終わった。
何もかも。
自分の今まで積み上げてきた全てが。
これから積み上げようとしていた全てが。
何故? 誰の所為?
自分の所為。自分に価値が無いから。
そうだ価値が無いのなら。
いっそ全て壊してしまおうか。
片瀬志麻と音山光太の二人が部屋を去った後、初佳は呆然と、ベッドで天井を見上げていた。
このまま眠ってしまってもいい。けれどそんな気分じゃない。
考える事が沢山あるはずなのに、いま自分が思うところは一つ。
壊し方。町田初佳の壊し方。
もう生きていくだけの価値が無いのだから。壊してしまってもかまわないだろう。
しかし方法が分からない。
今まで散々他者を蹴落とし、攻撃し、壊してきたのに。
そこまで考えていると、自分の名を呼ぶ声がし、ドアが開いた。
「ケント…?」
初佳は体を起こす。思った通り、そこには自分と同じ「ビッグ4」と呼ばれる男がいた。
「やあ、初佳」
ケントは笑みを初佳に向ける。大抵の女ならココで卒倒するのだろうが、
初佳は未だかつて目の前の男を「男」として見たことが無かった。
ライバル。友達。あるいは、その両方。
「ドア、無用心だよ」
初佳が無反応なのを見て、ケントはそう言った。
初佳はケントから目を逸らして、呟く。
「さっきも同じこと言われたわ」
「誰に?」
「音山光太。片瀬さんもいたけれど」
「…来たのか?」
「来たわ。何故私が片瀬さんに怪我させようとしたのか、聞きたかったんだって。決まってるじゃない、そんなの」
そう言って初佳は嘲笑するように笑った。その対象は。
「初佳。ボクは君を、退学にはさせない」
その言葉に、初佳はケントの顔を見た。見たことの無いような真剣な顔。
「…退学にさせない? 冗談でしょ? 私はもう二度も…」
「二度じゃない。二度にはさせない」
「…?」
「藤沢くんと掛け合ってきたよ」
「!」
「君を許してくれるように。今はまだ思案の途中だけど、たとえ断られてもボクは」
「余計な事しないで!」
激昂。初佳は涙を浮かべながらケントを睨んだ。
「初佳…」
「そんなことされたら、私、余計…」
そこで初佳は気がつく。「余計」なんなのか。
余計自分のプライドが傷ついてしまう。バカか。
こんな状況になってまで、自分は自分のちっぽけなプライドを守ろうとしている。
最低。恐らく自分は人間の中でも最低の部類に入る。
やはり価値など微塵もない。
初佳は涙を拭って、ケントの顔を見詰めなおした。そして思う。
なぜこの男は私にここまでしてくれるのか。簡単だ。この男は私のことが好きなのだ。
触れたいと、抱きたいと思っている。性欲の対象。ならば、お望み通りにしてやろう。
「抱いて」
「え?」
「私を抱いて」
「初佳?」
「抱いて忘れさせて」
「なにを言ってるんだ。ボクは…」
「あなたがスキなのよ、ケント。愛しているわ」
初佳は無表情のままそう言って、服を脱ぎ始めた。
ケントは慌てて言う。
「嘘だ。君は自分を傷つけようとしているだけだ。そんなことをしたって」
「何もならない? じゃあ『何になれば』いいの? 私は何かになれるの?」
ケントは言葉を失った。
「自分の障害は叩き潰す。今までそうしてきたのよ。これからだって、しないわけが無い。ううん、絶対にする」
初佳はそこまで言って、ズボンを脱いだ。完全な下着姿。
「だから、変えてよ。あなたが私を変えて。その覚悟もないんだったら、今すぐ出て行って」
勝手な女だ。初佳はもうそれしか思わなかった。
「違う…ボクは…」
「違う? なにが違うの? 何が違わないの? 私にはもう、何も分からない」
ケントは顔をしかめて、その場に立ち尽くしていた。
初佳はそんなケントを見て、イライラしている自分に気がつく。
抱きたいのなら、早く抱けばいい。
「早くして。じゃないと、やよいがどうするわけでもない、自分でステルヴィアを出て行くわ」
決め手の一言。それとともに、初佳は下着も全て取り払った。
ケントはそれを聞いて、唇をかみ締めると、初佳に近づいてきた。
「いいんだね?」
ケントは確認するように初佳に言う。
「何が良いの? 何が悪いの?」
初佳はケントの目を見据えて、そう言った。
逆にケントは初佳の目から目を逸らす。そして一瞬なきそうな顔をすると、初佳にキスをした。
表情を変えずにそれを受ける初佳。
ケントは初佳をベッドに寝かせた。
もう一度口付けられる。ケントの舌が初佳の舌と絡み合う。
ケントはそのまま、初佳の乳房に手を寄せた。
