「よみちがい」
その日の下校には大阪やちよちゃんの姿がなく、よみはともと二人だけで帰り道を歩いていた。
久しぶりに二人きりになったためか、ごく自然な成り行きのように、いつしか会話は彼女らの昔の思い
出に飛んでいた。
「──で、よみがそこで本当の本当にキレちゃってさぁ、もう大変だったのなんの!」
「ああ、あの時の事か……。当たり前だ。ちよちゃんに車じゃないが、トラウマ寸前の出来事だったんだ
ぞ? まったく、お前は出会った時からまったく変わってないよ……」
「そう? あっはっはっはっは──」
ともはひとしきり笑うと急にピタッと止め、よみをまじまじと見た。
「よみは結構変わったよなあ」
「え、わ、私?」
いきなり自分自身に話題が振られ、よみはうろたえた。ちょっと考え、訊く。
「……例えばどの辺?」
「そうだなあ例えば……バストとウエストとヒップが劇的に増殖した!」
チョップがともの顔面に入った。
「サイズが増殖するかっ!」
「するっ! 体細胞がっ!」
「言い回し方を変えろー!」
「劇的に……増長天になってる?」
ともはよみの胸や腰をじとーっとした目つきでなめ回した。多少は妬みがあるらしい。
「成長だっ!」
チョップが再び。
駅前の商店街に入ったとき、それは起こった。
「でさでさ──あ」
その時までともの口から洪水のように溢れ出ていたお喋りが、そこで区切れた。
ともが立ち止まったので、
「ん、どうした?」
よみもつられて立ち止まり、怪訝そうにともを見る。ともはそれまでの楽しそうな表情とは打って
変わってぽかんとした顔になり、前方を見つめていた。
よみもともに倣って前を見てみた。商店街の通りは夕方の人混みで賑わっている。よみの目には別段
何とも映らない、いつもの風景だった。
視線をともに戻した。
「何なんだ? 本当に」
「あれ……」
ともは指さした。
よみはともの指先を辿って──
「おっ」
と思わず声を上げてしまった。今度は発見した。
数十メートル先にある若者向けグッズを売っている雑貨屋の入り口に、見知った顔の女生徒がいた。
千尋であった。
雑貨屋の店頭に置かれたワゴンのアクセサリを眺めている彼女。その時折、隣を向いては、そこにいる
“男”に花のような笑顔で話しかけていた。
どう見てもその様子は、仲の良い友達以上の雰囲気であった。
“男”はこちらに背を向けていて顔までは分からない。
(へー……千尋もやるなあ)
よみは千尋とは時々話す程度だが、仲は良い方だ。
ともはふらふらと後ろに数歩よろめいた。
「ま、まさか……千尋に男がいたなんて……」
「いちゃ悪いのかよ」
「──先を越されたっ!」ともは拳を握り、悔しそうにぷるぷると震わせた。
「やっぱ髪切んなきゃ良かった!」
「……何か関係あるのか?」
「あのまま伸ばしていれば、今頃不二子スタイル完成で男がよりどりみどりっ!」
「お前やっぱバカ」
男が欲しいならまずその性格を何とかしろと喉まで出かかったが、ギリギリの所で止める。
よみは再び雑貨屋に目を移し、今度は男を観察した。
榊さんより何センチか背が高く、ラフだが悪くない服装センスで、後ろから見る体格もスラリと様に
なっている。千尋に対する立ち振る舞いにはどことなく落ち着いた感じがあり、三つ四つは年上という
気配がした。
大学生ぐらいかな、とよみは推察した──と、何となく違和感を覚えた。
(あれ? どっかで見たような……?)
