D・N・ANGELのハァハァ小説 その3

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1前スレ367
「D・N・ANGEL」の原田姉妹+etcでハァハァするスレです。
SS書き神様を募集中。

前スレ
D・N・ANGELのハァハァ小説 その2
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1063006749/
2前スレ367:03/12/07 02:49 ID:H9yBRPRH
☆関連スレ☆
【これまで投下されたSSの保管庫】
2chエロパロ板SS保管庫
http://adult.csx.jp/~database/index.html
「少女マンガの部屋」に保管されています

★注意★
 ・801は801板で
 ・原作やアニメの話以外は「だいっっキライよっ」って方はご遠慮ください。
 ・↑に準ずる方(ry
 ・480kbを目安に次スレの準備を。
 ・sage進行でマターリとss職人さんを待ちましょう。

と、いう訳で、スレ立てに続いて、どえらい間を空けてしょうこりもなくSS投下です。
しかもまたエロス分なし。ハァハァ小説スレなのに。
3前スレ367:03/12/07 02:51 ID:H9yBRPRH
『格闘教師加世田先生』

「あ〜あ、いやだなあ、家庭科」
 冬休みも終わって始まった3学期、原田梨紗は相変わらずそんなことを呟いていた。
 今日の家庭科は調理実習。去年あたりから、姉の梨紅に就いて手料理を練習してみていたり
はするものの、一朝一夕に苦手を克服できるものでもない。
「加世田先生も相変わらずだしね」
 隣を歩く梨紅は余裕ありまくりだ。
「もおっ、ひとごとだと思って」
「あはは。あきらめてほら、いこ」
「むぅ〜」
 顔をふくらます梨紗をほっぽってさっさと歩き出す梨紅を追いかけ、憂うつな気分を募らせ
ながら家庭科教室に向かっていった。
4前スレ367:03/12/07 02:53 ID:H9yBRPRH
 で、放課後。
「やっぱりこうなるのよね」
 はぁ、と梨紗がため息をもらす。
『今日の居残りはあっ、丹羽! それから原田――もちろん妹の方!』
 家庭科教師加世田先生によって、いつぞやのふたりがまたも容赦なく居残りを命じられたの
だった。
 本日の調理メニューはハンバーグ。
 梨紗は手でこねるミンチの感触が気持ち悪くて思わず床に取り落とし、大助の方は、今回も
隠れてついて来ていたウィズが飛び出し、ハンバーグを奪い取って走り回ったおかげで周囲を
混乱に陥れてこの始末。
『ふたりは放課後補習だあっ! 校舎裏までくるように!』
 そんな訳で、しぶしぶながら言われた場所へ向かっているところだった。
 なお、前回梨紅を煽って試みた入れ替わり作戦だが、今回はあっさり、
『きっちり自分でやりなさいよ』
と、インターセプトされてしまっている。
「でも、なんで家庭科室じゃなくて校舎裏なんだろうね?」
 並び歩いていた大助が、梨紗も浮かべていた疑問を口にした。
「そうよね。校舎裏ってたしか……」
 使われていない資材小屋がぽつんと立っているだけのはず。
「そこで料理の特訓って」
 なんとなく、いや、かなり鮮明に嫌な予感を覚えるふたり。
 たどりついた人気のない校舎裏、資材小屋の前には加世田先生が立っていた。
「よくきたな、丹羽、原田!」
 いつも通り、元気はつらつ大きな声。だが、そのナリは。
「せ、先生?」
「その格好は……?」
 大助と梨紗の目は、そろって点。
「格好がどぉしたあっ!」
「いや、だって」
5前スレ367:03/12/07 02:54 ID:H9yBRPRH
 ぶっとい両腕を組んで仁王立つ加世田先生のその姿。
 今しがた山ごもりから帰ってきましたとでもいわんばかりの、使い込まれた白い胴着。
 両袖はいかにもといった風情で根元からちぎれ、この寒空に丸太のような二の腕がのぞいて
いた。おまけに頭には白いハチマキ、腰にはフリルとかわいい熊さんアップリケのついた真っ赤
なエプロン。
「ふむ、そういえば先生のこの格好をお前達に見せるのは初めてだったか」
 にやりと笑い、とても家庭科の教師には見えないごっつい掌を顎にやると、
「これは私の正装だあっ!!」
声を張り上げて、むぅんと胸をそらした。なんだかものすごそうなオーラが噴出していたりする。
「ちなみにエプロンは妻の手縫いで、こっちの熊さんは娘のデザイン」
「は、はあ……」
 そんなこといわれてもなあ。
 加世田先生、萎えるふたりにもおかまいなく、
「さあ、特訓をはじめるぞっ!」
 特訓? 補習じゃなく?
 予感ゲージがマイナス方向に限界を突破し始めているふたりを、強引に資材小屋へ招き入
れたのだった。

 小屋の中は薄暗い。
『なにかいる』
 日常的な訓練で研ぎ澄まされた大助の感覚に触れてくるものがあった。
 大きな、これは、生物の気配。漂ってくるのは、哺乳類の獣臭。呼吸音。
 夜目の利く大助の視界は、ほどなくその実体をとらえた。
6前スレ367:03/12/07 02:56 ID:H9yBRPRH
もー。

「……牛?」
「え、なに? ウシなの?」
「そう、牛さんだ。名前はキャサリン」
「へえ、牝牛なんですね――っていうかなぜ!?」
「なにを言ってるんだ丹羽。ハンバーグに肉は不可欠だろう」
 ほがらかに言い放つ加世田先生。
 大助は瞬間的に凍りついた。
「わざわざ取り寄せた純国産和牛、それも未経産の上物だぞ」
 ごくり。
 上機嫌な先生の言葉にある不吉な予想を掻き立てられつつ、乾き貼りつく喉を生唾で潤すと、
おそるおそる大助は尋ねた。
「この牛、その、どうするんですか?」
「食う」
「ああ、やっぱり」「ええええっ!?」
 胸を張る加世田先生に、聞かなきゃよかった、と頭を抱える大助と、驚きの声をあげる梨紗。
「なにを驚いているんだ、原田」
「だって、だって……」
「いいかあ、原田。生きていくということは、なにかの命を奪いつづけていくということだ。
だからこそ、先生は料理を通じてお前達に生命の大切さを学んで欲しいと思ってだな」
 先生、その考えは立派ながら、やり方にたいそう問題があるかと。
 目の前にたたずむ、立ち杭に縄でつながれた黒毛の牛、名はキャサリン。
 哀しそうな瞳で見ているよ。
「なに、私はいつも素手でやっているんだが、ふたりは初心者だろうから、特別にこの屠殺用
ハンマーの使用を許可しよう」
「いや許可されても――素手っ!?」
「なに、山ごもりしていたころは熊や猪や野犬を捕食していたものだ」
「山ごもり……捕食……」
 一介の家庭科教師にあるまじき体格だとは思っていたが。
7前スレ367:03/12/07 02:58 ID:H9yBRPRH
「いいか、ハンマーのここに突起があるだろう。これで額の薄いところをこう」
「いや説明されても」
「なんだ丹羽、ひょっとして素手の方がいいのか?」
「じゃなくて」
「いかん、いかんぞお。自分が生命を奪って生き長らえているという事実から目をそむけた時、
人間は他者に対して残酷になってしまうのだ。いただきます、という言葉には、大切な他の命
をいただいてこそ、私達は生きていけます有り難うという意味があるんだぞっ!」
 加世田先生、熱弁。
「その言葉を噛みしめてだな」
 びしぃっ、と大助を指差す。
「殺れ」
「やりません!」
「先生哀しいぞ、丹羽っ!」
 くわっと漢哭き。
「どうしてもというなら」
 ぎん、と双眸の奥に焔がともった。
「先生を倒してみろっ!」
「倒しません!!」
 ぬぅんと立ちはだかる加世田先生と、ちょっと前にも味わったような身の危険をおぼえて冷
や汗を流す大助との間に、すいと割ってはいる影。
「丹羽くん、下がってて」
「は、原田さん!?」
「加世田先生、わたしが相手よ!」
 そういって、先生を見据えながらしゅしゅっと構えをとったりしてみせた。
 筋骨隆々、どう割り引いてもヘビーウェイトの加世田先生と。
 14歳という年齢および性別相応、華奢で筋力とは無縁そうな体格の梨紗。
「だめだよそんなの!」
 慌てて大助は梨紗をかばって前に出た。
「よぉし、丹羽が相手だな」
 丸太のような右腕をぐるんぐるん回しながら加世田先生がいった。
「だからやりませんって!」
「先生うれしいぞお!」
8前スレ367:03/12/07 03:01 ID:H9yBRPRH
 ああまた人の話を聞かない展開なんだそうなんだ。
 もはやあきらめモードの大助ではあったが、覚悟を決めると間合いをとって半歩後退、正面
から向き合った。
 体格的にはもちろん梨紗よりしっかりしているとはいえ、本来同級生男子の中でも小柄な大
助だ。筋肉は太くないながら軽捷性と柔軟性に富んでいるとはいえ、マッチョダンディ加世田
先生との体格差では、焼け石に水といったところだろう。
 体格差、すなわち。
 ウェイトが違う。
 リーチが違う。
 筋量が違う。
 そしてこれらは"徒手で""正面から"渡り合うという条件下において、決定的ではないにせよ
極めて大きなアドバンテージとなる。
「それらしい勝手な解説で対戦ムードを作って盛り上げないでほしいなあ……」
 あきらめムードを漂わせながらも、地の文に突っ込む大助だった。
 その頭上に、室内の暗がりよりなお黒く差し掛かる巨大な影、そして梨紗の警告。
「丹羽くん!」
「え……っ!」
 見上げた視線の先には、身軽に宙を舞う、余裕で100キロを超えていると思われる巨体。ごろ
りとし太いその右脚が、大鉈のように落ち掛かってきていたのだ。
 視覚から得た情報を認識する前に、身体は横っ飛びに転がっていた。このあたり、さすがの
危機対処能力である。
 大助をかすめた巨躯は、鈍い地響きとともに地面に落下し、もうもうと土ぼこりを立てた。
 跳躍から地面と並行にした上半身を軸に回転、放り出された円を描く片脚に全体重を乗せて
ぶつける。空手では胴回し回転蹴りなどと称される技だが、余裕で100キロを超えていそうな超
重量の筋肉塊が回転しながら飛んでくるとは、完全に予想外だった。
「おー、すばやいなあ、丹羽」
 心底感心した口調でほめながら、むくりと立ち上がる加世田先生。生徒の出来を称える教師
のそれだが、大技の餌食になりかけた大助は応えるどころではない。
「よぉし、次いくぞー」
 気さくに声を掛けると、大きく踏み込んで無造作なオーバーハンドの左打ち下ろしから、反
動を利して伸び上がりつつ天を突く右揚げ突きを仕掛けてきた。
9前スレ367:03/12/07 03:03 ID:H9yBRPRH
 重く鋭いが、大助にとって見切れない速さではない。蹴り出しに拠らない重心移動を用いた
滑らかな足さばきで身軽にそれぞれをかわすと、体を沈めつつ一気にふところに潜り込んだ。
 リーチの差が大きいなら、一瞬の隙を逃さず接近戦に持ち込むほかない。『人を傷つけるのは嫌だけど』
 とにかく、ここは暴走気味の加世田先生を止めないことにはおさまらない。
 自らを護るために学んできた体術を意識野に展開、現在の状況とあえて課した制約に応じて
肉体が稼動し、右拳中指の第2関節を突出させて軽く握った。
 空いた右肋間の急所を点撃、そこから切り崩す。
 その選択に従い打突を繰り出そうとした大助の顔前に、加世田先生の顔があった。
 大きく口を開き、並び良いまっしろなエナメル質の歯をむきだしにして。
 かしぃん。
 急制動を掛けた鼻先で、打ち合わされた上下の歯が鳴った。
「う……うわっ!」
 驚きは、反射的に大きく跳びすざった後にやってきた。
「噛みつき!?」
「うむ、噛みつきだ。なに、生き物にとってごく普遍的な行動だぞ、そう驚かんでもいいだろう」
 真顔で加世田先生は告げると、発達した首周りの筋肉をみっしりと浮き立たせながら、かし、
かし、と歯を噛み合わせてみせた。整然と並ぶまっしろなその歯列、なかでも発達した犬歯は
獰猛な捕食獣めいている。
「"武食同源"を唱えるわが加世田家に代々伝わりし格闘料理術では、基本として扱われる技だぞ。
毎日しっかり硬いものを噛み砕いて鍛えるんだ。コルクとかな」
 加世田家ではそんなもの伝えていたのか。
「ただ今弟子の募集中なんだが、どうだ丹羽?」
「結構です」
「なら、先生に負けたら弟子入りということで」
「うわ、横暴」
 そう口にしたのは梨紗だった。
 加世田先生の背後で。
「む!?」
「えい」
 そろえた梨紗の両掌が加世田先生の幅広い背に触れるや、気合――とも呼べない無邪気な掛
け声ひとつ。
 加世田先生の巨体が白目を剥いて声もなく、前のめりに倒れていった。
10前スレ367:03/12/07 03:05 ID:H9yBRPRH
 やっぱりこんなオチなんだ、でも今回はわりとあっさり終わってよかったなあ、などと、
どこか現実味を喪失したままぼんやり思考をめぐらせる大助の傍に、梨紗が歩み寄る。
「だいじょうぶ、丹羽くん?」
「ありがとう原田さん、助かったよ……だけど今のは?」
「うん、坪内さんにね」
「ツ、ツボウチサン!?」
 その名前は、大助にとって恐怖を意味する。
「そ。美容と健康、それから護身のために太極拳とか習ってるの、梨紅といっしょに」
 ひきつる大助を前に、にこやかに話す梨紗。
「そう、なんだ……」
 絶対その目的では教えていないよ、あの人。ていうか梨紅さんも!?
 青ざめた表情を浮かべ、胸の奥にそんな思いを呑みこむ大助の傍で梨紗は、そーあんって技
でしんとーけーがねー、とか続けていた。
11名無しさん@ピンキー:03/12/07 03:06 ID:H9yBRPRH
さてさてさて。
「この牛、どうしよう」
今しがたの騒動にも、われ関せずとばかりに泰然と構えている牝牛のキャサリンに目をやっ
て、大助は呟いた。あ、それと加世田先生も。
「うん……」
あいまいにうなずくと梨紗は近寄り、そっと大きな頭を撫でた。キャサリンはたいした反応
こそ見せはしないものの、黒い目を細めてされるがまま受けいれている。
「加世田先生の言ってたことは、間違ってなんかいないと思う」
誰にともなく、といった風に口を開いた。
「うん」
大助もひとつ、うなずく。
「でも、やっぱり……」
梨紗は少し、言葉を切った。
「できるなら助けてあげたいっていうのは、間違ってるのかな」
「間違ってないと、思うよ」
いろいろな事情と状況はあるし、どれだけ言葉を飾ったところで他の生命を糧にせざるをえ
ない。それでも、命をできるだけ大切にしたいと望み、理不尽な簒奪から守ろうとする想いは、
間違いであって欲しくはなかった。
と、もっともらしくしみじみしてみるものの。
今回はどう考えても先生やりすぎ。
ちょっと苦笑しつつも、穏やかにキャサリンの頭を撫で続けている梨紗、そんな光景をなご
んだ心地で眺めていた大助の背を、ひやりと氷柱が挿し込まれたような悪寒が疾った。
『!?』
背後で、徐々に膨れ上がる圧迫感。
梨紗も手を止めて目を見開き、こちら、いや、その更に後方を見つめていた。
『まさか』
冷や汗が額を伝う。
おそるおそる振り返ったそこに、ゆらりと悪夢が具現していた。
加世田先生、再起動。
12前スレ367:03/12/07 03:08 ID:H9yBRPRH
おっと、>>11が名無しのsage忘れに。
あきれたことに続きますが、ひとまず区切りです。
13名無しさん@ピンキー:03/12/07 09:58 ID:Ws8adyGV
とりあえず即死回避!だぁぁぁぁ!
皆、絶対に落とすなぁ!?
14名無しさん@ピンキー:03/12/07 13:31 ID:rO1PH5dx
保守sage
15名無しさん@ピンキー:03/12/07 13:37 ID:W5GAQIsD
乙!
16名無しさん@ピンキー:03/12/07 13:41 ID:HPvQdZj+
(゚д゚・∀・)ウマイイ
ってか双按ですかw
17前スレ367:03/12/07 13:52 ID:M6wU86iV
出かける前に自ら保守書き込み。
続きは深夜あたりにあげられそうです。

>>16
サッキヤマッ。
5回に1回しか出せないロシアンルーレットかも知れません。
18名無しさん@ピンキー:03/12/07 23:45 ID:b+9cqb0r
ドナドナ〜!!!
19前スレ367:03/12/08 06:31 ID:hUdl/i2p
 ぼっかーん。
そんな漫画の擬音じみた轟音けたたましく、資材小屋の壁面が内側から吹き飛び、転がり出
る影ひとつ。
 東野第2中学校家庭科教師、加世田先生の巨躯だった。
 わずかに遅れ、正面の扉を勢いよく開けて走り出てきた、共に小柄なふたつの人影。必死の
形相を浮かべた大助と、彼に手を引かれた梨紗だ。
 高速のタックルを仕掛けてきた加世田先生をかわせたのは、僥倖以外のなにものでもない。
勢い止まらず小屋の壁をぶち抜いていった先生を尻目に、大助は梨紗を連れて逃走に転じたの
だった。
「丹羽くん、ちょっ――待って〜」
「原田さん、おそっ」
「だ、だって」
 あんな一撃を放てても、基礎体力面は向上してないらしい。
 ちらりと背後をうかがえば、こちらを認識、捕捉した加世田先生が、今しも追跡に移ろうと
しているところだった。双眸からなにやら危険な光芒を放っている。すなわち正気を失って暴
走している状態、その2次元的表現だ――なんて冷静に判じている場合ではなく。
 仕方がない。
「ごめんね」
 さっと梨紗を横抱き、いわゆるお姫様だっこで抱えあげた。
『ああ、こんなところ梨紅さんに見られたらなんて思われるか』
 日頃のんびりした様子からは信じられない速度で疾走しながらそんなことを考えるあたり、
結構余裕がある。
「なにやってんの……?」
「そう、なにやってんのって梨紅さんに――わあっ!?」
 目の前に、スティックを握ったラクロススタイルの梨紅が立っていた。気がつけば、校舎裏
から一気に部活動まっさかりの校庭脇まで走りついていたのだ。
20前スレ367:03/12/08 06:33 ID:hUdl/i2p
 梨紗を抱き上げた大助を前に呆然と立ち尽くす梨紅。
「り……梨紅さ……」
「梨紅……ちょっと……誤解……」
 ぱっと梨紗を地面に下ろし、ふたりでわたわたと弁解にかかる。
「……もういい」
 梨紅がうつむいてそれだけ呟いた。なんだかその背に"ゴゴゴゴ"と書き文字が。
「あたし本当は不安だった……」
「はい?」
「ホントは……」
 顔をあげて見つめる瞳には、光る涙が湛えられていた。
「ホントは丹羽くんは、あたしが梨紗と『同じ』だから好きになったんじゃないかって!!」
「いや、だからね――」
 いきなりそんなシーンを再現されても。
「丹羽大助の」
 夕日をバックに、ラクロススティックが大きく振りかぶられた。
「うわきものーッ!!」
「ひいっ!?」
 唸りをあげる横殴りの凶器を、間一髪しゃがんで避けたその瞬間。
 ごっ。
 大助の頭があった位置で重い殴打音が鳴った。
 水面を跳ねとぶ平たい小石のように、激しくきりもみしつつグランドを吹き飛び転がってい
く加世田先生。
「あれ?」
 大助ではない別の何かを殴りとばしたと気づき、梨紅はけげんな表情を浮かべた。
 額に手をかざして梨紗もひと言。
「ないすしょっと」
「……アレ、ひょっとして加世田先生?」
「うん」
「うんって……うわっ、あたしとんでもないことをっ!」
 というか、加世田先生であの有様、もし自分が喰らっていたらとんでもないでは済まなかっ
た気がするんですけど。心臓が早鐘のような鼓動を刻む中、ふるえつつそう思わずにはいられ
ない大助だった。
21前スレ367:03/12/08 06:34 ID:hUdl/i2p
「あー、だいじょうぶそうよ、ほら」
 梨紗が指差した先では、前のめりに地面に伏していた加世田先生が、強化骨格と人工皮膚で
出来た人造人間、あるいはホラー映画の不死身系殺人鬼さながらにゆっくり起き上がりかけて
いるところだった。
「ああ、よかったあ」
「よくない!」
 我に返った大助は勢いよく立ち上がって叫んだ。
「早く逃げないと!」
「なんで?」
 きょとんとした表情を浮かべる梨紅。
「あのね」
 説明終了。
「そうなんだ」
「だから、原田さん抱えてたのもしょうがなくて――いや、そんなことより!」
 見れば加世田先生、早くもダメージから回復したらしく、完全に立ち上がってこちらを視認
していた。
「待って、丹羽くん」
 せかす大助を梨紗が止めた。
「ここで先生を止めないと」
「はい?」
 なんだか生真面目な顔でそんなことを言う。
「わたし達が逃げたら、被害は学校中に広がるでしょ」
 確かに、校庭はラクロス部をはじめさまざまな部が活動している。ここに暴走加世田先生を
解き放ってしまえばどれほどの惨劇を呼ぶものやら。
「でもどうやって……」
 あのタフネス無尽蔵の怪物をどうにかできる手段も自信も大助にはない。
「だーいじょうぶ、まーかせて」
 妙に自信たっぷりな梨紗の笑顔に、大助はなぜか悪寒を覚えた。
22前スレ367:03/12/08 06:36 ID:hUdl/i2p
「梨紅、こうなったらアレを呼ぶわよ」
「アレって……まさか、アレ?」
「そう、アレ」
「ええええ〜」
 梨紅はむちゃくちゃ嫌そうだ。
「アレ以外にどうやってこの状況を収められるっていうの?」
「いやでも、アレは……なんだかもっとひどいことになりそうで」
「今はそんなこと言ってられないわ。毒には毒、無敵の盾には最強の矛!」
 毒? 盾と矛?
「う……わかった、呼べばいいんでしょ呼べば」
 真っ赤な顔で恥ずかしそうに、不承々々右手を天に伸ばした。
 その掌に、傍らに立った梨紗が左手を伸ばして合わせる。
 きっ、と空を見上げ、ふたり同時大きくひと声。
「「坪内さーん、カァームヒアッ!」」
 その名前。銃声を耳にした小動物のごとく、大助はびくっと身をすくめた。忘れたくとも忘
れられない、深層心理に墨痕淋漓と極太明朝体で刻み込まれた恐怖の言霊。
 夕闇の迫り始めた空の一点、きらりと光芒が生じ、徐々にこちらへ近づき遂には――。
 衝撃音高く原田姉妹の前に落下した。
 地面に小型のクレーターが生じ、その中心、もうもうと立ち込める土ぼこりをまとい立つ影。
「鉄の拳に怒りをのせて、護れふたりのお嬢様。
執事坪内、お呼びに応えてただ今見参」
 恭しくひざまずいた鉄拳執事、その人であった。
23前スレ367:03/12/08 06:37 ID:hUdl/i2p
「なんなりとお申しつけください、お嬢様方」
 いつものごとく漆黒のタキシードに身を包んだ坪内さんは、粛然かつ泰然と口を切った。
「あのね」「承知しました」
 梨紗の言葉をそれだけ聴くや立ち上がり、傍らで腰を抜かして言葉もなく震える大助を眼鏡
越しにぎろりと見据えた。
「成敗」
「ごめんなさいごめんなさい!」
「それちがうから」
 すこーん。
 つかつかと大助に迫る坪内さんの側頭部を、スティックで引っぱたいて梨紅が止めた。
「見事な打ち込みでございます、梨紅お嬢様。して、この小僧めがまたふらちな真似を働いた訳
ではないのですか?」
「じゃなくて」
 その時、彼らに凄絶な鬼気が吹きつけた。
 坪内さんが目を細め、ゆっくりとその発生源を振り向く。
「ほう……人間相手にこれほどの圧力を受けるのはひさびさ」
 抑えきれない悦びを言外ににじませた坪内さん、表情こそ常と変わらぬものながら、なにか
こわいものが皮下に張り詰めているようだ。
 加世田先生も本能のうちに容易ならざる相手を迎えたと悟ったか、じっと身構える様には高
駆動のモンスターマシンが低くエンジンをふかしているかのような不気味な静けさがあった。
 龍虎相争。
 夕暮れの気配立ち込める中、人にして人の果てを踏み越えんとするものふたり、今ここに対
峙した。
24前スレ367:03/12/08 06:38 ID:hUdl/i2p
 左足を前に半身となり、体重は肩幅に開いた両脚に均等に乗せる。顔は首を据えて相手に向
け、顎を引きその下に右拳を据えつつ、左腕は肘を湾曲90度に保って脇につけた。坪内さんの
とった構えは、意外にも近代ボクシングにおいてデトロイトスタイルと称されるそれに近い。
 対する加世田先生は構えらしいポーズもなく、ただ正面を向いて腰を落とし猫背気味に上半
身は屈め、両腕をだらりと垂らしたままだ。
 曲げた左腕――さながら死神の鎌をひゅん、ひゅんと左右に揺らしつつ、軽いが浮ついては
いないステップを踏んで、坪内さんが間をつめる。
 左拳がほとばしった。
 コンパクトでスナッピーなジャブを一発、そこから放った左拳をもどしきることなく軌跡を
変えて二発、さらに三発。
 その三連打、フリッカージャブのトリプルを加世田先生は避けるでもなく、真正面から顔、
いや額で受け――三発目と同時に踏み込んで右の拳を突き上げた。
 かろうじて直撃をスウェーでかわした坪内さんの紅い蝶ネクタイを、かすめた拳圧がちぎり
とばす。
 お互いに軽く後退、距離をとった。
 カウンターと呼ぶなら相手の打撃を避けてこそ、まともに喰らいながら狙う攻撃、それは相
打ちだ。しかも、牽制とはいえ坪内さんのジャブは決して手ぬるい小手先の技ではない。だが、
加世田先生の額は赤く腫れ軽い出血こそ見られるものの、それ以上のダメージはなさそうだ。
前に出ることでインパクトポイントをずらしたうえ、残る衝撃をみっちりと太い首が吸収して
しまったのだろう。あらかじめリスクを覚悟しつつ、ハイリターンを狙った相打ちだったのだ。
 坪内さんも右揚げ突きを避けた際、左の爪先を下からとばして下腹を襲ったが、やはりポイ
ントをずらされた上に硬質ゴムのような腹筋を固めて受けられた。もっとも、これはダメージ
を狙ったものではなく、追撃をふせぐ出足止め目的だったので構わない。
 それにしても、後退を選択させられたのは久しぶりのことだ。
25前スレ367:03/12/08 06:43 ID:hUdl/i2p
「ふむ」
 軽く吐息を漏らした坪内さんは、ちぎれて首に絡まった蝶ネクタイを外して襟元をくつろげ、
くるりと身を転じた。
「お嬢様、これをおねがいします」
 蝶ネクタイを丁寧に内ポケットに納めてから、銀縁の眼鏡を外して梨紅に手渡すと相手に向
き直り、再び先と同じ構えをとった。
「坪内さんが眼鏡を外すなんて……」
「初めてみたわ……」
「そ、そうなの?」
 梨紅と梨紗の言葉にどう反応したものかとまどう大助。
『ひょっとして、僕達解説役?』
 そんな外野は尻目に、
「この身体は当然至極、さらには身に着けたもの一片余さず我が主、原田の家に捧ぐもの」
重々しく、坪内さんが口を切る。
「それを汚し傷つけられるは己が未熟。されど……」
 すう、と息を吸い、石を投げつけるようなひと言。
「手を下した貴様の罪もまた、異様に、重い」
 宣告終了直後、鉄拳執事と格闘教師は、磁石の異極が引き合うごとく互いに間合いを詰めて
いった。
26前スレ367:03/12/08 06:47 ID:hUdl/i2p
 一足一拳の間境を踏み越えるや、まったく同時に顔面めがけて右の鉄拳と剛拳が火を噴き合
う。ごつりと骨が骨を打つ鈍い激突音もまた同時。固めた拳を額で受け合ったふたりは、さら
に逡巡なく左拳による二撃目、鉤突きを空いた脇腹へ繰り出したが、これもまた、水を吸った
油粘土、それを隙なく詰め込んだような腹筋を締めて、ダメージを遮断し合う。
 三撃目、加世田先生の顔が迫る。大きく口を開き、歯茎までむき出して。
 かみつき。
 だが、坪内さんにとっては格別驚くべき行為でもない。無造作に頭突きを相手の鼻っ柱にめ
り込ませて退けた。
たまらずのけぞる加世田先生。初めて与えられたダメージらしいダメージであり、また逃す
べくもない戦機。崩れた態勢を立て直そうとする人体は、自然と吸気を行なう。そこへ打突を
与えれば、衝撃はいくぶんも減じられることなくそのまま浸透する原理、それすなわち、いか
なる打たれ強さを誇ろうが、この瞬間の耐性は零にひとしい。
 迷いなく、畳みかけに放った右直拳はしかし、グローブめいた掌に捕捉されていた。
 坪内さんの前腕を、加世田先生両の手がしっかりとつかみ――なおつかみしめた。
『む――』
 投げ技でも逆技でもないそれは、握力による圧力。
 万力のごとく握られた腕、その肉と血管が異様な膨張を始めたと察する前に坪内さんは応じ
ていた。落とした重心、地面から還る力を腰から肩、腕へと波状に伝え、全身を連動、協調さ
せ、雑巾を絞るように一気に内へひねる。
 加世田先生の両足が地を離れた。巨体が握った右腕を中心にぎゅるりと空中を一回転、大き
く跳ねてやや距離をおいた地点に着地していた。
 頭から地に落とすはずだったが、相手自ら跳んで流れに乗ってやり過ごしたのだ。
 改めて、力だけの者ではない、ということか。
27前スレ367:03/12/08 06:49 ID:hUdl/i2p
『今のって』
 目の前で展開した一連の攻防に、視覚で追いつくだけで精一杯だった大助は、いっとき生じ
たこの間に脳内で整理していく。
 先ずは二発、常人、例えば自分ならそのうち一発だけでも致命打になりかねない打撃を互い
に打ち込み合い、そこから加世田先生のかみつき。それを造作もなく坪内さんが頭突きでしの
ぎ、追い撃ちと繰り出した突きは受けられ――次だ。
 加世田先生は坪内さんの前腕を両手で握り締めた。それだけだが、それが途方もなかった。
握った手と手の間で坪内さんの腕がほんの一瞬、異様に膨張しかけていた。
 つまり、常識を逸した握力による同時圧搾が生む人体破壊。それが正体だ。
 あのまま続けていたら、坪内さんの腕は内側から内側から爆ぜたように……。
 だが、対する坪内さんの切り返しもまた常軌を逸していた。
 右腕を内にひねる――内旋させただけで加世田先生が宙に舞ったように見えた。おそらくは、
一部の技術体系において"合気"と呼ばれる技法と等質の身体操法。そういう身体と力の使い
方と、かくあらしめる課程があると知ってはいる。それでも、
「デタラメ人間万国びっくりショーだよね」
冗談じみた攻防に苦笑せずにはいられない。
28前スレ367:03/12/08 06:50 ID:hUdl/i2p
 かつて慣れ親しんでいた衝動が坪内さんを駆り立てる。
 相手を測りこそすれ、見くびったことなどない。ものごころついてより、そうでなければ生
き抜けない世を渡ってきた。
 だが、仕えるべき主を、家を見出し、穏やかな陽光射し込む世界に生きるようになってこの
かた、確かに社会常識に合わせて己を律し、枷を課してはきていたのだ。
 しかし、この対手、強敵と書いて好敵手と呼ぶにふさわしいこの者に対しては、そのくびき
を解いても構わないらしい。
 何十年ぶりか。
 笑みが浮かぶ。それは、原田家に仕えるようになってこのかた、ことに双子の姉妹を世話す
るようになってからは見せたこともない、凶獰な歓喜の笑みだった。
 封印した獣の性を、いまひとたび。
29前スレ367:03/12/08 06:52 ID:hUdl/i2p
 大気の質が変わったような気がした。
「ちょっと、梨紗」
「うん、梨紅」
 大助と並んで怪獣大決戦を見守っていた梨紅と梨紗も、なにやらひそひそささやき合う。
「な、なに?」
 訊きたくないけど尋ねてみた。
「うん、えーと」
 梨紅もすごく言い難そうだ。
「坪内さん、きれちゃったみたい」
「きれ――」
 大助、絶句。
「ええええぇぇぇぇっ!?」
「丹羽くん、落ち着いて」
「梨紗、あんたは少し慌てなさい」
「きれたって……」
「きれたっていうか、リミッター解除っていうか」
「もう誰にも止められないってことね」
 ぴっと人差し指を立てて、にこやかに梨紗が結論付けた。
「そんな――」
 ごがあぁぁぁん。
 破砕音が轟いた。
30前スレ367:03/12/08 06:54 ID:hUdl/i2p
「!?」
 目をやれば、校舎の壁に砲弾でも打ち込まれたな大穴がぽっかり空いている。
 タックルで坪内さんを捕らえた加世田先生は、勢いを殺さず相手を壁に押し当て、空いた手
で殴りつけたところをかわされ壁面を打ち抜いたところ、その腕を取られて背負い投げで穴の
空いた壁めがけて背中から叩きつけられたのだ。だが、もうもうと立ち込める粉塵の中、加世
田先生はこたえた風もなく立ち上がると坪内さんに躍りかかっていく。
「ああ、去年の地震にも耐えた校舎のコンクリート壁が、まるで豆腐のように」
 再び繰り返されるはた迷惑な死闘に頭を抱える大助だったが、気を取り直して思考を巡らせ
にかかった。
 どうにかしなければ、戦火は広がるばかりだ。
『坪内さんだけなら、梨紅さん達で正気に戻せるかも知れないけど』
 全力稼動のディスポーザーと化した闘いの場に、ふたりを放り込む危険は冒させられない。
 と、いうことは。
 深いため息が漏れる。
 それでも、大助は覚悟を決めて修羅の戦場へと足を踏み出した。
「丹羽くん、どこいくの!?」
 驚いた梨紅の声。
「ええと、やっぱりこのままにはしておけないかなあって」
 困ったような微苦笑を浮かべてみせた。
「それはそうだけど……丹羽くんが行っても――」
「役には立たないよね」
 梨紅の言葉に梨紗が結論を継ぎ、大助にダメージを与えた。
「ていうか、人間には無理だと思う」
「警察か軍隊の出番よ、もう」
 さらりと人間扱いしてないし。
31名無しさん@ピンキー:03/12/08 06:56 ID:hUdl/i2p
「それは……」
 そうかも、と納得しかけて頭を振る大助。
 闘争による破壊が続く校舎では、さすがに他の生徒達も気付いて取り巻いたり、二階三階の
窓から顔を出している数が続々増えていく。
 冴原がさっそくスクープ写真を撮ろうと近づいて――あ、巻き込まれて吹き飛んだ。
 しばし惨状に目をやっていた大助だが、ふっと肩の力を抜くと、梨紅を振り返った。
「梨紅さん、時間ある? 明日」
 まっすぐに見つめて、尋ねる。
「え?」
「また明日、逢いたい」
「ん……」
 真摯な眼差しに、少しだけとまどった表情を見せたものの、
「うん! 約束だよ」
 すぐに満面の笑顔で梨紅はうなづいた。
 大助も笑顔を浮かべる。
「ぅあぁっつうぅ〜」
「うわっ!?」
 ほのぼのフィールドを展開するふたりの間に、ずい、と梨紗が首をつっこんだ。
「冬なのに、この辺だけやんなっちゃうぐらいあっついのよねえもぉ〜」
 目も据わってすっかりラブコメ死ね死ね団と化している。
「とにかくっ!」
 顔を真っ赤にして大助は叫んだ。
「僕がどうにかしてなんとかするから、梨紅さん達は安全なところへ!」
「そんな、丹羽くんひとりで行かせるなんて――」
「むー、ラブコメきんし〜」
「ですわ〜」
「大ちゃんかっこいいわよ〜」
「だからそうじゃなくて――って、ええっ!?」
 増えた。
32前スレ367:03/12/08 06:57 ID:hUdl/i2p
「好きな子のために危険に飛び込む……大ちゃんすっかりおとなになって、母さんちょっとさび
しいけどうれしいわぁ」
「おとなの階段ですわね〜」
「か、母さんにトワちゃん、なんで学校に!?」
「それはもう、母さんいつでも大ちゃんを見守っ」「お夕食の買い出し帰りですわ」
世迷言を口走りかける笑子の台詞を、買い物袋を両手いっぱいにぶら下げたトワちゃんがに
こやかに遮る。
「そばを通りかかったので覗いてみたら、なにやら楽しげな皆さんを見かけましたので」
 楽しげですかそうですか。
 脱力する大助の背後でまた破壊音。
 加世田先生が壁を突き破って校庭に転がり出していた。さしてダメージを受けた風もなく、
受け身をとって身軽に立ち上がる。続いて、空いたばかりの大穴の向こうから、坪内さんが、
ずい、と現れた。
「あら、あの方達は?」
 状況を察しているやら、笑子の質問はのんきなものだ。
「あ、家庭科の加世田先生と」
「うちの執事の坪内さんです」
 梨紗と梨紅が複雑な表情を浮かべながら順に指差して応える。
「あらあら、それじゃあご挨拶しとかないと」
 さらりとそんな言葉を残し、対峙するふたりのもとへ歩き出した。
「……かっ……母さんっ!?」
 息子として母の突飛な行動はこの14年間身に染みていたとはいえ、ここまでとは。
 あまりの事態に固まる大助を尻目に、笑子はすいすい加世田先生に歩み寄ると、
「初めまして、わたくしこちらでお世話になっております丹羽だ――」
 ぶん、と加世田先生の丸太のような右腕が無造作に外向きになぎ払われ――地響きを立てて
その巨体は仰向けに倒れていた。
33前スレ367:03/12/08 06:59 ID:hUdl/i2p
「先生、暴力はいけませんわ」
 変わらずにこやかに、笑子がいさめる。
 大助は、母と加世田先生の間に割って入りかけていた動きのまま、事態が呑み込めず未だに
硬直していた。
 つかむ、という風でもなく、加世田先生の右手に添えられた笑子の両手は比べるまでもなく、
細い。その手が迫る右腕をいなし、勢いを乗せて相手を崩し引き倒したのだ。
 丹羽笑子。彼女もまた丹羽の血と技を受けた者だった。
 彼女の繊手による制圧を払いのけて加世田先生が跳ね起きた。
「あら?」
 笑子の声には、驚きとけげんな響きがあった。蛮力では外せない自分の抑え、それを見事に
抜けた力量を読み取ったのだ。
 加世田先生の右脚が大きく後ろに振り上げられた。まるでシュートを決めるように、思い切り。
 ぶんっ。
 蹴り上げた。
 無造作な、あからさまに過ぎるテレホンキックはしかしまっすぐ標的の中心を捉え、躱しも
許さず受ければ打ち砕かれるものだった。
 笑子の身体が翔んだ。
「か――」
 あさん、と叫びかけた大助は、直後に悟って言葉を切った。
 高々と校舎の2階まで打ち上げられた笑子は、すとん、と、窓枠のわずかな出っ張りに着地。
内側から校庭を覗いていた学生の唖然とした視線に、
「はぁい」
と笑顔を返してみせた。
 加世田先生の蹴りを"受け止めた"のではなく"乗った"のだ。大助はそう見て取った。かつて、
大助自身も坪内さんの蹴りに対してこの借力法で逃れたことがあった。しかし、いくら母が軽
量とはいえ、校舎の2階まで達したあたりは加世田先生の力量をさすがと称するべきか。
 その笑子が窓枠にとどまったのも一瞬、身をひねりつつ踏み切った。
 ふわりと舞い降りゆく先は、加世田先生の頭上。
 対する先生は、対空迎撃体勢を整えていた。スタンスを大きくとって腰を深く落とし、全身
を限界までひねりたわめ、右拳は砲丸投げさながら顎脇につける。
 天より舞い降りる笑子と、地にて迎え撃つ加世田先生。
 両者の接触はすみやかに訪れた。激突音も破壊音もなく、ただ静かに。
34前スレ367:03/12/08 07:00 ID:hUdl/i2p
「うそ……」
 我が目を疑う大助。
 笑子は突き出された加世田先生の拳に乗っていた。突き上げられた巨拳の上に片膝をつくよ
うに屈み、両掌で柔らかく包み込んで。落下しながら高射砲じみた一撃を吸収したのだった。
「失礼しますね、先生」
 闘争の場にはそぐわない言葉が囁かれたその時、笑子は伸びた腕をするすると伝って移動し
ていた。はっと気付いて振り払おうとしても既に遅く。笑子のしなやかな両脚が太い首に絡み
つき、そこから身をひねりつつ勢いよく背後に倒れていく。
「っ!」
 頚動脈を両側から圧迫されながらもこらえようとする加世田先生の片脚を、ぶら下がる速度は
そのままに笑子の両手が刈った。
 軸を失い上半身が持っていかれる。
 ぐるんと反転した。
 地響き。
「よいしょ」
 冗談のごとく頭で地面に突き刺さった加世田先生から、笑子が身軽に跳び離れた。
 自分の両脚で首を絞めながら倒れ込み、同時に脚の関節を捉え極めつつ頭から地面に叩き
つける。いかに不死身のタフネスを誇る加世田先生とはいえこれは――。
「ぬうううぅぅぅぁぁぁあああっ!!」
 復活した。ぼこりと地面から頭を引っこ抜き、窓を震わせ土くれを舞い上げる雄叫び。
「あらあら」
 目を丸くした笑子の声はさすがにびっくりしたようである。が、それもいっとき。すぐに新た
な微笑を浮かべ、滑るように歩み寄っていった。エアホッケーのパックが進むような、速さを
感じさせない、しかし相手の知覚反射を偸んだ隙間にするすると滑り込む歩法。
35前スレ367:03/12/08 07:02 ID:hUdl/i2p
「ぬ――」
 無造作に間境を踏み越え眼前に現れた相手めがけて、反射的に拳を放とうと重心を前脚に
移して踏み込みかけた加世田先生の前足膝頭に。
 とん、と。
 笑子が踏み乗っていた。階段を登るように片脚を掛けて、そこから加世田先生から遠ざかる
ように翔ぶ。身をひねり、クロスした両脚先で相手の頭部をはさみつつ。
 ひゅぱっ。
 空気を裂く音。
 夕日を遮って笑子が宙を舞い、ふわりと地に降り立つと同時に、加世田先生ががくりと膝を
つく。白目をむいて完全に失神していた。
 頭部をはさんだ両脚が一気に開かれ、頭を揺らして脳の働きを断ち切ったのだ。肉体の耐久
力を誇るならば、その意識を絶ち切る。相手の動き、そのおこりに合わせた刹那の絶技だった。
「ええっと」
 笑子は困ったように口を開いた。
「やっぱりそちらの方も?」
 振り返った先に、異様な拳気を発散し続ける坪内さんの姿があった。
 加世田先生を、自らの獲物にして好敵手を倒した笑子を、完全に標的と見なしてしまってい
るのだ。
 坪内さんは歩幅を広くとると、すっと腰を落として左前半身に構える。上半身は腰から頭頂
までまっすぐに、右拳は脇腹につけ、左手は自然に開いて左膝前付近に置く。
「あれは……」
「音速拳の構え……」
 梨紗と梨紅が交互に口を開く。
「おんそくけん?」
「全身関節の協調加速によって生み出される、まさに音速にも匹敵する突きよ」
「あの技は、相手のどんな接近、攻撃すべてにカウンターをとれるの。いくら丹羽くんのお母さ
んでも……」
 梨紅さん達、すっかり解説役にはまってるなあ。いや、それより坪内さんから何を教わって
いるのか本気で心配になってくる大助だったが、ともあれ今度という今度こそ母の危機である。
36前スレ367:03/12/08 07:04 ID:hUdl/i2p
数メートルの距離をおいて向かい合う笑子と坪内さんの間に、乾いた風が吹き流れた。
 じり、と。動いたのは坪内さんだ。足指で含むように、わずかではあるが確実に間合いを詰
めに掛かる。
 対する笑子はといえば『困ったわねえ』とでもいいたげな様子だ。加世田先生の間合いを偸
んだあの歩法は、一度見られた以上は通じまい。つまり、動けば狙われる。だが、動かずとも
このままでは捉えられる。あとほんのひと足踏み込むだけで。
 一触即発の対峙空間に、有りえざる影が差し掛かったのはその時だった。
 加世田先生が立ち上がっていた。
 意識は失ったまま、ただ闘争の気配にその肉体が反応したものか。
 吹きつけた闘気に応じずにはいられなかったのは、やはり純粋な闘鬼たる坪内さんだった。
 ほんの一瞬、須叟と呼ばれる間の空白、それこそを突いて。
 笑子は坪内さんの目前に立っていた。
「ぬうっ!」
 音速の拳が――。
 ひゅぱっ。
 主婦の両脚が、鉄拳執事の頭部をはさみ刈った。
「あら?」
 その両脚に覚える違和感。
 着地から振り返った笑子が見たものは、音速拳を打ち出しかけた姿勢のまま、首がいろいろ
問題ある方向にひん曲がり、顔が背中向きになった坪内さんの姿だった。
「あらあらあら」
「うわーっ! うわーっ! うわーっ!」
 さすがに目をみはる笑子と、度肝を抜かれて声をあげる大助。
37前スレ367:03/12/08 07:05 ID:hUdl/i2p
「あー、丹羽くんだいじょうぶだから」
 投げやり気味にそう告げた梨紅は、未だに構えを崩さず音速拳を放とうと間合いを詰めてい
る坪内さんに近づいていった
 ラクロススティックを大きく振りかぶって。
「せーの」
 ぱこーん。
 思い切り頭部をひっぱたいた。
 ぎゅるん、と180度反転していた坪内さんの頭部が元にもどる。
「お」
「気がついた、坪内さん?」
「……梨紅お嬢様、なぜ私はこのようなところに?」
 穏やかに問い掛けるその眼差しからは、先ほどまでの拳気は失せてしまっている。
「あ……お……ええ!?」
「あのね、坪内さん、首の骨はずすくらいどうってことないんだって」
 こともなげな梨紗の説明。ああ、それで母さんの技による衝撃を逃がして――いや、いくら
なんでもソレは無茶というものでは。
「やっぱり人間じゃない……」
 どっと疲れを覚える大助だった。
38前スレ367:03/12/08 07:08 ID:hUdl/i2p
 さて、以下はてん末。
 気を失った加世田先生は大助の手で保健室まで運ばれたが、後ほど目覚めると、資材小屋以
降の出来事はきれいさっぱり都合よく忘却してしまっていた。
 坪内さんも同様に、首をひねりつつ原田家に帰っていった。
 笑子も「いい運動したわねー」などと、相変わらずのん気な言葉を残してトワちゃんと帰宅。
 こうして学校の一部に爪痕を刻みながら、二大怪獣の激闘プラスアルファは終結した。
 なお、後日牛のキャサリンは学校で飼うことになり、生徒達によって世話をされていたりする。

 その晩の原田家。
「りーくー、料理おしえて〜」
「いいけど、どうしたの? 自分から言ってくるなんて熱心じゃない」
「えーと、ちょっとね」
「ひょっとして、加世田先生の特訓の成果?」
「うーん、まあそんなとこかな。あ、坪内さん、後で練習見てほしいんだけど、いい?」
「もちろん喜んで。毎日の積み重ねこそが、功夫を高める唯一にして最善の道ですからな」
「うん、お願いね」
39前スレ367:03/12/08 07:10 ID:hUdl/i2p
 一方丹羽家、大助はというと。
「大ちゃ〜ん、ごはんよ〜」
「はぁーい」
 笑子の呼ぶ声に返事をする。
 食堂に入ると、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。
「今日の晩ご飯、なに?」
 テーブルに食器を並べていたトワちゃんに尋ねる。
 大助の問い掛けに、トワちゃんはにっこりと微笑むと、
「今日のメニューは、笑子さまとわたしで腕によりを掛けて作った」
ぴっと人差し指を立ててこう応えた。
「ハンバーグですわ〜」
「……え?」
 ひきっ、と大助が固まった。
「あら、どうしましたの?」
「な……なんでもないなんでもない。あはは、い、いただきまーす」
 またしてもトラウマが増えていたりするのだった。
40前スレ367:03/12/08 07:12 ID:hUdl/i2p
という訳で、長いですが最後まで一気に。
深夜と言っておきながら、結局朝になってしまいました。
しかし、ハァハァ小説スレなのに……_| ̄|○
41名無しさん@ピンキー:03/12/08 12:11 ID:iCWmOp+j
いいよいいよ〜!!
42名無しさん@ピンキー:03/12/08 12:34 ID:svMRxUvi
お疲れさまです〜
やばいおもしろすぎる
えあかっとたーみねーたー…(;´Д`)
43名無し@ピンキー:03/12/08 18:45 ID:v8c8pfQy
ハァハァはなかったけどおもろかったっす
坪内さんの前向上って某勇者特急ですかい?w
44名無しさん@ピンキー:03/12/09 00:39 ID:LdgHM612
遅くなったけど新スレ乙
45名無しさん@ピンキー:03/12/09 00:46 ID:P+wyGo65
みんな今すぐ前スレにいけ!
46前スレ367:03/12/09 02:34 ID:2xVZTOIp
>>43
激しくわかりやすいですが、ソレです。

しかし、某エアネタといい、DN視聴者or読者にはかぶらなそうなネタばかりで恐縮。
47名無しさん@ピンキー:03/12/09 17:47 ID:IOfN4332
いやぁ・・・・あいかわらず笑かしてもらいましたw
ちょくちょくこういうのも読みたいですww
48前スレ580:03/12/11 18:15 ID:acGtRY7F
保守保守っと
しかし自分、筆遅いなぁ、っていうか筆が重い(´д`;)
49前スレ367:03/12/12 05:27 ID:ZZx/2SDk
同じく保守
>>48
2ヶ月もの間をあけて投下した自分なんて……。
ま、まあマイペースで。
50前スレ580:03/12/14 00:23 ID:B2aT0NRo
ほっすほっす
ところでそろそろ序盤数行でも出すべきかしら
ホントに数行だけど⊂⌒っ.д.)っ
51名無しさん@ピンキー:03/12/14 00:51 ID:HJaRx1M8
それならマターリまってるからある程度まとまってから出してください。
でないと冷めてしまいますので。
52名無しさん@ピンキー:03/12/14 00:59 ID:B9HKLU0C
御本人が納得できる形で投下してくださいな。

待ってます。
53125:03/12/14 23:02 ID:/lsSBOMm
 彼女は、やはり答えずに僕を見据えている。瞳には光が宿ってなくて、生気を微塵も感じ
させない。
「どうして原田さんが紅玉を使ってみんなを……。それに、梨紅さんにこんなことを」
 梨紅さんの名前が出た瞬間、わずかに原田さんの表情が揺らいだ気がした。けどすぐに
その顔は能面のような無表情に戻った。
 みんなが紅玉に取り込まれたのは、紅玉自身の力が強大すぎたせいだとトワちゃんに説
明してもらっていた。みんなは巻き込まれてしまっただけだで、それが原田さんのせいじゃ
ないことは分かっていたけど、どうして梨紅さんだけ特別な扱いを受け、原田さんが梨紅さん
の姿をしているか分からない。
 知ることができないから納得できないところが多々あるけど、それを問いただす時間もあま
りない。
「言いたくないなら構わないよ。けど、紅玉だけは」
「知りたい?」
 不意に原田さんの口から紡がれた言葉に、僕の言葉が遮られた。返事を聞くことなく、彼女
は淡々と続けた。
「私は、その子が嫌い」
 敵意を剥き出しにした視線は僕の背後――梨紅さんへ向けられている。彼女の目がここで
初めて光を宿した。とても暗い光を。
「梨紅は……梨紅は何をしてもうまくやっちゃう子なんだ」
 その声は沈んでいて、哀しみに満ちている。
「丹羽君も分かるでしょ? あの子と同じクラスの人なら」
 運動ができて成績もよく、料理も上手。性格もはきはきしていてみんなから慕われている。
確かによくできた人だと思う。
54125:03/12/14 23:03 ID:/lsSBOMm
「けど、それがどうして……」
「分からないのッッ!?」
 非難するように荒げられた声。同時に強烈な痛みが頭を砕こうとした。
「ぐぁ――ッ」
 つい先程、扉の前で出逢った少女の時と同じ質の痛み。
(さっきの比じゃないっ)
「ご主人様!」
 レムちゃんの心配する声が耳に届くけど、ひどく遠くに聞こえる。それほどまで頭の中に
は原田さんの叫びが響いていた。
「あの子が何かするたび、私は惨めな思いをしてきたのよ!」
「うわあぁっ、ぁああッッッ!!」
 彼女が声を荒げるのに比例して、頭を犯す痛みはより鋭敏なものになっていく。立って
いることもままならず、膝を折り突っ伏しそうになる身体を左手で支えた。もう片方の手で
頭を押さえるけど、気休めにもならない。
「あの子は何をやっても褒められるの! それがどれだけ私にとって重荷だったか丹羽くん
に分かる!? 嫌いなのよッッ!!」
(これが、原田さんの負の感情……ッ)
 痛みが支配する頭で、それだけは理解できた。お姉さんに対する劣等感が、この惨事の
引き金になっていたんだ。
「うああああッッ!!」
 原田さんが何かを捲くし立てている。レムちゃんが必死に叫んでいる。けど、その声が耳に
入っても頭に届くことはなかった。言葉の意味さえ判断できないほど頭は激痛に苛まれていた。
55125:03/12/14 23:04 ID:/lsSBOMm
「私は、あの子に勝ってるところなんてないのよ! 比べられて、蔑まれて、もうそんな思い
はたくさんなのっっ!!」
 響き渡る痛みが、ひどくなる痛みが、彼女の感情を代弁している。
 ――知らなかった。分からなかった。原田さんがこんな思いを抱いていたなんて。憎しみ、
怒り、恐れに妬み。暗い感情が僕の頭の中に直接渦巻いてきた。それだけ、梨紅さんのこと
が嫌いだったのだろうか?
(…………違う)
「ご主人様、死んじゃいやですっっ!」
「それに梨紅ってば、私から……私の好きな」
「違うよ」
 二人の言葉がようやく意味を成して頭に入ってきた。僕は、原田さんが言いかけたことを遮っ
て口を開いた。
「違う……違うよ」
「何が? 何が違うって言うの?」
 痛い。頭じゃなく、胸が痛い。原田さんの声が悲しみと苦しみに満ちて聞こえる。彼女の表情
は辛さが伝わってくるほど哀愁に染まっている。
「違わないわっ! だって、私は梨紅のことを」
「じゃあ、どうして泣いてるの?」
 それを口にした時、彼女は初めて気付いたように息を呑み、頬に指を這わせた。
「あ――――」
 不思議そうにその指先を見つめる様は、さっきまで激昂していた気配を微塵も感じさせなかった。
「本当は梨紅さんのこと、嫌いなんかじゃないんだよ?」
 原田さんの気が削がれたためか、頭の痛みも治まりをみせてきた。重くなった身体をどうにか
立たせ、彼女に一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄った。
56125:03/12/14 23:06 ID:/lsSBOMm
「ち、ちが……」
「違わないよ。原田さんは梨紅さんのこと、」
「違う、違うわ!」
 三度頭を破壊する痛みが走った。けど慣れたせいか、痛み自体が弱まったせいか、耐え
切れないほどじゃない。足は緩んだけど、止めはしなかった。
「梨紅さんのこと、嫌いなんかじゃない。本当は」
「い、やぁ。お願いだから、もう近寄らないで……」
 拒もうとする声は弱々しく、頭痛もほとんどしなくなっている。
「本当は梨紅さんが――お姉さんが大好きなんだよ」
 息遣いが聞こえるほどの近距離で、僕は彼女の両手を取って力強く握り締めた。
「誰も原田さんのことを蔑んでたりしないよ。だって」
 光り揺れるその瞳を見据え、優しく語りかけた。
「みんな原田さんのことが大好きだから。僕も、もちろん」
 言ってから少し恥ずかしくなった。照れ笑いを浮かべていると、それに対して彼女は表情を
歪めて俯いてしまった。
「? 原だ――」
 理由を聞く暇もなく、原田さんの頭が僕の胸にもたれかかってきた。
 小さな肩を震わせ、ゆっくりと嗚咽を漏らし始めた。憑り付かれたように泣き続け、時折り
ごめんなさいという呟きが聞こえた。何に謝っているのか分からない。ただ、今の僕には胸を
貸すことしかできなかった。
 胸の中、いつの間にか彼女の容姿は原田さんに戻っていた。
57125:03/12/14 23:07 ID:/lsSBOMm
「丹羽大助」
 今の今まで沈黙していたトワちゃんが僕を呼んだ。その声は少し元気がなく、どことなく
疲れた印象がある。
「原田梨紗ちゃんの心が澄んでいってますわ」
「本当? よかったぁ」
「まだ安心するには早いですわ。さ、紅玉を砕いてください」
 危うく忘れそうだったことを思い出した。紅玉を砕かない限り、みんなはまだ夢の世界に
取り込まれたままだった。
「原田さん。お願い、紅玉を渡して。そうしないとみんなが……」
「うん。分かってる」
 少し疲れが混じっていたけどしっかりした口調で答えた。目尻を指で拭って上げた顔は、
いつもの原田さんだった。
 彼女の両手がするりと僕の手から抜けると、胸の前で手を組み、そして差し出してきた掌
の上に『夢見の紅玉』があった。その色は初めて目にしたときと同じ綺麗な色をしている。
「私が頼めることじゃないけど……みんなを助けてあげて」
 頭の中に響いてくることはないけど、彼女の気持ちがはっきりと分かる。自分一人のせい
でみんなを巻き込んでしまった罪悪感。その感情を刺激しないよう優しく、大きく頷いた。
「ありがとう」
 再び涙を流しそうな彼女から紅玉を受け取り、床に転がして思いっきり踏みつけた。
58125:03/12/14 23:08 ID:/lsSBOMm
「――あれ?」
 足の裏に伝わる感触に違和感を覚え、紅玉から足を退けた。見ると、紅玉は何事もなか
ったように傷一つさえついていない。さらに見ると、踏みつけた靴底の方に小さな切れ目が
ついている。
「ルビーは硬いですからねえ。…………へ? あ、あのご主人様どうしてわたしを掲げて」
「ごめんね」
 えいっ、と気合を込めて蒼月の盾をルビーめがけて振り下ろした。
「ひぎゃッ」
 レムちゃんがかわいい悲鳴をあげるのに重ね、盾からルビーが砕ける感触が伝わってきた。
「よし」
「よくないですぅぅ……」
 声の主が僕の目の前に降りてきた。鼻の頭は赤く腫らし、涙目で訴えてきた。
「ほ、ホントにごめん」
 今にも泣き出しそうに瞳を揺らすレムちゃんに、幼女を相手にしているような感じを覚えた。
機嫌を直してもらおうと心からごめんを繰り返していた時、異変は起きた。
59125:03/12/14 23:08 ID:/lsSBOMm
 身体を小さく揺らす微細な振動が起きたかと思うと、回りの景色がガラス細工を叩いたよう
にひびが入り、弾ける音を立てて消し飛んでいく。
「何が起きてるの?!」
「紅玉を砕いたためにこの世界が存在できなくなったのですわ」
 答えてきたのはトワちゃんだ。その声はさっきにも増して疲労の色が現れている。
「急いで脱出しませんと、丹羽大助――あなたの命に関わりますわ」
「そんなッ! まだ退路は確保できてないんだよ?」
 口にして、自分だけが未だに絶望的な状況にいることを思い出した。他の人と違ってこの
世界で僕は異端の存在だ。ろくな末路にならないに決まってる。
「そうだ、梨紅さんはっ」
 他の人のことも思い出し、急いで彼女のいる方を振り仰いだ。卵の中に浮かんでいる彼女を
金色の光が包み込み、その身体が小さな粒子状になって溶けるようにここから消えていった。
「取り込まれた人の意識の開放が行われていますわ。大助、皆様の心配はせず今は脱出する
方法を」
「うん。あぁでも待ってよ! 脱出って言われても――」
 みんなは無事だと分かって安心したのは一瞬だった。今度は自分のことで頭がいっぱいに
なり、どうすればいいかあれこれ二人に言ってみたり思案したりした。
「ご主人様落ち着いてくださいぃ」
「あぁでもでも落ち着いてなんていられないよぉ」
「丹羽くん」
 てんやわんやで騒いでいたところに突然声をかけられて動きを止めた。
「あっち」
 声がした方を振り向くと、身体を金色の光に覆われた原田さんが僕の右手の方向を指し示し
ていた。見ると、そこには白い光が輝いている。
「あそこ、出口ね」
「え?」
「私ができるのはここまでだから」
 きょとんとしてる僕に彼女は顔を緩ませて告げてきた。
「急いで。時間……ない」
 言いかけたところで彼女の身体が霧のように飛び散り、中空に消えていった。
60125:03/12/14 23:09 ID:/lsSBOMm
「原田さん……」
「急ぎましょうご主人様」
「早々に出た方が、よろしいですわ」
 二人の言葉が、原田さんに感謝して動きを止めていた僕の背を押した。駆け出す前に
左手のほうを一瞥すると、そっちはどんどんと崩れ去り、黒い闇に呑み込まれるようにして
消失していた。
 あれに巻き込まれたらひとたまりもないなと考え、けどこのペースなら原田さんが導いて
くれた出口には十分に間に合うはずだ。
「あ、ご主人様見てください! 出口がちょっとずつ小さくなってます!」
 レムちゃんが言うとおり、確かに少しずつだけど光の大きさが小さくなっている。それでも
僕が通るには余裕がある大きさだ。
「大丈夫。きっと間にあ」
「あぁぁぁっっっ!!」
 またレムちゃんが何かに気付いたらしい。
「今度は何?」
「ご主人様、後ろ後ろ!」
 言われるままに走りながら後ろを振り返ると、
「トワちゃん!?」
 そこには走ってきたごく最初の辺りで地面に転がる鳥の姿があった。
「落ちてたのっっ!?」
 レムちゃんが息を呑むのが聞こえた。自分のことを責められたと感じたに違いない。
「レムちゃんのせいじゃない!」
 どうして気付かなかったんだ!自分に対する注意力の低さに腹が立ち、考える前に足を
止めていた。
61125:03/12/14 23:10 ID:/lsSBOMm
「! ご主人様」
「みんな助からなきゃダメだよ!」
 異端の存在――それは僕だけじゃないはずだ。レムちゃんだって、トワちゃんだって同じだ。
僕が命に関わるなら、彼女だって無事で済むはずがない。
 トワちゃんに走り寄る間にも前方から暗黒がこの世界を壊し近づいてくる。足が竦みそうに
なる、けど気持ちを奮い立たせ、全力でトワちゃんの元へ急いだ。
「ああ、出口が小さくなっていってます」
 その言葉が嘘であって欲しいと願いつつ背後を見やると、やはり真実だった。すでに光は僕
の身体が通れないほどの大きさになっていた。
(でも!)
 二人は助けることができるはずだと信じ、腕から盾を外し、レムちゃんに今日何度目かの、
「ごめんッ!」
「え? え? ええぇぇぇッッッ――」
 言うと同時に跳躍し、空中で身体を強引に捻りフリスビーの要領で右手に持った盾を光に
向けて放り投げた。
「ぷぎゅッ」
 盾と一緒にちびレムちゃんも光にぶつかり、出口の収縮を食い止める枷となってくれた。
「よし」
 それを確認してさらに身体を捻り、飛ぶ前と同じ方に向き直ってトワちゃんの傍へ走った。
「トワちゃん!」
 すぐ横に腰を下ろし、大事に抱えあげるともと来た道を急いで戻った。
「くぅぅッッ」
 崩壊は背後数メートルに迫り、徐々に僕との間を詰めている。
「ど、うして……戻ってこられたのですか?」
 わたくしのことは放っておけばよいのに。弱々しくそう付け足すトワちゃんに対し、怒りに似た
感情がふっと湧くのを感じた。
62125:03/12/14 23:11 ID:/lsSBOMm
「そんなこと言わないで。トワちゃんが助からなかったら、僕もレムちゃんも悲しい」
 思いと裏腹に僕の言葉は柔らかかった。それを聞いたトワちゃんは小さく息を漏らし、
「ええ……」
 とだけ、穏やかに呟いた。
「ん。じゃあちょっとだけ我慢してね」
「? 何をです?」
「これを――!!」
 左足を天高く振り上げ、右手でトワちゃんを握り締め、全身のバネを極限まで酷使して
渾身の一球をストライクゾーンめがけて投げた。
「きゃぁぁぁぁぁッッッ!!」
「レムちゃんキャッチぃぃ!」
「はは、はいですッ、テュワっち!!」
 一直線に目標に向かったトワちゃんを、レムちゃんが絶妙なフォローで受け止めた。
「よし」
 これで二人は確実に助かる。後は僕が、
「――うぁぁッ!」
 駆け出そうと右足を踏み出した瞬間、左足がまるで杭を打ち込まれたような衝撃に襲われ、
その場に倒れ込んだ。
「うあ、あぁぁぁッッッッッ」
 押し潰す感触が足元からせりあがってくる。確認しなくても、これが崩壊に巻き込まれたと
いうことだと直感した。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ、はぁぁッッッ」
 肺の中のものを圧しだされ、それでも僕は絶叫し続けた。
63125:03/12/14 23:12 ID:/lsSBOMm
「ご主人様ぁぁ」
 断たれそうになる意識は、蒼月の盾――レムちゃんとトワちゃんが光に呑み込まれて
消えていくところを見せた。
 二人は助かったんだと、そう理解した時、僕は諦めた。
「――――ッ!!」
 誰もいない世界で独りもがき苦しみ、だけど心は諦めが満ち、穏やかだった。
 脚全部が押し潰されたのを感じ、抗うように手で床を掻き、無駄だと知りつつも必死で
逆らおうとしている。
(どうして?)
 助かる術はないのに、こんなに苦しいのに、僕はまだ、生きようと……。
(…………嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! まだだ、まだ終わりたくない!!)
 やってないことだってたくさんある。しなきゃいけないことだってたくさんある。こんな
ところで終わりたくない!
 死にかけていた意識をかき集めたとき、自分がどうしようもないほど絶望的な状況に
あることを悟った。腰までが、世界の崩壊に巻き込まれていた。
「なんっで、ゆっくりしてるのさぁっ!」
  僕が捕まる前は走るくらいのスピードだったのに急にゆっくりなっている。苦しめず
に一思いにやってもらいたかった。
 けど、だから生きたいと思えた。
「くぅっ、そぉぉっっ! 死ぬ、もんかぁぁ……!」
 這い出そうと手で床を掻き、それだけじゃどうしようもない力に押さえ込まれている身体
は案の定抜け出すことはできない。
「諦めるかぁぁぁ! んぐぐぅぅぅぁぁぁッッッッ!!」
 そんな僕の意思を折るように、急激に圧迫する力が強まった。一瞬意識が途切れ、それ
が徐々に深淵に堕ちていこうとする。
64125:03/12/14 23:13 ID:/lsSBOMm


 こんなところで、終わる――?



