エンジェル隊の誰とやりたいんですか?【VII】

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773769:2006/06/25(日) 22:51:43 ID:nV7BC1ai
ひょっとしたらsage推奨だった? だとしたらスマン。ageてた。

じゃあ温泉で混浴的なシステムで行くと、かなりベタだが、
せっかく二人で入ったんだから、背中流し合い。→リコの年齢不相応な胸とか、白い背中とかにカズヤ暴走。→
抱きすくめられて、驚きの余りにリコが振り払う。→拒絶されたと思ってカズヤがへこんで、謝りつつ部屋に戻る→
リコ、カズヤの部屋に→インターフォン越しの会話で、「本当は嬉しかったんだけど、びっくりしちゃって・・・」的な旨を伝える。→
「続きがして欲しくてこの部屋にきたんです。開けて下さい」そしてカズヤの部屋へ……
ってな感じで。・…………妄想を吐き出す事って、結構勇気が要るね。
まあ、これは1つの提案だから、>>768氏の書きたいようにどうぞ。
774名無しさん@ピンキー:2006/06/25(日) 22:59:37 ID:/ozxFzgV
個人的には、脇をなぞらせたい。
「綺麗だね♪」って言ってリコを独占
「もっと触ってください」
みたいな
775名無しさん@ピンキー:2006/06/26(月) 01:09:03 ID:QmkTTMb0
>>770
しかし、アニスがわざわざ「シャワールーム狭いのに」と言っている辺り、大浴場はないのかもしれない。
776名無しさん@ピンキー:2006/06/26(月) 07:07:32 ID:tbeyhVeO
訂正した方が良いにょろ?(´・ω・`)
777名無しさん@ピンキー:2006/06/26(月) 14:41:00 ID:9w2Excst
別にいいんでね?
ルクシオールの正確な内部構造が分かってる訳じゃないし。
ところで、ここではネタバレを含むSSはご法度か?
778名無しさん@ピンキー:2006/06/26(月) 14:58:10 ID:LP8CvmOO
姉妹丼キボン
779769:2006/06/26(月) 18:32:24 ID:wemvQFBp
しかしながら、大浴場があるのは良いとしても、混浴は無いと思うんだが・・・
全ては発売前の設定として良いんじゃないかな。

もしくは、大浴場は無しにして、カズヤかリコの個室のバスルームを使うとか。

>>777
自分は未プレイの身だが、ネタバレ出しても全然OKだと思う。
むしろ、ガンガン投下して活性化して欲しい。
780名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 00:52:44 ID:PDaLbg5h
「う……」
 ルクシオール艦内の自室で、カズヤはうめき声を上げる。
「トホホ、筋肉痛なんてなぁ。日ごろ使わない筋肉を使ったせいかなぁ」
 カズヤがベッドの上で溜息をついていると、呼び出し音がなる。
「あ、はい」
「カズヤ、今いいか」
「リ、リリィさん。ええ、どうぞ」
 ドアを開けると、慌ててベッドから飛び起きる。が、身体が変な痙攣を起こし、カズヤ
はそのまま派手にベッドの脇に倒れこむ。
「だ、大丈夫か」
「あ、ははは。どうも」
 リリィに肩を貸してもらい、カズヤはようやく起き上がる。
「やはり、昨日の訓練が少し厳しかったか」
「ええ、まあ。鍛え方が足りなくてすみません」
 ベッドに座らせてもらいながら、カズヤは頭を下げる。
「いや、謝るのは私の方だ。実はシュトーレン中佐に、あの特訓の後に注意を受けてしま
ったのだ」
「教官に?」
「ああ。日頃から、騎士としての訓練をしている私と、同じメニューにつき合わせて無理
をさせるのは良くないと」
「でも、鍛え方が足りないのはよく分かりましたから、感謝しています」
「そうか。そう言ってもらえると、幾分私の気持ちも和らぐ」
「そんな、リリィさんが責任を感じることなんてないですよ」
「いいや、それでは私の気がすまない。そこでこれだ!」
 そう言ってカズヤの前に差し出されたのは、一本のチューブだった。
「それは?」
「うむ。実は先ほどマイヤーズ司令から、筋肉痛に良く効く薬があると聞いて貰ったのだ」
「あの、マイヤーズ司令が?」
 怠け者のタクト司令と筋肉痛というキーワードが結びつかず、カズヤは思わず首を傾げ
たが、この筋肉痛に効くとなればそんなものは些細な疑問だった。
781名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 00:54:07 ID:PDaLbg5h
「リリィさん、ありがとうございます」
 カズヤが薬を受け取ろうと伸ばした手を、リリィが遮る。
「NGだ」
「はい?」
「今回のことには私も責任がある。それに背中に薬を塗るのは、筋肉痛の身体では辛いだ
ろう。そこで、私が塗ることにする」
「いや、そんな。わざわざリリィさんの手を煩わせるなんて」
「カズヤは、私に薬を塗ってもらうのは嫌なのか?」
「いや、そんなことは……むしろ」
 一瞬カズヤの脳内に邪な妄想が浮かぶ。が、カズヤは慌ててそれを振り払う。
「と、とにかく嬉しいですが、やっぱり自分のことは自分で」
「なに、遠慮することはない。さあ、服を脱げ」
「は?」
「服を脱がないと薬を塗れないではないか。さあ」
「い、いや……「さあ」と言われても」
 顔を赤らめ躊躇するカズヤを見て、リリィの理解は早かった。
「なるほど。確かに無理があるな」
「そ、そうですよ」
「筋肉痛では、服を脱ぐのも辛いだろしな。よし、私が脱がしてやろう」
 そう、理解は早かった。ただし明後日の方向に。そして行動もすばやかった。
 カズヤの上着に手を掛けるや、ボタンを一気に外す。さらにシャツを剥ぎ取り、上半身
を裸にする。
「ううう。もうお婿にいけません」
「心配するな。私が貰ってやる」
 そう言いながら、リリィはベルトを外すとズボンを一気にずり下げて投げ捨てた。
 気がつけばトランクス一枚の姿でベッドにうつ伏せに倒され、カズヤはまな板の上の鯉
になっていた。
「よし、これでいい。それでは今から治療を開始する」
「ぅぅぅぅ。も、もう好きにして下さい〜」
「OKだ。まったく。最初からそうやって、大人しく従ってくれれば良かったのだ」
782名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 00:55:11 ID:PDaLbg5h
 続く……ということで

 カズヤリリィで書いてみたけど、なんかカズヤがいじられキャラになってしまった(汗
783名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 01:39:41 ID:xzqlisHo
>>782
OKだ!続編を期待しているぞ
784名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 01:52:37 ID:FjvDYjok
>>782
同じくOKだ!ちなみにカズヤは元々いじられキャラだ!

>>779
ではお言葉に甘えて、多少のネタバレを含む妄想駄文を投下させていただく。
ネタバレが嫌な方はスルーよろ。
785名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 01:54:52 ID:FjvDYjok
「まあ、そんな事が……」
 何処か間延びした口調で、それでも精一杯にカルーア・マジョラムは驚きの態度を示した。常に連れている使い魔ミモレットの姿はない。
 場所はピロティである。カルーアの隣には、まるでテンプルを打てなくなった某ボクサーの如く燃え尽きたカズヤ・シラナミがいた。
 彼は目の幅涙をダーっと流し、
「いいんですよ……ボク、もう用無しですから……」
 フ……と、何かを悟った、というより諦観したように呟くカズヤ。
 その様子に目を伏せながら、カルーアは先程の事を思い出した。



