ガンダムキャラに萌えるスレ

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 狸に化けた十八歳のウッソ・エヴィンが、妖しい光を浴びながら、深紅のソファー
に座っている。目の前にある低いテーブルの上から、冷たい水の入ったグラスを
持ち上げた。そのグラスを持つ手には、オレンジ色の毛が伸びている。
(全く……。誰だよ、こんな事思い付いたの)
 そう思いながら、上に大きな耳を生やした顔の方に、グラスを持って行く。むき
出しの口にそそがれる冷たい水は、未だに飲み慣れない酒で火照ったウッソの
白い頬を、少しだけ冷やしてくれた。
(ふぅ、あと半月か)
 狸から人に戻る日を待ち遠しく思いながら、ウッソはグラスを空にして行った。

 去年の暮れ、ウッソは一生懸命ハムやソーセージを作っていた。ラゲーン基地
の居住区にある店の、売れ筋商品だからだ。
 今は地球連邦軍が使っているラゲーン基地の居住区に、去年の夏、自分達で
作った野菜や畜産品などを売る小さな店を、カサレリアの住民達は開いた。かつ
てムバラク将軍の部下だったという人が、今のラゲーン基地の司令官で、その人
の厚意による物である。
 それまでは、ウーイッグの市場で露店を開いて商売をしていたが、本格的に店
を構えるのは今回が初めてだ。カサレリアで作った食べ物がどれだけ売れるか
心配だったが、そんな事は杞憂に終わる。無農薬の野菜や手作りの畜産品が、
味・品質が良い割りに安いとあって、飛ぶ様に売れて行った。
 特に、ウッソが中心になって作った羊肉のソーセージは、軍人達に、
「精が付く」
 と評判だった。余計な加工をせずに、肉質と作る時の手間隙だけで勝負をした
味が、受けているのだろう。食べ応えのある大きさも、評判が良かった。
 それなりの規模の農場・牧場になったカサレリアで、肉製品作りを担当している
ウッソには、それがとても嬉しい。だからウッソは、秋の農繁期が終わると、ハム
やソーセージ作りの毎日で忙しかった。そう、クリスマスが近い事を忘れる程。
 シャクティがクリスマスに腕時計を贈ってくれたというのに、ウッソはプレゼントを
用意する事すら、忘れていたのだ。羊や豚の肉の相手が、忙しかったあまりに。
「ウッソは、私よりもハムやソーセージの方が好きなのね」
 そう言って頬を膨らませる風邪をひいたシャクティに、ウッソは必死になって謝っ
た。お陰でシャクティは機嫌を治してくれたが、その彼女が年末、肺炎で倒れる。
この冬流行っているタチの悪い風邪を、こじらせてしまったのだ。
 早目にウーイッグの病院に入院させたので、それ程酷くはならなかったが、ウッ
ソには二つの事が心配だった。シャクティの健康と、治療費である。
 早く元気になってもらおうと思って、一流だと評判の病院にシャクティを入れたの
だが、その入院費が高い。蓄えがあるとは言え、次の秋からウーイッグの小学校
に通わせるカルルマンの学費も、残しておかなければならない。
 農場の責任者であるマーベットは、お金を貸してくれると言ったが、いつも仕事
で大変な彼女にウッソは迷惑を掛けたくない。それに、シャクティにお詫びもしたい。
 だからこうして、狸の格好をしている。
 ウーイッグの歓楽街にある、『おさわりクラブ こだぬき』。ここが、昼間ハムや
ソーセージを作った後の、ウッソの職場となる。夜の街なら、手っ取り早く金が稼
げると思ったからだ。
 最初は単なるホストクラブにでも行こうかと思ったが、ウッソは派手なスーツなど
持ってはいない。死んだ筈の父ハンゲルグが残した四着のスーツしか、ウッソの
家には紳士用スーツが無いのだ。
 しかもそれらは全て、質素なデザインと色をした、地味なシングルのスーツだ。
自分の体にピッタリだからと、十八歳になったウッソはそれらを不満に思う事無く
着ていたが、そんなスーツはホストが着る服では無い。だが、言葉と雰囲気で女
を酔わせる夜の男になる為に、高くて派手なスーツを買って蓄えを減らしては、
本末転倒だ。
 だから、自分で服を用意しなくてもいい店を、ウッソは選んだ。狸の着ぐるみを
身にまとう恥ずかしさなど、大切なシャクティやカルルマンの為なら、どうという事
は無い。それに『おさわりクラブ こだぬき』は、給料の方も満足行く額だ。
 可愛らしさの中に所々精悍さが差す十八歳のウッソの顔を、店のマスターは一
目で気に入ってくれた。即日採用で、年明けから三ヶ月程、働く事に決まる。
 ウッソの体に合うサイズの、オレンジ色の狸の着ぐるみを、マスターはすぐに用
意してくれた。だが、その着ぐるみに細工がしてある事など、ウッソは思いも寄ら
なかった。
 まず、生地が薄い。着ぐるみの上からでも、それにお触りしている相手の指の体
温が、はっきりと分かる程だ。その上、狸の耳と尻尾に、妙な仕掛けがしてある。
左右の狸の耳を触るとそれぞれの胸に、尻尾を触ると股間の前後に刺激が走る
様に、店の着ぐるみは出来ていた。そんな物を、素っ裸の上から直接着なくては
いけないのだ。
 着ぐるみ越しの間接的な愛撫を客にさせて、ウッソはお金を稼ぐ事になった。恥
ずかしくて仕方が無いが、シャクティやカルルマンの為だ。それに、すぐ店を辞め
ては、折角採用してくれたマスターにも悪い。そう思う、ウッソは。
 一月から働き始めて、二ヶ月半。退院したシャクティの具合も、ほとんど良くなっ
ている。それだけ時間が経ったというのに、ウッソは未だに接客の度に上がって
しまって、頬が赤く染まるのだ。
 この二ヶ月半、どぎまぎしながら、客の話相手をしたり酒を勧めたりしている毎日
だ。下手っぴな接客だと、ウッソ自身は思っている。だが、そんなウブな態度で、
白い頬を赤らめながら一生懸命サービスをしてくれる子狸ウッソが、店に来る女性
客に受けているらしいのだ。皮肉な物である。嫌がるウッソを、何とか店外デート
に連れ出そうと企む客も多い。
 今もウッソは、贔屓にしてくれている金持ちの女性客の一人に、オレンジ色の体
を撫で回され、狸の耳や尻尾をいじくり回されたばかりだ。お陰でその女性客は、
ウッソの甘い喘ぎ声と可愛く歪む顔を楽しみながら、高い酒の瓶を空にしてくれた。

(昼でも夜でも、働くっていうのは大変だよ)
 そう思いながら、冷水を飲んで火照った体を冷やすウッソに、次の客がやって来
た。
「マ、マ、マーベットさん!」
