スーパーロボット大戦αforDC 時空を超えたSEX

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824桜開く

「キタムラ少佐、先週分のデータ整理とシステムチェックが終わりました。優先度A以上の
書類だけお持ちしましたので、目を通しておいて下さい」
 落ち着きのある澄んだ声とともに、青い書類ばさみがそっと視界のすみに差し出された。
カイ・キタムラ少佐は目を上げ、彼にしては精一杯やさしい、人好きのする笑みを作った。
「いつもすまんな。助かる」
「いいえ」
 両手をきちんと前にそろえ、静かに事務机のかたわらに立つ娘――オウカ・ナギサは、
しずかに小さく頭を下げた。

 アースクレイドルからの脱出間際、崩落する「メイガスの門」に突っ込み、ラピエサージュの
残骸の中から間一髪でオウカを救い出したのはアラドであった。技量はまだまだだが、
相変わらずこういう時の行動力と博打強さだけは一級品だ。この先一人前になったら
リュウセイとキョウスケを合わせたような、さぞ扱いにくい奴になるだろう。
 「スクール」最初期の生徒であるオウカは最も深くかつ長く、洗脳と薬物処理を受け続けて
いる。必然心身がこうむったダメージも一番深く、当初は入院加療が考えられたが、
カウンセリングを担当したラーダの勧めにより、身柄をカイの預かりとして教導隊に置くことに
なった。
「ラトゥーニやゼオラ達と一緒にいさせるのが、今のあの子には一番いいはずです」
 と、いう言葉には頷けるものがある。ゼオラがハガネにやってきた時も、アラドがほとんど側に
つきっきりだったことが、脱洗脳と心身の恢復に大きな助けとなった(もっとも彼らの場合、
つきっきりだった理由はそれだけではないだろうが)。
 とはいえ、ゲイム・システムの後遺症をかかえる彼女を、PTやAMなどの機動兵器に間違っても
触らせてはいけないとの強いお達しも同時に受けている。そんなわけで、彼女にはもっぱら
本部内で、カイの秘書のような役割を務めてもらっているのだった。
「今日はもういいぞ。ラトゥーニ達がもうすぐ帰ってくるから、その辺で待っているといい」
 カイが言うと、はい、と頷いて部屋の隅にあるソファへしずかな仕草で座った。そのまま
何をするでもなく、絨毯をみつめてじっとしている。カイも、それを特に気にせず、ただ仕事を
続けた。
825桜開く:05/02/22 21:04:36 ID:VzzqVsFT
「ここの暮らしには慣れたか? 俺に言いにくければ、ラトゥーニでもいい。不満があったら
言うといい」
「ありがとうございます。問題ありません」
 受け答えをする時にもオウカは絨毯を見つめたまま、カイの方を見ようとはしない。
「教導隊はずっと男所帯だったから、設備や何かが女性の便を考えていないことも多くてな。
ラトゥーニとゼオラが、その辺を改善しようと頑張っているらしい」
「まあ…」
 その時、卓上のコールランプが点滅した。テスラ・ドライブ特有の、耳の天井をひっかくような
甲高い響きがかすかに聞こえてくる。振り返れば窓の向こう、灰色にたれ込めた雲を裂いて、
三機のエルシュナイデが発着場に降りてくるところだった。
『ラトゥーニ・スゥボータ以下三名、帰還しました。操練プログラム・パターン132まで完遂、
全機異常なし。アラド機のみ若干の損傷あり』
「ご苦労だった、格納を終えたら隊長室へ来い。オウカが待ってるぞ」
 通話を切って、迎えに行ってやれ、と言うつもりで目を上げると、オウカはすでに立ち上がり、
部屋を出て行くところだった。さっきまでの大人びた様子が嘘のように、いそいそと駆けていく
背中を、苦笑いとともにカイは見送った。


