【ここで】フォーチュンクエスト【ない場所】

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570トラパス 演劇舞台編 7:03/09/23 22:52 ID:geCdYF6k
「っだあああああああああああ!! おめえいいかげんにしろよな!!」
 バンッ、と壁を叩いて怒鳴ったのはトラップ。
 本番まで後二週間、というところに来て。わたし達も何とか台詞と動きを覚えて、本格的な通し練習に入った頃だった。
 でも、相変わらずねえ、その……わたしの演技の方が、いまいち上達しなくて。
 だって、そもそもトラップと目を合わせることができないんだもん! あんな真剣なトラップの視線を受けたのは初めてだったから、どうしても照れちゃって。
「確かにねえ……パステル。もう二週間も経つんだから、いいかげん慣れてもいいと思うんだけど」
 そう言うのは、クレイと練習していたマリーナ。
 そうそう、さっきの説明では、わたしとトラップサイドがメインみたいな書き方だったけど、実は芝居そのものは、わたしとトラップ、クレイとマリーナのサイドを交互に織り交ぜてやるのよ。
 そうやって、お客さん側の方から見るとお互いの事情がよくわかるから、ハラハラ感が増すような仕組みになってるんだ。
 つまりは、どっちの組もそれなりに出番も台詞も多いから、一度台詞を覚えてしまったら、改めてもう一度覚えなおすのは辛い、ってことなんだけど。
 それで、しばらくはわたしとトラップ、マリーナとクレイに別れて練習してたんだよね。
 もっとも、マリーナとクレイは、息もぴったりでもう練習の必要なんかないんじゃない? ってくらいなんだけど。
「ほれ、もう一度行くぞ。目えそらすな、顔動かすな、後笑うな!」
「う、うん……」
 トラップの指導のもと、わたしは言われたとおり、トラップの目をじっと見て……
「にらみつけてどーすんだ!! それが好きな男に向ける視線かよ!?」
 ううっ、難しいよう……
 そんなわけで、練習はちっとも進まないのだった。
 
571トラパス 演劇舞台編 8:03/09/23 22:54 ID:geCdYF6k
「こうなったら、荒療治で行くことにするわ」
 本番まで後一週間というところ。そこで、マリーナは重々しく言った。
 荒療治って、やっぱりわたし……だよね?
 ううっ、何するんだろう。
「大体ね、パステル。あなた、自分が思っているほど筋は悪くないわよ? わたしやクレイとのシーンは、それなりにうまくできてるじゃない」
 マリーナの言葉に、クレイもうんうんと頷いている。
 そうなんだよね。トラップだけじゃなくて、マリーナとの会話とか、クレイとの会話とか(最初は恋人同士の設定だもんね)、四人での会話とか。
 そのあたりのシーンは、割と自然にできるんだよね。じゃあ、どうしてトラップと二人のシーンだけ駄目なんだろう?
 ……普段と違和感がありすぎるからだよね。そうに違いない、うん。
「だからね、トラップと二人のシーンがうまくいかないのは、恋人同士の雰囲気、っていうのをよくわかってないからだと思うわ。
 クレイとのシーンがうまく行くのは、どうせその後で破局するから、ってわかってるからじゃないかしら」
 うーん、言われてみれば、そうかも。
 わたしがうんうんと頷くと、マリーナとクレイは顔を見合わせて……
 ……何なのよう、その「駄目だこりゃ」って言いたげな顔は。うーっ、二人とも何考えてるの?
「だからね、パステル、それとトラップ」
「……あんだ? 俺もか!?」
 それまで、ふてくされて(わたしに付き合わされてずーっと練習だもんね)寝転がってたトラップが、マリーナの言葉を聞いてとびおきた。
 でも、そうだよね。トラップはもう練習の必要なんか無いじゃない。すごく自然だし、うまいし、それに悔しいけどかっこいいし。
「うん。荒療治。パステル、明日一日練習はお休みして、トラップとデートしてきて」
「…………」
「…………」
 な、何ですって――!?
「おいおい、冗談はやめてくれよなあ。何で俺がこんな出るとこひっこんでひっこむところが出てる女とデートしなきゃなんねえんだよ」
 真っ先に文句を言ったのはトラップ。
 きいいいいい!! そんな言い方はないでしょー!?
 た、確かにわたしはマリーナと違ってあんまり胸は大きくないけど……
572トラパス 演劇舞台編 9:03/09/23 22:55 ID:geCdYF6k
「わ、わたしだって嫌! なんでトラップなんかとデートしなくちゃなんないのよ!!」
「おめえなあ! トラップ『なんか』ってどーいう意味だ!!」
 わたしとトラップがにらみあうと、マリーナがばんっ、と机を叩いた。
 うっ、すごい迫力……
「こうなったら、パステルには役になりきることを覚えてもらうわ。いい!? 明日一日、あなたとトラップは恋人同士よ。デートして恋人同士っていうのがどういう雰囲気かを身体で覚えてきてちょうだい!」
「ま、マリーナ、でも……」
「これは、依頼主からの命令よ」
 そう言ってにっこり微笑まれると……断れないよね。
 そして、わたしとトラップは、明日一日恋人同士になることになったのだった……
 
「うん、可愛い。似合うわよ、パステル」
「そ、そうかな」
 翌朝。わたしはマリーナの見立てで、デートにふさわしい服装、というのをコーディネートしてもらっていた。
 どうせ、そろそろ衣装とかも考えなきゃいけなかったしね。今日の服装が、そのまま本番のわたしとトラップの衣装になる予定なんだ。
 さすが、マリーナは貸し衣装屋さんをやっているだけあって、たくさんの服を持っていた。
 その中から選んでくれたのは、黄色のワンピース。
 スカートは膝丈くらいで、前ボタン式のノースリーブ。
 丈の長いブラウスみたいな形なんだけど、ウエストのあたりできゅっとしぼってあって、身体にぴったりフィットする形。
 その上から白いレースで編んだカーディガンを羽織るんだけど、うーん。普段こんな服着たことないから、似合うのかどうかよくわからないなあ……
 いつもは後ろでまとめてる髪はおろして、頭にワンピースと同じ色のリボンを結んでもらって、足元は白いローヒールのパンプス。
 ちょっぴりお化粧もしてもらって、完成。
「うんうん、やっぱりわたしの目に狂いはないわね。ぱっちりよ」
「そ、そうかなあ……」
 ううーっ、不安……
「おーい、そっちもういい?」
 そのとき、隣の部屋から聞こえたのはクレイの声。
 あっちはあっちで、トラップの衣装合わせしてるんだよね。
 ほら、彼は普段の服装が、ちょっと……あれな人だから。
 本人にまかせたらどんな服着てくるかわからないから、クレイにまかせたんだけど。
573トラパス 演劇舞台編 10:03/09/23 22:56 ID:geCdYF6k
「ええ、いいわよ。ばっちり。そっちは?」
「俺のセンスでまとめさせてもらったけど……どうかな?」
 そう言って、ドアが開いた。
 クレイに押し出されるようにしてこっちに来たトラップは……
 思わず、ぽかんとしてしまう。
 え? 誰、この人? って本気で考えてしまった。
 いつもの赤毛をまとめた髪の上には、黒いキャップがつばが後ろを向くように被せられていて。
 さすがに男の子だから化粧はしてなくて、顔は普段のままなんだけど、その服装が……
 黒の革靴とスリムパンツ、ウエストから裾を出した赤いシャツの上から、深緑色の長めのジャケットを羽織り、とどめに首からシルバーのシンプルなネックレスをさげたその姿は。
 ちょっと……いや、かなりかっこよかった。いつもの緑のタイツより、よっぽどよく似合ってるって!
「うーん、トラップの赤毛には、黒い帽子ってよく合うわね」
「どうかな。無難な服を選んだつもりなんだけど」
「舞台の上で着るなら、もうちょっと明るい色の方がいいかもしれないけど……」
 ぽかんとしてるわたしそっちのけで、マリーナとクレイが何か言い合ってるんだけど。
 話題の当人、トラップは、何だかすごく不機嫌そうだった。どうせ、自分が選んだ服はことごとく駄目だしされたんだろうなあ。
「まあ、いいわ。よく似合ってるし、トラップのセンスにまかせるよりよっぽどいいもの。じゃあ、本番もこれでいきましょう」
「っあのなあっ……悪かったな、センスがなくて!」
 マリーナの言葉に、ばっとトラップが顔を上げた。そして、初めてわたしの方に目をやって……
 何なのよ、その顔は。どうせ似合わないって言いたいんでしょ、ふん!
 トラップは、目を丸くしてまじまじとわたしを見つめてたんだけど、わたしがにらむと慌てて目をそらした。
 うーっ、どうせわたしはマリーナみたいに美人じゃないしスタイルもよくないわよ。悪かったわね。
「よし、じゃあ、二人には早速デートしてきてもらいましょうか」
 え、いきなり!? ま、まだ心の準備があ……
「デートったってなあ……どこに行けばいいんだよ」
「そんなの二人にまかせるわよ。ほら、行って行って」
 マリーナとクレイの二人にぐいぐいと押し出される。
 ちょっとちょっとお……
574トラパス 演劇舞台編 11:03/09/23 22:57 ID:geCdYF6k
「あ、それと!」
「んだよ、まだ何かあんのかあ?」
 トラップがすっかり諦めきった顔で振り向くと、マリーナがにっこり笑って言った。
「恋人同士なんだから、ただ歩いてちゃ駄目よ!! ほら、二人、腕組んで!」
 げげげげげっ、そこまでするのっ!?
 わたしは思いっきりうろたえてしまったんだけど、トラップは「けっ、どーにでもしてくれ」とでも言いたげな顔で、ぐいっとわたしの腕に自分の腕をからめた。
 そうすると、嫌でもわたしはトラップに密着することになるわけで……
 うっ、何だかすごくドキドキするんだけど……何でだろう。
「ほらよ。これでいいか?」
「うんうん、ばっちり! じゃ、楽しんできてね!」
 マリーナの楽しそうな声に押されて、わたし達は外に出た。
 マリーナ……実は面白がってないでしょうね……?
 