 カサレリアにいる筈の褐色の背の高い女性が、焦るウッソの視線の先に立って
いた。薄墨色のロングコートと、乳白色の冬物のスカートスーツという、まだまだ
寒い三月の夜には不釣合いな明るさを、マーベットは着ている。だがその明るさが、
褐色の肌を持つマーベット・イノエの美しさを、逆に際立たせていた。
「うふ、こんばんは、こだぬきさん」
 マーベットはそう言って、オレンジ色の可愛い狸に微笑みを向ける。他のホスト
に薄墨色のコートを預けた後、真珠の指輪を嵌めた左手にハンドバッグを持って、
ウッソの左隣にある深紅のスペースに腰掛けた。そしてすぐに、水割りを楽しむ
為のセットが、ウッソとマーベットがいるテーブルに運ばれて来る。
「似合ってるわね。可愛いわよ、ウッソ」
 深紅のソファーに座ったマーベットはそう言って、オレンジ色の狸に肩を寄せる。
着ぐるみの薄い生地を通して感じる、彼女の肩の温もりが、ウッソの心をさらに戸
惑わせた。
「似合ってるって……。からかわないで下さいよぉ。大体、何でマーベットさんが
お店に……」
 そう言いながら、ウッソは氷を入れたグラスに水割りを作る。少し不満気に、しか
し丁寧に作ったそれを、マーベットの方に廻した。オレンジ色の、狸の手で。
「あっらぁ、お客さんに向かって、何て事言うのかしら。こだぬきさんは」
 あと一時間で仕事が終わるという時に現れた思わぬ客は、そう言って、狸の左
耳を左手で摘まんだ。ウッソの左胸に、胸パッドから生まれた電気仕掛けの快感
が走る。
「や、やめて下さいよぉ」
 微かに切なくなった声で、ウッソは嘆願する。頬を赤らめて顔を歪めるウッソを
見たマーベットは、摘まんだ左手を放すどころか、その力をさらに強めた。時々
それをやめて、指先で撫でたりもしてみる。
「ほ、ほんとに、やめて下さい……」
 耳に加えられる力に呼応して強まる、胸からの快感の為に、ウッソの声は切なさ
を増した。赤い頬を隠す様に、少しうつむくウッソの顔。マーベットが指先を摘まん
だり擦ったりする度、狸の耳を生やしたウッソの顔が、白から赤へと変わって行く。
 氷と酒の入ったグラスがテーブルに置かれた後、それを持っていたマーベットの
右手が、ウッソの頭の後ろを通って、オレンジ色の狸の右耳へと向かった。
「あは、いい感じね。こっちも、摘まんじゃおっと」
 うつむくウッソの顔が、さらに傾く。他の女性客なら我慢出来る快感だが、顔見
知り、しかもかつて憧れのお姉さんだった人の生む快感だと思うと、我慢が出来
ない。ウッソはとても恥ずかしくて、マーベットの方に顔を向ける事が不可能だった。
「や、やめて。ほんとに、やめて……。マーベット……さん」
 そんなウッソの声がした後、マーベットの両手が狸の耳から離れる。満足気な
表情で、グラスに残った水割りを飲み干すマーベット。ウッソの胸に快楽を生んだ
手が、狸の方に空のグラスを向けた。
「はい、おかわり頼むわね」
「そんなに早いペースで飲んだら、悪酔いしちゃいますよ」
 酔った明かりがほのかに灯った頬を見ながら、ウッソはマーベットに声を掛けた。
お酒、強いのかな、マーベットさん。
「いいから。おかわりよ、こだぬきさん」
「その、『こだぬきさん』っていうの、やめて下さいよぉ」
 再び不満気に、再び丁寧に水割りを作るウッソ。それを見るマーベットの顔付き
が、次の楽しみの為に変わった。
「わがままばっかり言ってる悪いたぬきさんに、お仕置きよ。えいっ」
 マーベットの右手が、彼女の方に突き出た狸の尻尾を強く握る。ウッソの股間の
前に、衝撃が走った。そのまま被せる様に言われている、着ぐるみの股間の前に
付いた電動ラブホールに、スイッチが入ったからだ。不自然で不思議な人工の弾
力から生まれる快楽の振動の為に、グラスの中で回るマドラーの動きが止まった。
マドラーの代わりに、喘ぎ声を放つウッソの口が回る。
 その動きを見たマーベットは、握る右手の力を弱めた。ウッソの股間の前にある
振動が、止まる。マーベットは悪戯っぽく微笑んだ後、右手で軽く掴んだままの狸
の尻尾を、引っ張ってみた。
「ぅあっ……。マーベットさん、駄目……、駄目っ!」
 尻尾を引かれた為に、ウッソの後ろにある電動のアナルプラグが、振れ始める。
前にあるラブホールの締め付けが終わったというのに、ウッソは別の快感に襲わ
れた。もぉ、我慢するの大変なんだよぉ、マーベットさぁん……。
「あ〜ら、ほんとに面白いわねぇ。じゃ、今度は……」
 マーベットはそう言うと、水割りを作り終えた狸の尻尾に、左手も伸ばして来る。
そして狸の尻尾を、両手で強く握りながら引っ張ってみた。ウッソの前と後ろに、
同時に強い電動の衝撃が走る。耐えられなかった。
「あぅっ! マーベットさぁーん!!」
 ウッソは、着ぐるみの中に二つの快楽を振動させる女性の名を叫びながら、ロー
ションの精液割りを、ラブホールの中に作ってしまった。狸の頭巾の中から見える
部分が、全て真っ赤に染まっている。マーベットの意思で、射精をさせられた事で。
マーベットにその時の顔を、見られた事で。
 頭巾の中から見えるウッソの両目から、涙が流れた。
「あ……。ご、ごめんなさい、ウッソ。やり過ぎちゃったかしら……」
 戸惑うマーベットに、ウッソが狸の顔を向ける。真っ赤な頬に涙が流れているが、
マーベットを責めている表情では無かった。
「いえ、気にしないで下さい、マーベットさん……。ラウンジでいっちゃうの、初めて
だから……」
 着ぐるみを換えなきゃ。ウッソはそう思って、深紅のソファーから立ち上がろうと
する。そんなオレンジ色の可愛い狸を、マーベットの両手が止めた。褐色の両手
がオレンジ色に絡み付いて、狸をソファーに押さえ付ける。
「明日から、お休みよね」
 酒を飲みながら、ウッソの二日間の休日を確認するマーベット。時間を掛けて
飲み後えると、彼女は嬉しそうな笑顔で、マスターに向かって大きな声で言った。
「マスター、この子の店外デートのオプション、お願いね」

 薄墨色のコートを再び着たマーベットが、狸を脱いだウッソと一緒に、部屋の中
へと入る。その部屋の中は、妖しい光に包まれていた。
「どうしたの、きょろきょろして? まだ、お酒が抜けてないの?」
 ウッソの行動に疑問を持ったマーベットが、酔いの抜け切っていない頭を働かせ
て、疑問を示した。
「い、いえ、ラブホテルなんて入るの、初めてで……」
