ファイアーエムブレム&ティアサガ第13章

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518988%マシン ◆ka5BrNUzcE :05/01/03 22:27:34 ID:xvPXVUSq
新年明けましておめでとうございます。
新作のアイデアを練っている正月を過ごしております。

今年の抱負は
・TSの1か2、最低どちらか一本のクリア
・自分が以前に書いた作品より良い作品を書く
この二本立てで行きたいと思います。

良作を投下くださっている職人の皆様、それからスレを支えて下さってる名無しの皆々様、
本年もどうぞよろしくお願いします。
519外伝アルム×シルクSS:05/01/03 23:39:21 ID:5i93vAmE
母国ソフィア王国を救う為、解放軍に参加すべくラムの村を旅立ったアルム御一行。
その途中、盗賊団を皆殺しにして、シスターのシルクさんを救出しました。
その日の夜。
ひとり離れた場所、天幕の中でシルクさんは眠りに就く準備をしていました。アルム軍はシルクも入れて男五人に女一人。女性に気を遣って、アルムたちは離れた場所にいます。
天幕の中で、シルクさんは安堵の表情を浮かべています。盗賊たちに囚われていた間は、満足に眠ることも許されませんでした。あの悪夢のような出来事を思い出すと、涙が出ます。でも負けない。今日からは仲間がいますから。
おやおや。そこに足音が近づいてきます。
ビクッと無意識に身をすくめるシルクさん。
そこに転がり込むようにアルムくんが入ってきました。しかも全身傷だらけです。
「だ、大丈夫ですか?」
慌ててシルクさんがリカバーで治癒します。
「ありがとう。助かったよ」
「一体何が・・・?」
「ああ。ちょっとみんなで稽古してて。誤って怪我しただけだよ」
まさか、全員でシルク争奪戦をやってたなんて、言えたもんじゃありません。
「他の皆さんは大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。ピンピンしてるよ」
もちろん死にかけです。
「そんなことより」
「は、はい」
アルムくんはおもむろにシルクさんに近寄ると、彼女のおかっぱの頭を抱きしめ、胸元に寄せる。
「いやーっ!」
520外伝アルム×シルクSS:05/01/04 00:27:45 ID:xF6ABTp3
アルムに不意に抱きしめられ、シルクは全身が硬直してしまう。脳裏に去来するのは、あの盗賊団にいた頃の陵辱の日々。
「は、離して。離してください」
震える唇で、何とかそれだけ言う。しかしその願いが決して叶えられないことを、シルクは体で知っていた。
「シルク。ひとつ聞きたいんだが」
「は、はい」
腕の中で震えるシルクに、アルムは残酷な問いかけを行う。
「君、盗賊たちに乱暴されてただろ?」
「!」
シルクの震えが一瞬止まり、それから、以前よりも大きく震え出す。
「い、いや。もういやぁ」
「大丈夫。僕は優しくするよ」(うんうん。男はみんなそう言うんだ)
アルムはシルクの小柄な身体を抱きかかえると、そっとシーツの上に横たえる。
もうシルクに抵抗するだけの気力は最初っから無い。体が打ち震えて動かないのだ。
アルムはそんなシルクの上に覆いかぶさると、優しく抱きしめ、そっと唇にキスする。
軽く唇を合わせただけのキス。アルムはすぐに離れ、シルクの瞳をまっすぐに見つめる。
涙の溢れたシルクの瞳。それはすぐ前のアルムではなく、どこか遠くを見ていた。
「許して。お願いです。もう許して。酷いことしなで」
うわごとのように呟きを繰り返す。しかしその言葉も、アルムに語りかけているのではなく、どこか遠くに向けられていた。
今やシルクは、覆いかぶさるアルムに盗賊たちを重ね合わせていた。
アルムは「うーん」と渋い声で唸ると、一旦シルクから離れる。
シルクが安堵したのも束の間、アルムは鎧と服を脱いで全裸になる。
そして次にシルクの修道服に手をかける。
521外伝アルム×シルクSS:05/01/04 01:12:27 ID:xF6ABTp3
シルクの修道服。一枚目は盗賊たちに破られ、今は予備の二枚目(ということにしてください)。
その修道服を、アルムは慣れた手つきで脱がしていくと、丁寧にたたむ。
全裸にされたシルクは、ぎゅっと目をつぶって小刻みに震えるだけだった。
「いや。いやです。もうこんなのいやぁ」
シルクの真っ白な肌。陵辱の傷痕はひとつもない。全て彼女自身の治癒魔法で消し去った。
でも。
体の傷は癒せても、心の傷は癒せない。
それを肌で知ったアルムは、悦びを感じてもらおうとおもった。うんと優しいSEXを知れば、少しは心の傷も癒えるかもしれない(男の身勝手な理屈)。
「シルク。僕が忘れさせてあげる」
おかっぱの髪を優しく撫でながら、アルムはシルクの裸身に再び覆いかぶさっていく。
裸で抱きしめ、そのまま動かなくなった。
「ん・・・!」
男の生暖かい感触に包まれ、シルクは全身を強張らせる。
しかしアルムは髪を撫でるだけで、それ以上は何もしてこない。
裸で全身を触れ合う。
ただそれだけなのに、胸がどきどきと高鳴り、互いの鼓動がはっきりと聞こえる。
アルムも、今すぐ挿入したいのをグッと抑えて、シルクの裸身を体の下に感じていた。柔らかくてすべすべの少女の青い肢体を。
やがて、シルクの緊張が限界に達し、全身の力がふっと抜ける。それを肌越しに感じ、アルムは耳元で囁く。
「シルク。目を開けて」
シルクの目は固く閉じられたまま。
しばらく逡巡した後、シルクはそっと目を開ける。
そこにはアルムの笑顔があった。
522外伝アルム×シルクSS:05/01/04 02:07:46 ID:xF6ABTp3
裸で抱きしめながら、太陽のような笑顔で、アルムは訊ねる。
「シルク。僕が怖い?」
こくっと頷くシルク。はい。正直言って怖いです。強姦魔ですから。
「でも少しは落ちついたろ?」
こくっと頷くシルク。正直です。
「じゃあ、続きをやるよ」
じゃあって何!?
シルクが抗議の声を上げる前に、唇を塞がれる。
二度目のキス。今度はすぐ離れることなく、唇の感触をじっくりと味わう。
「ん、んんー」
もがくシルクだが、がっちりと頭を抱きしめられ、抜け出せない。
もうシルクは抵抗するだけの意思を取り戻していた。本人はそのことに気が付いていないが。
唇が離れる。長い長いキスが終わり、どちらも荒い息を吐いていた。
息が整うのを待ち、再度アルムは接吻。今度は舌を入れてくる。
舌と舌を絡め合い、舌で歯をなぞったり、口の中を嘗め回したり(今だ舌を噛み切れ!)。
口の中を存分に蹂躙すると、ようやく離れた。二人の口を白い涎が繋いでいる。それをアルムは嬉しそうに飲み込む。
「ハア、ハア」
シルクの顔は紅く染まり、真っ白な肌も赤みを増してゆく。そしてまた涙が溢れ出た。
目からこぼれる涙を、アルムは舌でそうっと拭う。シルクの涙はしょっぱくて、そして甘かった。
そのまま口を下に移し、首筋に熱い接吻。キスマークを残すほど強く。
「あっ、んん」
ただ首にキスされただけなのに。シルクの体は敏感に感じ始めていた。
523外伝アルム×シルクSS:05/01/04 03:32:35 ID:xF6ABTp3
「ハアハア」
体温はじょじょに高まり、胸の鼓動は収まるどころかさらに早くなる。触られ、キスされる度に体の奥が敏感に反応してしまう。
自身の異変に、シルクは戸惑いを隠せないでいた。それは、初めての「濡れる」という感覚。
盗賊たちの乱暴なだけの強姦とは違う愛撫に、シルクの若い血潮が目覚め始めていた。
そのシルクの戸惑いと悦びを、アルムは肌で感じ、さらに愛撫を続ける。
今度は小振りな乳房まで頭を下げ、その先端の可憐な乳首を口に含む。
「あっ・・・」
シルクの口から可愛い声が漏れる。その声をもっと聞きたくて、アルムは乳首を嘗め回し、もう片方の乳首も指ぢ摘んでこね回す。
「あっ、あっ、んん。んー」
首を左右に振り回し、必死に声を抑えようとするが、むず痒いような甘くセツナイような感触に、何かがじょじょに高まっていく。
「はっ、ふはーっ」
乳首を舌と手で弄ばれるうちに、両脚がもぞもぞと動き出し、背中が仰け反っていく。
(いけない。このままでは)
肌の下を快楽という名の蛇が這い回る感覚に、シルクは恐怖を感じていた。
自分が自分で無くなる。頭の中を白いモヤが侵食し、思考力を奪っていく。
(ミラさま)
自身の信仰する大地母神ミラに救いを求める。盗賊たちに犯されていた時のように。
すると、あれだけ高まっていた快楽の波がすうっと引き、頭もすっきりする。
そして尚も乳房にむしゃぶりつくアルムに、淡々と告げる。
「私はミラ神に仕えるシスターです。このような辱めをいくら与えても無駄です」
その言葉にアルムは顔を上げ、少し悲しげな表情をする。
しかしすぐに気を取り直すと、両脚を無理矢理広げ、頭を突っ込む。
「な、なにを」
シルクの股間に頭を埋めたアルムは、その秘所を舐めあげた。
「あーっ!」
524外伝アルム×シルクSS:05/01/04 04:17:44 ID:xF6ABTp3
シルクのおまんこはまっさらなピンクで、毛はまだ生えていない。あれだけの暴行を受けたのが嘘のようだ。
アルムの舌が肉壁に割って入り、内部までこね回す。
「あーっ。ああああっ。はあーっ!」
シルクの口からあられもない嬌声が漏れ出す。もはやミラ神に救いを求めても、悦びが勝っていた。
「あああっ。いやっ。こんなのいやー!」
嫌がるシルクの意思に反し、身体は敏感に燃え上がる。腰がじょじょに浮き上がり、愛液が股間を濡らしていた。
シルクの腰の動きに合わせながら、アルムはちゅくちゅくと愛液も味わっていた。
シルクの愛液はとても甘くまろやかだった。愛液を酸っぱいとかしょっぱいとか言う人もいるが、愛があれば甘く感じるもの。SEXは科学ではなく愛なのです(この状況に愛はあるか?)。
「ふあっ。ああー!もうやめてください!」
とうとう怒鳴り声でシルクは泣き散らす。もう股間は十分に濡れ、アルムも顎が疲れてきた。
ようやくシルクの股間から顔を上げるアルム。しかし間髪いれず、なんの予告も無しに、ちんこをまんこに挿入する。
やはり挿入には慣れているのか。シルクの体は抵抗なく、アルムを受け入れた。
「くぅ!」
入れた途端に射精しそうになるのを、アルムはぐっと歯を食い縛って堪える。まだだ。まだ終わらんよ。
シルクの膣内はあまりに暖かく、そして狭く。アルムは硬直したまま動けなくなった。
一方のシルクは。
絶望に大きく目を見開いていた。
525外伝アルム×シルクSS:05/01/04 04:54:15 ID:xF6ABTp3
挿入された。いれられた。犯された。信じてた人に。
シルクの心に最後まで守っていた、大切な何かが崩れていく。
「いやー!」
「わっ。急に動いたら」
急に暴れるシルクに、アムルのイチモツは敏感に反応してしまう。
どぷっ。
我慢に我慢を重ねていた男棒は、勢いよく出してしまう。自然、膣内射精となった。
「あ、あああ、あ」
中に出される感触に、シルクの目から一際熱い涙がこぼれる。
その涙を指で拭い、アルムは繋がったままの腰を激しく動かす。前後のピストン運動で。
「ごめんシルク。今度は長くやるから」
自身の中で再び固さを取り戻す男棒に、シルクはさらに打ちのめされる。若いアルムは、一度出してもすぐに回復してしまう。
「いや、いやぁっ、いやーっ!」
再び沸き起こる快感に、絶叫するシルク。今や快感そのもが恐怖に繋がっていた。
結局その日、アルムは朝までシルクと繋がったままで交尾に励んでいた。

