[ドラゴンボール]人造人間18号(;´Д`)ハァハァ・・・
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「月のしずく」 RUI
太陽の照る初夏の正午、離れた場所にいる二人は正に同時に大空へ飛び立った
お互いに再び逢いたいという気持ちを抑えきれず
クリリンは、気を感じることのできない18号を肉眼だけで見付けようと、何の当てもなく飛び出した
命懸けの戦いの場で常に神経を集中させ使ってきた自分の眼に自信はあったが、あまりにも無謀なこと
だ。今までも何度も無理だと思い我慢してきたが、これ以上じっとしているのが耐えられなかった。そ
の表情は会えるかもしれないという期待感と同時に、不安にも満ちていた。
「オレは18号に逢えたとしてどうなるんだ?」
「逢ってどうすればいいんだ?」
「何を言えばいいんだ?」
でも、それでも今まで18号のことが気になって、愛しくて、触れたくてどうしようもない日々が続いていた。
修行にも身が入らない。自然と思い出される白魚のように繊細な指、風に揺れる金色の髪、犯罪の如く美しい
顔立ち、考えるだけでも眠れない。一目でもいいから18号の顔が見たい。
この想いを抑え切れず、そんな不安にも負けずに修行をほっぽりだして、山吹色の道着のままカメハウスを飛
び出したクリリンだったが、蒼い海を眺めながら飛び進んでいくにつれ、あの不安が再び脳裏を過ぎりだした。
18号の「またな」を信じ、あの日から今日まで生きてきたクリリンにとって逢う事に不安も生じるのは当然の
ことであろう。
一方18号は、何故これほどにも逢いたいと思えるのか、自分でも自分の気持ちが解らずに、ただ美しい金髪
を靡かせ、日光による反射で眩しい海面の上を飛んでいた。18号の方には、クリリンに逢う当てがあった。
かつて孫悟空を捜している時に17号、16号と共に訪れたカメハウス。あの離れ一軒家に行けば、クリリンがい
居るかもしれない。しかし、クリリンへの想いが自分の中ではっきりとした形を成していない18号。
(逢いたい、でも逢ってわたしはどうするつもりなんだ?何をあいつに言おうとしてるんだ?)
自問自答を繰り返しながらも、とにかく逢いたいという想いに身を任せていた。
二人は同じ気持ちを抱えながら、そう、逢いたくても、逢って何になるのか、
何をしたいかの気持ちの整理も付かぬまま、焦る気持ちを抑えてゆっくりと飛
行していた。
空が曇ってきた。
その時、クリリン、そして18号の瞳に、ちょうど真正面の遥か彼方から、水平
線の彼方からまるで太陽のように現れて視界に飛び込んで来る人影が映った。
18号の眼に移ったのは山吹色の道着の小柄な男。クリリンの眼に映ったのは、
ブルージーンズに黒の半袖のカットソー、さらに首に大粒の真珠のネックレス
を身に着けた女。
「まさか!?」
二人は同時に我が眼を疑い、二度三度眼を擦ってから再び前を見た。
幻ではない。その人影は、先程見えたそれよりも近付いていた。それが自分の
求めていた人物であるのをはっきり確認するまでには、二人とも時間を要した
やがて二人は、雲の隙間から辛うじて覗く真上の太陽の光のスポットライトに
よって拵えられた一つの空間に入り、無言で見つめ合った。動揺する両者。ま
さか、これほどに早く、唐突に再開することになろうとは・・・・・・・。
「あ・・・・・・・・(パクパク)」(何か言わなきゃ)
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙が続く
(どうしよう、本当に何か言わなきゃ。そうだ、何でもいいから話すんだよ。)
「や、やあ18号じゃないか。偶然だなあ。な、何してるんだ?」
意を決して話し掛けたクリリンだったが、引き攣った笑顔で他愛の無いことを
言ってしまった。
18号はハッとして言い返した。
「え、あ、う、うるさいな!何だっていいだろ!ハゲオヤジ!」(クソッまた
何てこと言っちまうんだよ・・・・・・)
「あ、そ、そうだよな関係ないよなオレには・・・・・ごめん」
自分がキツく言い放ったからとはいえ、18号にはクリリンのこの言葉はとても
悲しく寂しく感じた。何か大きな壁ができてしまったような気がして。
「あ、あんたこそ、何やってんだい!?」
18号はこの空気をなんとかしようと、慌てて口を開いた。
「え、あの、オレは・・・・・・・・・・・・・・・・(おまえを捜してたん
だ。ただ逢いたかったんだ)・・・・・・・・・・・・ほ、ほら、さっきまで
綺麗に晴れてただろ?だから、空の散歩も悪くないかなーなんて・・・・・・
はは」(何言ってんだオレは・・・・・・でも恐くて本当のことなんか言えね
ーよ・・・それにしても18号のやつ、なんか元気なさそうだな・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、待てよ?確か今
オレは、カメハウスから一直線にこに場所まで飛んで来た。そんで18号が飛ん
で来たのは・・・・・・・そうだよ、真正面から飛んで来たんだ。てことは、
もしかして18号は、カメハウスに向かっていたのか?まさか、まさかまさか、
オレを探しに、オレに逢いに来てくれたのか!?)