その時、千尋が店内を指し示し、中に入っていった。男もその後に付き従い、こちらに対して横を向く。
その横顔を見た瞬間、よみの体内に驚愕が走った。とものように態度には出ない。だが、わずかに体が
ぐらつき、眼鏡がピシッと音をたてたような気がした。
(あれは絶対、あの人だよな……)
家に帰ったよみは着替えを済ませただけで机に向かい、ぼんやりとあの時の光景を思い返していた。
あの横顔──
よみは足下に鞄を引き寄せると、中から携帯電話を取り出した。
彼女の周りには携帯電話を持っている人間が極めて少ない。なので彼女も滅多に使う機会がないが、
だからといって契約を切る考えは毛頭ない。
それは、この携帯電話が“彼”と繋がる唯一のものだったからだ。
数件しか登録されていない電話番号の中の一つを表示に出したよみは、その十一桁の数字をじっと
見つめた。それだけは名前が入っていない。
(……どうしようかな)
よみは今かけようかと迷った。今日はどうしていたのか、訊きたい──。
(普通に話す中でそれとなく聞けば……大丈夫だよね)
だけど……もしも……
部屋のドアが開いた。
「よみ〜」
「ひっ!」
よみはソニックブームが巻き起こるんじゃないかと思えるほどの素早さで携帯電話を机の引き出しに
仕舞った。
よみは物凄い形相になって闖入者を睨みつけ、
「だからいきなり入ってくるなっていつも言ってんだろっ!?」
と、怒鳴りつけた。
しかし、闖入者──ともは聞いた風も見せずに部屋に入ってくると、真ん中にあるブルーグレーの
ティーテーブルに元気なく座った。一旦家に戻って着替えたらしく、普段着になっている。
よみは見られたわけではないらしい事を心の片隅でホッとしながらも、ともが常らしくなくしおれた
様子なのを驚きをもって眺めた。
「なんか……結構引いてるな。千尋に彼氏がいたのがそれほどショックだったのか?」理由が訊きたくなった。
「いやさー。ほら、私達ってみんな彼氏いない歴を作り上げている歴史的人物軍団でしょ。
なんか群雄割拠できるぐらい」
よみは彼氏のいない女達が割拠している勢力図を思い浮かべてしまい、げんなりした。
「彼氏がいないぐらいで歴史的人物になるなんて嫌だな……」
ともはテーブルの下に脚を伸ばしてカーペットに腕枕をしつつ寝ころびながら、ため息をついた。
「だからさ、私、密かに思ってたんだ。彼氏一番乗りは私だろうなって」
ともとは長い付き合いのよみだったが、この時ばかりはかなり思考が停止した。
「……どこをどーしたら……そういう結論に行き着くかな……」
「冷静な分析の結果よ。まーそれはいいとして」
ともはムクッと立ち上がってよみと向き合う。
「よみ」
「何?」
「……」
「……?」
自分から呼びかけたくせに、ともの口からはすぐに次の句が継がれなかった。その代わり、なぜか彼女
の顔にカァーッと赤みがさす。
まともな顔で頬を赤らめるともはけっこう可愛いのにな……とよみは思いながらも、「どうしたんだよ?」
と先を促した。
「……自慰見して」
また停止した。
見つめ合ったままどちらも動かない時間が、カチ、コチと流れていく。
ともの一応は羞恥を感じているらしい赤らめた頬と目つきの真剣さだけが、よみの白くなりそうな意識
を辛うじて保たせていた。
「……自慰って……」
「だから自慰よ。ひとりH。オナニー。マスターベーション。せんずり。
──もうっ、よみったら恥ずかしい言葉を何度も言わせないで! どすけべい!」
「連呼してんのはそっちだー!」
よみは久しぶりに痛くなった頭を抱え、しっしっと手を振った。「帰れ」
「いやっ帰れない!」
ともは癖である大仰な仕草で腕を振ると、決意したような眼差しで虚空を睨みつけ、高らかに言った。
「私は冷静に分析した! 今の私に必要なものは何であるのかと!
それは!」
そこまで言葉を切ってまたよみを見る。
仕方なしによみは受けた。
「……何だよ?」
「それはフェロモンよ!」得意そうに胸を張るとも。
「はぁ?」とは言いつつ、何となく分かりかけてしまったよみ。
「いい女の身だしなみですよ。広末に少なくて不二子に多いもの──それはフェロモン」
「あっそう……それと私が自慰せにゃいかんのと何の関係が?」
「だってよみって意外と経験有りそうだから」
体の中からさあーっと血が引く音を聞いたような気がして──よみは硬直した。なんとなく、伏兵、と
いう言葉が脳裏によぎった。
(──い、いや待て!?)
