785です。
拙い物に温かいおことば下さった皆様ありがとうございました。
また精進してきますです。
それにしても、モエモエで死にかけ…。
311様、550様みなさま素敵です!!
一気に読んで、くらくら来ました。
あんな素敵な物、紡いで下さってありがとうです!!
また読んでこよう…
…『へまじない』って、なんだ自分…orz
842乙!!!!!!
新スレ今週中に立つくらい投下されないかな。
ネ申の皆様、お待ちしております。多種多様な神々の技に魅せられた人の子がここに一人
来週地元に帰省するんだけど、実家にPCないから携帯からこっそり見るよ。
しかし携帯見ながらニヤニヤしてたら親に激しく問い詰められそうだ。
最近携帯に興味津々のジブリ大好きな姪っ子がうっかりこのスレの履歴覗いた日にゃ
親にしこたま殴られた挙句、実家からたたき出されるな。
あと36KB…どんくらいかな。
連載者ものはdat落ち考えると、次スレに回してもらった方がいい気がする。
穴埋めになるか分からんけどぬるーいのを書いてみます。
職人技の数々いつもおいしくいただいております。
ひとつワガママ言わせて頂くと、作品傾向は各SS投下直前だけにしてほしい…
専ブラ使いだとメ欄見えてしまう為、繊細な本文の上に「甘々エロエロ」とか見えてしまい、
雰囲気壊れてすこし切ないのです…。
そいつは繊細すぎやしないかw
>842
乙!
>843
楽しみにしてます神!
>844
私はこれでいいと思っちゃうんで次善案があったらヨロシク。
☆を■にでもしたらいいかな?
☆の多様とうまし糧はどうかと思う
変換間違えたorz
「多用」ですスマソ
シンプルにしたほうがいいかもね。
レス番間違えていた・・・_| ̄|○
>845神、お話楽しみにしてます・・・
■ SS投下前に ■
・原作版・映画版のどちらの設定か入れる。
・SSの傾向を入れる。
(本文立上げ前の予告orSSの1レス目orSSの各レスのメ蘭)
・SSの混乱を避けるため、各レスごとに>>○○の続きと入れる。
・傾向に好き嫌いのある人は専用ブラウザ導入&NGワード指定。
っていう感じかな?
シンプル(・∀・)イイ!!
シンプルな方が荒らしが来なそうで良いかも
855 :
845:04/12/23 01:28:27 ID:6oMNdrOG
投下行きます。
たぶん7〜8レスくらい使います。
途中です。まだエロはありませぬ。
たぶん朝までには投下終わると思います。
予告のみしてメール欄はなしで行ってみますね。
■
・映画版
・ハウソフィ、ぬるめ。
856 :
845:04/12/23 01:29:12 ID:6oMNdrOG
遠雷の音に、ソフィーは繕い物の手を止めて顔を上げた。
「嵐が来るのかしら…」
強い風がぶつかり、窓枠がガタガタと音を立てる。夜は更けていて、雷の光が遠くで光ったのが見えた。
「……」
光が走ってからかなりの間を置いて、ドオンという音が耳に届く。自分でも気づかないうちに、ソフィーは眉をしかめていた。
自然現象だと分かって居ても、空襲の記憶が否応なしによみがえる。この城はカルシファーに守られているから、雷が落ちてくることはけしてないと分かってはいるけれど。
コンコンという可愛らしいノックの音がソフィーの仕事部屋に響いたのはその時だった。手に持っていた縫い針を針山に戻し、ソフィーは体を半分、扉の方に向ける。
「マルクル?」
穏やかな声で尋ねれば、キィと音を立ててドアが開かれる。
そこにいたのは予測どおり、パジャマに着替えてどこか不安そうな顔をしたマルクルだった。ソフィーは微笑んで椅子から降り、エプロンを軽くはたいた。
「眠れないの?」
空襲の夜を鮮明に覚えているのは、ソフィーだけではない。小さな子供である分、マルクルの方が喚起される恐怖心は大きいのかもしれない。
小さなふくふくした両手が、ソフィーのエプロンをぎゅっとつかむ。
この小さな家族を守らなくてはと思えば、落ち着かなく騒ぐ心はひとりでに静まっていく。柔らかく笑ってから、うつむいているマルクルを抱き寄せ、ソフィーはまだ落ちている雷の音に耳を澄ました。
857 :
845:04/12/23 01:29:59 ID:6oMNdrOG
