1 :
名無しさん@ピンキー:
2 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:23 ID:xQlMdFIU
3 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:23 ID:qqGwYe3h
ずさー
4 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:40 ID:DovVjih4
前スレのように即死しないように祈願いたします
5 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:48 ID:xQlMdFIU
とりあえずは即死したスレ2から移植
4 名前:砂の闘士 投稿日:04/04/17 03:03 Fh86xaQd
そうして、数刻ほど仮眠をとり、朝日も高くあがった頃。
朝の化粧も終え、さっぱりと着替えたマルレンが、
「ごはんもってくるわね。なにが食べたい?」
そう明るく声をかけたが、
「……」
シェラは寝床に横たわったまま、ふて腐れた顔で黙っている。
右脚はまだ動かない。
――今朝から、なにもできない数日が始まるわけだ。衣食も、用を足すのにも他人の肩を借りて……
壁にずるずると肩を押しつけてどうにか上体を起こすと、シェラは深い溜め息をついた。
――ひとところに横たわったまま、誰から何からも逃げられず、自由に移動もできない状態でいるのは、
「…疲れる」
シェラはぼそり、呟いた。
「? いまなんて言ったの?」
ベッドの脇に歩み寄り、近付けた耳を澄ますマルレンの肩を片手で引き寄せ、
「癒ったら」
唸りながら、耳元に囁く。
「徹底的に泣かせてやる」
「え?」
マルレンは思わず目を丸くした。
耳打ちをされたその声が、なんだか小さな男の子がものすごく無理をして、意地を張ってるみたいな調子なので、ひどくびっくりしてしまったのだ。
(かわいー)
胸の奥から、なんだか名状しがたいものがこみあげて、マルレンは思わず目の前の灰色の髪を、
両手で思いっきり抱きしめた。
◆以下次回◆
6 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:48 ID:xQlMdFIU
6 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:04/04/17 10:44 2p1KQj50
(長いファンレターを許してくれ…w)
ああ、砂の闘士イイ━━━( ´∀`)・ω・) ゚Д゚)゚∀゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)-_-)゚∋゚)´Д`)゚ー゚)━━━!
すばらすぃ…ディテールも…(TдT)エロありなし両方ハゲ萌え。
(でも…と、「年の功」って…?チョトチガウヨウナ>570)
<「癒ったら徹底的に泣かせてやる」カコイイなおい、シェラ兄貴…萌え(TдT)
(>704を見て神と同じことを考えてたのでちょっと嬉しい。シェラ受けなら腕に怪我でもさせるとか…と思っていたyo)
<「じゃがおまえのことだから、三日もすれば癒るじゃろ」 しかし骨折を三日で治してしまうパワフル兄貴…。
それより>551のリンク先を見たら…あっとネタバレになるか。ええとつまり、
「お願い…殺さないでぇ…」by風の谷の人 コジンテキニハヒッソリト、ハピーエンドキボン…コナソハイヤダ(TдT)
…でも、神にも創作上の都合があるでしょうから(笑)、そこんところは必死で耐え(ry…(;_;)
>698 もしかして腐男子氏と獅子剣士シェラたんは…ロ、ロリ?
>697 最初「自分の秘所」がどっちだかわからなくて驚愕したのは俺だけの秘密だ。
隠し名をマルレンたんにも言わなかったのはどうしてだろう…。と謎は深まる。
それにしてもみんなうまいなぁ
どれもGJ!だけど、自分はアルテミス様の話とか娼婦×レイラたん、テントで燃えるレイラに萌えたyo?
方言使いの大作もまた違った雰囲気が出てていいですね
みんな頑張ってください、楽しみにしてます(自分も書きたくなったよ)
>686 ちょこっとのぞかせていただきましたが、よくまとまっていますね。時々見させてもらいます。
感動の余り(笑)長レス容赦
7 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:49 ID:xQlMdFIU
7 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:04/04/17 10:45 2p1KQj50
腐男子氏がサイト持ちだったら教えて欲しいなぁ。
同人誌があったら金の草鞋を履いてでも探して読みたいよ。(笑)
ああでも無節操な荒らしとかいるから、2chじゃ教えるの無理かもね。
-------------------------------------------------------------------------
砂の闘士」のパロ
古文書の指し示す通りに苦難の道を進めば、ついに魔王?の宮殿に辿り着いたシェラとマルレン。
しかしそこには、狡知に長けた魔王の恐ろしい罠が!!!