ともはさっき、「彼氏一番乗りは私だろう」って言っていた。つまり、私に男がいるとは勘づいていな
いわけだ。要するに『経験有りそう』っていうのは──
よみはイスを跳び離れともの頭をグーでぶった。
「いてっ!?」
「誰がオナニー経験豊富だってぇ!?」
ともはぶたれたところを押さえながら、しれっとよみを指した。
「……っこっこの──!」憤怒の急激な膨張に声が追いつかない。
「よ、よみ落ち着いて!」ともは慌てて引き下がった。「私のように冷静になって!?」
「くわーーーーー!!」
キレた。
「わっ! わっ!」
必死に部屋を逃げ惑うとも。日頃溜めたフラストレーションを爆発させるようにムキになってそれを
追うよみ。ともは狭い室内ではギリギリのところで死を運ぶ腕(かいな)を避け潜り抜けるしかなく、
気分はもうエモーショナル・モードだった。
「許さんぞっ!」
「まっ待って待って! ──どわっ!」
逃げるともの脚がほつれ、前のめりに倒れた。勢いづいたその先にあった洋服箪笥にぶつかった。
ぶつかる寸前、なんとか手を突き出して胴や頭からの衝突を防ぐとも。だが、箪笥がぐらぐらと大揺れし、
上に乗っかっていた物がどさどさと落ち、いくつかはともの頭に当たった。
「いてっいてっ!」
その光景を見たよみは、すうっと怒りが収まり、
「ぷっ──ははははははは!」よみは目の端ににじんだ涙を拭いながら、痛快そうに言った。「天罰が
落ちてきたな!」
「あったったぁ〜もうー……ん?」
蚊が飛んでいるような音が、彼女の足下から聞こえてきた。ブンブンブンブンブン……
ともは視線を垂直に落とした。カーペットには落ちた物がぶちまけられている。つま先に、小刻みに
震えている不審な物がある。こけし──に似た物。妙に生々しい肌色をして──ブンブンブンブンと
唸っている──
「こっこれは……!?」
「はおうっ!」
ビシッと眼鏡にヒビが入った音が鳴ったような気がした。
よみは思い出していた。箪笥の上にあった箱の一つに、秘密のモノを匿(かく)してあったのだ。
というか、ともが箪笥にぶつかる前にその危険を思い出さなければならなかった事だ。興奮していて頭が
回らなかった。落ちた箱から見事に出てしまって──おまけにスイッチまで入って──
ブンブンブンブンブン……
(こ……これは夢か。そ、そうか、きっとシュークリーム分が不足しておきた夢だな──)
「Raspberry heaven〜♪」と空を幸せそうに翔んでいる妄想で現実逃避するよみ。
だが、異様に静まりかえった部屋の中、静かな音に似合わぬ激しい動きで、ソレは情熱的な自己主張を
延々と繰り返していた。
耐え難い、得も言われぬ空気が充ち満ちる。
何とか妄想を振り切ったよみは一秒でも早くソレを止めてどこか遠くに捨ててしまいたかった。“彼”
に会えない時に自分を慰めようとこっそり買った大人の道具。
だがよみは、「あわわわ……」と、まともな言葉を口に出来ず、頭も真っ白になって動けないでいた。
そうしてよみが動けない前に、ついにともが先にひょい、と拾ってしまった。彼女の手の中でますます
元気になったように見えるソレ。
「あ……」
今度はよみがカーッと赤くなる番であった。首の付け根まで真っ赤に染まる。
「そ……それは──それは──」
あうあうと魚のように口をぱくぱくさせながら、脳裏で逃げ道を探して言い訳を追い求める。
曰くマッサージ器、「通販でさー」とか言って。
曰く旅行先の珍しいお土産、「二つと無い奇抜な造形が私の芸術感性をなんたら」とか言って。
曰く痴漢撃退グッズ、「究極のバイブレーション波動により今話題のマイナスイオンがオゾン層を突き
抜けてコスモリラクゼーション効果を呼び覚ましアグレッシブなウルフボーイも宇宙真理に目覚めて女王様
万歳状態! ブラボープラシーボ!」とか言って……。
ともがもう片方の腕をすっと上げ、待ったするように指を拡げた。
「よみ……分かってる。何も言うな」
「と、とも……?」