 そっか、シャクティとは、こんな所に来なくても出来るわよね。マーベットはそう
思いながら、脱いだコートを洋服掛けに渡す。
「私は、昔オリファーと何度か来た事があるわよ。リガ・ミリティアのアジトや工場
じゃあ、遠慮無く抱き合うのは、難しかったからね」
 あの戦争の途中でいなくなった夫の名前を、マーベットは口にした。懐かしそう
に。酔いが少し残っているせいか、不思議な程口が軽い。酒の助けを借りて発せ
られた彼女の言葉を聞いて、ウッソの顔付きが変わる。
「やっぱり、やめましょうよ……。オリファーさんに悪いですよ、こんな事」
 自分を抱きたいというマーベットの願いを、ウッソは否定した。少しとは言え、酒
に酔っている女性を抱くのは、どこか卑怯な気がするからだ。
 人の温もりが欲しい時、マーベットはウッソを抱く。ウッソを貸してと彼女がシャク
ティに頼む度、いつもウッソは戸惑いながら、先程と同じ台詞を口にするのだ。ま
た言ったわね、ほんとにもう……。
「いいから。シャクティにも、ちゃんと許可は取ってるわ。『病気の私の代わりに、
ウッソを可愛がってあげて下さい』って言ってたわよ、あの子。
 それとも、こんなおばさんが相手じゃ嫌かしら、こだぬきさん?」
 スカートスーツの右ポケットに入れた手を出しながら、マーベットはそう言った。
満足そうに微笑む彼女の顔には、シャクティへの焼き餅が、少し混ざっていた。
「そ、そんな事言わないで下さいよ。まだ若いじゃないですか、マーベットさんは」
「そーよ。まだ若いのよ、私は。だからこうして、人生の楽しみ、色々味わいたいん
じゃない」
 からかう様にそう言いながら、左手の薬指に輝く真珠の指輪を、マーベットは外
した。乳白色のスカートスーツのポケットから出しだハンカチで、真珠の指輪を丁
寧に包む。そしてそのハンカチを、大きなベッドの横にある低い棚の上に置いた。
その後、ウッソの手が持っている自分のハンドバッグも、その棚に置いてもらう。
「おやすみなさい、オリファー。やきもち焼かないでね」
 マーベットはそう言って、棚の上にあるランプの灯を消した。そのマーベットの行
動を、ウッソが不思議そうに見ている。
「どうしたの、ウッソ?」
「い、いえ、『オリファー』さんって……」
 二人でベッドに座った後、マーベットは、悲しみがほんの少し混じった微笑みを、
ウッソに向ける。僅かに酒の火照りが残る彼女が、話し始めた。
 マーベットが左手の薬指に嵌めていた真珠の指輪は、オリファーがくれた物だ。
不機嫌だったマーベットに。
 ウッソとシャクティと出会う前のクリスマス、マーベットはオリファーと宇宙にいた。
恋人が素敵な贈り物をくれると期待して、彼女はクリスマスを迎えたのだが、オリ
ファーは何と、プレゼントを用意していなかったのだ。
「地球に降りる為の準備と、降りた後の活動への用意で、とても忙しかった」
 そう言い訳をしながら、オリファーは必死にマーベットに向かって謝った。いつか
必ず埋め合わせをするからと、何度も何度も言いながら。そうやって必死に謝罪
し続ける恋人の姿が、マーベットにはとても可愛らしく見えた。
「でね、私がカミオンのお爺さん達と合流する為、オリファーと地球に降りる時、彼
があの指輪をくれたの。
 でも、傑作だったわよ。『僕の人魚姫を泣かせてしまったから』なんてキザな台詞、
どこで覚えたのかしら、あの人」
 そう言って微笑むマーベットの笑顔は、マケドニアコロニーの捕虜収容所で行な
われた、二人の結婚式の時に見せた笑顔と同じだった。だが、マーベットの幸せの
笑顔に、悲しみの陰が現れる。
「泡になって消えちゃったのは、人魚姫じゃなくて、王子様だったけどね……」
 オリファーが恋人から夫になってすぐ、この世からいなくなった事を、マーベットは
思い出した。指輪を嵌めていない左手で、目から溢れた涙を拭う。どうやって彼女
を慰めていいのか、ウッソには分からなかった。
「ごめんなさい、ウッソ……。こんな所でする話じゃ、なかったわね。酔ってるのか
な、私……」
 微かに悲しみが混じる声で、マーベットはウッソに謝る。やっぱり、やめましょうよ、
マーベットさん……。
「……僕、出来ませんよ。酒に酔ってるマーベットさんを、抱くなんて。……オリファー
さん、悲しみますよ」
 そう言うウッソの胸に、隣に座るマーベットの泣き顔が伏せた。そこから、大きな
泣き声が聞こえる。ウッソは泣き声の後ろに掌を回し、マーベットの頭を撫でてあげ
た。彼女を優しく、癒す様に。
 泣き疲れたマーベットが、ウッソの胸から顔を上げた。何かを求める様な瞳を、ウッ
ソの澄んだ瞳に向ける。お酒じゃ消えないのよ、寂しさは……。
「嫌よ……。私を抱いて、ウッソ。人の温もりが欲しいのよ、私……。
 ウッソが欲しいから、戦争中にずっと着ていたツナギと同じ色のコートを、今日着
て来たのよ。あなたにオリファーをやって欲しいから、ウェディングドレス代わりの
白いスーツを、今日着て来たのよ。
 だから……、お願いウッソ、私を思いっ切り抱き締めて。私を一番に愛して。今だ
けでいいから……」
 酒と涙で潤むマーベットの瞳を見たウッソは、彼女を胸に強く抱いた。

 お湯を張った大きな湯船に、二つの裸が入っている。酒の赤味が消えたウッソと、
酔いから醒めたマーベットだ。
「お風呂が立派な部屋を選んで、良かったわね」
 マーベットはそう言って、ウッソの澄んだ瞳を見た。澄んだ瞳の視線が、お湯の
上に浮いている自分の胸の方に、向いている事に気付く。
「何、ウッソ? 私はもう、おっぱい出ないわよ」
「そそ、そんなんじゃないですよ。大きな胸だなって、見とれてて……」
 恥ずかし気に白い頬を赤く染めるウッソの顔に、マーベットは両手で、お湯を掬っ
て掛けた。慌てるウッソ。微笑むマーベット。
「うふふ、相変わらずお世辞が上手いわね、あなた。だからお姉さん達は、みんな
ウッソを好きになったのよ」
 風呂の湯で濡れたウッソの顔が、さっきよりもさらに赤くなった。そう言えば、ジュ
ンコさんやマヘリアさんも、おっきな胸だったよなぁ……。
「あっらぁ〜。今、ジュンコ達の事、考えてたでしょ」
 ウッソの瞳の光が濁ったのを見て、マーベットは責める様に優しく言った。そして
もう一度、お湯を掬ってウッソに掛ける。
「ご、ごめんなさい、マーベットさん。失礼な事して」
