閑丸は浮かない顔で咳払いをしていた。
「……閑丸?」
 リムルルは少し驚いている様な顔をして、くるりと閑丸の方を向いた。
 すると閑丸が少し呆れた感じの顔で静かに口を開く。
「…それで…町を出る方法…。」
「あぁ!」と納得の声を上げ、手をぱちんと叩いた。知らない内にまたうっかり
脱線してしまっていた。リムルルは少しばつの悪そうな恥ずかし笑いを浮かべる。
「え…えへへへ…ごめんごめん、また飛んじゃってたね…。」
 そう言うとリムルルは片目をつむって後ろ頭をかく。
441元204:2005/07/26(火) 15:33:49 ID:CjfZ5zYE
「まったく…、しっかりしてよ?」
 閑丸がそう言うと、リムルルはさっきと同じ格好を崩さないで
もう一度謝った。
 ふと、その様子を見ていた空はある疑問が浮かんだ。
「ねぇ、お姉ちゃん達。」
 早速聞いてみようと、空は意気揚々と二人に声をかける。
「ん?なぁに?」
 空の無邪気な声にリムルルが何の気無しに後ろを振り向くと、
思いにも寄らない言葉が飛んできた。
「…お兄ちゃんとお姉ちゃんって、「恋人同士」…なの?」

「……ふぇ…!?」「…ぃ……っ!?」

 あまりの豪速球に一瞬反応が遅れ、中途半端にこっちを
向いて固まる閑丸に、真っ直ぐに立って固まっているリムルル。
二人は絶句し、顔を真っ赤にして固まっていた。そんな様にもお構い無しに、空からの質問は続く。
「母上が言ってたよ。女の子と男の子の仲良しは、その二人が「恋人同士」の時なんだって。…違うの?」
 違う。…いや、違わない。しかし違う。だけど違わない。
その解釈に少しずれのある事を無視しても、答えることができない。
 二人が二人とも、恥ずかしいのだ。水邪を退け、お互いが体を重ねた
あの日から、それといった言葉に敏感になっていた。
そういった言葉を耳にするたびにあの夜の情景が頭に浮かんでしまう
からだ。しかし、さっき出会ったばかりの空はそんな事を知っている
はずが無い。ただ好奇心の赴くままに、あくまで純粋に質問している。
しかし、真正面から受け止めてしまっているリムルルと閑丸にとってはどんな謎かけより答えにくい質問なのだ。
「は………うぅ……。」「……う…ぅ………。」
 リムルルと閑丸は、自分は何も言えないといった表情でお互いを
見合わせる。らんらんと輝く空の視線がとても痛い。
442元204:2005/07/26(火) 15:35:16 ID:CjfZ5zYE

「え、えと…その…ねぇ、閑丸?」
「…え?あ…そ、そうだよね、そ、それより先に…まずは…
 ここから離れなきゃ…ね…?」
 どうしようもなくなった二人が最後の手段といわんばかりに、
話を逸らすという荒業にかかると「ちぇっ。」と空は心底がっかりした
表情でリムルル、閑丸を順に見渡した。
 二人は空と目線があうと、再び心にずしり、とのしかかる物を感じず
にはいられなかった。引け目を感じながらもすごすごと路地に戻る二人
に、空がこれ以上の追求をしてやらなかったのが幸い、と言えば幸いか。
 売り手と買い手でごった返す屋台通りの路地に戻った三人は、
流れ来る人の波を逆行しつつ進んでいた。辺りは既に暁がかっていて
帰路に着く人々と、もう一買い程して帰ろうという人とでぱっきり
分かれていた。ここまでの人ごみではあのごろつき共見つかる可能性も
ほとんど無いのだが、それでも用心するに越したことはない、との閑丸の意見なのだ。
「う、う〜ん…ぎゅうぎゅうで…せまい…。二人とも、ついて来てる?」
 と、リムルルが人ごみをかきわけながら言うと、その人ごみの
中からひょこひょこと二つの頭が現れ、その後に続く様に体も現れた。
「うん、ちゃんとついて来てる。」
「僕も大丈夫だよ。」
 閑丸と空が言葉を返すのを聞き、一旦それに向かって頷くとリムルルは再び前を向いて歩いていき、人ごみの中へと消えていった。
 慌てて二人が追いかけると、すぐにリムルルが再び視界に入った。
しかし、目に入ったリムルルは正面から向かってくる人の腹に見事に
顔をうずめていた。閑丸は何かぞっとする物を感じて瞬く間にそちらに
飛び、背負われていた空は危うく急加速でふり落とされそうになる。
「…わぷっ…!」
「っ!? 気をつけろ、チビガキ!」
 顔をうずめられた男は、さぞ不機嫌そうな顔を首だけこちらに向けて
怒鳴ると、くるりと顔を体と同じ向きに戻して行ってしまった。どうやら虫の居所が悪かったらしい。
443元204:2005/07/26(火) 15:35:48 ID:CjfZ5zYE
少しぽかんとしていたリムルルだったが、さっき男に言われた
言葉を頭の中で繰り返すごとに、機嫌をどんどん斜めにしていった。
「…ちび……。 …むかぁっ…!」
 眉根を吊り上げ、リムルルはぐるりと反対を向きながら
だんっ、と勢いよく足を踏み出し、いざ言い返さんと大きく口を開いた。
「…っ!だれが小さっ   …むぐっ!むぐむぐ……!」
 大声で叫んだ筈だった口は、誰かの手によって塞がれており、
リムルルは全てを口にする事なく口をむぐむぐとさせるしかなかった。
突然の事に驚きながらも、自分の口を塞ぐ腕の先を辿ってみると、
肩で息をしている閑丸の姿があった。
「ん〜っ!むぐっ、んむ〜!」
 声が出せずともお構い無しに猛抗議するリムルルと、それに気おされ
ながらも口を塞ぐことを止めない閑丸。やがて、男の姿が完全に消え去ってから、閑丸はゆっくりとリムルルの口を塞ぐ手を離した。
「ぷはっ! もぉ、閑丸っ!何で邪魔するのっ!?」
 やっと声をまともに発する事を許された口が鉄砲水の如く言葉を発
す。理不尽、といえば理不尽な仕打ちに対する憤りは、当然それをぶつける事を妨げた閑丸にも向く。
「…え?あ、これはその、えっと…つ、つい…。」
 自分でも驚くほどの迅速な反応だったと思う。
何せ、あんな所でまた大騒ぎになってしまったりしたら、
敵の捜査網をかいくぐって来た意味がまるでないという物だ。
次に見つかってしまったら逃げ切れない可能性だってある。
「ほ、ほら、行こうよ。急ぐんだもんね?」
「…わたし、閑丸にだって起こってるんだからね。」
 なんとか理由を説明し、しかしまだ納得いかずに眉を吊り上げる
リムルルを連れ、やっと三人は町の外まで出て来ることが出来た。
とっぷりと日が落ち、町近くの林の木々は月明かりに照らされ、
青白く光っている。その林に紛れ込んだ三人は、またさっきの
様に今後どうするかを考えていた。
444元204:2005/07/26(火) 15:36:31 ID:CjfZ5zYE
「やっぱり家に戻る時の方が問題だよね…。」
と、今自分達がおかれている苦しい状況に首を傾けるリムルル。
 それに応ずる様に二人の少年も首を縦に振る。
「待ち伏せ…されてるだろうしね。」
閑丸もこの先は十分警戒していく様に促す。実際、待ち伏せは当然、
下手をすれば家族まで危機にさらされている可能性もなくはないのだから。
「……………。」
 その会話の中で一人、空だけがうつむいたまま何も喋らなかった。
この二人を巻き込んでしまった、いや、それだけではなくもしかしたら
他の誰かをも巻き込んでいるかもしれない、そう考えて責任を感じずに
いられる程、空は図々しくない。
「……………空?」
「……どうしたの?」
「…………僕………。」
 心配そうに顔を覗かせる二人をよそに、空はすっくと立ち上がる。
そして、真剣そのものの表情で言った。
「…僕、町へ戻るよ。」
 そう言うや否や、あっと言う間に空はリムルルと閑丸の横を駆け抜けて行った。二人はぎょっとするが、急いで空を止めに入った。
「駄目だって、落ち着いて!」
 閑丸がまず前に立ちはだかるが、見えないかの如く横を通り過ぎる空。
と、その腕が誰かに掴まれる感覚。そこには自分の腕を必死に掴むリムルルの姿があった。
「気持ちはすごく分かる! でもここで行っちゃなんにもならないよ!」
「でも! 父上と母上も危ないかもしれないんでしょ!?」
 そう言うと振りほどこうと腕の力を強める。するとそれに応じてリムルルの腕を掴む力も強まった。
445元204:2005/07/26(火) 15:37:18 ID:CjfZ5zYE
「絶対離さないから! あいつら空を待ってるんだって!」
 一度大きく感情を爆発させた事でだんだんと冷静になってきた空は、
ここまで必死なリムルルを見て、だんだん自分が悪い事をしている
気分になってきた。この事件で一番協力してくれたり、迷惑をかけたり
しているのは間違いなくこの二人なのだ。今自分がしている事は、
その二人を裏切っているのではないか、空はそう考えると、これ以上足を前に進める事など出来なかった。
「………………。」
腕の力を抜き、その場に立ち尽くす。その様子をリムルルが見て、
掴んでいた腕を離した。
「空…………?」
「ごめん、僕……。」
申し訳なさそうな顔をする空を見て、閑丸は首を振りながら言う。
「なにも言わなくていいよ。それより……」
「…あそこに戻る方法でしょ? 出来ないこともないわね…。」
「……………!?」
突如、聞きなれない声が閑丸の声に割って入る。ばっと三人がその
声のする方向を向くが、そこは墨をひっくりかえした様な夜空に、
星が散らばっているだけだった。
「ほら、どこを見ているの?」
「………誰なの…!?」
今度は反対からの声。リムルルがその声に声だけで反応する。
「…少なくとも、あなたたちの敵ではないわ。」
リムルルもかすかにそれは悟っていた。あの連中の中に女性は
いなかったし、余裕綽々に今の状況を楽しむなど、連中に出来ること
ではない。でも、ならば何故姿を見せないのか、そこが解せなかった。
「…敵じゃないんなら、ちゃんと出てきてよ。」
「ふふ……嫌だと言ったら、どうするの?」
まるで悪戯を楽しむ様な声で謎の女性は答える。
眉を吊り上げて警戒を強めるリムルルの代わりに、閑丸が一歩踏み出して答える。
「僕たちの敵なら、戦います。」
閑丸の言葉を聞いた声の主は、くすりと小さく笑った。
「冗談よ。心配しなくても、ちゃんと出て行くわ。」
声の主が喋り終わった直後、今リムルル達の後ろにある林の木々が
がさがさと騒いだ。三人がそちらを見ると、黒い塊がたんっと軽い音を
立てて着地した。
 人の形をした闇色の塊は、徐々に月光に照らされながら、その姿を現していった。
「……こんばんは。」
446元204:2005/07/26(火) 15:38:11 ID:CjfZ5zYE
「…………………!!」
 そこに現れた姿は、声のとおり女性であった。紫の見慣れない衣装を
纏い、首には淡い褐色の長布を丁寧に巻きつけている。凛とした目立ち
顔立ちに、肩近くで揃えた黒髪が夜風でなびいている。
 思ったよりも年若い声の主の登場に驚いていた三人だったが、
なかでも一番驚いていたのは、今まで最もこの女性と渡り合っていた
リムルルであった。
「 …………? リムルル… どうしたの?」
 どこか様子がおかしい少女に閑丸が気づき、声をかける。
確かに、そわそわと視線を左右に泳がせたり、女性の顔をちらちら
見やったと思えばうつむいたりと、どこか不安げで落ち着きが無い。
 そんな様子に気付いたかは分からないが、その女性はリムルルに
近づいて行き、声をかける。夜なのでよく見えないが、その顔は
閑丸にはかすかに笑んでいる様に見えた。
「急に大人しくなったわね…?」
リムルルは視線を下に落としたままおずおずとしている。
「……ま…え……。」
誰に言った物か分からないほど小さな少女の声に、女性は少し疑問そうな顔で聞き返した。
「…少し聞こえ辛いわ。」
「な…まえ…、名前、 なんて言うの…?」
いつもらしからぬか細い声。質問なのに、まるで言うのが嫌な様子であ
る。そんな様子のリムルルに、女性が耳元まで顔を寄せ、何かを
ぽつりと呟くと、今度は明らかに少女の顔に動揺が走った。
それを確認した声の主は、三人の前にわざとらしく歩いて行き、くるりと向き直った。
「私の名前はレラ。レラよ。」
声の主は、リムルルの方に目線をやりながら、はっきりとそう言った。
「レ…ラ……。」
まだ同様している風なリムルルを後目に、レラと名乗った女性は
夜風を体一杯に浴び、月に向かって大きく伸びをしていた――
447元204:2005/07/26(火) 15:38:56 ID:CjfZ5zYE
どうも、お久しぶりです。でもお久しぶりでない方も多いと思うので
念の為…初めまして。元204です。幾度か投稿させて頂いた事がございます。
(これまでの投稿につきましては不親切ながら保管庫参照ということでお願いします。)
さて、そして前回から投稿が異常に滞っている件ですが、それについて
は人様に話せる立派な理由ではなく、また話したところでたかだか言い訳となりましょう。
故にそれについてはノータッチ。皆様の想像にお任せ致します。
そして! 今までご迷惑お掛けし、応援下さった住民皆様に、
精一杯の謝罪、感謝を、遅ればせながら述べさせて頂きます。
元204はここに戻り、また書かせて頂く報告に上がらせて頂きました。
再び、よろしくお願いします。では、また次回の投稿で。
448新人567:2005/07/26(火) 23:19:49 ID:fhsRL0Yt
お久しぶりです。204様の小説は保管庫にあった頃からずっとに楽しみしていました。
リムルルと閑丸の純愛小説。
もう、二人はコンビと言ってもおかしくないくらい気が合いすぎですw
この二人の旅が何処まで続くのか続きを楽しみしています。
そして最後に・・・
空の言うとおり「二人は恋人同士」でしょうw
体を重ねた時点でw
449名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 14:17:16 ID:2ai1u/4x
なんか、妄想苛烈過ぎないか…。ここ。
内容が痛くて、せっかくのエロが台無しだ。
450名無しさん@ピンキー:2005/07/28(木) 14:58:52 ID:YHhfhsoR
せっかくのエロといっても職人いないから小説投稿ほとんどされないじゃん。
そんなに言うならお前が書(ry
451名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 05:13:52 ID:wV+grnVj
これだけ投稿されてて職人いない発言は無いだろう。
過疎ってるところはもっと酷いぞ。
452名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 14:56:49 ID:WXqtNnZI
>>451
前の投稿から2ヶ月近くもたってるのだが・・。
でも一応訂正
いない→少ない

とりあえずもっと人来てくれ。
453名無しさん@ピンキー:2005/07/29(金) 19:25:17 ID:CWezpHgz
>>元204氏
お久しぶりです。よもや復活なさってくださるとは!
あきらめずにこのスレ覗いてきて良かったです。
これからも閑リム補給よろしくお願いします。
454名無しさん@ピンキー:2005/07/30(土) 22:40:59 ID:NQdobdHI
新作が稼動し始めれば自然と人は増えるさ

多分
455名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 00:56:30 ID:iCZl2O9I
稼動されずとも・・・


夢路タンキボンヌ
456名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 01:54:58 ID:CJ3RAMrr
陸捨肆氏の前回の衝撃のラストから既に2ヶ月が経っている件。
生殺しにも程がありやすぜ。
457名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 10:36:11 ID:Bxn7jYfV
そんな中での204氏の復活は予想外で嬉しいなぁ。
続き楽しみだったからさ…ところで次のエ(ry
458名無しさん@ピンキー:2005/07/31(日) 18:32:38 ID:44qT5+GB
204神キテタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!

もうリム閑なんて見られないとすっかり諦めてたよ・・・
459陸捨肆:2005/08/06(土) 17:09:38 ID:R7aMgP1D
「うぃーっ、寒いッすよぉ!」
午前8時。コンビニ袋を手に提げた男が、革ジャンの襟元を寄せながら、道端に停められた
白い乗用車へと駆け込んだ。
入るや否やドアを閉め、手袋を外し、かさかさの両手を擦り合わせる。
「ふいー、年の瀬ともなると冷え・・・・・・って、何で暖房ついてないんスか!」
だが、助手席に腰掛けた男を待っていたのは、外気と何も変わらない車内だった。
「何ッすかぁーもー。朝メシ買ってくるまで暖めておいてやるって言ったじゃないスか!」
大げさに歯を鳴らし、ひとしきりわめいたが、男はすぐにそれが無駄だという事を悟る。
さっきから話しかけている相手が、一杯に倒した運転席でアイマスクをかけたまま、男の
声を右から左に流しているからだ。聴覚聴覚、両方シャットアウトである。
「ちぇ、黙ってないで何とか言ってくださいよ」
何事かぶつぶつ垂れながら、白いビニール袋を男はまさぐった。
男は若い。20代も半ばといった感じの風体で、短く刈った髪はなかなかにスポーティーだ。
季節はずれに顔も浅黒く焼けている。白と青のストライプが描かれた半袖シャツを着て、
ダンボールを小脇に抱えると似合いそうな風体である。サインよりもハンコがいい。時代が
時代なら、飛脚なんかも良かっただろう。
「はい、コーヒーですよ」
菓子パンの下に隠れていたコーヒーを取り出して、アイマスクの男に呼びかける。そうして
初めて、アイマスクの男は組んでいた左手を声のほうに伸ばすのである――が。
「違う」
差し出されたコーヒー缶に指先がちょいと触れたところで、アイマスクの男は唸った。
「佐川よ、これは『ヂョウヂア・ミルクたっぷりラテ』だろ」
佐川と呼ばれた助手席の男が、ぎくりと冷や汗を垂らした。
「俺が欲しいのは、あんぱんの下にある『炎の珈琲・粗挽き深煎りOTOKO専用ブラック』
だ。早くよこせ。毎朝同じ手間をかけさせるな」
「うおおおおお!なんで分かるんスかぁー!」
佐川が頭を抱えて悔しそうに叫ぶ。低い天井に頭をぶつける勢いである。
460陸捨肆:2005/08/06(土) 17:10:39 ID:R7aMgP1D
「同じ缶ですよ、缶!スチールの、この、円筒!温度も違わないし形も変わんないってのに!
じゃあ音?音なんスか?!それとも、いや・・・・・・っつうか柳生さんはホントに人間なんスか?」
「うるさいっ」
部下の度を超したおしゃべりに業を煮やした佐川の上司と思しき男――名を柳生という――が、
アイマスクを外して拳骨を佐川の頭にぽかっと振り下ろした。
柳生は三十路も終わりを迎えるぐらいの見た目で、部下を叱る姿もサマになる働き盛りの
中年男だ。短い髪を櫛で撫でつけた頭にブラウンのスーツ、白いワイシャツの胸元には真っ赤
なネクタイが眩しい。春先ならまだしも、真冬でコートも無しである。血色の良い、少し
油の浮いた肌が、季節おかまいなしの健康人間だという事を証明していた。
「ふん、修行が足らんのだお前は」
シートのリクライニングを戻し、殴られた頭を抱える佐川の膝の上の袋から奪ったブラック
コーヒーを口に含みながら、柳生が鼻を鳴らした。
「修行でどうなるこうなるって話じゃないんじゃねっスか?柳生さんのソレは」
「そんな愚痴を垂れているうちは、ミルクたっぷりラテがお似合いだな。こわっぱめ」
「苦いばかりがコーヒーじゃないんスよ!」
これも修行の一環なのだろうか、結局エンジンをかけてもらえず、しきりに缶を握り締めて
乾いた手を温めながら、佐川はフロントガラスの外を眺めていた。
アイマスクを外した柳生の視線も、自然とそこに向いている。
「動き・・・・・・無いスね」
コーヒーのタブを引きながら、佐川がぽつりと言った。柳生は左目をしばたかせながら、
あんぱんとコーヒーを交互に口に運んでいる。
それはどうにも取り合わせが悪いんではないかと思いつつ、佐川もサンドイッチの封を
開いた。
「この張り込みも今日で3日目っスねぇ」
レタスサンドを頬張って、尻の下に敷いていたファイルを取り出してぱらぱらとめくる。
いくつかの文書が左から右へと流れ、数枚の写真が挟まれたページが現れて、佐川は
そこで手を止めた。
461陸捨肆:2005/08/06(土) 17:11:12 ID:R7aMgP1D
写真の殆どには、まだあどけなさの残るかわいらしいひとりの少女が収められていた。
唐草模様とは一味違う、独特な図柄が刺繍されたリボンを頭に巻いている。海辺ではしゃぐ
少女、ショッピングモールで買い物をする少女。図書館で本を読む少女。写真が白黒なのが
悔やまれる。
「はた目にゃ可愛いこんな子供がねえ・・・・・・銃刀法違反と公務執行妨害、しかも隠してた
爆発物だか何かで牢破りとは。いやあ、世も末っスよねぇ」
佐川が苦笑しつつさらにページをめくると、別な男女が写った写真がひらひらと舞った。
足元に落ちる寸前、ぴしっと指で挟んで拾い上げ、ぼんやりと眺める。
「で、その兄弟というか、保護者と思しき大学生の男と、日本各地で危険活動を行っている
らしい女。危険って何をやってるんだかなぁ。『服部さん』、何も言わないですぐドコか
行っちゃうし。ま、今朝は出てきませんでしたね、二人とも」
アパートを睨む目も鋭く、柳生は部下の声に応えるようにあんぱんをかじる。
「さすがに早朝から公園で棒切れ振り回すのはマズいと思ったんスかねぇ。あ、いや、
今日はクリスマスイヴだからかも知れませんね、柳生さん?」
むぐむぐと動いていた柳生の口が一瞬止まり、またむぐむぐと動き出す。
「ははぁーん」
その変化を目ざとくも見のがさなかった佐川が、ぼそりと言った。
「・・・・・・奥さんっスね?」
「んぐっ、ごほっ、ほっ」
むせ返る柳生。してやったりと佐川がガッツポーズを作った。
「ほーら図星だ!はっはっは!柳生さんの愛妻家っぷりには頭が下がりますよ!」
「うるさいっ!」
2発目の拳骨が、やかましい部下の脳天にめり込んだ。
「つぅ〜〜、別に愛妻家は何も悪いことじゃないっスよ?俺なんか彼女もいないし、妹も
今日は彼氏とどうのこうのって、はぁ・・・・・・仕事のほうが幾分ましっス」
「寂しい奴だなお前も。まあ我慢してくれ、おそらく今日までだからな」
思い切り殴ったばかりの部下を励ましつつ、柳生は二つ目のあんパンの封を開いた。
462陸捨肆:2005/08/06(土) 17:11:44 ID:R7aMgP1D
「今日に何かの動きがあるのは確かだ。『服部』がそう言うのだから間違いはない。何かの
組織が出入りするのか、別な事件を起こすのか・・・・・・まあ張り込んで何の成果も得られん
という事は無いだろう。俺だって正月ぐらいはゆっくりしたいからな。お前の言うように」
左目をしきりにしばたかせ、柳生は思うところを語った。ゴミが入ったわけでもないのに、
左目のまばたきが激しいのが癖なのだ。
「正月が明ければまた、お前をしごく日々が待っているからな。そのつもりでいろよ」
「うへぇ・・・・・・マジですかぁ」
佐川がうんざり声を上げ、厳しい上司の指令にまた何か弱音を吐こうとした所で、柳生が
ぐっと前に身を乗り出した。唇についたケシの実を取ることも忘れた横顔には、いつも
以上の緊迫感がみなぎっている。
「え、あっ、動きスか!」
一瞬目を離した隙に変わろうとする展開に乗り遅れまいと、佐川もこの3日間睨み続けた
せいですっかり目に焼きついたアパートの風景の2階から、よろよろと一人の男が出て
くるのを捉えた。
「例の大学生に間違いない・・・・・・っスね。ハイ。ん、どうやら一人みたいスけど、何か
ふらついてる」
「よし、本部に連絡だ」
「はっ、ハイ。えっと、ケータイケータイ」
「あぁ、待った。大丈夫だ」
柳生は前言を撤回し、後部座席に向けて身をひねった。
「ケータイはいらんよ。おい服部」
「・・・・・・これに」
それは、成立するはずの無い会話だった。
と言うのも、佐川は知っているのだ。この車内の中にいるのは、新米の自分と、その
上司に当たる刑事の柳生とだけなのだから。
だが、柳生が呼んだ人間の返事が聞こえるのである。佐川が慌てて振り向くと、
「マジかよ・・・・・・」
マジックのようだった。ドアも開いていない、まして物音一つしなかったのに、そこには
確かに、黒ずくめの男がじっと腕を組んで座っていたのである。
463陸捨肆:2005/08/06(土) 17:12:20 ID:R7aMgP1D
「服部、お前の言うとおり動いたぞ。上に報告しておいてくれ」
「御意」
「それから、あの大学生の尾行はどうする」
「柳生殿にお任せいたす」
「そうか。分かった」
「拙者はこれにて」
「はっ、服部さ・・・・・・うおっ!」
呆けていた佐川にとって、状況を飲み込むには多少の努力を要した。結局呼び止めるのも
間に合わず、服部は車内に小さな火の粉を残し、煙になってその場から完全に消え失せた。
「あー、臭い」
火薬の匂いと灰色の煙が広がって、岩のように顔をしかめた柳生が車のキーに手をかけた。
キシキシキシと頼りない音を立て、寒空のエンジンに火が入る。換気のために窓は全開
にされ、エアコンの風量スイッチを最大にする。冷風がごうごうと車内に流れ込む。
「い・・・・・・一体どうなってるんスか」
待望のエンジン音に身を揺らされながらも、佐川は口をあんぐりとしたままだった。
自分の下に配されて間もない男の素直なリアクションに、柳生が控えめな笑顔を見せる。
「ふむ。まあ、そういう事だ」
言って、柳生が少し中身の残ったコーヒー缶を揺らした。
「あいつはちょっと変わってるが、そういう変わり者だらけなんだよ、俺の部署はな」
「か、変わり者・・・・・・スか」
「そうだ。俺の下にいる限り、こんなのは日常だ。覚えておけよ?そういう部署なんだ
からな。さ、早く残りを食え。追うぞ。大学生のルートはバスだからな。先回りだ」
まだ火薬臭の残る車内で、駆け出しの佐川は大いに首を傾げた。
――こ、こんな日常かぁ。お袋よ、親父よ、妹よ。兄ちゃんは大変な所に来ちゃったぜ。