その後。シルクは、アルム軍では貴重な回復魔法の使い手として重宝される。そして夜でも、アルム専用の女として大事にされるのだった。
アルムが、幼なじみのセリカと再会するまでは。
526名無しさん@ピンキー:05/01/04 11:46:51 ID:hjoeT8Wk
結局最後まで心を開かなかったシルク
最後の一行にウワァン・゚・(ノД`)・゚・シルク救われないな
とりあえずGJ!
527名無しさん@ピンキー:05/01/04 17:18:27 ID:bqUamFI4
でもゲーム中だと再会した途端ケンカになって「さようならアルム」だよね。
528外伝:05/01/04 23:51:01 ID:zZ2Pi7so
もちろん!
529名無しさん@ピンキー:05/01/05 01:48:43 ID:XxV9hI7p
そのケンカの原因の真の理由は(ry
530名無しさん@ピンキー:05/01/06 17:55:49 ID:1rFXrn2L
ネイミー:コーマ!
コーマ:ん?

531名無しさん@ピンキー:05/01/08 09:09:24 ID:9bZiE2jB
誰もいないのか・・・?
532988%マシン ◆ka5BrNUzcE :05/01/08 10:35:22 ID:RJEWwewq
ども、マシンっす。
前回言ってたトラナナ物のオチ(後半)、今の内に投下したいと思います。
NGワードは「picaro」

注意:ギャグにつきキャラクターの性格を一部改変しております。
    また野郎同士のやり取りがメインになります。

では投下開始。
533Shanam , el Picaro:05/01/08 10:35:53 ID:RJEWwewq
――よお。真逆てめぇとこんな迷いの森の奥深くで出遭うなんてな

隙間なく生えた木々の間から、聞き覚えのある斜に構えた声が呼び掛けて来た。
同時に俺の左側に生えていた太い樫の幹が、閃光と共に破裂する。もちろん直に光を
見る訳ゃない。見れば確実に眼をやられる。
俺は破裂音に心臓を縮こめながら、わずかに傾いた腐葉土の地面を転がって逃れた。
湿ったやわらかい斜面を横向きに転がって、若いミズナラの根元に腰をぶつける。
痛みをこらえて地に膝を付き、よろめきながら何とか起き上がって背負った鉄の大剣を抜く。
何層にもわたって生い茂る葉に空を遮られ、昼なお光も届かないメンフィーユの森で
一度消えた奴の姿を探し出すのは不可能に近い仕事だった。

ターラ北でとある盗賊団に雇われた俺は、そこで仕事らしい仕事もせずに
給金だけ前借りして遁走を決め込んだ。
こう言うと俺が悪党のように聞こえるかも知れないが、断じてそのような事はない。
いくら食い詰めていたとは言え、田舎者のクセに大きな面をしながら、平気で
弱い物苛めをするザイル盗賊団で働く事に嫌気が差したのだ。
逃げ出したからには他にも色々な事情があるのだが、余計な詮索は遠慮願いたい。
ともかく。
南にはザイル盗賊団、北はグランベル帝国の勢力圏、西は山脈と来たら選択の余地なし。
それで東に逃げた先がこの昼尚暗いメンフィーユの森、通称迷いの森だったって訳だ。
余計な食料も持たず飢え死にしかけていた俺を救ったのは、とある傭兵団だった。
なぜこんな所に傭兵団がいるのかと俺は訝んだが、取り敢えず飯を食わせてくれると言うので
俺は即座に入団を志願した。
示された契約金と給金には大いに不満があったが、背に腹は替えられなかった。
こんな迷いの森を案内も無しに一人で抜ける事など不可能だったからだ。この森の
正確な地図さえ、大陸のどこを探しても見つからないのだと団長は言っていた。
それで傭兵団自体が里に出る時まで、俺なりに真面目に働いていた所で――

因縁浅からぬ相手と出遭わした、という訳だ。
534Shanam , el Picaro:05/01/08 10:36:25 ID:RJEWwewq
俺の記憶の中にいるそいつは、常に人を食った口調でしゃべる吟遊詩人だった。
それほど長い付き合いでもないし、名前を初めて聞いたのもごく最近の事だ。
メンフィーユの森からそう遠くはない、城塞都市ターラでの別れ際だった。
だが奴の事は忘れようとしても叶わない。否――絶対に忘れるものか。
その理由は色々あるが、これまでで唯一俺の事を偽王子だと見破った奴ってのが大きい。
「――ホメロス!」
俺の叫び声はしかし、頭上から聞こえる木の葉のざわめきでかき消えてしまった。
構わずにもう一度、俺は憤りを込めて奴に呼びかける。
「どこに隠れてやがるこの卑怯者!」
程なくして奴の声が、森の何処からか返事を飛ばして来た。
「折角再会したってのに、卑怯者とはご挨拶だなオイ。慌てなくてもすぐに出て来てやるよ」
それに続いて人を舐め切った高笑いが聞こえて来た。
奴の声は四方八方から木霊しているので、それだけで居所を探るのは無理だ。
森の反響を利用して居所を晦ましているのだ。遁術の上手さは、奴の戦闘能力が
半端ではないとはっきり俺に示していた。だが――

戦上手とは言っても、ホメロスは所詮ひ弱な魔法使いだ。
奴に魔法詠唱の隙も与えずに斬りかかれば、例え初太刀を外しても後は俺のペースだろう。
ならば奴より先に姿を見つけ、正々堂々と後ろから仕留めてやる。
木陰の間に影を探して、俺は左に目をやった、いない。
右を見る、やっぱりいない。
ただでさえ光が届かなくて夜みたいに暗いのに、イヤになるほど木が生い茂って見晴らしが悪い。
奴は――ホメロスは――この森のどこに隠れている?
今こうして焦ってる間にも俺の事をどっかから見ているのか。そしてもう魔法の第二波を
完成させていて、俺に狙いを定めているのか――
いっそ見えないならば、見なくてもいい。一か八か、俺は目を瞑った。
人気のないメンフィーユの森の、静かで冷たい空気の中に何か熱い気配を感じたならば
それがホメロスだろう。そうやって奴を探り出せないかと思ったのだが――

全く無駄な努力だった。
535Shanam , el Picaro:05/01/08 10:36:56 ID:RJEWwewq
閃光魔法で五体を砕かれた自分の姿を、思わず瞼の裏に浮かべてしまう。
このまま戦っても殺されるだけだと、俺の生存本能がそう告げていた。全身の筋肉が
不必要に強張り、額から冷たくて気味の悪い汗が幾筋もしたたり落ちる。
奴の居所を探し当てるどころか、視界を閉ざすことで不安が一層増大してしまった。
――ダメだ
気配で相手を探るには、やっぱり精神修養が足りなかった。自分のやってる事が
無駄だと分って、再び目を開けたその瞬間
「ここだシャナム」
十歩先の正面に二本並んだミズナラの木陰に、何か白い幽霊のような物が
見えたと思ったら、それは眼にも留まらぬ素早い動きでまっすぐ俺へと移動した。