「分かればよろしい、こだぬきさん。
 ……ん〜、そーねぇ。じゃ、今日は自慢のおっきなバストで、ウッソの温もりを感
じますか」
 マーベットは嬉しそうな声でそう言った後、大きなエアーマットの上にうつぶせに
寝る様、ウッソにお願いした。その通りにするウッソ。どうするんだろ……。
 マーベットの温もりが、いつまで経っても近付いて来ない。ウッソは不思議に思っ
て、下を向く顔を動かす。マーベットの胸に咲いたボティソープの泡の花園を、視
線の先が発見した。
「な、何するんですか?」
「えへへ〜、い・い・こ・と。動いちゃ駄目よ、ウッソ」
 褐色の胸に咲いた白い泡の花園が、マーベットの笑顔と共に、ウッソの背中へ
近付く。こわばった二つの乳首の感触を感じた後、二つの柔らかい乳房の感触が、
ウッソの背中を包んだ。こわばった小さな感触と、柔らかい大きな感触が、背中
の上を往復する。
「あっ、いぃ……。な、何ですか、これ……」
 微妙な快楽を乗せた声を、ウッソが洩らす。その声を聞いたマーベットは、体の
動きをさらに大きくした。
「マットプレイとか、言うらしいわね。初めてやるけど、気持ちいい?」
「は、初めてって……。オリファーさんとした事、無いんですか!?」
「うん。やってあげる前に、あの人はいなくなっちゃったから……。
 しっかしねぇ……。今そんな事に、気を回さなくってもいいでしょ、ウッソ。もっと
デリカシーって物を、持ちなさい。今の私は、あなただけを愛しているんだから」
 そう言いながらマーベットは、ウッソの背中で円を描く。その動きが、くすぐったく
て気持ち良かった。初めて味わう心地良さで、ウッソは切ない吐息を生む。マー
ベットがさらに胸を押し付け円を描くと、広いバスルームに甘い声が響いた。
「っあっ、マーベットさぁん……」
「あら、相変わらず敏感ね。ニュータイプだからって、感じ過ぎよ。今度はお腹を
洗ってあげるから、仰向けになって」
 泡の花園を背中から離したマーベットが、再びウッソにお願いした。素直に仰向
けになる、ウッソ。その澄んだ瞳には、マーベットの言葉への疑問と、これからの
体験へ期待があった。ニュータイプって、体も感じ過ぎるのかな?
 ボディソープを再び塗って、マーベットはもう一度自分の胸に、白い泡の花園を
咲かせる。その花園を、ウッソの胸へと近付けた。マーベットの乳首と、ウッソの
乳首がキスをする。その感覚に、ウッソは思わず声を洩らした。
「だからぁ〜、感じ過ぎだって言ってるでしょ〜。もっといい事してあげたら、オリ
ファーの所に行っちゃうんじゃないかしら、あなた」
 ウッソの感度が良過ぎる事を、冗談っぽく咎めながら、マーベットは胸の柔らか
さを動かし始めた。彼女の潰れた胸が動く度に、白い花園がウッソの胸とお腹に、
白い綿帽子を飛ばす。
 マーベットの吸い付く様な柔らかい胸の感触が、ウッソの胸やお腹の上を、何
度も何度も往復する。そして時々円を描いた、二つの大きな柔らかさが。
 押し付けられる胸の圧力が、強くなったり弱くなったりする。それに合わせて、
ウッソの中の快楽も、強くなったり弱くなったりした。だが、マーベットの大きな胸
から伝わる幸せは、ウッソの中で強まる一方だ。
 充分に綿帽子を飛ばせたマーベットの胸が、ウッソから離れた。胸に残った泡
の花園を、シャワーで念入りに洗い流す。そして彼女は、ボディソープとは別の
容器を手に取った。
 マーベットはその容器から出るぬめりを、自分の深い胸の谷間に、たっぷりと
塗り付ける。彼女の胸はぬめりの為に、今まで以上に輝いていた。
「ウッソのおちんちんは、ローションで洗ってあげるわね」
 何で? 疑問に思うウッソ。
「さっきの泡じゃあ、駄目なんですか?」
「うん。石鹸とかは、蛋白質を溶かしちゃうから。ボディソープでもいいけど、ウッソ
が痛いんじゃないかと思って」
「……ありがとうございます、マーベットさん。そりゃあ僕だって、痛く無い方がいい
ですよ」
 そう言った顔にある瞳を、ウッソの膝の間で体を折ったマーベットの瞳が見詰め
る。そんな彼女の瞳に、疑問の光が生まれた。
「もしかして、シャクティはしてくれないの、バストで?」
「ええ……。何かされるより、色々してあげる事の方が多くて……」
 それを聞いたマーベットの顔に、微笑みが咲いた。嬉しそうな褐色の笑顔を、い
きり立つウッソの股間に向ける。
「うふふ、可愛そうなウッソのおちんちん、私が慰めてあげますからね〜」
 マーベットはそう言った後、可愛そうな可愛らしいウッソを、まじまじと見詰めた。
「ん〜。……長さも太さも、同じなのね」
「何がですか?」
「あなたが作ってるソーセージが、ウッソのおちんちんと同じ大きさなのよ」
 いつも作っている羊肉のソーセージが、自分の股間から生えているとは、思い
も寄らなかった、ウッソは。とっても恥ずかしい。
「えぇーっ!? そ、そんな事言わないで下さいよぉ〜。一杯作って、沢山の人が食
べてくれるんだからぁ〜」
 戸惑いと恥ずかしさで顔を真っ赤に染めるウッソが、そうマーベットに抗議した。
あまりに恥ずかしいので、作るソーセージの大きさを変えると、言い出す始末だ。
「駄目よぉ、大きさ変えちゃあ。売り上げ落ちたら、どうするのよ?
 基地の軍人さん達、精が付くからって言って、あのソーセージを食べてるのよ。
みんながウッソのおちんちん、食べたがってるんじゃない、もぉ〜」
 マーベットの言葉で、ウッソの顔がこれ以上無いという程、赤く染まる。そんな
自分の顔を見られたくないかの様に、ウッソは両の掌を顔に押さえ付け、頭を左
右に振り続けた。
 それを見たマーベットは、自慢の胸で、ウッソのソーセージを食べ始める。ウッ
ソの口から洩れる声の表情が、恥ずかしさから甘さに変わった。
「何よぉ。挟んだだけで、そんな声上げちゃって。もっと我慢しなさいっ。今から
ウッソのソーセージを、私のバストが食べるんだからぁ」
 ウッソを優しく叱るマーベットの大きな胸が、ぬめりの中を動き始める。彼女の
歪んだ谷間にウッソが現れる度に、甘い声がバスルームの中に響いた。声の甘
味を増やす為、マーベットの胸がウッソのソーセージを柔らかく噛む。
 前後に、上下に、左右に。時に優しく、時に強く。褐色の谷間を歪ませる度、ウッ
ソから生まれる響きが、望み通りに甘味を増す。それが嬉しい、マーベットには。
(そろそろかな?)
