グワダン内の会議室、ハマーンはいそいそと書類を片付けている。
ミーティングが終わったのだ。
勢力図と兵力の減少を記した書類を小脇に、頭部を押さえる。
頭が痛い。
人一倍高いプライドを維持するための陰の努力をハマーンは惜しまない。
しかし肉体的にも精神的にも疲れというものはある。ひどい偏頭痛だ。
髪の毛が指に張り付く。多忙のせいで昨日は入浴もできなかった。
薄紅の髪は乾ききっていた。
さっさと自室に戻って風呂に入ろう。ハマーンはそう思い、早足で会議室を
出た。もっとも、実行派の彼女はいつも早足ではあるが。
「あのう、ハマーン様」
若い女の声。
肩ごしに振り向くと、ミネバの侍女が困惑したような顔で立っている。
「何だ。ミネバ様に何かあったのか」
事務的に、ハマーンは言った。
「いえ、そうではないのですが…ハマーン様、御入浴は済まされましたか?」
妙なことを聞くな、と思いつつハマーンはきわめて無機質に返答する。
「いや。これからだ」
「でしたら」
侍女は短く咳払いし、一気に言う。
「ミネバ様と共に御入浴していただきたいのですが」
一瞬、ハマーンの頭にミネバの顔が浮かぶ。次に、自分が入浴している
様子が浮かんだ。やがて口を突き出し、呟くように言った。
「…何?」
「ですからこれから御入浴されるのでしたら、ぜひミネバ様と一緒に、と」
ハマーンは再びミネバの幼い顔を思い浮かべる。それを直ぐさま消し、
何を言い出すか、とハマーンは斬り付けるように言った。
「たしかに私は側近だ。しかし風呂なぞは侍女の役目であろう」
「それが…入浴役のものが病で寝込みまして…」
「ならば他のものがやればいいだろう」
「それはそうなのですが…」
侍女は目線をハマーンから逸らす。
その内、何か決め込んだような表情で、凛として言った。
「ミネバ様が希望してらっしゃるのです」
ハマーンの頭に、ミネバの顔がぼん、ぼんと浮かんでくる。
それと同調するように、また頭が痛みだした。
「…希望?」
「は。その…ハマーン様と入浴したいと言って聞かないのです」
「ミネバ様が、か?」
「ミネバ様が、です」
頭皮が裂けるような痛みを感じる。
十歳足らずの幼女と言えど、国王命令。
国王命令、である。
自分が摂政の名を借りて何度も言った言葉だ。
「…わかった、そうしよう」
「さいですか。ミネバ様も喜ぶと思います」
そう言い、侍女はまんざら作り笑いでもなさそうに微笑んだ。
ミネバ様は既に浴室へ向かっておりますので、と言い、侍女は一礼の
もと去っていった。
あとに偏頭痛にもがくハマーンを残して。
喪服のような黒い衣装をたたみ、裸体のハマーンはいまだ納得のいかない顔をする。
上手くまとまらないが、何となくハマーンは不満だった。
考えれば考えるほど、脳が疼く。じくじく痛む。ぎちぎち鳴る。
がらがら、とハマーンの指が浴室の戸を開けた。
湯気、湯気。
真ッ白な湯気が四方に広がり、霧のごとく視界を遮る。
わずかにぴちゃぴちゃと湯の跳ねる音がする。
一歩、ハマーンが風呂場の床を踏んだ。
「ハマーン!」
ぱしゃ、ぱしゃりと大きく湯の跳ねる音と共に、湯気がかき消された。
惜し気もなく、幼い肢体を見せつけるようにミネバは浴槽で立ち上がった。
刹那、ハマーンのほうが気恥ずかしくてたじろいでしまった。
そんなことにかまうわけもなく、ミネバは浴槽から上がり、滑るタイル床も
軽快にハマーンに近付いた。
「来てくれたのか。嬉しい、嬉しいぞ」
国王とは程遠い、ただの幼女の目はらんらんと輝いている。とまどう
ハマーンの手をひっぱり、浴槽のそばまで行くと、ミネバはハマーンを
タイルに座らせた。
「髪を洗ってやるぞ、ハマーン」
「いや、ミネバ様のお手を借りるまでもなく」
「遠慮をするな」
