ガンダムキャラに萌えるスレ

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519思春期の戦場 1/20
 その暗い部屋に、エリシャは連れて行かれようとしていた。どうしても自分
の欲望が我慢出来ないという黒髪の少年に、手を引かれて。
「オレが生きてるって事、確認しときたいんだ。」
 明日行なわれるエンジェル・ハィロゥへの総攻撃を前に、オデロがそう頼み
込んで来たのだ。大好きな少年の願いだ。聞く事にする。だが、普段人の出入
りが無い対人用武器庫に連れて行かれるとは、エリシャは思ってもいなかった。
「ねぇ〜、ホントにあそこでするの?」
 エリシャは不満気に確認する。白兵戦で使う拳銃やライフルの立て掛けてあ
る棚と、弾薬の入っているロッカー。それに狭い通路しかないそんな所で恋人
と愛し合うのは、流石に抵抗があった。
 しかも、部屋の電灯を点けるわけにいかないのだから、覗き窓から漏れる光
とオデロの手にする懐中電灯しか、部屋の光源が無くなるのだ。ロマンのかけ
らも無い。
「仕方無いでしょ。オレに回されるのは、どうせ四人部屋なんだから。」
520思春期の戦場 2/20:03/09/13 00:33 ID:C113BPbt
 重力下のリーンホースJr.で休息する時、ホワイトアークの少年パイロット
達は、いつも二段ベッドが二つ置いてある部屋で休む様に、強要される。自分
達の休息と、ホワイトアーク及びその搭載モビルスーツの修理・補給が行われ
ている間、いつもウッソとトマーシュが、同じ部屋の空気をオデロと吸う事に
なるのだ。ホワイトアークの狭苦しい三段ベッドよりよっぽどましだとは思う
が、流石にそんな場所で、恋人と二人、裸になるわけにはいかない。
 オデロ達の今の家とも言えるリーンホースJr.は、ザンスカール帝国の宇宙
用大型戦艦スクィードを改造した物だ。重力下で運用する様に、その艦は設計
されていない。カイラスギリー戦で奪ったスクィードを改装する時に、モビル
スーツデッキを一つ潰して出来たスペースの一部に、重力下用の居住ブロック
を作られたが、重力下で問題無く使える部屋の数に余裕は無いのが、現実だ。
 むしろ重力下で問題無く使える部屋をあてがわれる事は、生死の間をモビル
スーツで飛び回るパイロットに、気遣っているとさえ言える。何しろエリシャ
やマルチナ達が重力下のリーンホースJr.にいる時は、ブリーフィングルーム
の冷たい床の上に毛布を敷いて寝る程なのだ。
521思春期の戦場 3/20:03/09/13 00:33 ID:ln6FoNuQ
「ほら、エリシャさんも早く入って。」
 横開きのドアの向こうに体を入れたオデロが、そう言ってエリシャの腕を強
く引いた。エリシャは僅かに抵抗したが、生命力に溢れるオデロの腕には通じ
ない。
 部屋が、大きな音を立てて揺れ始めた。今頃の時間に最後のエンジンチェッ
クをするとは聞いていたが、これから行なおうとする行為の事で一杯だった二
人の頭には、そんな事などすぐには思い出せない。
 オデロがエリシャの体を部屋の中に引き入れる瞬間に、その長い揺れと大き
な音がしたので、エリシャはバランスを崩して倒れそうになった。
「おっと。」
 暗い部屋に彼女を引き入れた腕が、不安定なエリシャの体を支える。普段な
ら感謝する所だが、今聞いた声の主が焦って自分の腕を引っ張っていたから、
必要以上に揺れと音に体を取られたのだ。少し腹が立つ。
「大丈夫?」
「心配するんなら、最初っからあんなに強く引っ張らないでよ、もぉ。」
 そんなエリシャの不満が聞こえないかの様に、焦るオデロの腕は、暗い武器
庫の奥へと彼女を導こうとする。それに従い、オデロへの想いの為に心臓の鼓
動を速めるエリシャの胸が、暗い通路を進む。彼女を導く力が止まると、オデ
