664 :
砂の闘士:04/04/08 21:18 ID:aNuhOJGZ
−−−−−−−−−−−−
着飾った遊び女らに取り巻かれ、マルレンは気晴らしと買い物とを兼ねた行楽、
王都正門そばに広がる大市場へとくりだした。
自分の足で歩いて、バザールの中をのぞくのは初めてだった。
さばく前の魚の姿を見るのもはじめてで、銀のうろこを輝かせる鱸の腹に
指先でそっと触れて、その感触の無気味さにあわてて身を引くマルレンを見て、
店主と遊び女たちはさもたのしげに笑い出し、明るい声が往来に響いた。
「あら、安いわね」
果物屋の店先に盛られたとりどりの果実の前で、女のひとりが立ち止まる。
「これでパイを焼きましょうか? レモンと、アンズと……マスカットも飾りにいいわね」
パイなら下女の仕事を手伝ったことがあり、おそらく、生地をこねるという作業ならば
なんとかできるであろうマルレンも、つと青い瞳を上げた。
「ショウガのクッキーも良いでしょ、篭にたくさん盛り上げて!」
「今夜は酒宴だし……」
大もりあがりに盛り上がり、買い込んだ大量の食材を荷運びたちに担がせると、
キャラバンサライの厨房めざして意気揚々と戻り歩み、女達はわくわくと宴会の支度を始めた。
665 :
砂の闘士:04/04/08 21:18 ID:aNuhOJGZ
−−−−−−−−−−−−
日暮れ前の夕方にやっと起き出した剣士は、平服に着替えるとそのまま裏庭にある納屋に入り、
家主である老婆と顔をつきあわせ、固いパンを齧りながら事務仕事を始めた。
納屋に持ち込んだ筆記机に向かい、書物を前に羽根ペンをひねくる。
老婆はといえば床の絨緞に座り込んで、大量の魔道書の山からこれはと思うものを引き出しては書を撫で回し、内側を引っ繰り返し、それぞれの価値や真贋を見極めている。
老婆がその書物の価値を認めたものは奥の書棚に秘蔵、または書写に回し、いらぬと決めたもの、写しおわった物は転売をする。
今日の老婆は、マルレンの屋敷の跡から盗賊たちが回収をしてきた、黒魔道の儀式用具類の中身を掘り返していた。
「おお、これじゃ、これじゃ、《召喚の書》」
一冊の黒い書をとりあげると丹念にめくっては書き込みを調べ、小刻みにうなずいた。
「ふむ……邪神アジ=ダハーカを召喚するつもりじゃったようだな。大物じゃ。十年前よりもはるかに、事態は抜き差しならん所まで進んでしまっておる」
苦々しく言うと、黒い書を小者に投げ渡した。
「こいつは二度と、世に放ってはならん。燃やしてしまえ」
男は言われる通りに、すぐさま書を燃える油の中に投げ込む。不吉な装丁を持つ魔道の書は、やがて白い灰に変じた。
「ささ、こちらは書写が終わりもうした。市場に戻しますので一筆したためてくだされ」
老婆が皺じみた手で差し出した数冊の禁書を受け取ると、シェラは手に持った羽根ペンを瀝青インクに浸し、
開いた書の見開きにサインを書き込んだ。
《夜の風》と。
「ふう」
666 :
砂の闘士:04/04/08 21:20 ID:aNuhOJGZ
この宿では、故買をするが、とくに老婆の目利きで行う古文書の鑑定において抜きんでており、
解読の終わった古文書に新たな価値をつけて、ふたたび市場に出すことで稼いでいる。
不敵にも書物を盗んだ盗賊の手による、《誠に貴重なる文献にて、有り難く閲覧させて戴き申し候。
感謝と共にここに返還す 夜の風》という文言を入れて仲買屋から市場に出せば、
好事家は言い値にて喜んで買う。
《夜の風》のサイン入り禁書を、盗まれた当の持ち主が元の五倍にもなる馬鹿な値で買い戻して、
世間に対する自慢のタネに使ったりしているのだから、たわいもない話であった。
「盗まれた物をまた買い戻すために金を払って、さらに喜ぶとは。おめでたい。王都は平和だな」
シェラは机の前で溜め息をつく。
「まったくこの世は油断がならぬ。つまらぬことだ」
詐欺じみた仕事にまったく浮かぬ顔のシェラへ、
「愚痴が多いぞ」
ねぎらうかわりに茶を差し出すと、老婆が優しい調子で問いかけた。
「どれ、剣はどうじゃ」
首をめぐらせ、脇に立てかけた三日月刀に手を触れた。
当の剣はかすかな反りを持ち、三日月よりも微妙な曲線を形作っている。普通には見慣れない異様さがあり、それでいてなめらかで、力強く、美しい。
鞘ごと受け取ったシェラがさらりと抜いてみせた。
刀身はダマスカス鋼でできているのか、まだらな刃紋がきざまれてあり、白銀と黒の細やかに入り組んだ色合いを持つ。
黒い線が複雑に絡みあい、白鋼の見かけが少しずつ黒色に押されて見えづらくなっているようでもある。
「まあまあじゃな」
シェラの握る抜き身の刀身に砥ぎ草を当てつつ、老婆はひとつ、頷いた。
「お前の身体が続くかぎり、この剣も進化していくことじゃろう。宝剣の力は天にも届く。
それがこの世に顕現されるかどうかは、すべておまえしだいというわけじゃ」
667 :
砂の闘士:04/04/08 21:20 ID:aNuhOJGZ
−−−−−−−−−−−−
夢を見ていた。
かつては武を誇る国の長子として生まれ、溌剌とした瞳と赤い頬を持っていた王族のころの、夢。
いまやただひとりの生き残りとして恥をさらしている今は、
灰の髪と昏い色の眼だけをひからせ這いずり回り
望みはただ、国と父の仇を討ち果たすことのみ。
――復讐とは、
――世界に秩序を取り戻すための行動だ。
現し世から、あとかたもなくかき消さねばならん……
あの魔導師を!
−−−−−−−−−−−−
砂中の宝石、ナツメヤシの繁るオアシスに建立された、
小さいながらも自主独立を誇る隊商国家マルジャーム。
その地を護る使命を持った王、シェラの父が、迎えた後妻は魔女であった。
王の子を邪神への生贄にささげようとする女――母という名の魔女と
その所行をとどめようとするが果たせず、血を流し床に伏す十二歳のシェラ
祭壇に横たわる、妹のちいさな身体
邪悪な夢より抜け出し、生来の武家の顔に戻って、
宝剣にて邪悪な魔女の腹を刺し貫く父の横顔
女の断末魔とともに、王宮に澱んだ闇の魔法が発動し
巨大な制御できない黒いちからの気配が天を覆い
そして、王城は……………崩壊した。
−−−−−−−−−−−−
668 :
砂の闘士:04/04/08 21:21 ID:aNuhOJGZ
ただひとり生き残った王族、シェラは、奴隷闘士として生きつづけることとなった。
そして今日も闇に隠れて魔を斬り、古文書をひっ攫う暮らしだ。
この日は月初めで、宿は夜の仕事に関わる者たちを一同に呼び集めると、
故買による売り上げから臨給を計算して分配し、さらに大広間で宴の席をふるまった。
よろこんで集まった盗賊団の者どもはどれもこれも、酌婦を付けてもらような身分ではないし、
宿の女たちは競ってシェラについて酌をしたがったが、当のシェラが断った。
しぜん、男くさい宴席になった。
赤い顔で唾を飛ばし誇張ぎみに続けられる猥談、負けた者が際限無く呑まされるサイコロ遊戯、
口争いのすえの掴み合い、頬を打つ音がとびかう。
すでに夜遅いこともあって、各人の膝の前に並ぶ肴は少ない。肉の匂いさえ嫌う宗派に属する者もいる。
女たちが菓子を焼いたので、皆に甘いつまみと蒸留酒の杯が行き渡っていたが、
甘いものの嫌いなシェラは上座に座ってひとり、ただ黙々と呑んでいる。
それに、シェラと猥談をしたいというものもまずおらぬであろう。
強い馬乳酒を、ただ飲み干す。
たしなみとして姿勢と呼吸のコツとをのみこんでおり、まったく酔わずに呑み続ける事ができるのだが、
まあ、まずい酒ではある。
と。
つね日頃の窃盗でもさして役に立つというほどでもなく、賊の中でも目立たぬ地位の中年男が、
シェラの前へしたたかに酔った顔でいきなり進み出るやはいつくばって涙ぐみ、
シェラの手を口づけせんばかりに押しいただいた。
――貴女と仕事を始めてこのかた、どれだけ暮らしがうるおったか。
あなたはわれらの救世主だ、《夜の風》。
――パルミュラのゼノビアの美しさ、マルジャームのシムルグの勇猛をあわせもった、
君こそが史上まれにみる完璧な王者である、
男はそういって涙にくれた。
669 :
砂の闘士:04/04/08 21:23 ID:aNuhOJGZ
シェラは、何も、答えない。ただ不味い酒杯を干している。
中年男はひたすらおそれいりながら退がっていった。
入れ替わるように一人が片手を挙げて立ち上がり、余人の注目の中、緊張にすこし目の下を染めながら、丁寧な口調で申し出た。
――《夜の風》、頼みがある。
――妻が男の子を産んだのだ。名前をつけてくれないか?