 カルーアがこの状態のカズヤを見付けたのは、研究の合間にピロティに行った時である。
 軽く喉を潤そうか、と思い周囲を見渡すと、カズヤがコーヒーを飲みながら意気消沈していたのだ。
 その様子があまりにも異常だったので、カルーアは不思議に思った。つい先日、カズヤはアプリコット・桜葉、通称リコとセルダールのリゾート衛星に遊びに行ってきたはずだ。
 帰ってきた時の彼は、それはもうご機嫌だった。
 しかし、それから数日も経っていないのにこの有様とは……
「カズヤさん〜?」
 呼びかけると、カズヤの肩がびくりと震える。
 カズヤは壊れたロボットのように顔を上げた。その顔には、あまりよろしくない――というか、死相に近いものが出ている。
 それに少しビビりながらも話を聞くと、最初は拒否していたカズヤも段々と溢れる感情を抑える事が出来ず、滝のように涙を流しながらカルーアに事の顛末を話し始めた。
 要約すると、こうだ。
 つまり、カズヤ・シラナミはアプリコット・桜葉にフられたのである。
 無論、そうとは限らない。カズヤはリコに話を聞こうとして、避けられ続けた。実際に拒絶の言葉を投げられた訳ではないのだ。
 しかし、その後カズヤは料理学校の同期であったランティにアドバイスを貰った。
 その根拠があるようでないアドバイスを信じきったカズヤは、カルーアに「自分がもう用済みになった」としか言っていない。
 イマイチ話の前後が分からないカルーアではあったが、その言葉から「フられた」と推測するのは簡単であるし、カルーアはそもそも聡明である。
 結局「カズヤがリコにフられた」という前提で話は進み、今に至る。
786名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 01:56:19 ID:FjvDYjok
「カズヤさん、そんなに気を落とさないで……」
 そうとしか言えない自分に苛立ちを感じながら、カルーアはカズヤの肩に手を置く。
 とはいえ、気を落とすなという方が無理であろう。何せ初恋に気付いたと思ったら、初恋の相手はもう自分を見ていないのだ。
 その気持ちは……カルーアには、よく分かる。
 だが無論、カズヤはそんなカルーアの気持ちなど知る由も無い。
「ほっといてよ……」
「でも……」
「ほっといてってば! カルーアにはボクの気持ちなんて分からないよ!」
 置いていた手を弾かれ、カルーアは一瞬頭が真っ白になった。今まで、カズヤが誰かに対してこれほどに強い拒絶を示した事はない。というより、基本的に拒絶出来ない性格なのだろう。その点に関しては、カズヤ・シラナミとタクト・マイヤーズは似ていると言えた。
「あ……」
 思わず、弾かれた手を抱える。そのカルーアの表情に目も向けず、カズヤは走り去った。
 物理的な衝撃では、それ程強く弾かれた訳ではない。しかし、手には消えそうにない痛みが残っている。
 痛いのは手だけではない。心も痛かった。
『カルーアには分からないよ!』
 そう言われたのが、何より辛い。
 分かっている。カズヤの気持ちは、痛い程。
 何故なら、今の彼女の心情はカズヤのそれに近い――いやむしろ、それよりも辛いと言える。
 何故なら。
「カズヤさん……」
 彼女は、彼が、好きだったのだ。



 カズヤ・シラナミとタクト・マイヤーズの類似点は先程も述べた通りだが、相違点も当然ある。
 タクトは常に感情を厚い笑顔のヴェールで覆い隠しているのとは対照的に、カズヤは感情を表に出しやすい。直情型なのだ。
 だから激情に流されやすく、そのくせ下手に優しい性分の為、すぐに後悔する事になる。
(さっきは、言い過ぎたかな……)
 激情に任せて、もしかしたらカルーアを傷つけたのかもしれない。
 そんな思いだけがグルグルと渦巻いて、カズヤは部屋のベッドで悶々としていた。
 ただでさえリコとの事で参っているのに、この上心労が増えてはたまらない。
(そもそもリコとの事だって、ボクが悪いのに……)
 その考えに至り、カズヤは嘆息した。
 認めたくはない。が、認めなくてはならないらしい。
 自分はアプリコットにとって、もう特別でも何でもない。用済みの地味男なのだ。
 それを認めると、多少の悲しみと共にわだかまっていた何かは消えたような気がする。
 そうだ。それは好きになったリコの新しい門出なのだ。応援しなくてどうする。
(みっともないぞ、カズヤ・シラナミ!)
 自らに喝を入れる為、カズヤは頬を叩く。
 痺れるような痛みで、気力を無理やりに引き出す。
「よし! まずはカルーアに謝ろう!」
 わざわざ声に出して、カズヤは死地に向かう覚悟を決めた兵士のような足取りで部屋を出た。
787名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 01:57:25 ID:FjvDYjok
 アプリコット・桜葉は、倉庫整理を終えて自室に戻る途中だった。
 さて。ルーンエンジェル隊の各部屋に行く為には、ピロティを経由して行かねばならない。
 そして、その足がピロティにかかった時。彼女の耳は、聞き慣れた人間の声をキャッチした。
「さっきはごめん、カルーア!」
 それはルーンエンジェル隊の隊長代理にしてブレイブハートのパイロット、カズヤ・シラナミ少尉である。
 そして、目下アプリコットはやんごとなき理由で彼の前に出たくなかった。
 慌てて柱の影に隠れ、そろり、と顔を出す。
 そこには予想通りにカズヤと、もう一人の人間がいた。
 ルーンエンジェル隊のメンバー、カルーア・マジョラム少尉だ。
 彼女は上目がちに、頭を下げるカズヤを見ている。
(シラナミさんと……カルーアさん?)
 別段、珍しい取り合わせではない。カズヤはカルーアの研究室にもよく行っているし、仲はいい方だろう。テキーラなどはすぐにカズヤをからかい始めるのだが。
 しかし、今の二人は普段と様子が違った。それは、何故かアプリコットに危機感を持たせる。
 柱に潜むアプリコットには気付かず、カズヤとカルーアは話を続ける。
「カズヤさん……?」
「さっきさ……ボク、カルーアが慰めてくれたのにあんな風に怒っちゃって……」
(慰めて……?)
 何の事だろう。興味をそそられたアプリコットは、一層聞き耳を立てる。
「リコとの事でむしゃくしゃしてて……とにかくごめん!」
(私との事?)
 どきり、と心臓が一際大きい鼓動を打つ。
 何なのだろう。無意識が警鐘を鳴らす。
 早く何かをしなければ、取り返しの付かない事になる。
 そんな予感があったが、アプリコットは動けなかった。
「でも……仕方ありません。リコちゃんは――」
「いいんだ」
 何かを言いかけたカルーアを、カズヤが遮る。
「もう……いいんだ。確かにボクはもうリコに不要な人間だけど、それは彼女の成長の証明なんだから……応援しなきゃ」
 きらりと、カズヤの目に涙が光る。男泣きという奴だ。
「カズヤさん……男らしいです〜」
 そんなカズヤを尊敬するように、カルーアもまた瞳に涙を浮かべて見つめている。
 しかし、それを見ているアプリコットとしては心中穏やかではない。
(シラナミさんが、私に不要? 何それ? どうなってるの!?)
 混乱する頭を押さえる。
 確かに、ここ最近はカズヤを避けていた。しかし、それは決してカズヤを嫌いになったからではない。なのに、何故そんな話になっているのか。
788名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 01:59:45 ID:FjvDYjok
 と、二人の話はまだ続いていた。
「あ……でもですね〜」
 と、カルーアがいつもの調子を取り戻したように、間延びした声で告げる。
「その〜、カズヤさんに、一つ訂正して欲しい事があるんですのよ〜」
「え?」
 アプリコットは思考を現実に引き戻し、二人の様子を盗み見る。
 カルーアは心持ちもじもじとしながら、
「カズヤさんの気持ちは、痛い程分かりますのよ〜。だって、私は〜」
(――――!)
 その先を言わせるな。そんな命令がアプリコットの脳から発せられる。
 言わせてはいけない。言わせれば、カズヤとの関係は二度と修復出来なくなる。
 そんな、確信めいた予感があった。
 けれど、身体は動かない。
 そうこうしている内に、カルーアはその言葉を言ってしまった。
「カズヤさんの事が、好きなんですから〜」



