想い出のために
KKG pp'l
「エルザ・ラウーロ組が生きてりゃなあ」
「生きてりゃこんな話もしてねーだろーよ」
ジョルジョが面白くなさそうに答えた。
社会福祉公社の二課では、条件付けのされた義体に、高級娼婦のまねごとをさ
せる仕事がある、という噂で持ちきりだった。
普段であればくだらないと一蹴されそうなものだが、今回のその噂には、信憑
性の高いおまけがついている。
計画の出所が一課でありドラーギ課長から「単純な戦闘能力だけではなく、潜
入任務など、様々な計画に義体を使うことはできないか」と提案されたという噂。
エルザ・ラウーロ事件の直後であり、時期的に強くでられないという噂。
二課の支援者である“とある大物政治家”の政敵が幼児性愛者であり、今回の
仕事はそれに関わることだという噂。
そして今日、定期会議で計画が知らされる、という噂に、課員たちはざわめき
ながら会議室で待っていたのである。
「そっちのお嬢ちゃんはどうだい?」
ジョルジョがヒルシャーに尋ねた。
「性格的に向いていそうだが」
「冗談を言うな。まだ子供だぞ」
「それはどこも同じだ」
珍しくジャンが口を挟んだ。
「面白くなさそうですね」
「当たり前だ。自分の道具を他人に使われて、面白いわけがないだろう」
「ジャンさんも、詳しいことは?」
「噂以上のことは、なにも」
仏頂面をして、ジャンはそう言った。
「もっとも、どこから漏れたのか、ここ二、三日は義体連中まで噂話に興じてい
るらしいが」
「そうみたいですね。トリエラもそんなことを言っていました」
「どこから漏れたんだろう?」
「この中の誰かから、だろうぜ。どこかの狒狒爺のおもちゃになるかもしれない
んだ。誰がうっかり漏らしたって、不思議じゃ」
ジョルジョが最後まで言い終わらないうちに、会議室の扉が開いた。
沈黙のうちに全員委が着席し、配られた資料に軽く目を通し始める。
小さきなざわめきとともに、会議室に一人に対する同情と、一人を除いた安堵
の空気が流れた。
ぎりっ、と歯ぎしりの音が響く。
「今回の仕事の説明を始める」
課長の言葉を、ヒルシャーはほとんど聞いていなかった。
資料には、トリエラ、彼の担当する義体の名前が潜入要員として記されていた。
作戦の概要も、地図も、関係者略歴も、彼の絶望を救ってくれる記述は、一行も
なかった。
いつの間にか、説明が終わっていた。
「実行は来月の二二日。特殊訓練とその日程については、後ほど通達する。
質問は?」
課長の言葉に、ヒルシャーはがたん、と椅子を蹴った。
「なぜです? なぜトリエラなんです!?」
同情と哀れみの視線がヒルシャーに集まる。
「戦闘能力、自主判断能力、柔軟性、担当官に対する依存率、容姿と対象の嗜好
などの側面で、トリエラがもっとも要求水準を満たしていると判断した。これは
決定事項であり、変更はない。
他に誰か質問は?
それでは、これにて会議を終了する。解散」
その夜の自室で、ヒルシャーは酒を喉に注ぎ込んだ。灯りもつけずに独り飲む、
陰気な酒だ。
どうにもやりきれなかった。
フラテッロとして、トリエラとヒルシャーの関係は安定していない。兄妹と言
うには縁遠いし、友人であるには上下関係がはっきりとしすぎている。道具とし
て使うほどに非情にはなれなかったが、明確な愛情を持つほどに親しいわけでも
ない。
そして、だから課長は、トリエラが見知らぬ男に抱かれることを良しとするだ
ろうと、あるいはヒルシャーに耐えられるだろうと判断したのだろう。
ジョゼとヘンリエッタのような関係であれば、選ばれるようなことはなかった
かもしれないし、ジャンとニコのような関係であれば、悩むことはなかったろう。
だが、自分はジャンのようにはなれないし、トリエラはヘンリエッタのように
はなれない。
堂々巡りを繰り返しながら、空の酒瓶だけが増えていく。
時計が深夜を回った。壁に掛けた古い時計が、ぼおん、ぼおん、と時を告げる。
とんとん。
鐘の鳴る中、扉を叩く者がいる。
「開いている。好きに入れ」
「お邪魔します」
扉を開けて、トリエラが、なんでもないことのように部屋に入ってきた。呆れ
たようなため息をつくと、トリエラは電灯のスイッチを入れた。
「灯りぐらいつけたらどうですか。大の大人が自棄酒というのは、みっともいい
もんじゃないですよ」
「こんな夜中に、何の用だ?」
「抱かれにきました。仕事の、前練習です」
トリエラの言葉に、ヒルシャーは渋い顔をした。
「冗談はよせ」
空になったグラスにとくとくと酒を注ぐ。不意にトリエラの手が伸び、グラス
を取り上げた。
「お酒は止めてもらいます。行為に、差し支えては困りますから」
「子供は眠る時間だ。帰れ。帰ってくれ」
「ヒルシャー」
トリエラが、呟くように呼びかけた。頑とした決意のにじむ声だ。
「冗談で来ているわけじゃありません」
椅子に身を沈め、ヒルシャーはあきらめのため息をついた。ひどく疲れた気分
だった。
「なぜだ?」
「なぜ?」
トリエラが嘲笑う。
「記憶にある限り、私にはそう言う経験がないんです。記憶にないだけかもしれ
ませんけど。
