風来のシレンのエロ

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590ケヤキSS(前)1
──ここ数年前から……幼子を怪物の生贄に捧げるという1つの小さな村があった
その村の名は…月影村といった──

…人通りが少なく質素な平屋が建ち並ぶその通りに1人と1匹がいた。
1人は大きめの三度笠に縞合羽を身につけた風来人、1匹は今でいうフェレットのように白い毛を持ったイタチだった。
「おい、シレン…村長にこの村の秘密聞きに行こうぜ!」
「あぁ…そうだな…」
俺の名はシレン。
各地を渡り歩いてきた暇…ではなく風来人だ。
今回…この辺りで相棒である語りイタチのコッパとはぐれたんで探しにこの村に来たんだが…。
その最中、ここでは子供を怪物に渡すとか何とか聞いたから放っとけなかった。
現にフミという女の子がここに俺が来る時に連れて行かれるのを見ている。
しかもあのテーブルマウンテンのような不思議のダンジョンまでもがあった。
俺はどうにかこうにか鉄砲玉の如く飛び出した村長の息子ナギを連れ帰り井戸に落ちていたコッパとも再会出来た……が、どうもこの村には秘密が…と、それを今からここの村長さんに…
「シレンさ〜ん!」
俺が今までの事を考えていると後ろから知った人の声がした。
「ん?」
俺が振り返るとそこにいたのは猫を前に抱えたケヤキちゃんだった。
ケヤキちゃんは月影村の近くに住んでいて俺が世話になっている民宿『ととや』の手伝いに来ている。
おとなしくも優しいいい娘だ。
「こんな所でどうしたの?」
「あ、いや…ちょっと散歩を…。な、コッパ」
「え?あ?あぁ、そうだよ」
コッパは不意に振られ少し慌てながら答える。
591ケヤキSS(前)2:04/06/03 16:31 ID:j5okzUJ6
「そうなんだ、けっこういい所でしょ?ここ」
ケヤキちゃんはやんわりと俺とコッパに微笑みかけた。
「そうだなぁ…でもこの村の人…」
「えっ?」
ケヤキはコッパの言葉に首をかしげる。
「いらん事言うな!…うらぁ!」
間髪入れずシレンの振る足が空を切る。
シュッゲシッ!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
コッパはシレンに蹴りを入れられ見事にロクロウの家の先までふっ飛んだ。
ヒュー…ドサッ
「ん?…父ちゃん、スカンク拾ったー!」
タグラは不意に落ちてきたコッパに動じもせずむんずと首ねっこを掴むと家に入っていった。
「よしよし…ってそれイタチじゃねぇか」
「えー?」
「鍋にするか」
「わーい!」
「!?」

「ありゃま、よく飛んだなぁ」
シレンは額に手を当てて向こうを見る。
「シレンさん…動物は大切にしてね…」
「迎えに行くかな…すまなかった」
シレンは心配そうにしているケヤキの肩をポンと叩き言う。
「はい。でもさっきのいらん事って…」
ケヤキは少し照れながら返す。
「あっ、いやあれは何でもないさ。ケヤキちゃんには問題無いから!」
「そうなんですか?」
「そうそう!」
そして俺達はロクロウの家に来た。
「あ…いい匂いがする…」
「ホントだ…ん?何か嫌な予感が…」
592ケヤキSS(前)3:04/06/03 16:35 ID:j5okzUJ6
「はーなーせー!!」
コッパはタグラに今だに首ねっこを掴まれジタバタしていた。
「父ちゃん、このスカンク喋ってる!」
タグラはコッパに興味津々のようである。
「はっはっは!タグラ、喋るイタチなんざシレンさんの相棒のあのイタチくらいだ」
「もしもし?」
シレンはケヤキを連れ中に入ってきた。
「お、シレンさん。丁度いい所に来た!ケヤキちゃんも一緒か」
「ロクロウさん…そのイタチ、シレンさんの相棒のコッパさんですよ」
「え…?」
ロクロウはマジっスか?みたいな顔つきで手に持ったお玉をぽろりと落とす。
カシャーン…

…俺は鍋にされそうになったコッパを助け今はととやの一室にいる。
「…なーんであそこで蹴るかな」
「お前がいらん事喋ろうとするからだ」
「ぐっ…」
「とりあえず一休みしたら村長さんの所へ行くぞ」
「へいへい…じゃオイラ昼寝しよっと」
そう言うとコッパは部屋にの片隅に積まれた布団の上に飛び乗る。
トントン
ふと誰かが襖を叩く。
「シレンさん、いますか?」
「いるぜ」
「失礼しますね」
おずおずとケヤキが部屋に入ってくる。
「何かあった?」
「タンモモが…いないの…」
タンモモはケヤキちゃんが可愛がっている野良猫で俺も1度世話になった…ダンジョンで。
事もあろうかあの猫、俺に攻撃しやがって…そのせいで俺はあの時に…
「シレンさん?」
1人憤慨しているとケヤキちゃんが不思議そうに俺の顔をのぞき込む。
593ケヤキSS(前)4:04/06/03 16:37 ID:j5okzUJ6
「おわっ!」
「難しい顔してたから…シレンさんもタンモモの事心配?」
「…も、勿論!」
「良かった…」
ケヤキちゃんは相当な猫好きでタンモモ以外の野良猫も可愛がっているらしい。
俺は見た事無いが…。
「とりあえず探しに行こう」
「はい」
俺達は部屋を出るとととやの前で立ち止まる。
そこには酒瓢箪を手にした薬売りのヨシゾウタがいた。
「これはこれは…お2人さん。どうかしたんで?」
「あれ?ヨシゾウタさんまだいたの?」
「シレンさんそりゃひでぇ。俺はまだ薬1つも売ってないんでさぁ」
ヨシゾウタは背中の薬箱を指さすと瓢箪の栓を抜く。
「どうだい、前言った通り一杯やらないか?」
「今ちょっと用があるからまた今度に」
「そうかい…ん、ケヤキちゃんもいたのか」
「こ…こんにちは」
ケヤキは何処かそわそわしながら答える。
「おっとっと、こりゃ失礼だったな。そんじゃまお邪魔虫は消えるとするか」
「何だったんだ…」
シレンとケヤキはカッカッカ…と笑いながら供養峠の方に行くヨシゾウタを見送った。
するとヨシゾウタは供養峠への入り口の手前で立ち止まり叫んだ。
「そうだぁ!さっき野良猫を神社で見かけたぞぉ!股が短い妙な猫!」
「え?」
「タンモモだ!」
俺はケヤキちゃんの手を握り駆けだした。
「あ!ま、待って…」

