練習後の三橋は誰よりも早く帰る。
中村がそれに付いていけるのは、精々三日に一回程度だ。
付いていけると言っても、文字通り後ろから追っかけていくだけであって、三橋は待っていてくれない。
しかも帰る道は毎日変えているから、校門までで追いつけないと、一緒に帰ることは出来ない。
それでも中村が、毎日慌てて着替えるのは、唯捕手だからというだけではない。
三橋のことが、男として好きだからこそ、出来ることだった。
その日は上手く自転車置き場で追いつくことが出来、中村は無言で、三橋の隣に並んだ。
「今日も絶好調でしたね」
「……少し、カーブが甘かったよ」
「そうっスね、でも、受けてて気持ち良いボールでした」
その言葉に、三橋の口が少し緩む。
中村よりも低い身長の彼が笑うと、まるで先輩には見えなくて、
真白の肌と柔和な髪とは、年下であるかのように錯覚させる。
待っていてくれないとは言っても、中村が来さえすれば、三橋は普通に相手をしてくれる。
自分から話こそ振らないものの、返事はするし、こうして笑うこともある。
二人っきりのこの時間は、恋心を燃やさせるくらいには、甘く感じられるものだった。