6章 はじまり
464陸捨肆:2005/08/06(土) 17:12:56 ID:R7aMgP1D
柳生と佐川を乗せた車が動くところから、話は少しさかのぼる。

「えっ!それじゃあ行ってきていいんですか?」
クリスマスにも変わらぬ、我が家の朝食タイム。俺は箸を持ったまま声を上げて驚いた。
エプロン姿のレラさんが愉快そうに言う。
「えぇ。リムルルは気にしないで行ってらっしゃい?友達は何よりも大事にしなくては
いけないものよ」
自分の名が出てきて、パジャマを着替えていないリムルルも牛乳を飲む手を止める。
「夜の『ぱーてぃー』までには帰ってくるんでしょ?だったらいいよ!わたし待ってる。
それにきっと、にいさまがいればお友達も楽しいもんね!」
牛乳で白くなった口をにーっと開いて、そこから牛乳よりも一段と白い歯を見せた。
「ありがとう、二人とも。もっと早く言えばよかったんだけど」
「だって誘われたのがおとといなんでしょ?昨日はわたしが色々迷惑かけちゃったし、
だけどほらっ、もう平気だから!」
コタツにあたったまま、リムルルはもう一度にかっと笑った。確かに幾分調子は良いらしい。
相談してみるもんだな、と俺は思った。例の「モテナイ君決起集会」の誘いがあった事を、
二人にそれとなく話してみたのだ。
レラさんはいいとしても、リムルルはきっと嫌がるだろうなと勝手に想像していた分、
ここまで快諾されると逆に恐縮してしまう。
「それじゃもっと元気になるように、ケーキ買ってくるからな。今夜はみんなで食べよう!」
「いやったー!」
ご機嫌取りがてらに提案すると、リムルルが目を輝かせて万歳した。
「わたしね、あのね、ふわふわしててチョコレートの味のがいいな!それでそれで、えっと」
「リムルル。ご飯が終わってから騒ぎなさいな」
「えへへ・・・・・・ごめんなさーい」
黙々と汁物を口に運ぶレラさんがぴしっと制しても、リムルルは顔を緩ませている。
465陸捨肆:2005/08/06(土) 17:13:27 ID:R7aMgP1D
「楽しみだなぁ、ふふふ!早く夜にならないかなぁ・・・・・・」
「気が早すぎるってリムルルは。ねぇ、レラさん?」
レラさんは肩をすくめ、小さく微笑んだ。
「まぁ、お祭りなんて久しぶりだからね。はしゃぐのも無理ないわ。それに――」
「それに?」
「何でもな・い・わ」
「えーっ何ですかソレ?何か隠してますね?リムルルっ!レラさんが何か企んでるぞ」
「ケーキに、お菓子に、ケーキ・・・・・・へへへ〜〜」
リムルルの頭の中では、とうにパーティーが始まっていた。牛乳がまだ半分入ったコップを
持ったまま、放っておいたら今にもよだれを垂らしそうな情けない顔をしている。
「おい、リムルルったら」
目の前で手をスカスカやっても、
「ふわふわおいしい〜・・・・・・」
脳内で花開いたスイーツの世界に心奪われっぱなしで、
「おいっ、リームルールさん!」
目の前で手をパンパン打ち鳴らしても、
「シクルゥ、イチゴとっちゃだめ〜・・・・・・」
全く無意味だった。それどころか妄想パーティーに勝手にシクルゥを巻き込んで、低レベル
な争いまで起こしている。
「はぁ・・・・・・まったく」
無駄な努力にため息をつきながらも、俺は満足だった。こんなに喜んでくれるのだから。
食事も終わる頃になってリムルルもひとしきり妄想が巡ったのか、コンルと今夜の計画を
話し合い、レラさんにケーキの素晴らしさを説いている。
いつもと変わらないように見える、リムルルの元気な姿。
でも昨日は、本当に苦しそうだった。
疲れているにもかかわらず、それを解消するに一番の方法である睡眠を、恐ろしい夢に
邪魔されていたのだから当然だ。俺とレラさんが「明日の朝まで、絶対にリムルルのそば
から離れない」と何度も約束しながら、握った手を離さないままようやく眠りについたのだ。
466陸捨肆:2005/08/06(土) 17:14:07 ID:R7aMgP1D
だから俺達は今日の修行はお休みだったし、リムルルはレラさんが朝食を完成するまで
眠っていたので、よれよれぶかぶかのパジャマ姿のままである。
ただでさえ大きな俺のパジャマを着ているリムルルは、さらに小さく見えてしまう。
「ごちそうさまー!はぁ〜、やっぱりレラねえさまのお料理にはかなわないなぁ」
そのリムルルが、満足そうに口の周りを拭いながら立ち上がった。
「わたし着替えてくるね」
「あらリムルル、いいのよ?今日は寝てて・・・・・・」
「ううん、もう大丈夫だってば!にいさまも早くしないと『ぱーてぃー』に遅れるよ?」
着替えを持って、リムルルは鼻歌まじりで洗面所に消えていった。
「コウタ、はい、お茶」
食事を終えていたレラさんが俺にお茶を差し出した。受け取り、くっと飲み干す。
「ぷは。昨日はどうなる事かと思いましたよ、実際」
既に自分専用となった「親父の小言」の書かれた大きな湯飲みに、なみなみと好きなだけ
お茶を注ぎながら、レラさんは小さく頷いた。
「そうね。私も驚いたわ」
「俺はまた・・・・・・結局何もしてやれなかったです。レラさんに頼りっぱなしで」
「そんな顔しないで?コウタはいてくれるだけでも、十分にリムルルを支えてるわ」
「そうは言いますけど、やっぱり何か空回りしてる気がするんです・・・・・・剣術より、木彫
より、もっと大事で、もっと先にやっておくべきことってあるんじゃないかって、いつも
思うんです。教えてくれたレラさんには感謝してます。でも――」
「だから。そう難しく考えないの」
傍らに寝そべるシクルゥの背中を撫でていたレラさんの目つきが、俺に剣を教える時の
ように厳しくなる。
「あなたは良くやってる。ちゃんと努力してるわ。今回はたまたま、リムルルがああいう
混乱した状況に陥ったから私が介抱したけど、もしその代わりに、得体の知れない輩が
襲って来たとしたら?しかも私の留守中に」
何もいえないままでいる俺の手から杯をひったくり、レラさんは新しいお茶を急須から
注いだ。あつあつの熱湯で淹れた、見るからに渋そうな深緑が白い杯に映える。
467陸捨肆:2005/08/06(土) 17:25:31 ID:R7aMgP1D
「コウタ、いいこと?私があなたに教えた事で、何一つ無駄な事なんて無いわ。だから
自信を持ちなさい。あなたは空回りなんてしてない。あなたは常に前進してる」
「れ、レラさん・・・・・・」
「ほ、ほら!たまに褒められたからって甘えないの!もう一服飲んでしゃきっとなさい!」
柄でもないことを言ったと思っているのか、レラさんはあからさまにあせあせとしながら、
ずいっと乱暴に杯を返してきた。
「は、はい!頂きます」
レラさんの言葉や教えは、このお茶に良く似ている。渋みの向こうにはいつも、胸に染みる
優しさがあるのだ。
2杯目も一気にあおると、俺も立ち上がった。
「ご馳走様でした!それじゃ俺も出かける準備しますね」
「え、ちょっとコウタ、そっちは」
「レラさんのお陰でだいぶ気合が入りましたよ!よしっ、もう一度顔洗うかな!今日は
長いぞ!朝から夜までカーニバルだし」
「顔洗うって、ちょっとコウタ?!」
肩をぐるぐると回して、俺は洗面所のドアを開いた。
「あ」
ドアが開いた瞬間、完全に記憶から飛んでいた先客とバッチリ目があう。
「あいや」
先客は冬だというのにパンツ一丁で、冷水で洗い終わった雫の残る顔をタオルで拭いて
いるところだった。
顎から垂れた雫が首を伝い、小さく膨らんだ胸元に届くのをしっかり見守るぐらいの時間が
あって、洗面所の時間が動き出した。
「いや〜、ハッハッハ。リムルル・・・・・・まだ着替え終わってなかったのね」
点になっていた先客の顔がみるみる赤くなり、髪の毛がぶわわと総毛だって・・・・・
468陸捨肆:2005/08/06(土) 17:26:19 ID:R7aMgP1D
・・・・・・・・・・・・


「ぐふぅ・・・・・・い、いっでぎばーず」
「アホにいさま!ヘンタイ!死んじゃえ!!」
アパートの通路を頼りない足取りで行く兄の背中めがけて罵倒の限りを尽くし、リムルルは
玄関のドアをバターンと音を立てて閉めた。
「やりすぎじゃあないの?ちょっと」
その様子を腕組みして後ろから見ていたレラが心配そうに尋ねる。
「全然!ビンタ4往復じゃ足りないんだよ、ホントは。あーあ、コンルに頼んでお仕置き
してもらえば良かった」
「ふふ・・・・・・穏やかじゃないわねぇ。さ、お皿洗うわよ、拭くのを手伝ってね」
「はぁーい」
ぷりぷりと頬を膨らませたまま、リムルルは壁にかかっているエプロンを取った。
「アホでヘンタイでも、エプロンはコウタのを使うわけ?」
レラが面白そうに言った。はっとリムルルが腰に目をやる。
たらんと床に届いて垂れ下がっているのは、紛れも無いコウタ愛用のエプロンだ。
「うっ、べ、別ににいさまのだから使ってるんじゃないもん。近くにあったからだもん!」
「ふぅーん。そう。それじゃあ私のと換える?」
コウタがリムルルのために用意した短めのエプロンをレラが腰から外そうとすると、リム
ルルはそっぽを向いてしまった。
「いいったら、別に外さなくても。にいさまのでいいもん」
「にいさまの『が』いいんじゃなくて?」
「もぉ〜っ、ねえさましつこい!もういいでしょ!!」
腕を振り回すリムルルの顔は、りんごのようにすっかり赤くなっていた。
しかしこんな軽い言い争いがあるのも気心が知れているからこそで、一旦洗い物が始まれば、
二人は台所に並んですぐに笑いながら手を動かした。レラが洗い、リムルルが拭く。これが
普段のスタイルだ。
469陸捨肆:2005/08/06(土) 17:27:05 ID:R7aMgP1D
「でね、ケーキの話の続きだけどね、色んな味と形があるんだよ!」
「へぇ・・・・・・楽しみねぇ」
きゅっきゅっと音を立てて茶碗を拭きつつ、リムルルはケーキにかける情熱を爆発させる。
「果物がくっついてたり、器に入ってるのもあったり、それからね、ふわふわじゃなくて
サクサクっていうのもあるんだよ?」
「そんな物、私にも食べられるのかしら?」
「大丈夫だよ!レラねえさまもきっと気に入るよ?あまーくて美味っしぃんだから!」
「そうね、お菓子も素敵な贈り物よね。ところで・・・・・・」
レラはリムルルの話が途切れるのを待っていた。最後の茶碗を洗い終え、リムルルがまだ
拭き終わっていないものの上に重ねながら、ゆっくりと切り出す。
「リムルル実はね、私からも贈り物があるのよ」
「えっ?」
リムルルが食器を拭く手を止めて、大きな目をぱちくりさせた。
「贈り物?わたしに?」
「えぇ。そう・・・・・・」
レラはこの期に及んで少しだけためらっている自分を内心で嘲笑しつつ、言った。
「あなたがこの時代に来た理由を、少しだけ果たさせてあげようと思って」
「わたしが来た理由・・・・・・」
起きてまだ1時間も経っていないリムルルの瞳が惑った。
思い出している――いや、思い出すまでも無いのだろう。自分がこの時代に来た理由。
それはリムルルの「命題」なのだから。
困惑を示していたリムルルの顔が、次第に熱い期待に満ちてゆく。
「待ってたの・・・・・・ずっと」
ぽつりと、リムルルが言った。
「待たせてごめんね、リムルル。ナコルルに・・・・・・会いたかったでしょ?」
「うん。でもその、ち、違うよ?」
リムルルがぶんぶんと首を横に振った。
「あのね、違うの。ホントはね、レラねえさまに頼るつもりは無かったんだ」
「・・・・・・どういうこと?」
470陸捨肆:2005/08/06(土) 17:27:40 ID:R7aMgP1D
手に握り締めた茶碗から床に水がしたたるのにも気づかないまま、リムルルは答える。
「自分の力で何とかしようと思ったの。だってね、レラねえさまもずっとナコルルねえ
さまと一緒で、それでやっと私たちと一緒になれたのに、それなのにナコルルねえさま
の話ばっかりしてたら・・・・・・レラねえさまも大事な家族なのに、そんなのおかしいから」
「リムルル・・・・・・あなた」
レラはリムルルの独白を聞きながら、昨日の一瞬でも「自分のことを忘れないでいて
くれるだろうか」などと考えていた自分自身を叩きのめしたくなった。
リムルルは一番大事にしなくては行けないことを後回しにしてまで、自分を思ってくれて
いたのだ。どうりでわがままも聞かれなくなったはずである。
なんて、なんて可愛い妹だろう。
「あ・・・・・・ありがとう。自慢の妹だわ」
震える声を抑え、レラがそっと頭を撫でると、リムルルはえへへと照れくさそうにした。
「さ、準備が出来たら早速行きましょう。シクルゥが連れて行ってくれるわ。コウタが
帰ってくる前には家に戻ってくるわよ?」
「えーっ!い、今から?」
後ずさりするぐらいびっくり仰天したリムルルを見て、レラが逆に驚く。
「そんなに驚くことかしら?だってリムルルあなた、ずっと会いたがっていたじゃない」
「そ、それはそうだけどね?いざ会うとなったらその、準備とか色々いるでしょ?突然
過ぎるよぉ・・・・・・ぶつぶつ」
リムルルは下を向いてもじもじし始めた。レラもさすがにじれったくなる。
外したエプロンを無造作に壁のフックに投げ、
「なーにを気長なことを言っているのかしらこの子は。ナコルルはもう――」
「もう?なに?」
「いえ・・・・・・そう、もう待てないぐらいに、あなたの事を待ってるに違いないから」
「そ、そっか」
――わ、私は何を言うつもり?バカ!
疑うことを知らない性格の妹のお陰で、レラはぎりぎり、事無きを得た。
ナコルルの命の危機なぞを知らせたら、リムルルをさらに不幸のただ中へと叩き込むことに
なるのは目に見えている。あまりの迂闊さにレラは背筋が凍る思いだった。
471陸捨肆:2005/08/06(土) 17:28:16 ID:R7aMgP1D
「さあ、分かった?あなたが思う以上にあの娘もリムルルに会いたいわけよ!」
レラはほぼ完璧な平静を装い、リムルルの広いおでこを指差して、もっともらしい事――
ナコルルが起きているのなら実際そうなのだろうが――を言い聞かせた。
少しの迷いの後、リムルルもぐっと決心を固めた表情になる。
「分かった。準備する。急ぐ」
「そう。良かった。私の贈り物・・・・・・受け取ってくれるのね」
「うん、もちろん!わあっ、床びしょびしょだ!急いで拭くね」
「ええ、お願いよ。私ちょっと厠に行ってくるから」
レラはやっとの事で床の異変に気づいたリムルルに言いながら、足早に台所を後にして
トイレへと向かった。
扉を閉めた途端、レラは便器に座らず、その前にしゃがみ込んだ。
心の中にあるのは安堵。それから悲哀。嫉妬もある。そして、ただならぬ喜びの塊。
自分の中に、多様すぎる感情の数々が渦巻いている。
このままではどうなるか分かったものではなくなったレラは、たまらず部屋を出て逃げ
出してきた。感情の整理もつけられない、こんな自分の姿を実の妹に見られるのは、
どうしても我慢ならなかった。
こんなに心を引っ掻き回された経験はレラには覚えが無い。喜怒哀楽の境目が曖昧になって、
お互いがお互いを上塗りしては、その下からふつふつと泡立ち、さらに混沌を深めている。
だが、レラにはちゃんと見えている。厠の天井に吊り下がった裸電球のような、明け透けで
何の飾りも無い、だからこそ余計に響いたリムルルの言葉。
「あんなに・・・・・・私の事、気にかけていてくれたなんて」
しゃがみ込んだまま、レラはじんと熱を持った目頭を押さえた。やっぱり部屋を飛び出して
正解だったらしい。
こんな格好の悪いところ、やっぱり妹には見せられない。
472陸捨肆:2005/08/06(土) 17:28:57 ID:R7aMgP1D
床と、そして皿に残っていた水滴を拭き終えたリムルルは、壁にもたれて、静かに部屋の
中で佇んでいた。
「コンル・・・・・・。ねえさまにね、会えるんだって。今日、これから」
自分の頭の高さで漂うコンルに、とりあえずそう伝える。
「シクルゥ、連れてってくれるんでしょ?ありがとう」
部屋の隅で寝そべっているシクルゥにも、お礼をする。
あまりに急激な動きだった。姉は絶対に自分の力で探し出すんだと、決意を固めていた
せいもあったろう。リムルルはまだ少し、頭がくらくらしていた。
姉に会える。
これから起きようとしている事を、何度も何度も確認する。
レラは嘘をつかない。絶対にだ。言った事は必ず守る。シクルゥだって自分達を背中に
乗せたなら、約束を破るはずはないだろう。どう転んでも、結果はひとつだ。
「会える・・・・・・会えるんだね、わたし」
エプロンを壁にかけ、リムルルもやっと動き出した。
まだ実感は沸かない。うきうきとした気持ちでもない。緊張とも違う。どこかでまだ、
半信半疑なところがあるのかも知れない。
でも、きっと会いたいと願い続けたその人と顔を会わせる瞬間までこんな気持ちのまま
なんだろうと、リムルルはどこかで理解していた。
とにかく、少しせっかちな姉に急かされる前にと、リムルルは出かける準備を始めた。
大切な姉に会うのだから出来る限りの盛装をするのが必要なのはもちろん、シクルゥに
よれば姉の居場所はカムイのみが知る神聖な土地なのだそうだ。ジーンズのような普段着
ではまずい。
「えーっと、あった」
何かあった時のためにと、カムイコタンを出る際に持ってきておいた晴れ着(ルウンペ)と
長めの下穿きを、リムルルは持ち出し袋の中から取り出して、慎重に畳の上に広げてみる。
眩しい白を基調にして、空色の縁取りと切伏の模様、それに紺色の唐草刺繍が入った晴れ着。
本当はもっと落ち着いた色で作るのだが、リムルルがコンルを連れていることもあり、
氷のカムイに敬意を表して、このような目にも爽やかな配色になっている。
473陸捨肆:2005/08/06(土) 17:29:45 ID:R7aMgP1D
ルウンペは大変な貴重品だ。ところどころに外界からしか渡ってこないなめらかな絹が
使われているし、裾から肩まで余すところ無く全身を飾る優美な模様は、一人で縫うと
したら何ヶ月かかるか分からない。
そんなものを何故リムルルが持っているのかと言えば、これはチチウシを受け継いだとき、
すなわち新たなアイヌの戦士の誕生を祝して、コタンの人々から送られたものなのである。
だからこれを着るときは、姉の生存を心から信じて止まなかったリムルルは、決まって
複雑な気分になったものだった。でも今日は違う。
戦いの中に散ったことにされた姉の魂を弔うためではなく、その姉に会うためにこれを
着るのだから。
「よいしょ・・・・・・」
下を履き替え、晴れ着に袖を通して腰帯をきゅっと締める。お腹を緊張させる閉塞感が、
今の不思議な気持ちにふさわしく感じられた。
最後にハハクルを腰の後ろで結わけば、着替えは終わりだ。
「どうかな、コンル?」
居間を出て洗面台の鏡の前に立ち、くるりと回ってみる。久しぶりだったが、見たところ
上手に着られていた。胸の辺りも、前に比べたらちょっとだけ膨らんでいるように見え
なくも無い。首飾りが無いのが残念だけど、ちゃんと着られているよ、とコンルも言って
くれて、リムルルはほっと一息つく。
「リムルル、きれいよ・・・・・・とっても」
鏡から振り返ると、トイレから出てきたレラがリムルルの盛装姿に見ほれていた。
「それならカムイの森でもちゃんと迎え入れてもらえるでしょうね」
「そ、そうかなぁ」
「もちろんよ、さあ後ろを向いて?仕上げにマタンプシ(鉢巻)を巻くところだったん
でしょ?私がやってあげるから」
リムルル愛用のマタンプシを受け取り、レラはしゅるりとリムルルのおでこに合わせた。
474陸捨肆:2005/08/06(土) 17:30:17 ID:R7aMgP1D
あの、大人っぽくしてね」
自分の顔を映す鏡と真面目な面持ちで睨めっこしながら、リムルルが言う。
「少しは大人になったんだよって、ナコルルねえさまに見せてあげるんだからね」
「わかったわ。そうね・・・・・・どれ、これでどうかしら?」
少し考えて、レラが両手を動かすと、マタンプシがしっかりと前髪を留めた。
本質的には結び方に変わりは無いが、いつもは耳の後ろや、頭の上でふわりと大きく
広がる蝶々を控えめにし、前からでは見えなくした結び方である。
すまし顔を鏡に映しながら、右、左と首を回して確認する。
「かっこいいね、これ!」
リムルルはにっこりとした。
「レラねえさまありがとう。これでわたしの準備はおしまい!」
「そう。それじゃ・・・・・・行きましょうか」
居間に戻ると、レラは壁際に立てかけてあったチチウシを腰ではなく肩に掛け、背中に
斜めに回した。盛装では、刀はこのように着用するのが常だ。今日はそれにも増して、
もう片方の肩にライフルも背負う。背中から見ると×の字だが、自分の勇ましさを示す
ためにも、出来る限りの武装をするのが戦士の盛装だとレラは考えたのだった。
その上に、どこからか取り出した灰色の外套をひらりと纏って、レラも準備を終える。
「さぁ、あなた達・・・・・・出られるわね?」
襟元のマフラーを鼻の高さにまでたくし上げながら、レラは部屋を見回した。
すでに立ち上がり、二人の格好をじっと見据えて待機しているシクルゥ。
リムルルの横できらきらと回り、盛装をより美しく華やかにしているコンル。
そして、両手をそれぞれ握り固めて、神妙な面持ちでレラを見つめるリムルル。
全員の態勢が整ったことを確認して、レラはがらっと窓を開いた。

「さぁ、行きましょう。カムイの森、ナコルルの所へ」
475陸捨肆:2005/08/06(土) 17:30:51 ID:R7aMgP1D
開け放たれたアパートの窓から、突風が吹き荒れた。窓が鳴り、コンルが作った透明な
氷のガラスがぴりぴりと震えた。無用心にも、窓は開け放たれたままだった。
冬の空気の中を進んでいく突風。その誰の瞳にも映らない北へと向かう風の渦を、ある
男の一対の目が、人知れずじっと見つめていた。落ち葉の動き、人の反応……それ以前に、
空気の流れそのものを見える実体として、彼の目は認識していた。
午前の光の中にも、影は存在する。それは太陽をさえぎる物の後ろであるなら、どこで
あろうと見つけることはたやすい。足元を見れば、必ずその黒い影は自分を追いかけて
いるか、少し前を歩いている。万物はその淵に影を連れている、そう言える。
そして黒ずくめの彼もまた、影と呼ばれていた。
人の歴史の暗部に潜み、誰にも知られることは無く、しかし歴史上のどこにでも存在する、
存在しうる影――その名を、伊賀流忍者・服部半蔵。
大きな狼の背に乗った一行がやがて姿を消し、空気が余韻を残すのみとなった頃、半蔵は
ひとり、目を閉じた。途端、自分を中心として、果ての見えない書物の棚が彼を包む。
飾り気のない燭台の灯りに浮かぶ棚に収められている巻物には、この国の歴史を裏から
区切るにふさわしい、決して誰にも明かされることの無い闇の歴史――影――の概要が、
簡潔に書かれていた。内容は偵察から始まって、中には誅殺など物騒なものも多い。
その書棚の通路の中を、半蔵は過去の方へと静かに歩む。
あの時、その場所。「そこにいた彼」が見た歴史をさかのぼる。
そして半蔵はある一つの棚の所で足を止め、自分の目線の少し上に収められた巻物のひとつ
を手に取った。
かすれた表面に「アンブロジァ」と残ったその巻物を紐解くと、紙の上に白黒の映像が
映し出された。土地が破壊され、荒天から降りかかる魑魅魍魎が人々の命を食らう、地獄
を思わせる風景が、からからと途切れ途切れの立体映像となって浮かび上がる。多くの
命が奪われた理由は今でこそ「大ききん」などと片付けられているが、あの時確かに、
地上は魔界に呑まれようとしていた。
476陸捨肆:2005/08/06(土) 17:31:35 ID:R7aMgP1D
だがこうして、歴史は今も前進している。魔界の侵攻という絶対的な窮地は、修羅と羅刹に
生きる剣士たちの手によって食い止められたのだった。しかしそれで全てが終わったわけ
では無かった。魔界が地上に残した爪あとは驚くほど深く、悪は去ったところで、滅亡は
時間の問題かと思われた。流石の半蔵も、万策尽き果てていた。
それでも、奇跡は起きた。北の国から魔の気配に引かれてやって来た若き少女剣士が、
その身体を不可思議な光に変え、大地を癒したのである。
こうして、世界を襲った究極の危機は幕を閉じたのだった。
「しかし」と、半蔵は瞳を開き、記憶の世界から舞い戻った。高い鉄塔の頂上へと軽々
その身を移し、街を見下ろす。誰の目にも留まらない。
今日はなにがしかの祭日だった。街は人でにぎわっている。楽しげな音が聞こえてくる。
いつもと何ら変わらない平穏無事な世界だと、一見ではそう思われる。だが、あの時と
同じ、いや、それ以上の危機が世界に近づいているのを、半蔵は感じていた。世界的な
高度成長の裏で、地上の均衡が崩れ始めているのだ。この機に乗じ、この世を転覆させ
ようと新たな企てをする者がいつ現れるとも限らない。そういう機運が、冷たい空気の
中にぴりぴりと満ちているのを感じるのである。
その不吉な勘が正しいものだと暗示するかのような、氷の少女の飛来があったのは一ヶ月前
だったろうか。半蔵は主命を受け、この一件について本腰を上げた。
今日も半蔵は、影から影へと飛び移る。
477陸捨肆:2005/08/06(土) 18:00:03 ID:jIjPvFLv
やんごとなき理由で休んでましたが、生きてます(・∀・)ノシ
478名無しさん@ピンキー:2005/08/06(土) 18:24:19 ID:/F0tYPc4
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
479名無しさん@ピンキー:2005/08/07(日) 01:42:18 ID:1lTVUKHN
半蔵キタ Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!
480名無しさん@ピンキー:2005/08/10(水) 04:58:24 ID:b5VvoQkF
まとめサイトで更新されてて飛んできました。
いつもながらGJです。
新章突入+新キャラ投入。続きが楽しみです。
481名無しさん@ピンキー:2005/08/14(日) 01:45:20 ID:a4WeDXMm
age
482陸捨肆:2005/08/15(月) 21:38:48 ID:Gk1GI/tf
「コウタっくぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
やめろ触るな!
「んもう、信じてた!あたい信じてた!ぜーったい来てくれるって!」
帰ります。有無を言わさず。
「だーっ待って!しかしどうして!確か今日はラブリィな妹と、昼夜を問わない聖夜の
合体さぐぁ」
この口か。えぇ?この口か!
「ふびばべいへへへ!はーっ、はーっ・・・・・・乱暴だぞコウタ!アヒルになるとこだろ」
アヒルじゃ生ぬるい。お前なぞ豆腐のカドに頭ぶつけて大豆になればいいんだ。
「言うねえ!今日の飲み会のメニューにチゲ鍋あるからさ、その時に考えるよ」
・・・・・・。
「で、本当にいいのかい?妹さんは」
あーっ、いや・・・・・・そのさ、6時ごろには帰るんだ。だからそれまででも・・・・・・いいか?
「オーウッ、マイフレンッ!誰がノンなどと言うものかよ!飲んでって飲んでって!」
分かったから腕を組むな。んで、何時から?
「只今の時刻えーと11時。酒池肉林の宴まで残すところ、あと1時間でございます」
昼から開けてくれるんだから話の分かる店だよな・・・・・・。
「あぁ、店主がウチのOBなんだぞ。その頃からの伝統らしいよ?」
うへぇ、あのヒゲのオッサンが?そんな昔から機械系はモテナイ君だらけだったのか。
「俺達、人生たどる方向間違えてるよね〜。でもいいんだ、俺はそのわき道を選んだお陰で、
コウタのような究極ポンヨウに出会うことが出来たアルから。シェシェ!ピンフ!」
この調子であと一時間、俺は異国人同然の日本人と過ごさなきゃいけないのか・・・・・・。
「あいやいやいやいや。その一時間さえですね、今の我々にはかけがえの無いモノですよ」
え?何だよ?
「あのさコウタ、大変申し上げづらいんだが・・・・・・期末テストのことマジ忘れてない?」
うわぁぁぁぁぁ〜〜〜・・・・・・ビンゴ。図星。俺の辞書にその単語無いわ〜。
483陸捨肆:2005/08/15(月) 21:39:44 ID:Gk1GI/tf
「いーじゃんいーじゃん!忘れよう!忘れましょう!今日は無礼講!暗い顔ナシナシ!」
お前っ、思い出させておいてそりゃねーだろよ!ノート出せよノート!
「ごっめーん、もうカバンの中は今日のために仕込んだ手品グッズだけなんだよ」
何のために俺にテストのネタ振りやがったんお前はぁ!うっ、ぐあ、眩しッ?!
「いーぃ表情だよ・・・・・・コウタくん。怒ってる君も最高だァ。どうだい、このシャッター音。
何かこう・・・・・・響かないかな?光るたび、ズシって。股間辺りとか。どう?どう??」
てめぇ・・・・・・
「いい、イイよ!最高だ!嗚呼もう一枚、このカメラの中に怒れる君を閉じ込めさせてェ!」
てめーは豆乳鍋に頭突っ込んで死 に や が れ ――!!