 伸ばす掌には何も触れず、ただ虚空を掴むだけ……。



「ダメッ!!」
 その声が、堕ちかけた大助の意識をかろうじて繋ぎとめた。認識するだけの力もない
彼の目には、その少女の姿形を捉えるだけがやっとだった。
「そのお兄ちゃんをいじめたらダメだよッッ!!」
 独り崩壊の侵攻に向かい合い、その少女は声を張り上げた。彼を助けるかのように。

 ――ウサギを抱えた、長髪の……。

 そこまで捉え、彼の意識はぷっつりと途切れた。彼は、この世界から消え去った。



65125:03/12/14 23:14 ID:/lsSBOMm
 まず感じたのは下半身の強烈な痺れ。完全に感覚が狂っている。目さえ開いているか
どうかはっきりしない。手は……どうにか動く。脚に触れてみるけど、それを感じることは
できない。
(――けど、生きてる)
 それだけは確かだ。生を実感し、応じるように視界が白く開け、周囲の光景を目にする
ことができた。
 まず視界に飛び込んできたのは暗闇。数回心臓が高鳴ったけどすぐに落ち着いた。
暗闇の中に無数に煌めく光点の存在を認めたからだ。
「夜空……」
 呟いて上体を起こした。
「ん?」
 左手の指先にひんやりとしたものが触れた。『永遠の標』だ。左手には向こうの世界で
投げたはずの蒼月の盾もあった。
 そして標のさらに向こう、横たわる二人の女の子。まだ眠っているようだけど、直に目覚
めるはずだ。
「ありがとう」
 最後に僕を助けてくれた少女の姿を思い浮かべながらその人――原田さんに礼を述べた。
「トワちゃんッ……!」
 ぐったりした鳥形態のトワちゃん頭をよぎり、最悪の事態を想定してその姿を捜し求めた。
彼女は原田さんと梨紅さんとは逆、右手の方にいた。こちらに背を向けてぐったりとして
いる姿は、最悪の事態かもしれない。
「トワちゃん、大丈夫!?」
 まるで感覚のない脚に力を込めて立ち、ふわふわした足取りで近づいて上半身を抱え
上げた。首は力なくうな垂れるけど、呼吸はしている。顔が火照っているけど、生きてる。
66125:03/12/14 23:14 ID:/lsSBOMm
「よ、よかったぁ」
「……大助?」
 確認するように名前を呼ばれ、僕は頷いた。トワちゃんがほっと安堵の溜め息を吐いた
のも束の間、その身体が小さく震え、縮こまらせた。
「どうしたの? 苦しい?」
 突然の変調に慌てて訊いたけど、彼女はただ切なく喘いでいる。
「…………ん?」
 喘いでいる。甘く、切なく、物欲しそうに。思うところがあり彼女の下半身、太股の間に
左手を這わせた。
「ぁンッ」
 熱く湿っているのがパンツ越しにはっきりと伝わってくる。
「だ、いすけぇ」
 人差し指をしゃぶりながらそう言うトワちゃんは、明らかに誘っている。間違いなく、魔力
不足からくる性欲の開放だ。さっちゃんもレムちゃんも何度かこの状態に陥り、その度に
僕は無茶な程搾り取られた。
「お願い……約束、果たしてください」
 約束という言葉が、紅玉に入る前に交わした三つの条件を思い出させた。確かにそんな
約束をしたけど、今は下半身が麻痺状態でまともにやれるかどうかも分からない。
「ぁぁ、早く。わたくし、このままでは死んでしまいそう……」
 死、と言われ、さっきまで僕が抱いていた生への執着が胸に湧いた。すると、なんだか
今トワちゃんにしてあげなきゃいけないような気になった。
67125:03/12/14 23:15 ID:/lsSBOMm
「分かった。優しくするね」
「ンッ」
 下半身に滑り込ませた指を彼女の股間にあてがう。パンツの下に茂みの感触はなく、
無毛なのが分かる。
 トワちゃんは艶を孕んだ息を漏らし、身体を軽く仰け反らせた。
「久しぶりですわ、こんな気持ちになりますのは……」
 何年、それとも何十年だろうか。灯台に独りぼっちだったトワちゃんの言葉は淋しさに
満ち、僕と肌を重ねる期待も含まれていた。
 もう独りじゃないよ。心の中で囁いて耳に甘く噛み付いた。
「はぁッ、んんんぅ」
 この状態になると全身の感度が飛躍的に向上する。こうやって虐めるだけで相当の
快楽が駆け巡っているはずだ。
 下半身を弄る手は止めずに耳を噛んでいた口を離し、頬から唇、そして首筋を舌先で
なぞった。高まった体温と酸味のある汗が舌を痺れさせる。
 右腕で抱えていた彼女を下に寝せ、肩に回していた手を抜き取って乳房の一つを包み
込んだ。
「んく、ッ……」
 掌に胸の先端が突起を作っていくのが感じられる。潰さないよう慎重にそれを指と指の間
で挟み、乳丘を滑るように撫で回した。リズムに乗るようにトワちゃんの声が断続的に響く。
68125:03/12/14 23:16 ID:/lsSBOMm
 僕の下半身を見ると、そこには詰め物がしてあるように大きく張っている。感覚が麻痺
して分からないけど、興奮して勃起しているのは間違いない。いよいよテンションが上が
ってきた僕が彼女の服を脱がそうとし、手が止まった。
 脱がそうにもトワちゃんが下に着けている薄い服――下着だろうか――はタイツみたい
にぴっちりと身体にフィットしていて、どこからどう脱がせばいいかさっぱり分からなかった。
よく見るとそれは下半身とも繋がっていて、僕がパンツだと思っていたのもそれの一部だった。
 僕が迷っているとトワちゃんはすぐに察してくれた。
「破いて……めちゃくちゃにしてくださって構いませんわ」
 ……それは察したというより、服を脱ぐのも面倒で、そんなことより早くして欲しいと言って
いるように聞こえた。
 ともあれそんなことを考えて時間を浪費するより先に行動に移した。トワちゃんの胸元に手
をかけ、一気に下着を引き裂いた。それは小気味よいくらい綺麗に裂け、トワちゃんの下半身
にまで到達した。そこにはやはり茂みはなく、雫の潤いが月光の下で映えていた。
上に着けたものはそのままに素肌を晒す姿は、非常に艶っぽい。
 体重をかけないよう気を遣いながら覆い被さり、できたてのゆで卵のように熱くすべすべした
胸を揉みしだいた。
「ふぁッ! ぁぁぁッ……」
 それほど強く刺激していないけど、敏感なトワちゃんは嬉しそうに嬌声をあげ、面白いくらい
喘いでくれる。
 愉快になった僕は片方の胸を手で弄びながら、余った胸の先端を口に含んで舌で転がす
ように舐め回した。
69125:03/12/14 23:17 ID:/lsSBOMm
「ッい、は、はぁッ、い、いいですわッ!」
 彼女の声が聞こえるたびに僕の頭もおかしくなっていく。興奮し、ただ思うままにその胸
にしゃぶりついていた。唾液で口の周りが粘つくのも構わず、すするように下品な音を立て
ながら頂上にある薄紅色のしこりを吸い上げた。
「ひぐ、ぁぁあああッッ!」
 胸を仰け反らせ、軽く痙攣してからぐったりと全身を弛緩させた。
「胸だけで……イッちゃった」
 驚いたように口にする僕の声はすでに届いていないのか、トワちゃんは呼吸を乱し、顔には
快楽と疲れの色が混じっている。
 込み上げてくる激情を抑えきれず、彼女に早く欲望をぶつけたいと思った。
「トワちゃん、もう……」
 言いながらファスナーを下ろし、硬くいきり立つ剛直を取り出した。相変わらず触っていると
いう感触はないけど、やりたいという思いが先走り、いつも以上に感情だけが昂ぶっている。
「はぁぁ……はぁ……?」
 息を落ち着かせかけていたトワちゃんが不思議そうな目で下半身のそれを見ているのを
確かめ、汁でしとどに潤う孔内へ押し込んでいく。
「あッ、ぁぁ、ふぅぅッッ!」
 じゅぐ、という淫らな音を立てながら、すぐに腰と腰が触れ合い、没入は終わった。女性の
中の熱を味わえない……夢の世界でがんばり過ぎなきゃよかったと少し後悔したけど、トワ
ちゃんの感じ悶える表情と動きを見るだけで、足りない肉体的な快楽を補うには十分だった。
「動くからね」
「ん……ふぅッ、あ、あッ、ああッ!」
 そんなに強く動かしているつもりはないのに、トワちゃんはとても大きく反応を示してくれる。
彼女がさらに乱れる姿を拝みたく、腰の動きを加速させた。
70125:03/12/14 23:18 ID:/lsSBOMm
「はんッ、っひ、あ、おくッ、届いてぇ――ッ!」
 分からないが、とにかく奥深くまで抉っているようだ。二人が結び合うところからは淫猥な
音と雫が溢れている。
「トワちゃッ、イきそ……」
 口走った時には、もうイッてしまったことを脳が知覚した。結合部では、僕が断続的に何度
も欲望を吐き出している。トワちゃんも満たされたような表情でそこを見ている。 だけど僕は
違った。射精を終えた後、それが萎えてトワちゃんから出てくるより前にぐいっと腰を密着させた。
「! だ、いすけ?」
 信じられないといった表情でトワちゃんは潤んだ瞳で僕を見つめた。普通なら僕もここで
終わっているはずだ。でも、頭の中ではまだ貪り足りておらず、満足していなかった。身体の
方が快楽に鈍感になっているため、僕は心が納得するまで続けるつもりだった。幸いにも、
と言っていいか分からないけど、下半身は麻痺していて限界を感じていない。心が折れなけ
れば何度でもやれそうだ。
「ん……ッ、ああ……」
「あッ、あまりされ過ぎるとわたくし……ひぅッ!!」
 もっと密着できるようにトワちゃんの右足を両足で挟み、左足を抱え込んで腰を深く突き出した。
「いろいろ言ってたわりに、トワちゃんも、嬉しそうだね?」
「いやぅッ! お股、擦り切れちゃぁッ!」
 何度か腰を前後させていると、僕のに硬度が甦ってくるのを触って確かめた。まだまだ十二分
にイける。
「今日は夜通し、やるからッ!」
「ひぅぅッッッ!!」
 しばらくの間は他の事はすべて忘れ、ただただトワちゃんとの行為に酔いしれた――。
71125:03/12/14 23:18 ID:/lsSBOMm
 ――海風が心地よく頬を叩いていく。修学旅行の名残を惜しみつつ、五泊六日間お世話に
なったホテルが構える島を見送っていた。
 僕は今、帰りのフェリーの甲板にいる。少し不自然にお尻を突き出してフェリーの柵に身体
を預けていた。
「ひぃッ!?」
 いきなりお尻を撫でられ、思いっきり柵にしがみついて振り返った。
「俺を誘っているのか? ふふん」
「ひ、日渡くん!」
 僕の背後には強風を全身に受け、それでも平然と立つ日渡くんがいた。 心臓がどっくん
どっくん激しく打ち、そして下半身の前はずっきんずっきん痛んだ。
「どうした? さあさあ逃げるな俺にもっと尻をぉぉぉぉぉ――!!」
「お前はこっちに行こう。な」
 久しぶりに颯爽と現れた関本が日渡くんの首根っこを捕まえてフェリーの中へ姿を消した。
修学旅行中は見れなかった光景に懐かしさを覚えつつ、関本に感謝しつつ、僕は再び柵に
体重を乗せた。
 来たときと同じ大海原を眺めながら、あの日のあの後のことを思い返した。
72125:03/12/14 23:19 ID:/lsSBOMm
 結局トワちゃんと午前三時ほどまで肌を重ね、計ん十回と絶頂を向かえてからようやく
原田さんと梨紅さんを、ウィズと協力してホテルまで運んだ。途中何度か目を覚まされそ
うになったけど、その都度トワちゃんが二人の頭を叩いて夢の世界へいざなっていた。
「叩くのはよくないって……」
 体力を使い果たしていた僕は弱々しくトワちゃんに意見し、
「こうでもしませんと安心できませんでしょ?」
 あれほど死にかけていたトワちゃんはすっかり魔力を取り戻して元気になっていた。
 二人を運び終えてから、『永遠の標』とトワちゃんをウィズに預け、一足先に家に送り届け
てもらった。あんな物を持って残りの数日を過ごせるわけはないしね。
「ご主人様ぁ」
「どうかした?」
 仕事を終えた達成感に浸っていると、しばらくの間沈黙していたレムちゃんが口を開いた。
「トワちゃんだけえっちなことしてずるいです。わたしにもしてくださいよぉ」
「そんなこと? うんいいよ。今日は無理だけど、後でなら」
「ホントですか! やったのですッッ!」
 満足していたから、ついノリでそう言ってしまった。そして、その約束が果たされることは
なかった。翌日から下半身の痺れは引き、代わりに痛烈な刺激があそこを支配したからだ。
原因は言わずもがな、である。
 痛みは引くことなくとうとう最終日を迎え、今現在、レムちゃんはふて腐れてバッグの中で
ご機嫌斜め状態だ。無言の非難を感じ、バッグをフェリーの自席に残して一時退避している
ところだ。
73125:03/12/14 23:21 ID:/lsSBOMm
 とにかく家に帰ったらレムちゃんに謝ってあれやこれやとしてあげよう。
(あ、でもさっちゃんもいるし……)
 思い悩んで頭を掻きむしっていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「ほぉらぁっ! こっちに来なさいって」
「ちょっとちょっと! あんたはしゃぎすぎだってばぁ」
 首を捻ってそちらを見ると、短髪の女の子が長髪の女の子に腕を引かれ、僕と同じように
柵から少し身を乗り出して海を眺めるのが見えた。
「あぁあ、あそことももうお別れか。ちょっと残念」
「うん。もう少しいたかったよね、あの島に」
 強風に吹き消されそうな微かな声を捉え、その会話のないように小さく笑みが漏れた。
「よかった……本当に」
 仲良く談笑する双子とは逆側の海を眺めながら、今までどおりの間に戻ったことに満足
して独りごちた。
 見る先、遥か彼方に続く水平線。相容れない空と海は鏡に映したように同じ色をし、ただ
どこまでも続いていた。



次回 パラレルANGEL STAGE-14 アイス・アンド・スノウ
74名無しさん@ピンキー:03/12/14 23:31 ID:HJaRx1M8
乙〜。
梨紗のその後のフォローがもう少し欲しかったかな?とも思ったけどおもしろかったよ。
盾って使い勝手がいいよな、と改めて思ったし。
75名無しさん:03/12/15 00:33 ID:RL1+nsKy
最高です。おつデシ。
125さんのSSを読んでコミック買ってみようかなって思ったけど
さっちゃんとレムちゃんはいないんですよね(だからパラレル?
いたら買ってたのに…
76名無しさん@ピンキー:03/12/15 00:50 ID:ZJ1jFQn4
更新ご苦労様です。
さて、次回はアイス・アンド・スノウ。
アニメ版から考えると大詰め迫るといったところですね。
フリーデルト大助が出るのか気になるところですがってそれかい。
77前スレ580:03/12/15 01:27 ID:h7gO30Bu
もつかれ〜っす
ネタ練りにD・N・ANGELドラマCDを片っ端から聞いてたら
宣言した「居候(ぶっちゃけ同居)」モノより吸血鬼モノが書きたくなっちゃったわさ…
78名無しさん@ピンキー:03/12/15 03:33 ID:pyvCx4Vv
乙です〜。











あれ?小助さんは?
79名無し@ピンキー:03/12/15 16:05 ID:oreGcx3f
乙です〜〜。
っていうかさいくら感覚が鈍っているとは言え、十回(十一回?)もやるって
ある意味化け物じゃないの、大助って・・・。
(やってる時に梨紅が目を覚ましたら、どういう顔することやら(¬∇¬))
80125:03/12/16 00:29 ID:0YXoSiOC
「ただいまぁ」
 玄関で靴を脱いでいると、奥から母さんが足音を響かせて姿を見せた。
「お帰り大ちゃん。ママ寂しかったわぁ」
 いきなり抱きつかれ、重い荷物を肩に下げているため倒れそうになった。どうにか堪えた
直後、顔中に母さんのキスの嵐が降り注いできた。
「ちょっとちょっと! 止めてよ母さん」
「そんなこと言わないの。この数日間どれだけ心配してたか分かる?」
 しばらくの間、母さんに必要以上にスキンシップを求められた。しぶしぶ応じ、ようやく
開放された後に、思い出したように母さんが口を開いた。
「そうそう。『永遠の標』ちゃんとウィズが届けてくれたわよ。大ちゃんお疲れ様」
「そっか。あの、母さん。それで……」
「分かってるわよ。トワちゃんのことでしょう?」
 頷くと、母さんは二階を指差し、
「大ちゃんの部屋にいるから、荷物置いてくるついでに会ってらっしゃい」
「うん」
「小助さんも一緒よ。母さんお夕飯の準備してるから、後でみんなで降りてらっしゃい」
 母さんより先に家の奥へ向かい、リビングでお茶をすするじいちゃんにただいまを言って
から二階へ急いだ。
「ただいま。父さん、トワちゃん」
 部屋先から中を覗くと、三人の人影が床に腰を下ろして湯飲みと茶菓子を囲んでいた。
「よお。お帰り大助」
「お帰りなさいませ。ちょっとお邪魔させてもらってますわ」
「久しぶりだの、主」
 三人の挨拶を受けて部屋に入って荷物を机の側に置くと、父さんが声をかけてきた。
「こっちに来て座りなさい。いろいろ聞かせてくれると嬉しいな」
「さあさ。お茶も入りましたわよ」
「茶菓子もあるぞ。うむ、美味美味」
「うん、ありがと。っと、レムちゃんも……」
 蒼月の盾を出そうとして手を止めた。よくない汗が背中を伝った。
81125:03/12/16 00:30 ID:0YXoSiOC
「? どうかしたかい」
「ううん、何でもない、何でもないよ」
 乾いた笑いを浮かべながら三人の輪の中に入れてもらった。左手の方では父さんがにこ
にこ笑っている。右手の方にいるトワちゃんが差し出してくれたお茶を一口含み、
「何でさっちゃんがいるの!!」
 正面で茶菓子を頬張っているミニナース服を着た幼女さっちゃんに怒鳴り立てて突っ込ん
だ。さっちゃんは、僕が一週間近く相手をしていなかったことを微塵も気にしていないように、
にこやかだった。湯飲みを呷り、幼女らしからぬ落ち着きというか渋みを醸し出しながらゆっ
くりと語った。
「うむ。主がいない間な、親父殿にいろいろと遊んでもらっていたのだ」
「いろいろ!? いろいろって何をされたの! 何をしたの父さん!?」
「いろいろだよ。ねえさっちゃん?」
「いろいろだな。のう親父殿?」
 あああああ、絶対あんなことやそんなことしかイメージに浮かんでこない。健全なものは
皆無だ。父さん、あなたはどうしてそうなっちゃったの?
「親父殿。また(ごにょごにょ)してくだされ」
「うんうん。大助がいなかったらまた(ごにょごにょ)してあげるよ」
「ごにょごにょ何?! そこには何が入るの!!」
「ほらほら落ち着いてください。茶菓子でも食べてカルシウムを」
「茶菓子カルシウムない! いや、あるのもあるかもしれないけどない! ああもう何言って
るか分かんないよ!」
82125:03/12/16 00:31 ID:0YXoSiOC
「たっだいまぁ」
 玄関の扉を勢いよく開け放ち、原田梨紗は自宅へ足を踏み入れた。
「ただいまあ。ほら梨紗、靴ちゃんと並べて上がんなさいよ」
 母親のように梨紗の行儀の悪さを咎めようとするが、親の心子知らずか、梨紗はとっとこと
リビングに向かった。入れ替わりに坪内がそこから姿を現した。
「梨紗様お帰りなさいませ。梨紅様も早くお上がりになられてください」
「はぁい」
 玄関にある靴をきちんと並べ、梨紗と同じくリビングに入った。すでに梨紗はソファに横になり、
非常にだらけた雰囲気を出している。
「まったく……しゃんとなさいっての。ん?」
 小言を口にしていた梨紅は、ソファの上でごろごろしている梨紗の手に数枚の紙が握られて
いることに気付いた。そろそろと近づき、悪いと知りつつもちょこっとだけ覗き見ると、その紙は
写真だった。写っているのはもちろん、
「丹羽くんじゃないのっ! な、な、な、な、何であんたがそんな写真持ってんの!?」
 思いがけないものを目にした梨紅は狼狽し、そんな彼女を梨紗はじと目で見やり、
「冴原くんから買ったの。一枚二百円。……欲しい?」
 不敵に口元を歪め、挑むように梨紅に訊いた。
「ほ、ほ、ほ、ほ、欲しいわけないじゃん! 何で、そんなこと訊くわけ!?」
「だってえ、梨紅って丹羽くんが好きなんでしょ?」
 いきなり突然唐突に何の前触れもなく、妹に直隠しにしていたはずのことをずばり言い当てら
れ、梨紅は言葉を詰まらせてあっという間に赤面した。
「あ? やっぱり図星?」
 体温がさらに上昇していくのを梨紅は感じた。どうしようもないほど汗が噴き出し、今どう思って
いるか誰が見ても明らかだろう。
「んもぉ。私が気付かないとでも思った? 隠し事が下手なんだからあ」
 あっけらかんと話していた梨紗が不意に表情を引き締めた。
「けど、梨紅に負ける気ないから」
 それは断固たる決意。梨紗が唯一譲りたくない気持ち。姉と向き合い、その上で掴み取りたい
人への、想い。
83125:03/12/16 00:31 ID:0YXoSiOC
「まあそういうわけだけど、欲しいの? 欲しくないの?」
 一瞬後にその顔は元のしまりのないにへらにへらしたものに戻っていた。梨紅を釣るよう
に写真をひらひらしてみせる。
「あ、あう……あう……」
 ふらふらと催眠術にでもかかったように写真に吸い寄せられる。
「ほおら。こっちよこっち」
 梨紗はソファの上に立ち、梨紅の頭上で写真をひらつかせる。ネコじゃらしにじゃれつく
子猫のごとく、梨紅は写真に手を伸ばす。何度かネコパンチ、もとい梨紅パンチを繰り出す
が、写真にはかすりもしなかった。
「そんなに欲しい? しょうがないなあ」
 ほら、と言って梨紗が写真を一枚落とした。空気を切り裂く梨紅パンチ。見事に写真を
ゲットした。
 ちょっと顔を綻ばせ、どんな姿が写っているか胸を高鳴らせつつ手にした写真に目を落とす
と、そこにはビーチで砂に埋められ、股間に大きな一物を携えた彼の姿が、
「よりによってこんな写真かいっっ!!」
 突っ込んだ時には梨紗の姿は煙のように消えていた。やられた、と心の中で呟きながら再び
写真に目を落とした。
 一目見た時は確かにひどい写真だったが、よく見るとちゃんと大助の顔も写っており、画質も
よい。彼の顔をじっくりと見つめ、、視線を少し下半身の方へ移し、穴が開くほど凝視した。
「……………………はっ!? い、今あたしは何をッ!」
 顔を真っ赤に染め熱く火照った頬を手で押さえ、ちょっと危ない妄想を抱いた自分をはしたなく
感じた。原田梨紅、イけないことに興味を覚えるお年頃だった。
84125:03/12/16 00:33 ID:0YXoSiOC
「はあ。まったくまったく」
 自室で開かれているお喋り会から一足先に抜け出してリビングに向かっていた。楽しい
お喋りだったはずなのに、何故か異様に気を遣って疲れてしまった。理由は、やはり父さ
んとさっちゃんのコンビのせいだ。そこにトワちゃんまで加わったらもう楽しいだけじゃ済ま
なかった。話が幼女の方向に向きだそうとするといち早く修正し、それでも父さんはさりげ
なくしつこく僕の邪魔を……。
(もう、考えるのはよそう)
 僕が疲れるだけだ。
 とんでもないことばかりしている父さんだけど、家族にはさっちゃんの存在がばれないよ
うにうまく立ち回っていたらしい。母さんもじいちゃんもさっちゃんとレムちゃんがいることは
知らない。ばれるといろいろと大変そうだし、このままがいいんだと思う。父さんという協力者
がいてくれて助かっていると言えばそうだけど、どうもさっちゃんを見る目が……。
(いやいや、もうよそう)
 早々に思案を打ち切った。
 トワちゃんの処遇については僕と約束したということもあり、母さんがあれこれ考えた結果、
丹羽家のメイドさんとして働いてもらうことになっていた。ウィズが家に着いたその日のうちに
決まったらしい。人手が増えて母さんも喜んでいるらしい。
 リビングではじいちゃんが今もお茶をすすりながらテレビを見ている。キッチンからは包丁
の軽快なリズムが聞こえてくる。
「あら、もう来ちゃったの? まだできてないわよ」
 僕が入ってきたことに気付いた母さんがこちらに背を向けたまま言ってきた。包丁の音は
止まらない。
「夕飯は何?」
「カレーよ。まだしばらくかかるわ。あ、大ちゃん、トワちゃん呼んできてくれる?」
 家事に慣れてもらわないといけないからと付け加えてきた。返事をしてから部屋を出ようと
すると、また母さんが声をかけてきた。
「それから、小助さんに趣味はほどほどに。って伝えてきて」
「…………え」
 僕の身体、血液、思考、一瞬すべてが凍りつき、すぐさま猛烈な勢いで動き出した。軽快な
包丁の音は続く。
「…………趣味、って」
「分かるでしょ?」
85125:03/12/16 00:35 ID:0YXoSiOC
 たんたんたんたんたんたんたんたん――。

「…………父さんの」
「私が知らないと思ってた?」

 どくどくどくどくどくどくどくどく――。
 
「…………僕が言ってくるの?」
「他に誰かいる?」
 じいちゃんは――我関せずといった様子でお茶をすすり続けている。一瞬見えた湯呑みの中
に何も入っていなかったのは間違いない。
 母さんはさっちゃんのことを知ってるのか?けど、もし見つかってるならさっちゃんがそう言って
くると思う。ということは、ただ純粋に父さんの趣味とやらに忠告しているのだろうか。いや、そう信
じるしかない。
「…………けど」
「なに?」

 だんだんだんだんだんだんだんだん――。

「…………ぼ」

 ダンッッ!!

「あらあらまな板が割れちゃったわ」
「いってきます」
 壮絶なプレッシャーが一気に膨れ上がるのを感じた僕はじいちゃんをリビングに独り残して飛び
出した。
「ま、待たんか大す」
 心の中でごめんと呟き、ドアを閉ざした。残されたじいちゃんからすれば死刑宣告に等しいに違
いない。
 僕はただただ、これからの父さんの日々の暮らしに、ささやかながら幸福が訪れることを願うばかりだ。
86125:03/12/16 00:36 ID:0YXoSiOC
要望?あったのでその後の梨紗フォロー(なってるか分からぬが・・・)と小助さん書いてみました。
87名無しさん@ピンキー:03/12/16 01:02 ID:gB9E+Bu7
更新激早っ!

原田姉妹が仲良くなって嬉しいな。
これで姉妹ど(ry

しかし小助さんて…

88名無しさん@ピンキー:03/12/16 01:14 ID:zibeO6Yj
フォロー頼んだのは俺ですが、ありがとうございます!
うん、梨紗と梨紅はこうじゃなくっちゃね。よかった。
89名無し@ピンキー:03/12/17 22:50 ID:hDum+y0K
流石125氏!!更新目茶早っ!

笑子さん・・・・・・・怖!!!・・・・・・・・
90名無しさん@ピンキー:03/12/18 23:36 ID:94F3qejA
キタ―――(・∀・)―――!!
さすが冴原!!そのへん抜かりないな!!ww
ネコ梨紅萌〜〜〜〜〜www
鬼嫁萌〜〜〜〜〜・・・・はさすがに無いなww

91名無しさん@ピンキー:03/12/19 18:02 ID:+w4bNK1H
桜木君を思い出しますた(;´∀`)A゛
92125:03/12/20 23:36 ID:OSsZi7GB
 僕は何回くらいえっちをしたんだろうか、とふっと考えてみた。現実でしたことがあるのは
本当に数えるほどしかない。この歳で数えるほどあるのはすごいことだと思うけど、あくま
で現実での話だ。今、この世界でした回数は、それこそ星の数ほど。つまり、数えきれない
ということだ。
「ご主人様ぁ。気が入ってませんよお?」
 レムちゃんのあそこをじゅるじゅるとすすりながら考えていたら、上から彼女の声が降って
きた。
「ごめんごめん」
 真上にあるレムちゃんの幼い割れ目に舌を挿し入れた。小さな悲鳴とともに舌先が微かに
締めつけられ、粘液が口に顔にと垂れてくる。
「こら。我の方もしっかり相手をせぬか」
 僕の腰に跨っているさっちゃんが不服そうにしている。同じようにごめんと言い、軽く腰を上下
に動かした。ぶつくさと何か言っている気がしたけど、僕の動きに合わせて上のさっちゃんも腰
を振り始めた。
「はぁぁ……。我ら二人をはべらかせ、主は幸せ者だな。ンっ」
「幸せすぎてイッちゃいそうです……はぅんッ」
 これが現実だったら手放しで喜べるんだけどね、と胸中で呟いた。二人と夢の中で絡むよう
になった当初は僕も無我夢中で愉しんでいたけど、ここ最近は夢という虚しさを感じるように
なっていた。
「っひぐしょんッッ!」
 鼻がむずむずしたかと思うと、次の瞬間にはレムちゃんの股の下で盛大なくしゃみをしてしまった。
「はぎゃッ!?」
 突然の衝撃に驚いたレムちゃんが鳴き、股が眼前から姿を消した。
「な、何事ですかぁッ」
「これ抱きつくな」
 僕の上には裸の女性が二人。目に涙を浮かべて見開いているレムちゃんが、迷惑そうな顔
をしているさっちゃんに抱きついている。もちろんさっちゃんの腰は止まらない。
「あそこがひりひりしちゃいましたぁ」
「ごめんね。ちょっと風邪気味で……」
 身体を起こしてずずっと鼻を鳴らした。12月になって寒さが厳しくなったせいで身体に少しばかり
影響が現れていた。
93125:03/12/20 23:37 ID:OSsZi7GB
「大丈夫ですか?」
 レムちゃんが首に腕を回し、額をごちんと合わせてきた。頭がくらっとした。
「ちょっと熱いかもです。もっと詳しく調べますよぉ」
 嬉しそうに言いながら今度は唇を合わせてきた。熱をチェックするように、舌が僕の口内を
ぬちゃぬちゃと舐め回す。
「平気だよ、平気」
 彼女の体を押して口を離すと、頬を膨らませて拗ねたみたいだ。
「くぉらレム」
「ひゃいッ?」
 レムちゃんの背後から二本の腕が絡みついて羽交い絞めにした。苦しそうに呻くレムちゃん
にさっちゃんが告げる。
「独り占めするな。我に少し分けよ」
 片手でレムちゃんの口を開かせ、中にさっちゃんの舌が滑り込んでいった。
「うわぁ……」
 目の前で行われる女の子同士の濃厚なキスに釘付けになった。絡み合う舌が立てるいや
らしい水音が下半身の充血を煽ってくる。
 微妙な変化に気付いたのか、さっちゃんが動かす腰のリズムが速くなってきた。視覚から
くる刺激と相まって、胎内で軽くイッてしまった。
「ぷふぅ、風邪だと言いながら結構出したではないか」
 さっちゃんがくいっと腰を上げると、べとべとに濡れた僕のに彼女の中から漏れ出した体液
が幾筋か降り注いだ。確かに結構出したかもしれない。
 一息吐くつもりで二人の下から這い出し、僕抜きで愉しむ二人の姿を眺めた。
 ライトパープルの長髪、悪戯っぽく釣り上がった瞳に口の端からのぞく牙。小悪魔、という
形容が似合う彼女はスタイルがよく、お姉さん好きにはたまらない、と思う。人とどこが違うか
を挙げるなら、背中についたコウモリのような羽根と、頭から生える二本の小さな角くらいだ。
 対して、緑の短髪、いつもにこにこ笑っている目に口。まさに絵に描いたようなロリ体型は
その道の人にはたまらない、と思う。父さんがレムちゃんの姿を知らなくて心底よかったと
思える。外見は、人と違うところはない。
 まったく対極に位置している二人が艶めかしく絡む様は、見ていて非常に欲情してくる。
夢は虚しいと言っていたけど、湧き上がる性欲に勝てるはずもなく、僕は二人に飛びかか
った。
94125:03/12/20 23:38 ID:OSsZi7GB
 布団の中にいるはずなのにひどく寒い。――下半身が。
「おはようございます丹羽大助」
 目を開けて確認するまでもない、いつものことだった。それでも目を開けないといつまでも
起きれないので開けるしかない。
「うん……おはよお」
 まだ覚醒しきっていない頭を掻きながら、僕のあれをぺろんと出して夢精の始末をしてくれ
ているトワちゃんに挨拶を返した。萎えたものを口に含んでいたトワちゃんが顔を上げ、目と
目が合った。
「はい、お掃除終わりましたわよ。お粗末さまでした」
 最後に口の周りにこびりつく粘液を舐め取り、トワちゃん曰く朝のお勤めが終了した。トワ
ちゃんがうちに来てから間もなくの頃、毎朝の僕の惨状を聞いたトワちゃんが自信満々に
お任せあれと言ったのでお任せしたところ、これが始まった。
「大助も手を煩わせることがありませんし、わたくしも日々力が補給できて一石二鳥ですわ」
 とは本人談である。最初は少し引いたけど、慣れとは怖いものだ。そして僕が夢の世界に
虚しさを感じだしたのもこれが始まってからだ。やっぱり現実でしてもらった方が嬉しいという
か気持ちいいというか、本物という気がしていい。
(と思いつつ夢の中でいっぱいしちゃうんだけどね……)
 病みつきで止められないというのが本音だった。
「ひっくし」
「あらあら風邪ですか?」
「ううん、ちょっとね」
 トワちゃんが顔を鼻の先まで寄せて僕の額にひんやりとした手を当てた。
「少し熱いですわね」
 熱いのは風邪のせいだけじゃないんだけどと思いながら、すぐ側で動くトワちゃんの唇に
目がいく。女の人とこんなに近づくのは、現実ではまだまだ慣れていない。
95125:03/12/20 23:39 ID:OSsZi7GB
「お薬持ってきますわ」
 メイド服のスカートを翻し、トワちゃんがベッドから降りてとてとてと部屋を出て行くのを
見送った。
「むうう、気に喰わん」
 横になっているところにさっちゃんの不満気な声が届いてきた。
「なにが?」
「トワが、だ」
「トワちゃんがどうしましたか?」
「どうもこうも、我らが毎朝毎朝汁水垂らして絞り取ったものを、トワは毎朝毎朝労せず
に口にしているのだ。これが腹を立てずにいられるか」
 尋ねる僕とレムちゃんに怒りをぶつけるように告げてくる。そう言われると確かに理不尽
な気がしないでもない。
「けど、僕はそうしてもらった方がありがたいんだけどな」
「主がよくても我らがよくない。レムもそう思っとるはずだ」
「わたしはご主人様が喜んでるならそれでいいですよ」
 さっちゃん、しばし沈黙。
「うがあああああぁぁぁぁッッッッ!!」
 そして咆哮。ずきずき頭に響いて顔をしかめた。
「さっちゃん……静かに、してぇ」
 ベッドでころころ転がり、もう勘弁してと意思表示をした。
「分かっておらん、誰も彼も分かっておらん!」
「さっちゃんお静かにぃぃッ」
「そうですわ。翼主に迷惑をかけるなんて使い魔の風上にも置けませんわね」
 いつの間にそこにいたのか、トワちゃんが薬とコップ、水差しを乗せたお盆を片手に部屋
の入り口にもたれかかっていた。さっちゃんがむっとするのが気配で分かった。トワちゃん
はトワちゃんで、得意気な表情で挑発している。
 毎朝恒例となりつつある二人の罵り合いが始まる前に部屋を出たかった。
96125:03/12/20 23:40 ID:OSsZi7GB
「はあ。まったくまったく」
 ぼやきながらダイニングテーブルに着いた。
「おはよう」
「おはよう父さん」
 向かいに座る父さんと挨拶を交わすと、母さんが目の前にトーストを置いてくれた。
「お薬飲んだ? 大丈夫? 無理してない? 学校お休みする?」
「大丈夫だよ」
 心配してくれるのは嬉しいけど、母さんが言うほどひどくない。薬も飲んだし、しばらく
したら治るだろう。
「それに今日は休めないんだ」
 そう、そうなのだ。今日は十二月二十日に行われる学園祭の出し物を朝一に決めなきゃ
いけないのだ。
「そういうばもうそんな季節ねえ。お母さんたちも見に行くわよ。久しぶりに小助さんとデート
しちゃおっかしら」
「デートって……。どうです父さんも?」
 苦笑いを浮かべる父さんが、いつものようにリビングでお茶を飲みながらテレビを見ている
じいちゃんに話しかけた。
「そうじゃのお……。おお、どうかねトワちゃんも?」
 お盆を手にしたトワちゃんがリビングに入ってくるなりじいちゃんが話を振り、当然のように
トワちゃんは疑問符を浮かべた。母さんが事情を説明すると、
「興味ありますわ。でも……わたくし、こんな服しか持ってませんし」
「それじゃ今度、女だけでお買い物に行きましょ。私がトワちゃんにぴったりな服を選んであ
げるわ」
「まあ! ありがとうございます奥様。わたくし、感激で前が見えませんわ」
 大袈裟な仕草で喜びを現すトワちゃん。そういえばトワちゃんのために買い物をしたことは、
僕の知る限りではなかった。本当に嬉しいんだろう。
(でも、じゃあトワちゃんのメイド服ってどこから……)
 考えようとしてすぐに打ち切った。考えて行き着く先が、ちょっと怖かった。
97125:03/12/20 23:40 ID:OSsZi7GB
 そう思ってトーストを齧りながら父さんの方を見ていると、その手で長方体のものをもて
あそんでいた。
「父さん、それ何?」
「これかい? タロットカードみたいなものだよ」
 父さんがそれを扇状に開いてみせる。長方体に見えたのはそれがひと塊になっていた
せいだ。
「そんなものどこにあったの?」
「部屋の掃除をしていたらね、偶然出てきたんだ」
「大助、一つ小助君に占ってもらったらどうじゃ?」
 母さんと父さんの間にじいちゃんが口を挟んできた。
「え? でも」
「あらあらいいじゃありませんか。わたくしも興味津々ですわ」
「あ、えぇ……っと」
「ははっ、簡単なことしかできないけどね」
 トワちゃんの合いの手が入り、僕の意思を聞く間もなく話が進展してしまった。父さん
もすっかりその気だ。嫌じゃないけど、僕の言うことも少しくらい聞いて欲しかった。
「ほら。この中から一枚選んでごらん。自分で絵を見ないようにね」
 カードを数回切り、それを広げて背が上になるように僕の方に差し出してきた。
「うぅん……」
 二十枚ほどの厚めのカードからどれを選ぼうかしばらく逡巡し、思い切って真ん中のを
選んでみた。
「どれどれ」
 カードの背を上に向けたまま父さんに手渡した。後ろから覗き込もうとする母さんやトワ
ちゃん、じいちゃんに気をつけながら父さんだけがそのカードの絵柄
を見た。
「ふむ……」
 小さく唸ってから、そのカードをその他の上に重ね、それでとんとんとテーブルを叩いた。
98125:03/12/20 23:41 ID:OSsZi7GB
「父さん、どんなカードだったの?」
 八つの瞳が注目する中、父さんがカードを一枚手にしてこちらに絵柄を見せてきた。
「『ライトフェアリー』。健康を司る心優しい妖精のカードだよ」
 そこには、見ていると胸の内が温かくなるような、可愛らしい小さな妖精さんが描かれ
ていた。
「きっと大助の風邪が早く治るっていう啓示だよ。よかったね」
 父さんが片目を閉じ、にやっとして僕に言ってきた。
「なんか、得した気分」
 実は内心では、もっととんでもないものが出てきたらどうしようかと少し不安だった。
「あら、そろそろ学校に行かなくていいの?」
「え? あ、ホントだ!」
 時計を見ると大分時間が経っていた。残りのトーストを口に放り込み、ミルクを流し込ん
で席を立った。急がなくても出し物を決める話し合いには間に合いそうだけど、用心に
超したことはない。
「行ってきまぁす」
 四人の言葉を背に受けながら、転がるように家を飛び出した。風邪を悪化させないよう
気を遣いながら、少し抑えて学校まで走った。
99125:03/12/20 23:44 ID:OSsZi7GB
 大助がいなくなった丹羽家では、それぞれ思い思いに動いていた。笑子はキッチンで
後片付け、トワちゃんも笑子に倣って家事を。大樹は相変わらずリビングのソファに腰
掛けてお茶をすすっていた。
 そんな中、小助だけがダイニングテーブルに着いたまま難しい顔をしていた。タロット
カードの束の上から一枚カードを手に取り、その絵柄を確認した。
 妖艶な女性の横顔が描かれたそれこそが、大助の引いたカードだった。


 ――「ダーククイーン」……。最低最悪の、破滅のカード。


「何事もなければいいが……」
 誰にともなく呟き、天を振り仰いだ。今はただ、息子の安否を気遣うことしかできなかった。





100125:03/12/20 23:45 ID:OSsZi7GB
「おめでとう丹羽大助くん。いやいやおめでとうおめでとう」
 めでた過ぎて殺意が湧いてきちゃうよ。教室のドアを開けるなり冴原が怒気たっぷりに
迫ってきた。
「えっと、何が?」
「何がじゃねえ!」
 冴原が首に腕を回し、激しく頭を揺すってくる。
「ああああッ! やめ、やめぇ」
「ん? ちょっち熱いぞ」
 ごすんと頭突きが飛んできた。だから止めろって言ってるのに。
「風邪で三十七度」
「うつすなよ!! 風邪は嫌いだ!!」
 ずさっと後退り、教室の端まで逃げて行った。
「一体何なの……」
 まったく状況が呑み込めないでいると、肩に何かが乗ってきた。
「あれ見てみ」
 関本が僕の肩に手をかけてある方向を指差し、指先を追うように視線を向けると、黒板
にでかでかと文字が書いてある。
「『アイス・アンド・スノウ。配役主役エリオット丹羽大助』ってええぇ!?」
 横で関本がうんうんと頷いている。一体どういうことか訊くと、
「今八時半。集合八時。お前三十分遅刻。その間にとんとん話が進んで」
「こういうわけだ。悲しいことだが」
 日渡くんが僕と関本の間に身体を割り込ませてきた。その横顔は苦渋に満ちている。
「すまない丹羽。俺にもっと力があれば、お前をフリーデルトに」
「気にすんな。さっきからこの調子だ」
「そもそもだ! 何故『アイス・アンド・スノウ』なんだッ! ここは話題性を掴むためにも俺
が最初に押していた『がんだむ○ーど』をうわなにをするやめろッッ!!」
 日渡くんは………………大人の事情でどこかに連れ去られてしまった。
101125:03/12/20 23:46 ID:OSsZi7GB
「……まあそういうわけだ。主役がんばれ」
「なんか釈然としないけど。それにどうして冴原の奴、あんなに怒ってたの?」
「それは黒板をよく見れば分かる」
 言われて再び黒板をじっくりと見た。さっきは自分の名前しか見えなかったけど、その
横に冴原の名前が、しかも下には『一』とだけ記されていた。
「お前、女子の票独占」
「納得したよ……」
「あいつ、目立ちたがり屋だかんなぁ」
 僕と関本がしみじみとしていると、沢村さんがつかつかと歩み寄ってきた。
「沢村、現場監督な」
「丹羽くんこれ。キャスト書いた紙と、大まかな話の流れ。童話のとはちょっと違ってる
ところあるから目ぇ通してね。『アイス・アンド・スノウ』は知ってるよね?」
 関本が説明してくれるのを聞きながら、沢村さんからプリントを二枚受け取った。
「知ってるよ」
 アイス・アンド・スノウ。この街に文化改革以前から伝わる、とても有名な童話である。
幼い頃に誰もが一度は聞かされたことがあるほどだ。
「じゃあいいわ。季節的にもぴったりだし、なんといっても泣けるほど切ないストーリー。
ああ、きっとみんなに大受けよ」
 沢村さんはうっとりとした表情で語るだけ語り、ふわふわと女子の輪の中に入っていった。
ふと見るとほとんどの女子がうっとりふわふわ状態だ。
102125:03/12/20 23:46 ID:OSsZi7GB
「女ってこのテの話好きな……」
「オレはサブい……」
 関本と西村が口を揃えてぶつくさ言うけど、それを気に留めるのは僕だけだった。
「決まっちゃったものはしょうがないよ」
 とは言ってみたけど、僕がいないうちに、それも主役に祭り上げられていたのはやはり
納得しがたい。渡された紙をとりとめもなく目にしていると、
「ん? んえ? えええっ!」
 あるところで目が動かせなくなった。それはキャストの欄、僕の次の欄。つまり、アイス
・アンド・スノウのヒロイン、フリーデルト役のところだ。

 主役フリーデルト――原田梨紗。

 心臓がどきっとするのに合わせて顔を上げて彼女の姿を探すと、すぐに見つかった。
女子の輪の中、楽しそうに談笑する中で同じようにくすくすと笑っている。
「あ」
 僕の視線に勘付いてしまったのか、原田さんがこちらを振り向き、目が合った。こっち
が恥ずかしくなるくらい原田さんにじっと見つめられ、顔を逸らす機を掴めずにいると、
彼女に微笑みかけられた。
 かあっと頬と胸が熱くなるのを感じ、ようやく俯いて顔を伏せた。
「うっしゃ! 今日の放課後から早速練習始めっからな。主役様は特に気合入れてけよ!」
 な、と冴原がプレッシャーをかけてきた。この時ばかりは、声をかけてもらって正直ほっ
とした。
「分かったよ分かったよ」
 適当に返事をして逃げるように席に着いた。これから学園祭本番までのことを思うと、期待
と不安が半々だ。
(どうなっちゃうんだろ……)
 何かと大変なことになりそうだと予感しながら放課後を待った。
103125:03/12/20 23:47 ID:OSsZi7GB
「『も、もう貴方を放さない……』」
「『ああッ、エリオット!!』」
 僕――エリオットが原田さん――フリーデルトに歩み寄ろうとすると、同じだけ彼女が下がる。
「『なぜ逃げるんだ?』」
「『ダメよエリオット。私たちは……身分違いの恋なんですもの』」
 フリーデルトは情緒をたっぷりと込め、大袈裟な身振りで向かい合う僕から身体を背ける。
足を止め、腕を広げながら彼女に告げる。
「『あ……あな、あなたを愛してい』」
「『エリオット――』」
 台詞をすべて言い終える前に原田さんが勢いよく僕の腕の中に飛び込み、強く抱きついてきた。
「カァァァァット!!」
 理性が飛んでいきそうになるのも時間の問題だという時に、救いの一声がかけられた。
「ぐああぁぁっ、もう! なんでちゃんとしねえんだよ!!」
 忙しい監督から演技指導を任されている冴原がずかずかと肩を怒らせて近づいてくる。
さり気なく原田さんの腕から抜け出し、数歩間合いを取った。
「私はちゃんとしてるわよ。冴原くんの目って節穴?」
「抱きつくのが早すぎんだよ! もっと間を取れ、雰囲気作れ!」
 抱きつかれる僕としては、その演技そのものを削除して欲しい。嬉しいんだけど……恥ずかしい。
104125:03/12/20 23:48 ID:OSsZi7GB
「愛しい彼が目の前にいるのよ? そんなの我慢できるわけないでしょ」
 周りで好奇の目をして見ていた何人かの女子がそうよそうよと援護射撃を送り、冴原が
完全に悪者にされてしまった。
「ちっくしょぉぉ……。こらてめぇ、お前は笑ってんじゃねえよ!」
「僕?」
 その様子を離れてみていた僕にいきなり矛先が向いた。無意識に顔が緩んでいたのか。
「原田妹は、まあいいとしてだ」
 結局女子に負けたんだね。
「大助、お前はダイコンすぎ」
 ずばりと言われて声が詰まってしまった。
「どヘタ。ヤル気あんのかよ?」
「そう言われたって、主役なんだし、緊張くらいするよ」
「練習で緊張してどうすんだよ。原田妹は恥をかなぐり捨ててフリーデルトやってんだぞ?」
「うわ、なんかその言い方ムカッてきた」
 きつく睨みつける原田さんを無視し、冴原は僕の演技についてあれこれダメ出しをしてきた。
冴原の気迫は伝わってきたけど、内容の半分以上は役に立たない虐めのようなものだった。
105125:03/12/20 23:49 ID:OSsZi7GB
 放課後の練習を始めて早数日。教室で行う僕と原田さんの周りには、常に誰かしらの目
があった。もちろん冷やかし目的で、だ。
「あんなに見られてちゃ集中できるものもできないよ」
 壁にもたれ、づるづると床に座り込んで一時休憩を取った。独り言のように愚痴が溜め息
とともに漏れる。
「…………ん?」
「お疲れぇ」
 視界がかげり、頭上から声が降ってきた。
「元気ないね。どうしたの?」
 顔を上げるより先に原田さんが膝を折り、僕を下から覗き込んできた。
「平気だよ、平気。ちょっと反省してただけ」
 彼女がしゃがんだ時、スカートの奥から白いものが見えた気がする。ごまかすように笑い
ながら彼女の顔に目を移した。
「冴原くんに言われたこと、気にしてるんだ?」
「うん……。何日も練習してるのにちっとも巧くならないから」
 原田さんは大丈夫だよと言ってくれるけど、自分の演技がよくなるとはあまり思えない。
「ありがと。それにしても原田さんってお芝居上手だね」
 彼女の演技は本当に上手い。感情がすごく満ちていて、僕なんて完全に喰われてしまって
いる。とても芝居とは思えない。まるで本気で台詞を口にしているような錯覚を覚えてしまう。
「そんなことないよ。私なんていっぱいいっぱいで、いつ台詞間違えちゃうかびくびくしてるん
だから」
 全然そうは思えない。多少間違えてしまっても、誰もが彼女の一挙手一投足に見とれて
そんなことなんて気にしないだろう。
「気にせずやろうよ。まだまだ時間あるんだから」
「原田さん……」
 ぐっと拳を握って明るく励ましてくれる彼女から元気をもらったような気がした。頷くと同時に
冴原が僕らを呼んだ。練習再開のようだ。
「さ、いこ」
「うん」
 彼女の背を追うように僕も腰を上げ、練習へ戻った。
106125:03/12/20 23:50 ID:OSsZi7GB

 日が傾く時間になってようやく今日の練習から解放された僕は、独り美術室に来ていた。
「ふむぅ……」
 椅子に腰掛け、側に画材を散らしてキャンバスに描いた絵と睨み合いながら唸っていた
けど、
「うん、完成」
 ようやく納得がいった。その絵を見ながら満足気に何度か頷いた。
 学園祭の出し物として僕がしなくちゃいけないことはクラスの『アイス・アンド・スノウ』だけ
じゃない。美術部として作品を一つ出展しなくちゃいけなかった。
 僕が描いたのは、奇しくもクラスの出し物と同じ雪を題材にしたものだった。キャンバス
一面に広がる雪原の銀世界。それが僕の作品だ。
 完成したことに得意になっていると、入り口の方から扉をノックする音が室内に響いた。
ん、と思ってそちらを振り向くと、梨紅さんが扉を開けて顔を覗かせていた。
「梨紅さん。どうしたのこんなところに?」
 この時間なら部活をしてるんじゃないかと思ったけど、彼女は制服を着ている。もう終えた
のか、それとも劇の準備をしていたのかのどっちかだと思う。
「監督が丹羽くんに話があるからいたら呼んできてって」
「分かった。すぐ行くよ」
「でも絵描いてたんでしょ? 無理して今日中にしなくてもいいよ」
「丁度終わったところなんだ。片付けたら行くよ」
 梨紅さんはふうん、と漏らし、そのまま動かなかった。どうしたんだろうと怪訝に思ったのに、
僕も同じように動く機を見つけられなかった。そのまま視線が交差し、奇妙な沈黙が続いた。
107125:03/12/20 23:51 ID:OSsZi7GB
「……………………うぅ、と、え、え、そだ! ちょっと絵見てもいい?」
「あ? う、うんいいよいいよ」
 ようやく口を開いた僕はしどろもどろに梨紅さんを室内に招き入れた。何故かお邪魔します
と蚊の鳴くような声で断りをいれて梨紅さんは入ってきた。
「すごぉい!!」
 側に立った彼女の第一声はそれだった。
「そ、そう?」
「うん! とっても綺麗」
 今まで目の前でそんなに褒められたことのない僕は、胸の奥が非常にこそばゆくなった。
小声でありがとうと呟くのが精一杯だった。
「丹羽くんの描く雪って青いんだ?」
「そうだよ。知ってる? 本当に綺麗な雪の影って、灰色じゃなくて青なんだよ。誰かに見られ
るわけじゃない。青い影を落とした雪原が、ただ、そこにあるんだ。…………って、あんまり
面白くないよね」
 調子に乗ってくさいことを言ってしまったのに気付いたら、急に顔が熱くなってきた。梨紅さん
も口をぽかんと開けて、僕の方を不思議そうに見ている。
「さ、さあ! そろそろ片付けよっと」
 放っておくとどんどん膨らんでくる恥ずかしさを押し殺すようにわざと声をあげて腰を上げた。
勢いよく立ち上がった時、足元で何かがばさっと散らばる音がした。
「うわ。しまった」
 そこには倒れた鞄があり、中身が散乱していた。椅子の側に置いているのを忘れて倒して
しまった。
「手伝うよ」
 片付けを始めると、梨紅さんもしゃがんで教科書等を拾い集めてくれた。しゃがんだ時、
スカートの奥から白いものが見えた気がした。
108125:03/12/20 23:52 ID:OSsZi7GB
「ありがと」
 どういたしましてと言って拾ってくれたものを手渡された。彼女の優しさに小さく感動
しつつ、散らかしたものを鞄に入れようとすると、中から白い何かが飛び出した。
「きゃッ!?」
 その物体は梨紅さんの胸にびったりと取り付いた。
「キュゥ」
「あは、ウィズだぁ」
「ウィズゥッ??」
 梨紅さんの胸で鳴いているのは、紛れもなくウィズだった。気持ちよさそうに顔を埋め
ている。ちょっと殺意。
「久しぶりぃ。元気にしてたかぁ?」
 梨紅さんが嬉しそうに抱きしめているせいで、ウィズを引き剥がす機会を失ってしまった。
あいつ、朝からずっと鞄の中にいたのか?
「どうして鞄の中にいたんだよ。ウィズ」
「ムキュゥゥゥッッッ」
「いいじゃないそんなこと。あたしウサギって大好きだし。ぬいぐるみと違って暖かぁい」
「ムキュキュ」
「そういうことじゃなくて……。おいウィズってば」
「ムッキュ」
 ウィズは僕の問いかけに答えることなく、梨紅さんが放すまでずっとその胸の谷間に顔
を埋めていた。
(ウィズのスケベ。一体誰に似たんだよ?)
 ……………………僕か。
 少しだけ、悲しくなった。
109125:03/12/20 23:53 ID:OSsZi7GB
 その日、家に帰ると母さんがニコニコして出迎えてくれた。
「お帰りなさい大ちゃん。急だけど夕飯終わったらお仕事行って頂戴ね」
 いつものことながら母さんは突然すぎる。
「はあい。何時にどこで何を盗んでくるの?」
 そう思っても断れるはずもなく、僕は受け入れるしかない。もう慣れたからそんなに気に
ならないし。
「九時にクライン教会で『時の秒針』を盗んできてね」
 母さんが差し出してきた写真には巨大な氷柱みたいな台にかけられた、蒼月の盾より
一回り小さい赤い鏡のような美術品が写されていた。写真を受け取ると、あることを思い
出した。
「クライン教会? あそこの美術品って全部博物館に寄贈されたんじゃないの?」
 つい先日のことだったはずだ。僕だって怪盗の家系で育つ人間だ。それくらいのことは
チェックしている。
「安心なさい。これは確かな筋からの情報よ」
「不安だなぁ……」
「まあまあ。行ってみなくちゃ分からないでしょ。さ、ご飯食べちゃって」
 母さんの後に続いてダイニングへ向かった。行ってみなくちゃ分からない――それって
あるかないか分からないってことじゃないの?とは、とてもじゃないが怖くて訊けなかった。
110125:03/12/20 23:54 ID:OSsZi7GB
「あ! もう八時じゃないか」
 リビングの時計の針はもうそんなところを差していた。がたがたと椅子に着き、少し速い
ペースでご飯をかき込んだ。
「あんまり慌てると牛になっちゃうわよ」
「っんぐ……、でも芝居の練習だってあるし、時間が勿体無いよ」
「人間余裕が肝心じゃぞ」
 朝と同じところに座るじいちゃんがテレビを見ながら口を出してきた。
「じいちゃんまで……」
 注意されたからというわけじゃないけど、なんとなく箸を運ぶペース落とし、それでも気は
急いていた。
「ごちそおさまッ!」
 椅子を跳ね飛ばすほどの勢いで立ち上がり、部屋に行こうとした。
「大助」
 対面にいた父さんに出し抜けに声をかけられて間抜けな顔をしていると、
「気をつけて行きなさい」
 和やかな食卓には似つかわしくない張り詰めた表情で言われた。父さんがどういうつもり
でそう言ったのか真意が掴めず、曖昧に返事をするしかなかった。
111125:03/12/20 23:56 ID:OSsZi7GB
 予告したとおりの時間にクライン教会に着くと、周囲があまりにも静かなことに多少驚いた。
「警察の人がいませんでしたねぇ」
 教会の通路を進んでいると、レムちゃんが不思議そうに言ってきた。
「ここの美術品は全部博物館に寄贈されたってことだからね。警察も動く必要がないんじゃ
ないかな」
 でも怪盗ダークが予告状を出したんだから、体裁だけでも取り繕って警備した方がいいの
ではないかと思う。僕はしてなくてありがたいと言えばそうなのだけど。
「大体、本当にあるのか? ああ……何と言ったか」
「『時の秒針』」
「そう、それだ。今のところまったく魔力も感じぬ。無駄足だったのではないか?」
 唸りながら足を進めた。確かにそうかもしれない。母さんも、言葉は自信満々だったけど、
実際は非常に怪しいことを口走っていた。
「……とにかく、しらみつぶしに捜すしかないね」
「この教会、結構広いですよ?」
「二人とも何も感じない?」
 返事はどちらも否定的だった。微かでも魔力を放っているなら二人に任せてそこに行ける
んだけど、それが使えないとなると、いよいよ脚を使ってのしらみつぶししかない。
112125:03/12/20 23:57 ID:OSsZi7GB
「この広さなら急いで一時間ってところかな」
 家に帰ったら劇の練習もしなくちゃいけない。結構ハードだ。
「そういえば主が今度演じる劇にも『時の秒針』がでてきておらんかったか?」
 頷いた。童話のアイス・アンド・スノウには『時の秒針』がでてくる。母さんが言うには、『時の
秒針』の持つ不思議な力にまつわる話が元になってアイス・アンド・スノウが描かれたらしい。
もっともそれが本当のことかどうか証明する手立ては、文化改革の混乱に紛れてしまっていて
存在していないと父さんが言っていた。
「へえぇ、ちょっと興味があります。聞かせて下さいご主人様」
「いいよ。でも僕が知ってるのは『時の秒針』がアイス・アンド・スノウに出てくるってことだけだから、
話すのは童話のアイス・アンド・スノウになっちゃうけど」
「構いませんッ。早く聞かせて下さい」
 咳払いを一つし、調子をとった。幼い頃の記憶とつい最近読んだ台本の内容を合わせ、何とか
言葉にして紡ぎだした。
「じゃあ始めるよ。アイス・アンド・スノウは領主の息子エリオットと村娘フリーデルトの、身分違い
の恋人同士の話なんだ」
113125:03/12/20 23:58 ID:OSsZi7GB
「私と丹羽くんはいつも幸せだったの。でも、そんな私たちを引き裂いたのは周囲の反対
じゃなくて」
 そこで小さく間を取り、ベッドに腰掛ける姉をびしりと指差した。
「戦争だったのよ!」
「なぁんであたしを指差す? ちゅうか丹羽くんじゃなくてエリオットでしょうが」
 梨紅の不平もなんのその。原田梨紗はなおも続けた。
「必ず生きて戻ってくるという丹羽くんの言葉を信じて、私は彼の無事を信じて毎日教会で
祈り続けるのであった!」
 こんな調子で梨紗の言葉は物語の終わりまで続いた。聞かされる方はあまりにも疲れる
ので省略させてください。
「――そして私と丹羽くんの愛は永遠に続き、『時の秒針』は今もなお村を見守るのであった!」
 言葉が止まったことに気付き、原田梨紅は顔を上げた。そこには拳を握り締め、話の余韻
に浸る原田梨紗がいた。
「どうどう? いいお話でしょ?」
 梨紗は目を輝かせて梨紅に寄るが、彼女は非常に迷惑な顔をしていた。
「梨紗ぁ、もう耳タコだよそれ。どうして練習入る前にいつもそれ言うの?」
「あんたに当てつけるためよ!」
 びしっと言い切られ、リアクションに困ったのは梨紅だった。
「…………まあ、いいけど」
「よくない! そこを気にしてくれないと、梨紅が丹羽くんに寄りついちゃうでしょ?」
「何その言い草! あたしが害虫みたいじゃん!」
114125:03/12/20 23:59 ID:OSsZi7GB
 それからしばらく二人の聞くに堪えない罵詈雑言が飛び交った後、ようやく劇の練習を
開始した。梨紗の部屋が小さな練習場へと姿を変えた。
「『なぜ逃げるんだ』」
 抑揚のない梨紅の声が読み上げるのは中盤の山場、戦争に向かう前にフリーデルトに
告白するエリオットの台詞だ。ここは初めてやる場面である。
「『ダメよエリオット。私たちは……身分違いの恋なんですもの』」
 梨紗の演技は相手が梨紅だろうと手を抜くことはなかった。
「『あなたを愛している』」
「『エリオット――』」
 抱きつかれた瞬間、梨紅の眉根がぴくっと動いた。この演技を本番でもやるということは、
大観衆が見守る中で丹羽大助と抱き合うことになる。そう思うと歯痒い気持ちでいっぱい
だったが、今は渋々と演技に付き合い、梨紗の身体に腕を回した。
 二人の身体が完全にくっつくと、梨紗の手が梨紅の頬を挟み込んだ。梨紅は怪訝に思っ
たが時すでに遅し。梨紗の唇がそっと梨紅の顔に触れた。
「んなぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
 梨紅の身体が後方に弾け飛び、ベッドにぼすっと倒れた。
「ちょっとぉ、真剣にやってよ」
 不満そうに梨紗は漏らすが、梨紅はそれどころではなかった。
「んな、んな、んな、なんばすっとかぁぁっっっ!!」
「何ってキスよキス。接吻」
 さらっと言ってのけられ、梨紅の動揺はさらにひどくなった。
115125:03/12/20 23:59 ID:OSsZi7GB
「そんな演技どこにもないでしょ! いきなりするなんてどういうつもりよ!?」
 唇を服の袖で拭きながら言葉をぶつける。幸いにも梨紗が触れたのは唇のすぐ横であり、
梨紅のファーストキス――と本人は思い込んでいるだけだが――は奪われずにすんだ。
「だっていきなりやらないと意味ないでしょ」
「意味ってなん……!」
 そこで梨紅の動きがはたと止まった。そう、彼女は気付いたのだ。妹の恐ろしい計画に。
「んふふ、分かった? そう! 本番で、みんなが見てる前で丹羽くんの唇を奪っちゃう
のよ!!」
「あ、あんたねえっ」
「既成事実さえ作っちゃえばこっちのものよ!」
「そっ、そんなの、お姉さん許さないからね!」
「あら? 邪魔をして劇を台無しにする気、お姉様?」
 このシーンは山場の一つとなっている。クラス全員が団結している中、梨紅一人が何か
しでかせばそれだけで劇はおしまいだ。このシーンを演じている時は、まさに舞台上にいる
二人だけの世界となるのだ。誰にも邪魔されない二人だけの空間を利用し、梨紗はすんごい
ことをしでかすつもりだった。
 高笑いする梨紗の姿が、梨紅には悪女に見えた。
(お父さんお母さんっ!! 梨紗が不良になってます――――ッ!!)
116125:03/12/21 00:01 ID:WMsllf7W
「っていうお話。分かった?」
 何とか童話どおりに話を伝えられたと思う。
「い、い、いいお話ですぅ」
 レムちゃんは鼻声だ。多分、泣いているんだと思う。
「…………」
 対してさっちゃんは無言だ。どうかしたのか訊ねようとすると、先にさっちゃんがぼそりと
呟いた。
「綺麗すぎるな」
「え?」
「この教会がですか? わたしはもっと綺麗な方が落ち着きますけど」
「バカモノ。この話がだ」
「アイス・アンド・スノウが?」
 さっちゃんは大仰に頷いて話を続ける。
「童話とは、人間の残忍性、残虐さや傲慢さ、そのような陰の部分から成っていてな。それ
が広く受け入れられるようにと丸くなったものが今の童話だ」
「陰、ですか?」
「アイス・アンド・スノウ――『氷雪』。雪とは『純粋さ』の象徴だ」
「いかにもそんなイメージだよね」
「しかし、だ。これにも陰の意味があってな」
「また陰ですか」
「『死』。『純粋』と『死』、まったくもって面白い取り合わせではないか?」
「面白いって……」
 その声は少しだけ楽しんでいるような、悪戯っぽいものに聞こえた。さっちゃんに言われた
ことを噛み締めながら、僕は昼間に完成させた絵のことを考えた。あの絵は、ただ純粋に
季節にあっていると思ったから描いたんだけど、さっきの言葉を聞くとそう気安く描いてよか
ったのかどうか、少しだけ考えさせられた。
117125:03/12/21 00:01 ID:WMsllf7W
(けど、いちいち絵のモチーフで考え込むっていうのも……)
「主っ!」
「え? 何?」
 突然さっちゃんに力を込めて名前を呼ばれ、考えを中断した。
「正面、来るぞ!」
 その声は闘いの時のものだった。鬼気迫るほどに叫ばれ、腰を落として正面を見据えた。
のに、そこは行き止まりで何もなかった。
「何もないよ。どうしたの?」
 少しホールのように広くなっているところを見ると、何かを展示していたのかもしれない。
「な……、あれが見えとらんのか!」
「あれって?」
「ご主人様ッ!」
「間に合わん! レムッッ!」
 さっちゃんの呼びかけに応えてレムちゃんが周囲を包むように防壁を張り巡らせ、同時に、
僕の周りの空間が震えた。
「な、なにがッ……」
「本当に分からんのか!?」
「だ、ダメっ、押されますぅぅっっ」
 僕だけ取り残され、状況は変化しているみたいだ。それでも二人の様子から分かるのは、
これが尋常じゃない事態だということだ。
「主っ、気合を入れよ! 押し破られる!」
「分かった!」
 言われるままに盾を真正面に構え、体中を緊張させた。多少楽になったのか、レムちゃん
が小さく溜め息を吐くのが聞こえた。
「どうなってるの? 全然分からないよ」
「正面にいる小娘がこちらに向けて多量の花びらを撒き散らしてきとる。それにしても何故
主だけ見えん? ……人間、だからか?」
「さ、さあ」
 取り残された気分は拭えないまま、次の異変が起きた。今度は大地を震わせ、地鳴りの
ような音が辺りに響き渡った。
118125:03/12/21 00:02 ID:WMsllf7W
「今度は何――っ」
 その変化は僕にも捉えることができた。目の前、何もなかった空間に、床から巨大な何か
がせり上がってきた。
「! 『時の秒針』!?」
「なにっ、あれがか」
 競りあがってきた巨大な氷柱にかかる赤い円盤状の物体。母さんから見せてもらったもの
に間違いない。
「きゃッ――」
「レム!?」
 周囲からの圧力が増大し、僕の腕からレムちゃんが、蒼月の盾が吹き飛ばされた。
(外されたっ!?――)
「うわあぁぁっっっ!」
 盾の加護を失い、強烈な風が身体中を叩きのめしていく。
「あるじ――」
「キュウ――」
 レムちゃんと同じく、さっちゃんとウィズが後方に吹き飛ばされ、僕だけがその場に残った。
「なんでッ」
 僕だけ吹き飛ばされないんだ!言いかけて、みんなとは逆に『時の秒針』の方へ吸い寄せ
られていくのに気付き、倒れ込んで必死に床に喰らいついた。
「うぁ?!」
 身体がふわっと浮くような錯覚に襲われ、それが本当に浮いていると頭で分かった時には、
すべてが遅かった。
「主ぃッ!」
「ご主人様ぁ!」
「キュウゥゥッ!」
 風で消されそうなほど小さなみんなの声が届いたのが最後だった。
119125:03/12/21 00:03 ID:WMsllf7W

「な…………」
「さ、さっちゃんあれって……」
 風、いや二人からすれば花吹雪がやみ、静寂が戻ったホール。その中央の光景に、二人
は愕然とした。
「キュウッ!」
 ただ一匹動けるウィズはホール中央の氷柱に駆け寄り、懸命にそれを引っ掻いた。翼主を
助けるために。
 氷柱の中、そこには丹羽大助が封じられていた。『時の秒針』は丹羽大助を連れて行き、
翼主を失った翼だけが無惨にも取り残された。

 一匹の掻き続ける音と二人の慟哭が、静寂の中に木霊した。
 



120125:03/12/21 00:03 ID:WMsllf7W
ここまでです。今回も長くなりそうなヨカン。
121名無しさん@ピンキー:03/12/21 00:17 ID:q59fD2fj
お疲れ様。このフリーデルトの話は元々長いのでながくなるのは仕方ない、気にするな。
っていうか、長くなってもなんにも害がないしなw
122名無しさん@ピンキー:03/12/21 00:44 ID:KVP4KGGn
長いぶんだけハァハァできるしな
ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ
123名無しさん@ピンキー:03/12/21 01:08 ID:w+JAsGRU
ちらりと原作のテイストが盛り込んであってニヤリ。
124名無しさん@ピンキー:03/12/21 01:27 ID:qev2wR12
なんというか、、梨紗がえらく元気にたくましくなってw
125前スレ580:03/12/21 02:43 ID:uAnffIwJ
おつ〜っす
それにしてもまたSEEDなんですねw
さりげにスクライドのアレも声優同じだったり…ネタはあるけど筆は進まない_| ̄|○|||
126名無しさん@ピンキー:03/12/21 04:21 ID:Z6ltsnF1
乙彼サマーDEATH!
王子:日渡・姫:大助も微妙に見てみたかったかもw
127名無しさん@ピンキー:03/12/21 12:48 ID:toG+rUqX
なんばすっとかぁぁっっっ!!にワロタ
128名無しさん@ピンキー:03/12/22 22:09 ID:uXVIMpPW
a
129名無しさん@ピンキー:03/12/23 01:14 ID:2Cu4qZmm
梨紅派の私としては歯がゆいところ。
体育祭イベントで逆襲して欲しいな。
二人三脚とか借り物競走とか。

そういえば、我が母校では上半身裸、短パンのみで行う棒倒しがあったなあ。
大助の半裸にハァハァする女子が多そうだw
130名無しさん@ピンキー:03/12/24 19:33 ID:aW7J+KmC
あ、125・・・・・_| ̄|○
131前スレ580:03/12/24 23:55 ID:KipCbmi5
しもたぁ、やってまいましたか_| ̄|○
132名無しさん@ピンキー:03/12/26 14:06 ID:tUiGrbJ3
よ・・・よし、ここは135を・・・
133133:03/12/26 21:10 ID:9IR4sMYm
「ちょっと遅くなっちゃったけど」
 手を背中でつないだ赤い人型の後姿がもったいぶるような口調で続ける。
「ハッピーメリークリスマァァスっっっ!!」
 にぱぁっと顔を輝かせ、サンタ服――それも何故か下は超がつくほどのミニ――に身を
包んだ梨紅が元気よく振り向いた。
「さ! というわけで今日は、深夜におねんねしてる良い子のみんなに、サンタさんに扮した
あたしがプレゼントを届けに行っちゃおうと思うの」
 にこにこと説明する梨紅の後ろ、もぞもぞと蠢く怪しげな影が。
「梨紅さん……」
「あ、丹羽くんこっちこっち」
 声に振り返った梨紅が呼んだのは、茶色い着ぐるみをまとった大助であった。着ぐるみの
首に当たるところがだらりと背の方に垂れている。
「どうして僕がトナ」
「何言ってるの! トナカイ役は丹羽君しかいないって!」
 梨紅が着ぐるみの頭を大助の頭にすぽんと被せると、なるほどそれは大きな二本の角を
生やしたトナカイさんそのものだった。
「……喜んでいいのかなぁ」
「それじゃ早速行ってみよおっ」
 いざ行かん、とどこか彼方を指差している梨紅は、すでに白い荷物袋とともにリヤカーに
乗っていた。
「…………」
「どうしたの? 早く行ってよトナカイさん」
「……やっぱり僕が引っ張って行くんだよね」
 アタリマエデショ?梨紅に言われ、低かったテンションがさらに急降下していった。
「……じゃあ行くよ」
 のっそりのっそりした動作の大助がよっこらしょと言ってリヤカーを引き始めた。
「ほら急げ急げぇぃっ、夜が明けちゃうよ?」
「まだ夜中の一時だよ……」
 程よく積もった雪の上には、サンタさんとトナカイさんの軌跡が刻まれていった。
134134:03/12/26 21:10 ID:9IR4sMYm
(さ。初めの良い子のお家に到着したよ)
 とあるマンションの一室の前で、サンタとトナカイはぽそぽそ小声で話していた。
(ねえ梨紅さ)
(梨紅じゃなぁい! サンタさんと呼びなさい)
(…………サンタさん)
(どうしたのトナカイくん?)
(ここってもしかして)
(うん、その通り。日渡くんのところだよ)
 やっぱり。そう口の中で呟くトナカイさん。
(それじゃ入るよ)
 サンタさんが胸の谷間に手を突っ込むと、そこから生暖かくなっている鍵を取り出した。
(うわぁ……)
 きっとトナカイさんの「うわぁ……」にはいろいろな意味が込められているに違いない。
ともあれ、サンタさんは意気揚々と鍵穴にそれを挿入した。
(神魂合体!)
(その掛け声全然関係ないよ)
(そう? じゃあ…………エントリー○ラグ挿入!)
(それも関係ない……え、何でそっちだけ伏せ字?)
(――――黙れ)
(……………………今、何か言った?)
 言ってないよ。にっこりと告げられ、トナカイさんは背筋を冷たいものが駆け上がっていく
のを感じた。梨紅さん、こんな人だっけ?また口の中でぼそついた。そのうちこのトナカイ、
ストレスで死ぬと思う。
135135ゲッツ:03/12/26 21:11 ID:9IR4sMYm
「……あ、あれ?」
 サンタさんが上ずった声をあげ、トナカイさんはどうしたか尋ねた。が、サンタさんは
引きつった笑いを浮かべ、何でもないを六回繰り返してから鍵穴と……格闘し始めた。
「っく、こ……こんのぉぉ……素直に回りな、っさいぃ!!」