触れる。柔らかな、手に丁度収まるくらいの乳房を、いたわるように揉んだ。
ピンク色の乳首を、両方つまみ、捏ねる。
「ん…」
ケントのなれた手つきに、初佳が反応した。
ケントはキスを止めると、乳首に唇を寄せる。含む。乳輪を舌でなぞり、乳首を押し込む。
「あ…」
初佳の頬が赤く染まる。
ケントは乳房に触れていた手を、初佳の股間に移した。
中指で入り口に触れる。初佳の髪の色と同じ茂みに覆われた、そこをなぞる。
「はぁ、ぁ、ん」
ケントは柔らかな丘の全体を手で包み込むようにして、優しく揉んだ。
「あ、あ、あ」
息を漏らす初佳。ケントは手を離し、人差し指を膣にゆっくりと差し込んでいく。
「…!」
唇を噛んで耐える初佳。ケントは中で人差し指を曲げたり、角度を変える。
自分の内側を擦られる感覚に、初佳は息を荒げた。
ケントは指を中に入れたまま、もう片方の手で初佳の陰核を触った。
「ぁ…!」
今までとは異質の感覚。初佳は目を見開く。
ケントはかまわずそこを捏ね、舐め上げた。
少しの間そうしていると、ケントは指を離す。
初佳が引き抜かれた指を見ると、それは濡れていて、部屋の僅かな灯りを反射していた。
「そろそろ、いくよ」
ケントはそう言って、上半身だけ裸になると、自分の性器を取り出した。
大きい。
初佳は一瞬だけそう思うと、来るべき衝撃に目を閉じた。
ケントが初佳に覆いかぶさる。そして、初佳の性器にケントの性器が擦りつけられた。
「ん、ん…」
ケントが腰を押し出す。先端が埋まった。
それを確認すると、ケントは初佳の腰をつかみ、一気に挿入した。
「ぅ…!」
初佳はケントに抱きついた。顔を見られないように。
「く…初佳…!」
ケントはゆっくりと腰を動かす。
潤っているその中で、ケントの性器は音をたてて出し入れされた。
「あ…うぁ、はぅ」
初佳がケントをより強い力で抱きしめた。
ケントはその手を少し強引に解くと、体勢を変えた。後ろから突きこまれる。
深い。自分の一番深い所まで、ケントに触れられている。
初佳は喘ぎながら、シーツを思い切りつかんだ。
ケントはやはりこう言ったことに慣れている。
突きこむ速さや、角度、力加減が一回一回違う。
そして時折初佳の乳房をつかみ、快感を引き出す。
また体勢を変えた。ケントは初佳の片足を自分の肩に乗せて、横から突きこんだ。
「あぁ! あ! あ! ああ!」
擦られている。自分の体内が、熱いものに。
「く、初、佳…」
名前を呼ばれる。胸の中が少し熱くなる。
けれど初佳はケントの名を呼ばなかった。
「あ! あ! わ、たし、あ! イ…!」
初佳が絶頂に達する。収束する膣運動から、ケントは逃げ出すようにして引き抜いた。
ケントもまた果てた。性器から発せられた体液が、初佳の胸に飛び散る。
息を荒げて動かない二人。
そして、ケントはそれに気づいた。
「初佳…きみ、初めて、だったのか…?」
ケントの性器が引き抜かれた後から、少し色の違う体液が滲み出てきた。
それはこの暗い部屋では分かりづらいが、確かに赤い色が混じっていた。
「だから…?」
初佳は未だ整わない息を抑えながら言う。
ケントは苦虫を噛み潰したような顔をして、言った。
「もう少し、違うやり方もあった…」
初佳はそんなケントを見て、少しだけ微笑んだ。微笑むことができた。
「優しいのね」
そう呟いて、服を着始めた。
「初佳…」
また名前を呼ばれる。
「ケント」
初佳は名前を呼び返した。そして、言う。
「ごめんなさい」
ケントは少し驚いた顔をして、
「いいさ」
そう言った。
誰もいない部屋。
ケントが部屋を去った後、初佳は呆然と、ベッドで天井を見上げていた。
「ごめんなさい」
呟く。
「ごめんなさい」
もう一度。
気がつけば、初佳は泣いていた。
「ごめんなさい」
何度も何度も呟いて、そして泣き続けた。
そしてその言葉を、自分は驚くほど口にした事がないことに気がつく。
初佳は先ほどの行為で少し汚れたシーツを抱き寄せた。
涙が溢れる。体が震えている。
止まらない嗚咽の中、初佳はもう一度呟いた。
「ごめんなさい…」
完
愛がない。
この小説の内容も、そして、俺が初佳に対しても。
まぁ、初佳は全然嫌いじゃないんですけどね。
むしろああいうキャラがいてくれた方がいい感じというか。
それにしてもエッチシーンがちょー適当。
まぁ、こんなのもあるという事で。
とりあえず
>>278のリクエストに答えたということで。
とりあえず、さよなら、さよなら。