設問:文を完成させよ「一生そ○○○る」

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633ピッチャー神社
夜中の12時、神社の前。市原はとても困っていた。
目の前に突然現れたのは、漫画に出てくるような白ヒゲの「神様」と、どう見ても風呂上がりの三橋廉。
夏大会で自校がコールド負けを食らった1年生だけのチーム、西浦高校のエースだった。



速球派、制球派、多彩な変化球を持つ者、他。
いろいろな能力のうち優れた部分が投手の個性となるが、すべてのパラメータが非常に優れていたなら。
150kmの剛速球を精密機械のようにコントロールし、五種類もの変化球を投げる。
もし、多大な喪失と引き換えにそんなスーパーピッチャーになれるとしたら……

「代わりに失ってもいい多大な物か。何なら出せるだろ」
「貯金全部!」
「ぬるい、金なんかバイトしたらまた稼げる」
「指とか…2個ある内臓の1個」
「怖えぇ!野球できねー!」
「じゃあ乳首乳首。それか一生ハゲ!」
「無理無理無理!」
小さなきっかけでバカ騒ぎできる十代は、狭い部室内で次々と代償を挙げていく。
グラウンドの都合で部活が早く終わってしまい、とにかく元気があり余っている。
「うるせー!投手ってオレだけだろが!」
チンコ大合唱が始まったところで、一人会話から外れていた市原が怒鳴った。
「ああっ、オレはまた楽しいからって人のことを考えず!オレの心は汚れてる!!」
ゴメンゴメンと笑いながら謝ってくる部員達の横で、でかい1年捕手の佐倉だけが土下座した。

話題は、都市伝説というより田舎の町の七不思議だ。
必勝祈願、合格祈願にご利益があるらしく学生に人気の小さな神社は、ピッチャーの神様でもあるという話。
深夜0時に供物を持った投手が祈ると、怪物投手になれるかもと噂されている。
それには「多大な喪失」、つまり代わりに何かを差し出さねばならないということで、たられば話としても盛り上がりやすい。
しかも、自分に足りない資質を持った他の投手の力をコピーできるという夢物語だ。
急に特長が変わった他校の投手に対し、あいつアレやったなと嫉妬半分に言うネタでもあった。
634ピッチャー神社:2009/09/06(日) 02:02:54
>>633
そんな話は当然、チームで一番純粋でアホな佐倉すら信じていない。

学校の菜園で今年最後のプチトマトを収穫した後、最初のニンジンを引っこ抜いていた時、市原はふいにこのネタ話を思い出した。
今日の練習を終えてトボトボと帰路を行くうち、また頭に浮かんでくる。
深く考えず野球を楽しんできた崎玉ナインの練習は、夏の敗戦後大きく変わった。
練習時間を延ばした上に、いろいろな局面を仮定しバッテリーで配球を考えたりもする。
しかし、佐倉は呆れるほど打球を飛ばすようになっていくが、捕手としての成長は全く見えない。
号泣しながらバカですみませんと頭を下げられても、噛み合わないのを一方的に責めることはできなかった。

食事中、入浴中、布団に入っても市原の気分は曇ってくる。
数日前など、サインが合わず捕手のキャッチミスでサヨナラ負けする夢を見た。
今日も寝付けない。

形が悪かったため除けられ、もらってきたプチトマトとニンジンの袋を握る。
こっそり家を抜け、深夜の道に自転車で漕ぎ出した。目的地は近所ではないがそれほど遠くもない。
スーパーピッチャーの伝説はどうでもいい。ただ、愚痴る相手が神様しかいなかった。

中まで入る気はなく、市原は鳥居の前でパチンと手を合わせた。
次の新入生に経験者が来ればさっさと譲ってしまうだろうピッチャーも、この1年は力を尽くそうと腹をくくっている。
もっと速く、コントロールも良く、あとスクリューボールを有効に使えますように。
「ついでに大地が賢くなりますよーに…オレ長所いっこもねーなぁ」
溜息を吐いて野菜の入ったポリ袋を見る。
一応供え物のつもりだったが、置いていくのも持って帰るのもおかしな気がして、出した手を止めた時だった。
鳥居の真下の空間が揺れ、石けんの匂いとともに人が出現した。
「へぅ、お」
テレポートしてきた人間が、地面にぺったり座った状態でキョドる。幽霊かと恐怖する間もなかった。
「ここ、こ どこ、な なんでオレ、うっうあああああ」
続けて現れた白く光る老人を見て、その少年は座ったまま後ずさった。
635ピッチャー神社:2009/09/06(日) 02:05:41
>>634
市原もかなり驚いてはいたが、叫ぶタイミングを逸して立ち尽くす。
「自分で育てたトマトとニンジン、オッケーオッケー!」
老人が手でOKの形を作って豪快に笑う。
困った。変な人来た。

市原はとりあえず、手を後ろの地面についたまま震えているもう一人に話しかけた。
「西浦の奴だよな。えーと三橋?」
「うう、う…あっ、さ、さきっ た」
街灯はあるので、お互いの顔は見える。老人は勝手に光っている。むしろそのせいで明るい。
「そーだよ崎玉のピッチ。お前こんなとこで何やってんの?」
「オ オレ、し、知ら ない。風呂、出て、こここ」
「こやつはワシが連れてきた。お前にない資質をいくつも持ったピッチャーじゃ」
老人が三橋を指差す。
市原には、神様のコスプレをしたじいさんがキャラを作っているようにしか見えなかった。内容も嫌だ。
自分が投手として未熟なのはよくわかっているが、初対面の他人にいきなり言われるとムカつく。
「連れてきたって何、誘拐?つか光ってんじゃねー!」
「神は光るもんなのじゃ。さっそくこいつの能力をお前に分けるから、まあ来い」
光る木の杖の先が横にゆっくり動くと、三橋と市原の体は宙に浮いた。
「ひぎゃっ、い、イチ ハラさん!こっ怖い、飛んっ、あああぁ!」
さっきから驚いて何かリアクションをとろうとすると、三橋が代わりに思いきり騒いでくれる。何も言えない。
頭の隅で市原は、こいつオレの名前覚えてたんだなと思った。