 その時歴史が動いた。もとい、時間が止まった。
 カズヤは完全に固まっているし、アプリコットも同様である。二人とも『GAみち』のようなギャグ顔で固まっている。
 ただ一人カルーアだけが、
「きゃあ、言っちゃいました〜!」
 などと恥ずかしがっている。
 それはそれでレアなのだが、今のカズヤにはそんな事を理解する事は出来なかった。
「カ、カカカカカカ……ッ!」
「はい?」
 狂ったように『カ』を連発するカズヤに、カルーアは首を傾げる。
 カズヤは一度あさっての方向を見てから数度深呼吸して、
「そ、そそそその……今のって、ほほほ本当?」
 相当に動揺しているのだろう。深呼吸の意味がなかったようにカズヤはどもっている。
 それはアプリコットも同様であった。
(ななななななな……!)
 内心で『な』を連発する。そんな彼女を他所に話は進む。もう戻れない所にまで。
789名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 02:01:39 ID:FjvDYjok
「はい〜。でも、カズヤさんにはリコちゃんがいたので諦めていたんですけど〜」
 その言葉に、再びアプリコットの意識は二人に向く。
(私……?)
「そ、そそ、そうなんだ……ははは……」
 カズヤの乾いた笑いが響く。
 アプリコットはと言えば、内心は穏やかでない。それどころか嵐のような心境だった。
(私がいたから、シラナミさんの事を諦めたっていう事は……シラナミさんは、私を……)
 思考がそこに至った瞬間、ぼっと火が付いたように赤面する。
 まさか、という理性と、そうであって欲しい、という感情がぶつかり合う。
 しかし、その状態でいる暇すら、彼女には与えられなかった。
「それでですね〜」
 カルーアは上目遣いにカズヤを見つめ、
「その〜、カズヤさんのお返事をいただきたいんですけど〜」
「へっ!? おおお、お返事!?」
 完全に裏返ったカズヤの声。それにアプリコットは再び現実に引き戻される。実に忙しい。
「はい〜」
 邪気の無い微笑み。はっきり言うと、カズヤは女の子の笑顔に弱い。ただでさえ流される性格なのだから余計にである。
「そそ、それは……ッ!」
 助けを請うように周囲を見渡すが、キス話の時みたいに都合よく助けが入る訳もない。
 いや、実際にはアプリコットがいるのだが、カズヤがそれを知る訳もない。
 思考をグルグルと回らせているカズヤに、アプリコットは念じた。
(シラナミさん、頑張って! 負けちゃ駄目!)
 そもそも事の発端はアプリコットだったりもするのだが、それも忘れて彼女は念じていた。
 仮に、これが彼女の姉であるミルフィーユ・桜葉であれば、どうあっても邪魔が入っただろう。
 しかし、アプリコットにはミルフィーユのように奇跡じみた運勢はない。
「ぼ、ボクは……」
「はい〜」
(シラナミさん!)
「そ、その……!」
「どうなんですか〜?」
 悩むカズヤに、カルーアの微笑が近付く。
 断れない。アプリコットは直感した。
 もしも、ここで拒絶すればカルーアの微笑は消えるだろう。カズヤはそんな事が出来る人間ではないのだ。
 事実、カズヤは既に選択権を失ったような表情になっている。
 このままでは――
790名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 02:03:08 ID:FjvDYjok
 カルーアの顔が更にカズヤに近付き、吐息がかかるような距離になる。
 既にカズヤは、選択権どころか正常な思考能力さえ失いかけていた。
「カズヤさん……」
「あ……」
 カルーアの艶やかな唇が、カズヤのそれに近付いていく。
(だ、駄目、駄目、駄目、駄目!)
「だ――!」
 思わず、アプリコットが大声を上げそうになった、その時。
「ぎにゃぁぁぁぁっ!」
 絹をつんざくような悲鳴が、ピロティの向こうから響いた。カルーアの部屋の方向である。
「あらあら〜?」
 カズヤに近づけていた顔を離し、カルーアは自室の方を見やる。
 それにあからさまに安堵したカズヤとアプリコットも、悲鳴の発信源に視線を向ける。
 すると、そちらから突進してくるモノがあった。
「ご主人様ー!」
「ミモレットちゃん?」
 それは、カルーアの使い魔である黒猫(?)ミモレットであった。
 ミモレットは死地から命からがら生還した兵士のような有様でカルーアの胸に飛び込む。その際にカルーアの胸の弾力が強調されてカズヤが鼻を押さえたが、それは誰も見ていなかったのでカズヤの名誉は守られた。
「ご主人様! 助けてくださいですにー!」
 更にぐりぐりとカルーアの胸を圧迫するミモレット。それにカズヤの鼻から僅かに血が垂れたが、それも見られていなかったのでセーフ。
「どうしたのかしら〜?」
「あ、あの悪魔が……っ!」
「悪魔?」
 カルーアは、ミモレットが来た方向に視線を向ける。カズヤとアプリコットもそれに倣った。
 そして、軽快な足音と共に現れたのは――
「待つのだー! 引っ張らせるのだー!」
 ナノナノ・プディング少尉であった。
 彼女は日頃からミモレットを引っ張るのを日課にしているのである。
 あからさまに怯えるミモレットは、すぐにカルーアの後ろに隠れる。
791名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 02:03:41 ID:FjvDYjok
「あ、あの、ボク、これで……」
 と、そそくさと逃げるカズヤ。
「あ、カズヤさん〜?」
 それに気付いたカルーアは残念そうな顔をするも、すぐに向こうから走ってきたナノナノと話し始めた。
 アプリコットは心の底から安堵の息を吐く。
 やがてミモレットを一通り引っ張って気の済んだらしいナノナノがこちらに来た。
 アプリコットはカルーアが自室に戻った事を確認してから、顔を出す。
「あ、リコたんなのだー!」
 とてとてという擬音が似合う足取りでこちらに来たナノナノに対し、アプリコットはその肩をがしり、と掴んだ。
「ナノちゃん!」
「な、なんなのだ?」
 いきなりの事に目を白黒させるナノナノに、アプリコットは真摯な瞳で告げた。
「ありがとう!」
「……へ?」
 全く理解出来ていないであろうナノナノに、アプリコットは構わず続けた。
「リリィさん風に言うとOKよ! お礼に、後で何でも奢ってあげる!」
 話の内容は理解出来ないナノナノだったが、最後の「奢ってあげる」という言葉はちゃっかり理解していた。
「ほ、ホントなのだ!?」
「ええ、本当よ!」
 勢いのあまりナノナノを抱きしめるアプリコット。
 そのあまりの力に、ナノナノの悲鳴がルクシオールに響いた。



 アプリコットやカズヤは安堵していたが、この二人はすっかり意識から消していた。
 まだ、何も解決はしていないという事を……
792名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 02:05:30 ID:FjvDYjok
という訳で前半投下終了。無駄に長い……orz
ベタな内容でお目汚しになるやもしれませぬが、続きは近日中に投下しまつ……
793名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 12:31:43 ID:pf4SS/kd
>>792OKだ。
かなりGJです。個人的にはカルーアさん好きなんで楽しみだ。嫉妬に燃える?リコも見てみたい。
794名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 20:45:59 ID:4PRsLNDe
>>792
神乙!そしてGJ!
女の戦い楽しみにしてます!
795名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 23:19:12 ID:0GOlYJ0X
やばい、こう言う勘違いの重なった絶妙な△関係とか凄い好きだ。
今後の展開楽しみにしてる。
796名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 16:52:28 ID:jPCEQlQ2
>やばい、こう言う勘違いの重なった絶妙な△関係とか凄い好きだ。

俺も全く同じこと書こうとしてたw
797名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 20:18:04 ID:Ksumh8Lh
>>792
OKだ!!
>>795-796
それを聞いて

    タクト
     △
   ココ ちとせ

これを考えた俺は逝ってよしなんだろうか?
798名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 21:54:37 ID:39jvHAQn
>>797

お前が逝こうが逝かまいが俺の知ったこっちゃねぇよ。












ただ、せめてその俺のハートをぶち抜いた妄想を洗いざらい暴露してから逝ってくれ。
ココVSちとせ×タクトハァハァ(;´Д`)
799792:2006/06/29(木) 02:12:20 ID:9MpnwvAl
>>793-797
お褒め頂き光栄です。
では中編を投下いたします(長えよ)。
800792:2006/06/29(木) 02:13:15 ID:9MpnwvAl
 宇宙には明確な時間はないが、人類は標準時間という仮初の時間を使って生活している。そうしなければ、朝起きるのも、夜眠るのも全てバラバラになってしまうからだ。
 カズヤ・シラナミもまた例外なく、フォルテ・シュトーレン中佐に半年間で身体に覚えさせられた時間に起床した。
 起きてすぐに思い起こされるのは、昨日の事である。
(まさか、あんな事になるなんて……)
 頭を抱える。
 結局、あれ以降カルーアの顔をまともに見る事は出来なかった。
 そういえば、アプリコットも変だった気がする。話をするチャンスもないのはいつもの通り――悲しい事に――だが、顔を合わせる度に妙に鋭い視線を投げつけてくるのだ。
 何というか、まるで監視しているような目である。
(何だって、こんな事に……)
 最早この状況の原因すら思いつかない程に、彼は疲れていた……
 しかし、仕事は仕事である。ただ飯を喰らう訳にはいかない。
(よし!)
 両頬を叩き、その痛みで強引に目を覚ます。
 カズヤはとりあえず寝汗を流そうと、シャワールームに向かった。



