朝起きたら、いつもの視界が変だった
いつも見えるものが大きく見え恐怖感に襲われた
何が起こったんだろうと起き上がろうとするが、足だけではうまく立てない
仕方がなく両手もついてよつんばいで動くと、これが結構動きやすい
ふと、部屋にある鏡を見るとそこには自分はうつっておらず、薄茶色い毛皮の動物がいた
ピン、と立った耳に縞々の尻尾をフリフリと動かして鏡の中から自分を見ている
三橋廉はその朝、猫になっていた
あまりの事に驚いて思わず開いていた窓から外に出てしまった
いつも当たり前のように見ていた景色が、今日はまったく別の物に見える
とりあえず庭の隅にある大きな木の下に行き、考えてみることにした
なんで猫になったんだろう・・・ずっとこのまま猫なんだろうか
人間に戻るにはどうしたらいいんだろう・・・このままじゃ野球が出来ない・・・
誰かに自分は三橋廉であることを知ってもらい、助けてもらいたいと思ったが
どんなに言葉を出そうとしても全て「にゃあ」と猫の鳴き声になってしまった
困った・・・本当に困った!!
「にゃ・・・(なんだお前は?)」
いつの間にか、大きな黒い猫が三橋のそばで様子を窺っていた それはこのあたりのボス猫である事は三橋も知っていた
「にゃ、にゃ・・・(な、なんだよ・・・)」(以下、猫語は翻訳済みで表記)
「見たことがないが、どっかから流れてきた奴か?まだ子供だな」
「えっと・・・その・・・」
「まあいいか、俺の子分になるなら困った時に助けてやるぜ」
三橋は少しだけ考えて、このまま猫で生きるにしても誰かの助けが必要だな、と思った
「は、はい・・・よろしくお願いします」
すると黒猫は三橋に尻を向けると、下半身に力を入れて何かをし始めた
ピッピッピッ・・・「う・・・な、なにこれ・・・」
「これでお前は俺のものだからな」
目が覚めると三橋は人間に戻っていた
あれは夢だったのかな、と思わず笑いそうになったが、何か異様な臭いが自分から発せられているのに気付いた
それが猫のしっこの臭いだとわかったのは、それから暫く経ってからだった