 エベリンの街は、何度も来たことがあるはずなんだけど。
 こんな風に歩くのは初めてで……ううっ、何だか緊張するなあ。
 ちらっとトラップを見上げると、彼は彼で、何だかすごく不機嫌そう。
 そうだよね。トラップはマリーナが好きなんだもんね……ごめんね、相手がわたしで。
 そうして、しばらく二人で歩いてたんだけど。
 いつもはうるさいくらいよくしゃべるトラップが、何だかすっごく無口で。
 ううーっ、会話が無いっ……やりにくいなあ……
「あ、あのさあ、トラップ」
「……あんだよ」
 トラップは、目をそらしたまま言ってきた。
 もーっ、恋人同士って設定じゃないの!?
575トラパス 演劇舞台編 12:03/09/23 22:58 ID:geCdYF6k
「もう、ちょっとはこっち見てよ。確かに、わたしのせいで悪かったとは思うけど……」
「けっ。わかってんならちっとは反省しろ」
 むっ。失礼な。反省はしてるわよっ……確かに上達はしなかったけど。
「だからっ……マリーナに悪いもの、ちゃんとやらないと。もうすぐ本番なのに、練習一日つぶすようなことになっちゃって。だから、わたし、ちゃんと恋人同士の雰囲気つかみたいから、それらしくしてよ」
 もっとも、どうやればそれらしくなるのかが、ちょっとよくわからないんだけど。
 わたしがそう言うと、トラップは何だか真っ赤になってた。……どうしたんだろ?
「お、おめえなあ、意味わかって言ってんのか?」
「? 意味って?」
「いや……わかってるわけねえよな。俺が悪かった……ほれ、行こうぜ。っつーかこのまま歩いててもしょうがねえから飯でも食おう」
 あ、言われてみれば、ちょっとお腹が空いたかも。お昼ごはん、まだだしね。
 トラップの言うことはよくわからないけど……ま、そのうちわかるでしょう。
 
