まぶらほ-隠し玉-

このエントリーをはてなブックマークに追加
159134
「クッ!」
 自分に対する侮辱ならば、身体の陵辱にさえ耐えてみせる。しかし、故人に対する冒涜
だけは赦すことが出来なかった。
 厳しかったけれど、本当はとても優しくて、誰よりも自分のことを想ってくれた義兄。
その想い出の全てを土足で穢されてしまう気がしたからだ。
「思ったより歯ごたえがなくて面白くありませんね。所詮は畜生を眷属にする程度しか能
のない一族の者ですか。もういいです、ベヒーモスの好きにして貰いましょうか」
 本当につまらなそうに夕菜が言い捨てると同時に、四つん這いの格好で凛を責め立てて
いたベヒーモスが立ち上がる。
 まさに天を突かんばかりの勢いで逸物が隆々とそびえ立ち、凛の最も大切なところ目掛
けて突き出されようとするが、凛の心の中は氷のように冷静で、炎のように燃えていた。
 刹那、今まで感じたことのない魂の底から滲み出るような魔力が凛の全身に満ち溢れる。
 そして一瞬で彼女の四肢を縛り上げていた見えない鎖を断ち切った。
 次いで辛うじて取り上げられていなかった脇差し一本に最大限の魔力を込めると、逆袈
裟の一撃でベヒーモスを虚空へと還す。
 そして返す袈裟懸けで夕菜に魔力の塊を叩きつけようとし・・・
160134:03/12/11 21:14 ID:p3hRXKjc
 ・・・たが、凛には最後の一撃を、致命的な一撃を放つことがどうしても出来なかった。
 駿司のことを思い出すと同時に、彼の亡骸を残り少ない魔法を使ってまで故郷である月
へと送り届けてくれた、和樹のことを思い出してしまったからだ。
 この眼前の少女が和樹にとっては、自分にとっての駿司と同じように大切な人だという
ことを凛は痛いほど――実際の心の痛みを伴って――理解していたからだ。
 しかし、その優しさが凛にとっては命取りとなった。
「・・・へえ、凛さん。この期に及んで偽善者ぶる余裕があるわけですか」
「ぐはっっっ!」
 地獄の底から響くような嘲笑りの混じった夕菜の言葉とともに吹き出した魔力が、凛の
小柄な身体を壁に叩きつける。衝撃波で辛うじて纏っていた衣服も剥ぎ取られ、凛は生ま
れた姿のままで壁に磔にされる。
「凛さんってどこまで腐りきった性根をされているんでしょうね。これだけの力を持って
いながら和樹さんの危機には知らんぷりで、自分の危機にだけ使おうとするなんて。そう
いう人を和樹さんの奥さんとしては、このまま野放しにするわけにはいきませんね」
161134:03/12/11 21:15 ID:p3hRXKjc
「凛さん、これがなんだか分かりますか?」
 夕菜の指差す方角に、凛は辛うじて自由になる首を向けると、部屋の片隅に透明なポリ
タンクがあるのを見つける。黒光りする液体を不審げに見つめる凛に夕菜が正体を明かす。
「御厨さんに作って頂いた強力な洗浄剤です」
 御厨は化学調合マニアのB組の生徒だ。
「相当強力な殺菌効果がある上に、殺菌に使用した後はミネラルウォーターとして飲める
ほど地球の環境に優しい洗浄剤だそうです。もっとも、間違って体内に入ったりすると、
胃や腸にいる体内細菌まで悉く死滅させて全部体外に排出してしまうそうなので、実用化
には時間が掛かりそうだと云うことでしたが」
「?」
 その真意が分からず不審げな表情を浮かべる凛の眼前で、夕菜が聞き慣れぬ呪文の詠唱
を始める。次の瞬間、ポリタンクの中の洗浄剤が一瞬にして消滅し・・・磔にされた凛の
腹部が奇怪なほど膨らむ。
「・・・ま、まさか夕菜さん、私にそれを!」
 突然の腹痛に顔を歪まる凛に、聖母のような笑みをたたえたまま、夕菜が宣言する。
「凛さんの腹黒さを少しでも薄めて差し上げようと思いましたので、洗浄剤をお腹の中に
転移させて貰いました。これだけ強力な洗浄剤なら、きっと凛さんの真っ黒に染まったお
腹を隅々まで綺麗にしてくれますよ。どうですか、嬉しいですよね?」
「いっ・・・!」
 凛が絶叫をあげなかったのは、剣士としての誇りからだった。
 眼前の狂気が具現化したような少女に対しては如何なる命乞いも無益であることを、凛
の剣士としての本能は敏感に感じ取っていた。
 ならば、せめて最期の瞬間まで見苦しい姿を見せるわけにはいかない。
 しかし凛の悲愴な決意とは裏腹に、無理矢理異物を詰め込まれたその小さな身体は悲鳴
を上げ始めていた。
162134:03/12/11 21:16 ID:p3hRXKjc
(こ、これ以上の辱めを受けるくらいなら・・・)
 少女の想像を絶する恥辱は、凛の覚悟の一線を越えようとしていた。
(式森、もう一度だけでも、お前と二人で一緒に・・・)
 淡い思いを振り切った少女は、その舌を伸ばし、これ以上の屈辱を免れようと・・・
「死んで楽になろうなんて思っても無駄ですよ。もし凛さんが自ら命を絶たれたとしても、
紫乃先生にお願いして死体として生き返って貰いますから」
 夕菜が天上の調べのような響きで、しかし地獄のような未来図を凛に提示する。
「世の中には様々な趣向を持った方がいらっしゃいますからね。その方たちに凛さんの動
かぬ骸を贈って差し上げれば、凛さんの肉体が腐臭を発し、身体中の至るところで蛆虫が
湧き出し、腐汁が溢れ出すまで、その身体を存分に貪り尽くしてくれるでしょう」
 凛の表情から生気が消え失せた。全身の神経が凍てつき、瞬き一つ出来ない。
 ここにいるのは最早ただの魔法使いの少女ではない。それどころか魔女という言葉さえ
生ぬるい。地獄の魔王そのものだ。
(こ、こんな女性を式森は・・・)
 目の端に絶望と慟哭の涙を浮かべながら、ありったけの魂を込めて凛が叫ぶ。
「夕菜さん、式森が好きになったのは今の貴女じゃない! 正気に戻って下さい」
「正気に戻るべきは和樹さんの方です。こんな獣同然の淫売女に誑かされるなんて。
 和樹さんは私を、私だけを愛する義務があるんです。それを邪魔する人間はこの世に生
まれてきたことを心の底から憎むようになるまで死ぬことさえ赦しません!
 とりあえず、そんなことよりも・・・」
「うわぁぁっっ!」
 磔にされた凛の前に立った夕菜が、その肉芽を思いっきり捻じあげる。
 凛の小さな身体が海老のように反り上がり、脹らんだお腹が突き出される格好になる。
「凛さんの腹黒さがどれくらい綺麗になるものなのか、私は大変楽しみです」
 魔神の化身のような少女は、天使そのものの笑みを浮かべながら云った。