これ以前はどっかのかなた
◇
なあ神父さん、それとも牧師さんか?
どっちか知んねえけど、まあどっちでもいいんだけど。
おれが知りたいのはあいつが、あいつがどうしておれと一緒に居たかって理由なんだよ。
あいつはなんでおれに、おれのとこに、いるようになったんだろ?
いや、おれになにするってんじゃねーんだ。ただあいつはなんでかおれと一緒にいんの……。
寄ってくるってんじゃない。そばにいるってんでもねーや。
いっしょにいるんだ、おれと。
昨日の夜にもおれは、こいつに金をとらせようか、そうしたらこの生活、
糞みたいなこの状況を長引かせられると考えてた。
これまでも何度も考えてたよ。金なきゃなんもできなくなるってことくらいおれだって知ってたさ!
金、金がなかったら食いもんもない。着るもんも洗濯する暇すらない、着たきりスズメだからね!
宿だって困る、ネットカフェとかカラオケすら使えねぇ。衣食住、衣食住だ。金なきゃ死ぬ。
そうだ。おれらはずっと死に方について相談しあっていた。
最後はどうなるのか、最低で最悪のケースを考えて、話し合った。
>>645 死ぬってのは最後の最後の最後だから、その限界までは行ける、行けるところまでは行かないといけない。
最悪の最低でも、死ぬよりマシだ。
だいたいの出来事には終わりがあるから、乗り越えちまえばいいだけでさ、
死んだらその先もなくってそこで終わりなんだからね。
だから行けるとこまで行く。ホントの本気で、死んだほうがマシ!って思って、
殺してくれ!って叫ぶまでは死んじゃいけないってのは、おれとあいつとの共通した義務だった。
だって、おれらはすでに人を殺してたからね。
なんにしてもケジメは必要だってことだよ。わかるだろ?
わかるだろ?
わかるだろ?
わかるだろ?なァ?
なァ?
神父さん、わかるだろ?
>>646 そっか、そうだよな、そうなんだよ。
やっぱりアンタはわかってる、わかってるね。そうだよな、そうなんだよ。
けどともかく、ザーメン便器のきったねーからだを見るたびに、
そりゃ詐欺だ、こんなきたねえのタダでもなきゃ触りたくもないよなって思っちゃって、
そんでおれはいつも金にこだわり過ぎるのも心がさ、ちょっと狭い感じじゃん?
小物クサいっつうか、ああ、そう器がちいせえっていうかさ、感じわるくね?
そう思って、金のことは強いて忘れるようにしてたのね。
だけどなぁ……全部が手のひらにかる〜く収まっちゃうような全財産、じっと眺めてたらね、
なんかもう、なんつーの?この後おれどーすんのって軽い絶望が襲ってきてね、
こりゃぼったくり詐欺もやむを得ないなと。
だから便器に言ったのよ、お前、こんどはヤらせる前に金取れよってさ。
便器は「うん」って頷いて「今から?」って逆に聞いてきたけど、
今晩分のホテル代はギリギリなんとかなったし、なによりおれ眠かったから
「明日でいいよ」って答えた。
洗い立ての体した便器はベッドの上を立てを膝ですり寄ってきて、おれの脇の下に頭を突っ込んだ。
「どう?」
ってそれだけ言った。
それが「これから『どう』なるの?」って意味なのか、それとも「『どう』すればいいの?」って意味なのか、
おれには判断つかなかった。
便器野郎はおれの胸に口を当てて、シャツが息でじんわり湿った。
背中に回った腕は日頃の節制で痩せ細ってゴツゴツしてて痛かった。
>>647 こんなやつに誰が金払うんだろうっておれはもう一度思ったよ。
誰がこんなのに。
便器はおれのちんこをズボンの上から握ってきたけど、おれは見上げてくるそいつの顔、
いつも開きっぱなしの口の奥に喉があいてて管が精液をためこんでる胃袋につながってて、
胃酸と発酵し始めた食い物の匂いと一緒くたになって立ち上ってきてるみたいで
気持ち悪くて気持ち悪くて、ああああああああ気持ち悪くてしょうがなかった。
あっちいけ、
そうだ、おれが便器に金を取らせなかったのは面倒なアクシデントが恐かったからでもあってさ、
つまりウリとか定位置でやらせたら、いわゆる筋モンの怖い人たちが出てくるんじゃねーのかってね、危惧をしてたワケだ。
こんなんなっちゃった淫売野郎を見てて、もうそいつらがこいつをもってっちまえばいいのに、って思ってた。
そんで寝て起きて次の日の朝ご飯はお金なかったからね、サービスのモーニング、でもタダじゃなくってさァ
知ってるかい? ラブホだと無料サービスで朝ご飯ついてくるところもあるんスよ。
あー、あっはは! 神父さんは知るわきゃないですよね。
ともかく、200円で食えるトーストとミニトマトとレタス一切れ、それとゆで卵を腹に入れてホテルを出た。
荷物は全部持って出たよ。戻れるかわからなかったからな。