・・・・・・・・・・・・


レラの背中にしがみついてシクルゥに跨ったリムルルは、心地よい空気の流れに乗って、
凄い速さで流れ行く風景を全身で受け止めていた。
知らない場所、知らない人達、知らない音、知らないにおい。
髪の毛を揺らし、頬をすべって後ろへと去っていく世界。
細い裏路地も、大きなビルの谷間も、人ごみも海も川も山も空も関係なかった。
――すごい!わたし達・・・・・・風になってるんだ!!
「うわ――――――――――!!」
最高の自由を手に入れた優越感に、リムルルは我慢も忘れて大きな歓声を上げた。
それが風の音となり、街路樹に負けじとしがみついていた葉をことごとく大地へと誘う。
すっかり踏み散らされたはずの霜柱がもそもそと大地から蘇り、子供達を喜ばせる。
遠く離れた大陸から太陽を覆い隠す厚い雲を次々と呼び集め、今夜ばかりはと空を見つめる
人々に、むずむずするような高揚感をもたらす。

今日は、クリスマス・イヴ。
リムルルが初めて経験する異国の、一番幸せなお祭りの日。
冷たく優しい氷のカムイに愛された少女が、笑い声と共にこの国に本格的な冬を撒き
散らしていく。
484陸捨肆:2005/08/15(月) 21:40:41 ID:Gk1GI/tf
「んぅ・・・・・・ん」
そんな幸せを。
シクルゥの背の上で体験した不思議な感覚を思い出しながら、リムルルはまぶたをとろけ
させていた眠気から覚めゆっくりと目を開いた。
飛び込んできたのは、深い緑色の樹木に覆われた天井と、そこからこぼれたまだら模様
の木漏れ日に染まるレラの顔だった。
差し伸べられた手を見て、初めて自分が地面を下にしていることに気づく。リムルルは
無言で姉の手に掴まって立ち上がった。
「リムルル、気分はどう?」
「ん、平気・・・・・・」
リムルルは目を擦りながら答える。
「ずいぶんと良く眠っていたものだから、起こすのためらってたとこだったのよ?」
リムルルの身体に被せていた外套を折りたたみながら、レラが尋ねた。
「ん、とっても良く寝た。もうちゃんと起きてるよ。だいじょぶ」
少し傾きながら爪先立ちの背伸びをして、リムルルは鼻から思い切り空気を吸い込む。
そして万歳をしたまま、辺りを見回す。
寝不足気味だった頭を覆っていたまどろみは一瞬にして破られた。
「うわぁ・・・・・・」
心底から出た驚嘆の声だった。そこは想像を遥かに超える、深い深い森だった。
大自然の英知を年輪に変えた木々。兄のアパートよりもずっと高く、大人10人が手を
つないでも囲めないぐらいに太く育った巨木がそこかしこに居を構えている。その枝には、
季節を感じさせない青々とした葉を幾重にも重ねている。
見上げても見上げても……緑色が続いて終わらない。
「うっわわぁ、わ、うわっ、たっ?」
背伸びを解くのも忘れ、いつの間にか口をぽかんと開いて緑の天井を見上げていたリム
ルルが、バランスを崩して倒れかけた。だがそのすぐ背後にも、苔むした巨木がずっしり
とそびえ立っていた。リムルルの小さな身体は、いとも簡単に受け止められた。
485陸捨肆:2005/08/15(月) 21:41:44 ID:Gk1GI/tf
やけにでこぼこと波打っている茶と緑の地面は、良く見ればそれ自体が太い木々を支える
たくましい根っこだった。要は、地面の表面に見えているのは殆どが木の根なのだ。その
隙間を縫うようにして、色とりどりの花々がところどころに咲き乱れている。
「すてき!」
今度は転ばぬよう、慎重にぴょんぴょんと根っこから根っこに飛び移りながら、リムルルは
近くの花の群れのひとつに飛び込んだ。
ここで花摘み遊びを始めたら、数年はここから動きたくなくなるに違いない。初めて見る
不思議な花の数々は、どれもこれも一杯に花弁を広げ、柔らかな木漏れ日の恵みを受けて
輝いている。
「すごい・・・・・・これがカムイの森!」
「えぇ。アイヌモシリが生まれてから今日まで、人の手を避けて時を刻んできた森なんだ
そうよ」
花のじゅうたんに腰を下ろしてはしゃぐリムルルの横に、レラが近づいてきた。
「アイヌモシリ(人里)にあって、人の手を離れている・・・・・・だからカムイ以外、その
存在を知る者はいない。100余年前、魔界の者もさすがにここには気づかなかった」
「だから、ナコルルねえさまもここにいるんだね?」
確信めいた顔でリムルルがレラの言葉を継ぎ、こうはしていられないと立ち上がる。
「やっと、やっと会えるんだね!」
「えぇ。ここから先はシクルゥが道を教えてくれるわ。ほら、お待ちかねみたいよ?」
レラが視線を送った。根のうねりが作り出したなだらかな上り坂の向こうで、シクルゥは
いつものようにじっと黙ってこちらを見据えていた。コンルも一緒だ。
「シクルゥー!コンルー!おーい」
「さあ・・・・・・いいわね、リムルル」
興奮に色めき立つリムルルをいなすように、レラが今一度静かに念を押した。
リムルルが友人たちに振る手を止め、真顔に切り替わって全身をくまなく点検する。
帯はゆるんでない。衿は曲がってない。お尻はちゃんとはたいた。ハハクルはちゃんと
腰の後ろにある。マタンプシの位置も大丈夫。前髪もこぼれてない。
そして、わたしの気持ちも決心も変わっていない。
姉に、ナコルル姉さまに会いたい!
486陸捨肆:2005/08/15(月) 21:42:23 ID:Gk1GI/tf
「うん。行ける・・・・・・行こう!」
リムルルは大きく頷いた。ついに、姉のいる先へと確かな一歩を踏みしめる時がやって
来たのだ。
走り出したい気持ちを止めて、歩調だけでも冷静にと言い聞かせる。
しかし、レラから見ればリムルルは笑ってしまうぐらい動揺しまくっていた。
リムルルの後ろを少し離れて歩く自分を振り返ったと思えば、向こうに見えるシクルゥ
達の方を見てを繰り返し、木の根っこに貼り付いているどうでもいいような苔にさえ足を
とられそうになっている。
焦ってどうしようもないのにその気持ちを無理に押し止めているから、身体と心がぎく
しゃくとかみ合っていないのだろう。
あまりに危なっかしいリムルルを見るに見かねて、ついにはコンルが飛んでくる始末だ。
「だ、大丈夫だよコンル・・・・・・おぉっとととぉ!?」
高々相棒が近寄ってきたぐらいで、言ってるそばから根っこにつま先を引っかけて手を
地面に突いてしまうようでは、ちっとも大丈夫ではない。
リムルルは結局、シクルゥの背の上に乗せられてしまった。
「だから!自分で歩けるのに」
子ども扱いされるのが嫌なリムルルは、シクルゥの上で揺られながら唇を尖らせる。だが
横について歩くレラは、頑としてそのわがままを受け付けない。
「あのね。あんなに危なっかしい歩き方をして、せっかくの衣装が汚れてしまったら
コタンのみんなに顔向け出来ないでしょう?」
「だから気をつけるってば!」
食い下がるリムルルを前に、レラがそっぽを向いた。
「そう、分かったわ。勝手になさい・・・・・・泥だらけの姿でナコルルに会いなさいな」
「うっ・・・・・・わ、わかった。シクルゥごめん、ナコルルねえさまのところまでお願いね」
「姉の名前」という弱みをすっかり握られているとも知らず、リムルルはその名を聞いた
とたんに大人しくなってしまった。
上手いことやるなぁとコンルに妙に感心され、レラはリムルルに見えないようしーっと
人差し指を口に当てた。
487陸捨肆:2005/08/15(月) 21:43:47 ID:Gk1GI/tf
現にリムルルの頭の中は既に失敗の事などはどこ吹く風で、ナコルルの事で10割が占め
られてしまっている。
今、姉がどのような状況になっているのかという予備知識は殆ど皆無だ。この大きく果て
しない森の一番深い場所で、木々に守られ眠っているという事だけをレラに聞かされて
知っているばかりである。どのように眠っているのかまでは分からない。
――寝ちゃってるんじゃ、お話はできないかもなぁ・・・・・・。
なら、もしも自分が起こしたらどうなるのだろう。リムルルの胸に素朴な疑問が浮かぶ。
いつだったか、前日に執り行われた大がかりな祭りの儀式で消耗し、昼まで寝坊していた
姉を起こしたときのように、肩を揺すったら「もう・・・・・・起きます」なんていいながら、
寝返りを打ったりするのだろうか。
いつも起こされてばかりだったリムルルにしてみれば、姉を起こした記憶は片手程度しか
無い。この時は起こしたはいいが、寝返りの拍子に姉の無邪気な寝顔にかかった黒く長い
髪を耳の後ろによけてあげると、またすぐに眠ってしまったのを思い出す。
――それでお昼の準備はわたしがやろうとして、味付け失敗して、おじいちゃんが怒った
んだよなぁ・・・・・・。
ナコルルを起こした他の記憶といえば、あまり良いものはない。ウェンカムイとの激しい
戦いで負った怪我で苦しんでいたり、夜中に吹きすさぶ風雨の音にうなされたり、そんな
苦しげな姉の寝顔ばかりだ。だから本当に眠っているのだとすれば、是非ともすやすやと
眠っていて欲しいものだとリムルルは思う。
しかし眠りながらも自分の力を消費して、ばらばらになりかけたアイヌモシリを守って
いるのだからそんな虫のいい話はないかもしれない。やせ細っていたらどうしよう。
いやいや、もう一人の姉は毎日とても元気だ。今朝だって食欲もすごかったし、たった
たったと歩くシクルゥの歩調にも全く遅れをとっていない。それなら元気かもしれない
じゃないか。
いや、実は姉は元気どころか健康そのものなのでは。ここから見上げるこの緩やかな斜面の
上で、ママハハと共に自分達の到着を今か今かと待ちわびているのでは――
488陸捨肆:2005/08/15(月) 21:44:41 ID:Gk1GI/tf
「リムルル、リムルル!リムルルちょっと?」
「はっ、は、はいっ?」
想像の中で、昔と何も変わっていない姉と幸せな再会を果たす直前で、リムルルはレラの
声で現実に引き戻された。
「ぼーっとしていたらダメよ。もうすぐなんだからね」
言われてみれば、一行は結構な距離を進んでいた。遠いと思っていた斜面の頂上もすぐ
そこに迫っている。振り返って自分が座っていたお花畑を探そうにも、どこまでも続く
大木と花畑の繰り返しの風景に紛れて、もうどれがどれだか分からなくなっていた。
耳を澄ませば、どこからか水が流れる音も聞こえる。近くに川があるようだ。
「うん。ごめんねレラねえさま。あぁ、ちょっと緊張してきたなぁ」
「そう、気を引きしめないと。カムイにも笑われちゃうわ・・・・・・さて」
リムルルが頭を振って飛んでいた気持ちを正していると、レラがなぜかぴたりと足を止めた。
「えっ、ちょっとシクルゥ、止まって!」
それを見たリムルルが、またがっているシクルゥの頭をぺんぺんと叩く。
「どうしたの、レラねえさま」
「ふふ、私はここで待ってるわ」
肩から下をすっぽりと隠していた外套を外し、木の根の上にふわりと広げると、レラは
そこに腰かけた。
「3人で行ってらっしゃい。ちょっと私は・・・・・・」
「えっ、でも」
「あの娘はもう一人の私自身だからね、自分で自分を見るのは気が引けるわ。それにリム
ルル?あなただって色々、二人きりじゃないと話せないことだってあるでしょうに」
根っこの上に座り、投げ出した足をぶらぶらさせながら、レラが笑った。
「それはそう、だけど」
「シクルゥ、後はよろしくね・・・・・・大急ぎよ」
「でも、だけどぅッ?!」
リムルルは言いよどむ暇も無かった。急に鋭さを見せたレラの号令ひとつ、シクルゥは
言いつけを忠実に守る。太い前足がじゃっじゃっと地面をかくと、巨大な狼は少女を乗せて
走り出した。
489陸捨肆:2005/08/15(月) 21:45:34 ID:Gk1GI/tf
「えっ、ちょ、ちょっと!」
シクルゥの急加速は、振り落とされたら危ないぐらいの勢いだった。リムルルは反射的に
銀色のたてばみにしがみついて頭を伏せた。
「うひゃぁばばばばば!?」
開いた口の中にがばごぼと空気を受けてしまって、もう喋ることもできない。レラが今朝、
しっかりと鉢巻を結んでくれた理由がひとつわかった気がした。
そうこうしている間にも、右から木が迫る。
それをシクルゥは、左じゃなくもっと右に避ける。
根っこを高く飛び越える。木々の枝が迫る。
・・・・・・そのまま枝葉に突っ込む。
がさがさがさがさがががべきぼきべき!
「ぶはっ!滅茶苦茶だよぉ〜〜!!ひえぇぇ!止まって!とまっ、ひえぇぇぇぇ!」
リムルルは野性を開放した狼の背中の上で、涙目になりながら叫んだ。
「レラねえさまぁ助けてっ!シクルゥ速いよ怖いよ高いよぉぉ!ひぃぃあぁぁぁ・・・・・・」

あぁぁぁ・・・・・・

「おー、速い速い」
レラが左手を腰に、右手を目の上にかざして見ていると、シクルゥは土煙を残して斜面の
向こうに消えてしまった。成る程、あれにいつも乗っている自分は、なかなかに命知らず
だと思う。
そのシクルゥに遅れるものかと、後を必死で追いすがるコンルが小さくきらきらと光った
のを最後に、ついに自分以外に動くものは周囲から消えうせた。
静寂の中に浮き彫りとなった、聞くだけで安らかな気持ちになる小川のせせらぎを楽しみ
ながら、レラは再び根に腰掛ける。
「ま、シクルゥに任せておけば安心ね」
一人つぶやきながら、自分が座っている根の主を見上げてみた。
空を支えているんじゃないかと思うぐらいの巨木。こんなに立派な樹木がこの世界に存在
すること自体が、未だに信じられない。
490陸捨肆:2005/08/15(月) 21:46:44 ID:Gk1GI/tf
がっしりとした幹は幾本も重そうな枝――それこそ、その枝自体が普通の樹木ぐらいある
のだ――を抱え、その先にはさらに山ほどの葉が広がっている。あれだけ広く枝葉を伸ばし
たのなら、大抵の樹というのは横へと広がっていくものだ。それなのにこの森では、どの
樹も迷うことなく上へ上へと真っ直ぐに伸びている。どんなに自らの腕を広げようとも、だ。
その姿は、齢を重ねれば重ねるだけ、自らの存在を天へと、最も高い場所にあるという天上の
カムイモシリへと近づけようとしているかのようである。
「カムイの森・・・・・・か」
自分の想像の範ちゅうを軽々と飛び越した空間の中で、緑色の葉の間を縫って時折届く
陽の光に目を瞬かせながら、レラはまたも小さくひとり言を漏らす。
「私のような中途半端な存在が、居ていいような場所じゃないのよね」
この余りに神々しい場所に、魂ひとつにも満たないわけの分からない自分が居る。
それだけで、漂う神気が汚れてしまいそうだった。濁りが生じてしまうのだ。
例えるのなら、川から汲んだばかりの水に泥を落としているようなものだ。その泥は
少しであってもこぼれれば水面を打ち、波立たせ、確実に水の中に広がり、透き通った
桶の中に取り返しのつかない曇りを残してしまう。
しかしそれは、レラの考えすぎでもあった。レラが発した不純さなど、雨あがりの道に
出来た水たまりを見つけた子供が、小枝でぐりぐりとかき混ぜるような他愛の無いものだ。
そう、レラ一人をこの場にとどまらせた、どす黒くどこまでもぶしつけな気配に比べれば。
491陸捨肆:2005/08/15(月) 21:48:20 ID:Gk1GI/tf
ぽつっ。

また一滴。また一滴。レラの眉間を狭まらせる真っ黒な滴りの音が、悪の存在を敏感に
察知するレラの頭の中に忌々しい響きを残す。
とっさの判断だったが、シクルゥに命じてリムルルがその気配に気づく前にこの場から
退かせたのは英断だったと、レラは自分でも思う。
なぜなら、その気配はとんでもない質量を持った「悪」の気配だからだ。
どうやってこの神聖な土地に忍び込んだかは知らない。しかし、自分の警戒網の中に何の
前触れもなく降って湧いた黒点の存在に、レラは拳を固くする。

ぽつっ、ぼとっぼとぼとっ、どぽっ。

だがそんなレラをあざ笑うかのように、その「悪」の気配は時を経るにつれどんどんと
おおっぴらに、あからさまに、レラの神経を逆なでするように存在を膨らませてゆく。
もう桶などでは足らない。真っ白な半紙に墨汁を垂らしているようだった。その真っ黒な
気配はじわじわと音も無く広がり、白く清い空気を四角の隅へと追いやり、カムイの森と
いう名の半紙を今にもどろどろに塗りつぶそうとしている。
「ここだここだ」と存在をひけらかし、あろうことか最強のアイヌの戦士を手招きしている。
右を向いた目線の先、木々を前から数えて1・2・3・4・5・6・7。
7本目。
ここからある程度離れたその場所に、目には見えないが確かにその気配は渦巻いていた。
ただ、そこはある程度離れているとはいえ、レラの走力ならばたったの10秒だ。思い切り
跳びあがって風を捉えれば、2段跳びでも十分到達できる。1段目で呼吸を合わせ、2段目の
間にチチウシを抜き、すれ違いざまにそっ首を叩っ斬る。それも出来た、が。
あえてレラは、怒りと戦いへの衝動にけば立ちかけていた感情を抑えた。
そして天を見据え、静かに祈り始めた。
492陸捨肆:2005/08/15(月) 21:49:42 ID:Gk1GI/tf
「カムイ達よ。この森で天高くにまで手を伸ばし、アイヌモシリを支える尊き神々よ。
そして我々人間が残し得た、あなた達への最後の供物……ナコルルを、大事に大事に守って
くれた優しき隣人達よ。私のような魂一つにも満たない者が、このカムイの庭に立ち入った
事をどうか許して」
・・・・・・・・・・・・
冷ややかな森の静寂が、レラの声を空しく吸い込んだ。カムイ達は息を殺しているのだろう
か、誰一人としてレラの祈りに耳を貸しているような感じはしない。
――怒っている・・・・・・当然ね。
そう思ったところで、無言の圧力に負けるレラではない。微動だにしないまま、天へと
祈りの言葉を紡ぐ。
「私はこの森に眠るアイヌの戦士から分かれた、純然たる戦士の魂。カムイの恵みに溢れる
アイヌモシリを汚す輩・・・・・・悪しき者達に、尊敬するあなた達から譲り受けた宝刀チチウシ
と剣技で、裁きを下す事が宿命なのです。人間とカムイの守護者なのです」
・・・・・・・・・・・・再びの沈黙。
心を尽くした言葉にさえ反応が得られない。その事に違和感を覚えつつも、戦いの時は待って
くれはしない。レラは右手を肩の後ろへと伸ばし、武器を探る。そして二つある武器のうち、
人間の文明がもたらした方、ライフルを、胸の前で構えて片膝を折った。
ゆっくりと戦いの姿勢を整える間、レラは返事を待った。だがついに、カムイ達の声を
聞くことは出来なかった。
――戦士は孤独なものね。
思いながら、レラは祈りの最後をゆっくりとこう締めくくった。
「カムイ達よ・・・・・・どうか、どうか。この戦士の魂たる私が自らの宿命に従い・・・・・・これ
からこのカムイの庭で繰り広げる狼藉を、どうか許して!」
じゅきっ。
黒い塗装が剥げた装弾レバーが一気に引かれ、小気味よい機械音が鉛弾の確かな装てんを
約束した。
戦士の両手に構えられた長い筒の先が、7本目の大木を指し示し、
こおおおおおんっ
決闘の幕開けを思わせる高らかな銃声が、カムイの森を振るわせた。
493陸捨肆:2005/08/15(月) 21:51:58 ID:Gk1GI/tf
「うっ、うごあおぉぉぉぉぉうッ!?」
寝込みを襲われたけものが悔しげに叫ぶのに似た気味の悪い男の悲鳴が、レラが構える銃口
から上り立つ煙をゆらっとくゆらせた。
そして数秒の空白の後、大木の根元に咲く花畑の上に何かが落ち、地響きがした。
色とりどりの花弁が散って舞うのも見える。
――良し。中ったわね。
レラは狙い通り、太い木の枝の上に漂っていた黒い気配のど真ん中を打ち抜いていた。
このライフルを奪って初めて撃ったときは外しようのない至近距離だったのに対して、
今回はかなりの遠距離だ。それでもレラには並外れた戦士としての勘があり、風の流れも
読める。ライフルの弾を狙い通りの場所に着弾させる事など、箸を使って豆を掴むのと
同程度の難しさでしかない。無論、それを避けるのも同様だ。
レラは淡々とレバーに手をかけ次弾を込める。臨戦体勢が整ったことを従順に知らせる
じゅきっという機械音が、新鮮で耳に心地よい。ただ、この筒の中身の詳しいことは良く
分からない。ただ銃の反動を上手く流せ、しかも狙いやすいよう、見よう見まねで構える。
そうすると、ごく自然に筒の先を、地に落ちた黒い気配にぴたりと合わせることになる。
……そしてこれも単純に、もう一度引き金を人差し指で引き絞る。
こおおおおおおんっ
「ぐっはあぁぁ!うぐあ・・・・・・あ・・・・・・」
自分の手と耳に火薬の衝撃だけが伝わり、敵の苦悶が途切れ途切れに聞こえた。
――中った・・・・・・けど、本当に効いているのかしら?
レラは、硝煙の向こう、木の下で一つの生き物のようにがさごそと揺れる花畑に疑問の
眼差しを向けながら、またもレバーを引いた。じゅきっ。機械音。
何も考えずに斬りかかれば、事はもっと早く済んでいるかもしれなかった。だがレラは
あえて銃を構える。引き金を引く。
こおおおおおおんっ
「ぐおおぉっ・・・・・・げはっ」
494陸捨肆:2005/08/15(月) 21:52:37 ID:Gk1GI/tf
別段、火器に興味があったわけではない。炸裂音も撃つたびいちいち耳につくし、手も
少ししびれる。そもそも戦士らしくない。憎むべき敵だからこそ、この手でしっかりと命を
摘み取った感触を確かめねばならない・・・・・・のだが、レバー。機械音。構える。引く。
こおおおおおおんっ
「・・・・・・!・・・・・・!!」
それに良く考えれば、この音はリムルルに届いているのではなかろうか。さえぎる物が
幾本もそびえてはいるものの、木々はそれぞれ広く開いているし、シクルゥの耳なら確実に
拾っているはずだ。
だが、絶対に戻ってきてはいけない。戻るにしても、こちらが事を終えてからにしてもら
わなくてはならない。急いでレバー。機械音。構える。引く。
こおおおおおお っっきいいいいいいいん!
その急いだ5発目で、異常は起きた。
前の4発を撃ったときの抜けるような火薬の爆発音が突然、金属同士のぶつかり合う甲高い
音に取って変わった。
それと同時に、ライフルを構えたままのレラの頭の上に乗っていた帽子が、何かに貫かれて
後ろへと吹き飛ばされたのだった。
レラは機械的に続けていた銃弾を込める動作を6度と続けることはせず、ライフルを地面に
捨て、落ちた帽子を拾いながら立ち上がった。
「銃なんて効くわけ無いわね」
レラはどこか嬉しそうに、安心したようにため息をついた。そして指一本分開いた帽子の穴
を眼の高さにぶら下げ、敵を「試すためだけ」に5度も弾を撃ち込んだ花畑を覗き込んだ。
草花に紛れて一本だけ妙な物が生えているのを、レラの強力な視力が手元同然に捉える。
異様だった。赤黒く、妖しく輝くなまくらの日本刀が、切っ先を真上に向けてそそり立って
いる。多くの犠牲者を弔う花束の真ん中に、無神経に突き立てられた不吉な卒塔婆のような
それが、先刻、レラが5発目を放った直後に花畑の中からいきなり飛び出して銃弾を弾き返し、
レラの帽子を見事に貫通させたのである。
もちろん、そのなまくらの下にはそれを握り締めている誰かがいるはずだった。
495陸捨肆:2005/08/15(月) 21:54:17 ID:Gk1GI/tf
「あれだけの気配だもの・・・・・・流石ね!倒れながら撃ち返すなんて大した腕前じゃない!」
破れも気にせず、帽子の形を頭の上で整えながら、レラが呼びかけた。
「ほら、まさかこのぐらいで死んでないでしょ?さっさと立ち上が」
「いい加減にしやがれこの糞アマがあアアアアアアア!!!」
地獄の淵に砕ける溶岩の如き、強烈な怒りの衝動をはらんだ男の怒号が、レラの言葉と
帽子を再び遠くへとかっさらった。爆発的に膨らんだ邪気がカムイの森の木々を揺らす。
枝がしなり、びうびうと気持ち悪く泣き叫ぶ。怒号に命を掠め取られた花々が次々に黒く
しおれて枯れていく。
いつしか辺りはどんよりと深紫の霧に包まれていた。優しかった太陽も遠ざかり、肌を
滑らせる湿りを帯びた邪な雰囲気が、神聖な土地を侵食している。もはやカムイの森に
あって別の場所だ。とんでもない邪気の洪水に飲まれている。
だがレラは気にしない。押し流された愛用の帽子も、溺れそうな雰囲気もどうでもよい。
ただ一点、怒号と共に草花を踏み散らして立ち上った、怨念の塊のような男の姿だけに
全神経を集中していた。
漆黒の渦の中心で右に左にぐらぐらと揺れている、ボロ布同然の道着を纏った紫色の肌。
束ねられてもぼさぼさなままの長髪、そして、濁った光を放つ2つの赤い目。
男の風体を監察していたレラの耳にやがて、薄汚い、引きずるような声が届いた。
「ひい、ふう、みい、よお・・・・・・ペッ、やってくれるじゃねェか、あァ?糞女ァ」
血の唾と共に吐き出された男の汚い言葉に、レラもそっくり言い返す。
「何を言ってるのかしらね。自分から手を打ち鳴らして私の事を誘ったくせに」
「へっ、違えねェ。殺してェ奴がまた増えちまったなァ」
「こっちこそ待ち焦がれたわ。よくもまあこれだけの邪気を、今まで隠していたものね」
レラの冷たく鋭い視線が、まとわりつく紫の霧を切り裂いて、鉛弾がめり込んだままの
男の胸に突き刺さった。
「救いようの無い魔界の男・・・・・・捜したわよ、羅刹丸」
496陸捨肆:2005/08/15(月) 21:55:44 ID:Gk1GI/tf
遠く離れていたが、男の口がにんまりとしたのが見えた。
「おォ、俺の事知ってやがるってかァ?姉ちゃんよォ。フン・・・・・・成る程なァ、噂通りだ」
「噂?」
意外な言葉に、レラの片眉がぴくりと動いた。
「かなりの上玉たァ聞いてたがこれ程たぁな。よーっく見えるぜェ?へへ、赤い唇といい
少し焼けた肌といい・・・・・・それにいい眼してやがる。キツくてよ、自信満々でよ、こっち
を見下しててよ・・・・・・くっ、く・・・・・・く」
羅刹丸が長い舌をぞろりと伸ばし、口の周りをべろりと舐めた。
「くっ、喰らいてェ・・・・・・その眼!両方ともブッコ抜いてよォ!!」
「あなた、死体を弄ぶのが趣味なわけ?ふっ、分かりやす過ぎて反吐が出るわ」
レラが首に巻いていたマフラーを目の下までたくし上げた。
「おうおうおう!せっかくのお顔が見えねじゃねェかよアア?テメエのなっちゃいねェ
格好じゃ、顔以外見るトコなんかねーんだからよォ!」
羅刹丸がさも残念だとでも言いたげに肩を大げさにすくめた。
「失礼だこと、あんたに言われたくないわ」
「へッ、この男前に気づかないってかァ?けッ、あんまりおネムが長かったから、美的
感覚が狂っちまってんだよ姉ちゃんは」
――おネム?
羅刹丸の言葉が引っかかった。
――頭は悪そうなのに、そこまで情報を掴んでいるなんて。それに噂?誰が?
驚きつつも、レラは羅刹丸の言葉を冷静に分析して重要な情報を得ていた。
察するに、羅刹丸はレラとナコルルがずっと眠っていたことを、すなわちふたりの存在を
知っており――だからこそここに居るのだろうが――その事を噂をするだけの「仲間」が
いるという事だ。倒しても「次の敵」が存在するのである。悪の根は予想以上に深い。
「でも心配ァいらねェ。着付けの天才、この羅刹丸様と出会ったからにはよォ、奇麗キレー
にしてやるぜェ、姉ちゃん」
考えをめぐらすレラをよそに、男はベラベラと下らない事を口走っている。その内容を
全て聞き流しつつ、変だな、と、レラは下品極まる魔界の男に対して素直な疑問を頭に
浮かべていた。
497陸捨肆:2005/08/15(月) 21:56:40 ID:Gk1GI/tf
さっき感じた強烈な邪気は決して幻だとは感じなかった。現に、肩をなまくらの峰で
かったるそうに叩いている男の胸には数個の弾痕が見え、そこからどす黒い血液がどく
どくと溢れ出している。魔界の者とはいえ、あの傷を負ってあんなに平然としていられる
はずが無い。男はとんでもない化け物のはずだ。なのにその体たらくときたらない。
――やはり、いや・・・・・・しかし?まさか「仲間」が近くに?その邪気だった??
レラは緊張を保ったまま、羅刹丸の事を勘ぐっていた。当の羅刹丸はまだ喋っている。
「・・・・・・からよ、真っ赤な血で頬紅塗って、俺様好みの服に仕立て直して、肌に素敵な
模様を描いてやるってんだ。姉ちゃん、アンタの妹みてえになァ!!」