シェラの眼前には、各地から魔王が後宮に集めた、絵にも描けないような美女の群れがわらわらと…。
その色香に耐え切れず、ふらふらと寄って行くシェラ。
「シェラのばかぁーッ!」泣きながら後ろから棍棒でぶん殴り、気絶させるマルレン…。
「…、はッ…!」
数刻の後、獅子闘士シェラが灰色の長いたてがみの上から後頭部の大きなたんこぶをさすりつつ、
宮殿入り口で目を覚ますのは、
余りの憤怒に全戦闘能力が目覚め、いまや破壊力Maxの●連たんが、
シェラの剣を使い魔王を軽くなぎ倒した後だった…。The end.
-------------------------------------------------------------------------
…ホント、ごめんなさい…。(笑々)長すぎるファンレター(?)スレ違い、邪魔スマソ。
今後もドキドキしながら超かっこいい!展開のss、期待してます。ガンバ!!!
(ああ自分、百合ものじゃなくて耽美物として読んでいるのかも。だから大掛かりな時代設定のものが好きなのかもな。)
8 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:49 ID:xQlMdFIU
8 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:04/04/17 11:05 f0SHAF1J
(6,7追記)
(6のレス番リンクは勿論、前スレへのものです。書き込むのが、埋まるのに間に合わなかった…。)
9 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:04/04/17 15:08 kL3DuEQ9
>腐男子さん
わお、シェラ様受けのサイドストーリ−、イイッ!!です。
無敵の女剣士が少女の悪戯な愛撫に玩弄されちゃうなんて…(;´Д`)ハァハァ
逆転っていいですよね。
でもやっぱり力ではかなわずに無念にも返り討ちにされちゃう
マルレンちゃんに萌えますた。
新スレでも頑張ってくださいね。
9 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:51 ID:xQlMdFIU
即死回避。
10 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:51 ID:xQlMdFIU
即死回避。
11 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:51 ID:xQlMdFIU
即死回避。
12 :
名無しさん@ピンキー:04/04/19 23:51 ID:xQlMdFIU
即死回避。
13 :
腐男子:04/04/20 00:13 ID:bohbqQUJ
さぼっていたら即死くらっちゃいましたか、およよ。
立てなおし乙です。
ではちょぼちょぼですが容量稼ぎに投下しておきます。
14 :
灰の闘士:04/04/20 00:14 ID:bohbqQUJ
−−−−−−−−−−−−
さて、屋根裏のベッドより取り急ぎ脱出すべく、シェラは急速に怪我を治しはじめた。
老婆の言葉どおり、三日あとには折った脚を動かし、屋内を自由に歩けるまでにもっていった。
ある種、意地の勝利だが、ごく若い頃よりの闘技ぐらしで、もともと怪我からの回復力は並外れている。
歩き回れるまでに回復したシェラの次の課題は、世間並みの昼型生活である。
治癒後のシェラの毎日には、眠気覚ましに部下らと賭けをしたり、さして目的があるわけでもない無駄話を続けたり、周囲の目に触れる処を歩き回ったりするような機会が、随分と増えていった。