 ごぎゃぅん

「うわッ!?」
 頭に刺さるように鋭く、それでいて地面を這うように鈍い音をドアノブが立てた。
(開いたよ、行こ)
 肩に袋を担いだサンタさんが開け放たれた扉から日渡怜の家へ侵入を開始した。トナカイ
さんも後に続くが、その時目の隅にどこをどうやってか無惨に壊されたドアノブの亡骸が映った。
(…………)
136135:03/12/26 21:12 ID:9IR4sMYm
(うわぁぁっと、これは!!)
 妙なテンションを維持したまま、原田梨紅……もといサンタさんは何かを発見した。
手に持ってこちらに見せてくるのは、
(日渡くんの飲みかけの缶コーヒーです!)
 人が就寝しているところに侵入し、いろいろと物色する。これではまるで、
(寝起きどっきり……)
 大助は呟いた。胃の真ん中辺りがきりきり痛み始めていた。
(おおっと、あちらにはベッドが! あそこに日渡くんがいるのね)
 どしどしと、それもブーツを履いたまま土足で進むサンタさんの後に、トナカイさんは
蹄をかぽかぽ鳴らしてついていく。
 日渡怜は布団から顔を出し、すうすうと上品な寝息を立てていた。ベッドフレームの角、
そこには青い靴下が吊るされていた。
(ぶふふぅッ、日渡くんってこの歳でまだサンタさんなんて信じてるんだ)
 口に手を当てて笑いが漏れるのを堪えようとしたが、空気が漏れた。どうしてだろう、
今日の梨紅は弾けている。
(サンタさんの格好でそんなこと言っても説得力ないって)
(あ。それもそうか)
 思い直したサンタさんは肩に担いでいた袋の中から一つの包みを取り出し、それを日渡
の用意していた靴下の中に入れてあげた。
(よし、これで日渡くんはオッケーね。次行ってみよう)
(はぁい……。ところでサンタさん、一体何をあげたの?)
(へっへぇ、それを言っちゃあおしめえよ)
 得意気な顔をし、サンタさんは来た時と同じく揚々とその場を後にした。
137135:03/12/26 21:12 ID:9IR4sMYm
(お次はこの子のお家だよ)
 サンタさんとトナカイさんがやってきたのは、警察署だった。
(ぼ、ぼぼぼ、僕はまだ捕まりたくなぁぁぁい!!)
 怯えて逃げ出そうとするトナカイさんの首根っこをむんずと引っ掴み、サンタさんはどすを
効かせた声で言い放った。
(われぇ逃げる気かい?)
 トナカイ、失神。
(んもお、しょうがないなあ)
 やれやれといった調子でトナカイさんを寝かせ、サンタさんは一人で警察署の前に立った。
(冴原くんの家ってどこか分からないからね。ここにプレゼント置いとけばきっと冴原パパが
届けてくれるよね)
 袋から取り出したのは、封筒ほどの大きさのプレゼントだった。それを警察署の前に置き、
そこを去った。
138135:03/12/26 21:13 ID:9IR4sMYm
「――――は!? ぼ、僕は一体……」
 トナカイ、覚醒。
「起きた?」
 目前ではサンタさんが天使の微笑を浮かべている。トナカイさんが後頭部に感じる
柔らかな、暖かな感触。膝枕をされていると気付くのに時間は要らなかった。
「わ、わああっっ!! ごめんなさぁぁぁいっっっ!!」
 トナカイはすぐに跳ね起き、雪の上を転がるように、というか本当に転がってサンタさん
から距離をとって、がくがくぶるぶると震え始めた。
 今の妙な梨紅さんに膝枕をさせただなんて、きっとなにかあるはずだ!そう思い、大助
は小さく丸まって震え続けた。
 ぽすん、と肩を叩かれ、トナカイさんは喉を引きつらせて縮み上がった。
「丹羽くん、早く行こ?」
 その声はいつもの、いちゃいちゃしている時の優しい声だった。
「え? え? え?」
 混乱するトナカイさんをよそに、サンタさんはトナカイさんの手を取り歩き出した。
「次は近いから。ゆっくり行こうね」
 いきなりの変化についていけず、トナカイさんはずっと戸惑い続けたが、この時がずっと
続けばいいと願ったことは言うまでもない――。
139135:03/12/26 21:14 ID:9IR4sMYm
「次は西村くん家だよぉぉっっ! イエッフゥゥゥッッッ!!」
 ――続かなかった。サンタさんの側で手足をがくりと雪の上につくトナカイさんがいた。
「西村くん家も知らないけど、ご都合主義で来ちゃったよ! どうしよう!?」
 困ったように言ってはいるが、サンタさんはまったくそんな顔をしてはおらず、むしろ
楽しそうであった。
「まあいっか! 突撃するよぉぉっっ!」
 もはや小声のぼそぼそ会話など覚えている様子もなく、サンタさんは西村家の玄関の
ドアに突っ込んだ。
「烈風ゥゥッッ、正拳突きぃぃぃぃぃッッッッッ!!!」
 サンタさんの拳から放たれた一撃は西村家のドアを銀紙のように容易く折り曲げ、玄関
を粉砕し、壁に無数の亀裂を生み、不整合な音を立て、結果、西村家倒壊。
「イエッフゥゥゥッッッ! 逃げるよぉぉぉ!」
「うわああああああああああああっっっ!!!」
 トナカイさんは顔をくしゃくしゃに歪めて泣き、がむしゃらにサンタさんの後を追った。
140135:03/12/26 21:14 ID:9IR4sMYm
「気を取り直していこう。次は沢村さんだよ」
 ようやく女子の部に入った。心身ともに荒みきったトナカイさんには、せめてそれが
サンタさんの暴走を止めるのに貢献してくれれば……。と淡い期待を抱いていた。
(それに女子なら、サンタさんも無茶はしないよ……きっと…………多分)
 不安だった。サンタさん、ふうっと溜め息。
「本当はこれを西村君に上げて、こっちを沢村さんに上げる予定だったんだけどね」
 サンタさんの指には似た形状の輝石が二つ挟まれていた。
「何それ?」
「んとね、こっちは持ち主が赤い石の人と仲良くなれるっていう魔法の石で」
 二つのうち一つ、青い石をトナカイさんに見せる。それを西村に渡す予定だったらしい。
ちょっといいことしてるんじゃないかな?とトナカイさんは思うと、サンタさんは次に赤い石
をかざし、
「こっちは持ち主が青い石の人をとっても嫌いになるっていう魔法の石なの」
「エ゛ーーーーー!!!」
 意味ないよ!トナカイさんは激声を張り上げて突っ込んだ。
「だってぇ、ちょっと面白そうじゃない?」
「面白くない! 悲惨、悲惨! 西村自殺しちゃうよ!!」
「なればそれまでの漢だったということよ」
 サンタさんは口の端を歪めて鼻で哂い、ドブ川が腐った様な色の目をしていた。
「蝶サイコー!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッッ!!」
 トナカイさんは泣き出した。
141135:03/12/26 21:15 ID:9IR4sMYm
「サンタさん、後は福田さんと石井さんが残ってるよ」
「もういいや帰ろう」
 うそぉ……。今まで振り回されてきたトナカイさんはその一言でどしゃりと崩れ堕ちた。
「疲れちゃった……。早く帰ろ」
 サンタさんはリヤカーから飛び降り、雪に埋もれ微動だにしないトナカイさんを捨て置
いて一人で原田邸に向かって歩を進めていった。
 トナカイさんの周りは、周りだけ雪が吹き荒び、茶色い着ぐるみを白く染め上げていった。
「…………なんなんだ今夜は」






142135:03/12/26 21:15 ID:9IR4sMYm
 ――原田邸。
「まだ終わりじゃないよぉ」
 サンタさんは誰かに向けて言いながら、妹の部屋にこそこそと侵入していた。
「梨紗、あんたにもちゃんとプレゼントあるからね」
 がさごそと未だに大量の何かが入っている袋から細長い包みを手に取った。
「お姉さんからの心を込めての贈り物だかんね。大切にするんだぞ」
 ベッドで眠る梨紗の側に小包をそっと置き、唇に軽いキスをしてから梨紗の部屋から
出て行った。
「ウーー……ッ、今日は肩凝ったなぁ」
 何時間ぶりかに自室に戻ると肩から先をぐるんぐるんと振り回し、大きく息を吐いてから
どさっとベッドに突っ伏した。
「うぅ……ぅにゅ……」
 深夜に雪の中を歩き回った疲労からくる極度の睡魔に屈し、ものの数秒で深い眠りへ
いざなわれた。
 それからしばらくし、



 もぞ



 梨紅の部屋に床を這って入ってくる怪しげな影が。
143135:03/12/26 21:16 ID:9IR4sMYm
「――真っ赤な頭のぉ、トナカイさんはぁ……」
 トナカイさんだった。いや、すでに彼はトナカイさんではなかった。何故なら、全裸だった
から。
 着ぐるみは梨紅の部屋前で脱ぎ捨てており、身体は寒さで震えているがしかし長い間
虐げられてきた元トナカイさんは怒りと欲情と興奮で、とにかくいろんな鬱折した想いから
あそこは馬並みにびんびんだった。
「いつぅもサンタのぉ、召使い……」
 立ち上がり、ベッドで熟睡するサンタさんに忍び寄り、超のつくミニから伸びる二本の白い
太股の間に顔を割り込ませた。
「でもっそのっとっしのぉ、クリスマスゥの日ぃ」
 サンタさんの女性の部分に声を吹きかけるように静かに呟くと、サンタさんは微かに身じろぎ
した。
「トナカイさんは復讐を誓ったんだ!!」
 サンタさんの青と白の縞々パンツに手をかけ、一思いにそれを破り捨てた。
「っふぁ? な、なにぃ?」
 脚の間がすっと寒くなり、異変に気付いたサンタさんが目を覚ますがすでに遅かった。
猛り狂ったトナカイさんの舌がサンタさんの無毛地帯に突貫した。
「っひゃ!?」
 外気に冷やされたそこに突然熱くぬめるものが触れ、サンタさんは驚きと刺激に声をあげた。
トナカイさんの舌は休むことを知らず、間断なくサンタさんの綺麗な一本筋を、水を飲むように
舌を出し入れして舐め続けた。
「ぃ、あ、何し、てるのぉッッ」
 わけも分からぬうちに下半身を麻痺させる快感が責め上がってくる。眠気と快楽で恍惚とする
中、脚の間に赤いものが蠢いているのを目にした。
144135:03/12/26 21:17 ID:9IR4sMYm

「と、トナカイくん!?」
 ――丹羽じゃないのか。
「サンタさん……僕、もうダメだよ!」
 ――梨紅じゃないのか。
「やんっ、やめてトナカイさん!」
 サンタさんが抗拒しようと身体を動かそうとするが、思うように動いてはくれなかった。
その間もトナカイさんの舌はサンタさんの大事なところを一心不乱に責め続け、徐々に
閉じていた門孔が緩み始めていた。
「ぁ、ぁぁ……んん」
 一本線しか刻まれていなかったそこは紅色に染まった二枚の襞が、ひくひくと切なく蠢動
していた。
「サンタさん……サンタさん、もう我慢できないよ!」
 トナカイさんはサンタさんに覆い被さり、馬並みに勃起したその巨躯を、人の身でしかない
サンタさんの狭口に突き立てた。
「ッッ――――」




 その日街には、鮮烈なまでに美しい紅い雪が降ったとか、振らなかったとか……。




145135:03/12/26 21:18 ID:9IR4sMYm
「うぅ……ん」
 日渡怜は目を覚ました。朝は回転の鈍い頭であったが、その日だけはすぐに働きだす
ことができた。
「! そ、そうだプレゼント!」
 必要以上に慌てた動きで靴下を見ると、歪な形をしているのに気付いた。
「わぁい」
 日渡怜。サンタを信じるお茶目で純真なな少年だった。早速靴下から包みを取り出して
丁寧に施されたラッピングを剥がしていくと、
「うぐっ! こ、これは…………っっ!!」
 雷撃を受けたかのように表情は厳しいものとなった。だがそれは嫌だったからではない。
逆である。真に欲しかったものであり、彼のネットワークを駆使しても手に入らなかった幻の
一品だったからである。


 
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「――――ありがとう、サンタさん」
 清々しいまでの笑顔、涙もだらだらと流していた。
146135:03/12/26 21:18 ID:9IR4sMYm
「冴原警部」
 署に出勤してきた冴原父に声をかけたのは、事務を担当している若い刑事だった。
「今朝、署の前にこんなものが落ちていたそうです」
 彼が差し出してきたのは封筒だった。中に入っているのは手紙より少し厚く、しかも幾つ
も入っているようだった。
「んん? ……剛宛てじゃないか。どうしてこんなもんが」
「さあ……。中身の方はまだ確認しておりません」
 一つ唸り、中身を取り出した。それは、息子が大好きな写真だった。写っているのはどれ
も女性器を間近で接写したものばかりであった。






 その日、冴原父は息子に手錠をかけることとなった。
147135:03/12/26 21:19 ID:9IR4sMYm
 原田梨紗は目を覚ますと、枕元に細長い包みが置かれていることを認めた。寝ぼけた
ままそれを手にしてラッピングを外していくと、こけしが姿を現した。
「んん……?」
 こけしを握る指に何かが触れ、何かを動かしたかと思うと、それに合わせてこけしが
ヴゥゥゥンと低い振動音を放って振動し始めた。
「うっきゃぁぁぁぁぁっっっっっ!!!?」
 バイブだった。それも、でかい。今まで梨紗が見てきた――使ってきたかどうかは想像に
お任せ――ものより二回り以上でかい。咄嗟にそれを投げ捨て、ベッドの上で後ずさった。
と、ベッドに触れる手に別の、乾いたものが触れる感触があった。
「……手紙?」
 それには何かが書いてあるが、手紙というにはあまりに陳腐で、メモ帳の切れ端という
程度のものだった。紙を手にとって文面に目を通した。そこには見慣れた筆跡でこう記されて
あった。




 ちょうど丹羽くんのと同じサイズのを見つけてきました。毎晩使ってね♥



 
「――――梨紅、ありがとう」
 燦々と輝く笑顔、吐息もはぁはぁと荒かった。
148125:03/12/26 21:21 ID:9IR4sMYm
クリスマスネタなのに終わっちゃってから投下(´・ω・`)
でも気にせず読んでやってくださぃ。
149前スレ580:03/12/26 22:37 ID:Q9hHh/gd
クリスマスネタKITA―(゚∀゚)――!!
そして自分はSSほっぽり出してザク改組み立ててました、12/25はバーニィの命日です
『滅び行く者の為に!!』
150名無しさん@ピンキー:03/12/26 23:47 ID:EDjs5V4F
>「烈風ゥゥッッ、正拳突きぃぃぃぃぃッッッッッ!!!」
おまえの空手を見せてやれ♪
す、すんません、歳がばれるところで反応してしまいました。
151名無しさん@ピンキー:03/12/26 23:48 ID:mh/dK1//
>>150
そっちでは羽があるのは女の子の方だね。


って反応してしまったw
152150:03/12/26 23:50 ID:EDjs5V4F
>>151
レスはやっ!
なにげにこのスレの平均年齢って……。
153名無しさん@ピンキー:03/12/27 00:05 ID:kM2h9CBR
まあ普通の若人は「蝶サイコー!」 で反応するもんだろうなw




あっちのスレにも顔を出して欲しいなあ…久しぶりに
154名無しさん@ピンキー:03/12/27 02:19 ID:geWPNOUc
なんかすごいSSだったね、今回は(; ̄ー ̄A
言うべき言葉がおもいうかばないやw
155名無しさん@ピンキー:03/12/27 04:58 ID:jHorErtI
一人二役で性欲処理する日渡・・・。ハゲワラ
156名無しさん@ピンキー:03/12/27 09:31 ID:xPCJ4M8Z
クリスマススペシャル乙です!
ところでイエッフーって元ネタありましたっけ?
157名無しさん@ピンキー:03/12/30 00:18 ID:mrHqE2cL
age
158125:03/12/31 18:38 ID:t7gBYOaw
今回もえっち分薄めのお話重視になってしまいますた・・・。
どうか後半までのえっちぃシーンへの盛り上がりのためと
思って読んでやってください。
159125:03/12/31 18:39 ID:t7gBYOaw

 ここは……どこ――。

 頬に柔らかなものが触れている。それが次第に痛みを伴い、薄れていた意識が、靄が晴
れるようにはっきりとしてきた。
「ン……」
 痛みが冷たさに変わる。微かに目を開くと、眩しい白さが後頭部まで突き抜けた。
「――雪?」
 僕の身体は半分ほど積雪の中に埋没している。それが分かった途端、体温がひどく下が
っているのに気付いた。四つん這いになってどうにか雪から身体を引き剥がすと、雪面に
僕とは別の影が形を作っていた。
 顔を上げると、太陽の光とそれに反射する雪光で視界が一瞬だけ大きく奪われた。戻っ
た視界に映ったのは青白い人影、一瞬だけ顔が合った。甲冑みたいな装備に身を包み、腕
を振り下ろしている。その手に握られているのは、刀剣。
「うッわ!」
 咄嗟に横に跳び刃の切っ先から逃れた。僕がいた場所に躊躇いなく剣が突き立てられる。
予期していなかった出来事に狼狽えているところに振り下ろした剣が薙いできた。
 跳んでかわし、襲いかかってきた人の肩を踏み台にして背後に回り込み、走って逃げた。
「何なんだよ一体っ!」
 叫んでも、返ってくる言葉はなかった。両手と背には、いつも一緒にいる仲間がいなか
った。意識が途切れる寸前のことが少しだけ思い出される。
 今僕は独りで、このわけの分からない現状に投げ出されていた。
「わわわっ!?」
 何かを踏んづけたのか、足元が不安定になりバランスを崩して転倒しそうになる。体勢
を立て直して振り返ると、雪面からもこもこと雪が盛り上がり、さっき襲ってきたのと同
じ人型が造られた。
160125:03/12/31 18:40 ID:t7gBYOaw
「雪像?」
 しかもそれが意思を持ったように僕を狙ってくる。何故?という疑問を抱くより早く、前方
のあちこちで雪が盛り上がり始めていた。毒づく暇もなく、足を止めずに一気にそこを
突っ切った。
「あれは……」
 とにかく接触しないよう周囲に気をつけながら走り抜けてから顔を前に向けると、まだ
かなり遠方に巨大な塔のようなものが見えた。脳裏には、あそこに逃げ込めばここにいる
雪像とはやり合わないですむかもしれないという考えが浮かんだけど、もしあそこにも敵意
を持った何かがいれば状況は悪転するかもしれない。考えている間にも周りのありとあら
ゆるところで雪は形を成そうとしている。足を止めた時点で終わりは目に見えていた。
状況の好転を祈り、塔に急いだ。
 行く手を阻むように数体の雪像が立ちふさがる。
(三――五体)
 剣、槍、斧、各々が手にしている得物の刃が煌めき、タイミングを計ったよう一斉に振り
かかってくる。
 斧が顔の横すれすれを掠める。剣が頬を掠る。
(後、三つ!――)

 かわせ――ないっ? 無理だ!

 
 そこからはどれがどこを過ぎたか、太刀筋さえ覚えていなかった。五体の雪像の間をすり
抜けて全力で走って置き去りにしてから、左肩と右腿が寒さが身を刺す世界の中で灼ける
ように熱くなっていた。
 そしてまた行く手を阻むために多くの雪像が塔を目指す僕の前に立ち塞がろうとしていた。
161125:03/12/31 18:41 ID:t7gBYOaw
 塔の扉にかけられていた鍵を外して中に入り、扉を内側から閉ざすものがないかと辺り
に首を巡らせると、扉にフック状の金具が二つ取り付けられていた。この形ならあれがある
はずだとさらに辺りを捜すと、それはすぐに見つかった。
 分厚い木の板――閂を金具にかけた。これでしばらくもってくれるはずだと思うと、少し
安心して気が抜けたのか、身体が大きく傾いだ。
「うぁ」
 足を踏ん張って堪えようにもまったく力が入らず、扉に背を預けてへたり込んでしまった。
身体には刃創が幾つも刻まれ、特に最初に受けた左肩と右腿からの出血がひどい。血と
一緒に力が抜けていくような感覚に見舞われる。よくここまで走れたものだと、自分で自分
を褒めたくなる。
 蝕まれるように視界が霞んでいくのを頭を振って必死に拒んだけど、失われた光は戻る
ことなく、暗くなるばかりだった。
 まずい。諦めに似た想いが胸をよぎった時、死にかけた聴覚が微かな変化を捉えた。

 ――ごめんなさい

 その音は混濁した意識からすれば澄み渡るほど綺麗なものだった。

 ――傷つけてしまって

 どこから聞こえるのかもはっきりしないその音は、しっかりと頭に届いていた。

 ――私は……

 意識が堕ちる直前、僅かに生きていた視界の隅には、白く揺らめくものが映った。それは
とても儚く、弱々しく存在していた。何故か、それは理解、できた。
162125:03/12/31 18:42 ID:t7gBYOaw
 二階から何かが落ちるような無造作な音が響いた時、一番に駆けつけたのは小助だった。
「大助っ、――!」
 不安が引っかかっていたところにいつもと様子が違うことが起き、慌てて大助の部屋に
踏み込んだ小助が見たのは、主を失った剣と盾を抱えて床に堕ちている黒翼の姿だった。
「どうなされました!?」
 続いてトワちゃんが部屋を訪れ、普段とは様子が異なっていることに表情を曇らせた。
「ウィズ! さっちゃん、レムちゃん、一体何が……、大助はどこだい!?」
 黒翼から姿を変えているウィズの側に腰を落とし、事態が尋常でないことを察してか、
切羽詰まった声で問いただした。
「ご主人様、が……」
「ぬかった。我らの失態だ……!」
 二人の声は苦汁に満ちていた。一呼吸分の間を作り、忌々しげにさっちゃんが告げた。
「主が連れて行かた。『時の秒針』に」
 その言葉に小助とトワちゃんは驚愕し目を見開いた。美術品に連れて行かれた――それ
は美術品の手に堕ちたということを意味していた。二人は、魔力を有す美術品に連れて
行かれることがどれほど危険なことか重々知っていたため、事態は予断を許さぬ状況にある
ことを瞬時に理解した。
163125:03/12/31 18:43 ID:t7gBYOaw
「ちょっとどうしたの?」
 どたどた音を立てて階段を駆け上がってきた笑子と大樹は、部屋の空気が異様に張り
詰めていることに顔をしかめた。
「トワちゃん? 小助さん? なにがあったの?」
 状況を理解していない笑子の声には心配の色こそあれ、動揺は現れていなかった。何が
起きたのか小助が説明すると、動揺する前に笑子の身体がスローモーションのように傾い
て倒れ、それを大樹が受け止めた。
「トワちゃん、少し手伝ってくれんか」
「は、はい分かりましたわ! 奥様しっかりなさって」
 普通なら、普通なら美術品の魔力に魅入られ、取り込まれた人間を助け出すことは不可能
に近い。それがしっかりと分かっているからこそ、笑子の反応は当然のことだった。絶望的
なのだ。
 けど僕たちには手があるんだ。トワちゃんと大樹に支えられて部屋を後にする笑子を見送り
ながら、小助は心の中で呟いた。
「さっちゃん、レムちゃん、下に行こう。大助を助ける方法をみんなで考えよう」
 この二人なら、二人の力があれば助け出すことも可能なはずだ。剣と盾を持とうと手を伸ば
した時、
「親父殿、頼みがある」
 悔しさが滲み出すような声でさっちゃんに話しかけられ、小助の手がぴくりと止まった。
164125:03/12/31 18:44 ID:t7gBYOaw
「――うぅ……ん」
 小さく身じろぎし、笑子の意識が戻ってきた。
「奥様、大丈夫ですか?」
 心配しているトワちゃんの顔がはっきりと見えるようになり数秒後、
「! だ、大ちゃんは!?」
 がばっと上体を起こし、トワちゃんと顔がぶつかりそうになる。すれすれのところでトワ
ちゃんがひゅっと身を引いて衝突を避けた。
 辺りを見回し、安心したように笑みを浮かべる小助の顔、平静を装うようにお茶をすする
大樹の姿を目にした。二人ともソファに腰掛けている。そこでようやく、自分がリビングの
ソファに寝せられていたことに気付いた。
 そして二人とは別に床に座っている見知らぬ二人の女性がいる。しばし、無言で二人の
顔を交互に見やり、何事か理解できずに頭が真っ白に、対応できずにいた。
「あ、ああ! 笑子さんは初対面だったね」
 口を挟む機を探っていた小助があたふたと取り繕うように話し始めた。
「こちらの髪の長い子がさっちゃんで、そちらの短い髪の子がレムちゃん。大助を助ける
ためには二人の力が必要なんだ」
 紹介され、三人が同じタイミングで頭をぺこりと下げた。人見知りしているのか、何故か
使い魔二人は妙に大人しく、少し俯き加減である。
 どこから仕入れたのか、二人とも普通の服に身を包んでいる。さっちゃんはジーンズに
タートルネックのグレーのシャツ、いつも付いている角と羽は見当たらない。「角と羽なぞ
飾りだ。エロい人にはそれが分からんのだ」らしい。レムちゃんはぴっちぴちのスパッツを
穿いてぶかぶかのトレーナーに顔を半分ほど隠している。
165125:03/12/31 18:44 ID:t7gBYOaw
 先程さっちゃんがした頼みとは、小助がいつも……ではなくたまに使っている秘薬で
実体化させて欲しいということだった。大助を助けるためにやれることをやりたいという
ことだ。いつもより人が多いせいか、リビングは狭く感じられるが、空気はいつにも増して
重く淀んでいた。
「そ、そう。このお二人が……!? そうよ小助さん、大ちゃんはどうしちゃったの!」
 小助がまた同じことを説明し、その間また気を失わないようにトワちゃんがしっかりと
笑子の肩を掴み、気をしっかりと持たせていた。それでも息子の身に降りかかった出来事
を聞かされていると、徐々に顔色が悪くなり、最後には憔悴に満ちた表情になっていた。
「大ちゃん……」
 泣き出しそうになるのを唇を噛み締めて堪え、それでも漏れる不安が笑子の身体をわな
なかせた。
「笑子さん、安心なさって。きっとお二人が何とかしてくださいます」
 トワちゃんがなだめるようにそっと囁き、さっちゃんとレムちゃんに目配せする。
「う、うむ。きっとなんとかする。な、な?」
「は、はいっ。息子さんは助け出しますのでご安心をっ」
 意図を察した二人がそれに応えると、笑子は俯いて小さく、何度か頭を下げた。その様子
に二人はいたたまれない想いになった。元はといえば己自身の失態であるのを告げずに
主人の母を安心させている。欺いているということが胸に針を刺されたようにちくりとした痛み
を与えてきた。
「さ。それじゃ助け出すための手段を考えよう」
 二人の辛さを勘付いたのか偶然か、小助が話を進めたおかげで、二人はそれから解放
された。
「まずはどういう状況で何があったか、その辺を聞かせてくれないかな?」
 二人は頷き、クライン教会で起きたことを語り始めた――。
166125:03/12/31 18:45 ID:t7gBYOaw
「――気付いた時には、すでにある……大ちゃんは『時の秒針』に氷付けだった」
 そこで言葉を切る。淡々とした調子で語っていたが、内心は煮えくり返る思いだった。
静寂が居つく前にさっちゃんは続けた。
「しかし分からん。我らが襲われるまではあそこには魔力など微塵も感じられなかった」
 テーブルに両肘を立て、絡ませた指の上に頭を預け、考え込むと同時に小さく溜め息を
吐いた。
「何かがあったはずなのだ。『時の秒針』が目覚めたきっかけが、何か」
 それからさっちゃんの言葉は続かず、次こそ丹羽家のリビングを静寂が支配した。話を
聞かされた者の顔はどれをとっても一様に暗雲が立ち込めていた。
「…………憶測でしかないが」
 静寂を打ち砕いたのは黙って二人の話を聞いていた小助だった。
「『時の秒針』に共鳴する何かが、そこにあったのかもしれない」
 共鳴という単語をさっちゃんがぼそりと繰り返し、横にいたレムちゃんも何かを思い出そう
と頭を捻った。
「お願い、何かあるはずよ! 思い出して!」
「そう言われても……」
167125:03/12/31 18:46 ID:t7gBYOaw
 笑子の言葉にさっちゃんは唸るしかなかった。難しい顔をし、腕を組んで必死にあの時
のことを思い返していた。時間だけが過ぎるかと思われたが、
「あ」
 という発声をした人物にリビング全員の注目が集まった。
「え? え? え?」
 本人に自覚はなかったのか、突然視線が集中したことに驚く反応を示した。
「何か分かったのか、レム」
「レムちゃん、何か分かったの?」
 レムちゃんレムちゃん。執拗に圧力がかけられ、レムちゃんはひどく慌て、両手と首を
ぶんぶん振った。
「いッ、いえ本当につまらないことですけど……」
「早く言え」
 自信がないらしく、渋ろうとするレムちゃんにさっちゃんがずいっと詰め寄った。
「あ、の、ですね。確かごしゅ……大ちゃんと雪のお話してたなあ、って……」
「雪? ああ、そういえばそうだったな……」
 レムちゃんの一言にその場にいた何人かは、はっとした。雪――それは『時の秒針』と
密接な関係があるものだったからだ。
「いや、しかしあの場に雪など」
 さっちゃんが否定しかけた時、リビングに雪のように白い塊がぱたぱたと駆け込んできた。
「おおウィズ。どうしたんじゃ?」
 大樹がウィズを抱え上げると、ウィズは何か言いたげに身をばたつかせた。
168125:03/12/31 18:47 ID:t7gBYOaw
 翌朝、大助は学校へ登校していた。トロッコを降り、校門をくぐり、昇降口へさしかかろうか
という時、後方から名前を呼ばれた。
「丹羽くぅんっっ」
 原田梨紗が長い髪をなびかせながら駆け寄ってきた。少し息を乱している彼女に大助は、
「りさ……!」
 眩く光る朗笑を梨紗に向けた。その笑顔に梨紗の胸は射抜かれた。ずきゅんと。
(にっ、丹羽くんが……!! えええ、笑顔で私の名前……っ!!)
 火が出そうなほど熱く染まる頬に手を当て、恥じらいと喜びに身悶えた。
(もう今すぐ死んでもいいわぁぁぁぁぁっ!!)
 校舎前で妖しく身体をよじる梨紗を、周囲を過ぎ行く生徒は奇異の目で見るか、見ない
ように努めた。ただ一人へらへらとしまりのない顔を梨紗に向けているのは大助――ではなく、
ウィズだった。
 ウィズが変身してまで学校に来た理由はただ一つ、美術室にあるという大助の描いた雪原
の絵を持ち帰るためだ。昨夜、ウィズがリビングの全員に伝えたかったのはそのことだった。
今のところ雪が関連しているものはそれしかなかった。可能性もゼロというわけではなかった
ので、今回ウィズが学校に来たというわけだ。
(ウィズ! 違いますわ! 「梨紗」じゃなくて「原田さん」ですわよ!)
 大助の背中、カバンの中からピーピーという鳴き声がした。ウィズのお目付け役として学校
に同行することとなったトワちゃん・鳥形態である。
 失敗を咎められたウィズは頭をぽりぽり掻いて顔を曇らせた。ウィズはあまり演技が得意
ではなかった。
 そんなウィズに対してトワちゃんは一抹の不安を感じているが、家を出る直前に小助が
言ってきた、放課後に学校へ送り込んでくれるという助っ人を待ち望んでいた。
169125:03/12/31 18:47 ID:t7gBYOaw
 さっちゃんはあるところに来ていた。いつも流れるようにたなびいている長髪を黒い帽子に
押し込め、厚手のジャンパーにジーパンという服装、肩には鞘に収めた紅円の剣を担いで
いる。
 ここはクライン教会。さっちゃんはすたすたと歩き、目的の場所に辿り着いた。翼主を絡め
捕らえる『時の秒針』の前へと。
 肩に担いでいた鞘を手にし剣を抜き放つと、鞘を投げ捨てて眼前の氷柱へと斬りかかった。
速く、体重を乗せた刃が氷柱へ触れ、甲高い金属音が鳴り響いた。
「っぐぅ……」
 柄を握る手に力を込めるが、剣は氷柱の表面に触れたまま、まったく進もうとはしなかった。
力任せに何度も斬りつけるが、斬撃のすべてが氷の表面を滑り、傷のたった一つさえつける
ことも叶わなかった。とうに手は痺れ、力を失った手が剣を取り落としそうになった。
「くそォ――」
 息を切らし、顔を辛く歪めるさっちゃんの拳が氷柱を殴りつけた。じんと染み入る痛みが拡がる
が、それでもさっちゃんの湧き上がる怒りは抑えられなかった。

 ――無力。あまりにも無力だ。

 それが悔しくて堪らなかった。氷の中で眠るように穏やかな表情をしている翼主を見上げ、
この胸の奥を掻き毟る痛みをその身に強く刻んだ。
「……必ず、助ける。しばらく待っておれ」
 そう呻き、さっちゃんはその場を後にした。
170125:03/12/31 18:48 ID:t7gBYOaw
 その助っ人は迷子になりつつも、何とか放課後には間に合った。
「むふうっ! 着きましたよ」
 鼻息荒く意気込んでいるのは、東野第二中学校では見たこともない少女だった。明るく
輝く緑の髪、これでもかというくらいのつるぺたな身体。
「まずはウィズとトワちゃんに合流するのです!」
 制服のスカートを翻して元気良く学校に突入して行くのはレムちゃんだった。制服は
もちろん小助がどこからか仕入れたものである。
 初めての学校は好奇心旺盛なレムちゃんにとって刺激に満ち溢れた空間である。が、
如何せん今はそれに気を向けるだけの余裕はなかった。なるべく早く大助の絵を運び出した
かったからだ。
 学園祭の準備で賑わう校内に、レムちゃんは気を引き締めて飛び込んだ。


「丹羽くん、衣装合わせするからこっち来て」
 福田律子や石井真理に呼ばれたウィズがにこにこしたまま駆け寄った。
「ウィズ。ぼろを出してはいけませんわよ」
 赤い髪の中に埋もれるように身を潜めているトワちゃんがウィズにだけ聞こえるように
こそこそ話すと、ウィズはうんうんと呑気に頷いた。
 こんな調子でよく放課後までクラスメイトに正体がばれなかったなとトワちゃんは心の底から
そう思っていた。
 数分後、劇の衣装に身を包んだウィズがそこにいた。ダンボールで作った胸当てや銀紙製の
剣など、騎士をイメージした衣装はウィズにぴったりのサイズだった。
「うんうん。丹羽くんの方はばっちりね」
 監督の沢村みゆきが満足気に頷くと、もう一人の主役の衣装係に訊ねた。
「梨紗の方は?」
「こっちもいいよ」
 原田梨紅が答えると、教室の入り口から紅色のドレスをまとった、金色の長髪をした女の子が
姿を現した。
 それを見てクラス中のあちこちから、主に男子の歓声が起きた。
171125:03/12/31 18:49 ID:t7gBYOaw
「んん……」
 しかし梨紗の表情は浮かず、難しい顔で長いかつらの毛先を弄っていた。
「どしたの?」
「うん……。私ならかつらいらないかなって思って」
「そだね。でもみんなで作ったんだし、せっかくだからつけてなよ」
 釈然としていない梨紗に後でみんなと話してみると梨紅が告げると、首を縦に振った。
そして今度は一気に顔を光らせ、くるくる回転しながら大助……ではなくウィズの側に
寄っていった。
「どうどう? 可愛い?」
 びしっと回転を止めてポーズを決め、大助の感想を聞きたがった。が、こいつはウィズ
である。
「うん。大好き」
 率直過ぎるほどにど真ん中を突いた台詞に梨紗は今朝と同じくらい顔を火照らせ、周囲
は少しざわめいた。
「丹羽……、お前は女が好きだったのか」
 床に手をつく日渡には全員から当たり前だという視線が向けられた。
「ちょちょちょ、梨紅今の聞いた!?」
 梨紗は驚喜して梨紅に抱きついた。
「丹羽くんが私のこと大好きだって!」
 黄色い声をあげながら梨紅に頬擦りし、喜びを身体一杯に現した。対する梨紅は、不機嫌
そうだった。
「ウィズ、あまり軽率な発言はいけませんわ」
 トワちゃんはそう咎めたが、ウィズはうんうんと呑気に頷く、ただそれだけだった。
 助っ人に早く来てもらいたいと切実に願うトワちゃんだった。
172125:03/12/31 18:50 ID:t7gBYOaw
「――ここはどこですかぁ……」
 迷子になっていた。学校という空間でどうして迷子になるのかと訊かれると説明できない
が、レムちゃんは迷子になっていた。2-Bを目指していたが、いつの間にか人の気配が
からっきしないところに来ていた。
 目立ってはいけないよと小助に念を押されていたのでぼろぼろ泣いてはいないが、顔は
くしゃくしゃで今にも決壊してしまいそうだった。しかし、泣いていてはいけないのだ。
 制服の袖で顔をぐしぐしと拭き、きりっと顔を引き締めた。
「――あ……」
 ぴり、と感じるものがあった。気を入れ換えたおかげでその微細な反応を知覚できた。
ちくちくと頭を刺すような痛み、それほど強い刺激ではないそれがあるところから発せら
れている。
 そちらに歩を進めると、小さな刺激が身体中をぴしぴしと弾けていく。不快な思いにさせ
られるが、何かあると感じたレムちゃんはその部屋――美術室の扉を開けた。
「うわぁっ……」
 開けた瞬間、嫌な風がレムちゃんの身体を舐めるように吹いた。胸がもやもやしながらも
レムちゃんは美術室に足を踏み入れ、この気持ち悪い現象の元であるその絵の前に立った。
「うぅ、酷いです」
 微量な魔力が絵を取り巻くように渦となっている。それから発せられる魔力の質は、昨日
感じた『時の秒針』のものとよく似ていた。高い確率で当たりかもしれないと高鳴る胸を落ち
着けながら、そっと絵に手を伸ばした。
 指先が絵に触れる直前、灼けるような衝撃が一瞬だけ指先に走った。
「い、ったぁぁ……」
 予想していたことだが、やはり絵には強力な結界が張られていた。それはさながら、美術品
を盗もうとする者を倒す電流のトラップのように機能している。
173125:03/12/31 18:50 ID:t7gBYOaw
「レムちゃん!」
 声に振り向くと、美術室の入り口に人影があった。
「ウィズ!」
 ようやく知り合いに会え、レムちゃんは顔を綻ばせた。ウィズが駆け寄ると、髪の中から
トワちゃんがぴょっこりと顔を出した。
「どうしてここに来たのですか?」
「なかなかレムちゃんが姿を見せないものですから捜していましたの。そうしたらここから
変な気配を感じたので来てみたらビンゴ、ですわ」
 トワちゃんが説明を終えると、三人の目が壁にかかる雪原を描いた絵に注がれた。
「……酷いですわね」
「結界もあるのですよ」
「どうします? 結界が張ってあっては我々では……」
 トワちゃんが心配そうに訊くと、レムちゃんは自信満々に答えた。
「大丈夫です! そのための助っ人なのです!」
 レムちゃんが両手を頭上にかざし、
「フィールド全開!!」
 高らかに叫ぶと、蒼白い光の膜が衣のように両手を覆い尽くした。両手を絵に伸ばすと、
まるで使○の○Tフィールドを中和するかのように結界は無力化していき、レムちゃんが
絵を手にした。
「急いで帰るのです! あまり長い時間はもたないのです」
「分かりましたわ。ウィズ!」
 言われるより早くウィズは姿を変えようとしていた。身体が発光し、瞬時に黒い翼と化して
いた。絵を脇に挟んだレムちゃんが美術室の窓を開け、ウィズに出るよう促した。ウィズが
横を過ぎる瞬間、レムちゃんは黒翼の背に飛び乗り、トワちゃんはレムちゃんの頭に移動した。
「急ぐのです! 全力ですよぉっ!」
「キュウッッ!」
「お、落ちてしまいますわぁぁっ!」
174125:03/12/31 18:51 ID:t7gBYOaw
「――お邪魔しまぁす」
 しばらくし、誰もいなくなった美術室に原田梨紅がやってきた。遠慮がちに小さく挨拶し、
美術室に入ってきた。
「…………やっぱいないよね」
 昨日と同じく日が傾く時間に早々と姿を消した大助が、もしかしたらここにいるかもし
れないと淡い期待を抱いて来てみたが、すでに絵を描き終えた彼が来るはずもない、
とも思っていた。
「…………ばっかみたい」
 それでも彼女は美術室に来てしまった。もしかしたら……、その可能性を捨てたくなかっ
たからだ。
 梨紗に大好きと言ったその真意をそれとなく訊いてみるつもりだったが、もはやそんな気は
起きてこなかった。
「帰ろっと。――あれ?」
 昨日の帰り際、大助は雪原の絵を壁にかけていたはずだが、今はそれがないことに気付い
た。どうして持って帰ったのかと訝しみ、明日にでも訊いてみるつもりで美術室を出た。
175125:03/12/31 18:51 ID:t7gBYOaw
ここまでです。
それでは皆様良いお年を。また来年よろしくお願いします。
176名無しさん@ピンキー:03/12/31 19:24 ID:TUWIexz9
お疲れです
来年も期待しています
177名無しさん@ピンキー:03/12/31 23:55 ID:bsduDf2m
おつかれさま。また来年ですね。
178前スレ580:04/01/02 07:55 ID:WwLN26AT
あけおめ〜
179名無しさん@ピンキー:04/01/03 23:30 ID:mB5Kli04
おめめ〜
180名無しさん@ピンキー:04/01/04 17:03 ID:kY9diCo0
・・・ヽゝ゚ ‐゚νATフィールド全開(ワラ
181名無しさん@ピンキー:04/01/05 19:24 ID:OaNt9ti9
遅ればせながらおめでとうございます。
PCの使えないところから帰ってみれば、やはり更新が。
原作ネタを見かけるたびにニヤリとさせられてしまうこのごろ。
182名無しさん@ピンキー:04/01/08 17:08 ID:1mNszR/T
ageさせてくれぇ・・・
183125:04/01/10 00:23 ID:1+IEW8rL
 ――夜、再びクライン教会。
「来たな」
 巨大な氷の柱を前に、三人の影があった。剣と盾を身に着けている赤髪の少年。露出の
高い際どい服を着た長髪の女性。雪原を描いた絵を脇に抱えるメイド服の少女。
「急ぐぞ。そろそろ我らの実体化の時間も限界だ」
 例の秘薬を使い実体として存在できる時間は大体一日程度である。だがこの調子ならば
実体化が終わる前に大助を救出できそうである。
「レム」
「はいはい」
 元気よく返事をし、レムちゃんが『時の秒針』のかかる氷柱へと歩み寄る。
「――あ」
 レムちゃんの脇から絵が抜け落ち、とすんと床に落ちてしまった。
「あはは、落としちゃいました」
「……ちょっと待て」
 明るく笑って言うが、顔に幾筋も汗が流れていることにさっちゃんは気付いた。レムちゃん
に近づくと腕をとり、強引に袖を捲り上げた。
「あ、あ」
「! ……レム」
 その腕を見てさっちゃんは絶句した。大助の絵から発せられる強力な魔力に毒され、黒く
変色していた。
184125:04/01/10 00:23 ID:1+IEW8rL
「この馬鹿――」
 その激しい口調に、俯いていたレムちゃんは体を強張らせてさっちゃんの叱咤に怯え
そうになる、が、
「……馬鹿者」
 レムちゃんは頭にぽすんと手を置かれ、ぴくっと身体を縮まらせてからさっちゃんの顔
を見上げた。
「主を心配しとるのはお前だけではないのだぞ」
 空いている手を伸ばすと、結界が拒むのを意に介さず絵を手にした。強烈な刺激が
さっちゃんの腕を駆け巡り思わず顔を歪めるが、決して絵を手放そうとしなかった。
「我も手伝う」
 レムちゃんに優しく微笑んで言うと、絵を持つ手に別の誰かの手が添えられた。
「僕も」
 ウィズの手がしっかりとさっちゃんの手を支える。身体を突き抜ける痛みが走るが、やはり
放そうとしない。
「…………うん」
 レムちゃんもウィズと同じように手を添え、三人が大助の絵を『時の秒針』に向けて掲げた。
絵が黄金染みた光をほんの少し発し、……………………。
「――――ん?」
「…………何も起きません、ねぇ」
「……えぇっとぉ、……失敗?」
 三人は目を点にして顔を見合わせた。


 その日街には、特にこれといった事件は起きなかった。

185125:04/01/10 00:24 ID:1+IEW8rL
 ――――遠く…………とても遠く、分からないほど遠いところから頭を揺り動かされた
ような感覚――――。

 
「…………ぅ」
 それまで何も感じなかったのに、不意に霞が晴れていくように触覚が戻ってきた。頬に
触れるひんやりとして硬い感触。レンガか石か、とにかく硬質なものの上に僕はうつ伏せ
ているみたいだ。
 ここはどこだろうかと思案することを遮るように、水滴が水面を打つ小さな音が一定の
リズムではっきりと耳の奥に届いてくる。考える気が削がれていく……再び意識が闇に
沈もうかという時、それとは違う別の音が耳に入ってきた。靴音だ。
「……ようこそ」
 その声は今まで聞こえてきたどの音よりも鮮明で、僕の意識を目覚めさせるには充分
すぎた。
「本当の私の世界へ」
 落ち着き払った声に導かれるように顔を上げると、鮮烈な光――ひどく久しぶりに思える
太陽の光が目を刺してきた。しかめた顔の先には陽光を人型に切り取る影が、風で無造作
になびく髪の中で優しさに満ちた双眸を僕に向けていた。


 ――鳥の群れが空を舞っている。どこからか鳴り響く鐘の音につられ――。

186125:04/01/10 00:25 ID:1+IEW8rL
 さっちゃんは荒れていた。
「うがぁぁっっ! 何故だ何故だ何故なのだぁっ!」
 丹羽家リビングで吼えるさっちゃんの横には目を腫らしたレムちゃんが、白い毛玉のウィズ
を膝に乗せてソファに座っている。頭を撫でられ、ウィズはすでに夢見心地である。
「ちょっと落ち着きなさいな。はしたないですわよ」
 トワちゃんが今にも火を噴きそうな勢いのさっちゃんを咎めるが、あまり効果はなかった。
他の家の者は調べものをしに行っているためここにはいない。それを口実にこの場を逃げ
出したのかもしれないが。
「落ち着いていられるものか!」
 主を助けられなかったのに、とは付けなかった。誰しもが気にしていることを口に出すほど
無神経ではなかった。特に、それを口にすればやっと落ち着いてきたレムちゃんがまた泣き
出してしまうかもしれない。
「とにかく、奥様やおじいちゃま、小助さんを待ちましょう」
 二人は言葉を選んで口論し、そういう結果に行き着いた。難しい顔をしたさっちゃんが唸ると、
ちょうどリビングのドアを開く音がした。姿を見せたのは小助と、後に続くようにして恵美子と
大樹である。
「何かお分かりになりまして?」
 三人と一匹の視線が先頭の小助に集まると、彼は手にしていた一冊の分厚い本をかざして
見せた。
「みんなで書斎を引っくり返してね、どうにか見つけてきたよ」
 本をあるページで開きテーブルに置き、六人と一匹が囲むようにしてリビング中央へと集まった。
「何を見つけてきましたの?」
「アイス・アンド・スノウの真実を、ね」
 訊ねるトワちゃんに答えると、小助はその真実という名の物語を語り始めた――。
187125:04/01/10 00:26 ID:1+IEW8rL
「…………そう。あなた大助っていうのね」
 春のように麗らかな気候の中、僕と彼女は橋の上で語り合っていた。片やボディスーツ
に身を包んだ怪盗、片や中世を思わせる装束をまとう女の子と、なんとも不釣合いだと
自分でも思う。
「ここに人間が来たのは初めてよ」
 その声には明らかに疑問の色が含まれていた。
「僕もどうしてか分からないんだけど…………どうしてかな」
 確か僕は雪原にいて、そこから塔の形をした建物に逃げ込んだはずだ。こんな暖かな
ところとはまったく別の場所にいたことは覚えている。
「……きっと、あの子が……」
「え?」
 聞き取り辛かったけど彼女が何かを口にした。フリーデルトさんは欄干に肘を立て、頬杖
をついて遠くを見つめていた。僕と歳はそんなに離れていないはずなのに、その横顔は何か
を悟っているみたいに大人びていて、そしてとても淋しそうに見えた。けれど背筋を伸ばして
僕の顔に向けてきたその顔にはそんな雰囲気を微塵も感じさせなかったもしかしたら。初めて
声を聞いた時に感じた、落ち着いた印象がそう思わせているだけなのかもしれない。
「少し長いお話になるけど、いい?」
 明るい口調で言われ、勢いに任せてつい頷いてしまった。だから、彼女が抱えている暗く
辛い思いなんて、その時の僕には見えていなかった――。
188125:04/01/10 00:32 ID:1+IEW8rL
短めですがここまでで・・・。
正月で乱れたリズムを

梨紅(・∀・)萌え!!

といって立て直してみる
189名無しさん@ピンキー:04/01/10 00:56 ID:Er4YS5ak
梨紅萌え!
就寝前になにげなくのぞいたら投下されてる〜。
これから読ませて頂きます。
190大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:39 ID:5sGFEI4c
「――うん、そういうわけだからお願いできる?」
彼は受話器に話しかける母の姿をただ呆然と見ていた。
「はい。じゃあね」
電話を切ると腰をかがめ、まだ十歳にも満たない息子に申し訳なさそうに告げた。
「ごめんね大地。明日からの三連休、母さんと父さん少しお出かけしないといけないの」
先日商店街の福引で当てた温泉旅行だとは教えなかった。そんな言葉に不平を漏らそうとする
少年の肩に手をかけ、先手を講じて口を噤ませた。
「おばあちゃんも近所の集まりでしばらく旅行に行ってるから、お家には大地とウィズとトワちゃん
しかいなくなっちゃうの」
何か言いたそうな少年の頭を撫で、一度も口を開かせることなく話を進めていく。
「トワちゃんたちだけなら安心だけど大地も一緒だといろいろ心配でしょ? だから」
その日から二泊三日間、大地の身にさまざまな出来事が降りかかることになるとは誰も知る由は
なかった。
「梨紗おばちゃんのお家で面倒見てもらうことになったから」
 ――梨紗おばちゃん以外は。 
191大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:40 ID:5sGFEI4c
街の岬、その先端にほど近いところに門を構える一軒の館の前にローラーボードを小脇に抱えた
赤髪の少年が、ぱんぱんに膨らんだリュックを背負い立っていた。
お泊りということで多少胸を高鳴らせ、同時に両親と離れたという不安を秘めて玄関のドアに備え
付けてあるボタンを押した。
ベルの音が中から聞こえ、次いでどたどたとうるさい足音が玄関先まで響いてきた。勢いよく開け
放たれたドアから女性が姿を見せた。
「梨紗おねえちゃん、こんにちは」
「大地くぅん!いらっしゃぁぁい!」
躾のおかげか礼儀正しく挨拶する大地に、梨紗はがばっと抱きついた。
「お姉さん会いたかったよぉっ」
顔を朱色にしてあからさまに照れているが、構わず頬擦りまでして大地の柔らかなほっぺの感触
を楽しんだ。ジーンズに無地のTシャツというなんともラフな姿は普段人には見せない珍しいものだ。
Tシャツの二つの膨らみの先端にはつんと尖ったものが浮き出ていたが、当然大地はそんなこと
を気にするほど大人ではなかった。
ちなみにおねえちゃんと言っているのは梨紗の度重なる洗脳……もとい教育の賜物である。
「お仕事早く切り上げて待ってた甲斐があったわぁ」
今は子どもでいうおやつの時間。大人が――それも独身の女性が家にいる時間ではないが、これ
すべて大地のためだ。
「じゃあまずお家に入ろ。それからいっぱいあそぼうね」
「うん!」
元気に返事をする大地の顔には、久しぶりに梨紗と一緒に遊んで楽しく過ごせるという喜びで満ちて
おり、親と離れ離れという不安もどこ吹く風の満面の笑みであった。年端もいかぬ少年の手を引く
魅力あふれる女性の顔は、これからいたいけな少年をどうやって「もて」あそんであげようかという
期待に満ち満ちていた。
192大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:41 ID:5sGFEI4c
「大地くんのお部屋はここね」
大地が案内されたのは、以前は大地の母が使っていた部屋である。二桁に上ろうかというほどの
年月使われていなかったが、この日のために梨紗ががんばって掃除したおかげで、大きな家具
以外は何もないそこはなかなかに清潔だった。
「わあっ!ここがママの部屋だったんだ!」
歓声をあげると荷物を放り出してベッドに飛び込んだ。
「はう」
小さな少年の体がベッドの上に……。その事実に梨紗の胸はときめいた。
「大地くん」
ベッドに腰掛けて大地に呼びかけると、首だけを振り向かせた。
「何?」
「ここに座ってみないかな?」
ぽんぽんと膝を叩いて示すと、大地は少し顔を染めて逡巡したが、梨紗の微笑みと有無を言わ
せないような雰囲気を感じおずおずと梨紗の膝にお尻を乗せた。
「もう少しくっつかない?」
大地を抱き寄せ、二人の間の距離は零となった。(姉には劣るが)豊満で温もりある――且つ
ノーブラ――胸にむぎゅっと包み込まれる感覚は幼い大地にははっきりと理解できないが、とても
胸が熱くなることだった。
「お、おねえちゃん、ちょっと恥ずかしいよ……」
「あら、照れてるの?可愛いのね」
今日何度目かの赤面をする少年をあやすように優しく身体に触れる。――いや。彼女の指は大地
の体を妖しく這っている。服の上から少年をまさぐる動きは、まさしく大人の愛撫、である。原田宅
に着いて早々に、梨紗の狩りが始まった。
193大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:41 ID:5sGFEI4c
「大地くん……」
「あッ――――」
耳に息を吹きかけられ、大地の背筋をぞわりとした悪寒が走った。驚きのあまり声になりかけの
悲鳴をあげる様を、梨紗は心底愉快そうに見ていた。
「ちょっと刺激的すぎかなぁ?これはどう?」
大地の体を撫で回していた十の指が左右それぞれの彼の胸に行き着いた。そこにあるはずの
突起すらしていない対の性感帯を、梨紗の指がこねこねと弄りだした。
ここまでいきなりのことで、一体何をされているのか全く判断できないでいる大地は、未だに梨紗
の太ももの上で体を硬直させていた。
ただ、何となくだが、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなっているのが分かった。危機感からでは
ないが、不安や恐怖といったものが体内でぐつぐつと沸騰していた。
「おねえちゃん、怖いよぉ……」
耐えかねて大地が口にした怯えた声は、今の梨紗にとっては胸に巻き起こっている苛虐心を煽る
調味料である。
「んん。怖くなんかないのよ。これはとっても気持ちいいことなの」
「気持ちいい……の?」
こんなに胸が苦しいのに、気持ちいいなんて絶対違うよ!頭で感じたことを口にしようとしたが、
それはできなかった。服の中に滑り込んできた手が大地の胸の可愛らしい先端部に触れたからだ。
「あぁッ!」
先ほどと同じく背中に何かが伝わり悲鳴をあげた。幾らかはっきりとしだした悲鳴に梨紗の調子は
上がった。
「うふ。ね、こんなふうにされるともっとどきどきするでしょ?」
指で環を描いて大地の幼い乳端を責めると、徐々に大地の顔は上気し、吐息も熱を帯び始めた。
194大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:42 ID:5sGFEI4c
「うぅっ、こ……怖いよ!」
初めて体験する出来事の前に、大地は言い知れぬものを感じていた。それは快感なのだが、
未知の感覚は少年にとっては恐怖の対象でしかない。
涙目になってきた大地を見ても梨紗は手を止めようとしない。それどころかさらに愉しそうにそこを
撫で、押し、抓り、さまざまな刺激を与え続けた。
しばらく苛めていると、梨紗の指先が変化を感じ取った。
「乳首勃ってきたね。偉いよ」
「え…………偉い?」
泣き出そうかという時に思いがけず褒められ、目を少しばかり見開いた。
「ええ。お姉さん、大地くんのこともっと好きになっちゃう」
――そっか。こんな気持ちになると、梨紗おねえちゃんが褒めてくれるんだ。
幼い少年の思考回路はそう結びつけた。実際は肉体的な変化を梨紗は望んでいるのだが、とも
あれ大地少年はおねえちゃんに褒めてもらえるんだと考えるようになった。
「梨紗おねえちゃん、次はどうしたら褒めてくれるの?」
今までは俯いて恥ずかしがっているだけだった大地に積極的に話しかけられ、少しだけ意外そうな
顔をしたが、すぐさま表情はにこやかになった。
「今度はね、こっちで遊ばせてくれたら嬉しいな」
梨紗の手が大地の真ん中に伸び、ズボンの上から優しくさすり始めた。
一瞬大地がうっと唸った。さっきと似た感覚が全身を打ったからだが、今度はそれに対する恐怖が
かすかに薄らいでいた。
「でも、ここ汚いよ。おしっこするところだよ」
言い返す余裕ができたのがその証拠である。
「ふふ。それじゃお姉さんが綺麗にしてあげる」
座る大地の腰をわずかに浮かせるとズボンとパンツを剥ぎ取り、下半身を丸出しにさせた。まだ

