426 :
身の内:2005/11/03(木) 23:58:37 ID:/sdXGhPX
護衛対象の自分の言がこの少女達に通じないのは道理であった。
「千姫様!?」
障子の向こうから野太い声が聞こえた。
この屋敷の侍である。
「何かございましたか?」
ただならぬ殺気が部屋の外まで漏れ出していた。
死人も出ている。
大騒ぎになることは必定であった。
今、外の侍を呼び込めばこの二人を止める事が出来るかも知れぬ・・・
いや、無理だ。
死人が増えるだけだ。
「入るな」
「はっ!?」
戸惑った侍の声。
「他の者にも強く言い伝えよ。今、女の正念場じゃ!男が立ち入ること、罷りならぬ!!」
「はっ!!」
千姫はそこらの大名の重宝がられて育った姫君とは違う。戦国の趣をその人生に辿ってきた女である。
その語気はただならぬ殺気を伴って放たれた。
427 :
身の内:2005/11/03(木) 23:59:40 ID:/sdXGhPX
「さて、何故に刃を交える?共に天海の配下であろうが?」
「我が命は貴女を御守りする事です。こ奴らの命は存じませぬが・・・」
手にした小刀の柄を力一杯握り締めながら伊賀者は腰を静かに落とした。
呼応して椿も猫足立ちになる。
一切の贅肉を持たない甲賀の少女の裸身は青い光りの中、息を呑むほどに美しかった。
「お前の命は何じゃ?椿・・・」
ニィッと椿の口元が吊り上った。
「忍びが受けた命は他人の知る所ではございませぬ・・・ただ」
「ただ?」
「貴女様のお命を狙う事ではありませぬ」
「そう・・・か」
「嘘をつけぃ! 先程の楓の言霊縛り、姫様に何を吹き込んでいた!?」
伊賀の少女の語気は真っ直ぐで鋭かった。
「ふ・・・」
楓は一切相手にしない。
寝室の中の緊張感はもう耐え切れない程に高まっていた。
ドヤドヤと廊下を走ってくる重い足音が聞こえる。
侍たちが集まってきたのだ。
428 :
身の内:2005/11/05(土) 20:32:12 ID:LsINZCF5
「姫様?千姫様!?」
「何事!?」
男達の声が深夜の屋敷を喧騒に包む。
「入るでないっ!・・・・・・すぐに済む」
再び千姫の声が男達を制した。
「すぐに済むのであろう?」
その言葉は少女達にも投げかけられた。
もはや自分にはこの二人を止める事が出来ぬことは明白だった。
悔しかった。
「我は・・・本当に何もできぬな・・・他人の心に傷を付け、今幼な子達が殺し合うのを止められぬとは・・・」
自虐の問いに答える者はいなかった。
スゥッと息を吸い込むと徳川の千姫は姿勢を正し、布団の上に正座した。
一切れの布をも身に纏わず、丸裸で正座する女の姿は普通なら滑稽ととられるものだが、今のこの千姫のソレは正に鬼気迫るものがあった。
「・・・済まぬ・・・せめて見届けよう・・・」
その言葉が終わらぬ内に二人の年端の行かぬ少女達は跳躍していた。
伊賀の少女の小刀は空を切り
甲賀の椿の放った針は確実に相手の喉を貫通した
429 :
身の内:2005/11/05(土) 20:36:25 ID:LsINZCF5
〜造作ない〜
一瞬、緊張が解けた椿の眉間に細い苦無が突き刺ささったのは、伊賀の少女の身体が畳に落ちる前の事・・・
おそらく、椿は自分が死ぬ事を理解する間もなく旅立っていったのであろう。
重い音が二つ、部屋に響いた。
一瞬前までは熱く脈打っていた少女達のか身体が今や単なる骸と化し、千姫のひざ元に転がっていた。
「姫様!? 千姫様!!」
「今の物音は一体!?」
「ええいっ!! 御免!!!」
堪えきれなくなった男共が障子を蹴破るようにして、寝室になだれ込んできた。
「うおっ!!?」
「な、何と!!」
男共が見た物は、生まれたままの姿の千姫が三人の少女達の・・・