「大丈夫。あれは雷よ。それに、ずーっと遠くの方で鳴ってる」
「うん……」
マルクルの足元では、ヒンがせわしなく走り回っている。雷の音が聞こえるたびに目を大きく見開き、耳をぱたぱた振っている。癖のついた髪を何度も撫でてやっていると、ようやく落ち着いたのか、マルクルはソフィーからゆっくり離れた。
「ひとりで眠れる? 怖いならここで眠ってもいいわよ?」
「ソフィーは寝なくていいの?」
くりくりした瞳がソフィーを見上げる。
うん、とうなずいて、ソフィーは再び窓の方に顔を向ける。マルクルもつられるようにそちらを見る。視線の先には、途中で止まっている繕い物の山と、窓があった。
「もう少しで、キリがいいところまで終わるから」
マルクルがソフィーを見上げる。何か言いたそうな顔をしているマルクルの頭を、ソフィーはまたゆっくり撫でる。その仕草はマルクルのためというよりは、ソフィー自身を落ち着かせるために繰り返されているようだった。
城の主であるハウルがまだ帰ってきていない。彼が何日か家を空けることはざらだし、ソフィーもそれは勿論分かっている。
毎日毎日遅くまで起きているわけではないけれど、それでもこんな夜は不安になるのだ。――彼が、帰ってこない気がして。
だから帰ってくるのをぎりぎりまで待っていたいと思う。
858 :
845:04/12/23 01:30:41 ID:6oMNdrOG
ソフィーの横顔をじっと見つめた後で、マルクルは両手をソフィーのエプロンから離した。
「ん?」
「おばあちゃんも心配だから、僕、今夜はおばあちゃんについてるよ」
「そう? じゃあお願いしていい?」
「うん。行こう、ヒン」
ヒン!と一声返事をして、ヒンがマルクルの足元でぱたぱたと駆け回る。
「足元に気をつけてね」
「うん」
子供独特の軽い足音と、ちょこちょこいうヒンの足音が、扉の所でぱたりと止む。
「ソフィー、大丈夫だよ。きっとハウルさんは帰ってくるから」
くるりと振り返って、真剣な顔でマルクルが言う。励まそうとしてくれているのだと分かって、ソフィーの胸に温かなものが広がった。
「……そうね」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
扉が小さな軋みの音と共に閉められる。遠ざかっていく足音に耳をすましながら、ソフィーは作業台の前に腰掛けて繕い物の続きを再開した。
859 :
845:04/12/23 01:31:18 ID:6oMNdrOG
チリチリと手元の灯りが揺れる。はっと顔を上げれば、手元のランプの油が切れかけていた。どれくらい時間がたってしまったのだろう。
雷は相変わらず鳴り続いている。
時折視界の端で火花のように飛び散る稲妻、地響きのような音。
ふっと息を詰めれば、静寂があたりを支配する。寒くはないはずなのに、ぞくりと体が震えた。
「ハウル、帰ってこないのかしら……」
言葉にすれば、不安はより一層くっきりと浮かび上がる。
一人きりで部屋にいることが、ふいにとんでもなく空恐ろしいことのような気がした。ここはあの帽子屋で、動く城も、新しい温かな家族も、……ハウルも、幻なのではないだろうか。
また稲妻が、荒れ野に落ちる。
「……」
針を置き、糸を切る。
「……今日はここまでにしよう」
小さく自分自身に言って、蝋燭に灯りを移す。作業用のランプの火を落とせば、外の闇がより一層くっきりと視界に飛び込んでくる。
雨粒が窓ガラスにぶつかり始めている。
嵐が来るのだ。
860 :
845:04/12/23 01:32:20 ID:6oMNdrOG
「カルシファー?」
起きているだろうか。蝋燭の明かりを頼りに足元を照らして居間に出る。
自由の身になったというのに、何故か暖炉で寝起きをしている悪魔のいびきらしき声が聞こえてきた。
起きているときのようにパチパチとあたたかい音を立てている訳ではなく、うずみ火のようにちらちらと明るい色が見えるだけだ。
確かにあの心優しい悪魔はここにいて、これは夢ではないのに。
自分だけが置いてけぼりを食らっているような気分になる。
ドォン、と雷の音が、また聞こえた。
ソフィーは思わず自分で自分の体を抱きしめた。
細かく震える指が腕に食い込んだその時、扉の取っ手がカチャリと回される音がした。