「これは二人だけのナイショにするよ。絶対に口外しないから」
よみの心に光明が差し込んだ。ぱぁっと視界が開ける。小学校から気心の通い合っている親友の情け
溢れる言葉に、思わずよみは涙ぐんだ。
「あ、ありがとう……」
ふかーい負い目を作ってしまったような気もするが、ここはともの友誼にすがるしか手はない。
「じゃ、コレ──」
ともがソレを差し出してくる。よみは受け取ろうと手を伸ばした。もうこんなモノ二度と使わない。
速攻捨ててやる。
と、ともはよみの前でしゃがんだ。よみのスカートをめくり、中を覗き込みながら、
「──コレ、どこに使うの? 二人だけのナイショね、遠慮なく見せていいから。
やってくれなきゃ向かいの吉田君の部屋の窓めがけて投げるよ?」
通い合っているのはもはや腐った縁だけのようだった。
窓際に頭がくっついているベッドの上にのろのろと乗ると、よみは再確認するようにともを見やる。
「……人の見て楽しいか?」
「うん、楽しいよ?」
訊くまでもない返事だった。ともの性格は分かりきっている。よみはふかーいため息をつき、膝立ちを
してスカートのホックに手をかけた。トレードマークの黒タイツはとっくに洗濯籠に移っていて、肉づき
のよい白い脚が伸びている。
スカートがシュルッと滑り落ち、ショーツが現れた。今日のはあまり色気のないゴブパンツだった。
なぜかそれが悔しく感じ、複雑になるよみ。
「なんか野球拳みたいだね」
「ストリップじゃないっ」
よみは無駄とは知りつつも、シャツの裾をぎゅっと伸ばしてショーツの前を隠した。
「女同士なんだから別に恥ずかしがることないじゃん?」
「気分の問題だっ!」
「戯言はいいからさー。早くやってよー」
ともの手にはまだアレが握られていた。
「くっ……」
よみは屈辱的な表情を浮かべると、壁に背をもたれ、かなりの意志力を消耗しながら脚をゆっくりと
開いていった。
(〜〜〜〜〜〜っくー……)
ともが自分のアソコに視線を注いでいる……まだショーツを履いているが、恥ずかしさで体が熱くなる。
だが、ともなら間違いなくアレを窓から投げるだろう。呵責無く思い切り。そしてそれは向かいの吉田君
の部屋の窓をぶち破って中に突入し驚く吉田君が見るモノはブンブンブンと唸るアレで二度仰天、窓の外を
見る吉田君に投げたともが笑顔で手を振って私を指し──
なんで私はこいつの友達なんだろうか。
「ねえねえ止まってるよ」
「やるよっ」
よみはショーツ越しにアソコに指をそわせ、もう片方を胸にあて、ゆっくりと愛撫をしはじめた。
(んっ……)
……気分と体は別物らしい。それとも成熟した若さ故だろうか。半ば自棄的にこすったり揉んだりして
段々とその部分が熱をもってくるうちに、よみの気分も次第に高揚をおぼえていった。
「は……」
よみの頭の中にはいつの間にか、無意識に“彼”の姿が浮かび上がっていた。“彼”が優しく抱きしめ、
甘い言葉を耳元で囁き、よみの敏感な所に手を伸ばしてくる……。いつになく情熱的に迫ってきて、凛々
しい顔を寄せてくる──
(あ……は……)
よみは次第にとろんとしてきた。じんわりとからだの奥が欲しはじめている。あ……いけない……気分が……。
彼女の脳裏に千尋といる“男”がよぎった。“彼”、なんだろうか……他に女がいても不思議ではない──
「んん……!」
不安を打ち消すかのように、よみは指の動きを早めた。より強い刺激を求めて嫌な記憶を追い出そうと
する。おおっとともが声を出すのもかまわず、ショーツの中に手を入れた。
「んはっ……!」
濡れていた。クチュッ──と淫猥な音をたて、指に愛液がからまる。浅いところを責めながらクリトリス
をいじると、電流のような刺激がからだを走った。「はうんっ!」甘い吐息が漏れる。
「あ……ん……ん……」
“彼”と前に会ったのはまだ最近だ。3年になる前の冬休みに一回会っている。いつものようにあたり
さわりのないデートをして、最後にホテルに入った。そのホテルはなかなか雰囲気のいいところだった。