いや、三つの死体の中央に平然と鎮座している光景だった。
430 :
身の内:2005/11/05(土) 20:37:23 ID:LsINZCF5
「・・・おお・・・」
「な、何と言う・・・」
美しかった。
裸を晒しているというのに、平然と・・・
淡い光りの中に佇むその姿
膝もとの伊賀の少女の首から今も吹き上がる、霧のような血しぶきにその純白の身体を濡らしながらも緩むことなきその瞳
立ち込める死の臭気に歪むことなきその口元
「ああ・・・」
先頭切って乗り込んできた侍が両膝を付く。
続いてその後ろの男共も次々と畏まる。
「千姫様っ! ご無事か!?」
刀に添えていた手を血でぬめる畳に移した侍が裏返った声で尋ねる。
431 :
身の内:2005/11/05(土) 20:38:27 ID:LsINZCF5
「・・・無論・・・それにしても、無力な物じゃ・・・非力な女じゃ・・・
所詮は大御所殿の駒でしか役に立たぬ女子か・・・我は・・・」
「千姫様・・・」
「そなた達・・・そなた達も、我にあまり近づきすぎると命を短うするぞ」
女は寂しく笑った。
男共は奮い立った。
「望むところにござる」
「某、姫に刀を預けてござる。命を預けてござる!」
「拙者も!」
「私も!」
意外なことに家康の孫娘でありながら徳川家に否定的であるこの姫君を、徳川の侍達は否定してはいなかった。
次々と頭を垂れる男共の中、ゆっくりと朱に染められた裸身が立ち上がる。
普段の威気高の彼女からは想像も出来ないような細い肩
顎から首、うなじを描き量感豊かな胸の膨らみを構成する線の婀娜っぽさよ!
腰の広がりからスラリと下に伸びる足
返り血が滴り落ちるその付け根の淡い茂み
異様な様を見せ付ける若い女の姿に男共は再び言葉を詰まらせた。
誰もが女房を、自分の抱え込んだ娼婦を、娘を思い起こし、そして思い起こしたソレを否定した。
432 :
身の内:2005/11/05(土) 22:45:15 ID:LsINZCF5
今、目の前に立つ女は決して劣情をもようさせるような代物ではなかった。
「お召しを・・・誰かお召しを!」
「いや、湯を先に湯の支度を!!」
右往左往する男共を無視するかのように、千姫は畳から襦袢をつまみ上げた。
当然それも楓の血にまみれていたが、千姫は意に介さず袖を通した。
「姫様! お身体が汚れまする!」
「お待ちを!おおいっ!女共!!替えのお召しをっ!」
「 よい 」
静かな声が騒乱を制した。
「これには女の血が染み付いておる・・・我の手元に在りながら、その命を散らした女の血が、な・・・」
シンと部屋が静まり返った。
千姫はべっとりと張り付いた襦袢を纏ったわが身を掻き抱くように両手を肩に添えると、膝をガクンと畳に落とした。
「こんな・・・こんな我に・・・・・・お千代を救えというのか?楓・・・我にあの娘を救えるのか?」
初めてこみ上げた。
だが、それを噛み殺した。
ここで声を上げてしまえば、本当に自分が救いようもない弱者に叩き落されてしまいそうで、それが怖くて耐えた。
「千姫様!? 千姫様っ!!」
「お気を確かに!!」
「女衆!何をしておるっ!?」
433 :
身の内:2005/11/05(土) 22:46:25 ID:LsINZCF5
周りで慌てふためく男共の声が山鳴りのように響く中、千姫は自問を繰り返していた。
〜我に何ができるのか 我に誰かを救えるのか〜
「お千代・・・」
脳裏に彼女の泣き顔が呪縛のように浮かび、消えることは無かった。
「大変な目にお遭いなされましたな。しかし無事でようございました。」
それから六日目にして、ようやく天海上人が千姫の元を尋ねてきた。
「・・・」
憔悴しきった様子の姫君は軽く目を瞑り、天海の言葉を無言で聞いていた。