しばらく黙っていたシェラはやがて、
「……ファルカット」
酒杯に顔を映しながら呟く。
「私の、隠し名だったが、もはやこの名で呼ぶ者はこの世に居らぬ」
くいと杯を干して、続ける。
「埋もれたままなのも勿体ないので、良ければ使ってくれ」
「ありがたくいただきます!」
進み出て膝をつき、シェラの持った杯に酒を注ぎながら、若い父親が言う。
「そんなら、うちのガキの名はファルにいたしましょう。
あなた様のお名前そのままでは、俺たちにゃあちいと、格調が高すぎますからね」
痛飲放歌の宴の果て、やがて夜が明けた。
大広間には酔いつぶれた丸太が累々と転がる。
渡り廊下で伸びをして、薄日に照らされた庭を見つめているシェラの後ろ姿に、紗の裾をなびかせて近づく影があった。
気配に振り返ったシェラが、驚いた表情になる。
「まだ起きていたのか?」
マルレンは淡く微笑んで、いま目覚めたところだと言った。
「成程、もう朝だからな」
シェラは感心したようにあごに指をやる。
「眠りさえしなければ、おまえとゆっくりと話ができるわけだ。そうか、覚えておこう」
いいことに気がついた、といったふうに、ほがらかな笑顔を見せた。
670 :
砂の闘士:04/04/08 21:24 ID:aNuhOJGZ
マルレンは昨日一日のちょっとした冒険=外出と、女たちの厨房仕事を手伝ったことについてしゃべり、
シェラは興味深げにそれを聞いた。
シェラは歩きながらこれまでの宴の騒ぎ、盗賊らとかわしたやり取りを話して、
我々は双方ともに善人ではない、いま、互いに抱き合っている恰好なのは利益があるからで、
彼ら盗賊は私を、尊敬しているというよりも、私が作り出す金に恩義を感じているのだと語った。
肩をすくめ言う。
「金は貰ってしまえば安心だ。人と違って、決して裏切らないからな」
少女は唇をとがらせて、そんなシェラの自嘲にわりこんだ。
「それって、もしお金が無くなったらそれっきり、人に裏切られても仕方ないっていうこと? ずいぶんね」
「真実なのだから仕方がない」
呟くと、シェラは前を歩く少女の腕を引き寄せて壁に追いつめ、
「きゃ」
抱きすくめた髪にキスをした。
「その身で、学習しただろう。お前は実の親に何をされた? 誰に命を救われたんだ」
彫りの深い顔を寄せ、低い声で問い詰める。
「それはそうかもしれないけど……」
指先で乱暴に頬を撫でられて、マルレンは顔をしかめる。
「あなたもいつか、裏切るっていうこと? 私を?」
上げて問い返す頬をぺちりとはたいて、
「反対だろうが」
シェラはなんと、微笑んだ。
「お前が私に飽きる日が来ると、いうことだ」
「そんな時はこないわ、永遠に!」
◆以下次号◆
>648からの続きになります。
まだ前フリ段階ですが、書きあがった分だけ投下しまつ。
チッ、チッ、チッ、
響くのは時計の音だけ。
しなやかな指先で、真紀子は文庫本に目を落としたままページをめくって
いく。
むう、と真紀子は眉間にしわを寄せ、話も半ばを過ぎて佳境に入った文庫
本を閉じた。
はあ、と彼女は大きく溜め息をつく。前髪をくしゃりと掻き毟るようにか
きあげ、文庫本を床の上に投げ出すと、真紀子はそのまま仰向けになって寝
転がった。
読んでいた本の内容なぞ、半分も頭に入ってこない。ぐるぐると頭の中で
回っているのは、さまざまな感情が入り混じった、混沌とした不可思議な思
考。
天井を見上げ、彼女はもう一度、溜め息をひとつ。
……私、何してんねやろ……
頭の中にまざまざとよみがえるのは、先ほどの一方的なキス。
指先で唇をなぞり、多汰美の唇の感触を思い出す。
キスをしたのは初めてだった。ただ重なり合わせるだけの幼いものだった
が、それでもキスであることに変わりはない。舌先にはまだ多汰美の唇の味
が残っている。何とも言い表しにくい、人の肌の味。
多汰美は今、何をしているのだろう。自分の部屋でシューティングゲーム
でもやっているのか、それともまだ居間で眠ったままなのか。
居心地が悪くなって逃げるように自分の部屋にやってきてしまったが、何
をしても気分が落ち着かない。祖父のコンポで音楽を聴いてみても、読みか
けの本の続きを読んでみても、どうにも別のところに流れ出してしまう。
部屋の片隅でいつも通りに、いつまでも変わることのない時の流れを刻み
続ける時計を見やるが、さきほどからまだ一時間も経っていない。
ったく、と忌々しげに呟き、真紀子は腕を振った勢いで上半身だけを起き
上がらせる。何か飲めば気分も落ち着くだろうかと、彼女はそのまま立ち上
がって一階のキッチンに向かう。
階段を下りきったところで、再び鳴り響く電話。
わずかに早足で電話機に歩み寄り、真紀子は受話器を手に取った。
「はい、七瀬ですが」
《あっ、真紀子さん? 私です、八重ですけど》
受話器から響いてきたのは、聞き慣れた少女の声。この家の家主の娘、七
瀬八重である。
聞き慣れた声を聞いて息苦しさから開放されたような気分になり、真紀子
は旨のつっかえを吐き出すように呼吸をして、安堵。けれど、心の片隅で嫌
な予感がするのは気のせいだろうか。
「八重ちゃんかいな? どないしたん?」
《はい、実はですね。悪いんですけれど、ちょっと今日中に返れそうにないんですよ》
一瞬、真紀子の思考が停止する。
脳にガツンときた。目の前に閃光が瞬くが如く、真っ白と言うよりは、ど
こか混沌とした灰色にも似た光がチラつく。
何でこんな日に限って、と叫びだしたくなる衝動を真紀子は必死で押さえ
込む。
《――で、晩御飯はあらかじめ冷蔵庫の中にありますし、すいませんけど明
日の朝食はトーストか何かでも適当に……真紀子さん?》
こちらが何も答えないのを不思議に思ったのか、受話器の向こうから八重
の心配そうな問いかけが響いてくる。
ありったけの平静を取り戻した真紀子は、受話器の向こうの少女に慌てて
答えを返す。
「ああ、うん、分かっとる分かっとる。私と多汰美だけでも大丈夫やから、
気にせんとゆっくりしとき」
じゃあよろしくお願いします、と言う八重の言葉を聞き届け、真紀子は受
話器を置いた。
正直、まいった。
自分がこんな状態に日に限って、多汰美と二人きりにされるとは。
今日の自分は何か変だ。先刻の友人からの電話のせいもあってか、妙に多
汰美を意識してしまう。キスをしてしまった手前あるし、このままでは潦で
はないが、何か変な間違いを起こしてもおかしくない気分ではある。
はあ、と今日何度目かも分からない溜め息を吐き出す。
――ッリリリリリンッ! ッリリリリリンッ!――
油断しきったところへの不意打ちに、思わず真紀子は身を震わせる。
さすがに切った瞬間に次の電話が来るとは思わなんだ。少し早くなった心
臓の鼓動を落ち着けようと、真紀子は深呼吸をしながら受話器に手をかける。
(なんでこんなときに限って電話が多いねん……)
落ち着く暇もないわ、と心の中で愚痴りながら、三度受話器を手に。
まあ、落ち着かないことの大半は自分のせいなのだが。
《やっほー。私だけど、七瀬居る〜?》
受話器の向こうから響いてくるのは、底抜けに明るい少女の声。八重、多
汰美、真紀子のクラスメイトの潦景子である。
「――なんや、にわかいな。残念やったな。八重ちゃんならおばさんと出か
けとって、明日まで帰ってきよれへんで」
え〜、と受話器の向こうから不満そうな声が上がる。ここまで露骨に嫌な
