日本「ふぅ。スッキリした。三橋はイイ」

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616水谷きよえの憂鬱
※エロなし
※三橋000000000000.2%
※残暑に少し涼しくなれるかもしれない
※やや怖いかもしれない
以上が苦手な俺は回避願います
暇潰し程度にお読みください



最近、文貴の部屋がやたらとうるさくて仕方がありません
重い物が崩れ落ちるような、何かを叩くような、ともすれば柔道かレスリング、果ては一人相撲でもしてるのかしらと思わんばかりの物音が響いてくるのです
そこまで酷くない日でも足音がバタバタバタバタと、二人分の足音が聞こえるのです
初もは気のせいかとも思いましたが、何度耳をすませても一人分の足音ではありません
まるで兵隊のように隊列を組んでざっ、ざっ、と歩く音が続くのです
617水谷きよえの憂鬱:2010/09/20(月) 04:41:51
>>616
「あら嫌だ文貴ってば激しいのねぇ」と笑って済ませる事も出来たでしょう
足音さえなければ。足音だけは誤魔化せないのです
ひょっとしてお友達でも連れ込んでいるのかと思った事もありましたが、いいえ、そんな事があるはずもありません
息子――…文貴は、引きこもりです
ずっと引きこもりで、気がつけば部屋から出てこないまま五年が過ぎていました
小学生の時に出来たお友達も一人、また一人といなくなり、ついには誰もいなくなってしまった次第です
無理もありません
扉ごしに話かけるだけで怒鳴りつけてくるような息子なのですから当然と言えましょう
それでも、可愛い我が子です
いつか心に受けた傷がなくなると信じて支えることしか、私には出来ません
親子間の会話といえば子機のある一階にいる私に「食事のメニュー決定」を伝えてくる、その5分間だけでした
もちろん、私の手料理は食べてくれません
文貴は味にもうるさいのです
618水谷きよえの憂鬱:2010/09/20(月) 04:46:30
>>617
文貴が何を思ってそうなってしまったのか、お恥ずかしながら私には分かりません
気がつかない間に厳しくしすぎたのかもしれません
思えば文貴が引きこもる前に交わした最後の会話は、私が叱責した時でした
自衛隊の駐屯基地を特集したテレビ放送を見ていた文貴を、私は叱ったのです
理由は覚えていません

些細なことだったと思います
……ともかく、そんな息子に今、友人はいないのです

更に言うなら私は専業主婦です
殆ど家にいるのは私と息子の二人だけ
試しに玄関の靴箱を覗いて見ましたが、やはり見知らぬ靴もありません
では、二階にいるのは誰なのでしょうか?
619水谷きよえの憂鬱:2010/09/20(月) 04:51:28
>>618
折しもテレビでは、男性による幼女誘拐事件が取り沙汰されておりました
青年が家出少女を巧みに自宅へ誘導し泊めると言って監禁するケースもあると週刊誌で読んだこともあります
何か息子が犯罪に手を染めているのではないか、あるいは巻き込まれているのではないかと
息子を信じられない自分が恥ずかしく思えるのと同時に、言い様のない不安から逃れられませんでした
そして月日はたち、ある日の事です
なんと、ひょっこりと文貴が顔を出してきたのです
「はよ」
それだけ言うと、あっさり学校に行ってしまいました
私は拍子抜けしたやら何が起きたのか分からないやらで呆然としていましたが、二階の床が軋む音にビクリと震えました
そう、誰だか知らない相手は、まだ二階にいるのです
620水谷きよえの憂鬱:2010/09/20(月) 04:55:07
>>619
私は意を決して、二階へと登りました
廊下。誰もいません
右の部屋。誰もいません
真ん中の物置。誰もいません
左の部屋。誰もいません
「え?」
誰もいません。どこにも。誰も。