ハマーンの頭皮を37℃の湯が襲う。特有のヘアースタイルはしっとりと
濡れ、ショートボブのような髪型となった。
わしゃわしゃと、ミネバの柔らかい指がハマーンの頭髪を泡立たす。
シャンプーが垂れてきた。ハマーンは左目を閉じた。しみる。
再び、37℃の湯がハマーンの頭皮に飛びかかる。大小の泡は四方へ飛び散り、
割れ、湯とともに床を這い、やがて排水溝へ行き着く。
「どうだ、ハマーン」
どうだ、と言われてどうでもない。ハマーンにとっては苦痛なだけだ。
「はぁ…まあ、その…ミネバ様は美容師の素質もあるようですな」
「そうか?」
ミネバが、ふふと笑った。ハマーンは、ああ、この子は笑えるのかと
何だか今さらのように思った。これがいわゆる裸の付き合いというやつか。
「背中も洗おうぞ、ハマーン」
「いや、それはけっこうです。その、それは」
ハマーンは通常の三十倍の速度で目の前にあるボディブラシをひったくり、
さっと伏せられていた洗面器の中に隠した。
「ほら、ブラシもないようですし」
「ふん?妙だな、先ほどまであったろう」
ぽとり、とハマーンの髪からしずくがタイルに垂れ落ちた。
さっさと浴槽につかって出たい。ハマーンは切に願った。疲れから逃れるどころか、
これではさらに疲れてしまう。頭痛ではなく、今度は軽い目眩が起こり始めていた。
「---ッ!?」
ハマーンの背がしびれた。
ボディソープの粘液と、人の肌。
この感覚は---。
肩ごしに見遣ると、ミネバが自分の背中に、その凹凸の不明瞭な素っ気無い
胸板を密着させているではないか。
「ミ---ミネバ様、何をしていらっしになる!?」
思わず舌が余計に回った。ミネバはびっくりしたような顔をし、やがて高貴な
アルカイックスマイルを見せた。
「…何、と言われても…見ての通りわたしの肌で背中を流しているのだが?」
ハマーンは額の裏を舐められたような感覚を覚え、くらり、と首を揺らした。
やがて何かが音を立てて沸き立ち始めた。
「---ミネバ様」
自分でも悪寒が走るよな、きわめて冷静な口調で言った。
「何だ」
ミネバは機嫌良く、にこにこしながら答えた。
すっ、とハマーンは通常の三倍の力でミネバの腕を、ぐいと自分の方へ引っ張った。
ミネバの肢体は滑り込むように、あっさりとハマーンの両腕に入った。
ちょうど、ハマーンがミネバを抱えるような体勢になった。
ほんの戯れ事---ハマーンはほくそ笑む。
「ハマーン?」
ミネバが不思議そうにハマーンを見つめる。
無垢---実に可愛らしい、潤った瞳だ。
ハマーンはすうっとミネバの薄い胸板の顔を埋める。
ハマーンの上唇が、ミネバの乳首に触れた。
「ふあぁっ!?」
ミネバの体躯がはぜた。しかしそれは結果的に、自らハマーンの唇に乳首を
押し付ける結果となってしまった。目をきゅっとつむって、再びミネバは
ぞくぞくと震えた。
やがてゆっくりと目ぶたを半分ほど開き、ミネバは呟いた。
「ハマーン…何を、した?」
ハマーンは何も言わず、口元だけに神経を集中した。尖った舌先が、ミネバの
張り詰めた乳首を突つき回した。今度は先ほどとは違い、微々たる快感がしつこく
くり返される。
「ん…くぅ、ん…ふあぁ…」
ボディソープが、いやらしくにちゃにちゃと音を立てる。ハマーンの舌に苦味が
走る。ミネバは必死で抵抗しようと、微動す。しかしそれは傍目には快感に
身悶えしているようにしか見えなかった。ミネバの目尻から、大粒の涙が
二、三と落ちた。
ハマーンはミネバのさらなる恥部に手をやった。
ボディソープ以外の、粘った感覚があった。
ミネバからハマーンが離れる。いまだ舌に苦味と粘着が残る。
ミネバの幼い視線は彷徨い、その内ハマーンの目に行き着いた。
余韻にしびれ、ミネバはもう一度体躯をうねらせた。
「は…ハマあぁん…」
無垢な目が一瞬澱んだように光る。