チチウシが抜かれるのが早かったか、大地を蹴るのが早かったか。

でこぼこした根っこの上を一直線に魔界の男目掛けて疾るレラの頭の中を、その速度と
同じ勢いであの日の事が眩しく駆け巡る。
――アンタの妹。
――リムルル!
――リムルルの太ももに残された傷あと!
――大事な妹に刃を向け、一生消えない戦いの苦しみを植えつけた男への怒り!
――そして忘れもしないその名!
全部を繋げる男の一言で、レラの一秒前までの疑いはとうに晴れていた。
「うああああああっ!」
再びずり下がったマフラーからシクルゥのように歯を剥き出して、レラが大声で吼える。
抜き身のチチウシが青黒い霧を文字通り霧散させ、銀色の尾を引く。
498陸捨肆:2005/08/15(月) 21:58:03 ID:Gk1GI/tf
「あのクソガキのクソ姉貴だからなァ・・・・・・さぞかし楽しめるに決まってらなァ!!」
常軌を逸した速度で近づきつつある光の線を前に、羅刹丸の身体が震えだした。
口から涎を垂れ流し、身体じゅうの筋肉が強張って、がたがたと意味不明に動き出す。
「くっ、くあっ、がっ・・・・・・こ・・・・・・こ、こッこおおおお!」
理解できない言葉まで漏れ出す中、右手に握られた愛用の刀「屠痢兜」だけが、主の胸元に
ぴたりと寄り添うように押し付けられて、
「ぶっ殺すうゥアアアア!!」
殺。
羅刹丸という存在の全てを表す絶叫と共に、男は自らの手で、既に穴の開いた自らの胸板を
ずばりと切り裂いた。
どす黒い血液が、横一文字の傷跡から間欠泉のように噴出す。傷ついても壊れない、生きる
事にでたらめな魔界の心臓に食い込んでいた鉛弾が、4発全て次々に流れ落ちた。
「うひあっ、ひっ、ひ、ヒヒ、ひィエッへッへへへへへへへへへへ!!」
笑いと怒声のどちらともつかないものを恍惚の表情で吐き出しながら、羅刹丸も走り出す。
さっきまでのだらけきった仕草からは考えられない俊敏さで動く男の胸からこぼれた紫色の
しずくが、毒々しい霧に触れ、さらに色濃く狂気を輝かせる。
「たあああああああ!」
「うおごおおおおお!」
銀の刃。紫の刃。
かたや、肩に背負った世界と、それ以上に大事な妹を守るため。
かたや、待ちに待った戦の予感と、向ける先の無い狂った恨みのため。
別々の思惑を秘めた二人の戦士が、死地のど真ん中へと手繰り寄せられる。
「死になさいッ!」
「死ねやあぁァ!」
同じ戦士としての宿命を叫び合い、お互いにぶつけ合いながら。
499陸捨肆:2005/08/15(月) 22:01:22 ID:Gk1GI/tf
…………


「はぁー、ひー……」
ようやく止まったシクルゥの背中に片手をついて、リムルルはすっかり荒くなった息を
落ち着かせていた。
木肌が顔面すれすれを通って涙がちぎれた瞬間が数十回。
低く伏せてなければ確実に枝にあごを打っただろう、冷や汗の瞬間がさらに数回。
天地がひっくり返ったような、ある意味夢心地の瞬間も数回。
そして、自分も衣装も全くの無傷なことが未だに信じられない今現在。
「し、シクルゥ、あの……にいさまがね、安全運転が大事だって、言ってたよ……」
一瞬でやつれた乗客とは対照的に、シクルゥは舌も出さずに涼しい顔で向こうを向いて
いる。どうやらその指し示した鼻先に目的地はあるらしい。
目の前に突然現れた、幾本もの木々の根によってがっしりと固められた土の壁。そこに
ぽっかり口を開いた、真っ暗なほら穴の入り口。
リムルルは思う。
――ついに、来たんだ。
シクルゥの猪突猛進に無理矢理付き合わされて底を突いたはずのリムルルの元気が、待ち
望んだ瞬間を前に身体の内側から蘇り始める。もはや、昨日までの疲れさえどこにも感じ
られない。シクルゥに寄りかかっていた姿勢も自然と直って、へとへとの顔にも生気が
戻っている。
そうしてすっかり復活したリムルルの足は、自然とほら穴へと向かっていた。
暗い穴のへりを掴み、中を覗き込む。大人が入れるぐらいの高さの入り口だ。
しかしほら穴は飛び込む光を全部吸収して、中の様子を微塵も教えてはくれない。

暗闇という名の出発点。

それは、現代に生きるリムルルの過去と一緒だった。
ママハハの声に家を飛び出し、持ち主を失ったチチウシを見つけた時の絶望。
姉のために執り行われた、盛大な葬儀の中で感じた不条理。
コタンを一人飛び出し、月が昇るたびに感じた深い孤独。
500陸捨肆:2005/08/15(月) 22:02:31 ID:Gk1GI/tf
どれもこれも、今、手探りながらに進んでいるこの先の見えない穴と同じだった。
いつ転ぶかも分からない。進んでも本当はどこにも通じない、単なる横穴でしかない
のかもしれない。
だがリムルルは確信していた。姉はどこかで必ず生きているのだと。
真っ暗なほら穴の中でも、その闇の向こうからこちらへと吹き込む微かな風が、出口の
存在を如実に示すように。
その確信だけを胸に、仲間の支えを受けてついにたどり着いた姉の眠る森。
コンルのきらめきが、シクルゥの銀色の瞳が、レラねえさまの温もりが、川辺で出会った
おじいちゃんの助言が。
……にいさまの笑顔が。
全てがこの一歩を進める力になっている。
高鳴る胸から感謝と期待をこんこんと溢れさせながら、リムルルは一心不乱にほら穴を
壁伝いに前へと進んだ。
もうすぐそこだ。きっともうすぐそこなんだ。
分かる。流れる空気の質が変わってきている。冬なのにしっとり暖かい感じがする。
一足先に冬が終わりを告げ、わたしの春がこの先に待っているような気がする。
もうあと一歩、もうあと一歩――
その時だった。
念を込めた、希望に続くはずのその一歩が、不意に空を切った。下に地面が無い。
空足を踏んだリムルルの身体が、右足からぐるんと前につんのめる。
「――ぁ」
視界を封じられ、とっさに捉まる物を探る暇も無いまま、リムルルは身体が下に向けて
投げ出されるのを感じた。
「うわ――あぷっ!?」
だが、底なしの縦穴に頭から落ちたはずの身体がすぐに柔らかな物に支えられて、リムルル
は怪我を免れた。どうやら低い段差だったらしい。
とはいっても地面は水平ではなく、下へと続くきつい傾斜が待っていた。
501陸捨肆:2005/08/15(月) 22:03:50 ID:Gk1GI/tf
「うわぁぁぁぁ!?」
柔らかだったのは、積み重なった落ち葉だった。がさがさと葉擦れの音を立てて、リムルル
はどんどん加速し、葉の敷き詰められた天然の滑り台の上をうつ伏せのまま超高速で下って
いった。
先が見えないから、シクルゥの背中の上よりずっと恐い。
止まろうにもやっぱり捉まる物がない。
頭から滑っているから、踏ん張ることも出来ない。
「ひえぇぇ――――!」
情けない悲鳴を上げながら、リムルルいつ終わるとも知れない滑走劇を繰り広げた。
「こんなのばっかりだよぉぉ――!」
そう叫ぶや否や、下にぼうっと明かりが見えた。
速度に翻弄されたリムルルが、その光が何であるかを認識するよりも早く、その光はみる
みる大きくなり、
すぽーん
「うわおぉぉう!?」
リムルルはヘッドスライディングの姿勢で、目を突く明かりの中に勢い良く投げ出された。
花畑の上を、自分の身体5つ分ぐらい滑って、ようやく勢いが止まる。
頭の上をちぎれた花びらだらけにしたリムルルは、起き上がる気がしなかった。
「う〜〜、うぅぅ……」
洞穴の中には多分、10分はいたのではないか。いきなりの眩しい世界に目がつぶれる
思いだし、まだこれ以上何かあるんじゃないかと、リムルルは身構えているのである。
突然地面がぽっかり開いたり、おかしなテレビでみたように、頭を上げた途端に金色の
たらいが落ちてきたりするかもしれない。だめだこりゃ。
「リムルル?」
いやいやそんなもんじゃない。置いてきてしまったシクルゥが私の後ろから滑り台を
下ってきて、わたしの身体の上にどかっと……
502陸捨肆:2005/08/15(月) 22:05:18 ID:Gk1GI/tf
「リムルル……大丈夫?」
……何も起こらない。
「ねぇ、どこか怪我をしたの?」
いや、起こっている。
聞き覚えのある――なんてとんでもない、聞きたくて聞きたくて仕方なかった女性の
心配そうな声が、頭の上から自分の名を呼んでいる。
色彩が戻りつつある視界を埋める花を超えて、少し手を伸ばせば届くすぐそこに、見覚えの
ある茶色の靴と、赤く縁取りされた純白の衣装に包まれたその人の足が見える。
頭が真っ白のまま、リムルルは起きることも忘れて顔を上げた。
腰まで伸びた艶やかな黒髪と、見るもの全てに本当の美しさを感じさせる白い肌と微笑みと、
慈しみに溢れた瞳。
その女性は、何もかもがあの日のままだった。

「元気そうで良かった……。リムルル」
503名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 02:07:32 ID:aOLKDEcC
えええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
おあずけぇぇぇぇぇぇぇ!!??
504名無しさん@ピンキー:2005/08/16(火) 21:56:09 ID:xSl7yaKo
64乙彼!
半蔵タン何やってんだ?
505名無しさん@ピンキー:2005/08/18(木) 22:24:47 ID:14sQ2Nza
面白すぎる。
こんなクオリティの高い話を読める機会はそうそうあるものじゃない。
いつもGJ、続き楽しみにしています。
506名無しさん@ピンキー:2005/08/24(水) 00:49:40 ID:yEaQM1SO
ちんちんほっしゅほっしゅ
507名無しさん@ピンキー:2005/08/28(日) 01:35:04 ID:w6a0eJrF
一ヶ月ぶりにきた…
凄く進んでるな。
64たん204たんいつもありがとう。
それじゃあ読んでくるノシ
508名無しさん@ピンキー:2005/08/28(日) 03:31:41 ID:w6a0eJrF
うわw
ここで終わってるのか。
続き続きー!!!!
それにしてもレラが負けちゃうような気がして凄く悲しい
509名無しさん@ピンキー:2005/09/02(金) 21:41:59 ID:ANmf72CU
age
510名無しさん@ピンキー:2005/09/13(火) 01:33:50 ID:uuraDIO0
支援
511名無しさん@ピンキー:2005/09/16(金) 00:29:29 ID:HzI5SyTK
ほす
512名無しさん@ピンキー:2005/09/17(土) 21:22:59 ID:geW8GAqy
もっと女キャラのエロ小説見たい
513名無しさん@ピンキー:2005/09/23(金) 07:31:37 ID:bfO62q99
ほしゅぁ
514名無しさん@ピンキー:2005/09/23(金) 14:03:56 ID:5N8WPrSB
ガルナコもきぼんぬ
515名無しさん@ピンキー:2005/09/23(金) 21:34:09 ID:PCu3LAUk
>>514
天下一のEDで、ガルがナコより正義を選んでしまいました。
おかげでガルナコ妄想ネタが枯渇ですよ。

いや、そこでそんな事態にショックを受けて、慌てて慣れない色仕掛けでガルをつなぎとめようとするナコとか?
そういう方向に走ればいいでしょうか。いやいや、そんなんナコじゃねぇし。困ったことしてくれたな芋屋…
516名無しさん@ピンキー:2005/09/24(土) 07:37:37 ID:+blEoRnF
まあ、芋屋じゃなくて雪だけどな
517名無しさん@ピンキー:2005/09/24(土) 23:59:33 ID:+5YmuKmq
つかガルナコを排斥(無かったことに)しようというのはそれこそ真の後からのスタッフの一貫した動きだからな・・・
リムを姉萌えまくり女に洗脳したりナコりもの出したりアスラで否定させたり。

しかし否定されればされるほどなお萌え上がるのこそ真のカプ萌えってもんだ・・・
と、言いたいトコだが、サイトざっと回ってもガルナコ派の大勢はorz
518名無しさん@ピンキー:2005/09/25(日) 00:22:38 ID:K7nVHRcO
ガルEDでガルはナコを振ってしまうが、ナコEDだとガルはナコと一緒に暮らすよ。
今回の優勝のご褒美が「大願成就」なんだが、それを前提に深読みすると、
なんだかいろいろと意外だ。
519名無しさん@ピンキー:2005/09/25(日) 00:44:20 ID:Lvy+YTC3
流れを読まずに・・・


夢路タンキボンヌ
520名無しさん@ピンキー:2005/09/25(日) 02:51:03 ID:ecvG8fBF
近所に天下一がない漏れの為に
ガルEDとナコEDの内容きぼんぬ。
521名無しさん@ピンキー:2005/09/25(日) 03:29:04 ID:5h5RhuUs
真の後って言ってもポリサムやアスラ斬魔伝もガルナコあったぞ
まあ甦りしなんたらで悲恋物になった訳だが
522名無しさん@ピンキー:2005/09/25(日) 11:23:51 ID:K7nVHRcO
17 名前: 名無したんはエロカワイイ 投稿日: 2005/09/25(日) 00:03:34 ID:wUWNQRoG
ナコでクリアして来た。内容はうろ覚えだが

ガルと会話→画面が赤くなる→「まだ終わってない」ママハハに掴まりナコ飛び去る
崖の上で祈り「お願い、これが最後なの!父様、母様力を貸して!」ナコ自分の命と引き替えにウェンカムイを鎮めようとする。光に包まれ消える
光なぜか森の中に降りて来る。光が消えるとナコ倒れてる
リム駆けつけ「姉様、姉様しっかりして!」→ナコ起きあがりリムと会話。「カムイの声が聞こえない…」
ガル駆けつけリムと小漫才→リム、ナコを引っ張って帰る→ガル「女の子だけじゃ危ないから送ってくよ、待ってくれ〜」
その後
ナコは特別な力を全て失いましたが、家族やすっかり居着いたガルやパピーたちと平和に暮らしました。
あの時守ってくれたのはきっと父様と母様なんでしょう


111 名前: 天下一名無し剣客 [sage] 投稿日: 2005/09/18(日) 01:28:20
ガルED
ナコルルが告白しようとして、
「ストップ!俺は正義を守る忍者!」
みたいな事言って去る。
523名無しさん@ピンキー:2005/09/25(日) 12:28:40 ID:98sicWJA
>>522
成程。賛否あるだろうけどとりあえずハピーエンドではあるわけやね
正史ではなくパラレルの一つとして見るのが妥当なんだろうが
それでも真から実に10年も費やした結末だと思うと「時が動き出した」というか、
すごい救われるよ・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
524名無しさん@ピンキー:2005/09/29(木) 15:17:09 ID:+J0gVqUR
パピーと仲良く暮らすパピーエンド
なんちて
525名無しさん@ピンキー:2005/09/29(木) 20:58:09 ID:8KAkfhjn
OVAアスラのガルフォードのかっこ良さはガチ
526名無しさん@ピンキー:2005/09/29(木) 21:22:29 ID:SmMwpoXq
>525
なんだか、みんなナコルルをハブにしまくる、ナコいじめアニメだった印象がある。
ナコはナコでやることなすこと全て裏目のマゾキャラ。

でもあのガルのジャスティスは確かにガチ。あれくらいやっちゃう奴だよな。
剣サムのガルEDに繋がるものがあるなら、感慨深いが…聞いたところじゃアフォEDらしい orz
527名無しさん@ピンキー:2005/09/30(金) 13:41:16 ID:Bmp7IinF
どっかに歴代のEDとかまとめてるデータサイトないものかね?
528名無しさん@ピンキー:2005/10/02(日) 01:37:16 ID:5I+QpNqX
前あったけど、
通報した馬鹿がいたせいで消えた。
529名無しさん@ピンキー:2005/10/02(日) 11:55:26 ID:gKCh66EQ
60 名前: 名無したんはエロカワイイ [sage] 投稿日: 2005/10/02(日) 10:39:27 ID:Ck7D1jaM
転載

402 名前: 天下一名無し剣客 投稿日: 2005/10/02(日) 01:30:12
 ガルED 
 ガルフォードは、御前試合の決勝戦で服部半蔵に勝ち、一人前の忍者として認められる。
 そして、悪と戦うために旅立ち、途中でナコルルに出会う。
 ナコルル「優勝おめでとうございます」「ガルフォードさん、わたし…」
 ガルフォード「ストップ!俺は正義を守る忍者だから、君の思いには答えられない」と言って立ち去る。
 その後、青い目の稲妻忍者はパピーと共に世界をかけめぐって正義のために戦った。

 だいたいこんな感じでした。ガルフォードはナコルルより正義をとったということです。


以上転載の転載終わり。
もう>515みたいな「ナコルルお色気作戦」ネタしか思い浮かばん…
530名無しさん@ピンキー:2005/10/02(日) 13:53:36 ID:6gHdogmG
ナコEDの方で妄想しる!

ガルがヒモだかマスオさんだかみたいな立場になっててガルEDとの
落差を思うとちょっとアレだがw
531名無しさん@ピンキー:2005/10/02(日) 22:18:24 ID:1DX6+GXt
まあ、アスラとかのガルを見るにそのEDで基本的には正しいのだろう。
532名無しさん@ピンキー:2005/10/03(月) 13:45:39 ID:sa4xXoSG
>529
今までのガルとナコの立場が反対になった感じだな

共通キャラでまったく違うED作られてると困るよな、
どっちをデフォルトにしていいのか
533名無しさん@ピンキー:2005/10/03(月) 14:01:43 ID:VntqojMj
追えば逃げて、逃げれば追う
ガルフォードはその典型だったということか
534名無しさん@ピンキー:2005/10/04(火) 01:40:11 ID:xqVnLPIB
ここガルナコすきが多いな。

漏れも好きだけど
リア厨に真のED見てから好きになって、男の癖にと姉貴に馬鹿にされたもんだw

しかしエロパロらしかぬ流れになってんな…
535名無しさん@ピンキー:2005/10/05(水) 00:47:56 ID:rNdoxj1Z
結構多いんじゃまいか?
536名無しさん@ピンキー:2005/10/05(水) 23:35:48 ID:dDoYf2WO
ここの人口も思ったよりあるんじゃまいか
537名無しさん@ピンキー:2005/10/05(水) 23:50:49 ID:83Dz+mLl
ガルナコ派はスタッフに虐げられてきたからな…
リムだのレラだの閑丸キュンだの萌えキャラの范流が巻きおこる中では
身を潜めるしかなかったのよ
538名無しさん@ピンキー:2005/10/05(水) 23:59:54 ID:ONAb1qLP
洩れもガルナコスキーなり
ガルナコきぼんぬ
539名無しさん@ピンキー:2005/10/06(木) 06:12:40 ID:YeB7cGWN
>ガルナコ派はスタッフに虐げられてきたからな…

どういう事?
540名無しさん@ピンキー:2005/10/07(金) 12:22:22 ID:wSZD8tO1
いろは萌え
541名無しさん@ピンキー:2005/10/07(金) 22:46:55 ID:F6UOW0bv
64たん萌え
542名無しさん@ピンキー:2005/10/10(月) 04:15:26 ID:ejvk/2Hm
>539
>517
543名無しさん@ピンキー:2005/10/11(火) 01:32:40 ID:q/U4aWr3
>>542
主観ベースのソースとは・・・
544名無しさん@ピンキー:2005/10/12(水) 14:34:54 ID:fxvLNf4+
旦那様×いろはで書いてもいい?。他人がプレイしてるのしか見たことないけど・・・。
545名無しさん@ピンキー:2005/10/12(水) 21:20:40 ID:azLeUy9q
>544
バリバリ書いたれ。
546名無しさん@ピンキー:2005/10/14(金) 00:22:47 ID:4EcWw7vy
噂のガルED見てきた。
ナコの方は「素敵でした…」とか言ってたのに、ガルは正義で頭いっぱい。
たとえナコが脱いでも無視して駆け去りそうなくらいの勢いだった。
もういいよ、お前なんか一生ヒーローやってろヽ(`Д´)ノバ-ヤバ-ヤ

つーか、決勝で半蔵に会ったときの方が、明らかにテンションタカス。
ナコルルお色気作戦すら妄想できなくナタ-ヨ……(´・ω・`)  (´・ω:;.:...  (´:;....::;.:. :::;.. .....
547名無しさん@ピンキー:2005/10/14(金) 04:34:57 ID:K6TjlwQ2
>544
タノシミ

>546
ナコEDをガルナコデフォルトにしてガンガレ
548名無しさん@ピンキー:2005/10/14(金) 13:39:48 ID:7qYz8IgV
ガルはよみさむでもナコを20年も待ってたからなぁ
自分はこっちに感動したので(鬱だが
剣客での安直なハッピーエンドより綺麗な悲恋貫き通してくれた方が萌える
549名無しさん@ピンキー:2005/10/15(土) 00:57:07 ID:4M0mYx/Y
今日アスラのOVA見た
ガルが糞カッコよかった
よって、剣サムのEDは俺の中でアリになった
550名無しさん@ピンキー:2005/10/15(土) 02:25:31 ID:klMbNOos
>549
同志。自分もアスラOVAのガチジャスティスガル見ますた。
剣サムガルEDは、あれはあれでヨシ!であります。
むしろ、>548で言われてるPS版の粘着ストーカーみたいのが引いた。
蒼紅の世界観では、ナコはガルを拒絶してるはずなのに。

最初剣サムナコEDの展開でガルが一緒に暮らしてて、
ところがある日ガルが旅立つ決意をして(大統領EDあたりの絡みで)
最後の夜、ナコルルがせめて父の遺言(好きな男と子を作って育め)を
果たさせてくれと頼みに来る…という展開なら、エロ展開に持ち込めるだろうか。
551名無しさん@ピンキー:2005/10/15(土) 04:41:34 ID:eOOrzBx+
>蒼紅の世界観では、ナコはガルを拒絶してるはずなのに
拒絶してたっけ?
少なからず思ってたと何故か脳内にインプットされてた(しかし恋より使命を選んだと)

漏れに小説が書ければなぁ…(絵カキなので
552名無しさん@ピンキー:2005/10/15(土) 18:13:30 ID:KI3R8lHj
俺もお役目の為に仕方なく諦めたんだと思ってた。

つーか>550の意見にめちゃさんせー。 そのシチュ・ベスト!!萌える。
 (でも漏れも絵カキ…
職人さんたのむ・・・
553名無しさん@ピンキー:2005/10/15(土) 23:30:17 ID:4M0mYx/Y
まあ、アスラの後に蒼紅があるんだから、
年取って戦えなくなってから故郷でナコルル待ってるんだろ。
半蔵と違って組織に属してないジャスティスだからね、ガルは。

ところで、故郷でお前の帰りを待ってるぜの故郷ってガルの故郷?ナコの故郷?
554名無しさん@ピンキー:2005/10/16(日) 01:18:14 ID:BBSm1rtD
ふつーに考えてナコが帰るとこだろ
555名無しさん@ピンキー:2005/10/16(日) 12:35:34 ID:ky6S2f9k
ついでに、待っているのはガルと決まったわけじゃないんだけどね。
または、待っているといっても
「自分の故郷で誰か他の女性とケコーンして、家族をナコルルに紹介できる日を待っている」
かもしれないしね。

