554 :
シャア専用まりも:
543さんにお答えしてダーク(風味)ぐれさんを書いてみます。
「聞いてくれたまえよ、ぐれさん!由希が!あの由希がだね!!」
「ええい、いちいち電話するなぁ!!」
「お、お二人ともケンカなさらずに・・・」
古式ゆかしい黒電話の受話器は取り上げた途端賑やかな会話を伝えてきて、すぐに切れた。
「全く、兄弟仲のいいことで」
受話器を戻しながら紫呉は顔を綻ばせた。今ごろはあーやが由希と透君にちょっかいをだしているところであろう。
その情景がありありと目の前で浮かんでくるようで紫呉は可笑しかった。
今は平日の午後。早ければもうこの家の住人が全員揃ってもいい時間だが、由希と透君はあーやに捕まったようだから
まだしばらく帰ってこないだろう。夾は学校から直接道場へ行くのでこれまたしばらくは帰らない。
自分ひとりの家を見て、しみじみと紫呉は思う。
(そろそろ、一年になりますかね)
本田 透。彼女と、夾がやってきて随分と月日が経っていた。
その間、色々な事があった。そして、色々な事全てが彼女を軸として上手く行っていた。
由希、夾、溌春、紅葉、利津、その他にも草摩の十二支みんなが彼女から大なり小なり
助けてもらっている。彼女の元気を分けてもらって、みんなが幸せへ向かっている。
彼女がいてくれて良かったと、紫呉は心の底から感謝している。草摩の者でない、只の一人の少女に
どれだけ救われているか、計り知れない。
はーさんも、あーやも、彼女のお陰で助かっている。
だが、
(彼女は綺麗過ぎて・・・汚い僕には、時々、つらいな)
そんな思いも、紫呉のなかにはある。無論こんな思いは誰にも感じさせはしないが
ピンポン
そんなことを考えていると呼び鈴がなった。
「・・? 誰かな?」
紫呉は玄関に向かう。
555 :
シャア専用まりも:02/03/15 02:55 ID:UEYgYq5D
「・・・こんにちは」
「おや、珍しい。咲ちゃん一人?」
玄関前に立っていたのは透君たちの親友、花島 咲であった。
学校帰りに直接来たのか制服のままで、闇のように深い黒色の髪はお下げに編んである。
常に表情が薄く、どこか人を寄せ付けない雰囲気を持つのだが、帰ってそれが眉目整った美貌と合わさって神秘的な魅力を生み出している。
紫呉も彼女と何度か面識がある。しかし、それほど親しく接したことはない。
「どうしたの、今日は?まだ透君も由希君も帰ってきてないけど」
「・・・そう、ちょうどよかったわ。あなたに、話があるの」
紫呉を見詰める咲の目、上等の黒真珠のように輝く瞳には、何か、強い意志のような物が宿っている。
「・・・?そう、とりあえずここで立ち話もなんだから、上がりなよ」
いぶかしく思いながらも、紫呉は少女を中に促す。
「・・・そうさせてもらうわ」
少女を居間へ迎えながら、紫呉は先ほどの少女の目を思い出していた。
あれは・・・明らかな敵意だった。
556 :
シャア専用まりも:02/03/15 03:21 ID:UEYgYq5D
あっ、さっきの555だ。わーい。
咲を居間に座らせると、紫呉は台所に入った。お茶菓子を取り出しながら、問いかける。
「咲ちゃーん、お茶飲むー?それともコーヒーがいいー?」
「・・・お構いなく」
しかし、少女の言葉は素っ気無い。
「そう?あっ、じゃあ蟹あるけど食べない?」
「・・・蟹?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いらないわ」
やたらと長い沈黙の後、帰ってきた答えは拒絶だった。見かけによらず食欲旺盛でよく食べる彼女がそれを断るということはそれだけ重要な話なのだろう。結局、紫呉は台所から何も持たずに居間に戻った。
「で、話って何かな」
「・・・あなた、透君を利用しようとしているわね。」
開口一番、第一声から咲の言葉には明らかな怒りが含まれていた。顔を下げて、やや見上げるような瞳には先程よりももっとはっきりとした敵意があった。