本殿しかない小さな神社の内部まで強制連行され、自動的に開いた格子戸から中に入ったところで下に足がついた。
板張りの道場のような狭い部屋で、わずかに外から差し込む頼りないもの以外、何一つ明かりはない。
だが老人が光っているせいで部屋全体がよく見える。
目の前で今度は杖が下りた。がくりと膝が折れ、二人は立ち上がれない。三橋がピィと鳴いた。
「おい、勝手に入って、怒られるんじゃねーの」
相次ぐ奇怪な体験に声が震えるが、三橋は泣いてばかりなので市原が老人に文句を言ってみる。
「いや、ワシが神じゃから」
「………」
636ピッチャー神社:2009/09/06(日) 02:08:00
>>635
「体格的に剛速球が難しいなら制球力じゃな。こやつのストライクゾーンは九分割じゃ」
「うぐ、な なんで、ヒック、知って、ふぐ」
市原は目を見開いた。九分割、4じゃなくて9?どうなってんだそれ、ロボットか。
「さらに変化球の球種も多い。並外れた努力、マウンドにこだわる執念、それに…」
老人の並べていく三橋の長所が、市原の耳には痛い。それらは何一つ自分が持っていないものだ。
「これは重要じゃぞ、捕手への信頼」
「う、うっせーよ!もし西浦のキャッチと組んでたってオレは、元々…投手じゃねーし…」
自称神がすべて見透かしてくる。いっそ三橋と一緒に泣いてしまいたい。
「そう言わずに頑張らんか。ゆくぞ、神下ろし!」
老人は、床に木の杖をドンと打ち付けた。
轟音とともに視界がぶれる。体に強い衝撃を受け、三橋と市原はうずくまって悲鳴を上げた。

地震のような揺れが落ち着いた時、二人の体の自由はほとんど奪われていた。
ついでに光っていた。
意識と五感があり声も出せる状態だが、手足を自分で動かせない。
自分が着ぐるみになって他人に操られている感覚が恐ろしい。あるいは暴走するガンダムのコクピットで止まれと泣き叫ぶ。
「ウホッな神友がヤリたいヤリたいとうるさくてのう。お前らはアレじゃ、シャーマン」
「ひぐ、しゃ、シャ マって、なに」
「ジャンプの漫画かよ、意味わかんねーんだよ!」
老人は慣れたものなのか、市原を軽くあしらって手短に言った。

神は実体がないからセックスできない→そこで人間に憑依→ウホッぬっこぬこ

「終わってみると、なぜか互いの長所を奪うことなくコピーしておる。仕組みは解らんが恐らく神ゆえに。神ゆえに」
三橋は話が理解できず、ただエロ単語に反応して顔を沸騰させた。
市原はピッチャー関係ねえだろと激怒した。
「テレビは野球しか見なくての、野球選手以外にも効果があるかは試しとらん。ちなみにいいとこ取りできるのは5%ぐらいじゃ」
「5%かよ!20回やんのか、いや計算意味ねーんだよ死ねハゲ!ホモ!変態!あとテレビ見んな!」
ブチギレて罵詈雑言を並べる市原に、老人は逆ギレした。
「うるさい!神だってサカってるじゃ!!」
637ピッチャー神社:2009/09/06(日) 02:10:30
>>636
変態が居直った。
「ふぎゅぅ、い 市原さ、やめ、あっ」
「オレじゃねえ!そっちこそ変な声出すな、勃てんな!」
「オ オ、オレじゃな、うおっ、オレ か」
動きだけは自然にマウントをとった市原が三橋の股間を揉み倒す様を、老人は寝そべって見物している。
「がっちり憑依しおって、この依り代っぷりは両方童貞じゃな。フォッフォッ」
鼻をほじりながら最近の巫女の処女率に愚痴を言い、くつろぎ放題だった。

いつの間にか市原の手はポリ袋をあさり、ニンジンをつかみ出している。
「ぎゃあ!こ、こんなことに使うな!オレが、オレが育てたニンジン!」
自分の手に全力で抵抗し、涙目で叫ぶ。
「食いもん、粗末に、すんな!うおおおお!」
「はごっ!」
市原の左腕が制御を跳ねつけ、しなった。
ニンジンの先は、三橋の口に飛び込んだ。
コリッといい音を立てて三橋がニンジンを噛み切り、そのまま食べる。
「お おいひい、れふ…!オレ、でっかいじんじん、ふき」
「そっ、そーか」
ブルブル震える自分の左手に顔を近づけ、市原は自分も試食してみた。なかなかだ、今年のニンジンもいい。
「もっと食う?てか食え」
1本のニンジンを挟み、両側からそれぞれ側面をかじった。
その体勢で視界に互いの目しか入っていない状況に気づき、はっとする。他人とこんなに顔を近づけたことはない。
三橋と市原が同時に何か言いかけた時、老人が口を開いた。
「掘りたい掘られたいと騒々しかったわりに、だらしないのう。利き腕の憑依がどっちも解けとるぞ」
向き合った二人の体の同じ側が強く発光する。三橋の右と市原の左が痙攣した。
「あう あ…!投げる 腕、だめ だ、返して!」

半分以上減って棒状ではなくなったニンジンが、市原の手からゴトリと落ちた。