489 :
18Rの鷹:04/11/11 20:28:17 ID:rH4QWyBE
集合はイベント開始の1時間前、午後3時にした。それでもカオスゲートの前は多くのパーティーでごった返しており、彼のところにたどり着くのもひと苦労だった。
「ちゃんと歩けてるじゃない? ブラックローズ」
「あたしをだれだと思っているのよっ! さ、早く誘いなさい」
前と同じように『ブラックローズ』を演じることができ少しうれしくなる。
すぐさまディスプレイに【カイト>>パーティー編成希望!】とログが流れる。懐かしさが込み上げてくる。
「どしたの? ブラックローズ」
目の前の赤い双剣士に言われ、はっとして我に返る。すぐにパーティーに入り、
「これでイベント参加条件は満たしたよね。よーし、久々に大暴れといきますか」
「(笑)」
「ねぇ、どこで待機する? ここじゃ人多過ぎよね」
さすがアルティメットOS、『人大杉』と変換されることはない。
「そうだね。BBS読んだら、ボスは橋の上に現れることが多いみたいだから…」
「ピンポイントで待ちますか」
「うん。行ってみよう」
人ごみをかき分けるようにして移動する。さすがにボスの出現率が高いといわれるだけあって、橋の上はパーティーもまばらだ。2人、欄干にもたれて見つめ合う。
「懐かしいね」
彼がささやく。
「そだね。ザ・ワールドでのデートもたまにはいいかな」
晶良が答える。2人だけの世界に浸っている間にも、いろいろなパーティーが通り過ぎていく。NOVAとチムニがブラックローズに笑顔を向けて手を振りながら走っていく。
「知り合い?」
と聞いてみる。
「うん。初心者のころ、いろいろお世話になったんだ」
「ふぅ〜ん」
リアルで恋人になった今、余計な嫉妬心などない。単なるゲームでの仲良しだろう。彼女もそうであってほしい、スネに傷をもっているわけだから、身勝手に願ってしまう。
490 :
18Rの鷹:04/11/12 21:28:30 ID:4Te70Siq
彼があるパーティーに向かって軽く手を上げたのが、ブラックローズの視界に入った。
(あの2人、前に組んだことがある…)
晶良は記憶をたどる。男の重槍使い、ニューク兎丸はアタシたちに向かって右手を上げ、
「ヨォ!」
と元気…ノー天気に声をかけていった。気になったのは、女剣士レイチェルだった。彼の前を通過する一瞬、何かをささやき、右手の親指を立てて、ウインクまでしていた。
「何? いまの」
「えっ!? 何って…何?」
「レイチェル…だっけ。なんか言われたでしょ」
「あ、いや、久しぶり、って」
「ふぅ〜ん。でも、なんで、わざわざウィスパーモードなんだろ」
「さあ。切り替えしてなかっただけじゃない」
ごまかす。ほんとは『やったねっ!』と、童貞を捧げた(?)相手に言われていた。
(女の勘って…怖!)
それにしても、と思う。あの日、初体験の後、レイチェルが言ってた『お笑い芸人の彼』って…ニューク兎丸のことだったの!
そうだったのか、とも思う。ニューク兎丸がメールで書いてきた『編集長になりたい相方』って…レイチェルのことだったの!
われながら、男女のことには鈍い、と恥じ入る。それから、世間は狭いなぁとタメ息をついた。
となると、もう一人。会う可能性に怯える。しかし、それは思い過ごしだった。彼女、なつめはどうやら参加していないようだった。
(パーティー組む人がいなかったのかな。っていうか、ぼくの誘い、待ってた!?)
心が痛む。だが、都合のいいことに今はPC。ただただ微笑んでいれば、いつものカイトだ。
しばらくして、また声をかけられた。懐かしい声だ。ログに顔文字が浮かぶ。
「よぉっ☆ 久しぶり〜(^o^)」
ぼくとブラックローズはユニゾンで、
「ミストラル!」
と、そのPCの名前を呼んだ。
491 :
18Rの鷹:04/11/13 12:11:47 ID:iux1Bj2K
「その節は、お世話になりました」
ブラックローズが深々と頭を下げてお礼を言う。ぼくも続いて
「ミストラル、ありがとう。おかげでぼくたち…」
目を細め、八重歯を見せてニパっと笑うミストラル。
「うん☆ よかったねぇ〜\(^o^)/ でもね、私のおかげじゃないよ。私が何かしなくても、あなたたちは仲良しさんになってたさぁ」
1年近く前の話だ。晶良がミストラル、黒川真由美にオフ会の相談を持ちかけたのが発端だった。彼女はぼくたち2人だけを自分の家に招待し、ぼくたちをカップルにしてくれたのだ。
「ところで、ミストラル。きょうはだれとパーティー組むの?」
あの娘の名前が出てきやしないか、冷や冷やしながら質問する。
「うん♪ きょうはねぇ、アダルティなパーティーよぉ(-。-)y-」
(それなら違うな)
ほっとしていると、ブラックローズが
「へっ? だれなのよ〜」
と聞き返したところで、
「あっ、きたきたぁ。お〜い、こっちこっちぃぃ」
ミストラルは右手をブンブンと振る。
「わりぃな、待たせちまったか」
一陣のからっ風が吹いた気がした。姿を現したのは隻眼の侍、いや重剣士だった。
「砂嵐の、おせぇじゃねぇか」
ミストラルが時代がかった口調で答える。
「すまねぇ、ちと野暮用でな」
懐かしさが込み上げ呼びかける。またまたブラックローズとユニゾンだ。
「三十郎さん! お久しぶり」
「おっ、おめぇさんたち。元気そうじゃなねぇか」
強面が一気に崩れ、にか〜っと人のよさそうな笑顔が広がる。
492 :
18Rの鷹:04/11/14 22:34:57 ID:1hokH8A+
「それにしても、異色のパーティーだね(笑)」
「うんうん」
ぼくの軽口にブラックローズもうなずく。
「実は…、ちょいとワケありでな」
意味ありげにニヤリとして答える砂嵐三十郎。
「???」
不思議がるぼくたちに、ミストラルが事情を話す。
「あのさぁ。今度ね、サンちゃん、来日するのよぉ。でね」
そこでブラックローズが驚きの声をあげる。
「来日、って!? 三十郎さんってガイコクジンなのぉ!」
「ぼくは知ってた…」
「うん♪ 私もこの間、教えてもらったんだけどねぇf(^_^;)」
三十郎は頭をかきながら、
「わりぃわりぃ。嬢ちゃん、驚かせちまったみたいだな。実はオレぁ、アメリカ人なんだ」
それを聞いて、ブラックローズは、
「ひょえ〜。なんか…、おみそれしました。っていうか、日本語、上手なんですねぇ」
と目を見開いて驚きを表している。少し間を置いてミストラルが話を戻す。
「でねでね。私がサンちゃんの饗応役を仰せつかってワケなのよぉ」
「キョウオウヤク?」
難しい言葉を理解できず聞き返す。
「ん〜、つまりぃ、案内するのぉ。ガイドさんなのよぉ」
「へぇ〜」
ぼくとブラックローズは、ただ驚くのみ、だ。すると、ミストラルが、
「あっ、そうだっ! あなたたちも一緒にこない?」
さも、名案を思いついたように明るく誘ってくる。
「おおっ! そいつぁ、いい考えだ。オレもカイトとブラックローズに会ってみたいぜ」
三十郎が左の掌に右の拳を当てる。ぼくは1年半前の事件解決後に三十郎さんからきたメールを思い出す。
(そういえば、『来年、日本に遊びに行きます。もしよかったら、会いませんか?』と書いてあったっけ)
493 :
18Rの鷹:04/11/15 20:46:38 ID:YI1yRtZ1
「いつ? いつなんですか? 日が合えば、ぜひお会いしたいです」
と身を乗りだしながら聞いた。
「それが…なんとも急な話で申し訳ねぇんだが、来週の金曜日、なんだよ」
ぼそぼそと話す声のトーンが暗くなっている。ブラックローズと顔を見合わせる。お互い、リアルではスケジュールをすぐに確認。
「ぼくは…週末はだいじょぶそう」
「うん。アタシも…OK。…受験勉強は週明けから頑張るわ」
ペコリとおじぎをした三十郎は、
「すまねぇなぁ。もっと早く連絡できればよかったんだが…」
と小さくなっている。そこにミストラルが助け舟を出す。
「サンちゃんのほうもギリギリで日程が決まったみたいだし。ま、許してあげなさい」
「ちょうどデートしようと思ってた日だから…、あれ、いけねっ! なんでもない、こっちの話」
ひとり言のつもりだったのに、ログがディスプレイに正確に表示される。ブラックローズは、