部屋に入るといきなり“彼”は後ろからよみに抱きつき、よみが慌てて、「シャワーを使わせて」と言った
のだが、「我慢できない」と“彼”は強引によみの服をはぎとり──
その時の記憶を思い出すと、からだがさらにじゅんと熱くなった。
(欲しい──)
よみは潤んだ目でともの手の中にあるアレを見た。
「……え、こ、コレ?」
よみの自慰を食い入るように見つめていたともは、ようやくはっと気付いた。
もう今更と、よみはこくりと頷く。
「し、仕方ないなあ。はい」
今度は素直に渡してくるとも。
そんなともの様子を見たよみの目がキラッと光った。
よみは受け取る素振りで手を伸ばすと、すかさずともの腕を掴み、ぐいっと引っ張った。
「わっわっわ!?」
ボスン、とともの体がベッドに沈んだ。すかさず上に覆い被さるよみ。
「な、なにすんだよ!?」ひるんだ声でともはよみを見上げた。
ともの怯え顔を見て、よみの心に小悪魔の気分が芽生える。
妖しく笑うと、
「やっぱり、百聞は一見に如かず、百見は一験にしかずだよなあ」
と、上気した声で言った。
「えっ──えええっ!? い、いいよ私は!?」
「おーやー? それはおかしいなー?」
よみはともの履いているソフトデニムのジーンズの留め金を外し、ずり降ろした。青と白のストライプ
のパンツだった。
「ああっ!?」半ば悲鳴を上げるとも。
「さっきはあんなに見たがってたじゃん。知りたいんだろ……性の快楽を教えてあげるよ」
「い、いいよ……」
ともが身じろぎして脱出しようとする。よみは逃げられないよう、体と体と密着させ、脚を絡みつかせた。
肉感のあるよみの体の火照りを感じ、ともはどぎまぎする。
「逃がさないぞ……」
ともは呆気に捕らわれてよみの豹変ぶりを見た。
(しまった、またよみのヒューズを飛ばしちゃった──)
よみは受け身の性格だが、そのタイプにありがちな、ストレスがある一線を超えるとそれまでの鬱憤を
攻撃的に放出する。
(だけど……こんな展開って……)
予想外と言えば、よみが大人の道具を持っていた事自体からしてそうだった。だけど、よみだったら
ひょっとしてと考えられなくもないし、これで他人の自慰が見られる……という納得をしてしまったの
だった。あの時素直に渡していれば──
「へっへっへー。それじゃ、ともちゃんはどれくらい成長しているのかなー?」
と言うと、よみはおやじのようにニタニタ笑い、片方の手だけで器用にとものシャツのボタンを外していく。
「ちょ、ちょっと──!」
「ほれほれほれ」
よみはじたばたするともを巧く押さえて全部のボタンを外すと、パンツとお揃いの柄のブラを上にずらし、
双つの乳房を露出させた。大きさこそよみに負けるが、均整のとれたおわん型だった。
「おっ」
ピンク色の乳首をピンと弾いた。ぷるぷると可愛く乳房が震える。
「ひゃん!」
「一年の時と比べりゃ、なかなかどうして──じゃん?」
よみは朱い唇を開き、ともの乳首を口に含んだ。舐め、柔らかくコリコリと噛む。もう一つの方では
乳輪を指で淡くじらすように撫で回す。
「はっはう、はう、はわわわ……」
ぞくぞくと走る快感に背筋を浮かせるとも。「い、いやぁ……」
乳房を十分に玩ぶと、糸を引きながら乳首から口を離し、そのまま顔に持っていく。鼻先が触れる距離
で見つめ合うと、クスリと一度笑い、ともの唇を奪った。
「!!──」目を瞠(みは)るとも。
よみは舌を入れ、ともの口腔をたっぷりと犯した。舌と舌を絡ませ、粘度のある唾液で満たす。とも
はよみの舌技をはねのけることが出来ず、なされるがままに受けた。
ピチャ……ピチャ……と淫らに鳴る音と、「んむ……ん……ん……」とキスを交わすくぐもった声。
その間に、よみはとものブラジャーとショーツを脱がせてしまった。ともはもう抵抗らしい抵抗も出来
ない。
しばらくして、幾筋もの糸を引きながら、ようやくよみは唇を離した。
ともは眼を潤ませてよみを見、
「初めて……だったのに……」