声を上げられると、かえって気持ちがいいなと、真紀子は口元に笑みを浮か
べる。
「しゃーないやろが、我慢しぃや。急ぎの用やったら、八重ちゃんの携帯に
直接かけたらええがな」
《分かってるわよ。……まあ、急ぎってわけじゃないから、明日でもいいわ。
てゆーか、七瀬とおばさんが帰ってこないって事は、今日はあんた達“ふた
りっきり”ってこと? 大丈夫?》
ふたりっきり、と言う部分を妙に強調されて、否が応でも先ほどのキスの
ことが頭の中に浮かんでしまう。けれども、動揺するのはさっきの八重との
電話で充分だ。今なら多少のことは何とでも誤魔化せる。
普通に考えて、普通の返答をすればいいのだ。深く考えなければ、難しい
ことではない。
「まあ、夕飯ぐらい二人でも何とかなると思うで。最近や絵ちゃんの手伝い
とかしとるから、食べられるレベルぐらいにはなっとると自分でも思うんや
けれども――」
《誰が夕飯の心配してるのよ。七瀬のことだから、そのぐらいの準備はして
から出掛けてるんでしょ?》
七瀬の性格をここまで把握し、信頼しているのはさすがといったところだ
ろうか。
真紀子は苦笑するが、ふと、そこで気づく。
自分たちの料理の腕を心配しているのでなければ、彼女は一体何を心配しているのだろうか。
――大丈夫?――
その意味を真紀子が問いかけるよりも先に、潦の言葉が紡がれる。
《正確に言うと“由崎が大丈夫かな”ってね。どっかのエロガッパさんに襲
われたりしないかなぁ〜、とか》
からかうような潦の声。
なぜ、だ?
気付かれているはずがない。そうは思うものの、真紀子の中に生まれた動
揺は大きい。ああ、気づかれると思いながらも、口は何とか誤魔化すための
言葉を紡ごうとするが、声が上ずってしまって、少し言いよどんでしまうの
がはっきりと自覚できる。
けれども、何もいわないというわけにはいられない。
「あ、あほか……っ! そんなわけ――」
《ない、って言えるの?》
不意打ちに近い潦の爆弾発言に動揺する真紀子の言葉を遮り、再び放たれ
た彼女の言葉がうるさいぐらいにやけに耳の中にに響く。受話器の向こうか
ら響く潦のその声は、何もかも見透かしたようで、ぞくりとするぐらい冷たい。
嘲っているようにも、無感情のようにも、同情しているようにも聞こえる。
相手が携帯電話を使っているからだおるか、受話器から響く声で潦の声に含
まれた感情が判別できない。
何も言えなくなってしまい、声とは到底言えない、呼吸のような音が真紀
子の唇から零れ落ちる。
「……気づいとったんか?」
《薄々、って感じね。ちょっとカマかけてみただけよ。自覚がないなら冗談
で済ませられるし、あるなら今みたいな反応――簡単よ》
たしかにそうだと真紀子は思う。けれど、自分でもほとんど気づいていな
かったこの気持ちに、潦は一体いつから気づいていたのだろるか。
類は友を呼ぶ、と言う奴だろうか。潦も八重に対して、自分が多汰美に持っ
ているものと同じような感情を持っている素振りを見せているが、やはり同
じタイプの人間と言うのは第六巻か何かで察することができるのだろうか。
677 :
638:04/04/09 01:44 ID:X/VOpzyS
誤字が多いのがへこみそうだ……ヽ(;´Д`)ノ
理想としては来週の頭ぐらいには書きあげたいでつ。
が、バイト等で忙しいので書けるかどうか……。
なつべく書きあがった文からちまちま投下していくつもりですんで、
お暇な方は気長に舞ってやってくだちい。
あと、エロまでにはまだまだ前フリがあります……前フリ長くてスマソです(汗
>>664-670 おお、シェラの過去があきらかに!
いまのとこ平穏な雰囲気だけど、これからきっと怒涛の展開が
待ってるんだろうな。ちょっと読むのが怖い気が…。
でも最後はふたりが愛で結ばれるといいなー。
>>672-676 真紀子タン、チャーーンス!!
638さん、あせらずにネ。楽しみにしてます。
「なんで気づいたんや? やっぱ、にわも……」
《そうね、“同じタイプの人間”だからかな。やっぱりなんとなく分かっち
ゃうのよね、そういうの》
からからと笑いながら響いてくる彼女の声は、笑っているはずなのにどこ
か切なそうだった。
届かせたいけれども、気づかせたくない想い。
八重に対する想いを冗談なのか本気なのか分からないように振舞っている
のは、やはり彼女も自分と同じ気持ちだからなのだろうか。泣きたくなるほ
ど切ない想いを、潦も八重に抱いているのだろうか。
「にわは本気なんか? 八重ちゃんのこと」
《たぶん、ね。私は七瀬が初恋だから、“本当の好き”って言うのがどんな
感じか分からないけど……私は七瀬の事が好きよ。きっと、本気で》
受話器の向こうから響く声は、いつもの彼女の声ではないような気がした。
切なげに、けれどもどこか楽しげに、悲しそうに嬉しそうに、潦は真剣な
声ではっきりと言った。
顔は見えないはずなのに、なぜだか彼女が電話の向こうで苦笑のような笑
みを浮かべているのが、はっきりと手に取るように分かる。同じような笑み
を浮かべ、真紀子はどこか虚空を見上げながら呟くように言う。
「私も……好きや。多汰美のことを、私は好きや。本当の意味で」
胸のつっかえが取れてしまったようで、どことなく気が楽になった。
自分の気持ちを曝け出しても、普通とは少し違ったこの気持ちを受け止め
てくれる少女が電話の向こうに存在する。お互い、恋をしている相手は違う
けれども、同じ秘密を共有できる相手が居ると思うだけで、気が楽になって
くる。
自分たちは普通とは恋の仕方ほんの少し違うけれども、相手がたまたま自
分と同じ性別だっただけなのだ。おかしいことなど、何もないのだ。この気
持ちに、嘘などない。
《言い切ったわね。意外だわ》
きっと不敵な笑みでも浮かべているのだろう。
あは、と笑い、真紀子は受話器を手にしたまま軽く壁にもたれかかった。
「まあ、自覚しとるしな。バレてもーた相手に気持ち隠しても、しゃーないやろ」
それもそうね、と潦は笑う。
《じゃあ、今日はもう切るわね。最近携帯料金もちょっと危ないから。
――あと、ふたりきりだからって、間違い起こさないでよ》
そんなもん、あんたに言われたないわ。
そう言おうとして、真紀子はわずかに思考。
よみがえるのは、重ねた唇の感触と味。
そして、真紀子は、くすっ、と苦笑し、少し間を空けてから悪戯っぽく言
った。
「――すまんな、もう手遅れやわ」
え、と言う声を無視して、そっちも頑張りや、とだけ言って真紀子は電話
を切った。
軽く伸びをしながら、どこかすっきりしたな、と真紀子は思う。
一方的にこっそりとキスしてしまった事は、正直どうしようかと思う。や
はり、黙っておくのが一番だろう。さすがに、いきなり「ごめん、寝てる間
にムラムラしてきてキスしてもーてん」などと正直に言えるような根性は自
分にはない。
やはり、もう少し時間が必要だろうか。告白するにしても、何にしても。
とりあえず、気分はだいぶ落ち着いた。明日、潦に礼を言わなければと思
いながら、当初の目的であったキッチンへ向かおうとして――
視界の端に、人影が入り込んだ。
人影の消えた場所は居間。この家に今居るのは、自分以外にはもう一人し
か居ない。
すなわち、多汰美。
(なんやねん、この漫画かドラマみたいな展開は――っ!!!)