どのみち、ナコルルは「あの人とはもう生きる世界が違う」と完全拒絶だしー
556名無しさん@ピンキー:2005/10/19(水) 01:58:45 ID:xcDxssj8
でもネオジオフリークって雑誌にガルがずっと1人でナコ待ってるって公式小説載ってたよね。
557名無しさん@ピンキー:2005/10/19(水) 15:03:52 ID:o3lyd8u6
なんってツボなスレなんだッ、感動!ガルナコ〜
情けな系のガル萌だったがカコイイ正義ガルいいな!
アスラ斬魔伝借りてくるッ

住民の皆様有難う!
558名無しさん@ピンキー:2005/10/19(水) 18:13:39 ID:QygkDQdH
剣サムガルは大統領に
「困ったときにはいつでも呼んでくれ」
なんて言ってたから、奴の優勝後、早速
呼びつけられたのかも試練w

ナコEDから数日後、どこからか届いた手紙を手に
正義オーラ大放出状態のガルを、
物陰から寂しげに見つめるナコ…

後は任せた>550
559557:2005/10/20(木) 19:44:22 ID:Yrb2n+Yn
アスラ斬魔伝見た・・・ガルカコイイかった!
つか、SS書くにしてもやっぱりストーリーに沿っていなきゃマズいのかな?
単なる思いつきのパラレルエロでは怒られてしまうかな
560名無しさん@ピンキー:2005/10/20(木) 21:03:25 ID:ka8LuszR
>>559
最初に注意書きとか書いたら良いんじゃない?
561名無しさん@ピンキー:2005/10/20(木) 21:21:45 ID:GUAcaM5s
公式ストーリーがデフォになってる人が多数だろうけど
こだわることは無いとおもー。
「この世界ではこうなんだ」と、それとなく分かるように書いてくれれば無問題
562名無しさん@ピンキー:2005/10/20(木) 22:29:48 ID:q855xzn0
俺の中ではドラマCDの覇王丸とナコリムの面白珍道中がデフォなんだが。
覇王丸のおじさんになつくリムルルを微笑みながら見ているナコルル。
なんつーか仲間っていいなー、と。
563名無しさん@ピンキー:2005/10/21(金) 01:38:29 ID:jW4lcHOS
あー・・・天草に負けて浄化の名を借りた凌辱を受けるいろはとか、色々真面目なアンドリューに支えてるいろはとか思い浮かんだ。
564名無しさん@ピンキー:2005/10/26(水) 01:00:52 ID:xKc80E2o
http://vipquality.orz.hm/

OTL13763.zip
DL key :えろは

旦那様×いろは


俺の中では理想的な旦那様。
565名無しさん@ピンキー:2005/10/26(水) 22:38:29 ID:cURMhUoV
>>563の安藤×いろはってなかなかツボかも。
実はアンドリュー×チャムなんかどうだろうと思ってたり。
真時代はタムチャムの近親相姦もの大好きでした。
566名無しさん@ピンキー:2005/10/27(木) 20:10:11 ID:/HImygP/
久しぶりにこのスレ来て、ガルナコ好きの多さに感動した
嗚呼・・・涙さえ出てくるよ

どうでもよくはないが、バサラ×篝火が見たいとも思うのは俺だけ?
567名無しさん@ピンキー:2005/10/27(木) 22:07:19 ID:ln7E/rgc
とりあえず、64たんまだー?
リムと閑丸二人旅の人まだー?
コンル編の人まだー?
568名無しさん@ピンキー:2005/10/29(土) 02:00:12 ID:1u4I0+sN
バサラ×篝火、退廃的っつーか既に二人とも生者じゃないせいか
破滅的なイメージ。
あれだけ公式でイチャこらこいてんのに。
まあ、サムスピで報われた男女の恋愛って殆ど無いよな。
569名無しさん@ピンキー:2005/10/29(土) 02:46:40 ID:lKih7fw5
覇王丸 彼女を捨て、剣を選ぶ
右京   花を捧げて死ぬ
シャルロット 失恋
ガル   正義を選ぶ
ナコルル 自然に身を捧げる
バサラ  女はとっくに死んでる
いろは  ハッピーエンド
寅     普通にいちゃいちゃ
狂死郎 ミヅキゲット
幻庵  元からおしどり夫婦

意外に幸せな連中も多い罠
570名無しさん@ピンキー:2005/10/29(土) 16:14:26 ID:O9vIu9t0
剣サムなら右京もハッピーエンド
バサラもある意味ハッピーエンド
571名無しさん@ピンキー:2005/10/30(日) 03:51:29 ID:NMy2EWAu
ガルナコは蒼紅がな……

20年前から続いていた危機(リムが氷付けになったのもそのせいだったよな、確か)がようやく去ったので、
普通の女の子に戻りなさいとカムイの慈悲(本人の意思確認全くなし)で精霊から人間に(ただし、リムと同じく20年前から歳は取ってない)
→故郷恋しさにカムイコタンに帰ってみたら青いニンジャさんが(おじさんになって)待ってました

っていう強引な妄想が出来ない事は……ないかorz
公式で両思いがはっきりしてるにも関わらず、同じ公式でここまで否定されるのも珍しいような。
572名無しさん@ピンキー:2005/10/30(日) 07:27:02 ID:49te3yB2
ガルナコは悲恋だからこそここまで多く長く支持されてたような。
公式でただのバカップルだったらここまで好かれてないとオモ
573名無しさん@ピンキー:2005/10/30(日) 13:01:37 ID:P3JuOirn
>571
>カムイの慈悲(本人の意思確認全くなし)で精霊から人間に

ここでさらに、20年前に戻してくれてたら文字通り ネ申 だが。
または、20年前にカムイ成分が抜け切った後の抜け殻ナコルルが
ただの女の子として別に存在したまんまとか…
574名無しさん@ピンキー:2005/10/30(日) 13:57:26 ID:N1AKjU2z
そこでレラたん誕生ですよ
575名無しさん@ピンキー:2005/10/31(月) 20:22:42 ID:QDVGwFvU
ナコとレラでガルの取り合いとか。
576名無しさん@ピンキー:2005/10/31(月) 21:56:25 ID:3KyQannc
蒼紅で、何の前置きもなく「ガルフォードの子供」とか参戦してたら
どうなったんだろう。母親不明で。
577名無しさん@ピンキー:2005/11/01(火) 00:10:54 ID:ZIYFie3/
>母親不明
そうか、パピーだな
578名無しさん@ピンキー:2005/11/02(水) 00:56:02 ID:oCFVRJb+
ガルナコ好きって、多いわりに作品が少ないよな・・・。
579名無しさん@ピンキー:2005/11/02(水) 01:01:59 ID:PO9fTmxe
ある程度公式認定されてるほうがいいじゃないか、
と思ってしまう自分は閑リム好き


否定も何も無いからある意味恵まれてるのかもしれないが
580名無しさん@ピンキー:2005/11/02(水) 01:19:49 ID:RYH6Vp1L
カプに萌えることは無いなぁ。
そんなもん全部脳内補完しとけばいいじゃまいかと思ってしまう俺は陸捨肆さんのコウリム好き
581名無しさん@ピンキー:2005/11/02(水) 01:23:59 ID:RJRCbPeI
閑リムいいなあ。
個人的に良作の同人誌が多く出た。
8年前に見た、ある閑リム18禁本は
あまりにも良くて、しばらく悶え狂った。
582名無しさん@ピンキー:2005/11/02(水) 22:39:49 ID:YoLUztC2
>578
男性向けだとガルっつか自分×ナコばっかりだからなぁw
たまに女性が書いたガルナコを見つけて萌え補充してるが、
性別の違いからか少女漫画っぽいのばかりで少し物足りないんだな
583名無しさん@ピンキー:2005/11/03(木) 17:57:19 ID:wgjUrOvc
PS2版にパピーやチャンプルが出るという噂。
それなら、もしかしてEDも追加されるだろうか。
零のとき、ガルEDの続きがパピーEDであったように、
PS2パピーEDがあれば、展開によってはガルナコ完全成就の希望も…

とか必死で妄想してみるテスト
584名無しさん@ピンキー:2005/11/05(土) 01:42:04 ID:gLz4ohkn
陸捨肆タソどうしたのかな・・・
585名無しさん@ピンキー:2005/11/06(日) 23:08:03 ID:Vur+bETx
リム閑きぼぬ
586名無しさん@ピンキー:2005/11/08(火) 00:12:25 ID:JzyV1wsE
めげずにガルナコを希望する
587名無しさん@ピンキー:2005/11/08(火) 18:24:28 ID:tuvWC5Y5
覇王丸とシャルキボンヌ
588名無しさん@ピンキー:2005/11/10(木) 00:56:19 ID:BxIxmW8C
sage
589名無しさん@ピンキー:2005/11/10(木) 17:07:15 ID:2EVgEK/y
住人の皆様こんばんわ
自分SS初投下ですが、こちらのガルナコ談議に萌えあがり、書いてみますた
お見苦しい点があると思いますが、ご勘弁を
5902EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:11:02 ID:2EVgEK/y
また一つ、大きな戦いを終え、ナコルルは帰郷の途についていた。
カムイコタンまであと少し、薄日が差し込む深い森の中で、かの女は足を止めた。
傍らの木の幹にそっと寄り添うと、額を当て、瞼を閉じる。
「この森にも、生気が戻ってきてる。 ・・・よかった・・・」
安堵の表情を浮かべるナコルル。歩み出そうとして、再び踏み留まった。
もうすぐ、久し振りの故郷。しかし、嬉しいはずのその顔は曇っていた。
コタンに帰れば、アイヌの巫女としての宿命が彼女を待っている。
「・・・」
(コタンは大好き、皆のことも。 でも・・・
・・・もう、誰も傷付けたくない・・・)
両の掌を見つめる。その手が、血に塗れているように感じて、ナコルルはきゅっと目をつぶった。

(・・・自由になりたい。 普通の女の子みたいに・・・可愛い服を着て・・・恋をして・・・。)
青い瞳の笑顔が脳裏を過ぎる。
我知らず微笑んでいた自分に気付いて、少し驚く。そして、はにかむような笑みに、自嘲と悲しみの色が混じる。
ナコルルは、ふるふると頭を振った。
(なんて、大それたことを・・・)

「早くコタンへ帰ろう」
そう独りごちて、前を向いた。その時。
「どうしても帰るのか」
ナコルルの背後から、声が降ってきた。
はっとした瞬間、胸が、きゅんと締め付けられる。
(ガルフォードさん・・・!)
5912EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:12:53 ID:2EVgEK/y
「・・・皆が、待っているんです」
平静を装い、前を見据えたまま、ナコルルは答える。
やんわりと拒絶を込めたその言葉は、自分自身にもまた甘えを許さぬ、という意が篭められていた。
「・・・行くな!」
「!!」
突然、ガルフォードの腕に背中から抱き締められて、思わず竦み上がる。
今度ばかりは、動揺を隠せなかった。
身体が、それ以上に顔が、頬が熱い。心臓が早鐘を打つ。
その腕に、かの女を拘束するほどの力は無いのに、息苦しくて、ナコルルは動くことが出来なかった。

「・・・もう戦わなくて良い。 俺と、ずっと一緒にいよう。」
「・・・!」
唐突な告白に驚く。
堪らなくなってナコルルが振り仰ぐと、そこには固い信念と、悲しみを湛えた青い瞳。
「君は優しすぎる。ひとを傷付ける度、君自身も傷ついていく。
・・・君にもう、剣を取って欲しくない」
「ガルフォードさん・・・」真摯な眼差しに射抜かれ、否応無く心が揺さぶられた。
その胸に、縋りたくなってしまう。
「・・・ごめんなさい」
俯くと涙が零れてしまいそうになるのをこらえ、一生懸命に笑顔を作った。
「私はアイヌの巫女。 わかってください・・・」
5922EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:19:30 ID:2EVgEK/y
「・・・Oh、Shit!」
ガルフォードは苛立ちを顕わにして踵を返すと、吐き捨てるように言った。
「・・・OK。わかった・・・」
その背中から、抑えた声が届く。ナコルルからは、その表情は伺えない。
「ガルフォードさん・・・」
「巫女を出来なくなればいい」
「えっ・・・?」
一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。
呆然とするナコルルに、ガルフォードが向き直り、矢庭に両の二の腕を掴んだ。
「痛・・・!」
先程の抱擁と違う、驚く程強い彼の腕力に、ナコルルは思わず声を上げる。
「巫女でなくなってしまえば、君はもう、縛られることも無い・・・」
抑揚の無い低い声音に、ナコルルは言い知れぬ恐怖感に苛まれた。
「ガルフォードさん・・・?何を、言ってるの・・・?」問う声が震える。
「巫女は、純潔でなくてはならないんだろ」
「!?」
その言葉の意味を素早く理解して、背筋が凍りつく。 ナコルルは初めて、この男を怖いと感じた。
「ガルフォードさん・・・やめて・・・」
ナコルルは彼から離れようと身じろぐ。しかし、二の腕を掴む強さは、それを許さない。
「こんなこと、したくはなかった!しかしっ」
「お願いです・・・どうか、放して!」
ナコルルが懇願しても、ガルフォードは聞き入れない。
「君を守る為にはもう、こうするしかないんだ!」
二人の距離が詰まる。
「嫌ぁっ・・・やめてっ!!」
明らかな拒絶に、ガルフォードは悲しげに顔を歪める。
「やッ・・・お願い・・・!ガルフォードさんっ・・・!
ん・・・っ!!」
焦燥に駆り立てられるまま、ガルフォードは哀願の言葉を紡ぐかの女の唇を塞いだ。
いきなり唇を奪われて、ナコルルに衝撃が走る。
「んん・・・!!」逃れようと激しくもがくと、すぐに酸素が尽きて、ナコルルは苦しげにうめいた。
見開かれた双眸から、涙が零れる。
肘から下を必死に動かし、腰に帯びたチチウシに手を伸ばす。
ナコルルの掌が、柄の感触を捉えた。
懇親の力を振り絞って繰り出した刃が一閃するのと、ガルフォードが飛び退いたのはほぼ同時だった。
「ナコルル・・・」
刹那に見た、傷付いた色を湛えた青い瞳。
しかし、軽い酸欠状態に陥っていたナコルルは荒く息をつくのに精一杯で、他に考えを巡らせる余裕など無い。
チチウシを翳して後退る。
5932EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:21:03 ID:2EVgEK/y
「来ないで・・・!お願い・・・!」
それだけをやっとのことで吐き出すと、乱れた着衣も構わず、ナコルルは木々の間を闇雲に駆け出した。
息が切れ、着崩れた巫女装束が動きを妨げ、足が縺れる。
「あうっ!」地表に張り出した木の根に躓き、ナコルルの身体は宙を舞った。
地面に叩きつけられ、暫く呼吸が出来なかったナコルルは、這いつくばったままで激しく咳き込む。
ようやく半身を起こし後ろを振り返ると、ガルフォードはすぐそこまで追いついていた。
「・・・っ!」
もう逃げられないと悟ったナコルルは、愛刀を自らの喉元へ宛てがって目を閉じる。
瞬間、キィンッと鋭い金属音を残し、チチウシが弧を描く。
「馬鹿なことを・・・っ!」抜刀したガルフォードが吼える。
ナコルルは、力なくその場にへたり込んだ。忍刀を放り出し駆け寄ってきたガルフォードに平手打ちされ、はっと我に還る。
「そうまでして巫女で居たいのか・・・!?自分を犠牲にしてまでっ!」
強い調子で詰られる。そして、そのままの勢いで抱きすくめられ、ナコルルは身体をびくりと強張らせた。
張られた頬にじん、と痛みが広がると、堰を切ったように涙がとめどなく溢れ出す。
「俺が、君を自由にする!そうすることが、正しいんだ!」
頬を涙で濡らし、怯えきった表情で弱々しく首を振るナコルルの着物を、ガルフォードは袷から差し入れた手で肌蹴させた。
「駄目っ・・・!ああっ・・・!」
白い柔肌を晒され、ナコルルは羞恥に身を縮める。
「はぁ、んんっ!!」
頤を反らされ、再度、呼気ごと唇を掬い取られた。
先程の触れるだけの口付けと違い、深く重ね合わされた唇に、ナコルルの抵抗が鈍る。
胸中を過ぎる甘い感傷に、流されてしまいそうだ。
「・・・んっ」
歯列を割って絡み付いて来た生暖かい舌には愕然とするも、やがて身体を走り抜ける痺れにも似た甘美な感覚を知る。
まるで、時間が止まっているかのように錯覚し、ナコルルはいつの間にか瞼を閉じていた。
咥内を弄っていたガルフォードの舌が、唇と共に離れる。
未だ恍惚とした中で、どちらからともつかず、はぁ、と深い息をつく。
休む間もなく、今度は首筋に舌を這わされた。
「あ・・・っ」
湿った舌がくすぐったくて、ゾクゾクと肌が粟立つ。
同時にすべらかな肌の、あちこちを愛撫される感触。
「・・・!」
ナコルルは口付けで翻弄されている間に、あられもない姿にされていたことに気付く。
「や・・・!」
「綺麗だよ、ナコルル・・・」
耳元で囁かれ、ナコルルは真っ赤になって縮み上がった。
(・・・そんなこと、言わないで・・・!)
ゆっくりと、地面の上へ仰向けに倒される。艶やかな長い黒髪がしなやかに広がった。
「ガルフォードさん・・・!間違っています、こんなこと・・・」
ナコルルは瞳を潤ませ、ガルフォードを諌めた。
ガルフォードの真剣な視線とかち合う。
5942EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:26:45 ID:2EVgEK/y
「・・・君を、救いたいだけなんだ。
Because、I Love you・・・」
そう言ったガルフォードの声色は優しくて、異国の言葉を知らぬナコルルにも、その意味合いは伝わった。
「私・・・でも・・・!
あっ」
言葉の先は、ナコルル自らの口から発せられた声に遮られる。
見れば桜色の乳首を口に含まれていた。
「や・・・っ、あぁ!」
舌で転がされると、そのなんとも言えぬ感覚に、ナコルルは小さく身体を震わせ、自分でも信じられないほどの甘い声が零れる。
「あ・・・はぁ・・・っ」
初めての感覚に怯え、押し退けようとガルフォードの頭に手を伸ばすが、力が入らぬ腕はただ彼の頭を掻き抱く形を成しただけだった。
そのうちにも愛撫は順に、下へと降りていく。
「・・・!」
脚を開かれそうになって、薄れかけていた羞恥心がよみがえった。
「嫌っ!!やめて・・・ガルフォードさ・・・!!」
耳まで真っ赤に染め、いやいやとかぶりを振る様が、余計にガルフォードを煽る。
問答無用、とばかりに、かの女の大腿を左右に押し広げた。
「いやぁっ!!
見ないで・・・っ!」
自分でも見たことのない部分をガルフォードに見られると思うと、あまりの恥ずかしさにナコルルの身体がカッと燃え上がる。
反射的に顔を叛けるナコルルに構わず、露わになった恥丘や内股にガルフォードは舌で触れていく。
「やっやめて・・・!
そんな・・・ぃゃあっ・・・!」
ささやかな茂みの奥の、男を知らぬ秘部。ガルフォードが顔を埋め、ゆっくりとそこに唇を吸い付けた。
「はぁあっ・・!あぁ!!」
堪らず、ナコルルが声を上げる。
畳み掛けるように、ガルフォードは舌で秘裂を割ると、小さな陰核を舐めあげた。
「ああぁんっ!!」
電流が走るような刺激が身体を駆け抜け、ナコルルがひときわ甲高く鳴く。
一体自分の身体に何が起きているのか。得体の知れぬ感覚にナコルルは戦慄する。
「ンッ・・・!あぅ・・・っ!」
唾液で湿った敏感な部分を今度は指の腹で擦られ、我知らず腰が浮いた。
そこを攻め続けながら、白い肌を這い登りガルフォードは再びナコルルの乳房を嬲る。
「凄く、感じるんだね」
徐にガルフォードが口を開く。
「!」
淫らな行為に自分は感じているのだと宣告され、ナコルルは眼前が真っ暗になった。
(そんな・・・
私・・・悦んでいるんだ・・・)
信じられない思いだった。
巫女は決して男と睦んではならない、そのしきたりの意味がやっと分かった気がした。
こうして恋しいひとに抱かれる悦びを知ってしまった自分は、もはや唯の女に成り果てたとナコルルは思う。
そんな生き方に、憧れていた筈だった。
今は、それがどうしようもなく恐ろしい。
「は、あンっ・・・!」
心は絶望しているのに、はしたなく零れる嬌声を抑えることが出来ない。
そんな自分がひどく穢れて思え、情けなさに涙が溢れた。
「あぁ・・・はぁっ・・・!」
容赦なく与えられる快感から逃れようと思わず身体をしならせるが、しっかりと押さえつけられていて叶わない。
「うぅ・・・アッ、はぁン・・・っ!」
己の意思とは別のところで快楽にうかされている身体は、もはや自分の物ではないかのようだ。
居た堪れなくなって、ナコルルは両腕で口許と顔を覆う。
喉の奥で生まれた声が、鼻に掛かってくんくんと漏れる。
5952EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:31:43 ID:2EVgEK/y
(もう、嫌・・・消えてしまいたい・・・)
恥じ入るナコルルの秘口からとろりと溢れ出した蜜を、ガルフォードは指で掬い取った。
「っ・・・ン!」
「ナコルル、こんなに濡れて・・・」
仰け反るナコルルの顎の先で愛おしそうに言うと、ガルフォードはかの女自身の愛液で濡れそぼった秘裂にそっと指を挿し入れた。
「・・・!?
いやあああっ・・・!!」
異物の挿入を自分の内に感じ、ナコルルは鋭い悲鳴をあげた。目尻から涙が零れる。
ナコルルが身動ぎすると、温まった内部が蠢いた。
ガルフォードの指に、生暖かい膣壁がきゅうきゅうと吸い付く。
「や、あぁっ・・・!」
押し留めようと伸びてきたナコルルの腕は、ただ、ゆるゆるとガルフォードの首に回された。
粘膜の中で指を動かすと、そこはくちゅくちゅと卑猥な音を立てる。
「はぁンっ・・・!ぁあ!」
くの字に背を曲げて緊張と弛緩を繰り返す度、ナコルルの両足がひくひくと痙攣した。
身体の中心が、麻痺したように熱い。
「・・・もう入るね」
徐に言って、半身を起こしたガルフォードが忍装束の前を寛げる。
「きゃあっ!」
始めて見るいきり立った雄根に驚き、ナコルルは咄嗟に顔を覆った。
ガルフォードはその両手を取ると、地面に縫い付ける。
「痛ッ・・・!」
ぐしゃぐしゃに濡れた膣口に尖端を宛てがう。
「嫌!・・・そんなのッ!無理・・・っ!!」
秘裂に押し当てられた熱さと巨きさに、ナコルルは恐怖に慄く。涙を流し、必死に首を横に振る。
ガルフォードは取り合わず、ゆっくりと自らの腰を埋め込んでいく。
「だめぇ・・・ッ!!」
冷徹な肉楔が、めりめりと割り入ってくるのと同時に引き裂かれるような痛みが全身を駆け抜けた。
「・・・っ!」
身体を貫かれる未知の苦痛に、ナコルルは固く目をつぶる。
激痛に自然と腰が退けるのを、ガルフォードの重みが繋ぎ止め、封じた。
「くっ・・・!」
きつく締め付けられたガルフォードが、耐えいるように眉根を寄せる。
そのまま、一気に最奥まで押し込まれた。

5962EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:33:09 ID:2EVgEK/y
「・・・あああぁっ!!」
内側からの圧迫感に、端正な顔を歪め、ナコルルは絶叫した。
ガルフォードは躊躇することなく、さらに突き上げる。
抜き差しされる毎、襲ってくる鈍痛に、ナコルルは奥歯を噛み締めて堪えた。
溢れた体液に血が滲んだのが、ガルフォードの欲情を少しだけ薄める。
「君に、酷いことを・・・ごめん・・・!」
苦しげにガルフォードが呟くが、ナコルルには答える余裕など無い。
「アっ!あう・・・ッ!」
頬を涙でしとどに濡らし、ただただ喘ぐ。
ナコルルの膣があまりに締め付けるため、ガルフォードの息も上がっていた。
あっさりと上り詰め、「も、もう・・・!」とうめく。
ガルフォードが小刻みに腰を打ちつけると、ナコルルの声にならぬ叫びが空を切って断続的に息を吐く。
「ウ・・・!」
低い声を発して、ガルフォードが身体を震わせた。
「あ・・・あぁ・・・」
体内に熱い迸りが放たれ、膣の奥で肉棒がどくどくと脈打つのを、ナコルルは薄れゆく意識の中で感じる。
気を失う間際に、声が聞こえた。

俺が、君と、君の大事なものを守るよ・・・。必ず・・・。



木立の間に、朝靄をわけ、光が差し込んで来るのをナコルルはぼんやりと見詰める。
いつもと変わらない朝陽を、昨日とは違う自分が見ている。
鈍い痛みが全身を襲う。あちこち擦り剥けて、腕の青い痣が悲しい。
傍らで眠る男を見遣ると、穏やかな寝顔があった。それを、愛おしく思う気持ち。
今はその胸に芽生えた想いだけが、いくらかかの女の心を癒すのだった。

(おしまい)
5972EVgEK/y:2005/11/10(木) 17:43:20 ID:2EVgEK/y
糞長くて&パピーたん、ママハハの存在無視でスマソ。
消防自分からこのカプには思い入れがあったので・・・
某所で見たアスラのエンディングをベースに書きますた
598名無しさん@ピンキー:2005/11/10(木) 23:43:14 ID:CnIgnLlt
キタ━━━━(^∀^ )━━━━!!!!
イイ!無理やりだけどなんかラブいハァハァ(*´д`)
目が覚めた後の2人のやりとりも気になる。
5992EVgEK/y:2005/11/12(土) 03:58:25 ID:1AaM7sDW
>>598
おおお、読んで下さった方がおられた・・・!
稚文スマソ・・・有難う御座いまつ!

600名無しさん@ピンキー:2005/11/13(日) 00:16:48 ID:pdDaBCU+
2EVgEK/y さん 乙!!(>曲<)
切実にありがとうっっっっっっ!!!!!!!

純粋に萌えたw 最近自分の中でガルナコももう潮時かと思ってたが再燃。
ガルナコスキーでよかったと実感・・・・(悦)
601名無しさん@ピンキー:2005/11/13(日) 14:11:23 ID:3sm08Kki
10年。真以来10年望んだガルナコ純愛エロ…もう人心は離れてしまったと…もう誰も描かないと思ってた…
それが今ここに存在する歓び!アーリガトゥッ(・∀・)!!
602名無しさん@ピンキー:2005/11/14(月) 01:11:50 ID:CEcO/3SH
・・・あれ、このスレに俺がいっぱいいる
ガルナコスキーの為に大義をこめて・・・乙!
603名無しさん@ピンキー:2005/11/14(月) 01:31:47 ID:pQYyCxCx
もっと読んでみたいZE!!!
6042EVgEK/y:2005/11/14(月) 13:23:19 ID:51xt/HXC
ガルナコスキーさん達! シ戻!
有難う御座います、有難う御座います・・・!
正直、最初は逃げでただエロいだけのやつをと思い書きかけていますた
内容は絵で見て頂けると・・・(絵描きなので)
ttp://yamada7536951.hp.infoseek.co.jp/
コピペしてh付けて下さいませ、お絵かき掲示板NO:159です
イタ過ぎて木綿・・・名無しに戻りまつ
605名無しさん@ピンキー:2005/11/15(火) 07:43:28 ID:6N7YVOPB
就職面接で、尊敬する人は?と聞かれたので「2EVgEK/y氏」と答えますた
606名無しさん@ピンキー:2005/11/15(火) 10:27:44 ID:NOPglHB2
>>590-596 乙! 