「おう、カズヤ! もう十分だぜ!」
「分かりました!」
 整備班長クロワの声に頷き、ブレイブハートのコクピットから出る。
 紋章機は、パイロットのテンションに性能が左右される。
 そして、そのテンションを活かす為にも精神リンクの調整は重要なのだ。こればかりはパイロットがいなくては出来ない。
 もっともカズヤのブレイブハートは紋章機ではないのだが、他の機体と合体した時において重要になるのである。
 カズヤは班長と軽く話をしてから、タラップを降りる。
 すると、そこには予想だにしない――というか、今一番会いたくない顔があった。
 カルーアである。
「カカカ、カルーア!?」
 思わずどもってしまい、しまったという顔になる。
(これじゃあ、意識してますって言ってるようなもんじゃないか……)
 実際に意識しているのだが。
 それはともかく、カルーアは昨日の事など無かったような調子で、
「はい〜。カズヤさん、お暇ですか〜?」
 と、間延びした口調で尋ねてくる。
(どうしよう……)
 暇といえば暇だ。それは間違いない。ブレイブハートの調整の他はそれ程重要という訳でもないからだ。
 しかし、今カルーアと行動を共にするのは避けたい。昨日の今日では意識するなという方が無理だ。
(カルーアは、平気なのかな……)
 軽く顔を伺ってみる。が、それが拙かった。
 カルーアは、一点の曇りもない微笑みを浮かべている。カズヤが断るはずがない、と信じている笑顔。
(は、反則だ……!)
 そんな笑顔を見てしまったら、適当な理由を付けて断る事も出来はしない。
 カズヤは内心で自棄になりながら答えた。
「ひ、暇……だけど……」
「それじゃあ、お昼を一緒に食べませんか〜?」
「まあ、それくらいなら……」
 思ったよりも軽い条件で安心する。「部屋に来てくれ」などと言われたらどうしようかと思った所だ。
(って、何考えてるんだボク! いかん、いかんぞぉー!)
 自らを戒めるカズヤを見て、不思議そうに首を傾げるカルーア。
 そんな一連のやりとりを、密かに見つめる瞳があった。
 クロスキャリバーの整備をしていたアプリコットである。

801792:2006/06/29(木) 02:16:19 ID:9MpnwvAl
「相変わらず、ランティさんの料理はおいしいですわね〜」
「あ、ああ、うん」
 美味しそうに料理を食べるカルーアに、生返事を返す。
 正面にカルーアが座っているので、イマイチ食事に集中出来ない。
 チラチラとカルーアの顔を見ながら、味のしない料理を口に運ぶ。
 昼食時の為か、食堂を利用するクルーは多い。
 それらの視線を僅かに感じて、カズヤは更にいたたまれなくなる。自分のぎこちなさは、周囲から見ても分かるのだろう。
「カズヤさん〜?」
 流石に、カルーアもカズヤの様子がおかしいのに気付いたらしい。
 心配そうに覗き込んでくる彼女の顔が、カズヤに迫る。
「調子でも悪いのですか〜?」
「い、いいいいや! 至って大丈夫だよ、うん!」
 ぶんぶんぶん、と脳震盪が起きそうな程の勢いで首を横に振るカズヤ。
 カルーアはそれに安心したような息を吐く。
「なら、いいのですけど〜。……あら?」
「え?」
 顔を離しかけたカルーアが、何かに気付いたようにカズヤの口元を見ている。
「カズヤさん、口元にご飯粒が……」
「え、本当?」
 慌てて取ろうとするカズヤは、口元を探ってみる。しかし、手応えはない。
「どこ?」
「そっちじゃありませんよ〜。私が取ってあげますね〜」
 そう告げて。
 カルーアは、更に顔を近付けて。
 ぴちゃり、と。
 その舌で、カズヤの口元を、舐め取った。
「――――――!?」
 その時。世界が止まった。
 正確には、カズヤの周囲の時間が。
「うふふ、おいしいです〜」
 という、少し照れたようなカルーアの声すら耳に入ってはいない。
 だから、「それは俺へのあてつけかゴルァァァァッ!?」というランティのキレた絶叫も。「接近警報発令ー!」というタクトのふざけた声も。
 射殺さんばかりにこちらを見つめるアプリコットの視線にも、気付かなかった。



(はぁ、参ったな……)
 あの後、カズヤの硬直が解けたのは数分後だった。キレたランティにお玉を投げつけられたのである。
 まだ痛みの残る頬をさすりながら、先程のカルーアの行動を思い返す。
(あんなキスまがい、好きな人とじゃなきゃ出来ないよな……つまり、カルーアは本気でボクの事を……)
「ああ、どうすりゃいいんだぁ!?」
 思わず叫んで、頭を抱える。
 幸い通路に人はいなかったので、取り乱した姿を見られる事はなかったが。
 しかし、事態はカズヤが悲観する以上に進んでいたのである。
802792:2006/06/29(木) 02:17:29 ID:9MpnwvAl
「…………」
 アプリコットはピロティで一人、思い悩んでいた。
 無論、その内容はカズヤの事である。
(どうしよう……)
 今、彼女の頭の中はその思いで一杯だった。
(このままじゃ、シラナミさんはカルーアさんと付き合う事に……ううん、シラナミさんはそんなにだらしない人じゃ……! でも……)
 先程からグルグルとループする思考。
 カズヤの事を信じたい。しかし、彼の押しの弱さも十分に承知している。
(シラナミさん……)
 彼との思い出を振り返る。
 最初に、彼に触れても大丈夫だと知った時は凄く嬉しかった。例えそれがミルフィーユの影を追うようなものであっても、自分が触れられる男の人というだけで嬉しかったのだ。
 けれど、段々とそれだけではなくなった。
 デパートシップで付き合って貰った時は、凄く楽しかった。あの時買って貰った髪飾りは一生の宝物だ。
 リゾート衛星ホッコリーに誘われた時は、水着を選ぶのに非常に悩んだ。どんな風にすれば可愛く見られるか、どんな風にすれば楽しんでくれるか……
(あ……)
 今更ながらに、気付く。
(私って、こんなにシラナミさんの事が……)
 何時からなのか。そんな疑問は、この思いに比べれば些細な事だ。
(好きだったんだ……)
 口の中で、言葉にする。
 初めてのそれは非常に甘く、同時に苦いものだった。
(なのに……私、ただ恥ずかしいからシラナミさんを避けて……傷付けちゃった……)
 はっとなる。
 そうだ。今の状況を作り出したのは誰でもない、自分ではないか。
「う……うう……」
 自分の馬鹿さ加減に、涙が出てくる。
 これでは、愛想を尽かされても仕方ない。
 けれど。
 例え自分が原因だとしても。
「シラナミさん……!」
 カズヤが、自分以外の誰かと付き合うのは嫌だった。
 自分だけを見て欲しい。
 自分だけを好きになって欲しい。
 そんな、身勝手に思える思考だけが意識を埋め尽くす。
 馬鹿げている。まだ自分のものにもなっていないのに、この独占欲。
 後悔と自責と。その他色々なものがない交ぜになって、涙として零れ落ちる。
「桜葉少尉……?」
 そんな折、かけられた声があった。
 涙に濡れた顔で振り返る。
 ルーンエンジェル隊のメンバーであるリリィ・C・シャーベットが驚いた顔でこちらを見ていた。
「ぐすっ……り、リリィさん……」
 しゃくり上げながら、何とか言葉を紡ぐ。
「ど、どうしたのだ?……いや、その前に涙を拭くべきだな。このハンカチを使ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」
 差し出されたハンカチを使い、鼻をかむ。
「……桜葉少尉、ハンカチで鼻をかむのは……いや、いい」
 何かを諦めたようなリリィを訝しがりながらも、アプリコットは何とか呼吸を整える。
 それを見計らって、リリィは話しかけてきた。
「それで、桜葉少尉。一体何故泣いていたのだ? ただ事ではない様子だったが」
「それは……」
 アプリコットは言いかけて、先程の思考を振り返る。
 それだけで、涙が溢れてきてしまった。
「う、うう……!」
「さ、桜葉少尉!?」
「ご、ごべんなさび……」
 ずるずると鼻を啜りながら、アプリコットは涙を流し続ける。
 その様子にリリィは少し悩んだ後、
「……よし、では少尉の部屋で話を聞こうではないか。……その、ティッシュもあるだろうしな」
 失ったハンカチを悼みながら、そう提言した。
803792:2006/06/29(木) 02:18:51 ID:9MpnwvAl
「……それで、カズヤとマジョラム少尉が接近しつつあるのが悲しい、と」
「はい……」
 アプリコットの部屋に場所を移し、話は行われた。
 この部屋のゴミ箱には、鼻をかんだティッシュが一箱分捨てられている。
「ふむ……」
 リリィは悩むように、顎に手を置く。
 こういったのは本人達の問題なのだが、それではいつまで経っても進展すまい。
 それに、現在は戦時中だ。取り分け紋章機パイロットの調子が悪い、というのは最悪の要素である。
 紋章機はパイロットのテンションが最高ならそれこそ一騎当千の力を発揮するが、逆にテンションが低ければそこらの艦にも劣る。最悪、動かない場合もあるのだ。
 ここは、多少とはいえ協力すべきか。
「桜葉少尉」
「はい……」
 すっかり気落ちした様子のアプリコット。これはよろしくない。
 やはり、協力……とはいかないまでも事態を進展させる助けをする事に決めた。
「少尉はどうしたいのだ?」
「どうしたい……ですか?」
「ああ。カズヤをマジョラム少尉に取られたくないのだろう? なら、答えは決まっているんじゃないのか?」
「それは……そうですけど……」
 煮え切らない様子のアプリコットは、指をもじもじと絡ませる。
「今まで避けてた手前、どんな顔をしてシラナミさんに会えばいいのか……」
「むぅ……つまり今の状態で想いを伝えるのは難しい、と」
 ふむふむ、と頷くリリィ。そして少しの間、考え込む。
 そして、
「……ならば、その逆はどうだ?」
「逆……ですか?」
 きょとん、とするアプリコットに、リリィはいかにも名案だというように、
「そうだ。先程も言っていたではないか、『カズヤに自分を好きになって欲しい』と。つまり、そういう事だ」
「ええと……つまり、シラナミさんから告白させるんですか?」
 アプリコットが自信なさげに尋ねると、リリィは我が意を得たりとばかりに頷き、
「OKだ! では早速作戦を練ろうではないか!」
「いえ、あの……」
(まだやるとは言ってないんですけど……)
 そんなアプリコットの言葉を遮り、リリィは妙に活き活きと、
「やはりこんな時は、先達を見習うに限る。さて、『GALAXY ANGEL』三部作で使えるイベントは……」
「あの、リリィさん?」
 アプリコットは、何やら没頭し始めたリリィに無駄と知りつつ声をかけた。