初めての相手が見知らぬ相手なんて、我慢できると思いますか? せめてもう
ちょっとましな相手と、ましな初体験を迎えたいと思うぐらいには、私はロマン
チストなんです。公社の中では条件付けもあって、あなたが一番“まし”ですか
ら」
ヒルシャーはもう一度、あきらめのため息をついた。
「シャワーは?」
「浴びてきました」
ほっとしたようにトリエラが答える。
「それなら俺が入る。考えを変えるなら、今のうちだぞ」
「ヒルシャーさん、お水」
「水?」
ヒルシャーは足を止めた。
「お酒が入ったままシャワーを浴びて、心臓麻痺でも起こされたら困ります」
ヒルシャーは苦笑いを浮かべると、トリエラの差し出すグラスを受け取り、一
気に飲み干した。酔った身体に冷えた水が染み渡る。
安心したようなトリエラの視線を背に、ヒルシャーはシャワールームに入った。
熱いシャワーが酒臭い汗を流していく。
嘘だ。
ヒルシャーは、直感的にそう感じていた。
それなりに筋は通っている。トリエラも、年頃の女の子にすぎない。
けれどヒルシャーの知るトリエラの行動としては、違和感が拭えない。彼女は
そうしたことにロマンティシズムを感じる性格だったろうか。少なくとも、それ
ほどまでに強い決意を促すほどには感じなかったはずだ。
ヒルシャーは考えるのを止めた。どちらにせよ、トリエラが自分に抱かれるた
めに来ていることには違いがない。なぜかはともかく、本人がそれを希んでいる
のだ。
それでも、気は晴れない。
がちゃり、という音ともに冷えた空気が入り込んできた。
「失礼します」
即死防止に投下しました。
(どれぐらいの量で防止できるんだろう?)
続きは……頑張ります。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
毅然としたトリエラたんがめっちゃ萌えでつ
11 :
名無しさん@ピンキー:03/09/20 20:56 ID:Kk5EYMZ+
神キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
湯煙の向こうに現れたトリエラの裸身に、ヒルシャーは一瞬呆然とした。
浅黒くも、なめらかな肌は、身にまとう湯煙と相まってひどく官能的な色合い
を帯びていた。普段は結わえている髪は、まっすぎに垂らしている。
肉付きには乏しく、胸は薄皿を伏せた程度の盛り上がりしかない。骨格はがっ
ちりとしているのだが、四肢は細く、こうしてみると頼りなささえ感じてしまう。
胸の頂には、薄桃色の突起が小さく存在していた。下肢には、髪と同色の草む
らが薄く茂り、浅黒い肌を透かし見せていた。
トリエラが、恥じらうように顔を背けた。それでも身体を隠そうとはせず、手
を所在なげにへそのあたりで組ませる。
するり、と手からシャワーが滑り落ちた。支えを失ったノズルが跳ねまわり、
あちこちに水流を叩きつける。
「うわっ! とっ!」
慌てているせいもあって、拾い上げようとするヒルシャーの手から、シャワー
がつるりつるりと逃げ回る。さんざんに手こずらされた末シャワーを捕まえたと
きには、ヒルシャーは頭からつま先までびしょぬれになり、髪の毛からぽたぽた
と水を滴らせていた。
それを見てトリエラは、くっくっくと笑いを抑えた。やがて押さえきれなくな
った笑いが、あははははと弾け、トリエラが腹を抱えて笑い出す。
「なにもそんなに笑うことはないだろう」
「だ、だって、そんな、なにもそこまで驚かなくたって……」
あは、あは、あはは、と笑い転げるトリエラに、はじめはむっすりとしていた
ヒルシャーも、つられてくすくすと笑い出した。
さんざん間抜けな姿をさらしておいて、今さら格好をつけても始まらない。
ヒルシャーは勢いよく水流を放つシャワーを、おもむろにトリエラに向けた。
「うひゃっ!?」
「そらそらそら」
「まいった! ごめんなさい! まいったってば!」
けらけらと笑いながらトリエラが狭い風呂場の中を逃げ回る。笑い疲れた二人
が一時休戦を結ぶ頃には、風呂場中が水浸しになっていた。
「どうせだ、風呂に浸かるか」
「そうですね」
笑い疲れた二人は風呂に身を横たえ、湯がたまるのを待った。ヒルシャーが大
きく横たわり、抱きかかえられるようにトリエラが入る。
さすがに二人が入っていると、たまるのが早い。水位はくるぶしから足首、す
ね、へそとどんどんと上がっていく。
トリエラは、まだくすくすと笑っていた。ほどかれた髪は、今はくるくると巻
かれて頭の上に載せられている。
「髪の毛びしゃびしゃ。乾かすの大変なんですよ」
「すまんな。てっきり、シャワーを浴びている間に帰ったと思っていたから」
「本当に?」
「いや。しかし期待はしていた」
「あいにくでしたね。背中でも流そうかと思ったんですけど。服、脱がせたかっ
たですか?」
「そういうわけじゃないが」
苦笑いを浮かべ、ヒルシャーはトリエラの身体を抱きしめた。トリエラの背中
が胸に当たる。じんわりとしたぬくもりが、直接肌に伝わってきた。
ヒルシャーは、トリエラの浅黒い肌に指を走らせた。
