ときめきトゥナイトのエロネタを語るスレ Part6
ベッドの蘭世はネグリジェをまとってうとうとしかけていたが、俊が入ってくる気配で目が覚める。
「腹減ったか?」
俊は話し掛けながら抱き上げてキッチンへ向かう。
「うん・・・ちょっとだけ・・・」
「せっかく作ったんだから全部食えよ」
「・・・ふふっ・・・何を作ったの?」
テーブルの上には普段の俊から想像できない料理が湯気を立てて並んでいた。
ちなみにメニューは俊の希望により秘密だ。
蘭世は驚き、そしてありがたく頂き、幸せなひと時と一緒においしい料理をかみ締める。
俊が自分に作ってくれたのだ。
何だっておいしいに決まっている。
俊は俊で味付け具合を尋ねたいのだが、聞くに聞けず蘭世の表情をチラリと伺うだけ。
どうやら合格点はいっているようだが・・・・
あらかた食べ終わった蘭世はごちそうさまを言うと
「後片付けは任せてね」
と腕をまくりながら空いた皿を持って立ち上がると、流しに行き着く途中でよろめき派手に転ぶ。
・・・のを俊は予想済みで、蘭世もお皿も無事にキャッチ。
蘭世を小脇に抱えて皿をシンクにつけると
「まぁ座ってろ」
と笑いながらソファにかけさせ、自分は手際よく後片付けを済ませてしまう。
ついでに一緒に風呂に入って洗ってやり、今日は早い時間に床へ就いておやすみ3秒。
2人ともくたくただ。
ちなみに翌朝の蘭世は、今度はビッシビシの筋肉痛で動けず
俊はまた自分で食事を作らねばならなくなりましたとさ。
836 :
350:03/03/06 21:36 ID:cibGpeaR
神々の降臨求ム!
自分はネタが尽きてきました。
話がだんだんつまんなくなってきてスマソ
また修行してきまつ
>350タン
・・・これでネタ尽きでつまんないの?
ま じ 萌 え し ち ゃ っ た ん で す が 。
「我ながら上出来♪」って出来だと、どこまでイッてしまうんでしょ?
修行なんて逝かれたら、待ちきれなくて(ry
真壁くん・・・今日の君はなんだか可愛くて激萌えダターよ。
しかし蘭世はそれどころじゃないよな。
得したよーな、うらやましーよーな(イヤ羨ましいって)
>350タン
乙です!すごく良かったです。
「許してくれないのか?」と何度も問いかける真壁くん(・∀・)イイ!
そして、一応反省する真壁くんもイイです!
蘭世ちゃん大変ね(藁)
修行に行かなくても、十分あなたは神です!
839 :
698:03/03/07 02:16 ID:hhTb5MkB
あ、やっとカキコできる・・・
もうお忘れかもしれませんが、俊のオナニーネタで前編とした
698でございます。
後編予告をしながら、
ヤフーBBの関係でずっとカキコできなくなっており、
非常に申し訳ありませんでした。
前編が不評でもなかったので、
お目汚しかもしれませんが、
後編は近日中にウプ致します。
エロ度低めですが、どうぞよろしくお願い致します。
では、神々の繁栄あらんことを・・・
>698タン
続き待ってますよー!
841 :
810:03/03/07 05:48 ID:9cdnD1r8
今晩は。以前に小説を書く!と言った者です。
ところで…只今、カップリングに苦慮しています。私は愛良編がリアル世代なんですが、愛良編では書きたいと思うような萌えカップルはいない。蘭世と俊は皆さん書いていらっしゃるから気後れしてしまう…と、かなり迷っています。
唯一思い付いたのは曜子と力なんですが…需要があるか…。
皆様、曜子と力っていかがなもんでしょうか?
曜力みたいっ
でも俊蘭で気後れすることはないですよー!
多分みんなが一番好きなカップリングだし・・・
698タンの続きも楽しみです。
>>350さま
今回もすごくよかったですう!お疲れさまです。
またネタが産まれたら早々にお戻り下さいっっ。
>>698さま
きゃーきゃー。
忘れてないです〜!お待ちしてました!!
>>810さま
曜子ネタ(・∀・)イイ!
大事なキャラなのに今までパロした人少なかったですよねー。
最近お料理教室に通い始めた。
お料理なんてお家でもできるんだけどね・・・
実はお料理より栄養のお勉強のつもりで行ってるんです。
だってプロボクサー真壁俊の妻になる者たるや
夫の栄養管理ぐらいできなくてど〜するのよね〜
近い未来の為に努力を惜しんではいけないわ!