861 :
845:04/12/23 01:32:50 ID:6oMNdrOG
「ソフィー? まだ起きて……」
階段を登りきって手すりに手をかけた状態で、ハウルが立ち止まる。
「お……」
お帰りなさい、びしょ濡れじゃない、でも今カルシファーを起こすのは可哀想よ、タオル取ってくるからちょっと待ってて――
言いたいことはたくさんあるのに、胸が詰まってどうしてだか言葉が出なかった。口をわずかに開いたまま、舌が凍りついたように動かない。
口元に手をやってそれを隠し……隠してから、ソフィーは自分の失敗に気づいた。
これではまるで、泣くのをこらえているみたいではないか。
外では相変わらず雷が鳴り続いていて、夜は更けていて。
(誤解されちゃう。これじゃまるで雷が怖くて眠れなかったって言ってるようなものだわ)
「ソフィー?」
足音がマルクルやヒンのものとはまるで違う。静かで、ほとんど音を立てなくて、それなのに……。
ぽたぽたと、髪から雫が落ちている。それなのに自分の様子にはまるで頓着する様子を見せずに、ハウルは身をかがめてソフィーを覗きこんだ。水を含んでしっとりと艶を増した黒髪の間から、あの青い両目が自分を見つめている。
「ちが、うの。そうじゃ、なくて」
凍った舌を無理矢理動かした瞬間に、本当にじわりと視界が歪んだ。
「ソフィー!?」
ぼろぼろと涙がこぼれだす。自分の涙に自分でうろたえて、ソフィーはあわててハウルから視線を逸らす。
「何があったんだ」
「……にも、ないんだけど。どうして……」
おちつけ、おちつくのよソフィーと心の中で何度も念じる。
どうして涙が止まらないんだろう。ハウルはちゃんと帰ってきて、目の前にいるのに。悲しくなんてないのに。
雷の音が。
862 :
845:04/12/23 01:33:08 ID:6oMNdrOG
「雷が怖くて、眠れなかった?」
「ちが、それは、マルクル……」
呼吸を整えようとしては、と息を吐き出す。ぎゅっと目をつぶると、まぶたの上を柔らかい感触が羽のように軽くかすめていく。
すぐにあつい舌が、まぶたの端に溜まった涙をなめとる。温かな感触が離れて行くのを感じ取ってそっとまぶたを上げると、鼻先と鼻先がくっつきそうなほど近い処にハウルの顔があった。
「……抱きしめたいんだけど。このままだと君が濡れてしまう」
吐息に乗せて言われている言葉が本当に困っている風だったので、ソフィーはくすりと小さく笑ってしまった。それでようやく、完全に涙が止まる。両手を伸ばして、ハウルの指に自分の指を絡める。
「冷え切ってるわ」
形が整っていて華奢にさえ見えるつくりをしているのに、自分のものより随分と大きい。自分の手だけでは足りるはずもなくて、息を吹きかけるだけでも充分でない気がする。思いついて、火照っている頬にハウルの両手を自分の手ごと当ててみる。
「熱い。ソフィー、熱でもあるんじゃ」
「違うわ、ハウルの体が冷たいのよ。どうしよう、よく眠ってるカルシファーを起こすのは可哀想だけど、お風呂に入って温まった方が……」
ハウルに触れられて、自分から触れて。魔法のように胸のつかえが取れて、いつもの言葉が口から滑り出す。
ああ。
ソフィーの胸の中で、ことりと答えが転がり出る。
安心したから、涙が出たんだわ。
863 :
845:04/12/23 01:34:56 ID:6oMNdrOG
とりあえずここまでです。エロなくてスマソ。
しかも多分エロもぬるいです。
480KB超え…終わらなかったー(汗)
864 :
845:04/12/23 01:37:41 ID:6oMNdrOG
新スレ立ったら穴埋めで残りを投下しますね。
では書いて参ります(`・ω・´)
あああ、ネ申が…!
暗がりの中の二人が目に見えるようです!
新スレってどれくらいで建てていいものなんでしょうね?
早く続きが読みたくて仕方ありません。
新スレになったら私も鳥の続きっぽいものを書いてみたいな、と思います。
原作系のちょっとおバカなソフィー自慰ネタもやってみたいけれど
原作の二人は難しい_| ̄|○
845神キタ*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!
