【強い男を】女が男を倒す[Part2]【強い女が】
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新しいSSの格闘部分が出来上がったんで貼っときますね。
今回はローズVSベガです。
「フハハハハッ!」
気絶したリュウの頭を左手で掴みながら、ベガは哄笑を上げた。
ベガが総帥として君臨する秘密結社シャドルーが進めてきた、強靭な肉体を持つ格闘家達を素体とした戦闘人間による世界征服計画。
その野望をまた一歩現実のものとしたベガは、己のサイコパワーの高まりを感じていた。
「強くなりたいという貴様の願い、このベガ様が叶えてやるぞ!」
一際強く五本の指をリュウの顔面に食い込ませると、ベガはゆっくりと左手を離した。
どさっ、と崩れ落ちたリュウをベガは愉悦の表情で見下ろす。
後は我がサイコパワーでこ奴の眠れる力を引き出しやるだけよ……。
邪悪な力で思うままに世界を蹂躙する己の姿を脳裏に思い浮かべたそのときだった。
大気の揺らぎと共に、サイコパワーに反応する「力」の存在をベガは察知した。
突如として前方に七色に輝く二つの光球が現出し、その中央へと一つの人影が浮かび上がる。
やがて光球が消滅し、ゆらりと大地に降り立った人影の正体、それは長いウエーブを描いた独創的な赤髪を持ち、
真紅のコートとストッキングに身を包み、晒した肩に黄色のストールを掛けた大柄な淑女だった。
こつり、とハイヒールを踏み鳴らすと、淑女は真っ直ぐにベガを見据える。
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424:03/06/17 13:05 ID:+o44KFVq
「ようやく見つけたわ、秘密結社シャドルーの総帥、ベガ」
「貴様、何者だ?」
凛としたその瞳を真っ直ぐに受け止め、ベガは問う。
ベガのサイコパワーは、淑女の内からみなぎる独特のオーラの存在、サイコパワーとは正反対でありながら、
互いに惹かれ合う精神の「力」の存在を敏感に感じ取っていた。
噂には聞いていたが、もしや……。
「私の名はローズ。正しきソウルパワーを操る者……」
ローズが告げたその正体に、ベガはにやりと唇の両端を吊り上げた。
「ほう、ソウルパワーの使い手がまだいたとはな」
ソウルパワー、それは、この世で唯一邪悪なサイコパワーに対抗しうる正しき精神を源とする「力」だった。
だがその使い手の数は時代の流れと共に減少し、今やサイコパワーの使い手と同じく、誰も詳しく知る者のいない謎多き存在と化していた。
そのソウルパワーの使い手が、事もあろうにわしの前に現れるとは。
「サイコパワーに抗するソウルパワー、初めてこの目にしたぞ。このわしに何の用だ?」
「ベガ、貴方の過ち、もう放ってはおけない……」
ローズは闘気を込めた双眸でベガを睨んだ。
「私の使命は貴方を封じること……。サイコパワーもここまでよ!」
ローズの宣告を、ベガは嘲笑った。
「ふん、下らぬ正義感か。わしと互角の力を持ちながら、愚かな女よ!」
「黙りなさい。貴方の悪のサイコパワー、許す訳にはいかない。最後のソウルパワーの使い手として、私がその力、永遠に封じます!」
「出来るもなら、やってみるがいいわ!ソウルパワーの使い手はいずれ葬らねばならぬと思っておった。
ここで貴様を倒せば、わしの野望を邪魔する者は誰もおらぬ。死ね!」
言葉が終わった瞬間、ベガは猛然とローズに襲い掛かった。
巨体に似合わぬ俊敏さで跳び上がり、両脚を連続で振り下ろしてローズの細身目がけてダブルニープレスを仕掛ける。
しかしローズは高々と跳躍してこれをかわすと、ストールを翻し、勢い余ったベガの背後へと回り込む。
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424:03/06/17 13:07 ID:+o44KFVq
「させるか!」
勘良くローズの狙いを察したベガは素早く土を蹴り、振り向き様にサイコショットをぶつけようとする。
「ソウルリフレクト!」
が、次の刹那、ローズが前面に広げたストールがまばゆい光を放ち、驚くべきことにまるで鏡の如く、
サイコショットをベガの方へと弾き返した。
「ぬおっ!」
想定外のローズの反撃の前に、ベガはサイコショットを避け切れず、自身のサイコパワーの塊によってのけぞってしまう。
「おのれ、小癪な技を……」
唇から垂れる血を、赤い軍服の袖で拭いながら、ベガはローズを睨んだ。
「飛び道具など所詮は子供騙し。私には通用しないわ」
余裕すら感じさせるような優雅な所作で、ローズは再びベガと対峙する。
流石にソウルパワーの使い手。今までの連中のように一筋縄ではいかんか。
ならば!
