おんなのこでも感じるえっちな小説5

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630一徳編:前 6/24 :04/05/19 19:30 ID:nF9NFPWk
 呆れ満開の孝一のツッコミは、とりあえず無視した。
 はぁあ、と孝一は溜息をつく。あーあ、ベタ惚れ状態だったからなぁ。でも大
輔の如く捨てられないだけまだいいとは思うんだけど…
「…吉野、大丈夫かねぇ」
 頬を擦りながらぽそ、と呟いた言葉は、予想外のものだった。
「吉野って…」
 あれ?たしかそれは大輔の…俺が不思議そうな顔で見ると、孝一は続ける。
「うん、大輔の彼女。でもって俺のダチね。ああ見えて傷付きやすいし、男って
いう生き物に警戒持ってるし、今回の事でまたすっげぇ落ち込んでると思うんだ
よ…」
 はぁああああぁぁあ、とイチゴのクッション抱き締めて、落ち込む孝一。元気
付けようかと、ちょっとからかってみる。
「なに、そんなにその子気になるの?だったら付き合っちゃべぼ」
 …予想外の速さで、いちごのクッションが飛んで来る。続けてぶどう、パイン、
ドリアン、スイカ、ボーリングの球のクッションが飛んで来る。あ、もしかして
俺は地雷踏んだのか?また、タイミング悪かったのか?ちら、と孝一を見てみる
と…うわ、すっげぇ怒ってる。
「ちょっ、ごめん、ごめんってば…言い過ぎた。悪ごべっ!」
 とどめとばかりにバ○ちゃんのぬいぐるみが顔にヒットする。様々なフルーツ
(なんでフルーツの大統領まであるんだろう…)と球2種(含○ボちゃん)に埋も
れて、俺は自分の要領の悪さに、泣きそうになっていた。が、がっくり肩を落とし
ながら俺に近寄って来る孝一も…泣きそうだった。
 でもって、俺の隣で三角に座る。
「…俺が、悪いんだ…俺が全部」
「え?」
 ふっかい深い溜息。
631一徳編:前 7/24 :04/05/19 19:32 ID:nF9NFPWk
「…俺は、いつだってあいつを傷付ける事しか出来ない…今回だって、俺が大輔
を誘ったからこんな事になって、俺は、吉野が…」
 …もしかして、本当に好き、だったのかな?
 本当の事は知らないけど、そんな事を思ってしまう。好きなのに、大輔の為に
諦めたのかな?そんな事を、考えてしまう。
 好きな人が他の人の所へ行っても、尚思い続ける事のみっともなさを間近で見
ているからこそ―――
「っ…?」
 孝一の頭を、もう一度撫でる。俺は、何も言えない。言う言葉がわからない。
言おう、と思っても、間違ってる事が多い。だから。
「…なんだよぉ…」
 目線を合わさずに、ただ頭を撫でた。恥ずかしそうに文句を垂れる孝一。けど、
振り払いはしない。成人している男の兄弟が、フルーティーちゃんなクッション
等に囲まれて三角座りでいい子いい子している図は、きっとキッショイもんだろ
う。けど、こうしていたかった。俺が今、こいつにしてやれるのってこれくらい
だし。



「大輔、どう?」
 暫くしてから、また倫子さん家に行った。時刻は夕方近い。
「あら、彰ちゃん。ちょうど良かった」
 にこー、と穏やかに笑っている倫子さん。という事は…
「大ちゃん、寝ちゃったみたい。誰にも会いたくないって言ってたし、会いに行
ったら余計に拗ねちゃうし、良かったらデートしない?」
 …マイペース過ぎです、倫子さん。でもその意見、大賛成です。
632一徳編:前 8/24 :04/05/19 19:32 ID:nF9NFPWk



「でも、私とあの人の子供なのに、お酒弱かったのねぇ」
 なんだかそれが凄くおかしくて、私は笑ってしまう。私もあの人も、お酒は強
かった。確かに、酔っ払いはするけど意識を無くすなんて事は無かった。
「まぁ…多分大輔はもうお酒飲まないと思うよ…」
 彰ちゃんは苦い顔をしながら、串焼きを頬張る。
「それか、溺れちゃうかもね」
「…倫子さぁん…」
 へなへなとしたツッコミをくれた。
 彰ちゃんは、いちいちリアクションが可愛い。不器用な所も、ちょっぴり考え
無しな所も、昔から変わっていない。私への、只管なまでの想いも…。
 もうすぐ40近いオバサンなのに、こんなに愛してくれるなんて…私は三国一
の幸せ者だって、本当にそう思う。
「…でも、彰ちゃん」
「なぁに」
「本当に、私でいいの?」
 本当は、今日籍を入れる筈だった。けれど、出来なかった。大ちゃんもわかっ
てると思うから、別に大ちゃんに断らなくても良かったと思うんだけど、彰ちゃん生真面目だから。
 私が、ここ10年で何度もした質問を、最期にもう一度だけ言ってみる。
 案の定、彰ちゃんはちょっと険しい顔になる。そして。
「…私でいいの、でなくて…俺は、私じゃなきゃ駄目なんだよ…倫子さん」
 溜息。
 自分でも、ちょっと酷いと思っている。でも、思わずにはいられない。
633一徳編:前 9/24 :04/05/19 19:33 ID:nF9NFPWk

 いつもならすぐに終わるのに、今日だけは気まずいままの雰囲気になってしま
った。黙々と食事をして、会計を済ませる。彰ちゃんは先に外へ出ると、歩き出
した。
 方角は―――
「彰ちゃん?」
「…あのさ、倫子さん」
 私の手を握って、歩き出す。
「どうしたの?…怒っちゃった?」
 握る力が、いつもより強くて、少しだけ怖くなる。歩く速度も、速い。何も答
えてくれない。
「彰ちゃ…」
 急に、止まる。どこだろうと思って周りを見ると、近くの公園だった。あれ?
ここって…
「…ん」
 いきなり、キスされる。背中と腰に手を回されて、強く抱き締められる。さっ
き思った『あれ?』がもっと強くなる。
 なんだろう、と思って彰ちゃんを見る。少し困ったような顔で、私を見ている。
あの時と、変わらない…ううん、あの時よりも、ずっと男の人の顔で。

「覚えてるかなぁ、俺が、初めて倫子さんにこうした時」
 …やっぱり。
 あれ?の正体を、やっと思い出した。
 あの時と同じようなシチュエーション、場所、行動。どうして思い出せなかっ
たんだろう。私が、彰ちゃんの事を男の人として見るようになった時の事…