「知らないっ」
と言って、ぷいと横を向いてしまった。
「勇者カイトも、さすがに久々ではゲーム勘が鈍ってるみたいね(^o^)」
ミストラルが苦笑いとも微笑みともつかない、微妙な笑顔でそう言った。
「それじゃあ、オレたちはこのイベントの戦闘配置につくぜ。来週、楽しみにしている」
渋く決めた三十郎が颯爽と駆けだす。ミストラルは両手を広げて『やれやれ』のポーズ。
「あとで待ち合わせする場所とか、メールしとくね。…あのね、三十郎さん、ほんとはあなたたちになんとか会えないかって、ずっと言ってたんだよぉ(^ー^)」
立ち止まり、振り返った三十郎が、
「お〜い、ミストラル殿ぉ、置いてくぞぉ〜」
と叫んでいる。なんとなく、その表情は照れ笑いを浮かべているように見えた。
「おっと。お呼びとあっちゃあ、しようがねぇ。ちょいと行ってくらぁ」
「ミストラルっ、ありがとー!」
走り去る呪紋使いを見送ったぼくは、なんだかブラックローズと手をつなぎたい気分だった。
494 :
18Rの鷹:04/11/16 20:31:57 ID:OWfHl26S
イベント開始まで、あと30分。
「ねぇちゃん!」
ザ・ワールドではあまり聞くことのできない呼び方だ。ブラックローズがはっとして、声の主のほうを向く。
「文和…じゃなくて、ここじゃカズか。端末、返してあげたからって、ゲームばっかやってんじゃないわよっ。それに、ここではアタシ、ブラックローズだかんね。ネットのマナーとか言ってた割に脇が甘いんだから」
腰に両手をあてて見下ろすように話す、というか、叱っている。
(前にザ・ワールドでカズくんから聞かされたけど、家じゃコワ〜い姉さんなんだな、晶良さんって)
ふと見れば、白く小さい呪紋使いの陰に隠れるように寄り添う、こげ茶色の髪をツインテールに束ねた小柄な剣士の姿が目に入った。それに気付いたカズが、姉の攻撃をするりとかわし、
「ぼくのパートナー、はるです」
と紹介してくれる。
「はじめまして」
と挨拶すると、はるははにかむようにして
「はじめまして、はるといいます。伝説の勇者にお会いできて、なんか感激です」
そう言われて悪い気はしない。
「よろしく」
と答えて右手をさしだした。はるはおずおずと右手を伸ばし握手に応じ、
「やさしいんですね、カイトさん」
と上気した声で言う。そこで冷たい視線を感じる。速水姉弟がこちらをにらんでいるではないか。はるも気付いたようで、慌ててフォローする。
「あっ、カズのほうがやさしいよ、もちろん」
途端にデレ〜っとするカズ。あれであちらは仲直りだろう。問題は…。
「ふぅ〜ん。伝説の勇者さんは、女性PCにはやさしいんだねぇ」
トゲありまくりのブラックローズの言い方。すぐにウィスパーモードに切り替えて、
「晶良さん、弟さんの彼女にやきもちなんか焼かないでよ」
「やきもちぃ? べつにぃ。アタシはただ、思ったこと、言っただけ。文句ある?」
(げっ。晶良さんって、意外と嫉妬深い…。こりゃあ、浮気がばれたら殺されるな…)
495 :
18Rの鷹:04/11/17 23:13:25 ID:zkIKmwLN
冷や汗をかいていると、ブラックローズの周りの空気が緩んだ。
「そーだよね。弟の彼女だもんね。ごめんね。アタシ、ちょっと大人げなかった」
ほっとしたついでに、
「ぼくが愛してるのは晶良さんだけ」
とささやく。
「ばかっ」
照れてブラックローズが口走る。それを見ていたカズがニヤニヤしながら、
「そこの2人、ゲームの中でいちゃいちゃしな〜い」
と冷やかしてくる。
「カズ! 覚えときなさいよ。また端末取り上げるわよ」
ひゃっと声をあげて自分の頭を押さえるカズ。はるがおずおずと前に出て、
「あの…、ブラックローズさん、またお会いできましたね。あのときは、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。カズは驚いて、
「えっ!? はるとねぇちゃん、知り合いなの?」
声が裏返っている。
「カズが行方不明だったとき、何度も助けてもらったんだよ」
はるが懐かしげに答える。
「げっ。ねぇ、はる。な、なんか変なこと言われなかった?」
「ううん。そのときね、カズとブラックローズさんって似てるって思ったんだよ。それに、カズがよく話してくれたお姉さんと同じこと言うし。ひょっとしたらって思ってたんだ」
「え〜っ、ボク、こんなに乱暴じゃないよっ」
「文和っ、アンタ、なんてこと言うの! アタシが乱暴だってぇのぉ」
「あっ、いっけね。わぁ〜、ご、ごめんなさいっ」
ぼくとハルは顔を見合わせ大笑いする。
「そこっ! 笑うトコじゃないっつーの!」
ブラックローズは拳を振り上げ、カズの頭をぽかりと殴りつけた。
「ってぇ〜。ったく、ねぇちゃんときたら、怒ると手ぇつけらんないんだからぁ」
ひとり言のようにブツブツ文句を言うしかないカズだった。
496 :
黄昏の…:04/11/18 00:35:32 ID:6D0JQx+I
ここで久々に
>>416の続きを投下してみまつ。
ちょっとバトルは小休止して、これまでの総まとめを
違う時系列として描いていくつもりなんでつが…。
静寂の世界。何処までも果てなく続く、白の空間。
今、カイトはそこに佇んでいた。自分以外の何も存在しない、其の世界で。
「ここは…? 僕は、どうなったんだ?」
確か自分は八相体(エイトフォーム)となって、邪神との決戦の真っ最中だったはず。
その自分が何故、このような場所にいるのか? それに皆は何処へ消えてしまったのか?
「戻らなきゃ…! 戻らなきゃ、皆が、現実の世界が…!」
急がなければセカンドインパクトが起きてしまう。
そうなれば世界は終わりだ。人間に代わり、ウィルスバグが世界を支配してしまう。
けれど、どうやって戻る? ここがどこかも分からないのに…。
「此処は世界の果て」
「えッ…!?」
ゆらり、と目の前の空間が揺らいだ。
時空の亀裂からぬぅ、とその姿を現した者…カイトは、彼をよく知っていた。
「貴方は、ハロルド・ヒューイック…!?」
「久しいな、カイト…これで何百回目の邂逅だろう」
何百回目? 自分と彼とは数える程しか対面していないはずだが。
いや、今はそんなことはどうでもいい。彼が来てくれたのなら、もう大丈夫のはずだ。
「ハロルド、僕は今すぐ戻らないと行けないんだ!」
「…あぁ、そう言うと思っていたよ」
カイトが何を言わんとしているかを全て悟っていたかの様に、ハロルドが笑った。
何かを卓越した者の、哀しげな笑みであった。けれど、それ以降彼は何をするでもなく、その場をじっと動かない。
「ど、どうしたの? 早く僕を皆の所に…」
「それはできない」
「なッ…何だって!?」
「この時系列は危険であると…私が判断したからだ」
時系列? 危険? 先刻から彼は何を言っているのだろうか?
こうしている間にも、邪神の脅威がザ・ワールドを蝕んでいるかもしれないのに…!
497 :
黄昏の…:04/11/18 00:37:22 ID:6D0JQx+I
「ハロルド、一体何を言って…」
「カイト、君は真実を知らなければならない。
かつて何人もの君がそうして来たように、今度は君が…歪んだ世界の真価を見極める時が来たのだ」
「何人もの…僕が?」
どうしてだろう。ここはリアルではない。(多分)ザ・ワールドのはずなのに、
やけに寒気がする。今は夏のはずだ。そして喉の奥から込み上げてくる吐捨物…今にも吐きそう。
「もう1人の君が使った…“タイムベント”を覚えているかな?」
「タイムベント…過去ログ世界に飛ばされた、あの…!?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「グハッ!? 貴様ァ…どうして僕が後に回ると判った!? 記憶が消えなかったのか!?」
「さぁね。ただ、お前に一発お見舞いしてやりたかっただけだ!」
「クックク…ハッハッハ! なるほど…だが結局何も変わらなかった様だねぇ、キミ達は!」
「いや、一つだけ変わった!」
「何?」
予想外のカイトの反応に、黒いカイトの表情が曇る。倒れた体を起こしつつ、カイトが叫ぶ!