この日のシェラは昼食の腹ごなしがてら、宿の中庭にて若い者に剣を教えている。
相手はふつうに剣を使っているが、こちらは「薪」にする前の丸太、ひじ先ほどの長さの木片を短く握り、それで長剣と対等に打ちあっていた。
まっこうから切り掛かる青年の斬撃を、シェラは丸太の側面でかるがると受けとめる。
ありえない光景に、さすがに自尊心がうずくのか、若者は顔をかっと赤くし、力みかえった長剣を大ぶりに振りまわすが、
灰色の髪の剣士は、微風をかわすごとくの余裕の顔つきで、長剣の軌道をかるがると避けてみせる。
中庭の土の上で踏み込み、打ち合い、ぱっと身をひるがえす二者の姿を、マルレンはテラスから頬ひじをついて、にこにこと眺めている。
そういえば、故買屋での唯一のお嬢様。
土中の蓮、はきだめに鶴のマルレンは、あらくれ混じりの盗賊どもの中で、いつしか不思議に立てられていた。
なにしろ、俗語やげびた言葉の意味を知らないので、男どもにすれちがいざま下品な冗談を投げかけられてもにこにことしている。
しかも彼らが家中や廊下を歩いていると、その小柄な少女がたまに、彼らの大将、シェラを頭ごなしに叱ったりしている姿なんてものを見かけるのである。
靴の砂を落とさずに厨房に上がった、とか……
大将より偉い少女には、女神さまとでも呼んで崇めたてまつればいいものか。
しぐさや言葉があかぬけており、いつも微笑んでいて、言葉は丁寧。
そんなマルレンはすっかりと、盗賊たちに一目置かれるようになってしまい、もはや彼女のお願い事をきかない男はいなかった。
15 :
灰の闘士:04/04/20 00:14 ID:bohbqQUJ
そんなわけで、この故買屋と契約をすれば、切れめなく取り分の良い仕事があり、頭領は女ながらに
世界一なんじゃないかというほど異常に強く、元娼館らしき宿の中には色っぽい愛嬌を心得た女まみれで、
さらには清楚な魅力を振りまく可愛い看板娘も見ほうだい。
そんな風聞が広まって、いつしか定員大増量、盗賊団は数ヶ月で、初期の数倍ほどの大所帯へと膨れあがった。
一時期に比べ、一人あたりの取り分は減ったが、あいかわらず頭領《夜の風》を中心として、団の雰囲気は妙に良い。
女っ気とは素晴らしいものだ。
−−−−−−−−−−−−
午後、問屋への魔道書の納品に出かける男たちに、マルレンはついて外出をした。
書物の問屋といっても禁書を扱う以上、裏稼業でしかなく、下町のブラックマーケットに
ひっそりと店を置く、いくらか品のいい故買業でしかない。
お嬢に失敬なことがあってはならないと、少女の警護役はたっぷりとした頭数でついて行った。
届けた包みのあらためも終わり、代金を受け取った一行は、その向かいにある禁書屋で。
魔道書を買い付けに来たらしい、ぼろのようなマントをかぶった男が、
問屋の店先でしきりに言い争っているのを見て取った。
――なぜ魔道書がそんなに高価いんだ。たしか二年前はこんなじゃなかった!
禁書屋の店主は、肩をすくめて言い返す。
――いまや、《夜の風》のしるしがついていない魔道書はほとんどない。
――どれもこれも有名盗賊のサインのせいで価値が上がり、相場は十倍ほどになっているが、
それでも誰一人手放そうとしない現況なので、市場にないのはあたり前だ。
――悔しかったら《夜の風》と直接取り引きするか、昔の相場の二十倍程の大枚をはたくんだな。
荒行を重ねたすえに、埃じみたボロ屑と化したような服をまとった、修道僧のような風体の男は、
それを聞くや身もだえして悔しがり、喉の奥から天を呪う長ったらしい文言を垂れ流す。
そのじたんだっぷりを面白がった盗賊たちが、僧形の男をからかうため、一斉に足を踏みだした。
16 :
砂の闘士:04/04/20 00:16 ID:bohbqQUJ
