まぶらほ-隠し玉-

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「・・・ここは・・・いったい?」
 神城凛は薄暗い一室で目覚めた。
(私は・・・確か・・・今日は・・・)
「ようやく目を醒ましましたか、凛さん」
 凛の前に仁王立ちしていた少女が口を開く。葵学園の一学年上の先輩宮間夕菜だ。
 可愛らしい顔に柔らかな笑みを浮かべているが、その瞳は底知れぬ昏い光を放っている。
「夕菜さん、これは・・・なっ!?」
 凛はようやく己の置かれた状況に気付いた。
 椅子に座らされ、手は後ろ手に、両の足はだらしなく開いた格好で椅子の脚にくくられ
ている。だが慌てて走らせた視線の先には何もない。にもかかわらず、身体は万力で締め
付けられるように身動き一つ出来ない。
(くっ、魔法か。ならば・・・)
「無駄ですよ。お察しの通りそれは普通の鎖じゃありませんから。それと予め云っておき
ますが、念話で助けを求めても無駄です。この部屋には結界を張ってありますから」
 凛の内心を見透かしたように、夕菜は素っ気なく言い捨てる。 
「夕菜さん、これは一体どういうことですか!?」
「ほう・・・この状況を理解できないなんて凛さんって意外と鈍いんですね」
 慌てて叫ぶ凛に対して、夕菜はどこまでも底冷えした声で応える。
140134:03/12/08 22:05 ID:uNODnXaM
「和樹さんに手を出しましたね?」
 疑問形の形こそ纏っているが、断定の口調で夕菜が唐突に云いきった。
「わ、私は別に他意があって式森を誘ったわけではなく・・・」
 そう、サムライを描いたハリウッド映画のチケットが偶然二枚だけ手に入ったのだ。
 二枚では皆で行くわけにはいかない。玖里子さんはプレミア試写会に参加したと云って
いたし、舞穂ちゃんでは話が難し過ぎるだろう。まして開国と同時に宗旨替えし西洋魔術
に乗り換えた宮間家出身の夕菜さんを誘っては変な誤解を生じかねない。
 だから式守を誘ったのは全くもって本意ではない、やむを得ない仕儀だったのだ。
 二人で一緒に映画を見て、奮発してホテルの懐石料理店に入ろうと・・・した直後から
の記憶が綺麗さっぱり抜け落ちていた。
 ただ意識が闇に墜ちる瞬間、断末魔の叫びのようなものを聴いた気がする。
「し、式森はどうしたんです!?」
「この期に及んで他人の男の心配ですか。もう少し想像力を働かせたらどうですか?」
 どこまでも表情だけは穏やかな夕菜の姿に、凛の背中を冷たい物が走る。
「もっともその想像力の欠如故に、これから貴女の身に起こることの心配をしなくても済
んでいるというのは、不幸中の幸いかも知れませんけれど」
 そう云ってくすりと笑った夕菜の表情は、凄絶なほどに美しく、そして残酷だった。
141134:03/12/08 22:07 ID:uNODnXaM
「夕菜さん、いったい何を!?」
「泥棒猫にはきつい躾が必要です」
 凛の愛刀を手にした夕菜は、その刃先を身動きできない少女の前で煌めかせる。
「動かないで下さいね。簡単に楽になって貰っては困るんですから」
 淡々と云いながら、夕菜は凛の着物の帯と下半身を覆う袴を迷いもなく断ち切る。
 着物の前面がはだけ、薄闇にどこまでも滑らかな少女の真っ白な肌が映える。
 その陶器を思わせる慎ましい膨らみと未成熟な蕾を思い起こさせる腰廻りを覆っている
のは薄桃色の可愛らしい下着だ。
「なんですか、この男を誘うような下着は。凛さん、やはり最初から和樹さんを籠絡する
気だったんですね?」
「ご、誤解です、夕菜さん。私は決してそのようなふしだらな考えなど」
 必死で反駁しようとするが、凛の真っ赤に染まった顔と恥じ入るような瞳を一瞥しただ
けで夕菜の疑念は確信へと変わる。
「・・・なるほど。目は口ほどに物を云う、といいますがその通りですね。ところで、凛
さんの云う《ふしだらな考え》というのは一体どういう行為を指すんですか?」
「そ、それは・・・」
 男に興味はないと公言しつつも、凛には確かにその手の知識があった。
 露骨な本家の要求もあったし、玖里子の当初の和樹の遺伝子に対する執着は、頑なにそ
れを拒否していた少女に、否応なく男女の営みに関する知識を植え付けていた。
「応えて下さい、凛さん。でないとわたし、手が滑ってしまうかも知れませんよ」
 罪のない無邪気な微笑みを浮かべながら、夕菜は白刃を振り上げる。
「・・・その、好き合った男と女が・・・その・・・手を取り合って・・・」
「はい、時間切れです」
「!?」
 唐突に振り下ろされた銀光が凛の頭上を容赦なく襲った。
142134:03/12/08 22:07 ID:uNODnXaM
 再び閃いた白刃は、凛のブラジャーとショーツを両断し、少女の裸身が露わになる。
「悲鳴を上げなかったのは流石ですね。まあこの程度で悲鳴を上げているようでは凛さん
が罪を自覚して頂く前に、心の方が壊れてしまうでしょうけれど」
 恐るべき発言を淡々と、まるで気負わぬ口調で告げた夕菜は、どこまでも澄んだ、しか
し嗜虐の冷たい炎をたたえた瞳で露わになった凛の裸身を眺め尽くす。
 視線だけで全身を犯されている気がしたが、凛は歯を食いしばり腹の底から湧き上がっ
てくる絶叫を堪える。悲鳴を上げれば夕菜の加虐心を一層煽るだけだと本能で悟っていた
し、剣士としての誇りが無様に泣き叫ぶという逃避を赦さなかったからだ。
 夕菜の、のたうつ蛇のような視線は凛の下腹部で止まる。
「へぇー、意外ですね。凛さんにもちゃんと生えていたんですね。随分貧相な身体をされ
ていますから、私はてっきりまだ赤ちゃんのままの姿かと思っていました」
 激発しそうな感情を必死に押し殺すが、凛の顔が怒りと羞恥で瞬時に朱に染まる。
「とは云っても文字通り産毛に毛が生えた程度ですね。肉の割れ目もはっきりと見えます
し、包皮も堅く被ったままですか。本当に自分でも殆ど弄ったことがないようですね」
 夕菜の最後の言葉に、凛の顔が一瞬だけ青ざめた。
 同年配の少女に較べれば未成熟な凛の身体だが、年相応に女らしさを備えつつある。
 月に数度訪れる身体が疼いて眠れぬ夜。以前は素振りを繰り返せば解消されていたその
疼きが年を経るごとに、そして何より和樹のことをよく知るようになって以来、抑えきれ
なくなってきている。
 凛はその解消法に関する知識こそ持っていたが、一度も試したことはなかった。だがそ
れは節制からではない、未知の経験に対する恐怖故だ。
「・・・そうですか。興味はあっても試した事はありませんか。丁度良い機会です。凛さ
んの本質が剣士などではなく、他人の男に手を出す愛欲と肉欲にまみれた薄汚い淫獣に過
ぎないことを自覚させて差し上げます」
 サトリの化け物のように正確に凛の思考を読み取った夕菜は、慈母のような笑顔を浮か
べたまま、凛の裸身へと手を伸ばした。