「重さが、意識不明になった人達の重さが、二倍になった! もうこれ以上は増やさないッ!」
「カイトさん…」
「先輩…」
凛とした態度で臨むカイトの姿に、思わずなつめも見惚れてしまう。
「ザ・ワールドのみんなを守るために.hackerになったんだから…ザ・ワールドを守ったっていいッ!」
「ハッ、どの道…この世界は僕のモノになるんだ…せいぜいあがくんだね…兄弟…!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…あれは、過去ログ世界などではない。君は本当に時空を越えたのだ」
「真逆…そんな…そんなことって!」
498 :
黄昏の…:04/11/18 00:38:18 ID:6D0JQx+I
「エマは黄昏の碑文に重大なヒントを残していた。
だが私は彼女の遺志に気づかず、そのまま碑文をゲームにしてしまった…愚かだった」
「黄昏の碑文に…?」
「カイト、君達がザ・ワールドと呼ぶ、この世界は…ゲームなどではない!
君達が住む宇宙とは違う、外宇宙に存在するもう1つの世界…それがザ・ワールドだったのだ!」
「なッ…!?」
所謂、平行世界…異次元のことを言っているのだろうか?
しかしながら、この場で嘘や冗談を言っても仕方がないのは明白。ならば、ならば…。
「見せてあげよう、歪んだ宇宙の生み出した結末を。
そして知るのだ、カイト。時空列の輪廻が生み出した、忌まわしい終局を…」
「わッ!?」
光が疾った。目も眩まんばかりの閃光。
同時に、徐々に意識が解けていくのが理解った。順を追って、身体さえも…。
「(一体、何が…起き…て…)」
其れは幾多も存在していたであろう、もう1つの結末…。
「カイト…?」
「あ、おはよう」
「う、うむ…お、おはよう」
面と向かい合うと、まだ照れてしまう。
昨日の情事がまだ頭から離れないのもあるけれど、何より共に迎える朝がこんなに心地よいものだとは。
「昨夜はごめんね。まだ、腰痛い?」
「あ、いや、そんなことはないぞ…」
嘘。実はかなり痛い。長刀の練習でそれなりに身体を鍛えていたつもりだったのだが
大学に入学してから大分なまった気がする。今朝は脚を動かすのも痛くておっくうだ…。
「今日は大学、行くの?」
「えと、午後まで休講だから…もうちょっと一緒に居られる…かな」
「そっか」
499 :
黄昏の…:04/11/18 00:39:28 ID:6D0JQx+I
「ガルデニアも大学生か」
「そういうお前も高校生だろう」
朝食の銀しゃりと味噌汁を頬張りながら、カイトが感慨深く呟いた。
嗚呼、そう言えば、もうこんなにも時間が立ってしまったのか。月日が流れるのは、本当に早い。
だが、いくら年月が流れても変わらないことがある。私が…彼を好きだと言うことだ。
「その、悪かったな」
「ん、何がさ」
「文化祭が終わった後、急に呼び出したりして…」
「いいよ、それくらい。どうせ片付けも終わって帰るとこだったし」
「でも部活が…」
「来週までサッカー部も練習ないし、今日も休みだし。いいって、いいって」
笑う。愛しい年下の少年が。
その笑顔に、何度勇気付けられてきたことだろう。その彼に、何度勇気をもらっただろう。
絶望の淵にあっても、彼と共に居れば…私は何も怖くは無い。
「ガル?」
「な、何でもないッ! そ、それよりだな、そのガルと言うのをやめろ!」
「何で? 2年前からそう呼んでるし…何か、こっちの方がしっくり来るんだけどな」
2年の月日はカイトをより精悍な少年へと成長させていた。
背ももうガルデニアを追い越しそうな勢い。でも、未だに女心には聊か疎い様で…。
「あのなぁ…。わ、私達はアレだぞ!? 付き合ってるんだぞ!?
私は親が居ないのを見計らって男を家に連れ込む様な女なんだぞ!? で、お前は私のアレだぞ!?」
「彼氏?」
「わーっ、わーっ! 言うな、馬鹿!」
もうこんなやり取りを何度繰り返したか判らない。
未だに彼の前で素直になれない自分が憎い。彼の前だけでは、全てを曝け出しても良いと誓ったのに。
「…そりゃあね、僕はまだガキだよ。ガルに比べたらさ」
「あ、その、気を悪くしないでくれ…スマン。私、そんなつもりじゃ…カ、カイトォ…」
どうしよう。どうしよう。彼の機嫌を損ねてしまったかもしれない。
嫌われるかもしれない。もう自分を見てくれないかもしれない。それは厭だ。そんなの耐えられない。
500 :
黄昏の…:04/11/18 00:40:18 ID:6D0JQx+I
「僕がガルのこと、嫌いになると思った?」
「あ…」
いつの間にか、朝食を食べながら泣き出してしまっていた。
涙脆いのは今でも変わらず…いや、寧ろ彼が傍にいてくれるから流すことができるのだろうか?
けれど、その涙が頬を伝うことは無かった。今は、その涙を拭ってくれる人が居る…。
「ごめん。ちょっと意地悪してみたかっただけだよ」
「ううっ…お、大人をからかうのは…よせ…!」
トン、と椅子の後の彼の胸を頭で軽く押すと、暖かい胸の鼓動が伝わってくるのが判る。
「まだ19でしょ?」
「それでも…よしてくれ…。心臓に悪い…」
トクンと高鳴る鼓動。彼の鼓動とシンクロしているかの様。
彼は2年の間にこんなにも成長したのに、自分の時間は止まったまま…これでいい、と彼は言ってくれるけど。
「ね、初めて会った場所…覚えてる?」
「…リアルでなら、植物園だな」
「また行こうか? また新しい植物、搬入したんだってさ」
「な、何で知ってるんだ?」
「これでもガルの彼氏だから」
へへっと誇らしげに笑う彼。自分との時間を作るため、そんなことまで調べておいたのか?
今時の高校生がデート場所に植物園など選択するはずがない…というのは、勝手な思い込み。
私達は現に何度もあの場所に通っている。あの場所が、私達の接点。あの場所が、私達を繋いだ空間。
「懐かしいなぁ。あの頃は…毎日が我武者羅だった気がする」
「あ、あぁ…そうだな。私達は…」
あれ? 私達は…どうなったのだろう? 一緒に植物園で出会って、一緒にパスタを食べて、
一緒に私の家で夕食を食べて、私の部屋で結ばれて…その後、どうなった? いまいち、記憶が定まらない。
「リューガも倒したし、セカンドインパクトも止めたし、ヤスヒコ達も退院できたし…本当、良かった」
「う、うむ…」
リューガ? 誰のことだっただろう? セカンドインパクト? 何か大変なことだった気がするが…。
「ガル、これでよかったんだよね」
「え…?」
501 :
黄昏の…:04/11/18 00:41:44 ID:6D0JQx+I
「ガルは僕を選んでくれた。僕もガルを選んだ。これでいいんだよね?」
「あ、当たり前じゃないか!」
思わず、叫んでいた。
同時に後から抱きしめてくれていた彼を、床に押し倒してしまう程に強く、身を乗り出して。
「私は…私は幸せだ!
お前が傍に居てくれる…一緒に食事をして、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に夜を過ごして…!」
「ガル?」
「これは、私が選んだ結末なんだ!
私はこの結末に満足している…誰にも、誰にもこの幸せは奪わせない!」
黒い長髪が揺れ、カイトの胸元を覆った。
また涙が溢れてくる…厭だな。本当に彼の前では、全てを曝け出してしまう。
「一緒がいい…一緒がいいんだ!
お願いだから、おま…貴方の、傍に居させて欲しい…それだけだから…!」
「ガル…」
「私の…私達の絆は…神様だって、断ち切れやしない!」
自分でも何を言っているのか判らなかった。
ただ、彼への思いを再度口にし、尚且つ、心の奥から湧き出してくる言いようの無い不安を吐き捨てる様に。
「好きなんだ…貴方が、好きなんだ!」
「僕も、ガルが好きだよ。ずっと一緒…死ぬまでね」
ぎゅうと抱きしめてくれる彼の体温は、確かに現実のものだ。
でも、でも、でも。この焦燥感は何? まるで組み立てたパズルをもう一度、最初から組み立てる感じは?