健気なソフィ可愛い!続き楽しみにしてます。
867 :
845:04/12/23 01:55:54 ID:6oMNdrOG
>865さん、866さんありがとうございますー。
ぬるいなりにがんがります!
新スレはそろそろ建ててもいいと思います。
500KBぼちぼち行きそうなので。
ハッ保守用に新スレに投下した方がいいのかな。
ネ申!
ソフィー可愛い…二人が気遣いあってるのがまたイイ!!ハァハァ(´Д`*)
続き楽しみに待ってます。
このスレは神からの美味し糧が多すぎてもうお腹いっぱいです。
嘘です。
食べても食べてもまだ入ります。
新スレの準備これでいいかな?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ハウルの動く城でエロSSを書くスレです。
■ SS投下前に ■
・原作版・映画版のどちらの設定か入れる。
・SSの傾向を入れる。
(本文立上げ前の予告orSSの1レス目orSSの各レスのメ蘭)
・SSの混乱を避けるため、各レスごとに>>○○の続きと入れる。
・傾向に好き嫌いのある人は専用ブラウザ導入&NGワード指定。
871 :
関連:04/12/23 02:19:11 ID:DdmfPR80
480KB越したし、新スレこのテンプレで立てちゃっていいですかね?
873 :
845:04/12/23 02:49:17 ID:h+PxcxoL
お願いします。
どっちに投下しようか…も少しです。
875 :
845:04/12/23 05:11:13 ID:h+PxcxoL
どうもです。投下終了しました。
保守に貢献できてれば幸いです。
現時点で15レス。
分割すべきだったですかね。
凄く素敵だ。上手いし早く続き読みたい。
ハッ!新スレの方なのね…
ご馳走様でした、845神!!!
こちらのスレの分だけですでに泣けてしまった…。
切なくて切なくて、でもシヤワセで、イイです!
スレ埋め小ねた。映画風味なハウソフィのエロナシでオチもなさげ。
その夜、空はとても静かで、濃藍の天蓋には真白い満月が座しておりました。
広くどこまでも澄みきった大気は偉大な魔法使いの居城をその胸に抱き、戸張を走ります。
空を駆けるお城から時折立ち上る蒸気は、冷えきった夜気に触れるとすぐさま凍え、小さな水の結晶となり、
月の優しい光を受けて夜の闇をキラキラと輝きながら消えていきました。
暖炉の火さえも眠ってしまい、シンと静まりかえったお城でしたが、こんな時間になっても一人だけ、まだ眠っていない者がおりました。
偉大な魔法使いの妻、ソフィです。ソフィは窓縁に腰掛けて、窓に差し込む月明かりを楽しんでおりました。
ソフィの銀色をした髪はまるで月明かりをそのまま櫛ですいたかの様に美しく、
その光景は窓枠を一枚の額に見立た幻想的な絵画のようでした。
ソフィはこんな時間まで起きているのはきっと自分一人だけに違いないと思っていましたが、
実はそうではありませんでした。目を覚ましていた者はもう一人居たのです。
それはソフィの夫、偉大な魔法使い、ハウルです。
ハウルはソフィに気付かれぬように毛布をはおったままそっとベッドを抜け出すと、
月を眺めるソフィの忍び寄り、そのまま細い背中を包み込むようにして抱き締めました。
ソフィはキャっと小さな悲鳴をあげましたが、それがハウルだと分かると安心してその腕に身をゆだねました。
「危ない危ない、月に君を盗まれるかと思ったよ」
「私は貴方が拐われてしまうのかと思ったわ。だからこうして見張っていたの」
「そうだ、月に僕達の仲を見せ付けよう。いくら光の悪魔でも僕達を引き離す事を思い知らせてやらなくちゃ」
それから二人は仲睦まじく、互いの身体の温もりを感じながら、空がやがて白み始めるまで、月を眺めておりました。
投下後に気が付いた。
>「いくら光の悪魔でも僕達を引き離す事を思い知らせてやらなくちゃ」
「いくら光の悪魔でも僕達を引き離すなんて出来ないって事を思い知らせてやらなくちゃ」
の間違いです。前文だと引き離されちゃうって。
スレとスレ住人の皆様に捧げます。新スレも素敵なスレでありますよう…
881 :
845:04/12/23 11:18:49 ID:gaqkD6Ms
>879
イイ!!
どっかに行きそうな空気が漂ってるのはハウルの方だけど、
たまにはハウルもソフィーがどっかに行きそうになって
焦ればいいのにと思ってたのでそういうシチュエーション拝見できて萌えますた!