と、弱々しく上ずった声で言った。その表情にはいつもの暴走元気はどこにも無く、ただ一人の少女がいた。
(くーーー! かわいーーー! 普段からこうだったら、男の方から寄ってくるって)
リードすることによってオヤジ化してきたよみは、とものしおらしい態度に嗜虐心が湧いてきた。
「大丈夫大丈夫、女同士のキスはキスのうちに入らないのさ」
「本当……?」
「ああそうだ。それよりレッスンレッスン」
よみは自分もショーツを脱ぎ下半身を露わにすると、体の向きを逆にし、シックスナインの体勢をとった。
どちらの目からも相手のアソコが丸見えになる。とものアソコは初々しく閉じられており、よみのはわず
かに開かれ、愛液が流れていた。
「とものを舐めてあげるから、私のも舐めてね」
「ええっ……」
ともの返事を待たず、よみは恥毛をかきわけて陰唇を拡げ、中に舌を入れピチャピチャと舐めはじめた。
「ひゃうんっ!」
「ふふ……とものって、すごく綺麗な色……全然使ってないな……ここも……」
よみはクリトリスに舌先を這わせた。
とものからだがピーンとこわばる。
「──〜〜〜〜〜!!」
「んー、感度良好だね」
よみが頭を上げると、ともはぐったりとベッドに沈み、「はあ……はあ……」と乱れた息をついた。
「ほら、ボーっとしてないで。私のもやってよ」
よみは腰を落とし、ともの顔に陰部を密着させた。ともは仕方なくおずおずと舌を出し、よみの割れ目
づたいに舐めはじめた。
「こ、こう……?」
「んっ……そう……そんな感じ……」
下半身からの快感をうっとりと味わいながら、よみも再びとものアソコに顔を埋めた。
ピチャ、ピチャ、ピチャ……卑猥な音が立つ。
「そう……舌を指のように自在に使うの……ただ舐めるだけじゃなくて……うぅん……はあっ……いい……
段々うまくなってるよ……」
喜悦の声を上げてともの舌使いに答えるよみ。
「そしたら……舌だけじゃなくて、指も使ってみて……こういう風に……」
よみはともの中に中指と人差し指を入れ、一本をかき回すように動かし、もう一本でクリトリスを
いじくった。
「あっあっあっ──!」
痺れるような快感にからだを震わすとも。
「だめっ……そんなに……いじくっちゃ……あ……あっ……!」
「いじくっちゃ、なに?」
意地悪く笑いながらさらに指を動かすよみ。
「──あっ──んんんんーーーーー!!!」
とものからだが強張り、よみの指がギューッと締め付けられた。
「ありゃ」
数秒間それは続いた。それから徐々に弛緩していき、ともは完全に脱力したようにへたばった。
「……いっちゃったねー」
「はあ……はあ……はあ……」
ともは聞いていなかった。胸を大きく上下させ、快楽に緩んだ虚ろな目を泳がせている。
(どうしようかな)
一度イッたが、ともの調子からはまだ疲弊した様子は見られない。よし。日頃の復讐も兼ねて、もっと
色欲に溺れさせてやろう。
「今度は一緒にね」
よみはともの足元に移ると、ともの片脚を持ち上げて体を横向きにさせた。それからその脚の間に自分
の体を入り込ませ、燕返しの体位になった。濡れそぼったアソコ同士を密着させる。
「あ……」ともが気付き、結合部分に視線を注いだ。「私、処女……」期待と不安の入り交じった目で
よみを見る。
処女膜の心配をしていると分かり、よみは安心させるように微笑んだ。
「心配ないって」
そう言い、腰を動かしはじめた。女性器同士がこすれ合い、淫靡な快感に包まれる二人。
「あ……ん……」
深い満足感に浸りながら、よみは一心不乱に腰をくねらせ動かす。
(なかなか……悪くないな……)
「ともの……気持ちいいよ……」
「ひん……ひん……」ともは爪を噛み漏れてくる喘ぎ声を抑えようとするが、唇を結ぶことができず、
甘いさえずりが漏れる。「ひぁ……うぅ……そ、そんな……女同士でなんて……」
「だから……これは……レクチャーだから……物の数に入らないって……気にするなよ……」
腰を動かし続けながら喋る。我ながら酷い方便だとよみは思ったが、細かいことは気にしない。