陸捨肆さんまってる
607名無しさん@ピンキー:2005/11/15(火) 17:12:05 ID:KShfX7gn
>>605
今言ってみたら舌噛んだ
608名無しさん@ピンキー:2005/11/16(水) 02:48:46 ID:3KEKdpyS
age
609名無しさん@ピンキー:2005/11/17(木) 20:33:28 ID:8jin1dQO
ガルナコきたわあぁああVvVvV
オンナの私でさえドキドキしました!このカップリング好きなのでみれてよかったです!(≧∀≦)
610名無しさん@ピンキー:2005/11/17(木) 22:14:37 ID:Mp1nAzWk
  _, ._
( ゚ Д゚)
611名無しさん@ピンキー:2005/11/20(日) 18:54:54 ID:UTA3lxck
火月と葉月の近親相姦キボン
612名無しさん@ピンキー:2005/11/20(日) 19:04:37 ID:ig7nbSx6
リム×コウタ に一票
613名無しさん@ピンキー:2005/11/21(月) 17:25:54 ID:4YHlMsi7
覇王丸×シャルキボン
614名無しさん@ピンキー:2005/11/21(月) 18:01:08 ID:fFNUTb7R
俺×炎邪タン
615名無しさん@ピンキー:2005/11/24(木) 17:44:39 ID:DSd3e9s+
お邪魔します
職人様の投下無いようなので書いてみますた
覇シャルでつ、剣サムシャルEDから妄想しますた
勝手に設定作ってます、マズーならばヌルーしてください
616DSd3e9s+:2005/11/24(木) 17:47:00 ID:DSd3e9s+

フランス貴族の邸宅。
その一室で、主・シャルロットは机に置かれた書簡へと目を通していた。
勇猛な剣士であるかの女だが、今は女性らしい、優美なドレスを纏っている。
「コルデ家の令嬢らしくあれ」とは、長年仕えてくれた老婦人のたっての願いだった。
それを、シャルロットは半ば根負けする形で受け入れたのである。
しかし、領主としての仕事も、豪華な屋敷での何不自由ない優雅な生活も、シャルロットにとっては退屈でしかなかった。
「サムライ」達と切り結んだ日々が、懐かしく思える。
(彼は、どうしているだろうか・・・)

突如、窓の外で喧騒が沸き起こった。
何事かと顔を上げたところに、血相を変えた使用人が駆け込んで来る。
「お嬢様・・・大変でございます!」
「どうした?」只ならぬ様子に、シャルロットは椅子を離れた。
使用人が息を切らせながら答える。
「怪しい男が、庭にっ・・・!奇妙な身なりの東洋人で・・・!お嬢様に、会わせろと・・・」
シャルロットはそこまで聞くと弾かれたように走り出し、尚も言葉を紡ぐ使用人の横を擦り抜けて行った。

飛び出してきたシャルロットは、使用人が取り囲む中に特徴のあるざんばら頭を確認し、少女のように顔を輝かせる。
「覇王丸っ!」
かの女は会いたいと願ってやまなかった人物の名を叫んだ。
聞き覚えた声に呼ばれ、覇王丸が「よぉ〜!」と声を張る。
「この者は私の友人だ」
そう言って使用人達を退けると、シャルロットは覇王丸のもとに駆け寄った。
「こんな所まで訪ねてくるとは驚いたぞ!久しいな!覇王丸!」
「お、おう・・・」
歯切れの悪い応答を返した覇王丸の視線は、シャルロットの豊満な胸のデコルテに注がれている。
胸元が露わなドレスなど、西洋における貴婦人の正装であり特に珍しいものではないが、思えばそんな女らしい格好を覇王丸に見せるのは初めてだ。
シャルロットはかあっと頬を染めた。
「と、ともかく!よく来たな、覇王丸!歓迎する!」
真っ赤な顔に引き攣り笑いを浮かべながら言うと、シャルロットは使用人に覇王丸の案内を頼み、ドレスを着替える為そそくさと踵を返す。
「馬子にも衣装ってねえ・・・」
覇王丸は無精髭を生やした顎を撫で、呟いた。
617DSd3e9s+:2005/11/24(木) 17:49:29 ID:DSd3e9s+

使用人を下がらせ、二人は久方振りに酒を酌み交わした。グラスを満たしているのはこの土地の葡萄酒である。
覇王丸も異国の酒を気に入ったと見えて、シャルロットは上機嫌だった。他愛の無い話に花が咲く。

「おい・・・大丈夫かぁ?」
ふいに掛けられた声に、シャルロットはハッと意識を取り戻した。
(少し、飲み過ぎたか・・・)
「・・・大丈夫だ」
答えて、額に掌を当てる。いつの間にか瞑ってしまっていた瞼を開けた。
「顔赤いじゃねえか」
シャルロットの視界に映ったのは、至近距離でかの女の顔を覗き込んでいる覇王丸。「!!」驚いて、シャルロットは立ち上がった。
瞬間、急に酔いが回りよろける。
倒れそうに傾いだところを、咄嗟に覇王丸の腕が支えていた。
「言わんこっちゃねえや」
覇王丸は嘆息すると、朦朧としているシャルロットをそのままひょいと肩に担ぎ上げた。
「なっ・・・!」
シャルロットは突然の密着状態に戸惑う。
「こ、こらっ!どこ触ってる!」
覇王丸の手が尻に添えられていた。アルコールによって判断能力の鈍っていたかの女だったが、そこはしっかりと抗議をする。
「あ?ああ、すまんすまん」
覇王丸が笑い混じりに詫びるのを聞くと、シャルロットはふっと表情を綻ばせた。
逞しい背中が見える。好意を寄せる男の温もりを感じ、シャルロットは密かな幸福感に包まれていた。
こんな気持ちになるのはいつ振りだったろうか。
シャルロットはこの時間が永遠に続けばいいと思った。
しかし、それは叶わない。
寝室に着くなりベッドに降ろされ、実にあっさりと、体温が離れる。
シャルロットは落胆した。
(一体何を期待しているんだ・・・私は・・・)

618DSd3e9s+:2005/11/24(木) 17:51:18 ID:DSd3e9s+

「ちょっと休んでろ、な?俺は向こうで飲んでるからよ」
気遣うその言葉も、シャルロットが望んでいる類のものとは違って、この年下の男が自分を特別な目で見ていないということを痛感させられる。
(・・・いつも、こうだ)
こと恋愛において臆病者の自分は、一歩を踏み出すことすら出来ない。
友人としての良い関係を壊したくないとか、言い訳ばかりが頭を過ぎる。
(でも・・・例え届かなくても・・・)
酒が手伝って、いつの間にか胸中で膨れ上がっていた感傷。
(・・・想いを告げるなら、今しかない)
シャルロットは、背を向けた覇王丸の着物の裾を握り締めた。
「覇王丸・・・」
「?」
シャルロットへ向き直った覇王丸のキョトンとした表情に、かの女は小さな後ろめたさを覚える。
「あ、いや・・・」直視していると昂ぶる気持ちまで殺がれそうで、シャルロットは俯く。
「何だよ、変だぞ、お前」
覇王丸が訝むように言うと、いよいよ意志が挫けそうになるが、ここで伝えられなければ同じだと、シャルロットは自らを奮い立たせた。
「私は・・・っ、お前のことを・・・ずっと・・・!」
シャルロットは勢い余って、両手で覇王丸の胸倉を掴んでいた。二人の距離が詰まる。
縋るような視線を送るかの女に、覇王丸はようやく気配を察した。潤んだ青い瞳に、彼の酔いが急速に醒めていく。

「・・・私を、抱いてくれないか」
続いた言葉を聞いて、一瞬、覇王丸は絶句した。
「・・・な、な〜に言ってんだ。お前ぇさん、酔ってんだろ」 余裕を失いながらも、何とか軽口を叩いて茶化そうと試みる。
「覇王丸・・・」シャルロットが傷ついた眼をしたのを見ると、ちりっ、と心が痛み、覇王丸は視線を逸らせた。
失望と後悔に、着物を掴む細い両腕が小刻みに震えている。
「・・・ふっ、そうか・・・私など抱けないか・・・!
生娘でもない、こんな年増女に好かれて、お前はさぞ迷惑なことだろうな・・・!」
シャルロットは込み上げて来る涙を卑屈な笑みを作って堪え、吐き捨てた。
(終わった・・・。何もかも・・・)
そう思った次の瞬間、かの女の身体は、覇王丸の太い腕に抱きすくめられていた。
「違う!そんなこたぁ関係ねえ!・・・お前さんはべっぴんだよ。
・・・俺にゃ、勿体ねぇくらいの」
突然の抱擁に驚き、困惑しながら、シャルロットはただ己が胸の激しい鼓動が、密着した皮膚から覇王丸に伝わってしまうのではないかと考えていた。
「・・・俺は、知っての通りの風来坊だ。
流浪の先で斬られて死ぬか、行き倒れて野垂れ死ぬか・・・。何にしろマシな死に方はしねえだろう」
(そんなこと、知ってる・・・)ようやく覇王丸の言わんとしている事が読めて、愛おしい気持ちが溢れたシャルロットは、彼の広い胸に頬を寄せた。
「修羅の道を歩む以上、俺は所帯を持たねえと決めてる。
・・・お前を幸せにしてやることは出来ねぇんだ」
優しいのだ、この男は。シャルロットは顔を上げ、覇王丸と見詰め合った。
(今度は、ちゃんと言える)
「・・・百も承知だ、覇王丸。武人として剣に生き、剣に死ぬ、そんなお前を・・・私は・・・愛してしまったのだ。
何も言わず・・・私の想いを、受け止めてはくれないか」
気付かぬうちに頬を伝っていた涙を、覇王丸の武骨な指が拭った。
「シャルロット・・・。
お前にそこまで言わせちまうなんてよ・・・俺ぁ情けねぇ男だよな」
掠れた声。シャルロットは反射的に眼を閉じる。刹那に酒の匂いが濃くなったのを感じ、かの女の唇は覇王丸に塞がれていた。
重ねた唇を強く激しく、貪る。 やがて舌を絡め合う湿った水音が二人の耳に届く。
口付けの合間に荒く息を吐きながら、盛りのついた獣のような性急さで互いの纏う物を剥ぎ取り生まれたままの姿を晒した。

619DSd3e9s+:2005/11/24(木) 17:53:28 ID:DSd3e9s+

「・・・やめるってんなら今のうちだぜ」
覇王丸が掛けた言葉に、シャルロットは応えない。かの女の視線は、覇王丸のそそり勃つ巨根に釘付けられていた。
「・・・」
シャルロットは無言のまま吸い寄せられるように身を屈めると、眼前で起立しているものを躊躇いなく掌で包むと亀頭を唇で覆った。
「お、おい・・・。う・・・っ」
敏感な尖端に舌を這わされ、覇王丸がうめく。
シャルロットは軽く握った手を上下させながら、それを口腔の奥まで咥え込み、吸い上げる動作を繰り返す。
虚を突かれた覇王丸だったが、次第に意識はかの女の施す奉仕に集中していく。
「んん・・・」
シャルロットは全体を充分に湿らせると口を離し、頬を朱に染めて恥じらいつつ白く豊かなふくらみで挟み込んだ。
とろりと唾液が垂らされ、肉棒は谷間の間で滑っていく。
「く・・・ゥ!」かの女の大胆な行動に驚きながらも、視覚と感覚がもたらす刺激に自然と覇王丸の息はあがっていた。
鈴口に溢れた透明な粘液を、シャルロットの舌が掬う。
「も、もう・・・もたねぇ・・・っ!」
言って、覇王丸がシャルロットの頭を自らに押し付けるのとほぼ同時に、陰茎が乳房の間でどくどくと脈動し、精液を噴き出す。
「・・・あっ・・・!」飛沫がシャルロットの胸に、口に、顔に散り、かの女は眉根を寄せ小さく声を発した。
シャルロットは迸った白濁液を指で拭って口許へ運ぶと、妖艶に舌で舐め取る。
放出し足りない欲望に駆られ、覇王丸はシャルロットを押し倒した。

「あ・・・」
既にシャルロットの乳首は硬くしこり、その存在を主張している。
覇王丸は荒々しく掴み掛かると、乳房を揉みしだく。
「ア・・・あんっ」上向いた乳首を吸われ、シャルロットの唇から甘い声が零れた。
指で金色の茂みを分けてかの女の秘裂を割りまさぐると、そこはもう熱く、滴らんばかりの愛液でぐっしょりと濡れそぼっている。
「すげえ・・・」
覇王丸は無意識のうちに感嘆の言葉を洩らしていた。
すぐにでもそこへ自らを埋め込みたくて、シャルロットの膝裏に手を差し入れ両足を大きく開かせる。
「アッ・・・!」
先刻達したばかりの肉棒が、再びいきり勃っていた。
「・・・本当に良いのかよ」
今更やめる気は毛頭無いが、逸る気持ちを抑え、覇王丸はシャルロットに伺いを立てる。
「・・・野暮なことを言うな、馬鹿 」それだけ言い、シャルロットは羞恥に頬を染めてふいと横を向いた。
そんなシャルロットを覇王丸は可愛いと感じながら、己の怒張したものを女陰にあてがう。
「・・・ああっ・・・!」
体内に侵入しようとする巨大な圧力に、シャルロットの身体が弓なりに反った。先端を埋めたところで狭い内壁に阻まれ、覇王丸がウゥ、と唸る。
「きつ・・・もう少し、力抜けよ・・・」
その声にシャルロットの身体の強張りが緩んだところへ、一気に腰を突き入れた。
「・・・あああぁん!!」
シャルロットの悲鳴とともに深くえぐられた膣壁は、きゅうと締め付けるように覇王丸を包み込んだ。
「動くぞ・・・ちゃんとつかまってろよ」
覇王丸に目線で答え、シャルロットはのろのろとその背に腕を回す。
ゆっくりと抽挿を開始すると、シャルロットから零れる甘い吐息が覇王丸を擽った。
「ン!あ・・・!はっあぁ・・・!」
軽く突く度に、シャルロットは嬌声を上げ、繋がった部分からにっちゃにちゃと卑猥な音が生まれ薄暗い空間に響く。
「ア・・・っ・・・あぁっ!」這い上がってくるような快感、シャルロットは腰をくねらし自らそれを享受した。
覇王丸は情欲に駆られるまま、激しく腰を打ち込んでいく。
「・・・はァ・・・!ああ!」
シャルロットは喘ぎながら、きつくその首にしがみつく。 二人が絶頂へと上り詰めるまで、そう時間は掛からなかった。
「・・・うっ・・・シャル・・・」
突き上げながら、覇王丸が苦しげに言った。
「あ・・・あ・・・!あんっ!」
乳房を揺らし金髪を振り乱して、シャルロットが一際甲高く鳴く。
「う、ク・・・!」
覇王丸は全身を痙攣させて、熱く滾ったものをシャルロットの中に解き放った。
「あっ・・・あァーっ!!」
620DSd3e9s+:2005/11/24(木) 17:57:34 ID:DSd3e9s+

ハァハァと肩で息をつく。
けだるさに、シャルロットは瞼を閉じた。
心臓の鼓動が激しく脈打ち、目の前がくらくらしている。暫しの間を取って、覇王丸が口を開く。
「一旦火が点くと手に負えなくなっちまうのが男ってもんだ。特別・・・」
それを聞き、シャルロットの眼は驚愕に見開かれた。
「酒の入った男は始末が悪ぃ」息を飲むシャルロットの視線の先で、覇王丸の雄根は早くも硬さを取り戻している。
「・・・あぁ・・・」
幾度となく求められ、シャルロットは悦びにうち震えた。


心地良い疲労感が二人を包んでいた。
沈黙を破ったのは、覇王丸だった。
「しかしよぉ、何だって俺なんかを・・・」
雰囲気を弁えぬ不粋な質問に、もう少し甘い余韻に浸っていたかったシャルロットは内心溜息をつきたい気分になる。
だが、そんなところがいかにも覇王丸らしくて、かの女はとても好ましく思うのだった。
「・・・私の方が聞きたいくらいだ」
「なんだぁ、そりゃあ」
わざと素っ気無く答えを返したシャルロットに、覇王丸が間の抜けた声を上げる。
顔を見合わせると、互いに可笑しさが込み上げてきた。堪えきれなくなった笑い声が、どちらからともなく零れる。
ひとしきり笑った後、シャルロットはそっと、覇王丸の広い胸に寄り添った。
「merci、覇王丸・・・」
囁いて、かの女は聖母のような微笑みを湛えながら、安らかな眠りへと導かれていった。


(おしまい)
621DSd3e9s+:2005/11/24(木) 17:59:34 ID:DSd3e9s+
終わりでつ
なんかいらん部分が長く・・・orz
読んで下さった方有難うございました
622名無しさん@ピンキー:2005/11/24(木) 18:08:44 ID:WmDTXTnE
GJ! GK! GJ!
シャルキタシャルキター!!!
良かったよ!うん!
623名無しさん@ピンキー:2005/11/24(木) 18:09:31 ID:WmDTXTnE
うへあ('A`)
ゴールキーパー混じってる。ゴメン
624名無しさん@ピンキー:2005/11/24(木) 18:37:49 ID:3kjjCNGO
>>621
乙。
良かった。今後の作品にも期待する。
625名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 04:53:54 ID:UEJQFkQe
あ り が と う >>621ネ申 よ !!!11!!

覇シャル キター(゚∀゜= *`Д)ノ キィイタァァアアアーー!!
100万回のGJを贈りたい!!こう言うのを待ち望んでました!!!
626名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 19:31:05 ID:Mio4kDTG
シャルかわいいよシャル
対戦相手の時には憎らしいけど…w
627DSd3e9s+:2005/11/28(月) 17:24:36 ID:YTlMLdob
皆様、労って下すって有難うございます!
ほ、ホッとしますた・・・

調子に乗ってお絵描きも(ry
ttp://yamada7536951.hp.infoseek.co.jp/

628陸捨肆:2005/12/04(日) 01:41:05 ID:Oerm/upl
「元気そうね、リムルル」

「ね、ね……ねえさま―――!!」

涙にぼやけて形を変える前に、リムルルは思い切りナコルルの懐に飛び込んだ。
「うわあぁぁぁぁ、会いたかったよ、会いたかったよぉぉ!」
「まさかリムルルが来てくれるなんて……私も会いたかった……!」
「夢じゃないよねっ、ホントにナコルルねえさまだよねっ!?」
「ええ。分かるでしょ?私は私よ」
「うんっ、分かるっ、ねえさま、えぐっ、うっ、うあぁぁぁん!!」
無粋な質問はもういらなかった。片時も忘れたことの無い、正真正銘の姉の懐に抱かれ、
リムルルはいつ止まるとも知らない涙を流し続けた。
「みんな……みんな、ねえさまが死んじゃったなんて言うんだ!だからわたし、絶対
そんな事ないって、コタンを出て、それで……それでぇ」
「いいの……リムルル。もう何も言わなくて。ありがとう。本当にありがとうね」
つかえた言葉さえ包み込むように、ナコルルの手がリムルルの頭を撫でた。
「何年も何年も経って、私だってもう……会えないものだと思っていたの。これは
奇跡なのね」
「うん。大きなキムンカムイがねっ、ねえさまに会えるからって、この時代にわたしを
送ってくれたの」
「リムルルが真実を見据える本当にきれいな魂をしているから、きっとそんな奇跡を
起こしてくれたのね……カムイ達に感謝しなきゃ」
リムルルは姉の胸に顔を埋めたまま、こくりと返事をした。そしてもう一度ぎゅっと
抱き合うと、びしょびしょになった顔を拭いながら姉の顔を見るために身体を離した。
どこを見ても間違いは無い。それにちゃんと触れられる。温かくて、いいにおいがする。
幻なんかではない。自分としっかり目を通わせてくれている人は、
「ふっ、ふふっ、ねえさまだ。ホントに、ホントに……ねえさまだ!」
なぜか笑いがこみ上げてきて、リムルルは真っ赤に泣きはらした顔のままで笑った。
「ふふっ、変なリムルルね。人の顔を見て笑うなんて」
ナコルルは冗談ぽく、肩をすくめてみせた。
「ごめんなさい。だけどねっ、嬉しくて……なんだか、勝手におなかが笑っちゃう
んだもん。ごめんね」
「いいのよ。別に。ほら、もう泣き止んで?」
親指でそっと頬を伝う涙を拭われ、リムルルはがしがしと乱暴に自分の袖を顔に押し付けた。
姉は、優しさまで相変わらずだ。
「ねえさま大変だったんでしょ?」
リムルルは気になっていた事を口にした。
「ずっとずっと、色んなところで傷ついて泣いてるカムイ達をねえさまの力で治してたん
でしょ?」
「えぇ。魔界が地上に残した傷跡をね。でももう大丈夫よ。全部、解決するわ」
機関銃のように喋るリムルルをなだめるように、ナコルルは静かな語り口で言った。
「そう。確かに大変だった」ナコルルの顔に、凛とした真剣味が差す。
「魔界の爪あとは深かったわ、想像以上にね。だけど私だってアイヌの戦士よ。魔界に負けて
なんかいられない、そう思って、大いなるカムイ達と一緒にこの世界を守ることに専念したの。
この秘密の場所を中心にしてね」
「うんうん!すごいなぁ、さっすがねえさま!」
姉でありカムイコタン一の勇者であるナコルルに、リムルルは憧れの眼差しを向ける。
「私にしか出来ないことだからね。アイヌの戦士として、この世界を終わらせるわけには
いかないから。たくさんのカムイが住むこの土地を、元の姿に戻さなきゃいけないもの。
ほら、あれを見て?リムルル」
言って、ナコルルがおもむろに後ろを指差した。
629陸捨肆:2005/12/04(日) 01:42:10 ID:Oerm/upl
姉に釘付けだったリムルルの視線が、指の誘導を受けて初めて、ほら穴の先に広がっていた
世界を見つめる。
そしてリムルルは、ぺたんと腰を抜かした。
「な、ななな」
言葉さえ失ったリムルルを見て微笑む姉が指差すそれは、確かに「樹」だった。
「樹」だったのだが、リムルルにはそれが一瞬何なのか分からなかった。
この森の中に足を踏み入れてから何度も見た巨大な樹。しかし姉の背後、どこまでも続く
花畑の向こうにあるその樹は、空に浮かぶ雲を「本当に」貫いていたのである。幹の太さ
たるや、大人が囲んでなどというような代物ではない。根元の周りを歩いたなら一日はかか
るんではないかとさえ錯覚するほどの太さで、枝葉などは雲に隠れ、所々空の青に混じって
緑色に輝いている。兄と連れ立ってこの世界の都へと行ったときに見た、高い建物などとは
比べるべくも無い。
その樹は正しく「大樹」だったのだ。
「驚いた?」
「お、おおおお驚いたって、驚くよぉ!なにあれ!?」
やけに冷静な姉に、リムルルは大きな目をさらにひん剥いて叫んだ。
「落ち着いて、リムルル」
「だって、あんなの……!」
「いい?リムルル。あれはね、私が持っている力の集大成なのよ」
「しゅう……たいせい?」
ええ、とナコルルが短く答え、大きく両腕を広げて空を仰いだ。
「私が持っている巫力……それを使ってアイヌモシリを本当の姿へと導くために、私は
光になってあの樹をここまで育てたの。あの樹の中には、私の力が全部封じられているのよ」
「じゃ、じゃあ!あの樹を育てるために、ねえさまは他のみんなを放っておいたの?」
光に照らされた姉の言う事に、リムルルは感情もあらわに噛み付いた。
「レラねえさま何回も言ってたよ、自然が苦しんでるって!わたしだって分かるよ、この
時代のアイヌモシリって、何だか……姉さまが居なくなったあの頃に近づいてる気がする
もん!な、なのに変だよね?一本の樹だけ助けちゃ変だよね、早くみんなを助けなくちゃ
ダメだよね!ね!?」
無理にでも笑いながら、リムルルは言った。
どう考えても自分の考えは間違っていない。だからこそリムルルは必死だった。
一人がたくさんの幸せを集めても、他のみんなが苦しんでいたら意味が無い。だからみんな
と分けて生きなさい、と。人間も自然も、そうやって今日まで生きてきたのだから、と。
生まれてからずっと、リムルルはそうやって教えられてきた。
同じ教えの中で生きてきた優しい姉だ。何も変わっていない姉だ。だからさっきの言葉も
何かの間違いに違いなかった。説明すれば思い出して、すぐに分かってくれると思った。
しかしナコルルは、首を横に振った。
「リムルル落ち着きなさい。聞いて。この樹がね、世界を救うために、アイヌモシリを
本当の姿へと導くのに必要になるのよ」
「ホントの姿?」
思いが届かずに困惑し続けるリムルルとは対照的に、ナコルルは柔らかに微笑む。
「そう。私達人間に、住む場所も何もかもも全て奪われ、虐げられ、忘れられたカムイ達。
そのカムイ達が昔と同じように、人間からの供物を受け取って、幸せに暮らせるのがアイヌ
モシリの本当の姿だとは思わない?」
もっともな言葉に、リムルルはうんうんと深く同意を示した。
「そうだよ。わたしはちゃんとカムイに感謝してる。にいさまもコンルとかシクルゥとかと、
とっても仲良くしてるよ?」
「いい子ね、リムルル。そう。アイヌモシリ(人間の土地)はカムイモシリ(カムイの
土地)の延長よ。尊いカムイの恵みがあっての人間。この身を大自然の治癒に捧ぐ間、
私はその摂理をしっかりと見直したの。そして……気づいたのよ」
微笑みを崩さず、両腕を一段と大きく広げたナコルルは、大樹を背にしてこう言った。
「カムイを癒す……そう、アイヌモシリから旅立った者たちをも蘇らせるこの力を持つ
私こそが、人間がカムイに残せる、最後の……最大の供物だって、ね」

リムルルにはその瞬間の姉の姿が、大樹に磔(はりつけ)にされているように見えた。
630陸捨肆:2005/12/04(日) 01:42:53 ID:Oerm/upl
大好きな姉が、自分が作り出したというあの樹のお化けに、四肢を杭打たれているように。