愚痴っても遅い。
再び気分が落ち着かなくなる。目の錯覚だと思おうとしても、この間眼鏡
を買い換えてばかりで、困った事に度数はしっかりと合っている。なるべく
平静を保って、開いている襖から居間を覗き込むと、窓の外を眺めながら多
汰美が佇んでいた。
聞かれてへんやんな……。
それは予想ではなく、ただの自分の願望。
一瞬で渇いてきた口の中を唾で潤して、真紀子は多汰美の居る居間に足を
踏み入れた。やはりここは、無視するほうがどう考えても不自然だろう。
「なんや多汰美、起きとったんかいな」
声が上擦らないか死ぬほど緊張しながら、真紀子は多汰美に声をかける。
一瞬だけ背中を震わせ、自分が好いている少女はどこか恐る恐ると言った
感じで、顔だけを振り返らせた。
平静を保っているように見えるが、どこかぎこちないのは気のせいではな
い。自分の知り合いの中で、きっと彼女が一番目か二番目ぐらいにとっさの
嘘――誤魔化しが下手だ。
八重と一緒で、彼女は自分に素直すぎる。
「う、うん。何やついさっき目が覚めたんよ。じゃけえ――」
だから、誤魔化そうとしても嘘をつこうとしても、すぐに分かってしまう。
「多汰美」
彼女の名を呼ぶ。
多汰美の喋る口がぴたりと止まり、辺りが沈黙に支配される。
躊躇は一瞬。聞かれているなら、もう臆する必要はどこにもない。
数秒で覚悟を決めた真紀子は、多汰美に核心を問う。
「さっきの電話、聞こえとった?」
うやむやにしてはいけない、と思った。
ここで誤魔化してしまっては、先に進むことができないと思った。
言ってしまえ、と心が叫ぶ。
曝け出せ、と感情が蠢く。
もう少し時間がいるかと思ったが、聞かれてしまっているのなら一緒だ。
バレてしまっているなら、早いほうがいい。
「――……うん、聞こえとったよ」
長い沈黙の末、多汰美は言葉を吐き出した。
そして、再び沈黙。
数秒とも数分とも思える静寂を先に破ったのは、多汰美のほう。真紀子の
ほうに背を向け、彼女は窓の外を眺めた、マキちー、と短く彼女の名を呼ぶ。
真紀子からの返事はない。彼女はただ、多汰美の次の言葉を待っている。
自分には何も言えない。ただ、彼女の言葉を待っている。
「本気、なん?」
それは問いかけと言うよりは、ただの確認。
多汰美の表情を伺えない真紀子からは、彼女の意図が読み取れない。
けれど、彼女の問いに答えることは出来る。
今にも涙で揺らいでしまいそうな真紀子の視界に入るのは、後姿の多汰美。
真紀子はその後姿に手を伸ばし、彼女の肩に手を置くと、多汰美は驚いたよ
うに一瞬だけびくりとその身を震わせる。
背を向けている多汰美の肩を掴んで引き寄せると、そのまま半回転させて
半ば無理やりに自分と対面させた。どこか怯えたようにわずかに俯き、多汰
美はどうしたらいいのか分からないと言った様子で視線を泳がせている。
二人ともどことなく息が荒い。
理由は分からない。ただ、どこか息苦しい。
しばし、二人の呼吸の音だけがあたりを支配する。
多汰美の視線が、ゆっくりと前を向く。
自分の瞳を射抜く真紀子の視線は、ただただ前を向いていた。
言葉を聞く前に、はっきりと分かる。
彼女の言葉に嘘はないのだ、と。
そして、真紀子の唇から言葉が紡がれる。
――本気や――
どうしたらいいのか、さっぱり分からない。
突き放すには身近すぎる相手。できれば傷つけたくないと、脳が自分を躊
躇させる。
けれど、何と言えばいいのだろうか。
好きか嫌いかと言われれば、そんなもの好きに決まっている。嫌えと言わ
れるほうが、嫌いな部分を言えといわれるほうが、よほど難しい。
だから、どうしていいのか分からない。
今、自分に言えるのは当たり前の、相手にも分かっている筈のことだけ。
身近だからと、予想外の相手だという以前に、自分が戸惑う最大の理由が、
そこにある。
「わ、私ら女同士なんよ……っ!?」
彼女が分かっていないはずがない。けれど、聞かないわけにはいかなかった。
「私かて知っとるわ、そんなもん!」
真紀子の叫び。
ふわり、と多汰美の頬に真紀子の長い黒髪が触れる。
何が起こったのか理解できないのではない。何が起こったのかやけにはっ
きりと理解できすぎて、逆に頭が働いてくれない。何をどうしたらいいのか、
さっぱり分からない。
抱きしめられている。
弱くもなく強くもない優しげな力加減で、自分は真紀子に抱きしめられている。
暖かい、と頭の片隅が冷静にそんな感想を述べていた。
真紀子の髪から、シャンプーの女の子らしいいい香りが漂ってくる。触れ
た身体は、柔らかい。
こうされることに不快を感じることもなく、むしろ心地よいと思ってしま
う自分はどうすればいいのだろうか。
ふと、多汰美はそこで気づく。
真紀子の肩が小刻みに震えている。
あ、と声を漏らしたのは一体どちらのほうだっただろうか。どうしたらい
いのか分からないまま、多汰美は自分の両手を宙に泳がせる。
「自分でも、どんなけ多汰美を困らせることゆーとるかも自覚しとる! けど、けどなぁ……!」
涙が零れる。鼻がつんとして、きちんと喋ることが出来ない。
止まらない。
とまらない。
トマラナイ。
零れ落ちる涙は、止まらない。
「私は、多汰美が好きやねん……! どうしようもないくらい、多汰美が……!」
とゆーわけで異様に前フリが長くなっていきます。
次の投下は日曜になるかと。
できれば次の投下では、エロシーンには突入したいでつなぁヽ(;´Д`)ノ
>685
乙です。
にわにしか目がいってなかった自分を、このSSで萌え殺してきます。
本編がちと怪しくなってる分、マジで嬉しい。
ところで、
http://lilych.fairy.ne.jp/ のサイトで補完始めたんですが、
コルァ、とか、タイトルこうして、とかあったらご一報ください。
18禁とか、非18禁とか、完全に独断ですし。
現在連載中の作品なども、後ほど掲載させていただくと思います。
>らいさん
最初予想してたよりシリアス路線でした。いいですね。
友情の一線を越える寸前の張り詰めた緊張感、すごくドキドキしました。
女の子同士が電話でお互いの好きな女の子のことを話してるシチュにも妙にハアハア!!