 響きの甘味が増えなくなったので、マーベットは、胸を咀嚼するピッチを上げた。
手の動きを回転させて、ウッソのソーセージを良く噛んでみる。美味しいわね〜、
ウッソのおちんちん。
 甘い声が自分の名を叫んだ時、ウッソの精が、黒いショートカットの前髪に飛ん
で来た。マーベットの胸が、ウッソのソーセージを食べ終わった合図だ。
「やっだぁ、もぉ〜。出すんなら出すって、ちゃんと言ってよねぇ。髪に付いちゃった
じゃない」
 自分の黒髪に降ったウッソの白い精を、マーベットはそう言いながら、右手で
拭った。その右手を洗った後、脱衣所へのドアを、少しだけ横に開く。脱衣所の
床に置いていた殺精子ゼリーの箱を、褐色の手が取った。そして箱を開け、愛す
る我が子がこの世に生まれ出て来た場所に、ゼリーを注入する。
 マーベットはその後、リンス入りシャンプーの容器を手にした。ウッソの白い精
が降ったショートカットの黒髪を、洗って綺麗にする為だ。
 洗髪をするマーベットの姿を見ながら、ウッソは疑問に思っていた事を、尋ねて
みた。
「何で、僕が働いてる店の場所、知ってたんです? お店の名前も場所も、教え
てなかったでしょ。仕事の内容を聞かれた時も、曖昧に答えたのに」
 ショートカットの黒髪の上に、シャンプーの白い花園を咲かせながら、マーベット
は答えた。
 今はラゲーン基地で管制官をしているネスが、以前から何度も、あの狸の巣に
マーベットを連れて行ったのだという。ラゲーン基地の居住区には、あんな遊びが
出来る店は無い。だからネスはストレスが溜まった時、休暇を使って狸達の所へ
遊びに行く。そして、酒でへべれけになった自分をラゲーンまで送って行く役を、
マーベットに任せていたのだ、ネスは。
「二年前にネスが結婚してから、行く事は無くなったけど、お店の名前と場所は、
忘れなかったわよ。着ぐるみなんか着せるお店は、ウーイッグでも、あそこしか無
いんだから」
 マーベットはそう言って、自分の黒髪に咲いた白い花園を、シャワーで洗い流し
た。綺麗になった髪をタオルで拭った後、まだまだ若い自分の人生を、ウッソと楽
しむ事にした。
「さてと、こだぬきさん、二人で巣に帰りましょっか」
 そう言うマーベットは、バスルームのドアを開けようとするウッソを見付ける。殺
精子ゼリーの隣に置いていたコンドームの包みを、ウッソは取るつもりなのだ。
「あら、付けるの? 今日は生で、やらせてあげようと思ったのにな〜」
「え? マーベットさん、ゼリー入れてたじゃないですか」
「ま、一応ね。どっちも持って来たのは、私なんだし。
 ……実は、安全日になる今日まで、ウッソのお店に行くのを我慢してたのよ、私」
 マーベットが、ちょっと恥ずかしそうな表情で、そう告げる。ウッソの顔が、また
赤くなった。
「でで、でも、やっぱり付けないと。マーベットさんに、僕の子供を生んでもらうわけ
には行かないから……」
「あら、いいわよ、ウッソと私の子供が出来ても。あなたと私が、結婚すればいい
だけの話じゃない」
 冗談とも本気とも取れる表情の声でそんな事を言って、目を細めるマーベット。
ウッソの顔がさらに赤くなるのを、その細い目が確認した。
「だぁーっ!! そんな冗談、言わないで下さいよぉー」
「結構本気よ、私。あなた、オリファーに似て来たし。
 ……ま、許してあげますか。ウッソには、シャクティがいるからね。お似合いよ、
あなた達」
 その声の後、マーベットの褐色の体が、エアーマットの上に掌と膝を付いて四
つん這いになった。ウッソとの快楽を、狸の様に後背位で楽しみたいらしい。そん
なマーベットを見て、脱衣所の床からコンドームを取った後のウッソは、戸惑って
いる。不思議に思うマーベットは、ウッソに向けて疑問の声を放った。
「どうしたの? バックは嫌い?」
「い、いえ、そんな格好でした事、あんまり無いから……」
 ウッソの話によると、シャクティは、四つん這いになる後背位が嫌いらしい。ウッ
ソの温もりを遠く感じるからと言って、シャクティはそんな体位を嫌がるのだという。
「あはは、可愛いわね、シャクティは。
 でも、人生は色んな事があるのよ。色々やって、色々楽しまなきゃ。二人で色ん
な事をするから、愛し合う者同士の絆が、強くなるのよ。そう思うわ、私」
 マーベットは首を回して後ろを向き、コンドームを付けようとするウッソに、そう
言った。だがウッソは、自分を包もうとぜす、暗い顔になってうつむく。寂し気な声
で、マーベットに謝り始めた。
「ごめんなさい、そんな事言わせて……。オリファーさんの事……」
 ウッソの謝罪を聞いた後、マーベットは後ろにある暗い顔から、目を背ける。澄
んだ瞳が無い自分の前の方に視線を向けた後、彼女はウッソに声だけを向けて、
話し始めた。
「いいのよ、ウッソ。あなたとシャクティにも私にも、未来はあるんだから。
 でも、カサレリアの時より、もっと早くあなたに会いたかったわ。V1のコアファイ
ターの後ろに体が入るなんて、私、知らなかったもの。オリファーと宇宙にいる頃
知っていれば、あの人と一緒にヴィクトリーに乗って、星達の中をデート出来た
かも知れないわね」
 ごめんなさいね、オリファー……。少しだけ、あなたの代わりをウッソにして貰う
わ……。
「じゃ、私達の未来の為に、始めましょっか。ウッソご自慢のソーセージ、私の下
のお口に食べさせてね。思いっ切り、味わってあげるから」
 再びウッソの瞳の方に視線を向け、お尻を少し持ち上げながら、マーベットは
そう言った。コンドームを着せ終わったウッソは、元気になった彼女の声を聞いて、
頷いた。
 そして自分のソーセージを、涎を垂らして待ち構えるマーベットの下の口に、食
べさせる。よく味わって食べて欲しいからと、ウッソは腰を前後に動かし始めた。
下の口から食べ残しが零れて欲しくないから、ウッソは両手でマーベットの腰を
掴む。大きい上半身と小さい下半身を、立てたまま。
 マーベットが快楽の消化不良にならない様に、何度も何度も腰を動かす。強く
激しく動かした後は、優しくゆっくり動いてみる。その度に、彼女の下の口が自分
を味わってくれる感触が、ウッソの中に快楽を生んだ。美味しいですか、マーベット
さん……。
 前後の動きだけでは味気無いので、円を描いてみる事にした。もっともっと、自
分を食べてもらいたいから。白い泡の花園を咲かせた時の、マーベットの大きくて
柔らかい胸の動きを思い出して、ウッソは腰を回してみた。