 トラップが連れていってくれたのは、ちょっと静かな雰囲気のお店。
 お料理はすっごく美味しかったけど、わたしはもっとにぎやかに食べる店の方が好きかなあ。
 食べながらそう言うと、トラップははーっ、とためいきをついて、「ま、おめえはそうだろうな」って言った。「おめえは」って何よ。トラップは違うの?
 しかも、しかも! そのお店の代金、トラップが全部払ってくれたのよ!? あの人一倍お金にうるさいトラップが!
 信じられない……
 わたしがそうつぶやくと、トラップににらまれてしまった。
「恋人同士って設定なんだろうが!! 普通こういうときは、男が払うもんなんだよ!!」
 ……そうなの? へーっ。
 正直にそう言うと、トラップはがっくり肩を落としていた。「鈍い奴」とつぶやいてる声が……しっかり聞こえてるわよ。悪かったわね!
 とりあえず、食事が終わったらどこに行こうか……って話は結局まとまらなかったので、そのままぶらぶら散歩に出ることにした。相変わらず腕は組んだまま。
576トラパス 演劇舞台編 13:03/09/23 23:00 ID:geCdYF6k
 そうやって歩いてると、トラップって、細く見えるけど意外と腕とかたくましいなあ、とか。そんなことが意識されちゃって。やっぱり、こうして見るとかっこいいよね、とか思えてきちゃって。
 ううっ、何だろうこの気持ち? これが恋人同士の気持ち……って奴なのかな?
 ただ歩いてるだけなんだけど、エベリンの街はにぎやかで、それだけでも十分楽しかった。
 あっちこっちで露店が開かれたりしてるしね。普通のお店より安くて、しかも結構いい品物が置いてあるんだ。
「はーいお二人さん! よっていかない!!」
 わたし達に声をかけてきたのは、そんなお店の一つ。
 店を出していたのは、わたしとあんまり年のかわらない女の子で、にこにこしながら手招きしてる。
 売ってるのは、どうやら小さなアクセサリーみたい。
「ねえねえトラップ。ちょっと見ていってもいい?」
「ああ? ……ま、いいんじゃねえ?」
 もー、そんなあからさまに退屈そうな顔しなくたっていいじゃない。そりゃ、トラップにとっては興味ないだろうけどさ。
 そんなトラップをひきずるようにして露店をのぞきこんでみたんだけど。
 わーっ、すごいっ! 綺麗……
 本物の宝石ってわけじゃないと思うけどね。赤とか青とかキラキラ輝く石がふんだんに使われたネックレスとか、それよりもっと小さな石でシンプルにまとめられたイヤリングとか。
 わーっ、これ可愛いなあ……
 シルバーの細い金属が複雑に編まれて、中央にすっごく小さな白い石が花みたいな形にデザインしてある指輪。すごくシンプルなんだけど、細工はすごく凝ってるんだ。
 すごーい……もしかしてこれ、この女の子の手作り?
「安くしておくわよ。そちらの彼氏に買ってもらったら?」
 にこにこしながら言われた言葉。
 思わず、ボンッと真っ赤になってしまう。
 かっ、かっ、彼氏って……
 や、そりゃ、その、今はそういう設定で歩いてるんだから、そう見えるのはしょうがないんだけど……
 わたしが一人で慌てふためいてると、トラップの細い指が、ひょいっとその指輪を取り上げた。
 まじまじと見つめて、女の子に目をやる。
577トラパス 演劇舞台編 14:03/09/23 23:00 ID:geCdYF6k
「これ、おめえが作ったのか?」
「そうよ。全部わたしの手作り。いい品物でしょう?」
「ああ。いくらだ?」
「そうねえ……」
 女の子が告げた値段は……まあ、高すぎることはないけど、安いことはないっていう値段だった。わたし達のお財布では、ちょっと厳しいかな? っていうくらい。
 まあ、しょうがないよね。こんなに綺麗な指輪だもん。そう思って諦めかけたんだけど、
「んじゃ、もらうわ。ほれ」
「まいどっ!」
 トラップは、何のためらいもなく財布を出して、女の子にお金を渡していた。
 えっ!? いっ、いいの、トラップっ!?
 わたしがぽかんとしてるうちに、お店には他のお客さんがやってきて、トラップにひきずられるようにしてそこを離れることになった。
 うーっ、何だか申し訳ないなあ……
「ほらよっ、欲しかったんだろ?」
「そ、そりゃそうだけど、悪いよ。お金、後で払うから」
「おめえなあ……」
 わたしが言うと、トラップは呆れたようにわたしの左手をつかんで、薬指に指輪をはめた。
 わ、ぴったり。うーっ、こうして見るとやっぱり可愛いなあ。
「いいんだよ、遠慮すんなって。どうせ後でマリーナから必要経費もらうことになってんだから」
 ……余計にもらうわけにはいかないじゃない!
「わたし、返してくる」
「ば、バカッ。今更んな真似ができるかっつーの。ほれ、とっとと行くぞ!!」
 露店に戻ろうとしたわたしは、トラップにあっさりとひきずられてしまった。
 ううーっ、ごめんねマリーナ!! 指輪のお金は、絶対絶対後で返すからね!!
578トラパス 演劇舞台編 15:03/09/23 23:01 ID:geCdYF6k
 そのまましばらく歩いて、わたし達は公園のベンチに座っていた。
 そろそろ日が暮れそうな時間。ずっと歩いてて疲れちゃったしね。それに……
 何だか、ずっと腕組んで歩いてると、その、ドキドキ感とかが強くなっちゃって……
 もう、何なのかなあ。
 並んで座ってるトラップを見上げると、彼は相変わらず不機嫌そうだった。
 ……やっぱり、不満なのかなあ。いっぱい迷惑かけどおしだったしね。
 そもそも、わたしがちゃんと演技できれば、こんなことしなくてもすんだんだよね。
 よし、ちゃんと謝ろう!
「ごめんね、トラップ」
「あ? 何だよ急に」
 振り向いたトラップの顔は、夕陽に照らされていて……正直言って、かっこいい。
 いっつもクレイばっかり目立ってるけど、トラップだってねえ。黙ってそれなりの格好してれば、かなりかっこいいんだけどなあ。
「ごめんね、迷惑ばっかりかけて。ちゃんと本番がんばるから」
「けっ、どーだか。おめえは鈍いからなあ」
 むっ、何よその言い方。第一、鈍い鈍いって……さっきから何が言いたいのよ。
「何よ、謝ってるのに。そりゃ、巻き込んじゃって悪かったとは思うけど」
 言いながら、段々悲しくなってきた。
 トラップ、そんなに嫌だった? わたしとデートするの。
 わたしは、それなりに……楽しかったんだけどな。
「悪かったわよ。トラップがそんなに嫌だったなんて。ごめんね、マリーナじゃなくて!」
 そう思ったら、思わず言ってしまっていた。
 絶対言っちゃいけなかった言葉を。
 トラップの顔が、強張った。
579トラパス 演劇舞台編 16:03/09/23 23:01 ID:geCdYF6k
「あに言ってんだ、おめえ……」
「だってっ……トラップの好きな人って、マリーナなんでしょ?」
 わーん、わたしのバカバカっ! 何言ってるのよっ。
 ううっ、トラップの顔が怖い……絶対怒ってる。
 そうだよね、わたしが気づくくらいだから、トラップがマリーナの気持ちに気づかないわけないもん。きっと、ずっと隠してたんだよね。
 それなのに、わたしったら……
「デートの相手がマリーナだったら、トラップは嬉しかったんでしょう? ごめんね、わたしで。そんなに嫌だったのなら、言ってくれれば……わたし、無理言ってでもマリーナと役を変わってもらったのに」
 だけど言葉が止まらなかった。気がついたら、心の中で思ってたこと、ぜーんぶ吐き出しちゃって……
 トラップのすごく怖い顔。わたしのことを、じーっと見つめて……
 ベンチの背を握り締めている手が、白くなっていた。怒りをこらえてるみたいな、そんな顔。
「っ……おめえは、本当に……」
「え?」
「……ああ、そうだな。マリーナが相手だったら、俺もこんな苦労しなくてすんだよ。おめえが相手だったせいでっ……」
「っ……」
 やっぱり……そうなんだ。
 あれ……? 何でだろう。わかってたはずなのに……何で、涙が……
「ごめんね……わたし、先に帰る」
「あ?」
「もう、デートは終わり……だよね。恋人同士って設定も終わりだよね。わたし、先に帰るから」
「お、おいパステル!」
 腕をつかもうとしたトラップの手を、乱暴に振り払う。
 後ろで「おわっ」とかいう声とガターンって音がしたけど、わたしは振り返らずに走りだした。
 わたし……何か変だよね。どうしたんだろう……
580トラパス 演劇舞台編 17:03/09/23 23:02 ID:geCdYF6k
 トラップと別れて、そのまま走りだしたわたしなんだけど。
 ははっ……何でこんなときでも道に迷ってるのかなあ、わたし……
 無我夢中で走り出したら、いつのまにか見覚えのないところまで出てしまっていて。
 うーっ、一体ここはどこらへんなんだろ? マリーナの店に帰るには、どうしたらいいんだろ?
 とぼとぼと道を歩いているうちに、気がついたら人通りが少ない裏通りまで出てしまっていた。
 あたりは段々暗くなってくるし。何だか怖い。
 ……絶対ここは違うよね。戻らなくちゃ。
 そう思って、今来た道を振り返ると、そこに見知らぬ男の人が二人立っていた。
 まあまあかっこいいんだけど、何だかすごく軽そうな印象の人達。……誰だろ?
 無視して通り過ぎようとしたんだけど、わたしが行こうとすると、さっと道を塞がれてしまった。
 ううーっ、もう、何なのよ!
「あの、通してもらえませんか?」
「ん〜? 俺達は別に何もしてないぜ」
「そうそう、あんたが勝手に俺達のいるところへ来るんだよなあ」
 ……何それ。
 いつもの冒険者然とした姿なら、ちょっとはひいてくれるんだろうけどなあ。残念ながら、今のわたしは普通の女の子にしか見えないもんね。もしかして、バカにされてる?
 よーし、それなら!
 わたしは二人の間を無理やり割って入ろうとしたんだけど、通り過ぎた! と思った途端、両腕をそれぞれにつかまれてしまった。
 な、な、何……? 何だか、怖い。
「あの、離してください」
「なーお嬢ちゃん。人にぶつかっといて謝りもなしかよ」
「そうそう。痛かったぜえ、今のは」
 そ、そんなあ。何でわたしが謝らなきゃいけないの!?
581トラパス 演劇舞台編 18:03/09/23 23:03 ID:geCdYF6k
「だ、だって、今のは……」
「何、謝らないって?」
「じゃあ、身体で謝ってもらうしかないよなあ……」
 かかか身体でっ!? な、何言ってるのよこの人たち……
 逃げなきゃ、とわかってるけど、足がすくんで動かなかった。その間に、一人がなれなれしく肩を抱いてきて……
「結構いけてるじゃねえか」
「ああ、上玉だな。早速……」
「早速……あにする気だ?」
 ぐいっ
 瞬間、後ろから首にまわされる腕。
 そのとき聞こえたのは、とても聞き慣れた声。
 聞き慣れてて、すごく懐かしい声。
 まさか……こんな、すごいタイミングで現れるわけが……
「何だ、てめえ? 邪魔すんなよ」
「いやあ、別におめえらの邪魔をするつもりはなかったんだけどよ」
「トラップ……」
 振り向いたとき目に入ったのは、やっぱり、あの……見慣れた赤毛の盗賊の姿だった。
 うっ、何だかほっとして涙が出てきそう。
「けど、こいつは俺の女なんだけど、何か用か?」
 ……俺の女? どういう意味、それ?
 ぱっと顔を見上げて、そしてびっくりした。
 そう言ったトラップの顔は、いつもと同じような軽い笑みを浮かべてたんだけど。
 でも、その目が、見たこともないくらい怖くて……
 二人組も、それがわかったのかな? しばらくトラップとにらみあってたんだけど、そのうち「けっ」とか「覚えてろ」とか言いながら走り去っていった。
582トラパス 演劇舞台編 19:03/09/23 23:05 ID:geCdYF6k
 こ、こ、怖かったあ……
 思わず地面にへたりこんでしまう。服が汚れるけど、構ってられなかった。後でマリーナに謝ればいいや。
 と、そのときだった。
 後ろから、頭を思いっきりはたかれる。
 もーっ、何なのよ、痛いなあ。
 文句を言おうとして振り向くと、そこには、すんごく怖い顔したトラップ。
 ……やっぱり、怒ってる……よね……
「おめえはっ……散々心配かけやがって……何でこんなとこふらふらしてんだよ!!」
「ふ、ふらふらって……」
 べ、別にふらふらしようとしたわけじゃないもん。つい、その……迷っちゃっただけで……
「もうおめえはぜってー一人で出歩くな!! 捜す方の身にもなりやがれ!!」
「さ、捜してなんて言ってないじゃない!!」
 何よー、そんなに言わなくたっていいじゃない!! そりゃ、助けてくれたのは、感謝してるけどっ……
 ……って、あれ? 何? トラップ……何で……
 わたしを……抱きしめてるの……?
「……本当に……心配したぜ。今回ばっかりは……」
「トラップ……?」
 トラップの、暖かい腕に抱きしめられて……わたしは。
 何故だか、わんわん泣いてしまった。怖かったのでもなく、安心したのでもなく、嬉しくて。
 わたし……わたし、もしかしたら。
 もしかしたら……トラップのことが……
583トラパス 演劇舞台編 20:03/09/23 23:05 ID:geCdYF6k
 わたし達が我に返ったのは、頬にぽつりと冷たい雫が当たったときだった。
 それまで、わたしはずっとトラップにしがみついて泣いてたんだけど……
 最初はぽつぽつだった雫が、段々多くなってきて……
 って雨!? 嘘、さっきまではあんなによく晴れてたのに!!
「あー、くそっ、夕立か」
 トラップが、ぱっとわたしを離して恨めしげに空を見上げた。
 そうしている間にも、雨の勢いはどんどん増してくる。
「しゃあねえな。おい、走るぞ」
「え? う、うん」
 トラップに腕を引かれて走り出す。
 ……ちょっとだけ、残念だったかな。もうちょっと……
 トラップはわたしよりずっと足が速いから、わたしは走るというよりひきずられるに近かったんだけど。
 どうやら、彼の足でも、雨にはかなわなかったみたい。
 雨はついに本降りになってしまって、わたし達は仕方なく、せっかく抜けた裏通りからまた別の裏通りにとびこんで雨宿りすることにした。
 どうやら、わたしはマリーナの家と正反対の方向に向かってたみたいで、マリーナの家までは走ってもまだ大分かかるらしいんだよね。
 ははは、結局わたしのせいなんだ……
 その裏通りは住宅街に近いんだけど、そこに並ぶ家は、ほとんど空き家なんだって。
「どっかの金持ちが道楽で家を建てたんだけどよ、建て終わった途端に詐欺にひっかかって没落したんだと。んでせっかく建てた家をつぶすのももったいねえからって売りに出したんだけど、高すぎてまだほとんど買い手がつかないんだとさ」
 とは、トラップの説明。そんなわけで、わたし達は空き家の一つにお邪魔することにしたんだ。
 もちろん鍵はかかってたけどね。そこは盗賊のトラップ。いつもの七つ道具は持ってなかったんだけど、わたしが頭につけていたヘアピンを一本貸すと、それであっという間に開けてしまった。
 ううっ、持ち主の人ごめんなさい。少しお借りします。
 心の中で頭を下げて家の中に入る。中は、やっぱり空き家らしく、家具もなくガランとしていた。
 わたしもトラップも雨でびしょぬれだったからね。せめてタオルの一枚でもないかな、って探し回ったんだけど、結局何も見つからなかった。
 まあ、しょうがないか。雨がやむまでの我慢だし。
584トラパス 演劇舞台編 21:03/09/23 23:06 ID:geCdYF6k
 わたしはカーディガンを脱いでばんばんとはたいて水気をとばすと、床に広げた。トラップのジャケットも同じく。少しでも乾かさないとね。
 そうして二人で床に座り込んでたんだけど。雨はいっこうにやみそうになかった。
 窓の外からはざあざあっていう音が絶え間なく響いてる。
「はあ……トラップ、どうしよう。マリーナ達、心配してるかなあ」
 わたしが話しかけると、トラップは何故か目をそらしていた。
 ……どうしたんだろう?
「ねえ、トラップ」
「う、うっせえな。パステル、おめえあんま俺に近づくな」
 ……何、それ。
 さっきは助けてくれたのに……どうしてそんなこと言うの?
「どうしたのよ、トラップ。そりゃあ、わたしトラップに迷惑ばっかりかけたけど……」