 母親である(と、長い間思いこまされていた)アギラ・セトメを失い、洗脳の効果も切れた今、
彼女は非常に不安定になっている。と、ラーダは言った。
「今のあの子に必要なのは仲間と、父親よ。強い力で、上から支えてくれる人が必要なの」
 そんなわけで、カイはオウカに対し父のようなつもりで接しているのだが、これまでのところ
どうも、あまり上手くいっていない。教導隊に戻ってきて一月あまり、話を向ければそれなりの
受け答えをしてくれるようにはなったが、笑顔を見せるのはラトゥーニ達と一緒にいる時だけだ。
凛然としたたたずまいの中に、明らかな拒絶の気配が見える。ライディース中尉とはもう少し
普通に話しているようだから、どうやら自分だけが避けられているらしい。
826桜開く:05/02/22 21:06:00 ID:VzzqVsFT
 もっとも、カイは、
(あの年頃の娘なら、父親になど懐かないほうが、普通だ……)
 と思っているから、それほど気にしていない。特にプライベートで付き合おうとしなくとも、
誠実に仕事を続けていれば、おのずと互いの気心も知れてくるものだ。ラトゥーニとは
そうやって仲良くなった。
 スクールにいた頃とは逆に、ここでは彼女が一番の新米である。ラトゥーニは無論のこと、
アラドもゼオラもそれなりに一人立ちしてしまい、これまでと反対にいろいろと気を遣われる
立場が所在ないのだろう。時折、廊下のあたりでぽつんと立ちつくしているのを見かけるように
なってから、少しずつ任せる仕事の量と質をふやすようにしている。リハビリの一環であると
同時に、彼女に責任感とプライドを取り戻させ、できるだけ早く「皆のお姉さん」という地位に
戻してやるためでもあった。
 実際、オウカは秘書としてきわめて有能だった。彼女が来てからというもの、カイが事務仕事に
とられる時間は以前の半分になった。それでいて効率は格段に上がっている。正直、リハビリを
抜きにしてもこのままずっと秘書をやっていてほしいくらいだ。
「……それも、あの子が嫌がらなければの話だな」
 反抗期真っ盛りの自分の娘の顔を思い出し、カイはまた苦笑いをしながら一人ごちた。

「今度の週末に休みをとって、四人で食事に行きたいんですが」
 アラドとラトゥーニがそろって来たのは、秋も深まった薄曇りの午後のことだった。
 ホワイトスター消滅後、ミッドクリッド大統領の和平路線が復活し、新型PTやAMの開発も
ぐっと縮小された。そのあおりをくって教導隊の仕事も減り、テストパイロットが揃って休暇を
とることもできる。
827桜開く:05/02/22 21:08:34 ID:VzzqVsFT
「おう、いいぞ行ってこい。今頃は蟹がうまくなる季節だ」
 カイも二つ返事で承認し、休暇届にサインをした。書類を受け取ったアラドが、
「少佐も一緒にどうですか?」
「俺まで休んだらここが立ち行かんだろうが。いいから、姉弟水入らずで行ってこい」
「来てくれたらオウカ姉さんも喜ぶのに」
「馬鹿を言え。変な気を遣うな」
「馬鹿じゃないですよ」
 軽口のやりとりのつもりが、妙にまともにアラドが答えたので、カイは鼻白んだ気分で二人を
見た。そういえば、オウカの自分に対する評価について、この子らと話したことはなかった
気がする。
「俺はあの子に嫌われてると思っていたんだがな」
「それは違います。むしろ、姉様は少佐のことが好きだと思います」
 ラトゥーニまでが真面目な顔をして、そんなことを言う。間違ってもお追従や冗談など言う
子ではないから、これは信じるしかない。
「俺達だけの時は、カイ少佐のことよく話すんですよ。姉さん、嬉しそうに。『今日は少佐が
娘さんの話をしてくれた』とか、嫌いだなんてとんでもないっス」
「アラドの言うとおりです。オウカ姉様は、そういう気持ちの表し方が、まだよくわからない
だけだと思います。少佐に対する接し方がわからないから、態度が固くなってしまうんです」
「ふうん……?」
 とりあえず、全員未成年なのだからあまり遠くへ出歩かないように、とだけ念を押して、
知り合いのレストランを紹介しておいた。週末、アラドが大きなずわい蟹の甲羅をもらって
帰ってきた。