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「あら?どうしたんですか?」
出た途端、知世が訊ねる。肩越しに見れば、メイドがふたり。一人は梯子をか
けてそこに登り、もう一人が下で支えている。
「おはようございます。お嬢さま。電球が切れてしまったので……」
言われて視線をあげると、壁の飾り電球に一灯だけ、点いていないものがあっ
た。さくらは、それが昨夜、妙に気になったものだと気付いた。
夕べはあんなに明るかったのに……。
新品に差し替えられ、他より少し明るい光を放つそれを見ながら、さくらはふ
と思った。
「おはよう。さくらちゃん」
ダイニングでは既に園美が食事を始めていた。忙しい社長だ。寸暇を惜しむの
は仕方がないだろう。
「おはようございます。園美さん」
少し緊張の面もちで、メイドの引く椅子に座り、礼を言うさくら。もちろん、
配膳も彼女たちが行う。根っから庶民だから、どうも緊張してしまう。
「昨日は遊びすぎたのかな?」
コーヒーを一口飲んだ園美がクスッと笑って言った。さくらの肩が思わず跳ね
る。まるで昨夜の営みを見ていたような表現に、心臓が一気に高鳴った。
「まだ、寝足りないって顔、してるわよ」
からかう様に言う園美に、知世が切り返した。
「ジェットコースターとかいっぱい乗りましたから、疲れたのですわ」
さくらは不自然な位大仰に、頷いて見せた。園美はそれを信じたのか、にこり
と笑い、
「今度は私と行きましょうね。さ、行かなくちゃ。クルマを回して」
とダイニングを出ていった。
さくら達も朝食を済ませると、部屋で着替えをした。知世は友枝小学校指定の
制服。さくらは昨日の格好そのまま。
用意されたクルマに一度家に寄ってもらい、制服に着替えるのだ。