「千姫様の命運の強さ。この天海、驚嘆いたしました。これも、姫様の日ごろの信心深さあってのこと!御仏が御守りくだされたのでしょうなぁ」
心底嬉しそうな表情で、優しく千姫をいたわりながら言葉をかける天海。
千姫の目が開いた。
天海の元へ端女が茶盆を置く。
「!?」
しかし盆の上にはあるべきはずの茶碗が無く、代わりに三つの物が載せられていた。
434 :
身の内:2005/11/05(土) 22:47:26 ID:LsINZCF5
小刀と
針と
小さく束ねられた髪の毛
「返すぞ」
低く放たれた声は憎悪を隠そうともしない。
「何ですかな?これは」
「髪は楓の物じゃ。針は椿、小刀は桔の得物じゃ」
桔というのは千姫の端女として忍びこんでいた、あの伊賀の少女の名なのであろう。
「・・・」
「・・・」
真正面から千姫の瞳と天海の瞳がぶつかり合った。
「女を道具のように使いおって・・・」
「女ではございませぬ。忍びでございます。道具として生まれてきた者共でございます。」
「妖怪坊主がっ!」
「ここで一戦交えますかな?拙僧も手ぶらでお邪魔した訳ではありませぬが・・・」
天海の顔はまがまがしく豹変していた。
それこそ人の生き血を啜る妖怪かと見間違うほどの顔である。
435 :
身の内:2005/11/05(土) 22:48:31 ID:LsINZCF5
その貌を畏れもせずに見返しながら千姫は静かに襟の合わせに手を伸ばす。
そこには漆塗りの短刀の柄が覗いていた。
チンッ
障子の向こう側から刀の唾鳴りの音が響いた。
この屋敷の侍共だ。
どんと重くのしかかる空気に呼吸が出来ない。
目を凝らせば屋敷中を飛び交う殺気の粒子まで見えそうな・・・
極限だった。
「やめましょう!」
唐突に天海の声が響いた。
「何!?」
「ここで我らが争う意味は無いと、申し上げております。」
何時の間にやら天海の顔から邪気が消えていた。
「貴様っ・・・」
息巻く千姫を片手で制しながら、上人は飄々と語り始めた。
「そも、此度の企ては未だ豊臣に恩義を感じております外様への布石を打つものにございます。」
「何を言い出す!?」
「唯一の生き残りである秀頼殿のご息女、お千代様を仏門に投げ入れ、その後見を千姫様が勤める・・・しかも!」
436 :
身の内:2005/11/05(土) 22:49:54 ID:LsINZCF5
ここで天海の口元はニヤリと釣りあがった。
厭らしい、全く厭らしい爺だ。
「しかも、その後見人の話は大御所様、秀忠様を千姫様が無理やり説き伏せて成る・・・そう!豊臣秀頼様御正室の貴女様が徳川から豊臣の姫君を守る形を見せ付ける事が肝でございましてな・・・」
クックックッと天海が笑った。
「豊臣家への厳正なる処分に不満を抱く外様大名達の溜飲も幾許か下がることでございましょう!」
「・・・そのような三文芝居が通用するものか!」
いえいえと天海は首を振った。
「それが、通用するのでございます」
千姫の細い眉がピクピクと痙攣した。
「・・・何故、楓と椿を動かした!? 癪な事じゃが我は貴様の思惑通り大御所様に掛け合い、お千代の後見となったではないか!?」
「されど東慶寺にて千姫様のお心、砕かれてしまいましたな。楓の文によると相当な深手を負われたとか・・・ 途中で後見の役を降りられでもされたら困るのでございます。」
「それで、か・・・」
千姫は歯噛みした。
何のことは無い。全てはこの天海に仕組まれていたのだ。
「・・・我の弱き心が・・・女三人を死なせたというのかっ」
天海は肩をすくめてみせた。
437 :
身の内:2005/11/05(土) 23:18:40 ID:LsINZCF5
「お気にすることはございませぬ。忍びでござれば・・・」