いや、前フリが長いほどエチシーンも盛り上がるような気がします。
これからもがんがってくださいね。
好きになってくれなくてもいい。
受け入れてくれなくてもいい。
変に思ってくれても構わない。
真紀子が望むのは、ただ一つ。
自分のことを、嫌わないで欲しい。
ただ、それだけ。
真紀子の身長はやや高い。
自分より頭半分ほど大きい彼女に抱きしめられ、多汰美はまるで男性に抱
きしめられているかのような錯覚を起こす。けれど、その身体に力強さを感
じることはなく、ただ、思ったよりも肩が小さいことに気づく。
やっぱ、女の子なんじゃねぇ……。
そんなことを頭の片隅で思う。
さて、と多汰美は思う。
抱きしめられているうちにだんだんと落ち着いてきて、頭の一部分が冷静に動くようになってきた。
考えるのは無論、今のこの状況。
自分は、彼女のことをどう思っている?
無論、好き、だ。
恋の相手として云々、一緒に暮らしているからはともかく、一個人として、
自分は青野真紀子のことが好きだ。
そして、自分は彼女のことをどうしたいと思っている?
受け入れるか、否か。
選択肢は二つ。選べる答えは一つ。
そして、選ぶのは自分。
答えは、決めた。
真紀子は顔を上げられない。
目を閉じ、肩を震わせたまま、多汰美の身体を抱いて涙を流し続けている。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
涙以上に、身体の震えが止まらない。苦手な犬に追いかけられても、子供
の頃に迷子になって孤独を感じた時も、こんなに怖いと感じた事はなかった。
後から悔いると書いて、後悔と読む。
過ぎ去った時間を戻す事も、言ってしまった告白を撤回する事もできない。
助けて欲しい。
でも、誰に?
助けて欲しい。
どうやって?
助けて欲しい。
助けて欲しい。
助けて欲しい。
タスケテ――
「マキちー」
名を呼ばれ、どこか別の場所に飛んでいた意識が一気に現実へと引き戻される。
気が付けば、肩に多汰美の両手が置かれ、軽い力が自分を押し返そうとしていた。
俯いたまま、真紀子は多汰美の身体からそっと離れた。
多汰美の手も離れる。
真紀子はまだ、俯いて涙を流したまま。
「――ほら、もう泣かんでもいいんよ」
何がと聞く前に、頭の上に多汰美の手が置かれた。
よしよし、と言った感じで、多汰美は真紀子の頭をそっと撫でる。
再び自然と、涙が溢れる。
けれど、それはさっきとまたは違った、安堵の涙。
自分と同い年の少女。その少女が触れる手は暖かくて、優しい。
そして、
「答えのほう、じゃけれども」
彼女の口から紡がれた言葉は、
「私は、マきちーのこと」
真紀子の頭の中を、
「好きじゃよ」
真っ白にした。
涙に濡れた顔を上げる。
歪んだ視界の向こうに浮かぶのは、多汰美の微笑。
あ、と嗚咽にも似た声を漏らし、真紀子は軽くむせ返りながら、涙声を喉
の奥から搾り出す。
「う、そ…や……」
それは自分が望んだ答え。
拒まれるのは覚悟していた。
嫌われなけばそれでいいと思っていた。
けれど、彼女の答えは、YES、だ。
予想外の答えに、喜びよりも先に戸惑いが生まれる。
望んだはずの答えなのに、脳のどこかがこれは現実ではないと否定する。
「た、多汰美がゆうてるんは、家族とかの好――」
両手で顔の左右を掴まれ、顔を下に向けさせられて、多汰美がわずかに上
を向いて、真紀子の顔に自分の顔を近づけ、そのまま唇が重ねられるまで、
二秒も掛からなかった。
さきほどの一方的なものとは違う、交し合う口付け。
本当の、キス。
重ねた時間は、ほんのわずかなもの。
驚きのあまり、感触を確かめる時間もなかった。
わずかな時間のはずなのに、互いの身体が火照っているのがはっきりと分
かる。熱を帯びた甘い吐息を吐き出し、多汰美は真紀子の目を真っ直ぐ射抜
くように見つめてながら、言う。
「家族の“好き”で、キスはせんじゃろ?」
最初の涙は怯え。
二度目の涙は安堵。
そして、三度目は喜び。
嬉しくて――嬉しすぎて涙が溢れた。
さっきからずっと涙が止まっていない。このままではそのうち枯れてしま
うんじゃないかと思うぐらいに、真紀子は涙を流し続けている。いっそ、枯
れてしまえばそれはそれで楽かもしれない。
「こ、後悔するかも知れへんねんで……!?」
「それは、マキちーも同じじゃろ」
自分から告白しておきながらこんなことを言い出す真紀子に、くすくすと
多汰美は笑ってみせる。
「いいよ」
優しげな笑みを浮かべ、多汰美は言い切る。
「マキちーじゃったら、私、構わんよ」
レズ? 何とでも言ったらいい。
同性愛者? 世界の十分の一は同性愛者だ。
変? じゃあ、普通ってのを説明してみろ。
体面? そんなものくそくらえだ。
好きならそれでいいじゃないか。
真紀子は自分が好きで、自分は真紀子が好き。それに何の問題がある?
ほら、何の問題もないじゃないか。
「多汰美ぃ……!」
真紀子が力強く多汰美を抱きしめる。自分の肩に顔をうずめる真紀子の後ろ
頭を、多汰美はまるで彼女の母であるかのように、優しくそっと撫でてやる。
「わたっ…ぜ、たい嫌、われる思…て………ごっつ怖ぁて……っ! 電話、
聞かれ…た思、たらっ………どうっ、していいか分からんで…っ! 勢いで
言うしかのうて……! でも、たたっ…多汰美がぁ……っ! わたっ…わた
っ…しっ…でええゆう…てくれてなぁ…っ! 私…ごっつう…れしいて…っ!」
声を出そうとしても言葉にならない。
自分自身でも何を言っているの代わらなくなりそうで、きっと、半分もま
ともに聞こえていないだろう。
それでも、多汰美は言葉の合間に、うん、うん、と頷いてくれた。
「泣き虫じゃねぇ、マキちーは」
ははは、と笑いながら、多汰美は真紀子の頭をまだ撫でている。
さらさらとした長い黒髪の感触が、心地よい。
693 :
らい:04/04/12 02:18 ID:k35J9fE7
遅くなりましたが本日はここまでヽ(;´Д`)ノ
目標のエロシーン突入は達成できませんですた……スマソでつ(汗
もう少しでやっとこさ突入できそうですが、前フリとエロシーンの長さの差が、
えらいことになりそうだ(゜∀゜;)
にしても、トリコロは意外に知名度あるんじゃねぇ……。
目標:今週中に完結……無理ぽ(マテ
694 :
砂の闘士:04/04/12 02:21 ID:eLFJkQu3
言い張るマルレンの眼に光るものを見、剣士はとたんにひるんだ。
「あ、あー…、すまん」
伸ばした指先で少女の目尻の涙をぬぐい、
「いじめるつもりはなかった。みずから物盗りの棲みかに連れてきておいて、泣かせては世話はないな」
ささやきながら細い腰を抱きよせると、屋根裏部屋につづく階段をともに上がらせた。
「おまえが、」
革の上衣と腰帯とを脱ぎ捨て、一重の肌着のみの軽い身の上になると、シェラは少女の瞳を見下ろし、
膝から寝台に体重を掛けた。
「求める物は、できるかぎり与える。だがわたしはおまえを閉じ込める気はない」
灰色の髪を肩先に垂らし、甘くけぶる褐色の目を近づけ、マルレンの頬にキスを残す。
「考えておくがいい。自分の本当の、心の在り処を」
「わたしはなにもいらない。あなたと居られれば、なにも恐くはないわ」
膝をそろえて座るマルレンが、正面からシェラを見すえて唇をひらく。
「ほんの少しでもいいから、あなたを手伝いたいの。シェラ、あなたは? あなたはなにを望むの? お国を取り戻したいのでしょう?」
「う…」
灰色のたてがみを持つ獅子は。
言いつのりながら海の色の瞳にて向けてくる、若い目から懸命に目をそらす。
マルレンは、差し出した右の手のひらで、
「だいじょうぶよ」
シェラの左胸、乳房の下側に触れ、脈を打つ心臓の鼓動を確かめるようにした。
「あなたはいまも、生きているじゃない。きっと、故郷の国を復活させることができるわ」
互いの視線が向かいあい、二人はひとつの心臓の脈動を感じ、共有する。
シェラは前へと身を乗り出す。わずかに胸の動悸が早まる。