634一徳編:前 10/24 :04/05/19 19:34 ID:nF9NFPWk

 あの人と別れて、生まれ育ったこの町に帰って来た時、小さい頃から私を好き
だと言っていた小さな男の子は、今でも私を好きだと言い張るおっきな男の子に
なっていた。
 正直、色々あって疲れていた私には、ちょっと疎ましい存在だった。
 私と、あの人のせいで殆ど喋らなくなってしまった大ちゃんの事や、色々な問
題が山積みになっていて、本当に余裕が無かった。
 ある日、大ちゃんが学校で問題を起こしてしまって、その時、私は連絡が付か
なくて、代わりに彰ちゃんが駆け付けて行ってくれた。確か、一学年上の男の子
のランドセルに、これでもかという量のゴキブリを…うう、考えたくない。
 …それで、帰って来た時、大ちゃんは傍目にはわからなかったと思うけど…彰
ちゃんの事を信頼してた。物凄く、好きになっていた。
 ホントに、その時はおかしくなってたと思う。私は馬鹿な人間だから、小学生
の息子と、大学生の男の子の眼の前で、泣いちゃった。悲しくて、情けなくて、
悔しくて。
 彰ちゃんは、いつもと違って冷静に私を見据えて、大ちゃんに何か言って、私
の手を掴んで、小さい頃一緒に遊んだこの公園に連れて来て、それで―――

「…俺は、あの時から…ううん、それより昔から、ずっと倫子さんを愛してる。
うんにゃ、ずっと、毎日毎日もっともっと好きになってるから」
 これも、端々は違うけど、あの時言ってくれた言葉。
「彰ちゃ…」
 もう一度、抱き締められる。
「不安なんだったら、何度でも言う。俺は倫子さんを愛してる。誰よりも、それ
こそ宇宙で一番倫子さんの事、LOVELOVEあいしてるから」
 …スケールの大きい愛情だぁ。
635一徳編:前 11/24 :04/05/19 19:35 ID:nF9NFPWk
「…でも、私、もうオバサンだよ」
「知ってる。最近腰痛に悩まされてるよね…でも、愛してるよ。あの時言ったよ
ね。『私がオバさんになっても云々』って。愛してるよ。海でもどこでも連れてく。
オバサンだろうが、おばーちゃんだろうが、俺は倫子さんが好きだから」
 そう言って、今までよりもずっと強く、抱き締めてくれた。
「…うん、ごめんね。私も、愛してるよ。彰ちゃんの事、誰よりも」
 私から、キスをする。彰ちゃんは嬉しそうに笑った。

「ねぇ、彰ちゃん…今日、帰りたくないな」
 ベンチに座って、ちょっと誘ってみる。
「あらら、倫子さんったら大胆ねぇ。でも、大輔…」
「うふ、変に火を点けちゃったの、彰ちゃんじゃない。それに、ここまで来たら、
初めて行ったホテル、行きたいなぁ。こういうの、やるなら徹底的に…って、言
うじゃなぁい?」
 つー、と彰ちゃんの胸の辺りを、指でなぞった。鼻の下を伸ばしながら、彰ち
ゃんは笑う。
「そうしたいのは山々だけどあのホテル、3年前に潰れてますから…残念!」
 と、テンポ良く返してくれる。
「じゃ、帰る?」
 わざと、意地悪く言う。蒼褪める彰ちゃん。
「やっ…やだやだやだぁっ!!行く!!どこでも行くから!!」
 必死に縋り付く彰ちゃん。可愛い。年下の、男の子。
「じゃあ、どこへでも連れてって、王子様」
「イエッサー!!」


636一徳編:前 12/24 :04/05/19 19:35 ID:nF9NFPWk

 結婚したら、多分滅多にこんな所にはこないだろうな、と思って、あえてすっ
ごい安っぽいラブホテルに入った。あらあら、最近のラブホテルって…凝ってる
のねぇ、とオバサン発言。
「倫子さん、本当にこんな所で良かったの?」
 シャワーを浴び終えてから何を言うんだろうかこの子は、と笑ってしまう。
「こんな所だからいいのよ…ふふっ、おいで、彰ちゃん」
 お母さんの如く、手を広げる。最近は…というよりも、小学校出た辺りから、
大ちゃんはこうやっても来てくれなくなった。彰ちゃんは、いつでも来てくれる
んだけど。
「と〜もこさぁ〜ん!!」
 そのイントネーションに笑ってしまう。私は裸でシーツに包まっていたから、
彰ちゃんの行動はギャグとして(本当の意味で)成立してる訳だけど。
 …まぁ、流石に空中で服を脱ぎながら私の元へダイブして来られても、ちょっ
と困るけどね。という事は、大ちゃんはル○ン小僧になるのかしら?
「…倫子さん」
 シーツを剥ぎ取って、裸で抱き合う。いつか、私がする事自体よりも、こうし
ている方が好き、と言ってから…こうしてくれる時間が多くなった。
 いつだって、彰ちゃんは自分より人の事を考えていてくれる。そして、その事
が自分の幸せだって感じる事が出来る人。ただ、タイミングが悪いんだけれども。
「彰ちゃん」
 私も、ぎゅっとする。最近ちょっと下っ腹にお肉が付いたんだけど…
「彰…んっ」
 あんまり無い、私の胸に顔を埋める。こういう所、昔から変わっていない。
 私の事、本当に好きなんだろうなぁ…こんな事を本気で思ってしまえる程、こ
の人はストレートにも程があるのよねぇ。
637一徳編:前 13/24 :04/05/19 19:36 ID:nF9NFPWk

『だから、これは…あの、好き過ぎて…』

「っぶ…!!」
「え!?」
 いきなり吹きだしてしまった私に、思い切り驚く彰ちゃん。顔を上げて、私を
キョトンした顔で見据える。
「あ、ごっ…ごめんなさい、あの、初めて彰ちゃんとした時の事…思い出しちゃ
って」
 そう言ってしまって、後悔しちゃった。彰ちゃんの顔が真っ赤になっていく。
「しっ、仕方ないじゃんか、俺、どっ、童貞だったし、あんまり倫子さんが綺麗
だったから…」
 しどろもどろになってしまう彰ちゃん。あらあら、可愛い。

 …私が彰ちゃんを意識し始めて、色々会って、今はもう潰れたラブホテルで、
初めて身体を重ねた時の話。
 彰ちゃん、緊張しすぎて勃たなかったのよね。本気で泣いてわよね…彰ちゃん。