「大丈夫…全部、終わったんだ。ザ・ワールドだって、今はバルムンク達がうまく管理してくれてるし」
「…もう、怖いことは起きない?」
「ガルが選んでくれた結果だもん。僕はずっと、ガルと一緒に居るよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っ…はっ、はぁ! い、今のは…!?」
「君が選んだ結末の1つ。幾多も存在する時系列のうちの一例。
幾度と無く繰り返された時間逆行によって生み出された、日の目を見れなかった分岐の世界…」
502 :
黄昏の…:04/11/18 00:45:50 ID:6D0JQx+I
今頃になってタイムベ○ト…懐かしい。
加えて、久々にガルを書けまつた。これも懐かしい。
植物園のデートとかレストランでの食事とか…昔のメモ帳見てたら、何か涙出てきて…。
今夜はこれ以上書けそうにないでつ…。
これから順を追って、描かれなかった色んな結末を補完してゆく予定なんで、
気長にクライマックスを待っててほしいディス。
503 :
18Rの鷹:04/11/18 20:19:40 ID:eSECYEDO
>>495の続き。
「晶良ぁ〜」
リアルの名前を呼ばれて、ガクっとするブラックローズ。
「だ、だれよ? その名前を呼ぶのは」
「ごめんごめん。私よ、翔子よ。あっ、ここじゃSyuaっていうの。よろしくね、ブラックローズ」
その呪紋使いは右手を軽く上げて、そう名乗った。
「翔子? 翔子なのっ。わ〜っ、なんか、なんかさ。すっごい変な感じぃ」
Syuaとパーティーを組む双剣士が口をはさむ。
「ほぇ〜、ほんとに速水なの? 女ってのは化けるねぇ。オレ、祐士だよ。ここじゃマックだ」
「うわっ、祐士なの。実物よりずっといいじゃん」
思ったことを素直に口に出すと、
「でしょお」
と翔子、Syuaが同意する。3人ともリアルではクラスメート、おまけに翔子と祐士は恋人だけに遠慮がない。喧嘩にならないかとハラハラしていると、
「Syuaにマック、お久!」
とカズがタイミングよく話に割り込む。姉に似ず気配り上手だ。
「あら、カズくん。元気になったみたいね。彼女連れとは、やるじゃない」
とSyuaが笑顔で答える。怒るタイミングを逸したマックは不満そうに横を向いてしまった。
速水姉弟を中心に話が盛り上がっていて、ぼくは一人ぽつんとたたずんでいた。すると、
「あの…、カイトさん。ちょっといいですか」
はるにウィスパーモードで話しかけられる。
「なんだい?」
こちらもウィスパーモードにしてささやき返す。
「メンバーアドレス、いただけませんか」
「えっ?」
「実は…相談に乗ってほしいこと、あるんです」
「うん。ぼくで役立てるなら、いいよ」
「うれしい!」
ニコっと笑顔を見せてメンバーアドレスを渡してきたはるに、自分のメンバーアドレスを返信した。それだけではるはカズの近くへと戻っていった。
504 :
18Rの鷹:04/11/19 19:43:39 ID:oVusEVvP
「カイト〜」
ブラックローズに呼ばれる。彼女のところに行くと、
「アタシの友達、紹介するね」
「うん」
「こっちの呪紋使いがSyua、リアルではアタシの古くからの親友で、翔子っていうの。そっちの双剣士が彼氏のマック。どっちも高校のクラスメートなの」
「あっ、カイトです。よろしく。晶良さんがいつもお世話になってます」
「へぇ〜、年下なのにしっかりしてるね。晶良をよろしく、ね」
Syuaはそう言うと、にっこりと微笑んだ。
「速水のパートナーって…、伝説の勇者カイトなのかよ! うわ〜、ビックリ」
マックが驚きの声をあげる。
(なんか、照れくさいなぁ。それに、年下ってバレてるし…)
求められるまま2人と握手し、メンバーアドレスを交換する。そこに、聞き覚えのある声が…、
「あ〜、そこのパーティーたち。リアルの話をザ・ワールドでしてると、こわ〜い騎士さまに怒られちゃうよぉ」
「ヤスヒ…じゃなかった、オルカ! それに」
懐かしさに目を細める。
「よぉ」
と言って、気軽くバンバン肩をたたいてくる巨漢の剣士。そして、
「久しぶりだ。カイト」
呆気にとられるSyua、マック、ハル。だれからともなく、その2人の名前が口をつく。そう二つ名付きで。
「蒼海のオルカに…」
「蒼天のバルムンク…」
「フィアナの末裔!」
伝説のパーティー、そろい踏み。いやが応にも目立つ目立つ。大勢がごった返していたマク・アヌに一瞬の静寂が訪れ、すぐに全員がこちらを見ながらひそひそと話しだす。そんな状況を無視するように、
「あ〜ら、アタシだってきてるんだからね」
さも不満そうにブラックローズがずいと前に出る。
「これはこれは、ザ・ワールドに咲いた黒薔薇さま、ではありませぬか」
オルカがおどけて大仰に言う。
505 :
18Rの鷹:04/11/20 19:45:58 ID:i/HrZp0f
「どうですか? お嬢さま、私めの親友は? 何か粗相など、してはおりませぬでしょうか?」
うやうやしく頭など下げながら話すオルカ。
「ヤスヒコ! じゃなくて、オルカ! お前、なんてこと言ってんだよっ」
つい声が大きくなる。それを見ながら、笑いをかみ殺している蒼の騎士。それに気付いて、
「バルムンク! 何、笑ってんの!」
と強い調子で言う。
「いや、失敬。仲良きことは善きことかな」
横で聞いていたブラックローズが感心したように、
「へぇ〜、バルムンクって…、こーゆーので笑うんだぁ」
「ブラックローズ。そうだな。お前たちが変えてくれたんだ、石頭だったオレのことを」
「またぁ。すぐそーやってシブがるんだからぁ」
「バル、さすがの蒼天も、か・た・な・し・だな?」
「オルカ! お前には言われたくない」
フィアナの末裔とドットハッカーズ、そのどちらもを神格化している大勢のプレイヤーにとって、まさか漫才みたいな会話をしているとは、夢にも思えまい。さらに驚くのは、
「それにしても久しぶりだ、カイト。去年の5月、熱海へツーリングして以来だ」
リアルの話をするバルムンク! 驚愕するオルカ。
「バ、バ、バ、バル! お、おまえ、ほんとにバルムンクか?」
「フフフ。まあ、おまえが驚くのも無理はない、か。俺ももうすぐ社会人になる。ゲームの中とはいえ、大人にならねばな」
これまでの涼やかだった視線ではない。温かみのある、それでいて自信に満ちた瞳だ。このバルムンクの変化はきっと皆に歓迎されるだろう。ぼくも、オルカも、ブラックローズも、柔らかな空気に気持ちよく身を委ねた。
「おっと。そろそろ時間だ。バル、動くとするか」
「うむ」
フィアナの末裔が背を向ける。
「健闘を祈る」
「そっちもね」
エールを交換すると、2人は自分たちが予測するボス出現の地へ向かっていった。そこは一番奥の広場だった。
506 :
18Rの鷹:04/11/21 23:32:06 ID:0ENVGyZ6
彼らの姿が見えなくなると、ブラックローズが近寄ってきて、
「ねぇ。熱海にツーリングって、何よ?」
「ぼくたちがリアルで会う前のことだよ。ワイズマンがサッカーの試合に出るんで、その応援に行ったんだ」
「へぇ〜。でも、ツーリング…ってことは、バイク?」
「そうだよ。バルムンクが新車を買ったっていうから、慣らし運転に付き合ったんだ。もちろんタンデムシートだったけど」
「ふぅ〜ん。怖いこと、されなかった?」
「だいじょぶ、だよ。高速道路で220q/h出されたときは、さすがにビビったけどね」
「な、なんですってぇ〜」
ブラックローズの全身から怒気が立ち上る。
「えっ?」
「そんな危ないことしてっ! もし、なんかあったら、どーすんのよっ!」
お姉ちゃん気質、というより恋人の怒り。
(ワインディングロードのテールスライドやハングオン、それにウイリーもシビレた、とは、とても言えない…)
「アンタと会えなかったら、なんて、もう考えられないんだからっ!」
本気で怒っている。ぼくは何も言えずにいたが、すぐにブラックローズの微妙な変化に気付く。
(晶良さん、泣いてる…)
「泣かないでよ」
「ば、ばかねぇ! だれが泣いてるって? 見えもしないくせに、勝手な想像で言わないでくれるっ!」