「ち、ちげーよ。んなことじゃなくてなあ」
 わたしがぐいっと身体を寄せると、トラップは真っ赤になってうつむいた。
 ……トラップ?
「お、おめえなあ。自分の格好、よく見てみろよ」
「え?」
 格好? わたしの格好って……
 はっ!
 そういえば、わたし、雨でびしょぬれで……
 カーディガンを脱いでるから、わたしは今、ノースリーブのワンピース一枚で。それも、もともとぴたっとしたデザインだったのが、濡れてさらに身体にはりついて、ちょ、ちょっと下着が透けて……
 きゃああああああああああ!!?
「や、やだっ。見ないでよトラップ!」
「だから見ねえようにしてるんだろうが! おめえなあ、ちっとは俺のことを……」
 言いかけて、トラップは口をつぐんだ。
 俺のことを? ……何だろ?
585トラパス 演劇舞台編 22:03/09/23 23:07 ID:geCdYF6k
「俺のことを? 何?」
「…………」
 トラップは、何だかじっとわたしをにらんでいるみたいだった。
 何でそんな目で見られなくちゃならないのよう……
「ねえ、何よ?」
「んっとにおめえは……どこまでも鈍いなっ!」
「なっ、何よー!!」
 鈍い鈍いって、ちょっとしつこいわよトラップ!
「おめえな、俺だって男なんだよ。そのへん、ちっとは意識しろよっ!」
 ……え?
 わたしの怒りなんかそっちのけで、トラップは叫んできた。
 男……って。そりゃ、そうだよ。女には見えないもん。
 って、あれ? それって……
「トラップ……?」
「お、俺はなあ……言っとくけど、クレイみてえに優しくねえし、理性にあふれた奴でもねえんだよ」
 それは知ってるけど。
 わたしが首をかしげると、トラップはますますイライラしたみたいで、
「だあら……惚れた女が目の前でんな格好してたら、思わず手え出したくなるんだよ! わかったらちっとは警戒しろっ!!」
 え?
 惚れた女……? え、だって、トラップが好きな人って……
「え、だって、トラップ、マリーナは……」
「お、おめえ、まだんなこと思ってんのか?」
 わたしの言葉に、トラップはがっくりうなだれた。「あんだけ態度で示したろーが」とか「んなこと俺に言わせんな」とかぶつぶつつぶやいてたけど……
 やがて、どかっと座りなおして、真剣な目でわたしを見据えた。
 あの、お芝居のときみたいな、すっごく熱い視線。
「あー、もういいや。認めてやるよ。言わねえと、おめえ一生気づきそうにねえしな」
「トラップ……?」
「俺が、俺が好きなのはなあ、マリーナじゃなくておめえなんだよ! 気づけよいいかげんに!!」
 ……ええっ!?
 と、トラップ……それって……
586トラパス 演劇舞台編 23:03/09/23 23:08 ID:geCdYF6k
「言っとくけどな! 『嘘でしょ』とか『冗談?』とか『芝居?』とか言ったら、行動でわからせるからな! 嫌だったら本気にしろ!!」
 わたしが言おうとした台詞を見事に先取りして叫ぶトラップ。
 その姿は、もうほとんどやけっぱちに近いんだけど……
 だって、だってそんなことある?
 わたしも……わたしも、さっき気づいちゃったんだもん。わたしも、トラップのことが……
「だあら、わかったら俺から離れて……」
「嫌」
「あ?」
「嫌。離れない」
「お、おめえなあ!」
 嫌だよ。今は、離れたくない。やっと、やっとわたし、自分の気持ちに気づいたんだから。
 もし、トラップがそうしたいなら……
「いいよ」
「……あんだと?」
「いいよ。トラップがそうしたいなら……手を出しても、いいよ」
「お、おめえ、『手を出す』の意味、わかってんだろうな?」
 わかってるよ、それくらい。
 も、もちろん経験したことはないけど……わたしだって、本とか、友達に聞いたりとかして、それくらい知ってるもん。
 ばっと顔をあげた。トラップの顔をじいっと見つめる。
「わたしは、マリーナみたいに美人じゃないし、スタイルもよくないけど……トラップが、それでもいいって言ってくれるなら……」
「パステル……」
 わたしは、ワンピースのボタンに手をかけた。
 濡れててちょっと外しにくいそれを、上から順番に外していく。
 うっ……ちょっと、ちょっと大胆かな? で、でも、いいよね。こういうときって、こうした方がいいんだよね……?
 三番目のボタンに手をかけたところで、トラップの手が、わたしの手首をつかんだ。
 顔をあげると、そのまま唇を塞がれた。
587トラパス 演劇舞台編 24:03/09/23 23:09 ID:geCdYF6k
「……言っとくけどな、今更嫌だっつっても、もう止められねえからな」
「……言わないもん」
 トラップの言葉に、わたしはしっかりと目を見て答えた。
 お芝居のときも、こうすればいいんだよね、きっと。
 これが、「恋する女の子の視線」で、いいんだよね?
 もう一度唇を塞がれた。ぐっとこじあけるようにして、熱い舌が、わたしの中に侵入してくる。
 しばらく、わたしとトラップは何も言わずキスを深めあっていた。
 キスって……こんな感じなんだ。
 こんなに……気持ちいいものなんだ……
 しばらくして、トラップはわたしから身を離すと、濡れてべたっとはりついた自分のシャツを脱ぎ捨てた。
 痩せてるんだけど、ちゃんとしっかり筋肉がついていて、すごく引き締まって見える上半身は、わたしが見てもすごく綺麗だった。
「いいなあ……」
「あん? 何がだよ」
「トラップって……きれいで」
「……バカなこと言ってんじゃねえよ」
 自分のシャツをぽいっと放り出すと、彼の手は、わたしのワンピースにかかった。
 外れかけてた三番目のボタン、ついで四番目、五番目。
 ボタンが全開にされたとき、わたしはいつのまにか、床に横たえられていた。
 むきだしの木の床だからね。すごく冷たいはずなんだけど。
 わたしの身体はいつのまにかすごく熱くなっていて、その冷たさが、逆に気持ちよかった。
 ワンピースの前が完全に開かれて、わたしの身体は、下着だけの姿をさらしている。
 ううっ、恥ずかしいなあ……わたしも、マリーナみたいにスタイルがよかったら……
「おめえ、またくだらねえこと考えてるだろ」
「え?」
 真っ赤になって顔をそむけたわたしに、トラップが耳元でささやいた。
 熱い吐息が触れて、何だかすごくぞくぞくする。
「くだらない、こと……?」
「おめえのこったから、どーせ『マリーナみたいにスタイルがよかったら』とか」
 うっ! その通り……な、何でわかるの?
588トラパス 演劇舞台編 25:03/09/23 23:10 ID:geCdYF6k
「バーカ、俺がな、どんだけおめえのこと見てきたと思ってんだ……おめえの考えてることなんて、お見通しだっつーの」
 言いながら、トラップはゆっくりと首筋にくちづけてきた。
 びくっ!!
 瞬間、走った感覚に、わずかに背中をのけぞらせる。
 ううっ、何? この感覚……
 そのまま、トラップは、わたしの身体をなぞるように舌を這わせていって……
「おめえはな、十分綺麗だよ。少なくとも、俺にとっては、おめえ以上に魅力的な女なんていねえ」
 ……え?
 まさか、だって、いつもわたしのこと、「出るとこはひっこんで〜」なんてバカにしてたくせに……
 何で、こんなときにそんなこと言うのよう……
 トラップの手が、ゆっくりとわたしのブラにかかった。
 そのまま、ゆっくりとずりあげられる。
 み、見られてるっ……胸、絶対見てるよね……
「で、できれば……あんまり見ないで……」
「ああ? おめえなあ、無茶言うな」
 言いながら、トラップの唇が、ゆっくりと胸に吸い付いてきた。
 ひゃんっ!!
 声にならない悲鳴をあげると、彼は、にやっと笑って言った。
「こんなきれいなもん、見ないわけねえだろ」
 ……意地悪。
 いつのまにか、わたしは全身がほてってるのを感じた。
 今は秋。それも、わたしはびしょぬれで、すごく身体は冷えていたはずなのに……
 何で、こんなに熱いの……?
 トラップの手は、巧みにわたしの身体をはいまわっていく。
 それは、腕だったりお腹だったり肩だったりしたんだけど……彼の手が触れるたび、わたしの身体は、確実に熱くなっていって……
589トラパス 演劇舞台編 26:03/09/23 23:11 ID:geCdYF6k
「やっ、トラップ……あ、熱い……何だか、変……」
「ああ、どんどん変になっちまえ……」
 やんっ
 太ももに感じるのは、トラップの唇。そのまま、どんどん上の方へと這い登っていって……
 中心部に触れたとき、わたしはたまらず、悲鳴をあげた。
「やあっ! やだっ、トラップ……そんな、とこ……」
 ぐいっ
 わたしの悲鳴を無視して、トラップの手が、わたしの脚を無理やり開いた。
 つまり……トラップの目の前に、わたしの……
 や、やだああああああああああ!!
「ば、ばかあっ! そ、そんなとこ見ないで……」
「…………」
 わたしの声に、トラップはにやっと笑って……顔を埋めた。
 ぴちゃり
「――――!!」
 恥ずかしいのと同時に、ものすごくぞくっとくる感覚がつきあげてきて……わたしは、段々、身体から力が抜けて……
「やあん……と、トラップ……」
「……甘い」
 ぺろっと唇をなめて、トラップはつぶやいた。
「おめえの、ここって……甘いな」
「ううっ……」
 トラップの……意地悪っ!!
 思わず脚を閉じそうになったけど、その前に、トラップの身体が強引に割って入ってきた。
 彼の手が、ズボンのベルトにかかって……
 さすがに、目を開けてられなかった。
 ぎゅっと目をとじて、身体を硬くしたとたん。
 わたしは、トラップに貫かれていた。
590トラパス 演劇舞台編 27:03/09/23 23:11 ID:geCdYF6k
「――いっ……痛い……痛いっ……あああああああああ!!!」
 痛いっ。何、これ? 何でこんなに痛いの?
 こ、こういう行為って、き、気持ちいいものなんじゃ……
「やっ……痛い、痛いよ、トラップ……」
「っ……お、俺もいてぇ」
「……?」
「おめえの中って……すっげえ、締め付けられて……」
 え? わ、わたし何もしてないけど……
 トラップはぎゅっと目を閉じて首を振ると、そのまま一気に押し入ってきた。
 傷口を無理やり裂かれるような痛み。激痛。
 こ、こんなに痛い思いしたの、わたし初めてかもしれない……
「やだっ……痛い、痛いよ……」
 ぎゅっとトラップの背中にしがみつくと、彼の思ったより大きな手が、優しく髪をなでてくれた。
「優しくしてやるつもりだったんだけど……我慢できなかった」
「……え?」
「ずっと、おめえとこうしたいって、思ってたから……」
 トラップ……あなた、いつから、わたしのことを……
 トラップの身体が、ゆっくりと動き出した。
 本当にゆっくり、できる限りわたしに負担をかけないようにしてくれているのがわかる。
 そのうち……本当に少しずつだけど、痛みが、何だかやわらいできて……
 最初はすごくぎこちなかった動きが、段々なめらかになってきて……
「あっ……ああっ、やんっ……あぁっ……」
「…………」
 わたしは思わず声をあげてしまったんだけど、トラップは無言。
 そのうち、彼の動きが激しくなってきた。息が荒く、顔や身体に汗が浮かんできて……
「うっ……」
 一声うめいた瞬間、トラップの腕が、わたしの身体を抱きしめた。
 ひときわ奥におしいられる感触。同時に……
 トラップの身体が、脱力した。
591トラパス 演劇舞台編 28:03/09/23 23:12 ID:geCdYF6k
 結局、雨がやんだのは翌朝になってからだった。
 わたし達は、そのまま抱き合って床に転がってたんだけど。
 興奮して、あんまり眠れなかった。きっと、今鏡を見たらひどい顔になってるんだろうなあ。
 マリーナの家に戻ると、玄関のドアを開けた途端、マリーナとクレイがとびだしてきた。
 二人とも、昨日は一晩中起きて待っててくれたみたい。
 ううっ、ごめんね、二人とも。
「心配したのよ! どこに行ってたのよ、二人とも」
「ああ? 雨が強いから、雨宿りしてたんだよ、雨宿り!」
 マリーナの言葉に、トラップはぶっきらぼうに吐き捨てると、「寝る」と言って二階にあがっていった。
 ……トラップも、眠れなかったのかな。
 そんなトラップを呆れたように見送った後、マリーナはわたしの方に顔を向けた。
 う、どうしよう。何て言えばいいのかな?
「おかえり、パステル……どうだった? デートは」
「う、うん。まあまあ、楽しかったよ」
 本当に色々あったけどね。
「そう、よかったじゃない……ところで、その指輪、どうしたの?」
「え?」
 言われて、わたしは初めて、昨日買ってもらった指輪をはめっぱなしだったことに気づいた。
 あ、そうだ。このお金、マリーナが出してくれるんだよね。ちゃんと謝らなきゃ。
592トラパス 演劇舞台編 29:03/09/23 23:13 ID:geCdYF6k
「これ、昨日トラップが……ごめんねマリーナ、余計なもの買っちゃって」
「え? 何でわたしに謝るの?」
 わたしの言葉に、マリーナは心底不思議そうな顔をした。
 ……あれ?
「だって、デートの費用はマリーナが出してくれるって……」
「トラップがそう言ったの?」
「う、うん。そう言って、トラップが全部払ってくれたんだけど……」
 そう言うと、マリーナとクレイは顔を見合わせて、同時に吹き出した。
「パステル、鈍いにもほどがあるよ」
 く、クレイまで鈍いって言うことないでしょ!?
 ……って、二人のこの態度。もしかして……
「やあねえ。わたし、そんなこと一言も言ってないわよ。あいつが出してくれたお金は、全部あいつのお金」
「ええっ!? 嘘、だったら指輪のお金返さなきゃ!」
「ちょ、ちょっとパステル、あなたねえ……」
 わたしが慌てて二階に上ろうとすると、マリーナに引き止められた。
 だって、結構高かったんだよ? この指輪。
「ねえ、パステル。その指に指輪をはめてくれたの、トラップ?」
「え? うん」
 左手の薬指。確かにここにはめてくれたのは、トラップ……
 って、ああ!?
「パステル、まさか知らないなんてことないわよね? 左手の薬指にはめる指輪は……」
 もちろん、わたしだって知ってる、それくらい。
 ……エンゲージリング……
 トラップ、まさか……
「あいつにとっては、昨日のデートは、芝居じゃなかったんだろうな、きっと」
 クレイの言葉に、わたしは何も言えなかった。
 わたしって……本っ当に、鈍感だなあ……
593トラパス 演劇舞台編 30:03/09/23 23:14 ID:geCdYF6k
 ドーマのお祭りの日。つまり、芝居本番の日。
 その日は、すっごくきれいに晴れ渡っていた。
 キットンやノル、ルーミィにシロちゃんも、今日は見に来てくれることになっている。
 ううっ、緊張するなあ……
 わたしとトラップは、別にその後、あの日のことを話す機会もなく。
 この数日、ひたすら練習に明け暮れていたんだけど。
 わたしの演技もどうにか見られるものになったらしく、マリーナは満足そうだった。
 いつだったか、「うまくいったわね」ってクレイと言い合ってるのを聞いたんだけど、大分心配かけたんだろうなあ。
 うん、今日の本番。ちゃんとやらなくっちゃ!
 それに……
 わたしは、そっとあの日以来ずっとはめたままの指輪に目をやった。
 ちゃんと、返事しなくちゃね。今日こそは。
 そして、大勢のお客さんの前で、芝居は始まった。
 パトリシアとマリイ。クレスとステフ。
 四人の、甘く切ない恋物語。
 最初わたしが舞台に立ったとき、「ぱーるぅ!」という声が響いて危うくこけそうになったんだけど、ちらっと客席をうかがったらノルがルーミィの口を塞いでにっこり笑っていた。
 これで、大分緊張がほぐれたんだよね。よーし、がんばるぞ!
 そんなわけで、芝居は大体順調に進んだ。
 トラップの真面目な視線にも、大分慣れたしね。わたしもしっかり受け止めて、真面目に台詞を返す。
 「マリイを裏切れない」ってわたしがトラップと別れる場面では、泣いているお客さんもいたんだよ!
 ううっ、がんばった甲斐があったなあ……
 そして、芝居は最後の場面へとうつった。
 