幸いここは迷いの森の中でもそれほど木がびっしり生えている訳でもなく、鉄の大剣を
振り回す時に障害になりそうなものは少ない。
明らかに奴の失敗だ。奴は自分と互角の相手に正々堂々と勝負を挑む性格じゃない。
俺の事を舐め切っているから、真正面から来たのだろう。
白い影としか捉えきれていなかった物が、ようやくその輪郭をおぼろげながら俺に見せる。
羽織っている洗い晒しのマントは、薄暗い森の中では格好の標的だ。
そんな物を敢えて身に付けているのはダテか酔狂か、それとも余裕からなのか。
「隙だらけだぜホメロス!お前の動きは俺から丸見えだ!」
上段からの斜め袈裟斬り一刀で仕留めようと、俺は剣を振り上げる。
俺から見て左上から斜めに振り下ろす。
真正面に捉えていたはずの奴は、しかし俺の一刀よりも早く左方向に跳んだ。
鉄の大剣が虚しく空を斬り、刃先が落ち葉の積もった地面に突き刺さる。
剣の下をかいくぐり、構えなおす間も俺に与えず、
奴はさらに右側に跳んで方向修正をかける。
そして奴は――
536Shanam , el Picaro:05/01/08 10:37:46 ID:RJEWwewq
俺の間合いだなんて、とんでもない思い違いだった。
――こいつこんなに速く動けたのか
鼻先ぎりぎりの所に翳されたホメロスの右掌に気圧され、俺は顔から血の気が引く
様子をはっきり自覚した。
奴の掌はほのかに輝いていて、もう魔力を宿している事を物語っている。俺が剣を
地面から引き抜いて斬り付けるより早く、奴の魔法は固い樫の幹みたく俺の顔面を
こっぱみじんに砕いてしまうだろう。
――マジ殺される
間近に迫った死の恐怖を味わう中、余裕をたっぷり含んだ奴の声が言った。
「別に隠れてた訳じゃねぇよ。挨拶代わりに、てめぇのへっぴり腰をちょっくら
拝ませて貰っただけさ。中々見物だったぜ、お前今膝ガクガク震えてんじゃねえかよ」
続けて高らかな笑い声が聞こえる。俺の目の前に突き出された掌から光が消える。
魔力を解除したのだ。取り敢えず今は俺を殺すつもりじゃないらしい。
ほっとしたのと同時に、俺の中で怒りが湧き上がって来た。
「それにしちゃお前本気だったじゃねえかよ。親友を殺すつもりだったのか?」
「誰が親友だ、小悪党のてめぇが言うと全然説得力ねえぞコラ」
ホメロスの掌は何時の間にか俺の顔面から離れていた。奴の姿が今度こそはっきりと映る。
吹けば飛ぶような線の細い野郎が、真っ暗な森の中に飄然と立っていた。
女みたいに束ねられた紫の長い髪。大理石の彫刻みたいに整っちゃいるが、
キザで中身の軽そうな面構え。
こいつが吟遊詩人、いや最低の小悪党ホメロスだ。

こいつはターラ城下の酒場じゃその遊び人っぷりで有名な奴だった。
飲む打つ買う全部やってやがったが、中でも飲むと買うの度合いが普通のそれを
遥かに上回っていたのだ。
俺が店に入る時分には、こいつはとっくに店の中で出来上がってた。
呑んだくれでどうしようもない怠け者だ。おまけに女癖もひどい。きれい所を何人も侍らせて、
肩だの乳だの尻だのを触ってやがった。
女の股を簡単に開けるワリバシか何かと勘違いしてんじゃねえのか?
お前が俺の名前知らない内から俺は知ってたぞホメロス、この助平野郎が。
537Shanam , el Picaro:05/01/08 10:38:18 ID:RJEWwewq
今の手合わせで、奴がそれなりに腕利きだという事だけはよく分かった。それでも俺は絶対に
奴の事なんか尊敬しない。サーガと戦闘の腕前以外は、今言ったように俺が出会った中でも
最低最悪の部類に入る野郎だからだ。
最低最悪野郎のホメロスは、人を食った薄ら笑いを浮かべたまま俺を見下すように言った。
「それにしてもだな、てめぇがこんな辺鄙な場所に来てるなんて思いも寄らなかったぜ。
酒も女もいない所でてめぇが十日も過ごせるなんて、少しは見直したぞシャナム」
「そっくりそのまま言い返してやるぞそのセリフ。仕事でなかったらこんな薄気味の悪い
場所なんかとっくにオサラバしてるんだがな」
「仕事?」
奴は不思議そうな目を俺に向けた。
「シャナン王子を騙って贅沢三昧する以外に、お前の仕事なんてあったっけ?」
言うに事欠いて何て事言いやがるこの最低野郎は。お前は仕事なんざ何もしない怠け者じゃないか。
お前なんかに無能者呼ばわりされたら、人生終わったような嫌な気分になるんだよ。
大体お前こそこんな森の中を通るなんて。らしくないぞ。
取り敢えず俺はホメロスの失礼な言い草に反論する。それと同時に奴の事を馬鹿にしてやるのだ。
「俺は傭兵だぞホメロス。雇い主の依頼なら例え火の中水の中、ってのは当然だろ。
それよりお前こそとうとう誰にも唄を聴いて貰えなくなって、食いっぱぐれたのか?
俺は腰から財布を出して、奴の足元に銅貨を投げる。十ゴールドもあればパン位買えるだろう。
「ほれ、受け取れよ。知り合いが餓えに苦しむ様子は見たくないからな」
腐葉土の上に落ちた銅貨を見下ろしてから、奴は俺に目線を戻して微笑んだ。
「てめぇ――何の真似だ」
その笑顔の端々が怒りの所為で不自然に歪んでいた。奴のこんな顔を見られるなら、
金を払った甲斐があるという物だ。
「違うのか?腹が減っているんじゃないのか?」
馬鹿じゃねぇかてめぇ、ホメロスは首を傾げて、これ見よがしに呆れた風に言う。
「後一万千九百九十ゴールド、てめぇの負け分にゃ全然足りねえだろうが。
ターラが陥ちたからって、てめぇの借金が棒引きになる訳ねえぞ」
538Shanam , el Picaro:05/01/08 10:40:58 ID:RJEWwewq
この守銭奴め――ターラでのカードばくちの事をまだ覚えてやがったか、しつこい奴だ。
あれについては俺だって言いたい事が山ほどある。
俺はターラにいた頃、奴と五枚のカードで勝負を挑み続けた。賭場での勝ち組だった俺は、
ずっと奴に負けっ放しだったのだ。そこで最後の大勝負の時、俺は仕込みを考えた。
そこそこ良い役――例えば女王三枚と八の札二枚の組み合わせ――を奴の手に送り、
奴が調子に乗って掛け金を競り上げた所で俺が必殺の華麗なる手役で応じ、奴にギャフンと
言わせるという戦法だ。
それまでの奴への負けが四千ゴールドに達していて、負けを取り返しつつ勝ちに回りたいという
俺の思惑から、掛け金は倍額の八千にまで膨れ上がった。
だが奴は事もあろうに、最後の大勝負の場でカードをすり替えやがった。でなきゃ奴の
手の内から王の札が出て来て、しかも最高の手役になるなんて有り得ない出来事だったのだ。
俺は当然ながら、すぐに奴のいんちきを見抜いて「サマだ」と叫んだ。
途端に奴は俺の袖口を掴んで、その中をまさぐりやがった。
袖の中から王のカードが四枚出て来る。奴は勝ち誇った顔で俺の仕込みを暴きやがったのだ。
奴も一緒に賭場を出入り禁止になったのがせめてもの救いだった。