「おい、お前さん、ずいぶんと必死だねえ? 禁書にご執心のようだが」
「あんたいったい、魔道書なんかに何の用があるんだい?」
「みたところ、もの好きなお大尽の使いでもないようだがねえ?」
黒いマントの男の顔を、まっこうから指さすや言い放つ。
「もしかしてあんた、妖術使い?」
「残念だったな、気色の悪い魔道書はみんな、俺たちの大将が買い取って燃しちまったよ!」
その言葉をしおに一同は呵々と笑いだし、砂じみた地面をばたばたと踏み鳴らして嘲弄した。
「〜〜〜!」
黒衣の男は、怒りのあまり半歩踏み出し、男らへ力任せに掴みかかろうとしたが、
喧嘩を売ってきた奴らの数の多さにひとまず思い直したらしい。
ゆっくりと息を吐きながら身構えると、口の中で怪しい呪文を呟きながら握りしめていた銀貨の袋を振り上げ地に叩きつける。
銀貨は地面ではじけるや、黒く変じて膨らみ、それぞれが黒く巨大な蟲のようなものに変ずる。
地に立ちはだかる怪物どもを前にし、盗賊たちは慌てマルレンをかばうや飛び退いた。
「まやかしだ!」
「何だ、あんなんであいつ、禁書を買うつもりだったのか?」
突如路上に出現した、黒い異形のものの半分は、ボロ服の男を護るごとくの密集陣形を取る。
残りの半数が盗賊たちに襲いかかった。
蟲の集団は手の先にカマキリのような斧を現出させ、その黒い刃で切りかかる。
ひとりが二の腕をかすめ切られ、鋭い痛みに叫びを発した。
「まやかしじゃ……ない!」
喉を全開にしてわめいた。
17 :
砂の闘士:04/04/20 00:17 ID:bohbqQUJ
「みんな逃げろ、そんでもって店は鎧戸を閉めろー!」
「この黒い怪物には剣が通らない!! めっちゃめちゃヤバいやつだ!」
裏町の狭い商店通りは、急ぎ身支度を整えて逃げ出す商人らの気配で騒然となった。
マルレン付きの盗賊たちは、これまでの仕事でそれなりに魔物との遭遇経験があり、剣士あがりの頭領に、一応の戦闘訓練を受けている。
各人はふところからナイフを抜き、とっさにお嬢さんを護る円陣を組みあげると、ともかく徹底した防戦にまわった。
魔導師らしき黒い男は、魔物にかつがれてすでにこの通りより駆け去っている。
闘士でもない盗賊たちが、残った大勢の魔物どもを相手に身を護り立ち回ることは、はっきり言って彼らの技量を越えていたが、
「うおーきつー」
「だいじょうぶだ、がんばれ、大将はきっと来てくれる」
短剣を振るいつつ、中では年かさの盗賊が一行へ、励ますように声を出した。
「なぜなら……ここにマルレンさんがいるからな!」
と。
巨大な蟻のような姿をした魔物の、異形の頸が、一瞬閃いた銀の刃に真横から薙ぎ払われ吹き飛んだ。
――ひゅ
次の一呼吸で、三体分の怪物の体がいちどきに真っ二つの断片へと叩き割られる。
黒い体液が辺りに飛び散り、一行は反射的に顔をそむけた。
やがて目を開けると。
酸鼻を極めた道の中央に、銀地に黒い紋様をもつダマスカス刀を右手に下げた、灰の闘士が立っていた。
18 :
砂の闘士:04/04/20 00:18 ID:bohbqQUJ
「大将!」
「やっぱり来ましたね!」
円陣から安堵の声が飛ぶ。
独り立つ明褐色の肌の剣士は、首元にまで巻きつけたマントの端をぐいとあごまで引き上げると、
手下らを振り返ってぎろり、紅い目線を投げた。
「……来ては悪いか」
「いえいえそんな、おかげ様で命を拾いました」
「あ、大将、まだ少々残党が居るようですので、どうぞぶった斬っていただけますか、どうかおねがいします」
−−−−−−−−−−−−
店を開けてくれた一軒の禁書屋から、応急手当のための薬やらを貰い、マルレンは健闘した
盗賊たちに、手ずから包帯を巻いてやる。