ロの両腕が、暗闇の中の冷たい壁へとエリシャの体を押し付けた。
522思春期の戦場 4/20:03/09/13 00:34 ID:0ocl3Q+C
「ね、ねぇ、やっぱりやめましょ。こんな所で……。」
 懐中電灯の光が外に漏れない場所まで連れて来られたエリシャが、オデロに
言う。だが、黒髪の少年は拒否した。
「でもさ、オレだってエリシャさんが好きだって気持ち、止められないよ。」
 床に置かれた懐中電灯の放つ、僅かな光の中に浮かぶオデロの目は、真剣そ
の物だ。覚悟を決めた。オデロが体を寄せて来る。そして熱いキス。
 だがその時、武器庫のドアが開く音がした。
「!」
 慌てたオデロが、唇を重ねたまま、胸板をさらにエリシャの膨らんだ胸へと
寄せて来る。少年の胸板と壁の間に挟まれる、エリシャ。普段ならこの上なく
嬉しい筈だが、今はただ、そんな時間が早く過ぎるのを祈るばかりだ。
 電動の横開きドアが閉まる音がしたと同時に、気の抜けた溜め息を吐きなが
ら、オデロがエリシャから離れる。とてつもなく長い僅かな時間が過ぎた事に、
二人は安堵するしかなかった。
 だがエリシャの心はすぐに、その長い時間を生み出した少年を責める気持ち
に切り替わる。
「こんな所でしようとするからでしょ! オデロのバカッ!! もう、知らな
いっ!!!」
 そう怒りながら武器庫を出て行くエリシャの姿を、オデロは呆然としながら、
僅かな光の中で見守るしかなかった。
523思春期の戦場 5/20:03/09/13 00:34 ID:0ocl3Q+C

 おかしい。上着のポケットに入れていた筈のペンダントが、無くなっている。
重力下なのに珍しく与えたられた四人部屋に入ってすぐ、エリシャはその事に
気付いた。
 オデロがくれた、木製の鯨のペンダント。ガンブラスターのコクピットの中
でした初めてのデートの時に渡された、オデロの想い。普段首に掛けておくに
は大きいので、いつも上着のポケットに入れていたそのペンダントが、無い。
 エリシャは焦った。
 入ったばかりの四人部屋を飛び出し、今迄自分がいた場所を全て回る。無い。
どこにも無い。オデロの象徴が、照れながら自分に告白してくれた少年の想い
の証が、どこを探しても無いのだ。
 悲しみに暮れ掛けたエリシャの心に、ある事がひらめく。そうだ、あそこだ。
長い揺れと大きな音の後、オデロの力強さを感じながら暗闇の奥へと導かれた、
あの武器庫。揺れと音でバランスを崩した時に落としたに違いないと確信した
彼女は、走ってそこへ向かう。
 電動の扉が開くほんの僅かな時間ですら、エリシャの心をじらす。部屋の明
かりを点け、対人用武器庫のあらゆる所を探し回った。だが、見つからない。
 絶望した。オデロの存在が自分から離れて行ったとしか、思えなかった。
 重い足取りで、妹とシャクティとスージィの待つ四人部屋へ向かう。その心
の中には、冬の曇り空の様な重苦しい悲しみしか無い。部屋に入ると同時に、
妹のマルチナが声を掛けた。「コニーさんが呼んでたわよ、お姉ちゃん」と。
524思春期の戦場 6/20:03/09/13 00:35 ID:ln6FoNuQ

 青いトランクス一枚のオデロは、部屋の隅にあるベッドに座り、溜め息をつ
いていた。
 エリシャが自分から逃げ出した後、ゴメス艦長に呼び出された。オデロ達少
年パイロットの三人に、モビルスーツの最終動作チェックを行なわせる為だ。
 モビルスーツの動作チェックが終わった後、一人部屋を与えられるという言
葉を、ウッソとトマーシュと共にゴメス艦長から聞かされる。最後の決戦の前
に充分休んでおけというゴメス艦長の言葉に、他の二人は喜んでいたのだが、
オデロだけは上の空で聞いていた。
 与えられた部屋に着いた後、すぐに備え付けのシャワーを浴びる。そうすれ