「黙れ・・・」
「快諾頂けぬ事は承知しておりますが、代わりの者を既に手配いたしましょう。」
「黙れ・・・」
「伊賀がよろしいか?甲賀の生き残りがよろしいか?」
「黙れと言うにっ!!」
ダンッと立ち上がった千姫は短刀を抜き放った。
鈍い白刃の光りが姫の顔を照らす。
苦渋に満ちた顔を・・・
「・・・いいだろう・・・」
しばらくして姫の口から重い言葉が発せられた。
「貴様の思惑通り・・・お千代の後見は続けよう・・・」
「それは重畳。結構でございまする」
にこやかに言う上人に千姫は積怨を込めて吐き捨てた。
「貴様の為ではない!」
「ほう、では豊臣の為にでございますかな?」
キッとその目は元凶を睨みつけた。
「・・・女達の為だ・・・もう、このような事で女を死なせはしない」
「・・・ほう・・・」
天海の声は無表情だった。この男にとって大事なのは、千姫が天秀尼の後見人を続けるという一時であって姫の決意がどうであろうと関係は無い。
438 :
身の内:2005/11/06(日) 22:30:02 ID:ol7nRAvg
「それとな、天海」
心の奥から吹き上がる怒りを無理やり抑えながら千姫は天海に声をかけた。
「貴様のいいように動いてやるというのじゃ。一つ我の頼みも聞いてもらいたいのじゃが」
「何でございましょう?」
ピッと短刀の切っ先を天海の顔に向けた千姫はきっぱりと言い放った。
「二度と我の前にその天狗っ鼻を見せるでない!」
山寺ならではの厳しい寒さも過ぎ去ってから幾月。
天秀尼は健気に忙しい日々を過ごしていた。
寺の見習いは毎日仕事が山積みしていた。
しかもその殆どが、いままでやった事もないようなものばかり。入山したての頃は何度逃げ出そうかと思ったほどにきつかった。
しかし、迎え送る日々がゆっくりとこの少女を変えていった。
既に家族は無く、後見人も恐らく自分を離れていってしまった事だろう。
それはそれで良い事だと、少女は思い始めていた。
もう、豊臣も徳川も関係ない。
一人の僧侶としてこのまま此処に生きていくのが"いい"と幼心にそんな考えが浮かんでいた。
毎日の仕事や見習い修行は辛いの一言に尽きるが、それでも地獄の淵を除いた千代姫の心は新鮮な発見に新たな楽しさを見出していた。
かつて・・・
父に肩車され、大阪城の天守閣から見下ろした町、人、世界・・・
439 :
身の内:2005/11/06(日) 22:31:19 ID:ol7nRAvg
その全てが今、自分と同じ目線の高さにある。
みんなキラキラしていた。みんな驚かせてくれた。時には意地悪もされたけど・・・仲良くなってくれた人もいる・・・
それで充分。
そう思えば、心にかぶせられた重い鉛のような天蓋も嘘のように消えていく。
それで充分だ。
その日もお千代は一番早く起きた。
同室のまだ寝ている先輩達を起こさぬように、そうっと部屋をでると手早く身支度を整え井戸へ向かった。
そろそろ夏の匂いも立ち込めてきたというのに、井戸の周りは雛罌粟が可憐な華を咲かせていた。
夜露に濡れた細い花弁が少女を迎える。
「おはよう!」
雛罌粟たちに声をかけながら、千代姫は桶を井戸に下ろした。
「んっ」
慣れたとはいえ、水を飲み込んだ桶を井戸から引き上げるのはか細い腕には重労働である。
千代姫は奥歯をきゅっと噛み締め、懸命に縄を引く。
高山特有の薄い朝靄の中を少女に近づく影があった。
井戸相手に小さな身体で奮闘していた千代姫は何とか桶を引き上げると苦労しながら持ってきた別の桶に水を移し替えた。
人影は身じろぎする事無く、その様子を見守り続けた。
440 :
身の内:2005/11/06(日) 22:32:32 ID:ol7nRAvg
「よいしょっと・・・」