「……」
「まぁた、そーやって」
ブラックローズは笑みを浮かべ、ぼくのほうへ振り返った。
「てんてんてん、じゃないっちゅーの」
「ごめん。これからはもう、晶良さんに心配かけるようなことはしないよ、…その、なるべく」
「あったりまえでしょっ! ったく、バルムンクったらぁ。今度会ったら、思いっきり文句言ってやるんだっ」
怒るブラックローズを見ながら、ぼくはうれしい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
507 :
18Rの鷹:04/11/23 01:53:52 ID:nbubafEK
そのとき、天が裂けた──。
雷鳴が轟いた──。
ドォンという地鳴りのような音に続き、耳障りな甲高い音が、辺りに鳴り響く。バチバチと鉄を焼き切るような音。
輝線が走り、一点に収束する。波打ち、震える輝線は立方体を形作り、それがうねうねと形を変えていく。
──人だ! それも見たことのあるNPC。
「私はリョース」
どこからか聞こえる冷徹な声。
「ザ・ワールドのシステム管理者だ」
そんな重々しい空気をブチ壊しにする声が、ぼくの隣から発せられた。
「イヨっ、係長!」
「課長だぁぁぁぁっ!」
ご丁寧にも、こめかみには怒りを表す血管が浮き出ている。
(あんなモーション、仕様にないはず。リョース、自分専用につくったんだ…)
リョースはこちらを睨みつけ、いかにも憎憎しげに話す。
「はねっかえりめ! ブラックローズといったな。後で目にもの見せてやるっ」
そんな言葉にひるむ彼女ではなかった。あっかんべぇをしながら、
「へんだっ。返り討ちにしてあげるわよ〜だ」
必死に怒りをこらえるリョースは、深呼吸をして再び口を開いた。
「まあ、いい。ごほんっ。ザ・ワールドに集いし諸君。本日、復活するイベント『モンスター街侵入』にご参加いただき感謝にたえない。とびっきりの高レベル設定モンスターでもてなさせていただく。それでは、グッド・ラック」
そんな挨拶など、ぼくにはどうでもよかった。
「ブラックローズ。あんな喧嘩売るようなこと、言っちゃまずいよ」
「いいじゃん、べつにぃ」
まったく気にしていない。完璧にブラックローズをロールしている。
(女って、やっぱ怖い…)
そのとき、急に辺りが暗くなってBGMがやみ、一瞬の間を置いてドラムロールが鳴り響く。
イベント開始だ。
508 :
18Rの鷹:04/11/23 20:24:20 ID:nbubafEK
暗くなったのは、空に浮かんだ妖魔の仕業だった。巨大な塊に幾つもの目玉を持ち悪魔の翼を広げたモンスター。色の違いで3種類いるのが確認できた。そいつらがびっしりとマク・アヌ上空を埋めていた。
「ナガメルモノ、ミツメルモノ、それにニラミコロスモノ!」
大勢のプレイヤーがパニックを起こしている。これだけ多くのモンスターが一度に出てくることなどないから、それもしようがない。だが、右往左往するPCが、戦闘態勢をとった上級者たちの妨げにもなっていた。あちこちで悲鳴や怒声が飛び交っている。
ぼくたちは人の波から外れ、冷静にモンスターデータを思い出しながら、装備する武器を決める。
「ヤツら、火属性だったよな。魔法耐性もついてたっけ」
それなら、とダイイング+15の追加スキルを持つ『楚良の双剣』を装備、パートナーに情報を伝える。
「ブラックローズ! 敵は火属性だ」
「了解!」
答えつつ、ブラックローズは手にしていた最高レベルの両手剣ながら火属性の『神捨て去りし光剣』から、レベルはやや劣るが万能型日本刀タイプの『都牟刈』に持ち返る。
久々のザ・ワールドだというのに、2人とも戦闘時に迷いも戸惑いもない。ゲーム勘はほとんど衰えてはいなかった。それが妙にうれしいドットハッカーズだった。
「よ〜し、行くわよ!」
というブラックローズの声が終わるか終わらないかというタイミングで、モンスターどもがいっせいにスキルを発動する。
火属性の魔法攻撃、バクドーン系最強のファバクドーンが強烈な光と音を伴って落ちてきた。さすがにダメージは深く、HPが一気に削られている。回復魔法ファラリプスで2人のHPを全回復させる。
「くっ、ナガメルモノ、ミツメルモノまでファバクドーンを使うのか…」
慌てはしないものの、心の態勢を整え直さざるを得ない。周囲を見回すと、PCがどっと減っている。約半数のパーティーが一瞬でけし飛んでいる。
「攻撃力もイベント用に強化されてる?」
そこに勝ち誇ったようなリョースの笑い声が降ってくる。
「ぐぅふふふふ、あぁっはっはっはっ。どうだ、イベント専用の高レベル設定モンスターは。べつに3種類も出すことはないのだが、イベントには彩りが必要だろう、ん〜?」
509 :
18Rの鷹:04/11/24 20:28:26 ID:IBJetibf
リョースは得意げに続けて言う。
「2人ともおっ死んだパーティーは、ここでイベント終了。パーティーが全滅した時点で失格となる決まりだ。ついでに言っとくが、蘇生は1人2回までしか使えない」
いやなルールだ、と思いながら、
「それなら…」
と口に出すと、ブラックローズが同じ思いを口にする。
「やられる前にやってやるっ! いくわよ、カイト!」
「おう!」
互いに快速、活力、気迫のタリスマンを使用。さらに焼けつく獣油で火属性のパラメーターをアップさせる。敵を目の前にして、できる準備はここまでだ。さあ、戦闘開始! 全速力で走りだす。
次々に襲いくるファバクドーンの炎を巧みに避けながら、最初の標的ナガメルモノをターゲットした。
「うぅぅりゃあぁぁぁあっ!」
ブラックローズの大剣が振られる。その影から跳躍した赤い双剣士がトドメをさす。
「ひとつっ!」
着地と同時に右手に浮かぶニラミコロスモノにアタックする。
「ぃやぁぁぁあっ!」
双剣が交差し閃光を伴ってモンスターを切り裂く。ダイイングが発動し瀕死となった敵の息の根をブラックローズがあっさり止めた。
「ふたつっ!」
水属性のスキルを持つ武器が装備できない双剣士と重剣士のパーティーだが、そんなことはものともせずに目覚しい戦果をあげていく。
3体を撃破したときだった。運河の瀬戸際まで追い詰められたパーティーから悲鳴が上がった。
(水の中から襲われているのか?)
三つ首の大蛇たちが上陸を開始する。行きがけの駄賃とばかりに近くにいたPCを血祭りにあげながら…。
「ジェラシーコブラ、ネプトメデューサ、ヴリトラマスター!」
不意を衝かれたパーティーたちが逃げ惑う。立ち向かうものには容赦ない攻撃が加えられた。色違いの頭が打ち振られるたびPCが減っていく。
いい加減sageることくらい覚えてください
>>509 グッジョブです。続きを楽しみにしてます。sage厨の言うことなど気にせずガンガッてください。
>>510 sage厨うざいですよ。。。
sageないと
>>510みたいなのが沸くというジレンマ
513 :
18Rの鷹:04/11/26 01:11:17 ID:EdCHuSvO
すでにパーティーは、エントリーした数の3分の1を残すのみとなっていた。
「まだ、『ふるい』をかける必要がありそうだな」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、高みからリョースがつぶやく。すると、快速ゴブリンのマルチナ]が登場。生き残ったパーティーの集中力をかき乱すかのごとく駆け回る。さらに蛇と人間を融合させたモンスターが襲いかかった。
「あれは…ラミアハンター。レベル23のヤツまで出てくるのか…」
しかし、イベント用に強化されているため元のレベルは関係なく、殺傷能力はかなり引き上げられている。
「このモンスターどもの構成は…」
蒼海のオルカがいらだちを隠しもせずに大声でひとり言を口に出す。
「ああ、よくわからんっ」
蒼天のバルムンクが吐き捨てる。それを聞いたリョースがうれしそうに笑いながら、
「ほぉ〜。フィアナの末裔にも見破れないとは、な。我ながら、いい出来栄えだ、今回のイベントは」
「くっ…」
歯噛みするオルカとバルムンク。
(見破れない? ということは、やっぱり何か仕掛けがある? なんだろう…あっ!)