ば、少しは気持ちが晴れると思ったからだ。だがあの時のエリシャの姿と態度
を、自分の心から押し出す事が出来ない。
 オレはパイロットだ。こんな気持ちでいちゃあ、戦争なんて出来っこないん
だ。モビルスーツの動作チェックの時から、そうやって何度も自分を誤魔化そ
うとしたが、オデロの心を覆う暗い雲は消えないでいる。
「嫌われちゃったよなぁ、オレ……。」
 シャワーを浴びる間に何度も何度も思った言葉を、呟く。折角手に入れたエ
リシャという名の幸せの女神が、自分から離れて行くとしか思えない。そんな
うな垂れるオデロの目には、部屋の床しか見えないでいた。
525思春期の戦場 7/20:03/09/13 00:36 ID:ln6FoNuQ
 長い時間が経つ。だが、明日の出撃迄に自分の幸せと仲直りをする自信は、
沸いて来ない。それどころか、エリシャが自分と会ってくれる事すら、怪しい
と思えた。
(もし明日の出撃迄に、エリシャさんと仲直りが出来なかったら、父ちゃんと
母ちゃんの所に行っちまうか……。)
 そんな自暴自棄な気持ちに囚われた瞬間、鍵を掛け忘れたオデロの部屋の電
動のドアが、開いた。
「キャー!」
 エリシャは驚いて、大声をあげる。目の前に、オデロの裸があったからだ。
今迄体を重ねた時には心の準備をしてから目にしていたそれが、いきなり目の
前にある。エリシャは、驚き以外の反応を示す事が出来なかった。
「わわ、デカい声出さないで!」
 オデロは慌てて立ち上がり、さして広くはない一人部屋の中へエリシャを入
れるとすぐに、彼女が現れたドアを閉めた。あまりに慌てていたので、自分か
ら離れて行った筈の幸せの女神が腕の中にいる事を、喜ぶ余裕すら無い。
 ふと、我に返る。しかし、離れて行った筈の幸せに向かって、どうしてと尋
ねる事しか、今のオデロには出来ない。
 エリシャは言った、「ごめんね」と。両目に涙を浮かべて。
526思春期の戦場 8/20:03/09/13 00:36 ID:C113BPbt

「はい、これ。」
 自分の部屋にやって来たエリシャに、コニーは右手を差し出しながら、そう
言った。その、背が高く緑掛かった黒髪を持つ女性パイロットの右手には、エ
リシャが無くした筈の木製の鯨のペンダントの紐が、握られている。
 ハッとした。やはりあの武器庫で、あの長い揺れと大きな音の中で落とした
のだ。そう確信して、エリシャはコニーから差し出されたオデロの想いを、受
け取った。両の掌で、この上なく大切そうに。
 どうしてこれをという、驚きと嬉しさと恥ずかしさで一杯のエリシャの問い
に、コニーは答える。
 暗闇の奥に黒髪の少年と一緒にいた時に開いた、武器庫のドア。それは彼女
が開かせたのだ。そして、武器庫の扉の内側のすぐそばに落ちていたそれを、
拾ったのだという。
 自動拳銃のマガジンを取りに来た彼女は、その落ちていたペンダントが誰か
ら誰に渡され物なのか、知っている。邪魔しちゃ悪いと思ったので、コニーは
目的の物を持ち出さずに、武器庫のドアを閉じたのだ。そしてその後、怒りな
がら武器庫を出て行くエリシャの姿を、見たのだという。
(ちょっと冷ましてから、渡してやるか。)
 そう思って、コニーも武器庫へ続く通路の角から去ったのだ。
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
 両目に涙を浮かべながら、何度も何度も感謝の言葉を繰り返すエリシャの両
肩に、コニーはそれぞれの掌を置く。そして涙で潤む彼女の両目を見ながら、
「こんな大切な物、落としちゃ駄目だよ」と囁いた。
527思春期の戦場 9/20:03/09/13 00:37 ID:J45o1waV
 コニーは壁に掛けてあるパイロットスーツの右足に付けたホルスターから、
拳銃を取り出す。それを両手で大事そうに持ちながらベッドに腰掛けた後、エ
