カタコンベの壁が揺れた。モーニラム・ヴァーの地下に広がる納骨堂は、いまや、嘔吐
をもよおすような悪臭に包まれていた。石筍と見えたものはそのことごとくが不潔でぶよ
ぶよとした、名状しがたい悪夢のような生き物だった。群れとなって我々の頭上でうねる、
つぶれたなめくじのようなおぞましい赤黒い塊は、「ひぃるるる」という笛の鳴るような
音を立てた。それは奴らの声だったのかもしれない。
我々探検隊の中でもっとも年若いシンシアがもの狂おしい悲鳴をあげた。彼女の声に呼
応するかのように、赤黒い塊から血のようなどろどろの液体が垂れ落ち、さらに「ひぃる
るる」という声が高まった。
やつらはぼたぼたと我々の身体に降り注ぎ、腕に、首筋に、身体にとまとわりつき、そ
して服の隙間から侵入してきた。それらは粘液質の身体を持ちながら、表面に苔のような
微細な毛が密集して生えていた。この世の生物であるとはとうてい思えなかった。
シンシアの目が正気の光を失った。両手をふりまわし、ぐにゃぐにゃした恐ろしいもの
を身体から引きはがそうとした。服を引き裂き、血管の浮いた白蝋のような乳房に爪を立
て、そこから血がにじんでも、身体をかきむしることをやめようとしなかった。
わたしはいとわしさで胸がむかつき、彼女に救いの手をのばすことはおろか、その場に
立っていることさえできなかった。
地面にくずおれたわたしの上に、彼女の身体が覆い被さってきた。わたしは身動きする
こともできない。彼女がわたしから身体を引きはがすようにしてそばに倒れた。二度三度
けいれんし、あらわになった乳房が揺れた。彼女の乳房の先端に水滴の小さな珠がつくら
れたかと思うと、驚くべきことに、子をはらんでいないはずのシンシアの胸から白い液体
がほとばしった。どろどろの赤黒い粘液につつまれた彼女の服は、いまや溶けて身体から
垂れ下がっていた。下腹部の茂みにあのいまわしい生き物がうごめいているのが見えた。
ここでわたしの記憶はとぎれている。(ふざけんな)