 さて、所変わってカズヤの部屋である。
 気分転換に艦内を歩いていたカズヤではあったが、結局気分転換にはならなかった。
 カルーアの事が頭から離れなかったのである。
(カルーアの舌、柔らかかったな……い、いや! いかん! いかんぞカズヤ・シラナミ!)
 などとベッドで悶絶しながら邪念を振り払っていると、呼鈴が鳴る。
804792:2006/06/29(木) 02:20:04 ID:9MpnwvAl
「あ、どなたですか?」
 反射的に応える。と、
「カズヤさん〜!」
 まさにタイミングを計ったかのように渦中の人物が現れた。カルーアである。
(な、なんてタイミングの悪い!)
 思わず内心で叫んでしまう。
 今は、まともにカルーアの顔を見れない。あの舌で舐められた感触が口元にこびり付いているのである。
 カルーアはカズヤの目の前に来ると、俯いているカズヤの顔を覗き込む。
「カズヤさん〜? 調子でも悪いんですの〜?」
「い、いや、そんな事はないさ!」
 俯いているままでは説得力の欠片もない。
「でしたら〜、ちゃんと私の顔を見てお話を聞いていただけませんか〜?」
「そ、それは……」
 危険だ。今カルーアの顔を見れば、邪念とか妄想とかが恐ろしい勢いで溢れ出すに違いない。
 カズヤとて男である。そういった欲望はあるし、美女揃いのエンジェル隊に囲まれていれば当然と言えた。
 事実、カルーアはカズヤがどんな欲望を抱いていようと拒まないだろう。
 しかし、気持ちの整理が付いていない状態でカルーアとそういう関係になるのは嫌だった。
「カズヤさん〜……」
 カルーアの声のトーンが下がる。しまった、と思った時にはもう遅かった。
「私の顔が、見たくありませんの……?」
「そ、そんな事はない!」
 きっぱりと言って、顔を上げる。
(気合だ! 気合で何とかするんだ!)
 などと内心では叫び続けているのだが、視線は自然とカルーアの唇に吸い寄せられる。
(柔らかそうだな……キスしたらどんな感じなんだろう……)
 既に妄想が始まっていた……
「カズヤさん〜?」
(それに、何だか甘い香りがする……いい匂いの香水だな……)
「あの、どうしたんですの〜?」
 流石に様子を変に思ったのだろう。カルーアが声をかけてくる。
 しかし、今のカズヤの耳には入らなかった。
(唇だけじゃなく、身体も柔らかそうだ……特に太股の辺りなんて、もう……)
 妄想は危険な領域に加速していた……
「カズヤさ……きゃあっ!」
 あまり耳慣れないカルーアの悲鳴を何処か遠くに感じながら、カズヤはカルーアをベッドに押し倒す。
「か、カズヤさん!?」
 普段の間延びした口調は何処へやら、カルーアは酷く焦った口調である。
「カルーア……いい匂い……」
「匂い……? あ、まさか……!」
 何かに気付いたように身じろぎするカルーアだったが、結局は男と女。加えてカズヤは、見かけによらず力があるのだ。150キロパンチャーは伊達ではない。
805792:2006/06/29(木) 02:21:21 ID:9MpnwvAl
 カズヤの手が、カルーアの身体を服越しにまさぐっていく。
 滑らかなうなじから背中、背中からふくよかなヒップに。
「あ……やっ……」
 じたばたともがくカルーアを押さえ付け、強引に唇を奪う。マシュマロのように柔らかい唇が、更に彼の行為を加速させる。
「んっ……!」
 唇を割って、カズヤの舌が入る。
 その感覚に、カルーアはゾッとする程の快楽を感じた。
 唇と舌は、こういう時のみ最高の性感帯になる……
 ぴちゃ、ぴちゃという淫靡な水温が、口の中から脳に響く。
 何と甘い誘惑か。
 カルーアは、骨の髄まで痺れそうな感覚に恐怖すら覚える。
 そして、今まで白く艶かしい太股を撫でていたカズヤの手が、遂にその奥へと入り込もうとするのが分かる。
「――――っ!」
 じわり、じわりと脳を侵すその感覚。
 抵抗も出来ず、ただこのままカズヤに犯される――半ば確実となった未来に、恐怖と、僅かな期待を感じてしまう自分がいる事にカルーアは驚く。
 確かに、カズヤの事は好きだ。だが、いきなりこういった関係になりたかった訳ではない。
 だから、彼女は諸々の誘惑と恐怖を振り切って、囁いた。
「……カズヤさん……っ!」
 ぎゅっ、と彼の手を握る。
 ……それに、いかなる力があったのか。
 今まで霞がかっていたカズヤの視界は、霧が晴れたようにクリアになった。
「……カルーア?」
 カズヤは現状を把握しようと思考を働かせる。
 実に簡単な構図だ。単に、カズヤがカルーアを押し倒し、セックスを迫っただけ。
 それを把握するのと同時に、カズヤの顔からサッと血の気が引く。
 ばっとカルーアの身体から離れ、尻餅をつく。
「……ぼ、ボク……?」
 その目には、ありありと後悔と自責の念が映っていた。
「…………」
 カルーアは何も言わず、乱れた服を整える。
 その行動が、余計にカズヤの罪悪感を増大させた。
「か、カルーア……ごめん! 謝って済む事じゃないけど……本当にごめん!」
 頭を床に擦り付けて謝るカズヤ。
 その肩に、カルーアは優しく手をかける。
「いえ……謝るのは私の方です……」
「え……?」
 訳が分からない、といった表情になるカズヤに、カルーアは心底すまなそうな表情で、
「恐らく……カズヤさんがその……ああいった行動に出たのは、私が付けていた香水のせいです……」
「香水?」
「はい……」
 カルーアは両手の指を絡ませて、
「この香水は、言ってみれば媚薬に近いものでして……多分、あの人が付けたのではないかと……」
 カルーアが「あの人」と呼ぶのはただ一人。カルーアが持つもう一人の人格、テキーラである。
 なる程、確かに彼女ならこういう事をしそうに思える。恐らく、彼女なりに気を遣ったのかもしれないが……
806792:2006/06/29(木) 02:23:58 ID:9MpnwvAl
「私も、気付きませんでした……申し訳ありません……」
「そ、そんな! 元はといえばボクが我慢できなかったのが悪いんだし……」
 流石に「最初から妄想は抱いてました、すいません」などと言う勇気はカズヤにはない。
「いえ、私がカズヤさんの部屋に来る前に気付いていれば……」
 このままでは話は平行線だ。仕方なくカズヤは、妥協する事にした。
「そ、それじゃあさ、二人共注意が足りなかったって事にしようよ」
 何とも後ろめたい気分である。こういう場合、圧倒的に男が悪いような気がするのだ。
 それでも、そのカズヤの提案は功を奏したようで、
「……はい、分かりました」
 とりあえずカルーアを納得させるには至った。
 しかし、この状況。
(誰かに見られたら、間違いなく誤解されるだろうな……)
 ぼんやりと、カズヤはそんな事を危惧する。
 さて、知っているだろうか。世の中には「噂をすれば影」という諺がある。
 つまり。
「カズヤ、話があるのだが――」
 こういう時に限って、ノックだの呼鈴だのを忘れて人が入ってくるのだ。
「り、リリィさん!?」
 最悪だ。最も見られてはいけない人の内の一人に見られた気がする。アニスやナノナノならばまだ誤魔化しようもあっただろうに。
 リリィは少しの間固まっていたが、やがて回れ右をすると、
「……失礼した。邪魔だったな」
 などと微妙にズレた気の利かせ方をして、部屋を去った。
「あ……」
 カズヤは、もう誰もいないドアに向かって手を伸ばす。そして、
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇっ!」
 全力で絶叫し、リリィの後を追った。