全体的に脂肪は少ない。それでも自分が戦闘用の人形なのではなく、少女であ
ることを主張するように、胸や腰には薄く脂肪が蓄えられている。
子供ではあるが、完全な子供ではない。ヒルシャーはそのことに安堵した。そ
のまま、肌のあちこちに指を走らせる。胸元、脇、鎖骨、腕。はじめは愛撫のつ
もりだったのが、だんだんとトリエラとの思い出をたどるような動きになってい
く。
左の太股に感じられるつなぎ目は、義体手術の名残だ。
右腕にはカモッラに打たれた痕。左腕を手術したのは二度や三度では利かない。
義体手術、負傷手術、トリエラが手術を受けた回数は二桁に上る。
そうしたことを思い浮かべると、愛おしいと思う気持ちが胸にこみ上げてくる。
不意にトリエラが身をよじった。
「やだ、くすぐったい」
「ああ、すまない」
思わず謝ってから、ヒルシャーはばかばかしさに苦笑いを浮かべた。少なくと
もこの状況で、謝るべき行為ではない。そのまま捕まえるように強く抱きしめる。
トリエラが小さな悲鳴を上げた。密着した肌から、さっきよりも強く体温を感
じる。トリエラの首筋に口づけをすると、吐息とともに身体がぴくりと震えた。
すっかりお湯の下に潜った太股を、さわさわと撫でる。
「ん……あ……」
トリエラの脚が、どう反応したらよいのか迷うように、開いたり、閉じたりす
る。ヒルシャーの左手はお湯に洗われる乳房を包み、柔らかく撫でた。
「トリエラ」
呼びかけに振り向いたトリエラの唇を、静かにふさぐ。軽い口づけのつもりが、
思いの外強く押し当てられた。
ヒルシャーの舌が、閉ざされたトリエラの歯をノックした。一瞬のためらいの
後、トリエラの口が開き、ヒルシャーの舌を受け入れる。
「ふはっ、はぅ……」
二人の舌が、ねっとりと絡み合った。自らの口中を犯すヒルシャーの舌を、ト
リエラの舌が包む。ヒルシャーが、トリエラをねじ伏せ、組み伏せると、反撃に
でたトリエラがヒルシャーの口へと入り込んだ。
「あふぅ、ん、う」
トリエラがうめいた。罠にはまったように動きを封じられ、ヒルシャーのねち
っこい舌にさんざんになぶられる。
ぴちゃ、ちゅ……ちゅぱ……
息苦しげな吐息が、互いの頬をくすぐった。口の中にたまり、飲み下せなかっ
た唾液がつうっと唇の端からこぼれる。
ヒルシャーの手が、唇がはずれないようにトリエラの頭を支える。
トリエラの腕が、不自由な姿勢のままヒルシャーに巻きつく。
「うぅふぅ……」
指先でトリエラの裂け目をくすぐるようになぞる。トリエラの腰が、もどかし
げに身じろぎをした。
「んあっ」
不意に、狭い湯船の中でトリエラが身をよじった。ヒルシャーに抱きかかえら
れていた格好から、互いに抱き合う形に身体をひねる。弾みで、一杯になりかけ
ていた湯船のお湯がざぶんと溢れた。
いつの間にか固くなっていたヒルシャーの身体に、トリエラの熱い秘裂が押し
当てられる。
「んふぅ……」
口づけをしながら、トリエラが笑った。不自由そうな体勢のまま、自分の身体
をこすりつけてくる。
ヒルシャーも負けじと、トリエラの背や脇腹をくすぐった。熱くなっているト
リエラの身体は、ヒルシャーの指先が走るたびに震えた。
指を下へ下へ走らせ、背後から秘華を指の腹でこする。お湯の中でも、そこが
熱くぬめっているのがわかる。
ぷはっ。
息が続かなくなり、二人は唇を離した。ぎゅうっ、とトリエラが腕に力を込め
る。ヒルシャーの胸に頭をこすりつける。少しでもたくさん触れ合っていたいの
だろう。甘えるような、と言うには力強いその仕草に、ヒルシャーは優しく頭を
撫でた。頬を撫でそっと促し、もう一度、今度は柔らかい口づけを交わす。
唇を離すと、こんどはトリエラがねだる。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、という音が何度となく風呂場に響いた。
「キスが好きなのか?」
「さあ……でも、悪くないです」
上気した顔で、トリエラは微笑んだ。
頭の上にまとめられた髪が、湯船に落ちて広がった。
「トリエラ」
「ん」
ヒルシャーが促すと、トリエラはそう頷いて、立ち上がった。細い身体が、ヒ
ルシャーの目に晒される。トリエラは恥ずかしそうな気振を見せながらも、逃げ
ることなく湯船の縁で腰を支えた。そのまま小さく脚を開く。
「もっと脚を開け」
「はい」
恥じらいながら、トリエラはさらに脚を開いた。ヒルシャーはその間に割り込
み、さらに大きく脚を開かせる。
トリエラが羞恥に顔を染め、目を閉ざした。
「腰をもっと前に突き出すんだ」
「は、はい」
言われたとおり、前に突き出されたトリエラの秘華に、ヒルシャーは自分の身
体を押し当てた。そこは、ひどく熱かった。
ヒルシャーは落ち着かせようと、そっとトリエラの髪を撫でた。いつも二つに
括っている髪を見ているせいか、まとめられていない髪が新鮮に映る。
「怖いか?」
「キスする前に、聞いて下さい」
「そう言うものか?」
「いえ、なんとなく言ってみただけです。
痛いでしょうか?」
義体に過去の話をすることは禁止されている。これも、過去の話に入るだろう
か?