リシャに語り出した。
 その小型の自動拳銃は、シュラク隊が結成された時、六人の隊員全員にオリ
ファーがくれた物だという。朱いバンダナと共に。
 机の上に並べられたそれらを渡す時に言った、オリファーの言葉。
「目の前の拳銃は戦争、朱いバンダナは命の象徴だ。受け取れ。」
 コニー、ヘレン、ケイト、マヘリア、ペギー、そしてシュラク隊の隊長を任
されたジュンコの六人全員が、朱いバンダナだけを、迷う事無く選ぶ。誰一人
拳銃を受け取ろうとしないのを見たオリファーは、満足そうな笑みを浮かべて
六羽の百舌達に言った。それでいいと。
 その後に、護身用にと戦争の象徴だった拳銃もオリファーはくれたのだが、
今迄それをパイロットスーツに忍ばせた事は無かった。いつも、オリファーが
くれた朱色のバンダナだけを、パイロットスーツを着た左腕に巻いて出撃して
いた。六羽の百舌達全員は。
 しかし明日は、一度も弾を込めた事の無いオリファーがくれた拳銃に、弾丸
を込めて出撃するという。
「死んで行ったみんなとあたしをつなぐ物は、バンダナとこれしかないからね。」
 そうコニーは言った。そして、エリシャに言う。
「大切な物は、無くしちゃ駄目だよ。込もった思いまで、無くしちまう事にる
からさ。」
 エリシャは泣いた。コニーの胸で。
528思春期の戦場 10/20:03/09/13 00:38 ID:ln6FoNuQ

 ベッドに座ったトランクス一枚のオデロは、横に座ったエリシャの話しを聞
いていた。その間、言葉を発する事が出来ない。
 エリシャの話しを黙って聞いていたオデロの頭の中に、戦場で命を散らして
行ったオリファーやシュラク隊の女性達の顔が浮かぶ。特に、今日のエンジェ
ル・ハィロゥの地球降下直前に、戦いに疲れ魂の国へと旅立ったというユカ・
マイラスの顔が、強く思い出された。
 あの人を、最後の犠牲者にしなきゃ。そう思った。だが、エンジェル・ハィ
ロゥが地球に降下する時の戦いで感じた、巨大な苦しみと悲しみを撒き散らす
何かから、オデロは逃げられる自信が無い。
 それでも、目の前にいる自分の幸せの女神の為に、オレは生き延びなければ
ならない。少年は、そう強く誓った。
529思春期の戦場 11/20:03/09/13 00:39 ID:ln6FoNuQ
「でね、最後にコニーさんが、これをくれたの。」
 そう言って、エリシャは上着のポケットから、二つの小さな箱を取り出した。
「こここ、これ!?」
 エリシャが取り出した、コンドームと殺精子フィルムの二つの箱を見て、オ
デロは狼狽するしかなかった。医務室からくすねて来たコンドームは持っては
いるが、エリシャがそんな物を持って来るとは思いもしなかったのだ。
「うん、お前達はまだ子供なんだから、ちゃんと避妊くらいしなさいって。」
「って事は、コ、コニーさん知ってんの!?」
 それを聞いたエリシャは、頬を膨らせ、大好きな少年の顔に向かって、大き
な声で叫んだ。照れ隠しの為に。
「バカーッ! あんな事があったんだから、コニーさんが知ってるの、当たり
前でしょー!! とっても、とっても恥ずかしかったんだからぁ……。」
 叫び声が途中で、泣き声に変わった。そんなエリシャの顔が、オデロの裸の
胸に埋まる。そこから顔を上げたエリシャは、自分を好いてくれる少年の瞳を
見て、言った。
「……しよ、オデロ。生きてるって事、沢山、沢山感じさせてあげる。」
530思春期の戦場 11/20:03/09/13 00:40 ID:0ocl3Q+C

 下着姿のエリシャが、目の前にいる。長い長いキスの後、服を自分の意思で
脱いだのだ。だが白い下着だけは、自分で脱ごうとはしない。後ろを向き、背
中を少し、オデロの方に向かって突き出す。
「最後は、オデロが脱がせて。」