な〜んちって♪ ムフフ・・・
どうせ真壁くんが大きな試合を控えてて、あんまり会えないし
いい気分転換だからって、かえでちゃんが勧めてくれたのが始まりなんだけど
減量に苦しむ真壁くんの助けになれると思うと、熱も入るってもんよね。
今日はフィラさんの赤ちゃんを見に行くので、ついでにケーキを焼いていくことにした。
そうだ! 帰りに真壁くんのところに寄って差し入れもしてこよう。
ケーキよりお弁当にうんと気合を入れてしまう。
今日はお気に入りの白いワンピースでも着ていこうかな〜♪
手際よく調理して詰めていると、お母さんが顔を出した。
「あら・・・ケーキ?」
「フィラさんに持っていくの!ベイビーのお祝いよ」
「魔界に行くんだったら、また想いヶ池のお水汲んできてちょうだい」
最近使う理由がないとはいえ、とりあえずいつも蓄えておこうという所は主婦だわ。
よく飲んだ時期があったなぁ・・・なんて昔をちょっとだけ回想しながら
真壁くんのお弁当とフィラさんのケーキと水筒を持って、久し振りの魔界へ向かった。
魔界は特に変わった様子もなく、アロンもフィラさんも赤ちゃんも元気だった。
2人が仲良さそうに赤ちゃんをあやす姿は、幸せそうで私の心をひどく締め付ける。
私もいつか・・・・・・なんて・・・・・
その感情は喜怒哀楽とも嫉妬とも羨望とも違う・・・・
フィラさんはケーキをとても喜んでくれて、一緒に食べようと言ってきかないので
ついでにお茶をご馳走になってしまう。
久し振りのせいか、積もった話がとってもはずんじゃって
気が付いた時にはかなりの時間がたっていた。
「いけない! こんな時間!」
名残惜しそうなフィラさんとアロンに別れを告げて、帰り道を急ぐ。
結構歩くのよね。
急がないと・・・・
左手には真壁くんのお弁当。
右手には水筒・・・・
水筒・・・
あ〜×××
想いヶ池にも寄ってこなきゃぁ・・・
これじゃあ遅くなっちゃうな・・・
とりあえず急ごう・・・
走ったおかげで想いヶ池にはすぐたどり着き、私は跪いて水筒をつける。
なみなみと水を注いだ水筒の蓋をしようとした瞬間
膝に乗せてたお弁当がずるっと落ちて・・・・ぽちゃん・・・・
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜おべんと〜が〜〜〜〜〜!!!!」
反射的に手を伸ばしてお弁当を取ろうとしたら
やっぱりというか案の定私もボチャッと落ちてしまった。
きゃ〜〜〜〜〜真壁くんのおべんと〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・
お弁当をハッシとつかんだら周りの情景が一気に変わる。
鼻スレスレの目の前には広い胸・・・・
胸・・・・???
上を見上げると真壁くんの顔がアップで見えた。
そして向かい合った私達の上からは暖かいお湯がさんさんと・・・・
「うわっっっ 江藤っっ」
私に気づいた真壁くんは、ビックリなんて表現では足りないぐらい驚いている。
ここは・・・・
「うっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
真壁くんがシャワーの最中だったところへ私が飛び込んでしまったみたい。
私ったらなんて事を・・・・
あわてて後ろを向きながらしどろもどろに言い訳をする。
「ごっっ ごめんなさい。 お弁当が想いヶ池に落ちちゃって・・・」
やだやだ〜〜
もしかしてもしかしてもしかしなくても真壁くんて今裸??
私は恥ずかしくて顔が火が出そうだった・・・・
こんなこと乙女のすることじゃないわ〜〜
ヤダヤダヤダ〜〜
私の声を聞きつけたのか、誰かが声をかける。
「どうした? 真壁・・・
女の悲鳴みたいのが聞こえたぞ」
・・・・・ヤバい!
「それは外から聞こえたよ。女の声には反応早いな」
真壁くんがとっさに返す。
「うるせー とっとと出やがれ。先に帰るから鍵閉めとけよ」
「ああ・・・・帰っててくれ・・・・」
ここはジムのシャワールームなのね・・・。
そっか・・・・練習終わった所なんだ・・・。
お弁当をシャワーから守りながらやっと気づく。
「今の奴が最後だから、とりあえず大丈夫だ」
背後から真壁くんの声がする。
ひとまず、見つからないで済んだのね・・・。
練習終わった真壁くんがシャワー浴びてる所から
まさか私が出て来れるわけないもんね・・・
それよりも・・・・
「お前シャワー浴びっぱなしでいいわけ?」
いいわけないよ〜
「止めればいいのに・・・」
と横から長い手が伸びてシャワーのコックをひねって止める。
たはは・・・そうでした。
タオルでゴシゴシする音が聞こえ
「こっち向いても大丈夫だぞ」
と言う声がした。
ずっと硬直していた私は、振り返って初めて真壁くんの顔をまともに見る。
ボクサーパンツ1枚の真壁くんは、頭をもしゃもしゃとタオルでかき回していた。
乱した髪・・・・・・引き締まった体・・・・
少し痩せたんじゃないかしら・・・
一瞬見とれてしまう・・・・
「お前・・・・ずぶぬれだな・・・」
あっ・・・そうだった・・・・
や〜〜ん・・・・お気に入りのワンピースなのに〜〜〜・・・・
とりあえず最後の奴が帰ったので安心した。
江藤は気づいていなかったが、ずぶぬれの江藤の白いワンピースは
はっきり言って肌の色もわかるほど透け透けで、ブルーの下着の模様までわかる。
うをををををを〜っ!
これはおいしいがきついしまずい。
極力顔に出さないように
「とりあえずこれでも着てろ」
とオレは背中を向けて自分の着替えとタオルを江藤へ放ってやり、バスルームから出る。
江藤はすぐに着替えて出てきたが、やはり俺の服は大きいらしく襟首があまっていた。
「ごめんね真壁くん。お弁当差し入れるだけのつもりだったのに・・・」
「いいさ。それより乾燥機で服を乾かせよ」
「うん・・・・」
ジムの中にある乾燥機へワンピースを入れて、乾燥中の間
ゴシゴシと頭を拭きながら江藤と並んで座って、ぎこちない沈黙が続く・・・・。
ジムの中は乾燥機のゴウゴウという音が響くだけ。
江藤は下着も一緒に乾燥機へ入れているらしく(当然か)妙に落ち着かない様子を見せ
それがオレにまで伝染ってくる。
ノーパンノーブラか・・・・
はっっ
いかん
何を考えてるんだオレは・・・
服が乾いてから江藤を送って帰ったのだが、その間の会話の内容を覚えていない。
理性を保つのに必死だったからだ。
そして何かに追われるようにいそいそと帰宅したオレは、弁当も食わずにティッシュの箱を掴んでしまう。
こっちのおかずが先だ。
つながらないけど、続きは>698で。
698タン勝手に繋げてスマソ
(・∀・)イイ! (・∀・)イイ!(・∀・)イイ!ハゲシク(・∀・)イイ!