ただこの問題にあんまり深入りすると、俺自身の仕込みを執拗く追及されるのがオチだ
ホメロスの野郎は金にも汚いから、下手なやくざよりも執拗でえげつない取立てを迫られかねない。
俺はカードの負けから話題を逸らすべく、話を本筋に戻す事にした。
「え、違うのか?怠け者の遊び人の癖に、誰も通らない森の中で魔道書持って戦ってただろお前。
お前らしくない所でらしくない事やってたから。一体どうしたんだよホメロス?」
似合わねえとは心外だな、言って奴はくすくすと苦笑した。俺の借金については一先
忘れてくれたらしい。奴は斜に構えた姿勢を直し、俺と向き合って話を続けた。
「これも惚れた女の為に命懸け、って奴でな。てめぇみたいな馬鹿にゃ解らねえかやっぱり」
やっぱりこの最低野郎から馬鹿にされるのは心底我慢がならない。俺は皮肉を交えて言ってやった。
「お前が女に惚れる、って時点で怪しいぞホメロス。一体誰なんだ。一度入ったら二度と
出られない迷いの森まで、一体誰の為に来たって言うつもりだ?」
539Shanam , el Picaro:05/01/08 10:44:37 ID:RJEWwewq
「お姫さまさ。てめぇナンナ王女って知らねえか?」
ナンナ王女の名前は俺にも聞き覚えがあった。確か彼女は帝国の賞金首じゃないか。
「じゃあお前――」
その通りだと言わんばかりに、奴は首を縦に振った。
「オレは今レンスター解放軍に同行しているんだ。てめぇどうだ、一緒に来ないか?
オレの知り合いだって言ったら、快く迎え入れてくれるぜ。曲がりなりにも軍隊だから
ケチな傭兵団よりは給金が良いし食いっ逸れないぜ。それに給金を貰えるから、俺だって
手っ取り早くてめぇの一万二千ゴールドを回収できる。良い事ずくめだろ?」
そう言ってホメロスは微笑みを浮かべた。仮に俺が女で、しかも奴の本性を知らなかったとしたら
惚れちまいそうな笑顔だった。
――この野郎、借金の話をまだ忘れてなかったのか
俺は奴の守銭奴っぷちに辟易しつつも、奴の提案の価値を素早く頭の中で計算する。
確かにターラにいた時、城内や街で王子の話を耳にした事がある。けどあれはターラ防衛軍の
手助け程度の戦力だったじゃねぇか。しかもホメロスの話を信じるなら、こんな迷いの森に
リーフ王子の解放軍がいるって事は、結局ターラも帝国の手に陥ちたって事だろ。
つまる所、解放軍は敗走中じゃねぇかよ。そんな軍隊に入った挙句、帝国の追撃を受けて
むざむざと殺されるのはゴメンだ。
540Shanam , el Picaro:05/01/08 10:45:15 ID:RJEWwewq
「断る。おそらくリーフ王子達はこの森を出られぬよ。メンフィーユの守りに付いている
この傭兵隊にいる方が、俺に取って安全だからな」
俺はわざと王族っぽい威厳をつくろって言った。勿論シャナン王子を意識しての事だ。
似合わねぇなその物真似、と奴は即座に返し、軽く鼻を鳴らして言った。
「いいのかよ。どうせてめぇの事だから、今この瞬間も捨て駒扱いされてるんじゃねぇのか?
腕も肝っ玉も三流の剣士を戦場で使う方法なんて、オレぁ他に思い付かない――?!」
そこまで言うと、ホメロスの顔から瞬時に余裕の色が消えた。辺りの気配をうかがうように、
目を細めて右、それから左を鋭く見やる。
どうしたんだと俺が訊いたところ、奴は小声で叫んだ。
「てめぇと一緒にいるとオレの身がヤバいんだよ、迂闊だった。奴らはてめぇを囮にして、
のこのこ最前線に現れた間抜けを仕留めるつもりらしいな。今のオレがその間抜けって訳だ」
「何だって? 今俺の周りに傭兵団のメンバーはいないはずだが」
こいつはどうしてそんな事を言い出すのか。
訊ねると奴は俺の襟首を掴み、ものすごい剣幕で俺に食って掛かった。
俺と一緒に居たらヤバいって言った割には、俺に構っている。頭に血が昇って
冷静な判断が出来なくなっているらしい。状況はともかく、こいつがキレる所を
見られるのはやっぱり愉快だ。
俺の襟をがくがくと揺らしながら、奴は力いっぱい俺を罵った。
「自分の置かれた立場も判らん、てめぇみてえな盆暗野郎なんかに冷静じゃないなんて
言われたくねえ!臆病者のてめぇが好きこのんで戦場になりそうな処をうろつく事ぁ
有り得ねえって知ってるよ!オレが言ってるのはてめぇら傭兵団の事じゃねえ、黒薔薇だ!
奴等が来るぞ!」
541Shanam , el Picaro:05/01/08 10:47:33 ID:RJEWwewq
「黒薔薇だって?!」
俺の背筋は奴の一言で凍りついた。黒薔薇――今さら説明する必要もあるまい。
このメンフィーユの森にそんな物騒な連中がいるなんて、俺は傭兵団の誰からも聞いてなかった。
ましてやこいつはさっきまで俺の敵だった。周りに人影もないこの状況から、何でこいつは
判ったんだろうか。
いつの間にか、俺の襟から奴の手が離れていた。俺に背中を向けながら、奴は自分の
マントの端を手で持ち上げ、中を覗きこみながら言う。
「ここの森に入った時から、火精も雷精もビビって使いモンにならねぇ。暗黒魔法対策で
閃光魔法を持って来たのはいいが、調子に乗って奥まで来過ぎたか!」
表情までは判らなかったが、眉間に皺が寄っていると俺は思った。ホメロスの奴はさも
忌々しそうに吐き捨てると、マントを軽く揺さぶった。中から雷魔法だの火炎魔法だの
魔道書が出てくるが、奴はそれに見向きもしない。どうやら隠し持っていた物らしいが、
少しでも身を軽くする為に使えない書をここに捨てて行くらしい。
俺は炎のように真っ赤な表紙の一冊を手に取った。
『火炎魔法 〜〜エルファイアー〜〜』
上質の皮製で、かなり高価いシロモノじゃねぇのかと俺の目にはぞう映った。自慢じゃないが、
俺は品物の目利きについてはかなりの自信を持っている。
ずいぶん勿体ない事をするモンだ。行き掛けの駄賃にでも貰っておこうかと思って手に取ると、
これが本かと思う程重たい。
奴が捨てた本は三冊ほどで、全部合わせると俺の大剣より重そうだった。
ひ弱な魔道士だなんてとんでもない。そんな代物を抱えたままでも、ホメロスの奴は
俺よりもはるかに身軽に動けたのだ――
542Shanam , el Picaro:05/01/08 10:48:09 ID:RJEWwewq
などと感心していたら、奴が明らかに見下した様子で俺を横目に見ているじゃないか。
何か言いたそうな顔をしてやがったんで、奴が喋り出すのを少しだけ待った。
再び俺に足を向け、呆れ口調で奴が口を開く。
「てめぇも殺されるぞシャナム。奴等は目的のためなら、味方だって平気で地蟲魔法に
巻き込むって知ってるだろうが。てめぇの回りに傭兵がいないのが何よりの証拠だ。
あいつら巻き込まれるのを嫌がって、てめぇ一人を生贄にする魂胆なんだよ。ホントに
文字通り救い様のねえ盆暗だな――」
ホメロスの馬鹿にしたような声は、しかしそのセリフを最後まで告げる事はなかった。

見ているだけで背筋に寒気を覚えそうなどす黒い霧が、何の前触れもなくホメロスの周りに
立ち込めて、奴の姿を飲み込んで行く。声も尻切れ気味にくぐもって――
間一髪の差で奴が水平に飛び、前転気味に着地した所を目撃した辺りで、俺も背筋に
不気味な戦慄を覚える。
俺は逃げる間も無く、粘った不快などす黒い霧に囲まれた。

――ッぅ――
何だか身体が重たい、特に胸と肩。頭がズキズキ痛む。
まともな意識を殆ど失ってしまった中、遠くから呼ぶ声がある。
――しっかり
何が起こったのか判らないまま、俺は無意識につぶっていた目を何とか開けてみようと頑張った。
薄ぼんやりした視界に、何か長い楕円形の影が神々しい逆光の中に浮かぶ。ぼやけていた
輪郭が一つにまとまると、それが人間の頭だって事がようやくわかった。
肩の辺りで纏められた長い髪。今の優しい声も、その人物から聞こえたものだ。
天国に昇ったような、そんなおだやかで暖かい気分だった。中々悪くない。
今俺を介抱しているのは天女様か。
――しっかり
声の調子が上がってきた。色の感覚が戻っていた事に気付く。
天女様、今起きますから俺を天国へ連れて行って下さい!
あなたをずっと大事にしますから――
543Shanam , el Picaro:05/01/08 10:48:41 ID:RJEWwewq
紫の髪。俺を心配する、悲痛で真剣な眼差し。彫刻のように端正な顔立ち。
「――しっかりしろシャナム! 大丈夫かよオイ!」
自分を呼ぶ声の正体に気付いて、俺は再び目を閉じようと思った。
そう。
上に乗っかって俺を呼んでいたのはホメロスだった。何でお前に起こされなきゃならないんだ。
こんなんだったら、せめて夢の中で見た天女様に起こして欲しかった。そう思っていたら、
いきなり横っ面に衝撃を食らった。ぱっちりと目が覚める。
俺はいきなり地蟲魔法を喰らいかけて、そのまま気を失ったのだ。直撃だったら死んでた
筈だから、ホメロスが助けてくれたのだと俺には解った。
それでもだ。
天女様に助けてもらったと思い込んでいい気分になってた所に、自分が野郎に
助けられたんだという事実を突き付けられたら、みんな俺みたいな反応を示すに違いない。
奴はそんな俺の考えを許さなかった。顔の左側に強烈な平手の一撃を喰らう。
最早夢の世界に戻る意志を無くした俺に、ホメロスは戻って来い、と呼び掛ける。
「てめぇ何寝ぼけてるんだ、早く起きろよ! 黒薔薇に殺されちまうぞ!」
確かに地蟲魔法が撃たれた以上、黒薔薇はそこまで来ているのだろう。ただ――
身体を地面に打ち付けた衝撃で、手足が思うように動かない。このままだと俺も逃げ切れないが、
上に乗っかっているホメロスも同じ事だ。殺されてしまう。
生命が惜しくない、とは言わない。だがせめて最期の時だけは、少しぐらい格好を付けても
構わないんじゃないか。何だかんだ言っても、奴が命の恩人である事には変わりないし。
そう思った時には、俺の口はすでに勝手に動いていた。
「ホメロス――お前だけでも、逃げろよ――」
バカヤロウ、という怒声が俺の耳に響いた。ホメロスの奴はこの上なく真剣な眼差しで、
動かない俺を見下ろして叫ぶ。
「てめぇを置いて逃げられる訳ねぇだろうが!生命を粗末にするな、お前が死んだら俺は、俺は――」
奴の目元には涙が溜まっていた。奴の顔をぼおっと見ている内に、俺まで泣きたくなってしまう。
この期に及んで、泣かせる事言ってくれるじゃねぇか。悪ぶっているけど、お前本当は
結構いい奴だったんだな。
ほんのちょっとだけ、俺は奴の事を見直した。
544Shanam , el Picaro:05/01/08 10:49:48 ID:RJEWwewq
だが俺はその考えがひたすら甘かった事を今更ながら気付く羽目になる。
奴の口から続けて飛び出たのは、とても信じられないような冷酷なセリフだった。