「うううっ…なんで今そういう事言うのぉ…」
 あ、今も本気で泣きそうになっちゃってる。そんなつもり無かったのに、虐め
ちゃった。私も流石に酷かったと思い、慌ててどうすればいいか考える。そうい
えば、あの時は―――

「…あ」
 私は起き上がって、素早く軽いキスをすると、にこー、と笑って萎えかけてい
た彰ちゃんの息子さんに手を添えた。
638一徳編:前 14/24 :04/05/19 19:37 ID:nF9NFPWk
「ちょっ、倫子さ…」
「だから、徹底的に」
 そう言うと、私は彰ちゃんのを思い切り良く咥えた。
「…とっ、倫子さん…」
 彰ちゃんの手が、私の頭に。彰ちゃんたら、何度もしてるのにこの時はいつも
初々しくて、オバサン萌えちゃう。口の中でどんどんおっきくなって行く彰ちゃ
んの息子さん。唾液でヌルヌルして来たそれが、本当に可愛く思えて、一旦口か
ら出して、先端にキスをする。ちゅっ、と音がした。ちろ、と上を向くと、真っ
赤になった彰ちゃんと眼が合う。
「彰ちゃん、可愛い」
 30歳だというのに、この時の、どうにもこうにもな状態の彰ちゃんは、贔屓
目もあるだろうけれど、本当に可愛い。女の子みたい。山口○恵ちゃんとかより、
ずっとずっと可愛い。私は昔のアイドルのマイクの持ち方みたいに彰ちゃんのを
握る。もっと舐めようとした時、不意に彰ちゃんは私の顔を上げさせた。
「…?」
 舌を出したままの私の顔を真っ赤な顔で凝視する。何も言わないから、私は続
行する事にした。けど。
「あ、あの…嬉しいんだけど、俺も…ほら、今日、入籍残念記念日って事だしあ
の、俺も…」
 照れながら、彰ちゃんは言う。可愛い、記念日、後何個増えるのかしら。自分
だけじゃなくて、私も気持ち良くしたい、って、可愛い事考えるわねぇ。
「ふふっ、記念日にしかしてくれないの?」
 ちょっとだけ意地悪く言ってみる。けど。
「うっ、ううん!?いや、あの、倫子さんさえ良ければ、俺は毎晩でも…!!」
 …激しいのねぇ。正直、本当に彰ちゃんには…勝てないのよね。勝ち負けとか
そういうの以前に。肩肘張る事も、全然必要無くなる。
639一徳編:前 15/24 :04/05/19 19:37 ID:nF9NFPWk
「…倫子、さん?」
 あらやだ、年取ったから涙腺弱くなっちゃったのかしら。幸せすぎて涙が出て
来ちゃった。こんなに優しい子が、私なんかの事宇宙一大事に思ってくれてるな
んて…考えちゃうと、ねぇ。
「あ、そうだよね。腰、今痛いんだもんね。毎晩じゃ…」
「違うのよねぇ…」
 私はちょっぴり呆れながら、彰ちゃんにぺちん、と突っ込んだ。

「んしょ…」
 とはいうものの、恥ずかしいのよね、この格好って。彰ちゃんの顔を跨いで、
自分のを見せ付けるなんて…誰が考えたのかしら。日本語であったわよね…確か、
逆椋鳥だったかしら?
「っ…」
 彰ちゃんが、いきなりお尻を掴んで来た。びっくりしたぁ。
「もう、彰ちゃん…っん…」
 つーっ、と入口を舌でなぞられる。思わず、声が出てしまう。私も負けじと彰
ちゃんのを同じように舐める。けど。
「あっ…ん、や、彰、ちゃ…」
 最近していなかったせいか、変に感じてしまう。指と口でいっぺんにされると、
何も考えられなくなってしまう。
「んっ…あっ、あっ…」
 彰ちゃんにもしてあげたいのに、手も口もお留守になっていた。
「っ…!」
 彰ちゃんの舌が、中に入って来た。わざと音を立てながら、中を舐め回す。気
持ち良くて、鳥肌が立って来る。自然に流れて来た涎が、一層元気なってる彰ち
ゃんのに掛かる。そのまま私も追うように先の方を口に含んだ。
640一徳編:前 16/24 :04/05/19 19:38 ID:nF9NFPWk
 意地悪するように、やっぱり音を立てて、この格好みたいに、ちょっとお下品
に。
 …恥ずかしい。
 一瞬、我に帰ってしまう。自分が、どうしようもないくらいに乱れて、あそこ
を濡らして、きっと彰ちゃんのお顔やシーツもびしょびしょになってると思う。
 考えただけで、自分がいやらしくて、恥ずかしくて…また、感じてしまう。
「…彰、ちゃ…」
 彰ちゃんの顔に、押し付けるような格好になる。彰ちゃんはそれに応えてくれ
て、もっと激しく攻めて来た。私は、もう、億劫で彰ちゃんのはほったらかし。
それでも、彰ちゃんは私によくしてくれる。
 …私がしないと、この格好意味無いのに。

「…あっ」
 心のツッコミを読んでくれたのか、自分もそう思ったのだろうか、彰ちゃんは
起き上がって、私を抱き寄せる。こういう時、本当に男の人だなぁって思う。昔
は凄くちっちゃかったのに。
 もう、好きだと初めて言われてから何十年経つんだろう。
「彰ちゃん…あの、私、もう…」
 既にくたっ、となっている。大分火が燻ってる状態だから、ホントは、凄く欲
しいんだけど…
「うん」
 わかってるよ、と言うように私をもうひと抱きしてから、横たえてくれた。
「…もう、ひとりくらい欲しいなぁ…」
 ぼぉっとした頭で、そんな事を言ってしまう。
「なに?俺との?」
641一徳編:前 17/24 :04/05/19 19:39 ID:nF9NFPWk
 …彰ちゃん以外で、誰がいるのかしら。私はこく、と頷く。彰ちゃんは私の上
に覆い被さって、ちゅ、と可愛いキスをくれた。
「高齢出産になっちゃうし、仕事も大変でしょ。4年か5年も経てば、大輔が作
るんじゃないの?」
「そしたら、私おばあちゃん?」
 ちょっと苦笑してしまう。けれど、無い話じゃない。
 あんまり会った事無いけれど、大ちゃんの彼女の、さくらちゃん。あの子、本
当にもう大ちゃんと付き合う気は無いのかしら?そりゃ、悪いのは大ちゃんだけ
ど…でも、あの子…可愛いしお料理上手だし、お菓子作るの上手だし…正直。
「あんな女の子も、欲しかったなぁ」
 娘、というのも憧れていた。
「あんな…うん。あの子…大輔の好きな子でしょ?あの子おっぱいおっきかっ」
 …ん?
 私は、彰ちゃんをじっと見る。彰ちゃんも、途中でヤバイと悟ったのか、言葉
を止めた。
「どうせ、私は胸が無いですよっ」
 ちょっと、拗ねた。この歳になったら、サイズ云々よりも垂れる垂れないの話
の方が重要だしね。でも、彰ちゃんは慌てに慌てる。
「あ、いや、違う、俺が好きなのは倫子さんで、あの子は確かにおっきいけど、でも、俺の理想のおっぱいは…」
「…彰ちゃん、可愛い過ぎ」
 あまりの慌てっぷりに、私は笑ってしまった。そして、私からキス。
「怒ってないわ。それよりも…彰ちゃんの、ちょうだい」
 …即物的にも程があったけど、どうせオバサンだもん。オバタリアンだもん。
恥じらいなんか、何年も前に便所に捨ててくれたわ。
642一徳編:前 18/24 :04/05/19 19:40 ID:nF9NFPWk