青少年の純情性欲ってそそります。
蘭世ったら大胆!(藁)
よく我慢した真壁くんに激萌えですー。
517-518舞台の椎羅編を作ってみました。
エロなしなので、興味のない方はスルーを・・・
皆さんはボクシングって御存知ですか?
恥ずかしいことに私は娘のボーイフレンドがボクサーなのに
全然ボクシングのことを知らなかったのです
だから真壁くんがボクシングの新人王トーナメントに出ると蘭世から聞いた時
てっきり優勝したらそれを区切りに結婚すると思ってました。
・・・気が早いと思われますか?
娘の幸せを思う親心だと笑って許して下さいね。
だって二人を阻む物が何もない今、何の理由があって結婚しないというのでしょう
単純な私はそう思っていました。
ところが鈴世から
「おにいちゃん世界チャンピオンに勝つまでプロポーズしないって言ってたよ
ってケロリと言われたときは、そりゃあがっかりしました。
思わず鈴世に
「どうしてっ!!!」
なんて詰め寄っちゃいましたもの。
驚く鈴世の説明を聞いて愕然としました。
ボクシングの世界はとても厳しくて、日本一になったぐらいでは食べていけないのだそうです。
現実的なお話でごめんなさいね。
しばらく考えて、真壁くんのその発言は彼らしいと思うようになりました。
主人と蘭世は最初から分かっていたようです。
そして真壁くんの世界タイトルマッチが決まった時は
とうとう来たと、蘭世よりもどきどきしていた事でしょう
そして試合が終わった次の日の朝、きっと二人で現れると思い
腕によりをかけた朝食を用意することにしたのです。
「いい?ペック。ここで見張って蘭世達が見えたらすぐ知らせてね。お出迎えしなきゃ♪」
「アイヨ」
私はうんとおいしい朝御飯の準備をしなきゃ〜
朝御飯はミルクをたっぷり入れたホットココアと、はちみつを塗ったトーストをこんがり焼いて
定番のスクランブルエッグには炒めトマトとコンソメスープで味付けするのが私風。
おっと真壁くんは減量明けだったわね。
消化を助けるためにサラダは大根をベースにしましょう。
真壁くんはそれを全部ぺろっと平らげてくれたので本当に嬉しかった・・・
そして眠そうにしていた蘭世を寝かしつけて3人になった時
暫しの沈黙を破ったのは、私が待ち望んだ真壁くんのセリフ・・・・
思わず目が潤んでしまったけど・・・
やっと来たのね・・・
感無量のひととき・・・
そして真壁くんが帰った後、望里が後ろから嬉しそうに
「とうとうこの時が来てしまったな。お前ほどじゃないけど私も楽しみにしていたんだよ」
と私の肩にポンと手を置いた。
その瞬間、私は堰を切ったように涙が溢れて止まらなくなってしまう。
「おいおい。どうしたんだ?嬉しくて泣いてるのかい?」
ボロボロ泣く私にびっくりした望里は優しくいうのだけど、
私は表現できない感情に押し流されて声にならない。
「・・・っ・・・っ・・・っ・・・」
誰よりも楽しみにしていたか知れないこの瞬間は
想像していたものよりずっと胸が痛いものだった。
母親として娘の幸せを願うのは当然で
勿論そのつもりでいたなはずなのに・・・・・・
いざ本当に手を離れてしまうと思うと
こんなにも寂しいものなんだと初めてわかった。
「あなた・・・・私はこんなに胸が痛い瞬間を
どうして待ち焦がれていたのかしら・・・
今になって蘭世を手放したくないなんて思い始めているのって言ったらおかしい?」
閉じた目から新しい涙が流れ出して首を伝わる。
望里はまた少し驚いた顔をしてからにっこり笑って私の手を取ると
「私たちは今でこそ認めてもらっているが、一緒になる時は親から祝福されなかったから・・・
自分達は同じ轍を踏まないと誓ったじゃないか。
私たちが祝福しなくてどうする・・・」
と低い声で優しく話し掛けてくる。
「違うの!祝福してないわけじゃないのよ」
「わかってるさ。
寂しい気持ちが拭いきれないのは私も同じだよ。
でもその寂しさよりも
自分達が親として祝福してやれるという喜びの方が大きいと思わないかい?
どうして寂しいところばかりみるんだ?
蘭世の長い長い夢が叶ったこと
選んだ人に間違いはないということ
私たちはそれを心の底から喜べるだろう?
なあに
違う世界に行くわけじゃないし
蘭世はいつまでもどうなっても私たちの娘であることにかわりはないよ」
「そうね・・・・そうよね・・・ああ・・・あなた・・・」
いつも暖かく私を包んでくれる胸へしがみつき、落ち着くまでじっと温もりをかみしめる。
そして自分が犯した親不孝を思い出した。
猛反対を押し切って駆け落ちしたんだっけ・・・・
私が蘭世にそんなことされたら、きっと生きていけないわ・・・
そうよね・・・
一緒に喜んであげられる事を、幸せだと思わなきゃ・・・
私が望里と一緒になってよかったと思うように
蘭世も真壁くんと一緒になってよかったと
真壁くんも蘭世と一緒になってよかったと
いつまでもいつまでも思っていられますように・・・・・
私の目から最後の涙が一筋流れ落ちる。
望里は微笑んで私の涙をぬぐい、暖かく口付けてくれた。
・・・・ええ・・・わかってるわ・・・あなた
・・・私達はいつまでも家族よね・・・・
856 :
ぐはっ:03/03/07 23:32 ID:y8SVf5/l
IDそのまんまやん
連投スマソ
>841
是非お願いします。
陽子・力が読みたいなぁと思ってたところなんです!