れということを知らない少年独特の肌にうっとりしてから足の間に生える小指ほどの大きさのもの
を手で包み込んだ。
「んぅ……」
またあの感覚に苛まれるが、今は全く不快に感じることはなかった。それどころかこの感覚に責め
られることに、無意識下の期待が生まれていた。
195大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:44 ID:5sGFEI4c
「どう?気持ちよくない?」
牛の乳搾りに似た責め方でそれを揉みしだくと、目に見えて大地の様子がおかしくなってきた。
「分かんない……分かんないけど、何か変……」
息も絶え絶えな少年に心臓を鷲掴みにされた梨紗は、股間に生えたものを一層強く揉みだした。
すると少しずつだが、握り締めた手の中で小さな大地がむくっむくっと膨張していくのが分かった。
「いい子ね……。もう少し頑張ったら、お姉さんとっても嬉しいな」
囁きに応じるかのように大地の分身は力強く張っていき、とうとう梨紗の手から皮に包まれた先頭
が顔をのぞかせた。
「お、お姉ちゃん大変!ぼ、僕おかしくなっちゃった!?」
突然の変化に一番驚いたのは、当の大地だった。
「ううん、これでいいんだよ。偉い偉い」
梨紗は褒めるが、それだけで大地が落ち着くことはなく、もはや混乱寸前であった。
「慌てないで。お姉さんがとっても気持ちよくしてあげるから」
腫れ上がった頭を握り直すと、大地は体を大きく仰け反らせた。落ち着く代わりにひどい刺激が
下半身を襲った。
「ね?ね?こうすると気持ちいいでしょ?」
興奮気味に捲くし立てる梨紗の手が上下に動かされるたびに大地の顔は歪んでいる。苦しそうだ
が、感じているのは一目で判断できる。
196大地のどきどきお泊り:04/01/11 23:45 ID:5sGFEI4c
「うっ、はぁっ!なに……なにか来そう!」
体を強張らせる大地に限界が近いことを見て取った梨紗は、手の動きをさらに早めた。
「うあっ、壊れちゃうよおねえちゃんっっ!」
「大丈夫、大丈夫だから、ね。我慢しないでいいのよ」
我慢などできるはずがなかった。訪れた波は大地を痺れさせ、梨紗に握り込まれた未熟なもの
は何度も何度も震えた。
「あ……あぁぅ……」
梨紗の上で四肢を投げ出す大地の表情はだらしなく緩み、それを梨紗は満足気に見ていた。
「あらら。大地くん、お漏らししちゃったね」
咎めるでもなく、嬉しそうな色を含ませて言って大地を包んでいた手を放すと、手の平から包皮
に覆われた先端まで一筋の糸が引いた。
「ぁ……ごめん、なさ……い」
消え入りそうな声の大地の頭を汚れていない方の手で撫でると、
「気にしないでいいのよ。そうだ、お夕飯の前にお風呂に入るといいわ」
大地の小さくなっていくそれに付いている白く粘着性に富んだ液体を指で掬い取ると、手の平に
付いたものと一緒に舐め、その味を噛み締めた。
「早く行こうね。お夕飯までまだたっぷり時間はあるから」
その声は、やはり嬉しそうだった。
197125:04/01/11 23:46 ID:5sGFEI4c
不足しがちなエッチ分補充。
198名無しさん@ピンキー:04/01/11 23:56 ID:jPtDrNbg
ドキドキワクワク
199名無しさん@ピンキー:04/01/12 00:31 ID:RiHaP8mK
( ̄ロ ̄|||)梨紗・・・
200名無しさん@ピンキー:04/01/12 02:28 ID:ju9UsW+y
ありそでなかったショタネタがついにっ。
201名無しさん@ピンキー:04/01/12 16:30 ID:H3mkDm6n
妹が大地を狙うんじゃないか?というのは大地登場時に本スレでも言われてたね。
202名無しさん@ピンキー:04/01/13 18:24 ID:VRga5ITx
203名無しさん@ピンキー:04/01/13 19:56 ID:bbAjYrDj
204名無しさん@ピンキー:04/01/13 20:59 ID:YFRUu7q+
>>203
ほう、中3とは。
原田妹狙いごろ。
しかし梨紅に早目に大地くんを産んでもらわんと、年齢差が開いて梨紗は大変そうだ。
はっ、そうか、そこでふたりにとっとと創らせるよう策略を巡らす梨紗……。
205名無しさん@ピンキー:04/01/14 00:41 ID:dfTykVkk
いや、14になったときにダーク化させればうまく年齢差を埋められて良い感じかもしれん
すべて計算付くとは、原田梨紗…恐ろしい女、策士だな…
『どうして、こんなことになってしまったんだろう』
 内心につぶやく。
 こんな惨状を迎えてしまう前に、自分の手でなんとかできたはずなのだ。それを怠った、
自分の愚かさが招いた――。
「呑んでるかあっ、にわだいすけえっ!? 」
 異様にハイテンションな声に合わせ、ばぁんっ、と思い切り肩をはたかれた。
 瞬間呼吸が止まった。結構痛い。
「り、梨紅さん……」
「おうおうどしたい、ずいぶんしょぼくれてるぢゃねえか!」
 べらんめい。
 すっかりオヤジめいた声を張りあげ、バンバン背中をはたくのは原田梨紅である。大助
にとって哀しむべきことに間違いなく。
 服越しの背中には、小さなもみじがいくつも刻み込まれていることだろう。
 じんじん響く痛みをこらえながら目を配ると、梨紅の右手にはさっきまでアルコールを
含みまくった液体で満たされていたはずのグラス。側の床には無造作に置かれた、大きな、
しかしもう中身は残り少ない酒瓶。その顔は今やこってり炙られたかのように朱に染まり、
掛け値なしのユデダコ状態。
 そうつまり。
 酔っ払い。
 すっかり出来上がっている、というかこれはきっぱりと酒乱の域だ。
「あははーっ、正月そーそーくらい、くらいよーっ!」
 なにがおかしいのかゲラゲラ笑いながらビシバシ繰り返される張り手、いやむしろ掌打。
 すっかりキャラが変わり果て――壊れていた。
 おまけに、側では梨紗も同様にへべれけになっている。
『どうして、こんなことに――』
 変わり果てた姿を絶望的な想いで見つめながら、大助は記憶をたどっていった。
 新年、明けましておめでとうございます。
 と、くればお約束。大助は、原田家の双子姉妹梨紅と梨紗、両手に花と連れ立って初詣
――異国情緒あふれる東野町だが、神社くらいある。そろいの振袖姿に目を奪われたり、
おみくじ引いて吉だ凶だと騒いだりしてからひとまず原田邸にもどってみれば、ご両親や
執事の坪内さんも不在。
 梨紅の部屋に招かれ私服に着替えたふたりにおせち料理をごちそうになってしばらく、
「じゃーん」
景気よい声とともに部屋に入ってきた梨紗が抱えてきたのは、大きなボトルだった。
「梨紗、あんたそれ、お父さんとっておきのウイスキーじゃない! 今度帰ってきたら飲
むんだって楽しみにしてたのに」
 そういえば、梨紅さん達のお父さんってどんな仕事に就いているのかなんて訊いたこと
なかったなあ。しょっちゅう不在みたいだけど。ああそれから、僕たち未成年なんだから
アルコールはどうかと。
「いいじゃないいいじゃない、固いこと言いっこなし。正月なんだからブレーコーよ」
 既に三人分のグラスを配ってるし。
「いいのかなあ、お父さん泣くよ」
「だーいじょうぶ、その時は丹羽くんに無理矢理飲まされたってことにしとくから」
 新春早々冤罪の危機!
「うん、じゃあそれで」
 しかも追い討ち二面楚歌!!
「り、梨紅さんっ!?」
「なぁんてね。だいじょうぶよ、責任は梨紗に取らせるから」
「ナンダヨー、あんただって共犯のクセに」
「だーれーがー? 勝手に持ち出したのは梨紗でしょ」
「とか言いながら手酌で始めてるのはどなた?」
「おや?」
 それもストレートでなみなみと。
「んふふ、実はわたし、お酒っていっぺん飲んでみたかったのよね」
「でしょ、あたしもあたしも」
「丹羽くんは飲んだことあるの?」
 有無を言わさず大助のグラスにも注いでいく梨紅。
「うん、実はじいちゃんに付き合わされて時々。その度に母さんに怒られてるんだけどね、
じいちゃん」
「うわ、不良」
「うん、不良」
「あのね」
 表面張力の限りに注いでおいて言う台詞か。
「ま、ともかく……かんぱーいっ!」
「あ、もう梨紗ってば勝手に仕切らないでよっ!」
「か、乾杯!」
 グラスを高々テンションも高々な梨紗に、ぶつくさ漏らす梨紅と慌てる大助。遅れてグ
ラスを掲げ、中身をこぼしそうになりながら、コツ、と触れ合わせ、口元に運んだ。
 ちびり、と舐めるようにひとくち味わう。とっておきというだけに味わい深いが、度数
がかなり高く、含んだ口内から流し込む食道、胃の腑にかけて焼けるようだ。やっぱり、
水で割らずにこれを飲むのは結構きついものが――。
「かぁーっ!」
「おいしーっ!」
 タンッ!
 そろって勢いよく空のグラスをテーブルに置いたのは梨紅と梨紗だ。
「へ?」
 目を疑う大助。
 グラスいっぱいのウイスキーが全滅!? 3秒と経たずにか!
 うわばみツインズ。
「おう、のみねえ」
 すかさず互いに注ぎ合い始めた。しかもまたそんないっぱいいっぱい。
「あ……あの、おふたりさん?」
 おずおず。
「んんー?」
「なぁーにぃー?」
そろって大助を見る目が据わっていた。
「……なんでもないです」
 で。
『どうして、こんなことに――』
 何度目とも知れぬ後悔にさいなまれながら、部屋を見渡した。
 高級酒をミネラルウォーターもかくやの勢いで次から次へと飲み干し続け、床には暴虐
の名残を示す空き瓶が何本も散乱。もはや原田姉妹の猛威は止まるところを知らない。
 連邦の白いヤツが一機ならず二機、がん首そろえて戦場を駆け回っているようなものだ。
『そんな中、自分になにかできることがあっただろうか』
 いや、ない。
 反語で述懐にふける大助の瞳にも、諦念が色濃い。もはや戦局は決した。努めるべきは
いかに撤退戦を演じ切るか、だ。
 しかし、急迫する情勢はそれすらも許さず。
「ほれほれ、ぐぐっーと」
 目の前では、グラス片手にくだを巻いて絡む梨紅。言う間にひと口あおる。吐き出す息
はすっかり酒臭い。というか揮発したアルコールそのもの。
「い、いや梨紅さん――」
「なぁにぃ、あたしの酒がのめんのだとぉ、それでも大陸軍(グランダルメ)の一員かっ!」
「そ、そんなことない、ていうか大陸軍って」
 大助だって自分のアルコール受容限界くらい把握している。こんな度数の酒をこれ以上
――しかもストレートで――飲んでは、本気で危険。
 だが、そんな事情を解するヘビードランカー梨紅ではない。
「のめんのかー」
 不必要に顔を寄せて迫る。
 酒乱、それも絡み酒。
「んじゃあねえ……」
とまどったままの大助に業を煮やしたか、ぷいっとそむけると床に置いてあったボトル
 をわしづかむや、
「あ……」
呆然と見守る大助の前で、ごきゅっとラッパ飲み。そして、ぷうっ、と頬を膨らませて向
き直ると、がしっと両の手のひらで頭をつかんで顔を寄せ――。
 唇を重ねてきた。
「――!?」
 不意打ちに目を白黒、両手をばたつかせてる大助だが、梨紅の強引な口づけを拒めない、
拒むつもりもまたない。
 一気に注ぎ込まれる喉を焼く酒精。
「んんーっ!」
 思わずそれを飲み干すと、あっという間に胸の底から炎が広がっていったのは、酒精と
カクテルされた梨紅の唾液による心理効果も大きかった。
「んっふふ、のんだのんだー」
 嬉しそうに唇を離し、しなだれかかりながら常には見せない艶としたまなざしを大助に
注ぐ。
「あぁーっ!」
 大助と梨紅のやりとり一部始終を、かたわらでぽやーんと見届けていた梨紗が、ふたり
を指差して大声をあげた。
「ちゅーしてたぁっ!」
 ちゅーいうな。
「まーったくこのバカップルは、ひとまえでいっつもいっつもはらたつなー」
「いっつもって――」
 そりゃクリスマスイブのあの時はしたけど。
「きっともうふたりは倫理も人目もはばからず年中発情期のケダモノさながら底なしの愛
欲にふけるのね。嗚呼、お父さんお母さんっ、梨紅が不良にーっ!」
 勢いでとんでもないことを口走る。
「梨紗、あんたねえ」
「だからぁ」
 なんのつもりか、そそっと擦り寄ってきた。
 あきれ顔の梨紅を、ずい、と押しのけ、ほのかな危険を感知して身を引きかける大助の
頭をがしっと――またか――つかむと、にっこり。
「あたしもするぅ」
 否を告げる間もなく。
「へ――んんんんーっ!?」
 大助の唇は梨紗のそれによってふさがれていた。しかも含んだアルコールのおまけつき。
「あぁぁぁーっ!!」
 今度は梨紗に押しのけられた梨紅が叫ぶ番だった。
「あ、ああああんた、なんばしょっとかあああっ!!」
 ぱぁんっ!
 背後から梨紗の頭部、左右の耳あたりを両掌ではさみ打った。それこそ、一瞬の間に数
百回打ち合わされた頭、その中で揺さぶられた脳がパンチドランカー症状を呈してしまい
そうな勢いで。
 そのままぐぎっと90度上に首をへし曲げられると、きゅぽん、と妙な音を立てながら、
重ねた唇も外れた。
「おぶっ!? なぁにすんのよっ、梨紅ぅ!」
 危険な角度の首を直しながら、梨紗はうがーっと吼える。
「なにすんの、じゃなあぁぁいっ! ひとの、ひとの……に……なに、をっ……」
 激昂のあまり言葉に詰まった梨紅は、ぐいっと再び酒をあおると、
「梨紅さん、あの、これは――んわっ!?」
しどろもどろな大助の唇をふさいだ。
 アルコールのどさくさに舌まで滑り込んでくる。いろんな意味で強すぎる刺激に抵抗の
意思も消え失せた。
 ひとしきり堪能すると、梨紅は満足げな笑顔を浮かべて唇を離し、
「消毒完了」
「あたしは毒かいっ!?」
 また横合いから梨紗にひっつかまれ、唇を奪わ――。
「やらせはせんっ!」
 寸前、梨紅の手のひらがしぱっと割り込み梨紗の唇をふにっとふさぎ抑え、
「コレはわたしの!」
改めてキス。
 ああもうコレ扱いされてるけど、なんかどうでもいいや、と為されるがままの大助。
 過度のアルコール摂取にとうとう脳のボルトがゆるみ始めたらしい。
「姉おーぼー!」
 理不尽な梨紗のブーイングなど受け容れられるはずもなく、黙殺してキス継続。
「むー。いいもん、じゃあ、こっちにする」
 にへら〜、と笑うと、興味津々といったまなざしで、あぐらを組んだ大助の下半身を見
やると、すっと手を伸ばして、ズボンのファスナーを下ろしてきた。
『貞操の危機!?』
 そう大助が察した時には、中に侵入した梨紗の手によって、すでに固く張り詰め完全
変形モードのダイスケMk-2は引っ張り出されてしまっていた。
「――っ!」
 反射的な抵抗も、がっちり梨紅に頭を抱えられてキスされている上に酔いも手伝っては
ままならない。
 なにより、
「んふふふ〜」
妖しげな笑みを浮かべつつ、さわさわとそよぐ梨紗の手のひら、指先の温かさと柔らかさ、
心地よさときたら。
 身を屈めて顔が、唇が近づき――。
「なにをしとるか」
 ごすっ。
 梨紗の後頭部に、蠍の毒針のごとく容赦のカケラもない梨紅の左肘打ち下ろしが突き刺
さった。声もなく、頭を押さえてうずくまる梨紗。
「こ・れ・も」
 身を屈めて大助の身体を南下。
「わたしの〜」
 剥き出しにされた大助のものを無造作に握った。
「うわっ、うわっ」
 もう声をあげるしか。
「あぁもぉ! 梨紅、上も下もひとり占めずるいーっ!!」
「わけわかんないこといってんじゃないっての! やんのかこらー!」
 早くも立ち直って叫ぶ梨紗に切り返す梨紅は、肘を90度に曲げた左手を身体の前で死神
の鎌のごとくヒュンヒュンと振ってみせた。今にも鞭のようなジャブと打ち下ろしの右を
繰り出しそうな構えだ。
「おお、やったらー。アンタとはいちど決着つけなきゃいけないと思ってたのよ!」
対する梨紗は両拳をそろえて顎下につけ、上半身でグリングリンと無限の記号を描いて
ローリング。そこから繰り出されるのは左右のフック連打か。
遠隔戦闘と近接戦闘、奇しくも好一対をなすふたりの構えだった。
……観戦している場合ではなく。
止めないと。
「ふたりとも、喧嘩はよくな――」
「「丹羽くんは黙ってて!」」
 ユニゾンで遮られた。
 だがここでくじけるわけにはいかない。ここはただひとり理性を保つ自分が止めねば。
 一触即発緊迫する空気の中、ぴきゅーんと名案――たぶん――がポップアップ。
「じゃ、じゃあ」
 ぴっと人差し指を立てて、
「ふたり仲よくいっしょに、っていうのはどうかな」
言ってしまってから、大助は悪寒に囚われた。酔った勢いとはいえ、とんでもないことを
口走ったと気付くだけの判断力はまだ働いている。
 いや、本気でいい考えだと思ったんだってば。
「ふたりで――」
「いっしょに?」
 ぎん、と姉妹の視線が突き刺さった。
『ひいっ』
 コロサレル。
 慄然たる予感に凍りつく。
 キジも鳴かずば討たれまいに。
"生きるって、ほんとうに大変……"
 そんな幻聴まで聞こえてきた。
『ああっ、知らない台詞なのにっ!?』
"あははー、しあわせになりやがれー"
 これはついにあちらからお迎えが。
 人生の走馬灯が巡り始めた大助をよそに、梨紅と梨紗はゆっくりと構えを解いた。
「そう……だね」
「お正月から喧嘩なんてしたくないし」
 酒精以外の成分で顔を真っ赤に染め、見つめ合ってそんな言葉を口にする梨紅と梨紗。
「へ?」
 大助は我が耳を疑った。
「今日だけ、今日だけだからね!」
「うん!」
どうやら、独占から共有物へ扱いがシフトしたらしい。
『こ、この状況は……』
 左右からふたりが擦り寄ってくる。
 肩のあたりでそろえたボブカットと、さらりと長いロングヘア。
 ほのかな陽光の薫りと、甘い花の匂い。
 誰よりも、なによりも大切な少女と、初めて心を惹かれた少女。
 迫る誘惑は鮮烈この上なくそれだけに現実味を欠いた――。
『ああ、なるほど』
 ふと、閃く。
 これは初夢オチに違いない。
『うん、きっとそうだ』
 ほぐれ散っていく理性の断片をそんな想いでたばかりつつ、ふたりの少女の唇づけを同
時に受け、衝動のまま大助は甘美な流れに身を任せていった。
217前スレ367:04/01/15 01:04 ID:cy/AZMID
まずひと区切り。残りも今日中に。
小正月15日までは松の内、というわけで滑り込み正月ネタです。
本編中は名前欄をタイトルにするフォーマットに従ってみました。
しかし、格闘ネタを絡めずに書けんのか、自分。
218名無しさん@ピンキー:04/01/15 01:10 ID:UFHQP8Ha
まぁ、フリッカーよりはデンプシーが強いと思うが続きがんばってくだされ。
おもろかった。
219名無しさん@ピンキー:04/01/15 01:31 ID:C08ZOlXI
いやいや、やはりそこはしつこくボディを狙ってからのドラゴンフィッシュブローを・・・。
同じくおもろかった。
220名無しさん@ピンキー:04/01/15 16:59 ID:JGz0pdd8
梨紗の「ナンダヨー」と梨紅の「なんばしょっとかあああっ!!」にワロタ。
「ナンダヨー」は中の人が連発してたからな。
 ベッドの上。
 端に腰掛け、左隣りの梨紅と再びキス。おずおずとした求めに応じて唇を開くと、隙間
から熱く柔らかな舌がそっと滑り込んできた。積極的に迎え入れて絡め合う。最初はとま
どい遠慮がちだった大助の行為もほどなく大胆さを増し、自分から梨紅の口腔に侵入して
整然と並ぶ真珠のような歯列から歯茎、口蓋、口内粘膜まで舐めあげ、たっぷりと互いの
舌触りを味わうと、ふたり分の唾液を飲み干し合った。
「ん……ふぅ……」
 時間をかけた梨紅とのディープキスにひと区切りつければ、かたわらで待ち焦がれてい
た梨紗が顔を寄せてくる。
『僕が好きなのは……』
 だが、日ごろ万事に控えめといえどもやはりそうした年頃には違いない大助にとって、
この状況は魅惑的にすぎた。
 ためらいも一瞬、求められるままに唇を触れ合わせ、梨紅に対すると同様、同じだけの
時間をかけてむさぼり合う。舌に転がすふたりの味はやはり同じく。
 過剰摂取したアルコール分に加え、姉妹と交互に交わすディープキスに大助の頭は霞み
がかったようになってしまい、
『僕が好きなのは梨紅さんだ―――』
 その想いに嘘も揺らぎもない。そうありながら、理性も意志も、この濃艶な背徳の幻実を
前に掻き消えていく。
ふたりを相手の口づけはまったく飽きるということがない。繰り返すうち、すっかり大
助の鼓動は高まり呼吸も荒くなっていった。
 何度目かになる梨紅との行為に当然とふけっていた大助の張りつめた器官、そこに触れ
てくるものがあった。
 先ほどからむき出されたままだった男の部分に、またしても梨紗が触れてきたのだ。
『は、原田さん!?』
 発しかけた驚きの言葉はしかし、梨紅の唇に吸い取られた。
 そんな反応にはお構いなく、まだまだ小柄で骨格も固まっていない少年らしからぬ威勢
を示す、まさしく怒張そのものといった器官を梨紗の指は繰り返しなぞりあげてきた。
 列を為した小さな虫が、股間から尾底骨を経由して背骨を這い登ってくる感触に本能的
な恐怖すら覚え、より強く梨紅の舌を吸いあげることで中枢の刺激から意識を逸らそうと
試みる。
 そんなささやかな抵抗も、つい、と張り出した先端の周囲を繰り返し撫であげられては
ひとたまりもない。自分の肉体中、おそらくは最も鋭敏な箇所に繊細な愛撫を受け、たま
らず腰が跳ね上がり、はずみで固く絡み合っていた梨紅の舌が離れた。
「あ……」
 頬を上気させ桜色の唇を艶やかに光らせ、なごり惜しげに大助を見つめる梨紅だったが、
やがて微かにいたずらっぽい表情を浮かべると、下半身へと移った。
 固くなった大助の分身に指先を添え、捉えた未確認生物を扱うようにしげしげと眺める
梨紗と、そこに加わり、おずおずと指先を重ねると、同じく興味深そうに見入る梨紅。
『な、なんか品定めされているみたい……』
 さしずめ、まな板の鯉。
 興奮のあまりメーターが突き抜け吹っ切れでもしたものか、変に落ち着いてきた大助は
自分を客観視する余裕すらできていたりした。
 だが。
 ちろり。
 先端に梨紅の舌先が桃色の表面に触れてきた瞬間、そんなものは消し飛んだ。
「―――っ!?」
 空前絶後、前代未聞。第一次接触はそんな印象だった。
 熱く、柔らかく、わずかにざらついた刺激に全身を大きくのけぞらせ、跳ねあがりそう
な腰を必死になって食い止める。だが、攻撃はそれだけでは終わらない。続いて梨紗の舌
も舞い降り、姉妹が両サイドからはさんで同時に舐めあげ始めたのだ。
 ただ声もなく耐える大助だが、そら恐ろしくなるほどの快楽から逃れる発想はかけらも
ない。逃れたいはずなどなかった。
 相似通った双貌が自分の股間に寄り合い、両側から男の器官にちろちろと桃色の舌先を
這わせて唾液でべっとりと照り光らせている。服装と髪型の相違を除けば、自分の正中線
に鏡を置いて映したようなその光景。
 しばらく先端から棹のあたりを舐めあげられてから、おもむろに固くはりつめた部分が
熱く滑らかなものにくるまれた。
「う――わ」
 想像以上の刺激、いや衝撃が股間から全身に伝わる。
 大助の肉柱が、梨紅の小さな口内に含まれたのだ。一方、梨紗は場所をずらして付け根
の部分に舌を這わせている。
 鈴口、裏筋、雁首。生温かい舌と唇の動きに合わせて、日ごろ浮かべもしない単語が脳
裏に閃いた。
「ん……ふぅ……」
 響くのは鼻に掛かった梨紅の吐息と、猫がミルクを舐めるような湿った音。
 くるくると全体をまんべんなく清められたうえ、にじみ出した先走りの液体ごと卑猥な
音を立てて吸いあげられる。ただでさえはちきれそうになっていたその部分の充血を強制
的に増され、痛みと快楽が不分明に溶け合い始めた。
続けて、ひとしきり梨紅が大助を清め終えると今度は梨紗が口中に含み、舌を絡みつか
せながら先端から竿の中ほどまで唇を往復させてきた。替わって梨紗の先ほどまでの行為
を梨紅が継ぐ。
さらに、ひとりが熱く張り詰めた表皮にまんべんなく唾液を塗りつけ、もうひとりがそ
れを追いかけ綺麗に拭い去っていった。
 おそるおそるといった手つきで付け根の袋まで揉みあげまでする。
今やふたりには初めての口唇奉仕という抵抗も拙さもなく、双子ならではの絶妙な連携
を発揮してそそり立つ肉柱を唇と舌で同時に愛撫し、ほしいままにしていった。
『死んでもいいかも』
先ほどは、冗談を含みながら死の恐怖に怯えた大助だったが、今では転じて快楽の中で
そんなことまで夢想してしまう。舌に唇、指先はもちろん、鼻から漏れ掛かる熱い息や、
ふたりの栗色掛かった髪からのぞく白いうなじまで、愉悦を高める役割りを果たしていた。
たまらず限界を迎え、
「梨紅さん、原田さん……もうっ……」
ふたりの頭を押さえながら、快楽に眉を寄せてせっぱ詰まった声をあげてしまう。
 そんな状況を訴えられてなお、控えるどころか暴発を促すようにいっそう激しく舌と指
を使う梨紅と梨紗。
 喉の奥こらえられる限りまで肉柱を含み込んだ梨紅が、頬をすぼめてひときわ強く吸い
あげた瞬間、
「――っ!!」
あっさり止めを刺された。
 なにも考えられず、ただ背骨を引っこ抜かれるかのような衝動に突き動かされるまま、
溜め込んでいた精液を梨紅の口腔に解き放つ。
「っ!?」
 予想以上の量と熱さと勢いで喉を灼き撃たれ、思わず口を離してしまった梨紅と弾みで
離れた梨紗、ふたりの顔に断続的に痙攣を繰り返す男根からほとばしる白濁の粘液が降り
掛かっていった。
「あっ……」
「ん……」
 自らの体液が姉妹を汚す光景がさらなる興奮を呼び、濃厚な精液を止めどなく撃ち出す。
 その行為をなかば陶然、なかば呆然とまぶたを閉じて受け容れるふたり。
 長々とした射精行為がようやく終わっても、三人の間に漂い流れる異様な興奮は、余韻
へと変わるどころかさらに昂ぶり満ちていった。
 口中に溜まっていた粘液を、梨紅が味わうように飲み下す。その様を眺めていた梨紗が
なにやら突き動かされるように近づくと、舌を伸ばして姉の顔、そこに飛び散りこびりつ
いた白濁の液体を舐め取り始めた。
「あ……?」
 驚いたように少し目を見張る梨紅だが、再び目を伏せると黙ってされるままに。そして、
ひとしきり清め終わった梨紗が離れると、お返しに妹の顔も舐め清めていく。その行為を
心地よさそう、加えてどこか幸せそうに受け止める梨紗。
ふき取り終わった梨紅の舌が離れ、梨紅と見つめ合う。その唇がどちらからともなく重
ね合わされた。
 始めは小鳥がついばむように、徐々に大胆さを増してむさぼるように。
 同じ顔立ちをした双子の姉妹、重なった唇の間を二枚の舌が踊るように出入りし吸いあ
げ絡み合い、放ったばかりの精液とふたりの唾液がぴちゃぴちゃと交わされていくあまり
に扇情的な光景に、大助は冷めるどころかさらに激しく劣情を燃え上がらせていった。
 ベッドの上、しどけなく並んで横たわる梨紅と梨紗を間近に見下ろし、大助はじっと魅
入られていた。
 向かって左手、梨紅のブラウスはボタンを外してはだけ、右の梨紗はセーターを大きく
まくりあげてその下のブラジャーをどちらも外した大助だったが、ものごころついて以来
初めて目にするふくらみ、それが二対も並んでいる様に息を呑んでしまっていたのだ。
 羞恥に相貌を染めながら、大助の視線に肌をさらす姉妹。どちらも成長途上、まだまだ
これからといった風情の曲線はなだらかだが、それゆえに引きつけて止まない。よっつの
頂点にはつつましやかな桜色のつぼみが結実していた。
『やっぱり、胸もそっくりなんだ』
 残る理性の片隅でぶしつけとは感じつつ、じっくりなんども見比べてしまう。
 きれいだな、とか、やわらかそうだな、とか、そんなことばかり頭の中をぐるぐるとり
とめなく駆け巡っていた。
 欲望に突き動かされるまま、それでも乱暴にならないよう抑制しつつ、覆いかぶさるよ
うに梨紅のそれにむしゃぶりついていく。
「あっ……」
 ひくん、と身をすくめる梨紅。
 心臓の上、左の乳房に大助は唇で吸いつき、左手は残る右側を、揉む、というには気を
つかいすぎなほどのやんわりとした手つきで愛撫を始めた。
 そして、かたわらでふたりの様子を見つめていた梨紗の右の乳房にも右手を伸ばして、
同様に。自分がひとりしかいないことがもどかしい。もうひとりいれば、梨紅と梨紗を同
時に、均しく愛せるのに。
詮無いことに思い馳せながら、今の自分にできる限りに心を尽くしてふたりの胸を丹念
に指と舌でほぐしていく。
 14歳という年齢相応、梨紅と梨紗のふくらみはまだ生硬さを残しながら、弾むような張
りと沈むような柔らかさを充分指先に伝えてきた。
 マシュマロのような、とは陳腐極まりない表現だと自覚しつつ、乏しい大助の経験では
そうとしか喩え様がない。
「ふ……あ、にわ、くぅん……」
「んぅ……」
 ふたりの唇から、押し殺した声が漏れ始めた。
 それをもっと高めたい、はっきり聞きたいと、手のひらから指先を器用に――まるで鍵
を開け罠を外すように――操っていく。唇についばまれつつ舌先で転がされた、あるいは
指先でつまみ擦られた先端は、それと分かるほど固く充血していった。
 大助の唇が隣りにひかえた梨紗の胸に移ろうとする。
「あ、に、丹羽くん……」
「なに?」
 小さな、そしてどこか気弱げな梨紗の声に、大助は愛撫の動きを止めた。
「そ、その……」
 恥ずかしげに顔をすむけ、さらしていた自分の胸を右手で隠すようにしてしまう。
「あたし、梨紅ほど胸、おおきくないから、あまりみないで……」
 最後は消え入るようだった。
「――」
 えーと。
 第一印象ではふたりの違いなどまったく気づかなかった。少なくとも大助には。思いも
よらない言葉にあっけにとられもしたが、そう言われると天邪鬼に比べたくもなったり。
「そんなこと、ないと思うけど」
「だって……」
 大助の言葉にうつむいて。
「去年、測ったら梨紅の方が大きかった……」
「梨紗、そんなこと気にしてたの?」
 呆れたような声をあげたのは梨紅だ。
「あんなの、たった5ミリじゃない」
「"たった"でも違うの!」
 少し拗ねたような梨紗の言葉。
 ぷい、とそむけた瞳にはしかし、切なそうな色がにじんでいた。
 確かに、大助にとっても5ミリなんてやはり"たった"でしかない。実際こうして見て
も分からないのだから。それでも、数値として示された差異は、同じであるはずの双子に
とってはささいなものでも意識せずにはいられないものだったのだろう。
『梨紅さんがスポーツ――ラクロスをやっているから』
 おそらく、そうやって身体を鍛えたか否かで生じた差だと見当をつける。だからといっ
て、大助にとって双方の魅力がわずかも減じるものではない。
 それどころか。
「違わないよ」
 梨紗の姿になんだか微笑ましいものを感じてしまい、胸の上から彼女の右手をそっと外
すと、顔を寄せて抜けるように白くきめ細かい肌にキスの雨を降らせていく。
「あっ!?」
 積極的な大助の行為に、梨紗は軽く驚いて身悶える。が、嫌がって避ける風はない。
「やっぱり梨紅さんと、同じ」
 慰めやへつらいではなく、本心からの言葉だった。外見はもちろん、肌に伝わる感触は
梨紅同様、なんらそん色なく大助を魅了した。
「……」
 言葉もなく、ただ恥ずかしそうに梨紗は両手で顔を隠した。
 そんな様子に微笑みながら、
「梨紅さん」
「なに?」
「一緒に、手伝ってくれるかな?」
 そう伝えて、梨紗の左胸に顔を寄せていった。
「ああっ……」
 本格的な愛撫の開始に、たまらず梨紗は声をあげ、大助の意図を汲んだ梨紅は顔を赤ら
めながらもうつぶせになり、空いた妹の右胸に唇を近づけ、固く息づいていた乳首を抵抗
もなく含んだ。
「にわくん……りくぅっ……」
 ふたりがかりの愛撫に梨紗の嬌声が1オクターブ跳ね上がった。
 その響きは、梨紅の胸裡に身を分け血のつながった妹に対する甘やかな愛おしさを呼び
覚ます。
 母性に通じる感情、とでもいうのだろうか。もっとも、その象徴を吸っているのは彼女
の方だが。そう気づいて笑みを誘われた梨紅が傍らの大助に目をやると、こちらは赤児の
ように夢中で梨紗の胸に吸いついていた。
 くすり、と新たな笑みを漏らしつつ、妹への愛撫を再開。
 アルコールに灼かれた脳裏にも背徳感はあった。それを包み込んでしまうほどの愛おし
さも、また。だからこそ、その舌づかいは煽られるように激しい。
「あっ……やぁ……」
 耐えかねこぼれる梨紗の声をどこか心地よく聞き届けながら、乳首を上下の唇ではさん
で強く吸いあげ舌で転がす梨紅の背筋が、つう、となでられた。
「ひゃっ!?」
 思わず妙な声をあげてしまう。
 大助の左手、その指先が伸びてきていたのだ。それは背骨に沿ってつつ、と這い下り、
腰にまとったキュロットからすべり入って薄い下着の上から尾底骨をなぞり――。
「や、あぁっ……」
 深い谷間を触れるか触れないかのところで撫で下ろした指先は、その果て、誰にも触れ
られたことなどない部分へ薄布越しにたどり着いた。
「だっ、だめっ!」
 秘部にとどまった指先がそこへ繊細な接触を試み始めると、妹への愛撫どころではなく
なった梨紅が恥じらいから声をあげてしまう。
 アルコール効果はもちろんだが、ずっとどこかにくすぶり続けていた梨紗への対抗心、
いや、ありていに言ってしまえば大助の心を奪われるのではないか――そんなことはあり
えないと確信していても本能的にこびりついてしまう微かな猜疑心が裡にあって、知らず
暴走に拍車をかけていた。
 だが、それも梨紗と触れ合ううちどこかへ解け去り、酒にふやけた脳みそはそのまま、
よみがえった本能的な羞恥心が静止の声をあげさせたのだった。
 そんな梨紅にあえて構わず指先は花弁をなぞり、このうえなく柔らかい感触を味わう。
下着の上からでもはっきりと分かる縦筋に沿って浅く上下させると、全身に痙攣が走った。
「ふぁ、あっ……んんぅ……」
 唇で梨紗の胸への愛撫にも専念しているとは思えないほど、独立したパーツのように大
助の指先は巧みに梨紅の下半身を蕩かしていく。
 まんべんなく舐め尽くされ、全体を照り輝かせる梨紗の半球から離れると身体をずらし、
梨紗のほっそりとしていながらうっすらと脂肪の乗った腹部を徐々に舐め下ろしていき、
ついには腰から下へ。
 ロングスカートをまくりあげると、清楚なデザインの白い下着が目に入った。
 快楽に弛緩した両脚をたやすく開かせると、白色の中心に、わずかだが明らかな染みが
にじんでいた。
 迷わずそこに口づける。
「あっ……」
 薄布越しとはいえ、敏感きわまりない個所に口づけされ梨紗の腰が小さく跳ねた。一方、
かたわらでは大助の指先に操られるように腰をうねらせてしまう梨紅。
 ふたりの快楽を同時に引き出しながら、大助は巧みに彼女たちの下半身を覆う布切れを
剥ぎ取っていった。
 しどけなく開いた両脚の間に、ものごころついてから大助が見たこともない、魅惑的な
女性そのものの器官が申し訳程度の淡いかげりに秘められて、あった。
 うつぶせになって腰を少し浮かせた梨紅に、くたりとあおむけに横たわる梨紗。
『もっとよく、見たい』
 理性では抑えきれない昂ぶりに従って梨紅の腰に手を伸ばすと、ぐい、とうつぶせのま
ま梨紗の上に来るよう導いた。
「あ……」
「ん……」
 思いもしない組み合わせの体勢をとらされた梨紅と、その下で体重を受けた梨紗が小さ
く声をあげる。
 重なり合ったふたりのしなやかな脚を大きく広げさせ、大助はその間に分け入った。
「やだ……こんな……」
 さすがに梨紅が顔を真っ赤にして訴える。
 だが、なんというかもうあまりに刺激的な眼前の光景にすっかり魅了された大助の耳に
は、限界まで高まりきった自分の鼓動、血管を走る熱い脈流以外届いていない。
 姉妹の瑞々しい肢体が艶めかしく絡む、この世のものとは思えない光景。
 かつて14歳の誕生日、ダークに変身したとき以上の衝撃。
 脳が灼けて、融け出す。
 シンメトリを為して上下に重なり合う、ほころびひとつなく綺麗な縦線を成したふたり
の秘裂は、鮮やかな桃色をあふれ出た蜜液によって照り光らせていた。
『やっぱり、ここもそっくりなんだ』
 記憶に残る限り初めて目にするその部分を上下しげしげと見比べ、素直にそんな感想を
浮かべてしまう。
 さらに、秘めやかな個所はもちろん、身に付けていたブラウスやセーター、ソックスは
そのまま、さらけ出された下半身の生き生きとした肌の白さ、まだ少女らしく脂肪は乗り
きらないながらも充分な柔らかさを示した丸みあるお尻とその谷間、伸びやかな太もも、
なにもかもが蠱惑的にすぎて。
 ああもうなんというか――。
 ビバ! エロティシズム!
 ビバはイタリア語でエロティシズムは英語だ!!
 なんだか訳が分からなくなっているけれど、やることははっきりしている。
 重なり合いつながり合ったようなふたつの縦裂に、大助は顔を埋めていった。
 女性たらしめるほのぐらい割れ目、熱く濡れた襞、莢にくるまれた秘芽、淡い繊毛。姉
妹ふたりのそれら全てが熱く濡れ、大助を迎え入れる。
 無造作に舌を伸ばし、舐めあげ、舐め下ろした。
「ひぁ――」
「んぅっ……」
 わずかなタイムラグで梨紅と梨紗が震える。
 舌を届く限りに突き出して、むさぼるように内奥まで挿し込んでいく。既に熱い蜜をに
じませ始めていたそこは、ふたりの恥じらいに反比例するごとく妖しい蠢きをもって侵入
者を迎え入れ、無数の襞がさざめくように奥へと招く。
 ここの味わいもまた、そろって同じ。
「あ……ふぅ……」
 胎内を舐めまわされ、花弁を吸いあげられ、さらにその上で小さくすぼまっている菊座
まで鼻先で擦られた梨紅の奥から、新たな蜜が次から次へとあふれ出る。日頃はつらつと
した少女の身体の一部とは思えない淫らな反応をもっと引き出そうと、大助の舌づかいは
激しさを増した。
 滴る蜜はその下で花開く梨紗の花芯へとろとろ伝い落ちていく。追うように大助の舌は
移り、ふたり分の愛液にぬらつく花弁を割り開いて深く挿し込んでいった。同時に指先は
梨紅の花弁を弄り、浅く潜り込ませてくちゅくちゅと音を立ててかき混ぜる。
 既に固くなっていた陰核を探り当てられ、舌と指でそれぞれに転がされると、ひときわ
高い嬌声がそろって湧き上がった。
 交互、かつ同時に丹念な愛撫を受けた梨紅と梨紗は、もはや意志とは関係なく腰をくね
らせ、跳ねさせる。
「あっ、ひうっ、にわ、くんっ」
「も、もう……あぁっ!」
 やがて、導かれるまま同調したかのようにふたりの声と動きは重なり合い、
「「んああぁぁぁっ!!」」
 ひときわ大きな痙攣にそろって全身をのけぞらせ、同時に快楽の頂点を極めていった。
 ふたりそろっての絶頂を見届けた大助が、膝をついて立ち上がった。
くたりと力を失い、梨紗に身体をあずけた梨紅の腰をぐっとつかみ、ふたりの隙間にそ
そり立つ肉柱をあてがうと、ぬめぬめと蜜を吐き出す肉襞同士の境目に押し込んでいく。
「あ……またぁ……」
「いま、だめぇ……」
 余韻覚めやらぬ肉体に加えられた新たな刺激に、ふたりはおそれと期待の入り混じる声
をあげた。
 女同士の柔らかな感触に男の硬さが分け入ると、股間で上下から男根を挟んだ姉妹は、
触れ合う面積を少しでも広げようとそれぞれにぬかるんだ秘裂を擦りつける。その行為は
大助越しに互いの花弁を擦り合わせる結果となり、背徳的な快感をいや増した。
 わずかな擦れ合いでも伝わってくる充分な快楽を受け、大助は動き始める。
 にちゅっ、にちゅっ、と、三人の粘膜が触れ合う個所から響く粘ついた水音。
 姉妹の肢体を夢中になって、分け隔てなく均等に一本の肉茎で貪る。
 破瓜の痛みを伴なわない、しかし男根によって与えられる純粋な性の快楽。それは絶頂
に達したばかりの梨紅と梨紗を再度おぼれさせた。
 たまらず互いに手を回してしっかりと抱き合う。
 大助はそんなふたりの重なり合いぴたりと密着した乳房の間に、左手のひらを上、右は
下に向けて差し込んだ。左右互い違いに入れた手の甲と掌に感じるひしゃげた半球は、そ
れぞれ量感と柔らかさ、そして心地よさもひとしい。
 汗の浮く滑らかな肌に上下から挟み込まれた手のひらを巧みに操る。
 乳房の柔らかさの中に固く実る突起を指の間で挟み、姉妹の乳首を擦り合わせてやると、
思いもしなかった快楽の得方に気付かされたふたりが歓喜の声をあげた。
 両手の動きに加えて腰も激しく動かしにかかる。
 肉孔の入り口と屹立した小粒な淫芽を、三人分の粘液にまみれた男根に擦られるたび、
姉妹の全身に快楽の電流が生まれ伝わり広がっていった。
「んっ……ぁあ……」
「ふ……ひぁ……」
 零れ落ちる悦楽の声。小刻みな震えに取りつかれ始めたふたりの反応に、再度の絶頂の
到来を察した大助は、ふと思いついて腰を止めてしまう。
「……あっ!?」
「やぁ……」
 男性器を挟んで貝合わせのとりこになっていた梨紅と梨紗は、急に途絶えた悦楽の波紋
に声をあげた。切なげな視線を大助に注ぐと無意識のうちねだるように小さく腰を擦りつ
けてしまう。
 そんな四つの瞳に見つめられる大助は、梨紅の身体を抱え起こすとゆっくり仰向けに倒
れ込んだ。
「ああっ!?」
 大助と一緒に倒され、仰向けに重なった梨紅の両脚は大きくM字に開かれ、その中心か
らは、まるで彼女のもののように大助の肉柱がそそり立っていた。
「や、やだ、こんな……」
 恥じらい顔を覆う梨紅を横目に、大助は半身を起こしてこちらを見つめていた梨紗に目
配せを送る。意味を理解したのか、顔を赤らめながら近寄り梨紅の上に覆いかぶさった。
「梨紗ぁ……」
 姉の言葉に応えるように、その唇に自分のそれを重ね、舌を挿し入れていった。
 そのまま自然に乳首と秘裂も円を描くように擦りつけ、夢中で先ほど覚えてしまった快
楽を求め始める。固く尖った乳首と剥きあがった肉芽をくりくりと押し付け合えば、姉妹
の肉体に弾けるような快感が走った。
 同じ顔立ち、体格の双子姉妹が進んで肢体を絡め、唇と胸と女性器それぞれでつながり
合い、一度おあずけをくらってはずみのついた肉欲を進んでかき立てようと自ら動く姿は、
間近に眺める大助がわずかな羨望と疎外感を覚えてしまうほど熱に満ちて美しい。
 そんな行為を邪魔するではなく快楽に上乗せするように、大助も下から腰を小刻みに突
きあげ、三人三様各々追い込み高めていった。
「にわくんっ、りさぁっ!」
 突きあげる歓喜にのけぞりふたりの名を呼ぶ梨紅の唇を逃すまいと、梨紗が追いふさぐ。
 横合いから大助も顔を寄せ、三人はそれぞれ三枚の舌をいっぱいに伸ばして弄い合った。
 どろどろと混濁した意識の中、三人の肉体を巡る快楽はより熱く大きく白熱化していき、
火花を散らして最後の瞬間へ高め合っていく。
「んっ、ふぅ、んあぁぁっ!」
「ひ……あっ、もう……」
 梨紅と梨紗の表情が恍惚に歪んだ。
 同じく限界を迎えた大助が無我夢中で激しく腰を突き動かした瞬間、
「あっ、はぁっ、ひああぁぁぁっ!!」
「ふぁっ……んううぅぅぅっ!!」
 淫靡な合唱とともに姉妹はそろって頂点を極め、大助も灼熱のかたまりを勢いよくふたり
の間に放っていた。
 三人の絶頂はひとつに溶け合い、閃光に白く染めあげられた意識はやがて甘やかな暗闇
へと呑み込まれていく。
 さて。
『夢オチじゃなかったのか』
 ほどなく正気に返った大助は、ベッドの上で愕然と頭を抱えていた。
 両隣に寝ているのは、当然のように梨紅と梨紗のふたり。
 とりあえず、意識を失った彼女たちの身体をきれいにして、衣服を整えて。
 今はこれが精一杯。
 ふたりが目を覚ましたら、今度こそ命はないかも……。
 刑の宣告を待つ罪人の心地で途方に暮れていたところへ。
「んん……あれ、にわくん?」
 さあっ、と全身から血の気が引いていく。
 梨紅が目を覚ました。梨紗もとろんと瞼を開いている。
 大助は恐る恐る声を掛けた。
「オ……オハヨウゴザイマス」
 だが、のろのろと身を起こした梨紅は、らしからぬけだるい表情を浮かべたまま、
「んー、あたしどうしてこんな……?」
眉根を寄せる。
「どうしてって……」
「おせち料理食べて、それから――ううっ」
 顔をしかめてこめかみを押さえた。
「あたまいたい……」
「がんがんするぅ〜。静かにしてよ、りくぅ……」
 梨紗とふたりそろって苦鳴を訴えている。
 これはもしや。
「おぼえてないの、ふたりとも?」
 おそるおそる。
「なにを……ていうかもうダメ、ねる……」
「あたしもねる〜、おやすみ……」
 ふたりして、ばったりベッドに倒れ込んでしまった。
『これはもしや』
 酔っ払った果てに記憶喪失、と。
「は――はは……」
 乾いた笑いとともに、空気が抜けるように全身の緊張がほぐれていった。
 なんともご都合主義なオチではある。
 それでも、いざ忘れられてしまったとなると、
「ちょっとだけ、残念な気もするかな」
仲睦まじく並んで眠る姉妹の姿――ちとアルコールにうなされるような寝顔だが――を見
守り、喉元すぎればなんとやら、そんな言葉をつぶやいてしまう。
 なにはともあれ。
『梨紅さんたちとは、お酒を呑まないようにしよう』
 特に、ふたりそろっては。
 でないと、命がいくつあっても足りない。
 そう固く誓う大助だった。

―― 了 ――
241前スレ367:04/01/15 22:23 ID:cy/AZMID
なんとか日付変更に間に合いました。
1回の投稿量としてはちょっと多すぎな気もするので、
半分に分けて計3回で投稿した方が良かったかも。
242名無しさん@ピンキー:04/01/15 23:54 ID:AN1jfSfG
>>241
ぜんぜん間に合ってるッスよ
いやぁ〜いがった。超正月最高!!(謎
・・・もちろんまた書いてくれるんですよね?
243名無しさん@ピンキー:04/01/16 22:19 ID:ZDxsPwEU
タイトルがギャラクシーエンジェル風だNE!
244名無しさん@ピンキー:04/01/16 23:04 ID:F+02No4d
>>ビバはイタリア語でエロティシズムは英語だ!!
スクライダー発見〜
245名無しさん@ピンキー:04/01/17 02:53 ID:ivK5b8qu
しかも漫画版ですな、ビバ・ノウレッジ!
246名無しさん@ピンキー:04/01/19 19:25 ID:JwntagDc
念のためhosu
247小ねた:04/01/20 23:33 ID:J1f8dGXR

彼女の息遣いが、僕の舌先に合わせるように緩んだり、速くなったりする。
「あぅ、丹羽くっ、い、いい!」
彼女が悦んでいる。その事が嬉しく、秘芽を舐め回す舌にも一層力が入る。
「お願いっ、もっと、もっと激し……ッぁあ」
恥ずかしげもなく悶える彼女が愛しく、僕は彼女の名前を囁いていた。
「クリさん…………」



















その日、破局の危機が迫った事は言うまでもない……。
248名無しさん@ピンキー:04/01/22 23:02 ID:PB8SwDyz
保守
249125:04/01/25 00:37 ID:3KdhZgWP
 ――真実、と言っていた物語を話し終えると、
「……小助さん、エリオットの持っていた剣の行方は?」
 黙って聞いていた笑子が一番に口を開き小助に訊ねた。
「カイルがずっと管理していたようだが……彼の死後、文化改革に紛れて壊されたか……
それとも闇のルートでまだ存在するのか」
 大事な話をしている横では鳥姿のトワちゃんとウィズが場違いにもころころとじゃれ合っ
ている。
「この物語自体も正しく伝承されていないんだ。行方を掴むのは難しいかもしれない」
 それはつまり、笑子が唯一の手がかりと感じたエリオットの剣の所在は分からないという
返答だった。
「――だが」
 後を続けられない笑子を継いだのはさっちゃんだった。
「何もせんわけにはいかん」
 力強い声は全員の耳にしっかりと届いていた。



 フリーデルトさんと出会ってから、すでに数日が過ぎていた。僕はあの日、彼女に頼まれた
とおり絵を描き続けていた。


 ――あなたの「力」で、この世界の「寿命」を延ばして欲しいの


 彼女は僕にきっぱりと言った。


 ――絵を、描いて

250125:04/01/25 00:38 ID:3KdhZgWP
 ついさっきまで哀しげな表情で語っていた彼女に陰惨な影を全く見せずに頼まれ、それを
断れるはずもなかった。僕の絵にはフリーデルトさんや時の秒針さんに期待されるような
特別な力なんて全然ないから、と何度も何度も念を押しておいてスケッチにとりかかった。
 目に映る緑や小川、遠方にそびえる連山などなど、いろんな風景画を何枚か描き上げ、
果たしてこれで本当にこの世界の寿命が延びているのか、僕にははっきりと分かっていない
けど、とにかくできることをするんだと決めて今日も頑張って筆を進めていた。
「大助――――!!」
 呼ばれて顔を上げると、ニコニコ笑顔のフリーデルトさんがティーポットとティーカップが乗る
カートを押してこちらに来るところだった。
「お茶にしましょうっ。根の詰め過ぎはよくないわ」
「うん。ちょうど終わったところだし」
 スケッチブックを足元に置いて再び顔を上げ、じいっと僕の顔を見つめるフリーデルトさんと
目が合った。なんだろうと思い疑問符を浮かべる僕に対し、彼女は真剣な眼差しだ。
「?」
「顔色が悪いわ……」
「えっ? そっ、そっかな?」
 そんな自覚が全くなかったので、フリーデルトさんに言われて少し狼狽えてしまった。
「お願い、あまり無理はしないで」
 今まで見たことのない心配そうな顔をされて、落ち着かない気分になる。
「私お水も取ってくるわ。少し待っていて」
「えっ!?」
 言うより早く、彼女は来た道を駆け足で戻って行った。
「僕は大丈夫だっ――……」
 思わず立ち上がって呼び止めようとした拍子に、足元に置いていたスケッチブックを派手に
蹴飛ばしてしまった。
「うわわっっ」
 間に挟んでおいた完成した絵が何枚も散らばってしまい、それを拾おうと腰を下ろし、フリー
デルトさんを止めないとと思い視線を上げ、しかしすでに彼女の背中は遠くにあったので、結局
絵を集めることにした。
251125:04/01/25 00:39 ID:3KdhZgWP
「あぁ……、ブチ撒けちゃったよ……」
 がさがさと手を伸ばして拾っていると、ある一枚の絵を手にして動きを止めた。そこに描かれて
いたのは猫みたいに目つきの悪い長髪の女性と、仔犬みたいにころころしている短髪の女の子
だった。フリーデルトさんからスケッチブックを渡された後、何となく描いてしまったさっちゃんと
レムちゃんの落書きだった。
 随分と長い間二人に会っていない気がして、数日前の日々をとても懐かしい気持ちで思い出した。
「――――ん?」
 ちょっと前のことを思っていると、ふと頭の隅っこに引っかかるものを感じた。前にもこんなこと
があったような気がするが、いまいちよく思い出せない。奥歯に挟まったものを舌で取ろうとして
取れないもどかしさ。
「んん…………」
 数日……ほど前だった、かな?思えど思えどはっきりせず、手だけは動き続けた。と、その動き
をはたと止めて手にした一枚の用紙に目が吸い寄せられた。
 それに描いていたのは、フリーデルトさんにスケッチブックを渡されてから初めに何を描こうか
考えた時、ふと描いてみたさっちゃんとレムちゃんの落書きだった。
 なんだかもう随分と会っていない気がし、今彼女達がどうしているのかと夢想にふけり、
「なんか……無性に会いたいなぁ……」
 募った思いは口から溢れていた。
「――あ、っと」
 意識を空に投げていたため、手から絵を取り落としてしまったことに気づくのが遅れた。
再び地面に舞い戻ったそれを取ろうと手を伸ばした時、僕の身体は重力に導かれて倒れようとした。
「あ……れ……」
 両手で身体を支えようとしたけど、伸ばした手がいうことを聞かず、無様にどさっと突っ伏して
しまった。何が起こったんだ?考えるだけの余裕もなく、何度か呻いた後に意識はぷっつりと
途切れた。
252125:04/01/25 00:40 ID:3KdhZgWP
 水差しを手にして来た道を戻るフリーデルトの顔は冴えていない。
(……やっぱり、人間をこの世界にとどめる事は無理だわ……)
 彼女の脳裏には、少し蒼い大助の顔がちらついていた。
(このままだと……彼の生命まで――……!)
 最悪の結果がよぎり表情には苦渋が満ちるが、大助の前でこんな顔はできない。思いを
すっぱりと拭い去れぬまま、それでもできる限りの笑顔を浮かべて大助のいるところへ戻っ
てきた。
「大助、お水……!」
 言葉が終わらぬうちに彼女は水差しを投げ出し、地面に倒れ伏す大助に駆け寄ってその
身体を抱え起こした。
「大助! 大助どうしたのっ!?」
 顔色は先程よりも目に見えて悪く蒼白になりかけている。呼吸も弱く、汗も滲んでおり、その
様が、これ以上彼をこの世界にとどめる事が限界にきていると彼女に語っていた。
 大助の生命が尽きる――。彼を巻き込んだのは時の秒針、もう一人の彼女のせいだという
事実を重々承知していた彼女は後悔と自責の念に苛まれたが、今は一刻も早く大助を救うの
が先だった。
「……ごめんなさい」
 もし大助が謝罪の言葉を口にする彼女の声を聞いていたならば、本当の世界に連れてこら
れる前に聞いた声とその声が似ている事に気付いただろう。
 フリーデルトの唇が大助の顔に近づき、躊躇うことなく口と口を重ね合わせた。
253125:04/01/25 00:41 ID:3KdhZgWP
 ――ほぼ同時刻、ところ変わりラッセル博物館。
 そこに一振りの剣が寄贈されている。銀の剣、その名を「時の楔」という。
 幾重にも鎖で固定されている様は、展示してあるというより封印しているという印象を
与えている。
 厳重に保管されているはずのそれが、確かにその瞬間、蟻が身震いするほど小さく
振動した。それは彼が目覚めようとする、微かな前兆だった。
254125:04/01/25 00:43 ID:3KdhZgWP
 どたどたと無遠慮な足音を響かせ、トワちゃんは現在家にいる者のところへ急いだ。
向かった先は丹羽大助の部屋である。
「お二人ともっ! 見つかりましたわってきゃぁぁぁぁぁっっっっっ!!?」
 見つかったのはもちろん件の剣である。そしてトワちゃんが叫んだ理由は、
「ん? おおそうか! でかしたトワ!」
「それでそれで、どこなんですかぁ?」
 部屋にいたのが大人と子どもの女性ではなく、幼女が二人だったからである。片や
悪ガキっぽく釣り上がった……寧ろ鋭い目の幼女。片や仔犬のように丸い……というか
真ん丸した目を輝かせて訊ねてくる幼女。二人に挟まれ白い毛玉がもぞもぞと蠢いている。
「トワ、詳しく話せ。…………どうした?」
 さっちゃんは急かしたが、トワちゃんは固まり、じっと二人の幼女の顔を舐めるように見回し、
「……………………か」
「か?」
「か?」
「――可愛いですわぁぁぁぁぁっっっっ!!」
 突然二人に飛び掛った。その際ウィズが潰された事に気付いた者はいない。
「おぉぉっっ!? こぉらっ! うご、く、苦し……」
「はわわわぁ! 潰れちゃいますっ、んきゅぅぅ……」
「はっ!? わ、わたくしとした事がっ」
 二人の可愛らしさに思わず本能の赴くままに動いてしまったトワちゃんが正気を取り戻し、
二人から泣く泣く身体を離した。
「げほ、げほ……。で、見つかったとはどこでだ?」
「ああはいはい、そうでしたわ。つい先程、急に剣の存在を感知しましたわ」
「いきなりか……。何かあったのか、な」
「それでそれで、一体どこですか?」
「――ラッセル博物館ですわ」
255125:04/01/25 00:44 ID:3KdhZgWP
 小さく身じろぎすると、彼の目は間もなく開いた。
「ん……?」
 目に飛び込んできた光に再び瞼を閉じ、その光がこの世界の陽光だと理解するのに少し
ばかり時間を要した。
「大丈夫?」
 声とともに視界に影が現れて光を遮った。一転して闇に支配されるが、視力はすぐに回復
した。
「……フリーデルト、さん……」
 瞳に映ったのは上下逆転したフリーデルトの笑顔だった。後頭部は柔らかなものに触れ、
そこでようやくどのような体勢を取っているのか気付いた。
「あ、ごめん」
 とりあえず謝ってから頭を彼女の膝から退けようと身体を動かすが、
「ダメ。まだ安静にしてて」
 身体にそっと手を添えられ、それを払うこともできずに固まっていたが、やがてゆっくりと
した動きで元の位置に、膝枕をしてもらう体勢に戻った。
 女性の膝枕という滅多に体験できない出来事を嬉しく思いつつも照れ臭く、すぐ上にある
彼女の顔を正視できずにそわそわ視線を泳がせていたが、やがて、
「……そうだ。僕、倒れちゃったんだっけ」
 どうしてこんなおいしい状況になったのかが分からない大助が思い出したように呟いた。
フリーデルトの眉根が寄ったのを見逃すはずがなかった。
256125:04/01/25 00:45 ID:3KdhZgWP
「フリーデルトさん?」
「ねえ大助」
 大助が口を開いたのに被せるようにフリーデルトが遮った。
「大助、…………りくさんって大切な人?」
「――え? え、え、ええっ!?」
「眠ってる時にその子の名前呼んでたから。違うの?」
 もちろん驚いたのは大助本人だ。
「僕が……梨紅さんを……?」
 うん、とフリーデルトは頷くがまだ自分自身は信じていないといった風だ。そんな彼をよそに、
彼女は興味津々、ニコーッと問い続ける。
「それで、大切な人なの?」
「え!? あっ」
 大切じゃないかと言えばそうではなく、かといって大切と言ってしまってもそれは僕が勝手に
思ってるだけだし、それに原田さんだっているし……。
 答えを出せないループ地獄に陥ってしまい困り果てる大助を、フリーデルトは魅力たっぷり
の笑顔で見つめていた。
「……いい人ね。大好きよ、ヘンなイミじゃなくて」
 フリーデルトの直球な物言いに、大助の顔はあっという間に沸騰した。
257125:04/01/25 00:46 ID:3KdhZgWP
「カーワイーっ」
 ますます赤くさせられる大助だった。
「――でも」
 不意に彼女の声のトーンが落ちた。今までの陽気な調子と大きく変わったわけではない。
が、どこか翳りを帯びたのだ。大助は怪訝に思いながら彼女の言葉に耳を傾けた。
「だから、大助はここで死んでしまったらダメ」
 ――死。思いがけない単語に身体が微かに竦んだが、それ以上に驚くべき事態が大助の
身に起こった。フリーデルトの手が彼の顔を挟むと、今度は彼に意識があるにも関わらず
その唇を重ねたのだ。
「――ッ、ふ、フリー……」
 フリーデルトからの口付けから逃れ、弾けるように身体を起こして間合いを取ろうとするが、
数歩もせぬうちにへたへたと尻をついてしまった。
「無理はダメ。まだ本調子じゃないのよ」
 へたり込む大助に覆い被さって身体を預けると、力の入らない彼は容易く押し倒されてしまう。
再び口と口をつなぎ合わせる。
「…………っな、なんで」
 離れた口から疑問が紡がれるが、それを防ぐように執拗に唇を結び続ける。
「ん……ッん、今は、私に任せて」
 それだけ囁き、また唇を嬲り始める。濃厚な交接に時折漏れる官能的な吐息。侵されていく
頭には彼女の言葉が呪詛のように反芻し、言われたままに身を任せるようになっていた。
258125:04/01/25 00:47 ID:3KdhZgWP



「――レム、終わったぞ」
 女性の声がラッセル博物館展示室の一室に木霊した。
「いい仕事してますねぇ」
 展示室の外で待機していたウィズを頭に乗せ、右腕に盾をはめたレムちゃんが、肩に
担いだ剣をずるずる引きずりながら扉の通路側から姿を現した。
 レムちゃんは足元に気をつけながら、よたよたとさっちゃんの傍へ急いだ。
「皆さん眠ったように死んでますねぇ」
 床に転がっているのは、「時の楔」を警護するために遣わされた警官隊だが、全員が
一様に昏倒していた。
「馬鹿。眠っているに決まっとるだろ」
 彼らに手を下したのはもちろんさっちゃんである。
「さて。我の仕事はここまでだ。次はお前の番だぞ」
「はいはいっ」
 レムちゃんがさっちゃんに荷物を押し渡すと、倣うようにウィズもさっちゃんの頭に移動
した。人がごみのように倒れる上を先陣斬って標的の「時の楔」まで駆け行くレムちゃん
の後を追ってさっちゃんがゆっくりと歩を進める。ゆっくりしている割に遠慮なく警官を踏み
つけて行くが、その程度で目が覚めてしまう柔な術はかけていなかった。顔をむぎゅりと
踏まれようが、股間をぐわしと踏み抜かれようが、彼らは幸せな笑みを浮かべ、夢の世界
の住人と成り果てていた。
259125:04/01/25 00:47 ID:3KdhZgWP
「これですねっ!」
 一つの美術品の前でレムちゃんがぴたりと足を止め、幾重にも鎖を巻きつけられたそれ
に手を伸ばしてみる。
「――んッ」
 伸ばした指先に電流が走った。強力なものではないが、確かに魔術による封印が施され
ている。「時の楔」に絡みつく鎖の全てが力を有している。それはやはり、「時の楔」を封じて
いるのだろう。
「早くその厄介なものを取り払え。どうするかしっかり覚えとるな?」
「はいです。鎖から開放しちゃったら、わたしが代わって『時の楔』の力を押さえ込むんですね!」
 封印している鎖が厄介なら、封印されている剣も厄介なものだ。一体どんな力を備えて
いるか分からないうちは、力を出させない方がいい。大助を助け出す前に不測の事態が
起こってしまうのは、まずい。
 さっちゃんが頷くのを確認し、レムちゃんは仕事に取り掛かった。
「ハン○ーコネクトォッッ!!」
「……………………は?」
 突然レムちゃんが叫び、手を一気に伸ばしてエリオットの剣の柄を掴んだ。周囲には大気
を焦がす多量の閃光が走るが、勇者はそんなの気にしないのである。
「ゴォォ○ディオンッッ」
「れ、レム……ッ?」
 鎖が――飴細工のようにいとも簡単に千切れてゆく。
「○ンッッッマァァァァァ!!」
 天高く剣をかざす彼女の姿は、勇者王のなに相応しそうでそうでなかった。
 ――数秒後。
「さ、急いでご主人様の元へ!」
「ちょぉぉぉっと待てぇい!」
 先程の絶叫に全く触れる気配を見せないレムちゃんに、珍しくさっちゃんが突っ込んでいた。
260125:04/01/25 00:48 ID:3KdhZgWP
 ――さらに数分後。
「……まあ、これ以上議論してもどうにもならんが」
「そうなのですよ。初めから素直にそう言ってたら」
「どぉの口で言うか」
「ひは、ひはひはひぃぃぃっっっ」
 剣を手にしているレムちゃんの口に親指を挿し込んで引っ張り上げていたが、また
くだらんことに時間を費やしそうだと悟ったさっちゃんはあっさりと手を離した。
「とにかく。さっさとクライン教会に行くぞ」
「はふぅ……ふぁいです」
「では我は先に元に戻る。お前がしっかり運ぶのだぞ」
「ふぁいです…………ってわたしがですか!?」
 いつの間にそんなことが決まったのか、訴えようとした時にはさっちゃんの姿は消えて
いた。
「お前しかその厄介な代物を運べんのだ。頼んだぞ」
「うぅ……そうですね、仕方ないですね」
 さっちゃんの声はいつものように紅円の剣から聞こえてきた。
「それじゃウィズ、わたしを運んでください」
「ウッキュキュ」
 黒い翼に姿を変えたウィズが、左肩に紅円の剣を、右手にゴルディオ……ではなく、
エリオットの剣を持ったレムちゃんの背にとりつき、細い少女の身体を大空へ誘った。
261125:04/01/25 00:52 ID:3KdhZgWP
今日はここまでです。
よおやく次で終われそうでつ。長カッタ_| ̄|○
それから更新長らくお待たせして申し訳なかです。
262名無しさん@ピンキー:04/01/25 01:33 ID:FleiPY2f
乙です。
急がず慌てずゆっくりと自分のペースで書いて下さいな。
263名無しさん@ピンキー:04/01/25 16:59 ID:l6z+IubW
わかるネタキタ―――(・∀・)―――!!(違
ゴルディOンきましたねw
一人PC前で悶えてましたww

いやぁ、大×フリもいい感じに来ましたねv
次回も期待!!
264前スレ580:04/01/25 23:29 ID:w2G3Y/fX
久々のカキコ〜初売り並んで買ったおにぅのPCの設定に手間取りましたよ(;´Д`)
後、cloverheart'sとかにうつつを抜かしてみたり双子萌え〜梨紅梨紗萌え〜玲亜梨織萌え〜
そんなわけで書こうとしてるネタがパクリになったりして…
大助とダークも双子とか _| ̄|○
265名無しさん@ピンキー:04/01/28 23:48 ID:+f/vkw2c
保守〜
266大地のどきどきお泊り:04/01/30 00:53 ID:IYcRnPjL
大地はその身を湯船に浮かべていた。
「…………はぁ」
広い浴槽は、少年一人だけではいささか寂しいものだ。
「…………ふぅ」
夕食前、時間にすれば四時を過ぎた頃に風呂とは早いものだが、
「…………あぁ」
倦怠感に満ちる体にとって、四肢の力を抜いてぼんやりとしているのは至福の時だった。
「…………うぅ」
ただ、先刻梨紗おば……おねえちゃんにされたことを思い出すと、どうしても必要以上に熱く
なり、胸がどきどきし、小さな自分が疼くのだった。弄られ、すっかり腫れ上がったそれを突付
いてみると、
「あぅぅっ」
梨紗おねえちゃんに触られた時と似たような刺激が走る。触るのをやめようと思っても、意に
反して手は先っぽを突付いてしまう。
「へ、ヘンだよぉ……」
痛い――はずなのに、憑かれたようにそこを触ってしまう。指先で擦ってみたり、押してみたり
していると、ぐぐっと力を帯び、あっという間にひょっこり首をもたげてしまった。
 おねえちゃんが触ってた時と一緒だ。あの時はどうされたっけ?確か、こう握って……。
「んうっ」
全身を握り締めると、びりびりと焼けるような鋭痛が駆け巡るが、
 こ、こんな感じだったっけ。
思い出される快感。無性にそこを弄り倒したくなった。
「こ……こう……っ」
梨紗おねえちゃんにされた事を思い出し、できる限り同じように弄くってみる。出っ張っている
ところから下をぎゅっと締めつけ、ぎこちない手つきで前後に擦り上げると、どんどん熱くなっ
ていく。一体そこがどうなっているのか気になった大地は、湯面から一生懸命弄るものをのぞ
かせ、食い入るように凝視しながら天井に向かって屹立させて上下に擦り続けた。
「ぁ……ぅうっ、また……なんかぁ……ッ」
自分自身を見つめているうちに気分は不思議なくらい昂ぶり、湯面をちゃぷちゃぷと波打たせ
ながら弄っていた幼い肉棒は限界を迎えてとうとう――。
267大地のどきどきお泊り:04/01/30 00:54 ID:IYcRnPjL
「大地くん、お背中流してあげるねっっ!」
豊かな胸に茂ったヘアを惜しげもなく披露する素っ裸の梨紗おねえちゃんが浴場に乱入して
くるのと、大地が先っぽから白い粘液を放出するのは、同時だった。
「――――あっ!」
大地が気付いた時には、全てが遅かった。目を丸くして大地と、そして手で握り締めている
ものを交互に見比べる梨紗おねえちゃん。
「ご、ごごご、ごめんなさいっっ!!」
謝る必要があったのかは分からないが、体に付着する白いものを拭い捨てて梨紗おねえちゃん
に背を向けて浴槽の隅っこに逃げた。決定的に恥ずかしい姿を見られてしまった大地は、ただ
ただ固まっていた。
どれだけの間そうしていたか。先に動いたのは梨紗おねえちゃんだった。張っているお湯がわず
かに揺れ、ちゃぷんと音も立った。見てはいないが、梨紗おねえちゃんがお風呂の中に入って
きたんだ、と直感した。徐々に揺らめきは大きくなり、音も近づき、そして、
「んもぉ! 大地くんってば元気なんだからぁっ!」
意表を突かれる嬉しそうな声がしたかと思うと、背後から腕が回され、しょんぼりと小さくなった
大地のあそこにその手がするすると伸ばされた。
「! ――り、梨紗おねえちゃん!?」
思いもしない攻撃に大地は狼狽えるが、止まることなく絡んでくる梨紗の手先のテクニックに
言葉が出せなくなる。
時に優しく時に強く、柔らかな手つきで包み込まれ、自分で触る以上のどきどきが大地を襲った。
268大地のどきどきお泊り:04/01/30 00:54 ID:IYcRnPjL
「大地くんの小さいね……。ちょっと立ってみて」
梨紗おねえちゃんに股間をもみもみされたまま立たされ、座ってと言われたとおりに浴槽
の縁に腰を下ろした。
「ふふ。こうやって見ると可愛いよ」
梨紗おねえちゃんの顔が股間に近づき、いよいよその吐息が感じられるほどまで接近した。
甘い吐息を漏らしてうっとりと見つめ、見つめられ、顔から火が噴き出しそうになる。
自然と腰が引きそうになるが、まるで逃さないと言わんばかりに梨紗の両腕が腰に背中に
回され、逃げる事も叶わずじぃっと間近で見られっぱなしになる。
「お、おねえちゃんん……」
眼下で恍惚の表情を浮かべる梨紗おねえちゃんに、大地は大人の女性の魅力を感じた。
もちろん大地自身はまだ理解できないことではあるが。
「あは。ぴくぴくしだしたよ。分かる?」
すぐ近くにいる女性に対し、無意識に本能が反応した。再び首をもたげようと震える大地を、
梨紗おねえちゃんは愉しそうに観察していたが、すぐに彼女もショタ心に火が着いた。
「よし、おねえちゃんが手伝ってあげよう!」
「はぅッ!――」
手ではなく、口が出された。まだ未成熟の肉棒を根元まですっぽりと咥え込むと、いきなりの
強烈な刺激に耐えかねた大地が大きく背を仰け反らせてバランスを崩そうとするが、梨紗お
ねえちゃんが腕をしっかりと回していたおかげで倒れることなく身悶えた。
「おね、おねえちゃんッッ!:
初めての経験に股を閉じて堪えようとするが、梨紗おねえちゃんの顔が閉じることを許さずに
どんどん吸い付き、大地の体に顔が埋もれるほど密着し、しゃぶりついた。
269大地のどきどきお泊り:04/01/30 00:56 ID:IYcRnPjL
「だ、ダメっ、すごッ……いっ!」
梨紗おねえちゃんの口内では、ぬめった舌が様々な方向から大地を攻め立て、一気に大きく
なっていった。口いっぱい、というわけにはいかないが、それでも大地が大きく勃って興奮した
ことに、梨紗おねえちゃんは胸いっぱいだった。
「っはぅ、だ、めぇぇ……」
唇で根元をぎゅっと締めつけて舌だけで苛めていた梨紗おねえちゃんは、さっき出していた
大地がまた限界を迎えそうだと感じると、
「あ……?」
イく寸前にあっさりと口を離した。不意に股間が寂しくなったことに切なげな表情の大地に、
梨紗おねえちゃんは子どものように悪戯っぽい笑みを浮かべて訊ねた。
「大地くん、イきたい?」
ここまでされ、すでに感覚が麻痺状態だった大地は従順に頷いた。
「おねえちゃんのお口に出したい?」
濡れる唇が艶かしく動き言葉を紡ぐ。懇願するような視線を送って頷くしかなかった。
「いい子ね。おねえちゃん、大好きだよ」
唇が先端にちゅっと触れ、そのままずるっと亀頭を含み、きつく締めた口が滑るように根元まで
進み、そして焦らすようにゆっくりと戻り、雁の辺りまで来てまた根元まで咥えていく。
「あ……あッ、はぁぁッ!」
少しずつ梨紗おねえちゃんの動きは早くなり、大胆に髪を振り乱して一心不乱に大地の男性に
喰らい付いていた。
「おね、ちゃん……僕、も、もう……――ッ!!」
梨紗おねえちゃんが頭を振り続ける中、大地は彼女に向けて純粋な想いを放ち出した。大きな
律動が徐々に収まり、ようやくその動きが止まってから、すっかり萎え果てたものが梨紗おねえ
ちゃんの口から滑り抜けた。
「いっぱい……出しちゃったね」
口の端から垂れ流れる大地の想いの名残りを拭おうともせずに微笑みかける彼女に、大地の
股間はまた興奮を覚えた。
「じゃあ今度こそ荒いっこしよう。おねえちゃんの体もきれいにしてね」
「あ、う、うん! 一生懸命洗うから!」
かくして大地と梨紗おねえちゃんの入浴タイムは、第二回戦へと突入していくのであった。
270125:04/01/30 00:56 ID:IYcRnPjL
ここまででつ。
271名無しさん@ピンキー:04/01/30 16:27 ID:5jDrMY3J
なにげに合間合間のこのシリーズ、楽しみ。
272名無しさん@ピンキー:04/01/30 19:04 ID:9/iUxqCf
>>271
禿同。
273名無しさん@ピンキー:04/01/31 17:07 ID:upZasckY
age
274125:04/02/02 23:40 ID:6tha/Cw5
>>260
 さっきからずっと、何もできない僕の股間から張り裂けそうに膨張しているものを強く
握り締め、フリーデルトさんの五本の指が上下に運動している。痛いほど擦られ、すぐ
にでも噴射しそうだけど、
「んん…………ん……?」
 彼女は僕のを弄りだした時から難しい顔をしていた。快感で身体は蕩けてしまいそうだ
けど、頭は自分でも驚くほど冷静に働いている。
「……あの」
「えぁ……ッ! な、何か?」
 声をかけただけで狼狽し、苦笑いともつかない微妙な引きつりを口元に浮かべている。
こんなに彼女の顔の造形が崩れたのを見るのは初めてだ。
「フリーデルトさん……って、もしかして」
「ダメよダメダメ! それ以上言わないで!!」
 えっちの経験がないんじゃと続けるはずが、彼女が機先を制したせいでできなかった。
思えば彼女の手つきはたどたどしく、とても慣れたものとは思えない。任せてと言うから
にはてっきり経験豊富で、僕の知らない珍妙な舌技でも飛び出すのではとそこはかとなく
期待していたけど、指の力の入れ具合も動かし方も、明らかに素人さん程度のものだった。
「そんな無理にしなくても……」
「気持ちよくないって言うの!?」
 図星。彼女がするより、僕がする方がお互いいい気持ちになれるに違いない。
「んもう! こんな時は嘘でも気持ちいいって言ってたらいいの!」
「あぅ、イタイイタイ」
 触れてはいけない琴線に触れたせいか、僕を握る手に力がぎゅうぎゅうと込められ、強引
にぎっちぎっちと擦られた。
275125:04/02/02 23:40 ID:6tha/Cw5
「っだ、大体どうしてこんなことしようとしてるの!?」
「そこから説明しなきゃダメ?」
「ダメ」
 ちょっと強めに言い切ると、フリーデルトさんは息を吐き、重大なことを教えられた。
このままでは、この世界で僕の生命が尽きてしまうことを。
「大助を巻き込んでしまったの私達の責任だから、だから少しでもあなたの助けになりたいの」
 彼女の純真な想いに心を打たれた気がしたけど、
「……で、これがその……助け、なの?」
 ファスナーからぺろんとさらけ出されている萎えきったものを指して訊ねた。
「そうよ。性力を注ぎ込んで少しでも大助の助けになりたいの。……それに、大助が助からな
かったら、この世界は終わってしまうし」
 そういうわけだから。手を叩いて明るく続けてきた。
「さ、まずはさっきの続きよ。大助、そこに寝なさい」
 早く早くと急かされ、押し返すこともできずに流されるまま横になった。いまいち押しの弱い
性格を恨む瞬間である。
 草の上に転がると、足元で――つまりフリーデルトさんがいる方から微かな衣擦れの音が
してきた。
(服を……脱いでる?)
 足元を窺おうとすると、突然視界が闇に覆われた。
「うわっ! な、な……」
 何が起きたか分からずに両手を振り回していたら、手にむにむにしたものが当たった。
「きゃ、ちょっと大助! どこ触ってるの!」
「え、え? ど、どこ?」
「ゃんッ――。もう、そっちがその気ならこっちだって……」
「はぅんっ!」
 大事なところがむんずと挟まれた。…………この感触は、フリーデルトさんの指だ。
276125:04/02/02 23:42 ID:6tha/Cw5
「それじゃ続きを始めましょ。今度は私の方もよろしくね」
 宣言とともに、僕の鼻はむしむしと熱く湿ったものを感じた。非常に柔らかな、心地よい
鼻触りだ。それに鼻をちくっと刺す刺激臭。情報をまとめると、僕とフリーデルトさんは互い
のあそこを見せ合う格好をしているんだと思う。暗いのは、彼女のスカートが被さっている
せいか。
「ん、……」
 先に仕掛けられたのは僕の方だった。全身をきつく握り締められ、先っぽだけが濡れた
ものに責められた。決して滑らかではないそれは、彼女の舌だろう。
 僕も顔を動かし、彼女の恥部があると思われるところに舌先を刺し出した。
「ん……くすぐったいわ」
 温かなところに触れたけど、ここは違う。濡れてないし、女性器特有の凹凸を感じられない
から、肌のどこかだと思う。
「! ッ……あぁ」
 そこを起点に円を描くように舌を這わすと、目指したところはすぐ見つかった。一段と熱と
湿り気を帯び、熱い匂いが鼻を焦がしてくる。大事なところを隠すものは感じられず、直に
彼女に触れている。僕は彼女にされたことをしてあげようと、舌で湿地帯を舐め回した。
「!――」
 すぐ上の彼女の身体が縮み上がり、その震えが握り締める僕自身にも伝わってきた。いい
感じの反応じゃないか。
「僕のもしっかり舐めてね」
 彼女の口がお留守にならないように念を押すと、
「わ、分かってるわ! 見てなさい」
 見えないんだけどね、と余裕を持って突っ込んだ直後、
「あふぅッ!」
 僕の分身は全身を熱気の中に放り込まれた。いきなり根元までやられてしまい呻き声を
上げてしまった。しっかりと締めているのか、なかなかきつい感触がずっずっと上下に動い
ていく。見えない分、いつも以上に興奮してしまってる。
277125:04/02/02 23:42 ID:6tha/Cw5
 攻められて感情が昂ぶり、僕はすぐそこにあるはずのフリーデルトさんの秘貝に貪り
ついた。喘ぐ事さえ忘れ、ただただ懸命にお互いを責め合い続けた。
 舐めれば舐めるほど、突けば突くほど、フリーデルトさんの中から濃厚に熟れた露が
湧き出してくる。
 奉仕されているところを目にすることはできないため、想像でその姿を思い描く。フリー
デルトさんの桜色の唇が、ぎこちなく動く舌が絡み、拙いながらも頑張る彼女を妄想して
興奮した。
「うッ」
 フリーデルトさんのはしたない姿を思い浮かべ、不覚にも口内に含まれるものが反応
して少しだけ噴出してしまった。
「んぷッ…………ぷふぅ。……ふふ、どう?」
 フリーデルトさんがやけに自慢げな声をかけてくる。僕がほんの少しだけ達してしまっ
たのを、自分の奉仕のおかげだと思ってるに違いない。
「つっ、次はいよいよ本番よ!」
 顔を覆っていたものが退き、目に映った天空が痛くて反射的に眉根が寄る。口の周りを
手の甲で拭うと、思った以上にたっぷりと濡れていた。
「大助は寝たままよ」
 起き上がろうとしたわけでもないのにフリーデルトさんに両手を押さえつけられ、脇腹を
脚で挟まれ、気がつけば組み伏せられていた。
「私が上で頑張るわ。力を抜いてて」
 彼女がスカートの裾を捲り上げると、そこにはついさっきまで僕が一心に味わっていた
淫猥な口が、だらだら涎を流しているのが晒された。
「ここ……こうね。はむっ」
 慣れていないらしく、空に向かって起立する棒を片手で、まどろっこしい仕草で下の入り
口に触れさせた。手にしていた裾を口に咥え、目で、いくよと伝えてきた。
 フリーデルトさんに握られたものが非常にゆっくりと、その身を彼女の胎内に納めていく。
「うぅ……っく」
 焦らしているような遅さに、堪らず呻きを上げていた。身体が仰け反りそうになる、けど、
僕と彼女が繋がっていく様をしっかりと見届けたく、視線を動かさずに結合部を熱い眼差し
で見つめていた。
278125:04/02/02 23:43 ID:6tha/Cw5
 音もなく、ただ強烈な摩擦を与えて僕を呑み込んでいく。包み込まれるような錯覚は、
彼女に初めてキスをされた時と同じように、僕の頭を焦がしていく。
「ふぅっ、んふッ」
 間断なく与えられていた彼女の腰の動きが、ぱったり止まった。見ると、大きく怒張した
ものがあったところは彼女と隙間なく密着し、根元までしっかりと咥え込まれていた。
彼女と繋がった悦楽が胸をつめてくる。
 彼女の腰が浮き上がり、堕ちてくる。ぎこちない動きで振る腰はどんどん速く、激しく
勢いを増していく。二人を繋ぐ箇所から溢れる潤滑剤は白く泡立ち、淫らな音色が絡み
つきだした。
「ッんあぁ、はぅっ、ダメェ――!」
 感情が昂ぶったようで、フリーデルトさんが大きな嬌声を奏でた。すると、彼女が咥え
ていたスカートが重力に従ってふわりと舞い降り、二人が晒していた秘部が覆い隠された。
「大助ッ、大助ぇぇっ!」
「ふぅわっ!――」
 突然フリーデルトさんが身体を曲げて僕にぎゅっと抱きついてきた。声をあげたのはそれ
に驚いたのもあるけど、それよりなにより彼女が身体を曲げたせいで中に入っている僕の
が急激な挿入感の変化でひどい刺激を受けたからだ。
「あっ、あっ、あん、あッ」
 顔のすぐ横で漏れる吐息に合わせるように、彼女の腰が痙攣するような小気味良いリズム
で振るわれる。
 胎内の熱を感じながら、ようやく彼女に身を委ねることができた。されるがまま、精と意識
を吸い取られる錯覚を味わいながら、快楽の階段を確実に登りつめていた――。
279125:04/02/02 23:44 ID:6tha/Cw5
 ――ばっさばっさと黒い翼をはためかせ、幼女怪盗れむちゃんは颯爽とクライン教会に
現れた。人のいない教会は闇と静寂に包まれ不気味な様相を呈している。
「着きました着きましたぁっ」
「さっさと主が囚われているところへ行くぞ」
「あっちの方ですね」
『時の秒針』が発する魔力を頼りにして教会の外をぐるりと回ってみると、大きな窓が連な
っている場所、その一角が淡く蒼く、うっすらとした光に染められているのがすぐに見つか
った。
「あそこですね。間違いない、ですね」
「のようだな。よしウィズ、突っ込め」
「ウッキュ!」
「――――へ?」
 さっちゃんとウィズが何気なく交わした言葉を聞き流してしまうところだったが、レムちゃん
は気付いた。
「ちょちょちょちょッッ、待っ――」
 止めようと呼びかけるが、黒翼は急に止まれなかった。今の翼主の気持ちなど歯牙にも
かけずにさっちゃんの命令どおり、突っ込んだ。窓にむかって。
「絵だけはしっかり守れ」
 ぐんぐんと迫りくるガラスの板に衝突の危機を感じて顔が引きつるが、さっちゃんの言葉
が耳に届き、絵だけはしっかりと胸に抱いた。ここでご主人様を助ける術を失うわけには
いかない。
280125:04/02/02 23:44 ID:6tha/Cw5
 決意新たにレムちゃんは顔を上げた。
「死守ぅぅぅぅっきゃあぁぁぁぁぁッッッ!!」
 けたたましい音を立てて砕け散るガラス。レムちゃんの決意は、見事にガラスを打ち破った
……わけではなく、ただ単に上げた顔から窓に突っ込むという悲惨すぎる結果を招くだけだった。
「ふぎゅるッ」
 身体についた勢いは止まらず、そのまま数メートル、十メートル、それ以上の距離をレム
ちゃんの顔面が滑っていき、強烈な摩擦の力でようやくレムちゃんは止まった。
「……………………」
 物言わぬ屍と化したレムちゃんは本当に一言も発することなく、すっと自分の住処――
盾の中へ溶け込んでいった。
「ウィズ、後はお前に任せる。早く主を助け出すのだ」
 労いの言葉や安否を尋ねることなくさっちゃんとウィズは淡々と大助を助ける手筈を進めた。
ウィズが大助へと姿を変え、レムちゃんが残していった大助の絵と『時の楔』を手にすると
『時の秒針』がかかっている、大助を取り込んでいる氷柱へ歩み寄った。
「……!」
 変化はすぐに顕現した。ウィズが手にしていた二つのものが『時の秒針』が放つ微弱な魔力
に呼応するように蒼く光を帯び――。

281125:04/02/02 23:45 ID:6tha/Cw5


「――…………うぅ……ん?」
 頭が、ぼけっと鈍っている。それが分かった時にはもう目が覚めていた。寝覚めはいい
みたいで、意識が飛んでしまう直前のことをはっきりと思い出せる。
「……あ、フリーデルトさんは……」
 僕の上で悶えに悶えていた彼女の姿がないことに気付いて身体を起こした。曝け出して
いたはずのあそこは中に収められている。彼女がしてくれたんだろうかと考えると、ちょっと
顔が熱くなった。
 芽生えた気恥ずかしさを振り払うように頭を辺りに巡らすと、フリーデルトさんはすぐに
見つかった。僕の横、手で届くほど近くで横になっていた。顔は僕の逆を向いていて寝て
いるのか起きてるのか判断できず、手を肩にかけて少し揺すって、
「――ッ!」
 揺すってみようとして伸ばした手を一瞬で引き戻した。冷たい……なんてものじゃない、
痛い。雪原の世界で体験して以来の凍気に僕の身体は芯まで冷えそうになったけど、今
は自分の心配どころじゃない。
「フリーデルトさん!!」
 彼女の身体を抱え、腕がぎんぎん冷気に侵されるのにも構わずにフリーデルトさんに呼び
かけ続けた。そして気が付いた。凍りつくほど冷たい身体は、その足元から喩えではなく本当
に凍りついていることに。
 その時、視界に影が差した。起きていることにどう対処していいか分からず、ただ彼女の身体
を抱いているだけの僕の前に忽然と人が姿を見せた。
「…………」
 驚くことを忘れ、何も言わずに瞳に愁いを浮かべてこちらを見つめる少女を見返した。
限りなく白に近い肌に髪。すでに春の陽気が舞うこの世界に、彼女だけが冬から取り残された
ようだった。
 ……どこで会ったのか知らない、それとも覚えてないのか、見ず知らずの少女のはずなのに、
僕はその子を知っている――?
282125:04/02/02 23:46 ID:6tha/Cw5
「……時の、秒針……?」
 呟いた名前に、彼女は首を横に振った。違っていたのか、けどそんなことよりも早く
フリーデルトさんを助けなるのが先だ。その子に助けを求めようと口を開きかけた時、
どうして首を横に振ったのか、その意味を知ることになった。
「フリーデルトは、もう――」


 助からないわ……。


「…………そ」
 消え入りそうに小さな声で、震えるだけの小さな唇の動きで、はっきりと告げられた。
「そんなっ――」
 冷たい口調の少女に勢い任せで噛みつくところだったけど、その哀しげな表情が僕を
思いとどまらせた。
「大助……」
 不意に下から声がした。フリーデルトさんがうっすらと開けた瞳で僕を捉え、弱々しく
震える細い腕を空に浮かべた。
「しっかりして!」
 その手をしっかりと握り締めると、身体よりもはっきりと彼女の凍て付く痛みを感じた。
283125:04/02/02 23:46 ID:6tha/Cw5
「…………ありがとう」
「! ダメだよ諦めちゃ! フリーデルトさんっ!」
 見る間に虚ろになっていく彼女の瞳に、突然沸き起こった不安が胸を掻きむしっていく。
「……いい人ね」
「待って! 僕、まだ何もしてない、絵を描いてないよ!!」
 助けるはずじゃないのか?彼女を、彼女たちを、この世界の寿命を助けるはずじゃ?
「あなたは……大切な人、を……手放さないで」
 フリーデルトさんとエリオットが再会する助けになるはずじゃなかったのか?
「ダメだっ! ダメだダメだ! こんなのッッ」
「泣かないで。ね?」
 泣いている?どうして?――彼女が逝ってしまうから?…………僕は、諦めてるのか?
「違う……。ダメだ、やっぱりダメだよこんな別れ方ッ!!」
 何が違っているのかはっきり分からない。だけど……今は否定したい!フリーデルトさん
とこんな別れ方、絶対間違ってる!
「本当は大助と、もう少しいっしょに……」
「一緒だよ、一緒にいるから! だから、だから」
 彼女が最後に見せた笑顔は、僕の眼にしっかりと焼き付いた。それは穏やかで、優しくて、
温かくて……、僕の心を鷲掴みにするには、十分すぎた。
「フリーデルトさ――」
284125:04/02/02 23:47 ID:6tha/Cw5


 ――三人は眼前で起こっている超常的な現象に目を奪われていた。もっとも、彼女らの存在
自体が十分に人知を超えているのだが……。強烈な閃光が雷のようにこの一角を照らしていく。
「うわっ!」
 現場の一番近くにいたウィズが一際強い光量に驚き、転がるようにして剣と盾の側まで後退した。
「どうなってるのですかさっちゃん!?」
「とても不思議なことが起こっているのだ」
 見たまんまの感想を述べられ、それでも感嘆の声で唸るレムちゃんだった。
 今、氷柱――いや『時の秒針』の前に一枚の絵と一振りの剣が妖しげな光を放ちながら浮いて
いる。昨日よりも格段に強い反応を示しており、三人の大助救出への期待は否応なしに高まって
いた。
「強烈だな。この魔力の大きさは……」
「ぐるぐる一帯に渦巻いてるですよ」
「うぅ……、ちょっと怖いかも」
『時の楔』を中心に螺旋を描く魔力の流れに気勢を殺がれたウィズは元の姿に戻りレムちゃんの
後ろへと逃げ込んだ。
285125:04/02/02 23:48 ID:6tha/Cw5
「むぅ、そろそろか」
 三人の中で最も経験豊富で魔力の強いさっちゃんがいち早く何かを察した。直後に、今までの
比ではない猛烈な力の波が一角を、どころではなくクライン教会全体を震撼させた。
「くうっ!」
「はわぁぁぁっっ!」
「キュウゥっ……グキョ」
 剣と盾と生き物は魔力の流れによって生じた衝撃波に吹き飛ばされ――盾にしがみついてい
たウィズは見事に壁にぶつかり悲惨にも盾に押し潰された――近くの窓ガラスは全て粉微塵の
粒子と化した。
「――っ痛ぅぅ。むぅぁったく、もっと丁寧に……?」
 壁にめり込むほどの勢いで衝突した剣はぼやき、そして目にした光景に続く言葉を呑み込んだ。
『時の秒針』『時の楔』そして大助の雪原の絵を包む空間はさっきの爆発じみた衝撃波のせいか、
塵一つない清楚な空気が漂っている。『時の秒針』と『時の楔』は緑のような青のような、淡く美しい
光を放っており、二つの光源の間に大助の絵がたゆたい、それぞれの美術品が伸ばす一筋の光
を繋いでいた。
「主の絵が……繋いでいるのか?」
 二つの魔力が大助の絵を介して融合していくのをさっちゃんは感じた。やがて二つが一つになり
終えようかという時、『時の楔』の切っ先が大助の絵に向いた。さっちゃんが見ている前で剣は絵を
貫き、後ろに控えている『時の秒針』にも刃を突き立て、そして――。
286125:04/02/02 23:49 ID:6tha/Cw5

 最後に覚えているのは、世界が闇へ還る光景。世界が割れる甲高い音。何もかもが捨て
去られていくこの世界の終焉の中で、フリーデルトさんの身体から伝わった冷気だけが腕
の中に残った。それは僕が……いや彼女がそこに存在したという、たった一つの証だった。


 ……それから数日の時が流れ、僕はようやく目を覚ましたらしい。初めに視界に入ったの
は母さんの顔だった。目も赤く疲れの色が見て取れたけど、それでも喜んで笑って、泣いて
いた。その後、父さんもじいちゃんもトワちゃんも次々と部屋を訪れてきた。久しぶりに会え
たことに、現実の世界に帰ってきたという安堵が生まれた。
 母さんから聞いた話では、クライン教会の一部は損壊し、現在は復旧の工事が行われて
いるそうだ。工事が始まった時には、すでに『時の秒針』や『時の楔』は欠片も残っていなかっ
たという話だ。
「…………」
 家に運ばれた時には全身が氷のように冷たくて危ない状態だったらしいけど、どうにかこう
にか生きている。
「…………」
 それでも、僕は素直に喜べなかった。ベッドから起き上がれるまでに回復し、今こうやって
屋根の上に独りでうずくまっている。身を刺す風は、僕の心まで届いていない。
 結局、僕は何もできなかった。フリーデルトさん、彼女がどれくらい僕に期待していたかは
分からないけど、それに少しでも答えることもできず、それどころか彼女にあの世界で生命
の危機を救ってもらっている。
(それなのに、僕は……!)
 悔しさが胸を締めつけ、破裂しそうな息苦しさに苛まれてしまう。フリーデルトさん、それに
『時の秒針』さんもだ。助けを求めてくれた人を助けられないなんて、役立たずもいいところだ。
――情けない。
287125:04/02/02 23:49 ID:6tha/Cw5
「ここにいたか」
 声とともに物音がして顔を上げると幼女が一人、後ろからさらにもう一人現れた。
「かぜ引いちゃいますよぉ?」
 二人を見やって、また膝に顔を埋めた。溜め息が二つ聞こえ、それからしばらくは全くの
静寂が訪れた。
「…………まだ気にやんどるのか?」
 しばしの沈黙を破って聞こえた声はすぐ近くからしていた。
「かいつまんだ説明しかされとらんが、」
 フリーデルトさんの世界で何があったか、全てじゃないけどみんなには話した。特にいつも
傍にいるさっちゃんレムちゃんには幾らか詳しく話したけど、話すたびに刻まれた傷が痛み、
やはり全て話していなかった。
「ふりーでるととえりおっとは、あの二人は少なくとも救われたはずだ」
 慰めているのか、さっちゃんはそんなことを口にした。もっとも僕には信じられず、顔を上げ
もせずに自分を責めていた。
「…………主は取り込まれておったから知らんかもしれんが」
 取り合おうとしない僕にめげずにさっちゃんは言葉を続けた。
「『時のびょうしん』と『時のくさび』は主の絵をかいしてしっかりと溶け合ったぞ」
 さっちゃんが言わんとしていることが漠然と分かった。けど、僕の心は未だ堕ちたまま晴れる
ことはない。
「さいごのさいごに二人は一つになった。それだけでも救ったことになるのではないか?」
「……僕には…………分からないよ」
 それはフリーデルトさんが望んだことではないんじゃないか。望まれたことじゃないんじゃ
ないか。


 ――あなたは……大切な人を手放さないで


 それは違うよ。あの時の僕にとって、君も大切な人だったんだ。だから君がいなくなったら、
その言葉に意味はないんだ。
288125:04/02/02 23:50 ID:6tha/Cw5
「あ! 見てください見てくださいっっ!」
 少し離れたところからレムちゃんがはしゃぎ声をあげ、横ではさっちゃんが感嘆の溜め息
を漏らすのが聞こえた。
「主、少し顔をあげてみらんか」
 僕にかける声は強制も何もない、ただ単に誘っているだけ。さっちゃんの柔らかな言い方
に何とはなしに誘われるまま顔を空に向けた。
「……雪」
 ふわふわと回るように空から降りてくるのは、穢れない純白の結晶だった。……思えば
この出来事、初めからずっと雪が関わっていたことに縁を感じる。
「きっとごしゅじんさまの回復をよろこんでるんですよっ」
「なるほど。ふりーでるとのさいごのまほう、か」
 フリーデルトさん、どうして彼女は最後に微笑んでいたんだろう。僕を一生懸命に助けて
くれたんだろう。


 ――大助はここで死んでしまったらダメ


 僕に生きて欲しいと、そう思ったから、彼女にそう思われたから、僕はこうしていられる。
「…………生きて」
「ん?」
「僕、生きて、……いいのかな?」
「主……泣いて……?」
 押し込めていたものが噴き出し、嗚咽でうまく喋れない。涙を拭っても次々に流れて追い
つかない。
「あわわ! ごしゅじんさま、はんかちありますですよっ!」
 行き場を失って溢れた感情を彼女たちにだけ見せ、僕は泣き続けた。雪がしんしんと降り
始めた、十二月も半ばの頃だった。



次回 パラレルANGEL STAGE-15 学園祭の日に・・・
289125:04/02/02 23:52 ID:6tha/Cw5
ここまでっす。
290名無しさん@ピンキー:04/02/03 01:00 ID:hcrnDywi
お疲れ様〜
291名無しさん@ピンキー:04/02/03 01:04 ID:/fw4zPx9
最後の部分の会話が幼女っぽくてベネ!!