一瞬迷った末、ヒルシャーは首を横に振った。
「力を抜け。力むと、痛いぞ」
「はい」
そう頷くと、トリエラは大きく深呼吸をする。
「行くぞ」
それには答えず、トリエラは息を吐いた。その瞬間を狙って、ヒルシャーは腰
を突き上げた。
「んあぁっ!」
トリエラの悲鳴が浴室に響いた。秘華はたやすく口を開き、ヒルシャーの身体
を受け入れた。熱っぽい秘肉が、ねっとりとヒルシャーを包む。
トリエラの腕が、強く、痛いほどに強くヒルシャーを抱きしめた。
「大丈夫か? 痛むか?」
トリエラの身体は、ほとんど抵抗なくヒルシャーを呑み込んでいる。身体が拒
んでいるとは思えなかったが、胸の中でトリエラは、がたがたと震えていた。背
に回された腕も、痙攣でもしているのようにがくがくと震えている。
「大丈夫か?」
「なに、これ、やだ、怖い」
ひくっ、ひくっとヒルシャーを包むトリエラの身体が震える。
「う、動かないで……」
そう言われても、ヒルシャーの方も膝を曲げた不自由な体勢なのだ。ヒルシャ
ーはため息をつくと、耳元に囁いた。
「しっかり掴まっていろよ」
「は、はい」
とまどったような返事とともに、肩に回された腕に力がこもる。
足を底につけ、膝を伸ばす。ヒルシャーはトリエラを抱え上げた。
「うひゃあっ!?」
ずぶり、と重力によってヒルシャーの身体がいっそう深く突き刺さる。反射的
にだろうか、トリエラの脚が、しがみつくようにヒルシャーの腰で 交差した。
身体を回転させ、湯船に腰掛ける。
「大丈夫か? しばらくじっとしているから、息を落ち着かせろ」
「は、はい、大丈夫です……ちょっと、びっくりしただけ」
はーっ、はーっと大きく息をしながら、トリエラがそう答えた。ヒルシャーは
優しく背中を撫でる。トリエラは、くすぐったそうに身をよじった。
「ん」
トリエラが少し身を離し、キスをねだる。ヒルシャーはそれに答え、強くキス
をした。互いの腕が背中に回り、強く抱きしめあう。張りつきあった肌が、互い
の温もりを交換した。
しばらくしてから、二人は唇を離した。
「落ち着いたか?」
トリエラは小さくうなずいた。そのまま腰をねじり上げる。
「あっ……」
熱いため息が、胸板をくすぐる。ヒルシャーが腰を動かすことで、秘芽がこす
れるのだろう。きゅうっ、きゅうっとトリエラが締めつけてくる。
「ん、ん、ん……」
しがみついた格好のまま、トリエラもヒルシャーの動きにあわせて腰をうごめ
かす。繋がったところに、汗と蜜がたまり、にちゅにちゅと淫猥な音を立てた。
「ん、はふっ、んっ」
腰をこすりつけると言うよりも、肌全体をこすりつけるように、トリエラが動
く。肌全体が、快楽を求めているのだろう。
ヒルシャーは愛おしげに口づけをした。トリエラが一心に応える。背筋や脇腹
を、優しく撫でる。トリエラの身体は、ひたすらにその心地よさを貪っていた。
一撫で一撫でに身体をふるわせ、息継ぎとともに熱い吐息を漏らす。燃えるよう
な秘壺が、ヒルシャーの身体に身体にこすりつけられる。
熱く包み、締めつけるトリエラの秘華に、ヒルシャーの余裕はだんだんと失わ
れていった。
「動くぞ」
唇を離し、そう囁く。
「うん……」
囁くように細い声で、トリエラは答えた。
「じっとしてろよ」
膝の裏に腕を回し、トリエラの身体を抱え上げる。
「ひゃっ!」
悲鳴とともに、トリエラがしがみつく。きゅうっとトリエラの秘壺がヒルシャ
ーを締めつけた。そのままトリエラの身体を上下に動かす。
ぬちゃっ、ぬちゃっ……
繋ぎ目にたまった蜜が、糸を引きながら卑猥な音を立てる。
「はんっ! あ、あんっ!」
動きは大きくないが、突き込む時に落ちるせいか、動きのたびに強い刺激が走
った。
「んっ! あっ! ヒ、ヒルシャアッ!」
トリエラが顔を近づけるなり、不意打ちのように口づけをした。無理矢理に舌
をねじ込み、ヒルシャーの舌に絡みつく。
「ん、んぐっ! ぅぐっ!」
激しく腰を動かしている状況では、味わうように舌を動かすことはできない。
ヒルシャーもトリエラも、互いに舌をこすりあわせるだけの、粗雑な動きだ。腰
の動きも、唇同士が繋がっているせいで動きが押さえられてしまう。
それでも、絡み合う舌はそれを補うほどに互いを高めあった。強く、熱く結び
つき、求めあっているという実感。
「ん、はっ、んっ! んむぅ……」
ぬちゅっ、ぴちゅ、ぬちゅっ、ちゅぱっ……
蜜音と舌の絡む音が一緒になって、浴室に響き渡る。湯船に注がれ続けている
お湯は水位を上げ続け、今ではあふれ出していた。
もちろん今の二人に、お湯を止める余裕はない。
トリエラの身体を持ち上げ、下げ、持ち上げ、下げ、互いの舌をただこすりあ
わせ、全身で相手の身体を抱きしめる。
ばらばらだった動きが、だんだんと一つのリズムに乗って足並みをそろえ始め