「違う……そんなの絶対ちがうよ!!」
腰抜けになっていたリムルルは叫びながら立ち上がり、嫌な予感に後ずさりした。
ナコルルは凍りついた笑顔のまま、この場所へと出てきたほら穴の方へと下ろうとする
リムルルに近づいてくる。
「リムルル……素敵な考えでしょ?」
「……ねえさま?」
リムルルは戦慄した。全く聞く耳を持たない姉に、背筋が寒くなった。
姉は変わってしまっていた。考えが行き過ぎているのもそうだし、表情が凍てついている。
一つの考えにとらわれ続け、自分を失っている人間の顔をしている。姉がそんなになって
しまうなんて信じたく無い。
しかしこちらに近寄ってくるのは、本物の姉の「身体」だった。抱きしめあって触れ合って、
リムルルは本能的にそう理解している。
だけど絶対に信じたくない。姉は何かに心を奪われているだけだ!
「ねえさ……違う……あ、あんた誰よ!ねえさまから出てけ!」
リムルルは自分の頭に閃いたその言葉を信じ、姉の形をしたそれにぶつけた。
するとナコルルの歩みは止まり、その顔が酷く悲しそうな表情に「切り替わった」。
「何で……ひどいわ、リムルル」
しかしそれもつかの間だった。ナコルルは悲しみを装ったまま、再びリムルルへの接近を
始めた。凍りついた表情が笑顔から悲哀に変わることで、作り物っぽさに拍車がかかって
いる。リムルルの背に、さらなる悪寒が走った。
「こんなに会いたかったのに……」
うわ言のように、ナコルルは唇を動かした。
「うぅ……ねえさま!お願い!止まって!元に戻ってよお!!」
どうする事も出来ず、リムルルは逃げた。身体が本物な以上、傷つけるわけにはいかない
のだ。それにこの場所は危険すぎた。考えてみれば、リムルルが昔から知るアイヌモシリと
ここは全然別物だ。花は枯れないし、木々は生長しすぎている。自然の摂理から抜け出した
自然など、もはや信じることは出来ない。残してきた3人の身も危ぶまれる。
「逃げないでリムルル……こんなに大好きなのに」
詰め寄る姉が、何事か言っている。
「やだ……来ないで!」
リムルルは、会いに来たはずの姉についに背を向けた。耳を塞ぎたかった。
「リムルル……こんなに必要なのに……」
「もう、もう何も言わないで!」
「リムルル、好きなのに……愛しているのに……こんなに欲しかったのに!」
姉の声がそう叫んだのが聞こえると同時に、リムルルは何も無い花畑の上で、またしても
すてーんと転んだ。
「痛いッ!あっ、冷たい?」
しかし、手を突く地面の感触が違う。薄い氷の膜の中に、花々が閉じ込められている。
こんな事が出来るのは一人しかいない。
「コンル……!」
どうして転ばされたのかは知れないが、仲間の到来にリムルルが心を撫で下ろそうとした
その時だった。目指していたほら穴を支えていた土壁が大きな爆発を起こし、逃げ道を
塞いでしまったのである。それに合わせて、何かがリムルルの身体の上にじゃらじゃらと
落ちてきた。妙な金属音がする。その上、結構な重みがあった。
リムルルは慌てて得体の知れないそれを払いのけて立ち上がり、正体を見た。
「……くさり?」
金属音の正体は、赤黒く錆びついた鎖だった。それが自分のいた場所を中継して、爆発して
通れなくなったほら穴へと真っ直ぐに続いている。よく見ると、煙が立ち込めるほら穴の
土くれには、何かが深々と刺さっていた。黒光りする、奇妙な金属の塊だ。ここからでは、
その物体の正確な正体は分からない。
しかし、もっと簡単に分かることがある。
もしもコンルが氷を張っていてくれなければ、ああなっていたのは自分だったという事。
そしてその鎖の余りを腕にぐるぐると巻きつけて金属片を操り、遠くから背後を狙う卑劣な
行為を働いたのは、実の姉の身体だったという事だ。
631陸捨肆:2005/12/04(日) 01:43:43 ID:Oerm/upl
「く……!」
ぎりぎりと歯をならし、リムルルは怒りに身を焦がした。右手をハハクルに伸ばし、臨戦
体勢を整える。コンルがすぐ横に近づいてくる。爆発の前にこの場へと来ることができた
らしいシクルゥの足音が、自分の後ろで止まったのも分かった。
「ふたりとも!ここ、おかしいよ!それにあれ、ねえさまだけどねえさまじゃない!」

「何ヲ訳ノ分カラヌ事ヲ抜カシオルカ?」

険しい表情で二人に注意を促したリムルルの耳に突然、男とも女ともつかない、不快な
声が響き渡った。
あの日の神社で、家のすぐ近くの公園で、リムルルの命を狙った奴の声だ。
「あんただったのね!やっぱり!!ウェンカムイ!さっさと出てきなさい!!」
『違う、あれはウェンカムイではない……』
一歩前に出たシクルゥが、リムルルに告げた。

「えっ、シクルゥ、何て?」
「ソウダ、其ノ通リヨおぉぉ!」
『だめだリムルル、危ないっ!』

三つの声が同じに重なった直後、音の末尾が光と爆音にかき消された。
強烈な威力を持った一筋の破壊の閃光が、空からリムルルの目前へと降り注いだ。
「うわあああっ!?」
草花は丸焦げにされ、地面に大穴が開く。リムルルもまた、その爆発的な衝撃と轟音に
よって遠くまで跳ね飛ばされた。幸いにも直撃は免れ、リムルルは受身を取ってすぐさま
立ち上がった。
「くぅ……ああ、シクルゥ!」
ちかちかする目を擦り、リムルルは自分と同じに跳ね飛ばされたシクルゥに駆け寄った。
だがシクルゥは息こそあるものの、呼びかけには応じない。それどころかぐったりと横
たわって、立ち上がれるような状態でさえない。
「うぅ……まさか、わたしをかばって!」
「子供ひとりにそこまで肩入れするとは。驚きですな、尊き山のカムイともあろう御方が。
いや……それとも、もうお気づきなのですかな?その娘の持つ力に」
聞きなれない男の独り言に向け、リムルルはきっと鋭い睨みをきかせた。声色こそ違うが、
その口調は明らかに天から聞こえてきたあの声の主のものだった。
「あんた、何者なの?」
声の主は空高くから舞い降り、鎖を握り締めたままのナコルルの横にふわりと着地した。
腰よりも長い銀色の髪、雨雲の色をした布地に金の装飾を施したきらびやかな衣装。
細く繊細な印象を与える整った顔立ち……そして、リムルルを陽の光よりも強く照らす
金色の眼光。
「我が名はシカンナカムイ。何よりも俊く美しい閃光のカムイの名……よもや忘れたわけ
ではあるまい?リムルルよ」
薄い唇を開き、男は自分の正体を明かした。
「シカンナ……カム……イ……?」
リムルルは確かめるように、大事にその名を呟く。知らないはずは無い。
「その通りだ」シカンナカムイが満足そうに頷いた。
「その右手に握られたメノコマキリこそがその証。華麗にして最強の技をカムイコタンに
伝えた者の名を、使い手たる者が知らぬはずは無かろう」
――嘘!心を読まれてる?
構えをきつくするリムルルを見て、シカンナカムイが晴れ着の裾から出した人差し指を
左右に揺らした。
「少し違うな……人間の考える事など、たかが知れておる。それだけの事よの」
世にも恐ろしい事を、さも当然のようにシカンナカムイは説明する。
632陸捨肆:2005/12/04(日) 01:45:44 ID:Oerm/upl
「さてリムルルよ、ここへ足を運んだ目的、無事に果たせて良かったのう」
「無事?無事なんて!そんなワケないじゃない!ホントのねえさまを返せ!」
「本当のねえさま、とな」
反抗の意思を露にするリムルルの態度に、シカンナカムイが怪訝そうな顔をする。
「ここに居るではないか。アイヌの戦士としての自覚を深め、我らカムイとの共存のため、
その身を滅ぼす事もいとわぬ……最も美しき人間が。のう、ナコルル」
感情の一切を失った、ビー玉のような目をしたナコルルが、こくりと首を振った。
どうした事か、それを見たシカンナカムイの顔が途端にゆるんだ。
「おおぉ……見よ、この美貌!漆で塗ったように艶やかな黒髪!絹の如き肌!素晴らしい!
人間の中の人間、まさに芸術品よの」
シカンナカムイはため息をつき、ナコルルの顎を両手で包み込んだ。
「たまらぬ……この美しさ!カムイに抱かれ、永遠の生を受けるに相応しい」
「あっ、ちょ、やめろっ!」
リムルルが、腰のハハクルに手を回したまま、一歩前へとにじり寄った。
「ねえさまに触るな!そんなやらしい目で見るな!」
「美しいものを愛でるは、至極当然の欲求よ……」
シカンナカムイは至近距離から、金に光る視線でナコルルの顔を舐め回した。
「そして、その美しい存在を美しいままにしておきたいと思うも、また至極当然のこと。
滅びに向かいし我らのアイヌモシリを救うためとはいえ……ナコルルの美貌までもが消える
必要は無い。我はそう思った。だから我は、ナコルルの魂を肉体から切り離した」
何という事もなしに、シカンナカムイは淡々と言った。
リムルルは、頭の中が空っぽになるのを感じた。
体じゅうから力が抜け、構えが自然と解ける。
――魂を肉体から切り離す?
なんだ、それは。
それは入れ物から、中身を取ってしまうようなものだろうか……と、リムルルは思考とも
呼べない状態で、心にぼんやり言葉を並べた。
お茶碗の中に入っていた食べ物を出して、空の状態にしたようなものだろうか。
中身が無い器。中身があってこその器。そこに何かが入っているから、初めて器は役に
立つのに。飾っているだけじゃ、意味が無いのに。
大事なだいじな、「ねえさま」という中身を取り出したら、それは一体何なのか。
「ねえさま」の魂は、目の前に広がる花畑の上でシカンナカムイに弄ばれているねえさまの
形の中には入っていない。カムイはそう言った。たった今。
それなら、誰がその唇を動かして自分の名前を呼んだのか。
抱きしめてくれたのは誰か。涙を拭ってくれたのは。笑いかけてくれたのは。
「やっぱり……やっぱり違うじゃないか」
うつむいたリムルルは、震える声を絞った。
「ねえさまを操って、こんなおかしな土地を作らせて、あんなオバケみたいな樹を育て
させて、おまけにわたしの気持ちまでバカにして」
リムルルの周りの空気が、熱を帯びたようにゆらめいた。宙にとどまっていたコンルが
ふわふわと波を受けたように漂った。草むらがざわりと騒ぐ。
「今なら許したげるよ」
リムルルが厳しい顔を上げ、飛び出しそうになっている何かを堪えた声で言った。
「さっさとねえさまを元に戻して。わたしのねえさまに、勝手なことしないで」
四季の無い、上っ面だけの平和を形にしたような花畑の空気が、リムルルの張り詰めた
迫力にびりびりと揺れている。
「ほおう、やはりその力は……我の見立てに狂いは無かったようだの。ふふ……」
横目でリムルルの変化を見ていたシカンナカムイは、リムルルには聞こえない声で小さく
言った。そして今度こそリムルルのほうを振り返ると声を張った。
「早まるでないぞ!リムルル!我はアイヌモシリを天から見守る守護者。人間の営みを
見守り、時として罰を与え、その身に余るであろう武器は奪い取った」
これもそうだ、とシカンナカムイはナコルルの手に握られた武器を指差した。
「これは罪人殺という。生死の狭間に迷った男が手にしていた、危険極まる、そしてあまり
に美しい武器よ。使い手が鎖を持てば、その動きはどこまでも変幻自在。四方八方を無尽に
飛び回り、山ほどの命を食らった。だから我は、これを奪った。他にも山ほどあるぞ。
人の世には置いておけぬ、我らがアイヌモシリに滅びをもたらすであろう禁制の品々……」
633陸捨肆:2005/12/04(日) 01:46:57 ID:Oerm/upl
シカンナカムイは右手を差し伸べた。瞬間、毒々しげな桃色の閃光が走り、その手の上に
奇妙な球体がふたつ現れた。
リムルルは警戒を深め、二つの球体の動きを目で追った。人の頭ぐらいの大きさだろうか、
奇妙な紫と薄緑の球体が手品のように回転し、行き交うたび、その向こうに透けるシカ
ンナカムイの顔が歪んで見える。
「これらは遠く海を隔てた地に、代々伝わっていた宝珠。緑に輝くこの石はパレンケストーン
と呼ばれ、聖と闇……相対するはずの二つの性質を内に秘めておる。人間が内に秘めし
二面性から生まれたか、アイヌモシリに訪れる朝と夜を示すのか。それとも、この世とは
別の世界の存在を示唆しているのかも知れぬ……。ともかく、この石の闇の性質を利用しよう
とした者がおり、破壊されても再生を繰り返す以上、我はこの石をアイヌモシリに野放し
にしてはおけなかった。だから我が手の中にある」
「わたしはその石からとんでもない真っ黒な気配しか感じないわよ!」
「何を言うか。目が曇っているのではないか?リムルルよ」
球を覗き込むシカンナカムイがにんまりと笑い、ひどい形に屈折した。
「この色、この光!手元に置いてからというもの、衰えを知らぬこの輝きに魅せられる
ことしきりよ。カムイをも誘うとは、アイヌモシリに置いておくには危険、人間には
過ぎた玩具。無論、このもう一つ……タンジルストーンもまた禁忌と言えよう。リムルル、
特別だ。ほれ、しかと見入るが良い」
透明な中に複雑な光が瞬く紫色の石、タンジルストーンが、シカンナカムイの手を離れて
リムルルの顔の正面にまでゆらゆらと近づいてきた。距離が縮むにつれ、肩の辺りがずしり
と重くなるような、不気味な波動が強まってくる。
「くっ……!こんなもの手元において、あんたは何で平気なのよ!」
経験したことの無い、見つめるほどに気持ちが悪くなる眺めだった。リムルルは今すぐに
でもハハクルを抜き、目の前の球体を真っ二つにしてしまい衝動にかられた。
「こんな邪気で満たされた道具、カムイが持ってるなんておか……し……?」
右手を愛刀へと伸ばそうとすると、タンジルストーンの放つ邪気がふっと収まった。
そして、その代わりに強烈な別の存在感が内側から光となって溢れ出した。
それを浴びたリムルルはぐらっと肩を落とし、言葉を失った。
見た目は変わらない妖しい石の奥から、心に直接触れてくる大きな何かが伝わってくる。
この世の全てを包み込むように、あまりに大きくて優しくて、手のひらの上の雪よりも
儚げなそれ。
「ねえ……さま!ナコルルねえさまぁ……あ、あぁ……!」
リムルルの大きな瞳から、再び自然と涙がこぼれた。
晴れ着が汚れることもいとわず、リムルルはがっくりと膝を突き、光輝くタンジルストーン
を抱きしめようとした。しかしその両腕は空を切り、リムルルはばったりとそのまま倒れた。
「出会えたようだの……リムルルよ。ナコルルの魂に」
幾重もの光の残像を描きながら、タンジルストーンはシカンナカムイの手へと戻った。
「タンジルストーンは、パレンケストーンと対をなすもう一つの秘宝。人の魂を封じる
ことで闇の力を招くといわれた、邪な儀式の礎となる魔石よ」
シカンナカムイが手のひらを返すと、二つの石が微動だにしないナコルルの肉体の周り
を回転しながら上下し始めた。
「ナコルルの魂は強い力を持っている。死に生を再びもたらし、カムイをも蘇らせ、滅びを
食い止めるこの力……。しかしそれも、肉体が朽ちてはなんともならぬ。自らの肉体は
癒すことは出来ぬようなのだ」
明るい太陽の輝く空を、シカンナカムイは懐かしそうに見上げた。
「あの日解放されたナコルルの力は強すぎた。この肉体では限界があったのだ。だから我は
限界を迎えるその前に、ナコルルがポクナモシリへと逝く前に……魂をこの石の中に封じた。
無論、ナコルルもそれを望んだ。喜んでの」
「嘘だ、そんなの」
「何?」
伏せたままだったリムルルが立ち上がり、口を挟まれ不機嫌そうなシカンナカムイを見
つめた。その顔は、涙と泥に汚れていた。
「あんたはナコルルねえさまの事、何も知らないんだ。ねえさまは……自分の身体がどう
なろうなんて気にするような人じゃないんだ」
リムルルの声は、凍てつくような冷たさを伴っていた。傍らに浮かぶコンルが、不安げに
揺れている。
634陸捨肆:2005/12/04(日) 01:47:33 ID:Oerm/upl
「ねえさまは助けを求める事なんてしない。手を差し伸べられても笑ってるだけで取ら
ないよ。全部自分でしょい込んで、みんなのために自分の身体を犠牲にしちゃうんだよ。
わたしだろうと、どんなに偉いカムイのあんただろうと、絶対に聞きいれるわけがないんだ」
それに、とリムルルは付け加えた。
「レラねえさまは言ってた。ナコルルねえさまはこの森で『寝ているんだ』って、ね。
何で起きてるの?誰が……起こしたのよ」

ひと時の沈黙。

「ふっ」
にらみ合いに、先に折れたのはシカンナカムイだった。
「……くっ、ふふ。降参だ。反面というのはどうも口が軽い傾向にあるのかの」
やれやれとでも言いたげに首を振り、含み笑いを残して言う。
「お前の言うとおりだ。我はナコルルの力の源たる魂をパレンケストーンの力で奪い取り、
封じた。あの大樹には先にも言った通り、魂からあふれ出るナコルルの力を満たしてある。
いやはや、まさかここまで育つとはの」
「一体何のためにそんな事してんのよ!」
「お前がそれを知る必要は無い」
シカンナカムイはたったの一言だけであしらった。
「ただ……繰り返すようだが、ナコルルは我らカムイに与えられた最後にして最大の供物
であったこと……そしてこのシカンナカムイに愛でられ娶られたこと、誇りに思うがよいぞ」
「めとられ……?何を……言って」
「む、やはりまだまだ餓鬼かの。我が言葉の片鱗から汲み取れというのが無理な相談だった、
そういうことかの……。リムルル、こういうことなのだ」
シカンナカムイはナコルルの背に伸ばしていた腕を脇の下に潜らせ、乳房を掴んだ。
途端、「あっ」と、姉の口から変な声が漏れるのがリムルルの耳に届いた。
「ふふ……先も言うたであろう、この身体、永遠のものとするに相応しい、と」
ついに言葉の真意を悟り、リムルルの極限まで見開かれた目が点になった。
だが、止めに入るには遅すぎた。
「幾たび抱いても抱き飽きぬ……可愛がり甲斐のある、極上の躰(からだ)であるぞ?」
くちゅっ。
実の姉の唇が、カムイの唇に音を立ててふさがれるのを見ながら、リムルルは思った。
――全てが狂っている。
人の魂を、仲間のはずのシクルゥを、そして力をもぞんざいに扱うカムイ。
魂を奪われているにもかかわらず、艶かしい声で鳴く姉の身体。
愛すべき存在が、全て狂ってしまった。
そして、やはり自分もまた……狂った。
本当に、心から最後まで信じてやまなかった、信頼していた存在に。

よもや、カムイに刃を向けることになろうとは。

だがそんな躊躇を遥かに上回る本当の怒りが、リムルルの心を燃え上がらせた。

「許さない……」
姉は何のために生まれてきたのだ。
力を持っているがために戦いを強いられ、心の奥底では常に孤独を抱え、本当の意味で
女性らしい生き方など望むべくも無く暮らし、挙げ句は自分の身を犠牲にして守ったはず
のカムイに、何よりも大切なものを奪われたというのか。
「よくも……よくもねえさまをおっ!!」
喉が潰れるぐらいの叫びと共に、リムルルの周囲が金色に爆発した。
コタンに伝わる武芸の開祖とも言うべきカムイを前にしたところで、リムルルの恐れは
完全に麻痺していた。敵意に満ちた瞳はぎらぎらと輝き、小さな身体を中心にして膨れ
上がった怒気が晴れ着を躍らせている。
「ウェンカムイめ、それ以上ねえさまに触るなあああああっ!」
リムルルはハハクルを抜くことさえせず、シカンナカムイ目がけて駆け出した。
635陸捨肆:2005/12/04(日) 01:48:14 ID:Oerm/upl
「んちゅっ……ふんッ……不細工な攻めよ。我が極意の何を学んだというか」
長い舌でナコルルの口の深くまでを犯していたシカンナカムイが、やっと唇を離した。
「ナコルル。楽しみは後に取って置くもの……。さあ鎖を引け。まずはあの餓鬼を黙ら
せるのだ」
頬を染め、くちづけだけで果ててしまいそうだったナコルルの顔が、びしりと凍りつく。
ナコルルはこくりと小さく主の言葉に応じると、握っていた罪人殺を五間(約九メートル)
に迫ろうとしていたリムルルの足元目がけて素早く放った。
地面すれすれを飛ぶ巨大な手裏剣が、乾いた鎖の金属音を響かせ、草花を刈り取ってゆく。
かなりの速度だったが、リムルルはそれを難なく最低限の動作で飛び越えた。
しかし、能面のナコルルの狙いはその一撃ではなかった。手元の鎖を掴んでくいっと軽く
引くと、地面と平行だった罪人殺が空へと直角に向きを変えた。地面に垂れていた鎖もそれに
続いて浮き上がり、再びリムルルの足元を狙うが、リムルルは横に跳んでそれをかわし、
さらに前進する。
――懐だ!近づいちゃえばこっちのものだ!
リムルルは相手の武器の特性から、至近距離での闘いを挑むのが最善の策だと判断した。
握り手があり、一つの刃がハハクルほどもあるとは言え、手裏剣は手裏剣だ。手元を離れて
しまえば、あとはあの鎖を封じるだけで制御不能に陥るのは誰の目にも明らかである。
立ち止まったままのナコルルまで、もう二間。
あっさり巡ってきた好機を逃すまいと、リムルルは姉の両腕に手を伸ばそうとした。
……しゅ……るるるっ
その刹那、頭上高くから鎖の音が響き、リムルルはとっさに右へと横っ飛びに跳んだ。
がすっ。
リムルルの戦いへの本能が一瞬だけ勝った。リムルルが最後に草花を蹴り、踏みつけた
小さな緑の足跡の上に、禍々しい四刃の手裏剣が突き刺さった。
「言ったであろう、変幻自在と」
ナコルルがひょいと後方へと飛びのくと、その後ろにつくシカンナカムイが代弁した。
「そんな平凡な狙いが通用するとでも思うたか?」
完全な仕切り直しだった。むしろお互いの立ち位置は、最初よりも広がってしまっている。
だが、距離をとった二人の姿を見据えたリムルルは焦る素振りさえ見せず、シカンナカムイ
の挑発にも乗らなかった。ただ、
「いくよ、コンル」
はっきりとそれだけを相棒に伝え、もう一度ナコルルへと走り出した。
「フン、愚直な。その俊さだけは認めざるを得ぬが、馬鹿の一つ覚えだな。揉んでやれ」
鎖を引いて手元に戻ったばかりの罪人殺を再び構え、ナコルルは命ぜられるままに勢いを
つけて放った。
鈍い色をした大手裏剣が草花を無残に切り裂いて、リムルルの胸へと近づく。
真っ直ぐに飛んできたそれをリムルルはまたも飛び越え、脚を止めずに走り続けた。
振り返らないまま、リムルルは背後からの強襲を想像する。
それはいつ?どの方向から?読んで読めるものでは無い。相手は読みの外から狙うのだから。
かと言って、コンルの力でこの距離から相手二人を攻撃するのも無茶だ。コンルの力は、
リムルルにとって最大の切り札だ。そう易々と使っていいものではない。
――まだまだねえさまの間合いだ。慎重に神経を張って、大胆に接近!
姿勢を低くして走りながら、リムルルは自らを戒めた。
姉の懐に入るまで、あと数秒。
その間のうちに、手裏剣は再び自分を狙って飛んでくる。見えない位置から。
確信を胸に、リムルルは聴覚とギリギリに絞られた視覚だけに全神経を傾けた。
ざっざっざっざっ……
規則正しいこれは、自分の足音。用は無い。
ふっ、ふうっ、ふっ……
一番近いこの音は、自分の吐息。まだまだ余裕の音。これも用は無い。
極限にまで狭めた視野に収めたナコルルとウェンカムイの姿が、次第に大きくなり始める。
636陸捨肆:2005/12/04(日) 01:48:48 ID:Oerm/upl
足音。吐息。動かぬ二人の姿。
――飛んでくる、必ず!
足音。吐息。動かぬ二人の姿。
――鎖の音!聞こえるはず!
足音、吐息。動かぬ二人の姿。
――研ぎ澄ませ!
足音、吐息。動……いた!
――ねえさまの手元!
ナコルルは、地面に垂れていた鎖を振りたわませて叩きつけた。鎖に生じた幾つもの波が
のたうちまわり、リムルルの足元へと向かう。
すかさずリムルルは地面を蹴り、宙へと舞い上がった。足に絡み付こうとする鎖を次々に
踏み散らし、逆にその反動を利用して、空中を走るように一気に間合いを詰める。
「ほおう。達者な身のこなし。だが……そこまでだ。罪人殺に狙われたが最期よ」
シカンナカムイが言うや、能面のナコルルは鎖をじゃらっと逆手に持ち替え、思い切り
引っ張った。
「うわっ……とお!」
器用な綱渡りを演じていたリムルルの身体が、張り詰めた鎖に持ち上げられ、ぽーんと
高くに投げ出された。もっとも、この程度でリムルルは集中を切らしてはいない。
……しゅるるるっ!
小さな耳に傾けられていた強い意識が、背後に迫る大手裏剣の近づいてくる音を捉えた。
その軌道は、宙に放られたリムルルの身体が最高点に到達したところを正確に狙っている。
誰しもが自分の身体を制御不能になる空中。
そこを狙った必殺の一撃。
理に適っている。地上でこちらを見上げているシカンナカムイが、にんまりと白い歯を
見せるのもわかる。
だがリムルルは、危機の迫る背中を振り向こうとはしなかった。ただ耳をそばだて、戒め
通り音に集中していた。そして、頃合を見計らい――
「コンルっ!今!!」
鋭い合図。
リムルルの足の高さに漂っていたコンルが、美しい結晶の形からばきばきと姿を変え、
空中に氷の足場を作りだした。
「よいしょっと!それっ!!」
人一人が乗れる大きさのそれを踏み台にして、リムルルは狙われていた最高点をゆうに
上回る高さへと跳んだ。ナコルルの操る罪人殺が、コンルが用意した氷の足場に空しくも
深々と突き刺さる。
「残念でしたっ!狙いは完璧だったけどね!」
「なっ……何だと?!むう、ナコルルっ!」
展開を全く予想しなかったのか、シカンナカムイがナコルルを急かす。しかし透明なコンル
の氷は罪人殺をしっかりと食いしばり、空中に固定してしまっている。引っ張ったぐらい
では落ちてこない。
諦めたナコルルは自分の手に巻かれた方の鎖をほどき、それを振り回そうとした。
「させない!コンル、槍だっ!いやりやりやりやりぃっ!」
リムルルが叫び、コンルの身体が強い白に輝く。すると、コンルとリムルルの周りに無数の
氷柱が次々に姿を現し、何の迷いも無しに地面へと勢いよく降り注いだ。
しかもその矛先はシカンナカムイには向いていなかった。
狙いは全てシカンナカムイの前、鎖だけで戦おうとしているナコルルへとつけられていた。
「馬鹿な!」
異変に気づいたシカンナカムイが叫んだ時には、美しく鋭利な氷柱は、迎撃の準備も整わ
ないナコルル目がけてどかどかと突き刺さった。
「り……リムルル貴様っ、何故実の姉を、な、ナコルルっ!?」
血相を変えてナコルルの前に躍り出たシカンナカムイは、それ以上の言葉を失った。
ナコルルを突き刺したかに見えた氷の槍は、ナコルルの手元から足元に垂れていた鎖の
穴ひとつひとつを寸分違わず突き刺し、地面にがっちりと固定していた。どの槍も際どく
ナコルルの身体を避け、傷ひとつ与えていない。股の下を潜っているものさえある。
空中と地面の両方に罪人殺を固定されたナコルルは、命令を遂行できずに立ち尽くすのみ
となっていた。
それは、驚くべき技を見せ付けられたシカンナカムイも同様だった。神技を繰り出した者の
存在を思い出して宙を仰ぐ頃には、氷の槍よりも激しい勢いを伴ったリムルルの土足が、
白く高貴な顔に容赦なくめり込んでいた。
637陸捨肆:2005/12/04(日) 02:01:32 ID:Oerm/upl
ノシ