ついに、学園祭がきてしまうのですね(ドキドキ)

次回もキタ―――(・∀・)―――イ!!
292名無しさん@ピンキー:04/02/03 01:15 ID:mPh7dFrs
乙です。
シリアスでしたねえ。
次の学園祭編では明るい話になるのかな
293125:04/02/05 01:24 ID:i3CK4yT4
 ――十二月二十日。中身はほとんど空の鞄と油絵を小脇に抱え、いつもより早い時間に
家を飛び出した。学校へ向かう道中には同じ学校の制服を着た人の姿がぱらぱらとあった。
最後の準備をするつもりなんだと思う。考えることはみんな一緒みたいだ。
 今日は待ちに待った学園祭の日。練習に費やした日々の集大成ということで、気合の入り
まくった監督の沢村さんの一声で二年B組も呼び出された。

 ――絶っっっ対に一位を獲るわよ!

 とは沢村さんの言。クラスの出し物の中で、劇は審査員によって順位をつけられることに
なっている。沢村さんはどういうわけか異常に燃え上がり、他のクラスへの対抗心むき出し
で一位を狙うと宣言していた。おかげで僕も早朝から学校へ行くことになったわけだ。
 他のクラスメイトはどう思ってるか知らないけど、僕にとってはすごくありがたい事だった。
この劇、『アイス・アンド・スノウ』だけは全力で打ち込みたかった。それがフリーデルトさんや
時の秒針、エリオットへの償いになるわけじゃないと思う。けど、
(僕には、これくらいしかできないから……)
294125:04/02/05 01:25 ID:i3CK4yT4


 上履きに履き替えて教室へ行く時、すでに幾つかのクラスは出し物の看板を教室の入り口
に張り出していた。お化け屋敷にリサイクルショップ、街の歴史展示場に漫画喫茶とメイド喫茶、
コスプレブースに同人誌即売会場……?
「……なんか」
 見てはいけないものを見てしまった気がする。関わるのは怖いので、逃げるようにその場を
通り過ぎた。
(先生たちもよく許可出したなぁ)
 そんなところで感心してしまった。
「ん?」
 廊下の掲示板には劇を行うクラスの、客寄せのためのポスターがずらりと掲示されている。
結構な数だ。今年は劇が人気の出し物だったのかもしれない。
「うぅ、でもなぁ……」
 あまりポスターの列を見たくなかった。なぜならその中には、あれがあるはずだからだ。
数日前に撮影された僕の写真がでかでかと載った、二年B組のポスターが。
 見ないように努めていたはずなのに、それは視界の隅にちらっと映り、見たくない見たくない
と思いつつも視線はそちらに、引き寄せられてしまうように動いてしまった。
 そこには僕が、話題性を集めるという名目のためにあんな格好をしてしまった僕が載るポス
ターがあった。
295125:04/02/05 01:26 ID:i3CK4yT4
 ――今から数日前。
「っっんぼ、ぼ、ぼぼ、僕ががじょじょじょ女装ぅぅっっっ!!?」
「おう」
 美術室に呼び出された僕に冴原が告げた言葉に、完全に気が動転した。
「んな、ななな、なななんでぇぇっっ!!」
「何でって、この前説明した時は二つ返事で承諾したじゃねえか?」
「この前って……――!」
 覚えがない。なぜならその数日前、僕は意識不明でずっとベッドに寝ていたからだ。冴原が
何を言っているのか全然理解できなかったけど、そこではたと気付いた。
 僕が『時の秒針』に連れて行かれていた間、学校にはウィズが変わりに出席していた。もし
かしたらウィズが勝手に冴原の悪巧みに頷いてしまい、僕に伝えることもせずにとばっちりを
受けてしまっているのかもしれない。というか、間違いない。
「ほら、客の興味引くにゃあそれなりの話題が必要だからお前の女装した姿でポスター作るって
説明したじゃねえか。お前、へらへら嬉しそうに笑って頷いたろ」
「う、嬉しくなんてっ――!!」
「大助」
 抗議の声をあげる僕に、冴原がいきなり不似合いな真剣な声で語りかけた。
「お前、劇が失敗してもいいのか?」
「え……」
「みんなで一生懸命頑張って積み上げてきた努力の日々を、お前のわがまま一つで崩しちまっ
ていいのか?」
「あの……」
「お前だって成功させたいだろ? 『アイス・アンド・スノウ』、フリーデルトとエリオットの恋物語を」
「!!」
 電撃に打たれたような衝撃。そうだ、僕は、僕はこの劇を成功させなきゃいけない。この前、雪
が降りしきる中で誓ったんだ。
「――分かった。分かったよ冴原、お前の気持ち!」
「分かってくれたか、友よ!」
 硬く手を握り締め合い、僕と冴原は互いの決意を称えあった。
296125:04/02/05 01:27 ID:i3CK4yT4
 その日の練習が終わってから、美術準備室で福田さんと石井さんに手伝ってもらい、
僕は女装――とは言いたくない。劇に出るフリーデルトさんの衣装と、それにメイクもして
もらった。茶色がかったかつらが少しむず痒く感じる。
「…………」
「…………」
「あの、どうかした?」
 惚けたように僕の顔を眺める二人に尋ねたけど返事はなく、いつまでも見られていそうな
雰囲気だった。
「………………可愛い」
「………………惚れそう」
「えぇっ!?」
 突然の告白にまたまた気が動転、頭がパニックになってしまった。
「か、鏡で見てみて!」
「押し倒したいかもぉっ!」
「いい、どっちもいいよ! ぼ、僕、冴原のところに行ってくる!」
 ずいずいと迫りくる二人の脇を鮮やかにすり抜け、美術室へ続く扉に手をかけた。
「冴原くんに押し倒されないようにねぇ」
 最後に石井さんがかけてきた言葉に背筋が総毛立つのを感じながら、急いで準備室を後
にした。
297125:04/02/05 01:29 ID:i3CK4yT4
「遅えぞ大助!」
「ごめんごめん。ちょっといろいろあって……」
 美術室に入るなり冴原が怒気を孕んだ声で僕を責めるように怒鳴りつけた。
「いろいろってなあ、オレだって貴重な時間……割い……て…………」
 冴原と目と目が合い、そしたら何故かその顔から怒りの色が見る見るうちに引いていき、
代わりにさっきまで二人の女子が浮かべていたのと同じものが浮かんできた。
「…………さ、冴原?」
 石井さんにかけられた言葉が恐ろしいくらい頭に反響する。本能が警鐘を鳴らしている、
そんなな感覚に襲われた。
「はっ!? あ、ああ……」
 その目にようやく正気が戻り、慌てたように愛用のカメラを構えた。
「そ、それじゃまずは立ち姿から撮ってみっか」
「う……うん」
 心なしか冴原の声が裏返っている気がし、不安は拭えぬままポスターのための写真撮影
に取りかかった。真っ直ぐ突っ立っているところを冴原がカメラに収めていく。
「なんかポーズとってみろよ」
「ポーズ?」
「こう……なんてえかな、女っぽいやつ頼む。色気たっぷりの」
「い、色気……?」
「照れるなよ! 被写体の心の迷いはカメラを通して伝わるんだ! お前は今、フリーデルトだ! 
らしくしろよなっっ!」
 頭をがつんと殴られたような衝撃。忘れるところだった、僕はこの劇に全力を注いで、ちゃんと
成功させるんだった!
「そ、そうか。そうだね! 僕――いや『私』はフリーデルト!!」
「おおっっ! その通りだ!!」
 私は今だけでもフリーデルトさんになりきることを決心し、彼女の立ち居振る舞いを記憶の中
から掻き集めた。
298125:04/02/05 01:30 ID:i3CK4yT4
「こんなポーズはどうかな!?」
 大胆な格好。詳細は割愛。
「お、おお! いいぞ大助!!」
「こんなのも需要ある!?」
「あるある! ありまくりだぁっっ!!」
 過激な姿。詳細は割愛。
「上目遣い、上目遣いで頼む!」
「こう……?」
「っっっっくぅぅぅ!! さすが大助、打てば響くように返してくれるぜぇっっ!」
「ああ。素晴らしいぞ丹羽」
「日渡くんっっ!?」
「のわっ!! なんでてめえがここにいんだよっっ!!」
「気にするな。それより丹羽……いやフリーデルト、少し憂いに満ちた瞳で頼む」
「お、それいいな」
「えぇ……っと、こんな感じ?」
「やばいそれまじでやばい」
「ブラボーだ。なら次は鎖骨を、肩をちらっと出すんだ。できれば肩ひもは軽く乱れたように」
「肩ひもって……ぶ、ブラジャーなんてしてな」
「それはいかん! 今すぐ用意する」
「……それは本気で」
「無論だ」
「とりあえずまず脱げ! 脱ぐんだ大助!」
「ぬ、ヌードォ!? それはいろいろまずい」
「考えるな、感じるんだ!!」
「ちょっと待っ」
「安心しろ。フィルムはまだ大量にある」
「そういう問題じゃな」
「いやなのか!? それじゃお前ポスター無しで客呼んでみろよ!」
「うぅぅ……」
「ヌ・ー・ド、ヌ・ー・ド」
「ヌ・ー・ド、ヌ・ー・ド」
「うわぁぁぁぁぁぁっっっっ――」
299125:04/02/05 01:31 ID:i3CK4yT4
「――あ、目眩いが……」
 結局ヌードコールに応じてしまって……。片隅に追いやっていた数日前の悪夢がまざまざと
蘇ってきた。頭を振って早急にに頭から追い出す。けど半ば乗せられてやったことと
はいえ、
「よくあんな恥ずかしいことしちゃったよな……」
 我ながら嫌なところで感心してしまう。ポスターに載る僕の姿は、自分で見ても艶かしく、
「いやいやいや」
 また頭を振る。今度こそポスターを目にしないようにかなりの注意を払いながら教室へ向かった。
300125:04/02/05 01:33 ID:i3CK4yT4
投下完了。
ここまでで三分の一くらい?になると思います。
301名無しさん@ピンキー:04/02/05 03:30 ID:k9PWf4/3
矢つぎばやにっ!
そして女装っ!
最近(特に去年当たり)女装するキャラが目に付くけれど、やはり大助は抜きん出て(以下略)
302名無しさん@ピンキー:04/02/05 18:51 ID:ArktzR9I
ヌ・ー・ド!ってのはやはりD・V・D!なのかしら…
303名無しさん@ピンキー:04/02/05 23:50 ID:CYME3OLO
D・V・D!ネタだなw
304名無しさん@ピンキー:04/02/07 14:48 ID:E4jxe1i3
おもろー!
305125:04/02/09 00:03 ID:wfKiSqv/
>>299
「おはよ」
 教室に入ると、すでにいた何人かのクラスメイトが挨拶を返してくれた。
「おはよ。今日は頑張ろうね!」
 駆け寄ってきたのは監督の沢村さんだった。並々ならぬ入れ込みようが言葉にも滲んで
いる。
「あたし達の出番が十一時だから、後大体三時間くらい暇があるの。それまでに大まかな
流れと、細かいところの最後の確認するからね」
「うん、分かったよ」
「衣装には本番前に着替えてもらうから。衣装は美術室で係の子が最終チェックと保管し
てるからそこで着替えてねそれから女の子が着替えるところ覗いちゃダメだからついでに
言っておくけどアーでも後でいっかそれじゃ今いる人だけで先にできることやっとこう!」
 早口で捲くし立てる沢村さんに圧倒されてしまうけど、僕だってこの劇に賭ける意気込み
は負けてない。鞄から擦り切れるほど使い込まれた台本を取り出して荷物を机の上に置く
と、他の出演者と一緒になって台詞回しや動きの確認に勤しんだ。
「あれ? 原田さんはまだ来てないの?」
 開始してすぐ、僕は主演の一人が未だ教室に姿を現していないことに気付いた。確認を
し合っていた人に訊いても首を傾げるだけで知らないらしい。
「沢村さんは知らないかな?」
 今度は監督に訊ねたけど、その表情は晴れていなかった。
「自宅にも携帯にも電話してみたけど全然連絡取れないの」
「梨紅さんは? 梨紅さんなら知ってるかも」
「ダメ。姉妹揃って来てないの。梨紅にも連絡つかないし……」
 これはかなりまずい状況かもしれない。理由はどうあれ主役が欠席となると、その穴は
とても大きい。
「けど丹羽くん達は気にしないで。あたしらの方で何とかするから、そっちはそっちで頑張っ
といて」
「うん……」
 確かに沢村さんの言うとおり、今僕達がしなくちゃいけないのは原田さんの心配じゃない。
ここは監督を信じて、僕はできることをしっかりしよう。
306125:04/02/09 00:04 ID:wfKiSqv/
 ――午前十時半。本番開始予定時間の三十分前となった。まだ練習し足りないという不
安はあったけど、遅れると監督が怖いので僕達はきっちりと切り上げて美術室に足を運んだ。
そのついでに家で描き上げた一枚の油絵を持って行くことにした。美術部員として本当な
ら雪原の絵を出展するはずだったけど、あの絵はこの前、『時の秒針』と『時の楔』と
ともにどこかに消え去ってしまった。その代わりとして先生に無理を言ってこの絵を
出すことを許可してもらった。人に見られるのはちょっと恥ずかしいけど、こうするの
がいいと思う。
 美術室に向かう出演者の集団、その中に原田さんの姿はなかった。

「おっそいわねぇ」
 美術室に入るなり監督の苛立った声を浴びせられ、僕達は震え上がった。
『もうしわけございませんでした』
 まずは土下座して謝ってみる。美術室に入った僕達だけでなく、すでに室内にいた人
も全員で。もちろん額は床にべったり。
「え? あ、あららヤダってば! みんなに言ったわけじゃないから誤解しないで」
 諸手を振って否定する監督様に、全員恐る恐る面を上げて彼女の顔をうかがってみる。
『……………………ほっ』
 一斉に安堵する。どうやら本当に怒ってないらしい。
「でも、じゃあ誰に遅いって言ったの?」
「ん? ああ、こっちの方ね」
 そう言って沢村さんは携帯電話を手にして僕に示した。何を意味しているか、すぐに
ピンと来た。
「まだ連絡つかないんだ」
「うん。念のためあたしの小間遣いを二人の自宅に送ったけど、やっぱり気になってね」
 彼女はストラップを指にかけて携帯をくるくる回してみせる。そういえば校則じゃ携帯
の持ち込みは禁止されてたはず……。ところで小間遣いって、誰?
307125:04/02/09 00:04 ID:wfKiSqv/
「んん…………、あっ!」
 難しい顔で唸る沢村さんが突然動き出した。みんなから離れるように脱兎の如く部屋の
隅に移動し、なにやら一人で話し始めた。携帯に連絡が入ったようだ。
「ちょっと遅いよ! え? 今向かってる? それで……うん、うんうん。間に合うのね!?
……………………」


 っっっっえええええぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!


 その瞬間、室内にいた全員は耳を塞いだ。突然木霊した大音響に、僕は苦渋を顔に滲ま
せて膝をついた。
「こ、鼓膜がぁぁぁっっっ!!?」
「耳鳴りが……ひど、い……」
「ああっ、頭が痛いッッ!」
「時が……見える……」
 苦痛に悶えている間も、沢村さんだけは元気に……というか慌てた様子で喋り続けていた。
 ようやく頭に残る変な効果が抜けてきた頃、沢村さんの電話も終わった。
「一体、何?」
 訊いても彼女は答えてくれない。僕の言葉に耳を傾けることなく携帯を胸ポケットにしまう
と、監督らしく堂々と尊大な雰囲気を醸し出して言い放った。
「出演者はさっさと着替えて! それから教室で待機、指示があるまで教室から出ちゃダメ
だからね!」
「何だその指示?」
「文句言わない! 早く着替える、時間は待ってくれないんだからね!」
「オレらには知る権利が」
「ないわ」
 主張する関本はきっぱりと言い捨てられた。言葉に詰まってぐっと唸ったところに沢村さん
はたたみかけていく。聞くに堪えない罵詈雑言、ではないけど、何も言い返せずにどんどん
と責められる関本を見ているのは、見ているこっちが辛くなってきそうだった。
308125:04/02/09 00:05 ID:wfKiSqv/
 沢村さんの指示通りに美術準備室で着替えさせられ、そして原田さんを除く出演者全員は
二年B組の教室に軟禁されていた。
「じろり」
 入り口で目を光らせているのは沢村さんの小間遣いこと、西村だ。
 そんな状況ですることはないわけじゃなかった。僕達は台本を片手に携え、最終確認に余念
なく打ち込んでいた。台詞に諸動作、音響や照明とのタイミング等々。といっても僕と原田さん
以外の登場人物は僕と比べると出番は短いということもあり、ほとんど僕しか練習してないよう
な気分になってくる。今さらながらにほぼ出ずっぱりの主演は大変だなと不意に痛感した。本番
前にばててしまわないよう気をつけよう。
「おいお前らっっ!!」
 練習をしていると、教室のドアが開かれた。そこから大声をあげるのは広報係の冴原だ。
「よぉぉぉやくヒロイン様が到着したぜ」
「本当!?」
「やっと梨紗来たんだ」
「結構ぎりぎりだったな」
「間に合ってよかったぁ」
 冴原によってもたらされた吉報は練習と本番前の緊張でくたびれていた僕の心をすっと軽く
してくれた。舞台に上がる他の人も同じみたいで、みんなで視線を交わして顔を綻ばせた。
309125:04/02/09 00:06 ID:wfKiSqv/
「それで原田さんはどこに?」
「着替え終わったらすぐ来んじゃねえか……っと」
 冴原がやってきた方、つまり美術室へと向かう廊下に目をやると、何かを見つけたようだ。
「へへ、フリーデルトのお出ましだ」
 開けられたドアから冴原が身体を引っ込めると、入れ替わりに別の人が姿を現した。衣装
係の人達が作ったドレスに身を包み、腰まである茶色がかった長いかつらを付けたフリーデ
ルト役の、原田さんだ。
「お、お、遅れてごめんなさいっ」
 ぶわんと風を切る音が聞こえそうな勢いで原田さんが腰を折った。飛んでいきそうなかつら
を慌てて手で押さえながら顔を上げる。
「ホント、どうなるかと思っちゃったわ」
「こんな日に寝坊でもしたの? 神経太いんだから梨紗は」
「間に合ったんならいいけどさ。それより本番前の練習した方がいいんじゃないか?」
 原田さんを迎え入れているところに、関本が忠告するようにそう訊いてきた。
「そ、そ、そうだね。あたしが一番頑張らないといけないからね」
「でもあんまり時間ないんじゃないかな?」
 確か本番開始三十分前に着替えをしに美術室へ。それから教室に戻って最終調整。そして
ようやく原田さんと合流。ということは……。
「そろそろ舞台袖に集合してくれ」
 小間遣いが投げかける無常な宣告。僕は、僕達は――特に原田さんは――顔を引きつら
せた。
310125:04/02/09 00:07 ID:wfKiSqv/
 劇の会場となる体育館。暗幕に覆われたその空間の中、壇上――劇のステージだけは
照明で燦々と照らされていた。
「――これで一年C組による劇『ブレンと愉快な抗体達』は終了です」
 劇の終わりを告げるアナウンスとともに客席のあちこちから拍手が沸き起こった。なかな
か好評な劇だったらしい。
「小助さん、次よ次! いよいよ大ちゃんの出番よっ!」
「笑子さん落ち着いて……」
 客席の最前列、丹羽ファミリーはちゃっかりそこに陣取っていた。
「はっはっは。大助にどれほど演劇の素質があるか楽しみじゃわい」
「あらあらおじいちゃま、あまり高笑いすると顎が外れてしまいますわ」
 大助が練習する姿を影から監視……ではなく見守っていた家族が来ていることを大助は
知らされていない。来るとは察しているだろうが、まさか最前列とは思いもしないだろう。
「さっちゃんレムちゃん、そろそろ起きなさい」
 小助は隣で眠りこける二人の幼女の身体を揺すった。いかがわしい他意はないのであし
からず。
「んん……んぅ」
「もぉ……食べれませんん……」
 二人が大助の舞台姿を拝見したいと頼んだので、『時の秒針』の件の礼も兼ねて連れて
きたのだが、暗い世界でじっとしていることに退屈してしまった二人はいつの間にか熟睡し
ていた。
「せっかくだからそのままにしておきましょう」
「でも二人は大助を見に来たんだから……」
「その点は心配ないわ」
 自身あり気に言い切る笑子は足元に置いた鞄を抱え、中をごそごそと探り何かを取り出
した。
「そんな時のためにビデオカメラを持ってきたの。二人には大ちゃんの姿を収めて後で見せ
ましょ」
「さすが笑子さん。用意がいいね」
 いそいそうきうき楽しそうに、笑子はカメラの準備に取り掛かった。
「むにゅぅ……こらもっと優しく……」
「……太いぃですぅ……ふにゅ」
 よだれを流して愛らしい寝顔を浮かべる二人の寝言は少し過激だったりする。
311125:04/02/09 00:08 ID:wfKiSqv/
 二年B組の前のクラスの劇が終わるのを舞台袖でスタンバイしている僕達は見ていた。
「案外……体育館って広いな」
「人があんなにいる……」
「拍手ってこんなに大きいの!? ダメ、緊張してきたぁ」
 耳にざわざわと拍手、それに歓声もこびり付く。僕の胸は美術品を盗みに侵入している時
と同じくらいどくどくと大きく鳴っている。
「みんな、準備はいいわね?」
 舞台袖には出演者に監督や音響係、もう仕事はほとんどない衣装係の人などが集まって
いる。
(そういえば梨紅さん、来たのかな……)
 ふと彼女のことを思い出した。今日は朝から忙しかったし、彼女も遅刻していたし、な
んだかんだで一度も顔を合わせていなかった。この場に集まったクラスメイトの顔を見回し
てみるけど、梨紅さんはいない。
「いい? 一生に一度しかない劇なんだからね。気合入れなさいよ。……丹羽くんっ!」
「は、はいぃっっ!?」
 監督の強い声に僕の身体はたちまち縮み上がった。想っていたことも綺麗さっぱり霧散し、
てっきり怒られるものだと思った。
「それと……梨紗。二人は主役なんだから、しっかりそれを自覚して舞台に立つのよ」
 怒られる、と思ったのは僕の杞憂だった。沢村さんは僕と原田さんにだけそう言ってくれた。
「うん。一生懸命やるよ」
「あ、あたしもだよ」
 みんなは互いに頷き合い、自然と円陣を組み始めた。
「それじゃ劇の成功を祈ってぇ………………ふぁいと」
「おおぉっ」
 さすがに本番直前の舞台袖で大声は張り上げられないので、小さくみんなで声を揃えるだけ
にとどまった。そしてそれぞれの人は自分の持ち場へと赴いていった。
312125:04/02/09 00:09 ID:wfKiSqv/
「原田さん」
 体育館が暗転しいよいよ僕達の劇が始まるという時、もう一人の主役の女の子に声を
かけた。
「…………」
「原田さん」
「……………………」
「あの……原田さん?」
 何度呼びかけても答えてくれず、つい焦れてしまい肩を叩いて原田さんの名前を読んだ。
「――ッ! な、な……あ、丹羽くん……」
 彼女が息を呑むのが気配で分かった。驚かせてしまったみたいだ。
「さっきから呼んでたんだけど」
「そ……そうなの? ごめん、気が付かなくて」
 僕は首を横に振った。
「あんまり最後に練習できなかったけど、大丈夫?」
「あぁ……多分、大丈夫だと思う」
「不安?」
「ちょっとね」
「今までの練習どおりやったらきっと上手くいくよ。頑張ろう」
「…………うん」
 最後に頷く原田さんは、少し複雑な表情をしていた。
「それではただ今より、二年B組による劇『アイス・アンド・スノウ』を上演します」
 アナウンスが始まりを告げ、舞台に照明が落とされる。いよいよ僕達の練習の集大成で
あり僕が彼女達に捧げる劇『アイス・アンド・スノウ』の幕が上がった。
313125:04/02/09 00:10 ID:wfKiSqv/
 刻は夜。辺りは陰に染まる中、月影(照明)が一人の村娘(役の石井真理)を照らし出す。
「まあなんて美しい月かしらっ」
 上を眺め感嘆を漏らす彼女は後ろに控えている人物に呼びかけた。
「フリーデルト姫、はやくいらっしゃいなぁ」
 村娘の声とともに月影に照らし出されたのは、茶色の髪(のかつら)をしたフリーデルト
(役の原田梨紗)である。
「夜の闇はきらいだわ」
 フリーデルトの声は沈んでおり、その表情も晴れてはいない。
「とっても不安な気持ちにさせるんですもの」

(う、上手い……ッ)
 度肝を抜かれる、とはまさにこのことだと痛感した。舞台へ上がる前は不安そうだったのに、
いざ本番ではあのデキだ。原田さんより自分の心配しとくべきだった。それに石井さんも普通
だ。それが次に舞台に上がる僕に大きなプレッシャーとなっている。
(いや、上手くいってるのはいいことなんだ。そうだそうだ)
 言い聞かせて落ち着こうとするけど、心臓はばくばく拍動しっぱなしで一向に収まりそうにない。
「丹羽くん、出番よっ」
「ぅえッ! も、もう……?」
 この期に及んで心が乱れてきた僕の背中を監督がばしばし叩いてきた。
「頑張ってね」
 彼女の声援を受けた僕は、半ば押し出されるように袖から舞台上に続く階段を上らされた。
衣装のマントが、とてつもなく重く感じられた。
314125:04/02/09 00:11 ID:wfKiSqv/
(あああ、後一段んッ……!)
 これを上ってしまえばそこは逃げ出すことさえできない神聖な舞台。
(台詞……初めは何だったっけ、『僕はエリオット』だっけ? あわわわわわわわ――)
 レムちゃんみたいな慌て方をし冷静さを欠いた僕がとうとう壇上に、


 ――ブンッ


「え……?」
 といったところで突然視界が闇に閉ざされた。
「何これ?」
「効果じゃないの?」
 観客席のいたる所から小さなどよめきが生まれる。けどそれ以上に騒がしくなったのは
舞台裏だった。
「どうしたの!?」
「照明が落ちたみたい!」
「誰か見て来いよっ!」
 みんなが騒ぎ始めるのとほぼ同時、僕は照明があるステージ上に向かっていた。
(照明のところへは……この階段だ)
 ほとんど真っ暗な状況だけど、これくらいの闇ならすぐ慣れることができる。照明の足場
とそこへ続く階段はアルミ製だけど、極力足音を立てないよう気を付けながら急いだ。
 確かあの時点灯していた照明は一基、原田さんを照らすためのものだけだ。
(ということは)
 網状の足場からステージに目を下ろすと、ちょうど僕の真下に原田さんのかつらに覆われ
た頭があった。
(ここだ)
 端から三つ目の照明。そこを急いで点検する。
(……なんだ。接触の問題か)
 コードとコードの接触が甘くなっていた。これくらいならすこしいじるだけで灯がともるはずだ。
315125:04/02/09 00:12 ID:wfKiSqv/
(…………よしっ!)
 照明が再び原田さんを照らしだした。けどここで新たな問題が発生した。
(早く舞台に上がらないと。けど戻ってる暇はないし……)
 その時、僕は運よく見つけた。この足場の下、そこに舞台背景の後ろに取り付けられた
足場があった。
 躊躇うことなくそこに向かって飛び降りた。
 足場を破壊しつつも――実際飛び降りた衝撃に耐え切れずに折れた材木が激しく音を
立てた――舞台背景の後ろに着地することができた。
 ぼろぼろになった身体を引きずって舞台背景の合間からステージに出ると、
「……………………」
 不思議な、引きつったともいえる表情をした原田さんと目が合った。
「…………原田さん、台詞」
 僕が声をかけ、ようやく原田さんが正気を取り戻したようにはっとした。
「あ、あなたは……?」
 こんな登場の仕方をしてしまったせいか、彼女の声は上ずっていた。ごめん原田さん。
「僕はエリオット。君は?」
 けど、あの時いの一番に駆け出したおかげで初めの気持ちが思い出せた。
「フリーデルトと、申します」
 彼女達のためにこの劇を成功させる。その想いがやっと僕の中にあった心の乱れを拭い
去ってくれた。
316125:04/02/09 00:14 ID:wfKiSqv/
 それから僕は、
「音響の調子が悪いぞっ」
 そう言われれば隙を見て音響の配線を正し、
「あっれ? 直った?」
(フリーデルトさん、時の秒針さん、エリオット。彼女達のためにっっ)
「うわぁ、セットが倒れるぞっ」
 そう言われれば不自然な動作で舞台上を移動して倒れ来るセットを支え、
「どうしたのエリオット?」
「い、いや……壁側が大っ好きなんだ!!」
(この劇は、絶対成功させるんだっっっ!!)

「あなたっ、大ちゃんがいろいろテンパってるわ」
「……嬉しそうだね笑子さん」
 客席最前列で嬉々としてビデオを回す笑子に、小助は苦笑いするのが精一杯だった。
 ちなみに今起きている丹羽ファミリーは笑子と子助だけだった。幼女二人は未だに眠り
続け、つられるようにトワちゃんも――鳥姿で――二人の間で就寝していた。大樹も眠っ
たように死んでいた。
「わしゃまだ生きとるぞぉい」
 奇妙な寝言を残して。
317125:04/02/09 00:14 ID:wfKiSqv/
「なぜ逃げるんだ!」
 舞台はすでに第二幕、佳境。フリーデルトとエリオット、互いの想いを告白するシーン。
「ダメよエリオット!」
 緊張もすでになく、演じている僕自身エリオットになりきって劇にのめり込んでいた。
「あたし達は……身分違いの恋なんですもの」

 びりっ

(……ん?)
 研ぎ澄まされた五感が……聴覚が変な雑音を捉えた。
(何だ、今の?)
 どの辺からしたか。そう問われればすぐ側からとしか答えられないくらい近くから聞こえた
気がする。
(ダメだダメだっ! 今は劇に集中しなく)
「ちゃぁッ!?」
 口の中で考えていたことの最後が飛び跳ねた。
「?」
 原田さんが怪訝な表情を浮かべ、事情が分かっていないらしい彼女の腕を掴んで力任せ
に引き寄せた。
「きゃッ――」
 悲鳴をあげそうになる原田さんを胸で受け止め、マントで彼女の衣装が客席に見えないよう
に二人を包んだ。
318125:04/02/09 00:15 ID:wfKiSqv/
(ににに、丹羽くッ)
「君を愛している」
 芝居を続けながら、腕の中で狼狽える彼女に事情を説明した。
(動かないで。裂けてるんだ……)
(え?)
(スカート)
 原田さんが自分の足元に視線を落とすと、
(うわぁぁぁぁっっっ!!)
 二人にしか聞こえない悲鳴があがった。さっき劇に集中しようとした時、僕は彼女のスカート
が見事に立てに裂けているのを見つけてしまった。緊急事態と判断して急な手段を講じてなん
とか乗り切ろうと考えたけど、そこであっと思った。
 次の演技はフリーデルトがエリオットの名前を呼んで、それから抱き合うというものだ。これ
じゃ演技の続行は不可能だと気付いた。二人が抱き合ったら場面の転換が始まって舞台が暗
転するからそれまで待てばよかったと、自分の浅はかな行動を後悔した。こうなったら監督の
采配を信じ、すぐにでも舞台の暗転が始まることを……。
「――エリオット」
「え?」
 こんな状況でまだ劇を続けるつもりなのかと思った時には、僕と原田さんの顔は触れていた。
319125:04/02/09 00:16 ID:wfKiSqv/
「――これで二年B組による劇『アイス・アンド・スノウ』は終了です」
 アナウンスが終わりを告げると、僕はまずは原田さんの姿を探し始めた。何度も首を巡らす
けど、すでに舞台袖にはいない。
「沢村さんっ、原田さんは?」
「ん? あの子ならもう美術室に行っちゃったけど……」
「分かった。ありがと!」
「あ、待って丹羽くん……!」
 呼び止めようとする沢村さんを振り切って全力で美術室へ走った。僕はどうしても確かめた
かった。どうして、原田さんがあんなことをしてきたのか。
 あれから劇の最後まではまったく覚えてない。気が付いたら僕の出番は終わり、いつの間に
か終了のアナウンスが流れ始めていた。劇が成功のためにという想いは、原田さんのあれだ
けで頭から吹っ飛んでしまった。
 成功は、していて欲しい。だけど、今の僕には、フリーデルトさん達よりも原田さんの方が気
になって仕方がなかった。


 ――あなたは……大切な人を手放さないで


(分かってるよ、フリーデルトさん! けど……)
 彼女の言葉はよく分かる。分からないのは自分の気持ちだ。

 僕が好きなのは、原田さん?それとも……。

 考えているうちにとうとう美術室へ着いた。扉を開くと、そこに原田さんの姿はない。
やっぱり着替え始めてるんだ。着替えの場所は――美術準備室。
 準備室の扉の前に立つと、身体が動かなくなりそうだ。それでも、確認したい。しなくちゃいけ
ない。彼女の心を。
320125:04/02/09 00:17 ID:wfKiSqv/
 扉を二回ノックする。
「はぁい」
 中から聞こえてきたのは女の子の声。原田さんに違いない。
「……あの、丹羽だけど……」
「丹羽くん……」
「………………入って……いいかな」
「……………………うん」
 ――言葉が重い。僕と彼女の声は明らかに重い。劇で出していた威勢の良さの面影も
ないくらいに。
 二回深呼吸し、目の前の扉を開いた。一歩足を踏み入れて彼女の姿を確認した。まだ
ステージにいた時と同じ、衣装姿の原田さんが中にいた。数メートルほどの距離が、今は
果てしなく遠く感じられる。
「あ、あの」
「お疲れ」
 まるで僕が話すのを拒むように言葉を被せられた。
「いろいろあったけどいいデキだったんじゃないかな?」
「原田さ」
「あ。もちろん打ち上げ行くよね? なんたって主役なんだし」
「原田さんっ!」
 僕に話させないように言葉を続けていた原田さんについ怒鳴ってしまった。彼女の瞳に
驚きと、そして僅かな恐れが浮かび、胸が苦しくなるけど、僕も引くわけにはいかない。
「その……最後の方、スカート裂けて……それから後のことだけど」
 彼女は何も言わない。ただ真っ直ぐ僕を見つめている。潤んだ瞳で。正視に耐え切れず
に僕は視線を足元に落としたけど、言葉は続けた。
「どうして……キスみたいな真似……」
 手で彼女の唇が触れた場所を押さえながら訊いた。そこは頬の横、唇のすぐ隣。傍から
見れば間違いなくキスだと判断するだろうけど、微かに場所はずれていた。
「……答えて。原田さん」
 彼女は、何も、言わない。
321125:04/02/09 00:18 ID:wfKiSqv/
「お願いだから、……原田ッ――」
 顔を上げた僕は言葉を失った。彼女の双眸、そこから一筋だけ水滴が流れていた。
――なんで?
 避けるように彼女は僕に背を向け、ゆっくりした動作でかつらを取った。そこから現れ
たのは腰まである流れるように綺麗な髪。じゃ、なかった。
「――――え?」
「梨紗じゃなくて、悪かったわね」

 ――なんで?

「着替えるから……」

 ――どうして?

「……出てって」

  ――君が、フリーデルトを……?

「早く出てって!」
「ッ!!」
 完全に混乱に陥った思考は彼女の怒号に反応し、それに従うように準備室を飛び出して
いた。
(……なんでだ)
 胸奥が焼き焦がれるように熱い。汗が噴き出し、喉も一気に干からびる。行き場を失った
僕は何も考えずにそこから走り出した。
(……なんで、どうして梨紅さんがっ!?)
 とにかく逃げたかった。ただがむしゃらに、梨紅さんの傍から……。
322125:04/02/09 00:18 ID:wfKiSqv/
投下あと一回で終了でつ。
323名無しさん@ピンキー:04/02/09 00:22 ID:vpOemkuU
リアルタイム更新キタ──(゚∀゚)──!!
前半やたらはっちゃけてると思ったら最後できましたね!
乙です。
324名無しさん@ピンキー:04/02/09 01:08 ID:4u+irN0i
ふぅむ・・・梨紗は風邪かな?
325名無しさん@ピンキー:04/02/09 01:28 ID:cMpGZWeY
すごく(・∀・)イイ!!!
ヤバイ、マジでおもしろいよぅ
326名無しさん@ピンキー:04/02/09 02:32 ID:EDUK5/j0
更新ご苦労様です。
なるほど、こう来ましたか〜。
327名無しさん@ピンキー:04/02/10 22:03 ID:FdmL2KfD
キャーキャーキャー!!
来てしまった〜〜〜!!
やばい。やっぱ125氏の話、俺大好きだw
328125:04/02/11 01:28 ID:D4aZqsA2
 二年B組の劇『アイス・アンド・スノウ』は好評に好評を呼び、総合二位という結果を
おさめた。監督は不服みたいだったけどみんなでなだめ、どうにか落ち着いて素直に
喜んでいた。
「…………」
 本当ならこれから打ち上げだけど、到底参加できる気分じゃなかった。だからこうして
独り、とぼとぼを学校を後にしている。
 今日の一件。梨紅さんがフリーデルトをしていたこと。あれから沢村さんが教えてくれた
けど、原田さんが今日になって風邪を引いてしまったらしい。そのために代役として急遽
梨紅さんを舞台に上げたと説明してくれた。毎日原田さんの練習に付き合っていたおかげ
で梨紅さんのデキが完璧に近かったことも、彼女を代役にした理由らしい。事前に出演者
に教えてくれなかったのは、みんなに余計な心配事を増やしたくないという梨紅さんの心
遣い……ということだけど、僕としては事前に言っておいて欲しかった。心臓が、まだ、ばく
ばくしている。
 梨紅さんの唇の感触――触れたのは二回目だ。一回目は何ヶ月も前、初めてさっちゃん
と出逢った時。忘れていたものが今日のキスもどきのせいではっきりと思い出された。唇の
触れた箇所だけが不思議なほど熱い。舞台上で、瞳に映った僕の顔が見えるほどすぐ目の
前にあった彼女の顔が忘れられない。
「…………はぁ」
 一番彼女の近くにいたのに、正体に気付くことなく最後まで原田さんと呼び続けていた自分
が情けないほど馬鹿だと思う。まだ彼女の真意を聞いてないし、だけど会う決心がつかない
でいるのもまた事実。
「…………原田さん大丈夫かな」
 梨紅さんのことから逃げるように、一瞬脳裏を掠めた原田さんのことが気になった。帰り道、
トロッコを降りてしばらく、自宅へ向かう道と原田さんの家の方へ向かう道の分岐が近づくに
つれ、足取りが重くなっていく。生じた選択が家に帰ることを留まらせてしまう。
迷った末、僕の足は一つの道を選んだ。
329125:04/02/11 01:28 ID:D4aZqsA2
 玄関のドアに取り付けられた呼び鈴を一思いに押す。ここまで来てしまえば後は勢いに
任せるしかない。
「お待たせいたしました」
 間もなくドアが開かれ、中から初老の男性が姿を現した。坪内さんだ。
「こんにちは」
「おや? あなたはお二人の同級生の……」
「あ、はい。丹羽です。あの、原田……梨紗さんが風邪だと聞いたのでお見舞いに」
 そこまで言った時、僕は花もケーキも何も買ってきていないことに気付いた。自分の気の
利かなさを反省した。
「そうですか。どうぞ、お入りください」
 坪内さんに誘われるまま屋敷の中に上げてもらい、原田さんの部屋の場所を説明しても
らいそこに向かった。
 上階へと進み、幾つかの部屋の扉を見るとその一つに『面会者絶』と可愛らしい字で書か
れたプレートの下がっているのを目にした。ここに違いない。
 小さく息を吐いて調子を整え、二回ノックする。
「…………ふぁぁい」
 眠そうで死にそうな声が返ってきた。
「原田、さん? 僕……丹羽大助だけ」
「ににに丹羽くんっっ!? グェホグェホッ」
「原田さん! だ、大丈夫?」
「うん……エホッ。入っていいよ」
 原田さんの許可が下り、そっと扉を開けて初めて原田さんの部屋にお邪魔した。もちろん
女性の部屋に入るのも初めてだ。
330125:04/02/11 01:30 ID:D4aZqsA2
「来てくれたんだ……」
「うッ」
 布団を被る原田さんが熱で潤んだ瞳をのぞかせて僕を見つめてくる。思わずぐっときて
しまった。
「どうかした?」
「い、いや……何でもないよ」
「そう? あ、椅子座っていいよ」
 原田さんに薦められ、彼女の机から椅子を引っ張り出して座らせてもらった。
「……ねえ」
「うん?」
「あのさ、劇……どうだった?」
 いきなりそれを訊かれ動揺しそうになった。彼女は主役だったんだから結果は訊かれる
だろうと思っていたから覚悟はしていたけど。
「二位で入賞したよ。沢村さんもどうにか納得してくれたし」
「あは。あの子、一位取りたかったんじゃない?」
「そうそう。おかげで主役の僕と…………」
 言葉が詰まった。梨紅さんの名前を原田さんの前で出すのを躊躇ってしまったから。
「…………」
 原田さんの眉が寄る。僕の様子が変わったことに彼女は気付いたに違いない。弁明しよう
にも何て言っていいか分からず、黙っているしかなかった。
「…………梨紅、」
「えっ」
 その名を聞き、瞬間的に体温が沸騰した。
「ううん。何でもない」
 それもすぐに収まり、それっきり僕達の会話は続かなかった。息が詰まりそうな沈黙、
そろそろ帰ると口にするだけでいいのに、きっかけが見出せないまま時間だけが流れていた。
331125:04/02/11 01:30 ID:D4aZqsA2
「――あ」
「?」
 やり場に困り宙を彷徨っていた視線が原田さんのベッドの枕元に止まった。小物が並んで
いるそこに、一つの写真立てがあった。
「この写真がどうしたの?」
 原田さんが身体を起こして腕を伸ばして写真立てを手にし、不思議そうに僕と写真を交互
に見やった。
「どうもしないよ。ちょっと目新しくて見ただけだから」
 それに写っていたのはウサギのぬいぐるみを抱えた髪の長い少女と、熊のぬいぐるみを
抱えた髪の短い少女だった。
「ふふん。可愛いでしょ?」
 無邪気に笑って聞いてくる。
「うん。全然変わってないね、原田さんも梨紅さんも」
 僕は何となく分かっていた。記憶の片隅に転がっている幼い頃の小さな思い出、そこに
いる二人の少女がこの姉妹だと。今までは漠然としか思っていなかったけど、原田さんの
部屋でこの写真を目にしてようやく確証した。
「えぇっ、結構変わったよ」
 原田さんも咳をしなくなっている。体調がよくなってきたのかもしれないと思うと、胸が少し
だけ軽くなった。
「そうかな? 見た感じだと幼いってだけで、他は全部変わってないように見えるけど」
332125:04/02/11 01:31 ID:D4aZqsA2
「そっか、丹羽くん勘違いしてるよ。私はこっちだよ」
「…………え」
 その瞬間、腹底から得体の知れない何かが込み上げてくる不快感に襲われた。
「私、小さい頃は活発な子だったんだよ」
 気持ちが、よくない…………この感じ、僕はよく知ってる。彼女が示したのが何か、見るの
が、怖い。
「小学校に入る時はすっかり梨紅の方が元気っ子になっちゃって」
 自分の中の基盤が崩れる錯覚。奈落に突き堕とされた気分だった。一日に二度、同じ苦辛
を味わうとは微塵も思っていなかった。
「クマさんのぬいぐるみ、どこにしまったっけ……」
 原田さんの指は……髪の短い少女を指していた。


 ――クマさんなら好きなんだけどね


 ――あたしウサギって大好きだし


 ――ぬいぐるみと違って暖かぁい



 ――梨紗じゃなくて、悪かったわね



 次々と湧き出す梨紅さんの言葉一つ一つが、僕の心に重く圧し掛かった。


次回 パラレルANGEL FINAL STAGE St.White Memories 
333125:04/02/11 01:34 ID:D4aZqsA2
アニメの放映話数とはだいぶ違いますが次で最終話でつ。
334名無しさん@ピンキー:04/02/11 01:51 ID:L0VYS3GZ
おつかれー。最後の締めもがんばってくだされ
335名無しさん@ピンキー:04/02/11 04:40 ID:1faydmYR
おお、遂に大詰めですか。
楽しみにしております。
336名無しさん@ピンキー:04/02/12 23:35 ID:/YOWUes3
もう終わっちゃうんだ…

寂しいなあ
337125:04/02/14 00:34 ID:7KNNi/bv
「……」
「……」
「……」
 何もする気が起きない。
「…………」
「…………」
「…………」
 考えることさえ億劫になってる。
「………………」
「………………アー」
「………………エー」
 突きつけられた現実は、これまで僕が積み上げてきた彼女への想いを粉々に砕いた。
「……………………」
「……………………アールジー」
「……………………ゴッシュジッンサマー」
 砕けた欠片を集めても、そこに現れたのは彼女じゃない。彼女の――。
338125:04/02/14 00:35 ID:7KNNi/bv
 膝を抱えてしゃがみ込む大助から十分離れたところで二人の裸の幼女が緊急会議を開いて
いた。最近この格好が気に入ったらしく、夢の中でも幼女形態でいることが多くなって
いる。
「うむぅ。やはりやはりとは思っていたが」
「これはじゅう症ですねえ」
「大体のじじょうは夢をのぞいてわかったが」
「どうしたらいいんでしょうねえ」
 ここ数日の大助の落ち込みようには流石の二人も手を焼いていた。ので、二人は何かしなく
てはと思いつつも、何もできていなかったしされてもいなかった。
「ふぅむ……」
「うぅん……」
 こうして話し合うのも三回目であるが、いい案は出ていなかった。
「…………ふぅ」
 さっちゃんがしょうがないといった風に立ち上がると、その姿はいつの間にか背の高い大人の
女性へと変わっていた。
「さっちゃん?」
 レムちゃんも後を追って立つと元の姿に…………別段変わったようには見えなかった。
339125:04/02/14 00:35 ID:7KNNi/bv
「――主」
 いきなり背後から腕を回されて身体が小さく竦み上がった。耳元で囁かれた声はさっちゃん
のものだ。
「迷っているのか?」
 塞ぎ込もうとしていた僕の心にさっちゃんの言葉がずばりと突き刺さった。
「……」
 夢の中でさっちゃんに隠し事など意味がない。震えるくらいに首を縦に振って彼女の台詞を
認めた。
「そうか」
 呟くさっちゃんの声はとても穏やかだった。
「主は優しいからな。いろいろあの小娘等に思うこともあるだろう」
 ここ数日まったく話していなかったのに、さっちゃんの言葉は不思議と胸の深いところまで
届いてくる。ここではさっちゃんの力が強いからなのか。
「だが迷ってばかりでよいのか?」
 それとも、僕が彼女に助けを求めているからなのか。
「我も主に言いたいことは幾つかある」
 彼女の言葉に、期待しているのだろうか。
「だがな。やはりこの決着は主が自分でつけるべきだ」
「……え」
 僕の期待はあっさりと見捨てられた。この数日間ずっと独りで考えて、それでも答えはでな
かったのに、
「…………僕には」
 無理だ。二人のうち一人を選ぶ、というのは。
「違うな。答えはもう出ているはずだ」
「! そんな……」
 後ろを振り返り、はっとした。
「出ているさ」
 僕を射抜くさっちゃんの瞳はとても真っ直ぐ、曇りのない色をしていた。なんだろう、心の奥底
まで見透かされているような居た堪れない思いにさせられ、つい顔を逸らしてしまう。
340125:04/02/14 00:36 ID:7KNNi/bv
「…………」
 ――分かっている。さっちゃんに言われるまでもなく、自分の気持ちくらい。
「だけど、僕は原田さんが……」
 好きだったはずだ。その思いが、僕に答えを出させるのを躊躇わせている。
「初めて好いた者をずっと好いていなくてはならん道理はない」
 僕は、僕の想いは、原田さんに縛られていた。
「あのぉ」
 その声に、レムちゃんの顔がすぐ正面まで近づいていたことにようやく気付いた。僕を
覗き込む瞳は純粋で、穢れてない。
「わたしは難しく考えるのは下手なので単純なことしか言えませんが」
「中身がすかすかだからな」
 愉快そうなさっちゃんの一言にレムちゃんの頬が少し膨らんだけど、すぐさま思い出した
ように言葉を続けてきた。
「自分の気持ちに正直になった方がよいと思いますです」
「正直に……」
 正直に言うと、答えは出ている。今、僕が好きなのは彼女だ。学園祭、修学旅行、初めて
のデートの時か、それより前の学校で起きた事件、バーベキュー、料理対決、いやもっと前、
初めてさっちゃんと出会った時、それとも昔、初めて彼女に会った時から、好きだったのかも
しれない。
「………………答え」
「決まったのか?」
「決まりましたか?」
 ずっと好きでいる必要はない……
 正直になればいい……
341125:04/02/14 00:37 ID:7KNNi/bv
 二人の言葉が胸の奥まで染み入る。彼女達が僕の友達で、本当によかった。
「うん」
 僕は力いっぱい頷いた。その途端、
「よしっ! では次は我らの番だ!」
「え」
「早く横になってください……もう! じれったいのです、押し倒すのです!」
「ええ」
 僕は二人に慣れた手つきで押し倒されてしまった。
「ちょ、ちょ、何ぃ?」
「何?ではない。主が深刻な鬱だったせいで三日間も我慢していたのだぞ」
「もう喉がからからなのですよっ。早くするのです」
 さっきまで僕を心配していた様相は微塵も見せず、ちょっと怖さを感じさせる血走った
眼をして貪られていく。
「な、何だこれ! 結局そういうオチなの!?」
「黙れ黙れ。口を動かしていらん体力を使うと、死ぬぞ?」
「ええぇッッ!?」
「久しぶりに限界ギリギリまで搾り取ってみますよ」
「待ってよ! もう少し決意を抱いた余韻とかそんなのに浸らせてくれてもいいじゃない
かっ!!」
『却下』
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
 二人の言葉は心に酷く沁みる。彼女達が僕の友達で、本当に苦労した。
(あ、でもえっちは気持ちいいことだし、これはこれでいいのかも……)
 と前向きに考えてみたけど、数分後にはそんな甘い考えはまったくもって根底から否定した。

342125:04/02/14 00:38 ID:7KNNi/bv
「大ちゃん!!」
 玄関で靴を履き替えていると、家の中から母さんに声をかけられた。
「なに?」
 立ち上がりながら振り返り、母さんが傍に駆け寄ってくるのを待った。
「忘れ物」
 はいと言いながら母さんが差し出したのは白いリボンだった。
「……僕、リボンなんてしないし」
「何言ってるの? 女の子へのプレゼント用に決まってるじゃないの」
「ええっ!?」
「どうしちゃったの驚いて? セントホワイト祭の風習くらいしってるでしょ?」
「それは知ってるけど……」
 今日は十二月二十三日。僕は明日行われるセントホワイト祭の実行委員として学校に行く
ところだ。前日の準備ということで、今は規定の全身真っ白な服じゃなくて制服を着ている。
 セントホワイト祭には好きな人に白いものを送るという、ある種の伝統みたいな慣わしがある。
「今年は白いリボンが流行りみたいなの」
「どこからそんな情報を……」
「だから持って行きなさい。どうせ買ってないんでしょ?」
 明日の本番は今日以上に忙しく立ち回らなくてはいけないので、実行委員がプレゼントを渡す
のは今日がいいと母さんに教えてもらっていた。だけどここ数日、ずっと気落ちしていたのです
っかりプレゼントの準備を忘れていた。
「ほらほら照れないで持っていきなさいよ」
「いいよっ! 自分で買っていくから」
 拒否すると母さんの目が丸くなり、そして輝きだした。
「んまぁっ! やっぱり大ちゃんにも好きな子がちゃんといたのね!」
「あ……」
 やられた、と思った時には母さんが一人で自分のことのように舞い上がっていた。これ以上ここ
にいると絶対母さんに絡まれると察し、いそいで玄関を飛び出した。
「い、行ってきまぁっす」
「頑張ってくるのよぉ」
 母さんが手をひらひらさせて涙を浮かべてにやにやしているのが、振り返らずとも容易に想像できた。
 外は雲がかかっていて少し暗かった。この時期なら雪が降り出すかもしれない。
「さ。急ごっ」
343125:04/02/14 00:39 ID:7KNNi/bv
「白いリボン?」
 制服に身を包んだ梨紅が尻上がりに聞き返すと、梨紗の表情は見る間に外の天気と同じ
になっていった。
「……知らないの?」
「うん」
「……本当に?」
「だから知らないってば」
「ええぇぇぇぇっっっ!!?」
 教室内に誰かいたならば間違いなくその視線を引いただろう。今は梨紅と梨紗しかいない
ため、梨紅が耳を塞いで顔をしかめるだけだった。
「なによそれっ! あんた女じゃないわ!」
「そこまで言うかぁこの妹はっ!?」
 取っ組み合いを始めそうな勢いだが、仲良し姉妹はそんな野暮なことはしなかった。
「まあいいわ。梨紅を女にするために私が直々に教えてあげる」
「うわぁ……全然教えてもらいたくない言い方」
「黙って聞く。いい? セントホワイト祭では好きな人からプレゼントが貰えるのよ。今年の流行は
ずばり白いリボンっ! 結んでもらったら両思いになれて万々歳なの、分かった?ってちょっと
待ちなさいってば!!」
 奏でるように言葉を紡いでいた梨紗を見捨て、梨紅はさっさと教室を出ていた。
「実行委員の仕事が忙しいから。じゃね」
「待ちなさいって」
 両手いっぱいに荷物を抱えた梨紅の後ろ姿を慌てて追った。実行委員の仕事を助けるために
クラスメイト男女何名かが助っ人としているのだが、梨紗は先程から喋ってばかりで手を動かし
ていなかった。
「実行委員で思い出したけど、丹羽くんも実行委員なんだよねぇ」
「ん……うん」
 あっけらかんと彼の名を出された梨紅は曖昧な返事をするだけだった。先日の一件以来、今ま
で以上に大助を意識してしまう反面、梨紗に対してどうしようもなく申し訳なく感じてしまう自分も
いる。その板ばさみを避けてまったく彼の話はしていなかったのに、梨紗から話を振ってくるとは
思っていなかった。
344125:04/02/14 00:40 ID:7KNNi/bv
「……梨紅、気にしてるの?」
 聞かれるまでもない。梨紗の問いかけに重々しく頷く。
「そんなに沈まないでよ。私まで気分が重くなっちゃうじゃない」
 言ってくる梨紗の声は明るいものだった。
「それに、気にするくらいなら初めからチューなんてしなきゃよかったのよ」
「チューって……」
 おばさん臭いよ、と軽口を叩きかけるも、言葉は喉の奥に引っ込んでいった。
「あ、あんたの方こそ、気にしたり……してないの?」
 苦し紛れに話の矛先を妹へと向けると、梨紗は人差し指を唇に当てて考え込む仕草をした。
軽い調子で唸っているのが真剣に考えているのかどうかを怪しくさせる。と、
「私はそんなに気にしないよ」
 意外な一言に梨紅は目を丸くした。
「だってさ、梨紅も丹羽くんが好きなんだから、何かあることくらい覚悟してたし」
 梨紗の落ち着き払った言い様に胸が熱くなるのを自覚した。
 ああ……この子って、強いな。
 自分じゃそう考えられない。気持ちをすっぱりと切り捨てられない。梨紗の強さを、とても
羨ましく思う。
345125:04/02/14 00:40 ID:7KNNi/bv
「あ、いたいた」
 梨紗のことを深く心に感じていると、後ろから呼ばれる声に二人は振り返った。
「梨紅、ちょっと私達の方手伝ってくれない?」
 呼んでいるのは助っ人の福田律子だった。
「オッケー。でもちょっと待ってて。これ運ばないと……」
「いいよ。私が持ってくから」
 梨紅の腕の中から荷物を取ったのは何も手にしていなかった梨紗である。
「あんたが働くの? 珍しい」
「失礼ね! 私だってやるときはやる女なんだから」
「そうなの? じゃあ頼むね」
「それじゃちょっと借りてくね」
 姉妹の会話が終わると律子が梨紗に断りを入れて梨紅を連れて行った。荷物を抱きしめ、
手の先だけ振って笑顔で二人を見送り、後姿が廊下の角へ消えていった。
「…………」
 ようやく梨紗が手を止めると顔に張り付いていた笑みは剥がれ落ち、瞬く間に表情がしお
れていった。
「……気にしないわけ……ないでしょ」
 荷物を抱える腕に頼りないほどの力を込め、胸に刻まれた痛みを懸命に堪えていた。
346125:04/02/14 00:41 ID:7KNNi/bv

「ふぅ……っ」
 と一息。
「実行委員は楽じゃないよ」
 学校に着いてからずっと動いてばかりいたけどようやく暇ができた。と言ってもここに置き
忘れてあった暗幕を新聞部にまで持って行かなくちゃならないのでそれほどゆっくりもでき
ない。適当に出した椅子に座って、このまま立ち上がりたくないと誰かにねだりたくなるけど
そうもいかない。足元の塊に視線を落とし、
「冴原のやつ、僕に押しつけたんじゃないの?」
 文句の一つでも言ってやった。美術室に暗幕を忘れたので取ってきてくれだなんて、僕の
仕事じゃないのに頼まれた。第一なんで美術室に忘れるのかが理解できない。

 オレ仕出しで手が離せねえんだ

 仕出しって何のだよ?聞く前に逃げられてしまった。忙しかったからなのか、それとも……。
「はぁ……」
 と溜め息。
「よしっ――?」
 気合を入れて立ち上がった時、美術室後ろの壁に並べて展示されている絵に気付いた。
「あの絵……」
 その中の一つに目が留まった。見間違えるはずがない。僕が描いた絵だから。そう変わら
ない歳の女の子が二人描かれたその絵、学園祭からいろいろあったせいで飾ってある姿を
見たのは今日が初めてだった。
「……」
 僕が描いた絵のはずなのに、絵の中の二人の少女はその双眸で僕を真っ直ぐと見据えて
いるような気がした。僕の心なんてお見通しだと言わんばかりである。
「……分かってる。心配しないで」
 その瞬間、二人がそこにいるような気がした。しばらく二人の目を見つめ返し、そろそろ行か
なくちゃと思い立って足元で丸まっている暗幕を抱えて美術室を出た。
 二人に会えたことだけは、冴原に感謝してもいいかな。

347125:04/02/14 00:42 ID:7KNNi/bv
 美術室から超特急で写真部へ向かっていた。暗幕のせいで前は非常に見づらいけど、少
しだけでも視界が確保できているので誰かとぶつかることはないと思っていた。しかし、
やっぱり気をつけるべきだった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
 廊下の曲がり角、出会い頭に衝突してしまった。衝撃で手から暗幕が放れてしまったけど、
ぶつかった人に謝ることを先にした。
「すみませんっ! 大丈夫です、か……?」
 身体を九の字に曲げてから顔を上げると、そこには誰もいなかった。狐につままれたよ
うな気分になったのも束の間、すぐ下からくぐもった声が響いてきた。見ると、そこには
当たり前だけど暗幕が落ちている、のだけどそれがもぞもぞもぞもぞ奇妙に動いていた。
「……! あわわわわっ?! すすす、すみませんっっ!」
 誰かが下にいると気付くのに数瞬かかり、急いで暗幕を拾い上げた。
「本当にすみませんっ! 怪我とかしてないですか? ――あ」
 ぶつかった人を心配し、忙しくせっせと動かしていた手が思いがけず止まった。
「あ。丹羽くん」
「原田……さん」


 どんっ


 心臓が大きく飛び跳ねた。今まで彼女に感じていたどきどきとは違う、胸騒ぎに似たものだった。


 
348125:04/02/14 00:44 ID:7KNNi/bv
ここまでです。最後は前回辺りと比べてかなり短くなりそうです。了承くださぃ。
349名無しさん@ピンキー:04/02/14 08:47 ID:VKc1TBGv
む・・・はたしてこのまま梨紅の完全勝利なのか、それとも・・・
350名無しさん@ピンキー:04/02/16 23:02 ID:qeuZxDtB
むぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
がんばってくらさい。
期待してます。

でも、さびしいなぁ〜・・・
351名無しさん@ピンキー:04/02/18 21:10 ID:gjXNhV6E
10巻発売記念カキコ
兼、保守
352125:04/02/19 01:40 ID:fMjW+M40
>>347
「……」
 皆がセントホワイト祭の準備に追われれ忙しなく廊下を行き来する中、彼は心ここに
あらずであった。
(……どうしたものか)
 彼が考えていることは言うまでもなくセントホワイト祭のことである。すなわち、どうやっ
て大助に白いリボンを渡すのか。
(やはり正面から思いをぶつけるべきか)
 何度も脳内で渡す際の台詞を練習しているのだが、どれもしっくりときていなかった。
考えに考え、彼はあの告白を採用することにした。
(……俺は、少し変態と言われるような不器用な男だ。だから、こんな風にしか言えない……。
俺は、丹羽が……丹羽が…………丹羽が好きだぁっ!)
「お前が欲しいぃぃぃ、丹羽ぁぁぁぁぁっっっっ!!」
「黙れ変態が」
 突然絶叫した日渡怜の脳天に関本のチョップが見事に炸裂した。
「どうした?」
「いや、変態を一人成敗しただけだ」
 傍で作業をする冴原に聞かれ、事も無げにそう言ってのけた。足元には頭上にできた
たんこぶから煙を噴く変態が一名。それをどう処分するか考えていると、遠くから声をか
けられた。
353125:04/02/19 01:41 ID:fMjW+M40
「ねえ、ちょっといい?」
「何か用か? 原田姉」
 声の主が原田梨紅であることを確認すると、冴原が作業の手を止めて応えた。
「丹羽くん見なかった?」
「大助か。あいつなら写真部の部室に暗幕運んでるはずだぜ」
「そなんだ、ありがと……って何で丹羽くんが写真部の手伝いしてるの?」
「あっ、や、その……」
「冴原が大助に押し付けたんだってさ」
「関本! てめぇ余計なこと言ってんじゃ」
「冴原くんっっ!」
 作業の手を止めずにこれまた事も無げに言ってのけた関本に冴原が突っかかろうとするが、
梨紅の大声によって制された。
「丹羽くんは実行委員の仕事がいっぱいあるんだからね!」
「わ、わぁったわぁったって。それよりさっさと大助探しに行った方がいいんじゃねえの?」
 眉を吊り上げて詰め寄ってくる梨紅に低姿勢で謝りながらも話の矛先を変えようとする冴原
に対し、
「…………それもそっか。じゃあ行くね。作業頑張ってね」
「おぉう」
 どうにか変えることができ、
「ほっ」
 っと一息、
「冴原くんは他の人の三倍は頑張るように。分かった?」
 吐くことも許されなかった。
「ちぇ、わぁったよ。じゃあな」
 去り行く梨紅の背中に恨みがましい視線を向けて見送った。その際、梨紅が日渡の背中を
踏みつけたりなんかしたが誰も気に留めなかった。
354125:04/02/19 01:41 ID:fMjW+M40