極めて残酷に、ハマーンは微笑む。
「どうしました?ミネバ様」
小さななで肩はなおも震えている。
ミネバは小さな溜息をついた。
「は…ぅ…身体が…」
「身体が?身体が何か?」
「身体が…」
痛々しいまでに目を強くつむり、幼い唇で小さく言った。
「---熱い…」
ハマーンは狐のごとく目を細め、かすかに笑った。
そして熱気をはらんだミネバの肢体を持ち上げ、ゆっくりと浴槽のふちに
座らせた。ハマーンはその前に膝立ちする。
つまり、ちょうどハマーンとミネバの恥部が対面するような体勢になったのだ。
ミネバは軽く握った手を口元に当て、ハマーンを見おろして言った。
「ハマーン…何をするんだ?」
頬を紅潮させ、ミネバが不安そうに訪ねる。
ハマーンはただ静かに笑みを浮かべ、ミネバの閉じた脚を開いた。
もはや力が入らないのか、脚はするりと開いた。
ミネバの恥部が晒された。
「ハマぁ…ん…恥ずかしい」
蛇のように、ハマーンはゆっくりとそこへ顔を沈めた。
粘着質の液体が、かすかにハマーンの唇に付着した。
割れ目を舌でなぞった。
「ひゃあっ!」
ミネバが立ち上がるような勢いで跳ねた。
「ミネバ様、可愛らしいですよ」
「…やぁ」
ハマーンはしなやかな指で、付着した愛液を拭き取った。
そしてその指で、ミネバの中に入っていった。
荒らすようにミネバの中を指で這いつつ、ハマーンの舌が幼いクリトリスを
乱暴に撫で回した。
「はっ、ハマあ…あ、んッ…もう…や…んっ!」
ハマーンの犬歯がクリトリスを弾いたとき、ミネバはもっとも激しく
悶えた。ミネバはすがるような瞳でハマーンを見た。その目は淫猥に潤っている。
「ハマぁン…もう、よしてくれぇ…舐められたところが…きゅんきゅんするぅ」
そう言われ、ハマーンは己の"ところ"も"きゅんきゅん"していることに
気付いた。
ハマーンは座禅を組むように座り、くびれすらできていないミネバの腰を掴んだ。
そしてそのままミネバを自分の組んだ足に座らせた。
「まだ---です。まだ終わりませんよ?」
ミネバの耳もとで、ハマーンが言う。
言うや否や、ハマーンは自分の手をミネバの手にそえ、恥部へと持ってこさせた。
「指で中を---そうすれば火照りも失せますよ?」
「う、嘘だッ」
ミネバは震えながら叫んだ。
しかし横から流し目で自分を見るハマーンに負け、ついにあきらめた。
それでも、まだごく多少躊躇っている。どうするのかわからないのだろう。
それに気付き、ハマーンはそのまま指を添えてミネバの口を愛撫した。
ちょうど、ミネバの肩越しにハマーンはそこを覗き込む形になった。
ハマーンの指に、振払っても取れないであろう感覚がまとわりつく。
規則的な溜息が浴室に低く響いた。
いつの間にか、ハマーンも開いた片手で自分の恥部をまさぐっていた。
ミネバも、自らの意思で自分の中をかき回し始めていた。
「ここを…こうするとさらに…良いですよ?」
「…ふぅぅっ」
クリトリスを爪と爪で、きゅっとはさんでやる。
頬を赤くし、やや伏し目がちにミネバは自分の羞恥な部分を見つめている。
ハマーンはその様子に少なからず淫らな思いを馳せ、自分にあてがった指を
激しくした。
絶頂が近い。
「ハマぁぁん…もう…胸が痛い…何か…はうぅっ」
「私も…です」
「…んっ」
静かだった。
ただ二人とも、なめ合う獣のように互いの身体を擦り付けあいながら
絶頂に到達した。ミネバが熱い吐息を漏らす。
そして、ぽつりと言った。
「お風呂…入らなきゃ」
「…ええ」
それから、ハマーンとミネバが大変仲むつまじくなったかと言えば、そうでは
ない。前々から同じ、あくまで摂政と国王の関係だ。
ただともに入浴することが多くなったとかならないとか、兵の間で少しばかり
噂になったらしい。
おわり