193 :
推力:
「嬲り」
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世の中にはこんなにも醜いことが存在するのだと知ったのは、彼が17の時だった。
当時、既に世界経済の63%を掌握していた神羅カンパニーには、
既存の国家のちっぽけな自尊心(プライド)や体面などは風に舞う藁屑ほどの値打ちも無く、
いつの間にか国家の中枢にまで入り込んでいた無国籍総合企業体が自設の軍を持つ事になっても、
それに歯止めをかける事の出来る者など、世界中のどこにも存在しなかった。
『魔晄』という、火力・風力・地熱に代わる第4のエネルギーのもたらす恩恵は、
世界を蝕む毒に等しく、その夢のようなエネルギーは人から考える力を根こそぎ奪っていたからだ。
更に神羅は、魔晄によって人工的に強化される極戦略強化歩兵『ソルジャー』を生み出し、
世界各国に派遣・駐留させ、国々の主だった有力者・活動家を抱き込み、
または“声を出せない状態”に追いやっていた。
世界は神羅の傀儡で生め尽くされ、
独自の文化と歴史を重んじる『ウータイ』という極東の小国のみが、
神羅の手から唯一自国を護って抵抗を続けていたのである。
『ソルジャー』クラスファーストに身を置き魔晄の瞳を持つ銀髪の成年は、
神羅のプロパガンダと特選教育によって、神羅の息のかかった地域ではまさしく英雄として扱われていた。
そして神羅支配圏の少年達は彼の強さに憧れ、彼の作戦行動を神羅放送で追うたび、
彼のようになる事こそを自分の夢としていった。
彼の存在の後には、“幾百幾千の人々の血が大河のように横たわっている”というその真実を、
大人達によって巧みに覆い隠されながら…。