 梨紅は不安だった。
 律子に頼まれた手伝いを終えてから梨紗の姿を捜し求めていたが、どこに行ったかも
分からずに会えずじまい。同じ頃、実行委員の大助も姿を消してしまっていた。
(…………まさかね)
 そう思っても、一度芽生えた不安は簡単には去ってくれなかった。廊下を進む足も心の
焦燥とともに速くなる。
「どこ行っちゃったのよ二人ともぉ」
 渦巻く不安が言葉となり外へ漏れる。また足の速さが上がった。向かう先は本校舎を少し
離れた部室棟にある写真部部室である。
355125:04/02/19 01:42 ID:fMjW+M40
 暗幕を抱え、写真部部室を目指す。ついさっきまではかなりの速さで駆けていたけど、
今はゆっくりと歩いて向かっていた。自信過剰になってまた誰かにぶつかることを避ける
という意味もある。
「……」
「……」
 けど最も大きなな理由は、彼女のペースに合わせているからだ。どういうわけか、原田
さんは僕について来ていた。もちろん最初は断った。一緒に行くなんて原田さんに申し訳
ないし、何より今朝決心したばかりだから彼女に――それも不意に会ってしまったことに
すごく動揺したからだ。だけど彼女は断る僕の言葉を飄々とかわし、いつの間にやら一緒
に行くことが決定していた。
「……」
「……」
 一緒に行くと決めた時は元気溌剌としていたのに、二人並んで歩き出してから彼女の気
があからさまに変わり、口を開かなくなっていた。僕から声をかけるのも気が引け、おかげ
で無言の時間が僕達の間に流れていた。早く写真部部室に向かいたいと思いは急き、しかし
歩調を合わせているせいでそれは叶わず、沈黙の重圧はどんどん大きくなっていた。
 数時間は続いた気がする沈黙は、部室棟に着いてようやく終わりを告げた。
「写真部は……あそこだね」
 小走りになってペースを上げ部室へ急いだ。ドアノブを回すと、途中でがちりと音を立てて
それ以上回らなくなった。
「鍵かかってるじゃないか。まったく……」
 部室の鍵は特別教室のものとは違い、至って普通の施錠式のものだ。いつもの調子で開け
ようかとも考えたけど、原田さんが一緒なのでそうせずに暗幕を部室の前に置いておくことにした。
356125:04/02/19 01:43 ID:fMjW+M40
「終わったの?」
「うん。それじゃみんなのところに戻ろっか。人手が足りないと思うから。……だけど」
 周囲を見回しても人の姿はない。さっきまでいた校舎では忙しなくみんなが行き交って
いたのに、ここだけが異様に静かだった。ゴーストタウン、という単語がよぎった。
「なんか、静かだね」
「セントホワイト祭の準備が忙しいから部室に用事がある人ってそういないんじゃない?」
「…………それもそっか」
 学園祭と違って部の出し物があるわけじゃない。だとしたら僕が暗幕を運ばされたのは、
ただ体のいい遣いっぱしりということ、なのか?
「…………冴原ぁ」
 後で文句の一つでも言ってやろうと思いながら、用件は済んだのでその場を離れようと
した。
「じゃあ行こう」
「うん……」
 原田さんの横を通り先に立って来た道を戻ろうとした時、背後から呼び止められた。
「……やっぱり待って!」
「何? どうかしたの?」
 振り向いて訊ねると、原田さんの視線がそわそわとして定まっていないことに気付いた。
さらに訊いても、まるで僕の声が届いていないみたいだ。
「原田さん?」
「あ、うん……その……ね。今しか、言う機会ないと思うから」
 原田さんは深呼吸を繰り返し、怪訝に見つめている僕に告げてきた。
357125:04/02/19 01:44 ID:fMjW+M40
「言うって僕に? 何を?」
 聞き返すと、原田さんはやはり視線を泳がせ、それから僕を真っ直ぐに見据えた。いつも
と違う雰囲気に、さっき彼女と出会った時と同じく心臓が騒ぎ始めた。
「丹羽くんは、白いリボン持ってきた?」
「リボン? 僕は持ってきてないよ」
「……そっか」
 今朝母さんから受け取るのを拒否したから持っているわけがなかった。だけど学校に来る
途中、別の白いものを用意していた。無意識に手がズボンの後ろポケットに伸びる。少しだけ
感じる盛り上がりが、その存在を主張している。
「なら……私のこれ」
「え?」
 ポケットに向けていた顔を上げた時、僕の目が彼女の差し出していたものに止まった。
「受け取ってくれますか……」
 原田さんの手の平には、純白のリボンが乗せられていた。
「え……」
「一度、丹羽くんの告白断っちゃったけど」
 彼女の言葉が、決まっていたはずの僕の気持ちを大きく揺り動かそうとした。
「勝手かもしれないけど……これが今の私の気持ちです」
358125:04/02/19 01:45 ID:fMjW+M40
 ――僕は、自分の気持ちにけじめをつける。彼女に会って、ポケットの中のものを渡して
告白する。好きだった人への想いを吹っ切ってそうする。
 そのつもりだった。
 なのにその人は、その人からの告白は、僕の決心なんて簡単にぐらつかせた。
 喉がざらつく。
 唾も出てこない。
 動悸が嫌なほど音を立てる。
 こんな心中になるのはいつ以来だろう。これは…………。


 そこで、やっと僕の気持ちは決まった。なんでこんなに不安なのか。こんなに動揺して
しまうのか。
 梨紅さんへの想いが阻まれてしまうこと。それが、怖かったんだ。嫌だったんだ。
「原田さん」
 そうだ。僕の心はもう決まっていたんだ。僕はもう、迷わない。
「……僕は」
 彼女にはっきりと伝えよう。向き合うのを拒んでいた顔を原田さんに向かわせた時、
「――梨紅」
 原田さんが呟いた。彼女の目は僕を越えて背後、ずっと後ろの方を捉えていた。導か
れるように振り返ると、そこにいた彼女と視線が交わった。
「梨紅さんっ!?」
 大声に驚いたように彼女が姿を消す。一瞬しか見つめ合わず、しかも遠目だったけど
確かに梨紅さんだった。
359125:04/02/19 01:46 ID:fMjW+M40
「待って……!」
 すぐに後を追おうと駆け出した足は、上体に引っ張られて止めざるを得なかった。
「原田……さん」
 僕の右手は原田さんの両手にリボンとともに掴まれていた。僕を見つめる彼女の瞳は、
訴えかけるように悲しく潤んでいる。
「先に返事、聞かせて」
「あっ」
「お願いだから……」
 彼女は痛いほど僕の手を握り締めている。返事を聞くまで、離してくれないだろう。すでに
答えを決めていた僕は気持ちを奮い立たせ、沈黙していたら引っ込んでしまいそうなその
答えを口にした。
「ごめん……」
 言った瞬間、ふっと彼女の手から力が抜けるのが分かった。衝撃に打たれた表情の彼女
から、そっと手を引きぬいた。
「僕は、原田さんの気持ちに応えられない」
 返事をしてわずかの後、原田さんは急に顔を晴らした。
「丹羽くん、早く行きなよ。梨紅の後追うんでしょ?」
「へ? あれ? あの」
「あ、ゴメーン。丹羽くんが梨紅のこと好きなの知っててちょっとからかってみただけだから、
本気にしなくていいよ」
 さっきまでの様子との急なギャップについていけない頭は狂った機械みたいにひどく混乱した。
「んもぉ、丹羽くんっ!」
「あ、はいっ」
「早く行かないとあの子見失っちゃうよ? 後悔しちゃうよ? それでいいの!?」
「よ……よくない」
「だったら! 早く行って」
「う、うん。あの……ありがとう」
 よく分からないけど原田さんに、止まっている僕の背中を押されている気がしてついそう
言ってしまった。にこにこ好奇の笑顔を浮かべて手を振る原田さんに手を振り返し、急いで
梨紅さんの後を追いかけた。
360125:04/02/19 01:46 ID:fMjW+M40


 早く大助の背中が視界から消えてくれないかと、笑顔の梨紗は強く願った。彼が見えな
くなるまでは泣かないと決めていたのに、彼が梨紅の後を追うために走り出した時からず
っと双眸から雫が溢れていたからだ。
 大助は一度も振り返ることなくあっという間に廊下の角へと姿を消した。
「…………」
 しばらくしてから手を振るのをやめ、膝を折ってしゃがみ込んだ。彼女は、大助の手が
離れた時に一緒に床に落ちた白いリボンを拾い上げた。役目を終えたリボンを強く胸に抱
きしめ、ようやく声を上げて泣き出した。
 一つの恋が、終幕を迎えた。


361125:04/02/19 01:47 ID:fMjW+M40
 いつからだろう。彼女を好きになったのは。夢の中でも考えたことだ。
「福田さん、石井さん、梨紅さん見かけなかった!?」
「梨紅? 私は見てないけど。真里は?」
「わたしも見てないよ。うわ、丹羽くん汗かきすぎ」
「ありがと、じゃあっ」
「…………なんか、頑張ってるね」
「ふむぅ、青春ね青春」
 14歳の誕生日、初めて梨紅さんとえっちをしてしまった時。予期せぬ事態とはいえ、あの
時から僕の中で大きな変化が起きていた。
「沢村ぁぁっ!」
「ん? 何か用?」
「あっ、あのだなっっっ、そのっっっっっ」
「西村、沢村さんっ」
「丹羽くん!? あたしに何か用なの? もしかして白いリボン?」
「梨紅さん見かけなかった!?」
「原田姉さんか? オレは見てないぞ。っていうかオレの邪魔をするな」
「ありがと、じゃあっ」
「どうしよう、あたしリボン貰う気なんてないんだけど、まあ丹羽くんがどうしてもって言うなら……」
「貰ってくれるのか!? マジか沢村っっっ!!?」
「あんたじゃないわよっっっっっ!!!」
 長かった……。あの時から今日まで、とっても。答えを見つけるのに、時間をかけすぎたの
かもしれない。
「冴原、関本、梨紅さん見かけなかった!?」
「原田姉? さっきお前のこと捜してたぞ」
「そういやさっき向こうの方に走ってったぞ。冴原は見てなかったのか?」
「悪りぃな。俺は自分の仕事だけで手一杯だ」
「ありがと、じゃあっ」
「…………なんか必死だな」
「ま、いいんじゃねえの?」
「ところで丹羽、俺に白いリボンをくれないか?」
『寝てろよ変態』
 今は早く、少しでも早く、すぐにでも胸の内にある想いを伝えたい。
362125:04/02/19 01:48 ID:fMjW+M40
 梨紅さんを追いかけ、僕は外に飛び出していた。いつ降り始めたのか、雪が微かに地面
に降り積もっている。すぐにでも土に解けて還りそうな雪の上に、まだ新しい靴跡が残って
いる。考えもせずにその跡を追っていくと、それは校舎の裏手、人気のない方へと続いてい
た。そこはついさっき原田さんにからかわれ、そして彼女を追い始めた部室棟の雰囲気と
似ていた。
 そしてそこに、足跡の終着点に彼女はいた。背を向けているけど、紅い短髪は彼女に違い
ない。呼吸を整え、足を進めた。
「丹羽くん……」
 足音で気付かれたのか、それとも気配を感じたのか、梨紅さんは背を向けたままだ。
「梨紅さん、あの」
「どうして?」
「どうし……?」
「どうして追ってきたりするの……」
「それは」
「梨紗に告白されたんでしょ! だったらそれでいいじゃん!」
「それで……よくなんかないよ」
「なんで!? 丹羽くんは……丹羽くんは梨紗が好きなんでしょ!」
「違うよっ!」
 彼女が息を呑むのが聞こえた。少しの沈黙、僕はそれを破った。
「今……今僕が好きなのは、梨紅さんだよ」
363125:04/02/19 01:49 ID:fMjW+M40


 ――それからまた沈黙、次にそれを破ったのは、梨紅さんのしゃくり上げる声だった。
「り、梨紅さん!? なな、何で泣いて……! もしかして嫌だった」
「やじゃないわよ! …………嫌じゃないからぁ、泣いてるんのっ」
 最後にバカ、と涙声で付け足された。泣きじゃくる女性の扱いなんて知らない僕は原田
さんにからかわれた時と同じくらいどうしていいか分からなくなってしまった。
「あ、あ、あ、そうだ!」
 ズボンのポケットに手を突っ込み、梨紅さんに渡すつもりのものを取り出して彼女に歩み
寄った。
「あのこれ、これで涙拭いて……っ!」
 身体を小さく震わせる梨紅さんが肩越しに僕を見やった。赤く染まる瞳と顔に、降り続ける
雪を溶かしてしまいそうなくらい僕の身体は熱くなった。僕を見る彼女の目が手にしている
ものに移る。
「……ハンカチ?」
「あ、うん。本当はリボンがいいかなって思ったけど、実は売り切れちゃってて……」
 母さんの申し出を断ったくせに白いリボンを探したけど、結局見つからずにハンカチに
してしまった。けど、ハンカチのおかげで梨紅さんに白い贈り物を渡すきっかけができた。
 涙を手の甲で拭って向き直る彼女に訊いた。
「受け取って……くれますか」
 今まで見たことのないとびっきりの彼女の笑顔を僕は目にした。
「はいっ」


 二人が抱き合うところを、雪だけが暖かく見守っていた。
 季節は冬、誰もが胸を躍らせる年に一度のSt.Whiteの前日のことだった――



364125:04/02/19 01:51 ID:fMjW+M40
駆け足&えっち分少な目かと思いますがおしまいっす。ではでは
365名無しさん@ピンキー:04/02/19 02:26 ID:dFSM9wN8
長期の連載、お疲れさまでした。
これからも何処かのスレで巡り会えますように。
366名無しさん@ピンキー:04/02/19 05:23 ID:kCZmSpQZ
お疲れ様でした〜!!!
とうとう終わってしまいましたね・・・寂しいですね〜
長い間、楽しく読ませていただきありがとうございました!!
367名無しさん@ピンキー:04/02/19 05:23 ID:NymYgZ0D
お疲れ様です。
むしろまたこのスレで出会えますように。
368名無しさん@ピンキー:04/02/19 09:18 ID:wmCVo2LM
お疲れ様です。
とっても楽しかったです。

っていうか、コレ本にしません?

では、次回作を期待してうわなにをするやめろ
369名無しさん@ピンキー :04/02/20 00:37 ID:VJL+9O7f
お疲れ様です。
今までありがとうございました!
370名無しさん@ピンキー:04/02/20 01:06 ID:MVlGoeJz
長い間お疲れ様でした
貴方の作品に出会えて本当に良かったです
371名無しさん@ピンキー:04/02/20 20:01 ID:bcY8Fusp
最後まで原田姉妹とのえちぃもなくプラトニックを貫いたような?w
ってか、結局梨紅なのね・・・
基本的に梨紅のほうが好きだけど、このSSに限っては梨紗に勝って欲しかったようなw
372名無しさん@ピンキー:04/02/20 20:33 ID:AeaE21DZ
自分はなにげに甲乙つけ難く梨紗も好きなんだけど、醍醐味は
想いが実らないところにあると勝手に思っているのでこれで満足。
373名無しさん@ピンキー:04/02/20 21:55 ID:ddZ8EViF
>>371
いや、梨紅とは最初にやっちゃってるでしょ
本人は気付かないままw

個人的にはそこら辺をフォローするような後日談が欲しかったりもするんだが。
本人は初めてと思ってたのに痛くなくて血も出なくて。
で、大助が正直に告白するのかどうかとか。
374125:04/02/21 00:28 ID:fUMfq4XC
たくさんの感想ありがとうございます。本当に嬉しいです(つд`)

>>368サソ
本!?Σ (゚Д゚;)
そこまで喜んでもらえたのは嬉しいですが、さすがにそこまでは・・・
それにそんな環境ありませんしw

>>371サソ
結末は、自分が梨紅派ですからこればっかりはどうしようも・・・。スミマセソ。
いつになるか分かりませぬが>>373サソが言っている後日談っぽいのでご勘弁を。

久々に長めのレスをしてしまいました。では以下いつもどおりに戻りますです。
375125:04/02/21 00:29 ID:fUMfq4XC
>>269
「大地くん。お背中流してくれる?」
檜の風呂椅子に座す梨紗おねえちゃんにお願いされ、大地は嬉しそうにおねえちゃんの
背中を洗い始めた。長い髪が邪魔にならないよう前に回しており、のぞくうなじが色っぽいが、
大地にはまだその色気は理解できない。
少年からすれば少し大きく感じられる背中を一生懸命ごしごししていると、梨紗おねえちゃん
は気持ち良さそうに笑ってくれた。
「上手だね。毎日お母さんにしてるの?」
「うん! ママも上手だって褒めてくれるんだよ」
「そうなんだ。それじゃ前もお願いしちゃおっかなぁ」
大地が少し目を丸めた。梨紅ママの背中はもっと時間をかけて洗っているのに、梨紗おねえ
ちゃんは早々に背中洗いを終わらせたから、というのもあるが、前を洗ってと頼まれたことは
梨紅ママはもちろん、大助パパにもなかったからだ。
「前……? 僕、洗ったことなんてないよ」
「いいのいいの」
梨紗おねえちゃんがくるりと身体を回し、その時初めて大地は梨紗おねえちゃんの胸をごく
近い距離、まさに目と鼻の先で見た。
大地の顔ほどはあろうかという大きな胸二つ。そこだけに釘付けになってしまう。
「早く洗って大地くぅん」
身体をくねらせおねだりすると、動きに合わせて大きな胸が左右に震える。梨紅ママと一緒に
入るお風呂でおっぱいは見慣れているはずなのに、梨紗おねえちゃんのおっぱいには梨紅
ママには感じたことのないどきどきが……梨紗おねえちゃんに苛められていたときと同じ鼓動
の高鳴りがある。
「洗ってくれないの? なら私が大地くん洗ったげるね」
大地の返事を待たずに梨紗おねえちゃんは膝の上に座るよう促した。かっちんこっちんに緊張
している大地はぎこちない動作でちょこんとそこに尻を乗せる。
376大地のどきどきお泊り:04/02/21 00:30 ID:fUMfq4XC
「可愛いお尻……。ちょっと待ってね」
 大地は少しだけ待たされ不思議に感じていると、後ろから梨紗おねえちゃんが身体をこする
音が聞こえた。
「はぁい。それじゃ洗いましょうね」
「わ……っ!」
 背後から身体に腕を回され、優しく、そしてしっかりと抱き締められた。背中に当たる柔質の
感触。梨紗おねえちゃんの胸がぴったりと形を変えてひっついている。
「ごしごしするからね」
 身体を密着させたまま梨紗の身体が大地の背を滑るように這い回る。大地を待たせている間
に身体中にボディソープを塗りたくっていたため、二人が擦れ合う部位は多量の泡を生み出し
ていた。
「どう? ちゃんと洗えてるかな?」
「う……うん」
 梨紗おねえちゃんはわざととぼけた質問をし、大地の反応を楽しんだ。大地にはもちろんちゃん
と洗えているかなど分からない。ただ、背中から伝わる柔肉の感触に性感が一気に高まっていく。
「っあ、……」
 腰の辺りに回されていた梨紗おねえちゃんの手が大地の身体を探り始めた。線の細いながら
引き締まった身体は父親に似ているな、と梨紗おねえちゃんは思った。なぜ大助の身体を知っ
ているかは言わずもがな。
 しなやかな指が腹筋の浅い割れ目、へそを通り、ゆっくりと上へ進む。同時に大地の興奮も
急激に高まる。
「ああっ!」
 両の胸の先端部にそっと触れられたことで一気に欲情が膨らんだ。数度におよぶ放出で力を
失っていた股間にまた血液が集まりだした。
「まあ。もう元気になっちゃうなんて……」
 大地のたくましさに梨紗おねえちゃんは感嘆の溜め息を吐いた。
「あん、隠さないで」
 力を注がれた股間に反射的に両手を伸ばして隠そうとするが、それより先に梨紗おねえちゃん
の指が大地のお肉をきゅっと握りつけた。小さな棒の先端が掌に収まりきれずにはみ出している。
377大地のどきどきお泊り:04/02/21 00:31 ID:fUMfq4XC
「はぅっ……」
「ふふ。可愛らしい声ね」
 梨紗おねえちゃんの手が天井を向く竿を上下にしごきだした。擦る度に泡が生まれ、梨紗
おねえちゃんの手の動きは徐々に速くなっていく。
「あぅ、おねえちゃっ、変になっちゃぅっ!」
「いいんだよ、出してっ! おねえちゃんの手の中に大地くんいっぱい出して!」
 大地の喘ぐ姿に梨紗おねえちゃんも昂ぶり、表情も大地に合わせて絶頂を迎えるように
歪んでいく。
「出るッ、おねえちゃん出ちゃうよっっ!」
 大地に射精の快楽が押し寄せる。勢いよく脈動し放出する先端を指が絡めとり、白い粘液
をその手で受け止めた。
「よかったよ……大地くん、若いわね」
 大地の絶頂が嬉しく、彼女までオーガニック的な何かを感じ息を荒げていた。限界まで搾り
取られた大地は身体中の力が抜け、梨紗おねえちゃんに体重を預けた。
「気持ちよかったでしょ?」
「うん……」
「よかった。ね、これからどうする? お夕飯? それとも……もっと気持ちよくなる?」
「え……?」
 大地は耳を疑った。これまででさえあんなに気持ちよかったのに、それ以上のものがまだ
あるなんて信じられなかった。
「お腹空いちゃった? ご飯食べてからにする?」
 確かに空腹を感じていた。しかし高揚した気分はさらにさらにと貪欲に快楽を求めた。
「……僕、もっとしたい……」
「そう、分かったわ。お風呂上がって、おねえちゃんのお部屋に行きましょ」
 とても恥ずかしい気持ちがして俯く大地に、梨紗おねえちゃんは甘く囁いた。
378名無しさん@ピンキー:04/02/21 00:32 ID:ln3guoXc
わりぃ、細かいこと言い過ぎた(汗
379125:04/02/21 00:32 ID:fUMfq4XC
今回はここまでです。
380名無しさん@ピンキー:04/02/21 04:22 ID:sYeHFAUh
エロイノキタ──(゚∀゚)──!!
381371:04/02/21 23:23 ID:O9kDvCq5
>>374
いえいえ、元が梨紅派なので充分楽しめましたとですよ

欲を言えば、梨紅と梨紗の両方落とし…うわーなにをするやめろー
382名無しさん@ピンキー:04/02/24 23:18 ID:Q/10Dp4E
ほすしとこう
383大地のどきどきお泊り:04/02/27 02:05 ID:0xJ/JCAy
>>377
梨紗おねえちゃんの部屋に連れてこられてから、大地少年はずっと押し黙っていた。口を
開いてしまえば、そこから一気に水分が干上がってしまいそうだったからだ。
「よいしょっと」
梨紗おねえちゃんがベッドに腰掛ける。全裸である。
「…………」
もちろん大地も。二人だけだから平気よね、と言われ、何も返す言葉がでないうちに手を
引かれて部屋に足を踏み入れていた。
「こっちにおいで。横に座って」
梨紗おねえちゃんの左側に座るよう催促され、ふらふらふわふわとした意識と足取りでそこ
にお尻を預ける。
「もっと引っ付こうよ」
「あっ……」
大地が無意識のうちに作っていた間隙は梨紗おねえちゃんの積極的なアプローチの前に
崩れ去り、寂しさを感じていた肌は右半身だけとはいえ、暖かみに包まれた。
「気持ちいいこと、したいんだよね?」
「う……うん」
「おねえちゃんもよ。大地くんと気持ちいいことしたかったの」
梨紗おねえちゃんの伸ばした手が大地の脚の間にある小さな突起物に絡みつき、幾度の
責め苦により疲れ果てたそこにまたもや刺激が与えられる。
「あぅっ」
「ふふ。やりすぎちゃったからかしら、少し辛そうね」
梨紗おねえちゃんの言うとおり、大地の中にあったのは微かな快感と、それを覆い潰すほど
の痛みだった。
「大丈夫だよ。すぐいい気持ちにしてあげるから」
梨紗おねえちゃんは上体を折り曲げると、すっかり萎えきり包皮に包まれた大地を根元まで
そっと頬ばった。
384大地のどきどきお泊り:04/02/27 02:06 ID:0xJ/JCAy
「うぅッ……お、おねえちゃんっ」
人生二度目の奉仕に身体全体が震え上がった。口腔の熱く濃密な刺激にすぐさま血液が
集まりだした。自分の中で大きくなってくるのを確認した梨紗おねえちゃんは顔を上げて行為
をやめた。口から放り出された大地には外の空気がとても冷たく感じられた。
「それじゃベッドに横になって。仰向けにだよ」
破裂しそうな心臓と股間を抱えて大地は梨紗おねえちゃんのベッドに仰向けになった。皮を
被る大地の小物はへそをぴんっと指している。
「あはっ、前戯の必要なんてないみたいね」
一度だけ大地をきつくしごき、包皮を反転させた。
「ひゃう! ああ!」
「これで準備オッケーよ。さ、二人で気持ちよくなろうね」
梨紗おねえちゃんは大地の上に覆い被さり、水平に固くなっていた赤く腫れ上がった一物を
握り締めて天に向けた。ぴとりと頭が触れた場所は、梨紗おねえちゃんの女芯である。
梨紗おねえちゃんの熱く湿った息遣いがそこを通して伝わってくるような錯覚がする。
「おねえちゃんに全部任せて。大地くんのおちんちん、すっごく気持ちよくしてあげる
から」
「お、おねえちゃん」
一体自分が何をされるのかよく分からない大地は不安そうに見つめていたが、やがて梨紗
おねえちゃんの言葉が届いたのか、緊張が和らぎ少しだけ力が抜けた。
「いい? それじゃ入れるよ。よく見ててね」
梨紗おねえちゃんの手に導かれ、濡れそぼった陰裂の中へといざなわれた。
「はあ、おねえちゃん……っ」
「分かる? 入っていってるのちゃんと分かる?」
さらに腰が沈んでくる。梨紗おねえちゃんの秘孔の肉襞が大地の全身を嬲りながらスムーズ
に咥え込んでいった。
「ああ、ダメェっ!」
下半身に梨紗おねえちゃんの重みを受け止めた時、大地は呆気なく限界を迎えた。根元まで
挿入された肉棒が胎内で暴れるのを感じながら、梨紗おねえちゃんは姉の子どもを犯したこと
と少年の貞操を奪った背徳感に身を焦がしていた。
385大地のどきどきお泊り:04/02/27 02:07 ID:0xJ/JCAy
「大地くん……私の中でぴくぴくしてる」
「あ……はぁぅ……」
「疲れちゃった? でももう少ししようよ。ね?」
梨紗おねえちゃんの下でぐったりする大地の腕をしっかりとベッドに押さえつけ、開放の
余韻に浸る大地の動きを封じると中で萎え始める小さなものをきゅっと締め上げた。
「うあっ! おね、おねえちゃ……っ!」
絶頂を迎えたばかりの大地の先端は刺激に対して非常に敏感になっていた。大地が感じ
るのは快感を通り越し痛みへと昇華していた。梨紗おねえちゃんの下から逃れようと身を
よじるが、女性とはいえ大人の力に、子どもの大地が勝てるはずもなかった。
「ダメよっ! おねえちゃんが満足するまで、逃がさないからね」
「ひゃぁッ――」
箍が外れたかのように梨紗おねえちゃんは大地を蹂躙する。初めての経験はそのまま拷問
へと形を変えて大地を襲った。
その日は一晩中腰の上で梨紗おねえちゃんが踊り狂い、あそこが擦れて腫れて感覚がなく
なるまで吸い尽くされた。


大地のお泊り一日目終了〜

386125:04/02/27 02:11 ID:0xJ/JCAy
ここまでっす
大地にこんなことやって欲しぃ!っていうのありますか?
387名無しさん@ピンキー:04/02/27 12:52 ID:CJz+NpNx
いやー、相変わらず激しくGJっす。

リク>様子を見に来たトワちゃんを梨紗の策略で巻き込んで…ってのはどうでしょ?
388名無しさん@ピンキー:04/02/27 18:37 ID:Z7ONdhSM
変わらずの更新ご苦労様です〜。

>>387
そういえば、トワちゃんってやっぱりまだ丹羽家に……いるんだろうなあ。
389名無しさん@ピンキー:04/02/27 23:35 ID:+VgAllwQ
>>388
IDがSM・・・
390名無しさん@ピンキー:04/02/28 19:04 ID:rxuwe7QX
三桁に入ったトワちゃんに期待!!
え?なにが三桁かって?
そりゃあもちろん、ねんれうわなにをするとわちゃんやめ
391名無しさん@ピンキー:04/02/28 21:52 ID:+WdVdRpx
≪390様に鳥になる呪いが掛けられました≫
392125:04/02/29 00:07 ID:DbrNAgkc
「はぁぁ、忙しいですわ忙しいですわ忙しいですわ忙しいですわ」
実はそれほど忙しくもないのだが、家に一人(+一匹)だけという悲しい現状は丹羽家
メイド・トワちゃんの独り言を必然的に多くさせていた。
ぱたぱたと廊下をせわしなく駆け回っているのだが、それほど慌てなくてもいい。だって
独りなんだから。
「お掃除は終わりましたわよね? 朝食の片付けも終わりましたわよね? 後は後は……
そうそう花○マーケットを見なくちゃいけませんわ」
誰も居ないのをいいことに大胆にもソファにダイブ。そのまま横になりリモコンを手にして
テレビをつける。
「はふぅ……幸せですわぁ」
いつも笑子おばあちゃんや梨紅ママのお手伝いをしているトワちゃんにとって、独りというの
は寂しいものであり、また幸福なものでもあった。ソファで嬉しそうに顔を緩めるトワちゃんは、
とても(自主規制)歳には見えない。
少女のようでそうではなく、かといって到底大人の女性にも見えないところがトワちゃんの
変わらぬ魅力だったりする。
すっかりお歳を召した薬○くんをぼんやりと眺めているとそこに電話がかかってきた。
「あん、もう。はいはいすぐ参りますわ」
とてとてスリッパを響かせて駆け、受話器を手にする。
「はいもしもし丹羽です……あらあら梨紗ちゃん。ええ、お久しぶりですわ。大ちゃんは元気
ですか? あらそう。うんうん……………………すぐに行きますわ!!」
受話器を投げ捨てるように置くと脱兎の如く自室へ駆け込んだ。五秒後、手にははち切れん
ほどに膨らんだ見慣れぬ手提げ袋を携え、メイド服のまま丹羽家を飛び出した。
「ウィズ留守番頼みますわよおぉぉ……」
という無責任な台詞を残して。

393125:04/02/29 00:09 ID:DbrNAgkc
「どこに電話してたの?」
朝食を終えてリビングでくつろいでいた――のに加えて昨日の疲れを癒していた――大地が、
受話器を置いた梨紗おねえちゃんに訊ねた。
「ちょっとお手伝いさんを呼んだの。すぐ来ると思うわ」
「お手伝いさん? 坪内のおねえさん?」
坪内のおねえさんとは、執事業を引退した坪内さんに代わって坪内のおねえさんが新たに
原田邸のメイドさんである。僕より年上のおねえさん、という認識しか大地にはない。
「いいえ。大地くんもよく知ってる人よ」
言葉と同時に家中に鳴り響くチャイムの音。
「あら、もう来たのかしら。さすが一流のメイドさんだわ」
梨紗おねえちゃんがリビングを出、そして数秒もせぬうちに戻ってきた。
「大地くん、今日から私と一緒に大地くんのお世話をしてくれる人を紹介するわね」
手招きされてリビングに姿を現した人物に大地は口から朝食が出そうなくらい驚いた。
394125:04/02/29 00:10 ID:DbrNAgkc
「大ちゃんおはようございますですわっ!」
「トワちゃん! ど、どうしてここに?!」
「先ほど梨紗ちゃんに呼ばれましたの。ぜひぜひわたくしの手を借りたいということですので」
「でも、さっきの電話から一分も経って…………ええっ!?」
通常ではありえない出来事に狼狽する大地を置いてきぼりにし、梨紗おねえちゃんとトワちゃん
は嬉々とし合った。
「今日は呼んで頂いて心より感謝いたしますわ。わたくし、一度でいいから大ちゃんにあんなこと
やそんなことをしてみたいと思ってましたの」
「いいのよ気にしないで。私一人で独占なんて、そんなのもったいないから」
話しながら時折り大地に向けられる視線にはひどく熱が篭っているが、大地はまだ状況を呑み
込めずに混乱が続いていた。
「じゃあ早速二人でお掃除を始めましょうか」
「そうですわね。あ、ちょっとお待ちください。わたくし大助と梨紅ちゃんのお部屋からいろいろと
物資を調達してまいりましたの。これを使いましょう」
「二人が使っている道具? ああ……なんか、こう……興奮してきたわ」
「わたくしもですわ。それでは念入りにお掃除を始めましょう。念入りに」
トワちゃんが持っていた手提げ袋の中を梨紗おねえちゃんと一緒に探り始める。その様子を大地
は不安げに、逃げ出したい気分で、だけどじっと見守っていた。昨日と同じどきどき感……一体
どんな道具が飛び出してくるのだろうか。
395125:04/02/29 00:12 ID:DbrNAgkc
ここまでっす。
こんな感じでいろいろ大地をいじっていきますです。
396名無しさん@ピンキー:04/02/29 03:22 ID:lZzM4x22
対応はやっ!
397390:04/03/02 00:47 ID:Ikclwczm
ピピチュンピピ―――(・◇・)―――!!
(トワちゃんキタ―――(・∀・)―――!!)
398名無しさん@ピンキー:04/03/07 11:12 ID:ZxjJVeoH
保守りますがいいですねっ?
399125:04/03/07 23:25 ID:JeOp2Jv5
 ――十二月二十九日、午後九時。人の群れがざわめき合い、そこを埋め尽くしていた。
「今入った情報によりますと、すでに怪盗ダークは美術品『聖天使の杯』を盗み出し…………
あ! 上をご覧ください!」
 白熱する州崎由希のレポートはカメラを通してお茶の間に届けられていた。カメラが素早く
ティルトアップすると、空は無数のライトで照らされていた。
 エスヴィール美術館最高部から伸びる旗棒の頂端にライトの焦点が合わされる。その場に
一瞬だけ照らし出されたのは、人影だった。いや人と呼ぶには少し違う。黒髪黒服、全身黒ず
くめ。右手には細長い棒状のもの、左腕には丸い板、手には黒い筒状――丁度『聖天使の杯』
が入るほど――の物体。加えて、背から生える一対の黒翼。それが彼を人とは呼べない存在
にしている。
「き、消えました! 確かにあそこにいたはずですが、今忽然と姿を……」
 姿が消えた。そのことで周囲の人だかりは一際ざわめきを大きくする。事が終わってからも
しばらく、美術館周辺だけは異様なほど熱気と興奮が渦巻いていた。






400125:04/03/07 23:26 ID:JeOp2Jv5
「丹羽大助っ!!」
「ぅわ……」
 お腹の上に重みを感じたと同時、頭に音ががつんと響いた。眠っていた脳が突然の
衝撃で叩き起こされる。
「朝ですわよ、早く起きてください」
「うぅ……ん」
 しょぼしょぼする瞼を開くと、トワちゃんの顔がすぐ目の前にあった。
「……トワちゃん」
「何です?」
「口が臭いイタイイタイッ!」
 身体を挟むトワちゃんの脚が万力みたいに締めつけてくる。
「そんなこと言ってますと毎朝の処理をして差し上げませんわよ?」
 苦痛にもがいているところに言葉を浴びせてくるトワちゃんの眉がぴくぴくと小さく震え
ている。
「ごめん、もう言わないから早く退いて……」
「ではもう一回抜いて差し上げましょう」
「ええっ! いいってばもう」
「よくありません。わたくし少々お腹が空いておりますの」
「はぅんっ」
 トワちゃんが後ろに伸ばした右手が僕の局部に這わされた。指の温もりが直に伝わり
ぴくっと反応してしまう。
「って、ずっと僕の出しっぱなし!?」
「細かいことは気にしないでくださいまし」
「初めっからこうするつもりだったの!?」
 トワちゃんはにこにこしてるだけで耳を貸そうとはしてない。下半身で巧みに動くトワちゃん
の指先に僕の意識は……。
401125:04/03/07 23:26 ID:JeOp2Jv5
「こらちょっと待て」
「ぐぅっ!」
 いきなり僕の胸に何かが降ってきた。
「さ、さっちゃん……」
 声とともに顔に降りかかる細い髪の毛を払いのけながら、今しがた出現した幼女の背に
声をかけた。
衣服は身に着けて現れることができるはずなのに、なぜかいつも裸だったりする。
「あら? ここはお子様が出てくる場面じゃありませんわよ」
「だまれ! このよわい百年のろうばめ」
「むきっ! 生意気ですわ生意気ですわ! こうなったら実力で排除してあげます!」
「おもしろい。かかってこい!」
「…………あの、人の上で暴れないで」
『うるさいっっ!!』

402125:04/03/07 23:27 ID:JeOp2Jv5
 結局、僕が追い出されるかたちでベッドから降りた。
「あ、ご主人さま」
「レムちゃん? 机の下で何してるの?」
 ごそごそ音を立ててそこからでてきたのはレムちゃん……彼女も裸である。
「さあ? 気がついたらここで寝てたんですよ」
「…………そうなんだ」
「そおなんですよ。なんででしょうか?」
「さあ? なんでだろうね……」
 魔力が高まってきたせいか、ここ最近二人が幼女姿で現出できるようになって、これまで
以上に疲れる日々が続いていた。
「風邪引いちゃう前にベッドに入ってた方がいいよ」
「いいんですかぁ? ありがとうございます」
 礼儀正しくぺこりと一礼し、レムちゃんはそそくさとベッドへ上っていった。
「うきゃぁぁぁっっ!!」
 どうやら二人の争いに巻き込まれたらしい。部屋を出る時、ウィズはどこに行ったのかと
頭をよぎりちらっと振り返ると、ベッド上で暴れ騒ぐ三人の下、布団から白いものがはみ出
しているのが見えた気がした。
「…………たくましく生きてね。ウィズ」
 思いっきり晴れやかな顔で呟いて階段を下りた。
403125:04/03/07 23:28 ID:JeOp2Jv5
 朝食を終えてごろごろした後、部屋に戻って着替えて――ベッドの上で二人はまだいがみ
合っててレムちゃんが巻き込まれてて、ついでにウィズらしき白い毛玉も見えた――から
リビングのソファに座って薬○くんが司会をしている花○マーケットを見ている母さんに声
をかけた。
「ねえ母さん」
「どうしたの?」
「今年はもう仕事はないんだよね?」
「ええ。昨日のお仕事でおしまいよ」
「じゃあ今日はちょっと遅く帰ってきてもいいんだよね?」
「ええ。あまり遅すぎない時間なら……お出かけするの?」
「あ、うん。ちょっとね」
「ふぅん……」
「え……なに?」
 母さんに上から下まで嘗め回すような視線を向けられて少し息苦しさを感じた。
「別にぃ。ただ昨日は帰ってきてからずぅっと原田さんのお宅に電話してたなって思った
だけよ」
「あ……そ、そう?」
「どっちの子と会うのかなぁ……。梨紗ちゃんかしら。それとも梨紅ちゃん」
「いい、行ってきますっっ!!」
 獲物を嬲ることを楽しむハンターのようなじりじりした重圧に耐え切れずにリビングから
逃げて家を出た。外に踏み出した瞬間、肌を刺す冷たさに身体の芯まで震え上がった。
「早く行かなきゃ。遅れたりしたらしゃれになんないよ」
 駆け足で待ち合わせ場所の噴水公園に向かった。
404125:04/03/07 23:30 ID:JeOp2Jv5

 丹羽家のリビングに大助と入れ違いに小助が姿を見せた。
「おや。大助は出かけたのかい?」
「ええ。小助さんが入ってくる前に慌てて出て行っちゃったわ」
 笑子の言葉尻が弾んでいることに小助はすぐに気がついた。
「嬉しそうだね。なにかあったのかい」
「あら分かる? ふふ。大ちゃんも成長したなって思ってたの」
「気になるなあ。教えてくれないかい?」
「ダーメ。秘密よ」
 小助は小さく苦笑いを浮かべて笑子の横に腰掛けた。
「さ。今日はちょこっと豪華なお夕飯にしちゃおうかしら」
「残念じゃが」
 冗談交じりの台詞を否定する声がリビングに木霊した。リビングの戸を開けて入ってき
たのは丹羽大樹だった。
「そうはいかんようになった。大助にはもう一仕事してもらわねばならん」
 低く響く声に、笑子も小助も尋常でない空気を感じていた。


405125:04/03/07 23:31 ID:JeOp2Jv5
 午前十時二十分。待ち合わせの時間より十分早く着いた。僕が先に着いただろうと思った。
「丹羽くん、こっちこっち」
 だからそこに彼女の姿があったのは以外だった。手袋に包まれた手を大きく振って僕の
名前を呼び、周りの人の視線が集まって少しだけ恥ずかしかった。梨紅さんが可愛いから
全然嫌だと思わないけど。
「おはよう丹羽くん」
「う、うん……おはようにはちょっと遅いんじゃないかな」
「あはは。そだね」
 頬を赤くして微笑む梨紅さんに頭が沸騰しそうなくらい照れてしまう。可愛すぎる。
「顔が赤いよ? 具合でも悪いの?」
「え? い、いや全然! 元気だよっ」
 それに梨紅さんだって顔赤いよ。そう言い返すと顔をさらに赤くして俯く梨紅さん。……
……ダメだ、考えただけで鼻血が出そうだ。
「早く行こ。どこに行くかは丹羽くんにお任せだからね」
「…………はっ、そうだねうんうん。じゃあ行こっか」
 いけないいけない。危うく空想世界に行ってしまうところだった。梨紅さんと並んでまずは
商店街方面に向かった。今日のためにいろいろ考えてきた。あのお店に行って、それから
お昼を食べて、それでそれで…………。ああ、もう頭の中で思い浮かべるだけで幸せすぎる。
 こうしてちょっと危ない妄想を浮かべつつ、僕と梨紅さんの初デートは始まったのだった。

406125:04/03/07 23:32 ID:JeOp2Jv5
 海岸から吹きつける風をものともせず、冴原剛はカメラを構えてシャッターを切っていた。
海に面した道路で彼が撮っているのは、道行く女性の姿である。もちろん気付かれないよう
細心の注意を払い、景色など撮りつつ流れるようなカメラ捌きで女性を盗撮していた。
「寒みいなあ……冬の風は心に染み入るぜ」
 それは独り言ではない。横にいる友人に聞こえるように口にした。
「まったくだ。それに心だけじゃない。俺達の場合は財布の中も寂しいからね」
 日渡怜はズボンのポケットに手を突っ込んだが、そこには中身がすっからかんの財布が
あるだけだった。
「今年は金使いまくっちまったからな。いらねえ物まで買っちまったぜ」
「それだけじゃない。今年の夏以降、あるサークルが恐ろしい速さで成長している。このまま
では俺達がとって喰われるかもしれない」
「ああ、そのサークルのことなら少し調べといたぞ。そこの新人がかなり評判いいみてえだ。
確か名前は千……千堂……武士? いや和……なんとかってやつだ」
 その後も二人は活動についての話し合いを仲睦まじく進めた。気のせいか、普段より活き
活きしているように――特に日渡が――見える。
407125:04/03/07 23:33 ID:JeOp2Jv5
「なあ、そう言えばよ」
 話が一区切りついた時、冴原はカメラを海岸沿いに向けてファインダーを覗き込んだ。
「今日はいやに水位が低くねえか?」
「ああ……そうだな」
 二人が目にする海は、確かに三メートル以上水位が下がっていた。見慣れぬ現象に冴原は
訝しげな表情を浮かべるが、日渡は至って冷静だった。
「気にすることはない。これは月の引力のせいだ」
「月ぃ?」
「そうさ。潮の満ち引きは月の引力が原因なんだ。これもそのせいだ、間違いない。それに昨日
辺りから俺の下腹部も少し疼くように痛んでね……」
「生理かよ!? ってかお前男じゃねえか!!」
「ふ。身体はそうでも、俺のハートは純粋な乙めごこ」
「それ以上言うな! きもい、果てしなくきもいぞ!」
「失礼なやつだな。ふふふ」
「その含み笑いもやめいっっ!!」
「こうなると俺は見境がないからな。気をつけろ」
「のわあぁぁぁぁっっっっ――――」

 こうして少しずつではあるが、東野町に起こり始めた異変は次第に広まっていくことになった。
誰もが気付いた時には、すでに事態は手遅れとなっている。
408125:04/03/07 23:34 ID:JeOp2Jv5
 原田梨紗と福田律子と沢村みゆきの三人は年末のためにカップルだらけの、カップルしか
いないオープンカフェテラスでケーキを頂いていた。もちろん三人はレズではないしカップル
でもなければ三角関係のもつれでさえない。
「はぁ……」
「溜め息なんて吐かないでよ」
「だってぇ」
「だって何よ?」
「女三人でいても面白くないんだもん」
「……」
「……」
「……」
『はぁ……』
 不平をぐちぐち漏らしていた梨紗に交互に返していた律子とみゆきも揃って溜め息を吐い
てしまった。それほど三人は憂鬱だった。
「いいよねぇ。梨紅も真里も今頃デートの最中でしょ?」
「うん」
「はぁあ。二人は勝ち組で、私達は負け組なんだよねえ……」
「ああっ! 私がもっと早く勝負に出ていれば今日この日、勝ち組は私だったのにぃ!」
 頭を抱え嘆き叫ぶ梨紗の背中を律子が優しく撫で、共感するように涙を流して同意しまくった。
「――今更後悔しても負け組は負け組だけどね」



 投げつけられた言葉に二人は固まった。熱々に燃え上がっていたところに液体窒素を浴び
せられたように心も身体も硬直した。毒を吐いた当人はそっぽを向き、目を座らせてケーキを
ぱくぱくと口元へ運んでいた。
409125:04/03/07 23:35 ID:JeOp2Jv5
「いつまでも女々しくしてないで、さっさと前向いて生きてった方がマシよ」
 彼女らしいさばさばした意見であるがここで人生観を出されても困ってしまう。言葉に窮しかけ
たが負けじと梨紗は訊き返した。
「じゃ、じゃあそう言うみゆきはもう丹羽くんへの煮え滾った情熱を忘れちゃったの?」
「………………………………………………………………………………………………………
……………………………うん、もちろんよ」
「何よその間は! 今絶対迷ったでしょ!?」
 梨紗の的確な指摘にみゆきは立ち上がって強く言い返した。
「失礼なこと言わないでよ!」
「みゆき、怒るとしわが……」
「律子は口出さない!」
「な、なんでぇ?!」
「あら、律子に当たるなんて……やっぱり図星でしょ?」
「違うわよ! 大体ねえ、そんな気持ち抱えてちゃ梨紅にも丹羽くんにもいい迷惑――っ?」
 その時、みゆきは興奮しすぎたせいで脚に力が入らずに崩れ落ちているんだと思った。しかし
目に映る光景はそれを否定していた。同じテーブルについている二人の表情が、そして別のテ
ーブルにいる人々の表情も驚愕に満ちていた。――地震だ、と悟った時には三人とも同時にテ
ーブルの下に潜り込んでいた。
「きゃああああ!?」
「じじじじじ地震だだだだわわっっ!!」
「えええええ!? 東のの町で地震んなんて……!!」
『ありえなぁぁぁぁぁいっっっっ!!!』

 こうして少しずつ、しかし確実に異変は街全体を震え上がらせた。すでに事態は取り返しの
つかない段階になっていた。
410125:04/03/07 23:38 ID:JeOp2Jv5
ここまでっす。
説明の必要ないですがテレビの最終2話をいじって書いてます。
話はパラエンの後の物語です。と先に書いとくべきでしたね(´・ω・`)
411名無しさん@ピンキー:04/03/08 03:30 ID:wGDixZv8
待ってましたGJ!

実はテレビ版は見ていない単行本派なのでこの先どうなるのか全く予想が付きません。
ドキドキしながら期待してます。
412名無しさん@ピンキー:04/03/08 06:19 ID:V8e3KUK5
ご苦労様です〜。
さりげにこみパネタが。
413名無しさん@ピンキー:04/03/08 12:48 ID:ZbZ8rWmm
キタ・*・:.。.。.:*・°・*(゚∀゚)*・°・*・:.。.。.:*・♪
414名無しさん@ピンキー:04/03/08 21:27 ID:q58fpNwC
さちレム再登場キタ―――(・∀・)―――!!

とにもかくにもGJ!!
続きも期待してます!!
415名無しさん@ピンキー:04/03/11 23:01 ID:uP+gF3gW
いつも感じるんだけどこのスレって雑談少ないね
書き手も読み手も少ないからか、それともそういう伝統(?)なのか・・・
人大杉の影響・・・はないかな

と思いつつ捕手
416名無しさん@ピンキー:04/03/12 00:49 ID:tiNNSsE/
なんとなくそういう流れだね、ずっと。
ま〜ったりと。
417名無しさん@ピンキー:04/03/12 01:16 ID:J4c+GoCP
雑談あんまりしないのは伝統、かな。
最初からそうだった。
418名無しさん@ピンキー:04/03/13 00:34 ID:/Tr31pRr
期待しつつ保守
419名無しさん@ピンキー:04/03/13 00:36 ID:/Tr31pRr
すまんageてました。
逝ってきます…
420125:04/03/14 00:44 ID:bU5GV2N5
えっちぃは次くらだと思います。と先に言っておきます
スンマセン今回は大分説明臭くなってしまったもので・・_| ̄|○
421125:04/03/14 00:45 ID:bU5GV2N5
>>409
「あぅ……。今の地震大きかったね」
 並んで街を歩いていた僕達は突然の揺れのため、その場にへたり込んでいた。
「この辺地震なんて滅多にないのに、珍しい」
 梨紅さんの言葉を耳にし、だけどそれに対して何もできずにいた。
「? 丹羽くん」
 少し下に向ける僕の顔に、上を向いた梨紅さんの顔が急接近してきた。顔が熱くなるのを
感じてから数秒後、
「あああっ、ごめん丹羽くんっ!」
 抱きついていた彼女が腕を解き、弾けるようにして身体を離した。尻をついたところに重な
るように倒れられ、その間僕の思考はずっとどこかにポーンと飛んでいた。
「ごめん! あの、痛くなかった? 怪我とかしてない?」
「う……うん、平気」
 むしろ梨紅さんの身体の重みに、直に感じたわけでもないけど暖かみと肌の柔さに癒され
るような心境になっている。
「それにしても地震なんて、本当に珍しいね」
 顔がにやけてしまう前に腰を上げて辺りを見回すと、他の人も驚いているようだった。
興奮してはしゃぎ気味だったり、携帯電話で連絡をとっている人も見受けられる。
「生まれてから今まで体験したことなんてないよ」
「小さな地震だってなかったもんね。坪内さんなら体験したことあるかも」
「母さんやじいちゃんもどうだろ? 今度訊いてみようかな」
「お父さんは?」
「父さんはしばらく…………」
 そこで言葉が詰まった。まさか一人旅をしていたんだ、なんて信じてくれるだろうかと思い、
口にするのが躊躇われたからだ。けど、梨紅さんなら……。
 眉をひそめて見つめてくる梨紅さんに改めて口を開こうとした時、周囲に鳴り渡る大音響に
遮られてしまった。
422125:04/03/14 00:46 ID:bU5GV2N5
「非常…………ん在外出し――みやかに……繰り返――――」
 聞こえてきたのはぶつ切れの放送、それが街中に流されている。
「何? 全然聞き取れないよ」
 梨紅さんは空に首を巡らせ、耳を澄ませているけどやはり聞き取れていない。
「こんなこと、今までなかったのに……?」
 二人顔を見合わせてから、通りの一箇所に人が集まっているのが目についた。あそこは、
確か電気店の前だ。
「あれ? 人集まってる」
「行ってみよう」
 遅れて気付いた梨紅さんの手を引き――この時初めて梨紅さんの手を握ったのだと思い
至ったのは家に帰り着く直前だった――ちょっとした人だかりに近づいた。
 お姉さんやおじさんの不安がる声に混じり、今もまだ流れている放送とは別の雑音が電気
店のショーウィンドウから聞こえてくる。
「テレビ……ん何か、こっちもちょっと汚いね」
 梨紅さんの言うとおりテレビの映像はノイズが走り、映し出されるレポーターの女性の表情
がかろうじて判別できる程度だった。
「――ちらは倉庫街です。現在まだ……揺れを感じてい…………て水位は下がり続け――」
 見づらい映像だけど、倉庫街すぐ側の水面が異常に低いのは分かった。元は三メートル
ほどの深さはあっただろうか、その水底の地形が確認できるほど下がっている。
 地震といい水位の低下といい、加えて放送媒体の異様な乱れといい、さすがにただ事じゃ
ない事態が起こっているのではと思うしかなかった。
 僕の手を握る梨紅さんの手に力が込められ、返すように僕も力を込めた。
 テレビの画面がスタジオに切り替わると、原稿を手にした人がそれを読み進める。中継でな
くなったためか、画面のノイズは幾分軽くなっている。
423125:04/03/14 00:47 ID:bU5GV2N5
「ニュースの途中ですがここで警察当局から何らかの発表があるようです」
 再び画面が切り替わる。映し出されているのは、おそらく中央警察署だ。ノイズも戻り判別
がしにくいけど、先の倉庫街の時より見れるようになっている。
「中央署の州崎さん」
「……はい、こちらは中央……ん急会見所です。会見――倉持警察署長も同席…………あ、
ただ今会見が始まった模様です」
 彼女の背後ではすでに大勢の記者が準備された椅子に座り、奥で会見に臨む警察の人達
に注目しているようだった。
「えぇ……」
「当局は全ての方々に対して、緊急避難命令を発令することを決定しました!」
「あ、冴原くんのお父さん」
 中央に構える一番偉そうな人の言葉を遮り、冴原の父さんが発言していた。そちらの方が先
に小さな衝撃を誘い、重要な会見の内容を聞き漏らしてしまうところだった。
「緊急……避難?」
 人の輪のあちこちから疑問やざわめきの声が沸き起こる。はっとして見回すと、いつの間にか
人の集団は僕達が入った時の倍以上に膨れ上がっていた。
「これから明日にかけて、先ほどの地震とは比べ物にならないほどの、大災害が発生する可能
性があります! 直ちに避難を開始し、明日午後4時までに、当局が定めた安全な避難場所に
移動してください!」
 避難……大災害?まったくに唐突な発表に僕は、おそらくその場の誰もが置いてけぼりにされ
た気分だったに違いない。
「ええ尚、今現在外出している方は街に流している警告に従い、今すぐ自宅に戻ってください! 
警官を配備するので非難の際は彼らの指示に従ってください!」
 会見はそれで終わりのようだ。画面はスタジオへ戻り、この事態の経緯を説明し始めた。
その辺りからテレビを注視していた人だかりはざわざわと、一層大きく騒ぎだした。
 梨紅さんと顔を見合わせた僕の耳には、いつの間にか聞こえやすくなっている放送音が届いて
いた。
424125:04/03/14 00:48 ID:bU5GV2N5

 それは美術品というにはあまりにも禍々しい重圧を放つ巨大なモノリス。

 ――さあ……刻限です

 そこに浮かび上がる人間の骨格を模したレリーフがその禍根を成している。

 ――深淵の狭間、混沌の坩堝

 下半身はなく、両腕の代わりに右肩より斜めに突き刺さる巨大な剣。

 ――生まれ落とされし漆黒の翼

 頭蓋の骨は縦に割れ、まるで合い揃うことを拒むように不整合に、歪んでいる。

 ――迎えに行きましょう、あなたを……あなたの因子を

「――ダーク・マウジー」

 純白の翼は目覚める。誰に知れるともなく静かに、破滅と終焉を携え。

 
425125:04/03/14 00:49 ID:bU5GV2N5
 避難命令が出されたにもかかわらず、家の近辺はそう慌てた様子もなくのんびりしている
空気が流れている。そういうところだから仕方ないのかな、と一人で納得した。
 けど……まさか梨紅さんとの初デートがこんなことで中断せざるを得ないだなんて、
「はぁぁぁ」
 いつもより長い溜め息が出てしまう。家に帰り着き玄関に入ると、案の定まだ靴が残ってい
る。家族みんな中にいるようだ。
「ただいまぁ」
 自室に行く前に家族の様子を見るためにリビングを覗くと、ソファの側に、何故かそこに座ら
ずに囲むように母さんがしゃがんでいた。父さんは母さんの側に立ち、僕に視線を送ってきた。
「ただいま。何してるの? 避難の準備は…………?」
 僕を見る二人の顔は一様に曇っていて、テーブルの上に置いてある水の張った洗面器に
目が留まった。リビングの雰囲気に言い知れぬ不安を覚え、急いた足で母さん達に近づいた。
「大ちゃん。これから言うことをよく聞いて」
「! トワちゃん……!?」
 母さんの言葉が終わらないうちにソファで横になるトワちゃん(鳥)の姿を見つけ、母さんのすぐ
横に腰を下ろした。
「どうしたのこんな時に……。病気?」
 桜色の鳥は頭に濡れた布を乗せ、顔色悪く苦しそうにしている。
「大助、いいかい? これからする話を聞くんだ」
「話って、それよりトワちゃんが……。それに避難」
「小助くん」
 背後からの声に振り向くと、リビングの戸の側にスーツに身を包んだじいちゃんが立っていた。
426125:04/03/14 00:50 ID:bU5GV2N5
「お帰りなさい、お父さん」
「じいちゃん……。何でそんな格好?」
「うむ。小助くん、話はわしの方からさせてもらえんか」
「……そうですね。これはお父さんの口から語られるべきですから」
「すまんの。笑子、いつでも家を出れるように荷物をまとめておいてくれんか?」
「分かりました。小助さん、トワちゃんをお願い」
 母さんがリビングを出、父さんがソファの側にしゃがんだ。じいちゃんはL字型に置かれる
ソファの、トワちゃんが寝ているのとは別の辺に腰を下ろし、僕に座るよう促した。
「じいちゃん、話って……」
 じいちゃんが座るのとは別の辺、つまり父さんが看病しているトワちゃんの横に腰掛けな
がら問いかけた。じいちゃんは一息分間をとって語り始めた。
「……今、この街に厄災が降りかかろうとしておる。それを防げるのは大助、お前だけじゃ」
 僕は――その、いきなり言われたせいで軽く錯乱してしまった。
「厄災って、一体なんなのじいちゃん?」
「十四歳の誕生日を迎えた日、お前には怪盗ダークとして数多くの美術品を盗み、そして
封印を施すという丹羽家の宿命を背負わせた。それはすべて、この日のためなのじゃ」
 まだ核心となるところを話されず、心がどんどん急きたてられる。一体、じいちゃんは何を
告げるのだろう。
427125:04/03/14 00:50 ID:bU5GV2N5
「地震、港の潮位の低下、電波障害……多数の以上は『黒翼』――光狩一族が生み出しし
最後の美術品の影響なのじゃ」
「光狩……」
「大助も聞いたことはあるだろう? 文化改革以前、美術のあらゆる分野にその食指を伸ば
した一族だよ」
 父さんが言うまでもなくそれくらいは知っている。美術部には多くの資料や本があり、その中
にも光狩の字はたくさん躍っている。
「先祖であるダークはもちろん光狩の美術品を盗んでおった。当然の如く『黒翼』にも手を出し
た。そしてその事が原因で、丹羽家は今日まで怪盗家業を受け継がねばならなかったのじゃ」
「どういう……こと?」
 聞いているのかいないのか、じいちゃんは淡々と話の先を続ける。
「光狩の作り出す美術品はまさに至高の芸術……魂が宿るとさえ噂されるほどじゃった。
じゃが一族はそれには飽き足らず、全身全霊をかけ、究極の生きた美術品を生み出そうと試みた」
「それが、黒翼……」
「その通り。光狩は、一部では外法と揶揄される魔術の力を使い、『黒翼』を完成させようと儀式
を執り行ったのじゃ」
428125:04/03/14 00:51 ID:bU5GV2N5
「そこに『黒翼』を盗もうとダークが現れた。しかし、それは人にはあまりにも強大な代
物だった。儀式に乱入したダークはその身に膨大な魔力を受け瀕死の重傷を負った。一命
を取り留めたダークは自分の身体に今までとは違う力、魔力の存在を感じ取ったんだ」
 思わず胸に手を置いた。まさか、僕にもそんな力が宿っているのだろうかと考えた。掌には
温もりと、心臓の鼓動しか伝わってこなかった。
「その後、『黒翼』の強大な力を垣間見た光狩は自らの手で厳重に封印したということだ。
そして不完全とはいえ『黒翼』に注がれた命は、光狩の生み出したすべての美術品に強い
影響を及ぼした。一つ一つに魔力が宿ってしまったんだ。『黒翼』に注がれるはずだった力を
受けてしまった……いわばその半身と呼べるダークは、『黒翼』が美術品に宿る魔力を糧に
完全に目覚めようとしていることに気付いた。しかし膨大な数の美術品を一人で盗み、封印す
ることはできず、その役目をダークの名とともに代々丹羽家の男子は受け継いできたんだ」
「小助くん、わしが話すと言ったのに……」
「あ! すいませんつい……」
 指をくわえてすねるじいちゃんにがくっと肩が砕けそうになりながらも、リビングに入ってから
ずっと気になり、その答えが何となく分かったような気持ちになった。
「『黒翼』が美術品の力を糧にするって、もしかしてトワちゃんの様子がおかしいのも……」
「うむ。『永遠の標』は光狩の手によって生み出された美術品……。トワちゃんの体調が崩れた
のは『黒翼』からの強烈な干渉によるものじゃ」
429125:04/03/14 00:52 ID:bU5GV2N5
「なるほど」
 新しく現れた声にリビング全員の視線が発声した張本人に向けられた。リビング入り口に
もたれかかるようにしている切れ長で紫水晶の瞳と長髪、紺色のセーターにジーンズ姿の
女性がいた。
「さっちゃん! どうしたの!?」
 一目見て顔色が優れないことが分かった。血の気が引き汗が額に滲んでいる。
「ちょっと体調が優れないので……お薬でも貰おうかと」
「レムちゃんも!」
 さっちゃんの腰辺りから、翠緑色の瞳と短髪の少女がにょっきり顔を出してきた。
「そうか。二人も借り物とはいえ、光狩の美術品にその身を宿していたんだ……。すまない、
今すぐ二人もトワちゃんと一緒に」
「あ、わたし達は全然平気ですよ! トワちゃんのお世話だけしていてください」
「レムの言うとおりだぞ、親父殿。それに、我らには用ができた」
 さっちゃんがじいちゃんと眼を合わせ、不敵に微笑んだ。
「『黒翼』とやらを封印せねばならんのだろ、労翁殿?」
「いや」
 しかしじいちゃんは首を横に振った。さっちゃんも的を射損ねた顔をするし、僕もてっきり頷く
と思っていた。
「あれは、破壊せねばならん」
「! でも、じいちゃん……」
 耳を疑った。美術品が大好きなじいちゃんからそんな言葉が出るなんて考えてもみなかった。
「あれは美術品と呼べる物ではない。この街に、この世に災いをもたらす破壊の権化じゃ」
「じいちゃん……」
430125:04/03/14 00:53 ID:bU5GV2N5
「これで話は終わりじゃ。最後に大助、お前の気持ちを聞かせてくれんか?」
「僕の……気持ち?」
「『黒翼』は強大じゃ。命を賭す……最悪の場合が待っているやもしれん。いくらこれが丹羽
の男子の宿命とはいえお前に無理強いだけはしたくはない」
 見つめてくるじいちゃんの瞳には幾重もの翳りが映りこんでいた。それがじいちゃんの不安
な思いの現われだと、そう思えた。
「行くよ、僕は。迷うことなんてないから」
「そうか。…………すまんな大助」
「じいちゃんが謝ることなんてないよ」
「いや……もう少しだけ話を聞いてくれんか?」
「ん? いいけど」
 この場の雰囲気が変わったのを肌で敏感に感じ取った。さっちゃんレムちゃんを見ると、
二人も訝しげに眉根を寄せていた。
「本来、丹羽家の男子はダークの名とともに宿命と、そしてもう一つ、魔力を受け継いできた
のじゃ」
「魔力を?」
 僕はまた右手を胸に当てた。感じられるのは、やはり温もりと鼓動だけだ。
「しかし、代を追うごとに受け継がれるべき魔力はだんだんとその力を衰えさせてきた。わしの
時にはすでに微塵ほども……力の存在を感じられなんだ」
「そっか……じゃあ、僕にも魔力はないんだ」
 右手はすっと、磁力が切れたように胸から離れた。初めから感じられなかったものは、やはり
なかった存在だった。
431125:04/03/14 00:54 ID:bU5GV2N5
「お前には……初めから荷が重すぎたのではと感じてな。……この歳になってつくづく思って
おる。せめてわしの代でこの時が来ておれば、お前や笑子、小助くんには丹羽家の業を感じ
させずにすんだのに、とな。すまん、大助」
「じい……ちゃん」
 頭を下げるじいちゃんになんと言葉をかけていいかすぐには出てきそうになかった。ただ、
さっきの瞳に宿っていたのは僕を心配するだけじゃなく、すまないという謝罪と後悔の念が含
まれていたのだと理解した。
「………………あの」
「心配せずともよい」
 何か言おうと口を開いた時、さっちゃんがそれを防ぐように言葉を紡いだ。
「足りないものは我らが補えばよい、だろ?」
「そうですよ。おじい様は何も心配なさらずに託せばよいのです!」
「さっちゃん、レムちゃん……」
 きついはずなのに、そんな色は面にも出さない二人の笑みに、不思議と力が湧くような胸の
暖かみを感じた。
「そうか……。二人とも、頼んだぞ」
「うむ」
「任せてください」
「大助や」
「何?」
「よい仲間を持ったな」
 じいちゃんの優しい目つきをした柔らかな物言いに、僕は力一杯頷いた。
「――うん!」
432125:04/03/14 00:55 ID:bU5GV2N5
「お父さん! 避難の準備ができましたよ」
 話が終わって丁度、母さんがリビングへ舞い戻ってきた。
「おお、ありがとう笑子。ではトワちゃんを連れ、先にここを離れるんじゃ」
「私がですか? でも……」
「残るのはわしだけでいい。小助くんも笑子と一緒に行ってくれんか?」
 父さんは一度僕を見、じいちゃんに真っ直ぐ向かって答えた。
「僕も残りますよ」
「小助さんが残るのなら私も……!」
「それはいかん。誰かがトワちゃんの世話を見てやらねばなるまい」
「笑子さん、心配しないで。明日になればすべて終わるから、それまではトワちゃんを連れて
避難場所に行くのじゃ」
「……分かったわ。トワちゃん、向こうへ行きましょ」
 ソファで横になるトワちゃんを両手で優しく包み、母さんはまたリビングを出ていった。
「小助くん、君はもともと丹羽の者ではない。無理をして残る必要は……」
「確かに……僕は丹羽の人間じゃありません。でもだからこそ、大助の父親として……できる
だけ傍にいてやりたいです」
 頭に乗せられる父さんの手は、それまで感じることのできなかった父さんの思いを直接伝え
ている――そんな気分にしてくれた。
「ありがとう、小助くん。大助……」
「うん。『黒翼』は、今どこに?」
「――中央美術館、そこだ」
「さっちゃん? どうしてさっちゃんが」
「その方角から嫌な気配をとっても感じてます。とっても……」
「レムちゃん、大丈夫?」
「心配ない。さっさと行こうではないか。この不快の元凶を即刻叩き潰してやる」
 拳を掌に当てて気合を示すさっちゃん、強がってるんだろう、けど、そうでもしないとやって
られないのかもしれない。遅くなるほど辛いなら、
「行こう、すぐに! 『黒翼』を破壊しに!」
433125:04/03/14 00:56 ID:bU5GV2N5


「――ふ、ふふふ」
 目覚めし純白の翼はモノリスを前に笑っていた。封印のためにそれを覆っていた呪布と
呪鎖は放たれる禍々しい力に無残に朽ちていた。
「感じますよ、あなたを。ここに向かっているあなたの因子を」
 狂気に歪んだ……いや狂気を純粋なまでに発する守護者は、悦びに身を震わせている。
「黒翼よ。時が満ちるまで今しばらく我慢していなさい。……そうですね、では鍵となる
存在に挨拶でもしてきましょう」
 白き翼は駆けた。中央美術館最下層で厳重に封印されし黒翼の元から天高く、外の世界
へ……空へと。

434125:04/03/14 00:56 ID:bU5GV2N5
 中央美術館まではウィズの翼ならそう遠くはない。それでも焦る気持ちは時間を随分と
ゆっくり進めていた。
「さっちゃん、レムちゃん。辛くない?」
 目的の場所へ近づくほど二人の気配が、口では説明できないけどおかしくなっている気
がしてならなかった。
「平気だ、案ずるな。美術品を一発ぶん殴るだけだからな」
「そうですよぉぉ、…………うぇぇ」
 やっぱり辛いんだ。ウィズは丹羽が独力で生み出した使い魔だから影響はそれほどない
とじいちゃんは言っていた。二人と比べればそうでもないけど、やはりどこか弱々しい印象
を受ける。
 ――僕も、かな。
 不安で堪らないけど、逃げ出すわけにはいかないから。
「レム、お前の方が影響は大きいのだろ」
「はうぅ……ちょっとしんどいですぅ」
「何でレムちゃんが?」
「我らは強引にこの中に封じられたからな。光狩の手によって存在しているわけではない」
「そういえばそんなんだったっけ。封印されたって。詳しく聞いてないけどさ」
「うむ。暇ができればいつか詳しく話そう。それでだ、我らが封じられたのはどれも光狩の
美術品だったらしいからな、その影響が出ている」
「それだけだとレムちゃんの方がって説明にはならないよ」
「忘れたか? 我の宿っているのは初めて主に会った時の物とは違うのだぞ」
「…………あ!」
「『淫夢の短剣』は光狩の物だったが『紅円の剣』はそうではない……ってレム、おい聴いて
おるか?」
「あうぅ……頭がくらくらぁぁ」
「……どうも緊張感がないね」
 だけどその方がいい。いつもみたいにこんな風に気楽なのが、一番落ち着く。
435125:04/03/14 00:57 ID:bU5GV2N5
 不意に、街が見たくなった。感傷に浸るような状況ではないと思いつつも。眼下には噴水
公園。そこからずっと横には学校。正面には目的の中央美術館。
「なっ……――」
 前を向いた刹那、翼をはためかせて進路を僅かに上にずらした。さっきまで僕がいた場所
を何かが過ぎ去った。
「何だ、今の!?」
 上空その場に留まり振り返ると、満ちた月の明かりの下で妖しいほど輝く白い何かが、僕
と同じように空に浮かんでいた。
「お待ちしていましたよ。ダークの地を継ぎしあなたを」
「ダークを知ってる?!」
(何だあいつは!)
 白いローブのようなものを身にまとう金髪の青年。あれは、一体なんだ?
「申し遅れました。私は黒翼を守護すべく生み出された存在、クラッドです」
「クラッド……」
「覚えていただかなくて結構です」

 ぞくり

 音を立て背筋が、腕がざわめきだす。
(…………いや、違う!)
 ざわめいているのは、背に担ぐ紅円の剣と、左腕の蒼月の盾だ。
「なぜならあなたは明日、消えてもらいますから」
436125:04/03/14 00:58 ID:bU5GV2N5
 十二月の夜風の冷たさより、クラッドと名乗る青年の威圧感の方が数千倍身体を縛りつけ
ている。
「な、何だって!」
「正確にはあなたの中に眠るダークの因子を黒翼に捧げるのです。結果としてあなたが死ぬ
かどうかは分かりませんがね」
「僕の中のダークを……」
「ふ。その顔ですとやはり何も知らないようですね。いいでしょう、教えて差し上げます」
 困惑する僕をよそに、クラッドは詩でも口ずさむようにすらすら言葉を繋ぎだした。
「私が……いえ黒翼がダークを欲しがるのは他でもない、儀式の最中に奪われたその魔力
を取り戻すためですよ」
「まさか! 黒翼は光狩の美術品の力を借りて復活するんじゃなかったの!?」
「それはあくまで完全なる復活までの非常手段ですよ。黒翼は明日の深夜零時、仮の力が
すべて集まった時にあなたの血に! 叫びに! 苦痛に絶望によって目覚めるのですよ!」
 心臓を射抜かれるような鈍い重圧。身体が言うことを利かない、動こうとしない。だけど、
「――そんなこと、させて堪るかっっ!」
 気合を込め、渾身の力をもって紅円の剣に、
「っ!?」
 手をかけてようやく分かった。まるで戦うことを拒むかのようにその柄は重く、数瞬前の僕と
同じように動こうとしていない。
437125:04/03/14 00:59 ID:bU5GV2N5
「無駄ですよ。あなたの使い魔、特にその二匹は戦っても勝ち目がないとよく分かっている
ようです。私の気にあてられただけでしっかり理解するとは、なかなか賢いですねえ」
「そんな……! さっちゃん、レムちゃん!?」
 どんなに呼びかけても答えがない。二人は本当に戦うことを……?
(そんなわけない! 二人が諦めたりなんてっ!)
「蒼月の鏡に……もう一つの剣はなんでしょうね。まあどの道些細なことですがね」
 ――分かる。クラッドの余裕が手に取るように。そして背中と左腕から、二人の恐れが
……陰鬱な絶望が。
「くぅっ……」
 二人の悲観が、僕の心を挫く……。
「明日までに」
(――後ろ!?)
「っがぁ!」
 激しい衝撃が背中を貫き、身体が止まることを知らない勢いで吹き飛ばされる。
「大事な人との別れでも」
「っう……」
(は、速……)
 吹き飛ばしたばかりの僕の首をクラッドは正面から締め上げる。指が気管に食い込む
嫌な感触……潰されるという恐怖が視界を濁らせ、意識を閉ざそうとする。
「惜しんできてください」
 最後に瞳が捉えたのはクラッドの嘲笑。僕の身体はクラッドの手から下方に弾き出され、
風がびゅうびゅうと甲高く耳元を切り裂いていくのが聞こえ……。


438125:04/03/14 01:01 ID:bU5GV2N5
ここまでです
後2〜4回ほどでガンガッテまとめますです
439名無しさん@ピンキー:04/03/14 02:22 ID:JPF7KW5P
乙です!