「ふぁ…」
 待ち望んでいたものが、身体の中に入って来る。
 彰ちゃんが、私の中に。恥ずかしいくらいに潤っていた私は、難無く彰ちゃん
を受け入れる。もう離したくないみたいに勝手に身体が締め付ける。
 …私が、ホントに彰ちゃんを離したくないのを裏付けるみたいに。
「俺、おっきいのより、倫子さんくらいのが好きだから」
「んっ…ん、やっ、しょ…」
 胸を寄せて、掴む。掠ったくらいで感じるくらいに固くなった乳首を吸われる。
もう片方は、指で摘まれる。
「あっ、いいのっ…ん、彰ちゃぁん…」
 切なくなる。もっと、もっと欲しくなる。誰が言ったかは忘れちゃったけど、
女は30を越えた辺りの方がいやらしいっていうのを聞いた事…あるけど。なん
となくそうだと思う。
 掛かる熱い吐息も、淫靡な音も、安いベッドの音も。
 昔は感じていても、周りのものを感じる余裕が無かった。けれど、今は。
「あ…んっ、ん、来て、もっと…」
 くっ、と彰ちゃんを自分にもっとくっつくように抱き付く。
 自分の仕草さえも、自分が興奮する演出にする事に出来る。愛する人と、身体
を重ねる。それは本当に、奥が深いと思う。
 若い頃は、よくわかってなかったと思う。でも、後悔はしてない。よくわかっ
てなかったからこそ、今、大ちゃんと親子でいるんだから。
 ズン、と奥深くに快感が走る。
 声が、一層大きくなる。
「…彰…ちゃ…」
 いっちゃう。身体が、限界だと知らせている。また理由も無く涙が零れる。
 好き。大好き。愛してる。
 私は子供みたいに彰ちゃんにしがみ付きながら、達した。

 ―――上手になったなぁ、と失礼な事を考えながら。
643一徳編:前 19/24 :04/05/19 19:41 ID:nF9NFPWk



「やっぱ、帰ろうよ」
 時計を見て、俺は言った。
「…どうしたの?」
 倫子さんは、とろー、とした眼でこっちを見てる。そんなはしたない格好でい
ないでよう、俺、もう2Rくらい行けるよ?
「大輔。やっぱり気になるし…それに、大輔って来るなっていうと来る癖あるじ
ゃない。そういう子って自分がそういう時、来て欲しいもんだと思うし…」
 行ったら行ったで怒られると思うけど…でも、行ってあげたかった。
 疎まれるのわかってるし、今までもそうだったけど、でも、今独りには、なん
か…したくなかった。
 俺がしどろもどろに説明すると、倫子さんはすぐに了承してくれた。流石だと
は思う。ビバ37歳。そう言うと、枕が飛んで来た。
 …ビバ、(まだ)36歳。

 しかしまぁ。
 正式に結婚を申し込んでから、結構経つ。色々あって、大輔が二十歳になった
らって言ったけど、本当は…
「どうしたの?」
 にこー、といつもの笑顔の倫子さん。笑顔が癖になるって、いい事でもあり、
悪い事でもあるんだよ。

644一徳編:前 20/24 :04/05/19 19:50 ID:nF9NFPWk
 …本当は、俺に諦めてもらいたかったんだよね?
 
 倫子さんから見て、未来のある若者が、初恋を引き摺って、不幸な環境にある
女の人を、一時の感情で背負い込ませるなんて…そう、思ってたんだよね?
 時間を置いて、冷静になれば、それは愛情じゃない、単なる同情だとわからせる為に…そう言ったんだよね?
 残念でしたぁ。違いますーぅ。
 俺は、そんなんじゃないから。ただ、倫子さんを宇宙一愛してるだけだから。
 わかってるんでしょ?本当は。倫子さんだって、俺を好きなんでしょ?だから
一生懸命体型維持してみたり、いつも綺麗にしてたり、してるんでしょ?
 好きだから、俺がいつか興味を無くすと思って、不安になるんでしょ?そげな
事、絶対に無いから。その事は、ホントにわかってほしいんだけど…

「なんでもないよ、愛してるよ、倫子さん」

 ただ、それは言ってはいけないような気がしていた。



「…あれ?」
 家路を急ぐ最中、ふと見た事のある人影を発見する。倫子さんも同様だ。
 こんな遅い時間に、1人でボーっと歩いているのは…
「…倫子さん、大輔の所行ってあげて。俺は、あの子…場合によっては送るし」
「うん、そうねぇ」
 即座に役割分担を決める。心配そうな顔をする倫子さんと別れて、俺はその子
の―――大輔の(元)彼女の、さくらちゃんの所へ走った。
645一徳編:前 21/24 :04/05/19 19:51 ID:nF9NFPWk

「…あの、君…大輔の」
「…何か用ですか」
 うわぁ。
 物凄く暗い顔しているよ。どうしたんだろ、大輔、孝一に続くこのテンションの低さ。会話、続かないし!!
「あ、あー、あの、俺、覚えてる?前…」
「お風呂に堂々と来たトク兄さんって人ですよね」
 …話し掛けない方が、良かったかもしれない。
「あ、の、あ、ほら、こんな遅くに女の子1人だから、心配で…」
「…別に、いつもこんなんですから心配はいりません」
 目線も合わせてくれない…この子とまともに喋った事無いから、どうすれば…
ただでさえ、よく考えなくても悪印象しかないのに…自分の中の大輔データ内か
ら、この子となんとか話の出来そうな話題を探す。えっと、えっと、えっと…