「あっ……。いいわ、上手よウッソ。ピストン運動も、忘れないでね……」
 再び、腰を前後に動かす。少しして、また円を描いた。起こしている体を僅かに
ひねって、角度を変えて往復運動をしたりする。そんな事をする度に、マーベット
の下の口が、涎を垂らしてねだるのだ。もっともっと、可愛いウッソを食べたいと。
とっても美味しいわよ、こだぬきさんのソーセージ……。
 ウッソの股間のソーセージを、マーベットの下の口が、甘い涎を垂らしながら食
べ続ける。とても美味しいウッソからの快楽を、さらに味わいたい。そう願うマーベッ
トは、下の口の頬に力を入れた。
 それに呼応する様に、マーベットの上の口も動く。そこから幾度も、甘さに満ちた
喘ぎ声と、美味しいソーセージの持ち主の名が、生まれた。
「ウッソ、ちょっと……待って」
 甘い声で、マーベットは快楽の食事が運ばれるのを止めた。ウッソにはそれが、
少し意外だった。大いに不満だった。それが分かるマーベットは、次に食べたいメ
ニューを呼んだ。
「わたしばっかり食べてちゃ、悪いわ……。こだぬきさんの両手にも、私の自慢の
バストを、食べさせてあげる。
 私の背中に、ウッソの胸を寄せてみて。後は、分かるでしょ……」
 ウッソは言われた通りに、立てている上半身を傾けてみる。マーベットの背中に、
自分を乗せた。そして両の掌が、マーベット自慢の大きくて柔らかい胸を、食べ始
めた。
 柔らかい、とても柔らかい。余りに柔らかくて、逆に自分の指がマーベットの胸に
食べられてしまうのではないかとさえ、ウッソには思えた。本当に、とろける様な胸
だ。はね返す様な弾力を持つシャクティの胸とは違う感触を、ウッソは何度も何度
も味わう。いくら食べても飽きない。
 しかも大きいから、食べ応えがある。食べても食べても、減りはしない。それどこ
ろか、胸のボリュームがさらに大盛りになって行く様な錯覚すら、ウッソは覚えた。
美味しい、美味しいよ、マーベットさんの胸……。
 ウッソは乳首に、指先を伸ばす。そこだけは、硬くこわばっていた。その緊張を
解きほぐそうと、指先で撫でたり、摘まんだりしてみる。自分が狸だった時に、マー
ベットが耳を弄んだ様な手付きで。だが、マーベットの乳首は、硬くこわばる事を
続けるばかりだ。
「どお、食べ応えあるでしょ。わたしご自慢のバストは」
「はい! とっても、とっても美味しいです、マーベットさんの胸。マーベットさんが
作ってくれるプリンみたいに、柔らかくて大きくて、とっても甘くて美味しいです!」
 それを聞いたマーベットは、満足気な笑みを浮かべ、ウッソに教える。
「全く、私のプリンを食べる事に夢中で、気が付いてないみたいねぇ。
 こういうバックなら、シャクティの背中とバストに、ウッソの温もりが伝わるでしょ。
あの子が元気になったら、してあげなさい。喜ぶわよ、きっと」
「……そっか。ありがとうございます、マーベットさん!」
 ウッソの感謝の声を聞いたマーベットは、左手をエアーマットから離し、薬指の付
け根に、手の甲の方から唇に寄せる。真珠の指輪を嵌めていた左手を口に当てた
まま、マーベットは小さく笑いながら、ウッソに話し始めた。
「やっだぁ。もしかして、こんな簡単な事、気付いてなかったの? こだぬきさんは。
 ……ほんっと、あなた達って似てるわねぇ」
 似てるって、誰と?
「あなたの妙に抜けた所、本当にオリファーそっくりよ」
 言われてみれば、そうかもしれない。ウッソは素直に、そう思った。
「さてと、こだぬきさん。お互い、代わりになりましょうね。
 ウッソは私を、病気が治ったシャクティだと思って、予行練習をして。私は、あな
たの事をオリファーだと思うから」
 マーベットの背中に乗るウッソが、不満気に頬を膨らせながら、彼女の顔に自分
の顔を寄せる。今夜だけは、マーベットを一番に愛したいから。ごめんね、シャク
ティ……。
「嫌ですよ、マーベットさん。二人でベッドに座ってる時、『私を一番に愛して』って、
言ってくれたじゃないですか。だから今は、マーベットさんを一番好きになりたい
ですよ」
 それを聞いたマーベットは、また幸せで笑い出した。
「うふふ、そういう変な所で義理堅いのも、ほんとオリファーにそっくり……。
 じゃあ、今夜は二人の結婚式ね。お互い一番好きになって、新婚旅行に行きま
しょっか」
「はい!」
「夫婦になるのは、今夜だけよ。私を食べ残さないでね、こだぬきさん」
「はい!」
 ウッソは二度、元気な返事をして、マーベットとの快楽の食事を再開させた。
 腰を前後に振って、マーベットの下の口に、自分のソーセージを食べさせ続ける。
その味だけでは飽きるだろうから、今度は腰を回してみた。そして、二つの味をミッ
クスさせて、彼女に快楽を食べさせる。そんな事をする度に、マーベットはウッソ
の名前を呼んでくれた。
 マーベットの下の口は、シャクティのそれとは違っていた。シャクティの場合、
ウッソの全てを逃がしたくないと、抱き締められる様な感じがする。だがマーベット
の下の口は、褐色の体の奥に飲み込まれて行くみたいな感じだと、ウッソには思
えた。どちらも好きだが、今はマーベットだけを愛したい。
 マーベットに飲み込まれる感覚に夢中になって、腰を動かし続けるウッソ。自分
を良く噛んで味わってくれる彼女に、ウッソは感謝したくなった。
「今日は、ありがとう……ございます、マーベットさん……。僕に、色んな事をして
……くれて」
「どう……いたしまして、こだぬきさん。慰めて欲しくて……あなたを誘ったのに、
何か……変よね。ま、こんな……結婚式もいっか、ウッ……ソ」
 甘い喘ぎ声を所々挟みながら、マーベットの上の口は、そう返事をした。ウッソを
食べる下の口は、垂らす涎と湿った咀嚼音で、淫らな返事をする。その下の口に、
ウッソは左手を伸ばした。マーベットの、甘くて柔らかい胸のプリンを味わう事を、
やめさせて。
「マーベットさん、……結婚指輪の交換、しま……しょうよ」
 そう言ってウッソは、マーベットの下の口にある突起に、左手の薬指を這わせた。
思わず声を上げるマーベット。指輪って……。
「ここにある……マーベットさんの真珠、今夜の……結婚式の指輪に、させて下
さい。いいでしょ、マーベット……さん」
 今度は、親指と薬指で、マーベットの真珠を弄んでみる。軽く摘まんでみたり、
優しく擦ったりしてみた。その度にマーベットの下の口が、咀嚼を強め、涎を垂ら