重い桶を持ち上げ、帰ろうかと振り向いた千代姫はそこで始めて人影に気づいた。
「!!」
驚愕のあまり桶から手を離しそうになる。
「ど、どなたですか!?」
誰何の声に答えはない。
薄い白濁の中、その影は静かに立ち尽くしている。
その影姿は女性・・・
しかし寺の者とは思えない。着物を羽織っている。
「誰なのですか?」
再び問う声にまたしても答えはない。
かわりに影の女性は一歩、天秀尼の方へ踏み出した。
「あ・・・」
白い木漏れ日
立ち込める靄
全てが白で塗り固められたその中で、赤を色づかせる雛罌粟
そこに立っていた女性のお召しも鮮やかな朱
まるで雛罌粟の姫のような
441 :
身の内:2005/11/06(日) 22:34:27 ID:ol7nRAvg
顔はわからない
赤だけがやけにきつく目に映える
美しくて恐ろしく
冷たそうで優しそうで
ついっと赤がもう一歩踏み出した。
着物に押しのけられ細い花弁がねじれる
「あ・・・あ・・・」
思わず後ずさる天秀尼は脚をもつれさせてしまった。
「わっ!」
桶の水諸共に地面に倒れ伏してしまう少女。
突き刺さるような水の冷たさが薄手の布地を通して少女の固い肌を浸らせる。
つ・・・
細い指先が倒れこんだ少女の頬に触れた。
「 千 姫 様 」
靄に包まれた朝日が女性の顔を天秀尼に覗かせた。
無言で千姫は少女の身体を抱き寄せる。
442 :
身の内:2005/11/06(日) 22:35:46 ID:ol7nRAvg
水に濡れた少女は泥に汚れていた。
「駄目・・・お着物が・・・」
少女の声は戸惑いに満ちていた。
前回のような怨嗟の言葉も嘆きの声も出てこなかった。
「 汚れて・・・」
徳川 千姫は土まみれの少女を深く抱きしめた。
見事な拵えの着物が見る間に泥を吸い込み褪せていく。
「・・・いけませぬ・・・」
少女の声はか細く、その身体は震えていた。
「駄目です・・・千姫様 お放しください」
「我を怨め」
「え?」
「我を憎め」
「・・・」
重ねられた厚手の布の向こう側から千姫の温もりが少女を捕らえた。
シンと冷え込む山寺の朝に、忘れかけていた・・・忘れてしまいたかった温もりがあった。
443 :
身の内:2005/11/06(日) 22:36:51 ID:ol7nRAvg
「我はその想いごと そなたを愛そう・・・」
「そ・・・んな」
それは何の障害も受けずに少女の心に響いた。
少女と女の身体がさらに密着する。
頬が触れ合った。
「ダメ・・・」
「何故?」
「汚れて・・・しまうから・・・」
「我は既に汚れている・・・あの男の血を引いてこの世に生まれ落ちた時から・・・」
「ちがう、の・・・」
「ん?」
少女の目頭には涙が溜まっていた。
444 :
身の内:2005/11/06(日) 22:37:52 ID:ol7nRAvg
「わたし・・・」
「ん?」
千姫の手が天秀尼の頭を優しく触れた。
天秀尼の手が千姫の身体を力いっぱいに掴んだ。
「わたしね・・・」
「うん?」
「あの・・・」
「なに?」
千姫の声が優しく包み込んだ。身体と心を・・・
とろりと絹の襦袢に袖を通したような心地よさ・・・
「ごめんなさい・・・」
「ん?」
涙が頬を伝う
言葉が出ない
少女の幼い泣き声を千姫と雛罌粟たちは黙って聞いていた。
「どうして・・・優しいの?」
445 :
身の内:2005/11/06(日) 22:39:20 ID:ol7nRAvg
ひとしきり泣いた後、秀頼の忘れ形見は問うた。
「・・・そうしたいから・・・」
「あんな事、言ったのに・・・」
すっと千姫は身体を離すと、両手を少女の頬に添えた。
「償いにもならぬが・・・約束させておくれ」
「約束・・・?」
「そなたを守ろう この命尽きるまで
そなたを愛そう この命尽きた後も」
