夕暮れに染まる台所。
いつもなら、暖かい匂いとリズム良い包丁の音が漂っているはずの場所。
だけど、今、ここに漂っているのは、甘い匂いと微かな機械音。
「…どう?その格好、気に入った?」
冷蔵庫に寄りかかり、台所の床で息を荒くしている透を見下ろしていた紫呉は、口の端を歪めただけの微笑みで言った。
「…っ、や、いやですっ…紫呉さんっ…こんな…」
後ろに手を縛られ、跪くような姿勢。もう、30分ぐらいはこの姿勢をとらされている。腰は高く上げられ、後ろから見れば、この短いスカートでは、きっと何も隠せていないのだろう。だらしなく足をつたう水も、やわらかい部分から伸びるコードも、赤く染まった透の顔も。
「だって、透くんが協力してくれるって言ったじゃないか。現に、今、僕はすごく助かってるよ?おかげでいいものが書けそうだよ。それに暫くは、みっちゃんも自殺させずにすみそうだしね!」
「……あ、あの、では、もぅっ…っ!!」
透がそこまで言ったとこで、紫呉は手元のスイッチを軽くずらした。透の口から、引きつった声が上がり、透の身体がビクビクッと強張った。
「ぁあー。強すぎちゃったかな?ごめんね。」
スイッチを"切"に合わせて、紫呉はつまらなそうに手から投げた。スイッチは何度か跳ねると、透の目の前に、落ちた。呼吸を整えていた透は、顔にかかる影に気付いて、見上げる。
「…紫呉さん…」
紫呉は見上げた透の顔を見つめ、低い声で呟いた。
「…まだ、終わらないからね。透くん。まだ、まだだよ?」