紫呉は内心ひやりとしたが、涼しい顔で笑った。心外だとばかりに、笑った。
「なんだい、やぶからぼうに。いきなり人を悪者のように」
とぼけるが、咲の顔は静かな怒りをたたえたままだ。
「・・・感じたのよ、悪い電波を」
少女は、男を睨みつける。
「この前、入学式の日、あなたの電波と、その他に今まで感じた事がないほどの、強い、邪悪な電波を」
(・・・アキトか)
草摩の専制君主の顔を思い浮かべ、紫呉の顔から笑みが消えた。
557 :
シャア専用まりも:02/03/15 03:50 ID:UEYgYq5D
アキトが漢字変換できない・・・しくしく
「・・・やっぱり、あれも草摩の関係者なのね」
紫呉の顔から微笑みの仮面が外れたのを見て、咲は自分の考えが正しかった事を知る。
「・・・あなたは、透君を利用してあの電波の持ち主をどうかしようとしているのね」
「何かって?」
「・・・詳しくは、分からないわ。でも、それを計算するあなたの電波も、私にはとても邪悪に感じる。・・・そう、今のように」
紫呉は着物の袖に片手を入れる。
「・・・由希君や夾君達とだけなら、私も何も思いはしないわ。あの子達は複雑だけれども優しい電波を発しているもの。でも、あんな危険な電波を持つ人と透君を近づけさせるなんて私は許さないわ」
沈黙が訪れた。行儀良く正座している咲と行儀悪く崩した格好で座っている紫呉は目を合わせたまま、黙る。どちらも目を逸らさない。
長い長い沈黙。窓から差す日が翳る。空が赤く焼け始めていた。
「・・・もしも」
沈黙を先に破ったのは紫呉だった。
「もしも、僕が君の言うとおり透君を利用しているのだとしたら・・・君はどうするんだい」
少女はゆっくりと立ち上がった。そして、どこか風格や威厳すら漂わせる表情で紫呉を見下ろす。
「・・・あなたを倒して、透君を連れて行くわ」
決然と言い放ち、そして、少女は彼女の持つ最大威力の電波を紫呉へと放った。
558 :
前振り長すぎ?:02/03/15 04:29 ID:CtMmZZo5
「!?」
声にならない悲鳴をあげて崩れ落ちたのは、しかし、花島 咲の方であった。
足腰から力が泣くなりバランスを失って床にへたり込む。寒気、灼熱感、痒み、痛み・・・体中に様々な感覚が走る。呼吸が、苦しくなり、体の自由が利かない。
「ご自慢の電波の威力はどうだい?咲ちゃん」
紫呉はくすくすと笑いながら立ち上がって咲を見下ろした。近づいてくる紫呉に咲は顔をあげる。常に無表情な彼女の顔に青白い明らかな怯えが浮かんでいる。
「どうして−−−って顔をしてるね」
紫呉は変わらぬ笑みを浮かべていた。人当たりの良い、柔らかな微笑み。だが少女には今はっきり見えたような気がした。微笑みの裏の、紫呉の暗い情念を。
「昔、草摩の『仕事』でね、君みたいな電波使いと戦った事があるんだ。その時に、覚えたんだよ」
着物の袖から腕を出す。その手には小さな手鏡が握られていた。何の変哲も無い只の鏡である。
・・・鏡面に、血文字で印が書かれている以外は。
「・・・電波使いに、電波を還す技をね」
「?!」
咲は衝撃に震えた。勉強ができなくても、運動ができなくても自分を最強たらしめていた電波が破かれたことに。それは彼女のアイデンティティの一端が崩れたことも意味していた。
「ねえ、つらい?電波で身体の自由を封じられて」
「あ・・・うあ・・・」
気遣うような優しい言葉は、更に少女の心を抉る。口も舌も満足に動かせない咲にはうめくしかない。その様子を見る紫呉の顔は実に楽しげであった。
紫呉は咲の真横に腰を下ろした。二人の目線の高さが同じになる。
「・・・ひ、ひい・・・」
生まれて初めての身体の奥の奥から湧き上がる恐怖。
「・・・僕を、甘く見ていたね、咲ちゃん
・・・お仕置きしてあげるよ」
紫呉の、男の指が咲のあごを掴む。
「・・・い、いや・・・」
かろうじてほんの少しだけ動くようになった口が哀訴を請う。
「・・・・いじめ・・ないで・・・・お願い」