添えられた指が優しく離れ、その指先は大地に付けられた。
すでに一介の少女と成り下がった豊臣 千代の前で徳川 千が三つ指を付いている
「せ、千姫様! 駄目!」
「この体 この心 全てそなたの為に尽くそう・・・ そなたのこれからを祈ろう・・・」
「そんな そんな !」
天秀尼はあわてて地面から千姫の手を引き離した。
端正な指に泥が付着している。
それを払い落としながら少女は言った。
「嬉しいです・・・でも、もうお見捨て下さいませ・・・・・・私も・・・忘れますから・・・」
446 :
身の内:2005/11/06(日) 22:40:19 ID:ol7nRAvg
そう・・・それが一番いいのだ 誰にとっても
「我は・・・忘れられぬ」
きゅっと指を握られる。
「そなたの笑顔・・・そなたの声・・・そなたの憎しみ」
ぐっと引かれるままに、天秀尼は膝を付いた。
「そなたの御髪 そなたの瞳 そなたの優しさ そなたの温もり・・・」
「駄目・・・で・・・す」
「忘れられるものか・・・」
だんだんと縮まっていく二人の距離
「駄目・・・駄目です・・・」
震える睫
ぼやける世界の中で二人は自然に瞼を閉じた
引き寄せる腕
引き寄せられる身体
求める心
戸惑いながら受け入れ始めた心
そして 唇
447 :
身の内:2005/11/06(日) 22:41:20 ID:ol7nRAvg
はっと気が付いた時には唇が重なっていた
パラリと乱れ落ちる千姫の髪
睫が相手の瞼を擽る
震える指
包みこむ掌
女の唇が少女の唇を解放した
「こんなこと・・・いけないのに・・・」
幼い唇からの戸惑いの言葉
「二人の契りじゃ」
女の唇から出る身勝手な言葉
「そんな・・・」
「駄目か?」
泥だらけの二人は靄の中、一つに溶け合っていた。
448 :
身の内:2005/11/06(日) 22:42:53 ID:ol7nRAvg
「駄目って・・・」
言葉につまる幼い千代に千は言った。
己の想いの全てを
「千代殿、我の身内になってくれぬか」
「!!」
再び聞くこの女からの"身内"という言葉
だけど・・・何故だろう?
あの時のような嫌悪感が湧いてこない
だけど・・・どうしてだろう?
どうして私はこんなのも嬉しいのだろう
「信じてもいいの?」
思わず口をついて出た言葉
「誓おう」
耳に届いたその言葉
449 :
身の内:2005/11/06(日) 22:43:51 ID:ol7nRAvg
嘘偽り無き真の言葉
「あ・・・」
雛罌粟たちが息を潜めて見守る前で、豊臣の姫と徳川の姫の唇が再び重なり合う。
その柔らかさ、その温かさに心奪われながらも千代姫はそっと千姫の身体を押し返した。
見つめあう瞳と瞳
「信じてもいいの?」
うなずく千姫の瞳は優しかった。母のようであり姉のようでもあった。
一度なくしかけた温もりが再び小さな心を温め始めたのを千代姫は実感していた。
身内、それは家族。
身内になれということは、相手の運命を共有するということ。
相手を己の身の内に入れるということ。
「お千代・・・」
「千・・・姉様・・・」
二人きりの、二人だけの契り・・・二人だけの儀式
二人を死が別つまで、いや命散りし後も結ばれる約束
男共の身勝手で女の命がたやすく消えてしまうこの時代。
時代の激流に翻弄され流され続けた二人の女が今、ようやく落ち着ける場所に辿りついたのだった。
朝日の白と雛罌粟の赤の中、二人の女の手はお互いの存在を確かめあうかのように何時までも離れることは無かった。
完
450 :
1です:2005/11/06(日) 22:48:12 ID:ol7nRAvg
ようやく完結です。
もう途中どうしようかと悩みに悩んでしまいましたが、なんとか終わらせる事が出来ました!