594トラパス 演劇舞台編 31:03/09/23 23:15 ID:geCdYF6k
「マリイ、クレス……ごめんなさい。わたし、わたし、ステフを愛してしまったの!」
 舞台の上で、わたしとステフ、マリイとクレスは見詰め合っていた。
 もう離れられない。だから、二人で遠いところに行って一緒になろう。
 そう誓って、マリイとクレスに別れを告げる場面。
「パトリシア、どうして……」
「ごめんなさい、マリイ。わたし、あなたのこと大好きよ……でも、この気持ち、止められない!!」
 わたしの方に歩み寄ろうとするマリイを遮るようにして、わたしは一歩後ずさった。わたしを庇うようにしてその前に立つのは、ステフ。
「すまなかった、マリイ。パトリシアを責めないでくれ。全て悪いのは……俺だ」
「ステフ!」
「殴ってくれて構わない。一生憎んでくれて構わない。だから……パトリシアだけは、許してやってくれ」
「ステフ、やめて、どうしてあなたが謝るの!」
 わたしがステフの肩をつかんだとき、マリイの前に、クレスが立った。
「勘違いしないでくれ……二人とも」
 とても辛そうな顔。わたしと、マリイを交互に見つめるようにして。
「違う、マリイが言っているのは……『どうしてもっと早く言ってくれなかったの』だ……そうだろ? マリイ」
 クレスの言葉に、マリイが大きく頷く。そして、大きな目に、涙をいっぱいためて言った。
「そうよ……どうして言ってくれなかったの? わたしもずっと苦しんでいたのに。わたしとクレスもずっと苦しんでいたのに! あなた達と同じように!」
「え?」
 マリイの言葉に、わたしとステフは言葉を返せなかった。わたし達の目の前で、マリイとクレスは……
 お互いの手を、取り合った。
595トラパス 演劇舞台編 32:03/09/23 23:16 ID:geCdYF6k
「わたしも愛してしまったのよ、クレスを! パトリシア、あなたの大事な恋人だったはずのクレスを、一目見たときから……」
「俺も……そうだっ。パトリシアへの気持ちは、嘘じゃなかった。本当だ。なのに、マリイに初めて会ったそのときから、俺は……」
「嘘……」
 ああ、どうして。
 わたしは、どうしてもっとマリイとクレスのことを信じてあげなかったのだろう。
 もっと早くに相談していれば……わたし達は、こんなにも苦しむことはなかったのに。
「ははっ……バカみたいだな、俺達は……」
 自嘲してつぶやくのは、ステフ。
「最初から解決していた問題を、ずっと、苦しみ続けていたのか……」
「ステフ……」
 マリイとクレス、わたしとステフが見詰め合った後……わたしとマリイは、舞台中央で、かたく抱き合っていた。
「ねえ、マリイ。わたし達、ずっと友達よね?」
「当たり前じゃない……今までだって、これからだって、パトリシアはわたしの親友なんだから!」
 そして、わたし達は身体を離すと、ぎゅっとお互いの手を握り合った。
「ねえ、幸せになりましょうね、わたし達」
「もちろんよ……なるに決まってるじゃない……」
 そして。
 わたし達は、お互いの恋人の胸へととびこんでいった。
 抱き合う二組のカップル。やがて、マリイとクレスにスポットライトが当たって。
「ずっと苦しんでいたわ。パトリシアを裏切ったという思いに。でも、やっと幸せになれるのよね?」
「ああ。今まで苦しんだ分も、幸せになろう」
 そうして、マリイとクレスの口付け。これ、舞台の上で見るとわかるけど、実はしてるように見せかけて「ふり」なんだよね。
 もちろん、わたし達の方も、最初はその予定だったんだけど……
596トラパス 演劇舞台編 33:03/09/23 23:17 ID:geCdYF6k
 マリイとクレスの姿が闇に沈んで、今度はわたしとステフの方にスポットライトがあたる。
「ずっと辛かったの。マリイを裏切ったという思いに。でも、やっと幸せになれるのね」
「ああ。今までずっと耐えてきた分も、幸せになろうな」
 ここで、わたし達が抱き合い、キスをするふりをして、終わるはずだった。台本では。
 ……でも。
 わたしは、ぐっとステフ……トラップの顔を見つめた。
 予想外のわたしの動きに、トラップがけげんな表情をする。
 今までわたしが鈍感だったせいで、トラップはきっとすごく辛かったんだよね。
 だから……そのおわび!
「あなたが、いつかくれたこの指輪」
 そうしてわたしが見せたのは、あのデートの日、トラップが買ってくれた指輪。
「あのときは、答えられなかった。マリイのことを考えて、とても答えられなかった。本当はとても嬉しかったのに。嬉しかったから返すこともできず、ここまであなたを苦しめてしまった。
 本当にごめんなさい、ステフ……」
「パトリシア……」
「だから、今、返事をさせて。とても幸せな今日のこの日に……あなたを愛しているわ、ステフ。この指輪……受け取らせていただきます」
 きっと、これで通じたはず。わたしの言いたいこと。
 何だか視界の端で、マリイ……マリーナとクレイが手を取り合って「よくやった!」みたいなことを囁いてるのが見えるんだけど。
 気にしないもんね! どうせいつかはわかるんだし。
 トラップは、しばらく茫然としていたみたいだけど、やがてステフのものではない、トラップの笑みを浮かべていった。
「全く、かなわないな。パ……パトリシアには」
 そう言って、わたしとトラップは。
 観客の割れんばかりの拍手が降りそそぐなか、ふりではない本物のキスを交わした――