胸に置かれていた手をとって握りかえし、二、三度言いかけてはためらった後、
「いや、だめだ……あれはもう、戻らない」
シェラはどうにか言葉を吐いた。
「幾人かの商人と話して知った、もう誰も私の故国に辿り着く道を知らぬ。人にその位置を知られぬ隊商国家などありえない。
かつての繁栄を覚えているものさえ、懸命に忘れたがっている。十年前にひどいことがあったので」
そこまでを言うとうつむき、固く握りしめている自分の手の甲を見つめた。
695 :
砂の闘士:04/04/12 02:22 ID:eLFJkQu3
「時と砂とが故国を埋めてしまった」
赤く充血した目を見開いたまま呟き、それきり黙りこむ。
「シェラ…」
マルレンが、伸ばした腕で剣士の肩を抱きしめる。耳元にて小さく尋ねる。
「悲しいの?」
「ああ、」
喉に絡んだ、かすれた声をゆっくりと絞り出した。
「涙を流せば楽になれるような気もするが、泣き方をもう、忘れてしまったんだ」
何も言わず、マルレンは顔を傾けて恋人の唇に口づけた。
「……」
シェラは黙したまま側にある白い肩に手をかけ、かすかに開いた唇のあいだに舌を差し入れる。
目を閉じ暖かい口腔の感触を、そおっと味わった。
肉の厚い下唇を軽く、かり、と歯をたてて噛むと、背中に強い腕を廻し抱きすくめた。
喉に舌をあて、舐め上げる。
696 :
砂の闘士:04/04/12 02:23 ID:eLFJkQu3
つい先ごろまで、むくの生娘であったマルレンは。
シェラ以外の者には身体を開いたことがない、世の男たちに、接吻さえ許したことがない。
いわば沼地より掬い上げた泥からこねあげた水差し、立木の幹を手ずから削り出して作った弦楽器のようなもので、その官能はシェラのつけた手の跡のみで造られている。
一からの調律を重ねた少女の身体を、シェラは最早思うままに鳴らすことができた。
きめの細かい肌の上で剣士の指先がかすかに踊り、掠めるだけで、その身は小刻みにふるえて高まり、
白い喉からは押し殺した悲鳴のような吐息がもれる。
「ん…」
後ろから抱かれると、ふたりの肌を隔てるのは薄手の肌着一枚のみで、いつにない密着感があった。
背中にシェラの胸が当たり、柔らかくつぶれている感触が伝わる。
腰や、内ももに、しっとりとした手のひらが当てられるだけで、身体の芯が痺れた。
「あ……はぁ…」
少女の腿のつけね、下着の中に、後ろから指を入れこすりあげる。
「濡れているぞ」
溢れる泉から引き抜いた、銀の糸を引く指先を見せつけるようにする、
「だって」
その腕に指で触れて、ささやく。
「あなたが好きだもの」
697 :
砂の闘士:04/04/12 02:24 ID:eLFJkQu3
「や、あ、あ……」
シェラは後ろ抱きにしている少女の手を取ると、羽交い締めにするようにして指先を圧しつけ、
自らの秘所に当てさせた。
嫌がり首を振る少女をじっくりとなだめつつ、手の力はゆるめずに強制を続ける。
やがて中指一本が、襞の内に沈む。マルレンはふかく息を吐く。
「う、ううんっ……」
自分自身をこれだけ深く弄るのは、生まれてはじめての体験だった。
「なんか、ヘンな感じ…」
自分の体の見知らぬつくりに、奇妙を感じた。熱くて、ぬめっていて、内側でざらざらとした突起が粒立っているのが判る。
「良くなければ、止めて良いが」
シェラがそう言うと、耳元に息を吹きかけてくる。
「ん……あ!」
押さえられている右手がさらに陰部を深く抉り、少女の姿をした楽器は、更に激しい音色を奏でた。
698 :
砂の闘士:04/04/12 02:25 ID:eLFJkQu3
−−−−−−−−−−−−
「聞きたいんだけど…」
背後から耳元にキスを受けながら、マルレンが声に出した。
「おっぱいさわるの、好きじゃないの? なんだかお腹のほうを、たくさん触ってるような……おなかの方が楽しいの?」
「いや、そういうことではないが……」
脇の下から差し入れた手を、じわじわと上へ撫で上げていたシェラは、ぎくりとした顔になる。
「……胸は揉むと、大きくなるからなあ。それが気になる」
「ええー」
下から胸の双丘を持ち上げ、両手でひたと寄せるようにして止める。そして言った。
「乳の成長はこのくらいで、停めておいたほうが扱いがいい」
「わたしは、大きくしたいけど?」
「いや、それはよくない!」
剣士はなぜか断固として言いはる。
「胸は大きくないほうが良い」
そう力強く言いきったが、しばらくののち、思い直したように眉を上げると、
「だが、マルレンがそういうなら……考えておこう」
肩ごとで引き寄せて白い乳房にキスをした。
699 :
砂の闘士:04/04/12 02:25 ID:eLFJkQu3
−−−−−−−−−−−−
王族として亡国を目撃し、全ての権利を奪われ、剣奴隷として売られるという苦汁を舐めても、シェラはいまだかつて、どのような困難からも逃げたことはなかった。
大前提としての小目的――その日その日を確実に生き延びる、
そして生涯を賭けた大目的――国と家族を滅ぼしたものへの復讐を果たすために、
あらゆる危険にも苦痛にもひるまず、半島に獅子が絶えかけるまで戦ったのだ。
それが、かつては一度――黒髪の貴族の娘、年端も行かぬ少女、マルレン=クィア=ルマームからは逃げだした。
闘士の本能に深く根ざした警戒心が、愛の前に心がゆらぎ、愛の甘い罠に落ち込むことをおそれた。
しかし、今、彼女は手の中にある。砂の闘士は全てを克服した。
もはや何一つ恐れるものはない。
剣士は、いまだかつて感じたことのなかった心の平安の中に居た。
寝床へ、裸で入るようになった。
なによりも明褐色の肌に白く走る古傷の多さに、マルレンは驚いた。
だが、すぐ慣れ、寄り添って眠るようになった。
700 :
砂の闘士:04/04/12 02:26 ID:eLFJkQu3
剣士は暮らしを変えようと、少女に合わせて昼に起き、夜に眠る努力をはじめた。
夜には寝所にて少女を腕に抱き、闇の中つれづれに色々な話をする。
なんといっても闘技の話題が多い。
獅子は、手負いにした方が倒しやすいのだと言う。獅子は猫じみた生得のかけひきを使い、こちらの手を読むので、なんとしても先に手傷を与えなければならないと。
寝物語にしてはなかなかにすさまじすぎるようだったが、ともあれ何であろうと
過去の事象を口に出すことが気晴らしになり、シェラの精神に良い影響を及ぼすようなので、
マルレンは全身を耳にして聞いていた。
ある夜。シェラは、実は妹がいると言い出した。
「私と五つ違いなので、」
「生きていれば、十六かな」
生きていれば……とあっさりと言う。
「あなたと似ているの?」
似ていないと思う、とシェラは言う。なぜならば、
「私と妹とでは、色がそろっていない」から、という表現を使った。
それはどうやらシェラの親族内で使っていたらしき言葉で、二人で並ぶと色合いがまるで違う。妹は黒髪に黒い目、白い肌だったと。
「お名前は?」
「アイラ。アイラ=イスファ=マルジャーン」
701 :
砂の闘士:04/04/12 02:27 ID:eLFJkQu3
−−−−−−−−−−−−
世界の富の四分の一を抱く、光り輝く王都アッシュール。
この地にしろしめすササン王は、大量の愛妾を持ち、あらゆる部下を信用せず、
国庫の無駄遣いが大好きな……まあ半島の歴史にかんがみても、ごく普通の凡庸な王であったが、
ただひとりだけ彼の氷の心をとろかす、愛する娘を後宮にて養っていた。
王唯一のお気に入りの公女、金の髪をもつアイーシャ姫。
御年は数えてまだ八つ。
明るい色の髪を揺らして、贅を凝らした緑の庭園をかけまわるその健康な姿は、
誰の顔にも微笑みを浮かばせるに充分な愛らしさであった。
だが好事魔多し。王城は魔に無防備であった。
ふいに空中から現われた、黒髪の少女が笑顔とともに差し出した手を、疑うことを知らぬ幼い姫がつかむ。
その瞬間、その小さな姿がもろともにかき消えた。
居並び見つめていた侍女らの目の前で。
◆続きます◆
>>693 らい様
すごく感動しました!