 望む通りにした。オデロは慣れない手付きでフックを外し、胸を包んでいた
白がエリシャの体から離れて行く様、導く。エリシャが、こちらを向いた。
 綺麗だ……。
 それしか言葉が出ないオデロは、エリシャの胸にある美しい女性の象徴に向
かった。まるで、女神に魅入られた様に。二人の体が、白いシーツの上に倒れ
込む。倒れ込んだオデロの下に、エリシャという名の女神がいた。
「いいよオデロ。……好きなだけ、して。」
 その女神の言葉に導かれ、オデロはエリシャの胸を、口で愛した。両手で抱
いた女神の胸に、自分の想いを飽く事も無く優しくぶつける。何度も、何度も。
その度に握られたエリシャの掌が、白いシーツの皺の形を変えた。
 左手を彼女の背中から外して、エリシャの右胸の上に置く。口の替わりに、
女神の右胸の膨らみを愛してもらう為だ。そしてオデロの唇は、上へ向かう。
耳を、首筋を、頬を、舌で撫でた。
 その度に変わる。シーツの皺も、エリシャの声も。
531思春期の戦場 12/20:03/09/13 00:41 ID:0ocl3Q+C
「下も……。」
 その要求に応える為に、オデロは体を下へと向かわせる。望まれた場所に着
いた。わずかに浮いた腰を包む白を、オデロの両手がゆっくりと外す。
 朱があった。そこに手を伸ばす。
「あっ……。」
 命の朱の最上部の雫を触ると、女神が甘い溜め息を漏らす。だがその溜め息
は、丸い雫の珠を弄ぶオデロには、さらなる行為の要求にしか聞こえない。一
つの指先で触り、二つの指先で摘まむ。その度に、エリシャの口から漏れる溜
め息は、甘さを増すのだ。
 光が届かない朱の奥へ、指を入れる。そこは光が届かないにも関わらず、い
や、届かないからこそ熱かった。命の熱さだ。その熱さを感じる為に、暗闇に
入れられた指を動かし、残された手の指で、光の中で輝く雫の珠を弄ぶ。内側
と外側からの快楽の波に、女神は翻弄されるしかなかった。
532思春期の戦場 13/20:03/09/13 00:42 ID:J45o1waV
「ちょっと、待って。」
 甘い溜め息を漏らしていた女神の唇から、要求があった。不服そうに、オデ
ロは動きを止める。名残惜しいが、エリシャの要求を聞かないわけにはいかな
いのが、オデロなのだ。
 ベッドのヘッドボードに置かれた殺精子フィルムの箱を、エリシャの手が掴
む。箱から中身を取り出し、説明に従ってフィルムを折り、自分の中へと入れ
ようとする。
 折り畳まれたフィルムを挟む人差し指と中指が、エリシャの朱の中に入ろう
とする様子を、オデロはまじまじと見ている。その視線の先にある朱は、いつ
もコニーの左手にあった朱と、同じ色に見えた。
「何よぉ、ジロジロ見て。恥ずかしいじゃない。」
「ご、ごめん。何か、コニーさん思い出しちゃって。」
 エリシャは誤解した。
「何ですってー! あたしが目の前にいるっていうのに!!」
「そそ、そーじゃなくってさ。エリシャさんのそこが、その……、コニーさん
のバンダナと、同じ色に見え……たんだ。」
 戸惑いつつ、最後は消えそうな声でオデロは告げた。それを聞いたエリシャ
の顔が、微笑みに変わる。そしてコニーのプレゼントを挟んだままの手を少年
の肩に掛け、オデロの頬に唇を寄せた。
「ありがと、オデロ。あなたにもしてあげるから、ちょっと待っててね。」
 唇を少年の頬から離した後、エリシャはコニーの親切を自分の朱の中に入れ
ながら、そう言った。
533思春期の戦場 14/20:03/09/13 00:43 ID:C113BPbt
「横になって。」
 再び、エリシャが要求する。指示通りにした。それに向き合う様にエリシャ
も横になり、女神の微笑みをオデロに向けた。
 少年と目が合う。そしてエリシャは、向き合ったオデロの下に、自らの白い
右手を伸ばして行く。行き先は、青いトランクスの中だ。
