99 :
76:
「ねぇ、浪馬クン」
夏休み近づく土曜の放課後。
教室を出たオレに、幼馴染の柴門たまき──オレは“タマ”と呼んでいる──が声をかけてきた。
「ん? どした?」
「あのね、今日お母さんがご飯一緒にどうかなって言ってたんだけどどうする?」
オレたちは、昇降口に向かって並んで歩きながら会話する。
「マジか? 助かるー。今日メシ作るのめんどくせーなぁって思ってたとこなんだよ」
「まったく、相変わらずなんだから」
タマは呆れながらも、そんなの予想してたと言いたげに笑った。
家庭の事情により一人暮らしをしている俺は、この幼馴染の家庭にかなりお世話になっている。
タマには身の回りのことで助けられてるし、弟の吾郎とは年が離れてるがいい遊び相手だ。
おじさんやおばさんには今回のように食事をご馳走になることもある。
誰一人に対して頭が上がらない。柴門家には感謝しきりだ。
「じゃあ、私バイト行くから。適当な時間になったら家に来てていいよ」
昇降口で靴に履き替え、オレたちはそれぞれの目的地に足を向けた。
「おう、わかった。バイト頑張ってな」
「浪馬クンは部活中、夕璃ちゃんに手を出さないよーに」
「出すかバーカ」
「あはは。じゃあ、また後でねー」
手を振りながら校門へ駆けていくタマ。
オレも手を上げてそれに応えてやった。
100 :
76:04/08/30 00:30 ID:NI+T2tNA
「じゃあ、先輩、お先に失礼しますね」
練習後の後片付けをしているオレに、帰り支度を整えた夕璃ちゃんが挨拶にきた。
「おう、お疲れさん、こんな時間まで残ってもらっちゃって悪いね」
「いえいえ、そんなことないですよ。先輩こそお疲れ様でした。それじゃ」
「ん、ありがと。じゃあね」
にこっと天使の微笑みを見せて、夕璃ちゃんは部室をあとにする。
部員不足で廃部寸前の我がキックボクシング部は、
新入生だった夕璃ちゃんが入部してくれたおかげで、なんとか今年も存続させることができた。
そのお嬢様然とした雰囲気にくわえ、誰が見ても美少女な容姿。先輩に対する気遣いも完璧。
まさしくこの部の女神、天使。くー…たまらんぜ…
「さっさとバイトに行っちまうどっかの誰かとは大違いだ」
さっき感謝しきりとか思っときながら、思わず呟いてしまう。
「っと、もうこんな時間か」
部室から空を見上げると、辺りはすっかり暗くなっていた。
もう夏と言っていいが、7時も過ぎれば薄暗い。
『適当な時間になったら家に来てていいよ』
なんてタマは言ってたが、せっかくだから迎えに行ってやるか。
アイツも一応女だからな、帰り道一人で何事もないとは言い切れないし。
「んじゃ、HOT SHOT行くか」
オレはタマのバイトするビリヤード場──HOT SHOT──へ向けて歩き出した。
101 :
76:04/08/30 00:31 ID:NI+T2tNA
HOT SHOTに着くと時間は丁度8時。タマの仕事上がりにの時間にピッタリだった。
「こんちわー」
「やあ、織屋クン。いらっしゃい」
中に入ると壮年の紳士といった雰囲気のマスターが快く迎えてくれた。
「タマを迎えにきたんですけど、まだ仕事してます?」
「いや、たまきちゃんならさっき上がったところだよ。更衣室の方にいるんじゃないかな?
そっちの通路から行けるから、声かけていったらどうだい?
たまきちゃんはいつも裏口から出て行くけど、何かの手違いですれ違いになるかもしれないからね」
「そうですね。じゃあ、声かけていきます」
「ん、そうするといいよ。今度は遊びにきてね」
「はい。それじゃ」
オレはオーナーに頭を下げて、更衣室に続く通路へ向かった。
社員だけが通る通路なだけあって、ホールの喧騒とまったく無縁な静寂。
「…………っ……ぁ……」
だからこそ、オレはその微かな声を聞き逃しはしなかった。
102 :
76:04/08/30 00:33 ID:NI+T2tNA
……なんだ、今の……
「…………ん…………ぁぁ……」
断続的に聞こえる微かな……女の声。
何かを我慢するような、振るえた声。
体はそれを理解した。心臓が跳ねた。全身の筋肉が上手く機能しなくなった。
だが、頭が理解していなかった。理解しようする速度についていけない感覚。
オレはなんとか歩みを進める。
「……っ…んん……」
声が少しづつ明確になる。
光の漏れる扉があった。声はそこから。ドアの上に張られたプレートを見る。
──女子更衣室。
何も考えることが出来ずに、オレは微かに開いたドアを覗き込んだ。
「……あっ……あんっ………んん……」
──!…………
ロッカーに手を付き尻を突き出した女性が、スカートを捲り上げられ、ショーツを下ろされ、
足元に屈んだ男が女性の太ももを掴みながら、大切な秘所を舌で愛撫していた。
誰がどう見ても、男女の情事にほかならなかった。
両者ともこっちには後ろ向きなので顔はわからないが、
男は金髪で黒いシャツにチノパン。
痩せてる感じもするが、立ちあがれば背は高そうでモデルもできそうな感じがする。
女は……いつも目にしている瀬津学園の夏服……長い髪を束ねたリボン……
「…あっ……やんっ…そこは……んんっ……はぁぁ……」
そして決して聞き間違えること無い、幼馴染の声。
心臓を鷲づかみされたように気持ち悪かった。
柴門たまきが……男に抱かれていた。
103 :
76:04/08/30 00:34 ID:NI+T2tNA
『彼氏いるよ。付き合い始めたのは春休み。ここでバイトしてるときに知り合ったの』
いつかタマが教えてくれたことが頭をよぎる。
『年は3つ年上。医学部の学生さんで、頭がよくてすごく頼りになる人』
何気なかったオレの質問に、嬉しそうに答えたタマ。
だとするとあれがタマの彼氏なのか……
嘘だと疑っていたわけじゃない。彼氏と会うからとオレの誘いを断ったこともある。
オレにとっても嬉しいことじゃないか。
長年付き合った幼馴染が、彼氏ができて喜んでるんだ。
オレも素直に喜んでやるべきじゃないのか?