「てめぇが死んだら、オレは誰からてめぇの負け分を払ってもらったらいいんだよ!
一万二千ゴールドと泣き別れしろってか、あぁ?!」

俺の感動は木っ端微塵に打ち砕かれてしまった。
こらホメロス、そーゆー事かよ。お前この状況でも俺への貸しを覚えているって訳か。
やっぱりお前はそういう奴だったんだな。人の命よりも金の方が大事だなんて!
俺は頭に来て怒鳴り返した。身体の痛みをどこかに忘れてしまっていた所為か、
俺は普段以上に口が達者になっていた。
「お前地獄まで俺の取り立てに来るつもりかよ! 冗談じゃねぇや、どきやがれ!」
「煩せぇ! 一万二千ゴールドも負けた癖に最後まで払わねぇつもりか? この人非人が!
死ぬんならその前に借金返してから死ねよ!」
「人非人はどっちだこのタコ! 大体勝負はサマで無効だろうが! え、どうなんだ?!」
「その前にてめぇの方が仕込んでただろうがアレ! あの仕掛けで賭場の連中相手に
小金巻き上げてたのは一体何処の何奴だと言うつもりなんだ! てめぇがサマ云々言える
立場だと思ってんのか、あぁ?! こちとらてめぇのやった事は、最初から全部すべて
マルっとお見通しなんだよ!」
「言ってる事全然分かんねーよ! 分かってるのはお前が俺から一万二千ゴールドを
ごり押しで巻き上げようとしてる事だけだよ! サマで踏んだくるなんざ、詐欺も
いいトコだぜ!」
俺は本気で奴に殺意を覚えたし、奴の目もさっき手合わせした時以上の本気そのものだった。
俺はホメロスのマントを掴み、奴は俺の襟元を掴んで締め上げる。すかざずマントから手を
放し、奴の首に手を掛けて喉仏を潰しにかかる。
そのまま終りそうにない罵り合いを続けていた俺の耳元で、パキっと乾いた物音が立った。
俺達は互いの首を絞める手を緩めると、同時に見上げる。
迷いの森に満ち満ちている闇をさらに煮詰めて濃くしたような、どす黒いローブを羽織った
小男が、陰気な目で熱く絡み合う俺達を黙って見下ろしていた。
545Shanam , el Picaro:05/01/08 10:50:20 ID:RJEWwewq
フードの端からはみ出している無表情な顔といい、人間らしさを否定する黒い不気味な
衣装といい、そいつの姿を見ているだけで心が何だか不安定になりそうだった。
「末期に及んでも互いに争うか。人間とは醜いものだな」
調子とか訛りとは縁のない、陰気な見たくれからは想像も付かないような若い声で
黒衣は言った。多分俺達とそんなに歳が離れていないと思う。
いや、顔の皺を見る限り俺達より若い。
そういうお前こそ何様だよと突っ込みたい所だったが、俺は敢えて黙っていた。
ローブの襟から出ているはずの右手が全く見えない。例の粘っこくて真っ黒い霧が
そいつの右手を包み込むように展開していたのだ。
下らない事を言えばあっさり殺される。黒衣の後ろを見てみる。
大木の蔭には何人分ものどす黒い装束が。
若木の間から、茂みの中から。
どこにも、そこにも。
あそこにも。
悠長な会話――と言ってもこの上なく真剣な話し合い――を続けている内に、
俺達は完全に取り囲まれてしまった。

「おい、シャナムてめぇ手を離せよ」
頼むような顔をしながらホメロスが低い声で言う。俺はそれをきっぱりと断った。
「そしたらお前逃げるつもりだろ。何で俺一人だけ死ななきゃならないんだよ」
ホメロスはてめぇ、と吐き出して顔を歪めた。怒りで真っ赤に茹で上がっている。
「オレを巻き添えにして死んだら、地獄の底まで取り立ててやるからな!手を離せ!」
「それもイヤだ! 死んでもお前に追い回されるのはまっぴら御免だ!」
「どっちにしてもお前は死ぬんだろ? 先刻オレに逃げろって言っただろ?!
だったらオレを逃がしてもいいはずじゃねえかよ!」
「お前がそんな金の亡者だって知らなかったからそう言ったんだよ!こんな俺でも死ぬ前に
一つぐらい良い事しておきたいんだ!」
「だったら手を離せよ! そうすればてめぇは一人の命を助ける事が出来る、簡単だろ?!」
いや――そう言って俺はゆっくりと首を横に振った。
546Shanam , el Picaro:05/01/08 10:51:26 ID:RJEWwewq
「やっぱりお前みたいな最低野郎は生きているだけで世の中に迷惑だ。
だからお前と一緒に死んだら、俺はその働きで天国に行けるかも知れん。
お前は地獄に行くだろうから、死んだ後まで取り立てられる事もないだろうな」
ホメロスの顔から、見る見る血の気が失せて行った。怒りのあまり、茹で蛸のように
顔を真っ赤にする、と言うのは嘘かも知れない。限界を越えると真っ青になるのだろう。
最も奴の顔が真っ青になったのは単に怒りの為だけじゃなくて、自分もここで死ぬんだ
と気付いて急に怯え出したようにも俺には見えたんだが。
枯葉混じりの土を踏む音とともに、若い黒衣は俺たちにまた一歩近付いた。
「地獄巡りの片道切符は、貴様等の命で買って貰う事にするか」
言いながら黒衣は右腕を高くかざす。それを包むどす黒い霧の表面に、暗い紫の雷が
細かく走って――
「滅びの風をその身に受けるが良い」
悪魔の化身みたいなセリフを放つ黒衣の、冷酷な眼差しをまともに見てしまった。
だがもう恐怖はほとんど感じなかった。生きる望みが絶たれてしまっただけに。
最後の最後で、俺はシャナムよりも優位な場所に立った。ロクな人生じゃなかったけど、
それだけで満足しておくか。俺は奴と目を合わせ、微笑んで穏やかに言った。
「来世でまた会おうぜ、ホメロス」
「シャナムてめぇこの野郎!!てめぇの悪行全部地獄の底に言い触らしてやる!!」
ホメロスの奴が俺に捕まったまま叫んだ瞬間、黒衣の男は奥の立ち枯れた細い杉に向かって
ゆっくりと
仰向けの姿勢で倒れた。

一瞬何が起こったのか俺には判らない。だが俺たちを囲んでいた黒薔薇連中が明らかに浮き足立っていた。
仕留めかけていたはずの俺たちの事なんか目にもくれちゃいない。何人かで分担しながら、
びっしりと木の生えている森の四方を見渡している。敵襲にでも遭ったかのような様子だ。
その黒衣たちがいきなり真っ白な閃光に包まれ、辺りに激しい破裂音が響いた。一瞬まともに
見てしまったので俺も目が眩む。
ようやく目が開けられるようになってから状況を確認する。黒衣が二人倒れている。
一人は先刻仰向けに倒れた奴だが、もう一人うつ伏せに倒れた黒衣が増えている。
首が粉々に砕け、撒き散らされたおびただしい出血が土をどす黒く染め上げていた。
547Shanam , el Picaro:05/01/08 10:52:19 ID:RJEWwewq
――閃光魔法か
俺はそこでようやく、ホメロスの体重が俺の上から消えている事に気付いた。
今のは奴の攻撃だったに違いない。黒薔薇たちは完全に混乱して、めいめい勝手な
方向に地蟲魔法を放っていた。
あちこちで粘っこく黒い霧が気味の悪い瘴気が増す。そんな中、一人また一人と
黒衣の男たちが倒れて行く。
一瞬森の暗闇に小さく鋭い光が走ったような気がした。ホメロスの閃光魔法とは
規模も光り方も違う。炸裂音も聞こえない。具体的に例えるなら、まるで磨き上げられた
刀身が放つような――刀身?
物の例えでもなんでもなく、その鋭い光は刀身そのものだった。気付いた時には、
残された黒衣達は既に並び生える樫の彼方に撤退した後だった。
見覚えのある細く湾曲した刀身を持った人影が、俺のいた広場の土に降り立つ。

裾の短い戦闘服のスリットから見える、雌鹿のようなすらりとした太腿。
豹を思わせる静かな、そしてしなやかな身体つき。肩の辺りまで下ろした黒い髪。
その人影が振り返って、猫のように丸く黒い瞳で俺を見下ろす。
俺は我が目を疑った。まさか彼女までメンフィーユに来ているとは想像出来なかったのだ。
「シャナン様ではないですか!どうしてこんな所まで御出でになられたのですか?」

「マリータじゃないか、助けに来てくれたのか?」
今のセリフは俺じゃない。一先危機を脱出したと見て姿を現したホメロスが彼女に呼びかけたのだ。
俺を地蟲魔法から庇った時に落とした魔道書も、ちゃんと拾い上げているらしい。
マリータはホメロスに視線を移して奴に応える。
「炸裂音が聞こえたので、ここで戦闘になってるってわかったんです」
「オレはこいつにちょっと話がある、悪いけどしばらく奴等を食い止めてくれないか?!」
「ホメロスさん、シャナン王子とお知り合いなのですか?そういう事なら任せて下さい!」
マリータは威勢良く返事をすると、今度は俺を見下ろして言う。
「シャナン様、戻ったらもっと色々お話しましょうね。少しだけですけど、この前よりも私――」
強くなったんですよ。
そう言って彼女はにっこりと微笑み、頬を赤らめながら俯いた。
548Shanam , el Picaro:05/01/08 10:53:24 ID:RJEWwewq
それからほんの少し間を置いて、マリータはしなやかな動きで森の暗闇へと消えて行く。
「頼んだぞ!!」
彼女の背中に向かってそう叫ぶと、ホメロスは俺の手を取って乱暴に引き摺り起こした。