「うう……」ともは否定か肯定か分からない声を出した。
二人の結合部分は溢れ出る淫水でどろどろになり、やがてとももよみの動きに合わせるように、拙い
ながらも腰を使いはじめた。
「あ……あ、あ……とも……とも……」
「ひん……ひ……ひぅ……あ……イイ……よみ……」
「とも……とも……」
よみはからだが求めるに任せて、ともの持ち上げている方の脚を両腕で強く抱きしめた。脚に胸を押し
つけながらさらに深くともの中へと割って入る。陰唇が押し広げられてクリトリスまでもこすれ、さらな
る性感にはまっていく。
「ひああっ、ああっ、ああっ! すごい……いぃ……すごい……」堪らず、ともが嬌声を上げた。
「いや、やだ……なんか……なんか……変……変だよぉ……」
「あ……ふ……ん……んふふ……」淫らに揺れ動く胸の勃った乳首をともの脚でこするよみ。
二人の動きは、よみの眼鏡が外れるんじゃないかというほどの激しさになっていた。しかし、両方とも
もう行為に夢中になっていて気付いていない。二人ともうわ言のように互いの名前を呼んで求め、貪り合った。
「とも……とも……!」
「だめ……ひあっ! よみ、だめ、イイ……ひうぅあぁ……! ああ、ああ、あぅ、あぁ──」
「私も……私も……イク……イッちゃう……あ……あ……とも……ともも一緒に……一緒に……!」
「あうっ! あっ! ああんっ!」
我を忘れて熔け合うように熱いからだを重ねる二人。
「──!!!!」
その瞬間が来て、よみは今までで一番強くからだを押しつけた。爆発するように頭が真っ白になり──
「──ああああああああああああああ!!!!!!」
二人の声が重なり合った──。
ぐったりとして枕に頭を並べる二人。
疲れ切ったように目を閉じるともの顔を見つめたよみは、ふふっとおかしそうに笑った。
「ベッドの中じゃ別人ってか。男にとっちゃたまんないねー」
ともの眉毛がぴくっと動き、
「いや……もう……」
と、掛け布団を深く被ってよみに背中を向けた。
だが、よみとしてはこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「っちゅーことで、とも」
「なに?」
「私の秘密をばらしたら、お前の秘密もばらすからな?」
ぐっと、ともの肩が強張った。が、すぐに力が抜け、
「分かったよ……。おあいこってことにするよ」
と答えた。
(まずは結果オーライか……)
心の中で安堵の吐息をつくよみ。
目先の壁が取れると、とりあえず蔵(しま)っておいた“彼”のことが急浮上してきた。
だが、さっきより心は昏くない。ともの相手をしているうちに、なんだかずっと軽くなった。
もし仮に千尋の男が“彼”だったとしたら、そんな浮気な男はこっちからフッてしまえばいい
(その時は千尋にも忠告しなきゃな……)
よみの心の中にさばさばした心地よい気持ちが広がった。
「……よみ……」
背中を向けたまま、ともが話しかけてきた。
「ん……なに?」
「よみってさ……昔はもっと気弱でさ……すごく大人しかったよね……」
「え? んー……そうだねー……」
小学校の頃のよみは引っ込み思案で随分と目立たない子供だった。家が近所ということだけで接近し
てきたともに引っ張られまくって現在に至るといっていい。ツッコミの腕前もともを相手に鍛えたものだ。
最も、よみとしては甚だ不本意なのだが。
(でも、ともがいなかったら今頃、ただの暗い眼鏡娘になってたかな)
急にともが愛おしくなってきた。
「とも」
「ん?」
「ふふ……またやるか?」
ぎょっと、ともの肩が震えた。背中越しに言う。「え、遠慮しとく」
「そんな事言って……」
よみは後ろから抱きつき、素早く手を伸ばしてともの股間をまさぐる。
「きゃっ!」
「こっちの口は嫌とは言ってないんじゃない?」
「こ──このエロオヤジッ!」
二人はベッドの中で再び格闘をはじめた。
──結局、“男”が“彼”だったのか。
それはまた、別のお話ということで──。
(「よみちがい」 完 )