タダでこんな良いもの読ませて貰えて幸せ
440名無しさん@ピンキー:04/03/14 10:17 ID:raBQSvwJ
おお、更新されてる。
……ベ、ベルセルクネタが……。
441125:04/03/21 00:35 ID:VqkM5GcU
 受話器を置くとつい溜め息が出てしまった。
「どうしたのかな梨紅お姉さま?」
「ひ……っ!?」
 後ろから耳にふうっと吐息を吹きかけられ、原田梨紅の身体は面白いように縮み上がった。
「あ、……あんたねえ」
 背後にいる原田梨紗を半眼で睨みつけるが、彼女は臆した様子もなくにこにこと満面の笑み
を浮かべている。
「気色悪いからやめなよ。ったくぅ」
「あら? 愛しい彼と話せなかったからって八つ当たりはしないで貰いたいわ」
 途端に梨紅の顔は熱く沸騰し、冷笑を浮かべる梨紗にわたわたと反論した。
「別にっ、そんなんじゃないもん! 人の電話盗み聞きなんかしないで!」
「おほほ。あまりカリカリしてるとしわが増えてよ、お姉さま?」
 さらに高笑い。どこかの女学園にいそうでいない耳障りなお嬢様笑いを残し、梨紗はリビング
へ戻った。
「………………冷やかしとかしにこんでよか」
 去り行く梨紗の背中にぼそりと呟きまた溜め息。思ったように彼と上手くいかずに少しへこんで
いたりする。まさか初デートがあのようなかたちで遮られるとは……。
(でもこんな時間に出かけるなんて…………。家にいなくちゃいけないはずなのに)
 電話に出たおじさん、というよりお兄さんのした説明が今頃になって腑に落ちなくなっていた。
抜けてる自分を少し悔やんだ。
(……電話に出た人誰かな? もしかして、丹羽くんのお父さん――?)
 どうしよう、愛想良くしてたかな?ぶっきらぼうじゃなかったかな?ああ、もっと声作っとくべきだっ
たぁ!と今更ながら強く後悔し、悶え苦しむ原田梨紅十四歳。
 しかし頭を抱えてしゃがみ込む彼女が最後に懸念したのは、やはり彼のことだった。
(丹羽くん、どうしちゃったのかな? 何か会ったのかな?)

 そんな梨紅をリビングから垣間見ているのは梨紗。某家政婦よろしく見事な覗きっぷりである。
(なに? なに? もしかしてまだ私にもチャンスあるの?)
 事情を知らない彼女の瞳は爛々と輝いていた。
442125:04/03/21 00:36 ID:VqkM5GcU
 眼が開き、霞んでいた視界に飛び込んできたのは、普段あまり目にせず、毎日見ているはず
のものだった。
「…………ここは」
 リビングの天井がはっきり捉えられるようになり、自分が横になっているんだと考えて初めて
身体がその感覚を伝えてきた。
「……そうだ――ッ!?」
 何でここに?という疑問が浮かんだけど、さっきまで対峙していた者の姿が鮮明に思い出され、
寝ている場合じゃないと身体を起こした。起こした瞬間、全身を駆け巡る鋭敏な痛みに息が詰ま
り、身体が動かせなくなった。
「!? 大助」
 あまりの痛みに塞ぎ込みそうな五感の一つがその音を聞き取り、さらにもう一つでその音源を
見やった。人影が駆け寄ってきて傍に座り、心配げに様子を窺ってくる。
「父……さん」
「黙って。まだ横になっていた方がいい」
 少し我慢してくれと言うと、父さんはそっと僕の身体を横たえてくれた。ソファに寝ているのだと
その時になって気付いた。
 身体を走る痛みは背中から広がるように全身を蝕んでいるけど、何とか話せる程度にはなって
きた。
「どうして僕は……」
「大助が出て行ってからしばらくして、傷ついたウィズが大助とさっちゃん、レムちゃんを家まで運
んできたんだ」
「ウィズが……、ウィズは?」
 父さんが指を下に示す。もちろん身体は動かしづらいので目だけを動かすけど、やはり見えない。と、
「キュウ」
 指の下から白い包帯に巻かれた白い毛玉がぴょこんと飛び出し、僕のお腹の上にぽすりと
乗ってきた。包帯だらけだけど、動きは悪そうじゃない。
443125:04/03/21 00:37 ID:VqkM5GcU
「よかった……」
 無事じゃないんだろうけど、深刻でもなさそうで本当によかった。
「キュゥ?」
「大丈夫だよ。少し疲れてるだけだから」
 心配して見つめてくるウィズにできるだけ笑みを浮かべた。どれくらい笑えているだろう、
引きつってるのかもしれない。
「父さん、さっちゃんとレムちゃんは?」
「大助の部屋にいるよ。二人とも無事だけど……」
「? だけど」
「少し様子がおかしくてね。何かあったのかい?」
「…………そう」
 あの時クラッドが言っていたことが圧し掛かり、胸が苦しくなる。二人は本当に……。
それ以上考えることができず、違うことを父さんに訊ねた。
「僕は、どれくらい眠っていたの?」
「半日以上、今は三十一日の午後二時だよ」
「そんなに……」
 居ても立ってもいられず身体を動かすけど、鋭痛に遮られる。
444125:04/03/21 00:37 ID:VqkM5GcU
「無理はしちゃいけない。寝ているんだ」
「ダメだよっ……! うかうかしてたら、あいつが来ちゃう」
「あいつ?」
「父さん達も早く、避難して……ここから離れて」
 言葉足らずで上手くできていない説明に父さんは怪訝な顔をしている。それでも僕は早く、
身体が満足に動かせるなら背中を押して父さん達を避難させたかった。
「落ち着くんだ。ちゃんと説明してくれないと分からないし、それにお父さんの帰りも待たなく
てはいけない」
「じいちゃん? 家にいないの?」
「ああ。中央警察署へね」
「捕まっちゃったの!?」
「いやいや違うよ。状況が切迫してきたことを警視庁長官に伝えにいったんだよ」
 未だに父さんの言っていることが理解できない。家は怪盗の家系なのに、そんな警察に
なんて行ったりしたら捕まって……。
「僕も詳しく知らないけど、お父さんとその人は古い知り合いらしくてね。今回の警察の避難
命令も父さんの助言から出されたそうだよ」
 あまり信じられない。これなら捕まってしまったの方が信じられたかもしれない。
「――話を戻そう。何があったか、話してくれないか?」
445125:04/03/21 00:38 ID:VqkM5GcU


 話し終えると、父さんは深刻な声音で訊いてきた。
「大助はどうする気だい?」
「僕?」
「さっき僕と父さんが早く逃げるよう言っただろう。だったら大助はどうするんだい?」
「僕は行くよ。中央美術館に」
「本当にいいのかい? もしまたクラッドに負ければ……」
「逃げてもクラッドはきっと来る。だったら僕が行くから、その間に父さん達は……!」
 父さんの腕を掴んで必死に訴える手をそっと離し、
「今はゆっくりしてるんだ。お父さんもそろそろ帰ってくる頃だ。さっちゃんとレムちゃ
んのところには僕が行ってこよう」
「……うん」
 起こした身体を再び寝せると父さんは立ち上がり、その時ウィズがちょろちょろと父さんの
頭に上っていった。ウィズも二人に会いに行きたいらしい。父さんはリビングを出、階段を静
かに上がっていった。残された僕は静寂の下り立つリビングで一人、独りということにやるせ
ない思いに陥った。
「…………」
 どうしよう。このままここにいたら、二人のことばかり考えてしまう。それも悪い方にばかり。
 静寂が耳鳴りのように響いていると、それを打ち壊して電子音がリビングにまで聞こえてきた。
「電話?」

446125:04/03/21 00:38 ID:VqkM5GcU


 呆然としていた二人は突然の訪来者に身を震わせた――といっても実体はなかったのだが。
「入るよ」
 二人は声の主を一瞥し、気まずさのあまり視線を下に向けた……のだろう、多分。ウィズは
小助の頭から飛び降りて大助のベッドに駆け上がり、二つの美術品がかけられる壁の前で丸
くなった。
「大助が起きたよ。元気そうだった」
 ありのままを言えばさらに二人が塞ぎこむと考えてか少しだけ嘘をつくが、二人の反応は返っ
てこなかった。
「事情は聞いたよ。大助からね」
 ようやく空気がかすかに揺らいだ。やはり二人の様子がおかしい原因はそこにあるのだろうと
小助は察した。
「……二人は僕と父さんと一緒にここを離れることにしたよ」
「ご主人様は?」
 初めて口を開いたレムちゃんには疑問が色濃く浮かんでいた。
「中央美術館に行く気だよ」
「そんなっ!?」
 さっちゃんもやっと言葉を発したが、そこには動揺が走っていた。
「無謀だと思うかい?」
 小助の問いかけに、そんな二人は答えなかった。答えることができないのではなく、答えが
明確すぎるのだ。
447125:04/03/21 00:39 ID:VqkM5GcU
「二人が思ったとおりだよ。僕も、父さんや笑子さん、トワちゃんだってそう思うだろう。けど、
大助は行くよ」
 言葉を切ると電話のコール音がタイミングよく割り込んできた。しばらく鳴り響く音が途絶え
ると、小助は続けた。
「大助は優しいからね。自分が傷ついたことで二人を責めたりはしないよ。むしろ二人が傷つ
くのが嫌だったから、独りで行くつもりなんだと思う」
 二人は黙って小助の言葉に耳を傾けていた。一言一言がやけに胸に突き刺さってくるのを
堪らないほど辛く感じている。
「はは、これ以上話すと説教臭くなりそうだからこの辺にしておくよ」
 僅かに沈んでいた調子を整えるためにわざとらしく明るい声を出し、小助は部屋を去ろうとした。
「待ってくれ……」
 消え入りそうなさっちゃんの声が小助の耳に届いた。気勢の感じられない声に、小助が優しい
口調で訊ねると、二人は初めて心の内を露わにした。
「我らは、どうすればいい?」
「どうしたらいいのか、全然分かりません……」
 答えが見つけられずにいる二人の悩み苦しみが手に取るようにはっきりと滲み出ている。
「僕からは答えられそうにないけど」
 前置きに続く言葉を、二人はじっと息もせずに待っていた。
「大助にも君達にも、後悔するような選択はして欲しくない。君達がどうしたいか……何を望むの
かが一番大事なことだと僕は思うよ」
 四時頃に家を出ると付け足し、小助は大助の部屋を去った。残された二人は小助の言葉を黙っ
て噛み締めた。
 時刻は二時半。答えを出すにはあまりにも短い一時間と半刻である。

448125:04/03/21 00:40 ID:VqkM5GcU
短いですがここまでっす。
449名無しさん@ピンキー:04/03/21 15:08 ID:VPiTckP2
2chエロパロ板SS保管庫
http://adult.csx.jp/~database/index.html
「少女マンガの部屋」に保管されています

これって鯖落ちてるの?
450名無しさん@ピンキー:04/03/22 00:37 ID:fMJl3xZS
>>449
サーバーが、契約者の急増の為不安定になってるとのこと。
何度かリロードを繰り返すと繋がるようです。
451名無しさん@ピンキー:04/03/23 02:57 ID:XKVnOn44
保守
452名無しさん@ピンキー:04/03/25 22:18 ID:rOp+ygh4
hoshu
453名無しさん@ピンキー:04/03/26 20:57 ID:C88DUOXY
454名無しさん@ピンキー:04/03/28 05:07 ID:JMJmkGok
保守
455名無しさん@ピンキー:04/03/30 20:45 ID:qdd4dmnK
保守
456125:04/03/31 02:47 ID:sAo3yPmm
>>447
 身体を動かすことにまだ不整合な痛みを感じていたけど、じっとしたまま沈みこんだ
思いでいたくなかった。
「丹羽くん?! よかった、やっとつながった」
「梨紅さん!」
 電話に出て正解だった。受話器から聞こえてきた彼女の声に、僕の暗い気持ちはさっ
と吹き飛んでいった。
「ずっとかけてたのに全然つながらなくて心配で…………ああでも、よかった」
 安堵しているのが受話器越しでもよく分かる。彼女の優しさに胸が、
「ってやっぱりよくなぁい!」
「つう……」
 咄嗟に受話器を遠ざけ、梨紅さんの大声量から逃れる。耳が潰れるかと思った。
「もう二時半だよ! 早く街出ないといけないじゃん!」
「あ、そだね、うん」
「そだねじゃないよお。早くしなきゃ、よく分かんないけど大変なことになりそうだし
……」
 彼女は知らない。僕がその「大変なこと」の真っ只中にいることを。東野町全体に渦巻く
悪意の中心にいることを。
「……丹羽くん?」
「ん? うん。梨紅さんはもう街を離れたの?」
「うん。お昼頃に。今は春日井中学にいるよ。石井ちゃんや福田さん達も一緒。日渡くんや
冴原くんもいるよ」
「そっか……皆無事に避難できたんだね」
「そう、後は丹羽くんだけだよ。早く来て」
「そっか…………無事、なんだね」
 皆は無事、知ることができなかったみんなのことを知り、安心した。
457125:04/03/31 02:48 ID:sAo3yPmm
「皆心配してるよ? だから丹羽くん」
「ごめん梨紅さん」
「――え」
「まだそっちに行けそうにないんだ」
「ち、ちょっとぉ! なんで、どうして!?」
「しなきゃいけないことがあるんだ」
「しなきゃって……っ!」
「大丈夫。終わったらすぐ梨紅さんに会いに行くから。だから」
 クラッドに言われたことがふとよぎる。けど、別れの言葉なんて口にするのは憚られる。
彼女の傍に……いたいから。
「だから、ちょっと行って来るね」
「!? 待って、待ってよ丹――」
 雑音が混じったかと思うと一瞬で通話が途切れた。電波障害が再び強まったのか。
458125:04/03/31 02:49 ID:sAo3yPmm
「大助、起きて平気かい?」
 声は二階から降りてきた父さんのものだった。
「うん。寝てると考えが暗くなるだけだし」
「そうかい。……電話は誰からだったのかな? もしかして原田梨紅ちゃんかい?」
「ええっ?! 何でぇっっ?」
 梨紅さんとの付き合いは気恥ずかしさが邪魔してまだ誰にも言ってないのに、一体
どうして?
(ま、まさか母さんが!?)
 などという考えが浮かんでしまうけど、
「昨日その子から電話があってね。とても心配そうだったからまたかかってくるかと思っ
てたんだ」
 父さんの説明で納得いった。
「なんだ、そうだったんだ……」
「それでその梨紅ちゃんとはどんな関係なんだい?」
「あっあの、それは」
 面と向かってそう聞かれると、やはり恥ずかしくってはっきり言えそうにない。しどろもどろ
にごまかそうとしていると、
「今は言いづらいかい? いいよ、心の準備が整ったらで。笑子さんと一緒に聞いてあげるよ」
 ウインクしながら微笑む。そういう仕草が不自然じゃないのが父さんらしい。
「うん…………これが終わったらちゃんと言うから、帰ってくるから」
 梨紅さんとの電話で抱いた決意を口にした時、玄関の扉が開かれた。
「おお二人とも。今帰ったぞい」
 そこには昨日と同じくスーツ姿のじいちゃんがいた。
459125:04/03/31 02:50 ID:sAo3yPmm
 先ほどじいちゃんから譲り受けた黒のロングコートに身を包み自転車を引っ張り出し、
向かう準備は万端だ。
「じいちゃん、父さん」
 玄関で二人を前に、出かける前の挨拶をしていた。
「ちゃんと帰ってくるから、また後で。母さんとトワちゃんにもよろしくって」
「うむ。大助、忘れるでないぞ。お前は一人で戦うのではない、わしらもついとる」
「うん」
 コートの襟を強く握り締めながら頷いた。少しだけ力が漲ってくるような気がする。
「僕からはこれくらいしか渡せないけど、持って行ってくれ」
 父さんがズボンのポケットから取り出したのは、何度かさっちゃんレムちゃんに使った
ことのある秘薬だった。
「すまない。使えそうな物はそれしかなかった」
「ううん、ありがと。大事に使うよ……っと」
 コートの内ポケットにしまい停めてある自転車に歩み寄ろうとした時、父さんに呼び止め
られた。
「大助。二人には、本当に会わなくていいのかい?」
 さっきもよぎった二人の姿が脳裏に浮かんで、そして消した。
「いいんだ。会っちゃったら、きっと二人に頼ろうとしちゃうから」
「……そうか」
「それじゃ、行ってきます」
 再び歩み自転車に飛び乗ると、玄関先で見送っているじいちゃん父さんを振り返らずに
全力でペダルを漕ぎ出した。
 大丈夫、きっとまた会えるから……帰るから、変に感傷的にならなくていい。
「大丈夫、絶対!」
460125:04/03/31 02:51 ID:sAo3yPmm

「…………行ってしまいましたね」
「ああ。なに、大助のことじゃ。きっと大丈夫じゃて」
「もちろん、そう信じてますよ」
「そうじゃ。……わしらもそろそろ行こうか、笑子さん達が待っておるじゃろう」
「じゃあ荷物を持ってきます。すぐに出ましょう」
 小助は一足先に家に駆け込み、大助の部屋へ向かった。そこにいる二人と一匹を連れて
行かなくてはならなかったからだ。
「二人とも……?」
 室内に一歩踏み込んだ時、微かな違和を肌で感じた。空気がそよそよと動いている。動い
ているのは空気だけではない、カーテンもたなびいている。
 バルコニーへ歩み出る前にちらりと大助のベッド脇の壁を見やるが、そこには剣も盾も
なかった。無論ウィズも。
 バルコニーに吹く風は冬の冷気とは別の寒気を孕んでいた。小助は大助が通って行ったで
あろう道を目で追い、
「ん……?」
 視線の先、その上方には宙を舞う一線の黒い影があった……気がした。見送る小助の瞳は
希望不安、様々な思惑を内包していた。

461125:04/03/31 02:51 ID:sAo3yPmm

 オレンジに染まりかけの空と、冬の冷たい空気とは別の寒気の降りる街の中を自転車
で駆け抜ける。人の気配はほとんどない、映画に出てきそうなゴーストタウンというのを
思い起こさせる。警察の人までいないなんて、じいちゃんが何かしたのだろうか。詳しく
聞いていなかった。
「……それにしても」
 今日は自転車のペダルがいやに重く感じられる。僕の中にある不安がそうさせているの
か……。
 ウィズがいれば、と思うと一緒に二人の顔まで浮かびそうになり、慌てて頭を振ってそれ
を拭い去った。
 今は僕しか、いないのだから。僕だけなのだから。
 知らなかった、一人がこんなに淋しいなんて。
 身体が泥の底に沈みこみそうに重い……脚が止まりそうだ。それが嫌で、僕は必死に
ペダルを漕いだ。できるだけ早く、できるだけ遠くに。家から離れないと、そうしなきゃいけない。
 十分離れていると思う。それでもまだダメだ。せめて中央美術館が近くで確認できるくらい
まで行かなくちゃ、
「……ん?」
 不意に世界が翳った。雲がかかったのかなと思ったけど、少し不自然なことに気付いた。
空に雲はかかってないし、美しい赤黄色に染まっている。
 僕の周りだけが、切り抜かれたように綺麗な三日月形に影を成していた。自転車のスピ
ードをほんの少し落として空を見上げると、傾きかけた日の中に黒い影は在った。見紛う
はずはない、いつも僕とともにいてくれた黒い翼が空に――。
 
462125:04/03/31 02:52 ID:sAo3yPmm
ここまでっす。圧縮生還オメ
もうしばらくお付き合いしてくださいませ
463名無しさん@ピンキー:04/03/31 09:04 ID:V+faowbD
かなりわくわくして見ています
続きも期待しています
464名無しさん@ピンキー:04/04/02 20:31 ID:Yq+B6boK
続きが楽しみだ
465名無しさん@ピンキー:04/04/05 04:59 ID:5NIHwl9A
>>462
了解しました
466125:04/04/07 04:05 ID:SYwAUNUj
大分長くなりそうですが最後まで投下します
467125:04/04/07 04:05 ID:SYwAUNUj
 太陽は顔の半分を地平に沈めている。遠くの空は黒く染まり、今僕が……僕達がいる東野
第二中学校も闇に包まれようとしている。
「暗くなっちゃったね」
 街の明かりはほとんどない窓の外を見ながらぽつりと呟くが、誰も答えてはくれなかった。
二人の様子からしてそれは期待できなかったけど、やっぱり少しだけ心苦しくなった。
 ウィズと二人が姿を見せたとき、僕に話があると言われ話せる場所を探して中学校の保健室
に辿り着いた。さすがに冷え込んでいたので暖房をつけ、電灯も点した。おそらく今、この街で
人を照らす光は保健室の電灯だけだろう。
 時計の針は進み短針は真下を差そうかという時刻、ここについて数十分、二人は何も言わな
いし、僕も急かさない。黙って二人の話を待った。
 沈黙はいつまで続くのだろう。いつまでも続いたらダメだ。時間は待ってくれないから。
それでも急かさない。ギリギリまで待って、二人の口から話をして欲しい。
 時間は六時を回っている。窓がカタカタ音を立て、吹く風に震えていた。
「ご主人様…………」
 幼さの残る小さな声が静寂を破り裂いた。ようやく話をしてくれたことに心が少しだけ軽くなる
のを感じた。
「独りだけで行く気なのですか?」
「そうだよ。行かなくちゃいけないから」
 沈痛な声に対してできるだけ明るく答えてみせた。レムちゃんの潤んだ瞳が照明を反射して
きらりと光っている。
「でも、でもぉ……!」
「大丈夫だよきっと。それより二人とも早く行かないと、もうすぐ危険になるから」
「嫌ですっっ!」
 窓から眺めるのをやめて振り返った胸にレムちゃんの小さな身体がぽすんと飛び込んできた。
思わずよろけ、窓枠が小さく軋む。
「いやですいやです! 一人で行っちゃいやです!」
「レムちゃん……」
 顔を埋めて訴えるレムちゃんの声が直に胸を打つ。熱く湿っていくのを肌で感じる。
468125:04/04/07 04:06 ID:SYwAUNUj
「ありがと、心配してくれてるんだ。本当にありがとう。でも」
 胸の中で震える少女の肩に手をかける。今は一緒にいちゃいけないし、僕は行かなくちゃ
いけない。
「行かなきゃダメなんだ。独りでも……行かなくちゃ」
「そうやって!」
 突然部屋中に響いた声にはっと顔を上げた。相変わらず胸で震えるレムちゃん以外にこの
場にいるもう一人が、僕をきっと見据えていた。
「そうやって独りで行って、自分だけ傷ついて、それで我らが納得するわけはないだろ!」
「でもさっちゃん……」
「主が行くなら我らも行く! これは二人で決めたことだ!」
 耳を疑った。驚いた、し…………一瞬だけ嬉しくなった。その思いはすぐにかき消した。
「いや、来ちゃダメだよ。だって二人はクラッドと……」
 二人はクラッドと戦えない。クラッドの力の前に萎縮し、畏怖し、戦う意思をごっそりと刈り取ら
れていた。先日の短時間の戦闘が今ではありありと思い出せる。
「戦えます……戦えますからぁ」
 ぐずぐず鼻を鳴らすレムちゃんはがっしりとしがみついている。離れたくない、という思いが伝
わってくるようだ。
「もう、傷ついて欲しくないのだ」
「……傷つくのが僕だけなら、いいよ」
「傷ついてしまったのは我らの責任だ!」
 言葉に詰まった。あのさっちゃんが涙声でこんな風に叫ぶなんて思ってなかった。
「今度はしっかり守るだから!」
 レムちゃんの上からさっちゃんが身体を抱きしめてくる。すぐ横の彼女の口が耳元でそっと囁く。
「だから……一緒に」
 二人が傍にいることが、とても嬉しい。二人が僕を求めてくれているのが、すごく安らぐ。
「痛い……痛いよ、二人とも」
 ――いや、違う。求めていたのは僕の方だ。二人に傍にいて欲しいと願っていたのは僕の方だ。
だから今、二人をとても愛しく思う。
 梨紅さんに感じるのとは違う愛情が、僕らを強く結んでいた。
469125:04/04/07 04:07 ID:SYwAUNUj
 二人に誘われてベッドに座る。言葉にしなくても二人がしようとすることが手に取るよ
うに分かる。レムちゃんが下を、さっちゃんが上を脱がせていく。
「傷は?」
「うん、平気」
 僕を裸にすると、今度は二人が服を脱ぎ始めた。目の前で行われる二人の脱衣に見とれ
ながらも、下半身はぴくっと反応を示す程度だ。今日のことを思うと素直になれないらしい。
けど今は、二人と一緒の時間を大事にしていたい。
 ウィズは暖房の上で寝入っていた。これからの行為が三人だけが共有するものだと確認
するとほっと安堵した。
(ごめんねウィズ。三人だけで楽しんじゃうけど)
「どうかしましたか?」
「何でもないよ」
 レムちゃんの言葉に視線を戻すと、女性と少女の一糸纏わぬ姿が並んでいた。仲良く一緒
に跪くと、二人の顔が未だ元気を示さない下半身に近づいてくる。
 レムちゃんの指が先に絡みつき、先端を覆っていた皮をそっと剥いた。萎縮したままの小さ
な頭が外気に晒され、背筋がかすかにざわつく。
 二つの呼吸が左右から迫り、撫でていく。鼻先が触れ、唇が触れ、優しく食む。二つの濡れ
た唇が先から根元、その下までをなぞるように蠢き回る。
 丹念な口付けにようやく緊張がほぐれ、代わりに硬度が滾りつつあった。合わせて二人も舌
を動かし始めた。不揃いな二つの舌の動きがぞくぞくと駆け上がってくる。秘孔、出っ張り、裏
側、嚢までたっぷりと舐め回され、たちまち硬直した。
 ベッドに座す僕の上に先に乗ってきたのはレムちゃんだった。下腹に小さなお尻が密着し、
その割れ目を硬くなったところで感じる。レムちゃんの向こうにあるそれが生暖かなものに覆わ
れ、ひどくいやらしい水音を立ててしごかれだした。さっちゃんの口に攻められ、早くも気持ち
よくなってきた。さっちゃんが咥えている姿が見れないのが少し残念だ。
470125:04/04/07 04:08 ID:SYwAUNUj
 上も休んでいられない。レムちゃんは積極的に唇を重ねて口内に入ってくる。淡い刺激臭
にかすかな苦味とレムちゃんの甘さが鼻腔にまで拡がった。
「臭かったり……しませんか?」
「全然、いい匂い」
 レムちゃんのつまらない心配を払拭するよう今度は僕から口腔へ押し入った。舌を絡め、
口から溢れる二人の唾液がつうっと垂れ流れる。
 いつの間にか僕の下腹には水溜りができていた。レムちゃんの陰目からはキスだけで多
量に濡れていた。
「さっちゃん、もういいよ」
「はむっ……ん」
 するりと口をすぼめて引き抜いたさっちゃんの表情はとても満足気だった。レムちゃんの
腰を抱えていきり立つものの先に、じゅくじゅく熱く蕩けるレムちゃんを押し当てた。
 レムちゃんの顔は喜びの期待に赤く染まっていた。今まで、こんなに胸が高鳴る挿入の
瞬間はあっただろうか。
 ずくっと先が埋まる。後は潤滑液が助けとなり、あっという間に奥まで突き抜いた。レムちゃ
んがいっぱい締めつけてくる……しばらく腕を回しあい、その余韻に浸っていた。
 横からさっちゃんが割って入ってくる。唇を奪われると、レムちゃんの時とは比べ物になら
ない濃密な臭気が頭を焦がし、たちまち意識を朦朧とさせる。ベッドに押し倒されてからもず
っと、さっちゃんの舌がずっと僕の中を這い回っている。
471125:04/04/07 04:09 ID:SYwAUNUj
 ベッドが軋みだすと同時にぞくぞくする快感が下半身を襲う。音も聞こえるけど、視界は
紅潮するさっちゃんに塞がれ、レムちゃんが動くのを目で愉しむことはできない。代わりに
触覚が冴え、いつもより数段気持ちよくなっていく。
 レムちゃんの呻きが強くなると、胸に掌をついて下の動きが速くなる。射精感が高まり、
まだ動きを止めないレムちゃんの胎内で今日最初の絶頂を迎えた。
 始めたばかりなのにもうからからになる口をさっちゃんが満たしてくれる。一度の射精で
萎えてしまうのを、レムちゃんは咥えて放そうとしない。硬さを失いつつあるものを中に入れ
乱暴といえるくらい強く腰を振り、そして小刻みに痙攣を始めた。さっちゃんが顔を離し立ち
上がると代わってレムちゃんが降ってきた。いや、倒れ込んできた。疲弊し力ない肢体は
咥えていたものを吐き出し、レムちゃんの膣内と別れた。
 休む間もなく刺激は訪れた。さっちゃんが再び下半身に絡みついてきた。揉まれる感触に
瞳を閉じ、されるがままに四肢の力を抜いた。不思議な落ち着きと快感が渦巻き、冷静なま
ま下半身は熱く興奮した。
 また呑み込まれていく……。とても暖かく、窮屈で、締めつけてくる。さっちゃんが腰を振る
たびに劣情が増してくる。さっちゃんに翻弄され、レムちゃんを抱き締め、この行為が続くこ
とを強く願った。
 二人の熱を感じていたいと思いながら、二度目の絶頂に向かって駆け上がってきた。レム
ちゃんの時には感じられなかった揺り動く肉の重みが、下半身をこれでもかと刺激してくる。
このままじゃまた先にイかされてしまうと思い、レムちゃんを胸に乗せたまま上半身を起こした。
訝しむさっちゃんのお尻を手で包み込むと、僕の意のままにお尻を上下させた。これならさっ
ちゃんの反応を見てイくかイかないかが分かるし、僕の二度目の限界も操れる。上位にいる
のは彼女だけど、下から突き上げ、僕が揺さぶり、ベッド上の主導権を握る。
472125:04/04/07 04:10 ID:SYwAUNUj
 頬に締りがなくなり上気していくのを確認すると、繋がり合ったまま二人の身体を丁寧
にベッドに横たえた。上位になり脚を大きく開かせると、今まで制限されていた動きを開放
されて腰が一気にさっちゃんを突きだした。
 惚けたままのレムちゃんと声を噛み殺して小さく喘ぐさっちゃんを眺め下ろしていると、
責めているこちらの方が先にイっちゃいそうだ。
 小さく速く突き責めると、さっちゃんの反応が変わり始めた。息を荒げ、身体がぴくぴくと
緊張しだし、動き続けてしばらく、抽迭を繰り返していたそこが痙攣を感じた。静かに達した
のを見届け、僕は奥深くまで腰を沈めて胎内で自身を擦りあげた。さっちゃんの焦がし絡
みつく中で、二度目の絶頂を迎えた。
 最後まで出し、それでも中から引き抜こうとはしなかった。まだ足りない……、まだ満足し
てない。自分の精子がつながったところから溢れ出すのを留めるように、さっちゃんの中に
入ったまま腰を擦り合せた。けど、さすがに二度放った後じゃすぐに力は戻らない。
「お尻見せて……」
 引き抜いて言うと、二人は従順に、犬のように素直にお尻を向けてきた。達したせいか、
小刻みに震えているのに昂ぶり、また可愛らしく感じる。
 二人自身と僕の混液が局部から流れている。喉を鳴らし、少しの間寂しい思いをさせて
いたレムちゃんに吸いついた。
 自分のが充満し、隠されてしまいそうなレムちゃんのかすかな臭気を求めて一心に舐め
続けた。柔らかな秘肉を貪りながら、右手でもう一人の秘所をしっかり弄る。ぬるりとした
粘液が指を滑らせる。
 秘孔を探り当て指を二本、三本と滑り込ませ、舌を使うことも忘れない。脱力していた
二人が次第に反応を示すようになると、応じて僕も興奮を覚えた。
473125:04/04/07 04:11 ID:SYwAUNUj
 下半身はまだ十分に力が篭ってないけど、これくらいなら入れても平気な硬さだ。すぐ
にでも二人としたいという気が僕を突き動かした。
「レムちゃん、入れるよ」
 腰をあてがうと言葉が終わらないうちに膣内へ浸入していく。再び暖かな中に包まれ、
心も身体も満たされる気がする。
 何度か往復し、レムちゃんが感じ始めたところで行為を中断する。いきなり寂しくなった
せいか、物欲しげな視線を送ってくる。けれどそれには応じず、今度は隣で一人だった
さっちゃんに突き立てた。レムちゃんと同じく最初は反応が薄いけど、身体と声が次第に
反応しだした。そこでまた止める。レムちゃんに戻ってゆっくり、大きく責め、再びさっちゃん
に入れて早く小刻みに腰を動かし、そしてまた……。
 二人を何度も代わる代わる苛めた。具合の違う二つの蜜壺を異なった腰使いで責め、
十二分に愉しんでいると、とうとう三度目の限界が近づいてきた。
「ね……二人で触って」
 二人の間に苦しそうにひくつくものを突き出すと、二人が向きを変えて僕に手を伸ばして
きた。女性の手が二つ絡んでくる。ぱんぱんに腫れ上がったそこにはきつい刺激だ。
 何も言わず二人は手を動かし始めた。早く僕のを解放しようと懸命に手を動かし、擦り続
け、口を開けて精液を迎える準備をする。
 艶っぽい二人の顔を見た瞬間、弾けた。三度目でも多量と呼べるほどの精液が宙を舞い、
勢いよく二人の顔に降り注いだ。
 口の周りを舐め、互いの顔にかかった白い粘液を舐め合う二人の肩に手をかけ、そのまま
倒れるようにベッドに横になった。しばらく三人で身体を重ね、長い行為の余韻に浸っていた。
474125:04/04/07 04:11 ID:SYwAUNUj

 ――――今、何時だろう……。

 すっと目が開いた。長い間外気に晒されていたせいか身体が緊張している。
「起きたか?」
 頷いた。二人の姿はない。すでにそれぞれの宿主に戻っている。
「時間は?」
「そろそろ日付が変わりそうなくらいです」
 抱えていた膝を放すと立ち上がり、ここから一望できる景色を眺め回した。東野第二中
学校時計塔からは、街を流れる川の中州にある中央美術館まで望める。
「……風、強いね」
 吹き荒ぶ風がコートをばさばさと打ち据え、スーツを抜けて身体を冷やす。背後に吊り
下げられる巨大な鐘はその機能を失い、風邪に揺られることもなく黙って僕らを見下ろし
ていた。
「戻ったらまた身を重ねるか?」
「いいかもね……。ウィズ」
 紅円の剣と蒼月の盾、ウィズと、後は家から持ってきた盗みの時に使うツール。これが
今の僕の装備。
「絶対に戻りましょう。そしたらまた……」
 また頷く。背中に翼が生まれるのを感じながら大きく跳躍した。
 もう引き返すことはできない。前に進み、この災厄を薙ぎ払わなくてはならない。ウィ
ズとさっちゃんとレムちゃん、僕達にしかできないことなんだ。
475125:04/04/07 04:12 ID:SYwAUNUj
 深淵の中、クラッドは瞳を開いた。純粋に穢れ、澄み渡るように暗い光を灯す瞳を。
「来ましたか……」
 黒翼が封ぜられる美術館の最下層から、彼は静かに舞い上がった。
 言葉で語りつくせぬ闇を孕む、悪意が翼をはためかせる。






「着きましたね」
 中央美術館上空、レムちゃんの言葉がいよいよ……ということを思い起こさせる。美術館
の周囲は妖しい黒い靄に覆われている。異変はクラッド、黒翼によるものに違いない。
「二人とも、平気?」
「うむ。心配は無用」
「精一杯頑張ります」
 二人の声が力強い。余計な杞憂だったかもしれない。
「行こうか」
「ああ。あそこの最深だ……、突き抜けるぞ!」
「先手必勝ですっ!」
 急降下を始める。あそこにはクラッドも待ち構えているはずだ。昨日のような敗北は、今日
は許されない。
「うん! こっちから仕掛ける!」
 聳え立つ三つの塔の中央、時計塔へ下降する。盾を構え、防御を施して塔の頂点を打ち
破り内部を駆け下りる。
「――――!」
 いた。塔の真ん中に白い二条の翼を持つ者が、僕達を見据えている。
476125:04/04/07 04:16 ID:SYwAUNUj
「クラッドッッ!」
 レムちゃんに言われたとおり先手はこちらが取った。剣の柄を両手で握り締め、クラッド
めがけ一直線に突き進む。
「待っていましたよ」
 切っ先がクラッドの胸を貫く寸前、刀身が止められた。右手の人差し指と中指で刃が押
さえられた。
「くっ……」
 やっぱり一筋縄じゃいかない。真っ直ぐにぶち当たるだけじゃ力の差で完全にこちらの
負けだ。止められることを想定していたため身体は次の行動にすんなり移ろうとするが、
途中で尋常じゃない寒気に背筋が総毛立った。
「やはり歯向かいますか?」
 目が合い、寒気の正体に気付いた。クラッドの眼…………澄んでいる。とても綺麗に、
純なほど、悪意に。
「主ぃっっ!」
「っがは――?!」
 さっちゃんの叫びに正気を取り戻した直後に鳩尾を貫かれた。鋭い左拳が正確に急所を
捉え、衝撃に身体が吹き飛んだ。内壁に背中が直撃し、前後からの鋭痛と鈍痛に感覚が
麻痺しそうになる。
「ご主人様っ!」
 霞む眼が翼を広げるクラッドを捉える。
「大人しくしていればそれほど痛くはしませんよ」
 翼がはためくと、無数の光矢がこちらに降り注いできた。かわすだけの機能が回復して
いない。左腕をかざすと、突入した時と同じく身体を防御陣で覆った。
「その程度で」
「ぐッ……」
 連続して訪れる振動に身体が揺さぶられる。小さな一撃一撃からは想像できない威力が
積み重なってくる。
「あぅぅ、逃げてっ」
 破られる――防御の限界が訪れ、決壊が微塵に砕け散る。光が襲い掛かってくる寸前、
壁から身体を引き剥がし逃れた。すぐ後方で着弾した内壁が爆砕する。
477125:04/04/07 04:18 ID:SYwAUNUj
「まだだ、こちらから攻めろっ!」
「分かってる!」
 他面の壁に着地し、クラッドめがけ飛び出す。剣を身体が捩れるまで振り絞り、横一線
に薙ぎ払う。
「ふ――ッ」
 だがまたしてもクラッドの左手に止められる。突きも払いも、全部見切られている。考え
るより先に右脚が飛び出した。こめかみに放たれた脚は、やはり当たる直前にクラッドの
右手に掴まれ、完全に止められた。
「まだまだですね」
 足元が急激に引かれ、全身が不快な加速を感じた。クラッドの右手から放られ、またも
背中を壁に痛打する。内臓が軋み、呻き声さえ出てこない。
「分かりましたか? 歯向かうことが無意味だと」
 壁にはり付く僕の首を絞めながら高圧的な物言いをしてくる。昨日とまったく同じ状態、
だけど、二人の声が支えてくれる。
「しっかりしろ! まだ終わってないぞ!」
「まだ、まだやれますっ!」
 力の差は目に見えて明らかだ。奇襲からの攻撃も効きはしなかった。
「時が来るまで大人しくしていなさい。それともこのまま締め落として差し上げましょうか?」
 よほどのことじゃない限り、クラッドに傷を負わせることさえできない。
「その方が良いでしょう。あなたの意識が戻る前に事は終わらせますよ」
「あァっ……、アぐっッ!」
 締めつける右腕を引き剥がそうと手をかけて抗うけど、力は込め続けられる。
478125:04/04/07 04:19 ID:SYwAUNUj
「その後すぐに使い魔もあなたの元に送ります。寂しい思いはしなくてすむでしょう?」
 クラッドの言うことに耳は貸さず、僕は準備を進めた。クラッドに油断があるかは分から
ないけど、これなら有効打にかもしれない。
 腕を掴んで抵抗している間に剣を左手に持ち替え、クラッドの顔前――眼前にゆっくり
した動きで右腕を突き出す。
 クラッドの眉が寄るが、遅い。これは完全に隙を突いた一手だ。コートの袖の中にはワ
イヤーアンカー付きのアームパットが仕込んである。何度かダークとして使い、そして今
はクラッドの知らない唯一の武器として、僕が使う。
「ぐおぉあぁッッッ!!」
 アンカーをクラッドの左眼に至近距離で射った。柔らかなものが砕ける音、眼球を潰す
感触がワイヤーから伝わったのを感じながら、クラッドの手から逃れる。
「よしっ、畳み掛けろ!」
 残酷な行為。人には絶対にできない非道。けど、あれは人じゃない。躊躇うな、さっちゃん
が言うとおり、これは自分の手で摘みだした絶好の好機だ。
 ワイヤーが鮮血を撒き散らしながら腕へ戻ってくる前にこちらから剣を構え間を詰める。
「やっちゃえええっっっ!」
「うわぁぁぁぁッッ!!」
 剣先ががら空きになったクラッドの腹部を貫いた。眼球の時と同じ嫌な感触が柄から伝わ
るが、
「迷うな! ここで決めろ!」
 さっちゃんの渇が身体を突き動かした。もっと強く、もっと速くとウィズに念じながら加速し
ていく。クラッドを貫いた剣先が壁面に突き刺さった。
「ぐぁぁ……っぬぁ……ッ」
 四肢が震えている。どうなったんだ?これは効いたの、
479125:04/04/07 04:19 ID:SYwAUNUj
「――っ貴様ぁぁ!!」
「ッああ!?」
 顔が鷲掴みにされたかと思った瞬間、すでに身体は下へ投げ飛ばされていた。
「く……ウィズッ!」
 名前を叫ぶと少しだけ加速が緩む…………けど、十分じゃない。受身を……無理?とに
かく衝撃を――。
 咄嗟に手足を曲げて身体を丸める。どうすればいいか分からないまま、本能的な動作だった。
「わたしがっ!」
「! レムちゃ」
 口を開ききる前に身体は中央美術館ロビーに叩きつけられた。
 周囲が砂塵を巻き上げる中、僕の身の回りだけが円形に陥没していた。寸前にレムちゃん
が落下の衝撃から守ってくれたのか。そうじゃなかったら、ただじゃ済んでいなかった。
「くるぞ、かわせ!」
 さっちゃんの声に反応してとにかくその場から後方に飛んだ。次の瞬間、床が消えた。
「うわ――」
 クラッドがロビーに突き刺した拳が床を粉々に砕き、僕の身体はまた落下を始めた。しかし
僕自身が打ち下ろされているわけではないので今度は余裕がある。
480125:04/04/07 04:20 ID:SYwAUNUj
「下に行くぞ。まずは黒翼を押さえる」
「分かった」
 クラッドに追いつかれぬようかなりのスピードで滑空し、どんどんと重くなる空気の渦に
沈んでいった。
 しばらく後、かなり広い空間に出た。おそらく、ここが中央美術館の最下層。黒翼が封じ
られ、そして目覚めようとしているその場所。
「ありました! 正面」
 正面に確かにあった。じいちゃんに聞いたとおりの巨大なモノリス。あれは、本当に美術
品と呼べる代物なのだろうか。ただ、ただでかい。
「主、急いで破壊を」
「そうはさせませんよ!」
 黒翼へ向かおうとする僕達を制する声が頭上よりこの空間へ響き渡った。
「来た……!」
 左手で顔を押さえたクラッドが姿を現し、右目だけを殺気に滾らせて見下ろしてくる。
「凄まじいな、くそ」
 重い空気に胸が押し潰されそうで、息苦しい。…………ちょっと、逃げ出したいかも。
「穏便に済まそうと思っていましたがもう頭にきましたよ……! 腕の一、二本は覚悟して
もらいましょう」
「主、臆すな。我等がついている」
「そうですよ。四人いればどうにかなります」
「ウッキュ」
「さっちゃん……レムちゃん、ウィズ」
 弱気になっていたところに、この三人はとても心強い存在だった。
「そうだ……そうだね。帰ってまた、するんだったね」
 二人は頷く。一匹は首を傾げた。いつまでもこんな関係でいられればいい、そうするため
に、まずはすべきことがある。
「きなさい。あなた方がいかに無力か教えてあげましょう」
「望むところだ!」
「泣いて謝ってもらいます!」
「行くよ!」
481125:04/04/07 04:21 ID:SYwAUNUj
 ――翼は軽やかに舞う。攻撃は盾で完全に防ぐ。剣も思い通りに太刀筋を描く。驚くほど
好調だ。
(なのに……)
 攻撃がかすりもしない。刃はクラッドの身体に触れる寸前にかわされる。
(なんだ、なんなんだ?)
「後ろですよ」
「! くそぉっっ!」
 声に反応して剣を振るってもすでにクラッドの姿はおろか影もない。
(遊ばれてるのか!?)
 それほどまでに力量差があるのか?文字どおり手も足も出せないほどに。
 白い影が正面に現れる。間を詰め、剣を振り下ろすが刃は空を斬る。右に逃げたか左に
逃げたか、上か下かも眼で捉えられない。
「こちらです」
 頭上――。
 見上げる間もなく床に撃ちつけられる。ここで戦いを始めた途端、身体に疲労が堪ってき
ている。
「ぐぅぅ、うッ!」
 横腹に突き刺すような痛み、肋骨が折れたみたいだ。
「主……くそ!」
「はぁ、っご、ごめんなさいわたしがしっかり……!」
 この局面に来て、二人の力の制御も危うくなっている。これがクラッドの影響なら、深刻だ。
「クラッドの魔力相手に、生身の主では荷が重過ぎるのか……?」
「だいじょぶ、大丈夫……まだ、動けるから」
「わたし達でも辛いのに、そんな強がらないでください!」
「ッはは……、ホント、まだ大丈夫だって」
 声は力なく笑って、身体も剣を支えにしないと立ってられない状態で言っても説得力は皆無
だ。それでも引くことはできないし、意味がない。
「まだやりますか?」
 声はすぐ傍からかけられた。今にも霞みそうな目の前には白い影が三つ四つと存在している。
(ああ――もう霞んでるのか)
 直後に突き出された二本の腕に吹き飛ばされた。今日幾度目かの背中への鈍痛。意識を
保っていることも、容易じゃなくなってきた……。
482125:04/04/07 04:22 ID:SYwAUNUj


 クラッドの手から放たれた魔力による一弾は生身の大助を人形のように簡単に吹き飛ばした。
最下層の空間を囲う壁に背中から直撃した大助は埃まみれの床に前のめりに倒れた。
「主……! おい、目を覚ませ!」
「ご主人様ぁっ!」
 二人の使い魔が翼主に呼びかけるが反応を示さない。頭をぶつけたのか、気を失っていた。
もう一匹の使い魔も仲良く意識を閉ざしている。
「おやおや。もう終わりですか? 手応えのない」
 舞い下りたクラッドは愉快そうに揶揄しながら歩み寄った。
「とりあえずはこの左眼のお礼をさせてもらいますよ」
 つかつかと上品な足音を響かせるクラッドを前に、さっちゃんは幾許の恐怖を抱き、それが僅か
な躊躇いを生んだ。
「…………ご主人様」
 もし躊躇いがなければ止めれただろう。
「え?」
 レムちゃんの手が大助の顔をそっと撫で、離れた。
「ちょっと行ってきますね」
「なッ! レム待て――」
 さっちゃんの制止の言葉は届かぬ距離にレムちゃんは飛び進んでいた。
「ん?」
 自分へと向かってくる低俗な精霊を愚者でも目にしたように見つめていたクラッドの表情がレム
ちゃんと触れる……いやぶつかる寸前に凍りついた。
 高純度の魔力の塊――大助とともに過ごした月日が彼女の力と成り、今、其れが解き放たれた。
「ちぃっ――」
 クラッドの翼が自身の身体を覆い、直後に膨れ上がる光熱球と爆風。そして、最悪な瞬間に大助
は意識を取り戻していた。
483125:04/04/07 04:23 ID:SYwAUNUj
 頬に温かな何かが触れ、大助は寸断されていた意識を取り戻した。瞳に映るのは、飛び去る
レムちゃんの後姿。溢れる光の粒。それから、閃光。
 爆発するように膨れ上がる光は風を巻き起こし、倒れた大助の視力を奪い、身体に砂塵を打
ちつけた。
「っ……何が……?」
 焼きついた視界が徐々に世界の輪郭を捉えだす。大助の目に映るのは、白い翼。クラッドが
身を守るためにたたんでいた翼を拡げるが、それは二条ではなかった。右翼は中ほどから消失
し、翼の代わりに白煙が立ち昇っていた。
「驚きましたねえ。まさか自爆するつもりで突進してくるとは」



 ――――え……?



「やれやれ……黒翼が完全に目覚めるまで余計な魔力は使いたくないのですが」
 翼は瞬時に再生を果たした。何度かはためかせ、違和感がないことを確かめる。
「ふむ、こんなものですね」
 クラッドは何事もなかったかのように再び大助へと歩み寄った。レムちゃんの突貫は、クラッド
にしてみればその程度だった。文字どおり、身を挺して大助を守ろうとしたレムちゃんの。
484125:04/04/07 04:24 ID:SYwAUNUj
「っの馬鹿……! お前が逝って何になる……!?」
「さっちゃん……? ねえ、何……どうして」
 大助はまだ分からずにいた。ただ、左腕がだんだんと温もりを失っていくことだけは
はっきりと感じられた。
「心配しなくても日が変われば、年が明ければあなたもすぐに後を追わせてあげますよ」
 大助は床を蹴り、駆けだしていた。どうしようもなく噴き上がる激情が、死に体だった
大助を突き動かした。
「クラッドォォ!!」
 間合いがなくなる。踏み込みの速さにクラッドはかすかに動揺を浮かべた。剣がクラッド
の肩口へ振り下ろされ、クラッドの左腕が受け止める。連続する戦闘の中、初めて大助が
正面からクラッドを捉えた。
「いい攻撃ですね。怒りと悲しみがよく伝わってきますよ……」
 嘲笑するように賛美の言葉を送ると、右掌を大助の左脇に添え、凝縮した魔力による一
撃が身体をくの字に折り曲げさせて突き飛ばした。身体を立て直すこともできず、勢いに
圧されるまままたしても背中を壁に撃ちつけた。今度は意識を保っていた、しかしうつ伏せ
に倒れることに抗うことはできなかった。ダメージの蓄積により、ついには身体を自由にす
ることさえできなくなった。無造作に正面を床に打ちつけ、拍子に今まで決して放すことの
なかった剣が手から抜けた。
「そろそろこの眼の代価を払っていただきますよ」
 大助は動けない。ぼろぼろの身体は倒れたまま、頬を熱いものが伝っていた。まだ確か
めたわけではない、だが、冷えきった左腕が、決定的なほど何かがかけてしまったことを
暗に語っていた。
485125:04/04/07 04:26 ID:SYwAUNUj
「起きろォっ! そのまま……そのまま這いつくばって、どうする……ッ!」
 大助を奮い立たそうとするさっちゃんの声も震えていた。恐怖ではない、悲しく、そして
悔しかったから。
 しかし、大助の身体は立たなかった。立てなかった。肉体が、限界だった。泣きながら、
胸から液体が流れ出すのを感じていた。黒いしみが徐々に広がり、全身が冷えていく錯
覚に陥った。
 もう立ち上がることはできない…………さっちゃんもそれを重々悟った。もう、主は戦え
ない。
「すまないな、主……」
 だから、今度は大助が止められなかった。
「一緒には帰れそうもない」
 声が聞こえ、頬を撫でられ、去る。それが分かるのに、止められなかった。
「我も行ってくる。生きて……」



 ダメだ…………いかないで――



 見れなかった。だから光が溢れ、変化が起きてようやく顔を上げた時には、もうさっちゃん
の姿はなかった。
 いるのは、右肩から先を失い、左眼から血の涙を流すクラッドだけだった。
「まさか……続けて突撃してくるとは……。少し油断してましたかね?」
 薄い笑みを貼り付けて忌々しげに呟くクラッドの姿を、大助は捉えられない。視界が揺ら
ぎ、とめどなく熱いものが湧き出し、声もなくその場で泣き伏した。
「――そろそろ刻限です。しばらくそこで己の無力さを噛み締めていてください」
 満足気に言い放つとクラッドは踵を返し、腕の再生は後回しにして黒翼の側へ飛び立った。
 残された大助はクラッドに言われたとおり己が無力さを痛感していた。こうなってしまったの
も、すべて自分が弱いから……。
 傍らに転がる剣を手にしたい、手にして、さっちゃんの温もりを感じたい。
 紅い輝きを失った剣が、すでにそれができないことを示しているが、大助は信じたくなかった。
486125:04/04/07 04:32 ID:SYwAUNUj


 ――僕が弱いから…………二人は

 自身の無力を強く呪った。そして同時に、強く望んだ。

 ――あったら……力があったら

 ひたすらに、純粋に、心の底から、思いが膨れる。

 ――クラッドを倒せるだけ……みんなを、二人を守れるくらいでいいのに…………っ!





「求めるか? その力ってのを」
 沈み行く意識の中、その声だけがはっきりと耳に届いた。声に出し答えるだけの力もな
い大助は、心で頷いた。
「なら俺の手を取れ。時間はねえが、あいつ一人ブン殴るくらいはできるぜ――!」



487125:04/04/07 04:33 ID:SYwAUNUj

 骸骨を模すレリーフが埋め込まれた巨大なモノリスを前に、クラッドは残された片腕で
それに触れた。そこから放射状の光がモノリスに行き渡り、それを合図として黒翼は眠り
から覚めようとした。手を離した後も触れたところを中心とし、光の輪が鼓動を刻むように
一定のリズムで黒翼を駆け巡る。
「ふ、これで準備は完了です。後はあなたを捧げれば…………?」
 顔を後ろに向け、視線の先に転がっている人影に呼びかけたつもりだった。だから、そ
こにいた人間のが床に転がっておらず、剣を杖代わりに立っていたことに表情をしかめた。
「あなたもしつこい人ですね。満身創痍の身体でまだ戦う気とは、愚かにもほどがある」
 鼻で笑いながら見下ろすが、目が合った瞬間ひどく不快にさせられた。全身傷だらけの
人間が、その目にまだ強い光を宿している。あれだけ痛めつけられ、仲間を消されたただ
の人間が。
「いいでしょう。望みどおり相手をして――」
 言葉の途中でクラッドの腹を剣が貫いた。あまりに突然で対応のできなかったクラッドは、
未だその現実を認識していなかった。剣の柄を握っているのは、紛れもなくクラッドが痛め
つけていた少年。背中に生える黒翼の主の名は、丹羽大助である。
「ぐわあぁっっ!? き、さまぁぁ…………ッ!」
 痛みに喘いだ時には、剣はクラッドの身体を串刺したまま黒翼に突き立っていた。
「何をした!? ただの人間が一体何をぉっ!」
「っへ! 油断してっからんなつまんねえ不意打ち喰らっちまうんだぜ?」
「!? 貴様、まさか」
 少年の口調が変わっていることに気付いた……いや、クラッドの場合は思い出した、という
べきか。過去に幾度か合間見えたことのある青年の口調を。
 剣を握る者と目が合う。それは今しがたまで横たわっていた赤髪赤目の少年ではなく、
黒髪黒目の青年だった。
「ダークゥッ! ダーク・マウジー!!」
488125:04/04/07 04:35 ID:SYwAUNUj
「ご名答。答えが分かったところで、さっさと消えてもらうぜ! 俺としてもこの機会を逃す
つもりはないんでな!」
「馬鹿なっ! 今あなたがいる身体は微細な魔力しか持たないのですよ!? それがなぜ
……ぐぁ、が、なぜあなたの強大な魔力を発現させることができるのです!?」
 理解できぬ謎に困惑し、噛み付くように問いかけるクラッドにダークは涼しい顔で答えた。
「ああ……これのおかげさ」
 ダークが左手の親指で指し示したのは自分の胸。濡れた床に倒れていたためにしとどに
湿っているが、外傷はなかった。大助が倒れていたのは血溜りではなく、コートから染み
出す液体が作り出した水溜りだった。
「それは、っがはぁ!」
「それともう一つ」
 正確な答えを知らされることのないまま、ダークはクラッドに話し続けた。その眼はクラッド
以上に鋭く、熱い怒りに染まっている。
「こいつが俺を望んだ」
 自分を指し示したままこいつと言うのはひどい違和感を感じさせるが、この特異な状況では
正しいことだった。
「こいつの悔しさと、怒りが俺を呼び起こした。身体奥深くにいたこの俺を」
 ダークの右腕に力が込められ、クラッドの身体を貫く剣に滾る魔力を注いでいく。紅円の剣
は今までにないほど激しく紅い光を灯され、呼応して蒼月の盾も蒼い光でこの場を照らしあげ
る。激しく大気が揺れ、大地が吼える。美術館最深部で渦巻き、膨らみ続ける魔力に建物とし
ての限界が近づいている。
489125:04/04/07 04:36 ID:SYwAUNUj
「傷ついたこいつの想い……その代償はきっちり払ってもらうぜ、クラッド!」
 剣に与えた魔力を解き放つ。黒翼が望んでいたものとは違う破壊の力がクラッドを、黒翼
を白刃の炎で焼き尽くしていく。
「うおおぉ……ッあ、あああッッ、ここで、こんなところで終わってっっ!!」
「終わるんだよ、黒翼諸共てめえの存在はここで!」
「く、ならば……最後にあなたも道連れに」
 燃え盛るクラッドの片腕が剣の刃を握り締め、執念でここに止めようとする。
「遠慮するぜ。これはてめえらに送られた今年最初で最後の盛大なプレゼントだ。でしゃばる
気はねえ!!」
「ダァクゥ!!」
 剣を引き抜いた裂口から白い炎が噴き上がる。上空に開くただ一つの出口へ向かう途中、
ダークは再び剣に魔力を込め、それを天井部に向かって放った。ただでさえ崩れかけていた
空間はその一撃を受け急激に崩壊の速度を増した。
「ここを出たら少しだけ外の空気でも吸うか。ウィズ、一気に駆け上がるぞ」
「キュウ!」
 ダークは残された僅かな時間をどう使うか考えながら美術館地上部へ飛び出した。最深部に
残された美術品と守護者の最後を見届けてやるつもりなどなかった。
「ダアアァァァァァァァクッッッッッ!!!!!!!――――――」



490125:04/04/07 04:37 ID:SYwAUNUj
 年明けを告げる鐘の音とともに突如出現した光の柱は隣町にいる者達にもはっきりと見えた。
春日井中学校庭にいる原田梨紅もその限りだった。
「うわあ! 何々、あの光?」
「わ、分かんない。でも……」
 天を突く巨大な光柱の出現に、誰もがその目を奪われ、ある種の幻想的な美しさを称える白光
を網膜に焼きつけていた。
 あの方角は東野町、中央美術館がある方かな?
 全員が全員心奪われているわけではなかった。まだあの街にいるかもしれない人のことを思う
と胸のざわめきを覚える者もいた。原田梨紅もそんな、大助を心配する一人だった。


 ――早く行け


「え? あ? ん?」
「どしたの、梨紅?」
「梨紗、さっきあたしのこと呼んだ?」
「別に呼んでないわよ」
「あ、そう……」
 変な子、そう言うと梨紗は再び他の者と同じように光の柱を眺めだした。
491125:04/04/07 04:38 ID:SYwAUNUj
「あん、もうすぐ消えちゃいそう」
 光の強さが徐々に弱まっていくのは目に見えてはっきりしていた。梨紅もそんな光を
見つめていると、


 ――行ってあげてください


「ひゃあ! ええ?! うんん!」
「ちょっとお、どうしたのよ一体? なんかあったわけ?」
「べ、別に、なんでも」
 また聞こえた。確かに声が。幻聴……なのかな、それにしても、なんだろうこの感じ。
 何かが梨紅の心を急きたてる。早く、早くと。一体何で、ただの幻聴じゃないの?


 ――丹羽大助のもとへ
 ――大助さんのところに


「――! 梨紗ごめん、あたしちょっと行ってくる!」
「あ、ちょっと待ってよ、行くってどこに?!」
 
 梨紗に答えることなく、自慢の脚力であっという間に校庭を飛び出し、梨紅はどこかへ
と向かった。
492125:04/04/07 04:39 ID:SYwAUNUj
 一体どこへ向かえというのか、実のところ本人にも分かっていなかった。じっとしてられ
ない、してちゃいけないという一念で走っているが、目的となる場所がどこかはっきりして
いない。もし誰かにどこかへ向かえと言われれば、今のこの街の者なら光の柱のもとへ
と答えるだろう。とにかくそのくらい漠然とした答えしか出せない状況で原田梨紅は走って
いた。
 何十分か何時間、それくらい走った気になった頃、ようやく足を止めた。膝に手をつき呼
吸を整え、顎に伝う汗を拭い一息吐く。
「…………なんか、ばっかみたい」
 本音がぽろりとこぼれた。あてもなく飛び出した自分に対するばかさ加減をとぼしめる
ように呟いてから、自分が今どこにいるのか辺りを見回した。
 薄暗い街中、何か変なものでも出てきそうな雰囲気がある。この場所で、梨紅は殺人鬼
に襲われたことがある。何ヶ月も前のこと、しかもそれは夢として片付けられているが、意
識の深層、根底に植えつけられた恐怖心は今でも微かに残っていた。
 梨紅は小さく身震いし、急いでこの場を離れようとした。が、ここから東野町へ進むか春日
井町へ戻るが逡巡した。
 その時、建物と建物の間、細く薄暗い路地から物音が聞こえ、梨紅は大きく身を竦ませた。
「だ、っ誰かいるの?!」
 思わずそちらに声をかける。やってしまって後悔した。もしかしたら人がいなくなったのを
いいことに空き巣とかがいるんじゃないかと嫌な仮定が浮かんだからだ。
 闇の向こうから聞こえるのは不定期で、力ない足音とからから何かを引きずる音。一歩引き、
何が出てくるか目を凝らし見つめていた。闇が微かに揺らいだ。
「梨紅、さん……?」
「あ…………丹羽、くん? 丹羽くん!?」
 現れたのは、会いたいと願っていた彼。星の明かりに照らされた彼は、あちこち擦りむき、
服もずたずたに傷のついた不似合いなコートを羽織っていた。
「どしたの? 何かあった? 大丈夫?」
 駆け寄った梨紅は今にも倒れそうな大助の肩を支え、顔を曇らせて一気に訊ねた。先日
から募っていた彼への思いが、会えたことで爆発した。
493125:04/04/07 04:39 ID:SYwAUNUj
「あはは…………ちょっといろいろあって。――梨紅さん」
 笑って答える彼に思わずむっとした表情をするが、一転して真面目な声を聞かされ、梨紅は
虚を疲れた顔をした。
「ただいま」
 微笑む彼に、すぐピンときた。あのときの電話のやり取りが、今も続いているんだと。
梨紅も笑おうとするが、大助の姿を見ると上手く表情が作れない。それでもなんとか目を細め、
少しだけ頬を緊張させ、ようやく笑みを浮かべた。
「お帰り」
 その言葉を待っていたように、大助は梨紅に抱きついた。戸惑いの色を浮かべるが、倒れそう
な彼を支えるべく彼女もしっかりと抱き返した。
 腕を回してしばらく、大助は肩を震わせ、嗚咽を漏らしだした。
「丹羽くん……? 泣いて――」
「大丈夫……大丈夫だから。すぐ、いつもみたいに……笑うから……!」
 触れ合う胸からはしゃくり上げるたびに彼の胸の震えが伝わってくる。大変なことが彼の身に
起こったんだと直感し、何があったのかひどく気にかかることだった。
「うん、分かった」
 それでも彼女は訊ねることはしない。
「あたし、ずっとこうしてる」
 彼が泣き止むのが朝だろうと夜だろうと、一日後でも一週間後でも。


 彼が話してくれるまで黙って傍にいてあげることが、あたしがしなきゃいけないことだと思うから。


494125:04/04/07 04:40 ID:SYwAUNUj


「声?」
 活気の戻った東野町を、彼と並んで歩いている。人に教えるのもなんだけど、デート中
なのだ。
「うん、声。それも二つ」
 一週間ほど前のあの日以来、彼は少しだけおかしくなっていた。本人は悟られないよう
振舞っているつもりなんだろうけど、あたしは感じていた。いや、分かっている。
「それってどんな声?」
 彼があたしに向ける笑顔は心の底からのものじゃないということを。
「うんとね、一つはとっても大人っぽい女性の声で、もう一つは可愛い女の子の」
 彼は何があったか教えてくれない。だからあたしも聞かない。だから、少しでも彼に早
く笑ってもらおうとあれこれ話したりしていた。
「それって、いつ聞こえたの!?」
 血相を変えて詰め寄られ、思わずたじろんでしまった。
「へ? あ、うん…………あの時、バーって光が空に伸びてたじゃない? その時に聞こ
えたんだけど、それがどうかしたの?」
「ああ、うん……」
 気を取り直して答えたあたしが尋ねても、彼はしきりにそっか、と頷くばかりだった。
 なんか、とっても変。
 身体を曲げて彼の顔を下から覗き見ようとすると、
「お腹空いたね。どっか行こう。僕が奢るよ!」
 顔をぱっと明るくしたかと思うとあたしの手を取りぐいぐいと引いて駆けだした。
「あ! ちょっと待って、そんなに走ると余計お腹空いちゃうよ!」
 前を向いてあたしの手を引っ張る彼の顔は見ることができない。でも、見えなくてもあ
たしには分かった。今、彼が心の底から笑っているんだな、と。
「んもお! じゃあマックの超特大トリプルチーズバーガーね」
「うわ、梨紅さん食いしん坊……」
「ふっふっふ、それも3つ頼んじゃうんだから!」
 うん、今日は……今日からまた楽しく彼と過ごせそう!
495125:04/04/07 04:43 ID:SYwAUNUj

というわけで今回の話はここまでです
このスレと住人の方、長々読み続けてくれたありがとうございました
496名無しさん@ピンキー:04/04/07 06:00 ID:ERARfcW1
ご苦労様です〜。
ここに来てアレが登場するとは。
497名無しさん@ピンキー:04/04/09 01:37 ID:VmjpRU3X
おつかれさま。よかったです。思えば長かったね…
498名無しさん@ピンキー:04/04/09 01:54 ID:AsTTisqb
ご苦労様でした〜・・・
いやぁ、最後に来てアレが出るとはw
まぁ、あれぐらい良いと思います。ってか、俺自身は嫌いじゃないし。
ダークさんダークさんうるさい妹は嫌いだが。w

まぁ、大地君の話も期待してます。はい。
499名無しさん@ピンキー:04/04/09 20:42 ID:bfawfWBM
え???
まさかこれで終わり???

大助と梨紅のあまあまらぶらぶべたべたなふーふ生活はぁ?
嬉し恥ずかしの初H(梨紅主観)はぁ?
痛みを覚悟してたのに出血さえもなくて「ほんとに初めてなのよ、ほんとよ!」ってのはぁ?

後日談きぼん!
500名無しさん@ピンキー:04/04/10 01:37 ID:7XzKq0Zn
125氏>

作品の完成度の高さに感心しきりでつ。
連載開始時から見ていましたが、ただただ楽しませて貰ったという感想しか浮かばず申し訳ないです。

ただ、その辺りのストーリー展開にもってかれた分、




 エ ロ に 反 応 で き ま せ ん でつた

差し支えなければ漏れも甘々な後日談キボンヌです。
501名無しさん@ピンキー:04/04/12 02:13 ID:G+lIIe/E
僭越ながら自分も正直な感想を

……オリキャラの エ ロ イ ラ ネ (ヲイ

ただ、それを差し引いて有り余りまくるほどの素晴らしい出来
ここまで来るとサイト開けとかいう人も居るでしょうが、サイト開くとそのまま調子に乗って駄作作家に堕ちてしまうのが大概
まあ、たまにはそれでも質の落ちない神も居るわけですがw

今回の見所であろうダークの出番、基本的には彼はあんま好きじゃなかったのですが
これに出てくるのは出番のせいもあって、かっこよすぎです

個人的にはやはりあまあまらぶらぶな後日談や、もしかしてチャンスある?とか思った梨紗による
一悶着なラブコメなども希望したかったり
あとはラストにエゲートリンクスからこんにちは瑪瑙さんで助けてくれたりとかいうシチュも個人的に燃えで萌え

更に贅沢を言えば消えなかったようであるダークを日渡あたりにくっ付けてしまうとか
日渡のネタキャラぶりをもう一度とかw

まあ、とりあえず言いたかったのは後日談や外伝希望というのと戦闘シーンがカコイイというそれだけの戯言
502125:04/04/12 08:37 ID:52XF35w7
皆さんの感想を受けての感想でし。

オリキャラ云々ですが、始めに断っていたとおりこの話は完全おなーに作品ですので、
酷評は 覚悟完了 ですた。個人的には大満足(*´∀`) 需要無視には反省(´・ω・`)
後日談(というか続編)云々ですが、構想はありますのでいつか白日の下に晒せる日が
来るかと思います。ただいろいろ忙しくなるので指の進みはかなり遅くなるので了承をば・・・

語りすぎはイクナイのでこの辺で。


(´-`).。oO(書き手さんこないかなぁ・・・。もうこないのかな・・・ つд`)
503名無しさん@ピンキー:04/04/16 21:43 ID:xchFTBxH
ほしゅ
504パラレルANGEL B:04/04/19 00:11 ID:Rzh0Wp1x
S-1 「新学期」

 春です。桜が舞っています。久しぶりに通学した東野第二中学校は人でごった返してい
て酔いそうな気分です。
「梨紅さん?」
「え?」
 呼ばれて、丹羽くんが大分先に進んでいることにはっとした。桜に見惚れてて離れてし
まったことに気付かなかった。
「ごめんごめん」
 駆け寄ると並んで歩き出す。こうやって一緒にいるだけでとても満足なあたしは幸せ者
でしょうか。また今年も一緒のクラスならいいなと思います。



「――――で」
 三年B組の自席についた梨紅は嘆息した。
「なんでみんな同じクラスなんだろ?」
 机の周りには二年B組であった面々がほぼ全員いたりする。
「ちゃんとクラス替えしたのかなあ?」
 そのはずです。
 丹羽大助は日渡怜、冴原剛、関本雅宏、西村祐次らと一緒に二年の時と同じように話を
している。原田梨紅は妹の原田梨紗、福田律子、石井真里、沢村みゆきらと一緒に、こち
らも二年の時と同じように、である。
「いいんじゃない? 今時クラス替えで喜ぶなんてお子様だけよ」
「あんたも十分お子様だっての」
「失礼ね! 私は常に最上級の気品と優美を兼ね備えるべく己の心身を磨き続けるレディ
なのよ」
 梨紅がなおざりに返すと梨紗はさらにむきになって突っかかった。そんなところがお子様
なんだよ、と周りの誰もが思ったに違いない。
「元気な姉妹ねぇ」
「元気なのは妹だけだけどね」
 みゆきと律子が呆れた調子で顔を見合わせ、小さく微笑んだ。
505125:04/04/19 00:12 ID:Rzh0Wp1x
「ねえねえところでさあ!」
 真里は姉妹の間に割って入り、姉の両手をがっしりと掴んだ。双眸はきらきら輝き、口元
はむずむずと、まるで猫のようである。
「な、何……」
「あれからどうなったの? バレンタインデーの後のぉ」
「石井ちゃんストップ!!」
 梨紅の双掌が真里による戒めを突き破りその顔面に突き刺さった。口から嫌な音を出しな
がら真里は崩れ落ちた。己が何をしたか気付いた梨紅は席を離れ真里の上半身を抱き上げた。
「うわわっ、ごめん! ちょっと口押さえるつもりが」
「……うふ、いいの気にしないで…………。その、様子だと……上手くいったの、ね?」
「うん、うんイったよ。だからまだ死なないで……!」
「それを聞いて……安心……」
 がくり。と首を折り、石井真里は始まったばかりの三年生活に終止符を打った。後に残された
のは梨紅のすすり泣きだけであった。
「――――何してんだ、あれは?」
「…………さあ」
 彼女の彼氏は一応突っ込んでおいた。


506125:04/04/19 00:13 ID:Rzh0Wp1x
「ええぇっっ!! まだしてないいぃぃぃ!!?」
 カフェテラスのオープンテラスに木霊するのは黒髪ロング、頭に二つお団子をつけた少女
の驚嘆の声だった。
「こっこっ、声が大きいよ! 静かにぃ!」
 小声で彼女に訴えるのは赤髪ショート、双子の姉の少女である。
「でもでも、付き合いだしてもう二ヶ月以上経ったんでしょ?」
 咎められたためにテーブルに身を乗りだし、向かいにいる原田梨紅に顔を寄せて石井真里
は囁いた。その声にはやはり信じられないといった色が滲んでいる。梨紅は責められている気
がし、身を引いて小さな返事しかできない。
「う……うん」
「この前のバレンタインもチョコあげたんでしょ?」
「うん」
「手作り?」
「一応……」
 真里は大袈裟に天を仰ぎ、ああやっちゃったよこの子、という溜め息を発した。
「そこまでやってどうしてしないの?」
「そりゃ……だって、恥ずかしいし」
「そんなの誰だって同じよ。それを乗り越えなきゃダメでしょ」
「う……、分かってるわよそれくらい。でも、でもね……」
「でも、何?」
「丹羽くんだって……その……あんまりしたいって思ってない気がして」
507125:04/04/19 00:15 ID:Rzh0Wp1x
「梨紅、あんたは間違っている!!」
 テーブルを叩いて真里は立ち上がった。瞳は熱く輝き、陽炎の如く揺らめいている。
「なぜならば、丹羽くんだって天然自然の中から生まれた漢……いわば欲望の塊!! 
それを忘れて何が恥ずかしい、その気がないんじゃないかしら、よ!! そう、漢の中に
生き続ける欲望を忘れての付き合いなんて、愚の骨頂ぉぉ!!」
 熱い口上が終わった時、何故か周囲からぱらぱらと拍手が送られた。熱意があれば万人
にその意が伝わるということだ。喉の調子を整えて再び座すと、顔を寄せての小声に戻す。
「まあそれはいいとして」
「えっ、いいの!?」
「丹羽くんにその気がないって思うなら自分から仕掛けちゃいなさいよ」
「うぅ……、だからちょっと恥ずかし」
「わたしはそうしたよ?」
 真里の発言に梨紅は顔を赤らめた。
「石井ちゃん積極的だよ……」
「そうかな? でもまずはそうしないと、私の人生経験を生かしたアドバイスが生かせないん
だよね」
 梨紅と真里が一緒にいる理由はそれだった。丹羽大助と付き合い始めてもうすぐ二ヶ月、
その間梨紅は充実した日々を送っていた。のだが、いくら二人っきりになっていい雰囲気が
できたとしても、「そんなこと」をする素振りは微塵も見せなかった。この状況を打破すべく、
人生の先輩である石井真里にご教授願おうと梨紅は考えたのだ。
「いい? 積極的に積極的にいくんだよ?」
「ン……うん」
「じゃあわたしがいろいろ教えてあげるから、一言一句聞き漏らしちゃダメだよ」
 数十分の間、真里先生の個人レッスンが行われた。梨紅はただただ顔を熱くさせて話を
聞くだけだった。


508125:04/04/19 00:16 ID:Rzh0Wp1x
 三月も末の土曜日。新学期が始まるまで二週間もない頃、梨紅は腹を決めた。石井真里
の協力のもと梨紗を家から追い出し、坪内さんには家族サービスでもしてあげて、と適当な
ことを言って休んでもらった。昼頃に大助が家に来、自室でお菓子の入った皿とお茶を囲ん
での二人っきりという状況を作り出していた。
 今日の緊張は付き合ってきた中で最高のものだ。向かい合う彼の顔も正視できない。
「どうかしたの?」
「、ううんべつにっ」
 柿ピーを口に運ぶ手を止め、大助が尋ねてくるのを硬い声で答えると、そう、と微笑んで再
び柿ピーを食べる。のほほんとしている彼には彼女の緊張など伝わっていないのだろうか。
 会話が途絶えて数分、大助の柿ピーを頂く音だけが梨紅の部屋に響いていた。

 どうしよう? 今動いちゃっていいのかな? 不自然じゃないかな? うあぁん、分かんないよ……っ。

 ――いい? まず大切なのは自分で動くことだよ。積極的だよ積極的!