か、完結!!
長かった……しかも何というか……ありがちというか……ちょっとキャラ違うかも? な気も。
ちなみに次の作品はとある人のリクエストに答える予定です。予定ですけどね。
感想が怖い作品です・・・
597名無しさん@ピンキー:03/09/23 23:59 ID:ehnviDvR
神キタ━━━━!!!!!
毎日のように新作が読めるなんてなんて俺らは幸せなんだ!!!
パステルの鈍感っぷりにイラつくトラップ萌え(*´Д`)
598名無しさん@ピンキー:03/09/24 00:08 ID:PIfzIZ10
神よ 感謝します!!
俺をモエ殺す気ですか?!毎回毎回マジ最高です!

次回作も楽しみに待ってます
599名無しさん@ピンキー:03/09/24 00:11 ID:9s2ePyXH
つうかうまいなぁ・・・
最近のクソつまらん深沢のかわりに本編書いてほしい。
600名無しさん@ピンキー:03/09/24 00:15 ID:R98LJVUT
いや、イイ!ベタって言うか、ありがちって言うか、そう言うのもたまにはイイもんだ!
何よりも俺は至極 楽しませてもらいました!
次のリクエスト作品がどんなのか楽しみにしてます(゚∀゚)
601名無しさん@ピンキー:03/09/24 01:00 ID:haZR0232
もう10作目ですか!! お疲れ様です。いつも楽しませて頂いてます。
冗長なんて全然思いませんでしたよ!
前書きで「長い」→ワーイ、いっぱい読めるヽ(´▽`)ノ
読後→別に長くないじゃん、って全33スレΣ(゚Д゚; ナガカッタノネ…
むしろ長い方が(ry リクがあったので消化してないのは後、
1番最初のトラパス・トラパスクエスト・温泉編ですね。
どれも好きなので楽しみです!
602名無しさん@ピンキー:03/09/24 01:15 ID:kn37d0D6
キターー!!
今回も乙です。いやいや、読みごたえあって最高でした。
ありがちと言っておられますが全然。読ませてくれますな!
マジ本編より楽しいや…
603名無しさん@ピンキー:03/09/24 01:40 ID:fxWUMX7A
これだけ良質の作品を次々と書けるなんてスゴイ!!
もうプロとしてデビューした方が…
いや、それじゃーここで読めなくなる訳か?うーん…

トラパスもイイ!けど違う組み合わせのも読みたい!
クレイ×マリーナとか。今回いい雰囲気だったし。
604名無しさん@ピンキー:03/09/24 01:48 ID:wn/Q5A2u
>>560クレパス氏
抑え目な描写と切りつめた文で、ここまでドキドキさせてくれるとは…
激しくイイです。
前半のクレイの荒れっ振りの所でも思ったのですが、
ツボをしっかり押さえていらっしゃると思います。
何かフワフワ撫でられてる感じになりますた(痛?)
上手いだけでも嬉しいですが、ここまでハァハァ出来る文章は久し振りです。
完結まで楽しみに待ってます。
がんがって下さい。

>トラパス氏
多くの方が語られているように、どのSSも
キャラを外す事が殆ど無いのが凄すぎます。
しかもシチュが豊富だし、クエストの話も雰囲気が出てる。
…も、「燃え」神様と呼んで良いですか?(止めろ)
605クレ×パス 560続き:03/09/24 15:40 ID:dWoGqc7p
「あっ、あっ…」 
足の間に啄むようなキス。その度に背筋を快感が走ってく。そんな、汚いとこ
なのに、なんで。
割れ目の中に、滑った何か入り込んてきた。これ、クレイの舌…。
中を、ゆっくり舐め上げる。溢れ出したモノと絡まってピチャピチャと音が
してる。舌の動きが、掻き回すように変わった。
「はあっ! くっ、ああぁ…………」
今までより激しい快感に体が震えて、我慢しきれずに声を上げてしまう。自分の
声じゃないみたい。
「んん……、あ、あっ………」
快感が、どんどん高まってく。
どうなるんだろう、わたしの体、どうなっちゃうんだろう?
クレイの舌が、硬い突起に触れて、息が止まる程の快感に体が反り返る。
「もっ、やぁっ、ふぁあ………」
舌で突起を転がされると、快感に頭の中をグチャグチャにされて、まともに
考えることができない。
怖い。怖いよ。クレイ、クレイっ……。涙が溢れて、こぼれていく。
クレイに抱きしめてほしい。でも、そんなこと言ったら、わたしがHな、あ……。
割れ目から溢れ出した液体が、お尻の方まで流れていく。
ああ…、あたし、そんなに濡れてるんだ………。
快感はどんどん膨れあがって、わたしを何処かへ押し流そうとしてる。
昨日、クレイが入ってきた所に舌か触れて、そして、入ってきた。
やっ、なに? なにか、くる、くるうっ、たすけ……
「やっ……、んっ……、あんっ、あっ、くっ、ふぁ……、い、あ、ああっ、
ああああーーー!」
快感が体を満たして、頭の中が真っ白になった
606クレ×パス 605続き:03/09/24 15:42 ID:dWoGqc7p
 さっきの感覚がまだ残っていて、思うように体に力が入らない。頭の中も
どこかボーっとしたまま。
 あんなはしたない所を見られるなんて…。Hなことしてるんだから、当たり
前なんだけど。でも、やっぱり、恥ずかしい。今も恥ずかしくて、クレイに
背中を向けて横になってる。
「大丈夫か? パステル」
 さっき、答える気力もないぐらいにクタクタで、返事が出来なかったからかな。
酷く心配そうな声になってる。
「やっぱり、嫌だったんだ……、俺……」
ああ、もうっ! なんでこんな弱気なんだろう。
「違うの、疲れてただけだから」
振り返ると、正座して、畏まったクレイがいて……。しばらく、クレイの引き
締まった体と、………股間のモノに見とれてしまう。
「あ…………」「きゃあっ」
悲鳴を上げて、また、クレイに背を向けた。
そ、そうだった。クレイにも脱いでって言ってたんだ…。そ、それより、
クレイのアレ、あ、あのままじゃ、おさまりつきそうにないけど………。
ど、どうしよう………。
少し治まっていた熱がぶり返して、体を火照らせる。
「パステル」「な。なに」
「俺、我慢できないよ」「!…………」
「パステルと一つになりたい」
607名無しさん@ピンキー:03/09/24 23:04 ID:fxWUMX7A
クレパスキテル━━━━━━!!!!
エロくてイイ!!!
(;´Д`)ハァハァ
608トラパス作者:03/09/25 00:16 ID:aZoFL9Uk
えー……書きました。
今回は、何人かの方がリクエストしてくださった「トラパスクエスト」の続きです。
ただし、あらかじめ注意しておきます。
・長いです。前回の演劇・舞台編よりさらに長いです。
・エロ少ないです。いつものことのような気もしますが。
・今回かなり難航しました。えらく小難しいテーマにしてしまったもので。ですので、フォーチュンらしさ、とかほのぼのした話、が好きな方には、ちょっと合わないかもしれません。
それを踏まえた上で読んでくだされば幸いです。
609トラパスクエスト続編 1:03/09/25 00:29 ID:aZoFL9Uk
「あんた……誰だ?」
 とても冷たい目で、彼は言った。
 いつもはいたずらっこみたいな輝きを浮かべているその茶色の瞳には、不審そうな色しか浮かんでなくて。
 わたしを見て、彼はもう一度言った。
「あんた、誰だ?」
 鮮やかな赤い髪も、細く引き締まった身体も、いつもと何も変わらない。
 それなのに、目だけは、見たこともないほど冷たく光っていた――
 