皆様温かいお言葉ありがとうございます。
埋めかねてこちらでお礼を言わせていただきました。
圧縮かかるのは490KBくらいからでしょうか…?
嬉しいお言葉に感謝しつつ更に誤字脱字ハケーン!もういや…orz
圧縮は512kBじゃなかったかな。よく覚えてないけど。雑談してるうちに埋まると思うけど、
1〜2レス程度の小ねたなら埋め支援にこっちに投下するとか。
>879
GJです!
冒頭の描写が素晴らしい!かなりリアルに情景が浮かんできました。
そんな綺麗な月夜にラブラブしてるハウソフィ(*´Д`)ウマシカテ
884 :
845:04/12/24 20:23:20 ID:ZesecUrz
|ω・)コソーリ
|´・ω・)<ハウソフィ好きですがマルクルも大好きです。
|´・ω・)<金髪ハウル書いてみましたが…エロなし…。エロパロ板なのにホントスミマセン。
|´・ω・)<…雑談代わりにこっちに落とします…10KBで足りるかな…
喉が少しいがらっぽい気がする。
コンコンと数回咳き込んで、ソフィーは喉に手を当てた。
「ソフィー、風邪?」
机に腰掛けて、自分の顔より大きな魔法書とにらめっこを続けていたマルクルが、咳に反応して顔を上げた。
ハウルから出された課題をこなしている最中なので、テーブルの上にはよく分からない薬草や鉱石や実験道具のようなものが広げられている。
「どうかしら? 頭が痛いわけじゃないし……」
「風邪は引きはじめで手を打つのが大切だよ。今日は早めに休むのがいいんじゃないかね」
荒れ地の魔女が、ヒンを撫でる手を休めて言い、灰皿を引き寄せて煙草をもみ消した。ソフィーの喉を気遣ってのことらしい。
「カルちゃん、もうちょっと部屋を温かくしてくれるかね」
「分かった」
ボッと音を立てて、暖炉の炎が大きくなる。温かなオレンジがかった光が、部屋の中を明るく照らす。
「皆、心配しすぎよ。気持ちは嬉しいけど…」
眉を八の字にしてソフィーが抗議しても、魔女は知らぬ顔でヒンを撫でているし、カルシファーは火の勢いを弱めようとしない。
「昼間あれだけ働いて、夜も寝かせてもらえないんじゃ風邪のひとつもひいちまうよ。旦那にちゃんと言ってるのかい」
ぼそりと言われた魔女の言葉に、ソフィーはみるみるうちに顔を赤くした。
「おばあちゃん!ここにはマルクルだっているのに……!!」
引き合いに出されたマルクルはきょとんとしてソフィーの方を見ている。
ヒンが大儀そうに、ぱたりと一回耳を上下させた。
「あんた、最近は寝不足でふらふらしてたじゃないか。冬は風邪が寄ってきやすい季節だってのに。それじゃ、風邪引いたっておかしくないよ」
反論できずにソフィーは口をぱくぱくさせる。
886 :
845:04/12/24 20:26:07 ID:ZesecUrz
何か誤解したマルクルが、ついに椅子から飛び降りて、せわしない足取りでソフィーのところに駆け寄ってきた。
「ソフィー、顔が赤いよ。熱があるんじゃないの?」
「ち、違うのマルクル、これは……」
素直に説明できるはずもなく、ソフィーはうろたえきって、助けを求めるように魔女を見る。
ふう、と深く息を吐き出して、魔女はちらりと階段の方に目をやった。
「……元凶の旦那はまだ風呂かい」
「もう三時間も入ってるよ。おいら、いい加減疲れた〜」
ハウルの長風呂で一番被害を被るのは、何を置いてもこの火の悪魔だろう。
不満の声を上げたカルシファーと、階段――正確に言うなら、階段の上にある、風呂場――を交互に見比べた後で、ソフィーとマルクルは顔を見合わせた。
「いくらなんでも長すぎない? 確かにハウルは長風呂だけど…」
「お師匠様、ひょっとしてのぼせてるんじゃないかな」
様子を見に行った方がいいだろうか。
ソフィーが足を踏み出しかけたその時、キィと浴室の扉が開く音がした。
階段を降りてくるハウルの足音は、心なしか荒々しい。
ようやく姿を現した夫を見て、ソフィーは目を丸くした。
髪の色が金色に染まっている。
そのひと房を不機嫌そうにいじっているので、髪の色が気に食わなくて不機嫌なのだとすぐに分かる。