モンスターのデータを思い出し、ようやく気がついた。同時に、
「ブラックローズ、これっ」
「な、なによっ! 戦闘中にプレゼントって」
「いいからっ」
強引に『気付けソーダ』を20個、押し付ける。
「ん〜? 何、このアイテム?」
あからさまに不満そうなのは、昔と変わっていない。
「とにかく、持ってて。絶対、役に立つはずだから」
「あ、うん。いいわよ」
上空のリョースがぼくの行為を目ざとく見ている。
「そこの坊主。そうだ、お前だ。赤い双剣士の坊主。気がついたみたいだな。自分は心耐性がマックスだから大丈夫、とか思ってるだろう? ふっふっふ。まあいい。答えはモンスターどもが出してくれるからな」
514 :
18Rの鷹:04/11/26 20:12:39 ID:EdCHuSvO
「心耐性…?」
リョースの言葉を聞き逃さなかったオルカがつぶやく。
「そうか!」
バルムンクがついに気付いた。間を置かずオルカもハっとする。そして、
「まずい。俺たち、剣士は心耐性が低い…」
焦りがにじむ。が、バルムンクは逆に闘志をかきたてられたようで、
「ならば、先手必勝、といこうか」
と手にした業物を一閃。手近にいた大蛇のモンスターが3体、一瞬で消え去った。
もうマク・アヌには数えるほどのパーティーしか生き残っていない。それも、ほとんどがカイトと関わりを持ったことのあるパーティーだ。さすが、歴戦のつわものたちだけあって、それぞれが持ち味を出して戦っている。
モンスターの数も激減している。しかし、勝利はいまだ見えてこない…。
「そろそろ、仕上げといくか」
リョースが不気味に宣言する。そして、モンスターどもが魔法スキルを発動した。
「きたっ!」
ミュウレイ、魅了のスキルだった。そう、このスキルを持つモンスターは希少なのだ。おまけに2人パーティー編成だから、回復役を加えていなかったら最悪だ。しかも…、
「ただのミュウレイだと思うなよ! イベント専用スキル──、生き残ったことを後悔するがいいっ!」
サディストの笑みが中間管理職に浮かぶ。さも楽しそうにプレイヤーの苦境を笑う。
そのとき、リョースの後方にカオスゲートが出現! そこから、意外なPCが姿を現した。
「ヘ、ヘルバっ!」
うろたえるリョース。その哀れな姿を見下ろして、闇の女王が重々しく口を開く。
「リョース! 自分で仕込んだ効果、自ら味わうがいい」
そう言って、リョースの背中を蹴飛ばした。NPCの商人の格好をしたリョースがマク・アヌにドスンと背中から落ちる。
「うわっ…、あっ、あああああ…」
うろたえるリョース。そこにニラミコロスモノ、ヴリトラマスターが忍び寄り、ミュウレイを放った──。
515 :
18Rの鷹:04/11/27 19:43:23 ID:L+Ikk7Cv
すでに、何組かのパーティーに魅了の効果が現れていた。いや、ただの『魅了』ではなかった。もちろん、本来の効果である味方に対しての攻撃も行われてはいる。しかし。
至近距離からミュウレイを浴びせられたリョースが叫ぶ。
「うお〜! 中間管理職なんて大っ嫌いだぁぁぁぁっ。上司はアホだし、部下は使えないヤツらばっかり。どーして、オレだけがこんなに残業続きなんだぁぁぁぁっ!」
「リョース…」
何がどうなったのか状況がつかめないでいると、背後からヘルバが解説する。
「どうやら、催眠状態にして普段は口に出せない『本音』や『隠しごと』をしゃべらせるのが狙いね、このミュウレイは」
「本音? 隠しごと?」
振り向いて聞き返す。
「そう。パートナーには決して聞かせられないような内容も含めてね。フフっ」
フェイスマウントディスプレイの下で青ざめる。
(ひっ! なんてイベントだ。こんなの、死んだほうがまし、になっちゃうかも…)
「あ〜ぁ、リョースったらぁ。あとで今回のログを調べられたら、減棒は確実ね」
まるで他人事のようなブラックローズ。快速ゴブリンを3体まとめて真っぷたつに切り裂きつつ口ずさむ。
(女のほうが度胸が据わってるっていうけど…)
「ブラックローズは他人に本音や自分の秘密を聞かれるの、ヤじゃないの?」
双剣を『天井天下唯我独尊』に持ち替え、三つ首の蛇に木属性の物理攻撃スキル、疾風荒神剣をたたき込みながら聞いてみる。
「べっつにぃ〜。ま、魅了されたら、アンタがすぐに回復してくれるっしょ」
信頼がずしりと双肩にのしかかる。ところが、
「でもぉ、アタシはどーしよっかなぁ。アンタの本音とか秘密、聞いてみたい気もするな」
ニッコリ笑いながら、怖いことを言う。
「ブ、ブラックローズ。頼むよ。だから、気付けソーダ、渡したんだよ?」
「ふふっ。ジョーダンよ、冗談! さ、モンスターどもをやっつけちゃおっ」
「うん!」
橋の上と奥の広場、その2か所からはモンスターの姿がすさまじい勢いで消えていく。ドットハッカーズとフィアナの末裔、噂に違わぬパフォーマンスだ。
516 :
♀:04/11/27 21:21:01 ID:7H2fiYe1
此処まで読んで濡れ濡れ
股がべとべと
517 :
♀:04/11/27 21:21:37 ID:7H2fiYe1
おっと
これはいいイベントですね
519 :
18Rの鷹:04/11/28 19:35:08 ID:e455pjPX
>>515の続き
生き残っているパーティーには、ある共通点があった。それは、カイトとメンバーアドレスを交換しているPCということだった。これもまた"腕輪の恩恵"なのか…。
周囲に敵がいないと見るや、2組の伝説のパーティーは掃討戦に移った。
「おらぁっ! かかってきなさいよぉ!」
ブラックローズは熱くなっている。その背後を守りながら、冷静に回復し、敵にダメージを加え、とどめを刺すカイト。コンビネーションは完成の域に達している。
カオスゲート前を制圧したモンスターたちが、獲物を求めて橋に殺到する。橋の突端にいたカズ&はる、Syua&マックのパーティーはじりじりと押されている。そこにカイト、ブラックローズが加勢する。
「カズ! マック! 彼女はちゃんと守りなさいよっ!」
2組4人の横を疾風のごとく駆け抜けながら、ブラックローズはウインクしてみせる。なんという余裕!
「はる! Syua! 死ぬなよっ!」
戦闘のさなかだというのに、知り合った者への気遣いは忘れないカイト。なんというやさしさ!
「アンタっ! 女性PCには甘いんだからっ!」
振り向いたブラックローズに睨まれる。首をすくめながら、
「一番やさしくするのは、ブラックローズだよ」
しれっと言う。
「あったりまえでしょおおおおっ! ぃっやあぁぁぁあっ!」
モンスター群に向き直って叫びながら攻撃スキルをぶちかますブラックローズ。その後ろから高々とジャンプし、2体の目玉の化け物、3体の三つ首の蛇に断末魔の悲鳴をあげさせる。
「つぎぃ!」
『楚良の双剣』を振りまわして走る。ダイイングの追加効果が連発し、瀕死のモンスターが列をつくって死を待っている。そこにブラックローズが大剣を横薙ぎにする。その一画が明るくなるほど、一瞬の大量虐殺だ。
「す、すごい…」
カズが目を見開いてつぶやく。ほかの3人は言葉もない。
そこに一瞬の油断があった。討ち漏らした目玉1体と人型の蛇2体が、2組のパーティーに音もなく忍び寄っていた。
怪しげな光が交錯する。イベント専用ミュウレイが放たれている。
520 :
18Rの鷹:04/11/29 20:44:33 ID:D7kBKth5
「!」
カイトとブラックローズがそれに気づいたときは、もう手遅れだった。
急ブレーキをかけると同時にUターン。しかし、間に合わない。悲しく、つらい言葉がマク・アヌに響く。
「カズ! なんで? どうして? なぜ、なにもしてくれないの? 私のこと、どう思ってるのよぉ」
「はるぅ…。ボク、きみのこと、好きなんだ。好きだから…」
カズの言葉は最後まで語られることはなかった。カズの白く細い首には大蛇の牙ががっしりとくい込み、みるみるHPを削っていった。血の涙を流しながら悲しげにはるを見やるカズ。
はるにファバクドーンが落ちる。
「きゃあ─────っ」
1組のパーティーが舞台から消えた。
「よくもっ」
「殺してやる、殺してやる、殺してやるっ!」
カズとはるのPCが天に召された次の瞬間、そこにいたモンスターは切り刻まれて消えうせた。だが、その場所に戻ったことで、より悲しい現実を突きつけられることになった。
「この、スケベ! 短小! 早漏! ヘタクソ! ちっとは私のこと、満足させなさいよぉぉぉぉっ」
Syuaの剥きだしの本音がぶつけられる。マックは絶句したまま立ち尽くしている。
と、そこに階段からマルチナ]がカルテットで出現。いっせいに2人に飛びかかり、餌食にしてしまった。
目前で弟を、そのガールフレンドを、さらにクラスメートを血祭りにされたブラックローズの怒りはすさまじかった。