た。トリエラの身体に深く突き込むと同時に、互いの舌を強くこすりあわせる。
持ち上げるときにわずかに弱め、下げるときにまた力強く絡ませる。
そうした緩急をつけた動きに、二人の身体はさっきまでよりもずっと早く高ぶ
りつつあった。
「んっ! んんっ!!」
トリエラの爪が、ヒルシャーの背中に立てられる。その痛みさえ、甘く痺れる
ような心地よさがあった。
ぷはっ、と互いに息を継ぐ。その瞬間、互いの獣じみた瞳と目があった。
問いかけるヒルシャーに、トリエラがうなずく。
ヒルシャーが、強くトリエラの身体を突き上げた。
瞬間、しがみついているトリエラの身体が、びくびくと震えた。人工筋肉で強
化された四肢が、ヒルシャーの骨をきしませる。ぴくん、ぴくん、とくすぐるよ
うに震えるトリエラの蜜壺の中に、ヒルシャーは静かに樹液を注いだ。
ふへーっ、とトリエラがため息をついた。汗と一緒に力が抜けたように、腕に
力がこもらない。ずるり、と湯船の中に落ちそうになるのを、ヒルシャーが慌て
て抱きかかえた。
抱き合ったまま、湯船に身を沈める。
ざばーっと音を立ててお湯が溢れた。ヒルシャーが出しっぱなしになっていた
お湯を止めた。
力が入らず、お湯の中に沈みそうなる反面、空が妙に軽く、浮き上がりそうな
感じもする。
「大丈夫か?」
「ん……大丈夫です」
そう呟いて、ヒルシャーの胸に耳を当てる。どっくどっくと心臓の鼓動が聞こ
え、鼻をヒルシャーの体臭がくすぐった。
くんくんと鼻を鳴らし、胸に吸い込む。
「汗くさいか? シャワーならそれこそ、嫌になるほど浴びたんだが」
ヒルシャーの言葉に、トリエラは顔を赤らめた。
「いえ、臭いということではないんですけど。なんとなく、嗅いでおきたい気分
になって」
トリエラはヒルシャーの身体から、艶めかしい雄の匂いを感じていた。胸に吸
うと、ぞくぞくと身体が熱くなるような、そんな匂い。さっき達っしたばかりと
いうのに、もう一度とねだりたくなるような、そんな気持ちのかき立てられる匂
いだった。
「あ、あの、ヒルシャー」
「なんだ?」
「気持ち、よかったですか?」
トリエラの言葉に、ヒルシャーは驚いたような顔をした。それから微笑んで、
軽くキスをする。
「とても気持ちよかったよ」
一瞬間をおいて、トリエラは安堵のため息をついた。
「良かった」
ふふ、と笑うと、頭をヒルシャーの胸にこすりつけ、匂いを胸一杯に吸い込ん
だ。
二人は湯船から出て、身体を洗った。
ヒルシャーは大量に樹液を吐き出したらしく、トリエラの秘裂からは止めども
なく樹液がこぼれ、洗うのに往生した。
「まったくもう、どれぐらい出してなかったんですか?」
トリエラがからかうと、ヒルシャーはまじめな顔で指折り数え「一年ぶりぐら
いじゃないか?」と答えた。
「一年!? ドイツ男ってのは、そんなに淡泊なものなんですか? イタリア男な
んて一週間なにもなければ命に関わるって言われるのに」
「いや、それは嘘だろう。それを言い出したらジョゼやジャンなんかはとっくに
死んでる」
そう言ってから、ヒルシャーは苦笑いを浮かべ「いや、私も彼らの性生活に詳
しい訳ではないが」と言い足した。
風呂を出ると、バスローブをまとって髪を乾かす。長い髪を乾かすのは一仕事
だ。乾かしながら、なんとはなしに話しを続ける。
「一年も、その、何だった割には随分手慣れた感じでしたね」
「私が手慣れているかどうか、君は誰と比べているんだ」
今度はヒルシャーがからかう。
「いや、冗談だ。期待に添えなくて悪いが、正直それほど経験豊富な方ではない
と思うね。
この仕事も前の仕事も、忙しい上に秘密が多いだろう? プライベートで女性
とつきあう機会がなくってね。いや、つきあう機会はあったんだが、その関係を
維持することができなかったんだ」
「へえ……」
確かに、公社の仕事はまっとうな人間のする仕事ではない。まっとうな生活を
営みたければ、別の仕事を選択するべきだろう。
ヒルシャーには向かない仕事だと、トリエラは感じていた。
もっとも、将来設計など義体には縁のない話だ。そうしたことは、担当官に任
せておけばいいし、トリエラの心配することではない。
トリエラは、胸が冷えるのを感じた。
不意にヒルシャーが髪を撫でる。
「終わったか?」
「あ、はい」
びっくりしたトリエラがそう答えると、ヒルシャーの腕がトリエラを横抱きに
した。トリエラは反射的に、ヒルシャーの首筋にしがみついた。
「ちょ、ちょっと、ヒルシャー!」
「どうした?」
ヒルシャーは、からかうような笑みを浮かべていた。生真面目で融通の利かな
いヒルシャーには、珍しい表情だ。トリエラは恥ずかしさと決まり悪さに、ヒル
シャーの腕の中でじたばたと暴れた。
「お、おろして下さいっ。自分で歩けます!」