師匠の不機嫌オーラに押され、マルクルがソフィーにしがみついて身をすくませた。
「……ソフィー、また棚の魔法めちゃくちゃにしちゃったの?」
小声で尋ねてくるマルクルに、ソフィーも小声で答える。
「まさか! 緑のねばねばを出されたら、居間も階段もねばねばだらけになっちゃうのよ! あの棚だけは、何があったっていじるものですか!」
妙な緊張感があたりに漂う。
ハウルはぶすっとした顔を取り繕おうともせずにソフィーとマルクルの前を素通りし、暖炉の前のいすにどかりと腰掛けた。
おそるおそるそれを見送って、二人はそっとハウルの様子を伺った。
「ハウル、髪の毛また染めたのね?」
887 :
845:04/12/24 20:27:07 ID:ZesecUrz
そういえば、あれからハウルが髪を染めたのは初めてだ。
初めて出会った時のことを思い出し、ソフィーは目元を和ませて、静かにハウルに近づいた。
ハウルの両肩に、包みこむように手を添えて、上からその顔をのぞきこむ。
カルシファーが食べてしまったせいで短くなっていた髪も、だいぶ伸びてきた。
肩から滑り落ちた髪が、ハウルの頬を撫でる。
目の前に落ちた流れ星色の毛に手を伸ばし、それをしばらくいじった後で、ハウルが顔をソフィーの方に向けた。
「……ソフィー、どう。この色」
「とっても綺麗よ。よく似合ってる」
緑のねばねばや闇の精霊の出現を防ぎたい意味もあって口にした答えだが、その分を差し引いても、金色の髪はハウルによく似合っていた。
「ちょっと赤みが強いのね。まるでおひさまみたい」
心からの褒め言葉だったのに、それを聞いて、何故だかハウルは顔を曇らせた。
緑のねばねばこそ出さなかったものの、ハウルは夕食後もずっと不機嫌なままだった。
たかが髪の色ひとつで大げさなとソフィーは呆れる。
しかし不機嫌なハウルを放っておくとそのうち拗ねだすのも分かっていたので、適当なところで家事を切り上げ、早々に寝室に向かうことにする。
コンコン、と乾いた咳が廊下に響いて、ソフィーは眉をしかめた。
あの様子なら今日は特に何も言わなくてもゆっくり眠れそうだが…。
「ソフィー!」
寝室に続く廊下で呼び止められ、ソフィーは足を止めた。
廊下を歩いてくるマルクルの手に、小さな紙袋が握られている。ソフィーのすぐ前で立ち止まると、マルクルはそれをソフィーに差し出した。
しゃがんで視線を合わせ、紙袋を受け取る。見た目の印象そのままに、袋は軽かった。
「喉が痛いのをやわらげる魔法がかかってるんだ。おばあちゃんがちゃんと出来てるって保証してくれたから、効くと思う」
昼間、マルクルがハウルから課題を出されて作っていたものらしい。
そっと開くと、ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。
888 :
845:04/12/24 20:28:04 ID:ZesecUrz
紙袋の中には、マルクルの言葉どおりに、小指の先ほどの大きさの飴玉が数粒入っていた。
薄荷飴のようだが、魔法がかかっているせいだろうか。
白い砂糖衣が、光もないのにきらきらと淡く光っている。
口の中に飴を一粒放り込む。すっと清涼な空気が喉の中を通り抜け、爽やかな匂いが広がった。
ソフィーの顔に笑みが浮かぶ。喉の痛みが軽くなったのは勿論だが、小さな家族の気遣いが嬉しかった。
「本当。なんだか呼吸が楽になったみたい。マルクル、ありがとう」
「早く元気になってね?」
「うん。さ、おやすみなさい。マルクルも風邪引かないように、毛布をしっかり被ってね?」
「はーい。おやすみなさい」
聞き分けよく部屋に帰っていくマルクルを見送って、ソフィーは寝室の扉と向かい合った。
「…本物の子供はあんなにいい子なんだけど。大きい子供はどうかしらね」
飴玉の入った袋の口を閉めてから、ソフィーは寝室の扉を開いた。
小物を仕舞っておく棚にとりあえず残りの飴玉を置き、ソフィーはベッドを確認する。ふくらみが一つ、窓から差し込む月明かりの中で、静かに上下している。