クリリンの動悸は一気に速まり、胸が熱くなった。しかし、これを18号に今直
接訊くなんて……………。勇気が出ない。勘違いかもしれない。ていうか勘違
いだろ………。そしたらまた何を言われるか分からない。でも……。
18号は、神妙な表情で考え込んでいるクリリンの様子を伺っている。
(わたしが今、はっきりクリリンに逢いに来たって言ったらいいんきゃないか
?もしかしてクリリンもわたしに逢う為に?………………解らない。全然解ら
ない!わたしの気持ちも、クリリンの気持ちも………。くそっどうしてこんな
に…………)
「―――――――くれたのか?」
「……え?あ、悪い、聞いてなかったよ、なんだ?」
「あ………だから18号もしかして、オレを捜しに、オレに逢いに来てくれたの
か?」(ドキドキ)
「――!な、な、何言ってんだよ!そんな訳ないだろ!」
18号は声を張り上げた。
「だ、だっておまえが飛んで来た方向からすると、真っ直ぐカメハウスに向か
っているじゃないか。確かおまえは一回17号たちとあそこに来たことがあった
……よな?」
18号の色白の頬がどんどん赤面していく。
「そ、それは…そんなの、ただの偶然だろ!う、自惚れるんじゃないよ、チビ
のオッサン!」
(あ、また言っちまった………もう、本当にどうすればいいんだよ)
「あんたこそ、わたしを捜してたんじゃないのかい?」
動揺する心を見透かされまいと、苦し紛れに発した18号の言葉は、今日18号がクリ
リンに逢えてまず期待していたことでもあった。
無論図星であるクリリンは、慌ててこれを否定しようとしたが、言葉を呑み込み、
考えた。
(ここでまたオレが「違う」とか言っちまったら、本当に何も話が進まないじゃな
いか………。オレは18号が好きだ。このまましっかり向かい合ってこの気持ちを伝
えないでいたら、ずっと後悔するぞ!勇気を出して言うんだ。怖がっても仕方がな
い。気持ちを抑え込まないで、全部………ぶつけてやる!)
「そ、……………」
「?」
「そうだよ、18号!」
クリリンは海が波打つほどの大声で叫んだ。突然の断末魔にビクッと肩を縮めた18
号は、まだ何を言われたのか認識できないでいた。
「………………え?」
「その、オレは18号に逢いたくて、18号を捜してたんだよ!」
呆然としてまだ何を言われてるのか理解できずに固まっている18号。しかし、
「オレ、18号のことす、す、好きなんだ!」
さらにクリリンの言葉が18号の心臓に響いた。クリリンはやや下を向き、上目
遣いで18号の様子をうかがうことにした。全ての血液が顔面に集中している。
クリリンの言葉をようやくはっきりと理解した18号は、なぜか少し悲しそうな
表情になる。
「ど、どうしてわたしなんかが好きなんだよ!?わたしはおまえの大好きな孫悟空を
殺すために、あのゲロに改造された人造人間なんだよ!おまえの仲間を倒そうとした
敵なのに……どうして……」
内心クリリンはこの質問に焦った。会ってすぐの時は、もちろん強すぎる18号が恐ろ
しかった。未来の世界ではとんでもなく冷酷であるという話をトランクスから聞いて
いたのも手伝ってはいたが。でも18号は仲間を誰一人として殺すまでには至らなかっ
た。そうするチャンスはいつでもあったはずなのに。そして悟空を捜しに行く為に飛
び立つ際、頬にキスをしてくれた。
全然聞いていた話と違う。どこか、可愛いところもあるし…………。あの時からもう
18号のことが頭から離れなくなった。
(だけど、言ってみればこれは一目ボレみたいなものきゃないのか?そんなんで……
……。でも今18号が好きだというのが本当の気持ちなのに。うまく伝えらえそうな言
葉が見つからない)
「なあ、どうしてだい!?」
18号からの返事の催促に、クリリンはハッと口を開く。
「そ、それは……初めて見た時綺麗だなって思って、でもなんか可愛いトコもあって、
全然印象と違って、なんか見とれちまったっていうか…………ひ、一目ボレっていうの
かな……………はは」
「かわいいとこあるとか印象と違うとか、おまけに一目ボレって…あんたはわたしの何
を知ってるってんだ!?