「あ、あの、君、カエル派?ウシ派?」
「…覆面派です」
 ―――またしても、会話は一瞬で終わった。
 沈黙が続いた後、その子は立ち去ろうとしたので、俺は慌てて後を追った。
 心配なのと、大輔の事で。
「なんですか…なんか、用あるんですか」
 うーん、つっけんどんだ。
「うん、あるよ。大事な話なんだ」
「私には、ありません」
 そう言うと、また立ち去ろうとする。俺は、そんなその子の腕をつい掴んでし
まう。
646一徳編:前 22/24 :04/05/19 19:52 ID:nF9NFPWk

「…放して下さい。人呼びますよ」
 思い切り俺を睨んで、言った。あまりの恐ろしさについ手を放してしまう。が、
その情けなさ満開加減がツボに入ったのだろうか。さくらちゃんは吹き出してし
まった。そして、溜息。
「すいません…ちょっと、色々な事、あり過ぎて…」
 無理に、笑おうとする。けれど、本当はもう。
 俺はこういう時、どうすればいいのか本当にわからない。大輔ならば…立場的
に、元であろうがこの子の恋人なら…早い話が、これが倫子さんなら…優しく、そして強く抱き締めたいんだけど…如何せんこの子は殆ど『他人』なんだ。
 気安く触る訳にも行かないし、俺は、迷った末に―――

「ええええええ?」
 多分、さくらちゃんもどう対応していいかわからなかったのだろう。
 俺は、ちっちゃなその子の、頭を撫でるしか出来なかった。


 少し落ち着いてから、近くのファミレスに入って、事情を聞いた。どうも、今
日1日でショッキングな事が相次いでしまったらしい。そういえば、前にもえら
い事があってプチ行方不明になった事があったって聞いたな…
 暫くは黙ったままだったけど、あったかドリンクをちびちび飲みながら、ぽつぽつと話し出してくれた。

 …凄かった。
647一徳編:前 23/24 :04/05/19 19:52 ID:nF9NFPWk
 大輔の浮気(と言ってもいいものなのか)もさる事ながら、それ以上にインパ
クトのでかい出来事が。
 夕方父親に呼び付けられて、嫌々実家に戻ると、新しい母親が。
 別に、それなら良かった。少し前に父親は離婚していたし(それでも再婚)、突
然継母が来るのも初めてではない(けど、いつもタイミングが悪いらしい)そう
だった。
 が、今回はその母親が問題だった。
 その人は、現役女子大生だった。シカーモ、さくらちゃんより年下の、19歳。

 見た瞬間、さくらちゃんはブチ切れて、大暴れしそうになったそうだ。
 …が、流石にそれはしなかったそうだ。する気力も完全に殺がれたそうだ。
 そして、やっぱり俺は何も言えない。どうしてやる事も、出来ない。

「…忘れて下さい。こんな嫌な話聞かせてしまってすいません」
 終始同じままの、低いテンションで彼女は言った。いや、ていうか、俺が無理
矢理言わせたようなものだし、それにまだ話は…
「あの、あ、あの、大輔の事…」
 そういい掛けると、さくらちゃんは伝票を持って、立ち上がる。奢る気ですか?
いいんですよ?誘ったの、俺なんだし。
「…いいです。私、暫く男の人はお腹一杯なんで」
 そう言った、さくらちゃんの眼は―――

 俺は、暫く座ってコーヒーカップを見てる事しか出来なかった。
 
 口元だけで笑うその女の子のその眼は、この町に帰って来た時の倫子さんと、
全く同じだったから。

648一徳編:前 24/24 :04/05/19 19:53 ID:nF9NFPWk
 闇を抱えた、傷付いた人間の、眼。

 俺は、すっかり冷め切ったコーヒーを飲んで、頭を抱える。
 …倫子さん、ごめんなさい。こういう時にこういう事思うのって、正直アレだ
とは思うんだけど…

「結婚、また延びるな…」
 溜息をついて、俺はアイスコーヒーを飲み干した。
 …不味かった。








649377:04/05/19 19:57 ID:nF9NFPWk
はい、前編です。
待ってていただいた方々に申し訳無いですが、こんなんです。

…30&30後半の男女の話て、スレ違いもここまで来たかという
感じですが…

それでは、後半を作成して来ます。
読んでやってもいいという素敵な方、気長にお待ちください。
650名無しさん@ピンキー:04/05/19 20:11 ID:BHBBUC6a
377さん、来たー!! 待ってましたよぉ〜×100!
一徳ってもっと変な奴だと思ってたんだけど、単に間の悪い人だったんですねw
後半も正座しながら気長に待ってます。
651名無しさん@ピンキー:04/05/19 20:55 ID:KAfYBmIJ
皆の衆、今日は佳き日ぞ〜!
377さんありがとう、待ってたかいがあったよー。
いやもう大好きです、この人間模様の絡まり具合。
キャラの背景が結構シリアスなのにギャグでさらっと流したり、
読ませどころではグッときたり、ほんとツボだわ。
キャラがみんなたっててどの人にも思い入れがあるので、
是非大円団キボン!などといってみたりするテスト。
でも読めるなら贅沢は言いません。
377さんのペースで思うままに後半もよろしくお願いします。
652名無しさん@ピンキー:04/05/19 22:08 ID:H7aV17Kn
377さんだーーーーー!!
651さんと感想かぶるけど
キャラクターがしっかり出来てるから
普通の小説としてもちゃんと読めるんですよね
「読んでやっても〜」じゃなく、読ませて下さい!
何でしたらスレ保守しながらでも気長に待ってます〜!
653名無しさん@ピンキー:04/05/20 00:31 ID:4hXtb686
うれし―いい!!!!
続きだ続きだvv
今回も楽しませてもらってますw
654名無しさん@ピンキー:04/05/20 00:55 ID:U0LMqaMH
377さんキター!!
相変わらずのGJっぷりッス(*´Д`*)エクセレント
続きがメチャメチャ楽しみですYO!!
私も気長にお待ちしておりますね。
655名無しさん@ピンキー:04/05/20 08:52 ID:oMMwVzxP
一徳編キテター!!
377さん、大好きです。
私も続き正座して気長に待っております。
656名無しさん@ピンキー:04/05/23 05:08 ID:2oVTXkqc
あ〜 おもろかったす。続きヨロっ ノシ
657名無しさん@ピンキー:04/05/28 11:49 ID:Hh2WdFgD
あげ
658名無しさん@ピンキー:04/05/31 23:12 ID:thwcA1g8
続きを楽しみに保守
659名無しさん@ピンキー:04/06/01 15:10 ID:PT27SABf
お待ちしてます
660名無しさん@ピンキー:04/06/05 01:17 ID:KkLhuM7q
六月五日あげ
661名無しさん@ピンキー:04/06/09 23:08 ID:R8gEcHyW
まじ、連作小説として面白いよね・・・
662名無しさん@ピンキー:04/06/11 01:05 ID:m7hqelf8
一徳編の続きを楽しみに、縮刷版で読み返しつつ。
(笑って泣けるエロ小説なんて初めてだ)
他の方のもあるといいなとかおもいつつ。