「ふん!」
瞬間、ベガの姿が消えたかと思うと、突如としてローズの背後に現れていた。
ベガワープの奇襲に、虚を突かれて反応の遅れたローズを見逃さず、ベガはサイコパワーを纏った右拳を振り上げる。
「もらった!」
がん、と鈍い音と共に、拳に衝撃が伝わる。
ベガの拳は確かにローズを捉えた。だが、無様に地面に膝を付いたのはベガの方だった。
「ぐう!」
とっさにローズが構えた、ソウルパワーを用いた右腕のガードは鋼以上の硬度を持ち、ベガのサイコパンチすら弾き返していた。
ベガが怯んだ瞬間、ローズは電光石火で反撃へと転じる。
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424:03/06/17 13:09 ID:+o44KFVq
「はあっ!」
掛け声と共に、ハイヒールの踵がベガの腹筋にめり込み、すかさずローズはアッパーへと繋げる。
「ソウルスルー!」
その細腕でいとも簡単にベガの巨体を浮き上げると、ローズは狙っていたとばかりに跳躍し、地面目がけて勢いよく投げ飛ばした。
「ぬおっ!」
ソウルパワーの連携攻撃をまともに浴び、ベガは全身を蒼白い炎に包まれながら思い切り土を噛む。
「おのれ!おのれぇ!」
それでもかろうじて立ち上がり、口に溜まった血と土と前歯を吐き出しながら、ベガは獣の如き形相でローズを睨み付ける。
馬鹿な!このわしが!こんな女に遅れを取るなどあっていいはずがない!
必死の形相にも微塵も動じず、ベガの焦りを見透かしたようにローズは両腕を組む。
「もうお止めなさい。いつの世も正しい者だけが生き残るのよ。ベガ、貴方のサイコパワーでは私を倒すことは出来ない」
その一言は、己の強さに絶対的な自信を抱いていたベガのプライドを一層ズタズタに引き裂いた。
「わしの力を侮るな!」
憤怒の感情を爆発させると、ベガは己のサイコパワーを総動員して猛然とローズに向かっていくが、
その度に蝶の舞いのようなローズの軽快な動きにかわされ、ソウルパワー仕込みの反撃を浴びせられていく。
「はあっ!」
サイコクラッシャーがかわされた次の刹那、ストールを絡ませたローズの右腕がベガの腹部にねじ込まれる。
「やあっ!」
「ぬおおおっ!」
さながらドリルの如く、ソウルパワーを帯びたローズの右腕がベガの腹部を抉っていく。
「ぐおおっ!」
突き抜ける激痛に絶叫しながらも、ベガは懸命に右腕を突き出し続けた。
より一層ローズの右腕が食い込む。だが、ローズはあまりに攻撃に気を取られ過ぎていた。
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424:03/06/17 13:13 ID:+o44KFVq
「ふん!」
突然ベガの右腕が勢いよく突き出され、次の瞬間、ローズの細い体はベガの大きな掌の中に捕らえられていた。
ベガの身を削った一撃が、ローズの僅かな油断を突いたのだ。
「し、しまった!」
「ふ、ふふっ。小娘が手こずらせおって……」
ベガは邪悪な笑みを浮かべると、思い切り右手に力を込めた。
「あ、ああ……」
腰がくびれ、ローズは逃れようと必死に両腕に力を込めるが、万力のように食い込んだベガの掌はびくともしない。
「我がサイコパワーの恐ろしさ、思い知れ!」
今までの屈辱を倍返しするように、ベガはありったけのサイコパワー注ぎ込みより一層ローズを締め上げる。
「あああ……」
呆けたように口を開いて弱々しいつぶやき声を上げながら、次第にローズの全身から力が失われていく。
「ふははは、死ねい!」
ベガが勝利を確信し、止めを刺そうとしたその瞬間だった。
不意にローズの体が歪み出す。すると摩訶不思議なことに、徐々に握り締めた感触が弱まり、まるで雲の如くローズの体が消え去ってしまった。
「ば、馬鹿な……」
辺りを見回しながら、呆然とするベガを嘲笑うように、突然背後よりローズの声が響き渡る。
「邪な心の貴方には私を捉えることは出来ない……」
振り向くと、驚愕すべきことにまるで手品のように同じ姿をした幾人ものローズが立ちはだかり、ベガを指差していた。
「覚悟はいい?」
宣告と共に、ソウルパワーの力で生み出された幾人ものローズはあっという間にベガを取り囲むと、嵐の如き猛攻を叩き込む。
幾十もの拳がベガの鼻を潰し、軍帽を弾き飛ばし、蹴りが右腕を折り、左足を挫く。
打ち込まれる数え切れぬ連打にダメージを刻み込まれながら、ベガは懸命に反撃の拳を突き出すが、空しく幻影を捉え続けた。
「がああ……」
ようやくローズの猛攻が途絶え、再び一人の姿に戻ったとき、ベガは最早半死半生だった。
81 :
424:03/06/17 13:15 ID:+o44KFVq
軍服は至る部分が破れてぼろぼろで、その顔面からは破裂した水道管のようにあちこちがひび割れて、
そこから蒼白いサイコパワーが漏れ出し、シャドルーの総帥としての威厳は露程も残されていなかった。
ふらふらのベガにローズはゆっくり近付くと、
「ベガ、あなたもここまでよ!貴方のサイコパワー、永遠に封じます」
裁きの一言を告げて止めの一撃を放つ。
「はいっ!」
ローズは二つの掌でベガの頭を挟み込むと、そこからソウルパワーを送り込んだ。
「うがああああ!」
脳へと直接膨大なソウルパワーを送り込まれ、ベガは張り裂けんばかりに両目を見開きながら、絶叫を上げた。
やがてソウルパワーが全身を侵食し、邪悪なサイコパワーを完全に封じ込めると、ベガはがくりと膝を付き、そのまま地面へと倒れ伏す。
ベガの意識が途切れると、ローズは懐からタロットカードを一枚抜き取り、それを眼下の惨めな結末を迎えた悪の帝王に放り投げる。
「レッスンはここまでよ、ベガ。世に悪の栄えた試しは無い……」
ローズはつぶやきを残すと、何処ともなく去っていく。
ベガの上に放り投げられたカード、それは破滅を意味するカードだった。