「ぱーるぅ。何かいいことあったんかぁ?」
「んー? うん。とってもいいことがね」
 ルーミィの問いに、わたしはにこにこしながら答えた。
 自分で言うのも何だけど、最近わたしは機嫌がよかった。
 あの、「真実の愛を見せたものにだけ解けるクエスト」の後、わたしとトラップは、晴れて両思いになれたんだよね!
 素直に本音を告白したら、今までトラップを見るたびに感じてたもやもやが、すーっと晴れていくのを感じたんだ。これが、悩みを解決した気分、なのかな?
 もちろん、だからって生活は普段と全然変わらないんだけどね。二人っきりになるチャンスなんてなかなかないし。
 でも、「いつまでも黙っとくわけにはいかねえだろ」っていうトラップの言葉で、クレイ、キットン、ノルには、ちゃんと伝えたんだ。ルーミィには……もうちょっと大きくなってから、ね。
 みんな驚くかなあ、って思ってたんだけど。何故かクレイ初めとして
「やっとか」「遅すぎたくらいです」「おめでとう」と、ちっとも驚いてくれなかった。
「気づいてなかったのはおめえくれえだよ」とはトラップの言葉なんだけど。ううっ、そんなにばればれだった?
 まあ、だからって特別扱いはしないで、っていうことだけは、ちゃんと伝えておいたけどね。だって……恥ずかしいじゃない。
「っつーわけでさ、俺とルーミィ、部屋交代していいか?」
「バカモノ!!」
 もー、調子に乗りすぎ!!
610トラパスクエスト続編 2:03/09/25 00:30 ID:aZoFL9Uk
 とまあ、こんな感じでしばらくは平和で幸せな時間が流れてたんだけど。
 いつまでもシルバーリーブにとどまってるわけにはいかないもんね。いつまでもレベルが上がらなかったら冒険者カード剥奪されちゃうかもしれないし。
 というわけで、新しいクエストにまた出かけることになったんだ。
 今回のクエストは、どこかのお城に眠ると言われる財宝を捜すっていうクエストなんだ。
 もちろん、見つけてきたのはお宝には目のないトラップ。
 ただ、わたし達のレベルでは、ちょっと厳しいクエストみたいなんだよね。
 敵も1番レベルの高いクレイで何とかなるかな? ぐらいのレベルみたいだし、城の中は罠だらけだって言うし。
 だから、最初はわたしもクレイもあまり気が進まなかったんだけど。
「だーいじょうぶだって。罠なんざなあ、俺がちょいちょいっと見つけてやっから。それにな、たまにはこういう冒険しねーと、身体がなまるだろ?
 いつまでも弱っちい敵ばっか相手にしてたら、成長できるもんもできなくなるぞ」
 というトラップの言葉に、押し切られることになった。
 そうだよね……たまには、難しいクエストに挑戦してみないとね! よし、がんばるぞー!
 
 だけどねー、やっぱり考えが甘かったんだ。
 モンスターは、確かにクレイとノルの二人がかりで何とか倒せた。
 しかけられた罠も、トラップがことごとく解除してくれた。
 でもでもでも!
 あまりにもぎりぎりすぎて、全然余裕がないの! 回復する暇もなく走り回ったりモンスターと戦ったりで、一階を突破して二階に何とか進んだ頃には、もうみんなへとへと。
 キットンの薬草だって、限りがあるしねえ……
 城は、外から見る限りは五階建てくらい。いくら何でも、ちょっとクリアは無理じゃないか、って、みんな思ってたと思うんだよね。
 かく言うわたしが1番思ってたかも。「もう帰りたい」って。
 ところが、一人だけ元気だったのがこの人。
「だらしねえなあ。まだまだ先は長えんだぞ? ほれ、さっさと立つ立つ」
 見ればわかると思うけど、トラップ。もー、何で一人だけそんなに元気なのよ!
611トラパスクエスト続編 3:03/09/25 00:32 ID:aZoFL9Uk
「ねえ、トラップ。引き返さない? わたし達じゃ、ちょっと無理だよ」
 無駄だろうなあ、と思いつつ言ってみたんだけど。
「ああ!? ここまで来て引き返す? おめえなあ、それでも冒険者か! この先にお宝が待ってんだぞ!」
 やっぱり無理でした。もー、宝のことになるとまわりが見えなくなるんだから。
 クレイの方に目をやると、彼はしばらく考え込んでたみたいだけど、
「……よし。とりあえず二階の攻略には挑戦してみよう。もしかしたら、簡単に突破できる通路みたいなものがあるかもしれないし。無理そうだったら、あるいはキットンの薬草が尽きたら、今回は諦めて引き返す。それでいいな?」
 トラップはちょっと不満そうだったけど、何と言ってもクレイはリーダーだもんね。文句は言わなかった。
 今になって思うんだ。
 どうして、わたしはこのとき、強引にでもトラップを止めなかったんだろうって。
 あるいは、どうしてわたしは、もっと慎重になれなかったんだろう、って。
 
 それは、2階のある通路に出たときだった。
 その通路は、今までの大理石みたいなものでできた白い通路と違って、赤、青、黄色とすごくカラフルなタイルがしきつめられた通路だった。
 今までの通路は、絶対何体かのモンスターがいたんだけど、この通路に限ってはすごく静かだったんだよね。
 だからかえって不気味だった。「みんな、慎重にな」っていうクレイの言葉で、先頭のトラップの後をぴったりついていったんだけど。
「……あー、こういうタイプの罠か」
 一歩踏み出した途端、トラップが嫌そうな声をあげた。
「どうしたの?」
「ここな、特定のタイルを踏んでいかねえと、多分罠が発動する。俺が歩いた場所だけを通れよ。一歩でもずれたら多分アウトだ」
 な、なんですってー!?
 その言葉に、クレイが慌ててルーミィとシロちゃんを抱き上げた。同時に、ノルがキットンを肩車。
 二人(と一匹)は、トラップと歩幅が違いすぎるもんね。そうやって、わたし達は細心の注意を払ってトラップの後をついていったんだけど。
612トラパスクエスト続編 4:03/09/25 00:33 ID:aZoFL9Uk
 ガコン
 瞬間響く、すごく不吉な音。
「あっ……」
「パステル!」
「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
 ガコンガコンガコン
 その瞬間、床のタイルがすごい勢いで組み替えられていった。
 もちろん、上に乗っているわたし達のことなんかお構いなし。
 このとき、わたし以外のみんなは赤いタイルに乗ってたんだけど。赤は赤、青は青、黄色は黄色でタイルがまとまっていって。
 そして。
 ガッコン
 最後のタイルがはまったとき、通路は赤、青、黄色の見事な三色ゾーンに別れていた。
 黄色のタイルに乗っていたわたしは、みんなとは随分引き離されていて。
 ああ、どうしようどうしよう、と、とにかくみんなのところに戻らなきゃ。
 そう思って一歩踏み出した途端、真っ青になって叫ぶトラップ。
「バカ!! 動くんじゃねえ!!」
「え?」
 その瞬間。
 わたしの足元のタイルが……消えていた。
 黄色のゾーンが、まるで最初からなかったかのように、ごそっと消えたのよ!!
 もちろん、足場をなくしたわたしが立っていられるはずもなく……
「きゃあああああああああああああああ!!」
 再び悲鳴をあげていた。そのときには、もうわたしの身体は落下を始めていて。
 何とか、目の前に何事もなく残っている青いタイルに指をひっかけたんだけど、だ、駄目!! 指に力が入らないいい!!
 ちらっと下を見れば、どこまでも真っ暗な穴。
 ぞわぞわぞわっ。こ、こんなとこ落ちたら……わたし……
613トラパスクエスト続編 5:03/09/25 00:33 ID:aZoFL9Uk
「きゃあああああああ! だ、誰か助けてえ!!」
「うっせえ! 黙れっ」
 そのとき上から響いてきたのは、とても頼りになる声。
「とらっぷぅ……」
「あーったく、おめえはどこまでドジなんだよ!! いいか、今引き上げてやっから、暴れんなよ!!」
 そう言うと、トラップは、タイルにひっかけていたわたしの手首をぐいっとつかんだ。
 後ろから「トラップ、手伝う」というノルの声。
 ああ、よかったあ……と思ったそのときだった。
 足首に、何かがしゅるりっ、と巻きついた。
「……え?」
 下を見る。相変わらずの完全な闇。だけど、よーく目をこらしてみたら、そこには何かがうごめいていて……
 ぐいっ!!
「きゃああああ!?」
「うわああああああああああああ!!!」
 わたしの足首にまきついた「何か」は、そのままわたしをひきずりおろした!!
 それも、わたしの手首をつかんでいたトラップもろとも……
 このとき、トラップがすぐに手を離していれば。罠にひっかかるのは、わたしだけですんだのに。
 落ちる瞬間、わたしは見てしまった。
 トラップが、意地でもわたしの手首を離そうとしなかったのを。
 それどころか、落ちる最中、わたしを庇うようにして抱きかかえ、体勢を入れ替えてくれたことも。
 トラップ――!!
 彼の身体に抱きついたとき。
 激しい衝撃が襲って、わたしは意識を失ってしまった。
614トラパスクエスト続編 6:03/09/25 00:34 ID:aZoFL9Uk
 ――ル――
 ん……
 ――ステル、――か?
 何……何が起きたの……?
「パステル、大丈夫か!?」
「きゃあっ」
 耳元で響いた声に、わたしは飛び起きた。
 あれ? わたし……
 きょろきょろと見回すと、そこはあまり広くない穴の底……だった。
 すごく上の方に光と、心配そうに見おろしているノル、キットン、ルーミィ、シロちゃんの顔と、たらされたロープが見える。
 そして、わたしの目の前には、クレイ。
 ……あれ?
「ね、ねえ……」
「よかった、無事か? 怪我はない?」
「う、うん」
 そう、結構な高さを落下したと思うんだけど、幸いなことに、わたしには全然怪我がなかった。
 ふと思い出して足首を見ると、そこには黒い紐みたいなのが巻き付いていた。
 よーく見れば、穴の底に、変な植物がいくつか生えていて、そこから紐のようなつるが伸びている。
 わたしの足をひっぱったのは、あのつるなんだよね。よ、よかった。モンスターじゃなくて。
 わたしに怪我がないってわかると、クレイはすごくほっとしたみたいだった。
 ショートソードで足にまきついたつるを切ってくれると、わたしに背を向けた。
「じゃあ、俺におぶさって。穴を登るから」
「うん……ね、ねえ、トラップは!?」
 穴の中にはわたしとクレイだけ。上に見えるのはノル達だけ。トラップの姿が、どこにも見えない。
「ねえ、トラップは? 大丈夫だった?」
「……あいつは……」
 クレイの顔が辛そうにゆがんだ。けど、何も説明してくれない。
 何が――あったの?
615トラパスクエスト続編 7:03/09/25 00:35 ID:aZoFL9Uk
「詳しいことは、上に上ってから話すよ。とにかく、つかまって」
「う、うん」
 クレイの背中におぶさりながら、わたしは泣きそうになっていた。
 ううっ、わたしって、どうしてこんなにドジなんだろう。
 もっと慎重になっていれば、そんなに厳しい罠じゃなかったのに。
 わたしのせいで、トラップまで巻き込んで……
 トラップ、無事でいて――!!
 