ほっしゅあげー。
663名無しさん@ピンキー:04/06/12 21:22 ID:Mmo1cCEo
ほしゅ
664sage:04/06/19 06:53 ID:JbKl1g5c
377さん、楽しみです。
私的に、大輔萌えなのでさくら×大輔が1番好きです。
つうか大輔好きです(w
377さんはHPお持ちではないのですか?
なんだか全作品を1つのHPでみたいです・・・
665名無しさん@ピンキー:04/06/19 06:55 ID:JbKl1g5c
↑のものです
久しぶりに書き込んだから間違えてあげてしまった
すんません。逝って来ます・・・
666名無しさん@ピンキー:04/06/19 12:56 ID:wB3L50un
667377:04/06/19 19:28 ID:ApAmRvzF
えーと、あの、待ってていて下さった方々、すいません。
やっと出来ました。

一徳編後半と言いながら若いもんしか出ていません。
すいません。
668一徳編:後 1/36 :04/06/19 19:29 ID:ApAmRvzF

 思えば、生まれた時から私の男運は悪かったんだろう。
 親父はアレだし、初恋もアレだし、今だって。
 くー、と水の如く酒を飲みながら、私は馬刺しを食べる。うん、美味しい。あ
あ美味い。太るな、これは太るな。そう思いながら、料理を追加する。いつもな
らそんな食えないけど、今なら食える。きっと食える。
「…うま」
 馬を食いながらうま、とはこれいかに。思い切り口の中に詰め込んだ食物を、
酒で流し込んだ。
 
 嫌な事があった。
 好きな男に浮気されて、年下の母親が出来て、素っ裸見た男と再会した。
 帰ろうかと思ったけど、ムシャクシャしたから、なんか食べようと思って居酒
屋に入った。でもって今に至る。
「お待たせしました、オムライスです」
 ことん、と美味しそうなオムライスが置かれる。問答無用でスプーンを取った。
 がつがつ食べていると、不意に大輔と付き合い始めた頃の事を思い出した。そ
ういえば、大輔ケチャップ嫌いだったな。
 チキンライスを凝視して、浮かぶのは大輔の事ばっか。
 …好きだよ。凄く好きだ。大輔の事、好きだ。だから、余計に腹が立って来る。
黙っときゃ良かったのに。私に殴られるって、罵倒されるってわかってた筈なの
に、馬鹿正直に言いやがって。それでその後どうなるかってのも、薄々どころか
厚々わかってたろうに。それで、実際そうなったのに。
 あぐ、とちょっと大きすぎるくらい取ったオムライスを無理に口に運ぶ。熱い
し、多いし、喉に詰まる。それをまた、酒で流し込んだ。

669一徳編:後 2/36 :04/06/19 19:30 ID:ApAmRvzF
「…あの、もしかして」
 不意に、声を掛けられる。振り向くと、男が1人。なんだ?相席か?でも席は
空いてるし、なんか、見た事あるような顔…して…
「―――っ」
 酔いが、一気に覚めた。
「覚えてる?忘れちゃった…かな?俺。由貴。染井由た…」
「失せろ!」
 私は思い切り睨んで、一言そう言った。そして、再びオムライスに向かう。
「…手厳しいね」
 人の話、聞いてないのだろうか。そいつは私の正面に座ると、なんか辛そうな
顔をして私を見た。
 …本当に、厄日だ。好きな男に浮気されて、年下の母親が出来て、素っ裸見た
男と再会して、初めて好きになって騙された男にも再会した。

 染井由貴。
 親戚で、桜花ちゃんを落とす為に私に近付いて来た奴。正直、気分悪いわ。
 初めて、自分よりも桜花ちゃんを選んでくれて、本気で好きになって、自業自
得だけど、自分の身体までやって。それなのに。
「手厳しくもなりますね。これ以上酷い扱い受けたくなかったらとっとと帰って
下さい。私、機嫌が凄く悪いんです」
「…わかってる。叔父さんの再婚でぐげっ!?」
 わかっているなら言うな。帰れつってんだから。思い切り弁慶を蹴ってやる。
本当は、こんなもんじゃ済まないんだけどね。
「いらっしゃいませ、ご注文は」
「あ、この人すぐ帰りますから」
「っ…なっ…生中と…枝豆…後、ほら、何頼んでもいいから…」
670一徳編:後 3/36 :04/06/19 19:30 ID:ApAmRvzF
「じゃあ、この店で値段が高いものベスト3を3品ずつ」
 言った瞬間、由貴の顔が引き攣る。店員は終始笑顔で。
「はい。それではアワビの酒蒸し、松坂牛の炭火焼、世界3大珍味+日本3大珍
味の素敵丼を3つずつと、生中、枝豆ですね」
 爽やか〜に言い放ってくれた。由貴は泣きそうだったが、異論は無さそうだっ
た。ちょっと、スッとした。

「おーいしーい!!」
「…うん、美味しいね」
 物凄くがっくり来ている由貴を無視して、私は料理を食べる。お酒もどんどん
進む。ごはん奢ってくれた礼として、空気としてここに存在しないという認識で
相席している。
「ねえ、さくらちゃん」
「うわー、ナニコレ、すっごい美味しい」
 素敵丼は、絶妙なまでの味のハーモニーだった。美味しい。美味しいにも程が
ある。自分家で作ろうと思っても食材に手が出ないから、正にここでしか味わえ
ない。
「…さくらちゃん」
「うめー!松坂牛、半端なくうめぇー!!底知れねぇー!!」
 由貴は、尚も私を呼ぶ。悪いけど、返事は絶対しない。絶対、呼び掛けには答
えない。絶対に。
「さくらちゃんってば…」
「あ、すいません。芋焼酎お願いします」
「かしこまりました」
 笑顔で対応してくれる店員。既に何杯目かわからない。
 それでも、由貴はしぶとく私を呼び続けていた。
671一徳編:後 4/36 :04/06/19 19:31 ID:ApAmRvzF


