畑に今日の夕食の材料を採りに行こうと戸口を出かけたシータは
ここらでは珍しい都会の人間の姿を見掛けてしばしその男達の姿を見ていた。
普段は野良を着ているのが普通のこの山間の村で
年に一度の収穫祭の時にも着ないような黒いスーツに黒い帽子、黒いサングラスの男達は
一本道をまっすぐこちらに向かって歩いてくる。
(あの人達、うちに用事なのかしら・・叔母さんの御知り会いの方達?
でも何の連絡も頂いていないし・・)
そう思っている間にも男達は周囲を見渡しながら近付いてくる。
「こんにちは、お嬢さん。
失礼だが、シータさん?」
男達を率いて先頭を歩いていた男が声を掛ける。
警戒した様子で小さく肯く少女に、男は腰を屈めるようにして続ける。
「私は政府の人間です。
少しお話する御時間を頂けますか?」
シータは目の前の丁寧な言葉遣いをする男の口から出た言葉に動揺していた。
(・・政府の、人・・?政府の人が一体何故うちに?
・・・いいえ、それよりこの人達は本当に政府の人なの?
なんだか村の役場の人達とは雰囲気が違うし・・)
と、目の前の男が顔を上げシータの後ろをチラッと見る。
(?えっ?)
と思う間もなく何時の間にか背後に回り込んでいた男の一人がシータの口を塞ぐように手を回すともう片方の手で左手を捻り上げる。
「んむむうっ!!」
必死で暴れるシータをよそに男は冷たい声で
「連れて入れ」
と命令すると自ら身を翻して先程シータが出て来て開いたままの戸口へと向かう。
シータが中に連れられると先に中に入っていた別の男が
簡素だが頑丈な造作の椅子の傍らに待ち構え、別の男が納屋にあった荒縄を手に従いてくる。
あからさまな身の危険にシータは懸命に抗い手足を突っ張るが
抵抗も空しく無理矢理椅子に座らせられると間髪を入れずに容赦無く荒縄で縛り上げられる。
その作業にシータの口を塞ぐ男の力が緩んだのを見逃さず思い切り噛み付いた。
「ギャァッ!!」
悲鳴を上げシータの側から男が離れたが
逃げようにも他の男達によって縄は幾重にも厳重に縛られてしまった後であった。
「これはこれは、随分とお転婆なお嬢さんだね。
実は私は君に少し聞きたいことがあってね。
あまり手荒な事はしたくないから、できれば素直に答えてもらないかな?」
そう言いつつリーダー格の男はポケットから薄光りする黒い革手袋を取り出すとゆっくりと手にはめる。
(この人達は一体何なの・・・)
突然の出来事に戸惑い、憤り、混乱するシータの脳裏に村の人達との会話がよぎる。
「・・あなた達は海賊ね。
うちにはあなた達が欲しがるような価値のある物はありません。
お金なら戸棚に入ってます。お願い、だからそれで帰って・・」
「ふむ、君は我々を海賊だと思う訳かね」
怯え切り口を固く閉じていた少女が絞り出した台詞を聞き、男は少し気分を害した口調で答え・・
パシーン
突然、自分の間近で鋭い音が上がりシータは一瞬何が起こったのか分からなかった。
パシーン パシーン パシーン
衝撃と音が響き、シータの視界の薄暗い台所の景色が左右に揺れる。
「君は人の言ったことを聞いていなかったのかね?
私は確かに言ったはずだよ。私は政府の人間だ、と。
そしてこうも言ったはずだ、少し聞きたいことが有る、と。」
叩かれた両頬が疼く様に痛み、顎骨から伝わった衝撃におののきながら
涙を零しながら喉の奥から声を絞り出す。
「あなたは一体誰・・・どうして私に・・・」
「私はムスカ大佐、とある政府の機関で働いている。
私が聞きたいのは君の家に伝わる秘密の・・・」
少女の肩がピクリ、と動くのを見ながら言葉を続ける。
「・・そう、秘密の『石』のことなんだが。」
唇を噛みじっと下を見るシータ。
パシーン パシーン パシーン・・・・・
再度振るわれる暴力にただ荒い息で嗚咽し、下唇を強く噛む少女に優しい口調で語り掛ける。
「どうだろう、教えてはくれまいか?
私も鬼や悪魔ではないんだ、出来ればこれ以上の事はしたくないんだ。
分かるね?」
しかし返ってきた言葉は彼の予期し、期待していた通りのものだった。
「そんな物知りません・・・
お金ならあげます・・・ヤク達を連れていっても構いません・・・だからもう帰って・・・」
パシーン パシーン パシーン・・
「何度言ったら分かるんだね。
我々が欲しいのはそんな物ではないんだよ。」
バチーン バチーン バチーン・・・・・
「うっぐ、えっぐぅ、ぅぅっぐ・・」
静寂の戻った室内に少女の押さえた泣き声に時折鼻をすする音が交じる。
「まだ話す気にならないのかね?
君は他人の話をよく聞いていないようだからもう一度言ってあげよう。」
ムスカは少女の赤く張れ上がった頬に指を食い込ませるように顎を掴みシータの顔を上げさせる。
「私はこれ以上のことはしたくない、と言ったはずだ。
分かるかね?『これ以上』のことはしたくない、と。
その為には君が素直に話す必要がある。
もっと分かり易く言ってあげよう。
君が素直に話さないのならば聞き出すために私はこれ以上のことをしなければならないんだよ。
どうだね、分かったかね?」
荒縄に縛られた全身はピクリとも動かず
手足は痺れ始め
一発一発はさほど強くはないといえ連続して殴られ奪われつつあった思考の中で
幼い頃からの言い付け思い出しシータは言葉を絞り出す。
それが目の前で嗜虐の快感に酔う男の思う坪だともしらずに・・。
「お願い・・もう、やめてぇ・・」