俺はホメロスに自分の袖を引っ張られて、樫茂るメンフィーユの森を数分歩いた。
奴が何を話すのか判らないし目的地も判らない。どこまで行くのかと不安に
なりだした頃、奴は一際大きな樫の下で立ち止まり俺を振り返った。
首を突き出し、下から絡みつく視線を送りながらホメロスが切り出す。
「おいシャナム、てめぇあの嬢ちゃんとどういう知り合いだ?」
「ただの通りすがりだ」
さっくりと答えたが、奴はまるで信用していない様子だった。こんな奴に信用されようが
されまいが、その事自体は俺に取って痛くも痒くもない。
ただし奴は執拗こかった。へばり付くような目線を俺から離さずに奴は言う。
「あの嬢ちゃん、マリータって言うんだがな。まだガキだと思ってたんだが、
時々妙にマセた面をして見せるんだよ。妙だと思ってたんだが、お前に会って納得した」
奴は俺に向かってゆっくりと歩きながら、さらに言葉を続けた。
「オレの勘が正しけりゃお前、あの嬢ちゃんを」
こら目を逸らすな、と奴は俺の首を持って正面に向けた。白を切っても無駄だろう。
喰ったと俺はきっぱり言った。
やっぱりとため息混じりに奴は応じた。
「そんな所だろうなと思ってたぜ。助平なてめぇの事だから女日照りに耐え切れず
つい手を出してしまったんだろうな」
こんな奴に助平呼ばわりされる筋合いはない。俺はむっとしながら切り返した。
「お前好みだって言いたいのか? 確かにあと二三年で程よく育つだろうが、
今のあの娘はまだまだケツも青いぜ。それでもいいからイタしたいのか」
「てめぇと一緒にするなこの変態」
ホメロスは俺を睨む。俺に変態と馬鹿にされたのがよっぽど奴の癪に障ったのか、
奴の粘っこく俺を見る視線には微かな怒りが混じっていた。
その怒りも瞬く間に消え、奴は呆れ顔で深い溜息を吐いた。
「――ま、食っちまったモンは仕方ないか」
549Shanam , el Picaro:05/01/08 10:54:31 ID:RJEWwewq
奴の口振りは、えらく思わせ振りな代物だった。まるでマリータの身体を頂いた事で、
俺の身に何かとんでもない災いが降り懸かって来るような気分になってしまう。
それでだ――何の前触れもなく、奴は別の話題に移ろうとしやがった。俺はそれを咎める。
「いきなり話題を変えるなよホメロス。付いて行けなくなるだろうが」
「誰がだ」
「この話を聞いている人間の事だ」
「そんな人間いるのか?それもこんな迷いの森に?」
「う――」
ホメロスはふーんと鼻息を鳴らし、言葉に詰まった俺に舐めるような目を向ける。
やがて何事も無かったかのように一礼し、奴は言った。
「それで本題ですが、下々の者に対する負債は何時になったら返済して頂けるんでしょうか」
シャナム王子――
気色悪いまでに甘ったれた声。これ見よがしに謙ったその態度。おまけに『シャナン』とも
『シャナム』とも聞き取れるような微妙な発声で、奴は俺の名前を呼んだ。
もし俺が本物のシャナン王子だったら、真っ先にこいつを処刑してやりたい所だ。
ムカつく事この上ない態度だが、俺は大人なので黙って聞き流してやった。鷹揚に返事する。
「当てはない」
途端に奴は本性を現し、凄んだ顔で俺を斜めに睨み付けやがった。
「お前の事だから給金の前借りくらいやってんだろうが! どうせこの森の中じゃ
金の使い道なんかねーだろうから、懐は暖かいままだろ? 寄越せよ」
「おーまーえーはーあーほーか」
旅芸人から教わった、一音一音伸ばす発音で俺は言った。セリフ自体には何の面白みも
無いのだが、この発音で喋りながら鋸を楽器に見立てて演奏するとウケるのらしい。
世の中何がウケるのかさっぱり分からん――俺は続ける。
「金の使い道がないこんな森の中で、雇い主が前借りなんてさせてくれる訳ねえよ」
ふーんとまるで信じていない様子で
「『母が病気で薬代が要る』ぐらいの事言わなかったのか?てめぇだったらそう言って金借りて
後は遁走決め込む位の事はしてるって踏んだんだが」
「何でそこまで俺のやり方を知ってるのか知らんがな、出来なかったんだよ。
しかも今回の仕事は契約金も給金後払いだ。飯だけは食わせて貰えるけどな」
550Shanam , el Picaro:05/01/08 10:56:24 ID:RJEWwewq
それで幾らなんだ契約金は――奴はそう言い、俺はガキみたいに俯いて呟く。
「千ゴールド」
彫刻みたいな顔を醜男みたく歪ませて、ホメロスはぶっと吹き出した。
「安っ! 鉄の剣と同じ値段かよてめぇは?」
腹を抱えて笑ったホメロスを睨んで、俺は憮然と答えた。
「悪かったな安くて」
「まあてめぇみたいな三流どころの傭兵なら妥当な額だ。全然悪くない」
奴はうんうんと頷いて、俺の肩を軽く慰めるように叩く。この野郎は『口は災いの元』
という諺を知らないのだろうか。奴に話し掛ける声まで苛立ってしまう。
「だから金の当ては本当に無いんだよホメロス。正直な話先刻お前にやった十ゴールド、
あれ俺の全財産だったんだ」
「そうか、そいつは悪い事をしたな」
息を吐きながら奴は頷く。しばらく待つと、奴は喜色を浮かべて俺に呼びかけた。
「じゃあいい金儲けの方法がある。よく聞いておけよ」

ホメロスが説明したのは、こんな方法だった。
俺は正規価格よりも安く品物を買う事ができる。何で奴がそんな事を知ってるのかと思ったら、
俺がターラで鉄の大剣を買う時に値切っていた所を見ていたらしい。
「あんな事ギルドに関わった経験がないと思い付かないからな」
奴はそう言うついでに、ターラじゃ俺の値切りが有名だった事まで教えてくれた。
それで金儲けの方法だが――
まず俺がリーフ王子の軍に入って、買い出し要員に収まる。何しろいつも財政難に苦しんでいる
軍隊だから、品物を安く手に入れる買い物上手は喉から手が出るほど欲しいらしい。
下手な戦士より重宝してもらえるぜと笑ってから、ホメロスは俺に尋ねた。
「それでてめぇは、品を幾ら位まで値切る事が出来るんだ?」
「半額、いや四分の一まで余裕で値切れるぞ。元々ギルドで扱っている品の卸値は、正規価格の
五分の一くらいだ。ギルドへの上納金とか品物の輸送費を考えても、その値段で商人は潤う」
ホメロスは少し驚いた顔を見せた。守銭奴の奴でさえ、ギルドのからくりについては
何も知らなかったらしい。
そいつは俺の予想以上に阿漕な商売してやがるぜ、と奴は吐き捨てるように呟いた。
551Shanam , el Picaro:05/01/08 10:57:25 ID:RJEWwewq
ホメロスの説明はさらに続く。
上手く解放軍の買出し要因に収まった後、買い物は俺が全て行なう。その際値段の交渉に当たっては
俺が正規価格の四分の一まで粘る。軍には商品を半額で買ったと報告して、差額(つまり正当な
買い物総額の四分の一)を俺達で頂戴する。
こうすれば買い物の度に、大金が俺達の懐に入り込んで来るという訳だ。
本来三百ゴールドの傷薬を一つ買うだけで、七十五ゴールド稼ぐ事ができる。
斬鎧剣なら千百ゴールド、もし幸運にも勲章が買えたとしたら二千ゴールド。
何の苦労もなく金が手に入る。
中々どうして計算の達者な奴だな、と俺は奴の頭脳に敬意を払った。
問題はその配分だった。俺は借金の返済という形で奴と折半するつもりだったんだが、奴は
俺の意見に首を横に振って、涼し気にこう答えた。

「勿論八対二《ハチニ》で俺が八割な。オレがこのアイデアを言い出さなきゃ、
てめぇは金を稼ぐ事を思い付かなかったんだから。強いて言うならアイデア料だ」
ホメロスはどこまでも強欲な野郎だった。しかも奴が続けて言った事には、八割のアイデア料と
借金の返済とは別に扱うとの事らしい。八割取られてから借金返したら俺の取り分はどこに
消えてしまうんだオイ!
いっそこいつを殺してやろうかと俺は思った。そうすれば俺が上がりを一人占め出来る。
そんな事を考えていると、ホメロスが俺を横目に言った。
「不満なのか。だけどオレを殺して金儲けのからくりだけ手に入れようとしても無駄だぜ。
オレと殺り合って勝てるとでも思ってるのか?」
俺の内心を看透かしたような口振りだった。冷静に考えれば、再会した時の立ち回りで
俺に勝ち目がない事はハッキリしている。僅かに生じた殺意を隠すように、俺は宮廷に
出入りする商人のような愛想笑いを浮かべた。無意識の内に揉み手までやっていたような気がする。
「んな事考える訳ないだろ? お前がいなきゃ、俺は解放軍に入れてもらえるかどうか
分からないからな。そもそもこの話も俺が軍に入らなきゃ無理な相談だ」
その通りだと奴は頷いた。
「でも流石に今の条件じゃ可哀相過ぎるわな。もう少し渡さないとダメか」
当たり前だ、と俺は怒鳴った。
「だったら借金の返済は別で五対五《ゴーゴー》にしてくれ。妥当な額だろ」
552Shanam , el Picaro:05/01/08 10:58:07 ID:RJEWwewq
軍の買い物がどの程度の規模かは知らないが、少なくとも数十万ゴールド程度にはなるだろう。
だとしたら俺達の取り分も最終的に数万ゴールド、上手く行けば十万以上になりそうだ。
借金別だと返済までの間、奴の取り分が多くなる。五対五の取り決めで行っても、実質的には
六対四がしばらく続くはずだ。
それでも返済が終わった後まで奴の取り分が多くなる取り決めは不利だ。
ホメロスは少し考える素振りをしてから、軽い口調で言った。
「んじゃ返済分込みで八対二にしてやるわ。これならてめぇも借金を気にする事がなくて楽だろう」

