第五話
「……アンタの…所為だからね……。」
「えっ……?僕、また何かアスナさんの気に障る事でも……?」
普段、怒気混じりで同じ事を言われる場合は大概「ごめんなさい〜」で逃げ回ったりおどおどするはずなのに、
あまりにも普段と口調、雰囲気が違うために、思わず改まって聞いてしまっている。
「違うの……。ううん、違わない。けどいつもとは違う……。」
「??」
「私……アンタの事を最初は大嫌いだった。いけ好かない生意気なガキだと思っていた。
だって、いきなり初対面で失恋とか何とかいうわ、
証拠隠滅とか言って魔法失敗させて素っ裸にさせるわ、
出所不明の薬で混乱に陥れるわで…………。
だから、よく追い払ったり、邪険な態度で取り合わなかったりもした。鉄拳制裁なんかもしたわよね……。」
「ごめんなさい……。」
「今アンタから謝罪を求めようという気はないわ……。
えっと、さっきの続き……。でも、そんな冷たい私なのに、アンタは、しつこくっついて回っていた。
お姉ちゃんに匂いが似ているからといって、本当の姉のように懐いてきたりもした。
しかも、何の関係もない、こんな冷たい、体力以外何も取り柄の無い私に対して、
私を気にかけている理由と身上、そして、夢として抱いている目標の事までまで真剣に語って……。」
「…………。」
「それからかな……私の中でアンタの見方が少しずつ変わってきたのは。
私の言った事を気にして図書館島で力封印してみたり、
ムカつく位の多勢に無勢な状態でエヴァちゃんに一人で立ち向かおうとしたり……。
そのときは、まだ自分の本心と建前のプライドの間で揺れ動いてて、
また、あんたを信じきれていなかったのがあってあんな事やこんな事を言っちゃったけど、
そして、それらの事が終わっても、お姉さん風吹かしてアンタには言わなかったけど、本当はちょっと後悔してた……。」
「…………。」
「そうしていく内に、いつの間にか、アンタの事、悪い意味じゃなしに気になるようになってきてて……。
皆に感づかれるのが怖くて、からかい半分で疑われるとすぐムキになったり、
アンタが私から離れている時や、他の子と接触があるたびに、
いつのまにかアンタの事を考えるようになってた。
例えば、疑わしいことがアンタ絡みで起こった時、私はよくアンタに先に言ったりするでしょ?
アレは頭にきたわけじゃない……アンタがそういう間違いを犯すのが……
まさかそんな事したんじゃと考えるのが、すごく、嫌だったからなの。それは誤解しないで…………。」
「そうだったのですか……。」
「それらの積み重ねが、木乃香の実家での一悶着の前の電車の中で
カモにからかわれて口に出したあの発言。ちょっと照れ隠しで強く言っちゃったけど、あの発言には、嘘は無いから……。」
「…………。」
「本当はあんな面倒なことには関わりたくなかった。
木乃香やいいんちょ、クラスの皆、そして高畑先生と、
泣いたり笑ったりしながら普通の学園生活を送りたかった。
けど……そこにアンタは悪気を微塵も感じさせない笑顔で割って入ってきた!
わけもわからない漫画みたいな力で色々騒がせた!
私を巻き込んだ!それどころか他数名をも巻き込んだ!
普通に暮らしていれば巻き込まれない一大事にも首を突っ込まされた!
死ぬかと思った!本当に死ぬかと思った!
怪しい島の深淵で!市境の橋の上で!いわくありげな親友の実家の中で!
普通の生活を、青春を、人生を送ることは出来なくなると思った!アンタの所為で!!」
「アスナさん落ち着いて!」
「でも…それなのに…それなのに……。
アンタの事を嫌いになれない…。無視することが出来ない…。
時々失敗することもあるけど、そのアンタの努力、根性、行動力、責任感、夢。そんなの見たり感じたりしちゃうと…、
アンタの事が気になって、気になってしょうがなくなる……。
アンタの人生だけじゃなくって、気にしたところでお金にもなりゃしないアンタの事細かいところまで……。
アンタ自身は、教師だからと、イギリス紳士だからと、あまり多くを語らないけど、
元々私は、最初はアンタを嫌っていたから、知るつもりなんか毛頭無かったけど、
今となっては、アンタに熱烈に迫る一部を除く皆みたいに、知りたくて知りたくてしょうがなくなってる……。
皆とは違って、すごく遠回りになっちゃったけど、私も、皆と同じになっちゃった……。
でも、今思うと、そんな遠回りも良いものかもしれない。
アンタの実情を多く見ている分だけ、嫌な面も見てしまっているけど、
それと同時に皆の知らない良い面も見ている分、私は、アンタを皆が思っている以上に可愛く思える。そう思う自信がある。」
(まさか、アスナさんは……)
「そうして、アンタが可愛くって可愛くってしょうがない気持ちが積もりに積もって、
さっきはなかなか寝付けなくてアンタをオカズにオナニーしちゃったし、
その時にアンタの名前言っちゃってアンタを起こしてみたり、
それをここに呼びつけてエッチな悪戯しちゃったり……。
私がその気持ちを我慢できなかった責任もあるけど、
元はといえば、ガキ嫌いな私を陥落させて、こんな衝動に駆らせたアンタの責任……だから、アンタの所為、て事♥」
(!!……アスナさん、こんな可愛い顔するんだ……。
タカミチの前でも、こんな顔見たこと無い……。でもなんで僕に?まさか、やっぱり……。)
泣きながら、怒りながら今までの心境とその変化を吐露した明日菜。
それらを吐き出した後、憑き物が取れたかのように、先ほど行った行為をネギの責任となすり付けた理由を、
今まで見たことも無いような可愛らしい笑顔で告白した。
その笑顔にネギは心を惑わされながらも、その手の思考は判らないなりに考察し、口をつこうとする……。
「まさか……アスナさんは、僕の事を、s」
「言っちゃダメ!!」
「!!!あん、ん……。」
明日菜の心情を察し、それを言わんとしたネギを、核心を言い終わる前にキスで唇を塞ぎ、牽制する。
(え…何で怒って止めないのアスナさん?いつものように叩いたりとか追っかけまわしたりとか……でも、このキス、すごく気持ちが伝わってくる!)
(知られちゃった、私の本心……でも、まだ今はダメ!まだ言わないで!アンタの為に、私の為に!)
「「ぷはっ、はあ……はあ……。」」
「あ、アスナさん……。」
「いい、ネギ。さっきの言いたかったことの続きは、絶対言っちゃダメ。
もし言いたいのなら、アンタの目標を達成できたときにしなさい!
私も、そのときが来るまで言わないから。いい、判ったわね…………。」
「は、はい……でも、なんか、言わんとしている事が判ったように言っているのは何故ですか?」
「アンタの言いたい事と、アンタが私に対して思っている事、
そして、私がアンタに対して思っている事、どうせ一緒でしょ?
だったら、その思いを胸に秘めつつ互いの目標へ邁進し、
その時がきた時に互いに言ったほうが価値があるに決まってるじゃん♪」
「…………。」
(何か、上手くはぐらかされたような気がするけど、良かった……自分の予感と、気持ちが正しくて♪)
「でも……このまんま悶々と引きずって、今後がめちゃくちゃになるのもなんだから、
その時の後の予行演習をかねて、今夜だけは、私達が思うがままに楽しんじゃってスッキリしちゃおうか♪」
「えっ……は、はい!」
続く