す。ウッソのソーセージを、早く飲み込みたいと言って。
「いいわ、ウッソ……。もっと、もっと……して。あなたを食べて、飲み込みたいか
ら……」
「食いしん坊です……ね、マーベットさんの……下のお口は」
 そう言った後ウッソは、マーベットの真珠を挟む薬指の力を強めてみた。彼女の
上の口が、切な過ぎる甘い声を、大きく奏でる。指輪の交換に、満足した合図だ。
それに合わせ、掌と膝を付く褐色の上半身が、肘からエアーマットに埋まって行く。
 そんな彼女に付き添う様に、ウッソも体を傾けた。そして、マーベットの大きなプ
リンを、左手に咥えて食べさせる。食べにくいので、褐色のプリンを手で食べながら、
マーベットの上半身を持ち上げてみた。
「ぁうっ! 新婚旅行は、どこが……いいかしら、……ウッソ」
「どこでも……いいですよ。マーベットさんが傍にいて、一緒に……ご飯を食べて
くれ……たら」
 真珠の指輪に満足したウッソが、そう答える。二つのプリンを食べる動きと、自分
のソーセージを食べさせる動きを、もっともっと激しくしてみた。マーベットさん、僕、
僕……。
「美味しいウッソを、食べ終え……そうよ……。お先に……行っていい……かしら、
新婚旅行……に」
「僕も、一緒に行きます……よ。花嫁さんを一人に……しちゃあ、悪い……で……
しょ、マー……ベットさん」
「一緒に、一緒に……行きましょ、ウッソ……。気持ちいい、新婚……旅行に。
 ……っぁ、ぃいっ……、ぃあっ……、ああぁぁぁっっ!!」
 マーベットは、上の口を開いて大きな声を上げ、下の口を締め付けながら、ウッ
ソを食べ終えた。食べた物を飲み込もうと、下の口の頬が何度もすぼまる。その
力に、ウッソは精を放ちながら、飲み込まれた。

 起きたウッソの目の前に、顔があった。自分の唇にキスをしているマーベットの
顔から、大声を出しながら離れる。び、びっくりした……。
「お早う、ウッソ。いくら声を掛けても目を覚まさないから、ちょっとイタズラしちゃっ
た。誓いのキスを、昨夜はしてなかったからね。
 そろそろ、カサレリアに帰りましょ。早く服を着なさい」
 置時計の方を見る。朝七時半だ。
 ウッソとマーベットはあの後、お互い裸で抱き合いながら眠った。だが、ベッドの
傍に立っているマーベットは、薄墨色のコートを羽織ればいいだけの状態になって
いる。ハンドバッグとコートを抱える左手の薬指には、真珠の指輪がきらめいていた。
 ウッソがいつものジャンパーとGパンを着終えると、マーベットは乳白色のスカー
トスーツの右ポケットから、小さな箱を取り出した。それを、大切そうにウッソへ渡
す。
「いつも頑張ってるウッソに、私からのプレゼント。開けてごらんなさい」
 箱を開くと、そこには真珠の指輪があった。これって……。
「ウッソと私の、結婚指輪よ」
 えぇ〜!!
「うふふ、冗談よ。シャクティに指輪を買ってあげたかったから、夜の仕事、頑張っ
てたんでしょ、ウッソは」
 何故それを知っているのかを、マーベットは話し始めた。
 マーベットは今月の初め、カサレリアの小型焼却炉の前で、ウッソと出会った。
家から出たゴミを燃やす為の焼却炉の前に、シャクティではなくウッソがいる。
「珍しいわね。シャクティはまだ、元気に動けないの?」
 燃えるゴミを捨てに来たマーベットが、そう声を掛ける。彼女に気付いたウッソは、
戸惑い焦りながら、そこから走って去って行った。
 白い紙が投入口の蓋に挟まっているので、マーベットはそれを外す。見てみると、
指輪の写真が印刷してある紙だった。宝石店のサイトの画像をプリントアウトした
その紙には、隅に「Shahkti」とペンで書いてある。火の点いていない焼却炉の中
を覗くと、白い紙が何枚も入っていた。
(なるほどね)
 クリスマスプレゼントを用意していなくて、ひたすらシャクティに謝っていたウッソ
の姿を思い出しながら、マーベットはそう思った。
「全く……。あなたって、ほんとにオリファーそっくりよ。おんなじ事を、あの人もして
たんだから」
 昔、リガ・ミリティアの工場にあるゴミ箱の前で、マーベットはオリファーの姿を見
た。彼女の顔を見て、焦ってそこから去って行くオリファー。ゴミ箱の奥には、アク
セサリーのパンフレットが、束になって入っていた。マーベットが不機嫌になった
クリスマスの、翌月の出来事である。
「で、その後貰った指輪が、これ。オリファーとの結婚指輪に、なっちゃったけどね」
 左手の甲を、ウッソに向けた。薬指が、輝いている。
「さてと、お喋りはここまでよ。一夜の新婚生活もお開きね、こだぬきさん」
 マーベットはそう言った後、感謝で何度も頭を下げるウッソを連れて、一夜の新
婚生活を過ごした部屋から、立ち去った。

「だ〜か〜ら嫌なのよぉ、あの男はぁ。聞いてるぅ、ウッソぉ」
 ろれつが回らないネスが、オレンジ色の狸になったウッソに向かって、酒臭い息
を吐いている。まさか最後の日に、こんな難物がやって来るとは。
 ウッソは明日から、狸をやめる。約束の三ヶ月が、終わるからだ。店のマスター
から、
「金持ちの固定客が二人も付いてるから、辞めないでくれ」
 と、先週から何度も頼まれていたが、ウッソは断った。
 妖しい光を浴びながら夜の街で働くより、太陽の光を浴びながらカサレリアで土
や羊達の相手をしている方が、自分には合っている。そう思う、ウッソは。
 最後の日だから、今まで以上に頑張ろうかと思っていたウッソに、この三ヶ月で
一番の災厄が降り掛かった。目の前でクダを巻いている、ネスである。
 夫婦喧嘩をしたストレスを晴らそうと店に来たネスは、狸姿のウッソをすぐさま
見付けて、捕まえたのだ。その後二時間、お触りをする事も無く、夫や仕事やそ
の他諸々の愚痴を、酒を飲みながらウッソに向かって吐き続けている。この調子
では、自分の勤務時間が終わる一時間後まで、ずっと付き合わされそうだ。
「んもぉ〜、モビルスーツの部品はちゃ〜んと分けてるのにぃ、な〜んでゴミの分
別くらい出来ないのかねぇ〜、クッフはぁ」
 今はラゲーン基地で整備兵をやっている夫クッフ・サロモンの名前を、不満気に
口にするネス。夫がゴミの分別をきちんとしない事が発端となって、大喧嘩をした
のだという。
 夫婦って、こんな物なの? そんな疑問を浮かべるウッソに、酒で曲がった笑顔
を、二年前はネス・ハッシャーという名前だった酔っ払いは、向けた。