「まあそう遠慮するな。どうせ大した距離じゃない」
「ちょ、ちょっと、冗談じゃ……」
よいしょ、とトリエラを抱きなおすと、そのまま寝台に向かう。地に足のつい
ていない不安感から、トリエラはヒルシャーにしがみついた。
そのまま、寝台に横にさせられる。どさり、と放り出されるかと思ったが、そ
の手つきは意外に優しかった。
ヒルシャーの手が、トリエラの身体からバスローブを剥ぎ取った。部屋の空気
が、肌に吹きつける。
(うわっ……)
すみません。今回ここまでです。
続きは近いうちに……
>22
あんさんええ仕事しまんなぁ
神が降臨しているスレはここです
25 :
名無しさん@ピンキー:03/09/21 11:08 ID:Wg7xx1Bo
光臨あげ
あぼーん
良いね。次も期待。
あと上げるな。
つい先ほどまで裸同士で絡み合っていたというのに、こうして脱がされる、と
いうのは、ぞくぞくするような心地よさがあった。身体の火照りを強めるような、
ずっと味わっていたいと思える、柔らかな刺激だ。
(服、ちゃんと着ておけば良かったかも)
ヒルシャーの手で、コートを剥ぎ取られ、ネクタイをほどかれ、シャツのボタ
ンを一つずつ外されていくのは、ひどく心地よいことだろう。
一瞬物思いに耽ったトリエラの唇を、ヒルシャーがふさいだ。ヒルシャーの舌
で、熱い快感が身体の中に練り上げられる。
「ん……はっ、はふっ……」
ヒルシャーの唇が、トリエラの唇から離れ、首筋や胸元をなぞっていく。けれ
どそれは、唇や舌の触れ合う、鋭い感覚とは違った、輪郭のはっきりとしない、
ぼんやりと薄ぼけたもどかしい感覚でしかなかった。
「ヒルシャー、キス、お願い……」
「ああ……」
トリエラがねだると、ヒルシャーは再び口づけをした。舌同士を絡め合い、び
りびりする電流をトリエラの身体に走らせる。
トリエラの舌の根本をくすぐり、舌を包み、歯茎をなぞる。
その行為の一つ一つが、トリエラの身体を流れる血を、少しずつ熱くしていく。
息苦しさに唇を離したとき、唇同士を透明な糸がひき、切れた。
「キスが、好きなんだな」
トリエラは一瞬返事に迷い、目をそらした。
ヒルシャーはそれを羞恥と受け取ったのか、再び軽いキスをする。
キスが好きと言うよりも、肌に触れられるのが、それほど気持ちよくないのだ。
炭素繊維の肌は、ぼんやりと鈍い感覚しか伝えてくれない。
そう言おうかと思ったが、止めた。それを言えば、きっとヒルシャーは謝って、
少し落ち込むだろうから。
それに、キスが好きなのは本当だ。
ヒルシャーの指先が、トリエラの花弁に触れた。トリエラの身体がぴくんと震
える。指がトリエラの中に入ってくる。
くちゃ。
蜜の小さな音が、はっきりと聞こえた。
かああっ、と頬が熱くなる。ごくり、とトリエラはのどを鳴らした。
いつの間に、こんなに音がするほど濡れていたのだろう。バスローブを脱がさ
れ、キスをされいる間に、トリエラの雌芯は熱く火照り、指に押し出された蜜が
こぼれ、シーツに染みを作るほどになっていた。
くちゃくちゃ。
ヒルシャーの指が、無遠慮にトリエラをかき回した。指にまとわりついた蜜が、
粘りこく耳に流れ込み、羞恥心を煽りたてる。
「大丈夫そうだな」
蜜が秘裂から溢れ、シーツへと流れていく。
ちりちりとしたむず痒い感覚が恥辱感と一緒になってトリエラの身体を熱くし
た。
はふう……
熱い息を吐き、脚が開いた。
(うわあ……)
脚を開いたことに、トリエラは驚いた。そうしよう、と意識したのではなく、
まるで条件付けをされているかのように、勝手に脚が開いたのだ。
まさか「条件付け」担当医がそんなことまで条件付けしたということもないだ
ろうけれど、本当に条件付けでもされているように、身体がヒルシャーを求めた
のだ。
その事実に、トリエラは赤面した。
開いた裂け目から、紅色の花弁が花開いているのが、ヒルシャーの視線に晒さ
れる。
ヒルシャーの身体が、トリエラに覆い被さった。ヒルシャーの匂いに包まれて、
トリエラはぞわぞわと震えた。
「いくぞ」
返事はせずに、心持ち腰を上げ、指先で秘裂を割り開いた。
今度は意識的な行動だ。露骨な仕草を、自ら希んで行っているという事に、ト
リエラは羞恥と一体になった快感を感じていた。
唇に、ヒルシャーの唇が優しく触れる。
トリエラの身体にヒルシャーのそれが押し当てられた。一瞬からだが強ばるが、
さわさわと頬を撫でられると、すうっと力が抜けていく。
途端に、ずるり、とヒルシャーの身体が入り込んできた。トリエラの身体が押
し開かれ、中に熱い固まりが入り込んでくる。
じゅぐっ……
ねっとりとした蜜が、淫らな音を立てる。
「くっ……」
圧迫感に息苦しさを感じ、トリエラは息を止め、うめいた。圧迫感と異物感は