「カイトっ。アンタは手を出さないでっ! こいつらはアタシが殺るっ」
言い終わるか終わらないかのうちに、すべてのマルチナ]の首と胴が分かれて消えていった。
「カズ…、はる…、Syua…、マック…」
2人に怒りが湧き上がってくる。敵を求めて階段を駆け下り、妖精のあずかり屋の前に躍り出る。狭いところに目玉5体、三つ首蛇4体、人型蛇2体、ゴブリン6体がひしめいていた。
2対17。数的には圧倒的な差だ。しかし、そんなもの、怒りに燃える2人にはあってなきがごとき、だった。
敵を全滅させるまでに要した時間、わずか50秒。1分もかかっていない。いや、それどころか、1体を倒すのに3秒かけていないのだ。
しかし、攻撃ばかりしていたわけではない。費やしたアイテムは気付けソーダ4、尊酒シーマ6、帝の気魂4、
そして蘇生の秘薬2、だった。
鷹さん、いつも乙です。
ちなみに容量が現在486KBになっておりまする…。
522 :
18Rの鷹:04/11/30 20:43:37 ID:S6kB7NIN
同じころ──。
「うりゃうりゃうりゃああああ!」
蒼海のオルカの雄叫びが響き渡る。気おされるモンスターたち。腰の引けた相手に
「フンっ」
と静かな気合を一閃させる蒼天のバルムンク。
フィアナの末裔が階段を駆け下り、武器屋前の戦闘に加わる。ここではミストラルと砂嵐三十郎が奮戦していた。さすがに後の物語にまで登場するPCだけのことはある。
魔法耐性を持つ目玉の化け物に対しては、三十郎がもっぱら肉弾戦を挑み、ミストラルは回復役に徹している。余裕があるときは『魔獣の封印』を使用して耐性を解除し、一気に水属性の召還魔法を放って殲滅。大人の頭脳戦で善戦健闘していた。
「ニャッハ〜ン☆」
緊張感のない変な掛け声ながら、威力抜群の攻撃魔法でモンスターに深手を負わせるミストラル。
「敵はどこだぁ! まだまだ斬り足んねぇぞぉぉぉぉ」
三十郎はさながら血に飢えた刺客といったところか。そこに新手が加勢したのだから、モンスターたちは標的を絞れず右往左往している。
「スキありっ!」
袈裟懸けに切り裂く三十郎。
「バルムンク! オルカ! 助太刀無用…と、言いたいところだが、助かるぜ」
一息つく三十郎にミストラルの回復魔法が降り注ぐ。
「ウチら、もう2回ずつ蘇生しちゃってんだよぉ。後がな〜い!」
ミストラルがオルカに自分たちの状況を叫ぶようにして説明する。
「よしっ、まかせとけっ」
ぶ厚い胸板をどんとたたく蒼海。
「下がっていろっ。三十郎、ミストラル」
蒼天がずいと前に出る。
523 :
18Rの鷹:04/12/01 21:48:26 ID:DbX9Orxb
カイトとブラックローズは階段を駆け上り、メインストリートを横断。階段を下って道具屋の前に馳せ参じる。そこには1組のパーティーが戦っていた。
「ヒラメじゃないぜっ、カレイだぜっ!」
ぼくは前のめりに、ブラックローズはのけぞってコケる。
「ニューク…兎丸」
ザ・ワールドではそれなりの槍の使い手であるのだが、その口から吐き出されるギャグの寒さから、実力以下に見られてしまう悲しいキャラクターだ。
「カイトっ!」
呼ばれた方向に目をやると、レイチェルが瀕死の状態で目玉と対峙している。
「レイチェルっ」
名前を呼んで向かおうとした瞬間、すぐ横をだれかが風のように駆け抜けた。
「おっとぉ。いっくら頼りない相方だからって、そりゃないぜ、ベイビー」
颯爽とモンスターに立ち向かうニューク兎丸。レイチェルの前に出て彼女をかばう。そうして顔だけ振り返り、
「愛してるぜ」
と決めゼリフ。ところが、レイチェルは、
「なんや、あんた。もうミュウレイ、効いてるんかいな?」
いい雰囲気、ブチ壊し…。
「あ、あのなぁ…。ないすつっこみぃ」
ニューク兎丸の最後の言葉。悲しすぎる…。2人にモンスターの攻撃を受け止めるだけのHPは残っていなかった。また1組、パーティーが脱落した。
怒りが湧き上がってくる。もしかしたら、最後に残ったパーティーが一番つらいんじゃないか、そう思えるほど、悲しいイベントだった。
(もう、終わらせよう)
決意して、ブラックローズに向かって叫び、同時に目の前のモンスターに双剣を振るう。
「ボスを、ボスを倒すぞっ!」
「おうっ!」
威勢よく答えるブラックローズだが、実は途方に暮れていた。
524 :
18Rの鷹:04/12/02 20:06:20 ID:WmeUT17J
「一体全体…、ボスは、どこなんだ?」
オルカが苦々しく言葉を絞り出す。それは、いま、ここにいるすべてのPCに共通する思いでもあった。
イベント『モンスター街侵入』には、約束事がある。出現するモンスターどもの構成によって、ボスが決定されるのだ。例えば、ゴブリン系、ハーピー系にコウモリに混じれば、その首領たるモンスターはデーモン系の大物となる、といった具合だ。
ところが今回のイベントでは、『ミュウレイ』というスキルを有するモンスターという、特殊な条件で構成されているため、ボスがなんであるか予想するのは不可能といってよかった。
となると、PCたちに残された手段は、敵をすべて倒す以外にない。
「これは、イベントというには無理がありすぎるっ!」
珍しく感情をあらわにするバルムンク。もしかするとこのときが、彼の心の中に、プレイヤーに楽しめるイベントを提供する、という使命感のようなものが芽生えた最初かもしれない。
武器屋前にモンスターが殺到する。いや、カイトとブラックローズの苛烈を極める追撃戦から逃れてきた、といったほうが正解だろう。
「ぬぉぉぉっ! 新手か…。いよいよ、終わりのときがきたかな」
三十郎が絶望的な言葉を口にする。
「まだ、終わってないよっ」
強がるミストラルだが、ログに顔文字を入れる余裕はすでにない。
消耗戦のゴングが鳴った。あまりにも敵が多く、空や背景が見えなくなるほどだ。回復は魔法スキルでは間に合わなくなっている。尊酒シーマ、完治の水が文字どおり湯水のごとく使われ、帝の気魂が乱れ飛んだ。
しかし、攻撃は回復の合い間に散発的に行うのみだ。
「2人パーティーとは、こういうとき厄介だなっ」
オルカが吐き捨てる。誇り高き剣士2人のパーティー、それが"フィアナの末裔"なのだが、つい愚痴がこぼれてしまう。自分の回復は自分でする決まりだ。どちらかが言ったわけでは、もちろんない。
今回のイベントでは、回復スキルはパーティー内でしか有効でなかった。手の出せないもどかしさに、ミストラルがほぞを噛む。
「んもぉ〜! 3人と自分の回復くらい、なんてことないのにぃぃぃぃ」
地団駄を踏みながらも、三十郎に完治の水、気付けソーダを矢継ぎ早に浴びせ、自分には気魂を使う。
525 :
18Rの鷹:04/12/03 20:05:22 ID:xTH9Lost
少し時間は戻る。
カイトとブラックローズは橋に戻り、そこにいた敵を蹴散らしながら橋を渡りきった。そして、右に90度曲がって、モンスターどもが我がもの顔でたむろしていた魔法屋前に躍り出る。
「っりゃあぁぁあっ!」
楚良の双剣と天井天下唯我独尊を相手によって持ち替えながら、敵の前衛すべてに瀕死のダメージを与える。そこにすかさずブラックローズが大剣を振るう。
「っらぁぁぁっ!」
2ケタのモンスターが一瞬で姿を消した。だが、敵もさるもの、数にまかせて2人を包囲するように陣形を整える。
「こいつら、学習してるっ?」
「んなこたぁ、どーでも、いいっ!」
怒りに燃えるブラックローズが斬りかかる。カイトはまずパートナーに、続いて自分に尊酒シーマを使う。
「ありがと!」
彼女の声が耳に心地よい。修羅場にあっても、2人の絆はゆるぎない。
ブラックローズの物理攻撃スキルによって大ダメージを負ったモンスターどもに、今度はカイトが断末魔の悲鳴をあげさせる。
「次っ!」
走りだすカイトを追いかけようとしたブラックローズだが、ちょうどそのタイミングでアプドゥの効力が切れた。
「あっ、待って」
叫びながら快速のタリスマンを使うが、2人の間に距離ができてしまう。
「ちっ」
舌打ちしながら全速力でパートナーを追いかけるブラックローズ。カイトは裏路地に駆け込んでいった。
「カイト?」
ほんの少し遅れて裏路地に進入したブラックローズはパートナーの異変を目のあたりにして立ち止まる。
ブラックローズの目に飛び込んできたのは──。
526 :
18Rの鷹:04/12/04 19:00:05 ID:mT0zhpw8
カイトはだれかと何事か話していた。体を前後にゆすり、手のモーションも大きい。感情をあらわにするなど、普段のカイトにはなかなかないことだ。
(だれと話してるの? ねぇ…)
ブラックローズにはカイト一人の姿しか見えない。不安が黒く巨大な塊となって襲ってくる。胸が締めつけられ、たまらない気持ちになる。
そのとき、まったく無防備だったブラックローズの背後からモンスターが一撃を加えた。瀕死のダメージ!