色々おかしな所もあるのですが、その辺りは目を瞑ってやってくださいorz
451 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/07(月) 06:33:48 ID:StpZcwX3
age
452 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/08(火) 01:21:42 ID:RdBpqDA2
乙です!
乙
454 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/16(水) 00:07:13 ID:GwNpAguo
ホシュ
455 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/17(木) 23:35:31 ID:RBWhaPrW
今週号のY十Mを立ち読みして思った。
十兵衛先生。はっきり言わなきゃダメだよ、「色仕掛け」って!
さくらちゃんとお圭さんとお沙和さんがいいな・・・お品さんもいいな・・・
この四人に色仕掛けられたい・・・
俺もエロキャラとして、お圭とお品には期待してるのだが、
今のところこの二人、ビビリ系のおねーさんキャラとして被ってる上に影薄いのがなんとも…
原作読んでるので、この先の二人のエピソードは知ってるが、
二人の役どころ入れ替えてもそんなに違和感感じないしな。
自分はお笛がいいな。
何か初セクースの時とかおっかなびっくりしながらもそのうち好奇心が勝ちそう。
458 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 07:16:40 ID:ieUGwmNK
age
459 :
1です:2005/12/06(火) 23:19:11 ID:QBvvwLI0
以前このスレでバジの現代バージョンの話題が出ていたのを思い出して保守代わりに書いてみました。
何かバカ話になりそうな予感がw
「してあげよっか・・・」
耳元で囁かれる息だけの声
「ここで!?」
蛍火を膝の上で抱きしめながら夜叉丸はその心地いい胸から顔を上げた。
さすがに「何を?」と聞くほどウブではない。
「ここで。イヤ?」
少女の細い指が優しく少年の前髪をすく。
時折額に当たる指先の感触が心地よくて・・・
「い、嫌じゃねぇけど・・・誰かに見られたらマズイぜ」
「こんな時間に理科準備室になんて誰もこないよ・・・怖いの?夜叉丸君」
「そんなんじゃねぇよ・・・」
「じゃあ・・・」
蛍火の顔がゆっくりと迫ってきた。唇に柔らかい感触がひろがり、ついと離れる。
「してあげる・・・」
クスクスと笑いながら、蛍火は夜叉丸の膝の上から降りる。
下着とブラウスと濃紺のブレザー越しに味わっていた少女の温かさと柔らかさを手放すのは夜叉丸にとっては面白くなかったのだが、これから蛍火が"してくれる"事への期待が頭の中を埋め尽くす。
「ねえ・・・」
「え?」
「膝、開いてよ。届かないよ・・・」
ゴクっと少年の喉がなった。
届かないという単語が、やけに生生しく聞こえた。
「わ、悪い」
どもりながら膝を広げると同時に、少女の頭が股間に滑り込んでくる。
「あ・・・」
「どうしたの?」
上目遣いに自分を除きこんでくる少女の顔。
締め切ったカーテンを橙に染める夕日の色よりも赤く染まっている。
「いや・・・」
「興奮してる」
そう言いながらフェルト生地の学生ズボンの股間を両手で優しく撫でさする蛍火。
「ああ・・・」
すでに隠しようもなくいきり立ってしまった息子君が蛍火の手の中で哀れに震える。
「あっ ピクッてなった!」
「おい、蛍・・・虐めんなよ・・・」
彼氏の情けない声にクスクスしながら、少女は白い指先でファスナーの引手を探り当て、ゆっくりと下ろしていく。
小さな金属の擦れる音がやけに大きく響く。
「わぁ・・・」
少女の漏らす感嘆の声が少年を慌てさせる。
「すごい・・・もうこんなに」
たおやかな指が開いた、俗に言う「社会の窓」から待ちきれなくなった夜叉丸の"息子"が飛び出している。
「ぷっ・・・ふふふ・・・」
指でツンツンしながら蛍火はこみ上げる笑いを押さえきれない。