道のはじに座るシェラは手布で汚れた剣を拭いつつ、斬り残した魔物の残党を追って走らせた、早足者の帰還を待っていた。
やがて、駆け戻ってきた早足者が、汗を拭きながら荒い息の下、とつとつと報告をする。
「いやもうあいつら体の形を変えて、頭や胴を小さくし、身体じゅうを足にして駆けやがるもんだから、
街はずれから二十マールほどで、さすがに引き離されちまいましたが……
どいつもこいつも一糸みだれず、東の古街道をくだっていきました。
そんでもってあっちの先には、うち捨てられた古代の砦があるばっかりです。ほかにはなんにもありません」
「その、魔物を召喚した男というものは……」
シェラは念を押すように聞きただした。
「背は小柄、ぼろをまとい、目のあるべき所の奥が、蒼い炎のようにゆらめいていたのだな」
「へい。まったく、いま大将がしゃべったとおりの見かけでした」
早足者がうなずいた途端、シェラは右の拳を震えほどに握りしめた。
「それはジャードゥー…魔導師だ」
(みつけた……見つけたぞ、わが祖国の仇、この身にかけても討ち果たさずには置かぬ、闇の魔導師)
◆続く◆
19 :
砂の闘士:04/04/20 20:59 ID:bohbqQUJ
修羅の気配が消え去り、故買通りに三々五々、人が戻りはじめる。
すると商売人の中にも目はしのきくのがいたと見え、すれ違いざまにシェラの顔を見るなり、
息を呑んだような声を漏らす者があった。
「《闇の稲妻》!?」「あれは《闇の稲妻》だ!」「死んだんじゃなかったのか」
呟きを聞きつけた者が足を止め、こちらを遠巻きに眺めつつひそひそと言い交わすので、
通りにはぼつりぼつりと、小さな人垣が幾つもできあがりつつあった。
マルレンがその瞳に不安げな色を浮かべる。
裏町の店通りを嵐の前の雲のような、うす暗い不穏な気配が覆いはじめた。
「おやぁ」
盗賊の一人がそんな様子を眺めやり、ひげ面をぽりぽりと掻いた。
「大将ぉ、ちょっとばっかり長居をしすぎちまったようですな?」
シェラは剣を肩にもたせかけ、路上にすわりこんで動じない。
「しかたがない。日のある時に出てきた以上、このぐらいは覚悟をしていた」
ちょいと肩をすくめると、剣の拵えが(かちゃり)と音を立てた。
やがて蹄鉄の音が町の間を響き渡り、王城より下り来た近衛騎兵団の一隊が、
狭い通りの中へ異様な速さにて駆けつけた。
「そこな者ども!」
長く立派なあごひげをたくわえた老将軍が、馬上より破れ鐘のような大音声で呼ばわる。
「いまほどの騒ぎについて、王が真相を知りたがっておられる」
捧げ持った巻き紙を繰りつつ、
「あー、貴殿はほんとうに《闇の稲妻》なのか。貴殿らと戦った黒い怪物の正体はなにか……
どうも、何やらを存じておるようだな。王のお望みだ、おとなしく縛につき御前へ来たれ」
シェラたち一行を見下ろし、ひどく重々しい口調にて命じてきた。
20 :
砂の闘士:04/04/20 21:01 ID:bohbqQUJ
老将軍のその宣告には答えず、シェラは俯いたままぼそぼそと低い声で、後ろに立つ黒髪の少女へ言いかける。
(マルレン……逃げろ)
(いいえ、逃げません)
マルレンは小さく首を振り、胸の前でぎゅっと自分の手を握っている。
その、頑固そうな決意の表情を見て、
(やれやれ)
剣士はひそやかにため息をつくと、立ち上がり馬上の将軍の前へと進み出る。
「否やは無いのだろう、縄でもなんでもうてばよい」
凛とした態度にてそう言い返した。
「このとおり、剣も預ける」
宝刀の鞘を、縛った下げ紐で封じた状態で差し出す。
「……預けるが、決してこの剣を抜くな」と忠告を言い、近づいてきた近衛の兵士に手渡した。
整然と並ぶ騎兵団はゆったりと一行へ近づくと、馬上より囲むように長槍の穂を向ける。