確かにそれなら返済を考えずに取り分を分けられる。だが仮に全部の上がりが十万だとすると、
この取り決めなら奴は借金の倍額以上も俺からふんだくる計算になる。なんて理不尽な計算だ!
頭の中で算盤を弾き終わるや否や、俺はすかさず言った。
「返済分込みで六対四《ロクヨン》にしてくれ。割が合わん」
「じゃあ別で七対三。ちゃんと借金は返せよ」
俺は首を振った。傷薬を買った駄賃が三十ゴールドに満たないなんて、ガキの使いじゃないんだから。
「別で六対四。これ以上はどう考えてもお前のぼったくりだ。大体俺の働きがないとお前だって
一文も手に入らないだろうに」
それに奴の提案には弱点もある。どう格好を付けたところで、俺達の企みが軍資金のネコババである
事には違いない。バレたら良くて軍追放、下手すりゃ二人仲良くあの世行きだ。
俺にばっかり危ない橋を渡らそうとする根性を許す訳には行かない。
「そりゃそうなんだがな」
奴は頭の後ろで手を組みながら、しれっと言った。
「てめぇマリータの嬢ちゃんに自分がシャナン王子だって嘘吐いて、おまけに食っちまったんだよな」
金の話をしていたはずだったのに、奴は何で今マリータの件を持ち出すのか。それとこれとは話が別だ。
「行く先々で大ボラ吹いて、女騙して食っちまうのはお前の十八番じゃねえのか。
そのお前が先越されたからって腹立ててるのか? ホメロス、お前らしくもねぇな」
「だからオレをてめぇみたいな変態と一緒にするなって言うんだこの盆暗野郎。
オレが言ってるのはそういう事じゃねぇ。あの娘は――」
奴は一旦言葉を切り、葬式に参列したかのような湿っぽい顔で首を横に振った。
553Shanam , el Picaro:05/01/08 10:58:42 ID:RJEWwewq
俺は先刻奴が見せた深い溜息を思い出した。あれと同じように人の不安を煽る動作だ。
ホメロスが怪談でも語るような怖い目をして呟く。
――お前の想像以上に危険な娘だ
途端に俺の頭上で葉っぱがざわめき、森の静けさをぶち壊すような叫び声が聞こえて来た。

最初それは怪鳥ロプロスの鳴き声か何かと思ったのだが、よく聴いてみるとそれは
どうやら人間の言葉だった。

――ひとり殺せば犯罪者!!

叫び声のすぐ後に、メンフィーユの森一帯に響き渡るんじゃないか、と思う程の
けたたましい断末魔が俺の耳まで届いた。
男の声だった。恐らく黒薔薇一味の誰かが殺されたんだろう。
本物の鳥が森のあちこちで鳴き喚き、羽音を立てて飛び立って行く。
鹿や猿や猪の鳴き声、地を駆ける音。
葉の擦れる音、生木がへし折れる音、そしてまた例の叫び声。

――千人殺せば英雄だ!!

続いて響く断末魔。
その後も女の叫び声と断末魔との繰り返しはしばらく止むことが無かった。

――わからせてやる!!
闇を引き裂く怪しい悲鳴。
――わからせてやる!!
怪しい悲鳴。
―― ワ カ ラ セ テ ヤ ル ! !
また悲鳴。
目にせずとも、森の奥深くで一方的な殺戮が繰り広げられてるんだと俺にも判った。
554Shanam , el Picaro:05/01/08 10:59:39 ID:RJEWwewq
奇声にはどことなく聞き覚えがあった。そんな自分の考えを打ち消したい気分で、
俺はホメロスを凝乎とみながら訊ねた。
「――まさか、今の声は?」
奴は表情も控えめに無言で頷いた。
――マリータ、なのか――

無言で俺に盆暗だなと伝え、やっと気付いたかと奴は呟く。
奴はマリータの性格について説明を始めてくれた。
その説明によれば、マリータは怒ると手が付けられないほど大暴れするのだという事だった。
ベルセルク――狂戦士――という奴らしい。一度リーダーのリーフ王子や、シヴァや
トルードといった仲間の剣士でも抑えられない位だとか。その反面怒りが収まれば、
人格が入れ替わったようにケロッと元の素直な娘に戻るんだそうだ。俺は続けて訊ねる。
「それって狂戦士と言うよりは」
人の皮を被った鬼だな――奴は遠い目を声の聞こえた方に向けてそう答えた。

腰が抜け、立っていられない。俺は樫の根元にへたり込むように座り込んだ。
いや座るという表現は正しくない。全身を脱力させて凭れ掛かったのだ。
俺は夥しい返り血を浴びたマリータの姿を否応無く想像してしまった。
マリータは耳元までぱっくりと割れた口から嬌声を上げ、
全身に血を浴びても渇きが癒える事は無く
鈍重な動きの黒薔薇を、一人一人と血祭りに挙げ
彼らの断末魔と血飛沫と臓物と肉片をさらに浴びながら
蜥蜴のような釣り上がった目を次の犠牲者へと向ける――
そんな恐ろしいマリータの姿が頭の中を駆け巡った。
自分があんな危ない娘を抱いたという事実に俺の膝はがくがくと震え出し、やがてその
震えが全身へと広がる。口まで震えてまともに喋れなくなってしまった。
膝を抱え、恐る恐るホメロスの顔を伺う。
奴は悪魔のような笑みを浮かべながら、優しい声で俺に語り掛けた。
「だからオレがマリータに一言しゃべったら、てめぇはそれで御仕舞って訳だ。
イザーク人の執念深さは、お前だって知ってるだろ?」
555Shanam , el Picaro:05/01/08 11:00:25 ID:RJEWwewq
確かに奴の言う通りだった。
受けた恩は一生忘れないが、仇は死んでも忘れない。それがイザーク人の特性だと、
俺は自分の母親から聞いたものだ。グランベルに復讐しようとユグドラル大陸の
反対側まで行ったアイラ王女みたく、彼らの気質を説明する話だったらこの大陸に
ゴマンと転がってる。
もしシャナン王子と結ばれたと思っていた所に、相手が偽者だと知らされた日には――
俺に逃げ場はない。どこに逃げようとも、彼女は必ず俺を見つけ出すだろう。
そうなったら――
あの娘は自慢の剣技で、俺を細切れの鱠にしようと企むに違いない。
俺と関わって覚えた流星剣で――

自分の考えに凍り付いてしまった俺を現実に呼び戻したのは、ホメロスの声だった。
「先に言っとくわ。ここでてめぇがオレの話を少しでも断ったら、すぐに嬢ちゃんに
密告るぜ。儲け話だけじゃねえ、解放軍への参加を断ってもだ」
「そ――」
俺は唾を飲み下した。こいつ言うに事欠いてとんでもないネタを言いやがった。
例えハッタリだとしても許せない。俺は背中に覚えた薄ら寒さに逆らうように
奴を見上げて叫んだ。
「そんな事をして、俺の借金はどうやって回収するんだ?!俺が死んだって、
お前には一文の得にもならないんだぞ!お前がそんな馬鹿だとは思えないんだがな?!」
ふふ、と奴は鼻で嘲った。
「その通りだ。俺は馬鹿さ」
口惜しいがその表情は、彫刻のような奴の顔に怖いほど似合っていた。俺が真似しても
阿呆みたいで格好悪いって自覚している。
「俺はお姫様のために損な戦いでも引き受ける馬鹿さ。ロクデナシなのは自覚してるが、
だけどそれでも――」
ホメロスはそこで一旦言葉を切った。
「たまにはいい事の一つもしてみたいって思うんだよ」
556Shanam , el Picaro:05/01/08 11:01:00 ID:RJEWwewq
「何がいい事なんだこの野郎!」
叫ぶと奴は、そこで大きく息を継いだ。吟遊詩人より役者の方が奴の天職じゃないか、
俺は自分の身の上と何の関係も無くそう思う。
「てめぇみたいな鬼畜がこの世から消えるように仕向けたら、オレみたいなロクデナシでも
天国に行けるかも知れないって気付いたのさ」

――てめぇが教えてくれたんだぜ
俺からパクったセリフを告げて、ホメロスの奴は勝ち誇った笑みを口元に浮かべる。
俺は奴の目を覗く。奴の顔は笑っていても、その目は爬虫類のように澄み切っていた。
――マジだ
背筋が凍り付いた。本気で俺が死んでも構わないと考えている冷酷な眼差しだった。
決してハッタリなどでは無く、負債を返さない位なら俺なんか死んでも別に構わない、
奴は本気でそう考えているのだ。
奴の借金からは逃げられても、恨みを持ったマリータからは絶対に逃げられない。
自分の身体をさまよえる肉塊に変えられたくなければ、奴の言うなりになるしかない。
そうなったら結局は一万二千ゴールドにも及ぶ負債からも逃れられない。
全てが奴の思い通りじゃないかと気付き、俺はその場に座ったまま項垂れた。
罠を張って俺を嵌め、追い込んで行く卑劣な手口。
ホメロス、正しくお前は――

――お前は――蜘蛛だったんだな

がさりと揺らいだ背後の茂みを振り返ると、血塗れになったマリータがそこにいたような
気がして、俺はその体勢のまま――
失神した。
557Shanam , el Picaro:05/01/08 11:02:36 ID:RJEWwewq
結局俺はリーフ王子のレンスター解放軍へ参加する羽目になった。
ホメロスが言った通り、軍に入っても戦力にはカウントして貰えなかった。だがそれでいい。
血生臭い戦場なんざ真っ平御免だし、ましてそんな場所に行ったら真っ先に殺されちまうのは
目に見えている。シャナン王子を騙っていたけれども、所詮俺は聖戦士の末裔なんかじゃない。
それどころか傭兵としても剣士としても三流止まりだと自覚している。剣の稽古も嫌いだし、
これから先俺が剣士としての仕事が続けられるとは思わない。
だから『何でこんな奴が軍にいるんだ、無駄飯食いじゃないのか』といった俺についての噂や、
若い連中の奇妙な視線も全く気にならなかった。戦場でドンパチやる事だけが戦争じゃないからな。
俺は特技の値切りを生かし、軍の買出し要員として活躍した。
ホメロスが提案した通り、俺はリーフ王子の武器食料をギルドから正規価格の四分の一で買い入れ、
その二倍の額で解放軍に流している。つまり正規価格の半額だ。
俺みたいな小物に集られたらギルドもうざいだろうが、そこは阿漕な商売をやってる身の上、
組織はともかく売人は叩けば埃の出るような奴ばかりだから、商品を安く買い叩くような客でも
上手く付き合えば御贔屓にしてもらえるのだ。