「……と、いうような事があったのだ」
 場所はアプリコットの部屋。リリィはしたり顔で、アプリコットに事の顛末を告げる。
「そ、そんな……」
 アプリコットは愕然と床に手を付く。
「シラナミさんとカルーアさんが、もうそんな仲だったなんて……」
 どうやらカズヤは弁解できなかったらしい。
 リリィは唸って、
「ここからの挽回は難しい……何故なら向こうには既成事実があるからな……」
「き、既成事実……」
 言葉にされると、よりその重みが増してくる。
 アプリコットは先程までリリィと作成していたプランを見渡す。
 どれも綿密――かどうかは後世の判断に任せたい――に練られたプランだが、既成事実に対抗するには弱い。
「や、やっぱりシラナミさんは……もう……」
 再びアプリコットの大きな瞳から、涙の粒が溢れてくる。
「う……ひっく、ぐす……」
「な、泣くな桜葉少尉! まだ敗北が決まった訳では――む?」
 ふと、リリィは何かに気付いたようにドアを睨み据える。
「な、何ですか?」
 ティッシュで鼻をかみながらアプリコットが尋ねると、リリィは人差し指で「静かに」のポーズを作る。仕方なくアプリコットも耳を澄ますと、
「……リリィさぁぁぁん! 念の為に言っておきますが、さっきのは誤解ですからぁぁぁぁっ!」
 と、恐らくフロア全域に聞こえるようなカズヤの叫びが耳に入ってきた。リリィに追いつくより先に、声を追いつかせた方が早いと考えたのだろう。
「……誤解か」
「……誤解ですか」
 誰にとも無く呟く二人。傍から見ると結構間抜けである。リリィはこほん、と咳払いをすると、
「ではプランの確認をしようではないか、少尉。何、まだまだ挽回のチャンスはある」
「あ、はい! 頑張ります!」
「うむ。所で、このペアルックはどうだ? 二人の距離を一気に縮められる気がするのだが……」
「いえあの、それはちょっと……」
 現金な二人であった……
807792:2006/06/29(木) 02:25:39 ID:9MpnwvAl
中編投下終了……何と長い駄文か……しかも微エロを狙ったのにエロくねぇ……
とりあえず、次回で終わらせたいと思います……
808名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 06:47:26 ID:6FXsKuKF
>>807

今日から俺は貴方を崇めて生きていきます。
後編も楽しみ。
809名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 08:22:14 ID:nfVUnMDC
>>807OKだ(^.^)b
リリィの計画が気になります。カルーア万歳〜
810名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 16:39:18 ID:U7bTjdB8
>>807
GJ!
それはいいんだがリリィよ。
「『GALAXY ANGEL』三部作で使えるイベントは……」 ってあんた。
そこからあのプログラムを出したんかい。
っつーか、どこで入手したんだ三部作を。
811名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 19:41:10 ID:GPRUEFso
>>807
おっつ〜
812名無しさん@ピンキー:2006/06/30(金) 01:49:48 ID:9V6Rzjq2
>>807
今晩は来るかな?明日かな?待ってるぜ。
>>782もな。
813792:2006/07/01(土) 02:05:51 ID:XURLBqXO
>>800-806の続き投下。
 前回後半とか言いましたが、嘘です。すいません。完結してません。
 とりあえず「後半その1」という事で。
814792:2006/07/01(土) 02:07:03 ID:XURLBqXO
 アプリコットの様子がおかしい。
 カズヤがその事実に気付いたのは、珍しくもトレーニングルームでアプリコットが汗を流していた場面に遭遇してからだった。
 動きやすいようにスパッツとシャツを着て、一心不乱にサンドバッグを叩いている。
 そして、あろう事か、
「リコ・ラビットパーンチッ!」
 などというよく分からない必殺パンチを繰り出し、
「はうっ!?」
 サンドバッグにカウンターを受けてKOされていた。
 カズヤはそれを呆然と見ていたが、こちらに気付いたリコが脱兎の如く逃げ出した事で我に返った。
(……何やってるんだろう?)
 答えの出そうにない疑問を口の中で反芻してから、カズヤもトレーニングルームを去った。



「OKだ! 最近の少尉の行動に、カズヤはすっかり釘付けだぞ!」
 アプリコットが部屋に戻ると、既にそこにはリリィがいた。
 親指をグッと立て、笑顔でこちらを見ている。
「そ、そうですか? 何か変人を見るような目で見られている気がするんですけど、それは気のせいなんですね?」
「ああ、勿論だ。今はいわば準備段階。カズヤの目を少尉だけに向けさせる為の行動なのだからな。何よりこれは避けている時にこそ効果ありという方法なのだ」
 何を根拠に言っているのかは分からないが、何故か自信はありそうなので、アプリコットはリリィの言う事を信用した。
「ええと、次は何でしたっけ?」
「ティーラウンジでテレパシーの訓練だ。本気でテレパシーを会得するつもりでやるぞ!」
「は、はい!」
 色々と突っ込み所は満載だったが、アプリコットはとりあえず頷いた。