今日はお話いっぱい読めて嬉しいで〜す。
作家タン方乙です。
椎羅さん視点のお話よかったです。
エロなしでも全然オッケーです!
椎羅望里話よかった!
たまにはこん良質のエロなし話も読みたくなりますな。
あ、もちろんエロエロ話も大歓迎ですよ!!
作者たんたち応援しちょるぞ!
職人さんがたくさんいらっしゃるのに、
書き込むのもどうかと思ったのですが…
SSうpしてもいいですかね?
是非お願いします!
SS待ってます〜!
ありがとうございます。
んでは早速…
暖かい日差しが、穏やかに生き物の芽吹きを誘う。
だが、春いまだ訪れぬ季節、公園の緑は冷たい風に体を縮め、
散歩するノラネコは、陽だまりの中しか歩かない。
そんな時期、3月にやってくるもの。
別れの季節。
「か、かえでちゃ〜〜ん!!」
「蘭世ぇ〜〜〜!!」
目を赤く腫らすかえでに抱きついてているのは、更に目を赤く腫ら
している蘭世。送られる側より見送る側の方がより泣いているのは
珍妙なものだが、それはそれ、江藤蘭世であるからして。
卒業証書と、卒業生の証である赤い花が潰れるくらい、二人はひし
と抱き合う。
「げ、元気でね、かえでちゃん!手紙書くからね!!」
「蘭世も元気でね!今度はちゃんと卒業してね!!」
…最後の一言は余計じゃねぇのか?と、女二人の別れに、俊は苦
笑する。
かえでは卒業後、地元の短大に進路が決まっていて、電話1本で
会える距離には変わらないはずなのだが、それでもここまで泣ける
のは、卒業式というイベントの為せる業なのだろうか。
そんな二人を遠巻きに眺めながら、ふと。背後の気配に気がついて振り返り、ぎょっとする。
2
「ま、真壁くん、あの…」
「俊くん…」
鈴なりになった、卒業生の女の子たち。小塚と同じように、卒業証書
を握り、ハンカチで瞼を押さえながら。だが、その背後に飛ぶ、場違い
のハートマークが見えるような気がするのは、俊だけではあるまい。
…まさか……
イヤな予感に顔に縦線の入る俊。予想は、寸分違わぬくらい当った。
中の一人が、まだ涙で潤む目で、おずおずと歩み出る。
「制服の第二ボタン、貰えないかしら?」
「…俺は卒業生じゃねーよ」
(それに、なんで第二ボタン?)
ぶっきらぼうに、一応そう言ってみるが。
「だからよっ!」
一斉、とも思える動きに、百戦錬磨の俊も一瞬たじろぎそうになる。
「あなたとの思い出になるものが欲しいのっ!!」
「いや、だから…」
3
思い出が欲しいって言われても、彼女らとの思い出なんて俊には一切
ない。
それに、卒業生はたくさんいるけど、自分は一人。
ついでに制服の第二ボタンも一つ。
「構わないわ!!」
声が一斉に揃うので、更にギョギョっとなる。な、なんなんだ、こいつら
の勢いはっ!
ヘタすれば、引っ張りまわされてボタンどころか、制服ですら毟り取られ
かねない。
無言でくるりと回れ右をすると、いきなり駆け出す。
「きゃ〜っ!待ってぇ〜〜っ!!」
と叫ぶ声が聞こえたが、そんなもの、待っているバカはいない。
「あれ?真壁くん?」
騒ぎにようやく気づいた蘭世が振り向く頃には、俊の姿は陰も形もなく
なっていた…。
追ってくる彼女達をようやく撒き、部室に飛び込んで、後ろ手でドアを閉める。荒れた呼吸を整えるのに、さほど時間は掛からなかったが。
ガタン!
室内からする音につい気が立って、
「誰だっ!!」
と叫んで見れば、更衣室から出てくる人影。
「おーおー。モテモテだねぇ、聖ポーリアの王子様は」
くっくっく、という笑い声に、気を緩めた。
「日野か…」
「なんだよ、オレじゃ悪かったみてぇだなぁ」
「イヤ…そういう訳じゃなかったんだが……」
窓の外に目をやって、克は再びくっくっく、と笑う。
「なんだよ、せっかくの卒業式、年上のおねーさまに気をつかって
やらなきゃバチがあたるぞぅ」
「うるせーな、余計なお世話だ。それより、お前こそここで何やって
たんだ?」
「あ?オレ?ぶっちゃけサボリよサボリ。自分が卒業する訳でもな
いのに、そんなもの出てられっかよ」
「…まぁ、確かにな」
やたら長い祝辞やら送辞やらなんやかんやは、半分、俊の子守唄に
なっていて、気がついたら式は滞りなく済んでいた。卒業式は文字通り、
卒業生のための祝賀であるから、1〜2年生は代表生徒及び自主参加
となっている。こんな面倒なものに出るのはごめんだったが、江藤が
「かえでちゃんとお別れだし」と言い出して仕方なく出てみた。
そして結果、訳のわからない理由で追いまわされることになってしまっ
ていて。
「あ、江藤…」
置いてきたことを失念して、つい口に出した名前に、克はニヤリと笑った。
「なーんだ、真壁きゅんの第二ボタンは、本命行きが決定してるってこと
でちゅか〜?」
からかうような口調に、いつもどおりのポーカーフェイスを装う。
「…んなんじゃねーよ」
「なんだよ、そしたら、たかがボタンなんざ、誰にでもくれてやれるん
じゃねーの?」
「…っつーか、なんでボタンなんだ?」
首を傾げる俊にキョトン、とした克は、
「あれ?知らねーのか?」
「あ?何を?」
「女に取っちゃ、好きな男の制服の第二ボタンは、特別なんだぜ?」
「そうなのか?」
中学の時、卒業式は出なかった―――と言うより、出れなかった。だから、