「なぁによぉ」
ゆっくりと振り返ったブラックローズから立ち上る怒気、殺気、そして闘気。感情のないモンスターが、それなのに、たじろぐ。
ずいと一歩進むブラックローズ。ゆっくりと尊酒シーマを取り出し、頭から浴びる。途端に目に力が宿る。次の瞬間、
「いっやぁぁぁぁあ!」
裂ぱくの気合もろとも大剣が空を真っ二つに切り裂いた。全滅、だった。そこにいたモンスターがすべて消え去った。
カイトは戦っていた。しかし、その相手はカイト以外には見えない。そう、これまでのモンスターとの戦闘とは違う、精神の戦いを強いられていたのだ。
「アタシとひとつになりたいの?」
「晶良…さん?」
一糸まとわぬ姿でやさしく微笑む晶良が、そこにいた。と、晶良が揺らいだように見えた。息を飲み込む。
「な、なつめ?」
「わたしとひとつになりたいの?」
全裸のなつめ。とろけそうな表情は眼鏡では隠せない。瞬きをしたカイトが次に見たものは、
「あたしとひとつになりたいの?」
「レイ…チェル?」
包み込むような明るい微笑みをたたえ、豊満な肢体をさらすレイチェル。
「これは…夢? 夢を見ているのか、ぼくは…」
18Rの鷹氏、なんとかsage進行にしてもらえないだろうか?
もともとsage進行ルールはコピペ業者等が原因でスレが荒れるのを防ぐものであって、
age進行だと、これからそのような業者が来ないという可能性も無いわけではないので・・・・。
それにage進行=業者・荒らしという不信感を持った人も少なからずいるわけで・・・・。
スレ汚し申し訳ない(´・ω・`)
散々語っといてこんな事言うのも難だけど18Rの鷹氏応援してます。
別段agesageにこだわる必要もないと思うが。
現にageで荒れてないし。。。
sageが予防する意味をなすっつーんならそっちのほうがいいかもな。
sage厨age厨なんて馬鹿げた区別をするんじゃねーぞw
前は確かに業者が酷かったが、URL貼り付けに規制を入れるようになって
最近はほとんど見かけなくなり、その心配はしなくてよくなったはずと思うのだが。
現状ではagesageにあまりこだわる必要も感じない。
鷹氏のSS好きなんで、agaってると来てるのがすぐわかって個人的に嬉しいくらいか。
530 :
18Rの鷹:04/12/06 01:32:49 ID:/HUunHSj
「だれか一人を選べ…というの?」
いつの間にか、リアルの姿で仰向けに寝ている。服は着ていない。
「ぼくの気持ちは決まってるよ」
一人の女性がぼくの体にまたがっている。両手を差し伸べながら、彼女の名前を口にする。
「晶良さん…」
その瞬間、ブラックローズにも敵の姿が視認できた!
「な〜に、やってんのよぉぉぉぉ!」
ブラックローズの怒声が聞こえたのと同時に、気付けソーダが浴びせられる。はっとして正気に戻ると、目の前を眩い光が横に走った。
「えっ?」
女性が前のめりに覆い被さってくる、いや違う、首だけがゆっくりと落ちてきた。
「ウィッチ…の…首…」
「ったくぅ〜! らしくもないっ」
ブラックローズに叱られるが、なかなか状況が理解できない。
「いまのウィッチがボス、だったのよ。ほら、マク・アヌが元どおりになってる」
そう言われて、やっと得心がいった。
「それじゃあ、ぼく…、魅了されてたのか…」
「そーよ。幸せそうな顔しちゃってさ、ウィッチに微笑んでるアンタなんて、他のPCには見せらんないわよ」
なんとも恥ずかしくて、のろのろと立ち上がる。ブラックローズはぼくの肩をポンとたたいて、
「やったねっ! このイベントの勝者はアタシたちよ」
と言って、とびっきりの笑顔を見せつけてくれた。そこに、
「カイトっ」
「ブラックローズっ」
数人のPCがぼくたちの名前を大声で呼びながら走り寄ってくる。
「オルカ、バルムンク、三十郎さん、それにミストラルっ」
「無事だったんだぁ」
生き残ったぼくたち、とりわけMVPに輝いたブラックローズを祝福するように、マク・アヌの鐘がひときわ大きな音を響かせた。
531 :
名無しさん@ピンキー:04/12/11 01:27:52 ID:Zp9VPw61
>18Rの鷹
いつもお疲れ様です。
今回のSSは前回とはうって変わってバトル色が強いSSですね。
まだまだ底が見えない書き手さんですね。読んでいて楽しいです。
533 :
18Rの鷹:04/12/13 00:31:58 ID:55Eam2IZ
翌週の月曜日、晶良のパソコンに2通の新着メールが届いていた。ひとつはCC社から。不出来なイベントに対するお詫びと担当者を処分した旨、そしてイベント『モンスター街侵入』のMVPを正式に承認する内容だった。
そしてもう1通はミストラル、黒川真由美からのものだった。
件名:サンちゃん来日の件
──晶良ちゃん、イベントMVP、おめでとー!\(^o^)/
──そんで、今週なんだけど。サンちゃん、成田に着くのが金曜日の夜なんだって。
──だから、会うのは28日の土曜日。TOKYOプリンセスホテルのロビーで待ち合わせね。
──時間は午後の2時でいいかな? お昼ごはんはカイトと2人で食べてきてね。
──あっ、そうそう。夜、ちょっぴり遅くなると思うから、ご両親にはちゃんと言っとくように。
──サンちゃんにニッポンをたっぷりと味わってもらえるよう、仕込みはバッチリよ(o^-')b
──あなたたちも楽しみにしててね!
読み終えた晶良はケータイを手に取る。晶良はボタンを押し、ケータイを耳に当てた。
「あっ、アタシ。黒川さんのメール、見た?」
「うん。いま見たとこ。お昼に、いつもの場所で待ち合わせしようか、晶良さん」
「そうだね。いいよ。だっけど、メールにあった『仕込み』ってなんだろ?」
「う〜ん。わかんないけど、楽しみだよね」
「うん。ワクワクするよね」
「じゃあ、土曜日に。晶良さん、愛してる」
「んもうっ、恥ずかしいでしょ。…アタシも愛してる。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
ケータイを机に置いて、晶良は思う。
(新しい服、欲しいな。そうだ、あした、予備校の帰りに買いに行こっと)
ぼくはベッドに体を投げだし、目を閉じてミストラルのメールを思い返す。
(夜、遅くなる、ってことは、2人きりにはなれそうにないか。う〜ん。次はいつできるんだろう?)
ここのところ、デートといえばホテルに入るのが決まりであるかのようだった。
(ザ・ワールドのイベントといい、土曜日といい、晶良さんはこういうデートのほうが好きなのかな)
なにせ"覚えたて"のうえに"やりたい盛り"の高校1年生、性欲をもてあますのも無理はない。
(しようがない、か…。エッチなDVD借りてきて、今夜は抜いとこ)
虚しい…けど、しかたない。
ほす
なんとなく早朝サービスのあるラブホにマクドとか抱えてカイトと昌良がお篭もりしそうな展開に
なりそうな気が…。
>>535 マクドと略すとは・・・・・
貴様、関西人だな?
>>537 いや、千葉県出身。西への旅行は六甲山までですけどね。
数年来パソコンに関わる仕事しているとMacintoshが絡んで、脳内でたまにシナプスが
変になりそうになるんで、自分内ではマクドと言うように切り替えました。
つーか、俺は普通の会話でも「だべ」とか「やねん」とか「きさーん!」とか「〜さあ」とか
いい加減に方言を平気で使う人間なんで…。