「あはっ、硬い。」
 掌を優しく握ったエリシャは、甘い声でそう囁いた。熱い。掌の内側も、外
側も。そして二つの熱さの中、優しく握られた女神の掌が動き始める。
「ぅ……、ぁ……。エ、エリシャさん……。」
 下半身が溶けてしまいそうな快感に包まれたオデロには、弱々しくそう言う
のがやっとだった。その声には、戦場で放つ雄叫びの面影など、全く無い。体
を向け合う女神の行為で生まれる戸惑いと甘さが、あるだけだ。
 弾けそうだ。そこで甘い戸惑いが、止まる。
「駄目よ、私の中で出して。コニーさんがくれたのを使って。」
 エリシャに言われた通りにする為に、オデロはヘッドボードのもう一つの箱
へと、手を伸ばす。青いトランクスを脱いで中身を出し、自分を包もうとする。
いたずらっぽい女神の両目が、それをまじまじと見ていた。
「エ、エリシャさん、そんなに見なくても。」
「何よぉ、見てもいいでしょ。あなただって、私が入れるの見てたじゃない。」
 そう言うエリシャは、自分の朱とコニーの朱が同じ色だというオデロの言葉
を、思い出していた。コニーの命のバンダナと同じ色を、自分が持っている。
目の前の大好きな少年が、それを見付けてくれた事が嬉しかった。
534思春期の戦場 15/20:03/09/13 00:43 ID:C113BPbt
「準備出来た? こっちも溶けてる頃だから、そろそろ……、来て。」
 エリシャが甘い声で囁く。幸せの女神の持つ命の朱の中へと、自分を沈めた。
横になったまま、向き合って。
「んふっ、入った。……いいよオデロ、動いて。」
 オデロはその声に誘われ、動き出した。シーツの皺の形が変わる度に、二人
の想いが、コニーの優しさ越しに交じり合う。
 熱い。オデロはエリシャとのつながりから、その熱さを感じる。戦場で感じ
るそれとは違う熱さに促されるまま、オデロはエリシャの朱の中を愛した。そ
の度に、戦場で散って行った数々の命の思い出が、オデロの頭の中に現れる。
(生きてる、生きてるんだ、オレは……。)
 目の前にいる幸せの女神が、自分と共に生の喜びを謳歌し続ける。その事を
戦場で散って行った魂達が、優しく褒めてくれるのだ。そうとしか思えない。
今の自分の周りを包む、幾つもの人の暖かさを感じるオデロには。
「いい……、いいよオデロ。……っちゃう!!」
 熱さにうなされている自分の絶頂を意識した時、エリシャのその声を聞く。
その時、自分の中と外にある極限の熱さを喜んでくれる意思達の存在を、オデ
ロは感じた。
535思春期の戦場 16/20:03/09/13 00:44 ID:0ocl3Q+C

「いいか、お前等若い連中は死んじゃいかん! 必ず生きて帰って来るんだ、
分かったな!」
 完全に夜が明けた時に始まる最後の戦いに向けた訓示を、ゴメス艦長はそう
締め括る。リーンホースJr.のブリーフィングルームに集められたパイロット
達は、そのゴメス艦長の言葉を実現する決意で、聞いていた。
「よし、解散!」
 ゴメス艦長がそう叫ぶと、声の主と聞いていたパイロット達は、部屋の出口
へと向かう。ホワイトアークに乗り込む為に出口を目指したオデロは、自分を
呼び止める手が左肩に添えられるのを感じた。その意思に従い立ち止まり、手
の主の方に頭を向ける。
「あたしのプレゼント、気に入ってくれたかい? オデロ。」
 コニー・フランシスだ。
「コ、コ、コニーさん。き、昨日は、その……、ありがとうございました。」
 そう言って、オデロはコニーに向かって頭を下げる。オデロとエリシャを再
びつないた、緑掛かった黒髪を持つ長身の女性パイロットは、満足気な笑みを
浮かべていた。
「ハハ、どうやら上手く仲直りした様だね。」
「で、でも、あれ……。」
「いいんだよ。あたしはさ、使う機会が無かった物だからね。」