そんなイベントモドキの存在なんて、全く知らない。
「まぁ、普通は学ランの第二ボタンなんだろうけど、ここはブレザーだしなぁ。
ムードでねーかもな」
まぁ、お前の第二ボタンの行き先は決まってるだろーけどよ。
そんな克の揶揄にも、しらんぷりを決め込む。
だが、少し気になって、自分の制服の第二ボタンを無意識に弄っていた。
別に、ボタンが特別な訳じゃない。
特別なのは。
キィ、とドアが開いて、一瞬ドキリとするが、おずおずとその後ろから現れた影にホッとする。
6
「…真壁くん?」
目を真っ赤に腫らしたまま現れた少女に、クスリと笑った。
「…すげー顔」
「え?嘘っ!ホント!?」
顔を真っ赤にして、慌てて洗面台の鏡に駆け寄った蘭世と入れ違いに、
克が外に出る。
「まぁ、ブスイ者は邪魔しねーよにしてやるから、後は二人で仲良くやり
なー」
「日野っ!!」
「え?日野くん?」
顔を真っ赤にして叫ぶ俊に明るく笑って、克は部室を出て行った。
「…ったく、なんなんだ、アイツ…」
「きっと、ゆりえさんを待ってたんだと思うわ」
鏡の前で、蘭世は微笑んだ。
「ゆりえさん、生徒会長だから送辞の担当でしょ?」
「…なるほどな…」
それなら、あの日野が卒業式などというかったるい行事に参加している
訳もわかる。結局は、同じ穴のムジナという訳だ。
「わ〜ん、ホントに凄い顔になってるよぅ〜〜〜」
鏡の中の自分を眺めながら、蘭世が大騒ぎしている。確かに、あれだけ
泣けば目の腫れも相当なものだろう。
「…水ででも冷やしとけ」
「うん、そうする」
ハンカチを水に浸す音。涙だけでも十分に湿り気を帯びていたそれは、
更に乾いた部分にも水を染み込ませていく。
「あ、気持ちいーv」
顔を上にしながら四つ折りの半分を開いたハンカチを目に当て、蘭世が
呟いた。何気なく、そちらの方を見た俊は、思わずドキリとする。
薄く開いた、ピンク色の蘭世の唇がモロに視界に入ってしまい、目のやり
場に困る。慌てて窓の視線を逸らせば、未だ外をうろちょろする、卒業生の影。
「…時間かかりそうだなぁ」
呟いた言葉は、ただの独り言だったのに、俊が見えていない蘭世は微妙に
取り違えて反応する。
「え?あっ!ごめんなさい!真壁くん、これからトレーニングがあるのよねっ!
私、ここで一人でいいから、先に帰って…」
慌ててハンカチを落としそうになる蘭世に、苦笑しながら溜め息をついて、
「…違うよ、バーカ」
ハンカチが落ちないよう、手で支えてやる。
「ま、真壁くん?」
不安そうな声に、その背中を空いた腕で抱き寄せる。
「…まったく、お前はドジだからな。押さえててやるよ」
「ぇっあっ…あの…」
「いいから」
耳まで真っ赤になった蘭世は、抵抗することもなく。俊のブレザーにしがみ付き
ながら、その腕の中にいた。
聞こえてくるのは、卒業式の喧騒と、風の音。そして、互いの、少し早い鼓動だけ。
沈黙に耐えられなくなって、
「ま…」
名前を呼ぼうとした声は、俊の唇で塞がれた。
最後
「…もう、いいか?」
「……あ、ありがとう…」
唇が離れる同時に、目を塞いでいたハンカチも取りさられる。蘭世の
視線の向こうには、自分に背を向けながら、それでも耳まで赤くなって
いる俊。それを見て、蘭世の顔も一気にユデダコになった。
「あの…」
自分も真っ赤になりながら振り返った蘭世の目に、とれかかった俊の
第二ボタンが映る。
「あ、真壁くん、取れかけてるよ」
「え?」
まだ少し頬を染めたままの俊が、蘭世の指差す方を見れば、さっき、
無意識に触れていた自分のボタン。
「貸して!付け直してあげるから」
「いいよ、別に…」
「だめだよぅ。取れてボタンなくしちゃったら、困るでしょ?まだあと2年間
も着るんだから!」
まくし立てる蘭世に根負けして、はいはい、と素直に制服を渡す。鞄から
ソーイングセットを取り出した蘭世は、手近にあった椅子に座ると、いそいそと
ボタンをつけ始めた。
「あははー。第二ボタンだねー。もしかして、誰かに取られそうになった?」
「んな訳あるか、バカ」
昔は確かに不器用だった手つきが、今ではだいぶ変わってきている。丁寧に、
一刺し一刺ししていく。
だがしかし、そこは江藤蘭世。
「あ、痛っ!」
「どうした!?」
「じ、自分で指に針刺しちゃった…」
目尻に涙を滲ませながら、自分で自分の一指し指を舐めている。
「…貸してみろ」
「え?えっえっえっ?まままっ、まかべ…くん?」
蘭世の濡れた唇から現れた華奢な一指し指は、今度は別の口の中へ。
暖かい感触に、思わず頬が熱くなる。
「ま、真壁くん…」
そのまま顔が見えないままで。
暖かい胸の中に、すっぽりと埋められた。
「…2年後には、そのボタン、やるから」
「…!!……うん、ありがとう……」
髪を撫でる彼の掌が気持ちいい。
熱い気持ちと、少しだけ切ない気持ちで、蘭世は俊に縋っていた。
―――そんな、やわらかい3月。
…以上です。
すいませんこのスレに触発されて、つい書いてしまいましたー…
ああぁ、うまく書けていないので申し訳ないです…。
本当にすいません。
素直にロムラーに戻ります…
>871
原作の続きを読んでるみたいで、とても(・∀・)イイ!