「おなか一杯…」
 はぁ、と頼んだ物を全部2皿と半分ずつくらい残して、私はカルピスサワーを
飲む。おなか、はちきれそうです。
「…そりゃそうだろうね」
「あー、死にそう」
 その残りを、死にそうな顔で食べている由貴。
「あれ?おかしいなぁ、誰もいないのに勝手にお皿の料理が減ってる」
「…勘弁してよ…ねぇ、話だけでも聞いてくれないかなぁ」
 由貴は、本気で頼み込んで来る。けど、私は絶対に視線を合わせない。陰険だ
って、酷い人間だって、そう思われても構わない。そうなった理由の何割かは、確実にこいつにあるから。

 観念したのか、由貴は溜息をついて、下を向いた。そして、聞いているかどう
かの確認もせずに、勝手に喋って来た。

「…あのさ、俺、振られたんだ」
 その声は、今にも泣きそうだった。ふーん、ともへぇー、とも言ってやらない。
その対応でももういいと判断したのか、由貴はそれでも喋る。
「俺、会社で好きな人がいたんだ。それで、付き合ってて、で、今日喧嘩して…
そしたら、本当は俺の事、好きじゃなかったんだって。友達がいて、そいつの事
が好きだったんだって。でも、友達は別に好きな人がいるから、仕方無いから俺
と付き合ってやってたって…」
 心の中で、へぇー、と思う。どこかで聞いたような話。どこかで見たような表
情。由貴は、明らかに傷付いていた。
672一徳編:後 5/36 :04/06/19 19:32 ID:ApAmRvzF

「…そう言われて、ああ、これは自業自得だって思った。俺はあいつを責める事
なんか出来ない。そんな資格は無いって思った。君にした事、殆どそのままの事
が、自分に跳ね返って来たからね」
 自然消滅ってか、無視し出して、そのまま終わったから、あっちにしたらばれ
たかー、ちっ、くらいにしか思ってないだろうなと思ってたけどな。
「それで、よく考えたら、君にろくにあやまりもしなかった事に気付いて、気が
付いたらさくらちゃんの家に行ってた。そしたら、いないんだもんなぁ…」
 苦笑いする。まぁ、実家は出てるけどね。その事…ついでに桜花ちゃんと同居
してる事も知らないか。どうでもいいけど。

「…本当に、ごめん。悪いって思ってる」
 私は、応えない。視線を合わせずに、ただ酒を飲む。
 謝ったからってどうなるってんだ。要は自分がスッキリしたいだけだろ?そう
やって謝って、こっちが同情してやりゃ、気分良くなって、それでもって明日か
らは私の事なんか忘れるんだ。
 …私は、7年経った今でも―――

「さく、え、え!?さくらちゃん!?」
 視界がぼやける。気持ち悪い。物凄く、眠い。
「ちょっ、え!?えええっ!?さくらちゃん、どんだけ飲んだの!?」
「えーと、お客様はカルアミルク2杯、カルピスサワー3杯、芋焼酎2杯、当店
特製マムシ酒1杯、シラネケン5杯です」
「飲み過ぎだ――――――!!」
 …絶叫する由貴とは対極に、終始笑顔の店員は、どこまでも爽やかなまでに冷
静だった。
673一徳編:後 6/36 :04/06/19 19:32 ID:ApAmRvzF

 その頃、俺はたった一人の人を守れるだけの力が、欲しかった。

「……」
「……」
「……」
 何も、言えなかった。
 転校してから暫く経ったけど、友達が出来ない。そりゃ当然だろう、全然喋ら
ないのだから。喋れない訳でもない。ただ、何故か言葉が出ないだけだ。楽しく
話そうという気が無いから、何を言ったらいいのやら。
 だから、こんな時もそうだった。
 何か言わないと、この人、確か…あの人の弟さんだった。えっと、えっと、名
前は…あれ、えっと、岸部さん家の次男だから…

「シローさん?」
「…お前、この状況で言いたい事はそれだけか?」

 3人くらいの…多分シローさんの同級生に囲まれて泥だらけになってるシロー
さんは、至って冷静に突っ込んでくれた。
「別に、それだけって訳でも無いですけど…えいっ」
「っわぁああっっ!?」
 俺は、掌大の石を思い切り、囲んでいる人に投げ付ける。すんでの所で、避け
た。俺は、もう少し大きめの…あ、いいいものあった。
「どわああああああああああああっっ!?」
「ちょっ…こいつヤバイぞ!?」
 すぐ側にあったものを手に取り、振り向いたら、囲んでいる人達は逃げていた。
674一徳編:後 7/36 :04/06/19 19:33 ID:ApAmRvzF
「…大丈夫ですか?」
「お前、本気でヤバイな」
 若干蒼褪めながら、シローさんは言った。
「とにかく、その物騒なもん…放せ」
 俺の持つ錆びた鉄パイプを凝視しながら、溜息をついた。

「…大丈夫ですか?」
 ごとん、と鉄パイプを放り捨てて、座り込んでいるシローさんに手を差し伸べ
る。が、ぺちん、と手で弾かれる。
「なんだよ、同情でもしてんのか?言っとくけどな、誰にも言うなよ。特に、家
の馬鹿には…っお!?」
 寸前で、掌で受け止められる。馬鹿、と言うのが誰を指しているのかすぐわか
ったから。
 …不愉快だった。初めて会った時から、自分の兄を見下しているこの人が。自
分だって弱いくせに、あんな必死な人を蔑むこの人に、正直腹が立った。
「なっ…なんだお前!?もしかしてただ暴れたいだけなのか!?」
「……」
 俺は、その人を放って帰る事にした。怪我をしていたみたいだけど、知らない。
こんな人、死ねばいいんだ。あいつみたいに。
「…言われなくても、誰にも言いません。話題に出したくもありません。そうで
すね、もし言ったら全財産あげるって約束してもいいですよ」
 腹立ちついでにちょっとしたイヤミを。まんまと乗ったのか、シローさんは。
「っんだと!?お前…いくらだよ全財産!!」
「600円です」
 ちょっとの、沈黙。ていうか、気になるのそっちなんだ。そして、絶叫。
「スケールのちっさい話だなぁああああぁあああああっっ!!」
675一徳編:後 8/36 :04/06/19 19:33 ID:ApAmRvzF