「でもぉ、久しぶりに来てホント良かったわぁ。二人のウッソがぁ、可愛い狸になっ
てるんだも〜ん」
 二人って……。
「アハハ、三人になったぁ〜」
 駄目だ、完全に酔ってる……。焦点の合っていないネスの瞳を見て、ウッソは
そう思うしか無かった。
「もうやめましょうよ、ネスさん。二日酔いしちゃいますよ」
「なぁによぉ、二日酔いってぇ。あんまり飲まないんだから、アタシはぁ」
 大して飲んでもいないのに、ベロベロになっているネスが続ける。
「酒癖悪いって、よく言われるけどねぇ〜。へへへ〜」
 悪過ぎですよ! 彼女に二時間もクダを巻かれた狸姿のウッソは、ネスの口に
酒が入るのを止めようとする。だがネスは拒否して、グラスを少し傾けた。
「通りのおっきなラブホテルにぃ、友達と二人で部屋取ってまでぇ、遊びに来てん
のよぉ。あしたっから休みなんだからぁ、もっと飲ませなさいよぉ」
 そ、そこって、この前マーベットさんと……。
「ほら、帰りましょう、ネスさん。お友達、待ってますよ」
「大丈夫、大丈夫ぅ。あの女も、馴染みの店でパ〜っとやってるんだろうからさぁ〜」
 ウッソはネスの体に手を掛け、無理矢理彼女を立たせた。酒臭い息を吐く顔を
見ながら、ふら付いた足取りのネスの体を抱え、店の出口へと彼女を導く。
「アハハ、ウッソの抱っこ、気持ちい〜ぃ」
 そんな事を言うネスに代金を払わせ、店の出口へ向かおうとするウッソ。こりゃ、
ホテルの部屋まで連れて行かないと、駄目かもしれない。ウッソはそんな事を思
いながら、彼女の腕をオレンジ色の首に回し、背中を抱いてネスを支える。嬉し
そうに、支えてくれるウッソに体を寄せるネス。目の前にある店のドアが、開いた。
「……楽しそうね、ウッソ」
 ドアの向こうに現れたシャクティ・カリンは、引きつった褐色の笑顔を浮かべなが
ら、困惑するウッソに向かって、意地悪くそう言い放った。そんな彼女は、白い厚
手のブラウスの上に、フード付きのジャケットコートと、白い手編みの毛糸マフラー
を身に着けている。その隣に、面白そうな成り行きの為に顔を綻ばせているマー
ベットが、立っていた。
「ヤッホ〜、マーベット〜、シャクティちゃ〜ん、元気ぃ〜。
 なぁによぉウッソぉ、いつまでアタシに抱き付いてんのよ、もぉ〜。シャクティが
いるってのにぃ〜」
 逆でしょーが! 心の中でそう突っ込むウッソから体を外したネスが、店のドア
から出て行く。
「二人で一緒にぃ、狸のウッソを可愛がってあげてねぇ〜。おやすみぃ〜。
 い〜くつ〜ものあい〜、かっさぁねぇあ〜わせて、っとくらぁ。アハハぁ〜」
 陽気に歌いながら千鳥足でホテルへ向かうネスを見届けた後、ウッソは傍にいる
二人の褐色の女性の方へ、視線を向ける。シャクティとマーベットは、いつもの優
しい笑顔に戻っていた。
「今日が最後の日だっていうから、また来ちゃった。シャクティの快気祝いも兼ねて、
色々楽しませてもらうわよ、こ・だ・ぬ・き・さん」
 マーベットが、嬉しそうに言う。今日は浅葱色のハーフコートと花柄のスカーフを
身にまとっているが、コートの中にある衣服は、半月前の夜に着ていたあの乳白
色のスカートスーツである。
 ウッソはコートを脱いだ二人を、とりあえずラウンジへと案内する。右をシャクティ、
左をマーベットに挟まれて、ウッソは深紅のソファーに座った。白い頬が、早速赤く
染まる。
「でも、シャクティをこんな店に連れて来ちゃぁ……。まだ十六歳なのに」
 飲酒が出来るのは十八歳からというのが、この時代の決まりだ。もちろん二人
とも、知っている筈なのに。シャクティの歳が店にバレると、マズいんじゃない?
「心配しないの。お酒を飲みに来たんじゃ無いんだから。……えいっ」
 マーベットのその声の後、ウッソの左胸に刺激が走る。彼女の左手が、狸の左
耳を摘まんだのだ。思わず声を上げるウッソ。ウッソの乳首に刺激をもたらした
左手は、薬指に真珠の指輪を嵌めている。
「ね、面白いでしょシャクティ。やってみて、あなたも」
「はい!」
 元気な返事をした後、シャクティは左手で狸の右耳を摘まむ。その左手の薬指
にも、真珠の指輪の輝きがあった。
「や、やめてよ二人共……。あぁっ……」
 両胸を間接的に攻められるウッソは、思わず甘く喘いでしまった。ウッソの隣に
いる二人は、それを聞いて満足そうに微笑む。
「今度は、尻尾を握ってみて、シャクティ」
「こう、ですか?」
 シャクティは左手を狸の耳から離した後、両手でウッソの尻尾を強く握る。狸の
反応が面白いので、今度は引っ張ってみた。シャクティの名前を何度も呼びなが
ら、ウッソは股間の前後の刺激の為に、喘ぎ続ける。シャクティの両手が、尻尾に
加える力と動きを変化させる度、ウッソも喘ぎ声を変化させて行った。
「あんまりやっちゃ、駄目よ。この後、ウッソに頑張ってもらうんだから」
 どういう意味なのかと、ウッソはマーベットに尋ねる。狸の耳に伸ばした左手の
指先を擦って、ウッソに甘い吐息を吐かせながら、マーベットは答えた。
「ウッソがこだぬきさんじゃ無くなった後、またあのホテルで、結婚式を挙げましょ。
今夜は花嫁さんが、二人いるけどね」
 えーっ!! ネスがあのホテルに泊まっている事と、二人の花嫁さんの意味に、
ウッソの頭は混乱した。ウッソは混乱を解きほぐし、あのホテルにネスが泊まって
いる事を、二人に説明した。
「あら、いいじゃない。立会人になってもらいましょうか? ネスに。指輪を付けてる
シャクティと私を、祝福してくれるんじゃないかしら?」
 マーベットは、狸の体から離した左手の甲を、ウッソに見せ付ける。シャクティ
も、同じ事をした。オリファーからマーベットへ贈られた真珠と、ウッソからシャク
ティへ贈られた真珠。二つの薬指の輝きが、ウッソの中に戸惑いを生んだ。
「うふふ、冗談よ。でも、三人の結婚式だけは、ちゃんと挙げてもらうわよ。その為
に、ウェディングドレス代わりの白い服を、着てるんだから。シャクティも私も」
 マーベットとシャクティが、同時に微笑み、同時にウッソの赤い頬に笑顔を向ける。
二人共、今のウッソを可愛く思い、今夜のウッソに期待しているのだ。ニュータイプ
であるウッソの心は、その事を、感じ過ぎる程理解した。どうなっちゃうの、僕……。
「今夜も頑張って、新婚旅行に連れて行ってね、私達の花婿さん」
 マーベットの声の後、狸の頭巾から出ているウッソの左右の頬に、二人が同時
にキスをする。ウッソの顔が、この三ヶ月で一番真っ赤になった。

−完−