(おかしい……)
 ティーラウンジを出たカズヤは、内心で呟いた。
(何でボクが行く所に限って、リコが変な事をしているんだ?)
 先程、ティーラウンジに行くとアプリコットが何人かのクルーを捕まえて、色々と無茶な事をやっていた。
 その場にいたリリィに尋ねると、あれはテレパシーの訓練なのだという。
(ミントさんの真似? でも確か、あれって先天的な能力じゃないよな……)
 そしてカズヤの姿を認めるや、再びアプリコットはティーラウンジを去ったのである。
(避けられてるのは変わらないんだけど……何か、違う気がする……)
 意図的なものを感じるというのか。
「……はぁ」
 人生で果たして何回吐くかというような大きな溜息を吐いて、カズヤは歩を進めた。
 ただでさえ、カルーアとの事で参っているというのに。
 カルーアは「気にしていない」というが、顔を合わせる度に頬を染められれば気にするなという方が無理である。
815792:2006/07/01(土) 02:08:10 ID:XURLBqXO
「あーこらこら、そこの若人」
 と、いきなり背後から声がかかった。振り向くと、ルクシオール艦長であるタクト・マイヤーズがいつもの笑いを浮かべてそこにいた。
「マイヤーズ司令……」
「いかんぞぉ、そんな顔してちゃ。人生もっと楽しくいかなきゃ」
 その言葉を体現するような笑顔を浮かべるタクトに、カズヤは嘆息で返す。
「そうできたらいいんですけどね……」
「ん? 悩み事かい?」
「ええ、ちょっと……」
 何と言えばいいのか分からず、言葉を濁す。
「言えないような事?」
「あまり、人に言いたいような事じゃないです……」
 疲労のどん底にいるかのようなカズヤの様子に、しかしタクトはにやりと意地の悪い笑みを浮かべて、
「……カルーアの事? それともリコの事?」
「その両方です……って、ええぇぇっ!? な、何で分かるんですか!?」
 思わず叫ぶカズヤ。しかしタクトは笑みを崩さないまま、
「さあ、何でだろうねぇ?」
「……わ、分かった! 司令もテレパスファーを持ってるんでしょう!?」
 そうに違いないと息巻くカズヤに、タクトはちっちっ、と指を振り、
「テレパスファーは、惑星ブラマンシュの人間に寄生しない限りは表層意識も読み取れないよ」
「じゃ、じゃあ何で……」
「何、見れば分かるよ。三人が三人共、様子が明らかにおかしいからね」
「う……」
 そんなに分かりやすいのか。カズヤが赤面していると、
「それで……何があったんだい?」
 すすす、とタクトが音もなく近寄ってくる。
「うわっ!? そ、それは……」
「ほらほらぁ……言っちゃいなよ……楽になるよぉ……」
 まるで悪魔の囁きだ。カズヤは心の底から思った。
 しかし、自分一人で背負うにはいささか重すぎる事でもある。
「う……わ、分かりました……絶対に他言無用ですよ……?」
「大丈夫、俺、こう見えて口は堅いから。ささ、こんな所じゃなんだし、オフィスで話を聞くよ」
 鼻歌でも歌いだしそうな勢いで、タクトは歩き出す。
(口が堅いって……本当かなぁ……)
 一抹の不安を抱きつつも、カズヤは後に続いた。
816792:2006/07/01(土) 02:09:29 ID:XURLBqXO
「……とまあ、そういう訳でして」
「ふーん……」
 タクトはカズヤの話を最初はニヤニヤして聞いていたが、段々とその表情は真面目なものに変化していった。
 彼は顎に手を当て、
「で、カズヤとしてはカルーアの想いにどう応えればいいか分からない、と。おまけにリコに対する気持ちの整理も付いてない訳だ」
「はい……」
 言葉にされると、自分が益々ヘタレに思えてくる。
「なるほどねぇ……」
 タクトはうーん、と唸ると、
「じゃあ、カルーアと付き合っちゃえば?」
「そ、そんなあっさり……」
 思わず唖然とするカズヤに、タクトは追い討ちをかける。
「だけど、現状で最も有効な方策だ。正直、司令としてはその方が嬉しいね」
「……というと?」
「紋章機の性能はパイロットのテンションに左右される。分かってるだろ?」
 結局はそこである。
 つまり、ルーンエンジェル隊の内の三人が問題ありとなると、戦力の大幅ダウンに繋がるのだ。
「そりゃあ……そうですけど」
「そうすれば少なくともカルーアの分は見込める。それに、付き合ってみれば案外すんなり行くかもよ?」
「…………」
 反論出来ない。タクトの言っている事は紛れもなく正論だ。
 しかし……
「……中途半端な気持ちのまま、付き合えません……そんなの、カルーアに失礼ですよ……」
「確かにそうだ。けど、このまま待ってて状況が進展するのかい?」
 カズヤは奥歯を噛む。
 まるで、大人が子供に物の道理を教えているようなものだ。
 勿論、大人がタクトで子供がカズヤ。
 カズヤは、自分の思う通りに行かないから駄々をこねる子供でしかない。
(それでも……)
 筋を通さねばならないという事はある。
「なら……何とかしてみせますよ!」
 決意を込めて、告げる。
 タクトに笑われるかもという予想はあったが――
「よく言った!」
「へ?」
 タクトは満面の笑みを浮かべている。まるで、自分の思い通りにいったとばかりに。
817792:2006/07/01(土) 02:10:26 ID:XURLBqXO
 呆けるカズヤの肩を叩き、
「いやー、ここでカズヤの踏ん切りが付かなかったらどうしようかと思ったよ」
(これは……まさか……)
「カズヤって、案外負けず嫌いだよねー!」
(は……謀られたー!)
 すっかり失念していた。謀略はタクトの十八番ではないか。その言葉を丸々信用してしまった自分が馬鹿だったのだ。
 タクトはニヤニヤした笑いに戻り、
「それじゃあ宣言した通りに何とかしてくれよ、隊長」
 わざわざ「隊長」にアクセントをつける辺りが嫌味だ。
(た、狸だ……)
 急速に身体の力が抜けるのを感じながら、カズヤはオフィスを後にする。
 しかし、何とかすると言ってもどうすればいいのか。
(とりあえず、部屋で休もう……少し寝ればいいアイデアが浮かぶかも……)
 やや逃げるような思考ではあったが、疲労していては浮かぶアイデアも浮かばない。
 カズヤはそう自分を納得させ、部屋に向かった。



(シラナミさんは、もう寝たのかな……)
 アプリコットはカズヤの部屋の前にいた。
 リリィが指示した次の作戦は、カズヤが寝ている間に思わせぶりな手紙を置いていくというものである。
 その為にも、カズヤが寝ている事を確認しなければならない。
(ごめんなさい、シラナミさん……)
 アプリコットはリリィから手渡されたコップで中の様子を聞き取るという伝統的な行動に出た。半ば盗聴である。
 その事に後ろめたさを感じながらコップを取り出すと、
「何やってるのかしら?」
 突如声をかけられ、慌ててコップを後ろ手に隠す。
「テキーラさん……」
 声の主はカルーアの別人格、テキーラであった。彼女は不敵な表情でこちらを、正確には背中に回した手を見ると、
「桜葉。あなた最近、シラナミの周りで変な事やってるらしいわね」
「へ、変な事なんて……」
(確かに変ですけど……)
 という呟きを内心に隠す。
 その後ろめたさが出たのだろうか。テキーラは眼差しを強くして、
「でも、いつまでもそんなまどろっこしい事してるようなら、シラナミは貰うわよ」
「……え?」
 カズヤの名前を出され、心臓が跳ねる。
「アタシは全てにおいてあの子を優先する。あの子は今、シラナミが好きなの。シラナミにも好きになって欲しいと思ってる。だから、アタシは最大限あの子に協力するわ」
 カルーアの「あの人」がテキーラを指すのに対し、テキーラの「あの子」はカルーアを指す。
818792:2006/07/01(土) 02:11:21 ID:XURLBqXO
「あの子やシラナミは鈍いから気付いていないみたいだけどね……今回、あんたに話をしたのは宣戦布告よ。そうしないとフェアじゃないでしょ」
 ……気付かれている。アプリコットはその事を悟った。
 宣戦布告。
 つまりは、テキーラはカルーアに協力する。つまり、本気でカズヤを落とす。
 アプリコットがカズヤを好きならば対抗してみせろ、という意味だ。
「……それは……」
「もし出来ないようなら、あんたの気持ちはその程度だって事ね。それじゃ」
 それだけ告げて、テキーラは去っていく。
 と、ふと思い出したように、
「ああ、それとね。アタシ、あんま小細工っていうのは得意じゃないの」
「それって――」
 アプリコットが何かを言う前に、テキーラは去っていた。
 一人残されたアプリコットは、テキーラの背中を見て、カズヤの部屋の扉を見る。
(私は……)
 ぎゅっと手を握り締め、アプリコットは何かを決意したようにカズヤの部屋の前から去った。