 守りたい人がいた。
 けれど、俺には力が無い。何も出来ない。ただ、守られるしかない。
 …そして、守りたい人を守ってくれる人間が、現れてしまった。その人は、大
人だった。俺よりも、守りたい人よりも大きくて、ちょっと…なんていうか、ア
レだけど、絶対に、大切にしてくれる人。
 劣等感に苛まれた。
 そりゃ、俺はまだ子供だから。歳だって、やっと二桁になった程度だから。
 けれど、俺は、俺があの人を―――お母さんを守りたかった。それなのに。
 その人は、俺の事も守ろうとしてくれてる。大切に、優しくしてくれる。俺は、
そんな人に対して、悔しくて、無視する事しか出来ない。自分が情けなくて、ち
っちゃくて、大嫌いだ。
 その人みたいになりたいのに。大切な人を守りたいのに。思う理想とは、どん
どん掛け離れて行くだけの自分が、そこにいた。


「…ねぇ、大ちゃん!」
「?」
 お母さんは、帰って来るなり血相を変えて俺の所に来た。
「ねぇ、今聞いたんだけど、彰ちゃんの弟の孝一くんがまだ帰って来てないんだ
って!大ちゃん知らない!?」
 …孝一?
 俺は考える。誰だろうか、孝一って。
 頭を捻る俺を見て、お母さんは苦笑する。
「そのレベルの認知度なのね…いいわ。お母さん、探すの手伝って来るから、お
留守番お願いね」
676一徳編:後 9/36 :04/06/19 19:34 ID:ApAmRvzF
 そう言って、お母さんは行ってしまった。
 俺は中断していたゲームを始める。ちら、と時計を見ると…7時近い。外も暗
い。近所の人が、行方不明なのか。そういえば、彰ちゃんって…
 俺は、なんか引っ掛かる。彰ちゃんって、言ってた。誰だっけ、彰ちゃん…彰
ちゃん…あ。

『始めまして、大輔くん。俺の名前は岸部彰一っていうんだ』

 でもって、その彰ちゃんの弟…シローさん。孝一っていうのか。で、まだ帰っ
て来ない。そういえば、さっき座ったままだった。
「…もしかして、立てなかった…?」
 俺は、慌ててセーブしてリセットボタンを押しながら電源を消す。そしてその
まま走った。



 いた。
 暗い中で、その人は…泣いてた。
 俺より年上の(と言ってもひとつだけど)6年生の男子が、暗い中で、さっき
と同じ格好で、ランドセルを抱き締めて、泣いていた。
「…みんな、探してましたよ」
「っのぇ!?」
 シローさんは、驚いてこっちを見る。
「いっ…言ったのか!?」
「いいえ、言っていません。ていうか、孝一君を探してるって言われて、後から
考えたら、ああ、孝一君ってシローさんかって思い出して、来ました」
677一徳編:後 10/36 :04/06/19 19:35 ID:ApAmRvzF
 …なんだろう、やっぱ悲しいのかな。それとも、俺が来た事への安堵感かな?
シローさんは物凄く顔が引き攣っていた。
「歩けないんですよね。おぶって行きますよ。あ、ランドセルは背負って下さい
ね」
 そう言うと、俺は背中を差し出す。が。
「どうしたんですか?この体勢意外と辛いんですよ」
「…お前、馬鹿にしてんのか」
「してませんよ、さ、早く」
 本当に馬鹿になんてしてないから、即答する。シローさんもこのままでいるの
は良くないと思ったのか、割合素直におんぶ状態になってくれる。
 俺は背の小さい方で、シローさんは大きい方+ランドセルだからちょっときつ
いけど…まぁ、頑張ろう。


「やっぱ、馬鹿にしてるだろ」
「…くどいですね。俺はしてないって言ってるじゃないですか」
「だって、俺、さっき…」
 ああ、泣いていた事だろうか。
「だって、酷い事されてたじゃないですか。動けなくなっていたじゃないですか。
シローさんスカした人ですから、クラスに友達も味方もいないの丸わかりですし。
そんな状況だったら誰だって泣きますよ」
「…うわぁああーん…」
 何故か、素直に泣いてくれた。
 でも、素直になる事っていい事だと思う。俺も、そうなりたい。あれだけスカ
していたのに、シローさんって凄いと思う。
 ―――決めた。
678一徳編:後 11/36 :04/06/19 19:36 ID:ApAmRvzF
「シローさん」
「っ…だ…だんだよ…」
 鼻声で、返事をする。
「俺、シローさんを守ったげます。俺はスカしたシローさんは死ね!って思いま
すけど、今のシローさんは好きですから」

 ―――誰でもいいから。

 自分より弱い人を、守って見せたかった。
 それは、一種の…ていうか、そのままか。単なる自己満足だった。
 守りたい。ヒーローになりたい。泣いている人を守ってあげたい。その為なら、
俺は―――



「…で、なんでこんな事をしたんだ」
「言えません」
 同じ遣り取りを、もう何度しただろう。
 夕日が差し込む職員室。呼び出されたのは、もう何時間も前。その間、何度同
じ事を言われ、言って来ただろうか。

 シローさんを守ると決めてから数日。一向に改善しない、クラスの人達のシロ
ーさんへの仕打ち。俺は、手始めにボスらしき人のランドセルに、紙袋を忍ばせ
た。ゴキブリで一杯の、紙袋を。
 当然、疑いはシローさんにかかってしまった。糾弾されるシローさん。俺は、
責任を取って、自分が犯人である事を告げた。
679一徳編:後 12/36 

 …でもって、これだ。
 ていうか、シローさんが虐められてて何もして来なかったのに、この先生はな
んで俺を責めるんだろう。なんで、一方的に俺だけが?とはいうものの、俺は何
故こんな事をしたか、の理由を言っていない。だって、シローさんとの約束だか
ら。

「なぁ、水沢。先生は怒っているんじゃないんだ。ただ、なんであんな事をした
のか言ってくれないと…」
「ですから、言えません」
 かち、と時計の長針が動く。5時になった。

「っ…すいません、あの、水っ沢大輔の、ほっごほ、保護者代理の者ですが」
「え?」
 思い切り咽ながら、何故か、あの人が入って来た。俺は予想外の人物の出現で
思考が一時停止した。ていうか、俺の保護者って事は…
「っ、アンタ、俺のお母さんと結婚したの!?」
「えっ…え、えええ!?いや、まだ、え!?ていうか嫌なの!?」
「ていうかお前、まだ諦めてなかったのか!?」
 三者三様の叫び。
「うっ…うるさいなぁ先輩!いいじゃん!!俺の将来の夢、意外と実現しそうで
しょ!?」
「将来の夢が『とも子さんの旦那になる』だったな!!好きなら名前を全て漢字
で書いてやれよ!!すげぇ婆さんのイメージになるぞ!!」
 …なんだろう、この戦い。俺はもんの凄―――くレベルの低い罵りあいを暫し
凝視していた。視線に気付いたのか、先生は気を取り直して咳をひとつ。