 一瞬、ソバカスのあるコニーの頬に、陰が刺した。左腕に巻かれた朱いバン
ダナを悲し気な目で見た後、元の顔に戻り、少年に向かって言う。
「ユカだって、喜んでるさ。」
536思春期の戦場 17/20:03/09/13 00:44 ID:ln6FoNuQ
「ユカさんが?」
 コニーが口にした、魂の国にいる女性パイロットの名前に対しての疑問を、
オデロは示す。それを聞いたコニーは、オデロの頭の横に両手を添え、語り出
した。昨日オデロに与えられた一人部屋は、ユカが使っていた物だという事を。
 コニーが語り終えると、緑掛かった黒髪のボブカットの中にある朱い唇が、
オデロの唇を塞いだ。それが離れた後には、当惑するオデロの顔があるだけだ。
その顔を見て、近付いて来た朱い唇の主はオデロに言う。
「バーカ、勘違いすんじゃないよ。あたしとお前が生きてる事の、確認さ。」
 からかう様な口調でコニーはそう言った後、両手をオデロの頭から離した。
そして右手の先で、当惑する少年の額を軽く突く。
「死ぬんじゃないよ、オデロ。好きでいてくれる人がいるってのは、素敵な事
なんだからさ。」
 左腕に巻いた朱いバンダナ見詰めながら、二人だけになった部屋を出て行こ
うとする最後の百舌の姿を、オデロはただ見送るしかなかった。
537思春期の戦場 18/20:03/09/13 00:45 ID:0ocl3Q+C

 ホワイトアークの狭いパイロットルームの中で、エリシャとオデロが二人だ
けで、見詰め合っている。お互い、大人になり切っていない顔のある頭以外は、
戦いへ赴く準備を終えていた。
「必ず、必ず帰って来てね。」
 ノーマルスーツに身を包んだエリシャの、大好きな少年への願い。それを聞
いたパイロットスーツ姿のオデロは、何か言いたそうな顔をしていた。だが、
その口からは「あの……、その……」という言葉しか、出て来ないでいる。
「何よ、男の子なんだから、ハッキリと言っちゃいなさい。」
 エリシャの言葉を聞いたオデロの顔付きが変わる。表情と目の光は、真剣そ
の物だ。そして決意を固めた少年は、言った。
「エリシャ、戦争が終わったら、オレと結婚してくれ。」
538思春期の戦場 19/20:03/09/13 00:45 ID:C113BPbt
 オデロは語り出した。自分の小さい頃の事を。
 オデロの家は貧しく、両親は生きる事だけに必死で、オデロを構う余裕すら
無かった。両親の気を引こうと悪さばかりしていたが、子供を叱る余裕すら無
い生活を送る父の拳が、飛んで来るだけだったという。
 そんな父に反発しながら思春期を迎えたのだが、ザンスカール帝国の空襲の
為に、いなくなってしまったのだ。父も、母も。
「だからさ、オレの父ちゃんと母ちゃんの代わりに、エリシャの両親に親孝行
したいんだ。オレとエリシャの子供を、ちゃんと叱ってやりたいんだ。駄目、
かな……。」
 最後に自信無げな声を発した唇に、エリシャの朱い唇が重なる。それが、答
えだった。
「ありがとう、オデロ。奥さんになった初仕事に、ビーフシチューを作ってあ
げる。だから、だから必ず帰って来てね……。」
 オデロの好物を言った口から、涙声が聞こえて来る。その涙を流す幸せの女
神の頭を、オデロはそっと胸に抱いた。
539思春期の戦場 20/20:03/09/13 00:46 ID:J45o1waV

 ガンブラスターのコクピットに乗り込んだオデロの目には、先発したモビル
スーツ部隊が青い空に作る、幾筋もの軌跡が写っていた。もうすぐ、自分もそ
の軌跡に加わる事になる。
(待ってろよ、エリシャ。お前の作ったビーフシチュー、腹一杯食わせてもら
うからな、必ず。)
 そう決意する彼は、知らなかった。巨大な苦しみと悲しみを戦場に撒き散ら
すカテジナ・ルースという存在によって、父と母のもとへと旅立つ運命を。

−完−