 上に上ると、「ぱーるぅ!」と真っ先に抱きついてきたのはルーミィだった。
 そのかわいらしい顔がもう涙でべしゃべしゃで。
 ううっ、ごめんね、心配かけて……
 ロープを支えてくれていたのがノル。「よかった、無事だったか」って、すごくほっとしたみたい。
 そして……
 キットンは、床にひざまづいていた。その前に横たえられているのは……
「トラップ!!」
 キットンの前に力なく倒れていたのは、トラップ。
 その目はかたく閉じられていて、身体はぐったりしたまま。
 そして……
 その鮮やかな赤い髪。その髪がまだらに染まっていた。
 あ、あの色って……血……?
「きゃああああああああ!! トラップ、トラップ! トラップ!!」
「あああパステル!! 動かしては駄目です!!」
 思わずすがりつこうとしたんだけど、キットンに止められてしまった。
 だって、だってだってトラップが! 大好きなトラップが……わたしの、わたしのせいでっ……
「大丈夫です、死んではいません! すぐに手当てをすれば……とにかく、一度この城から出ましょう!!」
 キットンの言葉に、みんな1も2もなく頷いた。
 どうせ、黄色のゾーンの床が消えちゃって、その先には進めなくなってたんだもん。
 細心の注意を払ってトラップをノルの背中に預けると、わたし達は一目散に城から脱出した。
 幸いなことに、主なモンスターは行きにほとんど倒していたし。罠は全部トラップが解除してくれた後だったからね。脱出は、思いのほか簡単だったんだ。
616トラパスクエスト続編 8:03/09/25 00:35 ID:aZoFL9Uk
 そのまま、わたし達は城のすぐ近くにある村にかけこんだ。
 宿屋のベッドにトラップを寝かせて、改めてお医者さんを呼んだんだけど……
「大丈夫、命の別状はないですよ」
 と言われるまでの長かったこと!!
 よかったあ、とみんなで手を取り合ったんだけど、トラップの目は、相変わらず閉じられたままで。
「だいぶ頭を強く打ったみたいですから、意識はなかなか戻らないかもしれませんが、安静にさえしていれば、必ず目を覚ましますから」
 そういって、怪我の治療だけをすると、お医者さんは帰っていった。
 頭に白い包帯を巻いて寝ているトラップの顔は青ざめていたけど、確かに息はしっかりしていた。
 トラップ……早く目を覚ましてね!!
 
 それからしばらくわたし達はこの村に滞在することになった。
 トラップは絶対安静で動かせなかったしね。頭の怪我だから、ちょっとした衝撃が致命傷になることもあるんだって。
 ううっ、怖いなあ……
 だけど、宿屋の代金とか、手持ちのお金ではどうしても厳しいから。クレイ達は村で日雇いバイトみたいなことを始めて、かなり忙しそうだった。
 わたし? わたしは、ずっとトラップの傍につきっきり。
 だって、わたしのせいだもん。それに……トラップは、わたしの恋人……だし。
 バイトのできないルーミィは、多分すごく退屈だったと思うんだけどね。クレイがよーく言い聞かせてくれたのか、トラップが寝ている部屋には入ってこなかった。
 その分、食事のときに顔を合わせると、「ぱーるぅ!!」って、しがみついて離れようとしなかったけどね。
 そうして、一週間が過ぎた頃のことだった……
617トラパスクエスト続編 9:03/09/25 00:36 ID:aZoFL9Uk
 その日、クレイは武器屋さん、ノルは材木屋さん、キットンは薬屋さんでバイトをしていた。
 ルーミィとシロちゃんは、隣の部屋で絵を描いているみたいだった。
 そして、わたしはトラップの枕元に座って、彼の額にあてた布を冷たい水でしぼっていた。
 よく冷えた布を、額に置き直そうとして。
 そのときだった。
 突然、誰かに手首をつかまれた。
 ……え?
 細い指、腕、その割には強い力。
 辿っていくと、トラップが、うっすらと目を開けるところだった。
「と、トラップ?」
「…………」
 彼は無言だったけど、その目が、まぶしそうに2、3度まばたきした後、しっかりと開いた。
「トラップ、トラップ、よかった目が覚めたのね!!」
 よ、よかったあ!! お医者さんは大丈夫って言ったけど、すごく不安だったんだよね。このまま目を覚まさなかったらどうしようって。
 よかった、本当によかった!!
 わたしがだるそうに身を起こすトラップの身体にすがりつくと、トラップは……
 どん、とわたしの身体を突きとばした。
 ……え?
 何、トラップ……どうしたの?
 ふりあおぐと、彼の目は、ひどく冷たかった。鮮やかな赤毛も、細くひきしまった身体も、いつもと全く変わらない。
 ただ、目が。いつもはいたずらっこみたいに輝いている目が、ひどく冷たくわたしを見おろしていた。
「……あんた、誰だ?」
「え……?」
 トラップ……何、言ってるの……?
「あんた、誰だ?」
 茫然としているわたしに、トラップがもう一度聞いてきた。
 その口調には、冗談とかが含まれているようには聞こえなくて。
 いつもの軽い口調とは全然違うきつい声音。
618トラパスクエスト続編 10:03/09/25 00:37 ID:aZoFL9Uk
「トラップ……どうしたの? わたしよ、パステル……」
「……知らねえ」
「トラップ!?」
「だあら……誰だよ、そのトラップって」
 トラップは、いらだたしげに赤毛をかきまわして言った。
「俺の名前はなあ、ステア・ブーツってんだよ。変な名前で呼んでんじゃねえ」
 ――トラップ!?
 その瞬間、わたしは部屋をとびだしていた。
 お医者さんを呼んでこなくちゃ……ううん、キットンの薬屋さんの方が近い!!
 とにかく、みんなを呼んでこなくちゃ!!

「よおクレイ……何なんだよ、この連中は」
 わたしが村中かけまわってバイト中の皆を無理やりかき集めて部屋に戻ると、トラップが放った第一声。
 と、トラップ? 本当に……本当に忘れちゃったの?
「おい、トラップ……」
「ああ? おめえまであに言ってんだ? 誰だよトラップって」
「お、お前なあ……」
「幼馴染の名前忘れたのかよ? 俺の名前はステア・ブーツってんだよ。さっきからこの女もわめいてたけど、誰なんだよトラップって」
 この女、で指差されたのはもちろんわたし。
 トラップの言葉に、みんな茫然としてるみたいだった。
 そりゃそうだよね。「ステア・ブーツ」……確かにトラップの本名だけど。
 トラップは小さいときからずっと「トラップ」って呼ばれてきたはずなのに、一体?
「あのー、ちょっといくつか質問させてよろしいですか?」
 茫然としてるわたし達にかわって前に出てきたのがキットン。
 トラップは、思いっきりうさんくさそうな目を向けている。
「誰だあんた?」
「あー気にしないでください。医者だと思ってください。えーと、ですね。とら……ステアさん。あなた年はいくつですか?」
「ああ? 何でてめえにんなこと教えなきゃいけねえんだ」
「あのですね、あなた、覚えてないかもしれませんが、頭を打ってずっと寝ていたんですよ。記憶が混乱しているといけませんので、いくつか確認させてほしいだけです」
 トラップは、ちっと舌打ちした後、渋々キットンに向き直った。
 ……トラップ、何だか態度が……変。こんなに冷たい人だった?
619トラパスクエスト続編 11
「では、改めてお聞きしますが、年はいくつですか?」
「17だよ。もうすぐ18になるな」
「ほうほう。えーお住まいは?」
「ドーマっつう街……おい、そういやここはどこなんだよ。俺の部屋じゃねえな」
「あのですね、目を覚ます前……何をしてらしたか、覚えてますか?」
「…………」
 この質問に、トラップはちょっと顔をしかめた。
 しばらく頭を押さえてたけど、やがてボソッとつぶやいた。
「覚えてねえ……」
「そうですか。ま、あなた一週間以上も寝てたんですからね。頭の怪我は怖いですから、もうしばらく大人しく寝ていた方がいいですよ」
「…………」
 トラップは、何だか不審そうな目でわたし達を見回した後、もう一度ベッドに横になった。
 背中を向けて、振り返ろうともしない。
 トラップ……本当に、本当に忘れちゃったの? みんなのこと……
「隣の部屋に、行きましょうか」
 キットンに促されて、わたし達は部屋を移動した。