どんどんと大きくなり、ヒルシャーを完全に呑み込んで、静まる。と言っても、
大きくなるのを止めただけで、圧迫感が消えたわけではない。
はーっ、とトリエラは大きく息をした。何か、自分の意志ではどうにもならな
い物に、自分の身体を侵略されている、そんな異物感がある。けれどそれは、苦
痛ではなかった。身体を押し広げ、居座っているそれがもたらす感覚は熱く、ト
リエラの芯を炙っている。
「ぁ……」
はーっ、とトリエラはもう一度大きく息をした。今度は酸素を補給する息では
なく、満足感を示す、熱い息だ。
どくどくと、割り開かれた秘裂と、トリエラの数少ない生身の臓器である子宮
に熱い血液が集まっていく感覚がする。錯覚かもしれないが、子宮の位置と形を、
指でなぞれそうな気さえした。
「動くぞ」
「ん」
そう返事をして、唇を差し出した。温かな唇が触れ、すぐに離れる。キスをし
たままでは、動きづらいと言うことなのだろう。
わかっていても少し寂しい。
ゆっくりとヒルシャーの身体が動き始めた。
ぬちゃ、ぬちゃ、とゆっくりとした動きにふさわしく、粘りの多い、糸を引き
そうな音が寝台の上を流れた。
「ん、ん……」
トリエラの身体から圧迫感が減っていき、そして再び満たされて行く。ヒルシ
ャーが動くたび、ふいごで空気を注がれたように、トリエラの身体の炎が大きく
なっていく。
ぬちゃっ、ずちゃっ
「はぅっ! んっ!!」
ヒルシャーの動きは、大きく、激しくなったかと思うと、再びゆっくりとした
物に変わり、また大きくなる。トリエラの身体はその繰り返しに、芯の方からど
んどんと熱くなっていった。
「あっ……んっ!」
時折角度を変えるヒルシャーの身体が、トリエラの身体を内側からえぐってい
く。
「んっ!」
強烈な刺激に、息が止まった。頭が茹だったようにくらくらとする。背中は汗
だくになり、敷き布を湿らせていた。こぼれ溢れた蜜は、お漏らしでもしたよう
に染みを作っている。
ぬちゃ……ぬちゃ……
再び、ヒルシャーの身体が動きをゆるめた。ヒルシャーの指が胸をまさぐる。
うすべったい胸がもみほぐされ、こねくり回される。けれどそれは、炭素繊維越
しの、もどかしい感覚でしか伝わってこない。
「んぁっ!?」
びくん、と痛烈な感覚がトリエラの身体を貫いた。ヒルシャーの指先が、胸の
突起を摘み上げたのだ。
「そ、そこっ」
思わず、ねだる言葉が口をついて出る。そのことに恥じらいを感じるまもなく、
きゅっきゅっ、と胸の頂が揉み潰された。薄桃色の、血の色の透けて見えるほど
の薄い繊維が、他の肌とは比べ物にならないほどにはっきりとその感覚を伝えて
くる。
けれど、飢えたトリエラの身体には、その感覚は少し物足りなく感じられた。
「強くっ……痛くてもいいからっ……!」
かすれた声で、ねだる。一瞬ヒルシャーの指がためらい、それからぎゅうっと
トリエラの胸先をねじり上げた。
ずきん、という苦痛が、鋭く身体を貫いた。すっかりと熱くとろけたトリエラ
の身体は、それを清冽な快感として受け入れる。
「んぁっ!!」
肌を撫でられるのとはまったく違う、明確な感覚。
粘膜同士のこすれあう、熱いねっとりとした快楽とも違う、鋭く、突き刺さる
ような感覚に、トリエラは悲鳴を上げ、身体をのけぞらせた。
身体が、びくびくと震える。身体から力が抜けた。軽く達っしたのだ。
ヒルシャーは頓着せずに動き、くりくりとトリエラの胸を転がし回す。トリエ
ラは、休む間もなく身体が高まっていいった。それに軽く達っしたと言っても、
焼けるような芯の熱さは、まだ不満げに身体の中に居座っている。
「や、やだ……」
ふるふると首を横に振る。いつまでも達っすることのできない身体が、焦れは
じめていた。
もっと強い刺激を求めて、小さく、けれどはっきりと腰が動き始める。腰が跳
ね、沈み、ヒルシャーの動きにあわせてより強く、深い結びつきを求め出す。
じゅぐっ、じゅぐっ……
ミツオとがひときわ大きくなって、部屋に響いた。ヒルシャーが眉をひそめる。
「トリエラ……」
「……うん」
こくり、とうなずいて唇を差し出す。ヒルシャーが強く唇押しつけ、互いに貪
るように舌を吸いあう。
「んっ! んむっ……!」
くぐもった声と、じゅぷっ、じゅぷっ、という粘音。トリエラはヒルシャーに
しがみつきながら、ずんっ、ずんっ、と激しく突き上げられる衝撃を、身体全体
で受け止めていた。
どんっ、どんっ、と打ちつけられるたびに、炎が一回り、一回り熱く、大きく
なっていく。骨髄が燃え、頭が痺れる。
「んむぅっ! ぐっ!!」
ぼんやりと霞がかった頭を、ばちばちと火花が弾ける。トリエラは腕に力を込
め、ぎゅうっとヒルシャーに抱きついた。
ばちんっ、と頭の中で、閃光が走った。
身体が、がくがくと震え、ぐたん、と寝床に沈み込む。