「……なんちゃって。悪いわね、桜葉」
 アプリコットが自分の部屋に去ったのを確認してから、テキーラは柱の陰から身体を出す。
 去ったフリをして、実は柱の影でアプリコットが去るのを待っていたのだ。
「ふっふーん……」
 手の中にある二つの小瓶を確認してから、カルーアは足取り軽くカズヤの部屋に忍び寄る。
 そして扉を開けると、カズヤがベッドに大の字になって寝ている。
 いくらルクシオール内だからといって、鍵もかけないとは油断しすぎではないだろうか。そもそも、それでリリィにあの現場を見られたというのに。
(まあ、好都合だけど)
 そして、寝ているカズヤに気付かれないように横に立つと、手にした小瓶の内、一本をカズヤの口の中に突っ込む。無論、栓は開けて。
「んっ……」
 突如として口内に液体を入れられたカズヤは、無意識に液体を嚥下する。こくり、こくりと喉が動いているのを確認してから、テキーラは持っていたもう一本を自らの口に流し込んだ。
「それじゃ、後よろしく……」
 そう言うと、光の魔方陣と共に彼女の姿が変化する。テキーラは自らの意思でカルーアに変化が可能なのだ。
 変化した彼女は、何処か様子がおかしい。
 まるで酒に酔っているかのように、熱に浮かされた表情をしている。
 そして――酔っ払いがそうするように、床に倒れた。
819792:2006/07/01(土) 02:12:23 ID:XURLBqXO
「う……ううん?」
 何かが倒れた音で、カズヤは目を覚ます。
 周囲を見る前に、とりあえず時計を見る。寝てから二時間程が経っていた。
(結構寝たな……疲れも取れたし……)
 両手を上げて伸びをする。
 そして、周囲を見渡して――
「って、カルーア!?」
 ベッドのすぐ傍で倒れているカルーアに気付くと、カズヤは慌ててカルーアの身体を抱き起こす。
 ざっと見た限りでは外傷はない。しかし、何故自分の部屋で倒れていたのか?
 カズヤが思考していると、カルーアの目蓋が薄く開く。
「あ、カルーア! 大丈夫!?」
 尋ねるカズヤを、カルーアは何処か焦点の合わない瞳で見て――
「!?」
 その唇を、カズヤのそれに押し付けた。
 以前も味わったマシュマロのような感触が、カズヤの唇に伝わる。
(ぬぅあぁー! マシュマロストライクスバーック! ってそんな場合じゃなく!)
 混乱する思考を無理やり押さえ付け、カルーアから離れる。
「あん、カズヤさん〜……」
 そのカズヤの行動が残念だと言わんばかりに、カルーアは口を尖らせる。
(か、可愛い……じゃなくて!)
「カ、カルーア! どうしたのさ!?」
「私は〜、どうもしませんわ〜?」
 嘘だ。絶対嘘だ。カズヤは内心で断言した。
 が、次の瞬間。カルーアはカズヤの予想の遥か斜め上を行っていた。
「どうかしてるのは……カズヤさんじゃありませんの〜?」
「うわっ!?」
 びくり、とカズヤの身体が弓なりに仰け反る。
 カルーアの手が、いつの間にか隆起しているカズヤのモノをズボン越しに撫でていた。
 いつの間にか、というのは本当である。全く気付かなかった。
(……って、明らかにおかしいだろ! いくらなんでもキスくらいでここまでは……)
 と、そこまで考えて。何故か、カズヤの頭の中で合点がいった。
 倒れていたカルーア。様子が変なカルーア。そして、隆起した自分のモノ。
(テ……テキーラかぁぁぁっ!)
 犯人に思い当たるも、それが何かの意味を持つ訳ではなく。
「カズヤさんも〜、その気になってくれたんですのね〜?」
「へっ!? そそそ、その気?」
「うふふ〜」
 無邪気な微笑を浮かべながら、カズヤのモノをズボン越しに擦るカルーア。
 その表情と行動のギャップが、カズヤの興奮を誘う。
 いつの間にやら、ベッドに座ったカズヤの股間をカルーアが撫でる、という構図になっていた。
820792:2006/07/01(土) 02:13:22 ID:XURLBqXO
 カズヤがされている立場なのだが、これではカズヤがカルーアに奉仕させているような構図にも見える。
「うあ……」
 そしてカズヤはといえば、すっかり抵抗する気力も奪われていた。
 仕方あるまい。彼も健全な青少年である。カルーアのような美女に股間を触られてこうなってしまうのは当然とも言える。おまけに初体験で免疫がない。
「我慢、出来ません〜?」
 ややからかうような表情で、カルーアが尋ねてくる。カズヤは少しの躊躇いを覚えたが、
(……すみません、司令。ボクやっぱヘタレです)
 息も絶え絶えに、カズヤは頷いた。
 柔らかいカルーアの手が、ズボン越しに自分のモノを触っている。その事実だけでも耐え難いというのに、この感触はその先すら望ませる威力がある。
 もっと。もっと刺激が欲しい。ズボン越しなどではなく、直接。直接触って欲しい。
 そんな願望が顔に出ていたのだろうか。カルーアの手が、ズボンのファスナーに掛かった。
 ジーッという音を出して、ファスナーが開けられていく。その感覚が、また興奮を呼ぶ。
 そしてカルーアは器用に思える手つきでトランクスからカズヤのモノを取り出した。
 取り出されたそれはこれ以上無い程に隆起し、ビクビクと血管を浮かせている。
 グロテスクにも見えるそれを、カルーアは躊躇なく両手で握った。ちなみに、常に付けている手袋は外している。
「うあ……っ!」
 その刺激だけで、カズヤは達してしまいそうだった。カルーアの柔らかい両手が、カズヤのグロテスクなモノを包んでいる。
 その事実と光景は、絶頂の一歩手前までカズヤの意識を運んでみせた。
 しかし、カズヤとて男である。これだけで達してしまっては情けない、という意地くらいはあるのだ。
 余程、その耐えている顔が可笑しかったのだろう。
 カルーアがくすり、と笑みを零した。
 そして、その両手でカズヤのモノを扱き始める。
 単調な愛撫であったが、カズヤにはそれで十分だった。
 トんでしまいそうになる意識と、絶頂に向かう身体。その二つを根性と意地と自尊心で押さえ付ける。
 しかし、敵は強大であった。
「ほらほら〜、早くイっちゃってください〜」
 と、間延びした口調とは逆に手の速度を速める。
 その行動で、カズヤの根性と意地と自尊心は敗北した。
「だ、駄目だ、カルーア! もう、で、出る! 出ちゃうってば!」
 カズヤは必死でカルーアを諌めるも、彼女が手の動きを止める様子はない。
 快楽に耐えようとする身体はびくびくと痙攣し、既に限界を知らせている。
 そして、
「ご、ごめ、も、出るっ!」
 呂律の回らない舌でカルーアに謝罪する。
 そんなカズヤを他所に、カズヤのモノは生理現象に忠実だった。
 亀頭が一際膨れ上がり、びゅく、びゅくと白い粘液を放出する。
 それは物理現象に逆らわず放物線を描いて飛び……当然、カズヤのモノの目の前にあったカルーアの顔に飛来した。
「ふあっ……!」
 それに驚いたのだろう。カルーアが目を見開いてモノを凝視している。その間もモノは精液を放出し続け、避けもせずに凝視していたカルーアの顔にかかる。
 やがて精液の放出が終わっても、カルーアはモノから目を離さなかった。
 少し萎えたモノを握ったり離したりしてから、自分の顔についた精液を指で掬う。
821792:2006/07/01(土) 02:14:24 ID:XURLBqXO
「男の人のって、こういう風に出るんですのね〜……初めて見ました〜……」
「そ、そう……」
 案外と平気そうなカルーアに安心する。
 しかし……どうしたものか。
 カルーアの精液塗れの顔を見ていると、またムラムラと……
(って、また勃ってるよ……)
 案外と節操がないのか、それともテキーラの細工の為か。
 どちらにせよ、このままでいるのは辛い。
(けど、このまま行く所まで行っていいのか?)
 理性がそう告げる。欲望という悪魔の中で、理性が勢力を取り戻してきていた。
(そうだよ……そもそもこんな状況がおかしい訳で……って)
「あの、カルーア?」
「はい〜?」
 カズヤは冷や汗が流れるのを感じながら、カルーアに尋ねた。
「ナニを、しているのかな?」
「こういう場合は、男の人のを綺麗にするのが礼儀と聞きましたので〜」
 カルーアはそう答えると、カズヤのモノに付着した精液を舐め取るという作業に戻った。
 どんな礼儀だ。カズヤは心の中で突っ込んだ。
 しかし。しかしである。
 カルーアの紅い舌が、モノを舐め取っていくこの感覚。下手すれば二度目の放出を招きかねない行為である。
(う……やばいかも……)
 再び睾丸に精子が充填されていくのを感じる。ただでさえ鋭敏になっているというのに、こんな事をされれば当然と言えた。
「カズヤさん〜?」
「へっ?」
 いきなりカルーアから声をかけられ、間抜けな声を上げる。
 カルーアは精液を舐め取られ、代わりに彼女の唾液に塗れたモノを握り、
「この後は、どうすればよろしいんですの〜?」
「ど、どうすればって……」
 この後する事など決まっている。合体である。フュージョンではない。ちなみにスペルキャスターとブレイブハートの合体回数はそれ程多くない。関係ないが。
 だが、果たして合体してしまっていいのか?
 カズヤの(僅かに)残った理性が歯止めをかける。
 思い出せ。そもそもアプリコットに対する気持ちの整理が付かないからカルーアの想いを受け止められなかったのだ。
 だというのに、今カルーアと合体までしてしまう訳には行くまい。
(そうだ……まずはリコの気持ちをはっきり聞いてから……)
 せめて何故避けるのか、そして最近の奇妙な行動の理由を知りたい。
 そして本当に自分を嫌っているのか聞いてから――
「うっ!?」
 しかし、カズヤの思考はそこで強制的に中断される。
 カルーアが、カズヤのモノを口に含んだからである。
 思考は外部刺激に勝てなかった。
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「ちょっ、カルーア!」
「無視しないでください〜」
 やや拗ねた表情で、カルーアはカズヤのモノを喉の奥まで飲み込んでみせる。
 先程まで固めていた決意が萎えていく。嗚呼、人間とはかくも快楽に弱いものか。
「も、もう……!」
 そして、再びカズヤが絶頂への階段を昇り始めた、まさにその時。
「シラナミさんっ!」
 ドアをぶち破らん勢いで部屋に乱入してきたのは、アプリコットだった。
 しかも、何故か手には宇宙トウフの乗った皿を持ち、その服装はメルバと同じエプロンドレス。
「リ、リリリリリリ――」
 馬鹿みたいに「リ」を連呼するカズヤ。
 そして、アプリコットは荒げていた息を整え、カズヤの状況を冷静に見て――凍った。
 彼女の手から皿が落ち、宇宙トウフがべちゃ、と床にぶちまけられる。
 完全に冷静な思考能力を失ったカズヤ。
 カズヤのモノを握ったまま、きょとんとしているカルーア。
 そして、そんな二人の様子を見て凍結しているアプリコット。
 何とも混沌とした状況で、事態は終局へと向かっていくのだった……