 錯乱する梨紅の頭によぎったのは、あの時叩き込まれた真里のアドバイスの一説であった。
積極的に積極的に…………真里はそれを特に念入りに、呪文のように繰り返して梨紅に教え
込んだ。
 小さく震える四肢に力を込め、床からお尻を離した。ベッドに横になる、
「ん?」
「……ちょっと、トイレ」
 つもりだったが踏ん切りがつかずに逃げ出した。意気地がないことを恨めしく思いながらすた
すたと部屋を出た。
509125:04/04/19 00:17 ID:Rzh0Wp1x
 トイレに入り鍵をかけ、便座にどかりと腰を下ろす。両手に顔を乗せ、これからどうするか
じっくり考えることにした。

 ――梨紅がベッドに横になっちゃえば、丹羽くんだってその気になって後は……

 すっくと立ち上がる。じっくり考える必要もなかった。すべては教わっているのだから。
ものの十数秒でトイレを後にする。部屋に戻ると、大助はまだ柿ピーを食べていた。
「早かったね」
 いつもなら何か言い返しているかもしれないが、今は余裕がないので頷くことしかできない。
とてとてと梨紅が向かったのは、もちろんベッド。腰をかけるとぎしっと軋み、ようやく大助が
ベッドの方に気付いた。
「寝るの?」
 柿ピーを取る手を止め訊ねると、梨紅はまた頷くだけだ。
「最近部活が忙しくって忙しくって」
 何故かそんな嘘が口からこぼれた。素直な言葉が出ず、ひどくもどかしい思いと情けない
思いに胸が詰まる。自分の弱さに力が抜けたのか、ぽすんとベッドに上体を倒す。さりげなく
胸を上げて強調してみるが、大助は未だ柿ピーに夢中である。
「…………」
 ふと、思う。あたしより柿ピーが好きなのか、と。

 ――でもねぇ……あんまり見向きされないようじゃ、他の女に丹羽くん寝取られちゃうかもねぇ

 真里がそんなことを漏らしていたのを思い出した。
「柿ピー食べないの? 美味しいよ」
「……いらない」
 そんなに疲れてるんだ、小声で心配するのが聞こえた。それは、嬉しい。が、すぐに柿ピーを
噛み砕く音が聞こえる。やはり柿ピーなのか。
510125:04/04/19 00:18 ID:Rzh0Wp1x

 ――それとも丹羽くんにはもう…………? あら、やだやだ、今のは気にしないでいいよ

 気にするに決まっている。そんなに自分に魅力というものがないのかと疑ってしまう。他の
女に走ってしまうなんて、そんな事が……。
 そこに残念そうな声が届く。
「あ。柿ピーなくなっちゃった」
 疑念は拭えない。

 ――とにかくっ! まずは身体よ、身体で丹羽くんの心をがっちり掴んでおくの

「ふぅ、お粗末様」
 お茶を一杯飲み干した大助の表情はご満悦であった。
「丹羽くん」
「なに?」
 梨紅と目が合った瞬間、大助は身を引いた。彼女の目が座っている。
「どうしたの……?」
 恐る恐る訊ねるが、梨紅は無言で自分の横をぼすぼす叩くだけだった。座れ、と言っている
らしい。これまた恐る恐るベッドに近づき腰を下ろす。なんだ、僕は何をした。怒らせるようなこ
と……何をした?
 何もしていないからこうなったのは言うまでもない。梨紅は不機嫌なわけではない。彼の態度
に業を煮やし、ようやくようやく本当に意を決し、ああでもやっぱり恥ずかしい、自分から誘うなん
てやっぱり性に合わないよ。と複雑に思いが絡み合った結果の眼である。
 梨紅の苦悶を露と知らない大助は身体を起こした梨紅の横で小さく肩をすくめていた。

511125:04/04/19 00:19 ID:Rzh0Wp1x
ここまでっす。
以前から妄想していた三年生編を書かせていただきます。
512名無しさん@ピンキー:04/04/19 00:47 ID:qxNjvuKj
おつかれー。
まぁ、パラレルの大助はたまってるってことがありえないキャラだからなぁ。
梨紅がんばw
513名無しさん@ピンキー:04/04/19 07:25 ID:WwbYvpDz
おおう! 新章突入ですな。
相変わらずののほほんとした空気が良いですな。

しかし、どうした大助! 何があった大助!
愛しい彼女と二人っきりで何故なにもしない!

もしかして、さっちゃん達を失ったのがトラウマになってるのかなあ。
それとも梨紅の初めてを盗んでしまったことか…

さてさて続きが気になる気になる!
514名無しさん@ピンキー:04/04/23 08:26 ID:O5JqJCbM
お疲れ様です。
続きが楽しみです。
515125:04/04/25 00:27 ID:7DvAqBVs
>510
 彼氏と彼女がベッドに並んで腰掛けている。この状況で何をすべきかの選択はほぼ一択
である。
「……」
「……」
 なのに、この二人は何もしない、手をださない。彼氏はびくびく、彼女はぎすぎす。これで
よいのか。
「――ねえ」
 よくないに決まっている。真里から授かった知恵と勇気を抱き、梨紅は自分から攻めに出た。
「な、に?」
 相変わらず大助はびくびくしている。普段とは違う彼女の気配を鋭敏に感じ取っている。
「あのね」
 どう切り出すべきか。ストレートに告げる――ダメダメ! 引かれちゃうよきっと。遠回しにしよう
と言う――ダメダメ! 鈍感だから絶対気付かないし、あたしそんなに器用じゃないもん。えぇい、
もうどうにでもなっちゃえ!
「…………キス、してよ」
「……ぇ」
 俯く梨紅の声は耳に届きづらく、届いた言葉が聞き間違いではないかと思い訊ね返す。
「だから、ぁ……キス、まだしたことないから」
 大助は答えに窮した。まさかあの梨紅さんからそんなことを言われるとは思っておらず心臓が
どきりとしたし、
「あたしのファーストキス……なんだからね」
 ここでまたどきりと、今度は悪い意味で胸が苦しくなった。
「ふぁ、ファースト……」
「あたっ、あた、当たり前でしょそんなの……!」
 語気は荒くなく、尻すぼみに消えていった。キスをねだっただけで顔と胸と、手足の先まで焼け
つくように熱い。もしもえっちなんて言ってたら、と考えただけでさらに身体が変になる。
516125:04/04/25 00:28 ID:7DvAqBVs
「う、ん……」
 だが、せっかく梨紅が恥ずかしい思いをしてまで誘ったのに大助は乗り気になれないでいた。
素直にできないのは、やはり彼にも思うところが多々あるせいだ。
「あたしは、丹羽くんと初めてするって決めてたんだから……」
 二つの初めて。大助にあげたいという梨紅の純粋な思いが大助の胸にぐさりぐさりと突き刺さ
る。歯切れの悪い言葉のやり取りがとうとうできなくなった。
「……………………分かった」
 俯いたまま、さっきより一段と小さな声が聞こえた。
「そんなにあたし、魅力ないんだ」
「え゛っ」
 真里師匠の教え、押してダメなら引いてみよう。突然梨紅がしょんぼりしたせいで大助はうろた
えた。
「そんなことない! そんなこと絶対無いよ!」
「じゃあ」
 梨紅が大助に顔を突き出す。瞼を下ろし、心なし唇を尖らせて。梨紅を眼前にして大助は身を
強張らせた。これはつまり、あれを求めるポーズ。
 身体が固まったまま数十秒ほど過ぎた。腕は梨紅の肩を掴もうとしていやしかしやっぱり無理
かもという躊躇いから中途半端に上がったまま、梨紅の誘いに顔が熱くなり頭がぐらぐらしてくる。
ここまでさせておいて断るのは失礼なのだが、煮え切らない態度の大助は受け入れも断りもしな
い非常に失礼な状態が続いた。
 ――だがしかし、男ならいつかは決断せねばなるまい。
「それじゃ……するよ」
 いつもより幾分小さな梨紅の肩に手をかけると、彼女の身体がかすかに震えた。彼女との、
合意の上での初めてのキス。
 まだ早いと思っていた。今まで即決即断されて、の行為がほとんどだった彼にしてみれば、
じっくり時間をかけてというのがある種の理想型だったのだが、それが間違っていたのかもし
れないと考えさせられた。
517125:04/04/25 00:29 ID:7DvAqBVs
 軽く触れ合うだけのキス。彼女の温もりが伝わるには十分な愛の証明、大助は満足――、
「うわ……っ?」
 ――していたところを引き倒された。不意のことに梨紅の身体の上に思い切り圧し掛かった。
服越しに柔らかなものが触れたことにどきりとし慌てふためいて離れようとすると、梨紅の腕が
大助の身体に回されて動きを止めさせた。どころか、密着するほど強く抱き締めた。
「あのっあの、あの……」
 力任せに振りほどくことはできず、かといって小さく身動ぎするだけで腕が解かれるわけもなく、
少しだけ身体を上げて胸との接触を防ぐだけに留まった。
「……いいよ、あたし」
 焦ってばかりのところに注がれた梨紅の言葉にようやく大助の頭が落ち着いた。いや、落ち着い
たわけではなく冷水を浴びせられたように急激に冴えたという方が正しい。
 いくらのほほんとしている大助でも言葉の意味は重々理解できる。大助だから。今、大助の眼下
にはベッドに横たわる彼女が、自分を抱き締めて潤んだ眼で見つめながら顔を赤らめて暖かな
吐息が香りが鼻の先で濃密に漂い…………言い表せないほど、欲情した。
 先程より少しだけ長いキス。大助の手が梨紅の左胸を下から持ち上げた。
「ドキドキしてる……」
 恥ずかしげに顔を背ける仕草が愛らしかった。顔にかかった短い髪をかき上げると頬っぺたが
真っ赤に熟れていた。右手が柔らかな胸を覆い隠し、初めての感触に梨紅が顔をしかめる。それ
でも瞳は潤んでいた。続きを待ち望むように。
 大助はそれに答える。それが贖罪になるならするしかない、し、何より彼自身が身体を合わせる
ことを強く願っていたから。
 今まで多くの胸を触らされてきたはずだが、今の大助の手つきはまるで素人のように梨紅の片
胸を触っている。まるで初めてえっちをした時のように拙く幼稚な愛撫だが、彼女と初めてする時
は初心に還る、技巧も何も凝らさずにしようと思っていた。
518125:04/04/25 00:30 ID:7DvAqBVs
 シャツを捲ると淡い紅色に染まる肌と、桃色の小粒な二つの尖頭が覗いた。
「あ……下着……?」
「どうせ……するつもりだったから」
 口元に手を当てて恥じ入る様に頭の後ろでがんがんと響くものがあった。道理で胸に触れた
時柔らかかったはずだ、と今更ながら思い知った。
 体温が急上昇したせいで上着はそのまま、キュロットから生える太ももに食指を伸ばした。触
れた瞬間に小さなくぐもった声とともに梨紅の身体が震えるのが、とても新鮮に映る。
「梨紅さん……」
 堪らなくなり、今度は大助から身体をすり付けた。
「やっ……ぅ」
 脚の間に堅い物が当たるのを感じ身を捩るが、それで逃れられないのは分かっている。それ
どころかより下半身を接着され、互いの最も熱く、濡れ、滾る箇所が数枚の布を隔てて触れ合っ
ていることに淫猥な昂奮を覚え、理性という箍はもう外れるところだった。
「……僕、もう我慢できない」
「あたしも……うん……」
 上着を脱がせ、綺麗な肌色の上半身が晒される。隠すように胸の前で腕を交わらす手振りに
今日何度目かの強い高鳴りを自覚した。大助も上着を脱ぎ捨て、細身で筋肉質な身体を梨紅の
前にあらわにした。キュロットに手をかけた時には喉がざらざらとしていた。何度も唾を呑み込み、
ショーツとともにキュロットを下げていく。膝を過ぎ、足首を通り、脱がせ払ってから初めて秘所に
目を落とした。
 綺麗な桜色の筋が白く輝く粘液に濡れている。いつの間にか下半身がズボンを押し上げていた
が、苦しさを感じないほどそこに釘付けになっていた。一段と喉がざらついた。
 この渇きを潤すために何をすべきか大助はよく知っていた。ズボンとトランクスを脱ぎ捨て屹立
を開放した。
「あ……」
 それを目にした梨紅が少し怯えた風になり大助に躊躇いが生じるが、ここまできて、お互い引く
ことなどできなかった。
 腰を押さえてわずかに突き出す。あてがった秘部は異様なほど熱を湛えていた。これほどまで
気が急いて緊張が身を支配することは、今までなかった。
519125:04/04/25 00:31 ID:7DvAqBVs
 腰を突き出すほどに梨紅は歯を噛み締め、表情を歪ませた。思わず腰の動きを止めてしまう。
「ん……平気、だから……続けて」
 瞳を潤ませながら頼まれて止められるわけがない。ぎちぎちと固く締まる中をゆっくりと進み、
ようやく全身が中に埋没した。先端にこつりと当たるものがあった。
「大丈夫?」
 大助には訊くだけの余裕はあるが、梨紅には答えるだけの余裕は振り絞らなければ生じなかった。
「うん……うん…………何か変な感じだけど」
 苦しげに引きつっていた顔がぎこちない微笑みを浮かべた。
「嬉しいよ……丹羽くん」
 鼻血が出そうなほど大助の頭は沸騰した。つながってからそう言われた事がひどく恥ずかしく
思われた。
「ねえ、初めてだけど……お願いだから」
 初めてという単語に反応しそうになってしまう。
「分かってる。痛くしないよう努力するから」
「ううんっ! そうじゃなくて……」
 大助の頭上に疑問符が浮かんだ。てっきりそういうことだと思っていただけに、一体彼女が何を
言いたいのかさっぱり分からなくなった。
「初めてだけど…………初めてだから、イかせてほしい……っ」
 真っ赤に染まりゆく顔を手で覆って、お願いした。最早この台詞があの方の受け売りだと分かる
人には分かるはずである。無論大助には分かるわけがない。ので、頭は沸き上がった。
「――――努力するよ」
 ぐらぐらと揺れる脳内をどうにか保ち、力強く答える。その瞳はすでに雄である。
520125:04/04/25 00:32 ID:7DvAqBVs
 奥まで挿入したままゆっくりと小さく動き、まだ二回しか異物を受け入れたことのないそこを
徐々に拡張していく。
「ひっぐ、んぅ……ぅッ!」
 処女とほぼ変わりない秘所を抉られ、声を上げないよう口を固く閉ざして痛みに耐え忍ぶ様
に新鮮な悦びが湧いてくるが、やはり彼女にも、と思う。
「我慢しないで。声出していいよ」
「で、も……ひっ、はああッ」
 初めて聞く甲高い声。まだあそこに満足に動けるほど有余はないのだが、彼女も痛みに苦し
むだけでなく次第に感じ出しているのだと、その声が語っていた。
 普段指では届くことのない深い位置を擦られているうちに腹の底から全身まで、痺れるような
刺激に襲われる気にさせられていた。
「ああっ、に、丹羽くん! 気持ちい……っ!」
「可愛いよ、梨紅さん」
 乱れそうな梨紅に冷静に声をかけ、動きを変えた。締めつけるというより絡みつく中から少し
引き抜き、子宮口まで思い切り突き上げる。
「はぅんッ!」
 身体を震わせ嬌声が上がった。同時にきゅっと吸い付かれる。きつくなった締まりを求め、
ようやく大助も本気で動いた。あまり濡れ具合を意識していなかったが耳に粘液が泡立ち擦れ
合う音が聞こえ始めた。未だ止まぬ蠢動を受けながら、大助も本能のままに梨紅の胎内で達した。





 ――眼が覚めた時、腕の中に彼女がいることを確かめた。ああ、夢じゃなかったんだと認識した。

 本当はただ怖かっただけだ。身体を重ねた人がいなくなってしまうのが。身近な人であればある
ほど、それは辛いことだ。だから、本当は逃げていた。梨紅さんと一つになることを。
 でも、もうダメだ。梨紅さんを知ってしまったから、逃げられない。逃げない。逃げたくない。もっと
知りたい、一緒にいたい、一つになりたい。ベッドの中ですやすや寝息を立てる彼女を抱き締めた。

 願わくは、これからもずっと、彼女とともに。
521125:04/04/25 00:34 ID:7DvAqBVs
S-1終わりです。それでは
522名無しさん@ピンキー:04/04/25 02:28 ID:ZJUP8+kH
続きが来てたー

梨紅に対する罪悪感、さっちゃんたちを失った悲しみ、
大助の心の傷は思ったより深かったんですねえ。
梨紅の明るさが癒してくれることを願って。
523名無しさん@ピンキー:04/04/25 09:50 ID:XQQW82Qt
キタ・*・:.。.。.:*・°・*(゚∀゚)*・°・*・:.。.。.:*・♪
524S−2 「二人は……」:04/04/27 21:13 ID:Q7AkkG2L
 四月も末の土曜日の午前。休日にもかかわらず東野第二中学校には丹羽大助の
姿があった。歓声とも嬌声ともつかぬ声々と笛の音が風に乗って運ばれてくる。
「いけない。もう始まっちゃってるのか」
 駆け足になりグラウンドに向かうと、すでにラクロスの試合は行われていた。黄色い
ゼッケンをつけている方が彼女のいる中学らしい。開始して何分経っているか定かで
はないが、得点板を見るとまだ前半部分しか点数は記されていなかった。得点は1-0、
リードしているのは相手のチームだった。まさか負けているとは思っておらず少し心配
になってしまう。
 しかし無理もないことだった。練習試合の相手は全国大会常連校。つまりは強豪校。
前半終了間際で一点しか取られていないことは褒められるべきだろう。
 それでも大助は信じられない。梨紅さんがいるのに……と思ってしまうから。
「あの」
 声がかかり振り向くと、そこには見たことのない制服――トマト色のブレザーである――
に身を包む女生徒がいた。艶のある黒い長髪に太目の眉毛。結構可愛い方に入るだろう。
見たことがないのは相手の中学の人だからか、と瞬時に理解する。
「なんですか?」
 悪い印象を与えないよう努めて穏やかな声で応じ、なんとも上品な声音でその女生
徒は訊いてきた。
525125:04/04/27 21:14 ID:Q7AkkG2L
「ラクロスの試合をご覧になっているのですか?」
「はい。そうですよ」
「今はどのくらい時間が経っているのですか?」
「あ、すみません。僕も来たばっかりでよく分からないんです。でも前半の中頃じゃ
ないかな」
「そうですか。ありがとうございます」
 行儀よくお辞儀をされ、思わず大助も仕返した。頭を上げた時、小さな歓声がグラ
ウンドから沸き起こった。見ると、頭のてっぺんで髪をちょこんと束ねた相手の選手
を梨紅が止めようとしているところだった。
「梨紅さんがんばって!」
「なぎさファイトォッ!」
 同時に檄を飛ばしたことに驚き、大助と女生徒は顔を見合わせた。軽く会釈し、また
グラウンドに視線を戻した。こんな偶然ってあるもんなんだ、と大助は少しだけ感激し
ていた。
 フィールド上では両校のエースの熱い攻防が展開されていた。ボールを奪おうとクロ
スを使った激しいチェックを行うが、相手も巧みにかわしていく。抜かれはしないが攻め
に転じることもできない、互いの実力が拮抗している証拠だ。
 両者譲らぬまま相手選手はパスで切り抜けた、ところで前半終了のホイッスルが鳴り
響いた。

526125:04/04/27 21:15 ID:Q7AkkG2L


 結局、三回行われた練習試合はすべて相手校に持っていかれた。通算して取れた点数
は一点だけだった。
「梨紅さん」
 ミーティングやら後片付けやらを終えた梨紅が部室から出てきたのは正午少し前という
頃だった。
「丹羽くん。やっぱり来てたんだ」
「うん。気付かなかった?」
「ごめんね。集中してたから見てた人の声聞こえなかったの」
 申し訳なさそうに笑って許して、とお願いする梨紅の表情はあまり冴えていない。やはり
負けたことが多少堪えているのだろう。
 校門に差しかかると二人とは違う制服を着た人物が二人、談笑しているのが目に映った。
「あの子って……」
 一人は長い黒髪の少女。ついさっきまで並んで観戦していた子に違いない。もう一人は、
試合中終始梨紅をマークしていた相手チームの選手だ。髪は束ねていないが、軽くカー
ルする茶色のくせっ毛は変わらない。その子がこちらに、梨紅に気が付いた。今まで試合
をしていたとは思えない元気な足取りで駆け寄り、勢いよく頭を下げた。
「今日は、ありがとうございましたっ!」
「こちらこそ。遠いところから来てもらってありがとうございます」
 梨紅も丁寧にお辞儀する。さすが部長らしい対応である。お辞儀をする女の子の後を追
ってもう一人の子が近づいてきた。またもや目が合い、会釈を交わす。
527125:04/04/27 21:16 ID:Q7AkkG2L
「知ってるの?」
 二人の様子に引っかかったのか梨紅が大助に訊ねた。
「うん。横に並んで試合を見てたんだ」
「……並んで? どういうこと丹羽くん」
「え? いやいや、そういうんじゃなくて……!」
 梨紅の片眉がぴくりと動いたのを目にし慌てて訂正しようとするが、その態度が逆に
猜疑を煽っている。
「試合の経過についてお聞きしたんです。途中から観戦したので分からなくって」
「あ、そうなんだ。うん、納得」
 黒髪の女のこのフォローのおかげで梨紅の疑念は払拭された。大助は口には出せ
ないが心中で感謝した。
「…………」
 目の前にいる男女を見つめる少女は今、いろいろと妄想していた。そんなお年頃である。
「なぎさぁっ! 先輩待ってるよ。急ぎな!」
 少女ははっとして校門の方を振り返った。
「すぐ行く! ほのか、一緒に行こ」
「え? でも私ラクロス部じゃ」
「いいからいいから。それじゃ部長さん、また試合でお会いしましょう!」
 言い残して、友達であろう女の子――ほのかという名らしいが、その子の腕を引いて
だっと駆け去った。梨紅は二人の背を見送りながらひらひら手を振っていた。
 

528125:04/04/27 21:17 ID:Q7AkkG2L

「ふぇぇぇんっ、ショックゥ……」
 正午過ぎに人の出払った家に帰り着いて部屋に入るなり、梨紅は嘆きながら自分のベッド
に顔から突っ伏した。
「何が?」
 彼女の背に跨りながら大助が訊く。お尻の上にお尻を乗せ、両手で首や肩、背中を揉み
解していく。
「だって……んふぅ……あの子、年下だったんだもん。ぁ……」
「あの子って、今日の相手だったラクロス部の?」
 時折り漏れる声に聞き惚れながら平静を装って会話する。
「うん。ベローネ学園のエースだって聞いてた、はぁ……けど、年下だったなんてぇ」
「そんなにショックなの?」
 身体のあちこちが固く、かなり疲れが溜まっているようだ。柔らかくいやらしい手つきで丁寧
にマッサージを続ける。
「当たり前だよ。ん……あの子とっても上手、はっぁ……思うようにさせてもらえなかったもん」
「でも相手の中学ってすごく強かったんでしょ? そんなところとあれだけ戦えてたんだから
十分強いと思うよ」
「分かってなあい、ふぅ……全国に行っても互角に戦えるくらい強くなりたいの。だから今度の
合宿はすんごいがんばっちゃうんだからね」
「ゴールデンウィーク中だっけ、合宿があるの」
「そ。土曜から月曜までの二泊三日の強化合宿。メニューもちゃあんと考えてるんだから」
 さすが梨紅さん、がんばってるな。と感心してからある重大な事実が判明した。
「あれ、っていうことはせっかくの連休なのに、一緒に過ごせるのは火曜と水曜だけ?」
「うん。そうなっちゃうね」
 あからさまに落ち込んだ。大助もせっかくいろいろとデートコースを考えていたのに、
たった二日しか黄金週間を過ごせないとは。いつの間にか手も止まり、お先真っ暗と言って
も過言ではない気分になった。
529125:04/04/27 21:18 ID:Q7AkkG2L
「僕も一緒に行けたらなあ」
「無茶言わないの。三日くらい我慢しなさい」
「ダメ。我慢できない」
 再び動いた手は背中から横腹を這い、ベッドに押し潰される立派に育つ果実に伸びた。
身体を倒して密着すると梨紅のお尻に固い物が触れた。
「やだ……汗臭いよ。シャワーもまだ……」
「ん……いい匂い」
 首筋に顔を埋め、鼻を鳴らして耳のすぐ傍で囁く。途端に梨紅の気がしおれていった。
「ばかぁ……」
 頬を朱に染めて枕に顔を埋めてしまった。どうしてこんなに可愛い仕草ばかりするんだ
ろうと心憎く思いながら手に収まる二つの丘を撫で回せば、ぴくぴく小動物のように反応
する。ブラウスの裾から手を滑り込ませ、胸にフィットするスポーツブラ越しに温もりを堪
能する。
「大きくなった?」
「知らないよぉ……ばかぁ」
 いちいち反応を愉しみながらブラを捲り上げ、ほどよく張った胸を直に撫で回す。掌の
中で乳首が充血するのを感じながらそこを弄り続けた。
「ここもしっかり揉んでおく?」
「ぁ…………」
 大助のばかな質問に答えはなかった。部活後の独特な倦怠感とこの雰囲気にすっかり
酔ってしまっていた。反応が鈍くなるほど身体が反応していると知ると、大助の右手がいよ
いよスカートの中に侵攻した。熱気が手を包むのを感じながら最も熱を帯びる部所を指で
なぞった。湿っているのは汗のせいだろうか。
「ちょっと、舐めたいな」
「え? なに……」
 返事を待たずにすっと移動し梨紅の内股を舌で味見した。
「やだッ! 変なことしちゃやだよぉ!」
「いいからいいから」
 悶え暴れる脚を上手くかわしながら梨紅の身体を仰向けに返し、膝の下から腕を通して
腰を抱え込んでまた内股に舌を這わせる。
530125:04/04/27 21:19 ID:Q7AkkG2L
「うん。酸っぱくて美味しい」
「もぉ、ほんとにばかぁ……ゃぅッ」
 じっとりと湿っていた内股は唾液でべっとりと濡れだした。とうとう舌は上へ進み、水色
の縞模様のショーツの潤いを突いた。途端に決壊したように滲みが拡がった。ショーツ
の隙間に指を入れ横にずらし、まだ数回もしたことがない秘所を観察する。
「見ないで……恥ずかしいんだよ」
「だって綺麗なんだもん」
 間もなく返された言葉に顔が熱くなり、下腹部も疼いてしまった。じわっと溢れ出すの
が本人にも伝わってきた。
「十分……、平気だよね」
 すっかり濡れたと判断するとズボンのファスナーを下ろし、今か今かと出番を待ち続け
ていたものが姿を現した。
「ねえ、服……脱がなきゃ」
「いい! いいから今日は着たまましよ。ね?」
 慌てて拒否する大助の意気込みは凄かったが、最後は甘えるように頼む口調になっていた。
「そんなぁ。しわになっちゃうよ」
「気にしないで。可愛いから」
 変な理論だが、えっちに関しては彼の頼みを断れる彼女ではなかった。奥歯に物が挟ま
った納得いかない表情で見つめるが、それがまた火に油である。
 スカートだけ捲り上げ、ショーツに包まれる下半身に自身が飲み込まれていく様をじっく
り鑑賞するよう梨紅に促して挿入を始めた。
531125:04/04/27 21:19 ID:Q7AkkG2L
「見える? どんどん入ってる……」
 自分の痴態を顔に手を当て、指の隙間から申し訳程度に見る。学校に通うための制服を
着ながらこんなことをしてしまうなんて、そう思えば思うほどいつにも増して気持ちが昂ぶり、
濡れていくのだった。
「んん……っ、やだ、あたし……すごい……ッ」
「気持ちいい?」
「変……おかしいよ、ぅ」
 赤面する梨紅に昂奮したか、腰の動きを強めて攻める。口から嗚咽に似た呻きを吐きな
がら大助の動きに悦んで悶える。
 おかしくなりそうなのは大助もである。鍛えられた肉壺の締まりは全体を苛んでくる。
濡れてぬめっとしていなければ動くのも辛いはずだ。
「いいよ梨紅さん。はぁ……このまま出したいよ」
「ぅんっ! ああ、だいじょぶ、……多分、今日平気ッ!」
 苦しげに出されたオッケーに動きが加速する。衣服に覆われる結合箇所はいつもよりひど
く濃密に淫らで酸味のある熱を孕んでいた。限界は梨紅の奥まで捻じ込んだ時に訪れた。
きつく締めつけてくる中でさらに大きく張らして吐き出すのは無限に続く快楽となって大助に
押し寄せてきた。
 解放が終わって萎え、ようやく波から放される。隙間ができ梨紅の胎中に溜まっていた液
体が逆流し、スカートの内側をべっとりと汚した。お互い身に付けたままの衣類はすっかり
湿っていた。
532125:04/04/27 21:20 ID:Q7AkkG2L

 大助が原田邸を出たのはもうすぐでおやつの時間の頃であった。坪内さんもいなかった
ため、梨紅が腕によりをかけて揮ったお手製炒飯を頂き、満腹感に浸りながら大助は外に
出た。私服に着替えた梨紅は彼を見送って玄関に戻った。
 一回目を終えた後も少ししてから大助は元気に梨紅を求めてきた。四回イかされ三回膣
中で出され、まだ股間がひりひりしているらしくもじもじさせている。大助が炒飯を食してる
間に素早くシャワーを浴びて身体にべとつく様々なものは洗い流していた。制服は誰にも
見られないよう洗濯機に入れた。うんうんこれで一安心と思いつつ階段を駆け上がった時、
扉が軋む音が聞こえ背筋を強張らせた。
「りっ……梨紗、いたんだ…………? って、出かけたんじゃ、あれ?」
 音がした方に目をやるとわずかに開いた扉から梨紗が目だけを覗かせて梨紅を見ていた。
その瞳は鋭いというより冷淡であった。扉が開いた部屋は梨紗の自室である。確か妹は朝
に友達と一緒に街へ出かけたのではなかっただろうか、あれ、そうじゃなかったっけと混乱し
始める。梨紅は記憶を辿りながら訊いた。
「な、なに? どうかしたの? ってか、何でいるの?」
 梨紗は不気味なほど静かだった。それが梨紅に言い知れぬ不安を与えている。梨紗の顔
が動く。目の代わりに口が現れ、
「お盛んね」
 それだけを残して扉を閉めた。
 梨紅は心中で世界を震わすほどの絶叫を轟かせ廊下に手をつき、うなだれた。
533125:04/04/27 21:23 ID:Q7AkkG2L
前半終了です。
投下の際、そろそろ次スレも考慮すべきですね。
534名無しさん@ピンキー:04/04/27 21:45 ID:jYfTEqnX
乙でやす!


梨紗…
535名無しさん@ピンキー:04/04/27 22:28 ID:y/KhJwn2
ベローネキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
梨紗イタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
536名無しさん@ピンキー:04/04/28 00:09 ID:iqyibAdh
梨紗最高!ワラタ。
537名無しさん@ピンキー:04/04/28 00:35 ID:p0DGAUVN
自分は125氏のSSで初めてこの作品に出逢ったから、梨紗にあまり悪い印象は持ってないんだよね。

だから梨紗にも救済をお願いしたくなるのだが…
538125:04/04/29 22:06 ID:P7WLMTIN
>537
分かりました。
どうにか梨紗に男子の誰かと付き合ってもらうようにします。

今回、プリティでキュアキュアな成分が高いので
他アニメとの絡み等が苦手な方はスルーお願いします
539125:04/04/29 22:07 ID:P7WLMTIN
「――よし」
 タイトなボディスーツに身を包む大助はバルコニーへの窓を開け放った。空には綺麗
過ぎる満月が浮かんでいる。かすかながら灯りを放つ盾剣を手にし、正体を隠すべく新
たに用意した顔上面を覆うゴーグルを装着し、
「ウィズ」
 使い魔を翼へと変え空に舞い上がる。鼻まで隠すゴーグルを付けた黒い翼の姿は、さ
ながら闇夜に舞う漆黒の飛禽であった。

 永きに渡る丹羽・光狩の宿命は彼の手によって終わりを告げた。すでに彼が怪盗を続
ける必要はなくなっている。だが彼は続けていた。美術品好きな家族が大助の怪盗業引
退を渋ったというのもあるが、続けていればまたあの二人に逢える。と漠然とした考えが
あったことが一番の理由である。
 二人はまだ生きてて、どこかにいる。いつか彼女が言っていた言葉からそう思っている。
それしかないというのが実際のところだが、彼にはそれだけで十分だった。
540125:04/04/29 22:07 ID:P7WLMTIN
 今回は少し特異である。山中にある洋館に美術品があるのだが、数年前に崖崩れが
起こって以来その洋館に近づくものはなく、すっかり朽ちている。そこに放置されたまま
であった「虹の輝石」が今回のターゲットである。
 何やら不思議な力があるというのが盗むに選んだ理由である。曰くあり気な美術品が
二人に近づくための近道では、と彼考えている。館の上空に着き下降していく。大きく穴
の開いた屋根から最上階の廊下に降り立った。廊下は館の吹き抜けの周囲をぐるりと囲
んでいる。手すりから顔を覗かせ、吹き抜けが最下層、一階まで続いているのを確認して
飛び降りる。ウィズが羽ばたき着地の衝撃を相殺する。
 ここまでで分かるとおり警備はない。これが特異な点である。予告状は出したのだが洋
館の主は数年前の崖崩れに巻き込まれてすでに亡くなっており、警察に通報する者がい
なかったのだ。要するに今回はただの盗人のような仕事である。
「あった」
 ロビーの片隅に、力強く無数の光を放つ石があった。遥か上空より照らす月光しか光源
はないのだが、それの放つ光は反射しているのではない光りに輝いている。まるで自らが
光を生み出しているようである。
「綺麗な石……」
 砂利にまみれたロビーを音を鳴らしながら歩き、「虹の輝石」へと近づいた。念のため警
戒は怠らないが、何か仕掛けらしいトラップはない。展示台と呼べるほど立派なものでは
ない質素な台にもやはりそれらしいものはなかった。
「『虹の輝石』、いただきます」
 手にすると仄かな暖かさを感じた。本日の獲物を専用のケージに入れようとした。
541125:04/04/29 22:08 ID:P7WLMTIN
「待ちなさいっ!」
「なっ!?」
 仕事を終え気の抜けかけた不意の瞬間に高らかな声が上方より轟いてきた。振り仰ぐ
先に見たのは、今しがた自分が降りてきた屋根の裂け目に、満月を背後に毅然と立つ二
つの影であった。
(警官?いや、それより……女声?)
事態を理解しようと頭が錯綜する。が、その間に二つの影は迫りきていた。
「たあ!」
 短い呼気とともに二つの蹴りが飛んでくる。攻撃を仕掛けられたと気付くより早く身体
は動き、身を翻していた。前に転がり飛び上空からの攻撃をかわし体勢を立て直す。顔
を上げて目に飛び込んできたのは、二つの蹴りが床に着弾するところだった。視界が揺れる。
「うわぁ!?」
 激しい衝撃が館全体を震わせた。コンクリート製の床が二つの脚を中心に小さく抉れて
いた。その凄まじさに冷たい汗が背中を伝う。
 眼前数メートルで二人も体勢を立て直す。月光が薄っすらとその人影を照らし出す。
二人は黒と白、対になる色をしたコスプレのような珍妙な衣装を着ている。と、黒い方が
腰に下げた小さなケースが震えた。
542125:04/04/29 22:09 ID:P7WLMTIN
「変な気配を感じるメポ!」
「やっぱりそうなのね」
 どうも携帯電話を入れるそれに似ているのだが、電話を手に取るでもなく黒い衣装の
女は会話している。その光景を奇妙に感じたのは、この場では大助だけだった。
「プリズムストーン、あんた達には渡さないわ!」
 びしりと指を突きつけられる。
「プリズム? ……虹の輝石?」
 あの二人の狙いは右手にしているこれなのか。ケージに入れる隙もなく、二人を見据
えたままスーツの胸ポケットにしまいながら考える。
「これ以上好き勝手にさせて堪るもんですか!」
 黒い方が腰を落とす。後ろに飛んで間合いを取るがそれ以上の……異常なスピードで
間合いをゼロにしてくる。
 繰り出された拳は直撃するかと思われたが、寸前で大助の身体が常態ではありえない
速さで、突っ込んでくる黒の軌道から逃れる。翼主の危機を察しウィズが手……ではなく
翼を貸してくれた。
 コンマ数秒の遣り取りだったが、それだけで相手の身体能力が己のそれを凌駕している
と分かるには十分な時間であった。しかも相手は二人、である。

 大助の懸念に応じるように白い影も攻撃を再開しかけるが、先ほどの黒と同じく携帯ホル
ダーが小刻みに震えた。
「ちょっと待つミポ」
「どうしたの?」
 訊ねる声はひどく上品である。
「何かおかしいミポ。今なぎさが戦っているのは悪い存在じゃないミポ」
「どういうことなの?」
 現状の説明が行われるのだが、この遣り取りが終わる頃にはすでに決着はついていた。
543125:04/04/29 22:12 ID:P7WLMTIN
 間断なく繰り出される蹴り拳の一つが紙一重で避け、捌いていた大助の腹部を捉えた。
威力は目の当たりにしたとおり痛烈、では済まされない重さだった。穴が開いたかと錯覚
するほどの一撃に身体が折れ曲がり、視界にノイズが走る。ゴーグル越しに映る世界に
は右脚が踵を軸に円を描く様が。
 瞬時の判断で左腕で左側頭部を庇う。ダークの魔力によって以前と遜色ない力を取り戻
している蒼月の盾が防御陣を展開させ、その上から殺人的な破壊力を伴った左回し蹴りが
大助の身体を吹き飛ばす。
「ぐぅっ」
 壁に背中をぶつけながらも意識は保てていた。一撃で間合いが十メートル以上開いてい
るが、これは大助にとってチャンスであった。
「あ! 待ちなさい!」
 戦っていた相手がいるのとはあさっての方向に駆け出した。逃げるが勝ち、ということで
ある。
「ウィズッ! …………?」
 背中にウィズがいない。ので、飛べない。振り返るとぶつかった壁の辺りの床にウィズが
転がっていた。完全に伸びていた。
「そんなぁッ――」
「てやああっ!」
 隙は見逃されることなく、大助に黒い人の全力タックルが直撃した。肩が鳩尾にめり込み
全身の感覚が激しく揺さぶられ、寸断された。衝撃で再度壁に飛ばされる。意識の途切れ
ていた大助は顔から床に倒れ込んだ。
544125:04/04/29 22:12 ID:P7WLMTIN
「観念なさい!」
「ブラック、待って!」
 大助に飛びかかろうとするブラックを白い人が取り押さえた。
「ホワイト!? どうしたの、放し……っ」
「違うの! あの人は悪い人じゃないの!」
 ホワイトの腕から逃れようと抵抗していたブラックの動きがぴたりと止まった。
「……………………え?」
「あの人は、ドツクゾーンやザケンナーとは無関係なの」
「……あ、でも、いやだってメップルが……」
 信じられないと目を丸くするブラックのホルダーがぷるぷると震えだし、中からカード
コミューンが飛び出した。と、次の瞬間には煙に包まれ、晴れた時にはぬいぐるみのよ
うなメップルが宙に浮いていた。
「待つメポ! おいらは一言も敵だなんて言ってないメポ」
「ちょっと! あんたが変な気配感じるって言うから……」
「でも悪い奴だなんて言ってないメポ! なぎさの早とちりメポ!」
「だ、だったら止めなさいよ!!」
「ブラック。今はあの人をどうにかしなきゃ」
 水掛け論になりそうな言い争いをホワイトが制すと、しぶしぶと二人は了承した。メッ
プルという名のぬいぐるみらしきものはふてくされたままカードコミューンに戻り、ホル
ダーに収まった。
「でも、じゃああの人は……?」
「さあ? とにかく手当てをしてから訊いてみましょ」
 ブラックが頷いて壁に吹き飛ばしてしまった人に近づいているとその脚で何かを蹴飛
ばした。目で追うと、倒してしまった彼が着けていたゴーグルであった。ということは今は
素顔を晒してるんだ。などと考えながらその人物の傍にしゃがみ込んだ。
545125:04/04/29 22:13 ID:P7WLMTIN
「あの、あのぉ…………」
 まさか自分が吹き飛ばしてしまった相手に声をかけるのはひどく気が引けたが、反省
と自戒の意も込めてそっと肩を揺する。反応はなく、完璧に気絶している。
「わあぁっっ! どうしようどうしよう……――っ?」
 半泣きになりながらもとにかく仰向けにして楽な姿勢にしなくてはと動かした時、ブラッ
クは気付いてしまった。
「きゃああぁぁっっっ!!?」
「ど、どうしたの?」
 あまりの驚愕ぶりにどきどきしながらホワイトが努めて冷静を装って訊ねるが、ブラッ
クはあわあわと驚きに身を震わせたままホワイトにしがみ付くのがやっとだった。
「あのあの、あの人ぉ……」
 ぶるぶると的の定まらない指先が指し示していたのは、倒れた人物の顔だった。目に
したホワイトもさすがにこればかりは驚いた。
「まあ、あの人今朝の……」
「そうだよぉ! 東野二中の部長さんのぉ……」
「彼氏の人ですね」
 ぶんぶんブラックの首が縦に振られる。どうしてどうしてと混乱するブラックに対し、
ホワイトは幾らか冷静さを取り戻していた。そしてこの状況をどうすればいいか考えた。
どうすれば知りたい情報が得られ、どうすれば色々できるか。色々と。
546125:04/04/29 22:14 ID:P7WLMTIN
「――ねえ、なぎさ」
「……へ?」
 とてつもない違和感とともになぎさが顔を上げる。そこには純白の衣装を纏っている
とは思えないほど黒い微笑みが浮かんでいた。
「メップルとなぎさのカードを貸して」
「え……うん」
 どういうことかと考えたが、きっと自分には分からない賢明な判断なのだろう、と考え
を打ち切って言われたとおりカードコミューンを差し出した。
「何するの?」
「ちょっと眠ってもらおうと思って」
 言うが早いか携帯を開き、さっさとカードをスラッシュしメップルを眠らせてしまった。
続いて手早くミップルのカードコミューンを取り出し、同じく眠らせる。
「え? え? どうしてそんなことするの?」
「ふふ。邪魔が入ったら嫌でしょ?」
 笑顔は、ブラックでダークなものだった。
547125:04/04/29 22:15 ID:P7WLMTIN
ここまでです。
書きたいことを書いてるせいで凄くはかどってしまう…(;´д`)
548名無しさん@ピンキー:04/04/30 01:50 ID:RyIcD8fv
125様、乙です。
549名無しさん@ピンキー:04/05/02 02:49 ID:1ePo7mal
ほしゅ
550名無しさん@ピンキー:04/05/04 13:22 ID:7hMAEY/3
kita-!
キタ―――(・∀・)―――!!
kita-!
125氏がんばって!!
551名無しさん@ピンキー:04/05/05 02:41 ID:kxRAhKeg
微妙に賛否両論ありそうなのを構想まとめ中なんだけど
微妙にアンケ、梨紗の性格って悪いのと良いの、どっちいいですかね?
序盤のキチークパートに関るので迷った末にここの住人の反応をば
552名無しさん@ピンキー:04/05/05 03:27 ID:e+3X+1r5
基本的に理知的で明るいが、お腹の黒さも結構な…

てか、中の人のイメージなんですけどね
553名無しさん@ピンキー:04/05/05 21:29 ID:I28Y3xpk
>>551
あんまり悪すぎるとひくんで、適度な悪さでw
つーわけで期待しております。
554551:04/05/06 00:03 ID:NCLDxihb
とりあえずやりたい放題なネタばっかの導入部です



初恋は実らない、よりによって14歳の誕生日に
そんなジンクスに捕まってしまった
その日からだった、僕の体に異変が出たのは…


僕の名前は丹羽大輔、美術品が魔力を持ったこの世界には必要な仕事をしています



「ほら、言われてた聖なる乙女(セイントティアーズ)、盗んできたよ」
「何?」
「これでもう…」
「これはセイントティアーズではない! わからんのか。こんなものが魔力を持ってるはずじゃろうが!」
 パシャッ、ウィィィィィ…
胸像の目が光り、そう言う音がすると、像の口から一枚の紙…写真が出てきた
「……カリオ○トロの…」
「そんな事もわからずに盗んで来たのか、お主は!?」


…ごめんなさい、導入部考えてるうちに煮詰まって魔が刺しました
555名無しさん@ピンキー:04/05/09 03:06 ID:ivJsOrx4
保守
556名無しさん@ピンキー:04/05/10 01:01 ID:nI+6nVfN
age
557125:04/05/12 01:25 ID:6ELMf0a7
>547
 じゅぷじゅぷと湿る卑猥な音と腰を嬲られる感覚に、途絶えていた意識がじわじわと覚醒
してきた。
「……ん、……あぁ…………?」
 背中に頭、ガンガンと鳴り響く鈍痛に顔をしかめながら、朧に霞む視界の中心に動くもの
があることに気付いた。
 繰り返されるえずくような声、従って打ち震える下半身。ようやくなにをされているの
かが分かった。
「! ちょっと、ちょっとぉ!?」
 一気に目が覚める。つい直前に自分を倒した相手が股間に顔を埋め、咥え、熱い口内に
自身を受け入れている行為がひどく気持ちよく、それから驚いた。
「なん、なんなんな、何……!?」
 事態を把握できない中で梨紅の顔が頭を掠め、逃れようとしたところで両手が後ろに回さ
れ自由が利かないことにはっとする。手首が紐で縛られていた。
「目が覚めましたか? 丹羽先輩」
 地べたに身を伏せ、大助と同じく背中の方で手首を縛られながら動きを繰り返す彼女の
すぐ後方に月影の下で青白く映る女性が見下ろしていた。
 まず考えたのは彼女が誰であるか。一瞬後に思い至ったのは正体がばれているという事実。
顔を隠していたものがなくなったことに狼狽し何か隠すものは、と周囲を見回すが、自由の
利かない状況ではどの道どうにもできない。
558125:04/05/12 01:27 ID:6ELMf0a7
「……君は?」
 こうなれば毅然と相対すしかない。きりっと表情を締めて相手の目を捉えるが、下半身
がむずむずするのだけは止めることができない。
「あらあら? 一度お会いしたのにもうお忘れですか? ねえなぎさ」
 ホワイトのブーツの先がブラックの恥部を嬲り、抵抗とも嬌声ともつかない音が喉を震
わす。振動に大助の先端が敏感に跳ねる。
「なぎさ……?」
 聞き覚えのある名に引っかかりを感じ、頭を上下に動かす少女に目を落とす。上目遣い
に目尻に雫を溜める少女の、かすかに見える表情。
「まさか、今日の……っ?!」
 髪型……雰囲気そのものが変わっていて分からなかったが、茶色がかった髪と顔立ちが
今日であった少女と同じだということにようやく気付いた。そして先ほどからなぎさのお尻を
虐めているのは、今日一緒にラクロスの練習試合を観戦したほのかという名の少女の友人
だと分かるのも時間を要さなかった。
「ご名答です。覚えていてくださったんですね」
 にこやかに、朗らかに、ほのかはなぎさを弄んでいる。拙い舌使いで与えられる刺激に
翻弄されそうになりながらも、しっかりとほのかを見据えながら大助は問いただした。
「何でこんなことを? ううん、それよりどうしてここに……?」
 人も寄り付かない廃屋に今日見知ったばかりの二人が、コスプレまがいの格好で、しかも
自分以上の力を備えていることを疑問に思うのは当然である。
「それは私もお聞きしたいですわ。どうして先輩がここにいらっしゃったのでしょうか?」
 切り返され言葉に窮した。事実を話すことを躊躇ったのに対し、彼女は小気味よく笑った。
「お互い様ですよ。その点は秘密ということにしておきましょう。それとこれはお返しし
ます」
 衣装の胸元から彼女が取り出したのは、虹色に光り続けている輝石だった。
559125:04/05/12 01:28 ID:6ELMf0a7
「それはっ――」
「ごめんなさい、勝手に拝借してしまって。でも、これは私たちが探してる物じゃなかった
ので先輩に……」
 彼女の手がスーツの胸ポケットに差し込まれた。指先が艶かしい動きで肌をなぞった気
がし、思わず痺れてしまう。
「さ。これで後腐れはなしですよ? 今からはこの子に付き合ってくださいね」
 嬉々としているのが言葉と態度から滲み出ている。大助はこれから何をする気か、なに
をされるかはこの状況から何となく察していた。
「お……お願い、もう止めてよぉ……。あたし、これ以上は」
 長時間口を動かしていたせいでなぎさの呂律はたどたどしかった。言葉を受けてほのか
は困ったように眉を顰めた。
「そうだよっ。嫌がってるのにそんなことするなんて間違ってるよ」
 機を見つけたと感じた大助はこの状況を逃れようとなぎさを援護した。彼にしてみれば、
梨紅という大事な彼女がいるのに他人と交わってしまうことは非常に許せない行為である。
ウィズは気絶したまま姿が見えず、かといって一人で逃げ出そうとすればほのかに引き止
められるはずである。地道な説得が一番効を成すと判断し、懸命に訴えた。
「あぁん、でもぉ……」
 とにかくするのはよくないよと言い放つ大助は、さらに困るほのかを見てよしもう一息!
と確信した。
「困ります、先輩」
 太い眉を寄せたまま、ほのかの手がなぎさのスパッツの中へとのびた。
「ぁうッ! あ、止めて……ッ!」
「だってこの子、こんなに濡れてるんですよ?」
 スパッツから出てきたほのかの指には透明な液体が、糸を引きながら手首まで垂れるほ
ど多量に絡みついていた。
「え…………」
「止めてっ! あたし、そんな気なんて……ッ」
「うふふ。なぎさってエッチな子だもんね。この前だって弟くんにお口でしちゃったしね」
 弟と禁断の……と考えただけで素直に興奮してしまう。バカか僕はぁ!心の中で罵っても
下半身は元気なままである。
560125:04/05/12 01:28 ID:6ELMf0a7
「本当はしたいんでしょ? 丹羽先輩のを入れてみたいんでしょ?」
 耳元で繰り返し囁きつつ濡れそぼる秘部を撫で回し、なぎさの四肢からは抵抗の力が
抜けていく。
「っでも、初めては好きな人と……!」
「そ……そうだよ! 僕なんかと初体験なんてそんなのダメダメ、絶対ダメ!」
「ふふ、心配しないでください。丹羽先輩にはこの子のお尻の調教を手伝ってもらうだけ
です」
『お、おしりぃッ!?』
 驚愕したのは二人である。
「待ってよほのか! お尻だなんて、そんな……ありえないっ!!」
「大丈夫よ。毎日私が慣らしてたでしょ? 平気平気」
 ほのかはニコニコ顔でなぎさのスパッツを脱がせ、まだ固く閉ざしていた窄みに人差し指
を根元まで捻じ込んだ。いきなりの刺激になぎさは悲鳴を喉で潰したような声を上げ身体を
大きく振るわせた。
「やぁっ、痛い、痛いよぉ!」
「これくらいで痛がってどうするの。それじゃ丹羽先輩のなんて咥え込めないでしょ?」
「僕はなぎささんとなんてできないって!!」
 大助は必死に訴え続けた。なぎさも懸命に耐えようとしたが、入り口から数センチにわた
って内壁で蠢く一本の指に、次第にお尻が、下腹が熱くなり始めていた。
「やぁ……熱い…………」
「いい具合ね。これなら大丈夫」
 力のこもらないなぎさの身体を抱え上げ、お尻を大助へ向け使い込まれていない蕾を、
情けなくもこの状況に勃起してしまっているものに合わせた。
「うわぁぁッ!? 待って、待ってってばぁ!!」
 こんなことなら死を覚悟で逃げていればよかったと後悔しだした。気絶したままだったら、
それよりウィズが傍にいてくれれば……。
「ほら、丹羽先輩にお尻のバージン奪ってもらうんだからお礼言わなきゃ」
「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい……ッ」
 瞳はすでに鋭さを失い、涙を浮かべて大助に申し訳なく思い謝罪の言葉を述べた。うきうき
と表情を綻ばせるほのかの導きにより、とうとう二人はつながってしまった。
561125:04/05/12 01:29 ID:6ELMf0a7
短いですがここまでです。
プリティでキュアキュアなお話があと少しだけ続くのでご容赦ください。
562名無しさん@ピンキー:04/05/12 02:56 ID:2k8JqmYe
125様、乙です。
ダークほのかに((((;゚Д゚)))ガクガクブルブルですな。
563名無しさん@ピンキー:04/05/12 03:41 ID:g+QAHhUW
乙〜♪
564名無しさん@ピンキー:04/05/12 21:15 ID:kw6v52lJ
乙です〜

プリティでキュアキュアですか。
すばらしいですね。

よっ!!名仕事!!
565125:04/05/14 00:39 ID:oHLG0mab
>>560
 初めて男性を受け入れたお尻の穴は、固い。排泄とは逆に上ってくる異物に対し、拒絶
を示すようだった。
「痛ぁッ! 無理、もう無理ぃ!」
「ダーメ。まだ半分も入ってないわよ」
 ほのかの手が無理矢理になぎさの腰を落とそうと押し下げ、声を引きつらせてなぎさは
身悶える。顔は溢れた体液でぐしゃぐしゃになっていた。
 大助も堪ったものではなかった。潤滑油といえば先ほどの奉仕でついた唾液しかないた
め、挿入は苦痛を伴う。裏筋が切れるのではないかという締めつけ、抵抗の中にあっても
梨紅の顔を忘れないことで、罪の意識を持って行為に溺れないよう努めていた。
「これくらいで音を上げるような拡張はしてないわよ?」
「はぅ、い、弄らないでぇ!」
 ほのかの指が無防備ななぎさの陰部を攻め回す。処女膜を傷つけないよう細心の注意を
払いつつ中で指を動かす。悲痛に強張っていたなぎさの表情がわずかに緩み、苦しげに荒
げていた呼吸も切ない吐息が混じりだした。
「えっちな子。でも分かりやすくて好きよ」
「ちっ……違う、わよ…………きゃゥ!」
 言葉で否定しようとも身体が反応してしまう。愉しく弄っているほのかはなぎさの肢体がほ
ぐれた瞬間に、
「えいっ」
 と一気に腰を押し下げた。
「ひぐっ!」
「うぁ……」
 たちまち大助の屹立がすべて体内に呑み込まれた。根元に強く噛みついてくるバージン
だったお尻のせいで噴出しそうになってしまう。大助が少しだけ気持ちよくなるのに反して
なぎさは大袈裟と言えるほど声を荒げた。
「いい、今ぶちって……! お尻、お尻裂けちゃった!?」
 ひりひりというかずきずきというか、疼きとは違う違和感を抱いたなぎさは取り乱した。
566125:04/05/14 00:39 ID:oHLG0mab
「あらあら本当。血が出てるわ」
 結合部を覗いたほのかはあらあらどうしましょうと全く慌てた素振りを見せずに慌てた。
「どうしようじゃなくて! どうしてくれるの!?」
「……とりあえず退いた方がいいんじゃないかな?」
「いけませんっっ!!」
 隙を見て止めようと考えていたのだが見事に制された。
「せっかく入れたんですもの。最後までしていただきませんと」
「待って待って! お尻が、お尻がぁ!」
「気合よ」
 拳を握って告げる瞳は力強かった。
『待ってぇ!!』
 二人の制止を聞かずほのかはなぎさの身体を前後に揺すり始めた。
「気持ちよくなるから。それまで我慢」
「痛いって! 止め、傷拡がっちゃうぅ!」
 前後の動きはお尻にできた裂傷を拡げる結果となっていた。ほのかはわざとやっている
のだろうか?わざとやっている、間違いない。
 流れ出す血とともに傷の拡がりが感じられるような気にさせられ、大助だけがいい感じに
なっていた。嘆き喚くなぎさをよそに一人昇天しそうになる。ごめんね梨紅さん……。
「先輩。どうですか、なぎさの具合は?」
「気持ちい…………ってそうじゃなくて! ダメだってこんなの! すぐ止めないと」

 どぴゅん

「出てる!? お尻に出てる!?」
「…………あ」
「まあ。そんなによろしかったんですね」
 真紅と白濁の混じる液が結ばれている箇所からどくどくと溢れ出す。こうして三者三様の
驚きをもって、丹羽大助と美墨なぎさのアナル体験は終幕を迎えたのだった。
567125:04/05/14 00:40 ID:oHLG0mab
「――穢された……僕、汚れちゃったよ」
 色っぽく脚を横に投げ出して大助は地に手をついていた。
「ごめんね梨紅さん…………あぁ……」
「に、丹羽先輩……」
「そんなに落ち込まないでください。別れの時くらいにこやかに、ね?」
 悪びれる様子もなくほのかはけろっとしている。三人の中で最も満足したのは彼女に
違いない。
「ほのかのせいじゃない! ちょっとは謝るとかアイタタタぁ……ッ」
 ほのかの肩を借りるなぎさの腰は見事に砕けていた。むずむずするのか、突き出した
お尻を時折りくねらせる。
「早く帰ってお薬塗りましょ。痔になったら男の子に嫌われちゃうわ」
 なぎさのことを気遣うとても優しい子である。そんな子が何故あんなふうに歪んでしまっ
たのか、知る由はない。
「丹羽先輩。今日はありがとうございました」
「礼なんて言われても……穢されちゃったし……」
「よろしかったら今度プライベートでお会いしましょう。私も先輩と――ふふ」
「もう勘弁してえぇぇぇッッッ!!」
 素晴らしい響きを洋館に残し、この日の仕事は一応成功した。…………のだろう。



568125:04/05/14 00:41 ID:oHLG0mab

「梨紅さんん……」
 梨紅の部屋、ベッドの上で猫撫で声で梨紅に甘える大助の姿があった。もうすぐゴール
デンウィーク、離れ離れになる前にたっぷりといちゃつきたかった。
「もぉ、しょうがないんだからあ。疲れが残んないくらいでね」
「努力するよ」
 するつもりなど毛頭なかったりする。とにかく精一杯甘えて押し倒してと、ピンクな考えし
かない。
「梨紅さんっ」
 突然押し倒された上で意を決した表情で臨まれ、梨紅は頭上にはてなを浮かべた。
「お、おし……おし……あ、な」
 ベッドの上の彼にしては珍しく舌が回っていない。顔を赤く染める彼など見たのはいつ
以来だろうかと思うと、梨紅の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「なに? どうしたの?」
 屈託のない笑顔で言われ、大助の邪念は綺麗さっぱり霧散した。
「おしぃぃぃ……」
 わけの分からない音を漏らしながら梨紅に抱きつき、後はいつもどおり、である。
 まだまだ変な要求に踏み出すことのできない大ちゃんだった。

569125:04/05/14 00:42 ID:oHLG0mab
プリティでキュアキュアな話はおしまいです。満足(*´∀`)
570名無しさん@ピンキー:04/05/15 02:32 ID:uQ0JbDnk
相変わらず所々に唇の端を歪めたくなるような内容を…GJです。

…その内ゲストで某気弱少年やら蒼い髪の少女やら出てくるのではと一瞬不安にw
571名無しさん@ピンキー:04/05/18 07:36 ID:/aZZKxT1
堪能させていただきました。
572125:04/05/18 23:07 ID:ezZO+Ym5
>571
うーむ、どれも分からないネタですorz
小ネタは合間合間に挟む程度にします

以前ご要望のあった妹話です。
梨紗のえっちぃシーンはなく、ベースとなる話が本編にないので手探り状態で進んでます。
「ここはこうじゃない!」と意見がありましたら是非してください。
573S−3 「妹の休日」:04/05/18 23:08 ID:ezZO+Ym5
 まだ機会はあると思っていた。だが、そんなものありはしないのだと突きつけられた。
「…………」
 天井を見つめるともなく、ベッドの上でただ惚けっとしながら宙を眺めている。広い室内
の中で音を立てる物はない。独りだけの寂寥感を抱く梨紗だけがそこにいた。
 梨紅が合宿に行き、その間にもしかしたら丹羽くんと何か進展しちゃったりするかもなど
という期待が多少なりともあったのだが、すぐ横の姉の部屋で二人がいちゃいちゃすると
ころを聞いてしまったからにはさすがに関係進展云々という考えはできなくなっていた。
 大助と遊ぶつもりだったので連休の予定はまさにすっからかん。律子も真里もみゆきも
連絡がつかない状況なので、どうしようもなく暇を持て余していた。我知らず溜め息が漏れる。
「…………」
 のっそり起き上がるとクローゼットを漁りだす。外出着を取り出すと飾り気のない無地の
ワンピースを脱ぎ捨て着替え始めた。バッグを手にし玄関に向かい、
「ちょっと出かけてくるね」
 まだまだ休まず働いてくれている坪内さんが残る邸内に声をかける。リビングから姿を
現した坪内さんは柔和な物腰でお辞儀をする。
「行ってらっしゃいませ。昼食はどうなさいますか?」
「ん、いい。外で済ませてくるから」
「分かりました」
 それじゃあと言い残し、梨紗は街へと繰り出した。週末の太陽はまだ高い。


574125:04/05/18 23:09 ID:ezZO+Ym5
 丈八分のパンツにTシャツとカーディガンという格好であてもなく街を歩く梨紗の姿を真上
で輝くお天道様が見ていた。
「ちょおっと暑いかなぁ……」
 この日は四月末にしてはなかなかに気温が高かった。左手にバッグを提げ時折り右手で
パタパタ仰ぐ行為を繰り返しながらとりあえず街の中心部へ行き、ただ彷徨い続けた。
 私は独りで何を寂しくしてるのだろう、と思うと気が滅入るのでなるべくしない。ぶらぶらと
ウィンドウショッピングをして回っているとたちまち空腹が押し寄せてきた。
 どこか適当なお店はないかと周囲を見回して目に付くのは男女のペアに男女のペアに男女
のペア……。
 黄金週間の昼間に何をやっているのだろう、と考えてしまう。やはり独りは淋しい。とともに
腹立たしくなってきた。考えるのが億劫になってきたので昼をとるのはいつものカフェに決め
る。さっさとこの忌々しげなオーラを放つ空間から去るべく脚を向かわせようとした時、思わず
声を張り上げた。
「あっ! 日渡くん!?」
 視線の先にいたのは髪と同じ色のチェックのシャツを着た、梨紗同様あてもなく街をうろつく
日渡怜だった。
「ん?」
 眠たげな半眼をメガネの奥から覗かせ振り返った彼は、梨紗の姿を確認した。


575125:04/05/18 23:10 ID:ezZO+Ym5
 梨紗にとっては馴染みの店。最近では律子とみゆきと一緒にここのオープンテラスで
井戸端会議をするために利用することが多い。
「日渡くんも暇人なんだね。一人でぶらぶらしちゃって」
 ただし今日は違っていた。梨紗と同じテーブルについているのは日渡である。いつもの
二人が目撃したなら批難轟々だろう。
「ああ。知り合いのほとんどはゴールデンウィーク初日に出かけていてね」
 手元のコーヒーを優雅に啜りながら答える。もちろん自腹だ。
「私も私も」
 この店のお薦めであるティラミスを頬張りながら相槌を打つ。もちろん自腹だ。
 偶然にも似た状況で遭遇した日渡に近親感を感を抱いた梨紗は暇そうな彼を誘ってみた。
断られるかと考え期待は五分だったのだが、彼は意外なほどすんなりと申し出を受けた。
彼がなぜ受けたかは、することもなく暇で小腹が空いたからだという理由であり、それ以上
の理由はない。もちろん梨紗もそうなのだが、わずかに感じた仲間意識のために少しだけ
喜んでいた。
「律子も真里もみゆきもみんな家族とどっか行っちゃってさ。遊ぶに遊べないんだ」
 残念そうにうな垂れてから顔を上げて訊ねる。
「日渡くんは家族とどっかに行かないの?」
「俺か?」
 不意に話を振られ、口にカップを運ぶのを止める。
「両親はいないんだ」
「え……」
 ひどく落ち着いた声音で告げられ、言葉の真意が一瞬掴めなかったがすぐに察した。
聞いてはいけないことを聞いてしまった気が、
「海外に行っててね。今は一人暮らしなんだ」
「…………あ、そう」
 考えすぎだった。咳を一つし、気を取り直す。
576125:04/05/18 23:11 ID:ezZO+Ym5
「でも海外でお仕事なんて、日渡くんのご両親って世界を行き来しちゃうすっごいエリート? 
みたいな?」
 その問いに日渡は小さく口の端を上げた。嘲笑ではなく、ただおかしくてしたような表情に
梨紗は眉を寄せた。
「いいや。今はただのボランティアさ」
「ボランティア?」
「そう。父は君が言うとおり、前は世界中を飛んで回ってたんだ。母ともその時知り合ったらし
い。そうしてる内に世界の惨状ってやつを目の当たりにして、ある時僕と母にこう言ったんだ」
 そこで拳を握り、芝居がかった声音で小さく力説する。
「『今が世界中の困ってる人を助けるために立ち上がる時なんだよ!』……ってね」
「へ、へぇ……。熱い……お父さんなんだね」
「思い込みが激しいんだと思うけどね。もちろん俺は『なんだってぇ!?』……って言って止め
ようとしたさ。けど母さんは違った。『一緒について行くわ』……だってさ」
 呆れた調子で梨紗が相槌を打つ。実際呆れているのだろう。
「そういうわけなんで今は一人暮らし。家族と旅行なんかできないんだ」
 話はそこで終わりらしく、日渡は再びカップに手を付けた。梨紗はというと頬杖を付いて若干
身を乗り出すように彼の話に聞き入っていた。
「そういう君はどうなんだ? 君の家族は?」
「私?」
 日渡から話を振り返さたことが意外だったのか声が裏返りそうになりながら答えた。
「私も日渡くんと一緒よ。親は海外、と言ってもこっちはちゃんとしたお仕事だけどね」
「なるほど。だから坪内執事がおられるのか」
 坪内さんの存在は友人にはよく知られている。が、原田姉妹の両親不在の理由を知ってい
る男子はそういない。このことを話したのは近親感を覚えているせいだろう。
「うん。梨紅もいるし、親がいなくても別に問題らしい問題はないかな? ねえ、一人暮らしっ
てやっぱり大変?」
「ん……そうでもない。もう慣れたからね。ただ、そうだな……やはり」
 ――少し淋しいかな――俯いて呟く彼に、梨紗は胸の奥に変な感じがぽっと湧いたのを
悟った。
「そう……」
 彼女の声もつられるように沈んだものになった。刹那的な沈黙が二人がつくテーブルを
取り囲んだ。
577125:04/05/18 23:13 ID:ezZO+Ym5
「……姉とは一緒に過ごさないのかい?」
「え? 梨紅?」
「ああ。友人がいなくても姉がいるんじゃないのか?」
「ダメダメ、あの子昨日から部活の合宿行ってるもの」
「ほお。原田姉は合宿か」
「そう。おかげで私一人が退屈な時を過ごしてるの」
「なら丹羽に連絡してみたらどうだ?」
 テーブルにぐったりと体重を預けていた梨紗の身体が跳ね起き、声を荒げて日渡に詰め
寄った。
「丹羽くんいるのっ!?」
「あまり大声で騒ぐな。……いるかどうかは知らない。丹羽の休日の予定を知らないから、
もしかしたらいるんじゃないかと思ってね」
「知り合い全員どっか行ってるんじゃなかったの?」
「いや、てっきり原田姉と一緒に休みを過ごしてると思っていたんで丹羽には連絡とってない
んだ」
578125:04/05/18 23:14 ID:ezZO+Ym5
「ふぅん。案外気ぃ遣ってるんだ?」
 感嘆して言う梨紗に対し、日渡は肩を竦めてみせた。彼の顔には自嘲めいた繊細な笑み
が浮かんでいた。
「そういうわけでもない。少し丹羽と距離を置こうと考えただけだ」
「? なんで? 今まで丹羽くん一筋ぃっ! って感じだったのに」
「自分でもそう思ってたんだが、君の姉と付き合いだしたと知ってから……冷めたということ
じゃないが……思うところがあったのかな、自分を見つめ直してみるつもりでそうしようと決め
たんだ」
 腕を組んで朗々とした声で言葉を紡ぐ様は年不相応に大人びていた。そんな彼を見てい
ると彼女の胸にある変なものがもやもやと、さらに大きくなるのだった。不安なのか何なの
か、今は説明できるほど明確な形を成していないが、それは確かに在る。
「なんか大人って感じするなぁ、日渡くん」
「そうか?」
 縦に頷く梨紗の口からいきなり突拍子もない提案がなされた。
「そうだ! よかったらさ、私たちちょっとだけ付き合ってみない?」
 日渡が口に含みかけたコーヒーを寸前で噴き出しそうになる。彼にしては珍しく表情が歪
んでいた。梨紗は右手の人差し指と親指でわずかな隙間を作り「ちょっと」を示し、無邪気
な微笑みで彼にウインクを投げかけていた。
579125:04/05/18 23:15 ID:ezZO+Ym5
前半ここまでです。
580名無しさん@ピンキー:04/05/19 00:26 ID:wXHJmseG
興味深い展開に!

単純に傷を舐め合うだけじゃなさそうですね。
続き期待です。
581名無しさん@ピンキー:04/05/19 00:31 ID:wXHJmseG
などと暢気に感想を書いてたら、よく見たら容量が489kbだ!
この状態だと、一週間書き込み無しでdat落ち。
次のSS投下の前に次スレを立てないといけませんね。
582名無しさん@ピンキー:04/05/20 20:16 ID:XzWa8Orx
>>581
そ、それは大変だ!!
しかし、すくなくとも、SS投下のときに立てないと、
持たない気がする・・・・
次のが出来るまで、がんばってつなぐ?

125氏、お疲れ様でした。
続きがんばってください!!
583名無しさん@ピンキー:04/05/22 09:28 ID:oiu77glZ
保守
584名無しさん@ピンキー
D・N・ANGELのハァハァ小説 その4
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1085284505/l50
次スレ立てました。即死回避カキコよろしく