「何だよ!何なんだよっ!」
あまりに元気な愚息に気恥ずかしくなりながら、それを誤魔化す様に夜叉丸は言葉を荒げた。
「やってくれるんじゃねぇのかよ!?」
「ごめん!でも、なんか・・・夜叉丸君のコレって・・・ふふふ」
「何がおかしいんだ!?」
いくら彼女とはいえ、同い年の女の子に男の逸物を笑われてはたまったものではない。
「あのね・・・夜叉丸君のコレって・・・土筆(つくし)みたい!」
「はうっ!!!!!」
無垢な言葉は確実に少年の心を貫いた。氷の矢のように・・・
「ほら!土筆って春になると土からピョコって顔を出すでしょ?今の夜叉丸君のもね、ピョコって出てきて!カワイイ・・・夜叉丸君?」
遅い 遅すぎてもう届かない。
夜叉丸の心は遥か遠くに飛んでしまい、少女の声が届くわけがなかった・・・
「ふう・・・」
バジリスク学園2年亥の組の筑摩小四郎は学園の中庭を重い足取りで歩いていた。
最近全く覇気がない。と自分でも思う。原因は分っている。
分ってはいるのだが、今の自分ではどうしようもない。
恋わずらいがこんなに苦しいものだったなんて・・・!
〜どうしたらいいんだろう? わからない〜
ここ数日繰り返している自問自答。
一目ぼれ。
たまたま目があっただけ・・・むこうは何の気も無しに反射的に自分に微笑んでくれただけ・・・
分っている。そう理解している、けれども・・・
何て切ないのだろう!
「待ちたまえ!」
不意に背中から声がかかった。
背に隙があった。この学園に在籍する者としては決して褒められた事ではない。
〜いかぬ! こういうときこそ心乱してはならぬ・・・!〜
飛び上がった心を瞬時に静めると小四郎は勤めてゆっくりと後ろを振り返った。
「室賀・・・先生」
「これをもっていたまえ」
「は?」
室賀豹馬教師は手にしていた鞄を小四郎に押し付けると、おもむろに彼の襟元に手を伸ばした。
「えっ・・・何?」
「じっとしていたまえ・・・」
豹馬の指は小四郎のカーラーに伸びた。
ビクッと身を固くする小四郎に構わずカーラーに触れた指はすぐにソコから離れた。
「校章が曲がっていたぞ。」
「は?」
「身嗜みもきちんとな。家康様もほら、ご覧になられている」
はっと振り仰いだ小四郎の眼前にはこの学園の創始者であり、現オーナーでもある徳川家康公の銅像が二人を見下ろすように立っていた。
「うおおお! い、家康様が見ている〜!」
465 :
1です:2005/12/06(火) 23:28:24 ID:QBvvwLI0
今夜はここまでです。
続きはどうなるのか自分でもよく分らない・・・
466 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 02:32:58 ID:kFDAlY9s
乙です!
小四郎にお胡夷をあてがっt・・・いや何でもないです
豹馬と小四郎…テラワロスwwwwwwwwwwwww
CDドラマ系はバジ学はもちろん、
課長天膳や柳生宇宙旅にも期待が持てるな。
ある日突然、柳生十兵衛に7人もの弟子ができたらどうしますか?
それも……とびっきりかわいくて
とびっきり素直で
とびっきり愛らしくて
とびっきりの淋しがりや。
しかも、そのうえ……
彼女達はみんなみんな、とびっきり!
柳生十兵衛のコトが大好きなんです……
471 :
1です:2005/12/09(金) 00:18:31 ID:f2PgAriE
>469
いやはや、羨ましい限りですなぁ。
加藤の殿様みたいに無理矢理!ではなく、みんなとびっきり!大好きだなんて・・・
どうしますか? う〜ん、どうしてくれよう!
>>469 実際そういう話だしなw
Y+Mもそろそろエピソード順からしてもオッパイ率が高くなってくるはずなので楽しみだ。
473 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 16:11:25 ID:/BkLpBkb
474 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 00:25:23 ID:dS1LH9E8
age
475 :
名無しさん@ピンキー:
保守でage