239 :
ブルー:
健太郎の誤算とその後
トボトボと重い足取りで歩く。
砂埃に汚れたアスファルト。
一見すると、ハリウッドの高級住宅街のような風景。
しかし、看板や標識には、アルファベットではなく、蛇が這ったようなアラビア文字が
ズラズラ書かれている。
道すがらイスラム女性独特の衣装である、目と指以外を黒い布で覆う衣装をした人と何
度もすれ違った。
遠くには、砂漠へと傾き始めた灼熱の太陽が見える。
「まだ明るいけど……日本だと深夜ぐらいかな……」
そう、ここは日本ではない。
遠くアラビア半島の小国の一つ、俺はそこの王族と某日本企業が運営する合弁石油会社
でサラリーマンとして働いている。
その理由は――――。
「ただいまー」
広大な敷地の――と、言っても、この辺の土地は安い上に、オイルマネーで潤っている
ためどこの家も広いのだが――厳重なハイテク警備の門扉をくぐる。
砂漠の中のオアシスを模した庭を歩いて、まだ新築の匂いが漂う洋式の玄関を開けた。