蘭世も真壁くんもそのままで、なんだかほのぼーのしてて良かったです!
ロムラーに戻らないで、書いて下さい!
また、読みたいです〜!!
873 :
698:03/03/08 18:11 ID:BI6XEIeX
698でつ。
前回の「真壁くんオナニー編」の続きでつ。
・・・・な、長いでつが、我慢して下さいませ。
一応、前編リンクしときます。
>>701-707
874 :
698:03/03/08 18:12 ID:BI6XEIeX
日常は淡々と過ぎていく。
ボクシング部は、当初、俊、アロン、日野のわずか3名だったが、
アロンが抜けた後に数名の入部者があり、
それなりに、運動部らしい体裁をととのえつつあった。
校内の林の中にある部室のそばには梅ノ木があり、
まだ鳴き声は発しないものの、ホトトギスが訪れるようになっていた。
日野の卒業の日が近づいている。
特にあの後、日野との関係が悪くなった訳ではない。
ただ、俊の中では、日野とのやり取りがどうにも引っ掛かっていた。
言い知れぬ心のもやもやが、何とも不快な雑念に思えて、
それを振り払うかのように、今日も俊は激しくサンドバックを打ち付けている。
一心不乱に。
(何か気になる事があるんだわ・・・)
ポーカーフェイスに隠された俊の苛立ちを、蘭世は感じ取っていた。
しかし、それを直に問い詰めたとして、答えが得られないということも、
長年の経験でわかっていた。
(私には何もできないのよね・・・・)
そう思うと、言いようもなく寂しくて情けなくて、
思わず瞳から溢れた涙で、視界が霞んだ。
875 :
698:03/03/08 18:14 ID:BI6XEIeX
「お邪魔してもいいかしら。」
薄汚れた部屋の扉から、ゆりえが顔を出した。
大学に進学してからも、日野の姿を見るために頻繁に訪れていたのだ。
「ゆりえさん!」
涙目を手持ちのタオルで手早く拭うと、蘭世は笑顔でゆりえを迎え入れた。
ゆりえは勘の鋭い性質だ。
いくらタオルで拭っても、泣いた後独特の瞳に残る赤みを見逃してはいなかった。
「残念だが、日野の奴は今日はまだなようだ。」
軽いスパーリングを終えた俊が、リング上からゆりえに声をかけた。
彼が知らせる必要のある特別の用事でもないのに、
自分から人に声をかけるのは、非常に珍しい事だ。
引っ掛かり続けている、日野との出来事の糸口を求める無意識が、
そうさせたのかもしれない。
蘭世と曜子が買出しに出かけ、他の部員が各自トレーニングメニューをこなす中、
俊はゆりえとさしで話す機会を得た。
「日野は外部の大学を受験するつもりらしいな。浪人も視野に入れて。」
普段は無口な俊の方から口火を切った。
ゆりえは伏目がちに小さく頷いた。
少しの沈黙の後、ゆりえはふっと顔を上げ、
過去を懐かしむような遠い瞳をして、つらつらと話始めた。
「私、克に振り向いてもらおうと、自分としては精一杯の事をしてきたわ。
経済的援助・入学の便宜・・・・彼が一人前になるまでに必要な様々な 援助を・・・・。
でもね、見事に全部裏目に出たの。
溝は深まる一方。
克はどんどん離れていってしまう。
何がいけないのか自分でもわからなくて、
こういう巡り合わせなのだと運命を呪った事もあるわ。」
ゆりえはうつむき加減に、ふふっと笑った。
俊は黙って横で耳を傾けていた。
876 :
698:03/03/08 18:15 ID:BI6XEIeX
「本当は簡単な事だったのよ。特別な事をする必要なんてなかった。
河合財閥のお嬢様としてではなく、
一少女として素直な気持ちで克と向き合っていれば、
それだけで良かったのよ。
私が長年、克のためになると信じてやってきた事は、
結局、私が勝手に克の幸福の基準を作り上げて押し付けてきた
エゴ以外の何物でもなかったってわけ。
克のプライドをたくさん傷つけてまでね。」
俊は、あくまで無表情だったが、
内心、胸に鋭い刃を突き立てられたような激しい衝撃を受けていた。
ゆりえの述懐は、俊の中にある負い目をも抉り出したのだ。
幸せはひとそれぞれである。
みな頭では良く理解していても、愛する人に対してそれを実行するのは容易でない。
愛する人が何を望み何を幸福と感じるかについて、
常に感度良くしておかなければならないし、
自分の幸福の基準と峻別しつつ、
互いに折り合いをつけていかなければならないからである。
自分の幸福の基準を他人に押し付けてもいけないが、
明らかな相手の基準の過ちは、無視せずに是正させる必要がある。
価値観の押し付けにならない線引きは一体どこなのか?