良かったね、マキちー。・゚・(ノД`)・゚・。
エチシーンも楽しみにしておりますよ〜。
>らいさん
あいやー!ご馳走さまです。
嫌いにならないでどころかすっかり親密な雰囲気ですねw
多汰美ちゃんのどんな反応かどうだか、こっちまでドキドキでした。
このあとのエッチが盛り上がりそうでワクワクです♪
>腐男子さん
むふふ、シェラ様てけっこうエッチですね。こないだまで
キスも知らなかったマルレンちゃんにソロを演奏させるなんて。
それとも雌虎も恋をして丸くなってきたんですかね。と思ったら
訳ありっぽい妹の行方も気になるし、別の姫さまも神隠しになっちゃうし…。
大作になりそうですね。楽しみです。
>腐男子氏
シェラのロリコン説、(・∀・)サイコー
でもマルレン攻もきぼんぬ
705 :
腐男子:04/04/17 02:39 ID:Fh86xaQd
>704
では脇道を一片。
706 :
砂の闘士:04/04/17 02:40 ID:Fh86xaQd
朝は昇る太陽とともに目覚め、夜は闇に抱かれて安穏たる眠りをむさぼるという、
天の運行に即した生活に近づこうとしたシェラだが、
一方そのために夜に行う仕事の精度は、いくらか下がったかもしれなかった。
街での盗賊稼ぎを終えたある夜。
剣士シェラは木の戸板に載せられ横にされたまま、宿へと帰るはめになった。
運び込まれた入り口から廊下にかけて、床に点々と血の跡が残る。
狭い小路での密集時に暗い空より、蝙蝠じみた魔物の黒い爪に襲われた結果だが。
「すんません、大将、」
見るも不憫なほどうちしおれた若手の錠前破りが、頭領の枕元わきで膝をつき、幾度目かの詫び言を愚直にくりかえす。
「俺が逃げるの遅くって、こんなことに…俺がやられればよかったのに」
「気にするな」
横たわるシェラは前髪の下の額にいくらか、苦痛による汗をにじませていたが、部下の手を取り励ますように言ってのける。
「ただの悪運の差だ。また、仕事を頼む」
「ほんとにスイマセン…でした…」
老いも若きも景気の悪い顔をつきあわせ、そろってしょんぼりとしている盗賊団一同の前に、
急を聞いた元締めの老婆が奥の間より、杖をつきつつ現われ出た。
一喝で、しおたれた盗賊どもを解散させた老婆は。
食堂の隅に並べた粗末な木の椅子にシェラを座らせ、持参した手箱の中身を机の上に広げると、その傷に検分の目を向けた。
膝の下、肉の見える傷口へ清潔な油をふりかける。
すねにこびりついた血を拭いとり、指先で皮の下の骨の状況を診てとる。
傷の上からしばらく指で探っていたが、瞬間、ごり、と骨が動かされる音がして、
「うっ」
褐色の喉からこらえていた息が洩れる。
「うむ、なかなかきれいに折れとるし、もう大方くっついた」
老婆は自得がいったように頷いた。
「無理をして歩かず、運ばれて帰ってきたのがよかったようじゃな」
怪しげなどす黒い緑色、かつ飴のように粘りけのある軟膏を、乳鉢から指ですくい取り、
すねの上にたっぷりと盛りつけると、当てた添え木ごときりきりと包帯を巻きつける。
707 :
砂の闘士:04/04/17 02:42 ID:Fh86xaQd
シェラは、白く布の巻かれた膝の上へ片手をかばうように置くと、老婆へ上目づかいに尋ねた。
「完治まで、いかほどかかる?」
「フツウの人間なら一ト月」
老婆は手のひらの塗り薬を拭いながら、
「じゃがおまえのことだから、三日もすれば癒るじゃろ」
その手から差し出されてうけとった小さなカップを軽く傾け、ぬるい薬湯を呑みこむ。
飲み終え不意に、首をがくりと垂れたシェラは、その場で机につっぷして眠りこんでしまう。
−−−−−−−−−−−−
宿に住まう遊び女らは、食堂の隣室に集い寄り添って、壁の向こうの治療のようすに聞き耳を立てていた。
負傷の報を聞いておろおろどきどき、青ざめているマルレンは幾人かに囲まれて抱きよせられ、長く黒い髪をしずかに撫でて貰っている。
やがて、壁に耳をつけていたひとりが一同を振り返る。
「三日ですって。全治」
とたんに、部屋の空気が和らいだ。
「ほら、言ったでしょう? シェラ様はだいじょうぶだって!」
「闘士だし、頑丈だしねえ」
「よかった、よかった!」
マルレンを囲んだ遊び女たちは互いに手を打ち合わせ、しきりに抱き合ってははしゃいだ。
「そういえば……」
祝いのワインの栓を抜きつつ、ふとひとりが言い出す。
「昔はお大尽がケガをしたりすると、たまに幾人かでまとめてお屋敷に呼ばれたわね。さもなくば、向こうから輿を仕立ててのり込んできて、一ヵ月ぐらい居続けたり……」
「ああ、たまにあったわねえ!」
女たちの思い出話に、一度に花が咲きだした。
「あれは、手コキだけですむから楽なのよね〜、払いもいいし」
「?」
708 :
砂の闘士:04/04/17 02:43 ID:Fh86xaQd
交わされる話の内容はよくわからないながら、食堂から聞こえる移動の足音につられて、
マルレンが上へあがろうと腰を上げると、
「ああ、マルレンちゃん」
酒盛りをはじめた女たちから、あいまいな微笑とともに刺繍のされた小物入れを手渡される。
「これ、もっていきなさいな」
「お見舞いよ」
お礼を言って、押し開けた扉の先の廊下では、老婆付きの下男らが意識のない剣士の身を
担架にかつぎあげ、屋根裏部屋へと登っていくところである。
709 :
砂の闘士:04/04/17 02:44 ID:Fh86xaQd
屋根裏部屋のベッドは、少し前から二人用の大きなものに替えてあったが、
その夜はやはり誰もがそれなりに動転していたとみえ、小さくとも少女のためのベッドをひとつ、
運び入れておくということに思い当たる者がいなかった。
そのため、マルレンは、剣士が薬による眠りから目を覚ますまでずっと、その側に椅子を置いて
座り、祈るようにしてただ、身じろぎもせず眠る寝顔を見つめていた。
そうやって半刻ほどが過ぎ、夜も更けきった頃。
横たわり沈みこんでいた眠りの底から浮かびあがったシェラがぐいと目を開けると、
まず第一にその視界に飛び込んだのは、こちらをのぞきこんでくる少女の、控えめな微笑みだった。
「大丈夫、ご気分は? どこか痛いところはある?」
「……」
両の目玉をぎろりとめぐらせ周囲を見わたした後、灰の剣士は小さく呟く。
「折った方の足が、動かない。感覚もない」
「え? どうしましょう、それは……」
驚いた声をあげるマルレンに、
「いや、問題ない。薬のせいだろう」
シェラは静かに声をかけると半身を起こし、腕の力で右脚をもちあげ膝を立てた。
