それからまた何日か経ったある日の事です。廊下でまた陽子に呼び止められました。陽子は何だかもじもじしながら言うのです。
「祥瓊、あのさ…今度…服、貸してくれるかな?」
「わたしの服?……なに?熱でもあるの?」
「違うよ!いや…つまり…わたし街に降りられるような服を持ってないから…」
陽子はすごく恥ずかしそうに言います。私は噴き出しました。
この子ったら、本当に王様なのかしら?何だか可笑しい。
「いつも着てる“あの服”があるじゃない」
可笑しくて可愛らしくって、私はついからかってしまいました。陽子は少し拗ねたように私を睨んでいます。そして軽く息を吐いてやっぱり恥ずかしそうにこう言いました。
「好きな人と…一緒に歩きたいんだ。変かな?」
「まあ!好きな人ですって?」
王と言っても陽子は身も心も正真正銘のお年頃の女の子なのです。陽子のその気持ちは今の私にも痛いほど分かりました。
「陽子は恋をしてるのね」
「…うん。王だって恋愛くらいしてもいいよね?」
とても恥ずかしそうに、けれどその想いを素直に言える陽子を心底羨ましく思いました。
「もちろんよ。服は好きなの着ていいわ。陽子にはそんな気持ち、ずっと持ってて欲しいな…」
「うん、ありがとう、祥瓊」
私もあの方と寄り添って街を歩けたなら、きっとどんなに素敵なことでしょう。
含羞みながら微笑う陽子を見ていると、いつか私にもそんな日が来そうな気がします。
だけど今夜も窓を開いて夜空の向こう、遥か彼方の空を見つめながら、きっと私は泣いてしまう。
今すぐあの方の許へ飛んで行きたい。あの方が佇む窓辺の下、小夜鳴鳥のようにこの想いを歌いたい。
私は、恋をしています。
―了―