怒号を上げて息を荒げる18号だが、18号には、クリリンが今言ったことが全てではない
となんとなく解っていた。自分の気持ちを表すことの難しさは、よく知っていたから。
それに、クリリンが口下手なことくらい気付いていた。でも、それでも、口に出して
聞かせてもらいたいと思っていた。イラツキが怒号となって表れてしまった訳だが、
同時に初めてこのような精神状態になっている自分に疑問を感じていた。
一方のクリリン。やはり心配していた通りの反応をされ少し面食らったが、話を続けた。
「確かに、オレは18号の全てを知ってるわけじゃない。でも、だからこそもっと知りたい。
もっと18号のことが知りたい。本当にそう思うんだ。一緒にいたいって、いてほしい
っっていうか何て言うか、傍にいてもらいたい、いてあげたいって…………(同じ事だ
けど)自然にそう思うんだ。」
「一緒に……居てあげたい…?こ、このわたしが誰かに、あんたに傍に居てもらわなき
ゃダメな奴だとでも言うのかい!?冗談じゃないよ!」
「そういう訳じゃないけど。おまえは、どこかに自分の居場所を求めてるんじゃないか
って………」
「!?」
「何だか寂しそうな眼をしているのが、なんとなく気になってたんだ。ずっと何かに苦
しんでるんじゃないかって」
「―――!な、別にそんなこと……………そんなこと…」
18号は次第に声を小さくし、俯いてしまった。
(どうして、分かるんだ………………………?わたしは………………確かに一人で居る時、
悩んでた。孫悟空が居なくなって…………。あいつを殺すために改造されて、前の記憶も殆
んど残っていない自分の存在意義が解らなかった。何の為に生きているのか…………。
もう目的も無い…………。
でも、あいつが……………クリリンがわたしを必要としてくれてる……。わたしの居場所…
……そうだ………だから今日、クリリンに会いに来たんだ。もう、存在理由も居場所も分か
らない今の状況に、わたしの眼の届かない心の何処かで、耐えられなくなっていたから)
ふっと18号は顔を上げ、クリリンに問う
「なあ、クリリン、」
「え?」
「本当に、わたしなんかと一緒にいたいって思ってくれるのか?」
「当たり前じゃないか!もう、最近おまえのことばっかり考えてて、何も手に…付かなくて
……。それに本当におまえの傍にいてやりたいんだよ……。もう、一人で苦しみを抱え込ま
ないでくれ。オレに何でも言ってほしい。少しでも18号に辛い思いしてほしくないんだ。お
節介かも知れないけど、こんなオレでも傍にいて、18号の心の支えに為れたらいいなって。
オレ、おまえのことが誰よりも好きだから!本当に、おまえに必要としてもらいたいし、お
まえのことが、必要なんだよ…………」
「………………………」
「………………………」
「…………」(そんなに「本当に」を連呼しなくても、解るよ……)
言葉にはならなかった。クリリンのやさしさは、忘れていた自分の暖かな部分を思い出させ
てくれた。まるで、心が溶けていくような今までにない感覚。
(わたしは今までこんなに揺れたことはなかった。何があっても、何を言われても何も感じ
なかった…………………でも……………クリリンだけなんだよ、わたしの心をこんなに揺ら
すことが出来るのは…………あんたが何かを言う度に、わたしの心臓がざわめくんだ。
わたしも……………一緒にいたいって思うこの気持ち。伝えなきゃ)
「クリリン……」
「は、はい!」
黙りこくっている18号を見ながら
(何か怒らせることをまた言っちゃったかな)
と心配していたクリリンは、思わず空中で直立不動の体勢をとってしまった。しかし18号の
口から聞かれたのは、彼女にとって生まれて初めての愛の告白の言葉。
「わたしも、やさしいあんたが……………好きみたいだ。やっと…今はっきり気付いたよ………」
「じ、18号……………」
18号がクリリンに想いを告げたその刹那、雲は散り、太陽のスポットライトは空全体へと広
がり、一面明るさが戻った。まるで18号のすっきりした心の中を表しているかのように……
……。
「18号ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
何を言われたのかすぐに理解できず、暫く気を付けをしたままフラフラ空を漂っていたクリ
リンは、突然顔をクシャクシャにし、嬉し涙を迸らせながら、両腕を180度に広げて18号の
方へ突進した。
(早く、この手で抱きしめたい!)
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ポカッ
「ぶっ」
「調子乗りすぎだよ!もう。いういムードだったのに。バーカ」
そういうと18号は、爽やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと高度を上げた。
「おーーーーーーい、18号ーーーーーーー」
「またな、クリリン、会いに行くよ。あの孤島の一軒家までさ」
「絶対だぞ!ずっと待ってるからな!」
フッと美しい顔を一瞬クリリンに向け、18号は眩しい陽射しの下、大空へ飛び去って行った。
その姿は、クリリンには傷付いた羽が癒され大空で嬉しそうし羽ばたく鳥のように見えた。
(もう、手の届かない存在じゃないんだ)
18号の姿が見えなくなるのを見送ると、クリリンはカメハウスへ引き返した