夕食を終えるや否や早々に部屋に引き上げていったので、ふて寝でもしているのだろうと思ったが、案の定だったようだ。頭から毛布を被っているせいで、あの金色をめにすることは出来ない。
苦笑して、ソフィーはそっとそのふくらみに近づいた。
ベッドに腰掛け、ふくらみに手を伸ばすと、毛布の下から白い手がにゅっと突き出てきて、ソフィーの手首をとらえた。
「!?」
飴玉が口に入ったままなので、悲鳴を上げることが出来ない。
毛布ががばりとめくれ上がる。体を起こしたハウルが、やや強引にソフィーを自分の方に引き倒した。抗議する間もなく、あの金色が視界を埋める。
889 :
845:04/12/24 20:28:37 ID:ZesecUrz
唇を唇でたどられ、いつものように温かな舌が口腔に忍び込んできて……飴玉に当たった瞬間に、動きが止まった。
「これ、風邪に効くまじない…? ソフィー、風邪ひいたの」
顔を離し、ハウルがまじまじとソフィーの顔をのぞきこんでくる。
驚いて固まっていたソフィーが我に帰る。
ぎこちなく首を縦に動かすと、ハウルは思い切り眉をしかめた。
「どうして言わないんだ」
「わざわざ言わなきゃいけないほど、ひどい風邪じゃないわ。それに、髪の色が気に食わなくて、ずーっと不機嫌だったのは誰?」
溜め息混じりに言うと、ハウルはばつの悪そうな顔をして頭をがりがりとかいた。
「最悪な日だ。髪はこんなになっちゃうし、ソフィーは風邪をひくし、おまけに僕はそれに気がつかなかった。夫としてあるまじき醜態だよ」
「だから、そんなにひどくはないんだってば。ゆっくり眠れば治るわ」
言外に、今日は勘弁してねという意味を含ませて言うと、ハウルはうなずいて体を横にずらした。
「ゆっくり休むといい。……そういえばあまり眠らせてなかったね」
最後の方の言葉は尻すぼみになっていた。顔が赤くなっているのが分かる。
何だかおかしくなる。
ソフィーはくすくす笑いながら、ハウルのとなりに体を滑り込ませた。
枕に頭を乗せるのを待って、毛布が肩まで引き上げられる。ふと横を見ると、自分の髪と、ハウルの金色の髪が混ざり合って、月光に淡く光っているのが目に入った。
「綺麗な色だと思うわよ? 前よりあたたかい感じがするわ」
出会った時の金色も、確かに綺麗でよく似合っていたけれど、どこか冷たい印象が拭えなかったのだ。遠くにいるような、自分なんかとは全然別の世界にいるような。
同じ金色ならソフィーはこちらの方が好きだ。どうしてハウルは気に食わないのだろう。
尋ねるように横で休んでいるハウルに目をやると、ハウルはソフィーの髪をつまみあげた。
890 :
845:
「おひさまみたい、って言っただろう? ……僕は月の色にしたかったんだよ」
「どうして?」
「ソフィーの髪が綺麗だなあって思って。ほら、伸びてきただろう。動くたびにさらさら揺れて色が微妙に変わって、見ていて飽きないんだよ」
ソフィーはまばたきを繰り返した。ハウルの言わんとするところがよく分からない。
「星には月が似合うだろう。……太陽と星は嫌だったんだ。昼しか現れない太陽じゃ、夜空で星と一緒にいられないじゃないか。だから、この色が気に食わなくて」
「まあ」
あんまりといえばあんまりな理由に、ソフィーは違う意味で笑い出したくなった。
かみ殺しきれなかった笑いが漏れ、それにハウルが少しだけ不満げな顔をする。
けれど今はそれどころではないということに気づいたのだろう。神妙な顔をして、ソフィーを静かに抱き寄せた。
「僕の髪の色より、ソフィーの体の方がずっと大事だよ。ほら、目を閉じて。あったかくして眠らないと、良くなるものも良くならない」
「うん」
舌の上にわずかに残っていた砂糖のかけらが、溶けきってはかなく消えていく。
ことことと心地よい鼓動を伝えてくるハウルの胸に耳を当てて、ソフィーは穏やかな心地で目を閉じた。
(終)
|;・∀・)<ギリギリみたいっすね。一応本当に埋め用ということで。失礼しました。
|∀・)ノシ<皆様よい聖夜を〜
|ミピャッ!