「んっ…ぅ?」
目覚めれば、そこは白塗りの部屋。
壁も、床も、天井も何もかも。むしろ、壁や天井というものはない、あたり一面がただ真白だった。
そして真白な空に鉄の小さい板が二つ張り付けられており、そこから伸びる鎖に両手首を拘束され、
万歳のポーズをさせられている。
緑の髪に、真紅の瞳。無駄な肉のない細い体躯を包む赤いチャイナのノースリーブにスパッツ。
顔もほっそりとしていて、少しつり気味の目は活発そうな印象を抱かせる。
そして頭から伸びる角、背中にある羽。明らかに普通の人間とは違う尖った耳。
半龍…ドラコケンタウロス。愛称はドラコ。
吊るされている少女はこのドラコである。
「…?ッな、なんだよ、コレっ」
自分の置かれている状況に気が付いたのか、がしゃがしゃとその鎖を鳴らしつつ暴れる。
普段の怪力をフルに動員させれば千切れるはずなのに、何故だかこの鎖はびくともしない。
下に目線を移せば、足も鎖で拘束されており、足先は地面につきはするものの、殆ど宙吊りの状態だ。
「夢…じゃないよね…っかしぃなぁ…」
微かな不安を感じつつも、おぼろげな昨夜の記憶を掘り返してみせる。
(確か…夜頃、あたしの家に誰か客がきていた気がする。そいつが作ったお菓子を食べさせてもらって…)
と、必死に思い出していると、不意に目の前の空間が歪んだ。
ぱりん、と目の前の空間が”割れる”。ドアくらいのサイズのそこから一人の青年が現れる。
向こう側はどこかの部屋のような風景、だが青年が通り抜けるとその空間は破片を集めて塞がり、
再び、どこが果てなのかもしれぬ真白な風景が広がる。
不可解な状況に驚きが隠せないドラコは、目を見開きぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
目の前に居るのは、黒髪金瞳。普通の女性なら、見蕩れてしまうほど綺麗な顔をしている。
”勇者”ラグナス・ビシャシ。普段は黄金の鎧を着ているものの、今は鎧の下の黒い上下だった。
「やぁ…おきてたんだ。寝覚めはどうだい?ドラコ」
「…あんた、なんでッ…?」
今の状況に平然として、女性と男性の中間のハスキーな声で問い掛けてくる青年。
ドラコはますます混乱して、的を得ない質問を紡いでしまう。
はっとした。昨夜、自分の家に来ていたのはこの青年だと言うことを思い出す。
不器用なドラコは料理などできるわけもなく、ラグナスをこの家に呼んだのだ。
食事のためだけだと言っても快諾してくれて、食事と食後のデザートを食べて、普通に別れ、眠りについたはず。
「…これ、やったの、まさか…」
あまり想像はしたくないが、今の状況ではそうとしか考えられない。
勇者、と名乗るに相応しい優しさをもっており、ドラコの印象もあまり居ない「いい奴」の中に入っていた。
悪い悪戯をするような奴でもないのに…と思いつつも。
「ん…?そう、俺だよ。」
聞きたくなかったけれどわかっていた答えを聞き、ドラコは溜め息をついた。
「…なんで…ってか、とりあえずこれ解いてよっ!」
一層強く暴れて、がしゃりと強い音が立つ。だが、ラグナスは平然としている。
むう…とドラコは低くうなり、少しきつめの目で睨みつけた。
「悪戯でこんなことするもんじゃないよっ、勇者の癖に…!」
「悪戯…?何のことだい?」
龍の眼光。普通の人間ならすくみ上がってしまうんだろうが、勇者となると実力もドラコを軽く凌いでしまう。
冷静な態度でゆっくりとドラコに歩み寄る、少し恐怖を覚えたのか、肩がぴくりと震えた。
「俺はただ、ドラコを俺のものにしたいだけ…なんだけど」
楽に言い放たれた言葉は、シェゾが真顔でアルルによく言う台詞。シェゾほどずっぱり言ってはいないものの、
普段そういうことは言わない真面目なラグナスに言われると、何か恥ずかしくなってしまう。
「んなぁっ……///」
言われたこともないような台詞に顔を真っ赤にしながら、暴れるのがさらに強くなった。
「あ、あんたちょっと、シェゾじゃあるまいしっ…!冗談はいいから、早く解いてっ!///」
「…結構ウブなんだね?やっぱり、可愛い…」
褒めちぎられ(?)て、焦っているドラコは、頭の中がこんがらがってひたすらに暴れていた。
にこ、と嬉しそうな小さな笑みを浮かべているラグナスの瞳が不意に怪しく輝き…
「…ますます、俺のものにしたくなってきたよ」
と、邪悪に口元を歪ませて呟き、しゅっと一閃の光が走る。
反応する暇もなく、起用に上着の前だけを着られ、ブラと肌には傷ひとつついていない。
顔に当たる冷たく勢いのある風に緑色の髪がなびき、判断が数テンポ遅れる。
「…きゃぁぁぁっ!」
細く、高い声をあげるドラコ。。
赤いチャイナがはだけられ、ピンクの飾り気のないスポーツブラと、細い体が露にされた。
耐えがたい羞恥心がこみ上げて、隠そうとするも鎖のせいで手は使えない。
「な…変態ッ…!いい加減にしないと、許さないよッ…!」
強めの口調も、真っ赤に染まった頬に震え気味の声なら、大して怖くもない。
「…ふふ、すぐにそんな態度とれなくなるよ…」
そう言うと、ラグナスはすっとドラコに手を伸ばし…囁く。
「意識が飛ぶくらい…気持ちよくしてあげる。」