神社への階段を駆けあがりついた先には賽銭箱の隣で眠りこけているタンモモの姿があった。
ケヤキはその姿を見て安堵の息をつく。
594ケヤキSS(前)5:04/06/03 16:48 ID:j5okzUJ6
「あぁ良かった…」
「行ってやりなよ」
「ありがとう、シレンさん」
満面の笑みでケヤキはシレンを見る。
「う…あ、いや礼ならヨシゾウタさんに言いなよ。あの人が教えてくれた訳だし」
「………」
途端に黙るケヤキ。
「ん?どうかした?」
「…えっ?何…でもないの」
「…ならいいけど」
「じゃあ私タンモモの所に行くね…」
そう言うとケヤキはタンモモの元へと向かう。
「する事無くなったし…ととやに戻るか」
足早でととやに戻ってみるとコッパが小さな鼾を立てながら寝ていた。
「俺も…寝るか」
俺はゴロンと寝転がって…やがて深い眠りに落ちていった…。

「…お……レン………シ…レン……おい……」
誰かが俺を呼んでいる…。
「後5分だけ…むにゃ…」
「何が5分だけ、だ!起きろ!そりゃ!」
バシン!
コッパは枕で小気味良い音を立てながらシレンの顔をぶっ叩いた。
「むにゃ……んん!?」
ガバッと飛び起きたシレンはきょろきょろと辺りを見回す。
「はい、起きたな。さっさと行こうぜ」
「…………あ、そうか。村長さんか」
(さて…どうなる事やら…)

俺達が外に出てみるとすっかり陽が落ち闇に満たされていた。
「…おいおい、もう夜じゃないか…」
595ケヤキSS(前)6:04/06/03 16:58 ID:j5okzUJ6
「あははは…オイラ達寝すぎちゃったなぁ」
「笑ってる場合か!とにかく村長さんの所へ行くぜ」
…それにしても流石は夜。
人っ子1人もおらず聞こえるのは虫の音だけ。
俺達は村長の家の前まで来たが…何か妙な気配が…。
「シレン…」
「あぁ…分かってる」
俺は刀を構え恐る恐る扉を開ける。
コッパは素早く道具袋の中に入っていった。
「せーの…それっ!」
ガッ…ガララッ!
「むっ!」
「な、何!?」
何とそこには多勢のモンスター達がいた。
気分はさながらモンスターハウスに入った感じで…。
「どっ、どういう事だ!?」
すると奥にいたきりせんにんが一歩前に出てきた。
「落ち着いて下され…ワシらは何もせん」
「その声は…」
「そう、ワシじゃよ。村長じゃ」
シレンは村長の変貌に驚いた。
「シレンさん…そろそろあなたもこの村について疑問が生まれる頃だと思うておりました」
「え?」
「村の者から色々聞いておりましてな…」
「………」
そして俺達は月影村の重大な秘密を知る事となった…。

その頃、神社脇の森で…。
「ふぅ…ふぅ……」
大樹の陰で綺麗な銀の毛を持つ巨大な猫が息をつきながら横たわっていた。
その姿はまさに化け猫と言わんばかりだった。
596ケヤキSS(前)7:04/06/03 17:00 ID:j5okzUJ6
「…苦しそうだなぁ。まぁ今夜は満月…力が強まってるからか…」
「!?」
不意に巨大猫の頭上から声がした。
太い木の枝に立っていたのは…あの薬売りヨシゾウタだった。
「ふうぅぅぅぅ…」
巨大猫は全身の毛を逆立たせ激しい威嚇をし始める。
「まぁそういきり立ってくれるなよ…ククク」
「がぁぁぁぁっ!!」
ズジャッ!ダダン!
巨大猫は瞬時にヨシゾウタのいる所に飛びかかった。
「…甘い」
ヨシゾウタはそれをひらりとかわし懐から丸い何かを取り出すと巨大猫に投げつける。
「!…シャアッ!」
しかし、爪で一刀両断される。
スパッ!ボファ…
丸い何かは真っ二つに割れ中からモヤモヤとした煙のようなものが発生した。
「ヨシゾウタ特製の…丸薬・浄帰陣…」
ヨシゾウタは手布で口を覆いながら呟く。
「……」
だが巨大猫はその煙が危険なものと気付いてか、とっさに飛び退いた。
「無駄だ…そいつの効果範囲をなめるなよ」
煙は増大し飛び退いた先にいた巨大猫をあっさり包んだ。
「…さぁ戻れ…人の姿に…」
「がぁぁぁぁ…ぁぁ……ぁ…………」
シュウゥゥゥ……
そして煙が僅かに晴れる。
「ククク……」
巨大猫がいたそこには一糸纏わぬ姿で倒れているケヤキの姿があった…。