「いまは、塗り薬とさっきの茶とが効いていて、いずれ三日ほどで元のように動くということなんだろう。婆さんの治療では、以前にもこんなことがあった」
見わたして、ふと気づいたように顔を上げる。
「予備のベッドが無いのか?」
こくりとしたマルレンへ優しい目をやり、敷布の脇をぽんと叩いて言う。
「なら、こちらで横になれ。狭くもなかろう、こちらはどうせ、寝返りも打てない体だ」
マルレンはちょっと目尻をぬぐって、シェラにほのぼのとした笑顔を向けると、
「また眠る前に、少し水を飲んだら? とってくるから」
夜着の裳裾をひるがえし階下に消えた。
710 :
砂の闘士:04/04/17 02:45 ID:Fh86xaQd
「これは……」
ベッドのそばにあった刺繍袋へ無聊の手を出したシェラが、
転がり出た小物――白い鹿の腹の皮と紫色の香油のビンとを、指先にてつまみあげる。
けげんな表情をしているシェラに、階下から戻ったマルレンが説明を加えた。
「さっき、貰ったの。おねえさんたちが、あなたのお見舞いにって」
「よりによってそれか」
鼻の根にわずかなシワを寄せ、シェラは一式を小物入れごと放り捨てた。少し離れた椅子の上にぽとりと落ちる。
剣士は咳をひとつ、ごほっと鳴らして言い捨てた。
「やつらの邪悪な企みが手に取るようだ」
「じゃあく……?」
「いいんだ。お前は気にするな」
「はい」
ごく素直にうなずいて、マルレンは寝台上のシェラへ水の入った茶碗を手渡した。
カップの水を干したころ、話題がふたたび、椅子の上の手土産に戻る。
「これって、香油でしょ?」
「ああ、」
茶碗を脇によけると、シェラは身体の位置を奥にずらし話を継ぐ。
「厄落としのためだな。私のこれが呼び水になり、皆が次々に怪我でもしたら、宿の商売が立ち行かなくなるだろうから」
「ああ、そうなの。おまじないね」
頷いてマルレンが寝台にあがり、手にとった鹿の皮に瓶の香油を染み込ませた。
「塗ってあげる」
「いらん、もう寝る」
あからさまに嫌がる顔をしたシェラは、寝具の上掛けをとりあげ頭までを覆い隠す。
しかし剥がされた。
711 :
砂の闘士:04/04/17 02:45 ID:Fh86xaQd
「なによ、逃げなくてもいいでしょう。ねえさんたちの好意じゃないの」
「善意なんかであるもんか」
白い手が掛け布を強引にはぎ、肌着の下に腕を差し入れる。
多数の傷が走っているコーヒー色の肌が、室内の夜気にさらされた。
「いらんと言っているのに」
剣士は心の底からそう訴えながらも、片方の足が動かず大きく身をよじれないため、抵抗をはっきりとは示しづらい。
と、少女の指を芯にした鹿皮の白いかたまりが、シェラの耳の後ろの皮膚をふいに触れた。
とたん、反抗のうめき声が消え、剣士は口を閉ざし黙りこむ。
幼子の頬の柔らかさに例えられることもある、最上等の鹿の皮である。
「ね、やっぱり拭いたほうがいいでしょう?」
マルレンの指先がなめらかになぞっていく肌、灰色の髪の生え際から首筋にかけてを、上等の香油が放つ爽やかな芳香が飾っていく。
裸の鎖骨を撫でられ、声が洩れた。
「く、ふっ……」
うめくシェラの表情を、少女が覗きこんだ。
「きもちいいの?」
「いや、薬のせいか、何か、感覚が……」
瞬きをしながら、どぎまぎと声を吐く。
712 :
砂の闘士:04/04/17 02:47 ID:Fh86xaQd
寝台に半身で横たわり、シェラのすぐ側でふざけた風の笑みを浮かべ、マルレンはあきらかに明褐色の肌と戯れることを楽しんでいた。
つんと天井を向いた乳房の先を、触れるか触れないかの距離でつつく。
「こら」
叱る言葉も言い飽きつつあったが、
「そこまでしなくていい」
シェラが少女のほうへと顔を傾けて非を鳴らすと、黒髪の少女はちょっと上気した声をあげる。
うつむいた頬には血の気の紅がさし、蒼い瞳が大きくうるんで、ひどく色っぽい風情があった。
「あら、だって……」
指先に香油の薫る皮を挟みこみ、横たわっていても張りのある胸を撫で上げながら、マルレンがうっとりと呟いた。
「あなた、いつもわたしが『やめて』って言っても、やめないじゃない?」
「それは」
首を起こして反論する。
「声の調子をみているんだ、本気で嫌がっている時にはやめている」
マルレンもこくり、頷いて、
「うん、だから……今も」
言いながら鎖骨へと頬をすりよせ、唇を近づけた。素肌に息がかかる。
「ふ」
「やめて……ほしくないでしょ?」
「……」
張り詰めた明褐色の乳房に軽く広げた手のひらを添わせ、薬指いっぽんでそっと乳首をはじく。
「ふッ」
「だって、こんなにきもちよさそうに……尖ってるのに」
マルレンは尖りの先を小さな口に含み、舌の全体で舐めあげた。
「くぁっ、う、うう…ん…」
うめき声が洩れる。
治療時に飲まされた薬茶のせいなのか、全身の感覚が熱にうかされたような重苦しさを帯びており、
シェラはときに、熱い電撃のような、鈍い刃で肌に浅く、傷をつけられているかのような甘い痛みにさいなまれた。
713 :
砂の闘士:
夜の帳がうっすらと明けはじめ、小さな窓には天からの白い光が垂直に差しこんでいる。
思うように身体の動かせないシェラの上へ、裸身の少女が手をついて乗りかかる。
脚を抜くことのできない下穿きは、短刀をつかって切り裂いてしまった。
マルレンは長い髪を揺らしてかがみこみ、下腹、灰色の茂みに唇をつける。
「舐め……ないほうがいい」
シェラは唸り、その行為を停めようとしたが、きかない。
「汗で汚れている」
とっさに身を引こうとしたが果たせない。
(ええい)
シェラは一念発起をした腕をぐいと伸ばし、少々乱暴に少女の顔をこちらへと引き寄せ、
その唇をキスでふさいだ。
「ん…」
互いの熱い舌を絡ませると、マルレンは両手で褐色の首筋にしがみつく。
マルレンの体の重みが上半身にかかり、ふたりの裸の胸が潰れこすれあった。
シェラはどうにか、腕に力をこめると、上からまたがらせた恰好のまま、片手で相手の全身を支え、
もう一方の指を。
「あっ…」
濡れきった襞のあいだに差しいれる。ゆっくりと、ねじりこむように。
ただ、それだけで。
獣のように脚を広げてまたがっている、白い身体が雷鳴に打たれたかのようにびくり、せりあがった。
「んっ、あ、んぁあ…」
マルレンは白い喉をそらし、腰をうねらせる。
秘所に食い込んだ指先を、腕ごとでふるふると揺さぶってやると、
透明な滴が腕をつたって、ぽつ、ぽつりとシェラの平たい腹の上に垂れて落ちた。
(はぁ…)
のしかかられている形のシェラは、吐息をつきながら首をめぐらせ、うつむき加減にヴォリュームを増している乳房に口をつけると、音を立てつつ吸いついた。