「…ここ気持ちいいだろ……」
「あっ……そこはっ、やっ…あっ……あんっ……刺激強いよ……」
なのになんだよ、この心臓をぶち抜かれたような喪失感は。
「ああっ、そんな指っ……早く出し入れしたらっ、あんっ!ああっ……」
ここからはよく見えないが、タマの秘所に男の指が進入しているのがわかる。
それを痛がらずにきちんと快感に変換してるタマ。
もう、何回か抱かれていることがわかる。
「すごいな、クリトリスも刺激すると、ほら……こんなに濡れたよ」
男が立ち上がって、自分の指に付着した愛液をタマの顔へ近づける。
それを察してふりかえるタマ。
──!
男の愛撫に翻弄され、目を潤ませ、頬を紅潮させ、快感に蕩けた表情……
始めてみる……タマの女の顔。
オレの股間が鋭く反応した。
幼馴染に反応してるのかよオレは……
104 :
76:04/08/30 00:35 ID:NI+T2tNA
「……やだぁ…そんなに…」
「これだけ濡れてたら、もういいよな?」
男の問いかけにゆっくり頷くタマ。
……もうこれ以上はいいだろ……とてもじゃないが見ていられない……
幼馴染の情事を覗き見して勃起させてる馬鹿がどこにいる?
もし、タマに見つかってみろ。何て弁論すればいい?
二度と口も聞けなくなるぞ。あの無邪気な笑顔も二度とオレに向かなくなるぞ。
あいつは本気であの男が好きだから抱かれてるんだ。
なら、いいじゃねーか、あいつの純情踏みにじる行為だぞこれは!
「じゃあ、入れるぞ……」
男がチャックの隙間から自分のペニスを取り出し、タマの膣口に宛がう。
いつまで覗いてるんだよ! 最低野郎になりてーのかよ!
心が激しく否定するのに対して、まるで恐怖に竦んだように足が動かない。
何やってんだよ! 早く、早く、早く、早く!
「んっ…あっ…ああっ……来てる、来てるよ……」
──……………………
男のペニスがタマの膣内(なか)に完全に収まった瞬間。
オレは理解不能な絶望感に襲われ、その場に力なく膝から崩れ落ちた。
105 :
76:04/08/30 00:35 ID:NI+T2tNA
「あっ…あんっ…んんっ…動いてる…私の膣内で動いてるよぉ……」
葛藤するオレを置いて、タマは下を向いて男の挿入に下を向いて耐えていた。
「んっ、いいよ、たまき…痛みも無くなってやっと馴染んできたな」
男が、タマの腰を掴みながら、程よい速さで出し入れしながら言う。
「うん、もう大丈夫……受け入れられるよ…んっ…あんっ…」
「言った通りだろ? 慣れたら気持ちよくなるって。気持ちいいだろ、たまき」
「うん、あっ、気持ちいいよ…んんっ、あんっ、ああっ…気持ちいいよぉ……」
「じゃあ、もっと気持ちよくしてやるよ」
「あっ! あんっ…そんな早くしちゃぁ…あんっ!ああっ……」
──………………
もう、ただ呆然と見ているしかなかった……
ずっと一緒に育ったタマが、男を受け入れ快感に喘いでいる……
明るく、無邪気で、人当たりもよくて、面倒見もいい。
少しエッチな話をすれば顔を赤くして、照れてツッコみいれる辺りこういうことに疎いとさえ思ってた。
あまりに近くに居過ぎて、彼女のこんな光景を想像することすらなかった。
よく考えれば、俺たちの年になって彼氏ができれば当然の行為なのに……
なのに……オレは何でこんなに辛く感じてるんだよ……
106 :
76:04/08/30 00:37 ID:NI+T2tNA
「んっ、ああっ、ああっ! あんっ、いいよ……気持ちいいよぉ……」
男はタマの制服を肌けさせ、オレは初めて見る程よく育った胸を揉み解す。
男の愛撫のまま姿を変化される胸が、男にペニスを出し入れされ水音を立てる秘所が、
信じられないくらいいやらしかった。信じられないくらい淫らだった。
AVなんかよりも、ひどく昂奮した。
リアルだからか、それとも……喘いでいるのがタマだったからか。
──タマ……悪いっ……ゴメンっ!……
オレは心でタマに懺悔し、勃起したペニスを取り出した。