人はいつもそこで悩むことになる。
俊も例外ではない。
蘭世のためになると考えて、何度か無理な別れを試み、
その都度、蘭世を酷く傷つけた挙句、結局は元のさやに収まっている。
(江藤をいつも悲しませてばかりいるのは、俺の無理解とエゴのせいなのか・・・・)
877 :
698:03/03/08 18:16 ID:BI6XEIeX
俊はずっと聞いてみたかった問いを発した。
「・・・・先はあるのか?」
我ながらかなり意地の悪い質問だと思った。
莫大な富と権力を持つ大財閥の一人娘と、元使用人の息子。
そのどうにもならない縁によって隔てられた関係は、
人間に戻ってしまった時の自分が置かれた境遇に似ていた。
安っぽいお昼のメロドラマでもない限り、
結ばれる事は現実的に不可能である。
その事を聡明なゆりえ自身がどう認識しているのか、
それを尋ねてみたかったのだ。
「そうね・・・・簡単じゃないでしょうね。
でも、私、思うの。
幸福な未来は、宝くじに当たるように、忽然とそこに現れるわけじゃなくて、
今、目の前にあるささやかな幸福の積み重ねだって。
だから、変に将来を思い詰めないようにしているの。
この手に実感できる今の幸せを大切にしていきたい。
それが未来へ通じていると信じてるから。」
しっかりとした口調でゆりえはそう言い切ると、決然として俊を見上げた。
凛としたその面立ちは、本来の美貌をさらに冴え渡らせ、俊を圧倒した。
(女ってこういうもんなのかな・・・・)
ゆりえの逞しさの向こう側に、蘭世の面影を見た気がした。
「女はね、いつも確かなものを求めてるの。
男の人が何を考えてるのか、およその推測はついていても、
それを”かたち”で示してくれないと不安で満足できないのよ。」
目を丸くして押し黙っている俊を見ながら、
ゆりえはいたずらっぽく笑った。
「あんまり江藤さんを泣かせちゃ駄目よ。」
878 :
698:03/03/08 18:16 ID:BI6XEIeX
「じゃ、お先します。」
「おう、俊。またな。」
今日はバイトの終了時間が早い日だ。
8時過ぎには自宅に帰りつけそうだ。
ゆりえの話は、日野の話を理解する糸口にはなったが、
新たな謎も生み出した。
(江藤の望む”かたち”とは何だろうか・・・・)
バイト中もその事が頭にこびりついて離れない。
不器用で照れ屋な自分なりに、
蘭世に対してそれなりの意志表示をしてきたつもりである。
しかし、よくよく思い返してみれば、
「好き」とか「愛してる」といった直接的な愛の言葉をかけた事は一度もないのだ。
そういう甘ったるい言葉は、なんとも自分にしっくりこない。
(「愛してる」と言えば、それで”かたち”を示したと言えるのか・・・・)
それもなんだか違う気がするのだ。
口から発せられて一瞬にして消えてしまう言葉は、
俊からするとあまりに無責任で軽薄なものに感じられ、
”かたち”に値するとは思えなかった。
蘭世の望む”かたち”がよくわからないだけでなく、
今まで自分が正しいと信じてきた愛の”かたち”も揺らいで、
完全に迷路に迷い込んでしまった。
879 :
698:03/03/08 18:17 ID:BI6XEIeX
悶々と考えあぐねているうちに、気がつくと自宅アパートの前だった。
そして、ハッとして階段を駆け上がった。
自分の部屋に明りが灯っているのだ。
誰もいないはずの部屋に。
ドアの前に立って、俊は一呼吸おいた。
(電気を消し忘れたのか・・・それとも泥棒か・・・・)
泥棒に入られたって盗られるほどの物は何もない。
むしろガラスや鍵を壊される方が厄介だ。
(よし!捕まえて警察に突き出してやるか)
腕には自信がある。
音をたてないようにそっと鍵を開け、静かにゆっくりドアノブを回す。
そこでまた一呼吸。
心臓の鼓動が耳元でバクバク響いている。
次の瞬間、扉を蹴って部屋に飛び込みざまに怒鳴りつけた。
「そこにいるのは誰だ!」
「あ、おかえりなさい。」
そこにはエプロンをしてキッチンに立つ、若妻さながらの蘭世の姿があった。
俊は完全に拍子抜けして、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
蘭世は俊の激しい剣幕が可笑しく堪らないのか、
お腹を抱えるようにして、くっくっくっくと笑った。
「・・・・勘弁してくれよ。どうやって入ったんだ?!」
「びっくりした?管理人さんにお願いして、鍵を開けてもらったの。
いつも冷めた物ばかりだし、お弁当だとメニューに限界があるでしょう?
だから今日は、できたて熱々のご飯を食べてもらいたいなあ、と思って!」
「管理人にお願いって・・・・どうせ噛み付いたんだろ。」
俊は、腕組みしながら、呆れたような表情で口をへの字に曲げている。
蘭世は上目遣いにそんな姿を見ながら、
甘ったれたようにぺろっと舌を出して、いたずらっぽく笑った。
880 :
698:03/03/08 18:18 ID:BI6XEIeX
狭い部屋の中には、できたてのしチューの香りが充満している。
蘭世がいて、手作りの食事がある。
ただそれだけの事だった。
しかし、日ごろ殺風景だった室内は、驚くほど明るく華やいだ雰囲気に包まれていた。
「もうちょっと待っててね。今、サラダ作るから。」
「あぁ。」
蘭世はいそいそと冷蔵庫から生野菜を取り出し、
包丁がサクサクッと小気味良い音を立て始めた。
俊は、畳の上にバッグを置き、自らも腰を下ろして、
そんな蘭世の様子をぼんやりと眺めていた。
鼻歌を歌いながら、足や包丁の刻み音でリズムをとって、
さも楽しそうに生き生きと活動している。
(俺のために飯を作る事が、そんなに楽しいのか・・・・)
そんな光景を見ているうちに、なんだか安らかで温かい心持になってきた。
そう、まるで春の陽だまりの中、芝生で寝そべっているような、