続きは今月中に。
638名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 10:03:59 ID:M6KP59O5
わーい、忘れられちゃったかと思いました。
続きが読めて本当に嬉しいです。
そして、今回も超面白いです!
まさか、ゲーム中では存在自体がうっとおしいウプンオプかっこよく思える日が来るとはw
639名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 18:15:16 ID:8lmAmcU5
>>628-637
ちょww神wGJ
640名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 20:34:52 ID:4AEvXbE0
キタキタキター!
陸捨肆 ネ申 GJ!
641名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 22:26:28 ID:M6KP59O5
リムの怒る様子が詳細に描写されてて、
感情の変化が凄く良く分かる。
読んでて燃えます!
マジで神!
642名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 00:50:08 ID:iDjOXmI7
やべ 超神
続きすごい楽しみにしてました。読むことが出来て嬉しいです。GOD JOB!!!!
643名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 00:05:08 ID:PsY28eJk
うあーもう来ないかと思ったよ・・・
GJ!
644名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 02:36:34 ID:erUW5f3W
期待アゲ
645名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 05:23:35 ID:0Zlk1/ue
操られたナコルル・・・萌え!
646名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 20:55:50 ID:qng3Ynad
続きマダー?
647陸捨肆:2005/12/17(土) 22:53:08 ID:wfRiSkRT
運命とか何とか、そういう難しいものは考えたくはない。

殺(シャア)ッ。

ただ、命あるものから、それを奪うこと。
どう殺す。いつ殺す。誰を殺す。どこで殺す。
とにかくそれだけを四六時中考えていられればいい。羅刹丸はそういう男だ。何しろ
彼自身、ある男を殺すためだけに魔界に生まれたのだから。
「ある男」のことが頭に浮かぶたび、羅刹丸は赤とは違う色の血が出るほどに、拳を地面に
叩きつけた。
やり場の無い嫌悪と憎悪が腹の中で蠢いて、殺せ殺せと焚きつけるからだ。
なぜそこまで恨めしいのか……という疑問をも感じさせないほどの恨み。
その激情に任せ、羅刹丸はとにかく殺した。これもまた生まれつき握っていた妖刀「屠痢兜」
を携え、目の前を動くものがあれば、人でも蟻でも、誰彼かまわず全部あの世に送った。
羅刹丸は直感していたのだ。自分がなすべきことは、「あの男」を殺すこと。それならば――
――どいつもこいつも全部殺し続けてりゃ、そのうち会えんだろォな!
動くものが居なくなって、最後に動いているものがあるとすれば、そいつこそが自分が
殺すべき「あの男」なのだと、羅刹丸は信じていた。当たり前だ。これだけ強い自分の
反面である「あの男」が、自分と会うまで生き抜かないはずはないのだ。

自分以外の誰にも、あの男が殺されるはずは無いのだから、と。

身体の疼きが止まるその日を夢見て殺し続ける日々は、快感に満ちていた。
何も解らないままに死んでいくヤツは愉快だ。
あがくヤツはもっと愉快だ。
どこまでも歯向かおうとするヤツなんぞは、最高の肴だ。
そんな事を考えながら暴れていると、またひとつ、山奥の村が死んだ。
不幸にも羅刹丸の歩む道の上にあったという理由だけで滅びたその村には、ざっと20人は
居ただろうか。農民ばかりだったが、その中の一人に腕っ節のいい男がいた。
農作業から帰ってきたらしいその男は、村を襲った悲劇を目の当たりにし、羅刹丸の姿を
認めた途端、手に持っていたくわを力任せに振り上げて、羅刹丸の頭のてっぺんを狙ってきた。
男の顔は、涙にまみれていた。羅刹丸の手にむんずと握られていた女の首は、どうやら男の
妻か何かだったらしい。
技術で闘わないその姿勢と、怒りの全てをぶつけてくるさまは中々に羅刹丸好みだったので、
じっくりと舐るように殺してやった。
指の一本に始まり、丹念かつ大雑把に解体し、四肢を切り飛ばして動けなくなったところを、
最期は相手の持っていたくわで、心臓をぐたぐたに掘り下げてやった。一振りごとに血が
弾け、既に死んでいるはずの男の顔が、びくびくと絶望に引きつった。
「ふう……へへ。糞虫どもが相手でも、一仕事の後の一杯ってな、たまらんナァ」
誰も居なくなった静かな村の真ん中に重ねた屍の山の上で、その男の頭蓋骨の中に満たした
極上の血酒に酔いしれながら、羅刹丸は上機嫌だった。
いつもなら考えるだけで拳を振り回したくなる「あの男」のことが頭をよぎっても、この
時ばかりは気分が違う。尻の下に敷かれた冷たい屍の頭をばんばんと叩きながら、こんな
ことを考えるのだ。
――こいつら全部があの野郎……覇王丸なら、どんなに楽しいかわかったモンじゃねェな。
赤く妖しく光る満月に届けとばかりに、羅刹丸は大声で笑った。勝ち誇った。
覇王丸よ、せいぜい首を洗って待っていろ、と。
648陸捨肆:2005/12/17(土) 22:54:14 ID:wfRiSkRT
だが、皮肉というものは往々にして起きる。魔界の男にでさえ降りかかる。

自分の行き着く先。それを垣間見ることの出来る場所までもう一歩のところで、羅刹丸は
ついに地に倒れた。
侮った相手に取った不覚。その名は半分ぐらい覚えている。確か……
「十六夜の 月にたなびく我心 誰が為にとぞ 闇夜に光らん……夢路」
夢路。
そう、ゆめじだ。
その夢路の相手の手元が動き、羅刹丸は視界がひょいと高くなったかと思うと、真っ逆
さまに地面に落ち、暗くなった。居合いの技で首だけを跳ね飛ばされたのだ。
――俺に敵う相手が……覇王丸以外にいるッ……て、かァ……?
地面に羅刹丸の頭が落ち、ごろんと転がった。その死に顔は、滑稽なぐらいの驚きの
表情だった。

……気がつくと羅刹丸は、ひとつの道の上にいた。

空は暗く、雲も、星ひとつさえもなく、いつかの山奥で見たあの赤く大きな満月だけが、
天井にぽっかりと大穴を開けている。
羅刹丸はあたりを見回した。しかし見えるのは草一本生えていないだだっ広い土地で、
月光にほの赤く浮かんだ乾いた一本の道が、自分の足元にあるだけだった。
「ふうン……どこだァ?ここ」
珍しくちょっとだけ考える。股間を掻きながらあくびを一つ。
「けッ、んなこた知ったことかよォ」
諦めるが早く、羅刹丸は屠痢兜を引きずってぶらりと歩き始めた。
気ままなものだ。いつものままだ。俺の道だ。ふと振り返れば、からからに干からびた
地面につけた自分の足跡から、真っ赤な血があふれ出してくる。そして道端には、幾つもの
無残な人間たちの死体が打ち捨てられており、そこからもどろどろと血の流れが幾つも走り、
道へと集まっている。
結果、羅刹丸の踏んだ道は血の河となり、彼の背中に続くように流れていた。
「成る程なァ」
合点がいく。これが、俺の進んできた道なのだ。どこまでも延々と続く血の河だ。その
船頭が俺、そういうわけらしい。魔界の者の生き様としては上々だ。
しかし羅刹丸は、ふとそこで裸足を止めた。何かがおかしかった。こんな風にぶらぶら
歩いていられる事自体に、違和感がある。
「ん〜〜?」
羅刹丸は、後ろ頭をがりがりと掻いた。引っかかる。気分が悪い。首の辺りまでむずがゆい。
「ん〜、あァ?」
首の辺りがかゆい。繋がっている首がかゆい。
閃く一刀で、主の身体から切り離されたはずの首が。
「お……?」
羅刹丸の手から、するりと屠痢兜が抜け落ちた。
ぽつり、一言。
「するってェと、ここは……あの世か?」
肩が震え、うめきが口から漏れる。月の赤い光に照らされた顔は、惨めに歪んでいた。
「う……うぅ……うおおおおおおお!」
羅刹丸の身体が、弓なりに上ずった。
「この、この……この俺様が死んだだとォ!!??」
月に向かって叫んだ羅刹丸は、いきなり右手を握り絞めたかと思うと、思い切り地面に
叩きつけ始めた。何度も、何度も。いつかのように。
「こんなところで終わりなのかよオォ!?あァ?!俺は何だってんだ?殺しに殺したは
いいがよ、結局はあのクソ野郎……覇王丸んトコには行けねェってのか!」
羅刹丸の心を刺激しているのは、自分の無様さだった。考えるのは苦手だが、今の自分が
置かれている状態ぐらいは理解できるというものだ。想像だにしなかった醜態。自分の
迎えた馬鹿馬鹿しい結末。
「こら!おいコラ!ええおいコラ畜生、畜生は俺だこんちくしょおオオオオ!!」
殺風景な平原に、羅刹丸の自分に向けた罵声がいつまでもとどろいていた。
649陸捨肆:2005/12/17(土) 22:55:08 ID:wfRiSkRT
――空高くからだだっ広い土地を照らしていた月が、地平線へと傾く頃。

右の拳の骨が見えるぐらいにまで殴り続け、地面に大きな穴が出来たところで、羅刹丸は
ようやく、道の上にあごからべちゃりと突っ伏した。
「あー……ダメだ。くだらねぇー。くうだらねェー。畜生……」
爆発した無念が燃え尽きた途端に、羅刹丸はだらしなくうわ言をつぶやき始めた。
「何なんだよ、あのゆめじってのはよォ。ちっと隙を見せた途端にこれじゃあ、割りに
合わねェじゃねーか。人の努力を踏みにじりやがって。俺の道が終わるとすりゃ、それは
あの野郎を殺したときだけって決めてんのによォ……そっか、この道は三途行きってかァ?
けッ、冗談じゃねーって」
ぶつぶつ文句を垂れながら寝そべっていると、妙なことが起きた。人の眼球と同じぐらい
に丸い血の色の月が、見たことの無い欠け方をし始めたのだ。円形をした月の真ん中に
向かって、下から細い三角形の切れ込みを入れるような感じだろうか。
異変に気づいた羅刹丸は、ばちばち目をしばたかせた。
「お……あれは……山かァ?」
月を欠けさせていたのは、真っ黒な岩山だった。闇の空に溶け込んで見えなかったその
黒い岩山は、この土地に降りた羅刹丸の目前に、最初からそびえていたのである。
赤い月が傾いたことで浮き彫りにされ、初めて姿を現した遠い岩山の頂に、羅刹丸の視線
は釘付けになっていた。
豆粒ぐらいに小さいが、男がひとり、こちらに背を向けて立っているのが見える。
常人ならそれが誰かなぞ知るよしもない。小さすぎるのだ。
けれども、今、この瞬間、その山の上にいるものが羅刹丸に見えないはずがなかった。
初めて目の当たりにしたその姿。だがその姿は、生まれたときから知っていた。この肉体が
魔界に生まれたその時既に、羅刹丸が殺すべき人間の姿は、彼の奥深くにしっかりと刻み
付けられていた。
うつ伏せのまま羅刹丸は砂を掴み、こみ上げる憎悪と共に、その名を醜い口で叫んだ。
「覇王丸うううッ!!!ついに見つけたぜ……。こんなところに居やがったかァ!」
ぼさぼさした髪を一本に結い、白い胴着に大徳利を背負い、左手には鞘に収められた河豚毒。
確かに見える。視覚とは違う、見るよりも明らかな憎悪が、眼から飛び込んでくるような
感覚。
そしてその感覚は、山の方角にもうひとつあった。
眉根をひそめ、感じるままに眼を動かすと、覇王丸の少しばかり下の岩場に、もうひとつの
人影があった。白い布を纏った尼僧の姿だが、脇には黒く塗られた棒状の何かを抱いている。
忘れもしないその姿。その黒塗りは鞘……中に収められているのは刀だ。全部解っている。
自分をこんな意味の分からない世界に陥らせた張本人。
羅刹丸の狭い心に抱かれた恨みは、たやすく頂点に達していた。
「ゆめじ……ィ!」
むき出した牙が欠けそうなぐらいに歯を食いしばった羅刹丸は、もう一段視線を落とした。
細く白い何かが、恨めしい者達の足元を通り、山肌に沿ってうねりながらだんだん太く
なってくる。
そしてそれは、やがて羅刹丸の目の前にまで下りてきて、そこでぷつりと終わった。
そこまで眼で追って、羅刹丸はやっと自分がその白い何かの上で寝ているのに気がついた。
「……道じゃねえか」
羅刹丸は右手を地面に突いて立ち上がった。地面を殴りすぎて骨まで達していた傷は、
とうに癒えていた。
「この道は続いてやがる。あいつらの所まで続いてやがるぞ……へへ、三途じゃねェぜ、
奴らの所だ、あの山の上まで!」
羅刹丸は鼻息を荒くした。眼が、月よりも眩しく光った。
「そうだ……俺ァ何言ってやがるんだ。負けたら終わり?殺されたら仕舞?ケッ、くだら
ねェ。そういう考えがくだらねェんだ」
羅刹丸はぶつぶつと地面に向かって口を動かした。
そのだらしない動きとは裏腹に、強靭な肉体が一言ごとにむくむくと迫力を増していく。
「血が流れたからなんだ?首が吹き飛んだからどうした?心臓が止まってそれが何か問題
かってんだえェ?それで死ぬなんて誰が決めやがった?そんなモンに捉われてンのは凡人だ。
殺されたぐらいで死ぬんじゃねェってんだ、くだらねェ馬鹿どもが……」
大きな呼吸に上下する羅刹丸の肩から、腕から、強烈な魔界の覇気が発散され始める。
紫に淀んだ霧が筋肉の鎧の周りを漂い、色濃く包んでゆく。
650陸捨肆:2005/12/17(土) 22:56:13 ID:wfRiSkRT
「俺の命(タマ)はな、そんなくだらねェ決まりなんて知らねェんだ。俺を出し抜き、こけ
にしやがった糞ムカつくお前らの所に行くまでは死なねェんだよ。ちっ、くだらねェ……。
こんな当たり前のことに今頃気づくなんざ……くだらねェ……ああ、くだらねェなぁオイ!」
はぁーっと口から紫の気を吐き、羅刹丸はがばっと顔を上げた。

「何がくだらねぇって、俺様が負けっぱなしってのがいっとうくだらねェェェんだよォ!!」

魔物の咆哮。
その叫びは道を、野山を走り抜け、一気に山の頂を極め、毒々しい紫の突風となってあの
二人を振り向かせた。覇王丸の髪が揺れる。夢路の頭巾が捲れ、生意気そうな顔が露になる。
「へへ……クソ野郎どもが。そうだ、こっちだ。こっちを向いてろや」
羅刹丸の顔に、卑屈な笑みが蘇る。すかさず地面に落ちていた屠痢兜を握り絞め、叫んだ。
「眼ン玉ひん剥いて、しっかり見さらせェあァァ!」
そして何を思ったか、自分の胸を自ら横一文字に切り裂いた。
ブシャアアアアアア!
「ヒア、おおッ、ごぶぉ、ごぶぉぶぉおおあぁぁ!」
例えようのない痛みが傷口を燃やす。どす黒い血しぶきが、岩に砕けた波のように弾け
飛び、詰まった喉から苦悶の音が漏れるたび、血の泡がぶくぶくと立った。
「ひぎッ、いぎ、ぎぃぃぎィいあぁ!ッ……ひよおぉぼぼごごぼ!!」
致命の一撃だ。普通ならば死ぬ。
――そうだ、普通ならなァ!
普通ならばこの傷を負って、恍惚の笑みを浮かべたりはしない。痛みが麻痺し、狂った
快楽に足を千鳥にしたりはしない。見ているそばから血が止まり、傷口が塞がってゆく
ことなどあるはずがない。
だがしかし、やはり羅刹丸も、普通とはかけ離れた魔界の男だった。
「はァ、はァ、はァ……見たかよえェ!?お前ェら!!見たかってんだよッ!!」
自らの血でずぶ濡れになった胴着の合わせを引きちぎり、羅刹丸は山に向けてはだけた
胸板を突き出した。
あんなに深かった傷口は、どこにも見当たらなかった。
「どうだ、言ったとおりだぜ……俺様は……不死身だァ!」

「へへ……そうだ。なァ?」

野ざらしになっていた羅刹丸の生首が、ぎょろりと眼を剥き、口をきいた。
「俺は諦めんぞォ……覇王丸。絶対にな」
見ればあの赤い月が、空から自分を見下ろしていた。
「何て月だ……あの真っ赤な月を覇王丸の血酒に浮かべたら……おっと、いけねえ。
その前にもう一人居たぜ。ヘヘ、殺してェ奴が増えちまったなァ」

そして時は経ち、今日もまた一人。

「こいつァ……凄ェ」
とある目的のために魔界門前で眠り続けていたところをシカンナカムイに揺り起こされ、
現世に再び降り立ってこれで四人目。
刀を伝って手に響く重い衝撃がつま先にまで届くのを感じ、羅刹丸は素直に震えていた。
すれ違いの一瞬、鉛玉とは比較にならない銀色の刃が残した、この手の痺れ。
長く味わっていなかった、本当に強い敵との遭遇。
一触で解る。レラとか言う女の、本物だけが持つ実力。
嬉しい。馬鹿みたいに心が躍って止まらない。魔界門の前での退屈な日々も、この瞬間
のためだったと言うのならば帳消しにしてやれるとさえ思う。
そこまで思いを傾けられる理由が、羅刹丸には自分でもよく分からない。
しかし、思惑や考えを超越した本能とでも言える部分が、羅刹丸にこう語りかける。
――こいつだ。
――こいつだ。
――お前がずーっと待っていたのはこいつだッ!
――死ぬことを忘れたお前が、欲して止まなかったものをこいつは持っているんだッ!!
「姉ちゃん、アンタ本当に最高だァ。最ッッ高に殺してェ!」
羅刹丸は後ろを振り向き、木々の間に閃く白銀の殺気の塊に向け、朱の刃を突き出した。
「楽しもうぜ……真っ赤な月が昇るまで、とっくりとなァ!」
651陸捨肆:2005/12/17(土) 22:59:18 ID:wfRiSkRT
「ぐっ……お……!」
とび蹴りを食らい、シカンナカムイは派手に草花の上に叩きつけられ、ごろごろ転がって
やっと止まった。
「どうだッ!」
地面に着地したリムルルは、かなりの手応えを感じていた。空中から戻ろうとするコンル
に振り向いて、人差し指と中指を立てた手を突き出す。こちらの時代で覚えた、勝利を
意味するものだ。
「ナコルルねえさまに酷いことしたんだ、こんなじゃ済まないんだから!」
だが当のナコルルは、シカンナカムイの束縛から解かれてはいなかった。何の未練も無く
罪人殺しの鎖を手放すと、リムルルの横を素早く走りぬけ、あろうことかシカンナカムイに
寄り添い、立ち上がる手助けを始めた。
「ね、ねえさま!」
リムルルが袖を掴むこともできず、コンルが足元を凍りつかせる隙も無いぐらい、ナコルル
の動きは俊敏だった。恐らく、ナコルルにかけられている呪いは、シカンナカムイのそばを
離れられないようになっているのだろう。
ナコルルの肩を借り、シカンナカムイがゆっくりと起き上がる。
「あんなにすぐに動けるなんて……。思いっっきり蹴ってやったのに!」
とんでもない事をしようとしている、リムルルにはその自覚がある。
シカンナカムイはパセカムイ(尊いカムイ)の中のひとりだ。空を自由に飛びまわり、
力に溢れた光と音を地面に降らせるカムイの中カムイ。カムイコタンに、最強の剣技と
優雅な舞踏を伝えた偉いカムイ。
そのカムイに、単なる人間の自分が挑もうとしているのだ。何て恐れ多いことだろうか。
でも、そのカムイは最大の罪を犯している。
同じカムイのシクルゥに怪我を負わせ、邪悪な武器を手にして優越に浸り――
姉の命と身体を、魂までも弄んだのだ。
コンルとは全然違う。もう、シカンナカムイはパセカムイではない。
「コンル……あいつは、ウェンカムイはやっつけなきゃダメだね。絶対に許せない」
地面を蹴ろうとしたリムルルの前に、コンルがふわりと躍り出た。ぴしりとリムルルに
向けて小さなとげを突き出し、止まるようにと言う。
「ちょ、コンル!どうして」
「く……ふふ。すっかり忘れておったわ」
長い髪をばさりと掻き揚げ、シカンナカムイが立ち上がった。
「いや、忘れていたのではない。あまりに取るに足らぬゆえ……お前の存在など、眼中に
無かった。これこそが正しきところよの。のう、人間に与する愚かなカムイ……コンルよ」
シカンナカムイの威圧的な金色の眼光が、コンルへと向けられた。コンルも負けじと冷気を
放つ。怒っているらしい。
「ナコルルに付き従うなら話も分かろう。しかし何故、そのような娘の憑き神などになった」
袖についた汚れをナコルルに払わせ、襟を正しながらシカンナカムイが尋ねた。
「コシネカムイ(位の低いカムイ)はコシネカムイらしく、卑俗な巫女を選んだとでも?」
「ちょっとあんた……いい加減にしなさいよ!」
シカンナカムイの言葉に、リムルルは頭に小石を投げられたようにカチーンときた。
「コンルは愚かなんかじゃない!」
「弱い冷気を操るしか能のないコシネカムイの、どこが愚かでないというか」
「バカ!やめなさいよそのコシネカムイっていうの!」
リムルルは今にも飛びかかりそうな勢いで叫んだ。
「カムイはみんな大切なんだ!それにコンルはわたしの大事な友達で、家族だよ!アンタが
何て言っても知らないわ。コンルはわたしの一番のカムイなんだから!現にアンタだって
驚いてたじゃない」
「左様」シカンナカムイが手を挙げ、ナコルルを後ろに下げさせた。
「全く持って、の。我としたことが甘く見ておったわ……。人間に『友達』やら……まして
『家族』呼ばわりされるにまで堕ちたカムイに、これ程の力があったとはの」
「許さない……もう許さない!あんたはやっぱりカムイなんかじゃない!」
リムルルが腰の後ろに結わいたハハクルを抜こうとした、その時だった。
652陸捨肆:2005/12/17(土) 23:00:13 ID:wfRiSkRT
『シカンナカムイさま……あなたは、本当に、そう思われるのですか』

いきなり頭に飛び込んできた、少しもたついた女性の声に、リムルルはびくっとした。
『仰るとおり、人間は、カムイを奉り、尊んでくれます……。私達が、アイヌモシリに
もたらした……恵みへの感謝と、親愛の……念を込めて』
誰のものか分からない女性の声は静かに、少したどたどしく、リムルルが良く知るカムイと
人間の繋がりを説く。ハハクルを抜くことも忘れて、リムルルは声の主を探した。
『だから、その親愛の気持ちが……その、絆の一つが……仮に、仮に友情の形に、家族の
形になって表れたとしても……私はおかしくはないと思います。この、立派な、アイヌの
戦士が言うように』
リムルルは、目の前に漂う氷の形をした友人を見た。コンルはいつに無く白い冷気を強め、
もうもうと地面にまで届かせている。いつもならきらきらと輝いている幾何学的な形の身体が、
冷気にさえぎられて見えなくなるほどだ。
「こ、コンル……?」
「ほおう」相棒の様子にうろたえるリムルルをよそに、シカンナカムイが鼻で笑った。
「何も知らぬコンルカムイごときが、我に道理を説くか」
「コンル!やっぱりコンルなの?何で……いつもと違う」
『リムルル。そう、私。ごめんね、心配させて』
大人の女性の声で謝られて、リムルルはさらに困惑した。コンルは明らかに様子が違って
いる。声色はおろか、言葉遣いさえ全然違う。いつもはもっと打ち解けていて、同い年の友達
みたいに話しているというのに。
「どうしたコンル。お前の積み重ねた友情とやらが揺らいでいるではないか」
「うるさいうるさい!コンル、何のつもりなの?どうしたの??」
コンルは何も答えないまま冷気だけを発し続け、冷気の雲の中に紛れるようにしてついに
姿が見えなくなった。漂う冷気の中にある草花とリムルルの靴にまで、真っ白な霜が降り
ている。
「ねぇコンル!コンルってば!!」
ただならぬコンルの雰囲気に強い不安を感じたリムルルは、冷気の漂う中に両手を伸ばし、
氷の友人を掴んだ。
「やめて、コン……」
しかし、手触りが違う。冷たくて滑らかな心落ち着くあの感触ではなく、すこし温かな
何かがリムルルの指に絡まり、きゅっと力を感じさせた。
人間の、指だった。
「この子に危機が訪れたなら、私が必ず守る……あの日、そう誓ったのです。そして
今こそがその時……私が闘わねばならない時!」
大人びた女性の声が、今度は頭にではなく耳に直接届く。さあっと冷気が引いてゆく。
「これ以上、この子からは何も奪わせない。それがパセカムイであったとしても、です」
コンルが居たその場所には、ひとりの女性が屈んでおり、リムルルの手を取っていた。
すっくと立ち上がるその女性を、リムルルはあんぐりと見上げた。
すらりと背の高い、豊満な女性らしい身体を包む純白の晴れ着。雪の結晶をかたどった、
薄青色の刺繍の帯。シカンナカムイのものよりもずっと白く、柔らかそうな腰までの銀髪。
「リムルル……。そんな顔しないでね」
視線に気づき、白い肌の女性がリムルルに顔を向けた。
優しさを形にしたような、重たげな二重まぶたが下がり、にっこりと微笑む。
「どんな姿をしていても……私は私。ずっと一緒だから、リムルル」
「コンル、コンルだよね?」
「そう。私はコンルカムイ」
リムルルの頭をそっと撫で、美しい女性となったコンルはシカンナカムイに向けて言った。
「私はこの子ひとり、その幸せのために生きる事を誓った、愚かな氷のカムイです」
653名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 23:01:23 ID:qng3Ynad
ちょwGJ
羅刹丸の人生を垣間見たw
654陸捨肆:2005/12/17(土) 23:15:57 ID:wfRiSkRT
これ以上書くと、キリの良い所の前に容量がオーヴァーしそうなのでこの辺で。
皆様、飽きずに読んでくれてありがとう。
執筆は遅れるばかりですが、また次スレでお会いしませう。

ノシ

>653
ここまで羅刹丸にこだわるのも、まだまだ出番があるからなワケで……。
羅刹丸先生の今後の活躍にご期待下さいw
655名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 23:34:32 ID:Hm3NbXlN
GJ!!!!
656名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 02:03:03 ID:2de6gA1e
リムルルのJDは、どのキャラのどんな技よりも判定が強く、
相手の不意を突いたり、相手の技を潰すことは出来ても決め技にはならないと。
そういうことですね?w
ダメじゃないかリム、ちゃんと着地から連斬か、Bノンノに繋がないと(ぇ
それはともかく、決め技はリムハンマーとかっちんこのどっちになるのか、
どんな描写で撃たれるのか、今から非常に気になります!

ところで、64様は零SPや剣スピをやっていたのでしょうか?
どのキャラを使っているんですかー?
657陸捨肆
>656
>どのキャラを使っているんですかー?
そりゃあもう、基本的にリムしか使わないですよw
零SPは猿のように毎日プレイしてましたが、剣はもう別ゲーですからね・・・。
時間が無いのもあって、ホントに触った程度です。どうも零の方が肌に合うというか。

零と零SPは、個人的には一番好きな格ゲーです。思い入れが違います。
一撃の重さと迫力はもちろん、怒り爆発や境地など、闘いにまつわる精神的要素の
取り入れ方が非常に燃えました。
極限まで追い込まれてボタン3つを同時に押す時なんて、本当に「キレたぞ!」って感じがしますから。

そんなこんなで、自分のSSの戦闘シーンも、精神的部分を大事に描写していきたいですね。