――ええい、こーなりゃ仕方ない、
光る槍の穂先に囲まれた盗賊たちは、一、二度ぶるり、と身を震わせたあと思い定め、
その場でせわしなく跳ね回りだし、四方八方へと馬鹿でっかい声を張り上げた。
「いいかお前ら、このお方はお偉い闘士だ、おまえらなんか十人まとめてぶっ飛ばすことだって朝飯まえなんだぞ」
「我らの大将はお前らの言うとおり、城に行くと言っているんだ。てめえら今すぐ輿をもてぇ!」
「ノロマな兵ども、ぐずぐずするな!」
「さっさとしろよ、こちらにはご婦人だっておられるんだからな!」
21 :
砂の闘士:04/04/20 21:03 ID:bohbqQUJ
近衛の士官たちは言われて目を醒ましたような顔になり、とり急ぎ御輿の用意に走りだした。
やがて調達された貴人用の輿は人足らにより高々と押し立てられ、槍持つ騎兵に囲まれつつ、
連行される灰色の剣士と、連れの黒い髪の少女の二人を乗せて王城へと押し立てられていった。
王命であると仰々しく、祭りのような大きな音を立てながら動きだすその御輿の後を、
残された盗賊たちも、ひげ面を悲しげにしかめつつ、連行される彼らの頭領を追いかけて走ったが、
哀れにも城の門のまん前で門衛らに、入城しようとする行く手を阻まれてしまった。
御輿から降ろされ、城内に至っても、シェラとマルレンは分けられもしない。
手にかけられた縄もゆるく、前で一重に縛ってあるだけであり、小柄な貴族の少女はともかく、
獅子をも倒す闘士を拘束するには、この仕方はあまりにも不足としか言いようがなかった。
「ここが王城か」
広大な廊下に敷かれた紅い紋様絨緞を踏みしめ、玻璃の填め込まれた高い丸天井を
見物じみて見渡しながら、シェラはのんびりと独りごちる。
「思ったよりいい待遇だな」
「……」
横を歩く少女は答えず、眉根を寄せた不安げな表情で、行き過ぎる扉の陰や、廊下の隅などを見つめている。
そんなマルレンに、シェラが声をかけた。
「どうした」
「おかしいの」
「何が」
「ここまでずっと、城の中に侍女がいないわ、ひとりもよ……」
「ふむ」
22 :
砂の闘士:
二人を引き立てる近衛兵らはそんな私語をとがめるでもなく、一言も発しないまま歩きつづけ、
なにやらしめっぽい悲嘆の気配漂う城の中央、謁見の間へと進んだ。
「控えよ!」
玉座の前に引きだされた二名は、腕を縛られたまま膝をつく。
シェラは一礼のあとすぐに上体を起こし、壇上にある王を正対して見上げた。
すでに若くはないこの国の王は、玉座の背もたれにだらしなく腰掛けている。
「盗賊通りで暴れる者を、捕らえてみれば、元英雄……か」
玉座からはみださんばかりの巨体を揺すりあげ、青白い顔をさらし病的に太った中年男、
第八代目のササン王はそう、誰に語りかけるでもなく声に出した。
「おまえが魔道書盗賊団の首領、《夜の風》か」
シェラが即答する。
「好きに呼べ」
「なるほど」
薄い、色のない唇をべろりと舐め、ササン王は酷薄な笑みをみせた。
この王は貪欲で好色ではあるが、しかし無能ではなかった。
とくに、自己の権益を守るための悪知恵と呼ばれるものについては、妖魔も裸足で逃げだすほどに、とびぬけて優秀であった。
ひとりは濃い色の肌、猫科の猛獣を思わせつつなめらかに流れる脚線美を持ち、異種族の魅力溢れる奴隷上がりの女剣士。
もう一方は黒髪に美しい青い瞳、男好みの箱入りのむくな美少女。
王は舌なめずりせんばかりの顔つきで、二つの生ける宝石を眺めやった。
「おお、ルマーム家のマルレン嬢ではないか」
卑猥な視線で存分に、ひざまずくマルレンをねめまわし、
「驚きましたな。どのような心境の変化で、盗賊などと同道されておられるのか?」
おおげさに高めた声音で尋ねかける。
◆続く◆