身体は寝床に支えられているのに、どこまでも沈んでいきそうな、そんな脱力
感が身体を包んでいた。
身体が、視界が、どこか膜を隔てたようにぼんやりとかすんだ。ぴしゃ、と身
体の奥底に何か温かな物がまき散らされた。
(ヒルシャー、いったんだ)
ぼんやりとした頭でそんなことを想い、トリエラはなぜだか安心した。
うとうとと、少しの間まどろんでいた。ヒルシャーが優しく、髪や背中を撫で、
キスをし、抱きしめてくれるのが、微睡みの中で感じ取れる。
抱きしめられたときの、じんわりとしみるような暖かさは、ひどく心地よかっ
た。
それから二人はもう一度シャワーを浴び、コーヒーを飲んだ。時計は三時を回
っていた。午後のお茶とは一二時間ほどずれている。
「砂糖は、どれぐらい?」
「ブラックで」
一度そう言ってから「ううん。ミルクなし、砂糖二杯」と言い直す。寝台に肩
を並べて腰掛け、熱いコーヒーを飲んだ。
シャワーを浴びて、交わって、交わって、シャワーを浴びて。ぐったりと疲れ
た身体に、熱いコーヒーが染み渡る。
「甘い……」
トリエラはそう呟いて、顔をしかめた。
「なんだ、砂糖二杯と言ったのは、君だろう」
「いいんですよ。甘いことを、確かめたかったんです。なんとなく」
「そうなのか?」
(あ、まずいな)
頭の片隅で、トリエラが呟いた。けれど、ヒルシャーのキスと指とが、トリエ
ラの、我慢強く、弱音を吐かない部分を剥ぎ取っていた。後に残っているのは、
隠されていた恐れと、弱音だ。
「ヘンリエッタが、砂糖がばがば入れるんですよ。ちっちゃなティーカップに、
四杯も五杯も。甘さ、最近あんまり感じないんですって」
トリエラの制止にも関わらず、唇が言葉を紡ぎ出す。どんどんと会話が、行き
たくない方に向かっているのはわかったが、甘えん坊なトリエラは、震えている
弱音を吐きだし続けた。
「最近、忘れっぽいし……多分私もですね。知らないうちに忘れて忘れて、忘れ
たことも忘れているんです。アンジェリカなんか、もうひどいんですよ」
「薬物投与量は、君は比較的少ない。まだ、大丈夫さ」
「ヘンリエッタも、私と同じぐらい少ないはずですよ」
トリエラの指摘に、ヒルシャーは口をつぐんだ。
「怖いのは、忘れちゃう事です。
あった事柄は覚えているんです。そこから『私なら、嬉しかったはずだ』とか
『痛かったはずだ』とか、想像はできますけど、嬉しかったこととか、悲しかっ
たこととか、そう言うことが、すぽっと落ちちゃうんです。なんていうかなあ、
赤の他人のドキュメンタリーに目を通している感じで」
視界が潤む。コーヒーの中に、小さな波紋ができた。
「だから……」
「……だから?」
「今ならまだ、覚えていられそうな気がするんです。こうしていて、嬉しかった
こととか、気持ちよかったことを。
『そう言うことがあった』っていう事じゃなくて、なんて言えばいいんだろう…
…安心していたっていう、その感情を。匂いとか、空気とか、一緒くたにして、
『そう言うことがあった』っていう以外のことを、覚えていたいんです」
だから、いい機会ではあった。トリエラは、少し塩気のあるコーヒーを飲み干
した。こうしたことでもなければ、ヒルシャーがトリエラを抱くようなことはな
かっただろう。
(おいおい、大丈夫? 柄じゃないぞ)
心の中で、トリエラが呟く。言葉がどんどんと支離滅裂なものになっていく。
「……別に、嫌でも痛くっても、苦しくっても、何だってかまわなかったんです
けど、でも良かった。安心できて」
不意に、ヒルシャーがトリエラを抱きしめた。温かな肌が、身体を包む。その
暖かさが、トリエラの中の、何かを崩した。
「あ、うああっ……」
自分でも理由のよくわからない、これまでずっとため込んでいた何かが、喉か
ら溢れた。熱い液体が頬を濡らす。
トリエラは泣いた。泣きくたびれて、眠りにつくまで、泣き続けた。
「でさ、結局どうして中止になったの?」
「腹上死だってさ! 笑っちゃうわよね。さんざん引っかき回した挙げ句、腹上
死よ!?」
旅行鞄に着替えを詰め込みながら、トリエラはクラエスに答えた。
潜入先予定の大物政治家が死亡した、とヒルシャーが報せたときの気まずさと
言ったらなかった。
なにしろ柄にもなく甘えて、弱音を吐いて、おまけに泣き出してしまった翌日
にその報せだ。お互い、どういう顔をしていいのかわからず、ひどく事務的に、
ああそうですか、という事しかできなかった。
「で、旅行?」
「そういうこと。いつもの事務的なご機嫌伺いよ」
何の気まぐれか、ヒルシャーが強引に休暇をもぎ取ってきたのだ。それも、一
週間。
トリエラは旅行の準備を整えながら、「本当、まいるわ」と大仰にぼやいてみ
せる。
(嫌な弱み、作っちゃったなあ)
窓からの風に髪を揺られながら、トリエラは我知らず鼻歌を歌っていた。
おわり