こんばんは。
では、続きを少しだけ…。
「あぁ、そうだ。ミルラ、お前はここにいていいんだ。」
「おにいちゃん…。」
「俺のこの気持ちは今でも変わらない。ここにいたって何の問題はない。」
ミルラの顔を真っ直ぐに見据えエフラムは優しく言う。
「はい…ありがとうご…きゃっ!」
そうミルラが言いかけた瞬間、何者かが飛び込んできた!
その何者かは唸りをあげミルラを突き飛ばしテラスの脇へと降り立つ。
その姿を確認したエフラムは思わず自分の目を疑った。
「……ま、魔物…だと?」
有翼の、鋭き槍を持つ赤き魔物…ガーゴイルだった。そして、ガーゴイルは突如槍を突き出し飛びかかってくる。
間一髪、その攻撃をすんでの所で回避しエフラムは素早くミルラを抱きかかえると部屋の中へと駆け出す。
勢いに乗っていたガーゴイルの一撃は空を切りそのまま近くにあったテーブルを軽々と貫き粉々にする。
「…ちぃっ、どうしてこんな所に魔物なんかがいる!」
エフラムは突然の襲撃者に悪態をつきながら机に立てかけてあった槍を手に取る。
その槍はエフラムのみが扱える専用の槍、レギンレイヴという珍しくも強き槍だった。
そして、それと同時にミルラを守るようにしてテラスへの入り口の前で待ち構える。
「……私も…戦います。」
ミルラは懐から一つの石を取り出しエフラムの横に立つ。
今、ミルラが取り出した石は竜石と呼ばれる竜人族の強大な力を封じ込めたものである。
これの力を解放する事によって人から本来の竜の姿へ変身し攻撃を行うが、その力は計り知れない程のものを秘めている。
「いや、ミルラはここにいてくれればいい。ガーゴイルくらい俺だけで十分だ。」
「え…でも…。」
エフラムは何かを言おうとするミルラを優しく制した。
そして、レギンレイヴを持つ手に力を込めるとテラスを睨みつける。
と、その時けたたましい音を立てながらガーゴイルが突っ込んできた。
ガーゴイルはガラス窓を悠々とぶち破りその縁ごと粉砕する。
「直感というものも案外当たるものだな!」
エフラムはそう叫ぶと突撃してくるガーゴイルの正面からぶつかっていこうとした。
すぐさま槍と槍の切っ先が触れる間際まで来たかと思うと、次の瞬間にガーゴイルが派手に吹っ飛んだ。
横に吹っ飛んだガーゴイルは大きな衝撃音と共に部屋の壁へと全身を叩きつけられる。
「あっ…。」
これを見ていたミルラは思わず声をあげた。
ミルラから見れば一瞬の内にガーゴイルが壁にぶつかっていたのだから驚くのも無理はない。
それは…切っ先が触れる寸前にエフラムが一歩踏み込んだ後に槍全体を使い僅かの隙が生じたガーゴイルの横っ腹を思い切り薙ぎ払っていたのだった。
「俺の槍を甘くみるなよ…。」
ガーゴイルは訳も分からず、吹っ飛んだ事に疑念を抱いていたがそれはすぐに消えた。
甲高い怒りの雄叫びを上げながらまたも突撃してきた……が、いとも簡単に捌かれる。
小気味よい金属が弾き合う音が響き、ガーゴイルがとっさに後ろへ跳躍する。
エフラムの攻撃の初速は恐ろしく早く後手に回っていても何の支障もきたしてはいなかった。
これもエフラムが培ってきた槍の技量と経験があってのものだろう。
「遅いな、そんな早さで俺を捉える事は不可能だ。」
エフラムは毅然とした態度で言い放つ。
そして、油断する事なく槍を下段に構え迎撃体勢のままガーゴイルの動きを見張る。
その後ろでは、そんなエフラムの戦いぶりを見て安心しつつも自分もいつでも助けに入れるよう竜石をその小さき手で握っていた。
「……おにいちゃん…頑張って下さい…。」