朝。一日の始まりの朝。
まぶしい朝日の差し込む部屋の中で、アスカは腰に両手を当てたポーズで仁王立ちしていた。
視線は、自らの下半身をじっと見下ろしている。衣服は取り去られていた。
そこに、いつもの朝との唯一の――そして、決定的な違いがあった。
血管を浮き立たせた肉の筒。膨らんだ先端は、キノコの傘を連想させる。つまり、男性器――ペニスが、そこに忽然と姿を現していた。
「なによ、これ」
五分ほど観察して、出た感想はそれだけだった。驚くとか、慌てるとか、まるでない。あまりにも突飛な事態で、そういった反応を超越している。酷く覚めた気分だ。
どうして突然こんなものが生えてしまったのか疑問には感じるが、エヴァのパイロットとして体験してきた――また同僚が体験した――ことを思い起こせば、なにが起きても不思議ではないかもしれない。
と、部屋の外から声が掛かる。
「アスカ、朝ごはんできたよ」
軽いノックの後、ふすまが開けられる。
顔を見せた同居人は、アスカの姿を見ると一瞬で表情を凍りつかせ――
「うわぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げて、廊下の壁まで後ずさった。
それが自然なリアクションかもしれないが、他人にそこまで派手に驚かれると、アスカ自身は余計に落ち着いてしまう。
「うるさいわね。なに騒いでるのよ」
「ア、ア、アスカ……そ、そ、そ、それ……!?」
シンジは震える指先で、アスカの股間を指さした。
「チ○ポよ」
これ以上ない的確な答えを返してやる。
シンジ落ち着くように息を継ぎ、何度か目をしばたかせてから、口を開いた。
「……アスカ、男の子だったの?」
あまりと言えば、あまりの問いである。
「んなわけ――」
アスカは、枕元にある目覚まし時計をそっと掴み、
「ないでしょ!」
怒声と共に放り投げた。
「うわぁ」
目覚ましは、シンジの顔の横三センチの壁にその身を半分めり込ませた。表面上は落ち着いていても、やはり苛立ちがあったのだろう。つい力がこもり過ぎてしまった。
目覚ましの無惨な姿を横目で見て、呆然とするシンジは無視して、
「にしても、どうにかなんないの、これ?」
ぼやく。ペニスは腹に付くほど隆起し、ますます血管を浮き上がらせ膨張している。なんとも言えない苦しさだ。
「痛いんだけど」
「ほっとけば、その内治まると思うけど……」
シンジが遠慮がちに言う。しかし――
「起きてから、ずっとこうなのよ! あんたにだってついてんでしょ? どうすればいいか知ってんでしょ」
ペニスは、一向に萎える気配を見せない。
「そ、それは、その、ごにょごにょ……」
シンジは口籠もって、視線を俯かせた。
「なによ、はっきりしないわね。どーすんのよ、これっ」
シンジに近づいて、完全にペニスを突き出してやる。
「あ、あんまり近づけないでよ」
シンジはペニスから目を逸らした。といっても完全にではなく、ちらちらと横目で観察しているようなのだが。
「なに恥ずかしがってんのよ。あんたにも同じもんがついてんでしょ?」
「ぜんぜん違うよ……」
シンジがぼそりと言うが、小声でよく聞き取れない。
「ほら、いいからさっさと教えなさいよ。いつもしてるやり方をさ」
「……こうやって、手でするんだよ」
少し逡巡を見せた後で、シンジは手で輪を作りそれを上下させて見せた。
「ふ〜ん」
とりあえず、言われた通りにしてみる。初めて触れる――まさかそれが自分のものになるとは思いもしなかったが――ペニスは酷く熱かった。
「う、うぅ」
確かに気持ちいい。けれど、しばらく動きを繰り返してみても、一定の快楽があるだけで上りつめる感覚がない。このままでは達することはできないのではないかと思う。
握る力を強めてみるが、刺激が強すぎて痛いだけだった。アスカにとっては未知の器官であるだけに、力の加減が難しい。
「あぁっ、もう、じれったいわね。ちょっと、シンジ、見本見せなさいよ」
シンジを見ると、いつの間にか食い入るようにアスカの自慰の様子を凝視している。
「えっ、な、なに?」
呼ばれて我に帰ったシンジが、体をびくりとさせる。白々しく視線をアスカのペニスから外すが、そのことは責めないでおく。
「見本、見せろって言ってんのよ。そのほうが分かりやすいから」
「ぼ、僕はいいよ。大きくなってないし……」
シンジが首を横に振る。
「あんたの都合なんて関係ないわよ。私がしろって言ったら、するのよ!」
「や、やだよ。できないよ、そんなこと」
アスカが詰め寄ると、シンジは腕を前に出して抵抗した。シンジが、ここまで頑なに抵抗するのも珍しい。
「ははーん、さては私のより小さいのね」
「違うよ!」
間を置かず、シンジが顔を赤くして反論する。が、ムキになるところが余計に怪しい。
「だったら見せてみなさいよ」
「やだったら、絶対に嫌だっ」
抵抗するシンジともつれ合って、押し倒すような形で床に倒れる。
「ほら、観念して出しなさい。粗チンでも馬鹿にしたりしないから」
下着ごとズボンを剥ぎ取って、
「「…………」」
アスカは目を点にした。シンジも、まったく同じ表情で止まっている。
シンジの股間は、無毛の丘にぴっちりとした縦すじが一本あるだけだった。