俺自身もお小遣いをこの上なく安全に稼ぐ事が出来るようになった。
俺が来てから無駄な出費が減ったと、何と出納役に感謝までされちまったのだ。
純粋に仕事の成果で人から感謝されるなんて初めてだし、この事はちょっとだけ
損得無しに嬉しかった。軍の台所を一手に任されるようになって都合も良い。
禿爺いの軍師司祭は何か勘付いているみたいだが、何も言って来なかった。
俺が何かやっていたとしても、俺以外に武器道具を安く大量に買える人物は
レンスター解放軍に一人もいない。だから敢えて気付かない振りをしてるのだろう。
謹厳実直な司祭ならともかく、禿爺いはエッダ教団を破門になるような破戒坊主なので
その辺の判断は柔軟なようだ。これも俺にとっては有り難かった。

良い事尽くめにも見える毎日だったが、ただし全てが満足な訳でもない。
558Shanam , el Picaro:05/01/08 11:03:08 ID:RJEWwewq
ホメロスの奴は相変わらず飲む打つ買うが激しく、その所為で金遣いが物凄く荒い。
金が無くなるとすぐ俺の所にやって来て借金の返済や裏仕事の取り分を迫って来る。
今日もまた、ホメロスが俺を待ち構えてやがった。窓の無い二階の物置部屋で
灯りを頼りに仕事しながら、俺は奴と目を合わさずに言い払った。
「先月の分は十日前に渡しただろうが」
俺は傷薬や毒消しを城の倉庫の棚に並べる。何でも自分で買い入れるので、商品を
運ぶのも自分一人でしなければならない。
人手を借りるとネコババがバレるから仕方ないが、これほど重労働だったとは計算違いだ。
結果的に他の奴等の倍働くから給金には色付けてもらえるが、それでも割に合わない。
「あれは返済分だろうが、オレの取り分はまだ貰ってねえぞ。それともマリータを騙して
抱いた事、本人に伝えてもいいんだな?」
倉庫の入り口から、しれっとしたホメロスの返事が返ってきた。
俺は作業の手を止めて、むっとしながら懐から財布を出す。癪に障る事この上ないが、
生命には替えられないので奴の言う金額を銀貨で払う。
ああ今日もまた、財布の中身がホメロスの邪心で静かに枯れていく。
「毎度あり。シャナム商会は支払いが良くて助かるわ、大好きだぜ――」
ほっぺたにキスしようと突き出された奴の顔を、俺は手で邪険に押し退ける。
奴の図々しくて現金な性格もここまで来れば芸術の域に達しているが、それでも
鬱陶しい事には変わりない。突き放すように俺は言った。
「お前とマリータの事さえなけりゃ、ここは間違いなく天国なんだがな」
「おお、マリータと言えばだな」

俺から巻き上げた銀貨を掌で鳴らしながら、奴は大袈裟に応じた。
「お前最近マリータに釣れないじゃねえか。あいつオレにいつも『シャナン様はどちらですか?』
って思い詰めた顔で訴えるんだ。稽古も出撃もない暇を見計らってお前を捜してるみたいだし、
見ていて本当に気の毒だぜあの娘」
559Shanam , el Picaro:05/01/08 11:04:45 ID:RJEWwewq
奴の言う通り、俺は解放軍に入ってからマリータとまともに会っていない。
精々がもう一回抱いただけだ。それ以上逢えば俺がシャナン王子でない事がバレてしまう。
どこぞの馬の骨とも知れない男に操を奪われたと彼女が知ったら、俺の命の保障は無い。
俺は踏み台に上って薬棚に毒消しを積み上げながら、少し格好をつけたセリフを放った。
「俺はこんな男だってあの娘が知ったら、そっちの方が気の毒だ。夢は夢の侭でいいんだよ。
辛い現実を見せ付けるよりはマシさ。そうだろホメロス?」
まあ違いねぇけどな――ホメロスは皮肉の笑みを交えて返す。
「それはてめぇがほざくセリフじゃねえよシャナム。俺の事最低野郎呼ばわりしてくれたけど、
てめぇもかなり胸糞の悪い事平気で吐けるじゃねえか。金を受け取ったばかりで悪いが、オレ今
マジであの娘にてめぇの本性密告りたい気分になっちまったぜ」

俺はすかさずホメロスの襟首を掴み、ずかずかと薬棚へ歩み寄って奴の背中を叩き付けた。
衝突の激しい音に続き、傷薬や特効薬の入った小瓶が棚の上でがたがたと揺れる。
奴が弄くっていた銀貨が、音を立てて床の上にばら撒かれる。
密告るなよ――下から凄みを効かせて俺は言った。
密告らねえよ安心しな――呼吸が苦しい筈なのに、ホメロスは余裕綽々の表情だ。
俺が凄んでも効果は薄いって事か。手を離すと奴は、軽く咳き込んでから何事も無かった
かのように軽い調子で続けた。
「まあでもオレが喋らなくても、例の噂は軍の殆どの奴等が勘付いているぜ。
『マリータがシャナン王子を語る時の目が恋していた』ってナンナが言ってたし、
『マリータはシャナンを愛してしまったようじゃ』って占い爺が喋っていたしな」
占い爺いって、何でそんな爺いが軍隊にくっ付いているんだ。
いや、問題はそこじゃない。
こんな感じで噂が広がったら、例えホメロスの奴が黙っていてくれた所で
俺がマリータに手を出した事実が漏れてしまうのではないか。
いや、それよりも――どうして皆俺の秘密を知ってるんだ?
560Shanam , el Picaro:05/01/08 11:05:28 ID:RJEWwewq
疑問混じりの目をホメロスに向けたところ、奴は涼しい顔で答えた。
「オレも小遣いをてめぇにばっか頼っていたんじゃ悪いからな、唄を披露して小銭を稼いでるんだ。
『剣士、森の妖精と戯れに交わる』って自作の唄、コレが中々評判でな。
特に欲求不満気味のお兄さん方には大受けだったぜ――」
――この野郎――!!

俺は高笑いを上げたホメロスに素早く歩み寄って襟首を掴み、また薬棚へ奴の背中を叩き付けた。
衝突音に続き、小瓶が幾つか棚から床に落ちる。
銀貨の上に粉々になった瓶とその中身が飛び散る。
密告るなって言ったばっかりだろ――下から凄みを効かせる。
密告ってねえだろうが――首吊り状態のホメロスは、俺を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「マリータ本人に密告ってる訳じゃねえし、あの娘も自分がネタにされてるって
全然気付いてねえよ。あの娘は意外と空気が読めないからな。
第一黙っていろとは言われたが、てめぇの話を唄にするなとは一言も聞いてねえしな」
「同じ事だろうがホメロス!唄にもするな!絶対だぞ!」
「口止め料増やすか?」
「もうその手に乗るか!お前の方が約束を破ったんだからな、今まで払った金返せコノヤロウ!!」
言い争う声が段々大きくなり、終いには掴み合い殴り合いの喧嘩になろうとした時、
俺とホメロスは女の甲高い声を耳に聞き止めた。

――千人殺せば英雄だ――!!
561Shanam , el Picaro:05/01/08 11:06:00 ID:RJEWwewq
俺もシャナムもその声に驚き、諍いの手をぴたりと止めた。
俺達は互いに頷いて物置部屋を飛び出る。城の中庭に面した二階の通路から階下を見下ろす。
眩しい太陽の下、その太陽にも負けない位明るい表情のマリータが一人で稽古していた。
皮鎧だと暑いのか、身体の線がくっきり見える袖無しでとても裾が短い紺の着物を身に着けている。
あれから少しは胸も尻も真ん丸く育っているようだ。
小麦色の肌から汗を滴らせ、少し伸ばした黒髪を振り乱し、マリータは自慢の剣を振るって
幾つも幾つも楽しそうに五芒星を虚空に描く。
止しなさい危ない娘に見えるでしょ、と呼び掛けながら、ナンナ王女が輝く金髪と羽飾りを
揺らしつつ俺達の真下から彼女の下へ駆け寄った。
彼女の姿を目で追いながら、俺達は口に出す事なく同時に叫んだ。

――いや。マリータが危ない娘だって、皆とっくに知ってるんですけど――

<<終>>
562988%マシン ◆ka5BrNUzcE :05/01/08 11:08:16 ID:RJEWwewq
どうも、拙文にてスレ汚し失礼致しました。
次回作はコテコテのエロエロで行く予定ですのでご容赦の程を。
それでは次の方どうぞ〜
563988%マシン ◆ka5BrNUzcE :05/01/08 11:33:10 ID:RJEWwewq
ってヤバイ!
今見たら一人でスレ残量ほとんど使い切ってしまってた!

どうしましょうヽ(`Д´)ノウワァァン!!
564名無しさん@ピンキー:05/01/08 13:37:48 ID:dCtuzRI0
責任とって新スレ立ててくださいw
565名無しさん@ピンキー:05/01/08 15:29:58 ID:RCpFboiw
500KBで書き込めなくなるんでしたっけ?
いちおう立てておきました。

ファイアーエムブレム&ティアサガ第14章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1105165398/
566名無しさん@ピンキー:05/01/08 21:13:58 ID:EWFl8rRk
>マシンたん
あいかわらずすげーーー文章力!
オチだけでここまで長編をかけるとは・・・・
ぐっじょぶ!!
567名無しさん@ピンキー
新すれ乙。

いつか投下したとき
「今度は逆視点で」という
コメントがあり、紆余曲折をへて
その逆視点、書いてます。

挿入手前で止まってますけどね。_| ̄|○