ささやかだけど伸びやかな幸福感に包まれた。
そして、やや目を細めて、我知らず
「・・・・・幸せだな・・・・・」
という言葉が漏れ、はっとした。
(そうか、そうだったのか・・・)
今、この瞬間に、俊は日野のゆりえの言葉の意味を了解した。
「え?真壁くん、今、何か言った?」
「あ、いや、なんでもないよ。」
8畳間を振り返る蘭世から、照れ隠しにさっと視線を逸らした。
881 :
698:03/03/08 18:19 ID:BI6XEIeX
”幸福”には客観的側面と主観的側面がある。
裕福だとか、才能があるとかは、端から見て判断する客観的幸福である。
だが、当の本人が幸福だと感じていなければ、
主観的幸福とは、ひいては根本的に”幸福”とは言えない。
幸福感こそが”幸福”の源なのだ。
俊が今まで拘っていた”愛する事=一生幸福にする事”という男の美意識的責任論は、
経済的に自立して養っていけるか否かという、
明らかに客観的幸福を主とした考えである。
決して、今までその時々の幸福感が欠落していていたわけではないが、
無意識的に幸福感を軽視してきた、
否、客観的幸福に幸福感がついてくると信じ、
一時的な幸福の酔いに流されまいと自らを律してきたのは事実だ。
それが、将来の幸福に必要な事だと信じていたから。
だが、日野とゆりえの発言が投げかけた波紋で、
強烈な責任感が揺らぎ、混沌としていた俊の心の中に、
蘭世の真っ直ぐな愛情が響き渡った。
それは、いつにも増して蘭世に対する強い愛情を湧き上がらせた。
882 :
698:03/03/08 18:20 ID:BI6XEIeX
(これが、今ある、今感じる幸福。江藤と共有している幸福感なんだ)
胸の芯の辺りが、じーんと何ともいえない甘く痺れたような感じがする。
しかし、しばらく溶けるような幸福感にほんのり酔った後、
俊はなんとも形容し難い物足りなさに襲われた。
俊はその物足りなさの原因を心の中に探った。
蘭世とは、過去幾多の試練を共有し、
この瞬間アパートの小さな空間を共有し、
ほのぼのと暖かい雰囲気を共有し、
安らかな幸福感をも共有していた。
それでも物足りないものとは何なのか・・・。
(・・・・一体感だ・・・・一体感が欲しい・・・・!)
こんな感覚は初めてだ。
他人を心の中に入れることを好まない一匹狼の自分が、
自我を侵食される事への怖れも、
知られたくない恥部も、
照れも、全てそのままに、
その思いを超越して、蘭世との一体感を渇望している。
狂おしいほどに激しく。
そこへ、従来の俊がブレーキをかけてきた。
一瞬戸惑いが走った。
しかし、今日の俊は誰かに背中を押されるようにして、アクセルを踏み込んだ。
883 :
698:03/03/08 18:21 ID:BI6XEIeX
「シチュー結構美味しかったぜ。」
食べ終わった自分の食器を流しに運びながら、俊はそう言った。
蘭世はパッと瞳を輝かせた。
嬉しい事も悲しい事も即座に表情に現れる、心の内を隠せない性格だ。
その素直さ率直さが彼女の魅力だ。
「本当?嬉しい!今度は何にしようかなぁ。レパートリー増やさなくっちゃ!」
俊に料理を誉められて御機嫌の蘭世は、鼻歌まじりに張り切って洗い物を始めようとすると、
「洗い物はいいから、ちょっとこい。」
俊から8畳間に呼ばれた。
その声は、いつものやや命令的で淡々としたトーンの中に、
不思議な艶っぽい甘さがあって、初めて耳にする響き。
蘭世は一瞬その事に戸惑い、流しの前で振り返ってしばし静止した。
俊がいつもと違う空気を出している時は、あまり良くない事が起こる前兆のような気がしたからだ。
俊と視線が合った。
気持ちが悟られるのを避けるかのように、俊はぷいっと顔を背け、
「いいから、早く来い。」
「は、はいっ・・!」
(・・・なんだろう。)
やや不安になりながら俊の正面に腰を下ろした。
その刹那、俊は自らの左手で蘭世の右手首を、
右手で左手をつかむと、そのまま強引に畳の上に押し倒し、唇を重ねた。
予想だにしなかった一瞬の出来事に、蘭世は頬を紅潮させながら、
瞳の焦点も合わないような状態で、呆然と俊の顔を見た。
俊は、一度静かに瞳を閉じ、
顔面に集中しそうな血液を全身に分散させるように心身を落ち着けると、
再び見開いて蘭世を見つめた。
884 :
698:
しばらく時が止まったかのように二人は見つめ合っていたが、
ふいに俊は蘭世から視線を逸らした。
「これ以上は・・・・無理強いはしない。」
甘い言葉もムードもへったくれもない、我ながら不器用な持っていき方だと俊は思った。
でも、これが嘘偽りない、精一杯自分らしい素直なやり方なのだ。
いつしか蘭世の瞳からは大粒の涙がいく粒も畳上につたい落ちた。
涙の意味が理解できず、俊はたじろいだ。
キスから先に進む事を承認してくれているのか、
それとも強引さに気持ちが引いてしまったのか、セックスが怖いのか。
様々な可能性が頭の中を駆け巡って、もうパニックに陥ってしまった。
気まずいその場を巧くとりなす気の利いた言葉も浮かんでこない。
(頼む・・・何か俺のわかるようなリアクションをしてくれ・・・・)
ただただ泣かれて、押し倒したときまでの心意気が萎え始めてしまった。
どうしようもない気まずい気持ちで、目のやり場にも困り、
訳もなく畳の目数を数えて、心の動揺を静めようとしてみた。
もう今日は止めておこう、そう考えて押さえ込んでいた両手の力を緩めながら
「・・・・勝手な事して悪かっ・・・・。」
「違うの・・・・!そうじゃないの・・・・。」
俊が最後まで言い切るのを遮るように、蘭世が涙声で訴えた。
「・・・・嬉しかったの。・・・・でも、どう対応していいのかわからくて・・・それで・・・。」
嬉し涙でぐちゅぐちゅ、羞恥心で真っ赤に色づいた顔を、
俊から隠すように蘭世は両手で覆った。