かつて無いほど屹立し、先からは雫を零していた。
「たまきいいよ、凄くいいよ……」
男の動きに合わせてオレは、誰が来るとも知れぬ通路で、自分のペニスをしごき出した。
「んっ、嬉しいっ……私も、私も凄くいいよぉ……」
振り返るタマの頬を撫でる男。嬉しそうにタマは目を細めた。
「かわいいなたまきは。学園でも人気あるんだろな。
人気者のたまきが、男とセックスしてこんなに気持ちよく喘いでるなんて知ったら皆どう思うだろうな」
「そんな…こんなとこ見られたら恥ずかしすぎるよぉ……」
……悪ィ、タマ……オレ見てる……抜いてんだよ……情けなくて自分で笑っちまうよ……
「まぁ、俺だけが知ってればいいよな、たまきのこんな乱れる姿は」
言って、男はさらに早い出し入れを始めた。
107 :
76:04/08/30 00:38 ID:NI+T2tNA
「あっ、ああっ! あんっ! やだぁ、そんなにされたら、私っ、私っ…ああっ!」
「たまき、イクのか? セックスで初めてイクのか?」
どうやらタマはまだセックスで絶頂を味わったことがないらしい。
「うんっ! イクっ! 私っ、セックスでっ…セックスでイクよ…ああっ、ああっ!」
「じゃあ、二人でイこうな…俺も出すから」
「うんっ、一緒に、一緒にっ!」
お互いに確認しあい、絶頂に向けてひた走る。
どこから見ても愛し合う二人のセックスだった。
誰がどう見ても、オレがここに存在していることが惨めだった。
男はタマの腰をしっかり掴んで激しく挿入し、タマは与えられる快感を、両手両足を震わせ耐えていた。
ぎしぎしとロッカーが音を立てる。
繋がった個所の水音は増し、太ももに伝い落ちる愛液がオレの昂奮を増幅させた。
「イクぞ…今日はこのままいいのか?」
「んっ、うんっ! いいよ、大丈夫だよっ、受け止めるからぁっ、いっぱい出してっ!」
せっぱつまったたまきの可愛い声。
膣内に出すのか……? あの、タマの膣内に……
タマの膣内が、オレの見知らぬ奴の精液を受け止める……
考えただけでおかしくなりそうだった。
おかしくなりそうなのに、オレの昂奮は最高潮に達した。
「ああっ! ダメっ、ダメっ、もう、凄いのっ、イクっ、イクよっ! ああっ!」
「──っ!!」
「あああっっ! ああああっっ──!!」
──!!…………
3人揃った絶頂。男はタマの膣内に。タマはそれを受けとめ、オレは掌に放っていた……
「ああっ…あっ……ああっ……あっ……はぁはぁ……ああっ……」
男のペニスを抜かれたタマは力なく床に崩れ落ちる。
快感に蕩けた恍惚とした表情をしながら、秘所からは男の精液を溢れさせていた……
108 :
76:04/08/30 00:40 ID:NI+T2tNA
それから、オレはその場を後にした。
ふらふらと街をさまよう。たどり着いたのは電話ボックス。
「はい、もしもし、柴門です」
「おぅ、吾郎か? オレ。浪馬」
オレはなんとか平然を装い、言葉を繋ぐ。
電話先は柴門家、出たのはタマの弟の吾郎だった。
「何? どうしんですか? 姉ちゃんならまだですよって、今日ご飯食べに来るんですよね?」
「ああ、その件なんだけどさ、これから用事できちったから、またの機会にするわ」
「えぇーせっかく新しいゲーム買ったから一緒にやろうと思ってたのに」
「悪ぃ、また今度な。タマにもそう伝えといてくれよ」
「うん。じゃあ、今度」
「ああ、じゃあな」
オレは通話が切れるのを確認して受話器を戻した。
ボックスを出て、一息つく。だが、さっきの光景がいつまで経ってもフラッシュバックする。
大切なものを失った喪失感。他人のものになって初めてわかったタマの存在。
「……夕璃ちゃんが、天使? 女神?」
オレは部室で思ったことを思い出して自嘲した。
なんだ……オレは天使よりも、女神よりも……
「ちくしょう……タマのことが好きなんじゃねーかよ……」
呟いた言葉は、街の喧騒に紛れて、消えた。
《終》